あなたは、夫の暴力・DVを容認していませんか? 暴力のある家庭環境で暮らす子どもの心を守ることを忘れていませんか?

[Ⅲ-6]Ⅲ.学校現場で、児童虐待・DV事案とどうかかわるか

22.児童虐待・DV事件、保護者からの苦情の捉え方

 
 23.援助者(支援者)・教職員のメンタルケア 21.通告後の児童への対応。子どものケア、回復のプロセス
* 現在、この「手引き」は、第3次改訂の編集をおこなっています。編集終了後、差し替えていきます。

第2部
Ⅲ.学校現場で、児童虐待・面前DVとどうかかわるか
・事例208-209

エピローグ
・事例210(事件研究1:厚木男児監禁遺棄致死事件(平成26年5月))
・事例211(事件研究2:江戸川区岡本海渡くん事件(平成22年1月))
・事例212(事件研究3:狭山市羽月ちゃん事件(平成28年1月))
・事例213

16.児童虐待の定義
(1) 児童虐待の定義
(2) 虐待を疑うということ
  ・事例214-219
・代理ミュンヒハウゼン症候群
(事例220-221)
(3) 児童虐待への対応に関する法律
(4) 教育現場で、児童虐待の早期発見を妨げる心のブレーキ
(5) 児童虐待を見逃さないために
(6) 早期発見のためのチェックリスト
 ・保育園用
  ・学校用
(7) 虐待している保護者の特徴
 <虐待が推察される親の行動>
  <その他の虐待や放置をする親にしばしば見られる行動様式や問題点>
 <虐待を疑ったときの保護者に対する接し方>
・保護者が被虐者であるとき、境界性人格障害の特性を理解しておくことが役立つ

17.初期対応としての緊急性の判断
(1) 学校検診(保健室)における虐待への気づき
 <学校健診(保健室)における虐待対応フローチャート>
(2) 身体的虐待を疑う
 <身体的虐待を疑ったときの対応>
 <放射線診断の方法>
  <受傷機転による骨折の形態>
  <部位別特徴>
(3) 虐待による熱傷の所見
  <虐待による熱傷の特徴>
 <熱源別特徴>
(4) ネグレクト(neglect)
 <ネグレクトに気づくために>
(5) 性的虐待が気になるとき
  <児童期性的虐待の基準(ハーマン著「父-娘 近親姦」抜粋)>

18.性的虐待への初期対応
(1) 発見の難しさ
(2) 適切な気づきのための留意点
 <子どもの性暴力被害の兆候:共通して示す症状や行動>
(3) 児童の訴えを聴くとき
(4) 児童の訴えを聴くときの留意点
(5) 通告したら
(6) 性的虐待・家庭内性暴力の通告にあたる児童の告白内容
(7) より本質的なこと:性的虐待、家庭内性暴力の予防について

19.子どもの心理的援助-トラウマ反応について学ぶ-
(1) トラウマ(心的外傷)の3つの反応(制御反応)
(2) 虐待によるトラウマの接近
(3) トラウマからの回復

20.児童相談所への「通告」と連携
(1) 児童虐待防止法第6条にもとづく「通告」がはじまり
  <児童相談所等への通告についての留意点>
 <通告の内容>
  <通報後、保護者の抗議>
(2) 身体的暴力のあるDV環境下では、6割の子どもが身体的暴力を受けている
 <できることからはじめよう>
(3) 学校でできること
 <児童が一時保護されたら>
  <児童が家庭復帰するとき援助>
(4) 校内連携
(5) 関係機関との連携
 <児童相談所での相談の流れ>

21.通告後の児童への対応。子どものケア、回復のプロセス
(1) 児童への対応
 <児童への日々のかかわり方>
 <児童への質問法>
(2) 混乱した行動への対応
(3) 子どもの心理的なケア
(4) ASDとPTSDの回復への支援の原則
(5) 心の回復プログラム
(6) ケアする人に求められること
(7) 虐待を受けてきた子どもへの対応
  ・最低限の規範としてのルールの明示は、子どもの生活の見通しを助ける
(8) 学校園での周囲の子どもへの対応
  ・正確な記録を残すポイント

22.児童虐待・DV事件、保護者の苦情の捉え方
(1) 大切な初期対応
  ・記入例
 <子どもからの聴きとりの留意点>
  ・謝罪例
(2) その後の組織的な対応 -学校として保護者等の声と正対するために-
  <かかわり方の難しい事例のパターン>
  ・対応例1-2
 <学校内でおきた事故に対する補償>
  ・対応例3-5
(3) 保護者とのかかわり方
 <基本的対応>
  <家庭との対応の目標>
 <保護者の虐待への反応類型>
  <保護者との面談、家庭訪問のポイント>
(4) 一時保護の決定、保護命令の発令事案への学校の対応-基本的心得-
(5) 学校でのDV加害者からの追及と対応のあり方
 ・対応例6-11
 <回答を拒否する法的根拠>
 <最高裁判決>
 <教職員・援助者に対する妨害行為>

23.援助者(支援者)・教職員のメンタルケア
(1) 援助者(支援者)・教職員の傷つき
(2) 援助者(支援者)・教職員が傷ついたとき、心の手当てのあり方
  ・子どものへの応用

第2部の結びとして
  ・感情耐性
  ・援助者・支援者の感情耐性



「Ⅰ-5-(6)被害者に見られる傾向」でとりあげた「事例68(分析研究6)」では、「(長女Yが)小学校2年生のとき、同級生の子どもが振ったカバンがあたったことで、父親DがRを連れて小学校に怒鳴り込んでいます。Dは、こうした事態を招いた責任を糾弾するとき、学級担任の出身大学を訊き、「程度が低い」と徹底的に貶める発言を繰り返したことから、校長、副校長にモンスターペアレントと認識されることになります。」と記していますが、もうひとりの保護者(児童の母親)であるDV被害者の妻Rは、その後の状況について、「Dが学校の行事に顔を見せると、校長や副校長が挨拶にくる。うちは特別だから。」と述べています。
長女Yが小学校4年生に進級し、夏休みにはいる前の学級担任と保護者Rとの面談で、学級担任は「お父さんは厳しい人なんですね。いま、塾でいっぱいいっぱいみたいです。塾のある日の5-6時間目になると態度でわかる。無理しないで、勉強にガチガチにしないで1つ減らすことはできませんか?」となげかけるに留まっています。
児童Yは、学級担任に「塾が多くてツラい。ドリルを間違えると、父親Dに叩かれたり、怒鳴られたりすることもある。」と伝えている中で、学級担任は保護者Rに対し、保護者Dのことを「厳しい人なんですね」と表現しています。
しかも、事例68で「小学校では、思い通りにコトが運ばないと感情をコントロールすることができず癇癪をおこしたり、拗ねたりすることから、気持ちが落ち着くまで、担任から席を離れているようにと指導を受けていました(モンスターペアレントと認識されていたこともあり、母親に対し、学校側が安全基地を用意していることは知らされていませんでした)。」と記しているとおり、この時点でも、児童Yが、学校でどのように過ごしているのか、学級運営としてどのように対応しているのかといった情報を保護者に伏せています。
Rがこの事実を知ったのは、冬休み明けの1月、学校行事の手伝いで教室に行ったときでした。
それは、娘Yが自分の思いどおりにならずキレて騒ぎ、喚いている姿、そのときの同級生の冷ややかな雰囲気、そして、学級担任も対応をまのあたりにしたときに、学級担任から、「今日が特別ではなく、よくあることです。」として説明を受けたのです。
ここには、学校側が、児童Yの保護者Dを刺激したくない、怒らせたくない、トラブルにしたくないとの意図が働いていることは明らかです。
一方の保護者Rにとって、長女Yが教室で見せていた行動は、家庭では頻繁に見られることで、幼稚園でも指摘されていたことでしたが、小学校入学以降は、学級担任から指摘されたことがなかったことから、夫DによるDVに苦しんでいる保護者Rは、「学校ではちゃんとしていられている」と認識し、まったく気に留めていませんでした。
学級担任との面談がおこなわれた日の夜、保護者Rが、夫Dに学級担任からの話を伝えると、Dは、長女Yに「じゃ、止めちまえ!」、「どうせ、成績が悪いからやりたくないんだろう。バカ!」と罵声を浴びせ、太ももを蹴りました。長女Yは「バカといわれた。成績が悪いといわれた。」と部屋で泣いていましたが、しばらくすると、父親のところに行き、「ねえパパ、やっぱり勉強しないとダメだよね」と媚びると、「そうだろ。止めるの不安だろ! 努力しない子には、将来なにも援助しないからな!」と、父親のいうことをきかないと進学さえできなくなることを思い知らせます。
母親Rが、長女Yに「止めていいんだよ。成績が悪くなったら、ママを責めたらいいんだから。」となげかけても、「パパは勉強しないと将来援助しないんだって・・。そういっていた。」と話しながら眠りにつきました。
そして、翌日長女Yは、学級担任に「やっぱりパパのことがあるから止められない。」と応えています。
長女Yは心が壊れかけていても、父親Dに対し“従順ないい子”を必死に演じ続けようとしています。
そして、長女Yは、翌年の2月になると、同級生から「いじめられている」と訴え、いじめられている自作自演を繰り返すようになります。
これまでは、母親と学級担任の注目を集め、特別扱いをしてもらうための策を演じてきていましたが、周りの子にどう思われているのか、嫌われていないか強い不安感と恐怖心がいっそうひどくなり、気を惹くためのアクションと被害妄想の区別がつかなくなっていったものと思われます。
このケースは、学校として、モンスターペアレントと認識した保護者を刺激したくない、怒らせたくない、トラブルにしたくないとの思いがあるために、児童虐待に気づきながら見て見ぬふりをし続けた結果、DV被害に苦しむ保護者との事実認識に齟齬が生まれているうちに、児童が次々と問題行動をおこしていくようになる典型的な事例です。
学校のこうした児童への対応には、保護者に対する恐怖心が影響しているわけです。
その保護者に対する恐怖心が、継父からの暴行による虐待死を防ぐことができなかったひとつの要因とされている事件が、事例2の「江戸川区岡本海渡くん事件」です。
事例211で、「海渡くんが死亡したあとの学校側の会見で、校長は「虐待があるとは受けとめていなかった。」、「暴力をふるわないと約束していた。子どもがもし、実際にそういうことにあっていたのであれば、担任に話をしてほしかった。」と釈明しています。
しかし、海渡くんの学級担任(女性)と校長(女性)は、父親と面談をしたときに、父親から大声で怒鳴られ、激しく恫喝されています。
この恐怖体験が、海渡くんの保護者、とくに父親と再度話合うことに躊躇させたのではないかと指摘されています。」と記しているように、夫婦間にDVがあり、親子間に虐待がある家庭(保護者)と学校との間には、微妙な緊張関係ができあがっています。
つまり、児童虐待やDVがおこなわれていると察していながら、保護者とトラブルをおこしたくないとの思いで積極的な介入を躊躇してしまう要因になるということです。
継父は、小学校の校長や学級担任を怯えさせ、手だしできないほどの絶大な力を持っているとまのあたりにさせられた海渡くんが、校長が釈明したように「担任に話す」ことができるわけがないのです。
2つの事例からわかることは、教職員の対応力不足と組織力、情報の共有化の欠如、さらに、相談者の不在に原因があること以前に、多くのいじめ事件で指摘されることが多い“見て見ぬふり”をしてことをすまそうとする学校の体質そのものに問題があることになります。
一方で、学校関係者が「ひとりの保護者が数人の教職員を困らせることがある。」とよく訴えるように、学校と保護者との関係がこじれてしまう問題が存在していることも事実です。
学校と保護者との関係がこじれてしまう原因のひとつが、苦情に対する対応力に差があることです。
ここでは、教職員の保護者との対応力の差にフォーカスしていきたいと思います。
対応力の差は、相手(保護者)の話をうまく聴くことができるか、できないかに表れます。
その原因として、教職員が「ことばを発する」ことが主であること、つまり、“先生”として児童に説明したり、指示をだしたり、説得したりすることが多い職業的な特徴が、保護者の話をうまく聴くことができないことが指摘されています。
それは、教師としての経験が長ければ長いほど、自分のやり方や進め方が固定化してしまいやすく、保護者の話に耳を傾けること、そして、自分の意見をとり下げることがあまり得意ではない傾向が表れます。
“先生業”といわれる議員、医師や教師(大学から小学校まで)、公務員、そして、経営者などは、話を聴くという姿勢という点で、経験が仇となりやすい職業的な特徴があるということです。
その結果、教職員は、保護者の声を聴くとき、うまくことばを使って保護者に「納得してもらおう」とすることができず、力技で「説得しよう」と試み、それが失敗に終わると、それは教職員のスキルの問題として認識されてしまっているのです。
重要なことは、説得するアプローチ(上下関係)と、納得してもらうアプローチ(対等関係)は、まったく別であることを理解することが必要です。


(1)大切な初期対応
① 初期対応の心構え
保護者のどのような声であっても、学校の接し方によって、その流れが、よくも悪くも決まってしまうことになります。
重要なことは、先入観で保護者を見たり、勝手に決めつけたりすることなく、そのときの保護者の声に耳を傾け、その背景にある事情や心理を把握することです。
素朴な疑問や相談であっても、学校の対応が不適切なものだったり、誤解されかねないものだったりすると、学校に対する不満や不信感が生じ、無理難題や過剰な要求に発展してしまうことがあります。
逆に、最初は不満や苦情であったことが、よく話を聴いて、ていねいに対応していると、お互いの誤解が解け、相互理解が深まり、学校の強力な味方になってくれることもあります。
教職員の職務は、感情労働のひとつといわれています*-24。
したがって、教職員は、保護者の気持ちを聴きとろうという姿勢がとても大切です。
*-24 感情労働(Emotional Labour)とは、アメリカの社会学者ホックシールドが示した概念で、身体や知識だけでなく感情の移入を必要とする労働として、航空機の客室乗務員やホテルなどの接客業、医師や看護師、弁護士、教師などをあげています。

② 話の聴き方
a) 受容・傾聴・共感がすべての基本
基本は、保護者の立場に立って、話をよく聴くことです。
「保護者がいまこのようにしているのには、無理もないやむにやまれないなにかの事情がある」と推察し、真意はなんなのか、伝えたいことはなんなのか、また、望んでいる(期待している)ことはなんなのかを聴きとろうとすることで、背景に隠れていることが見えやすくなります。
このアプローチをていねいにおこなうことで、その後の展開が大きく変わります。
重要なことは、自分だったらどのように話を聴いてほしいだろうと推察してみることです。
誰でも、否定されたり、批判されたり、話を遮られたり、反論されたりすることなく、話を聴いてもらえて、伝えたい気持ちを十分に受け止めてもらえることで、「わかってもらえた。」という気持ちになることができます。
保護者が、この「私のことをわかってくれている」と感じることが、教職員の話に耳を傾けてくれる条件となる“信頼”“信用”に不可欠なのです。そして、話を聴いてもらうことをとおして、保護者自身が自分の気持ちをまとめ、振り返ることもしやすくなります。
注意しなければならないことは、事実を確認せずに同調してしまうことです。なぜなら、そのことを認めたことになるからです。
忙しく話を早く切りあげたいとの思いがあると、目先の利益に手がでてしまう、つまり、同調してことを早く終わらせたい思いが強くなり、事実確認を疎かにしてしまいます。その結果として、後にトラブルとなり、膨大な時間と労力を費やさなければならなくなります。
b) 話の内容を整理、確認、言語化する
誰も好き好んで怒りや敵意をあらわにすることはありません。
しかし、怒りや敵意を表現せざるを得ない背景には、なんらかの事情が潜んでいます。
それは、子どものためにいまの状況をよりよいものに変化させたいなどの強い思いがあったりします。
したがって、話を聴きながら整理、確認して、その思いを読みとることが大切です。
このときのポイントは、事実と意見(思い、期待、推測)を分けて整理することです。
例えば、保護者が「うちの子どもが学校帰りにケガを負った。」という話は“事実”ですが、そこに、「きっと、誰かにいじめられたに違いない。」という主張には“推測”が入っていることから、どのようなケガを負ったのかのケガの“程度”を確認することと、どのようにしてケガを負ったのか“状況”を確認することが必要です。
また、「加害児童とその保護者からの謝罪を求めたい。」と“要望(期待)”ですが、この要望に、「加害児童のクラス替え」、「学級担任の交替」を強く要求することが加わると“無理難題”ということになります。
保護者の苦情に対して回答するときには、これらの要素をきちんと分けて、学校として、事実関係を把握できていること、できていないことを伝え、不確かな部分を埋めることができ、相互理解ができたところで、学校側として対応可能なこと、不可能なことを説明していきます。客観的な事実を把握できていないときに、苦情を無条件に受け入れてしまったり、いい逃れる発言に終始してしまったりすることは、保護者に不安と不信感を抱かせ、問題を大きく、根深いものにしてしまうことになります。
また、保護者の考えと子どもの考えが違うことは多々あります。
注意が必要なことは、暴力のある家庭環境で育ってきている保護者は、幼児のように自己と他の境界線があいまいなままでいることから、子どもの思いや考えや私と同じであると認識しやすいということです。
ただし、保護者が「自分は暴力のある家庭環境で育ってきました」と生い立ちを話してくれるわけではありませんので、「交流分析(TA;Transactional Analysis)」の7つの分野のうちのひとつ、「対話分析」では、成長段階における自我状態によって、社会のルールを守ろうとしたり、相手をほめたり労わったりことばを多く発する人、状況を判断することばを多く発する人、天真爛漫にふるまったり、頼ったりすることばを多く発する人など、心の成り立ちと発することばには関係性があることから、保護者の発することばや非言語としてのジェスチャーによって保護者の状態を推察することができ、保護者の気持ちに沿った対応ができやすくなります。
こうした技能を身につけることで、保護者の心情に寄り添い、保護者の思い(感情、期待)をじっくり感じとることができやすくなります。
保護者の心情がわかってくると、「・・して欲しいとお考えなのですね。」、「~ということが腹立たしくかんじるのですね。」などと、保護者の気持ちをことばにして伝えることができるようになります。

(交流分析)
エリック・バーンが考案した「交流分析TA:Transactional Analysis」をもとに、ジョン.M.デュセイが考案した自己分析法(性格分析法)に「エゴグラム(egogram)」があります。
それは、人の性格や人とのかかわり方などの人の心を自我の発達(親とのかかわり方)に準じて「5つの領域」に分類し、グラフにして表すものです。
交流分析は、人と人の交流を自我状態(5つの心のどれを主に使っているか)に分解して考え、やりとりを分析するものです。
バーンの交流分析では、“親の心”P(Parent)、“合理的な大人の心”のA(Adult)、“子どもの心”のC(Child)の3要素を用いていますが、デュセイはPをさらに“厳格な親の心”であるCP(Critical Parent)と“保護的な親の心”であるNP(Nurturing Parent)に、Cをさらに“自由な子どもの心”であるFC(Free Child)と“従順な子どもの心”であるAC(Adapted Child)に細分化し5つの要素で分析しています。
この5つの心の割合をグラフで表すと、高低とバランスが読みとることができるわけです。
その高低のバランスが、その人の傾向、特徴を表すもの(エゴグラム)と考えます(エゴグラムは15歳以上に適用します)。
つまり、エゴグラムは人が持っている5つの心(自我=エゴ(ego))の割合(エネルギーの強弱)から、自分や他人あるいは生き方に対する人それぞれの基本姿勢と行動パターンが判るとしています。
エゴグラムを参考にしながら、他者とのコミュニケーションの特徴や問題を分析する「やり取り分析(交流分析)」をしながら、実際の対人関係の問題(悩み)を改善していくに役立てることができます。
交流分析での「自我状態」は、精神分析の「自我構造論」とも対照させることができ、「CP=超自我(道徳命令)・A=自我(現実適応)・FC=エス(イド,本能的欲求)」と置き換えて解釈することができます。
 そこで、医療の現場では心療内科、精神・神経科などで患者の治療方針の方向づけや、性格の偏り、問題・障害や適応の程度を知るために活用しています。
また、企業の現場では、健康維持・メンタルヘルスの改善、リーダーシップ開発・マネージメント開発に活用され、教育の現場では、子どもの性格の特徴を知ることによって、生徒指導・進路指導・職業指導などに活用しています。
<5つの要素>
<P>(Parent:親の心)..無意識のうちに両親(または親の代わりとなるもの)などの影響を受けて形成され、模倣をして行動し、思考するとする。
 ・CP(Critical Parent:厳格な親の心)..信念に従って行動しようとする父親のような心を表す(価値観、道徳的、批判的、偏見的な面を持つ)
 ・NP(Nurturing Parent:保護的な親の心)..思いやりをもって他者のために世話をする母親のような心を表す(保護的、養育的、優しく、受容的な面を持つ)
<A>(Adult:合理的な大人の心)..事実にもとづいて検討・判断する大人の心を表す。「今、ここ」でどのようなことがおきているのかについて感じ、冷静で、客観的に思考する。
<C>(Child:子どもの心)..子どものころにどのようにふるまったていたかと同じように、自由に行動し、感じ、思考する。
 ・FC(Free Child:自由な子どもの心)..自分の欲求・感情に従って行動する、明るく無邪気で自由な子どもの心を表す(明るく、天真爛漫、自己中心的、ワガママな面を持つ)
 ・AC(Adapted Child:従順な子どもの心)..自分の感情を抑えて、他人によく思われようとする従順な子どもの心を表す(従順、素直、消極的、依存的な面を持つ)
       P(親の心)    A(大人の心) C(子どもの心)
        |          |        |
5つの領域 CP(厳格な親の心) A(大人の心) FC(自由な子どもの心)
      NP(保護的な親の心)      AC(従順なな子どもの心)
この5つの心の割合の高低とバランスが、その人の傾向、特徴として考えることができます。
・CP(Critical Parent) 高いと、支配的・ルール重視・批判的。低いと、友好的・ルーズになりがち。
・NP(Nurturing Parent) 高いと、献身的・面倒見が良い・お節介。低いと、閉鎖的・人のことに無関心。
・A(Adult) 高いと、合理的・理性的・打算的。低いと、感情的・非合理的。
・FC(Free Child) 高いと、解放的・無邪気・創造的・享楽的。低いと、失感情的・楽しめない。
・AC(Adapted Child) 高いと、妥協的・世間体を気にする・行儀が良い。低いと、非協調的・権力に屈しない・人目を気にしない。
“NP(擁護的な親)”は母性的な保護や優しい共感に相当するものであり、“AC(従順な子ども)”は権威や社会規範、集団行動などへの消極的な適応性に相当するものですが、“CP(批判的な親)”と“AC(従順な子ども)”が強くなり過ぎると、「感情・欲求の過剰抑圧」によって環境への不適応がおこりやすくなってしまいます。
交流分析では、“C(子ども)”の中に存在する現実的な判断をする自我状態として“小さな教授(little professor)”というものを仮定しています。
“小さな教授”というのは、“Cの中にあるAに近い認識力・判断力・理解力”のことです。
子どもながらに周囲の状況や人間関係を観察しながら、自分がどのようにふるまえばよいのかを考えようとする自我状態です。
この“小さな教授”の自我状態は、幼児期前期あたりに発生すると推測されています。
小さな教授は知的好奇心が旺盛であり、情緒的刺激(温かい感情反応)を求めながら直感的思考や創造的活動を志向するという特徴があります。
“小さな教授”にもとづく現実的な判断(生き方の選択)によって、子ども時代は「FC(自由な子ども)」を働かせて、周囲を気にせず、自由奔放に楽しく遊んだり、「AC(従順な子ども)」を働かせて、目上の立場の大人や社会のルールに大人しく従ったりすることになります。
「エゴグラム」の解釈を少し超えますが、暴力のある家庭環境に暮らさざるとえなかった子どもたち(親の過剰な期待に必死に応えようとしてきた“親にとって都合のいい子”“親にとって手のかからない子”を含む)は、この“小さな教授”の自我状態としての「AC(従順な子ども)」を顕著な特徴として抱えています。
この「AC(従順な子ども)」と「CP(批判的な親)」の特徴にフォーカスして、DV被害者を注視すると、最初、「私は親から暴力を受けてはいない。」と話していたのが、「父親は厳しかった。」と話しはじめ、やがて、「父親に逆らうことはできなかった。」とか、「父親に自分の考えをいうことはできなかった。」と表現を変えはじめることがあります。
そして、「親の期待に応えようと一生懸命に頑張ってきた“いい子”だったが、結局、どんなに頑張っても親には認められなかった。」とか、「私は親の手を煩わせないために、親にとって手のかからない“いい子”だったと思う。」と話すようになります。
こうした「AC(従順ないい子)」の特性を抱えている人たちの多くに、共依存の特徴やアダルトチルドレン(AC)を抱えていることを読みとることができます。
そして、多くのDV被害者にこの特徴をみいだすことができます。
DV被害者の方たちのサポートに携わる人たちは、“従順ないい子”でなければならなかったのが親の暴力(過剰な期待感から厳しくするなどを含める)の影響なのか、それとも交際している相手や婚姻関係のある配偶者からの暴力の影響なのか、その見極めが大切となります。
幼児期をどう過ごしたかによって、うつ病の発症率が変わることや、虐待やいじめを受けて育った人たちが、成人後に、暴力に限らずトラウマ体験によるPTSDを発症しやすく、しかも症状が重くでる事実から、DV被害者の状態を正しく読みとることがなによりも重要になります。
なぜなら、初期介入においてこの見極めを誤ると、発症したPTSDの症状からの回復が大きく遅れてしまうことになるからです。
DV被害者を援助する者は、初期介入にあたって見極めを誤ってはならないのです。

③ 記録のとり方。事実の記録は客観的に
話を聴きながら、客観的に事実関係を記録していきます。子ども同士のトラブル等では、その後、子ども本人(当事者)から聴きとり、周囲の関係する子どもからも確認することが重要です。
事実確認があいまいになってしまうと、保護者や学校側の主観が混じってしまい、その後の対応を誤る怖れがでてきます。

-記入例-
・「保護者が怒りのあまり、ものすごい力で校長に向けて椅子を投げつけた。」
この記録には、「怒りのあまり」、「ものすごい力で」と記載者の主観が入り、事実は「保護者が」、「校長に向けて椅子を投げつけた。」という部分です。
事実関係として足りない情報は、どのような状況で椅子を投げつけたのかということと、椅子を校長に向けて投げつけた結果どうなったのかということです。
・「保護者が肩の高さまで椅子を持ちあげて投げ下ろしたため、校長の足にあたった。椅子の足の一本が曲がった。翌日、校長の足は腫れ、赤紫に痣になっていたので写真に撮り、病院で診断書をもらった。」
保護者の身体的な暴行、器物を損壊した破壊行為について、行使するかどうかの判断は別として、いつでも(公訴期間内で)、警察に被害届けを提出できるように準備を怠らないことも大切なことです。

<子どもからの聴きとりの留意点>
子ども同士のトラブルをきっかけとして、学校が双方の保護者の間に挟まれてなかなか解決できずに苦労することがあります。
子ども同士の人間関係は回復できる状況があるにもかかわらず、保護者と学校とで当事者の子ども不在のやりとりが続いていることも多々あります。
例えば、「ケガをさせられた」、「いじめがあった」といった訴えに対して、最初の事実確認をていねいにおこなっていないと、被害を訴えている保護者からも、加害者とされた側の保護者からも、「納得できない!」との憤りを招いてしまう事態に発展させてしまいます。
重要なことは、最初の聴きとりです。
なぜなら、日を変えて繰り返し同じことを尋ねると、周囲からの情報が入り混じり、暗示性や誘導などネガティブな問題が発生しやすくなるからです。
その結果、子どもの情報に混濁がおこり、なにが真実なのか確認しようがなくなってしまうのです。
また、暴力のある家庭環境に暮らしている子どもは、同じことを繰り返し訊かれたりすると、この応えは期待された回答ではなかったと感じとり、聴きとり者が期待する回答を述べてしまうことになったり、「今日は帰宅させ明日ゆっくり確認しよう」と判断して保護者のもとにしてしまうと、保護者の意図の影響を受けるだけでなく、保護者の意図が子どもの口を介して話されることになったりします。
したがって、子どもからの聴きとりは、あとから確認することは不可能と考え、原則として、初回の1回で終わらせ、その事実を記録に残すことが重要です。
複数の子どもが関係しているときには、教職員が分担して話を聴くこともありますが、「どの順番で、どのこどもに、誰が、どこで、なにを、どのように聴くのか、確認しておかなければなかないことはなにか」といったことを確認したうえで、聴きとりをおこなうことが重要です。
なぜなら、確認内容がバラバラであったり、主観が入りすぎてしまったりした記録(情報)では、事実認識ができなくなるからです。

④ 謝罪が必要なとき
重要なことは、心理的事実は最初に謝罪をして、客観的事実はきちんと調査することを伝えることです。
心理的事実とはその人が心で感じた事実(苦しみ、悲しみ、苛立ち、怒りなど)のことで、客観的事実とは実際にあった事実のことです。
「安易に謝罪をしない」ことがポイントとされることもありますが、適切な謝罪は必要不可欠です。
特に、心理的な事実に由来する保護者の感情(心配をかけてしまっていること、不愉快な思いをさせてしまっていることなど)については、「そういう気持ちにさせてしまったことは、申し訳ない。」と伝えることが、話合いをスムーズにする要素にもなります。
同時に、客観的な事実が確認できていない時点では、あいまいな回答や約束はしないようにします。
「至急、学校として、事実の確認をして、その後の方針や見通しを伝えさせていだだきます。」と約束します。
事例にもよりますが、要望や苦情を訴えた保護者への連絡は早ければ早いほど、トラブルの未然防止につながります。
とはいっても、繰り返しになりますが、回答できないものを慌てて回答することは禁物です。
そこで、その日の学校での対応の経過を報告したり、進捗状況として、現段階での今後の見通しの報告をこまめにしたりすることで、保護者の不安をとり除き、安心してもらうことができます。

-謝罪例-
・「このたびは、指導上の不手際により、トラブルがおこってしまい、申し訳ありません。」
「指導上の不手際により」と非が学校にあることを認めてしまうと、以降の話合いは、不手際に集中してしまうことになります。
加えて、「トラブルがおこってしまい」と学校は今の状況を「トラブル」と認識していることを伝えてしまっています。
正当な主張をしていると思っている保護者に対して、「トラブル」と一方的な主観を伝えることで、怒りの火に油を注ぐことになってしまいます。
・「このたびは、ご心配をおかけして申し訳ありません。事実関係についてはきちんと調べたうえで、後日、お話をさせていただきます。」
この段階では、誰がどのようなことをしたのか、学校の責任の所在など詳細については認めたことにはなりません。
ただし、調査をし、分析結果がでるまでどのくらいの日数が必要かの見込みを立て、「後日」と応えているところを、「1週間後の○月○日までに」と期日を明確にすることで、学校は時間延ばしをしようとしている、ごまかそうとしているといった疑念を抱かせることを防ぐことができます。
また、「~させていただきます。」と結論を述べていることから“話は終わった”と認識して、話を終えようとしてしまったりすることがありますが、事務的な対応に終始してしまうとやはり怒りの火に油を注いでしまいますので、ここから、保護者の話に耳を傾け、どのような思いになっているのかなど、のちの判断基準とできるようにしっかりと情報を集めておくことが大切です。


(2) その後の組織的な対応
-学校としての保護者等の声に正対するために-
対応が困難と判断した事例については、早い段階で管轄の教育委員会に連絡を入れ、情報を共有しておくようにします。
また、外部の関係機関の担当者を含めた事例検討会議の実施や、心理や法律の専門家等からの助言を受けることも有効です。

① かかわり方の難しい保護者への対応
学校に対する要求や苦情の全体から見れば、脅迫と受けとれる要求、不当な要求、相手に心の問題がある場合等に苦慮する事例は、それほど多くはありません。
しかし、このような事例では、傾聴や誠意のあるかかわりだけでは解決が難しいため、学校としてどのように対応したらよいか困惑することもあります。
したがって、学校で解決できる事例なのかどうかの見極めが大切です。

<かかわり方の難しい事例のパターン>
・粘着質で、執着心が強い..しつこく、長期間にわたり頻繁に手紙やメールが届いたり、電話がかかってきたりする
・要求を肥大化させ、変質化させてしまう..ひとつの要求が通れば、次の要求をしてくる
・豊富な手段を駆使する..電話、ビラ配り、インターネットでの誹謗中傷を繰り返す
・操作的で、周囲を巻き込んでくる..地方議員を使ったり、文部科学省・教育委員会などへ意図的に情報を流したりする
・精神的に病んでいる..医学的な治療が優先されることを自覚できていない

② 違法、不当な要求への対応
要望や苦情が極めて理不尽であり、または不当な要求であると判断できるときには、「こちらの発言等に責任を持つために、録音させていただきたい。」と録音について検討することも考えられます。
了解が得られるときには、学校側で記録担当を決め、記録をていねいにとるようにします。
対応の記録を残すことは、その後、関係機関に依頼する場合の重要な参考資料にもなります。

③ 外部の専門家等の活用
都道府県、市区町村の関係機関(福祉や環境など)の関係者と連携、協力して対応することで、教育とは別の角度から有益な助言が得られることが多くあります。
虐待やその疑いがあるとき、傷害事件、心の問題が予想されるとき、福祉的な支援が求められる場合などには、外部からの助言は必要不可欠です。
要望や苦情が執拗に繰り返される事例の中には、傾聴し、誠意ある対応だけでは解決できないものもあります。
場合によっては、「距離をおく」、「適切な関係性を保持する」などのかかわりの工夫が必要になるときもあります。
限度を超えた行為やことばに対しては「お子様のために話合いを続けたいが、こういうことが繰り返されるようなら、話合いを続けることはできません。」と伝え、話合いを打ち切ることもひとつの方法です。
適切なかかわりをおこなえるようにするために、警察や法律、心理、医師等の専門家による助言を進んで受けるようにします。
その助言を参考に、当該の教職員を孤立させることがないよう「管理職が責任ある者として代わって話合う」、「話合いに同席する」などの支援体制をとります。
また、「組織としての共通の方針」を一人ひとりの教職員が共通理解し、それぞれが確実に実行することも大切なことです。

-対応例1-
保護者が、突然、「半年前からの子どものいじめ対応について、納得がいかない!」と来校しました。
しかも「担任を替えろ!」と繰り返し要求してきました。
そして、ビデオやICレコーダーをとりだして、「話合いの様子をビデオで撮影したい。録音もさせてもらう。」といってきました。
あまりにも突然で、威圧的な態度に断ることができず、撮影も録音もされてしまいました。
しかし、次にきたときには、ビデオ撮影を要求してきたときには、公舎内への立ち入りを断りたいと考えています。

このケースの受け方のパターンは、何通りかあります。
第1は、冷静に話を聴くことができるなら、とことん話を聴くことです。
そして、なにが問題でどうして欲しいのかを具体的に聴くことです。
そのひとつに「学級担任を替える」ことを要求してくることも考えられますが、その学級担任に大きな非がない限り、学校の人事権は校長にあるということをはっきり伝えなければなりません。
そのとき、副校長(教頭)や主幹教諭等の同席のうえで、複数で話を聴くことが必要です。
第2に、冷静に話を聴くことができない状況のときには、優先するのは、その場を落ち着かせることです。
「できる限り、お力になりますので、ともかく冷静にお話しいただけませんか?」と投げかけたり、「この場では、落ち着いて話しいただけると助かります。」とことばをかけたりします。
それでも怒鳴り続けるときは、学校側は黙って、保護者のエネルギーが落ちるのを待ちます。
そのときもメモはとり続けます。
なぜそうなっているのかについても詳細に聞き漏らさないように心がけ、関係者全体で、聴きとった事実を確認し、共有して改善できることはないかを話合います。
第3に、録音・撮影はていねいに断ります。それでも強行的に撮影等を要求しているときには、保護者に「なぜ録音・撮影が必要だとお考えなのでしょうか?」などと投げかけて、保護者の背景や心情が見えてこないかを見極めます。
それでも改善がみられないときには、保護者には、「撮影された側には肖像権がありますので、その映像を断りなく他に公開すると法的責任を生じることがあります。」と伝えておきます。

-対応例2-
体育の授業中に児童が転倒して顔面を打ち、前歯を欠いてしまいました。
管理下における学校事故なので、日本スポーツ振興センターの手続き等を進めてきましたが、保護者から将来的補償について「誠意を示せ!」と高額な金銭をにおわす要求がありました。
まだ成長途中ということで、将来補償といわれても、いつまでかかるか判断することができません。
当然、校長も異動していることが考えられることから、面倒なので見舞金で済ますことも考えています。

重要なのは、なぜ体育の授業中に転倒したのか事実を確認することです。そのうえで、学校側に責任があるとわかったときには、「将来的補償とはなにを意味しているのか」を保護者に確認します。
基本的には、歯科医に診てもらい、歯の欠損が修復するまでが学校の誠意となることから、その場で返答することは控えます。
なぜなら、学校だけの判断では回答は不可能だからです。
したがって、保護者にはこのことも伝えます。
そして、教育委員会の担当課と協議のうえ、学校としては、正確な記録を残して引き継ぐこと、主治医の治療計画等の情報を管理職と養護教諭が確認し、情報を共有しておくことが大切です。
歯を修復した後に、なんらかの異常がでたときの対応については、教育委員会の担当課との協議結果にもとづいて、保護者との話合いには応じます。
その中で、学校としてできることと、できないことを明確にわかりやすく伝えます。
なお、異常がでたときに、その原因が学校事故による歯の欠損によるものと強く主張しているときには、引き継がれた記録等をもとに、弁護士に相談したうえで対応するようにします。
たとえ、保護者が具体的な金額等を示し、暗に教職員や管理職のポケットマネー等で対応するようににおわせても、絶対に応じることのないように徹底しておかなければなりません。
なぜなら、その場をやり過ごしたつもりでも、結果として、保護者を恐喝などの犯罪者にしてしまいかねないからです。

<学校内でおきた事故に対する補償>
ア) 災害共済給付の利用
学校に法的責任があるかどうかにかかわらず、学校管理化での事故の場合には、日本スポーツ振興センターの災害共済給付を利用できます。
イ) 学校の責任の有無
上記の災害給付では、損害賠償(いわゆる慰謝料)等は支払われられないことから、学校の責任の有無が問題となります*-26。学校管理下での事故であり、教職員の目が届いていないところでの事故の場合、事故についての予見可能性が認められる余地があり、学校の管理責任が生じる可能性があります。
ただし、この点については、個別具体的な事情を踏まえて慎重に判断する必要があります。
ウ) 補償の額
仮に学校に責任があるとしても、どの程度、どのような範囲まで賠償をしなければならないのかは別の問題です。
法律的には「事故と相当因果関係のある損害について賠償しなければならない」とされています。
具体的な範囲については、個別事情に即し、医療記録などを踏まえて判断する必要があります。
エ) 加害児童(の保護者)との関係
加害児童の保護者も損害賠償責任を負う場合には、学校も加害児童の保護者も、被害者との関係では、損害額全額を支払う義務を負い、加害者側(学校と加害児童保護者)の内部で最終的な負担割合について調整することとなります。
*-26 ここでは、わかりやすさを考えて「学校の責任」という表現をしていますが、公立学校については、教職員の故意・過失による権利侵害や施設の設置管理の瑕疵による権利侵害あった場合、国家賠償法の適用により、自治体(区市町村および郡)が賠償責任を負います。
なお、当該教職員に故意または重大な過失があった場合には、自治体が当該教職員に対して求償権を行使することができます。
いずれにしても、児童や保護者が当該教職員に対して直接に損害賠償請求権を有することは、ごく例外的な場合を除いておきません。


-対応例3-
保護者が副校長(教頭)に「子どもが昨年から学級でいじめを受けている。繰り返し担任に相談しても、改善するどころか、いじめがますますひどくなっている。どういうことなのか話を聞きたい。」と訴えました。
副校長が、学級担任と保護者の話を聞くと、保護者はこれまでの対応に対する不満を訴えるとともに、このいじめに対する学校の対応の経過と今後の対応について文書で回答することを要求し、加えて、いじめを放置したことについての謝罪文を学校便りに掲載するように求められました。

文書回答の要求は、保護者が「さんざん訴えても解決してもらえない。」、「学校は信用できない。」と捉えている状況ででてくることがあります。
対応が遅い、あいまいな返答を繰り返すなどという学校の不適切な対応が文書回答要求につながると考えると、事前に防ぐことが可能であったことになります。
文書回答を求める保護者の意図として、a)ことばで説明されてもよくわからないから、文書で確認したい、b)家に帰って家族にうまく話せないから、資料が欲しい、c)本当に責任を持ってやってくれるとは思えないが、文書なら証拠に残る、d)わが子に対する学校の対応について、他の保護者にも知っていて欲しい、e)企業なら文書回答はあたり前だ、などがあげられます。
この事例のポイントは、文書回答要求の背景にある保護者の気持ちや事情をつかんだうえで、文書回答の可否、学校便り掲載の可否について、学校としての対応を決めること、文書回答が前面にでているものの、本来の問題は、いじめの本質的な見極めと学校でできる改善策を保護者に伝わるように再提案することの2点です。
そこで、原則として、文書回答等はせずに、話合いで解決する方向をめざします。
その理由は、第1に、文書をだすとその内容がひとり歩きしたとき、まわりまわって保護者の親や周囲の保護者を、あるいは他の児童たちを新たに傷つけてしまう怖れが考えられること、第2に、いじめのようにさまざまな要素が複雑に関連する事柄に対して、そのすべてを過不足なく対応を示すことができるわけではないこと、第3に、文字だけですべてを表現することは難しく、不完全な文書を提出することはかえって混乱や誤解を招く可能性があること、第4に、「文書をだすことでは、根本的にいじめの解決にはならない。」と伝え、解決をめざす方向で話し合いたいと納得してもらえるまで根気強く話すこと、第5に、「学校便り」発行の目的を考えると、個人についての対応を掲載することは適当ではなく、また、個人情報(相手の問題も含む)の課題があること、第6に、「学校便り」等に掲載することで、新たないじめに発展する怖れがあること、などです。
一方で、文書をだすことが、保護者との関係の再構築に有効な場合もあります。
その理由は、第1に、保護者とのコミュニケーションをとるための手段として、説明資料が有効な場合があること、第2に、説明資料には、学校のとり組みの経緯や確認した事実関係等、事実のみを明確にして、学校としてできることとできないことを区別して示すことができること、第3に、具体的な事例ではなく、「いじめのない学校づくりに向けて」などのメッセージを、学校便りなどに示すことが有効であること、学校としての行動指針等は、全校保護者会や学年ごとの保護者会で話をする方法も考えられること、などです。

-対応例4-
保護者が突然来校し、「昨日、子ども家庭支援センターの職員が家にきて、子どもに対して児童虐待の疑いがあるので、話を聞かせて欲しいといわれた。連絡を入れたのは学校じゃないのか! 個人の家庭の情報を勝手に流すな。」といい、校長室に長時間居座り、帰ろうとしませんでした。
対応した担任教師が授業に行こうとしても、「逃げるのか!」と大声で恫喝して制止され、やむを得ず、他の教員に補教をしてもらうことになりました。
学校では、5日前に当該の子どもが、顔に青痣をつくって登校していて、担任教師が事情を聞く中、食事もまともに与えられていないことや、洋服がいつも汚れていることもあり、学校から子ども家庭支援センター(児童相談所)に連絡を入れていました。

児童・生徒の様子から、児童虐待の怖れがあると感じたときには、学校は、児童相談所に通告する義務を負っています。
正しい根拠にもとづき対応すれば、この件に関する苦情は、それほど怖いものではありません。
ただし、保護者の立場からすれば、突然外部から土足で踏み込まれたことに対し苛立ち、憤りを感じ気持ちを収めることができず、学校に乗り込んできたわけです。
したがって、児童虐待の自覚の有無にかかわらず、相当な怒りのエネルギーをぶつけてくることになります。
このときの保護者は、「うちは虐待などしていない」と自己のふるまいを正当化したうえで、「誰が通報したのかつきとめてやる」、「プライバシーを踏みにじるヤツは誰であろうと許せない」、「自分なりに必死にやってきた家庭のしつけに口を挟む権利は学校にはない」と怒りの感情にあふれ、「きっと学級担任が教えたに違いない」との疑心暗鬼に囚われている(被害妄想)状態です。
そこで、この事例のポイントは、学校が通告したかどうかは応える必要がないこと、心配であれば、管轄の子ども家庭支援センター(児童相談所)に相談することを進めること、今後の児童・生徒への支援も考えて、保護者と対立するのではなく、「子どものことが心配である」という点で話合いのできる関係をつくることが鍵となることの3点です。
「学校は、児童虐待を受けたと思われる児童・生徒に対して通告の責務がある」ことは、「児童虐待の防止等に関する法律」の第5条に規定されています。学校に対して、未然防止や早期発見・通告に加え、虐待を受けた児童・生徒に対し適切な支援をおこなうこと、児童虐待防止のための教育または啓発をおこなうことが責務として明記されています。
また、同法第6条では、通告の義務が明記されるとともに、「守秘義務に関する法律の規定は、「通告する義務を妨げるものではない」としています。同法第7条では、「当該通告をした者を特定させるものを漏らしてはならない」し、外部に明かされることはありません。また、実際に虐待かどうかを判定するのは、子ども家庭支援センター(児童相談所)等の管轄期間であり、「通告段階で虐待かどうかの確証は必要とされていない」としています。
そして、通告により、保護者から苦情がでることは予め想定し、学校としての体制を整え、全職員で共通認識をはかっておくことが重要です。共通認識しておくことは、通告に至った経緯の概略と学校の方針、各教職員の対応に留め、必要以上に個人情報を明らかにしないことも大切です。
一方で、学校としては、子ども家庭支援センター(児童相談所)と連携をとり、想定される保護者の訴えとその応答の仕方を検討しておくようにします。
また、保護者の怒りが激しいときには、訴えの内容ではなく、その怒りに寄り添う立場で教員やスクールカウンセラーなどを同席させる工夫が必要です。なお、椅子を蹴ったり、物を投げたりして暴れることがあれば、躊躇することなく警察に通報します。

-対応例5-
ここのところ学校を休みがちになっている児童の父親が来校し、職員室で「担任をだせ!」と大声で騒ぎはじめました。
担任がでてくると、「お前のせいで、うちの子は苦しんでいるんだ!」、「うちの子はちゃんとやっているのに、なんでいちいち注意されなきゃならないんだ!」、「他の子だって同じことやってることだろう。」などと、担任につかみかからんばかりの勢いで、声を荒げ続けました。それだけでなく、保護者は、「子どもに土下座して謝れ!」、「毎朝、家まで迎えにこい!」と強い口調で、繰り返し要求し続けました。

いきなり学校に、保護者が怒鳴り込んできたり、威圧的な態度で要求をつきつけてきたりされると、恐怖を感じるものですが、威力業務妨害などで警察に通報する前に、まだできることを考えることが大切です。
そこで、児童が学校を休みがちになっていることを考えると、なぜそういう状況になってしまったのかを明らかにすることが必要です。
状況がわからない段階で、あからさまに拒否したり、警察を呼んだりすると、いっそう事態がこじれることになります。
登校できないでいる子どもに対し、親としてどのように接していいのかわからなくて困っている思いと、学校側の温度差に苛立っている保護者は、「親が子どものことに必死に訴えているのに、学校の態度がはっきりしない」ことに苛立ち、「私(俺)は脅しているつもりはない。早くすっきり片づけたいんだ。それなのに、そっちが怒らせているんだろう」との気持ちをわかってもらえない憤りに、「私(俺)は仕事を休んで、話にきているんだ! 担任だって授業は誰かに代わってもらえ!」と自己のふるまいを正当化するとともに、報われない怒りが加わります。そして、その怒りは、「子どもが学校に行けないのは、学級担任のせいだ!」と責任を転嫁させることになっています。
この事例のポイントは、次の2点です。
ひとつは、威圧的な態度であっても、暴行に及んだり、器物を損壊したりしているわけではないことから、大きな声をださなくてはいられない保護者の背景にある事情や心理状態を推察し、受け止める体制を整えること(できるかどうかは別として、いい分をできる限り聴き、心配や不安を抱かせたということについては、真摯に受け止めること)で、もうひとつは、もし学校だけの対応で好いかどうか見極めが難しいときには、管轄の教育委員会に報告・相談したうえで専門家等の助言を受けることです。
重要なことは、保護者の態度や勢いに圧倒されてしまい、無理難題を押しつけてくるクレーマーと決めつけないことです。
怯えを感じたときには、恐怖を押さえ込むのではなく、努めて冷静さを保つようにします。
逆に、「私はいま怖い」と恐怖をあるがままに受け入れることができると落ちつくこともあります。
 そして、このような状況のときは、管理職に報告して、別室に移動するなど環境を変えて対応すること、担任ひとりで対応するのではなく、複数で話を聴くようにします。
きちっと考えを述べる人、判断を下せる人、その場の雰囲気を和らげることができる人など、第三者に入ってもらうなど対応構成を普段から考えておくようにしておきます。
保護者には、学校として事実確認できていること、確認できていないことを明確にし、ていねいに説明します。
その説明の中で、保護者の気持ちを受け止めながら、学校はお子さんのことを考えているというスタンスを明確に伝えます。
もし、譲ることができないことがあれば、明確に伝えます。
ただし、保護者が理解できるように、伝え方を工夫することが大切です。
警察に通報することは、児童の保護者を犯罪者にすることにつながりかねないことから、警察への通報は慎重でなければなりませんが、保護者が身体的な暴行に及んだり、器物損壊など破壊的な行為があったりしたときには、躊躇することなく警察に通報します。
そして、まだ身体的な暴行に及んだり、破壊的な行為があったりしていないものの、これまでの対応から考えて、暴行や破壊的な行為に及ぶことが危惧されるときには、事前に所轄の警察署に相談しておくようにします。
その判断は、保護者が、事例68の夫Dのように、学級担任などの出身大学、結婚や子どもの有無を問い、誹謗中傷する発言をするようなら、それは、過激なモンスターペアレント(クレーマー)ということになり、場合によっては、警察対応が必要になります。


(3) 保護者へのかかわり方
保護者が、生育歴や家族関係、経済状態等の問題を抱え、被虐待経験を持っていたり、薬物依存や疾病、著しい性格の偏りなどがあったり、それが虐待につながる要素となっている場合が多くあります。
しかし、これらの改善には、専門的な治療と多くの時間を要します。
このような保護者の中には、攻撃的で執拗な態度をとったり、著しく依存的なかかわりを要求されたりするため、対応に苦慮することになるのが現状です。
学校は、治療専門機関でも、親の養育に判定を下す機関でもありません。
学校に求められているのは、家庭を支える地域資源としての役割です。

<基本的対応>
a) 行為を非難したり、一方的に指導したりしないで、話を聞く
b) 保護者を支援する姿勢を示す
c) 子どもの良い部分を伝える
d) 会う機会を増やし積極的に支える
e) 子どもの行動を理解できるように援助する
f) 社会資源を積極的に活用させる

<家庭との対応の目標>
 虐待のある家庭への対応には、いくつかのゴールが考えられます。
a) 家庭が地域社会で陥っている孤独の解消
b) 虐待につながる家庭内の病理の改善
c) 親の怒りの処理のための適切な方法の修得
d) 親自身の実家や親族との人間関係や夫婦関係の改善
e) 子どもに対する不正確な認知の改善
f) 子どもを個として認知し関わること
g) 子どもの「悪い行動」への体制をつけること
h) 子どもが以外の大人とよい関係をもつことを受け入れること
i) 子どもとの関係を楽しめること
j) 子どもに関する肯定的感情を直接表現できる

<保護者の虐待への反応類型>
a) 関与・介入を拒否
・攻撃型(誰が通告したか追及)
・消極型(時間がない、忙しい)
b) 否 定
・否認型(やってない)
・半否認型(わからない、知らない)
c) 肯定・正当化
・当然型(養育方針である)
・必要性型(こうするしかない)
d) 肯定・反省姿勢
・現状肯定型(悪いと思うが直せない)
・改善主張型(何とかしたい、もうしない)

① 保護者への支援
保護者への支援は、段階を踏んで行うことが大切で、いきなり助言指導しても逆効果になります。
・STEP-1 信頼関係の構築
不適切な養育を行っている保護者は、周囲から何度となく批判されているため、他者からの注意や助言を受け入れません。
まずは、保護者の話を共感的に受け止め、相談しやすい存在になることが大切です。
・STEP-2 子どもや育児に対する意識の変化
保護者との信頼関係がある程度できてきたら、一般的な児童や子育ての話をして、意識の変化を促す。
(*)意識が変わらないと行動変化は持続しません。
一般的な発達過程と個人差、健康管理の方法等を「子どもって、こうみたい」と押しつけがましくないように話すといった配慮が重要です。
・STEP-3 適切な養育方法の提案
保護者が、自分の子育てと一般的な子育ての差に自ら気づくことを目指し、適切な子育て方法を提案します。
(*)これまでの養育について、あれこれ批判をしてはいけません。
・STEP-4 適切な助言・指導
保護者が提案を受け入れ、行動を変化させたいという意欲がみえた段階で、具体的な方法を「やってみようかと思われるなら、こんなふうにしてみては」と働きかけるようにします。
保護者のできそうなところからはじめ、一緒におこなうといった工夫が必要になります。
・STEP-5 養育の変化を誉める
保護者のほんの僅かな変化であっても、その都度、速やかに、できるようになったことを評価し、誉めるようにします。
例え、前にできていたことであっても、「前に褒めたからいいだろう」ではなく、繰り返し褒め、忍耐強く接していくことが、変化を促し、持続させていくことになります。

<保護者との面談、家庭訪問のポイント>
a) 校内の虐待対応組織(サポートチーム)などで、事前に十分な検討をする
b) 訪問や面接は、できるだけ複数で行う
c) 訪問拒否的態度をとる保護者には無理をしない
d) 矛盾する話をする保護者を追及する態度をとらない
e) 共感的態度で保護者の指導批判はせず、虐待だけを話題にしない
f) 面談・家庭訪問は、終了後、その状況を速やかに記録すること
g) 性的虐待の疑いのあるときは、面談・家庭訪問はしない

② 保護者からの抗議への対応
当該児童の保護者から直接的な抗議を受けることもあります。
そのとき、担任だけが矢面に立つような対応は避けなければなりません。
保護者は、担任・養護教諭・校長など、それぞれに対して異なる態度を示します。場合によっては、ある教員に、別の教員への批判を激しく訴えることもあります。
その場合、批判に必死に抗弁したり、批判されている教員を無条件で弁護したりしないことが大切です。
保護者の批判は、身勝手で現実的ではないかも知れませんが、怒っていること、その怒りを訴えようとしているのは確かであり、それを受け止めて欲しいとの思いの表れでもあります。
虐待を疑い、児童に事実確認をしようとした場合に、保護者から激しい抗議を受けるたり、通告をした場合に、「先生を信じていたのに裏切られた」と攻撃されることがあります。
児童の逸脱行動について保護者に伝え、その背後にある保護者の養育態度について話し合いをしようとすると「そんなに迷惑をかけているなら、もう登校させません」と拒絶されてしまうことも少なくありません。
これらはみな、虐待事例の家庭にかかわろうとするとき、教員を襲う現実的な不安であり、感じて当然の不安です。
虐待を受けた児童が学校生活の中で示す言動やふるまいは、ときに、周囲の児童を身体的・心理的に傷つけることになることがあります。
周囲の児童に保護者からのクレームに対して、「あの子は虐待を受けているから」と説明するわけにはいきません。
学校はしかるべき機関を含め、その児童に責任をもって対応しようとしているということを説明していかなくてはなりません。


(4) 一時保護の決定、保護命令の発令への学校の対応*-27
-基本的心得-
*-27 一時保護の決定、保護命令の発令は、「配偶者暴力防止法」にもとづいておこなわれますが、詳細については、第4章(「婚姻破綻の原因はDVにある」とする離婚)の中の「24.一時保護の決定、保護命令の発令。「身を守る」という選択」に記しています。
① 保護者や警察との情報の共有
児童生徒への保護命令が発令された場合、警察から学校へ、協力要請と安全のための指導がなされるので、十分に協議しておきます。
また、安全確保のために、保護者(保護命令の申立人)から追及者等の動向に関する必要な情報を入手できる体制を整えておく必要があります。

② 警察との連携強化
加害・不当要求が予想される追及事案については、警察との事前協議を徹底し、事案発生時の措置、対応について十分に協議しておくとともに、迅速な支援が得られるよう日頃から十分な意思疎通をはかっておく必要があります。

③ 一貫性のある対応
電話・来所対応にあたっては、方針を明確にし、一貫性のある対応により、ことば尻をとられないようにします。
追及者に少しでも期待を持たせるような曖昧な言動は絶対にしないようにします。

④ 訓練の実施
事案に対する的確な対応は、日頃の研修・訓練に負うところが大きいことから、追及事案や不測の事態を想定した、面接シミュレーションを職員間でおこなう等、積極的に職場での教養・訓練に努めます。

⑤ 法令知識の習得
加害者等は、複数の関係機関や弁護士に相談して、法律的な知識を身につけているため、法的根拠を執拗に迫るケースも多くあります。
適法・適切な対応のために、日頃から関係法令の習得に努めることが大切です。


(5) 学校でのDV加害者からの追及と対応のあり方
被害者からの相談を受付けている機関や被害者の保護をおこなっている機関、被害者の保護をおこなっている機関、被害者の子どもが通う学校園に対し、加害者が被害者の居場所を聞きだそうとしたり、被害者との面会を求めたりすることがあります。
DV事件への対応として重要なことは、常識的な考え方をしてしまったり、まさかそんなことはしないだろうと安易に考えてしまったり、児童の父親とか親族といったフィルター(色眼鏡)をかけてしまったりしないことです。
そして、配偶者暴力防止法第23条に、「職務上関係のあるものは、その職務を行うに当たり…(略)…、その安全の確保及び秘密の保持に十分な配慮をしなければならない。」と明記されていることから、被害者を支援している機関がもっとも重視しなければならないことは、いうまでもなく被害者の安全確保です。
したがって、加害者から被害者の所在等の問い合わせについては、「組織として一切応えることができない。」と毅然とした態度で応じることが重要です。

① 電話で問合せをしてきたとき
加害者が被害者の居場所を教えるよう要求したり、被害者と面会させるよう要求したり、被害者が以前に相談したかどうかを教えるよう要求したりするときには、「電話での問い合わせであれば、…」と対応します。
このとき、「被害者の居場所を知っている/知らない」、「相談を受けたり、保護したりしたことがある/ない」と応えてしまうと、情報を聞きだそうとする加害者の追及につながります。
たとえ、加害者が「(電話の通話記録などから)そちらに相談したのはわかっている!」と威圧的に凄んできたとしても、「組織として、一切お応えすることはできません。」と対応します。
ただし、毅然とした態度で応えても、加害者は何度も繰り返し要求してくることがありますが、同じ回答を繰り返し、加害者のかけひきに乗ってしまったり、カマをかけにひっかかってしまったりしないように注意しなければなりません。
そのためには、「はじめに。DV理解-1-②DV加害者の人物特性」、「Ⅰ-5-(2)DVの本質。暴力で支配されるということ」、「同-(5)DVでない暴力、DVそのものの暴力」、「Ⅰ-7.被害者心理。暴力でマインドコントロールされるということ」、「Ⅳ-27.DV加害者に共通する行動特性」に記しているようなDV加害者の特性をよく理解しておく必要があります。
また、情報を聞きだそうとするのは、加害者に限らず、しかも、加害者の親族だけでなく、被害者の親族などから問い合わせが入ったりすることも少なくありません。
実際に親族が問い合わせていることもありますが、加害者に頼まれた友人や知人、または、依頼された探偵事務所の所員など、別の人が親族の名前を語って問い合わせをしたり、警察官や行政の担当者、弁護士などの職務関係者だと偽り、被害者の情報を聞きだそうとしたりすることもあります*-28。
このときも、加害者と同じように「組織として、一切お応えすることはできません。」と毅然とした対応をします。
さらに、加害者が支援者に対し、暴言、暴行、傷害、脅迫等をおこなうこともありますが、このような暴力的な加害者に対しては、原則として複数の職員で対応し、必要に応じて警察等の協力を求めます。
*-28 警察官や行政の担当者、弁護士等の職務関係者からの問い合わせについては、相手の所属や電話番号を聞き、折り返し電話して確かめるなど、被害者の情報についての外部からの問い合わせにどのように対応するかを、組織として事前に決めておくことが重要です。

② 突然、来校してきたとき
突然、加害者が来校したときには、原則として複数の教職員で対応します。ときには、被害者が来校している最中を見計らって、加害者が来校することがあります。
このときには、まず、被害者の安全を確保します。
加害者が、被害者と鉢合わせになることを絶対に避けなければならないことから、不審者が校内に入り込んだときの対応に準じるなど、加害者を、被害者のいる場所(部屋)から遠ざけ、被害者には別の出入口などから、他の安全な場所に避難してもらうなどの対処が必要になります。
加害者と玄関等で立ち話をすることも考えられますが、在校児童や保護者などが在校しているときには、被害者だけでなく在校児童や保護者の安全に配慮し、校長室などで対応する方がよい場合もあります。
加害者からの問い合わせには、「申し訳ありませんが、そのようなご質問には一切お応えできないこととなっておりますので、ご了承ください。」と対応し、すぐに退去するよう求めます。
退去を要求してもそのまま居座ったり、教職員に対して暴言を吐いたり、暴行を加えたり、静止したにもかかわらず校内の教室に侵入しようとしたり、器物などを損壊したりしたときには、速やかに警察に通報します。
また、加害者の中には、教職員に対し、被害者の所在を探すなどのため危害を加えたり、脅迫したり、執拗に電話をかけたりすることがあります。
教職員の個人情報を得て、教職員の自宅に電話したり、帰宅途中に待ち伏せしたり、自宅の周囲を徘徊したりすることもあります。
教職員がつきまとい等の被害にあったときには、躊躇することなく警察に相談するようにします*-29。
*-29 警察は、平成16年6月、警察庁生活安全局生活安全企画課長通達において、DV被害者支援に携わる者からつきまとい等について相談があったときには、支援者に対し、防犯指導等必要な措置を講じるとともにストーカー規制法の適用を積極的に検討することとされています。

③ 児童に「保護命令(接近禁止命令)」がでているとき
児童にも「保護命令(接近禁止命令)」がでているときは、加害者が学校を訪問すること自体が犯罪になります。警察との情報交換等、連携を強化しておく必要があります。
・学校側から加害者に訪問を促したり、承認したりするような言動をしてはいけません
・加害者が学校を訪問してきたり、児童生徒を待ち伏せたりしていたら、躊躇せずに110番通報します
・加害者から「これから訪問する」といったの電話等があった場合にも、速やかに警察に通報します

-対応例6-
DV被害者の子どもが転入してきたときに、加害者や家族から「子どもが学校(部活動)におこなっているはずだ。電話口にだしてくれ」との問い合わせがあったときには、「そのような問い合わせにはお応えできません。」、「そのようなとり次ぎはできません。」と応じます。

-対応例7-
DV被害者の子どもが以前通っていた学校に、加害者から学籍の問い合わせがあったときには、「そのような問い合わせには、お応えできません。」と応じ、転校先は伝えません。

-対応例8-
加害者が学校を訪れ、DV被害者の子どもに面会を要求してきたときには、「そのようなとり次ぎはできません」と拒否します。
また、学校関係者に対し暴行や脅迫をおこなったり、面会を強要したりするときには、強要罪等の犯罪行為を構成することから警察に通報し、警察官を要請します。
DV被害者の子どもに、保護命令(接近禁止命令)が認められていれば、同命令違反になることも予想されることから、前記と同様に警察官を要請します。

-対応例9-
DVの関係で教師が学校で母親と話し合っていたところ、車で待っていた父親が怒鳴り込んできて、居合わせた教師に対し、「てめえ、刺すぞ」と脅したときには、暴行・脅迫、さらには刃物等を使用した重要事件に発展する怖れもあることから、直ちに110番通報し、警察官を要請します。
DV事案として把握している児童・生徒が転入してきた場合等で、トラブルが予想される場合は事前に警察と対応策を協議しておきます。

-対応例10-
加害者又は親族がDV被害者の子の在学証明を請求した場合やその他文書照会があったときには、下記事由により、拒否可能です。

-対応例11-
母親からの依頼で、「夫の暴力から逃れるため住所変更をせずにアパートへ引っ越した。転入の事実は伏せて欲しい」との要望があったときには、転入事実の照会を拒否することができます。

<回答を拒否する法的根拠>
加害者や家族から在学の有無について照会があったとき、これを拒否することができます。
学校管理下にある児童については、学校教育法第28条第3項にもとづく学校長の公務掌握権=学校の管理権により対応すべきものと考えます。
また、学校においてDV被害者の子の在学関係を非公開とする情報管理をおこなうことで以下の根拠を活用できるものと考えます。
① 地方公務員法
同法第34条で禁止されている行為は秘密の漏洩であり、在学の事実が一般的に秘密にあたるかどうかについては疑義があると思われます。
ある児童が特定の学校に在学していることは児童の保護者を通じて明らかにされているはずであり、学校関係者以外の者に対しどの程度厳密に在学の事実が秘密とされているか疑問となります。
しかし、例えば、学校関係者が学籍簿などに記載された児童の個人情報を正当な理由なくして第三者に提供した場合には、当該学校を設置する地方公共団体に個人情報保護条例があれば疑いなく同条例違反となり、また、一般に個人情報が記載された公文書について秘密指定されていれば、その漏洩が地方公務員法第34条違反となる可能性は否定できません。
とりわけ、問題となっている個人情報がDV被害者の子に係る者であれば、その子の存在=在学の事実が明らかになることで、当該子及びその親である被害者にとって大きな不利益を被る可能性が大きいことから、学校関係者以外の者に対しては、いたずらに当該子の在学関係は明らかにされるべきではなく、そのことは、当該子と同居していない親権者及び親族に対しても同様とされるものと考えます。
学校にDV被害者の子が在学する場合には、子の意思を尊重しつつ、当該学校における在学関係についてのみ仮名を使用するなどの工夫を検討することも必要になってきます。
さらに、学校関係者間で当該子についての情報管理の必要性と重要性を共通の認識とするよう確認しておくことが必要になります。
② 個人情報保護条例
義務教育諸学校で、市町村立学校であれば、その教職員は当該市町村の職員なので、県の条例の適用はなく、個人情報保護条例にもとづく個人情報を外部に提供しないというような制約は市町村立学校の教職員には及びません。
また、在学中の小中学校の設置者たる市町村が個人情報保護条例を制定しており、当該条例に置いて、当該本院以外の者からの個人情報の提供の要請(ここでは在学の事実の有無)があっても拒否できる旨の規定があれば、これを拒否の根拠とすることが可能となります。
個人情報保護条例中に、未成年者について親権者からの個人情報開示請求を認めている場合であれば、親権者はその子に係る個人の情報の開示を請求することができることになります。
しかし、個人情報保護条例第17条各号は、自己情報開示請求があった場合でも不開示にできる場合を規定しており、事例のようなDV加害者の可能性がある親権者からの開示請求にあたっては、対象となる文書等に子以外の者、例えば、DV被害者の情報が含まれていれば、第2号(開示の対象となる文書等に請求者以外の者の情報が含まれている場合)に該当する場合が考えられます。
さらに、当該子に係る情報が開示されることにより、DV被害者に対する暴行・脅迫が起こりうると思慮される場合には、同条第4号(犯罪予防等情報)に該当します。
当該子に係る情報を開示することによって、女性サポートセンターの事務事業に支障がでることが当然想定されることになりますが、その場合には、同条第6条(事務事業情報)に該当することが考えられます。
いずれにしても、本件の場合、DV被害者の子の親権者からの在外関係の照会等については、個人情報保護条例の非開示事由に該当するものとして、認める必要はないと考えられます。

<最高裁判決>
配偶者からの問い合わせ、相談者同伴児童への面会要求等について妻子が家出をして行方不明となった男性が、行政に対し児童を保護した事実の有無を児童の親権者として問い合わせ、行政職員が当該事実の有無を開示しなかった事案について提起した国家賠償訴訟の控訴審判決が、平成13年12月11日に名古屋高等裁判所民事第1部でありました。
第1審では原告が勝訴していたが、(平成13年6月29日名古屋地方裁判所民事部第6部判決)高等裁判所判決では、「母子が夫の暴力からの避難を求めて相談し、施設入所している場合には、その情報の開示を拒否することの選択については正当な理由があるといえます。
また、母子を保護している場合に回答を拒否し、保護していない場合にその旨回答することは、回答拒否の場合は保護していると推測されることが明らかであり、結局上記のような場合には一切の回答を拒否するとの選択に十分合理性があるといえよう」と述べて、原判決を取り消し、男性の請求を棄却しています。
最高裁判所判決(平成14年6月13日)でもこの高等裁判所判決を支持し、男性の上告を棄却しました。

<教職員・支援者に対する妨害行為>
・傷害(刑法第204条)  人の身体を傷害した者
・暴行(刑法第208条)  暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったとき
・住居侵入等(刑法第130条)  正当な理由がないのに、人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船に侵入し、又は要求を受けたにもかかわらずこれらの場所から退去しなかった者
・逮捕・監禁(刑法第220条)  不法に人を逮捕し、又は監禁した者脅迫(刑法第222条) 生命、身体、自由、名誉、又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者
・強要(刑法第223条)  生命、身体、自由、名誉、又は財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し,または暴行を用いて、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した者
・名誉毀損(刑法第230条) 公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者
・侮辱(刑法第231条)  事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者
・信用毀損及び業務妨害(刑法第233条)  虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて人の信用を毀損し、又はその業務を妨害した者
・威力業務妨害(刑法第234条)  威力を用いて人の業務を妨害した者
・公務執行妨害(刑法第95条1項)  公務員が職務を執行するに当たり、これに対して暴行又は脅迫を加えた者
・職務強要(刑法第95条2項)  公務員にある処分をさせ,若しくはさせないため,又はその職を辞させるために,暴力又は脅迫を加えた者
・証人等威迫(刑法第105条の2)  自己若しくは他人の刑事事件の捜査若しくは審判に必要な知識を有すると認められる者又はその親族に対し、当該事件に関して,正当な理由がないのに面会を強請し、又は強談威迫の行為をした者
・公用文書等毀損(刑法第258条)  公務所の用に供する文書又は電磁的記録を毀損した者
・器物損壊等(刑法第261条)  他人の物を損壊し、又は傷害した者
・軽犯罪(軽犯罪法第1条)  公共の場所において多数の人に対して著しく粗野若しくは乱暴な言動(13号) 他人の進路に立ちふさがって、若しくはその身辺に群がって立ち退こうとせず、又は不安若しくは迷惑を覚えさせるような仕方で他人につきまとった者(28号)
・ストーカー行為(ストーカー規制法第13条)  ストーカー行為をした者


2014.1/9 小学校教職員のための「児童虐待・DV対応の手引き」..学校として虐待の早期発見と対応手順
2015.4/18 改訂新版
2016.3/11 ブログ再編成(第3次改訂)に伴い、『暴力の影響を「事例」で学ぶ。DVの早期発見・支援。母と子どもが暴力から脱するための手引き』の「第3章(Ⅲ(13-20))」として再編集、掲載
2017.4/25 「第3章(Ⅲ(エピローグ、16-23))」の「改訂2版」を差し替え掲載




もくじ   3kaku_s_L.png   [Ⅲ-6]Ⅲ.学校現場で、児童虐待・DV事案とどうかかわるか
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