あなたは、夫の暴力・DVを容認していませんか? 暴力のある家庭環境で暮らす子どもの心を守ることを忘れていませんか?

[Ⅲ-2]Ⅰ.密接な関係。児童虐待とドメスティック・バイオレンス

4.別れ話が発端となるストーカー行為

 
 5. DVでない暴力、DVそのものの暴力 3.DVとは、どのような暴力をいうのか -「配偶者暴力防止法」によるDVの規定-
* 新版3訂(2017.12.17)

 交際関係、夫婦関係にある2人に、上下・支配と従属の関係性を成り立たせるために暴力がおこなわれている状況下では、別れ話を切りだしたとき一気に緊張が高まります。
しかも、離婚後も「やっぱり子どもたちのことを考えると両親が揃っていた方がいい。もう一度、やり直さないか!」と執拗に復縁を迫られたり、養育費の支払いが滞ったとして連絡すると、「話し合おう」とよびだされて暴力をふるわれたり、レイプされたり、執拗につきまとわれたりするなど、緊張が続くことが少なくありません。
 元交際相手や元配偶者による凄惨なストーカー行為による殺害事件がおきるたびに、対応の不備があったり、法律の想定できていない不備があったりすることが問題視され、「配偶者暴力防止法」、「ストーカー行為規制法」などの法改正が繰り返されてきました。
 その中で、「配偶者暴力防止法」にもとづく“一次保護”“保護命令”は、平成26年1月の改正新法により、「婚姻関係になくとも、同じ居住地で生活を営んでいる者(同棲している者)に対しての保護ができる」こと、つまり、同棲をしていた交際相手と別れたあとも適用されることになりました。
しかし、「配偶者暴力防止法」にもとづく“一時保護”“保護命令”は、DV被害者の命を守るうえで絶対ではないのが、DV事件の難しいところです。その難しさを表しているのが、平成24年11月6日におきた「逗子ストーカー殺人事件」です。
DV被害から逃れた元妻に対し、元夫が執拗に復縁を迫り、居所を探しだして殺害したあと自死する凄惨なストーカー事件でした。
殺して自死するふるまいは、血肉を自身にとり込もうとする猟奇殺人に類する魂の結合を目的とした病理性の高い常軌を逸したふるまいですが、DV事件では珍しいことではないのです。
  LINEやSNSの普及は、携帯電話(スマートフォン)が大きな役割を担っていますが、その携帯電話の「GPS(全地と測位システム)」機能を使い、家をでていった交際相手や妻の“所在地(位置情報)”を特定されてしまうことから、携帯電話の電源を入れることができません。
同様に、FacebookなどSNSに投稿した写真に残っているGPS情報から居所を特定されるリスクもありますし、当然誰とやり取りをしているかなどを特定されてしまうリスクがでてきますので、利用することができません。
SNSにおける「誰とやり取りしているか」には、当事者のSNSだけでなく、交際相手や妻の友人、職場の同僚、親戚など近しい人たちのSNSが含まれます。
つまり、友人のSNSにコメントを残していると、交際相手や妻が、いま誰とつながり、どのようなやり取りをしているのかまで、すべて知られることになります。
その結果、交際相手や妻とつながっている人たちに対し、行動をともにしているであろう乳幼児の子どものこと、お金を持っていないことなどの「懸案事項を心配している」と“情”に訴えるメッセージを送り、居場所を聞きだそうとするリスクがでてくるのです。
別途、携帯電話を購入するにしても、「Ⅲ-22.DV離婚を考えたとき、事前に確認しておくこと」の中で記しているとおり、住所の問題、身分証の問題、郵便物の問題などがあり、簡単なことではありません。
つまり、DV事件では、加害者から身(命)を守るということは、“これまで”あたり前であったことが、あたり前ではなくなります。

(1) ストーカー行為。復縁を求めるものか、一方的な思慕か
 ストーカー行為には、元交際相手や元妻に復縁を求めて接触を試みようとするストーカー行為に及んでいる者が特定されているケースか、一方的な思慕による誰がストーカー行為に及んでいるか特定されていないケースがあります。
 「一方的な思慕」とは、卒業した学校の同級生や同窓生、同じ学校、違う学校を問わず部活や習いごと(塾を含む)で一緒だったとか、職場が一緒とか、同僚や上司であったり、取引先の人であったり、通学や通勤で一緒になっているとか、買い物先で一緒になっているとか、“気になる人”から、“一方的な思い”を募らせ”、その“一方的な思い”が、相手のすべてを知りたい欲求を押さえられなくなり、同時に、自己存在(自分の思い)を知らせなければならないと行動に移す欲求を押さえられなくなる状態に至っている(渇望感を埋める(承認欲求を満たす)ことが動機となっている)ことです。
したがって、ストーカーは、ストーカー行為により、“対象者(ターゲット)”の反応を得る(承認欲求を満たす)ために、驚かせたり、怒らせたり、困らせたり、怖がらせたりします。
ターゲットのそうした反応を得るためには、膨大なエネルギーを費やし、少しでも注目されようとしてストーキングそのものにこだわり、執着します。
前者のケースでは、メールや電話など間接的な接触を試みているのか、別居している実家や転居した家、そして、職場を訪れるなど直接的な接触を試みているのかなど、ストーカー行為の展開には、特有の“状況”があります。
  後者のケースでは、「あなたのことは、すべて知っている」ことの“痕跡”を残し、「すべてを知っている」のは“わたし”と認識させていくプロセスをとるなど、ストーカー行為の展開には、幾つかの“段階”があります。
  したがって、ストーカー行為に対する対策を考えるうえで重要なことは、第1に、ストーカー行為に及んで者が特定できているケースなのか、特定できていないケースなのかで、対策のあり方が違うこと、第2に、ストーカー行為に至る「経緯」の把握の他、ストーカー行為の「状況」、そして、ストーカー行為の「段階」があり、それらを正確に把握することが、身に危険が及ぶリスクにあるかどうかの認識把握が違うことを知ることです。
  なお、前者のケースにおいて、いまの状況、段階が、被害者の身に危険が及ぶリスク(ストーカーリスク)にあるかどうかの認識把握については、「Ⅰ-11-(3)-②家をでたあと、DV加害者が送るメールなどに認められる特徴」の中で詳しく説明しています。
  ここでは、2つのケースをわけずに、ストーカーの“特徴的な行為”をまとめておきたいと思います。

① 神出鬼没
 ストーカーは、つきまといや待ち伏せをします。
電話や手紙、ファックス、そして、メールなどは間接的なストーカー行為、待ち伏せや尾行、監視などのつきまといや暴力は、直接被害者の身体に向けられることになります。

a) 痕跡を残す
自分がきたという証拠を残すために、門や郵便受けなどに落書きをしたり、郵便受けやドアに小石やタバコの吸殻、精液の付着したティッシュペーパーを入れておいたりすることがあります。
電話番号やメールアドレスを知っているときには、電話の着信、メールの受信、SNSの「いいね」などの行為も「痕跡を残す」に含まれます。

b) つきまとい
つきまとい行動は、自宅周辺での徘徊、監視、持ち伏せが中心ですが、エスカレートすると自宅にあらわれるようになりったり、夜中に押しかけるようになったりします。
玄関ドアや窓を叩き続けたり、呼び鈴やインターホンを鳴らし続けたり、中に侵入しようと試みたりすることもあります。また、水道の元栓を止めたり、電話線を切ったりと暴力的な行動にでることもあります。

c) 偶然を装う出会い
営業先でよく一緒になったとか、馴染みの店でよく一緒になったとか、職場の休憩所でよく顔を合せるとか、意図的に、偶然を装い接触を試みます。
偶然が重なると、「なんか運命みたいだね」との会話が交わされたりします。
こうしたことが、「出会いのきっかけ」になり交際に発展することがあります。
営業先や職場などで偶然みかけた人に好意を持ち、よく来る曜日や時間を調べて、その時間に自分のスケジュールをあわせ、偶然の出会いを装うのです。
通学や通勤時、バスや電車で乗り合わせた気になる異性と会えるように、同じ時刻のバスや電車に乗り続けることはよくあることです。
中学校や高校を卒業してから何年か経ったころ、ちょっと気になっていた同級生から「今度、会おうよ」と連絡があったり、買い物としているとき偶然出会ったりすることがありますが、事例111(分析研究7)、事例116(分析研究11)のように、卒業後もリサーチを続けた結果であることがあります。
重要なことは、この偶然の出会いをきっかけに、交際をはじめたとき、退勤時間や友人との飲み会が終わるころに迎えにくるときには、この“出迎え”という行為が、「監視」を目的としているということです。
交際後、監視目的の“出迎え”という行為が認められたときには、交際のきっかけとなった偶然の出会いは、緻密に計画された行為、つまり、ストーカー行為にもとづくものということになります。
その場合、「今日の食事や飲み会には、どこで、誰が参加し、何時に終わるのか?」と根掘り葉掘り聞きだそうとするなど、「詮索・干渉」の行為が伴うようになります。
執拗な詮索・干渉も、最初は気遣いや優しさにあふれているため、「愛されている」「大切にされている」といった印象を抱かせますが、徐々に、「急に態度が豹変する」ことに戸惑い、混乱させられることになります。
「頻繁な出迎え」に違和感を覚えたり、「執拗な詮索・干渉」にうっとうしさを感じたりして、別れを切りだしたときに、ストーカー行為のリスクが高まります。
なぜなら、偶然の出会いそのものが、ストーカー行為にもとづいているからです。
しかし、最初に違和感を覚えたり、うっとうしさを感じたりした“タイミング”で、別れることができないと、そのまま、デートDV被害を受けることになります。
一方で、頻繁の出迎えに、“自分は大切にされている(承認欲求を満たされている)”と感じ、交際を継続すると、詮索・干渉、束縛(支配)される、つまり、デートDV被害を受け、別れるタイミングを失い、結婚に至るケースがでてきます。
こうして結婚に至ったケースでは、偶然の出会いそのものが、ストーカー行為にもとづいているわけですから、離婚を切りだしたり、別居したりしたあと、復縁を求めるストーカー行為のリスクは高いことになります。
用意周到な偶然が危険なストーカー行為なのか、そうでないのかの“見極め”は、交際がはじまったあとに、出迎えにくるなどの監視行動、執拗な詮索・干渉行為があったかどうかの把握が重要になります。
監視行動、詮索・干渉行為が認められるときには、その行為は、ターゲットを「支配する(自分だけのものにする)こと」が目的であることから、偶然の出会いを装った「待ち伏せ」の“罠”にかかったことになります。

d) 身体に向けられる暴力
「おつきあいはできない」と交際を断わったり、「暴力に耐えられない」と別れ話を切りだしたりすることが、暴力をエスカレートさせるきっかけになります。
「話だけでも聞いてほしい」と執拗につきまとわれたり、「これからのことを話し合おう」と家に誘い込まれたり、「どうしてわかってくれないんだ!」と逃れた先に押しかけてきたりして、「俺から逃げられると思うな!」と暴行(身体的暴力)を受けたり、レイプされたりするリスクが高まります。
暴力がエスカレートする背景には、交際を拒絶されたり、別れたりすることを受け入れられない強い思い、つまり、「見捨てられ不安」があります。
そのため、執拗につきまとうことになり、暴力やセックスで関係修復(別れの回避)を試みようとするのです。

-事例56(DV36、性暴力10)-
子どもが夏休みになったので、私は、子どもを連れて実家に帰りました。
8月上旬、実家の母に子どもを見てもらい、私は、夫の待つ自宅に行きました。
夫が「2人で、今後のことを話し合いたい。」と連絡してきたからです。
夫は、最初から「どうするつもりな!?」と高圧的で、携帯電話のお金もえらいかかってるけど、どんな使い方してるんよ!」と非難してきました。
私が「そしたら、携帯変えるわ。」と応じると、夫は「お~、そしたら変えろよ! いままで10年分の携帯代も払えよ。100万(円)は下らんやろうな!」と大きな声でいってきました。
私は「こんな状態で話し合えない。」といい家をでて、車に乗り込みました。
私がエンジンをかけようとしたところで、追いかけてきた夫は、運転できないようにハンドルを握り、「車から降りろ! 降りろよ! 話、持っていかなアカンのじゃ、こっちは!」、「これから、ここでずっと住むんじゃ。」、「誰に見られてるかわからんやろが! 中に入れ!」と大声で怒鳴りつけました。
そして、夫は、車の鍵を抜きとり、私のカバンをとりあげ、「とにかく入れ!」と怒鳴りつけ、家に中に入っていきました。
仕方なく、私は車を降り、家に入りました。
私が顔を手で覆いながら、夫の話を聞いていると、突然、夫が「ごめん」といい、私に抱きついてきました。
夫は「(セックスを)しよう!」といい、服に手を入れてきました。
私はその手を抑えて、「こんなことして欲しくない! こんなの何回も知ってる。これ、何回も知ってるから、なんにも変わらないから。」といいました。
私の剣幕にたじろいでいる夫に、私は、「もうちょっと考えさせて欲しい。」といい、席を断ち、話を終えました。
玄関にむかう私に、夫は「なんにも進展なし!っていうんかよ!」と声を荒げていました。
私はなにも応えず、そのまま子どもが待つ実家に帰りました。

呼びだしの常套句としては、「一度、会ってくれればあきらめる。」、「最後に二人だけで話し合いたい。」といったものが圧倒的に多く、「一度セックスしてくれれば止めてやる。」、「一度殴らせれば別れてやる。」というものもあります。
家庭裁判所に夫婦関係調整(離婚)調停を申立て、子どもの養育費の支払いなどで合意し、離婚に至ったケースでも、離婚後、養育費の振り込みをおこなわず、「養育費はどうなっているの?」と連絡がくるのを待って、「話し合おう」と誘い、レイプに及ぶ者もいます。
また、「一度、(セックスに)応じてくれたら、もうつきまとわない。」といわれ、応じると、写真や動画を撮られ、「家族や職場にばらまく!」、「ネットに流してやる!」と脅され、家族や警察にも相談できず、別れることができなくなる悲劇さえおきます。
また、「自殺する」といって目の前で死のうとしたり、ナイフをちらつかせ、「お前の身体を傷つけてやる!」と脅したりすることも少なくありません。
いずれにしても、これらの言動やふるまいは、被害者の気持ちを利用して、支配(コントロール)するための手段(状況の打開策)でしかないことから、こうしたことばを信じてしまうことはとても危険です。
ことばを信じて、要求に応じたとしても、ストーカー行為や暴力行為は決して終わることはなく、「前回はここまで応じたのだから、次は、もっと…」と要求はエスカレートしていくことになります。
さらに、ストーカーの中には、警察や裁判所、各種出版物、ネットをストーカー行為に利用する場合があります。警察を利用して、被害者に面会を要求したり、捜索願をだしたりして居所を探させるなどストーカー行為の手段に利用することさえあります。
そのため、家をでて、他にアパートを借りて転居したり、行政に一時保護(緊急一時保護施設への入居)を求めたりするときには、警察でDV被害(デートDV被害を含む)を受けていることを説明し、「捜索願の不受理届」をだすことを忘れてはならないのです。

e) 物質的な被害
物質的な被害とは、「自宅に石を投げ込まれる」、「窓ガラスを割られる」、「車に悪戯される」、「タイヤを切られる」、「タイヤに釘を打ち込まれる」、「ボンネットを傷つけられる」、「毎日、車を傷つけにくる」、「車庫にスプレーをかけられる」、「郵便受けに落書きなど悪戯される」、「家のドアに汚物をつけられる」、「車に精液をかけられる」、「車を盗まれて事故をおこされる」などがあげられます。
さらに、「留守中に自宅に侵入された」、「電話線を切られた」、「空き巣に入られ、住所録や手帳、アルバム、写真、衣服などが盗まれた」、「洗濯物を汚された」、「衣服をひき裂かれた」、「眼鏡を壊された」、「携帯電話を壊された」、「ペットを連れ去られた」、「庭を荒らされた」などもあります。

② 特徴的な間接的なストーカー行為(手段)
 では、ストーカー行為として、a)電話、b)手紙(メール)、c)贈り物がどう使われるのかをみていきたいと思います。

a)電話
家にいる時間帯は自宅に、勤務中は職場に電話をかけます。在宅を確認するために、帰宅時間を狙って定期的にかけたりします。
ストーカーは、被害者と接触したがる一面がありますから、脅したり、懐柔したり、相反する拒絶と受容のふるまいを通じて、被害者を(復縁を求めるために話し合おう)おびきだそうと試みます。

b) 手紙(メール)
電話と同様に、被害者の自宅(携帯電話やパソコン)のほか、親戚、友人、知人、職場、職場の上司や同僚の自宅(携帯電話やパソコン)などにも送りつけたりします。
卑猥なことばやメッセージに添えて卑猥な絵や写真(加工されたもの)、中傷ビラ、小物などを同封(添付)してくることもあります。
こうしたおこないは、自己中心的で、妄想や執着の強いもので、内容はまったくの嘘であったり、事実がストーカーの都合で大幅に歪められていたりするものです。
最近は、「リベンジポルノ」として問題になっていますが、別れた彼女(妻)や彼氏(夫)の裸の写真やセックス動画をネットに流して(公開して)しまうことがあります。
ペン型や腕時計型、100円ライター型、動作に反応し録画を開始する置時計型など盗撮機器は、ネットなどで簡単に手に入れることができます。
また、交際していないにもかかわらず、デートでなにを食べたとか、一緒に映画を見に行った、ホテルで素敵な一夜を過ごしたなど、いかにもあったかのごとく嘘(頭の中で描く思い、つまり、妄想の世界でのできごと)の日記をわざと残していることも少なくありません。
それだけでなく、先の「痕跡を残す」という意味で、交際相手や妻にわざと見られることを前提として、書き記すことさえあります。
内容は、意図的に「えっ、私のことこんなふうに思ってくれていたんだ」と私は愛されている(大切にされている)と思わせるためだったり、「俺はお前のことをなんでも知っているんだからな」と俺からは絶対に逃れられないことを思い知らせるものだったりします。
こうした意図的に「痕跡」を残したり、その痕跡により気持ちをコントロールしようと試みる行為は、交際相手や妻が警察に訴えたり、裁判になったりしたとき、「自分こそが被害者である。」と訴える証拠とする目的(リスク回避)であることが少なくありません。
したがって、被害者だけでなく、第三者として相談を受ける側は、ストーカー行為に及ぶ加害者の特性として、「妄想にふけりながらも、人を貶める才に長けている」といったことを理解していなければなりません。
ストーカー事件では、被害者の方が疑われたり、非があると思われてしまったりする危険があることを前提に対応することが求められます。
また、最近の世相を表すデートDV事件の特徴が、メールやLINEで、相手を尊重せず、責める(否定、非難・批判)ことばで、被害者を精神的に追い詰めていくことです。
平成25年11月、別れ話がでていた慶応大学法学部3年生(21歳)に「お願いだから死んでくれ。」、「手首切るより飛び降りれば死ねるじゃん。」などとLINEで7通のメッセージを送られた交際相手の女子大生(21歳)が、2日後、友人に「死にます」とメールを送信し、両親宛ての遺書を残し、東京都港区の自宅のあるマンションから飛び降り、亡くなった事件がおきました。
自殺した女子学生は、Twitterで、「自身が、境界性人格障害(ボーダーライン)である」ことをうち明けているので、交際相手の男性に「死んでくれ」と拒絶され、“消えたい願望”が心を突きおこした可能性があるとはいえ、小学校高学年・中高生の中でLINEによるいじめ(誹謗中傷、無視)が問題となっているように、大きなダメージを与えることができることばを書き込める安易さは、悲劇をもたらす凶器となります。

c) 贈り物
相手から拒絶され、嫌がられていることを感じながらも、なんとかつながりを保とうと懸命になります。
ストーカー行為がエスカレートしてくると、プレゼントの目的は、被害者が嫌がるもの、怒るもの、怖がるものが選ばれることになります。

③ 特徴的な目的達成のための手段
ア)おびきだすための試みは、「俺と会わないと、あなたやあなたの家族は大変なことになる。」、「よりを戻してくれなければ、自殺する。」、「お前がいないと生きていけない、目の前で死んでやる。」、「お前が俺を捨てたら、家に火をつけてやる。」、「話がある。隠れていないで(無視していないで)、でてこい!」、「お前の親戚一同めちゃめちゃにしてやる!」、「職場に押しかけるてやるからな! 覚悟しておけ!」など、“脅し”のことばが込められていることが少なくありません。
「自殺する」「死んでやる」といった言動の多くは、自分に対しどのくらい気持ちがあるのかをはかるため(気を惹くための試し)で、「本当に死なれたら困る」といった心理を巧みに利用しようとするものです。
そして、「家族や職場の人に迷惑をかけられない」との思い(感情)につけ込み、関係の継続を強いるわけです。
こうした言動は、自分に関心を持って欲しいだけのふるまいです。
そして、精神的な幼稚性が示すものです。
問題は、「見捨てられ不安」を払拭したい、つまり、承認欲求を満たす思いの言動であることから、論理的な説明に耳を傾けることはありません。

-事例57(デートDV6・ストーカー行為1)-
  交際しはじめて間もなく、私は、Mから「昔、自殺しようとした。」と聞かされました。
それ以降、私は、Mに“自殺をされたらどうしよう”と考えるようになりました。
しばらくして、深夜にMから電話があり、Mに「いま、XjapanのHideが自殺した同じ方法で、死のうとおもってやったけど、死ねない。」と告げられました。
私は、慌ててMの家に駆けつけました。
しかし、ロープを吊るした痕跡も含めて、Mの家には、Mが自殺を試みた痕跡はなにもありませんでした。

-事例58(デートDV7・ストーカー行為2)-
  交際していた男性と別れてしばらく経ったとき、Tと知り合いました。
Tが「去年、離婚した。」と話したので、私は、Tと交際をはじめました。
  しかし、Tは、妻と離婚調停中で、まだ離婚は成立していませんでした。
離婚調停中のTの妻が、探偵事務所に浮気調査を依頼したことから、Tの妻に、Tと私の交際が知られることになりました。
  そして、私は、Tに「別れる」と伝えました。
離婚調停において、前妻に対し、毎月慰謝料1万円を支払うこと、2人の子どもに毎月4万円の養育費を支払うことで、離婚が成立しました。
  その直後、Tから届いたメールには、「車にガスコンロを持ち込み、死のうと思う」と書かれていました。
私は、Tにメールを送り、「いま、どこにいるのか?」を訊き、深夜でしたが、Tのいる場所に急いで向かいました。
  Tの車を見つけ、近寄り、私がドアをノックすると、Tはドアを開けてくれました。
ガスコンロは後部座席におかれていましたが、社内にはガスの匂いもなく、ドアガラスにガムテープを貼った痕跡もなく、自殺を試みようとした気配はありませんでした。
  しかし、そのときの私は、その後、TからDV被害を受けるとも知らず、傷心のTのことを「私が支えなければ」と本気で思ってしまいました。

イ) 嫌がらせで多いのは、「金を返せ」「贈ったものを返せ」です。
過去の交際中、同居中に自分が払った分の食事代金や買い物代金、贈ったプレゼントなどの返還をしつこく迫ります。
中には、返還を求めるだけでなく、「別れるなら、慰謝料500万円(1,000万円)を支払え! お前が払えないなら、親に払ってもらえ」と威圧的に迫ることもあります。
「そんな額の金、お前が払えるはずがない。家族に迷惑をかけられないだろう。だから、お前は俺から別れられないよ。」といった“脅し(強迫)”の要素が絡んできます。
「家族には迷惑をかけられない(家族に知られ、哀しませたくない)」との思いをつけ込まてしまうと、被害を長びかせ、深刻化させてしまう要因になります。
そのため、泣き寝入りするのではなく、「脅迫をしてきた。これで警察沙汰にできる」と認識し、闘う意志を持つことが結果として被害を長引かせたり、深刻な事態に発展させたりするのを防ぐことができます。

ウ) 仕事を妨害したり、誹謗中傷したりします。
例えば、「仕事を辞めさせてやる。」、「会社にいられないようにする。」、「会社に手紙をだすぞ。」、「エイズだといいふらす。」などと脅したり、職場の同僚や知人には、被害者は「不正をしている。」、「だらしない女(ふしだらな女)。」、「不倫している。」、「借金をしている。」、「親が多額の借金をしている。」、「アダルトビデオにでている。」などと誹謗中傷を吹聴したりします。
しかも、当人だけでなく、親やきょうだい、親戚、かくまってくれていたり、相談に乗ってくれたりしている友人や同僚、上司が、「どうなってもいいのか」と“ひき合い”にだしたりするといった卑劣で卑怯なふるまいにでたりします。
手負いの獣は、見境ないふるまいを仕掛けてきます。
たとえ、直接的な被害を受けていなくても、「この人は、本当に会社に嫌がらせをするかもしれない」との思いがあったり、「この人は、なにをするかわからない」といった恐怖心があったりすると、理不尽なストーカーの要求に屈し、従わざるをえなくなります。

エ) 「子どもに危害を加えてやるからな!」といって脅す場合も少なくありません。
「子どもを傷つけてやる」、「子どもからやってやる」、「保育園に電話する」、「学校に行けなくしてやる」、「子どもの卒業式が楽しみだ」といった言動は、子どもを持つ母親にとっては大きな脅威です。
わが子を守りたい一心から、危険を承知でストーカーと対決し(話合い)にでかけてしまう被害者は少なくありません。
しかし残念ながら、ストーカー行為に及ぶ人たちは、「話に応じたことは、要求に応じた」と自分勝手な解釈をしてしまいます。
つまり、要求とは「交際する」こと、「復縁する」ことに他ならないことから、「話に応じながら、復縁に応じない(交際に応じない)」といった回答(考え方・意志)は、決して受け入れられるものではないのです。
したがって、「誠意をもっては話し合えば、きちんと気持ちを伝えれば、交際つもりがないことや復縁するつもりがないことをわかってもらえる」などと性善説で考えてはいけないのです。
それだけでなく、当事者同士や親族や知人、友人を交えての話し合いも成り立たないことも理解しておかなければならないのです。

③ DV後、ストーカー行為に及んだ加害者の特徴
  次の18項目は、DV被害を受けたのちストーカー被害にあった女性たちが、加害者の特徴としてあげたものをまとめたものです。
・ 嘘がうまく、不誠実である
・ 女性のいうことをきかず、一方的である
・ 女性と対等な会話ができない
・ 自己中心的で、社会性が希薄である
・ ものごとを自分に都合よく解釈する
・ 怒りの感情をうまく表現できない
・ 他人の迷惑を考えない
・ 欲求不満や衝動的な感情をコントロールできない
・ 理性を欠いた行動や暴力的な傾向が強い
・ 人と長期間の信頼関係を築けない
・ 嫉妬心が強い
・ 屈折したコンプレックスを抱えている
・ 無視されるとプライドが傷つく
・ 支配欲が強く、女性を監視して束縛したがる
・ 問題がおきると、いつも相手の女性のせいにする
・ 反省したり(謝ったり、反省したりするふりはしても)、心から悔い改めることがない
・ 女性と男性の役割に差別意識が強い
・ 子ども時代から暴力や虐待を身近に経験している
 これらの特徴を読みとると、「Ⅱ.児童虐待・面前DV。暴力のある家庭環境で暮らす、育つということ」に記していますが、暴力のある家庭環境(機能不全家庭)で育ったがためにアタットメント(愛着形成)獲得に問題を抱え(愛着傷害)、妄想性や自己愛性、境界性(ボーダーライン)など人格障害者の特徴に酷似していることがわかります。

-事例59(デートDV8・ストーカー行為3)-
  結婚前、私は、Dが流暢に語る話にあこがれました。
あたかも現実のできごとであるかのように語るDの活躍、そして、人生の夢に惹かれました。
  転勤族のDとは中学の同級生、高校入学以降は別々でした。
23歳、「K市に遊びにいくから会おうよ」と親友を介し連絡が入り、再会することになりました。
そして、K市と東京の遠距離交際がはじまりました。
Dの都会的なふるまいに、九州の男性とは違うなと感じました。
洗練さが新鮮でした。
しかも、K市にくるときは、Dは、いつも大盤振る舞いで楽しませてくれました*1。
  遠距離交際も6年となり、30歳が間近担ってきた私は、仕事を辞め、Dのいる東京に上京しました。
そして、Dに二股三股していた事実を知ることになりました*2。
しかも、これまでDが語ってきたことが嘘、虚言だと次々に明らかになっていきました。
それは、Dがつくりあげた妄想の世界、つくり話だったのです。
しかしDは、私に虚言がバレることをまったく気にもしていないようでした。
  連絡はいつもDからでした。
こちらから電話をすると、「何のよう? 何でかけてくるの?」と冷たく応じました。
その一方で、私が勤める病院の夜勤中に家探しをしていました*3。
あとになってから、大切にしていた思い出の品々を勝手に捨てられていることに気づきました。
Dに、友人からの手紙は読まれ、持ち帰られ、手帳に書かれている住所録はコピーを取られていました*4。
  私は、「Dになにをされるかわからない。怖い。もうダメだ! 別れよう」と決心し、アパートを飛び出て、同郷の知人のマンションに身を寄せました。
  携帯電話は、Dからの着信で、一晩中鳴りっぱなしでした*5。
数日後の夜勤明け、私は着替えをとりにアパートに戻りました。
すると、Dがアパートの前で、私が帰るのを待ち伏せしていました*6。
そして、ストーカーの多くがいうように、Dは、大きな声で「今後どうしたいのか、話し合いたい。」、「お前がいないと生きていけないから、話し合いたい。」と繰り返しました*7。
  私は、病院での夜勤明けで眠いのと、アパートの前で大騒ぎされたくないとの思いで、仕方なく、Dを私の部屋に通しました。
このことが、地獄の夜のはじまりとなりました。
  Dは「今後どうするのか?!」と訊いてきました。
私が「もう無理だから。病院は勤めたばかりだから直ぐに辞めれない。1年経ったら九州に帰る」と応えると、Dは「それは絶対に許さない! 俺とお前は婚約している。*8」と凄んできました。
  私は、Dが私のことをどう思っているのかわからないまま、仕事を辞めて上京しましたが、Dと結婚する約束(婚約)はしていませんでした。
にもかかわらず、Dは「婚約している」といってきました。
しかも、Dは、私がただ身を寄せてかくまってもらっていた知人と恋愛関係にあると妄想し、嫉妬に狂っていました。
Dは、「あいつに危害を加えてやる。どこに勤めているのか、調べている。社会的な立場をなくしてやるからな!」と脅してきました*9。
そして、「どうするんだ!」、「どうするつもりなんだ!」と繰り返し、繰り返し問い詰めてきました。
私は、どうしようもなくなり、「別れる」と応えると、Dは、「ただ別れるだけではダメだ。信用できない!」と責め、「あいつをここに呼べ! 俺は押入れに隠れている。きたら半殺しをしてやる。そしてお前も一緒にやれ!」と声を荒げながら、同意を求めてきました。
  私は、怖くて仕方がありませんでした。
以前、Dから「立退きを進めるのに、中国人に金をつかませて嫌がらせをさせ追いだしていた。ヤクザともつき合いがある。」と聞かされていました。
Dに背いたら、なにをされるかわからないと思いました*10。
  Dに「やれるな!」と訊かれ、私は「やれる」と応えるしかありませんでした。
そして、私は「自分が悪いことをしました。」と土下座して、Dに謝りました*11。
土下座だけでは足りなかったようで、Dは「その証拠をみせろ! 線香を自分で押しあてろ! 本当に別れられるならできるな!」と迫ってきました。
私は、自分で線香を両手に押しあてました*12。
そして、私は、Dの知り合いの家への転居を強要されました*13。
*1 偶然やたまたまの出会いや再開が交際のきっかけであり、その出会いや再開に“運命さ”を語り合い、その後、支配のための暴力的な行為が実在しているときには、明確な意図を持って、偶然やたまたまを装って近づいていることになります。
つまり、交際のきっかけとなったその出会いや再開は、ストーカー行為としての用意周到なリサーチにもとづいていることになります。
*2交際相手が複数の人物と交際していることは、仮に、婚約下にあれば不貞行為(性暴力)に該当します。婚姻関係にあるときには、当然、不貞行為(性暴力)です。
*3.4.5.6.7 典型的なストーカー行為です。
*8 相手の気持ちが自分から離れているように感じたり、直接、別れを切りだしてきたりしたときには、「婚約している」という“特別な関係性”を示すことばで“感情”に訴え、心を惑わせようとします。それでも、状況の打開ができないときには、「婚約破棄として慰謝料を支払え!」と“脅す”ことばを使うことで、関係性の継続を試みようとします。これらのふるまいは、復縁を求めるつきまとい行為、すなわち、ストーカー行為ということになります。
*9 人の「人に迷惑をかけられない」という思い(感情)こそが“弱み”と認識している者が、「*8」と同様に、関係性の継続を試みるための“脅し”のふるまいです。
*10 「逆らったら、なにをされるかわからない」という恐怖心を植えつける試みとして、武勇伝として語られたり、空手の型を見せたり、柔道の絞め技をして見せたりするふるまいを駆使します。それは、別れたり、逃げたりする気持ちを戸惑わせ、判断力を弱めるものです。
*11 精神的な支配下にない関係性では、強烈な恐怖を味わされ強要されない限り、“土下座”をして謝ることはありません。なぜなら、土下座は、自尊心が傷つく、屈辱的なふるまいだからです。
  したがって、躊躇なく土下座をすることができる状況にあるときには、精神的に深刻なダメージが及んでいる、つまり、生育期か、現在かのいずれかの環境で、慢性反復的(日常的)な暴力下で、怒りを収めたり、絶対服従を誓ったりしている環境にあることを示していることになります。
*12 この行為は、「お前は一生俺のものだ!」という宗教上の“刻印の儀式”としての意味を持つものです
*13 二度と逃げださないように、監視下におく、つまり、軟禁状態におく行為です。


 支配のための暴力をふるい、「別れる」ことを受け入れられず、異常に執着しつきまとう、つまり、ストーカー行為に及ぶのは、根柢にアタッチメント獲得に問題を抱えているからです。
発育成長過程において、a)自己愛だけが異常に高く、自分だけが正しいと自己中心的な考えしかできなくなったり、b)頭の中で虚像(妄想)の世界をつくりあげるようになったり、こんなに苦しくつらいのは大人が、c)社会が悪いから仕返しをしてなにが悪いとの考えに囚われるようになったり、d)注目を浴びたいがために人を騙す術に秀でてしまったり、e)支障をきたすほど、人とのかかわり方、特に、コミュニティのあり方に問題を抱えてしまったりするようになっているといった、その歪んだものの捉え方や考え方が、その人そのもの(人格)になっています。
  そこで、DV後にストーカー行為に及ぶDV加害者の特徴を、「自己愛系」、「妄想系」、「ボーダーライン系」の3タイプに分けて説明しておきたいと思います。
ただし、DV後にストーカー行為に及ぶDV加害者は、それぞれのタイプが複合していると考えていくことが重要です。

ア) 自己愛系ストーカーの特徴
自己愛が病的に強く、自分が一番と思っていて、自分を特別な凄い人と思われたい、敬われたいとの思いが異常に強くあります。
自分にとって納得にいく状態が続けばいい人でいられますが、反発されたり、他の人をほめたり、別れを切りだされると自分が否定されたという感情から怒りを爆発させることになります。
「つき合いをやめたい」「別れたい」といわれることは、自分自身のすべてを傷つけられることに等しく、全存在の否定につながるほど重要なことです。
そのため、病的なまで敏感に反応し、ときに、ストーカー行為に及ぶことになります。
ここには、「見捨てられることへの不安感」が根底にあります。
しかし、それを認めることができないために、相手に嫌がられることで自分を納得させようとさえするのです。
a プライドが高くナルシスト
b 流行のファッションに敏感
c 自分が“特別”であるという特権意識が強い
d 周囲からの評価をとても気にする。周囲の人が自分をどう思っているのか異常に気にする
e 自分以外のことをほめると不機嫌になる。他人はどうでもよく、自分のことだけほめて欲しい
f とにかく自分のことばかりを話したがる
g 自分の写真を見せたがる。自分の写真を見せて説明したがる
h 自分以外の人や状況に責任を転嫁する。責任を持とうとしない

イ) 妄想(パラノイア)系ストーカーの特徴
当初、情熱的に見えた強引さは気まぐれで、感情のムラ、衝動性といったものに姿を変え、発作的な暴力を伴います。
たまりかねて逃げだすと、執拗なまでの追跡行為に及びます。
なぜなら、とにかく連れ戻したい、自分の手元に置き支配したいという強い執着心が背景にあるからです。
別れに対する強い拒絶、拒否、否認など、被害者が自分から去っていくことに対する強烈な抵抗と反発を示します。
そのため、被害者に対する攻撃の衝動がおこり、強烈な怒りは憎悪の鬼と化すのです。
交際している段階から頻繁に電話をかけて、日中の行動を監視するとか、過去の恋愛関係を異常にこだわるなど、とてもふつうとはいえない詮索・干渉といった支配行為を繰り返している傾向があります。
また、妄想(パラノイア)系のストーカーは、一見ストーカーに思えないことが少なくありません。
しかし、誰がなんといおうと自分勝手な想像や思い込みで、自分の都合のいいようにしか解釈しません。
しかも、緻密な計算によって、自分の妄想があたかも現実のできごとであるかのように、周囲の人間を巻き込みながら演出していくことから、被害者自身が、気がつかないところでストーカーとの熱愛劇を演じさせられてしまっていることも少なくないのです。
そのため、被害者は徐々に外堀を埋められて逃げ場を失い、追い詰められていってしまうことになります。
a メール、手紙、電話など連絡を絶やさない。しかも、相手がそれを望んでいると感じている
b それほど親しくないのに、派手なプレゼント、高価なプレゼントを贈る
c 人並み以上に、新しい情報に敏感
d 人の心をつかむのが上手く、自分の思い通りに操作、支配しようとする。相手に応じて人格を使い分ける。情報操作で巧みに人を動かす
e よく人にかまをかける
f 思い込みが激しく、ノーを受け入れない

ウ) ボーダーライン系ストーカーの特徴
感情の激しさ、人やものごとを白か黒かにわける極端さ、自己否定と他者不信、怒りと恨みの激しさ、見捨てられる不安から、被害者を容赦なく、ふりまわすことになります。
ときには、「自殺する」と脅したり、刃物を持ちだして暴れたりと文字通りの修羅場が繰り広げられることも少なくありません。
被害者を肉体的にも、精神的にも完膚なきまでに叩きのめす傾向があります。
a 頻繁に職場(アルバイト)を変える
b 友だちが少なく、つき合いが長続きしない
c 些細なことでも責められる、非難されると、攻撃に転じる
d 相手の過去、とくに恋愛関係を知りたがる
e 自分がかつて恋愛関係にあった人を極端に嫌う
f 初対面のときから、心を許しているようにふるまう
g 自分の短所、弱点を語って同情を得ようとする
h 他人への評価が一定していない


(2)「SRP」のストーカー類型、ストーキングの背景と特徴・介入
オーストラリアでは、2009年、ビクトリア州メルボルンにあるモナッシュ大学の研究者や関係機関が、10年間に及ぶストーキング評価・管理を行った臨床経験及び国際的な研究結果を基に構成された専門的な判定手法として、精神科医、心理士等の専門家向けリスク評価手法「StalkingRisk Profile(SRP)」を開発しています。
「SRP」は、リスク評価のための体系的な専門判断ツールで、ストーキングに至らせる動機を含め、行為に関する分析をおこない、その結果、特定されたリスク要因や「SRP」による分類にもとづき、治療方法を決定するものです。
また、「Queensland Forensic Mental Health Service」では、すべての類型のストーカーに対して精神保健の介入(治療)と司法の介入は必要であり、ストーカーの類型によって、それぞれの介入の度合いは異なるものとして捉えています。

① 拒絶型(Rejected)
拒絶型のストーキングは、親密な関係の崩壊を背景に発生します。
通常、被害者は、かつて性的に親密な関係にあった者ですが、家族、親友およびストーカーと非常に近い関係にあった者もまた拒絶型のストーキングの標的になりえます。
拒絶型のストーカーの当初動機は、関係を再構築(復縁を求める)しようとするか、被害者が拒絶したことに対して復讐をしようとするかのいずれかです。
多くの場合において、拒絶型のストーカーは、被害者に対する明確な怒りを示し、復讐を望んだかと思えば、関係をとり戻そうとし、被害者に対する相反する感情を示す。
ストーカーが被害者の近くにいると感じることを持続することによって過去の関係の代わりになる場合や、ストーキング行為によってストーカー行為者の傷ついた自尊心が救済され、自分自身についてよりよく感じられる場合は、ストーキング行為は持続されます。
そして、拒絶型のストーカーは、主に、人格障害を有するため、特性に応じた処置と再発防止処置が重要となります。
悲嘆カウンセリングもストーカーの対象を諦めさせることに役立つことがあります。
司法の介入に関しては、拒絶型のストーカーには主に法的手段が求められ、断固とした対処が必要となります。
被害者との関係が浅く、また、被害者との子どもを有しない者は、治療プログラムの効果が期待できる可能性があります。
しかし、反社会的かつ犯罪性向があり、社会性にも欠ける拒絶型ストーカーであって、被害者との関係が長期間にわたり、子どもを有する者は、経過が良好にはならず、法的手段が唯一の有効な対処法と考えられています(ただし、法的手段が必ずしも有効となるとは限りません)。

② 憎悪型(Resentful)
憎悪型のストーキングは、自分がひどい扱いを受けている、あるいは、なんらかの不正の被害者であったり、屈辱を受けていたりしたと感じることで発生します。
被害者は、ひどい扱いをしたとみなされた見知らぬ人か知人です。犯人が被害者に対して誇大妄想的に考えを広げ、被害者に対する「復讐の」方法としてストーキングをおこなうとき、重度の精神疾患が原因となっていることがあります。
ストーキングの初期動機は、復讐または「仕返し」への欲求であり、被害者の恐怖心から誘発される支配感と征服感とによって持続されます。
また、しばしば憎悪型のストーカーは、自身を迫害する個人、または、組織に対する反撃としてのストーキングを正当化するため、自身が被害者であるかのようにふるまいます。
そして、憎悪型のストーカーには、認知療法的な手法を病的な悲嘆に対処するため用います。
また、妄想性障害があれば、精神医学的な治療もおこないます。明らかな妄想性障害があり、精神保健機関が処置に同意していれば対処しやすくなりますが、障害が明らかではないと見逃されることが少なくありません。
加えて、憎悪型のストーカーは、治療スタッフを威嚇するなどして早期に退院させられてしまうことがあります。
問題は、憎悪型のストーカーは、被害者の苦痛から満足を得るため、被害者への共感トレーニングについては適用しません。
したがって、憎悪型のストーカーは、司法の介入によって処理されることが多くなりますが、法的手段を講じるとストーカーを刺激してしまう可能性があることを念頭に置いて対応することが大切です。

③ 親しくなりたい型(Intimacy Seeker)
親しくなりたい型のストーキングは、孤独感、および、相談できる親しい相手の不在により発生します。
通常、被害者は、ストーカーが関係性の構築を求める対象となる見知らぬ人か知人です。
親しくなりたい型のストーカーの行為は、しばしば被害者に対する“妄想観念(実際には被害者との間には、なにもないにもかかわらず、既に、被害者との間に関係があるというような考え(恋愛妄想))”を含む重篤な精神疾患によって助長されます。
当初動機は、恋愛感情と親密な関係を構築することです。ストーカーが、他者と親密に繋がっているのだという確信からもたらされる満足感により、ストーキングは持続されます。
そして、親しくなりたい型のストーカーを止めさせるには、治療が有効で、司法の介入は、治療を受けさせることにつながるものとして考えられています。
妄想性障害(被愛妄想)を有している場合は、精神医学的な治療をおこない、また、ペットを飼育させるなど、社会からの疎外感を減少させることも試みます。
再発防止処置も、将来の誘発を抑えるために重要とされています。

④ 相手にされない求愛型(Incompetent Suitor)
相手にされない求愛型のストーキングは、孤独感、または、性欲を背景として発生し、見知らぬ人か知人を対象とします。
しかしながら、親しくなりたい型とは異なり、その初期動機は、恋愛関係の構築ではなく、相手と会うか、一時的な性的関係を得ることにあります。
相手にされない求愛型のストーキングは通常短期間ですが、その行為に固執する場合は通常、ストーカーが無分別であるか、被害者の苦痛に無関心であることでストーキングは持続されます。
このようなストーカーの無感覚は、自閉スペクトラム症や知的障害に起因する認知限界や社会的スキルの欠如に関係することが多いとされています。
そして、相手にされない求愛型のストーカーを止めさせるには治療が有効であり、司法の介入については、治療を受けさせることにつながるものとして考えられています。
しかし、相手にされない求愛型のストーカーは、行動が卑小化されるので、「Queensland Forensic Mental Health Service」に回されることがないことから、治療することができないという問題が指摘されています。
治療に結びつけることができれば、社会性を構築すること、教育、被害者への共感を増加させることに重点が置かれます。

⑤ 略奪型(Predatory)
略奪型のストーキングは、常軌を逸した性癖と興味を背景として発生します。
通常、犯人は男性であり、被害者は、ストーカーが性的興味を抱いた見知らぬ女性です。
ストーキング行為の多くは、性的な満足を獲得する手段(例:長期にわたる窃視)としてはじまりますが、性的暴行の前兆として被害者に関する情報を獲得する手段としても使われます。
この意味で、ストーキングは、普段用心をしていない被害者を対象として得られる支配感と征服感とを楽しむ手段によって、満足感を得えうとするものです。
そして、性犯罪者用のプログラムを使用します。
治療が可能であるケースもありますが、完全に治癒わけではありません。


(3) デートDVとストーカー殺人事件
ここでは、a)平成12年11月、「ストーカー行為等の規制に関する法律(いわゆるストーカー行為規制法)」の制定のきっかけとなった「桶川ストーカー殺人事件(平成11年10月26日)」、b)平成25年6月、ストーカー行為規制法の法改正のきっかけとなった「長崎ストーカー事件(平成23年12月26日)」、さらに、c)平成25年7月、メールの連続送信をつきまとい行為として禁止することを規定する“法改正”のきっかけとなった「逗子ストーカー事件(平成24年11月6日)」、d)平成26年11月、リベンジポルノへの罰則を盛り込んだ「リベンジポルノ被害防止法(私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律)」を成立させるきっかけとなった「三鷹ストーカー殺害事件(平成25年10月8日)」をとりあげ、検証していきたいと思います。

-事例60(デートDV9、事件研究1:桶川ストーカー殺人事件)-
  「桶川ストーカー殺人事件」とは、平成11年10月26日12時55分ころ、埼玉県桶川市の路上で、上尾市在住の跡見学園女子大学2年生、矢野香織さん(21歳、以下、被害女性)が、JR東日本)高崎線桶川駅前で、男に刃物で左胸と脇腹を刺されて殺害された事件です。
男は逃走し、被害女性は病院に運ばれましたが、まもなく出血多量で死亡しました。被害女性にストーカー行為を繰り返していた元風俗店経営小松和人(27歳)を首謀とする殺人事件とされています。
小松和人は、平成13年1月に自殺しています。
小松和人は、兄の小松武史(東京消防庁消防士、32歳)と共同で、東京都内で東京都公安委員会から許可を得ずにファッションヘルス形態の風俗店7店舗を経営する裏社会の実業家でした。
  この兄弟の父親は、公務員であることが報じられています。
平成11年10月26日12時55分ころ、埼玉県桶川市のJR桶川駅西口前のスーパー脇の路上で、被害女性が、男にナイフで左胸と脇腹を刺されました。男は逃走し、被害女性は病院に運ばれたが、まもなく出血多量で亡くなりました。
被害女性は大学に向かう途中に、自転車置場に自転車を止めたところを襲われたものと見られています。
  この事件は、当初、通り魔事件とも考えられていましたが、家族や友人の話から1人の男の名が浮上することになります。
男は、以前に被害女性と交際していた元風俗店経営小松和人(27歳)です。小松は、同年1月ころに被害女性と知り合い、交際をはじめていましたが被害女性に別れ話を切りだされると、執拗に嫌がらせを繰り返していました。
いわゆる「ストーカー」という行為です。
小松は、被害女性と知り合う前に交際していた女性に対しても、同じような嫌がらせをしていたとのことです。
  小松は事件後、行方をくらましていました。小松が経営していたとされるヘルスのあるマンションの一室は、看板などは残っているもののもぬけの殻でした。
同年12月19日、小松和人の兄、小松武史(元消防庁職員、32歳)経営する風俗店の店主の久保田祥史(34歳)が殺人容疑で逮捕されました。
久保田は、被害女性を刺したという男の目撃証言とぴったり合っており、小松ともつながりがありました。
翌20日、小松武史、伊藤嘉孝(32歳)、川上聡(31歳)の3人が逮捕されました。
この4人の居場所をつきとめたのは警察ではなく、写真週刊誌「フォーカス」でした。
彼らは、事件が大々的に報道されたことで店を閉めていたのでした。
小松武史は、同年8月ころ、弟の小松和人に被害女性の殺害を依頼され、久保田に約2000万円で殺害を持ちかけていました。
小松武史が兼業で風俗店を経営していたことは、職場(消防庁)では誰にも知られていませんでした。
平成12年1月16日、被害女性を中傷するビラを配布したことに対し、名誉毀損容疑で12人が逮捕されました。
しかし、首謀者の小松和人だけは行方がわからず、指名手配されました。
小松武史は「小松和人は自殺するつもりだ」と話し、弟の行きそうな場所を教えていました。
そして、同年1月27日、北海道弟子屈町の屈斜路湖で、男性の水死体が、ハクチョウを撮りにきていたアマチュアカメラマンによって発見され、遺体は小松和人であることが確認されました。
小松和人は自殺とみられ、死後2、3日経過していました。
自殺とされたのは、首のまわりに浴衣の紐が巻かれていたこと、手首にためらい傷があり、体内から睡眠薬が検出されたからでした。
小松和人は、ビラをまいたアリバイづくりで沖縄へわたり、その後、名古屋に潜伏したあと、北海道へきていたのでした。
平成11年1月、小松和人と女子大2年21歳の被害女性は、大宮駅東口のゲームセンターで知り合いました。
声をかけてきた小松和人は、名前を「誠」、職業は「外車ディーラー」、年齢を「23歳」と詐称していました。
そして、2人は交際をはじめます。
最初、小松和人は優しい男でした。
常に札束を持ち歩き、数十万円もする高級ブランド品のバッグや洋服、ロレックスの腕時計などをプレゼントしていました。
被害女性が「こんな高いものは受けとれない」と受けとりを遠慮すると、「俺の気持ちを、なぜ受けとれないんだ!」と怒鳴り、暴力をふるいました。
同年3月20日、被害女性が、池袋の小松和人のマンションに遊びに行ったとき、室内にビデオカメラが仕掛けられていました。
被害女性がそのことを訊くと、小松和人は「お前、俺に逆らうのか! なら、いままでプレゼントした洋服代として100万円支払え!」と怒鳴りつけ、壁を何度も殴りつけ、穴を開けたのです。
さらに、「返さなければ風俗で働け!」、「俺と別れるんだったら、お前の親がどうなっても知らないよ。リストラさせてやる!」と脅し続けました。
恐怖にかられた被害女性は、交際を続けるしかできませんでした。
  以降、小松和人は、被害女性に頻繁に電話をかけるようになります。
30分おきに電話して、被害女性の生活を知ろうと試み、被害女性が電話にでないと、番号を教えていない自宅や友人のところに電話をかけました。日々、詮索干渉、そして、監視行動が強まっていきました。
被害女性が愛犬の散歩させているときにかかってきた電話では、「俺を放っておいて、犬の散歩してるのか。おまえの犬も殺してやるぞ!」と怒鳴りつけています。
被害女性が小松和人の家に行き、脅されてから4日、同年3月24日、被害女性は、友人に「私、殺されるかもしれない。」と話しています。
同年4月になると、被害女性は、小松和人に嫌われることを意図として、強烈なパーマをかけました。
しかし、被害女性の友人づてに事情を知ることができた小松和人は、同年4月21日、「お前は俺とだけつき合うんだよ。その誠意をきちんと見せろ!」と、被害女性に「携帯電話を2つに折るように」と命じ、その場で被害女性は携帯電話を2つに折り、友人のアドレス記録を失うことになりました。
  同年6月14日、小松和人の異常な束縛、詮索干渉、監視、暴力に耐えられなくなった被害女性は、小松和人に池袋駅構内の喫茶店で別れ話を切りだしたのです。
この日までに、被害女性は、小松和人に対し、何度か「別れて欲しい」とお願いしていましたが、父親の勤め先などの情報を手に入れており、「リストラさせてやる。そうすりゃ、小学生と浪人生の弟たちは学校に行けなくなっちゃうよ。」、「それでも別れるというなら、お前を精神的に追い詰めて天罰を下す!」と脅されてきたのです。
したがって、この日は決死の覚悟を持って、別れ話を切りだしていることになります。
すると、小松和人は「弁護士に相談する。」といい、誰かに電話をかけました。
被害女性に電話を代わると、弁護士と名乗る男は「いまからお宅にうかがいます。」といい、電話を切ったのです。
  同年6月14日の夜、小松和人と兄の小松武史、柳直之(29歳)の3人が、被害女性宅を訪れ、上がり込みます。「小松和人の上司」と名乗った兄の小松武史が、「小松和人が会社の金を500万円横領して、お宅の娘に貢いだので半分の250万円を支払え。しかもこいつ(小松和人)を精神的に不安定にした。病院の診断書があるんだ。とにかく誠意を見せろ!」と脅し、凄みました。
帰宅した父親が、「女しかいないところに上がり込んでいるのはおかしいじゃないか。警察がいる前で話そう。」と一喝すると、男たちは「会社に内容証明つきの文書を送りつけるから、覚えておけ!」と捨て台詞を吐いて、帰っていきました。
被害女性は、このやり取りをカセットテープに録音していました。
帰り道、小松和人は、仲間に「このままじゃ気がすまない。S子とセックスしているときの写真があるから、それをバラ撒こう。それに、レイプしてビデオに撮影しよう。柳さん、やってみない? 成功報酬として500万円出すからさ」と持ちかけたということです。
  同年6月15日、被害女性と被害女性の母親は、前夜に録音したカセットテープを持参して上尾署に相談に訪れました。
しかし、署員は「事件か民事かギリギリだな。警察は難しいよ。あんたもいい思いしたんじゃないの。」とひどいことばをかけ、真剣に対応しなかったのです。
同年7月13日、被害女性宅の近所などで、中傷ビラがばらまかれました。
ビラには被害女性の顔写真と実名、「WANTED」「天にかわっておしおきよ!!」という見出しがあり、それから被害女性を誹謗中傷する台詞が書かれていました。
さらに、被害女性の顔写真に、「大人の男性募集」というメッセージ、電話番号が記載されたカードが都内でもばらまかれており、インターネットにも同様の書きこみをしていました。
そして、近所の人からビラについて知らされた被害女性の母親は、再び上尾署に向かいましたが、簡単に事情聴取しただけで帰されました。
被害女性と被害女性の母親は、その後も何度も警察署に相談しに行きましたが、「大学の試験があるんでしょう? 終わってからでいいじゃない。1週間後にきてよ。」と相手にしなかったのです。
同年7月下旬、被害女性は上尾署に訪れ、「犯人は小松和人に間違いありません。」と名誉毀損容疑で告訴しました。
しかし、警察は捜査をした気配はありませんでした。
同年8月下旬、被害女性の父親の勤務先や、その本社にも中傷文書が届きました。中傷した封書は、550通にも及んでいました。
父親は、警察に相談に行きましたが、「警察は忙しいんですよ。」ととり合うことはありませんでした。
同年9月、上尾署係員は仕事が増えるのを嫌がり、被害女性の「告訴」を「被害届」に改ざんし、被害女性の母親に「告訴取り下げ」を要請したのです。
  こうした中で、事件が起きました。
同年10月26日、久保田らは9時から被害女性の家前で、被害女性の行動を見張り、大学に向かうため12時に自転車で家を出発し、桶川駅前の自転車置き場で降りたところをナイフで左胸や脇腹を刺して逃亡したのです。
事件後、上尾署では捜査ミスを隠すために嘘の調書を作成していました*-42。
  逮捕された小松和人の兄の小松武史は、中傷ビラ300枚をバラまき、父親の勤務先に誹謗文書800通送付したことを自供しましたが、殺人については関与を否定しました。
  平成12年10月、被害女性の両親は、小松武史らを相手取り、浦和地方裁判所に慰謝料など1億1000万円を求める損害賠償請求を求める民事訴訟を起こしました。
さらに、同年12月、被害女性の両親は「なぜ娘が殺されなくてはならなかったのか」と、県を相手取り、国家賠償訴訟を起しました。
平成13年7月17日、さいたま地方裁判所*-43 は、「自己保身のために他人の生命すらかえりみない犯行で、動機に酌量すべき余地もない。」と久保田に懲役18年、見張り役の伊藤に同15年の判決を下しました。同年10月26日、実行犯5人に計490万円の賠償命令をだしました。
平成14年6月27日、運転手役だった川上に懲役15年の判決が下りました。
平成15年2月26日、国家賠償訴訟で、さいたま地方裁判所は県に対し550万円の賠償命令をおこないましたが、双方とも判決を不服として控訴しました。
同年12月25日、主犯の小松武史に無期懲役の判決が下りました。平成17年1月26日、国家賠償訴訟の控訴審で、双方の控訴を棄却しました。
同年12月20日、小松武史に対する刑事裁判の控訴審判決で、東京高等裁判所安広文夫裁判長は、「動機ははなはだ理不尽で、酌量の余地はみじんもない。自らは手を下すことなく共犯者に指示し被害者の殺害に至ったもので、首謀者である。」と小松武史の控訴を棄却しました。
平成18年3月31日、遺族が小松武史その両親ら4人に対して計約1億平成12年万円の損害賠償を求めた訴訟で、さいたま地方裁判所石原直樹裁判長は4人に計約1億250万円を支払うよう命じました。
同年8月30日、賠償訴訟で、最高裁判所今井功裁判長は、両親の上告を棄却しました。警察の捜査怠慢と被害女性殺害との因果関係を認めない結果となりました。平成18年9月5日、最高裁第2小法廷は小松武史の上告を棄却し、無期懲役が確定しました。
*-42 事件発生から5ヶ月半が経過した平成12年4月6日、内部調査を進めていた埼玉県警は、上尾署員による改ざんを認定し、刑事二課長ら3人を懲戒免職処分とし、虚偽有印紙文書索引容疑などで書類送検しました。そして、本部長ら9人にも処分が下されることになりました。
この「桶川ストーカー事件」と同時期に、やはり警察のまずい対応が問題となった「栃木リンチ殺人」、同じく容疑者をみすみす自殺させてしまった「京都日野小児童殺害事件」があり、当然のことながら、警察は厳しい批判の矢面に立たされることになりました。
そして、平成12年11月、「ストーカー行為等の規制に関する法律」が施行されることになります。
同法は、桶川ストーカー事件がきっかけとなった法律で、国会で成立したのは被害女性の誕生日の同年5月18日のことでした。
この法律により、男女間の問題として扱われてきた“嫌がらせ・つきまとい行為”に対し、警察が介入し、処罰できるようになりました。施行半年で、66人が逮捕され、453人が警告されました。
そのうち9割が、元夫婦や恋人など「面識者」でした。
*-43 平成13年5月1日、市名変更(旧浦和市,大宮市及び与野市の合併)に伴い浦和地方裁判所をさいたま地方裁判所と改称されたことによる裁判所名の変更です。
浦和地方裁判所での公判中、浦和地方裁判所刑事部の裁判官(47歳)が、(毎回のように)居眠りしている。」と傍聴人から訴えがあり、平成13年3月5日、浦和地方裁判所は、この判事を公判担当から外し、民事部に配置換えをしました。
判事は、宇都宮地裁の裁判官をしていた平成20年に山梨県内に住む裁判所女性職員へのストーカー規制法違反容疑で逮捕されていました。
ストーカー加害者が、ストーカー事件を担当するといった信じられないことで、刑事部から民事部に異動となったとしても、婚姻破綻の原因をDVとする離婚事件も扱うことになります。
怖ろしいことです。



-事例61(デートDV10、事件研究2:長崎ストーカー事件)-
 「長崎ストーカー事件*-44」は、平成23年12月26日に長崎で発生したストーカー殺人事件で、元交際相手本人(以下、三女)ではなく、その母と祖母が殺害された事件です。
  平成23年12月26日、長崎県西海市の山下誠さん(58歳)方で、同日21時前に帰宅した誠さんの次男(18歳)が、家に明かりがなく居間の窓ガラスが割られているのを見つけ、三女と東京にいた誠さんに電話で伝えました。
誠さんが、西海署に通報するとともに、次男は近所の親類と一緒に2人を探したところ、敷地内のワゴン車の荷台から妻の美都子さん(56歳)と母親(三女からみて祖母)の久江さん(77歳)が刺殺されているのを発見しました。
  平成23年2月下旬、三女と筒井郷太(27歳)との交際がはじまりました。同年9-10月、は三女が筒井から暴力を受け、事実上の監禁状態となります。
三女は、このときの暴行について、警察に被害届をだしています。
同年10月29日、父親が、長崎・千葉の両県警に相談しました。
同年10月30日、三女の部屋に三女の親族、同僚と習志野署員2人が突入し、三女を保護しました。父親が、三女を自宅に連れて帰ることになりました。
署員は、筒井を任意同行し、「二度と近づかない」との誓約書を書かせ、厳重注意だけで帰します。
同年10月31日、筒井は、三女宛に脅迫するメールを送ります。
同年11月1日、長崎県警西海署で、父親が「傷害事件として被害届けをだしたい。」と相談しますが、「事件の起こった警察署にするように」と具体的な対応をとることはありませんでした。父親は、続けて千葉県警習志野署に電話で相談しました。同年11月5日、父親が、西海署に「無言電話が続く」と相談しました。
同年11月7日、家族と三女の同僚が三女のマンションに入ることにしたことから、「事件捜査に支障ないように」と配慮し、習志野署に「立ち会い」を求めましたが、習志野署は「業務に関係ない。」と断りました。
同年11月8日、前日に三女のマンションに入ったことを受け、親族が、習志野署に「三女の部屋に侵入の跡がある。」と通報しましたが、同署は対応をしませんでした。
同年11月中旬、筒井が、三女の知人などに「三女の連絡先を教えなければ、周囲の人を殺してとり戻す。」と脅迫する内容のメールを送ったことから、同年11月21日、父親は、西海署、習志野署、三重県警桑名署に筒井の脅迫行為を相談しました。西海署と習志野署は「メールを受けた人の居住地の警察に相談を」と応じられただけでした。桑名署には、筒井容疑者宅の巡回も要請しましたが、「西海署と習志野署に確認する」と回答したのみで、以降、連絡はありませんでした。
のちに父親は、「関東のさまざまな警察署に私や三女が行けるはずもなく“誰も助けてくれない”と絶望的な気持ちになった。」、「どこの警察署も助けてくれないと思うようになった。」と、当時の心境を記しています。
そして、同年12月、三女が、習志野署に「被害届をだしたい」と電話で相談し、「いつでもいい」と応じられ、同年12月6日、三女と父親が、習志野警察署を訪れますが、「刑事課が一人も空いていないので、1週間待つように」と応じられます*-45。
  同年12月8日、筒井が、桑名市の実家を飛びだしました。
同年12月9日未明、三女宅で、チャイムを鳴らしたり、ベランダを叩く音がしたりしたことから、習志野署に通報します。訪れた警察官は「顔は確認したのか?」、「逮捕はできない」と応じ、帰ってしまいました。
同年12月13日夜、父親が、筒井が三女宅近く徘徊しているのを見つけ、通報しました。
訪れた習志野署の刑事が筒井に職務質問をしました。
父親は「早く捕まえてくれ」と訴えましたが、“捜査を先送りにして事情聴取をおこなっていなかった”ことから、「書類がそろっていないので、逮捕はできない。」と応じ、筒井の両親に連絡を入れ、「連れて帰るように」と指示をするに留まりました*-46。
同年12月14日、桑名市の実家に帰っていた筒井は、父親を殴るなどして暴れ、通報を受けた桑名署員が家に駆けつけましたが、筒井は既に母親の携帯電話を奪い、家をでていきました。
以降、筒井の行方はわからなくなっています。
同年12月16日、筒井の父親は東京に出向き、都内で三女の父親と会い、「息子が自分の顔を殴り、金を持って姿を消した。気をつけてほしい。」と伝えました。同日18時ころ、父親は習志野署に出向いたあとに、筒井の父親からの話を受けて、注意することを妻に伝えるために自宅に電話し、妻の美津子さんと話をしています。
のちに、父親は「妻と話をしましたが、そのとき既に私の母は殺されており、妻が電話をしている外に筒井が潜んでいました。電話が終わったあとに、妻は襲撃を受けたようです。」と悔やんでも悔やみきれない心情を明かしています。
 同年12月16日18時ごろ、筒井は、三女の父親の山下誠さん宅の離れの窓ガラスを割って侵入し、母親の久江さんの胸や腹を包丁で数回刺して殺害し、同20分ごろ、母屋の窓ガラスを割って入り、妻の美都子さんを包丁で十数回刺して殺害したのです。
2人の死因は、いずれも失血死でした。
そして、同日21時前に帰宅した誠さんの次男(18歳)が、家に明かりがなく居間の窓ガラスが割られているのを見つけ、三女と東京にいた誠さんに電話で伝えました。誠さんが、西海署に通報するとともに、次男は近所の親類と一緒に2人を探したところ、敷地内のワゴン車の荷台から妻の美都子さんと母親(三女からみて祖母)の久江さんが刺殺されているのを発見しました。
同年12月17日午前、警察は、筒井を長崎市内のホテルで見つけ、任意同行しました。筒井が所持していたウエストポーチの中に、包丁2本が入っていました。これが凶器とみられました。
  同年12月26日、長崎地検は、筒井の事件当時の精神状態を調べる鑑定留置の結果などを踏まえ、刑事責任が問えると判断し、三重県桑名市、無職、筒井郷太(27歳)を殺人、住居侵入、窃盗などの罪で長崎地方裁判所に起訴しました。
平成24年5月21日、殺害された山下美都子さんの三女(23歳)に「暴行を加え、傷害させた疑いが強まった」として、傷害容疑で追起訴、同年6月1日、三女の姉ら8人に脅迫メールを送った脅迫罪で、それぞれ追起訴しました。
平成25年5月14日、長崎地方裁判所で第1回公判が開かれ、筒井は住居侵入、殺人、窃盗、傷害、脅迫のすべてで無罪を主張し、弁護側は、起訴内容を否認したうえで「刑事責任能力の有無、程度についても争う」と述べました。
  同17日の第4回公判で、三女が証人尋問で出廷し、三女は「自分を守るためにうそをついて現実から逃げているだけ」と語気を強め、「死刑にしてほしい」と繰り返し、「家族を殺すといわれていたので、死ぬことも逃げることもできなかった。」と涙ながらに訴えました。
男性裁判員が「逃げられなかったのは家族や同僚を守るためだけですか?」と質問すると、三女は「それだけです。」と応えました。
暴力をふるわれた状況について、「同居をはじめると、すぐに暴力をふるわれるようになり、鉄アレイやコップで殴られたり、手錠をかけられたり、正座をさせられ蹴られたりするなどの激しい暴行を受けた。」と述べ、「大型商業施設の雑貨売り場で男性客を接客するときは、携帯電話を通話状態のままにさせられていた。」と職場にいるときでさえも拘束されていた事実を明かしました。
筒井は、終始顔色を変えず、ノートにメモを取り続けていたといいます。
同20日の第5回公判では、三女の姉2人が、三女を救出したときの状況を、「部屋は物が散乱し、壁に血が飛んでいた。ひどい暴力があったと確信した。」、「私も被告にいつか殺されると覚悟し遺書を持ち歩いた。」と述べました。同23日の第7回公判で、検察側が、「女性を連れ戻した家族が邪魔で2人を刺殺した。」と、捜査時の筒井の自白調書を読みあげ、裁判所は捜査段階の自白調書を証拠として採用しました。
 同24日の第8回公判で、弁護側の質問に対し、筒井は、「起訴されたようなことはしていない。」と重ねて全面無罪を訴えました。同27日の第9回公判で、検察側の質問に対し、筒井は「被害者とDNA型が一致する血痕が付着していた衣服などの証拠は、警察が偽造したものだ。」と主張しました。
同28日の第10回公判で、筒井の精神鑑定を担当した精神科医が出廷し、「善悪の判別能力や行動制御能力に影響を及ぼすとは考えられない非社会性パーソナリティー障害である。」と証言し、筒井の生い立ちについて、「幼少期から他の児童にかみついたり、家族に暴力をふるったりしていた。」、「依存性が強く、他罰的な性格だ。」と述べています。さらに、24日と27日で、筒井に被告人質問での回答を見て、「自己を劇化する演技性パーソナリティー障害の傾向も見られる。」としたうえで、「被告の供述は虚言といわざるを得ない。」と述べました。
同年6月3日の第11回公判で、検察側は、「いまもストーカー行為の相手や家族を殺す事件が、あとを絶たない。命をもって償うことで、世の中に断固としたメッセージを送るべきだ。」と死刑を求刑しました。一方の筒井は、最終意見陳述で「僕は殺人などをしていません。裁判員や裁判官の方は先入観や思い込みを持たないでほしい。」と無実を訴えました。
同14日の第12回公判で、長崎地方裁判所の重富裁判長は、「自白は具体的かつ詳細で信用できる。公判での供述は信用できない。」として、2人の殺害を被告の犯行と認定し「なんの落ち度もない2人の命を理不尽に奪い、結果は重大」として求刑通り死刑判決を下しました。
同日午前中に、NNNに「もうどうしようもなくなっちゃったから死にたい。なんで僕が殺したことになるの? くやしい、悲しい。つらい、涙が出る。もう生きていたくない死刑でいい。なにをいっても伝わらない世の中なら伝えたくもない。もう嫌になってきました。」との内容の手紙を送っていた筒井は、判決がいい渡された瞬間、血の気が引いたような顔色をしていましが、弁護士の方を向いて、笑みを浮かべながら法廷をあとにし、即日、控訴しました。
平成26年6月24日、福岡高等裁判所の古田浩裁判長は一審長崎地裁の裁判員裁判の死刑判決を支持し、被告側控訴を棄却しました。判決文では、事件翌朝に凶器の出刃包丁を所持し、衣服などに被害者2人の血痕が付着していたことなどから筒井被告の犯行と断定した一審判決を、「判断過程に不合理な点はない。」と支持し、凶器の所持などを「警察官の捏造」とする筒井被告の主張を、「根拠を欠く荒唐無稽な主張」と退けました。
そのうえで、「強固な犯意に基づく無慈悲な犯行」と批判し、捜査段階で認めながら公判で否認に転じたことについて、「不合理な弁解で、更生可能性に乏しい。」と言及し、死刑判決が重過ぎて不当とは言えないと判断した。」としています。
*-44 「ストーカー行為等の規制に関する法律(平成12年11月)」の施行のきっかけとなった「桶川ストーカー殺害事件(平成11年10月26日)」における警察の不手際、その教訓が生かされることがなく、事件後、ストーカー被害の相談を受けていた千葉県警が被害届を受理せず、慰安旅行に行っていた事実が発覚したのです。
また、「長崎ストーカー事件」は、「ストーカー行為等の規制に関する法律」では、つきまとい等に対する警告や命令は被害者の居住地の警察のみに限定されていたことから、居住していた千葉県から実家のある長崎市に逃げていた被害者(元交際相手)が、届けのために何度も千葉まで出向かざるを得なかったことなども“被害を食い止められなかった”要因のひとつとして問題となり、平成25年6月に「ストーカー行為等の規制に関する法律」が“法改正”されるきっかけとなりました。
*-45 平成23年12月6日、習志野警察署において、署員が「被害届の提出は、1週間待ってほしい」と応じたあと、ストーカー事件の責任者だった生活安全課の課長、父親に「被害届の提出を待ってほしい」と伝えた刑事課の係長など12人が、同年12月8日-10日で、北海道に慰安旅行に行っていたことが、のちに発覚することになります。
*-46 のちに、千葉県警は「慰安旅行に行った担当者が、事件の切迫性を認識して対応していれば、より踏み込んだ対応ができたはずだった。」、「慰安旅行が捜査に与えた影響」を認めて、記者会見で謝罪し、さらに、警察庁は、脅迫メールの内容を確認していなかったことについて、「脅迫メールの内容を見れば、切迫性があると判断できた。」、「三女が習志野市にマンションを借りながら西海市へ避難したため、習志野、西海良書が、“管内の事ではない”と考え、ストーカー規制法を積極的に適用しなかったことは反省したい。」と述べています。



-事例62(デートDV11、事件研究3:逗子ストーカー殺人事件)-
 「逗子ストーカー殺人事件」とは、平成24年11月6日、度重なるストーカー被害のすえに、神奈川県逗子市のアパート1階居間で、フリーデザイナー三好梨絵さん(33歳、以下、被害女性)が、東京都在住の元交際相手の小堤英統(40歳)に刃物で刺殺された事件です。
小堤は、事件後に同じアパートの2回の出窓にひもをかけ、首吊り自殺していたことから、同年12月28日、被疑者死亡として不起訴処分となりました。
  平成16年ころ、世田谷区のバトミントン教室で二人は知り合い、交際をはじめ、平成18年4月ころまで交際していました。
当時、小堤は都内の私立女子高で社会科を担当する非常勤教師で、バトミントン部の活動を手伝い、生徒に慕われていたということです。
小堤は、世田谷区内の閑静な住宅街に建つ築28年3DKの一戸建てで、母親と暮らしていました。
当初は5人住まいでしたが、3人の子どものうち2人は結婚して家をでて、父親も数年前に亡くなっています。
小堤にはうつ症状による自殺企図があり、平成22年12月、自殺未遂をしたことから精神科に入院しています。
事件後、小堤の母親(68歳)は「1人で死んでくれればよかった。相手の人も巻き込んでしまい、本当に申し訳ない。」と語り、「被害女性の結婚を人づてに知って恨むようになった。
一方で、うつ症状が悪化し「生きていても仕方ない」といって3回自殺未遂を起こした」と述べています。
  小堤は、被害女性から別れを切りだされると、被害女性に対し執拗にメールを送るようになります。
その後、被害女性は6年に及ぶストーカー被害を受けることになります。
その間、被害女性は、警察に再三相談に行き、平成23年、小堤は、脅迫の罪で懲役1年執行猶予3件の有罪判決を受けています。
執行猶予中に起こした事件でした。
  平成20年夏、ストーカー被害が続く中、被害女性は結婚して逗子市に転居し、小堤には新しい姓や住所を隠していました。
平成22年4月ころ、被害女性の結婚を知った小堤は、嫌がらせのメールを送るようになります。
メールはエスカレートし、平成23年4月には「刺し殺す」と脅すメールが1日に80-100通送りつけられたことから、被害女性は、警察に相談しました。
同年6月、小堤は脅迫罪容疑で逮捕され、同年7月、小堤に対し、ストーカー規制法にもとづく警告がだされ、同年9月、被害女性宅に防犯カメラが設置されました。
そして、同年9月に懲役1年執行猶予3年の有罪判決が確定しました。
しかし、小堤は、有罪判決を受けてもストーカー行為を止めることはなく、平成24年3月下旬から4月上旬にかけて、小堤が被害女性宛に送った嫌がらせのメールは1089通にのぼり、メールには「結婚を約束したのに別の男と結婚した。契約不履行で慰謝料を払え。」と書かれていました。
女性は、警察に相談しましたが、警察は「違法行為に該当しない。」として立件を見送りました。
同年4月上旬以降、メールが届かなくなったことから、被害女性は警察に「静観したい。」と伝え、被害女性は借りていた防犯カメラを警察に返却しました。
しかし、警察は、被害女性宅周辺の頻繁なパトロールは継続していました。
事件は、被害女性が防犯カメラを返却した直後に起きました。
事件直前に付近のコンビニの防犯カメラに、段ボール箱を持ちながら買い物をする小堤が映っていたことや被害女性の玄関先に持ってきた段ボール箱を放置していたことから、小堤は、被害女性や近隣住民に怪しまれないよう運送業者を装って犯行に及んだ可能性が指摘されています。
  小堤は、平成23年6月の逮捕前、そして、同年9月の有罪判決を受けたあと、Yahoo!知恵袋で複数のアカウントを使い、約400件にもわたって「被害女性の居住地域に絡む住所特定に関する質問」、「パソコン・携帯電話の発信による個人情報の収集に関する質問」、「刑法等の法律解釈に関する質問」、「凶器に関する質問」等の質問をし(質問文自体は被害女性名や自分が殺人事件を起こす意思があることを伏せたうえで、善意の人間による疑問提示という形を装っていた)、被害女性の住所を特定して殺人事件の準備のための情報を収集しようとしていました。
小堤は、このYahoo!知恵袋で、「別れ(婚約破棄)が原因で“鬱病”になり、“職場を解雇”された。」と訴えています。
小堤はYahoo!知恵袋で、「婚約を一方的に破棄してきた相手に対して慰謝料を請求することは可能でしょうか? 法律や判例に詳しい方、教えてください(平成23年11月、平成24年3月)」、「一方的な婚約破棄によって鬱病が重篤化した場合、相手を傷害罪として訴えることはできますか?(平成23年10月)」、「私は、今、なにか違和感を感じることが多く、それがストーカー被害によるものなのか判断できません。実際にストーカー被害に遭われた方、具体的な事例などを教えてください(平成23年5月)」と質問していますが、小堤は、婚約破棄に関する法律や判例を知りたいわけではなく、「自分はこんなにひどい目にあっているのだから、慰謝料を請求するのは間違っていないよね」と思いを誰かにわかって欲しいとともに、共感してくれる人がいるかを“確認”するために何度も同じような書込みをしていると考えるのが妥当です。
つまり、小堤は精神的な満足感をえるために、親切な回答や同意的な回答を求めての書込みであるということです。
また、「マスコミ関係の方に質問です。市橋事件や桶川市ストーカー事件は大きく報道されましたが、一方で新聞の社会面に小さく報道されない殺人事件もあります。両者の違いはなんですか?(平成23年10月他多数)」、「(テレビドラマででてくる暴行シーンの羅列をして)人間ってあんなに簡単に気絶するものなのでしょうか?(平成23年10月)」、「殺人事件を犯した犯人が、逮捕される前に自殺してしまった場合、その後の事件の処理はどうなるのですか?(平成23年12月)」との質問には、「彼女を殺して自分も死ぬことで、永遠に被害者を自分のものにできる」という思いよりも、「市橋事件のように小さな報道扱いにされたくない」と自己顕示欲を満たすために大きく報道されたい思いが強いことが表れています。
一方で、「104の電話番号案内では、どこまで住所が分かっていれば、番号を教えてくれますか?(平成23年10月)」、「逗子市に在住の方に質問です。小坪六丁目にあるお寺は何というお寺ですか?(平成23年10月)」、「日本シリーズ第5戦について質問です。ソフトバンク対中日戦は、何対なんでどちらが勝つと思いますか?(平成23年11月)」、「最近、一人暮らしをはじめて自炊するようになったのですが、包丁が安物だけに切れが悪くて困っています。包丁ってホームセンターに行けば売っていますか? それとも問屋街に行かないと買えないのでしょうか?(平成24年11月4日)」との質問には、何気ない話を不特定な誰かとわかち合いたいと思いが表れていて、小堤の孤独さを示しています。
 以上のような書込みをしている最中の平成24年11月、小堤は、探偵事務所に「被害女性の居場所を調べてほしい」と依頼し、探偵事務所から所在確認の連絡を受けたことが判明しています。
小堤が依頼した探偵事務所は、調査会社に調査を依頼し、その調査会社の実質経営者が、事件前日の平成24年11月5日、被害女性の住所を聞きだすために、逗子市役所に電話をかけ、被害女性の夫を装い「家内の税金の支払いの請求がきているが、住所が間違っていないか?」などと質問し、応対した総務部納税課の職員に被害女性の住所情報を調べさせました。
被害女性は、市役所に「情報制限」が要請していたことから、パソコンからアクセスすると“閲覧時に警告表示”がされました。
しかし、閲覧制限はされておらず、閲覧自体はできる状態であり、「離席する場合はログアウトする」などのマニュアルが守られていなかったことがわかっています。
  被害女性は結婚して名字が変わり、小堤から逃れるために引っ越していましたが、平成23年6月、神奈川県警が脅迫罪の逮捕状を執行するときに、記載されている被害女性の結婚後の名字、転居先の市名などを読みあげていました。
したがって、小堤は、被害女性の結婚後の名字、正確な居住住所を知っており、殺人事件につながった可能性があります。
この事件の教訓を受け、のちのストーカー事件において、被害女性の名前を伏せて顔写真を添付した逮捕状を執行することで、被害者の実名を伏せた事例があります。
一方で、刑事訴訟法第256条で「公訴事実は、訴因を明示してこれを記載しなければならない。訴因を明示するには、できる限り日時、場所及び方法を以て罪となるべき事実を特定してこれをしなければならない。」と規定されていることから、「被害者名も含めて審理の対象を特定するのは刑事訴訟法の基本原則であり、刑事訴追するにあたって被害者の実名を被疑者に完全に伏せることは被疑者の防御権の行使が制限される。」という司法関係者・学者の意見もあり、起訴の段階では起訴状に被害者の実名を記載しないことで、被害者の実名を被疑者に知らせないことについて被疑者の防御権という問題が浮上しています。
この問題が注目されたあとの類似事件では、起訴状で被害者について実名を伏せるために「携帯のメールアドレスが○○@○○〇〇だった女」、「旧姓表記の被害女性」、「○○(量販店の店舗名)に勤務する××という名字の男性」といういい方で対応したケースもありました。
しかし、カタカナ表記では完全秘匿には至らないとして実名表記になったケースがあったり、強制わいせつ事件の被害児童の氏名を匿名にした起訴状に対して、東京地裁が検察に対して修正を命じて「母親の実名と続柄」という形で母親が実名表記になったケースがあったり、法廷で被害者を匿名にした起訴状を朗読したあとで、被害者の顔写真を被告に示すケースがあったりするなど、試行錯誤が続いています。
平成24年3月-4月に小堤が被害女性に送ったメールには、「婚約破棄により慰謝料要求」とする文言の連続メールが送られていました。
しかし、「ストーカー規制法」では、連続電話や連続FAXを「つきまとい行為」として禁止していますが、連続メールについては規定されていませんでした。
他のストーカー規制法の該当事項(「監視していると告げる行為」、「面会・交際・その他義務のないことをおこなうことの要求」、「乱暴な言動」、「名誉を害する事項を告げ、又はその知り得る状態に置くこと」、「性的羞恥心を害する事項を告げること等」)にも該当せず、メールの内容から脅迫罪等の他の罪状は対象とならなかったことから、警察は立件できないと判断しました。
事件当時、大阪府や秋田県など14府県では迷惑防止条例でメールの連続送信をつきまとい行為として禁止していましたが、小堤が居住する東京都や被害女性が居住する神奈川県を含めた33都道県は条例に禁止規定はありませんでした。
そこで、平成25年6月、メールの連続送信をつきまとい行為として禁止することを規定した「ストーカー規制法改正案」が成立し、同規定については同年7月から施行されることになりました。
また、小堤が平成24年4月に被害女性宛に繰り返しメールを送信していた時期は、懲役刑の執行猶予による保護観察中であり、保護観察中の「特別順守事項」として被害女性とはメールを含め一切の接触が禁じられていました。
しかし、保護観察所は、順守事項の内容を池永以外に知らせる制度がなく、警察、検察、被害女性は「池永は被害者とはメールを含めて一切の接触が禁止されている」といった“遵守事項”を知りませんでした。
そこで、平成25年4月から、ストーカー事案などで保護観察つき執行猶予判決を受けた加害者については、保護観察所と警察との間で順守事項や問題行動の情報共有をはじめることになりました。


-事例63(デートDV12、事件研究4:三鷹ストーカー殺人事件)-
  「三鷹ストーカー殺人事件」とは、平成25年10月8日に東京都三鷹市で発生した殺人事件で、高校生の鈴木沙彩さん(18歳、以下、女子生徒)が殺害された。
本事件が誘引となり、リベンジポルノの関連法案が成立することになりました。
  殺害された女子生徒は、英語コースに在籍し、成績はトップクラスで海外留学をしており、都内大学の推薦入試を受ける予定でした。
脚本家や現代美術家を親戚に持ち、母親も画家として個展を開くなど、芸術一家の環境に育っています。小学5年時に芸能事務所にスカウトされ、芸能活動をし、映画や民放ドラマにも出演していました。
一方、加害男性の池永チャーチルトーマスは、フィリピンのマニラ市出身で、日本人を父にフィリピン人を母に持つ混血児(ジャピーノ)で、1歳10ヶ月のとき、母とともに来日し、日本国籍を持っています。
平成23年10月ころ、関西在住の池永が、東京在住の女子生徒と実名制SNSを通じて知り合い、同年12月、遠距離恋愛で交際がはじまりました。
池永は、高校卒のフリーターでしたが、南米ハーフの関西有名私大学生と偽って交際していました。
  平成24年秋、女子生徒が海外留学するようになったころ、女子生徒は、池永に対し別れ話を持ちだしました。
平成25年春、女子生徒が留学を終えて帰国すると、池永は女子生徒に対し執拗に復縁を求めます。
松永は「写真を送れ、送らないと俺は死ぬ」、4月には「自分と付き合わないと、交際していた時の写真を(女子生徒の所属している芸能事務所などに)配る」といった内容をフェイスブックに書き込むなどしていたことがわかっています。
女子生徒は、池永からの連絡をしぶしぶ応じていましたが、同年6月以降、携帯電話を着信拒否し、連絡を完全に絶つようになりました。
復縁できないと思った池永は、同年夏以降、女子生徒の殺害計画を練りはじめ、同年9月27日、男性は居住していた関西から、女子生徒が住む東京へ高速バスで上京しました。
上京前、池永は、友人に「4-5年ほどアメリカに行く。その前に彼女(女子生徒)と話がしたい」と話しています。
同年9月28日、武蔵野市吉祥寺の雑貨チェーン店で凶器となるペティナイフ(刃渡り13センチ)を購入しました。
同年10月4日、池永が三鷹市の自宅のそばまできていることを知った女子生徒は、池永によるストーカー被害を在籍高校の担任教諭らに相談しました。
学校側は、近くの杉並警察署に電話で問合せると、署の担当者は、「女子生徒の自宅を管轄する三鷹警察署に相談するように」と指導しました。
同年10月8日午前、女子生徒は両親と三鷹署を訪れて「待ち伏せされている」などと池永のストーカー行為について相談しました。
三鷹署の警察官は、ストーカー規制法にもとづき、女子生徒が把握していた男性の携帯電話の電話番号に3回電話をかけましたが、池永は電話にでなかったことから、留守番電話に「連絡するように」とメッセージを残しました。
その後、女子生徒は1人で高校に登校し、授業が終わったあと、1人で帰宅しました。両親は仕事等の用事で外出していて、自宅には女子生徒ひとりでした。
  同日昼過ぎ、池永は既に女子生徒宅2階の無施錠の窓から侵入し、1階の女子生徒の部屋のクローゼットに隠れ、殺害の機会をうかがっていました。
池永はクローゼットに隠れながら殺人事件まで、友人に無料通信アプリを通じて女子生徒宅の電話番号とみられる番号を告げ、「室内に誰かいないか確認する電話をかけるように」と依頼していました。
一方で、「ふんぎりつかんからストーカーじみたことをしてる」、「そのつもりなかったけどなんやかんやで押し入れの中。出たいけど出られへん」、「三時間前のおれしね」、「あー無事にかえりたいよぅ」、「罪だわ」と殺害に葛藤があるかのようなことばを送信しています。
同日16時53分、池永は、女子生徒の部屋で潜んでいたクローゼットからでて、ペティナイフを持って女子生徒を襲撃しました。
池永は、女子生徒宅の外の道路にまで逃げた女子生徒を追いかけ、首や腹に11カ所の刺し傷や切り傷を負わせました(致命傷は3ヶ所ありました)。
同日16時55分、路上で倒れている女子生徒が発見され、110番通報がされました。
同日18時30分、池永(21歳)はズボンに血痕があったことから警察官に職務質問され、事件への関与を認めたことから、殺人未遂罪で緊急逮捕されました。
この間、池永は、襲撃から逮捕されるまで、友人や母親に携帯電話で殺害を実行したことを告げていました。
女子生徒は帰宅後、16時51分、三鷹署の署員と電話で話し、無事帰宅したことを伝えていましたが、電話を切った直後に事件は起きました。
逗子ストーカー殺人事件を教訓に対策を強化した「改正ストーカー規制法」が、事件5日前の同年10月3日から施行された矢先のストーカー殺人でした。同年10月11日、池永の供述により、路上に捨てられた凶器であるペティナイフが発見されました。
  池永は、同年7月22日、米国のアダルト動画・静止画共有サービスサイトで女子生徒のニックネームにちなんだハンドルネームで自分の投稿スペースを作成し、同年10月2日-6日にかけて交際中にプライベートに撮影された女子生徒にまつわる女子生徒の性的な画像や動画をアップロードしました。
さらに、松永は10月5日-8日の殺害直後に逮捕されるまで、短文投稿サイトや巨大掲示板の復讐を扱うスレッド、地域掲示板の三鷹市に絡むスレッドで、三鷹で怨恨殺人を示唆するコメントなど被害者である女子生徒との関連を示唆しながら、自分がアップロードした米国のアダルト動画・静止画共有サービスサイトのURLを投稿しました。
殺人事件がメディアで大きく報道されるにつれて、男性のネット投稿に気づいたネット住民によって女子生徒の性的な画像や動画がダウンロードされ拡散します。
女子生徒の性的な画像や動画が拡散していることを大手メディアでは当初は報道しませんでしたが、やがて一般紙でも本事件を報道するときに、本件をリベンジポルノであるとして紹介するようになりました。
以降、リベンジポルノが社会問題として認識され、国会でもリベンジポルノが問題視され議論されるようになり、平成26年11月19日、リベンジポルノへの罰則を盛り込んだ「リベンジポルノ被害防止法(私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律)」が成立しました。
  平成25年10月29日、松永は殺人罪、銃刀法違反、住居侵入罪で起訴され、平成26年7月22日、東京地方裁判所立川支部で裁判員裁判がおこなわれました。裁判員は6人中5人が男性という構成でした。検察は、「男性が高卒なのに関西有名私大学生と終始偽って交際し、女子生徒と同時期に別の女性とも二股交際し、女子生徒との約1年間の交際を経て、女子高校から別れ話を持ち出されると、執拗に「裸の画像を流出させる」と脅しはじめ、復縁が不可能と知った男性は殺害計画を決意し、犯行に備えてジムに通って体を鍛え、自己を鼓舞するかのような犯行メモを残していた。」ことを提示しました。
松永の母親は「平成25年3月に女子生徒から電話で「(男性に)手錠をかけられ、レイプされた」と訴えられた。」、「こんな罪を犯したんだ」と殺害直後の遺体画像を私に見せ、「リベンジポルノということばは俺が広めた」と自慢げにいっていた。」と証言しました。
女子生徒の父親が被害者参加制度で法廷に出廷し、「(獄中で取材等を受けており)とても自己顕示欲が強くて達成感すら感じている。反省の気持ちも感じられない。」、「事件当日の午前中に娘から仮に自分が殺された場合について聞かれ「どんな方法を使ってでも敵をとる」と話した。」、「結婚13年目にできた娘で私たちの希望で光だった。(娘の死で)希望が消え、私たち夫婦の将来も消し飛ばされた。」と述べました。
松永は被告人質問で、事件について「彼女を失った苦痛から逃れるために殺害を考えた。」、「脅してまで関係を続けるのはおかしいと思い、忘れようとしたが(気持ちが)積もっていった。」、「(殺害について)心の整理ができておらず混乱しているが、後悔している。」、「(遺族が)苦しんでいると想像できるが共感はできない。謝罪の気持ちはまだ抱けていない。」、「(性的な画像や動画の流出・拡散は)彼女と交際したことを大衆にひけらかしたかった。つき合った事実を半永久的に残したかった。かなり話題になると思った。」、「彼女の尊厳を傷つけたいという気持ちもあった。」と述べました。
また、松永と松永の母親の証言により、「貧困生活の中、狭い部屋の隣室で母親が交際相手と性行為をするあえぎ声を聞き、母親の交際相手から過酷な虐待を受け、母親が何日も家に帰ってこないことが日常茶飯事で近所のコンビニで消費期限の切れた弁当を無心する生活を送り、母親も交際相手から暴力を振るわれていた。」ことなど、児童虐待、ネグレクト、DVの三重苦に苦しめられていた松永の成育歴が法廷で語られました。
同年7月29日、検察は論告で「逃げる女子生徒を追いかけ、路上でまたがり多数回刺しており、極めて悪質。(性的な画像や動画の流出・拡散は)殺害だけでは飽き足らず、女子生徒を侮辱し名誉を汚した。犯行は執拗、残忍で大胆。被害者に落ち度はなく経緯に酌量の余地はない」と述べ、無期懲役を求刑しました。女子生徒の母親は「被告は娘の未来、夢、希望、尊厳も全て冒涜した。二度とこのような事件があってはならない。極刑で償うべきだ。」と述べました。
弁護側は、最終弁論で「殺意は強固ではなく、幼少期から虐待を受けるなどした生育歴が心理的負担になった。」として、「懲役15年が相当」と主張していました。
同年8月1日、東京地方裁判所立川支部は「強固な殺意に基づく執拗で残忍な犯行。高い計画性も認められる。」、「(性的な画像や動画の流出・拡散は)極めて卑劣」、「被害者に落ち度はなく、犯行動機はあまりに一方的で身勝手」、「成育歴の影響が背景にあるとはいえ、反省を深めていると認められず、被害者や遺族に謝罪の言葉すら述べていない。」とした一方で、「若くて更生可能性がある。」等として、松永に対し、有期刑の上限である「懲役22年」の判決を下しました。
女子生徒の両親は、懲役22年の判決について「失望した。なんでこんなに軽いのか、まったく理解できない。(判決は)リベンジポルノの犯罪の本質、被害の大きさをまったく理解していない。」とのコメントをだしました。
 松永は、同年8月4日、東京地方裁判所立川支部の裁判員裁判判決を不服とし、控訴しました。松永の代理人弁護士は、控訴の理由を「過酷な成育歴が十分に考慮されていない。」と説明しています。
平成27年2月6日、東京高等裁判所は「(公判前整理手続きにおいて、リベンジポルノに関する)主張・立証をおこなうことの当否、範囲や程度が議論された形跡は見当たらず、裁判官による論点整理や審理の進め方に誤りがある。」として、論点を整理した上で改めて裁判員裁判で量刑を検討することが必要として、地裁に差し戻す判決を下しました。
同年8月7日、松永は児童ポルノ禁止法違反(児童ポルノ公然陳列罪)とわいせつ電磁的記録媒体陳列罪で追起訴されました。
これらの罪状で、当初起訴されなかったのは両親が被害者の名誉が傷つくことを懸念したためでしたが、東京高等裁判所の判決を受け、画像・動画投稿行為が罪に反映されずに量刑が軽くなる可能性がでてきたことから、同年7月、刑事告訴をしたことを受けてのことでした。東京地方裁判所立川支部は、期日間整理手続を開き、追起訴した児童買春・ポルノ禁止法違反等を殺人罪等と併合して審理することを決定しました。


** ①-a)DV・デートDV・性被害に関する相談、-b)家庭裁判所への「婚姻破綻の原因はDVにある」とする離婚調停の申立て、地方裁判所への保護命令の申立て、警察への被害届の提出に向けての支援依頼、②DV被害の状況をまとめるためのWord文書フォーマット(DV・夫の暴力、子への虐待チェック・ワークシート;「Ⅲ-3.暴力の影響を「事例」で学ぶ。(Ⅰ)添付資料:ワークシート」の中の「DV・夫の暴力、子への虐待チェック・ワークシート」)の送付依頼、③カテゴリー〔Ⅲ1-9〕掲載『暴力の影響を「事例」で学ぶ。虐待とDVの早期発見・支援。母と子どもが暴力から脱するための手引き(3部5章42節)*』のPDFファイル送付依頼については、カテゴリー〔Ⅰ-I〕の中の「<DV・性暴力被害相談。メール・電話、面談>..問合せ・相談、サポートの依頼。最初に確認ください。http://629143marine.blog118.fc2.com/blog-entry-501.html」をご確認いただければと思います。


2016.3/4 ブログ再編成(第3次改訂)に伴い、主記事として掲載
2017.4/16 「第1章(プロローグ(1-4)・Ⅰ(5-7)」の「改訂2版」を差し替え掲載




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