あなたは、夫の暴力・DVを容認していませんか? 暴力のある家庭環境で暮らす子どもの心を守ることを忘れていませんか?

[Ⅲ-6]Ⅲ.学校現場で、児童虐待・DV事案とどうかかわるか

17.初期対応としての緊急性の判断

 
 18.性的虐待への初期対応 Ⅲ.学校現場で、児童虐待・DV事案とどうかかわるか
* 現在、この「手引き」は、第3次改訂の編集をおこなっています。編集終了後、差し替えていきます。

第2部
Ⅲ.学校現場で、児童虐待・面前DVとどうかかわるか
・事例208-209

エピローグ
・事例210(事件研究1:厚木男児監禁遺棄致死事件(平成26年5月))
・事例211(事件研究2:江戸川区岡本海渡くん事件(平成22年1月))
・事例212(事件研究3:狭山市羽月ちゃん事件(平成28年1月))
・事例213

16.児童虐待の定義
(1) 児童虐待の定義
(2) 虐待を疑うということ
  ・事例214-219
・代理ミュンヒハウゼン症候群
(事例220-221)
(3) 児童虐待への対応に関する法律
(4) 教育現場で、児童虐待の早期発見を妨げる心のブレーキ
(5) 児童虐待を見逃さないために
(6) 早期発見のためのチェックリスト
 ・保育園用
  ・学校用
(7) 虐待している保護者の特徴
 <虐待が推察される親の行動>
  <その他の虐待や放置をする親にしばしば見られる行動様式や問題点>
 <虐待を疑ったときの保護者に対する接し方>
・保護者が被虐者であるとき、境界性人格障害の特性を理解しておくことが役立つ

17.初期対応としての緊急性の判断
(1) 学校検診(保健室)における虐待への気づき
 <学校健診(保健室)における虐待対応フローチャート>
(2) 身体的虐待を疑う
 <身体的虐待を疑ったときの対応>
 <放射線診断の方法>
  <受傷機転による骨折の形態>
  <部位別特徴>
(3) 虐待による熱傷の所見
  <虐待による熱傷の特徴>
 <熱源別特徴>
(4) ネグレクト(neglect)
 <ネグレクトに気づくために>
(5) 性的虐待が気になるとき
  <児童期性的虐待の基準(ハーマン著「父-娘 近親姦」抜粋)>

18.性的虐待への初期対応
(1) 発見の難しさ
(2) 適切な気づきのための留意点
 <子どもの性暴力被害の兆候:共通して示す症状や行動>
(3) 児童の訴えを聴くとき
(4) 児童の訴えを聴くときの留意点
(5) 通告したら
(6) 性的虐待・家庭内性暴力の通告にあたる児童の告白内容
(7) より本質的なこと:性的虐待、家庭内性暴力の予防について

19.子どもの心理的援助-トラウマ反応について学ぶ-
(1) トラウマ(心的外傷)の3つの反応(制御反応)
(2) 虐待によるトラウマの接近
(3) トラウマからの回復

20.児童相談所への「通告」と連携
(1) 児童虐待防止法第6条にもとづく「通告」がはじまり
  <児童相談所等への通告についての留意点>
 <通告の内容>
  <通報後、保護者の抗議>
(2) 身体的暴力のあるDV環境下では、6割の子どもが身体的暴力を受けている
 <できることからはじめよう>
(3) 学校でできること
 <児童が一時保護されたら>
  <児童が家庭復帰するとき援助>
(4) 校内連携
(5) 関係機関との連携
 <児童相談所での相談の流れ>

21.通告後の児童への対応。子どものケア、回復のプロセス
(1) 児童への対応
 <児童への日々のかかわり方>
 <児童への質問法>
(2) 混乱した行動への対応
(3) 子どもの心理的なケア
(4) ASDとPTSDの回復への支援の原則
(5) 心の回復プログラム
(6) ケアする人に求められること
(7) 虐待を受けてきた子どもへの対応
  ・最低限の規範としてのルールの明示は、子どもの生活の見通しを助ける
(8) 学校園での周囲の子どもへの対応
  ・正確な記録を残すポイント

22.児童虐待・DV事件、保護者の苦情の捉え方
(1) 大切な初期対応
  ・記入例
 <子どもからの聴きとりの留意点>
  ・謝罪例
(2) その後の組織的な対応 -学校として保護者等の声と正対するために-
  <かかわり方の難しい事例のパターン>
  ・対応例1-2
 <学校内でおきた事故に対する補償>
  ・対応例3-5
(3) 保護者とのかかわり方
 <基本的対応>
  <家庭との対応の目標>
 <保護者の虐待への反応類型>
  <保護者との面談、家庭訪問のポイント>
(4) 一時保護の決定、保護命令の発令事案への学校の対応-基本的心得-
(5) 学校でのDV加害者からの追及と対応のあり方
 ・対応例6-11
 <回答を拒否する法的根拠>
 <最高裁判決>
 <教職員・援助者に対する妨害行為>

23.援助者(支援者)・教職員のメンタルケア
(1) 援助者(支援者)・教職員の傷つき
(2) 援助者(支援者)・教職員が傷ついたとき、心の手当てのあり方
  ・子どものへの応用

第2部の結びとして
  ・感情耐性
  ・援助者・支援者の感情耐性



児童に危険があるとき、明らかに虐待とわかる状態など、緊急性の高い場合は、直ちに児童相談所に通告し、児童の安全確保を優先させなければなりません。
子どもの安全確保、死亡事故防止のためには、虐待はエスカレートするものだということを念頭に、どんな場合が危険か、緊急性が高いか、教職員が判断の目を持っていることが重要です。

① 一人で抱え込まない
児童虐待は、問題が複雑になっているために一人の力やひとつの機関では解決できないことが多いのが現実です。
そのため、一人で抱え込むことによって、介入のタイミングを誤り、対応が遅れてしまったり、問題をさらに複雑、深刻化させてしまったりすることも少なくありません。
多面的な視点を持ち、役割分担によるストレスの軽減をはかるためにも、組織での対応、校内外の連携が重要になってきます。

② 管理職の対応の重要性
虐待の相談を受けた管理職は、気づいた教職員の気持ちを真摯に受け止めて対応しなければなりません。
話を聞いただけで、虐待の疑いを否定するようなことを口にしたり、無視したり、調査をおこなわなかったりすることのないように細心の配慮が必要になります。
虐待の発見は、疑うところからはじまります。
虐待がどうかを判断するのは、学校など通告する側ではなく、通告を受けた児童相談所や市町村などの役割になります。
法は、虐待を受けたと「思われる」場合であっても、通告するように求めています。
したがって、教職員の一人が虐待を疑ったときには、出席状況は健康診断の記録、他の職員が児童をどのように見ているかなどについて情報を集約するとともに、管理職が先頭に立ち、児童の安全を守る体制をつくることが必要です。

③ 組織対応の重要性
児童虐待は、発生要因が複雑なうえに、児童、保護者双方への支援が必要であることから、複数の関係機関との連携が必要になります。
学校等においても、職員個々の意見や、児童や家庭に対する情報が管理職に届き、組織として判断、対応できるシステム・体制づくりが必要になります。

④ 正確な記録の重要性
虐待を疑ったときから、記録を残しておくことが重要です。
なぜなら、児童のケガや痣は、日数が経てば状況が変化してしまい、虐待を疑う根拠が消えてしまったり、児童や保護者の状況も曖昧になってしまったりするからです。
また、虐待対応では、多くの機関がかかわり、長期に及ぶことが多いため人事異動などで担当者が替わっても、関係機関への連絡や後任への引継ぎなど、必要な情報が確実に伝わっていくように、「事実」か「伝聞」かの区別を明確にした憶測を交えない正確な記録を残す必要があります。
a) いつ、どこで、誰が、誰に、なにを、どのようにということを、できるだけ正確に詳しく記録します。
「子どもに落ち着きがなかった」といった印象だけよりも、どんなことばを使っていて、どんな様子を見てそう感じたかを事実をもとに具体的に記しておきます。
b) 児童の傷やあざは、治りやすいので、気づいたときに、写真や絵などで残しておくようにします。
カメラの場合は、傷と正対するようにかまえ、大きさがわかるよう手元の物体も一緒に撮ります。そして、日付を入れるのを忘れないようにします。 また、撮影者がしゃがむなど、児童に不安を与えないような十分な配慮が必要です


(1) 学校検診(保健室)における虐待への気づき
学校健診(保健室)の場は、児童の身体面を全体的に評価することができるため、虐待を発見できる場となります。
以下のような項目に該当する場合、虐待を鑑別する必要があります。

<身体状況>
P-1:虐待の疑いが強い状況
怪我・やけどの痕が複数ある、あるいは、比較的大きな外傷が放置されたままになっている(理由を尋ねても、はっきりいわない)
多数の虫歯・皮膚炎などの疾患がありながら、治療の必要性を通知しても治療しない状況が長期間続く
P-2:虐待の可能性も考えなければいけない状況
身体や衣服が汚れている、髪や爪が伸び放題(清潔行動がとれていない)
体重が増えない、身長が伸びない

<行動特徴>
B-1:虐待の疑いが強い状況
・食べ物への執着:がつがつ食べる、何度もお代わりをする、他児の給食を食べる、他児が残した給食を食べる
・過剰な対人接近行動:教師にべたべた寄ってくる、教師の膝の上に座ったり抱っこされたがったりする
・衝動的で攻撃的な行動:いきなり叩いたり蹴ったりする、暴力行為で加減ができない、物を壊す
・動植物に対する残酷な行為:生き物を乱暴に扱う、加減をしないでいじっているうちに死なしてしまう、意識して殺す、花壇の花を抜く
・単独での「非行」行為:他児や教師・学校の物を盗む、すぐばれる嘘をつく、火遊び(放火)
B-2:虐待の可能性も考えなければいけない状況
理由のはっきりしない欠席、遅刻の反復、集団逸脱行為:離席、教室から抜け出す、学校内外の徘徊、勝手な行動をする、集団行動をとらない、反抗的態度・行動:教師の指示に従わない、乱暴なことば使い
友だち関係を維持するのが苦手:友人がいない、相手がいやがることをわざとする、年下や弱い子をいじめる
成績の低下(理由がはっきりしない)、性的逸脱行為

<学校健診(保健室)における虐待対応フローチャート>
Q 児童は、表面の身体状況に当てはまるところがありますか?
ある よくわからない ない → 普通の健診範囲で対応する
↓   ↓
Q あてはまる項目に「P-1」に含まれる項目が入っていますか?
入っている よくわからない 入っていない

虐待を否定できません。
通告を考えます。
Q あてはまる項目に、「B-1」に含まれる項目が入っていますか?
入っている よくわからない 入っていない

虐待を否定できません。
通告を考えます。
Q あてはまる項目に、「P-2」、「B-2」両方の項目が入っていますか?
入っている よくわからない 入っていない

虐待を否定できません。
通告を考えます。
Q 学校が知っている情報で、この児童の親が不適切な養育態度であることを思わせる事柄がありますか?
ある よくわからない ない→ 普通の健診範囲で対応します

虐待を否定できません。
保健所・保健センターへの相談を考えます。
「気になる子」である旨を学校・教職員に伝え、表面の問題の有無につき、注意しながら経過を見るようにします。


(2) 身体的虐待を疑う
以下の項目は、身体的虐待を疑う必要がある問題・状況をあげたものです。
児童にこうした問題・状況が見られた場合、児童への虐待を疑う必要があります。
P.身体問題
① まず、虐待を考えなければいけない身体問題
以下の状態が同時期に複数存在、あるいは、反復して出現外傷(痕)、火傷(痕)、骨折、誤飲、その他の事故(溺水など)輪郭がくっきりしている、パターン化している、小円形の外傷痕・火傷痕多数の虫歯、口腔内熱傷、乳児の骨折、硬膜下血腫(交通事故や第三者が目撃した転落以外)、保護者が述べる受傷理由で説明できない外傷・火傷・骨折・事故
② 虐待も可能性として考えなければいけない身体問題
不潔な皮膚状況、体重増加不良、低身長、受診時に死亡状態(CPAOA)(「乳幼児突然死症候群」様の状況も含む)

B.行動面の問題
身体的虐待を受けている子どもは、心にも傷を受け、さまざまな行動・精神面の問題を併せ持つことが少なくありません。
上記のような身体状況に、以下のような行動面の問題が見られた場合には、虐待の可能性がかなり高くなります。
① まず、虐待を考えなければいけない行動問題幼児
著しい過食・異食、過剰で無差別な対人接近(誰にでも馴れ馴れしく身体接触してくる)、加減のない荒っぽい・乱暴な言動(対象が一定しない-誰彼かまわず)
・小学生
単独での非行の反復(盗みと嘘、万引、放火など)、動植物への残虐な行為、加減しない攻撃的なことば・暴力
・中学生・高校生
 家出・徘徊の反復
② 虐待も可能性として考えなければいけない行動問題
・幼児
 保護者からの隔離に平気、過剰な警戒心
・小学生
 集団行動からの逸脱、反抗的言動
・中学生・高校生
 怠学、暴力行為、性的逸脱行為

<身体的虐待を疑ったときの対応>
Q 児童は、被虐待児にいわれている身体特徴にあてはまるところがありますか?
ある よくわからない ない → 通常の対応
↓    ↓
Q あてはまる項目に「P-1」に含まれる項目が入っていますか?
入っている よくわからない 入っていない

虐待を否定できません。
初期対応を行います。
Q あてはまる項目に、「B-1」に含まれる項目が入っていますか?
入っている よくわからない 入っていない

虐待を否定できません。
初期対応を行います。
Q あてはまる項目に、「P-2」、「B-2」両方の項目が入っていますか?
入っている よくわからない 入っていない

虐待を否定できません。
初期対応を行います。
Q この児童の問題が外傷・火傷・骨折・事故の場合、保護者が述べる理由に対して、十分納得されますか?
十分は納得できない よくわからない 十分納得できる

虐待を否定できません。
保健師へ連絡します。
Q この児童や親子について、何となく気になる感じがありますか?
ある よくわからない ない
↓ ↓ ↓
虐待を否定できません。通常の対応をしますが、保健師へ連絡します。念のため、1ヶ月間、経過観察します。

① 外傷
挫傷や熱傷、皮下出血(うっ血痕)などを確認できたときには、保護者に対し、以下のことをさりげなく訊きます。
保護者の応えが不合理に感じたり、訊いたことにきちんと応えていないと思っても、その矛盾点を指摘したり、追求するような態度をとらないようにします。
応えを聞いて怒ったり、不快感を露わにしたりすることなく冷静に耳を傾け、保護者のことばをそのまま記録していきます。
・ケガをしたのはいつか(日時とおおよその時刻)
・子どもがケガをしたときに一緒にいたのは誰か
・ケガはどこでおこったのか
・ケガはどのようにしておこったのか
・ケガがおこす前には、子どもはなにをしていたのか
・親はそれを見ていたのか
・親以外に見ていた人はいるか
・ケガをしたとき、子どもはどのような反応をしたのか
・親はケガに気がついてから、どのようなことをしたのか
上記のことをさりげなく訊いて、記録します。
外傷は、現在アクティブで治療の必要がないものでも、瘢痕(外傷、手術、火傷のあとなどにみられる傷痕)や色素沈着症(シミ)などが発見され、外傷性の原因が想定された場合には、同じように上記の内容を訊くようにします。
ただし、主訴と関係ない損傷について、詳細な聞き取りをすることは、親に警戒心をおこさせたり、不信感を抱かせたりすることになります。
保護者の態度やことばの状況から心理的抵抗を感じたときには、聞き取りを中止し、その状況を記録します。

② やせ、不潔、無表情、泣きやまないなど
これらは体重増加不良を除いて、通常の学校生活の中で気がつく問題です。また、外傷に伴うことも少なくありません。
これらの症状は、子どもの全身状態、身体的情緒的発育状態、日常の養育状況を反映しているもので、その背景には「ネグレクト」が存在する可能性を示唆しています。
このような場合におこなう聞き取りは、保護者の気持ちを配慮して責めるような口調になることなく、さりげなく訊くことが必要です。
保護者の欠点や育児能力の不足を指摘するようなことは慎み、保護者の苦労をねぎらうような優しい姿勢で臨みます。
聞き取りの内容は、以下のようなものが想定されます。
・一日の哺乳量や食事量
・入浴の状況
・遊びや散歩などの状況
・普段一緒にいるのは誰か
・夫は育児を手伝ってくれるか
・誰か育児を手伝ってくれる人はいるのか
・親の心身の健康度

③ 外傷の記載法
虐待が疑われる外傷の場合には、虐待の判断をするうえで重要な情報となりますから、正確で詳細な記録が求められます。
a) 外傷には熱傷、挫傷、擦過傷、裂傷などがありますが、まずは、損傷の正確な記録を心がけます。
b) 損傷は、その部位、大きさ、形状、パターン、色調、広がりなどを記録します。
損傷をスケッチし、そこに色名を書き込むことも役立ちますし、カメラによる撮影は極めて有効です。
損傷が多発性である場合は、人形図に書き込むことも考えます。
損傷は治療を必要とするものだけではなく、治癒過程にあるものや、すでに瘢痕や色素沈着となっているものも見落とすことなく記録します。

④ 虐待を受けた子どもの身体所見
虐待やネグレクトによる身体所見は多岐にわたり、同種類の損傷が多発性に存在する場合もあればいくつかの異なった種類の損傷が混在していることもあります。
また、発生時期を異にした、異なった種類の損傷が混在していることも少なくありません。
虐待やネグレクトで見られることが多い身体所見は、以下の通りです。
a) 体重増加不良
体重が標準よりも少ないというだけではなく、経時的な体重増加が悪いということも意味しています。
以前の体重よりも低下しているという場合さえあることから、体重は身長との比較が大切です。
身長と体重の伸びのバランス(やせ、肥満)を評価することも欠かせません。
栄養失調や脱水を伴う著明な体重増加不良は、栄養摂取量の不足や劣悪な育児環境が疑われます。
実際に、摂取しているカロリーが十分であっても、深刻な心身のストレス下では体重増加が不良になったりします*-12。
逆に、不十分な育児を補うかのように過量な食事量を与えられたため肥満状態を呈する子どももいます。
いずれにしても、継時的な客観的体重計測は重要なデータですから、正常な発育チャートにプロットすることが重要です。
*-12「深刻な心身のストレス下では体重増加が不良になる」については、「Ⅱ-12-(1)乳幼児。既に、母親と父親との関係性を理解している」の中で、「母親に対してDVがおこなわれていると、胎内にいる胎児の体重は増えないことがあります。」と記している通り、深刻な心身のストレスは、子ども(胎児を含む)の体重増加に影響を及ぼします。
b) 低身長
著明な低身長は愛情不足のみならず、心理的なネグレクト、身体的虐待に慢性的にさらされている子どもに発生することが知られています。
身長が伸びるか否かは「成長ホルモン」をいかに多く分泌させられるか、つまり、身長が伸びるメカニズムとして、骨の伸びしろである「骨端線」の存在や、その成長に「成長ホルモン」「性ホルモン」「甲状腺ホルモン」の3つのホルモンが大きくかかわっています。
「成長ホルモン」が分泌されるのは、夜、それも寝ている間ですが、「よく寝て」いても、身長を伸び悩ませる要因があります。
食生活が大きく変化した戦後からの高度経済成長期を中心に、日本人は欧米人にひけをとらないほど手足が長く、スマートで背の高い人が増えてきましたが、平成17年を境として、「日本人の身長はこれ以上伸びないだけでなく、今後は低くなる可能性が高い(文部科学省)」といわれています。
その原因が、「ストレス」です。
ストレスは、命にかかわるような危険にさらされたとき、すぐに逃げられるように体を緊張状態にする防衛システムを働かせます。
つまり、ストレスを受けると自律神経のうちの交感神経の働きによって体が緊張状態になり、コルチゾールの分泌量が増やします。
コルチゾールは、炭水化物やタンパク質、脂質の代謝をコントロールし、生体にとって必要なホルモンですが、増えすぎると身長を伸ばす成長ホルモンの分泌を抑制してしまうのです。
  子どもの身体的特徴は親からの遺伝が大きく影響するが、子どもの身長が将来どのくらいになるのかは、次の計算式で求めることができます。
・男子の場合は、(父親の身長+母親の身長+13)÷2±9
・女子の場合は、(父親の身長+母親の身長-13)÷2±8
  男子の「±9」、女子の「±8」部分が、遺伝以外の要因とされ、一般的に、身長は思春期を迎えてから急激に伸びるものと思われがちですが、この時期の成長の度合いは生まれつき決まっているため、思春期に入る前の9歳までの生活習慣が将来の身長の鍵を握っています。
c) 皮膚の損傷
皮膚は身体的虐待の標的として最も頻度が高い場所です。種類としては、挫傷と熱傷が最も一般的です。
挫傷(bruise)は、皮下出血(うっ血痕)を伴っているが皮膚の裂傷が見られない損傷で、一般的には打撲症と呼ばれます。
必ずしも「殴打」によらなくても、つねる、強く吸う、咬みつくなどの行いによって発生します。
挫傷の損傷部位は、虐待と事故では多少その頻度に差があることが知られています。
その他の皮膚損傷としては、擦過傷、裂傷、咬み傷、刺傷、引っかき傷、つねったことによる傷などがあります。
発生機転が推定できないことが少なくないので、記録するときには、損傷の客観的な所見(出血、皮膚剥脱、清潔度、大きさ、形(特定の道具を示唆する場合もあります)、色調)などに留意し、自発痛、運動痛、運動障害なども記録します。
この場合、人形図と個々の損傷のスケッチを併用することが役立ちます。
損傷の発生時期と色調の変化の経時的変化については、損傷の場所・大きさ・形状などによって異なることから、推定発生時期と共に具体的な色調を記録することが役立ちます。
(頭部) 腫脹や頭血腫が触知されます。脳圧亢進の有無が大泉門の触知から推定できる場合があります。
毛髪によって挫傷が隠されている場合があり、洗髪時にチェックすると有効です。
(耳) 耳介の挫傷や変形、外耳道内の異物、鼓膜所見など、必要があれば耳鼻科医の協力を求めます。
(眼) 角・結膜の浮腫、強膜出血、前房出血などは直達性の外力で発生します。
眼底出血はShaken-Baby-Syndrome に特異的な所見であり、虐待を受けた疑いのあるすべての子どもは、頭部外傷の有無にかかわらず、眼科医の協力を得て写真による記録を撮る必要があります。
(鼻) 鼻出血、鼻中隔変形、異物などが見られます。
(口、口腔) 上下の口唇小帯、舌小帯の裂傷、歯の外傷、齲歯の存在が重要です。
(胸部) 肋骨骨折の治癒過程が皮膚の上から触知されることがあります。通常の心音、心雑音、心拍数、不整脈の有無をチェックします。貧血による頻脈や駆出性雑音、全身状態不良に伴う不整脈などが聴取されることもあります。
(腹部) 圧痛、筋性防御、反跳性圧痛、グル音の異常などが腹部内臓損傷の際に診られることがあります。
(背部) 虐待による挫傷が多発する場所です。椎骨の隆起が骨折を示唆することもあります。
(性器、肛門) 紅斑、出血、挫傷、咬み跡、裂傷などがあります。肛門活約筋の異常も見られることがあります。
感染症の有無も重要です。
女児の外性器の診察は技術的にも所見の取りかたも専門性が高いので、性的虐待が疑われる場合には、性暴力被害者支援をおこなううえでの専門教育(SANE(Sexual Assault Nurse Examiner):性暴力被害者支援看護職)を受けている看護師、性暴力被害に精通した同性の婦人科医のもとでおこなわれることが望まれます。
(四肢) 虐待の被害を受けることが多い場所です。
軟部組織の腫脹、局所的な自発痛や圧痛、運動障害などが見られます。

⑤ 放射線所見
身体的虐待が疑われる場合には放射線診断は不可欠であり、積極的におこなう必要があります。

<放射線診断の適応>
a) 疑われる場合は無症状や病歴不詳例などが隠れている2歳以下では全員に全身骨X線撮影(骨スクリーニング)をおこなう(家族の許可はとらずにおこなうことが多い)
b) 2-5歳では診察所見で骨損傷の疑いのある症例のみ全身骨X線撮影をすべきといわれています。年長児では無症状の骨折は経験されないため、この検査は不要です。

<放射線診断の方法>
a) 2歳以下のレントゲン撮影では全身の前後像を一枚のX線写真で撮影するのではなく、各部位における撮影方法を選択して細分化しておこないます
b) また、撮影は1回のみではなく、1-2週間後に再度行い、初回検査時には見逃されやすい微細な骨折を見逃さないようにすべきです
c) この再検査は1歳未満の乳児など低年齢児には不可欠で、その理由は骨折による変位が少なく、受傷早期の診断が困難であることと身体的虐待での骨折が乳児期にきわめて多いことの2点からです

<実際の全身骨の撮影方法>
a) 頭蓋骨正面側面、胸郭(胸部ではない)正面側面、頚椎側面、腰椎側面、股関節正面、大腿骨正面(左右)、下腿骨正面(左右)、上腕骨正面、前腕骨正面、手指骨正面、足趾骨正面を撮影します
b) 骨折所見が陽性の部位は最低でも正面と側面像も撮影しますし、必要なら斜位像も撮影します。
c) 胸部撮影では肺野に照準が行くため、必ず胸郭撮影とオーダーすべきといわれています
d) 骨折疑い部位はさらに精査する必要があり、熟練の放射線科医に相談し、その最適な撮影方法を検討することが必要です
e) 骨折を正確に見抜くという観点からも常に、適確な読影力を有した放射線科医あるいは小児科医、整形外科医との連携を図っておく必要があります

<虐待による骨折自体の特徴>
 自然外力ではなく、人為的な外力による骨折ではその特異性が知られています。
つまり、虐待による骨折として特異度の高い骨折・骨折部位を知っておく必要があります。
a) 特異度の高い骨折
骨幹端骨折、肋骨(背部の肋骨脊椎接合部)、棘突起骨折、胸骨骨折、肩甲骨骨折
b) 特異度が中程度の骨折
骨端離開、脊椎の骨折や脱臼、指趾の骨折、頭蓋の複雑骨折、複数骨折(特に両側性)、異なる骨折時期の存在
c) 特異度の低い骨折
鎖骨骨折、長管骨骨幹部骨折、頭蓋骨線状骨折

<骨折年齢による特異度>
 骨折部位での特異度はあるものの、実際には歩けない5ヶ月児が大腿骨骨幹部骨折、あるいは頭蓋骨線状骨折があれば、虐待の特異性は高くなるといえます。このように虐待による骨折の判断は子どもの年齢が重要です。
a) 自然外力による骨折の85%以上は5歳以上といわれます
b) 逆に、虐待による骨折の90%は2歳未満といわれています

<受傷機転による骨折の形態>
 人為的外力による骨折、すなわち虐待に特異性があると考えられる受傷機転の骨折形態があり、それだけで虐待を疑う必要があります。
a) 骨幹端骨折(corner fracture bucket handle fracture)も自然外力ではとてもおこりえない骨折形態です
b) 長管骨に捻転するような外力が加わると起こるらせん状骨折
c) パイプを折り曲げるような外力が長管骨に加わったときにおこる、対側の骨膜・皮質は保たれ、片側のみ骨折という特徴ある鉛管骨折

<部位別特徴>
a) 頭蓋骨
ア) 脳実質損傷(硬膜下血腫)の約70%は実際に頭蓋骨骨折を伴わず、伴っているのは30%前後といわれます
イ) 頭蓋骨の複雑骨折や多発骨折、反復骨折、受診までの時間が長いなどの場合は虐待を疑います。可能な限り、頭部CT撮影もおこなう必要があります
b) 顔面
  鼻骨が最も多く、眼窩底骨や頬骨なども経験されます。3D-CT(ヘリカル)撮影は骨病変を観察しやすいことからおこなう必要があります。
複数の歯牙骨折・脱臼は歯牙全体を映し出すパノラマ写真撮影が有用です。
c) 躯幹
虐待による鎖骨骨折は肩甲骨に近い外側部・遠位端の骨折が多い。肋骨骨折は胸郭に対し圧迫力が前後に加わり、脊椎横突起が支点となり、肋骨と脊椎骨の接合部の骨折が特徴です。
脊椎骨では棘突起の骨折を見逃さないよう、必ず横撮影が必要です。
d) 四肢
ア) 長管骨:鉛管骨折やらせん状骨折など骨折機転の特徴を推測し、複数の陳旧性骨折或いは多発骨折やその既往歴に注意します。
骨幹端骨折は虐待に特異度の高いものです。
イ) 手足の骨:中手骨・中足骨、指趾は骨折が判りにくい。1-2週間後の再撮影をする
e) 頭蓋内病変
 頭部CTまたはMRIを、例え死亡例でも可能な限り、放射線診断を行う必要がある

⑥ 発達のチェック
身体的虐待やネグレクトによる発達の遅れ、発達障害は虐待の危険因子など、虐待を受けた子どもに発達の問題を認めることがあります。
発達の評価は保護者、母子手帳などからある程度可能ですが、子どもの状態によっては直接観察によって評価できることもあります。


(3) 虐待による熱傷の所見
身体的虐待の外傷痕の基本的特徴は、①外部から見えにくい部位(大腿内側部、腋窩部、背部、臀部、頭皮内など)に外傷が存在すること、②新旧混在した外傷があること、③外傷痕から加害原因物(タバコ、ベルト、火箸、紐など)が容易に推定できることの3点があげられます。
熱傷においても例外ではなく、この特徴を踏まえて熱傷痕を観察します。

<虐待による熱傷の特徴>
① 身体的虐待において、熱傷は約9%との報告がみられますが、その多くに、タバコ熱傷が存在するため、これを見逃さないようにする
② タバコなど小型の熱源による熱傷部位は臀部、大腿内側部、腋窩、腹部など露出していない部位に多い
③ 熱傷面が一様な重症度を呈して健常部との境界が明瞭である
④ 逃げられない子どもが受傷するため、熱源が容易に推定できる
⑤ 飛び散ったり、かぶったりの受傷(splash burn)がないか、ほとんどみられない
⑥ 乳幼児のアクシデントによる熱傷は手掌などの上半身中心に受傷していることが多い
⑦ いずれにせよ、熱傷部位の特徴より、熱傷痕の特徴(境界明瞭、熱傷深度が均一)のほうが、虐待の熱傷に、より特異度が高い

<熱源別特徴>
① タバコ・車のシガレットライター
a) タバコによる熱傷は最も高頻度に経験される
b) いずれにせよ、衣類による被覆部に熱傷を負っていることが多いため、疑いが生じた症例では、必ず、裸にして(下着も脱いで)の全身観察をする(医療機関では受診の主訴と異なっていても、裸にしての全身観察が求められているといえる)
c) 中には、若干、タバコ熱傷と即断できない熱傷痕もありますが、受傷部位、新旧混在の外傷痕、などから総合的に診断する
d) シガレットライターによる熱傷痕もその多くはタバコ同様に熱傷痕の形状から一目瞭然であり、熱傷源を推定でき、虐待を強く疑う
② 家庭用品
a) 火箸、焼き網、アイロン、カールゴテなどが経験されますが、時にはクリーニングで使用される金具製ハンガーなどでも経験される
b) 熱傷を受ける部位は経験上、胸部・腹部などの躯幹の前面のみだけではなく、背部も多く経験されますし、四肢も少なくない
c) いずれにせよ、熱傷面が一様の重症度・深達度であり、境界明瞭であることから熱傷源の推定が可能なことが多いといえる
d) 熱さによる本能的な子どもたちの逃避・回避行動が熱傷面に見られるかどうかを見極めることが、虐待による熱傷の診断に最も重要である
③ 加熱液体(熱湯など)
a) 乳幼児において、熱湯での熱傷は不慮の事故による熱傷の原因としても多いわけですが、実際に63.8℃のお湯では1 秒間の接触でⅡ度熱傷を起こし、10 秒間の接触でⅢ度熱傷までおこすことが知られている
b) 不慮の事故と異なり、回避・逃避行動がないため、液体による熱傷なのに、境界が明瞭であり、熱傷の重症度が一定という、最大の特徴がある
c) 不慮の事故による液体熱傷では経験されない部位、すなわち、躯幹-臀部、四肢など、部位的特徴もある
d) 旧式の風呂などのお湯に漬けられると、上部の湯温が高く、下部の湯温は低いことが特徴のために、熱傷の上部部位が境界明瞭・熱傷度均一、左右対称であり、下部になると熱傷度も軽くなり、不均一になるという特徴がある
e) また、被虐待児が抵抗できないとはいえ、身を丸めて痛みをこらえるなどの動作にて、腹部の皺部分は熱傷度が低いために、皺に沿って健常皮膚が残ったりすることも特徴。あいはもがいて手足の熱傷度が軽いことも経験される
f) 熱傷部の上部が境界明瞭であり、熱湯が飛び散っての熱傷痕である、splash burn がないことが特徴
g) 臀部から熱湯に浸漬されると周囲の熱傷度が強く、中心部の熱傷度が弱いためにドーナツ現象を起こすことも虐待の熱傷として知られている
h) 手足を熱湯に浸漬されると、手は手袋(グローブ)状に、足は靴下(ソックス)状に一様に熱傷することも虐待に特徴的な熱傷として知られている
i) 口腔内熱傷は乳幼児では余り起こりえない熱傷ですから、口腔内熱傷(特に軟口蓋や口蓋垂や咽頭壁などまで)の場合には強く虐待を疑うべきで、加熱液体を無理矢理飲ませた可能性があるといえる
④ その他
a) その他の熱傷では、あらゆる物体が熱源となりうることが知られている
b) 夏場の直射日光で加熱された、アスファルト、鉄板、あるいは車体などがあり、他にはエンジンを始動しているバイクのマフラーなど
c) いずれにせよ、日常的には有り得ない受傷機序であり、熱傷面が均一の重症度であることが虐待疑いの第一歩となる
最後に、これらの熱傷における虐待判断において、熱傷から受診までの時間の遅れ、あるいは民間療法や放置などによる、熱傷面の感染・汚染を認める場合は強く虐待を考えます。
実際に、熱傷面は感染しやすい特徴があり、感染している場合には受傷から、受診までの時間が必要以上に経過していることを重視しなければなりません。


(4) ネグレクト(neglect)
子どもを遺棄すること、健康状態を損なうほどの不適切な養育、あるいは子どもの危険について重大な不注意を犯すことをネグレクトといいます。
栄養不良、極端な不潔、怠慢ないし拒否による病気の発生、学校に登校させないなどがあります。
ネグレクトは決して軽い虐待ではありません。
乳幼児期では死の危険すらあります。適切な愛着関係、母子関係、信頼関係が築かれないため、将来さまざまな問題行動をひきおこし、人格形成に重大な影響を及ぼします。
また、保護者はさまざまな問題を抱えていることが多く、養育能力がなかったり、精神障害を抱えていたり、兄弟がいるときは、全員に影響が及びやすいことが知られています。
保護者が「ネグレクトしています」といって、教職員に相談にきたりすることはほとんどありません。
もちろん子どもが自ら訴えることもありませんし、できませんので、忘れ物が多かったり、遅刻が多かったりする児童が、朝ご飯を食べてきているのか、いないのかなどに気づくことが大切です。
外傷もないことが多く、誰かが気づいて通告しないと援助がはじまりません。

① 衣食住の身体的ケアを与えない〔栄養ネグレクト・衣服ネグレクト・衛生ネグレクト〕
ご飯を食べさせてもらえないために体重増加不良、栄養失調になります。夏場などでは脱水症にも注意が必要です。
着替えをさせてもらえないために体が臭う、オムツかぶれや湿疹がひどいときには、乳幼児健診、幼稚園・保育園、学校で気づくことができます。
親の生活リズムに合わせた子どもの生活リズムの変調、家庭内の繰り返される事故もネグレクトと考えることができます。

② 発達に必須な情緒的ケアを与えない〔愛情剥奪症候群、情緒ネグレクト〕
発達の遅れ、低身長、低体重(やせ)となり、感情表現ができなくなります。
そのため、他人への共感と配慮を欠き、コミュニケーションが取れない、人間関係が築けないことが問題となります。
好奇心や学習意欲が低下し、愛情への渇望と執着がみられることがあります。
身長体重は健診などを受けていれば、母子手帳の発育曲線にプロットしてみるとよくわかります。
「Ⅱ-9.脳と子どもの発達」で説明している通り、脳の発達を含めて発達には、“臨界期”があります。
早期に発見し、適切な対処をしないと発達の遅れは不可逆的です。

③ 子どもの安全を守るために必要な監視を怠る〔環境ネグレクト〕
何日間も保護者が出歩いて、子どもが家に一人で放置されていたり、車の中に子どもをおいてパチンコに興じていたり、火傷やたばこの誤飲も、繰り返されればネグレクトになります。
しかし、日本では、子どもが寝ているから車の中において、ちょっとスーパーで買い物にでたり、子どもが寝ているので、家においてちょっと買い物にでかけたりすることが、“あたり前”におこなわれていたりします。
こうしたふるまいは、アメリカでは直ちに通報される虐待行為です。
「なにが虐待になるのか」については、社会のコンセンサスが必要です。

④ 必要な医療や乳児健診、予防接種を受けさせない。〔保健ネグレクト・医療ネグレクト〕
乳児健診の未受診者へのアプローチは地域の母子保健の大きなテーマです。アレルギー疾患、心不全やてんかんの薬を適切に飲まさない、勝手に中断する、医療機関に受診するのがいつも遅い、不必要に頻回に受診する、夜間診療しか受診していないといった中に、「虐待」が潜んでいることがあります。
基礎疾患や障害のある子どもの経過が自然歴なのかネグレクトの影響を受けているのか鑑別し、判断することは医療機関での診察のみでは不可能です。
地域での社会的状況、生活状況の情報の収集が不可欠です。
なにかがおかしいと感じるセンスが虐待の早期発見につながります。

⑤ 必要な教育を受けさせない。保育園・幼稚園、学校に行かせない。〔教育ネグレクト〕
幼稚園、保育園では親の都合や親の生活の乱れで登園できない、無断でこない、着衣が不潔、保育園や小学校では「がつがつ」食べる、お迎えがきたとき子どもの態度が変わったりすることが、虐待発見のサインになります。
また、小学生にもなると、兄弟の世話をさせたり、家事をさせたりするために、登校させないといったこともでてきます。

⑥ 捨子、親子心中の道ずれ 最近では保険金殺人〔遺棄・殺人〕
 間引きは江戸時代におこなわれていました。親子心中は、日本独特の文化背景があるといわれています。
つい最近まで、わが国には尊属殺人というという項目があり、親子心中の失敗から子どもだけが死亡しても罪に問われない一方、いかなる理由であれ、子どもが親を殺すと他人への殺人より重い罪を課せられていました。
また、母親がわが子に保険金をかけて殺害する事件がおきたりします。
保護者の養育能力を評価することが必要になります。
経済的問題、家庭崩壊だけではなく、時に、カルト的な信仰宗教などが関与していることがあります。
保護者の知的レベルが低く、援助なしには養育が不可能なこともあります。
母親の精神病や精神障害もまれではありません。
気づくことができても、精神科医療につなげることは、一般的に極めて困難です。

<ネグレクトに気づくために>
-ネグレクトされた子どもの身体的特徴-
① 体重増加不良、体重減少
② 不衛生、不適切な衣服
③ 無気力、顔色不良、元気がない
④ 病院への受診の遅れ
⑤ 慢性疾患の放置、不完全な治療
-ネグレクトを受けた子どもの精神的特徴-
① 乳幼児期の発達の遅れ(ことばの遅れ)
② 幼児期の問題行動(集中力のなさ、多動、攻撃性、衝動性)
③ 学童期の問題(学習困難、自己評価の低さ、協調性のなさ)
-ネグレクトを受けた子どもの行動面の特徴-
① 頻回のけが、事故
② 夜間の徘徊、家出
③ 食べ物に対する問題(がつがつ食べる、盗み食い など)
④ 園、学校の遅刻の多さ、休み
⑤ 子どもに物乞い、盗み、労働、家事などをさせる
⑥ 薬物、アルコール
⑦ 多動、反社会的行動


(5) 性的虐待が気になるとき
性的虐待とは、子どもにとっての性の安全が守られて健全な性の発達が保障されるという権利が年長者から侵害されることです。
被害はどのような子どもにもあり得ます。
乳幼児でもありますし、女児のみではなく、男児への性的虐待も決して少ないものではありません。
性的虐待は、必ずしも性器への接触があるとは限りません。
例えば、幼児の手の届くところにAVビデオ(DVD)を放置したり、パソコンを開くとヌード画像がでているようにしてあったり、アダルトサイトにアクセスできる状態になっていたり、ひきだしに無造作にアダルトグッズがしまわれていたりするなども、子どもにとっては過度の性的刺激になります。
そうした性的刺激は、時には、弟や妹、年下の従兄弟、友だちの弟や妹などに対して加害に転じてしまうこともあります(逆に、兄や姉、年上の従兄弟、友だちの兄や姉から性的虐待を受けることあります)。
また、SNS、コミュニティサイト(アダルトサイト)などの利用から援助交際に発展していたり、性暴力被害にあったりすることが増えてきています。近親者による性的虐待なのか、第三者による性暴力なのか、加害者が誰なのかはデリケートな問題ですので、性暴力被害に精通している婦人科医、性暴力被害者支援をおこなううえでの専門教育(SANE(Sexual Assault Nurse Examiner):性暴力被害者支援看護職)を受けている看護師などが聞き取りにかかわるようにします。
ハーマンが示す児童期の性的虐待の基準は、「Ⅱ-11-(4)性的虐待」の中でとりあげていますが、再度、載せておきます。

<児童期性的虐待の基準(ハーマン著「父-娘 近親姦」抜粋)>
重度   内  容
A ・膣、口腔、肛門内への挿入、クリニングス、アナリングスなどの既遂ないし未遂 強制的である場合もない場合も含む
B ・性器への愛撫、擬似性行、手指挿入などの既遂 強制的である場合もない場合も含む
  ・母をレイプしているところを見せつける
C ・臀部、もも、脚あるいは他の身体的部位への意図的な性的タッチ、衣服の上からの胸、性器への接吻の既遂ないし未遂 強制的である場合もない場合も含む
  ・入浴中に娘を覗く、視姦、性器を見せる
D ・卑猥なことばをかける
  ・トイレのドアを開けるなど、接触を含まないセクシュアリティに侵入する行為
E ・性的虐待の可能性(回想不能)

① 疑い
a) 身体的訴えから
ア) 性器あるいは肛門の裂傷・出血
  机の角にぶつけた、鉄棒から落ちたなどの説明が多いのですが、膣裂傷は事故ではおきませんし、転倒などの簡単な事故で性器や肛門だけに裂傷が存在することは殆どありません。
特に思春期前の子どもでは、これだけで性的虐待と考えるべきです。
イ) その他の性器・肛門・大腿内側の外傷
  内出血、熱傷(タバコが多い)などが見られることがあります。
本人や親の説明が妥当かどうかの判断が必要です。
ウ) 性器の感染症状および掻痒感
思春期前では膣の自浄作用が少ないため、物理的刺激で一般細菌感染がおきやすい傾向があります。虐待による刺激や虐待の結果としての自慰から症状が持続することがあります。
また、微細な傷による掻痒感や、その感覚がPTSDの再体験としてよみがえっている場合もあります。
エ) 膀胱炎・尿道炎の症状
「Ⅱ-13-(5)性暴力被害と解離性障害」でとりあげた「事例166」のように、繰り返される性的虐待の結果、膀胱炎や尿道炎を繰り返すことがあります。
繰り返される泌尿器感染症でも性的虐待を疑うことが必要です。
オ) 性感染症の症状
HIV、梅毒、淋菌、クラミジア、ヘルペス、扁形コンジローマなどの性感染症は性交によって生じるので、思春期前の性感染症では、性的虐待と考えなければなりません。
カ) 妊娠
相手が不明な妊娠では、性的虐待を疑う必要があります。
特に、親がつき添ってきて、子どもの言動を監視しているようなときには、特に注意が必要です。
キ) その他の症状
性的虐待を受けた子どもは不定愁訴が多くなります。
下記に示すような行動などが存在したときには、性的虐待も鑑別診断に入れる必要があります。
a) 行動上および精神的症状
ア) 思春期前の自慰
幼児期に虐待以外で起きる自慰は自然の発見で、うつ伏せになって体を揺するとか、ソファーの角などに性器を押しつけるなどがほとんどですが、他人の手を自分の性器に持っていく、きょうだいや人形にまたがって性器を押しつける、自分の指を膣に入れるといった形の自慰は、性的虐待が強く疑われます。
イ) その他の性的言動
性的虐待を受けた子どもには、性化行動(年齢不相応な性的行動化)が多く認められます。
幼児での大人の服を脱がそうとしたり、他人の性器を触ろうとしたり、性に関する質問を多くするなどの性的言動の増加は強いサインです。
年長児では性的逸脱が多くなりますので、その場合も疑う必要があります。
また、弟や妹、年下の従兄弟、友だちの弟や妹への性的加害につながることもあります(逆に、兄や姉、年上の従兄弟、友だちの兄や姉から性的虐待を受けることあります)。
ウ) 転換症状・解離症状
手の麻痺や嚥下困難などの転換症状がマスターベーションの強要や口腔性交の結果として出現することがあります。
意識消失や健忘などの解離症状がみられるときには、性的虐待を考慮する必要があります。
エ) 不特定な症状
これまで自分がした悪いことを上げて不安がる、自傷行為をする、ファンタジックな話が急に多くなる、寝ることを不安がる、一人で寝たがらない、人との身体接触を不安がる、トイレに行くことに不安になる、一度なくなっていた夜尿が出現する、などといった症状が出現したときには、性的虐待の可能性も考慮する必要があります。
オ) 診察時の言動から疑われるとき
・衣服を脱ぐことへの抵抗…診察時に衣服を脱ぐことに異常な抵抗を示す思春期前の子どもでは性的虐待を考える必要があります。
・年齢不相応の性的ニュアンス(いわゆる「セクシーさ」)や言動…他者に近づくときに些細なしぐさなどに性的ニュアンスが伴いがちになります。それを見逃さないことも大切です。
・親子関係の不自然さ…診察時の親子関係から性的虐待が疑われることもあります。

② 診察の基本
a) 身体的診察
全身の詳細な診察が必要です。なぜなら、他の虐待の合併も少なくないからです。
ただし、再トラウマになるのを避けるため、診察に関する説明をして納得してもらう、着脱時には不必要な人がいない、ガウンやバスタオルを使うなどの配慮が必要です。
b) 性器の診察
性器の診察は、できるだけ同性の婦人科の医師が行うように努めます。
さらには、性暴力被害者支援を行なううえでの専門教育(SANE(Sexual Assault Nurse Examiner):性暴力被害者支援看護職)を受けている看護師のもとでおこなわれることが望まれます。
子どもの年齢に応じて理解できるように手技を説明し、できるだけ短時間の観察に努めます。
所見は1-2週間で消失してしまうので、できるだけ早期に紹介する必要があります。
それが困難なときには、大きな異常がないか、性感染症はないかだけでも検査し、記載しておくことが大切です。
また、生理がはじまっている児童に対し、性行為(膣内での射精)がおこなわれている疑いがあるときには、性感染症の問題だけではなく、妊娠の可能性もでてくることから、場合によっては、72時間ピルの処方なども考えなければなりません。

③ 検査・治療・対応
a) 検査
性的虐待を疑ったときは、妊娠の検査、性感染症の抗体検査、膣感染症では一般細菌の膣拭い液の培養、泌尿器感染症では尿検査を行います。
尿中から精子が発見され、性的虐待が証明されたこともあります。
b) 対応
ア) 治療…身体医学的、精神医学的な症状への治療をおこなう
イ) 可能性の判断…以下を参考に判断
・ほぼ確実…本人の開示、親の開示、性器に精液が存在
・疑いが非常に強い…性器・肛門の裂傷や性感染症などの確実な医学的所見、低年齢での著明な性化行動
・疑いが強い…性器感染、可能性を示唆する複数の所見、高年齢での性的行動化
・性的虐待の可能性を考慮に入れる…疑いを示唆する所見が一つあり、不特定症状
ウ) 児童相談所への通告
・必ず通告すべき…可能性の判断のa)かb)に該当し、現在も虐待が続いていると考えられるときには医療機関にいるうちに児童相談所に通告します
・状況によって通告すべき…可能性の判断でb)の4つの項目にあたる場合には、他の情報を得て検討し、通告すべきかどうかを判断するか、虐待を多く扱っている医療機関に紹介します
・児童相談所に相談を求めるとき…以前に性的虐待があったが、現在は虐待者とは会わない状態にあるときには、緊急に通告が必要とはならないが、子どもの精神的な問題やその後の対応のため、児童相談所に相談することを勧めます



2014.1/9 小学校教職員のための「児童虐待・DV対応の手引き」..学校として虐待の早期発見と対応手順
2015.4/18 改訂新版
2016.3/11 ブログ再編成(第3次改訂)に伴い、『暴力の影響を「事例」で学ぶ。DVの早期発見・支援。母と子どもが暴力から脱するための手引き』の「第3章(Ⅲ(13-20))」として再編集、掲載
2017.4/25 「第3章(Ⅲ(エピローグ、16-23))」の「改訂2版」を差し替え掲載




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