あなたは、夫の暴力・DVを容認していませんか? 暴力のある家庭環境で暮らす子どもの心を守ることを忘れていませんか?

[Ⅲ-6]Ⅲ.学校現場で、児童虐待・DV事案とどうかかわるか

Ⅲ.学校現場で、児童虐待・DV事案とどうかかわるか

 
 17.初期対応としての緊急性の判断 第1部の結びとして
* 現在、この「手引き」は、第3次改訂の編集をおこなっています。編集終了後、差し替えていきます。

第2部
Ⅲ.学校現場で、児童虐待・面前DVとどうかかわるか
・事例208-209

エピローグ
・事例210(事件研究1:厚木男児監禁遺棄致死事件(平成26年5月))
・事例211(事件研究2:江戸川区岡本海渡くん事件(平成22年1月))
・事例212(事件研究3:狭山市羽月ちゃん事件(平成28年1月))
・事例213

16.児童虐待の定義
(1) 児童虐待の定義
(2) 虐待を疑うということ
  ・事例214-219
・代理ミュンヒハウゼン症候群
(事例220-221)
(3) 児童虐待への対応に関する法律
(4) 教育現場で、児童虐待の早期発見を妨げる心のブレーキ
(5) 児童虐待を見逃さないために
(6) 早期発見のためのチェックリスト
 ・保育園用
  ・学校用
(7) 虐待している保護者の特徴
 <虐待が推察される親の行動>
  <その他の虐待や放置をする親にしばしば見られる行動様式や問題点>
 <虐待を疑ったときの保護者に対する接し方>
・保護者が被虐者であるとき、境界性人格障害の特性を理解しておくことが役立つ

17.初期対応としての緊急性の判断
(1) 学校検診(保健室)における虐待への気づき
 <学校健診(保健室)における虐待対応フローチャート>
(2) 身体的虐待を疑う
 <身体的虐待を疑ったときの対応>
 <放射線診断の方法>
  <受傷機転による骨折の形態>
  <部位別特徴>
(3) 虐待による熱傷の所見
  <虐待による熱傷の特徴>
 <熱源別特徴>
(4) ネグレクト(neglect)
 <ネグレクトに気づくために>
(5) 性的虐待が気になるとき
  <児童期性的虐待の基準(ハーマン著「父-娘 近親姦」抜粋)>

18.性的虐待への初期対応
(1) 発見の難しさ
(2) 適切な気づきのための留意点
 <子どもの性暴力被害の兆候:共通して示す症状や行動>
(3) 児童の訴えを聴くとき
(4) 児童の訴えを聴くときの留意点
(5) 通告したら
(6) 性的虐待・家庭内性暴力の通告にあたる児童の告白内容
(7) より本質的なこと:性的虐待、家庭内性暴力の予防について

19.子どもの心理的援助-トラウマ反応について学ぶ-
(1) トラウマ(心的外傷)の3つの反応(制御反応)
(2) 虐待によるトラウマの接近
(3) トラウマからの回復

20.児童相談所への「通告」と連携
(1) 児童虐待防止法第6条にもとづく「通告」がはじまり
  <児童相談所等への通告についての留意点>
 <通告の内容>
  <通報後、保護者の抗議>
(2) 身体的暴力のあるDV環境下では、6割の子どもが身体的暴力を受けている
 <できることからはじめよう>
(3) 学校でできること
 <児童が一時保護されたら>
  <児童が家庭復帰するとき援助>
(4) 校内連携
(5) 関係機関との連携
 <児童相談所での相談の流れ>

21.通告後の児童への対応。子どものケア、回復のプロセス
(1) 児童への対応
 <児童への日々のかかわり方>
 <児童への質問法>
(2) 混乱した行動への対応
(3) 子どもの心理的なケア
(4) ASDとPTSDの回復への支援の原則
(5) 心の回復プログラム
(6) ケアする人に求められること
(7) 虐待を受けてきた子どもへの対応
  ・最低限の規範としてのルールの明示は、子どもの生活の見通しを助ける
(8) 学校園での周囲の子どもへの対応
  ・正確な記録を残すポイント

22.児童虐待・DV事件、保護者の苦情の捉え方
(1) 大切な初期対応
  ・記入例
 <子どもからの聴きとりの留意点>
  ・謝罪例
(2) その後の組織的な対応 -学校として保護者等の声と正対するために-
  <かかわり方の難しい事例のパターン>
  ・対応例1-2
 <学校内でおきた事故に対する補償>
  ・対応例3-5
(3) 保護者とのかかわり方
 <基本的対応>
  <家庭との対応の目標>
 <保護者の虐待への反応類型>
  <保護者との面談、家庭訪問のポイント>
(4) 一時保護の決定、保護命令の発令事案への学校の対応-基本的心得-
(5) 学校でのDV加害者からの追及と対応のあり方
 ・対応例6-11
 <回答を拒否する法的根拠>
 <最高裁判決>
 <教職員・援助者に対する妨害行為>

23.援助者(支援者)・教職員のメンタルケア
(1) 援助者(支援者)・教職員の傷つき
(2) 援助者(支援者)・教職員が傷ついたとき、心の手当てのあり方
  ・子どものへの応用

第2部の結びとして
  ・感情耐性
  ・援助者・支援者の感情耐性


虐待の発生要因として、親自身が虐待を経験していること、生活上のストレス、社会からの孤立、子どもの育てにくさなどがあげられますが、「子どもの育てにくさ」には、養育者の「子どもがなにを考えているのかわからない」との不安、「かわいくない」との思い、一方の子どもは「どうふるまったらいいのかわからない」といった発達障害的心性が背景にあることが少なくありません。
「片時もじっとしていない」、「パニックになって暴れる」、「急に飛びだす」、「全然片づけようとしない」、「会話がうまく通じない」などの特性を持つ発達障害(自閉症、アスペルガー症候群(AS)、注意欠陥多動性障害(ADHD)、学習障害(LD)など)の子どもは、小さいときからずっと怒られたり、叩かれたりするリスクが非常に高くなっています。
発達障害の子どもが「してはいけない」ことを、親が直そうと強く教えたり、「どうしてできないの!」と叱責したりすることが、ときに虐待(過干渉・過保護、教育的虐待を含む)につながっています。
最初に、発達障害であることを知らずに成長した女性が、母親にどのように育てられ、どのような思いを抱いてきたのかがよく示された事例をひとつ見ていただきたいと思います。

-事例208(過干渉3・教育的虐待4/発達障害)-
私は、相手の気持ちを読みとるのが苦手です。
いわれたことをそのまま受けとってしまったり、ひとつのことに集中すると他を忘れてしまったりします。子どものころから忘れ物が多く、集団行動が苦手でした。
当時、それが発達障害によるものだと知らなかった母親に「あなたはダメな子」といわれ続けました。ことばをそのまま受けとってしまうため、叱られるたびに「自分はダメな人間だ」と思ってきました。
母親が何気なくいった1のことを、私は100に受けとめていました。
親の存在って、親が考えている以上にすごく大きいと思います。その親に否定されることは、自分を肯定する力を全部奪いとられる感じがしました。
そして、私は進学、就職、恋愛、なにかを決断するとき、いつも母親に否定されない方を選ぶようになっていきました。母親に愛されたいと思い、すごくほめられたくて、母親が望む自分になろうと必死でした。
しかし、「人生が自分のものではない」という感覚に襲われることもありました。私は、上手に切り分けができないので、「ここは私のところ。入ってこないで」とかいうのがうまくできませんでした。
一方で、私は自分から手を握ったりはできても、ギュッとされると痛い感じになってしまいます。
そのため、上手にスキンシップをとるのが難しくて、私には「お母さん」という温かいイメージがありません。
そうした中、発達障害のある人たちが集まり、支援や啓発活動をおこなうNPOに出会い、「親のいうことなんてきかなくていいんだよ。」、「あなたはあなたなんだから。」といわれ、母親との関係を見つめ直すきっかけになりました。

もうひとつ、「場面緘黙(かんもく)症」の子どもが見せる症状や傾向について知識がないこと(無知)が原因で、教職員がその児童に暴言を吐いたり、体罰をしたりするなど間違った対応をしてしまった事例を紹介したいと思います。

-事例209(教師体罰1・いじめ2/場面緘黙症)-
私は、学校へ行くと、いくら話そうと思ってもどうしても話すことができません。
話す機能が自動的にシャットダウンするような感じで、見えない鎖に封じ込められている感覚になります。
喉が苦しいような、詰まってしまうような感覚もありました。
小学校1年生のときの担任教諭からは人格を否定されるような暴言を吐かれ、体罰まで受けました。
同級生からもいじめにあいました。
しょっちゅう鉛筆や教科書を盗られ、カッターで切りつけられたことさえありました。それでも学校を休みたくなかったのは、別に学校が好きだったわけではありません。授業についていけなくなるのが怖かったからです。
もし私が休んでいる間に授業が進んでしまっても、私は「ノート見せて」とことばにすることができません。わからなくても、「教えて」と誰にも訊くことはできません。忘れ物をして、「消しゴム貸して」とことばにすることができないので、忘れ物しないようにすごく気をつけていました。

「場面緘黙症」とは、家庭では問題なく話せるけれども、保育園や幼稚園、学校などの特定の“場面”で発話が見られない状態が1ヶ月以上の長期にわたって続く症状のことです。
なにかのショックで話せなくなる「トラウマ性緘黙」や声がでなくなる「失声症」とは区別され、自閉症スペクトラム障害(ASD)などの発達障害、吃音症(きつおんしょう)など、言語発達の問題を併存している場合があります。
そして、なにも支援を受けずに成長した場合には、コミュニケーション能力、社交スキルをトレーニングする機会を逸してしまい、話さない期間が長ければ長いほど鬱状態や社会不安障害など“二次障害”が発生するリスクが高まるとされています。
そのため、放置するのではなく、早期発見と早期支援が重要とされています。
場面緘黙症の子どもは、周囲から「あの子、なんで喋らないの?」とか、「「あ」っていってみて?!」とからかわれても押し黙ったままです。
また、“話せない”だけでなく、体を動かそうと思ってもスムーズに動けない緘動(かんどう)という症状を伴っていることもあります。
そのことから、事例209のケースのように、「場面緘黙症」の子どもはいじめにあいやすいだけでなく、保育園や幼稚園の保育士、小学校の教師に「どうしてなにも話さないの?!」と激しく叱責されたり、人格を否定されるような暴言を吐かれたり、体罰を受けたりしていることが少なくないのです。
声をだそうとしても本当に“話せない”にもかかわらず、話すこと、ちゃんとやることを強要するように叱責されてしまい、ますます声をだすことができなってしまうのです。
こうした叱責や体罰は、保育士や教師、養育者が不安症としての「場面緘黙症」であることを知らないこと、つまり、無知や無理解が原因になっています。
親や教職員は、アスペルガー症候群やADHDなどの発達障害を抱える子どもへの対応のあり方について知識を得たり、対応技能を学んだりすることで、発達障害を抱える子どもへの理解は少しずつ深まってきました*-1。知る機会さえあれば、対応そのものが変わることが期待できるわけです。
しかし、肝心の知る機会をえるときに、知るべきものとして扱われていなかったり、重要事項として組み込まれていなかったりすれば、その対応そのものに問題を生じてしまいかねないことになります。
*-1 ADHDや高機能自閉症などの軽度発達障害で適応障害をおこし、それが身体症状や不安感や緊張感、抑うつ感、無力感などの精神症状を呈したり、ひきこもり、家庭内暴力など適応行動に障害を呈したりすることがあります。
小児科外来を受信しているADHDの児童生徒を対象に実施された全国病院調査では、心身症合併率が57,7%、不登校(保健室登校、適応教室などを含む)19.2%であったことが明らかにされ、また、Harada Y、Yamazaki T& Saitoh Kによると、ADHDと不登校との合併率は17%であり、ADHDと反抗挑戦性障害(目上の者に対して拒絶的、反抗的、不従順、挑戦的な行動を繰り返す)が合併している場合の不登校の発生率は42%、同様に反抗挑戦性障害のみであると80%であったことを報告しています。
そのひとつが、事例155のような発達障害を抱える子どもへの養育者の間違った対応を虐待と認識し、教職員として養育者として適切なサポートができているかという問題です。
現状では、なにを持って虐待行為とみなすかという判断基準、虐待を受けた子どもの影響についての認識が、教職員それぞれの価値観にもとづく判断基準に委ねられています。
DVや虐待の被害者支援に携わる人、つまり、学校園の保育士や教職員、自治体の女性相談員や担当職員、保健師、医師、弁護士などは、ある一定水準以上の教育を受けています。
そのため、「Ⅲ-16-(4) 教育現場で、児童虐待の早期発見を妨げる心のブレーキ」で記しているとおり、教職員の「教育熱心」「厳しいしつけ」と「教育的虐待」の解釈において、自らが育ってきた教育環境による体験と重ね合わせしまいやすい、つまり、自身のモノサシによる“フィルター(色眼鏡)”をかけやすい特性があることを自覚できていない背景があります。
自覚できていないという意味には、無意識下で自覚したくない(回避)心理が働いています。
なぜなら、養育者の「教育熱心」「厳しいしつけ」を教育的虐待として、体罰(身体的な暴行)、精神的暴力として認めてしまうことは、自らのアイデンティティを覆してしまいかねないことから、強く反発(拒絶)してしまうことがあるからです。
そのため、強い反発(トラウマ反応を)を見せる教職員へのケアは特に重要です。
そうした配慮(サポート)の必要性を認識したうえで、「児童虐待・面前DVのある家庭への対応」として、対応にあたる者が、共通言語を獲得し、共通認識のもとで意思統一をはかることがもっとも重要になります。
加えて、子どもの教育に携わる者として、子どもと接する大人の無知が、子どもを追い詰めていることが少なくないという事実を受けとめる姿勢が求められます。




エピローグ
DVという問題には、交際相手や配偶者の暴力から逃れるために家をでたあと、連れ戻されることを怖れて、身を隠して生活をしなければならないという側面があります。
 平成26年3月末現在、「児童虐待の恐れがある」として、児童相談所が保護者らに改善指導をおこなっている最中に、突然、転居してしまい行方がわからなくなったままの児童(18歳未満)が、全国で把握できているだけで少なくとも97人いるとされています(内39人が直近の1年で行方不明なっています)。
女性センターや警察にDV相談をし、「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律(いわゆるDV防止法。以下、配偶者暴力防止法)」にもとづく“一時保護”として母子棟などの施設に入居させたのち、施設からアパートに移り住み(転宅)生活の再建をはかっていくときには、福祉事務所などのサポートを受けることが少なくないことから、仮に同法の支援措置*-2をとらず、住民票の移動をすることができなくとも行方知れずになり、母子が孤立してしまうことはないわけです。
しかし、現実問題として、女性センターや警察を経ずに、加害者から居所を特定され連れ戻されたり、報復されたりすることを怖れ、身を隠してしまうケースがあるのです。
このとき、住民票を残したまま、女性センターや警察、児童相談所にも知らせず転居してしまうと、学校と綿密な情報交換をおこなうことができない就学前の児童などでは割りだす術がなくなるのです。
一方、直近の1年で、行方不明になった児童173人うち、転居先で虐待事案として児童虐待通告があったり、生活保護の申請を受けた役所から児童相談所に連絡があったりして、居所が判明したケースが134人ありました。
これは、深刻な虐待事件が発生したのをきっかけに、平成11年10月からはじまった「CA(Child Abuse:児童虐待)情報連絡」と呼ばれる手配書を中央児童相談所にファクスし、情報を集約するようになったことで、行方不明事案などで後追いができるようになったことにもとづいています。
とはいっても、不明児童のうち7割が、生活保護申請など福祉関係の手続きによって居所を判明できているというのが実態です。
 ここで、平成26年3月末の不明児童を把握するキッカケとなった虐待事件について見ていきたいと思います。その虐待事件は、死後8年にもわたり遺体が発見されずにいた「厚木男児監禁遺棄致死事件」です。
*-2 「支援措置」については、「Ⅳ-24-(4)身を守ることを最優先にするということ」の中で詳しく説明しています。

-事例210(事件研究:厚木男児監禁遺棄致死事件)-
 平成26年5月22日、厚木児童相談所の職員が厚木署を訪れ、「今年4月に中学校に入学する男児が入学していない。」と通報したのを受け、同署が捜査を開始しました。
同月30日、男性容疑者(トラック運転手、齋藤幸裕)と接触し、立ち会わせてアパート室内を調べたところ、身長約1メートルの白骨化した遺体(理玖ちゃん)を発見しました。
敷布団の上に横たわっていた理玖ちゃんの周りは、弁当の空の容器やパンの袋、ペットボトルなどが積み重なっていました。
理玖ちゃんは、平成18年10月から翌年1月までの間に、5歳で衰弱死したと見られています。生きていれば、30日で13歳の誕生日を迎えていました。
 理玖ちゃんが3歳の秋、早朝、1人で自宅近くを歩いているのを通行人が見つけ、児童相談所に一時保護されたことがありました。そのとき、理玖ちゃんが身につけていたのは、Tシャツと紙おむつで、足は裸足だったにもかかわらず、児童相談所は、これを迷子と判断し、翌日、母親にひきわたしていました。
 しかも、このとき、児童相談所では、父親(夫)の母親(妻)に対するDVに気づいていました。
児童相談所が、理玖ちゃんの両親間にDVがあったことに気づいていた平成16年秋は、同年8月13日、改正児童虐待防止法が発効した直後でした。
それから11年経過した平成27年であっても、現実は、両親間のDVを子どもが目撃(子どもにとっては精神的虐待を受けている)していても、積極的な介入が難しい状況でした。
この時点で、父親の母親に対するDVに対して介入し、母子を保護するなどの支援ができていれば、母親が理玖くんを置いて家をでることはなかったのかもしれないのです。
その後、児童相談所では、迷子を保護したときには、通常1ヶ月以内に家族に連絡をとり、安否確認をおこなうことになっていましたが、その対応を怠っていました。
しかも、理玖ちゃんは3歳児半検診が未受診でした。
そして、理玖ちゃんは、小学校入学時に姿を現すことがありませんでした。
そこで、教員が家庭を訪問しましたが、返答がないことから「転居した」と自己判断し、自己処理してしまいました。
「長期間水道が止まっていたら生活に困窮している」ことがわかることから、自治体が生活困窮の支援を届けるアプローチができれば、異常を察知することもできたかもしれなかったのです。

 この事件で明らかになった保健センター、児童相談所、小学校、そして、自治体の対応は、平成22年におきた「江戸川区岡本海渡(7歳)くん事件」による教訓を生かすことができなかったという意味でとても残念なケースです。
「江戸川区岡本海渡くん事件」は、近所の人に「パパはいじめないよ。」と話していた小学校1年生の児童が両親から暴行を受けて死亡したものです。
この事件を受けて、厚生労働省では「学校任せではなく、三者の密な連携が必要だった」として、児童相談所を運営する都道府県に対し、「虐待の情報提供後、原則48時間以内に子どもを目視する」、「安全確保のための一時保護を辞さない」ことを求める通知をだしました。
そして、この事件をきっかけに、学校での虐待対応、そして、学校と児童相談所の連携のあり方が論議され、全国の都道府県、もしくは市町村(教育委員会を含む)では、児童虐待対応マニュアルを作成することになりました。
大きな問題提起となった虐待事件の全容を事例211として説明します。

-事例211(事件研究:江戸川区岡本海渡くん事件)-
 海渡くんが小学校に入学する2ヶ月前、母親は、母親が働いていた飲食店の客と結婚し、入学を機に、実家に預けていた海渡くんをひきとりました。
そして、夏になると、「ぶっ殺してやる」という大人の声と、「ギャー」という子どもの叫び声を近所の住民が何度も耳にするようになります。
数軒先に住む男性はアパートの窓越しに、大人が子どもを床に落とす光景も目にしています。近所の人は、「アパートからは「こら」と男の怒鳴り声や「ごめんなさい」、「やめて」と泣き叫ぶ声、ドスンという大きな物音が昼夜を問わずに聞こえていた」と話し、その中の会社員の男性(44歳)は「去年の夏から暴行がエスカレートしてきた感じだったので、秋に江戸川区役所に通報した」と話しています。
平成21年9月14日、胸や腹に痣がいくつもあるのを診察中に見つけた歯科医に、海渡くんは「パパはいつもぶつんだよ。」と話したことから、歯科医は、区の子ども家庭支援センターに「左ほおと両太ももにあざがある」と通報を入れました。
この事実は、海渡君の通う小学校にも伝えられることになりました。
校長、副校長、担任の3人がアパートを訪問して事情を訊くと、父親は虐待を認めて「うそをついたからやった。」と述べ、「二度と暴力をふるわない。」、「二度と殴らない。」と約束しました。
その後、小学校長から報告を受けた同センターは、都墨田児童相談所に、「両容疑者は反省している。」と話したことから、「対応は不要」と判断し、学校側に対応を委ねてしまいました。
本来、児童虐待の初期対応を担う江戸川区の「子ども家庭支援センター」は、「学校側が状況を把握できている」との理由で、両親に面会することはなかったのです。
しかも、墨田児童相談所にも上記の内容を文書で情報提供しただけでした。
そのため、同相談所も「センターが対応している」として、海渡くんが学校を休みがちになる10月以降もまったく状況を把握することはありませんでした。
 海渡くんは、10月になると11日間、12月も6日間欠席しました。
このころ、近所の路地裏に100点満点ばかりの海渡君のテストの束が捨てられているのを住民が見つけています。
また、平成22年1月26日まで開かれていた「区立幼稚園・小学校展覧会」に、海渡くんが教科書の一節を鉛筆で写し、熊の写真を真似て挿絵にした作品が優秀作として展示されていますが、その親熊と2匹の子熊の絵は、親熊だけが目がつりあがっているように描かれています。
ここにも、ちゃんと虐待のサインがでていました。
そして、海渡くんは、冬休み明けの始業式から20日まで登校していませんでした。
海渡くんは、同年1月23日21時10分、母親が呼んだ救急車で病院に運ばれ、翌朝に死亡しました。
死亡した海渡くんの背中や両腕には、暴行の跡とみられる古いあざが複数あったとのことです。
同日20時ごろ、海渡くんに「食べるのが遅い」といって正座させ、暴行がはじまりました。警察でのとり調べで2人は、「食事を一定時間内に食べられなければ、普段から叩いてもいいと思っていた。」と応えています。
2人が「しつけだった」という暴行は、約1時間に及ぶもので、それぞれ4-5回ずつ顔面を平手打ちしたうえ、父親が足を4-5回蹴るなどの暴行を加えるものでした。
海渡くんが死亡したあとの学校側の会見で、校長は「虐待があるとは受けとめていなかった。」、「暴力をふるわないと約束していた。子どもがもし、実際にそういうことにあっていたのであれば、担任に話をしてほしかった。」と釈明しています。
歯科医による通報をキッカケに、校長・副校長・担任の3人で家庭を訪問しているにもかかわらず、「虐待があるとは受け止めていなかった。」との発言は、いじめを受けて自殺したと思われる中での学校長や教育委員会の会見でよく見られる欺瞞でしかありません。
しかも、「暴力をふるわないと約束していた。」と発言しているわけですから、説明には一貫性もありません。
加えて、「子どもがもし、実際にそういうことにあっていたのであれば、担任に話をしてほしかった。」との発言は、虐待被害を受けている子どもの心理をまったく理解していない無知さを示しています。
一方で、海渡くんの学級担任(女性)と校長(女性)は、父親と面談をしたときに、父親から大声で怒鳴られ、激しく恫喝されています。
この恐怖体験が、海渡くんの保護者、とくに父親と再度話合うことを躊躇させたのではないかと指摘されています。

 これらの虐待事件の背景には、シングルマザーが再婚し、再婚相手によるDVを怖れる被害者心理が大きくかかわっています。
それは、自身に危害が及ぶのを回避するために、再婚相手の子どもへの虐待行為を止められないだけでなく、「一緒に虐待行為おこなうことで、再婚相手に従順さを示す(考え方や行為に共感(同化)し、意図をくみ取り率先して行動する)」という心理が働き、DV被害者がDV加害者とともに虐待の加害者になってしまうという問題があります。
ここには、連合赤軍リンチ事件や伊予市17歳少女殺人事件、尼崎連続変死事件、北九州連続監禁殺人事件のように、「自分も加害者にならなければ、ひどい思いをする」という加害者(指導者・信奉者)にマインドコントロールされた被害者心理が働いています。
DV被害者が、加害者の気分を損なわないように、明確な指示がなくても、加害者の意に添うようにふるまう行動パターンの延長線上にあるものです*-3。
 そして、この事件を受けて、厚生労働省では「学校任せではなく、三者の密な連携が必要だった」として、児童相談所を運営する都道府県に対し、「虐待の情報提供後、原則48時間以内に子どもを目視する」、「安全確保のための一時保護を辞さない」ことを求める通知をだすことになりました。
そして、この事件をきっかけに、学校での虐待対応、そして、学校と児童相談所の連携のあり方が論議され、全国の都道府県、もしくは市町村(教育委員会を含む)では、「児童虐待対応マニュアル」を作成することになりました。
そこで、重要なことは、児童虐待の早期発見、早期支援には、「DVの発見が児童虐待の早期発見につながる」という視点です。
 しかし、近隣住民による再三にわたる虐待通報が生かされず、通報されていた児童が凄惨な虐待後に死亡したのを受けて、警察や児童相談所の対応のあり方が問われる児童虐待事件は続いています。
*-3 恐怖が加害行為を生みだす心理については、「Ⅰ-7.被害者心理。暴力でマインドコントロールされるということ」の中で、「学習された無力感」、「ミルグラムのアイヒマン実験」などの項で事例を踏まえて詳しく説明しています。

-事例212(事件研究:狭山市羽月ちゃん事件)-
 平成28年1月9日、埼玉県狭山市の藤本羽月ちゃん(3歳女児)がやけどを負ったのに放置されて死亡したのをうけ、埼玉県警は、女児の母親(藤本彩香(22歳))と同居する内縁の夫(大河原優樹(24歳))を「保護責任者遺棄罪」と「暴行罪」の容疑で逮捕するといった虐待事件がおきました。
遺体で見つかった女児は、鼻や目を覆うように顔全体にやけどを負い、体には「皮膚が剥離したようなものなど、傷が体全体のあちこちにあり、自宅マンションの押し入れには金具がつけられており、ロープを使って羽月ちゃんを閉じ込めていた痕跡があり、発見時の羽月ちゃんはやせ細り、胃には食べたものが残っていない状態でした。
そして、やけどは、母親の交際相手Oが熱湯をかけたものでした。
 女児の母親は、キャバクラなどに勤めていましたが、明るく人見知りをしないという評判の一方で、人前で泣いたり、突然怒ったりと喜怒哀楽が激しい一面があり、勤務態度の問題で店を解雇されたこともあったといいます。
女児には年子の長女(4歳)がいますが、離婚した元夫の間にできた子どもでした。女児の母親は、当時のブログに「(長女の名前)ほんとにテレビっ子。テレビと喋ってるからね。ちょお可愛い!」、「昨日から何も食べてない。38℃ちょいあるし、赤ちゃん大丈夫かな?」と長女との生活の喜びや、妊娠中の女児を心配する文章を載せ、同27年12月25日には、「子供たちにサンタさんちゃんと来てました」と、LINEで女児と長女へのクリスマスプレゼントのおもちゃや、母親の交際相手Oと交換したアクセサリーの写真を載せるなど、幸せな家庭をアピールし、ブログでは第3子が妊娠8ヶ月になったことを明らかにし、「残りの妊娠生活楽しみます」と記載していました。
 そして、妊娠した第3子の成長と歩を合わせるかのように、母親は、女児への虐待をエスカレートさせていったと供述していますが、知人のスナック経営の女性(65歳)は、女児の祖母(母親の実母)が「家に帰ったら娘が羽月ちゃんをトイレに閉じ込めていた。どうしてこんなことをするのか」とこぼすのを聞いています。
また、同女性は、同26年夏に娘2人を連れた母親と夏祭り会場で会い、「1日一緒にいたのに、羽月ちゃんは笑顔がなく無表情で、ちょっと普通じゃないと虐待を疑った。」と述べ、別の知人男性(32歳)は、同じころ、「花見の席で一緒になった母親が女児を叱るときに手を叩いたり、ひっ張り倒すように座らせたりしていた。」と話しています。
一方の母親の交際相手Oについて、知人女性は「日高市内の中学、高校に通っていたときからあまり良い噂を聞かなかった。以前交際していた友人が暴力を振るわれたことがある。」と述べ、女児の母親自身が、交際相手Oについて、「嫉妬が激しくて、縛りつける人」と話しています。
 平成27年5月、女児の母親は、母親らと暮らしていた家をでて、娘2人とともに交際相手Oと同居をはじめ、同年6月、女児は長女が保育所に入所しました。女児の母親は、「子どもが保育所に行けるようになった。」と喜んでいましたが、夏に妊娠がわかり、女児と長女は、わずか十数日間保育所に通っただけで自宅での生活になりました。
女児の母親は、ブログやLINEに交際相手Oとのやりとりを赤裸々につづっていましたが、同27年11月、交際相手Oとの別れ話がでたこで、女児の母親はひどく落ち込み、精神的に不安定になったということです。
捜査が進むにつれ、保護責任者遺棄容疑で逮捕された母親と内縁の夫の間で、LINEを通じて、「帰ったらこうしよう」、「今日も水をかけよう」などと虐待内容を相談するなど、繰り返し激しい虐待をおこなっていた状況が浮かびあがっていきました。
 この虐待事件においては、平成27年6月、「女児が家の外でブランケットにくるまって泣き続けている。」、同年7月にも「30分前から室内で女の子が泣き続けている。」と近隣住民から埼玉県警狭山警察署に通報があり、2回とも警察署員が現場に駆けつけています。
女児の母親と交際相手Oは、駆けつけた警察官に対し「自分たちがけんかをして、子どもを閉めだしてしまった。」、「風呂に入れようとしたときに叱ったら泣きだした。」と話しました。
警察官は女児の体にあざなどの暴行を受けた形跡や着衣の乱れなど虐待を疑わせる様子がなかったことから、県警内部の虐待情報集約システムへの情報登録や児童相談所への通告をすることなく、女児の母親と交際相手Oの2人に対しては、注意指導で終わりました。
また、その前の同25年4月-同27年5月に、女児が乳幼児健診を未受診であったことから、狭山市職員が3回自宅を訪問していましたが、「虐待のサインを確認できなかった。」として、養育状況は問題なしと判断していました。
現在、各市町村には、児童相談所職員や市町村の児童福祉などの担当員、警察職員、保健所職員等で構成される協議会があり、その協議会での話し合いで、各機関が問題だと判断した案件については、情報共有などの連携がはかられ、また、平成18年に警察庁の通達(児童の安全の確認及び安全の確保を最優先とした児童虐待への対応について)以降、児童相談所に警察職員やそのOBを配置したり、合同研修会などを通して連携を強めたりすることで、警察と児童相談所との連携が推進されています。
しかし、実態は、「近隣住民による警察への通報については、警察で児童虐待が疑われると判断されたケースのみが、警察から児童相談所へ通告されている」、「通報を受けて対応する警察官が、必ずしも児童虐待に精通しているとはいえず、確認不足などにより、児童虐待を見過ごしてしまうことが少なくない」ように、この児童虐待事件においても、児童相談所と市役所、警察署の各機関同士の情報共有が不十分だったことが、結果的に、児童虐待を見過ごすという事態を招いたのです。

以上、「江戸川区岡本海渡くん事件(事例211)」をきっかけに、学校での虐待対応、そして、学校と児童相談所の連携のあり方が論議され、全国の都道府県、もしくは市町村(教育委員会を含む)では、児童虐待対応マニュアルを作成することになりました。
この「手引き」における「児童虐待対応マニュアル」に相当するのが、“方法論”としての第3章(Ⅲ.学校現場で児童虐待とどうかかわるか)です。
そこで、次の「事例213」で、児童虐待・DV被害者支援に携わる者としての姿勢(心構え)のあり方を問うておきたいと思います。

-事例213(虐待57・面前DV31)-
「俺をバカにしているのか!」、「誰のおかげで飯を食わせてもらっているんだ!」、「でて行け!」と凄まじい声で母親を怒鳴りつけ、父親の目は正気じゃなく血走っていました。
そして、いつものように、父親はテーブルをひっくり返しました。
母親が無言で拭いていると、父親が髪の毛をつかみ、熊のおもちゃで殴りはじめました。私と弟は「止めて!」と叫び声をあげましたが、怖くて声は震えていました。
父親が暴れたあと寝てしまっても、私は、今度はいつおきるかが気になって夜中までおきていました。
父親が寝ているベッドに母親が入る軋む音が聞こえてくると、私は「終わった」と思って眠りにつくことができました。
私は弟と2人で、父母間の緊張下で、いつ地雷を踏むかと怯えていました。
そして私は、弟の母親役として、弟が小学校4-5年生になるまで一緒に寝て、着替えを手伝い、宿題を見て、おねしょをしたときには励ましました。
また私は、母親の「ごめんなさい」と謝っている姿が嫌いでした。なぜなら、ただ暴力を止める上辺だけのもので、あなたより下だと態度で示すことで父親が満足させるものだったからです。
大きな怒鳴り声、大きな物音が、近所の人に聞こえていないわけはありません。私は、あんなことがあっても気にしていない、負けていないことをアピールするために、元気に、明るくふるまって登校しました。
小学校3年生のとき担任の教師が「困っていることはないか?」と声をかけてくれました。私が、学級運営を手伝ったことや授業の発言や考え方を一番ほめてくれた先生でした。私は、「大丈夫」と応えました。
しかし、先生がもうひと声かけてくれたら、もう少し踏み込んで話を聴いてくれたら、私が苦しんでいることを、暴力のある家庭で怯えて暮らしていることを話すことができました。
そして、もう一度、担任の先生が声をかけてくれるのを期待して待ち続けていました。
しかし、その機会が訪れることはなく、私は5年生に進級し担任も変わりました。
5-6年生のときの担任はセクハラ教師で、私の仲のよい3人のうち1人がターゲットにされました。私は、担任が下半身をその子に押しつけているのを見て、その子の手をひっぱって教室の外に連れだしました。
その後、その教師は弟の担任となり、反発した私へのあてつけとして、弟を露骨に無視したり、差別したりするなど弟にツラい思いをさせました。
最近、担任だったその男子教師は校長になっていることを知り、愕然としました。
小学校を卒業した私は、中学校や高校においても、先生が声をかけてくれて助けてくれるかもしれないと期待し続けました。
そして、進学した高校で、部活の顧問に性行為を強要される被害にあいました。
私は、いまでも、“もしあのとき(小学校3年生)”、担任の先生がもう一歩踏み込んで私に問いかけ、話を聴いてくれていたら、私のその後の人生は変わっていたかも知れないと思うときがあります。

この「事例213」のケースのように、小学校の担任教師に助けてほしいと願っていても、それをどう話していいのかわからない子どもがいます。
自分の気持ち、考えを口にすることを禁じられ、封じ込んで生きなければならないのが、暴力のある家庭環境で生活している子どもたちの特徴です。
例えば、思春期・青年期にひきこもり、不登校になった子どものカウンセリングの最初は、子どもがひとことも口にすることがなくとも、同じ空間で、同じ時間を過ごすことができれば十分と考えることが重要です。
子どもたちには、この大人(カウンセラー)は、親と違って否定したり、非難したりせずに、“わたしそのもの”を認めてくれ、受け入れてくれる人かを見極めるために膨大な時間が必要だからです。
その膨大な時間は、期待して裏切られ、傷つくのを防ぐ(回避する)ことと、裏切られない人、信じられる人と見極めるために必要不可欠なものです。
人は、信頼できない人に相談はしないのです。
したがって、暴力のある家庭環境で育ってきた子どもたちは、初期対応で、教職員や警察官、児童相談所の職員などに家庭内で口にすることを許されてこなかった自分の気持ちを話すことなどありえないと認識しておくことが大切なのです。
初期対応では、大人が期待する模範解答はなにかを探り、日々、恐怖の対象の親に対応してきたとおりの対応を試みることを知らなければならないのです。
子どもに暴力を受けてツラいこと、苦しいこと、哀しいことを話していいことを繰り返しなげかけ、子どもが自ら口を開くのを信じて待つことで、子どもの信頼を得ることができるのです。
子どもに信頼され、子どもの声を拾いあげてあげるのは大人の役目です。
この「事例213」は、保育園や幼稚園の保育士、小学校の教師や養護教諭、保健師、そして、小児科医や眼科医、耳鼻科医、歯科医といった子どもや子どもの母親や父親、祖父母とかかわる機会の多い人たちが、子どもに信頼されるように関係性を築いたうえで、少しでも気になることがあれば声をかけ、ちょっと踏み込んで訊いてみたとしても、口にできるようになるまで信頼して待ち、口にすることができたときには話に耳を傾けることができることの大切さを教えてくれます。
それぞれの現場でできる子どもたちとの小さなかかわりが、子どもたちの声をひきあげ、適切な支援につなげることにつながるのです。




13.児童虐待の定義
子どもへの虐待は大別して、子どもへの積極的な行為(作為)である「虐待(Abuse)」と、子どものニーズを満たさない(不作為)「ネグレクト(Neglect:養育の怠慢・放置・拒否、と表現されること もある)」とに分類されます。
この虐待とネグレクト(Abuse and Neglect)とを統合する概念として「Maltreatment」という用語が用いられることもあります。
定義の重要な点のひとつは、それが「加害者の動機」が含まれていないことです。
加害者が、子どもに対して加害行為をしようという動機や悪意の有無は、それが虐待であるか否かを判断する条件にはなりません。
重要なことは、「虐待というおこないそのものが、子どもの健康と安全が危機的状況になる」という認識に立つということです。
保護者がよかれと思っても、信念を持ってしつけをしたとしても、虐待と判断される場合もあるということです。
ネグレクトでそうした状況がみられることがあります。
なぜなら、親に育児能力や必要な知識が不足していたり、子どもを養育する心身のゆとりがなかったりする場合が多いからです。
また、先に示した教育的虐待は、子どもの将来のためには必要不可欠との信念に満ちあふれ、私たちも競争に勝ち抜くために親に厳しくされてきたとの思いが強く、正しいことを行っていると認識しているため、保護者は虐待をしている意識はありません。
そこで、教育現場における「虐待」へのかかわり方は、「子どもと家族への援助」への“きっかけ”であって、「加害者の告発」ではないということです。
保護者に「私たちには援助など必要ない!」とつっぱねられるかもしれませんが、一貫して援助者(支援者)という姿勢で臨む必要があります。


(1) 児童虐待の定義
改正「児童虐待防止法」第二条四に、虐待とは「児童に対する著しい暴言または著しく拒絶的な対応、児童が同居する家庭における配偶者に対する暴力(配偶者(婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む)の身体に対する不法な攻撃であって、生命または身体に危害を及ぼすもの及びこれに準ずる心身に有害な言動を及ぼす言動をいう)、その他、児童に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと」と記されています。
つまり、児童虐待防止法では、「虐待*-4」とは、保護者(親権をおこなう者、現に子どもを監護する者)が18歳に満たない児童に対しておこなう次のことを指しています。
a) 身体的虐待
 身体に外傷が生じ、または、生じるおそれのある暴行を加えること
b) 性的虐待
 子どもにわいせつな行為をすること、またはさせること
c) 養育怠慢・拒否(ネグレクト)
 子どもの心身の正常な発達を妨げるような著しい減食や長期間の放置。保護者以外の同居人の身体的・精神的虐待、わいせつな行為を放置することも含む
d) 精神的虐待
 子どもに著しい心理的外傷を与えることばや拒絶的な対応、子どもが同居する家庭での事実婚を含む配偶者に対する暴力で、子どもの心身に有害な影響を与えることを含む
*-4「虐待」の種類と虐待が子どもの発達にどのような影響を及ぼすのかについては、「Ⅱ-11.慢性反復的トラウマの種類(児童虐待の分類)と発達の障害」で詳述していますが、子どもの脳の発達への影響、人とのかかわり方への影響、心の問題が招くトラブルや異常行動など大きなテーマとして、第2章(Ⅱ.暴力のある家庭環境で暮らす、育つということ)全体を通して扱っています。
また、配偶者間の暴力、つまり、DVのある家庭環境で子どもが生活している状況そのものが、子どもに精神的(心理的)虐待を加えていることになります。
保護者のDV問題は、児童虐待問題であることから、DVについては、第1章(Ⅰ.児童虐待とドメスティック・バイオレンス)で詳述しています。加えて、保護者の「婚姻破綻の原因はDVにある」とする離婚問題についても、当然、児童にかかわる重要な問題です。
しかも、別れ話がでて別居しているときに執拗に復縁を求めたり、別居先の実家や学校園や児童を連れ去ったり、復縁を断られたことで殺害しようとしたりすることが考えられることから「配偶者からの暴力の防止及びに被害者の保護等に関する法律」に準じて、“一時保護”の決定がされるなどDV離婚事件特有の問題があります。
学校園としては、被害女性の心理状態を理解し、加害者特性を理解して、どのような言動や行動が想定されるのかを知り対策を講じたり、離婚に伴う親権・監護県権、離婚後の面会交流のあり方など、児童とかかわる問題に対する知識を学んでおいたりすることは必要不可欠です。
これらについては、第4章(Ⅳ.「婚姻破綻の原因はDVにある」ときの離婚)で詳述しています。
それだけでなく、暴力のある家庭環境で暮らし、育ってきた児童には、暴力の影響、つまり、後遺症を抱えていることが少なくないことから、被虐待児童とどのようにかかわるのかに加え、被虐待児童の心のケア(治療)のあり方についての理解も必要です。
これらについては、第5章(Ⅴ.DVのある家庭環境で育った子どもと母親のケア)で詳述しています。



(2) 虐待を疑うということ
子どもへの虐待は小児期の重大な疾患で、第四の発達障害ともいわれています。年間推定発生数は3万5千件を越えており、毎年200人近くの虐待死が確認されています。
子どもへの虐待は一過性に終わることはまれで、再発を繰り返して慢性化する傾向が高く、中には次第にその重症度を増していきます。
また、虐待環境を生き延びた子どもは、身体的および精神的発達に様々な問題を抱えています。保護者からの暴力の結果、生涯に及ぶ障害を負う子どももいます。
人生の早期に幼い子どもがさらされた想像を越える恐怖と悲しみのトラウマ体験は、子どもの人格形成に深刻な影響を与えます。
子どもは癒されることのない深い心の傷を抱えたまま、様々な困難が待ち受けている人生に立ち向かわなければならなのです。
子どもの虐待を疑った場合には、子ども自身の心身に発生している異常事態を診断し、治療するとともに、子どもの安全と成長を保障することを最優先させなければなりません。
しかし、この疾患の発生を予防し、早期に発見し、再発を防ぐためには、家族への援助が不可欠です。
そのためには、医師や看護師などの医療関係者だけではなく、児童相談所、保健所・保健センター、福祉事務所、保育所、幼稚園、学校、民間の虐待専門機関など、複数の機関が協力して援助活動を展開することが不可欠です。
子どもの虐待には、もう一つの重要な側面があります。
それは、「子どもの虐待を疑う」ということは、「そこに大きな問題を抱えて援助を必要としている子どもと家族がいる」ということです。
子どもの虐待への関与の中心は、「加害者の告発」ではなく、「子どもと家族への援助」です。
そして、この援助を可能にするためにこそ、地域の多職種の専門家によるネットワークが欠かせないのです。
学校の教職員による児童の虐待の判断と通告は、その後の長期間に及ぶケースワークの重要なスタートラインとなるのです。
そして、子どもへの虐待には「犯罪」という側面もあります。
そのため、警察への通報が必要と思われる犯罪性の高いケースと遭遇する場合もあることは事実です。
しかし、原則的には児童相談所を中心とした福祉的援助を中心に据え、子どもが通学する小学校などと連携して関与することが、現時点では、子どもの救済に結びつくことが多いのです。

-事例214(虐待58・学校対応1)-
小学校4年生の女子児童が、進級して間もない春、学級担任に「子どもがこぶをつくり、ママに叩かれて、こぶができた」と訴えました。
担任から話を聞いた校長は、女子児童のこぶを確認し、児童相談所に相談の連絡をしました。
その直後、学童クラブからも同様の通告があったことから、児童相談所の職員が、女子児童の様子を見に家を訪問し、母親*-5と「一度、児童相談所へ行く」との約束をとりつけました。
児童相談所への通所は3回キャンセルされることになりましたが、学童クラブの熱心な橋渡しによって、児童相談所で母親との面接をおこなうことができ、虐待についてやわらかいニュアンスでしたが告知をしました。
夏に、小学校、児童相談所、学童クラブの三者でネットワーク会議Aを立ちあげ 連携をとりながら対応していくことになりました。
同時期に、母親から担任に相談があり、担任による熱心な橋渡しにより、再度児童相談所への通所がおこなわれました。
通所がはじまると、母親の虐待について明確な告知をおこない、母親に対して、精神科医による診断がおこなわれました。
精神科医の診断は、「母子ともにADHD」でした。
その結果を受けて、女児児童への支援だけでなく、同時に、母親への支援もおこなわれることになりました。
そして、秋には、ネットワーク会議Bとして、小学校、児童相談所、学童クラブ、主任児童委員(民生委員)、精神科医、市の福祉課を巻き込んでの連携がはじまり、現状の確認と今後の手立てや役割分担を決めました。
*-5 女児児童は、祖母と母親、女児児童の3人暮らしで、女児児童の両親は離婚しています。

-事例215(虐待59・ネグレクト3・学校対応2)-
小学校に入学してまもなく、学級担任は、入浴していないため体臭が漂ったり、衣服を洗濯していないため同じ服を毎日着ていたりする男子児童に気がつき、生徒指導主事に報告をおこないました。
朝食を食べてきている様子がなく、学級担任が男子児童に訊くと「夕食も食べさせてもらえないといった日もある」ということでした。
男子児童の母親は、男子児童が4歳のときに亡くなり、同居している祖母は入院しており、父親が男子児童を養育している父子家庭です。
また、授業では、学習に必要な準備などもなされていないことから、男子児童は、学習に支障をきたすことが多くありました。
学級担任は、男子児童の父親に連絡をとり、身辺のことや学習用具の準備などお願いするなどの対応をしますが、男子児童の生活に関しての改善が見られませんでした。
そこで、学級担任は、具体的な問題点を整理して、校長、教頭に報告するとともに、小学校内の「いじめ、不登校、問題行動等の対策委員会」で、職員に男子児童の現状やかかわり方について報告し、全職員で男子児童にかかわっていくことが確認されました。
学級担任が、毎朝おにぎりを準備し、小学校で男子児童に朝ご飯を食べさせました。入浴も1ヶ月1-2回程度であったことから、養護教諭の協力のもと、小学校で洋服や下着を着替えさせて洗濯をするなどしました。
学級担任と校長が、何度か家庭訪問をして父親と家庭での養育のあり方について話し合いをおこないましたが、父親の養育者としての自覚が薄く、現状が基本的に解決されないことから、校長は、児童福祉担当課、社会福祉協議会、主任児童委員(民生委員)とも連携をはかることにし、父親の養育者としての役割についての具体的な指導をおこなうことにしました。
その結果、男子児童が小学校3年生の1学期には、すべてにおいて改善が進んでいるとはいえないものの、男子児童が食事をとらない日はほぼなくなり、毎日入浴するようになり、衣服も毎日着替えてくるようになりました。
こうした父親の生活改善にともない、男子児童も、自分の身辺の整理整頓をおこなうことができるようになるなど、基本的な生活習慣も身につきはじめました。

-事例216(虐待60・ネグレクト4・学校対応3)-
中学校2年生の女子児童が、10月に突然、登校しなくなったことから、担任教師が家庭訪問をしたり、電話連絡をしたりするなどしたが、女子児童の母親ともまったく連絡がとれませんでした。
しかも、女子児童の行方もつかめず、担任教師が、女子児童の友人にから女子児童が友人の家を転々とし、そこで寝泊まりをしているとの情報をえることができました。
その情報をもとに、担任教師が友人宅を訪ねると、女子児童がいて無事保護し、家につれて帰りました。
女子児童は、これまで学校をほとんど欠席することがなかったことから、担任教師が事情を訊くと、女子児童は堰を切ったように「母親とケンカして家を飛びだした。母親の仕打ちにはもうがまんできない。自分は、母親のつくってくれたものをここ数年も食べたことがない。母親は夜の仕事で帰りが遅く、朝は寝ているので朝食はつくってもらえず、夕ご飯もカップラーメンである。妹もそんな状態で、いままで頑張ってきたがもう限界である。」と述べました。
このときの女子児童は、自暴自棄であり、無力感に苛まれていました。
中学校では、青少年指導員も務めているスクールカウンセラーと児童委員(民生委員に連絡を入れ、女子児童ならびに家庭への対応について協議することになりました。
中学校では、母親を呼び事情を訊きましたが、母親は女子児童の態度について非難するばかりでした。
そこで、女性の児童委員(民生委員)が、児童扶養手当のことなどで女子児童の母親と面識があったことから、家庭訪問をおこなうことになりました。
母親は、児童委員の訪問を拒否していましたが、家庭訪問において、児童委員は養育については触れず、生活の苦しさなどの話に共感し、何度か訪問を繰り返していると、徐々に母親も受け入れてくれるようになっていきました。
母親の生活状況はかわらないものの、担任教師と養護教諭、スクールカウンセラーが連携して、女子児童と妹と面談を続けることで登校するようになり、姉妹で簡単なものをつくるなどして、生活にリズムができていきました。

-事例217(虐待61・ネグレクト5・学校対応4)-
小学校5年生の女子児童は、不登校になり、昼夜が逆転した生活を送るようになりました。
女子児童は父子家庭で育っていましたが、小学校3年生のとき父親が家出したことで、伯母宅で、小学校と中学校に通う姉妹とともに同居することになりました。
しかし、伯母は、夜遅くまで友だちをつれて遊ぶなど生活態度は乱れ、従姉妹たちも学校を休みがちでした。
女子児童は適切な養育がなされておらず、不登校によるひきこもりの状態から、対人関係での極度の不安や集団生活への不適応があり、情緒的にも未成熟さが顕著でした。
伯母宅に関する近隣住民や地元自治会からの情報提供もあり、小学校では、学年主任、学級担任、養護教諭を中心に家庭訪問をし、実態把握に努めるとともに、校長、教頭が教育委員会と児童福祉担当課に相談をおこないました。
校長は、教育委員会、児童福祉担当課と協議し、ネグレクトが考えられたことから、児童相談所に通告をおこないました。
そして、児童相談所が中心となって取り組んでいる虐待防止ネットワークの枠組を活用して児童相談所が招集することになりました。
児童相談所は、女子児童の行動観察のための一時保護を視野に入れ、児童福祉担当課と小学校ともに協働して援助をおこない、保健師は伯母や従姉妹に対する保健指導をおこない、小学校と中学校による本人や従姉妹の登校や生活面の状況把握、さらに、民生児童委員と主任児童委員(民生委員)の連携した家庭訪問等による生活面に対して支援をおこないました。
女子児童は、児童相談所による一時保護の措置がとられることになり、一時保護の行動観察を通して、情緒障害児短期治療施設B園への措置が考えられ、半年後、一時保護所からB園への入所となりました。

-事例218(虐待62・面前DV32・学校対応5)-
年度初めに転入してきた小学校5年生の女児生徒の母親は、激昂すると女子児童に対し激しく暴言を吐き続けることから、女子児童は、助けを求めて警察に通報したり、近所の家に逃げ込んだリしていました。
その事実を把握した小学校は、主任児童委員(民生委員)や町教育委員会に連絡し、連携して対応策を検討しました。
女子児童の安全確保のため、小学校が中心となり、女子児童の自宅前の保護者の協力を得て、万一のときはその家に逃げ込んだり、そこから駐在所、主任児童委員(民生委員)、区長に連絡をしたりするという「助け合いの会」を立ちあげてもらうなど、女子児童が生活する地域でのセーフティネットをつくりました。
夫による女子児童の母親へのDV後、母親による女子児童への虐待(ことばの暴力・精神的虐待)が続き、状況が悪化したことから、2ヶ月後の6月、校長は児童相談所に相談し、女子児童は6ヶ月間、児童相談所と福祉施設に入所することになりました。

-事例219(虐待63・学校対応6)-
小学校5年生の男子児童、同3年生の女子児童の姉妹は、幼少時に父親を亡くし、児童養護施設に入所していましたが、出所して母親と暮らすようになりました。
母親は情緒不安定で就労することが困難で、生活保護を受給していました。
内縁の夫が、母親や同居をはじめた2人の児童に対し、暴力をふるうことから、2人の児童は感情の起伏が激しく、基本的な生活習慣が疎かになっていました。
小学校では、市教育委員会、児童相談所、市児童家庭課、児童養護施設と連絡を とりながら家庭支援にとり組み、さらに、市児童家庭課が中心となり、警察、主任児童委員(民生委員)、県健康福祉センター、市保健センターの関係者を加えたケース会議を開きました。
そうした折、内縁の夫による2人の児童への身体的虐待がおこなわれたことから、校長は児童相談所に通告しました。
そして、母親も養育困難を認めたことから、児童相談所が一時保護の措置をとりました。
しかし、一時保護が終了し、2人の児童が家庭に戻ると、児童たちは再び不安定になり、学校でもトラブルをおこすようになったころから、児童相談所が「一時保護委託」により児童養護施設に入所させました。
児童養護施設に入所したことで、2人の児童の状況は安定しました。
児童相談所は、安定した状態を保持するために、母親に児童養護施設への「同意入所」を求めましたが、母親は生活保護費が減額となるとして、同意を拒否しました。
そこで、児童相談所は、家庭裁判所に審判の申立てをおこない、児童養護施設への入所が承認されました。

 児童虐待が疑われる親の状態として、a)矛盾した病歴を述べる、b)外傷を兄弟や第三者のせいにする、c)子どもを病院に連れてくるのが不当に遅い、d)診断のための検査をすることを拒否する、e)子どもに厳しい罰を与える、f)状況の重大さに合わない認識がみられる、g)子どもの正常発育を少しも理解せずその説明をされても理解できない、h)他人に対して疑惑と敵対を表わす、i)どこともしっかりとした関係を確立しないで、多くの病院や保健所をわたり歩く、j)衝動を抑制できないようにみえる、k)子どもに年齢に不相応な過大なことを期待し、なぐさめ、安心を求めて、依存しており、子どもが自分の期待に応えられないとイライラして子どもにあたる、l)育児で援護してくれる人を持っていない、m)親自身の生い立ちに、虐待の既往歴がある、n)援助を素直に受け入れることが困難、o)自信欠如、逆に特定の考え方にかたより、他人の話に耳を貸さないなどがあげられます。
 そして、「見えにくい虐待」として、ア)常に条件付きの愛、イ)細かくしかも変化するルール、ウ)自己犠牲的愛と引き替えの期待、エ)不安の先取りによる行動の限定、オ)強迫的な完璧主義、カ)相対評価主義・他との比較・点数化、キ)感情を認めないあるいは無視する、ク)気まぐれで根拠のないご褒美、ケ)親が対人関係のために必要とするわいろ、コ)否定と禁止のメッセージを含むことばの暴力、サ)秘密の共犯者を強要する、シ)社会から家庭を孤立させるなどがあげられます。
「見えにくい虐待」とは、被害児童も、それが虐待だとわかっていないものです。
典型的なものが、よい子でいなければ愛してもらえない、成績がよくなければ愛してもらえないという「常に条件つきの愛情」です。
また、大人の場合もそうですが、頭を混乱させて、考えてムダと無力感を植えつけてしまうのが、「ルールが細かくて、いつも変化する」と親の行為です。
昨日は「テーブルのうえに直接箸を置くと、「不潔だから箸置きを使いなさい!」と怒鳴られて箸置きをだし、今日は、怒鳴られないように箸置きを用意したら、「箸置きを洗わなければいけないじゃない。手間がかかるし洗剤ももったいないでしょ!」と怒鳴られるという状況です。なにを、どういう具合に、なにをどう行動したらわからなくさせてしまいます。そして、どうしていいのかわからずになにもしないでいると、また怒鳴られることになります。
「自己犠牲的愛と引き替えの期待」というのは、「こんなにも私は苦労して、こんなにも自己犠牲を払ってあなたを愛してあげているのだから、当然このくらいのことはできるわよね」ということ、「不安の先取りによる行動の限定」というのは、「いま遊んでいると、きっと中学の受験がうまくいかないに決まっている。中学の受験もうまくいかなければ、高校もうまくいかない。きっとその先もうまくいかない。だからいま遊んでいてはいけない」などと、親の不安を、子どもに押しつけること、つまり、子どもへの干渉・詮索し、そして、束縛することになります。
「強迫的な完璧主義」は、必ず100%うまくできなければいけないということ、「相対評価主義・他との比較・点数化」は、点数ですべてを評価していきます。Aちゃんはこうなのに、Bちゃんはこうで、あなたはどうなのと点数化をしてしまうことです。
つまり、教育的な意味合いの強い干渉・詮索、束縛(教育的虐待)という行為です。
「感情を認めないあるいは無視する」は、喜怒哀楽を認めない、特に、泣くこと、落ち込むことを極度に嫌い、負(陰性)の感情を認めず、押し殺し続けること強いることです。
見えにくい虐待の本質は、考えや行動を否定・禁止され、感情を抑圧され続けるということです。


(代理ミュンヒハウゼン症候群)
-事例220(虐待64:ケイ事件)-
ケイは生後8ヶ月のとき、母親がおむつに膿がついていたと訴えて以降、細菌性尿路感染症の診断で複数の医師から他種類の抗生物質を繰り返し処方されていましたが、症状は改善せず、逆に、副作用で発疹、発熱等を併発してしまいました。
6歳になったケイの血尿の症状は、依然として、改善してもしばらくすると再発するということを繰り返していました。
原因究明のため、レントゲン検査、バリウム浣腸など、ケイにとって苦痛や恐怖を感じる検査がおこなれましたが、異常は見つかりませんでした。
ケイの母親は、子どもの病気を心配して熱心に看病し、医師や看護師、他の母親と楽しげに話し、治療に対しても拒否せず積極的に求めていました。
しかし、ケイの病気は、熱心に看病していた母親がつくりだしていたのです。
母親がケイの尿として提出した血尿の赤血球と、母親の赤血球が一致したのです。つまり、ケイの尿に母親自身の血液を入れて病気をつくりだしていたのです。

ケイの母親は、「子ども思いの熱心な母親」に見えるかもしれませんが、実は、虐待が隠れていたのです。
それは、子どもに病気をつくり、かいがいしく世話をし、面倒を見ることにより、承認欲求を満たして自らの心の安定をはかる虐待行為で、「代理ミュンヒハウゼン症候群(MSBP)」といいます。
代理ミュンヒハウゼン症候群は、幼少期における虐待やネグレクトを受けたトラウマや家庭環境が関係するものと考えられています。代理ミュンヒハウゼン症候群の患者は、過去に「ミュンヒハウゼン症候群(周囲の関心や同情を惹くために病気を装ったり、自らの体を傷つけたりするといった行動をする)」を患っていることが多いとされています。
ミュンヒハウゼン症候群は、「故意にかつ意識的に病気の症状をまねる虚偽性障害」に分類されています。ミュンヒハウゼン症候群の原因も、幼少期に虐待やネグレクトを受けるなど、満足な愛情を与えられずに育っている状況下で、たまたま病気になったり、ケガを負ったりしたとき、親から優しくされたり、周りから同情や注目を浴びたりした体験が、承認欲求を満たす快感となり、それが、行動習慣(癖)となっていることが多いとされています。
病気としてのミュンヒハウゼン症候群は、仮病や詐病と似ていますが、仮病などは会社や学校を休むことや、補償などの社会的・金銭的利益が目的であることから、体調が悪いことを申告する以外に自分の体を傷つけることはほとんどありません。
しかし、ミュンヒハウゼン症候群は、吐き気や発熱、発作などを巧妙に真似たり、時には、大便や小便に故意に血液を混ぜたりするだけではこと足りず、インスリンを使って血糖値を下げるなど自分の体に影響のあるようなことまでして重大な病気を演出し、治療を求めて病院をわたり歩くのです。
ミュンヒハウゼン症候群を抱えている者が、親となったとき、今度は自分の代わりに子どもを利用して悲劇のヒロインを演じたり、称賛や評価を得ようとしたりするのです。かなり賢くて、高度の医療知識を持っているために医療関係者でも結構だまされて、いろいろな検査をおこなってしまうのです。
しかし、本当は病気ではないので、医師も原因を特定することはできません。意識的に病気を演出している一方で、人の注意や関心を惹きたいという欲求はほとんど無意識であることから、第三者が見破るのは困難です。
 しかも、医療や看護経験者の場合は、豊富な医学的知識を用いて病気を捏造したり、自らが第1発見者となって適切な処置をしたりすることで、手柄や社会的地位を得る場合もあります。
いずれにしても、目的は、自分自身や子どもを傷つけることではなく、歪んだ承認欲求を満たそうとするものです。
一方で、母親が、代理ミュンヒハウゼン症候群のときには、子どもなどを病気に仕立て、いかにも子どもを心配する親を装うことから、一層深刻な事態を招きます。

-事例221(虐待65)-
 平成29年3月下旬、「代理ミュンヒハウゼン症候群」を抱えていると思われる21歳の准看護師の母親Mが、1歳の長女に対する傷害罪で起訴されました。
傷害容疑は、1歳の長女にインスリンを投与して低血糖状態にさせたというものでした。
長女につきっきりで看病しているように見えたMは、一晩で、1歳の長女に2度もインスリンを投与していたのです。
その理由は、「子どもが体調不良になれば、(看病で)仕事を休めて、一緒にいられると思った。」と身勝手なものでした。
Mは、当時1歳の長女とMの母親、そして、伯母との4人で暮らしていました。
平成28年7月11日の夕方、伯母が、自宅で家事をしていたところ、Mが、「子どもがけいれんしている」と訴えたのが、最初の異変でした。
Mと伯母は、タクシーで長女を高槻市内の病院へ連れていったところ、「高インシュリン性低血糖症」と診断され、入院することになりました。
しかし、長女には、低血糖状態となるような持病はなかったことから、医師には、なぜ低血糖状態になったのかわかりませんでした。
それから約1週間後の同月18日の夜、再び、長女の容体が急変しました。18日17時半ごろの検査では、異常が見られなかったにもかかわらず、4時間後の同日19時半ごろに検査をすると、低血糖状態になっていたのです。
すぐに治療が施され、翌19日2時前には正常値に戻りましたが、2時間後に、再び容体が一変したのです。
長女は、低血糖状態となり、けいれんを起こしたことから、緊急治療室に運ばれました。
長女は一時、意識喪失の可能性がでるほど血糖値が低下しました。
容体は間もなく回復したものの、明らかな“異常”が見つかりました。
それは、インシュリンが体内で分泌されるとき、インシュリンと同程度分泌されるはずの別の物質の値が明らかに低かったことがわかったのです。
このことは、外部からインシュリンが投与されたことを意味していました*-6。
この結果を受けて、長女が入院していた病院は、児童相談所に連絡しました。同年7月下旬、1歳の長女は、児童相談所に保護されました。
その翌日、Mはブログを開設し、「子どもをとられるなんて、私にとって死ねといわれてるのと同じ」と、長女を保護されたときの心情を綴り、無罪を主張しています。
一方で、児童相談所から通報を受けた大阪府警は、捜査を開始しました。
昨年7月下旬に光吉容疑者の長女が児相に保護された翌日、光吉容疑者とみられる人物が新たに防犯カメラ映像や病院関係者の証言を集めるなど、約8ヶ月にわたる捜査の結果、長女にインシュリンを投与することができたのは、24時間つきっきりで長女の病室にいた母親のM以外にいないことがわかりました。
他に病室に出入りした不審な人物はいなかったことから、大阪府警は、平成29年3月8日、Mを傷害容疑で逮捕しました。
そして、大阪府警の家宅捜索により、室内からMの母親に処方されていた未使用のインシュリンの注射薬が数本見つかりました。
准看護師のMは、医学的知識を利用し、Mの母親のインシュリン薬をコーヒー飲料に混ぜて、1歳の長女に飲ませたのです。
*-6 インシュリンンは、血糖値を下げる働きがあるホルモンで、通常は高血糖の糖尿病患者らに投与されるものです。健常者にインシュリン大量に投与すると、低血糖に陥り、最悪の場合は死に至る怖れがあります。

事例221の母親Mのように、代理ミュンヒハウゼン症候群を起因とする虐待事件では、尿や便の中に血液や細菌を入れるなどして病気を装うだけならまだしも、薬物を使い、子どもの健康を害し、生命を危険にさらすなど、深刻な事態を招くことがあるのです。
平成21年には、3人の娘の点滴に水道水やスポーツドリンクなどを混入して死亡させた母親が逮捕される虐待事件が起き、母親の責任能力を調べるためにおこなわれた精神鑑定で、母親は、「代理ミュンヒハウゼン症候群」と診断されています。
病気と考えた医師が一生懸命に治療すればするほど、その子どもに苦痛を与えることになることから、幼児虐待の特異な例とされています。
虐待被害を受けている子どもを守るためには、保護者からひき離さなければならないわけですが、それ以前に重要なことは、この病気を見破ることです。その大前提となるのは、「このような病気がある」ということを知っておくことです。
事例221の母親Mのように、代理ミュンヒハウゼン症候群の患者は、一見すると子どもを献身的に看護する親に見えるうえに、医学的知識も豊富で、多くの医師も騙されてしまうことから、周りの人たちが見抜くのは非常に困難なことです。
また、母親本人は、自身の代理ミュンヒハウゼン症候群のために相談機関へ赴くということは珍しいことから、周囲の気づきが必要になります。
幼い子どもは、被害を訴えることができなかったり、第三者は、家庭にどこまで踏み込んでいいのかの判断が困難であったりすることから、第三者には、状況が把握し難いのです。
しかし、子どもの病気が治っても同じような症状による受診を繰り返したり、複数の病院を転々としていたりする傾向を把握することができれば、事件が発覚することができます。
代理ミュンヒハウゼン症候群は、不審な点を追求されると病院を転々と変える傾向があることから、他機関で協力して経緯を追っていくことが重要です。
子どもの病気を心配して必死になっている母親の姿を見せられると、ついつい同情してしまうことが少なくありません。しかし、確かな知識にもとづいて、冷静な目で見ることで発見できる可能性が高まるのです。


(3) 児童虐待への対応に関する法律
児童虐待に関連する法律としては、主として「児童福祉法」と「児童虐待防止等に関する法律(以下、児童虐待防止法)」があります。
いずれも平成16年(2004年)に改正されています。
その他、民法や刑法、配偶暴力防止法なども関係する法律です。

① 通告義務
a) 早期発見の義務と疑った時点での通告の義務
児童福祉法25条ではもともと国民すべての義務として、「保護者に監護させることが不適当であると認める児童を発見したもの」の通告義務がありましたが、それに加えて、児童虐待防止法5条で、「学校、児童福祉施設、病院その他児童の福祉に業務上関係のある団体及び学校の教職員、児童福祉施設の職員、医師、保健師、弁護士その他児童の福祉に職務上関係のある者は、児童虐待を発見しやすい立場にあることを自覚し、児童虐待の早期発見に努めなければならない。」と規定され、小学校の教職員には早期発見の努力義務が課されています。
通告に関しては、改めて6条で「児童虐待を受けたと思われる児童を発見した者は、速やかに、これを福祉事務所若しくは児童相談所又は児童委員を介して福祉事務所若しくは児童相談所に通告しなければならない」と規定されています。
ここで、「思われる」とされているのは、確証がなくても通告が義務であることを明確化しています。つまり、虐待は疑った段階で通告する義務があるということです。
b) 守秘義務との関係
さらに、同法6条で「刑法の秘密漏示罪の規定その他の守秘義務に関する法律の規定は、第一項の規定による通告をする義務の遵守を妨げるものと解釈してはならない」とされており、医師や教師の秘密保守義務違反にはあたらないことが明記されています。
通告は単に子どもの住所氏名を伝えるだけではなく、当然、その事件に関しての個人的な情報を提供することが含まれます。
更に、第三者が通告した事件であっても、通告できる立場にある以上、虐待に関して知っている情報を児童相談所に提供しても守秘義務違反にはなりません。
c) 通告者の保護
通告者を虐待者から受ける危険から保護するために児童虐待防止法では7条で「通告をした者を特定させるものを漏らしてはならない」と定めています。 
しかし、学校や医療機関の場合には、通告者を秘匿することで虐待対応が困難になることのほうが多いものです。
通告した後でも、その旨を教師や医師から親に告知する方がよいと考えられるときには、積極的に告知します。
その際、通告は親を罰するものではなく、子どもの安全を守ることであり、虐待者も支援を受けることであることを意識しておくことが必要です。
なお、告知にあたっては、できるだけ複数でおこなうことが大切です。

② 子ども虐待に関しての国および地方公共団体の施策への協力義務
 前述の児童虐待防止法5条では、早期発見の義務が課されているものに対して「児童虐待の予防その他の児童虐待の防止並びに児童虐待を受けた児童の保護及び自立の支援に関する国及び地方公共団体の施策に協力するよう努めなければならない」と定められています。

③ 児童相談所の権限による親子分離
a) 一時保護と一時保護委託
児童相談所は子どもが虐待を受けていると考えられるときには、親が同意するときにはもちろん、親が反対しても一時的に保護する権限を有しています(児童福祉法33条)。
子どもに医療行為が必要なときには、病院に一時保護委託をすることができます。
そのような場合には、親は勝手に子どもを退院させて引き取ることはできません。
また、親子の接触は児童相談所が介入することができますので、児童相談所とともに、面会の時間を制限するなどの対策がとれます。
一時保護は原則2ヶ月以内ですが、必要に応じて延長が可能です。
b) 長期分離
親が同意しているときにはもちろん施設入所や里親委託による親子分離が可能(児童福祉法27条)ですが、親が同意しない場合でも、家庭裁判所に申し立てをして承認されれば、2年間の子どもの施設入所による親子分離が可能です(児童福祉法28条)。
2年後に親子の状況を判断して、裁判所に延長を申立てることもできます。家庭裁判所の審判(「子の監護者指定の審判」など)では、医師の診断書や意見書が重要な役割を持つことがあります。
c) 一時保護中や施設入所中の子どもへの医療行為
一時保護委託や施設に入所中の子どもに対し、どの程度の医療行為ができるのかについては、明確な規定はありません。
一般的には、風邪や怪我の治療や侵襲の低い検査やカウンセリングなどは施設の同意のみでおこなっています。
しかし、できるだけ親権者にも医療的説明をおこない、治療の合意を得ておくことは求められています。
ただし、親権者が反対していても、緊急避難的な医療行為は可能です。
また、親権者が行方不明であったり、服役中のときには施設長が親権の代行をすることになったりしますので、施設長の許可で十分ということになります。
その他の医療行為に関しては、ケースごとに児童相談所と相談しながら、対応を進めていく必要があります。
なお、重大な問題に対して、親権者が治療を拒否するときには医療ネグレクトと考えられ、「親権者職務執行停止決定(親権停止)」もしくは「親権喪失」の申立てをおこなうことが必要な場合もあります。
申立ては、親族か検事(民法834条)、児童相談所長(児童福祉法33条の6)などがおこなうことができますが、時間がかかることやその後の対応の問題があります。
これまでに、短時間の保全処分(審判前保全処分)で必要な医療をおこなったケースがあります。

④ 在宅支援への参加
平成17年の児童福祉法の改正で、在宅支援は主として市町村が中心となり、要保護児童対策地域協議会(以下「協議会」)をつくっておこなうことが定められました(児童福祉法25条の2)。
「協議会」とは虐待を受けた子どもは、この「要保護児童」であり、「協議会」での対応が求められています。
「協議会」の構成員は、「協議会」で知りえたことを外部に漏らしてはいけないという守秘義務があります。
このことは、逆に、「協議会」の中では要保護児童やその保護者とそれに関する情報を交換することができることになります。
在宅支援は決してやさしいものではなく、死に結びつく危険もありますから、子どもを守るための積極的参加が求められます。
なお、在宅支援にあたって、市町村に医療情報を提供する場合、親の許可があれば、診療情報提供書として診療報酬を請求することができます(「養育支援を必要とする家庭に関する医療機関から市町村に対する情報提供について」平成16年3月10日雇児総発第0310001号)。

⑤ 加害者の処罰
虐待対応では、子どもの保護および親のケアが重視され、加害者の処罰は第一義的ではありません。
しかし、明らかな刑法違反の場合、加害者を処罰することで被害者から遠ざけたり、他児の被害を防いだりするためにも刑法での処罰が求められることがあります。
身体的虐待では「傷害罪」、ネグレクトは「保護責任者遺棄」、性的虐待は「強姦罪」「強制わいせつ罪」などの刑法罪での告発ができます。
また、性的虐待では「児童福祉法違反」での告発も可能です。
性的虐待の場合には子どもの負担も大きいので、児童相談所や弁護士が関与している民間団体に相談することが役に立つことがあります。


(4) 教育現場で、児童虐待の早期発見を妨げる心のブレーキ
地域コミュニティが希薄になっている中、保健師や小児科医、歯科医師、そして、保育園や幼稚園、小学校、中学校といった日々児童とかかわることの多い人たちが、児童虐待の早期発見者として期待されています。
 虐待の発見は、「虐待かな?」と疑うことが出発点になります。
しかし一方で、「本当に虐待なの?」、「この程度で、虐待といっていいのかな?」、「虐待じゃなかったらどうしょう」、「こんな子じゃ殴られてもしょうがない」、「普通の親なんだけど…」といった思いが頭をよぎると、目の前の虐待を見逃すことになってしまいます。
児童虐待防止法では、「児童虐待を受けた児童」から「児童虐待を受けたと思われる児童」に拡大され、虐待を疑った場合には通告するように義務づけられていることから、「いつもと違う」、「なにか不自然だ」と感じたら、色眼鏡をかけずに、ありのままを見るようにすることが重要です。
a) 「そんなことがあるはずがない」という思い、「できればそんなことを考えたくない」と思う気持ちが、虐待を見過ごしてしまいます。
b) 教員には、家庭との関係を良好に保ちたいとの思いがあります。親からの抗議を怖れたり、「児童から話を聞く」といった虐待へのかかわりが、かえって児童への虐待を深刻化させたりするかも知れないと考えてしまい、通告などを躊躇してしまいます。
c) ためらいと見送りを繰り返しているうちに、「どうせいつものこと」という慣れにつながったり、「前回の傷の方がもっとひどかった」と虐待の影響に慣れてしまったりすることが少なくありません。
このためらいと見送りが、生命の危険に及ぶ虐待にエスカレートさせてしまう可能性もあります。
d) いい学校に入れたい、いい会社に入れたい、家を継がせたい思いが強いばかりに、「覚えられない」、「できない」ときに親が子どもを怒鳴りつけ、ときに手をあげるといった教育的虐待(否定する、非難・批判する、侮蔑する、卑下することばの暴力+身体的暴力)は、教育とかかわる現場や、教育に携わる立場では“許容”しやすくなってしまいます。
e) 地域によっては、何世代にもわたって学校とかかわることがあり、「あの父親は、子どものころからひどかったから仕方がない」と容認してしまったり、逆に、「あの家庭(親)は教育熱心だから」ということばで、児童虐待を問題視することなく、素通りさせてしまう心理が働いてしまったりすることがあります。
その結果、虐待の対応をしなければならい事態になっていることを看過してしまうことがあります。
f) 子どもは中学・高等学校の段階になると、まず、その問題行動で評定されてしまうことになります。少年院に送致された子どもたちの6割-8割に被虐待の経験があるとされていますが、中学、高等学校では非行のみを問題として捉えてしまいます。
だからこそ、幼稚園や保育園、小学校の低中学年に早期発見し、非行が常習化する前に適切にかかわっていくことが重要です。
児童が発するSOSは、直接「ぼくは虐待されている」と口にすることは稀です。教職員が、アンテナを伸ばして見つけなければならないのです。
したがって、児童が「虐待」とどのようなことばや態度で表すのかを知らなければなりません。
「非行」とか、「不良」というレッテルを貼り、一方的な指導に終始してきたできごとも、虐待や面前DVがその背景にあると認識することで対応のあり方が変わってきます。
「これまで、実の親にレイプ(性的虐待)をされたという人には出会ったことがなかったから、そんな異常な親がそんなにいるはずがない」と認識しているとしたら、それは、児童にアンテナを伸ばして接してきていなかったので出会ってこなかっただけです。
児童が直接「ぼくは虐待されている」と口にすることがなくても、裏づけされた知識や判断基準にもとづいて、児童の表情や雰囲気、言動や行動パターン、そして、体調不良などの症状をよく観察することによって、虐待や面前DVの存在をキャッチすることができます。
・驚愕反応
驚愕反応とは、ちょっとした物音に飛びあがるほど驚いたりすることです*-7。例えば、子どもたちが遊びのなかで異様にビックリして、突然、逃げだしたり、走りだしたりします。それが、授業中におきたりすると、問題児童で授業を妨げる迷惑な子どもになってしまいます。
*-7 ASD(急性ストレス障害)、PTSD(心的外傷後ストレス障害)主症状の「覚醒亢進(過覚醒)」としての症状です。
・過覚醒
過度に覚醒している状態になります*-8。明かりをつけていなければ、眠れないという人も結構います。
実の親からレイプをされたとき、子どもは2度目、3度目のレイプ被害を避けるために、部屋の明かりをつけておこうとします。なぜなら、部屋の明かりをつけて、常に敵と戦う姿勢を示し、自らずっとおきておこうと緊張した状態を強いられているからです。
うっかり寝てしまうとちょっとした物音にもハッと目覚める敏感に反応するなど、途切れ途切れの断眠*-9となります。
そのため、昼間はボォーとしている時間が多くなります。
*-8 ASD(急性ストレス障害)、PTSD(心的外傷後ストレス障害)主症状の「覚醒亢進(過覚醒)」としての症状です。
*-9 発達障害発症のひとつの原因ともされる「断眠」については、「Ⅱ-12-(2)発達の遅れ」の中で、「睡眠不足症候群(ISS)」、「小児慢性疲労症候群(OCFC)」で詳述しています。

・固着
強いこだわりを見せます。まわりの人には、「いつまで、そんなことにこだわっているの? さっさと忘れてしまいなさい。」といわれてしまいやすいわけですが、こだわること自体がひとつの症状(反応)と見ることが大切です。
・衝動統制不全
突然、「なぜ、私はこんな目にあったのだろう」と大きな怒りの感情が込みあげてくることがあります*-10。
怒りが爆発して大きな声をだしたり、誰かに突っかかっていったり(ケンカになるように仕掛けていったり)、自分自身を傷つけたりするなど、怒りの調整ができにくくなります。
*-10 PTSD(心的外傷後ストレス障害)主症状「覚醒亢進(過覚醒)」の“攻撃防御の機能不全”としての症状です。
・孤立感、疎遠感
  自分が一人ぼっちだというどうしようもない孤立感や、未来が短縮した感覚があります。「もう私は真っ当な人生なんて送ることはできないんです。」と口にしたりします。
子どもたちが、学校の中でポツンとひとりでいたり、友だちとうまく遊べなかったりすることもあります。

児童が見せる「驚愕反応」、「過覚醒」、「固着」、「衝動統制不全」、「孤立感・疎遠感」は、教職員が、裏づけされた知識や判断基準にもとづいた虐待を感じるアンテナを持ち合わせていないと、「ちゃんとしろ!」と叱責したり、「気合いや根性が足りない!」と指導したりすることになります。
1984年にラッセルがおこなった虐待統計では、「18歳以前に虐待を受けた人は、930人のうち38%いた」という結果がでています。
つまり、「3人に1人以上、1クラス30人であれば、10人はなんらかの虐待を受けている」ということになります。
この数字は、臨床の現場では決して大げさではないと考えています。


(5) 児童虐待を見逃さないために
① 不自然な傷・痣
子どもはよくケガをしますが、不自然な傷・痣とは、遊んでいてケガをしないようなところにある傷・痣や、ちょっとした事故ではありえないような火傷といったものです。
このような傷・痣が多くあったり、頻繁に傷・痣ができたりする場合は注意が必要です。
② 不自然な説明
これは虐待している大人にも、虐待を受けている子どもにもみられます。
子どもの傷の原因について訊いても、傷の状況からありえない説明をしたり、話がころころ変わったりします。子どもの方も、打ち明けたい気持ちと、打ち明けることへの不安が入り交じり、不自然な説明が多くなります。
③ 不自然な表情
無表情であったり、変に大人の機嫌をとるような表情をしたり、ちょっとしたことで怯えるような表情をしたり、落ち着きなくキョロキョロして周囲をうかがうような表情をしたりします。
④ 不自然な行動・関係
親が現れると急にそわそわしたり、初めての人にも馴れ馴れしくしたり、年齢にそぐわない言動をみせたりすることがあります。
また、虐待している大人も、子どものことを非常に心配しているといいながら、子どもの様子に無頓着だったり、平気で子どもを一人にして遊びにいかせ、帰りが遅くても心配している様子が見られなかったりするなど、言動不一致であったり、不自然な行動がみられたりすることがあります。
⑤ その他の不自然な状況
児童や保護者に直接会わないと、不自然さは感じとれないものでしょうか? 重篤な結果に陥ってしまう虐待事件の中には、実際には保育所や学校の職員が、児童や保護者に会えていない場合が多くあります。
明確な理由がないのに保育所を急に辞めてしまう、保育所や学校を長期に欠席していて誰も児童に会えていない、保護者が欠席の理由を連絡しない、教職員が児童や保護者と会おうとしても保護者が会うことを拒否する、何度家庭訪問をしても「いま昼寝をしている」、「風邪をひいて寝ている」などと理由をつけて児童と会わせようとしないなど、児童に会わせることを極端に避けている場合も“不自然”なサインとして、適切な対応をする必要があります。


((6) 早期発見のためのチェックリスト**
** チェックリストのどれかに該当するからといって、必ず虐待がおこなわれているということではありません。
チェックリストの複数に該当し、繰り返しているようなら虐待を疑い、SOSのサインが他にもないか、児童や保護者に対して、これまで以上に分に注意してかかわる必要があります。


[保育園用]
① 子どもの特徴
・乳児(1歳未満)
□ 原因不明の不自然な傷やあざが多く見られ、手当ても十分でない
□ おびえた泣き方をしたり、かんしゃくが激しかったりする
□ 親が迎えにきても帰りたがらない
□ 職員を試したり、独占しようとまとわりついて離れなかったりする
□ 転んだり、怪我をしたりしても泣かない、助けを求めない
□ おやつや給食などをむさぶり食べる、お代わりを何度も要求する
・幼児(1歳から就学前)…乳児に見られる特徴の他に
□ 身体、衣服が極端に汚れたままで登園することがよくある
□ 予防注射や検診を受けていない
□ 理由のはっきりしない、または連絡のない遅刻や欠席が多い
□ ささいなことでカーッとなり、他の子への乱暴な言動がある
□ 小動物に残虐な行為をする。
□ いつもおどおどしていて、何気なく手をあげても身構える
□ 親の前では、おびえた態度になる。逆に、迎えにきた親を叩いたり、蹴ったりする
□ 年齢不相応な性的なことばや性的な行動が見られる。
□ 性器を痛がったり、かゆがったりする。または、無意識のうちに性器(辺り)を触っている
② 保護者の様子
□ 子どもの扱いがハラハラするほど、乱暴である
□ 子どもとの関わりが乏しかったり、冷たい態度をとったりする
□ 子どもの要求を汲み取ることができない(要求を予想したり理解したりできない、なぜ泣くのかわからない)
□ 予防注射や健康診断を受けさせない
□ 感情的になったり、イライラしたりしてよく怒る
□ 子どもが自分の思いどおりにならないとすぐ叩いたり、蹴ったりする
□ 子どもに能力以上のことを無理やり教えよう(させよう)とする
□ きょうだいと著しく差別したり、他の子どもと比較ばかりしたりする
□ 不自然な打撲によるあざや火傷などがよくみられる
□ 特別な病気もないのに、身長の伸びが悪い、体重の増加が悪かったり、次第に低下したりしている
□ 表情や反応が乏しく、語りかけ、あやしにも無表情である
□ 抱かれると異常に離れたがらなかったり、おびえたよう様子が見られたりする
□ お尻がただれていたり、身体、衣服が極端に汚れたままで登園したりする
□ 母子手帳の記入が極端に少ない
□ 無断で欠席させることが多い
□ 理由がないのに長時間保育園に置きたがる
□ 夫婦関係や経済状態が悪く、生活上のストレスになっている
□ 母親にも暴力を受けた傷がある

[学校用]
① 子どもの特徴
・体や身なり 心の様子
□ 説明が不自然な打撲による痣、火傷の痕などがよく見られる
□ 特別な病気もないのに身体的発達が著しく遅れている(体重や身長の伸びが悪いなど、発育不良が見られる)
□ 表情や反応が乏しく、受け応えが少なく、元気がない
□ いつもおどおどしていて(こわがる、おびえる)、急に態度を変える
□ 性器を痛がったり、かゆがったりする。または、無意識のうちに性器(辺り)を触っている
□ 衣類(体操服・水着等)を着替えるとき、異常な不安を見せる
□ 身体、衣類が極端に汚れたまま、または季節や気温にそぐわない服装で登校する
□ 基本的な生活習慣が身についていない
□ 食べ物への執着が強く、給食をむさぼり食べる、おかわりを何度も要求する
与えられるとむさぼるように食べる
□ 警戒心が強く音や振動に過剰に反応し、何気なく手をあげても身構える(顔や頭をかばう)
・保護者との関わり
□ 保護者の前では硬くなり、極端に恐れ、怯えた態度になる
□ 子どもと保護者の視線がほとんど合わない
□ 不自然に子どもが保護者に密着している
□ 保護者といるとおどおどする態度になったり、落ちつきがなかったりする
□ 保護者をかばう発言がある
・友だちとの関わり
□ 威圧的、攻撃的で、ささいなことでカーッとなり、乱暴なことば遣いをする
□ 落ちつきがなく、過度に乱暴だったり、弱い者に対して暴力をふるったりする
□ はげしいかんしゃくを起こしたり、かみついたりするなど攻撃的である
□ 友だち関係がうまくつくれない。集団から浮いてしまう
□ 友だちに食べ物をねだることがよくある(友だちの家や近所のお宅でたびたび食事をごちそうになっている)
・学習状況
□ 理由のはっきりしない欠席・遅刻・早退が多い
□ 忘れ物が多い
□ 授業に集中できず、ボーッとしている
□ 急激な学力低下がみられる
・問題行動 その他
□ 下校時刻が過ぎても家に帰りたがらなかったり、時には、外泊をしたり、家出を繰り返したりする
□ 金銭の持ち出しや万引きなどの問題行動を繰り返す。また、嘘をいう
□ 小動物をいじめる(残虐な行いをする)
□ 年齢に不相応な性的な興味・関心をもっている(性的逸脱行為)。または、極端な拒否感がみられる
□ 長期間欠席しており、家族とも連絡がとれない

② 保護者の特徴
・子どもとの関わり
□ 子どもに対して、ことあるごとに激しく叱ったり、ののしったりする
□ 子どもを抱いたり、話しかけたりしない
□ 子どもが病気でもあえて病院に連れて行かない
□ 必要な予防接種や健診を受けさせていない
□ 子どもの扱いがハラハラするほど乱暴である
□ 子どもとの関わりが乏しかったり、冷たい態度をとったりする
□ 子どもが自分の思いどおりにならないとすぐに叩いたり、蹴ったりする
□ 感情的になったり、イライラしたりしてよく怒る
□ 子どもに能力以上のことを無理矢理教えよう(させよう)とする
□ 兄弟と著しく差別したり、他の子どもと比較ばかりしたりする
□ 無断で欠席させることが多い
□ 長期病欠していても、医療機関を受診させていない
□ 確認には至らないものの、性的虐待が強く疑われる
□ 頭部や顔面、腹部のあざや傷が繰り返されている
□ 慢性的にあざや火傷(タバコや線香、熱湯など)がみられる
□ 親が子どもにとって必要な医療処置をとらない(必要な薬を与えない、大きいけがや重病を放置するなど)
□ 子どもにすでに重大な結果が生じている(性的虐待、致死的な外傷、栄養失調、衰弱、医療放棄等)
・学校との関わり
□ 子どもの学校での生活に無関心である
□ 欠席の理由がはっきりしなかったり、連絡がなかったりする
□ けがについての説明が不自然である
□ 子どもに関していっていることに一貫性がない
□ 話し合いや面談を拒む
□ 体罰や年齢不相応な教育などを、「しつけ」、「家庭の教育方針」などと正当化する
□ 集金の滞納が続く
・家族の状況
□ 絶え間なくケンカがあったり、家族への暴力があったりする *DVが疑われる
□ 夫婦関係や経済状態が悪く、生活上のストレスになっている
□ 母親にも暴力を受けた傷がある *DVが疑われる
□ 母親が目線を合わせず、おどおどしたふるまいがみられる *DVが疑われる
□ 子ども自身あるいは保護者が保護や救済を求めており、訴える内容が切迫している *DVが疑われる


(7) 虐待している保護者の特徴
虐待を行った者は、実父母が多く、中でも実母が最も多いことが知られています。
多くの親は虐待を行っても、それを認めようとはしませんが、親を罰するのではなく、虐待する親も支援を必要としているという視点が大切です。
虐待をする特別な親がいるわけではありません。
誰でも虐待者になり得ます。後で振り返ると何らかのSOSサインを発していたことが分かることがあります。
児童福祉法改正で、地域に要保護児童対策協議会の設置が望まれ、小学校にもその早期発見の役割が期待されています。
親だけをみて虐待を疑うことは困難であると思いますが、親子の関係など「ちょっと気になること」をそのままにせず、医療機関、保健所、保健センター、児童相談所などに連絡し、地域全体で見守るように努めることが重要です。
虐待者も幼少時の被虐胎児経験を持つことがあることが明らかになっていますが、把握しがたいのが現状です。
しかし、一方で虐待をしやすい親、受けやすい子どもの特徴が明らかにされてきています。
また、虐待を受けるのは子どもに限りません。パートナー間であればドメスティック・バイオレンス(DV)*-11です。
子どもの虐待からDVが明らかになることがあります。
逆に、DVから子ども虐待が明らかになることもあります。
「DVの現場にいること自体が、子どもにとって虐待にあたる」と考えなければならないのです。
*-11 パートナー間(配偶者間)にDVがある、つまり、子どもが暴力を見たり、聞いたり、察したりする状況にあるとき、それは、「面前DV」と呼ばれ、子どもにとって精神的(心理的)虐待を受けていることになります。
つまり、慢性反復的な(常態化された)暴力を耐え続けている状況は、子どもに対して、精神的(心理的)虐待をおこなっていることになります。


<虐待が推察される親の行動>
① 育児についての誤った知識(確信)を持っているようにみえる
外出先で、子どもが備えつけのおもちゃをなめると、母親が「人様のものを舐めるんじゃありません」とたしなめると、子どもの表情が凍りつく
② 子どもを怒鳴りつけ、あたりまえと感じているように見える
外出先で子どもを怒鳴りつけ、片手で引きずっていく
③ 攻撃的であり、通常の信頼関係を築きづらい
一方的に批判したり、要求したりするだけで、人の話し(説明)には納得せず、強く拒否反応を示す。また、直ぐに結果がでることを求める
④ 状況の説明に一貫性がなく矛盾していたりする
自分から状況を説明するのを渋ったり、ごまかし、いい逃れをしようとしたりする
権威のある人とないとみられる人に対して態度が違ったり、いうことが違ったりする(表の顔と裏の顔がまったく違う)
会って話をすると、人の話をよく聞いているように感じるものの、行動がまったく伴わなかったりする(約束したことが長続きしない)

<その他の虐待や放置をする親にしばしば見られる行動様式や問題点>
① 厳しい体罰を当然であると考えている
② 親自身に虐待を受けた既往がある
なかなか得られにくい情報である。保健所・保健センター保健師や市町村のケースワーカーが把握していることがある
③ 一般的に他人に対して疑惑と反感を持っており、親しい隣人や親戚が居ない
日頃から、近隣住民とトラブルをおこしている
④ 孤立した生活(自分から拒否する、周囲から見放されるなど)
⑤ 子どもに心理的に過度に依存しており、子どもに慰めや安心・満足を求めている
 それが満たされないとその不満を子どもにぶつける(役割逆転)
 子どもを小学校に行かせず、幼い兄弟の面倒をみさせている
⑥ 一貫した子どもへの養育態度がなく、子どもが親の期待通りに行動できない
 時に、子どもを脅し、体罰を加える
⑦ 子どもの正常な発達に無関心で、たとえ教えられても理解していない
  ことばが遅いことをまったく気にしない。保育園で発達の遅れを指摘されても気にしない
⑧ 母親が加害者の場合には、母親自身が夫からのDVの被害者であることがある
母親の外傷、夏場でも長袖を着ているなどに注意が必要となる。
また、直接の暴力がない場合も、育児に無関心、家族を顧みない、経済能力がないなど母親を追い詰めていることが少なくない

<虐待を疑ったときの保護者に対する接し方>
信頼のおける人が中心となって、教師、教頭・校長、ケースワーカー、児童相談所の職員、保健師などの連携で方針をたてて、誰もが、同じことを訊かないにようにします。
誠実な態度で、十分に話を聴くという態度が大切です。
① 保護者から虐待についての告白・動機・故意かどうかなどを無理にひきだそうとしない
無理にすると保護者は、責められている、非難されている、罰せられるなどと感じ、信頼関係を築きにくくなる
② 保護者のあいまい、不自然な説明をひとまず受け入れ、保護者の苦労をねぎらい、子どもの治療や必要な検査を、一緒に進めていく
③ この時点では「虐待」という表現は、刺激的過ぎる。家族の状況、保護者のパーソナリティなどの情報を収集し、方針をたてる
④ 一緒に考えて、協力していまの虐待が起こる環境を変えてゆきましょう。親子分離も、親への罰ではなく、状況を変える手段である。親から信頼されるように、支持的におこなう
⑤ 年長児の性的虐待が疑われる時は、初期段階から弁護士を入れる
  虐待をする親を「親のせいだ」責めたり、「親が悪いから」と罰したり、批判しないように虐待する保護者にも、虐待をしてしまう何らかの理由がある
 虐待をしてしまう親にも、援助が必要です。

(保護者が被虐待者であるとき、境界性人格障害の特性を理解しておく)
「Ⅰ-5-(5)DVでない暴力、DVそのものの暴力」の中で詳しく説明していますが、虐待やDVの加害者が男性であるとき、自己正当化型ADHD、アスペルガー症候群、サイコパス(反社会性人格障害)を抱えていることが多く、加害者が女性であるときには、境界性人格障害(ボーダーライン)を抱えていることが多いといわれています。
第1章(Ⅰ.密接な関係。児童虐待とドメスティック・バイオレンス)では、DVの加害者として、主に男性にフォーカスして説明しているので、ここでは、虐待の加害者として、主に女性にフォーカスしておきたいと思います。
虐待が疑われる母親が、「境界性人格障害(ボーダーライン)」の“障害の特性”を理解していないと、援助するときにトラブルを招いてしまうことがあります。
境界性人格障害については、「Ⅰ-5-(5)DVでない暴力、DVそのものの暴力」「Ⅱ-15-(10)人格障害とは」の中で詳しく説明していますが、境界性人格障害(ボーダーライン)の特性を簡単にまとめておきます。
a)「見捨てられ不安」が非常に強い
境界性人格障害の特徴として、“分離不安”が非常に強いことがあげられます。
例えば、任意で入院していた患者が、「もうこんな窮屈な入院生活はいやだから、退院したい。」と口にしたとき、「そう、退院したくなっちゃったんだ。じゃあ、退院をするんだね。」と応じると、突然、パッと翻すように、「それって先生、私をもう診てくれないということなの?!」と声を荒げ、ものすごい勢いで怒りだすことがあります。
b)理想化とこけおどしの両極端を揺れ動く
不安定で激しい対人関係も特徴で、非常に極端です。
例えば、初回の面接で、「私の苦しい思いを打ち明けられたのは、先生が生まれてはじめてです。こんなにすばらしい人に出会えるなんて!」と口にしていたとしても、それは、単に病気のせいで、理想化しているだけです。
したがって、「ああよかった。私の相談の技術が認められた。この人は心を開いてくれたわ、うまくいったんだ。」と受けとってはいけないことになります。
なぜなら、3日後には、「最低だわ、もういいです!」とすごい剣幕で、ガチャンと電話を切られたりすることがあるからです。
どうしたのだろう、なにか悪い対応をしてしまったのだろうかと不安になったりしますが、別に悪い対応をしたわけではなく、それが、境界性人格障害のひとつの特性ということです。
c) ファンタジーがとても強い
相手はこんなことを考えているのではないかと非常に気をまわします。
自分と相手が話をしていて、「この人ひょっとしたら自分の話がつまらないと思っているのではないかしら。つまらなさそうな顔をしているわ。もっと相手の人を喜ばさなきゃいけないと思うのだけれど、どうしたらいいかしら?」と非常に心配しながら、「でもきっとこの人は私のことを認めてくれるに違いないわ。」と思っていくわけです。
つまり、理想化していきます。
例えば、医者と患者との間でよくおきることは、医者を理想化します。「先生のところに行けば、きっと治してくれる」と万能観を抱くわけです。
そして、ものすごく理想化して、翌週にヤブ医者扱いをし、信用できないと治療を断ち切っていきます。
d) 同一性障害
非常に不安定であることから、疲弊します。自己像が不安定なため、なにを援助してもらいたいのか一生懸命聴こうとしても、自己像が不安定なため明確な回答はでてきません。
そのため、どのように援助したらよいのかわからず、戸惑うことになります。
e) 非常に衝動的な行為が多い
リストカットやOD(過剰服薬)など、自己を傷つけること(自傷行為)が多いのも特徴のひとつです。
浪費(買い物依存)、薬物乱用、下剤や利尿剤の多用、無謀な運転や無茶食い(過食嘔吐)などもおこります。
アルコールや薬物の依存もあります。
気を惹くため、かまってもらうための“試し”として自殺行動や自傷行為を繰り返しますが、自殺のそぶりや脅かしのつもりが失敗し、本当に亡くなってしまうことがあります。
援助者も、試しとしてのリストカットを繰り返されると、「カリカリとやってかじっているくらいだから、大したことない」と次第に慣れ、危機感が薄れてしまうことがありますが、緊張感は持ち続けなければなりません。
また、望まない妊娠や性病の罹患など「リスクのある性行為」を繰り返すことも、自らの命を大切しない行為、つまり、自傷行為のひとつであるという認識に立つことが必要です。
f) 顕著な気分反応性による感情不安定性
非常に気分の変動が激しいのが特徴です。イライラしたり、不快であったり、不安であったり、そういった感情が何日も持続するのではなく、日々変わります。ものすごく落ち込んでいたかと思うと3日後にはとても元気で「自信がつきました!」と口にしていたりします。
さらに、慢性的な空虚感があります。いつもなにかしら虚しい、満たされない感覚を持っています。
「こんな気持ちはだれにもわかってもらえない」と思っています。
「双極性障害(躁うつ病)」による気分の浮き沈みは、サイクルが長いのが特徴です。
g) 激しい怒り
激しい怒りを抱えています。この怒りの制御は困難で、ものすごい癇癪をおこしたりします。
ときには、すったもんだしたあげくの果てに、包丁沙汰になることもあります。
h) 一過性のストレス関連性の妄想様観念
自分自身にストレスが関わるような状況になると、被害妄想が現れたり、まったく関係ないにもかかわらず、自分に関係づけて考えるようになったりします。
「あの人きっと私の噂をしているに違いないわ」というようなことを口にします。
i) 重篤な解離性症状
解離は、虐待にあった多くの人におきます。
非常に重篤な解離になってくると、うちに帰ってきてふっと気づくとまったく買った覚えのない買い物が置いてあることがあります。
「きのう寄ったのはセブンイレブンのはずなのに、なぜローソンの袋も置いてあるの?」という状況がおきます。
そのため、話したこと、約束したことを覚えていないことがでてきます。
ここに、被害妄想が加わると、「そんな話は聞いていない」、「そんなことを約束した覚えはない」と、自分は嘘をつかれているとか、自分を貶めようとしていると認識し、激しい敵意を抱いたりすることがあります。



2014.1/9 小学校教職員のための「児童虐待・DV対応の手引き」..学校として虐待の早期発見と対応手順
2015.4/18 改訂新版
2016.3/11 ブログ再編成(第3次改訂)に伴い、『暴力の影響を「事例」で学ぶ。DVの早期発見・支援。母と子どもが暴力から脱するための手引き』の「第3章(Ⅲ(13-20))」として再編集、掲載
2017.4/25 「第3章(Ⅲ(エピローグ、16-23))」の「改訂2版」を差し替え掲載




もくじ   3kaku_s_L.png   [Ⅲ-6]Ⅲ.学校現場で、児童虐待・DV事案とどうかかわるか
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