あなたは、夫の暴力・DVを容認していませんか? 暴力のある家庭環境で暮らす子どもの心を守ることを忘れていませんか?

[Ⅲ-6]Ⅲ.学校現場で、児童虐待・DV事案とどうかかわるか

21.通告後の児童への対応。子どものケア、回復のプロセス

 
 22.児童虐待・DV事件、保護者からの苦情の捉え方 20.児童相談所への「通告」と連携
* 現在、この「手引き」は、第3次改訂の編集をおこなっています。編集終了後、差し替えていきます。

第2部
Ⅲ.学校現場で、児童虐待・面前DVとどうかかわるか
・事例208-209

エピローグ
・事例210(事件研究1:厚木男児監禁遺棄致死事件(平成26年5月))
・事例211(事件研究2:江戸川区岡本海渡くん事件(平成22年1月))
・事例212(事件研究3:狭山市羽月ちゃん事件(平成28年1月))
・事例213

16.児童虐待の定義
(1) 児童虐待の定義
(2) 虐待を疑うということ
  ・事例214-219
・代理ミュンヒハウゼン症候群
(事例220-221)
(3) 児童虐待への対応に関する法律
(4) 教育現場で、児童虐待の早期発見を妨げる心のブレーキ
(5) 児童虐待を見逃さないために
(6) 早期発見のためのチェックリスト
 ・保育園用
  ・学校用
(7) 虐待している保護者の特徴
 <虐待が推察される親の行動>
  <その他の虐待や放置をする親にしばしば見られる行動様式や問題点>
 <虐待を疑ったときの保護者に対する接し方>
・保護者が被虐者であるとき、境界性人格障害の特性を理解しておくことが役立つ

17.初期対応としての緊急性の判断
(1) 学校検診(保健室)における虐待への気づき
 <学校健診(保健室)における虐待対応フローチャート>
(2) 身体的虐待を疑う
 <身体的虐待を疑ったときの対応>
 <放射線診断の方法>
  <受傷機転による骨折の形態>
  <部位別特徴>
(3) 虐待による熱傷の所見
  <虐待による熱傷の特徴>
 <熱源別特徴>
(4) ネグレクト(neglect)
 <ネグレクトに気づくために>
(5) 性的虐待が気になるとき
  <児童期性的虐待の基準(ハーマン著「父-娘 近親姦」抜粋)>

18.性的虐待への初期対応
(1) 発見の難しさ
(2) 適切な気づきのための留意点
 <子どもの性暴力被害の兆候:共通して示す症状や行動>
(3) 児童の訴えを聴くとき
(4) 児童の訴えを聴くときの留意点
(5) 通告したら
(6) 性的虐待・家庭内性暴力の通告にあたる児童の告白内容
(7) より本質的なこと:性的虐待、家庭内性暴力の予防について

19.子どもの心理的援助-トラウマ反応について学ぶ-
(1) トラウマ(心的外傷)の3つの反応(制御反応)
(2) 虐待によるトラウマの接近
(3) トラウマからの回復

20.児童相談所への「通告」と連携
(1) 児童虐待防止法第6条にもとづく「通告」がはじまり
  <児童相談所等への通告についての留意点>
 <通告の内容>
  <通報後、保護者の抗議>
(2) 身体的暴力のあるDV環境下では、6割の子どもが身体的暴力を受けている
 <できることからはじめよう>
(3) 学校でできること
 <児童が一時保護されたら>
  <児童が家庭復帰するとき援助>
(4) 校内連携
(5) 関係機関との連携
 <児童相談所での相談の流れ>

21.通告後の児童への対応。子どものケア、回復のプロセス
(1) 児童への対応
 <児童への日々のかかわり方>
 <児童への質問法>
(2) 混乱した行動への対応
(3) 子どもの心理的なケア
(4) ASDとPTSDの回復への支援の原則
(5) 心の回復プログラム
(6) ケアする人に求められること
(7) 虐待を受けてきた子どもへの対応
  ・最低限の規範としてのルールの明示は、子どもの生活の見通しを助ける
(8) 学校園での周囲の子どもへの対応
  ・正確な記録を残すポイント

22.児童虐待・DV事件、保護者の苦情の捉え方
(1) 大切な初期対応
  ・記入例
 <子どもからの聴きとりの留意点>
  ・謝罪例
(2) その後の組織的な対応 -学校として保護者等の声と正対するために-
  <かかわり方の難しい事例のパターン>
  ・対応例1-2
 <学校内でおきた事故に対する補償>
  ・対応例3-5
(3) 保護者とのかかわり方
 <基本的対応>
  <家庭との対応の目標>
 <保護者の虐待への反応類型>
  <保護者との面談、家庭訪問のポイント>
(4) 一時保護の決定、保護命令の発令事案への学校の対応-基本的心得-
(5) 学校でのDV加害者からの追及と対応のあり方
 ・対応例6-11
 <回答を拒否する法的根拠>
 <最高裁判決>
 <教職員・援助者に対する妨害行為>

23.援助者(支援者)・教職員のメンタルケア
(1) 援助者(支援者)・教職員の傷つき
(2) 援助者(支援者)・教職員が傷ついたとき、心の手当てのあり方
  ・子どものへの応用

第2部の結びとして
  ・感情耐性
  ・援助者・支援者の感情耐性



 暴力のある家庭環境で育った心の傷、精神的ダメージに対するケアについては、「Ⅴ-31.暴力被害女性と子どものためのプログラム-コンカレントプログラム-」、「Ⅴ-32.虐待する親の回復の視点-MY TREEペアレンツ・プログラム-」で、プログラムとしてのあり方を詳しく説明しています。
 この第3章(Ⅲ.学校現場で、児童虐待・面前DVとどうかかわるか)では、そこに至る前に、子どもたちと直接かかわる学校園の教職員として理解しておくべき、子どもの傷ついた心のあり方について整理しておきたい思います。


(1) 児童への対応
ほとんどの被虐待児童が在宅のまま学校に通学することになり、専門的な治療プログラムを受けられるのはごく僅かです。
また、DV環境下での虐待案件では、母親が夫のものから逃げ、緊急一時保護施設(母子棟)に入所したり、母親の実家に戻ったりすることもあります。
そして、夫婦関係調整(離婚)調停や裁判で離婚が成立されるなど、被虐待児童にとっても精神的に不安定な状態が続きます。
こうした被虐待児童に対しては、特に、転校先にDV情報や虐待情報が伝えられないことも多く、専門的な治療を受けられることは稀です。
虐待事案には、さまざまな要件が絡みますが、学校は治療機関ではないとはいえ、児童の心の傷を癒して、適切な情緒的・人格的は発達に導いていくためには、心理治療のプログラムの必要性を理解し、学校の中でどう生かせるかを考え、備えていく必要があります。

<児童への日々のかかわり方>
・信頼関係を結び、安心感を持たせる
・努力やよい面を積極的に評価し、子ども自身の自己評価を高める
・虐待から身を守る方法を助言する
・怒りへの適切な対応方法を習得させる
・感情にことばのレベルを与える

① 重大な前提
a) 児童は虐待環境に順応する
児童は、24時間虐待を受け続けているわけではありませんが、いつ虐待されるかわからないという不断の不安と緊張(虐待環境)の中で暮らしています。
児童は、この不安と緊張に順応しようとして、さまざまな症状や問題行動を起こすのだということを理解しなければなりません。
児童は、不安や緊張から逃れるために、感覚や注意力、現実感を低下させ、麻痺に近い状態で危機が過ぎ去るのをじっと待ち続けるか、あるいは、危機に備えて感覚を研ぎ澄ませるか、それが交互に現われたり、フラッシュバックによるパニック状態になったりします。
b) 児童は虐待の体験を語れない
虐待は、児童にとって言語に絶する辛い体験です。
愛されるべき(愛着対象の)親からの仕打ちを現実として認めたくないものです。
悪いのは自分であり、叩かれたりするのは自分が悪いからと思っている児童は、虐待の体験を隠したり、ぼかしたりしますし、すらすらと語ったり訴えたりすることはなかなかできるものではありません。
c) 児童の虐待に学んで、身につけた表現力
本来ならば守られて愛されるべき体験が、逆のものであり続けた結果、親愛の表現と攻撃の表現を混同してしまいます。
一方で、「トラブルは力で解決する」ということを学び、身につけています。
児童の見せる対応に苦慮し、極端で、逸脱的、混乱的なふるまいは、虐待の体験からおのずとそうなってしまうのだと理解することが必要です。

<児童から聞きとるときのポイントと注意点>
① 聞きとる前には準備が必要
・あらかじめ、聞きとるポイントについて関係者で十分に検討しておきます。
・聞きとった内容は、できる限り正確な記録を残します。
② リラックスさせる
児童が安心して話ができるよう、静かで落ちついた場所でおこないます。
③ 無理に訊きださない
・児童が安心できる話し方、質問方法を心がけます
・詰問になってしまわないよう十分に気をつけ、無理をさせないようにします。
・「はい」、「いいえ」で応えられる質問はできるだけ避けるようにします。
・児童のことばに共感し、受容的に受け止めます。
・聞きとりの回数は、できる限り少なくするように努めます。
④「話してくれてありがとう」
・児童が家庭内の虐待の事実を話すことは勇気がいることです。まずは、話してくれた行為をしっかりと受け止めてあげることが必要です。
・ひどい状況を聞いても驚かず、動揺をみせないようにします。
⑤「あなたのいったことを信じるよ」
話を聴くことは調査ではありません。矛盾点などがあったとしても、話してくれたことを信じるという姿勢を示し、「信じるよ」というメッセージを児童に伝えます。
⑥「あなたが悪いんじゃないんだよ」
児童は保護者をかばったり、自分が悪いと思ったりしていることが多いので注意が必要です。
ただし、児童の前で保護者批判をしてはいけません。児童にとっては、たとえ虐待する保護者でも、大切な存在である場合が多いのです。
保護者を批判するより、「痛かったね」、「つらかったね」と児童に共感することばをかけてあげることが何より大切です。
⑦「困ったときは何でもいっていいんだよ」
虐待を受けたときなど、児童からSOSがだせるように、普段から関係づくりに努め、「困ったときは助けを求めてよい」と繰り返し伝えます。
そして、児童が助けを求めてきたときには、しっかりと受け止め、責任を持って対応することです。
⑧ 約束できないことは「できない」という必要がある場合も
約束を守ることは信頼につながりますが、「誰にもいわないで」といわれたときに、できない場合もあることを説明する必要があります。
親に話すということではなく、「必要なときには、子どもを大切に思い、守ってくれる人に相談することがある」ことをきちんと伝えます。

<児童への質問法**>
** 客観的な事実を聴こうとするときには ②-⑥のような質問は、原則使わないようにします。
① 開かれた質問(open-ended question)○
「~について話して」、「あなたが~ということはどういうことなのか、もう少し詳しく教えて」など、答えが Yes.No にならず、子どもに自発的に自由に話してもらう質問です。
② 閉じられた質問(close-ended question)×
「~ですか」など、基本的に特定の事柄を示してYes.No で応えてもらう質問の仕方です。
設定自体が誘導的になる難点があることから、不適切な質問です。
③ 選択肢のある質問 ×
基本的に二つ以上の選択肢を設けていずれか尋ねる質問です。
問いかけが誘導的にならないためには Yes.No と同等の2択ではなく「いずれでもない」という項目を加えた3択以上の設定が必要になります。
3択以上であっても、できるだけ、使わないようにします。
④ 誘導質問 ×
「~だったの?」、「~ということがあったの?」、「~に…されたの?」など、質問者が想定していることを、児童がまだ話していない段階で先に答えを示す形で質問してしまいます。
多くは閉じられた質問形式 になってしまうため不適切です。
⑤ 強制・強要質問 ×
「~なんでしょ」、「~だよね」、「~だとわかっているよ」、「そうなんでしょ」など、ある特定の答えを認めさせようと迫る不適切な質問です。
⑥ 報酬の提示質問 ×
「これが最後の質問だよ」、「これが終わったら、帰れるからね」、「あとひとつ(3つなど)答えてくれたらおしまいにするかね」、「ちゃんとお利口に答えてくれたら、お菓子をあげる」などと報酬を提示して応答を促す質問です。
特定の応答内容を暗示・強制している場合と、応答の傾向性(肯定・否定などの)を示す、短く済む方を選ばせるなどで応答の公平性を歪めるもので、不適切です。


(2) 混乱した行動への対応
① タイムアウトと安全基地
パニックを起こした児童に「二次的な被害をださずにすむ場所」を提供する必要があります。
保健室・校長室・相談室・特別支援学級等でもいいのですが、それらが本来の機能を果たしているために使えないときのことを考えておかなければなりません。壊れやすい備品がなく、パニックが起きたときの安全基地としてだけ使える場所(部屋)の確保が望まれます。
しかし、隔離が困難な場合は、周囲が離れてあげるだけでも効果がでることがあります。

② 人の配置
場所の問題だけでなく、実際に対応できる人を配置することも重要です。しかし、加配が望めない場合には、校内連携によって「遊軍」を生みだす工夫が必要になります。
授業の組み方、事務仕事の役割分担によって、「フリーに働くことができる教員」を確保する努力が求められます。

③ 社会集団としての制約
学校は、社会的な場です。無制限の自由など誰にも与えられていません。ですから、虐待を受けてきた児童に対して接する場合にも、最低限の行動制約は必要ですし、守らせなければなりません。
児童の傷ついた心(気持ち)を受け入れる(受容的態度)は、「放任」することはではありません。
「自己への危害」、「他者への危害」、「器物の意図的な破損」など、原則として制止しなければなりません。
これは、個別対応ができる空間においても例外ではありません。制約や禁止がいけないのではなく、むしろ、守らなければならないルールを明確に示すことの方が、児童の行動の安定をはかることができます。
家の外では「暴力をふるってはいけない」と教えられても、家の中ではその暴力が日常的におこなわれているわけです。
虐待を受ける子どもにとって、日々身の危険、恐怖にさらされている家庭内のルール、常識に従うしかありません。社会性を身につける意味からも、「してはいけないことは、してはいけない」ことを学び直させなければならないのです。
特に重要なことは、「教員によって、対応の原則が違う事態」を避けなければならないということです。

④ 次の担当に手渡す
教員は、ともすると「自分が担任の間にこの子を救いたい」とか、「卒業までに解決したい」といった考えに囚われてしまうことが少なくありません。
しかし、その気持ちが焦りや強引な指導に結びついてしまってはかえって逆効果となってしまいます。
虐待への対応は、いまできることに一つひとつ真摯にとり組むことはもちろんですが、「自分がやり残したことは、次の担当者に手渡す」くらいの気持ちのゆとりが必要です。

⑤ あたり前を疑う
例えば、性的虐待を受けている児童に「肩を抱く」といった通常のスキンシップをとったらどうなるでしょうか? あるいは、ネグレクトを受けている児童に伝統的な生活指導を強化したらどうなるでしょうか? 
虐待とは、子どもが「あたり前に発達していく環境を奪われている状態」です。
そのことの理解と、社会集団としての学校が守らなくてはならないリアリティとを両立させる工夫が、教育現場に求められています。

⑥ 周囲への影響
守られ愛されるべき親子関係が逆のものであり続けた結果、児童は、親愛と攻撃の表現を混同してしまうことがあります。
世話を焼いてくれる優しい児童でありながら、教員に暴力的言動で接することがあります。
執拗なつきまといや陰湿ないじめ、暴力などの問題行動が集団生活の場に混乱を招きますが、受容は放任することではありません。
自己や他者への危害、器物の意図的な破壊といった行いへの制止やルールの提示は、きちんと根気よくおこなわなければなりません。

⑥ リミットテイスティング
虐待に順応した児童は、虐待を誘発する言動、挑発的な言動やふるまいをわざとしてきます。
挑発に乗らず、児童の心の動きを汲みとったことばをなげかけ、先回りした言語化をしていくことが大切です。


(3) 子どもの心理的なケア
家庭は子どもにとって大きな存在です。
しかし、家族や家庭環境だけが子どもに影響を与えているわけではありません。
ときには、幼稚園や保育園、小学校の教師、友だち、近所の人との関わりをきっかけに、子どもの心に変化があらわれる場合もあります。
もともと子ども自身が、回復のための内なる力を持っています。
その力を信じることが必要です。
暴力的な環境で育った子どもたちの心理的、情緒的な混乱は、食事や入浴、遊びなどといった日常生活の流れの中でケアしていくことが大切ですが、以下、子どもの心理的なケアについて扱います。

① 子どもを信じる
まず、子どもにあたたかく接し、その子を大切な存在だと思っていることを伝えます。
そして、暴力という手段をとらなくても、感情を表現し、人とのコミュニケーションがとれることを教えていくことが大切です。
子どもは無力な存在だと思われがちですが、大人が思っているよりもはるかに自分を守るための知恵や力を持っています。
適切な知識や情報が与えられれば、年齢を問わず、暴力に対処するための方法を積極的に考えることもできます。
子ども自身が自分を大切にできるように働きかけるようにします。
プラスになる友人関係、母親との良好な関係、親戚や親以外の信頼できる大人との関係などによって、子どもは、暴力に支配されない別の新しい世界に気づくようになります。

② 回復のプロセス
DVや虐待の被害を受けた女性や子どもたちは、双方が同じようなプロセスを踏んで回復していくといわれています。
“力と支配”の関係から抜け出し、心の回復にいたる道のりは長く時間のかかるものですが、行きつ戻りつしながら「回復の階段」を少しずつあがっていきます。
支援に携わる誰もが、「回復のプロセス」を把握していれば、どのタイミングでどのような支援をすればよいのか手がかりがつかむことができます。
また、母親や周囲の人がこのようなプロセスを理解し、適切なプロセスを踏んだケアによって回復が可能であることを知れば、先が見え、安心感や希望をもたらします。

③ コーディネーターの役割
福祉事務所、女性センターの相談員、シェルターのスタッフ、病院の看護師、カウンセラー、弁護士、教員や保育士、児童相談所の職員、警察官… それぞれの支援者が関われる範囲や、できることは限られているかもしれません。
しかし、「協力を依頼された支援者が、依頼した支援者に、その後、どのような状況になったか報告する」など、お互いが小さな努力を積み重ねることによって、支援者同士の顔が見えてきます。
それぞれが半歩ずつでも踏み出して、連携しながら支援にあたっていくことが必要です。
DVの被害を受けた家族の生活全般を支えるためには、さまざまな人の助けが必要です。
子どもたちの周りには、親戚や教師、子どもに関わる地域の大人など、暴力を伴わないやり方で問題に対処し、愛情を示すことのできる大人達が必ずいます。
その人たちの力を借りながら、その子が家庭では知ることのできない大人の役割を示していきましょう。
しかし、それぞれの支援者がばらばらに支援をしていると、思わぬ問題も発生します。
被害者の生活をトータルに見渡し、いま、どのような支援が一番必要とされているか、俯瞰的な見方で周囲の人たちをコーディネートできる人が不可欠です。
家族の状況や社会資源を把握し、周囲の人を説得し、協力を求め、他機関の支援者との連携をはかる役割を担える人です。
自分でその任を担えなくても、コーディネーターに適任な人を探してつなぐことからはじめます。

④ DVや虐待の被害者や子どもが上る緩やかな「回復の階段」
DVや虐待の被害者や子どもたちは、安全で安心できる場で、信頼できる人との関係の中で、長い時間をかけながら少しずつ緩やかな「回復の階段」を上るように回復していきます。
回復への道は、「自分は暴力の『被害者』」だと気づくことからはじまります。
そのような認知によって、不安や混乱した気持ちが徐々に整理されていきます。
さらに、生きている喜びを感じられる経験をし、人との信頼関係を回復していくことで、自分自身を肯定的に捉え自尊心を持つようになるといわれています。


(4) ASDやPTSDの回復への支援の原則
① 安全を確保する
子どもが強いストレス下にあるとき、特に重要なことは、子どもの安全を確保することです。
物理的な意味でも、心理的な意味でも、子どもが安心していられる場を確保し、安心できる人間関係の中におくことが必要不可欠です。
ASDやPTSDの症状を示す子どものケアにおいて、安全の確保が最優先となります。
ASDやPTSDの症状を示す子どもにかかわる人は、安心ができ、互いが信頼できる磐石な信頼関係をつくるようにすることが重要です。
面前DVを含む虐待の問題では、児童相談所や保健センターなどと連携し、安全が確保される必要があります。

② リラクゼーション
年齢が低いときには、「Ⅲ-12-(3)ツラさを体調不調で訴える」で記しているとおり、不安や恐怖は、頭痛、腹痛、眩暈、夜驚、不眠など、身体の症状に表れます。
当面に感じているツラさや苦しさをとり除き、安心感を自ら向上させ、身体面での緊張や恐怖をとり除く必要があります。
トラウマ体験から回復するには、不快感を表現していくプロセスが必要不可欠です。
ツラい体験を思いだしたときに恐怖や不安も強くなることから、恐怖や不安に対処するという意味で、リラクゼーション法は有効です。
重要なのは、身体の筋肉をリラックスさせる方法を教えることです。他に、リラックスできる音楽を聞かせることや呼吸法、筋リラクゼーション、動作法、自律訓練法などの方法があります。
子ども自身がリラックスできる方法を習得していくことで、自分で、その恐怖や不安を和らげていくことができるようになります。

③ マステリーを得る
マステリー(mastery;統御力)とは、苦しみには意味があり、耐えられるとの展望を得ることです。
怖さや怒り、哀しみなど「不快な感情が生じるのは当然で、不快に感じてもよい」と伝えます。
例えば、「恐怖は、危険を避けて生きるために必要不可欠な感情」であり、「怒りは、状況や他人に変化してほしい」という願いからおきるもので、哀しみは、「願いがかなわなくてつらいことを、他の人に伝えたいと願うことからおきる人間らしい感覚である」と意味づけをします。
不快な感情表現を促し、子どもが記憶の再構成をおこなうストレスにであった初期の段階から、上記のようなマステリーを強調しながら、苦痛な体験とそれにまつわる感情について語る時間と場所を提供していきます。
回復過程では、不快な記憶を語ること(不快感情の言語化)が回復につながります。
重要なのは、子どもが安心して寄り添うことができ、話を聴いて、受けとめてくれる大人の存在です。
支援者の存在が、子どもに安心感、安全感が生じることで、否定的な感情や思考を中和することができます。
不快な体験を表現し、他者がそれを共感的に聴くことを「デブリーフィング」といいます。
デブリーフィングは、杓子定規におこなうものではなく、自然なやりとりの中で、繰り返しおこなわれていくことが理想です。
子どもが不快に感じていることをことばや表情、そして、さまざまな表現で支援者に伝えることを手伝います。
とはいっても、子どもは、特に感情をことばで表現することが苦手です。
できないことも少なくありません。
そこで、表情から子どもの感情をとらえ、その不快な感情を支援者が子どもに代わって表現する必要があります。
「なにか嫌な感じがするかな」、「怖いかな」、「イライラするね」、「哀しいね」、「つらそうな顔しているね」などと、不快な感情をことばで表現するのを手伝います。
子どもにかかわる支援者は、安定した心情を保ってかかわるように注意を払います。
感情をことばで表現することができるようになった子どもは、不快感情が一時期上昇したとしても、感情をしっかり受けとめてもらえることで不快感情が下がることを体験していくことができるのです。
子どもが幼いときには、遊戯療法や芸術療法など、言語以外の方法で、子どもの表現を手伝います。
重要なのは、無理に表現することを促す必要はないということです。
なぜなら、その子が望む活動、自由な遊びの中でツラさや苦しさ、怖さを表現することが多いからです。
そして、子どもが不快感情を遊びなどで表現することができれば、それは回復の兆しであると肯定的に捉えることが大切です。
時間の許す限り、そのような表現をする場につき添い、温かく安定した気持ちで寄り添うことが重要です。

④ 自己評価と自己信頼の強化
PTSDの予後をみると、孤独感や疎外感を抱えているケースほど、その後の経過が悪くなります。
そこで、多くの人がかかわり、集団で生活をする学校では、自分の存在が認められ、大切にされる体験を重ねることが、予後を良好にするうえで重要になってきます。
子どもがさまざまな場面で新しい課題にとり組み、その課題を乗り越えることを通して、自己の有用感を高める活動が連続して存在しているのが学校です。
昨日に比べて、自分がなにかの技能や知識を獲得したと確認することは、子どもを勇気づけ、自信を向上させます。
しかし、不安や恐怖を強く感じている子どもが新しい課題にとり組むには、多くのエネルギーが必要です。
そして、その子どもは、自分の技能や知識の伸張を感じられないことが少なくありません。
したがって、ASDやPTSDの症状のある子どもには、課題にとり組もうとする姿勢がみられたときには、それだけでも、それを意識して評価します。そして、過去に比べてのわずかな変化を見いだし、それを高く評価し続けるようにします。
学業面でも、スポーツ面でも、芸術面でも、自分の得手なものを中心に、少しずつ課題を達成していけるように指導することが大切です。


(5) 心の回復のプロセス
DVの存在する家庭で育った子どもたちに対して、どのような支援が考えられるでしょうか。
ここでは、心のケアに焦点をあてて、「心の回復のプロセス」の一段一段のステップに沿って構成された回復プログラムを紹介します。
DVの被害者支援に関わる人たちも、子どもの心の回復について基本的な知識があれば、状況に合わせていろいろな場面で応用できるようになります。
実際にプログラムを導入しなくてもどのような対応が子どもの心の回復に有効かを知って、保育所や学校、地域の人たちなど、子どもの周囲の人の協力を得ながら、生活環境を改善することに役立てることができます。
支援者がやれることはたくさんあるはずです。
子どもの状況を把握し、何が必要とされているのかを考え、やれることからはじめましょう。
子どもたちが安心して心を解きほぐし、自分自身が持っている力に気づいていくようにすることが大切です。
また、こうしたプログラムに欠かせないのは、暴力についての教育的な視点です。暴力的な環境で育った子どもは「暴力や虐待は、いけないことである」と認識していないことも多いものです。
そのために暴力の否定や自分自身を守る方法、暴力をふるわないための教育的な視点が必要です。

① 安心できる環境で信頼関係をつくる
その子どもがどんな子どもであり、どのような状況に置かれているのかを詳しく知るためには、安全で安心できる環境を作ることが大切です。
子どもを安心させるかに神経を使うことが大切です。きちんと耳を傾け、子どもが話している途中で口を挟んだり、あれこれ質問したりせずに、しっかり子どもの目を見て、「あなたのいうことを聞いていますよ」というメッセージを伝えます。常に一人ひとりの子どもに対し柔軟に対応するようにします。

② 子どもの状況を知る-インテイク-
カウンセリングをはじめるための最初の1回ないしは数回の面接をインテイクといいます。
インテイクは、「この子どもはどういう子か」、「いま、子どもがどのような状況にいるのか」、「家族の関係はどうなっているのか」、「どれぐらい心の傷を負っているのか」など、まず、その子ども自身と、子どもの置かれた状況を知るためにおこなわれます。
そして、インテイクを通して、その子どもの被害の深刻さや危険度を評価し、子どもの回復のためにどのような方法がふさわしいかを判断します。
【目的】
・子どもと家族のニーズを明らかにし、ニーズにあったさまざまなプログラムや他機関を紹介する
・DVの存在する家庭で一般に何が起こり得るかという情報を提供する
・子どもや親たちの感情や理解度を尊重しながら、前向きな答えを提供する
・子どもや親たちに選択肢があるということを認識させ、内なる力をひきだす

③ 子どもへの質問
ここで紹介する質問は、アメリカなどでグループワークをはじめる前のインテイク時に使われる例です。
ここでは、質問のみをあげていますが、実際には子どもに合わせて受け応えをしながら進めていきます。
インテイクは、名前や住所、友だちなどについての話からはじめ、次に、家庭にどのようなことが起きているかなどの核心部分を訊き、リラックスさせる感じで終わらせます。
インテイクの内容は専用記録用紙に記録します。
・対象:小学1年生ぐらい質問の事例
[導入]
Q どこの学校へ行っているの?(あなたの通っている学校の名前は?)
Q 担任の先生の名前はなんていうの?
Q 学校でいちばん好きなことは何?(どういう授業が好き?嫌いなのは?)
Q 学校で遊ぶ友だちはいるかな?
Q 仲のよい友だちはいる?
Q 仲のよい友だちとは何をして遊ぶのが好き?
Q お友だちにとけんかをすることがある? その時はどうする?
Q あなたは、一人で遊ぶのが好き?
Q こんにちは。あなたの名前を教えてね。 今日、ここに来る時、どんな気持ちだったかな?
[本題] 家族について
Q 家族全員の名前を教えてください。 きょうだいはいる? 歳はいくつ?
Q おうちで、あなたと住んでいるのは誰?
Q みんなはどこで寝るの?
Q 家族で何をするのが好き?
Q 家族のなかで、一番一緒にいたい人は誰?(誰が一番好き?)
Q 心配事がある時、怖い時、悲しい時、家族の誰に話す?
Q そんな時、誰があなたを助けてくれますか?
Q 家族のなかで、一緒にいたくないと思う人はいますか?
[本題] 自分自身について
Q あなたが自分で好きなところや 得意なことを教えて。
Q あなたが自分で嫌いなところや 得意じゃないことを教えて。
Q 自分で変えたいところはある?
Q 何歳にでもなれるとしたら、いくつになりたい? その理由は?
Q (自分の感情について)今日はどんな気分? 昨日は?
Q 家にいるときはいつもどんなふうに感じているの? 楽しい?
Q あなたが幸せに思えることはどんなこと?
Q 悲しいことはどんなこと?
Q 一番幸せだと感じたことは?
Q 一番怖かったことはどんなこと?
Q その時、あなたはどうしてた?
Q 一番悲しかったことは?
Q あなたはどんなときに怒るの?
Q 怒った時、どうしますか?
[本題] 暴力について
Q 家族の誰かと取っ組み合いをすることが ありますか? それは楽しかった?
Q 家であなたがお母さんやお父さんのいうことをきかないとどうなりますか?
Q「やめて!」というとどうなりますか?
Q 家族から、暴力を受けたことはある?
Q家族の誰かから、からだに触れられていやな気持ちになったことはある? (誰に? いつ? どこで? どのように? その時の気持ちは?)
Q 一緒に住んでいる家族やよその人(親戚の人や近所の人など)に叩かれたり、突き飛ばされたりすることがあるという子がいるけど、あなたはそうされたことはある? (誰に? いつ? どこで? どのように? その時の気持ちは?)
Q (人体図を示して)これに顔と髪の毛を描いてみてね。そして、触られてもいいところを緑のクレヨンで塗ってみて。次に触られたらいやな所、変な気持ちがするところを赤いクレヨンで塗ってね。(人体図に書き込まれたマークについて、必ず、誰に、いつ、どこでなどの詳しい記録を残す)
Q (子どもが目撃した暴力)いろんなおうちで、お母さんとお父さん(またはお母さんと一緒にいる男の人)がいい争ったり、ケンカをすることがあるけど、あなたは、自分のおうちでそうしたけんかを 見たり聞いたりしたことを覚えている?
Q お母さんやお父さんがけんかをしたら、あなたはどうするの?
Q お母さんとお父さんはどうしてけんかをすると思う?
Q お母さんたちがけんかをするのは自分のせいだという子がいるけど、あなたもそう思うことがある? (話が進めば、けんかは子どものせいではないことを伝える)
Q あなたのお兄さんやお姉さん、妹や弟は誰かにけがをさせられた ことがある? (あったら、誰に、いつ、どのように、どうして、 最後はいつだったか)
[終わりに向けて]
Q 動物になれるとしたら、あなたはどんな動物になりたい?
Q 願い事が3つかなうとしたら、何をお願いするかな?
Q 私からの質問は終わりです。あなたから私に聞きたいことがある?

④ DVのおきている家庭での子どもに対する性的虐待
DVのおきている家庭でも性的虐待が起きていることがあります。その場合、親や保護者など子どもにとって保護的な立場にある大人やきょうだいなどからの子どもに対する性的な行為を指します。
性的行為には、性交だけでなく性的な意味を持つ接触などを含んでいます。
母親がその行為に気づかない場合もあれば、気づいていても加害者からの暴力を恐れて無視することもあるといわれます。
被害を受けた子どもは心身ともに深い傷を受けるばかりでなく、助けてくれなった母親に対して、「自分を見捨てた」という気持ちを抱くこともあります。

[質問のポイント]
a) 道具を使って
暴力について質問する暴力の核心に触れる部分では、子どもが緊張し、なかなか話に入っていくことができない場合があります。
母親から事前に説明を受けていても、母親が全部を知っているとは限りません。また、子どもが話をしていたとしても、母親が理解していない場合もあります。
例えば、子どもへの性的虐待などです。子どもの年齢によっては、子ども自身が受けている行為が何かを理解できていないこともあります。
その場合は、プレイルームのような部屋に連れて行って、人形を指差しながら、「あなたが一番触れられたくない部分はどこ?」というような聞き方をするといいでしょう。
b) 質問をあまり立て続けにしない
質問をしたら、次の質問までに少し時間を空けてください。たて続けに質問すると、子どもの気持ちが混乱することもありえます。
子どもの様子を観察しながら、少し余裕をみて接してください。
c) 質問は端的に
端的な質問をするようにしてください。
例えば、「成績が下がってきてるけど、うちで気になることがあるの? お父さんとお母さんのこと?」というように率直に訊きます。
子どもが応えられない場合は、別の対処の仕方を考えればよいのです。
さらに、問題があるとわかったとき、どのように対処するかを、自分たちの組織のなかで話し合っておくことも必要です。
インテイクの形をとらずに、学校などで行動の気になる子どもへ質問する場合は、他の子どものいないところで行うなど配慮することが大切です。
d) インテイクを終えるときの質問
子どもにとってインテイクは、緊張する時間で、長く感じられます。
締めくくりでは、子どもたちを現実の厳しい面から引き離し、リラックスさせることが必要です。
例えば、「あなたの夢が3つかなうとしたら何がいい?」、「なれるとしたらどんな動物になりたい?」などの話は、子どもたちの気持ちを和らげます。

⑤ 状況を評価する
子どものことや、子どもの置かれている状況を知ることができたら、その状況を的確に評価しなければなりません。
常に、DVの程度、それに対する子どもの対処、子どもが受けているサポートの3つをセットにして評価し、その後の対策を考えます。
評価をする際に、子ども一人ひとりが違うことに注意を払うことが大切です。
DVの存在する家庭に育った子どもでも、その子どもの年齢、性格、DVの種類や程度、DVに対する受けとめ方、既にどれだけサポートを受けているかによって、子どもへの対処の方法は変わってきます。
早急な支援を必要としている子どももいれば、少し様子をみた方がいいケースもあります。
その子どもが、自分のつらい経験を乗り越える力を持っていたり、ストレスに適応し生き抜く術を身につけていたり、学校の先生や祖父母など、自分を助けてくれる人をみつけられれば、暴力の影響をかなり軽減することができます。
しかし反対に、子ども自身が暴力やネグレクトを受けていたり、毎日のように母親に暴力がふるわれていたりする場合などは、表面的には大丈夫そうに見えても非常に深刻な状況にあることもあります。
そうした点を見逃さず、丁寧に子どもの状況を評価することが大切です。

[評価する点について]
a) DVの程度
・目撃された暴力の深刻さ
・どの程度の頻度で起きたのか
・どの程度の期間それが続いたのか
・母親だけが虐待されていたのか(子どもまで巻き込まれていたのか)など
b) 子どもはどのように対処しているか
・子どもの性別や年齢
・子どもは母親をどのように見ているか
・母親のストレスの程度
・母親が子どもの養育にどのように関わっているか
・子どもの発育状態
・子どもが父親や父親の暴力をどのように見ているか
・家庭の関係性
・暴力体験に立ち向かう自己の強さ
・子どもの発育、社会的な成長の度合い
・子どもが暴力にさらされた時期など
c) すでに受けているサポートにどのようなものがあるか
・子どもが家庭のなかで、十分なケアを受けているか
・祖父母や親戚(母方だけでなく父方も含め)がサポートできるのか
・近隣の知り合いがサポートできるのか
・学校の先生やスクールカウンセラーがサポートできるのか
・医療機関の治療やカウンセリングを受けているのか
・外部のサポートがあるのか、社会資源を使っているか(シェルターなど)
・直接的な危機介入があったのか ・サポートは一回限りか、継続的なものかなど

⑥ 対策を考える
子どものことや、子どもの置かれている状況を慎重に評価したら、それにもとづいて、それぞれの子どもにどのような対応が必要かを判断します。
専門機関につなぐのが適当か、個別のカウンセリングが適当か、または何らかのサポートグループや教育グループなどのグループワークが適当かは、少なくとも数回インテイクを行ってから決定します。
a) 専門家につなぐ
子どもの受けた傷が深い場合は、児童相談所などの専門機関につなぎます。
子どもが深刻な問題行動をおこしている、激しい怒りがある、強い不安症状が見られる、自尊心が非常に低くなっているなど心理的な問題が見受けられる場合には、専門家によるカウンセリングが必要になります。
さらに、なんらかの障害がある、幻聴や幻覚がある、性的虐待や精神的虐待が深刻なトラウマになっている、薬物を使用している、自殺を試みたり、自傷行為があったりする場合には、精神科医や心理の専門家ヘの相談、カウンセリングを行う、安全な施設への保護など、適切な対処をしなければなりません。
b) グループワーク
専門家へつながない場合は、グループワークを検討します。日本ではまだグループワークを実施している機関は多くありませんが、グループワークで同じような経験をした子どもと出会うことによって、子どもたちは、自分の経験が「特別」で、「恥ずかしい」、「いってはいけないこと」ではないと知り、自分の秘密を安心して話すようになっていきます。
グループワークの場で、多くの子どもたちと一緒に遊んだり、かかわったりすることを通して、協力することや助け合いの態度を学び、お互いを尊重していきます。そのような経験を通して、自分自身を大切に思い、自尊心が高まっていくのです。特に、10代は、グループワークの中で、リーダーという信頼のおける大人に出会うことによって自分がどのようにふるまったらいのかを学んでいきます。プレイセラピー、アートセラピーなどゲームや遊びを通して、他の人たちとの関係を学んでいく方法をとることもあります。
グループワークの参加については、子どもが次のような条件に合っているかを判断します。
・年齢にふさわしい集中力があること
・グループの他の子どもたちと交流するのに、極端に消極的でも攻撃的でもないこと
・子どもが虐待、または暴力があったことを認識できていて、いつかそれについて語る気持ちがあること


(6) ケアする人に求められること
傷ついた子どもたちは、なかなか大人を信頼できない心理状態になっていたりします。
子どもとの信頼関係をつくるために、子どもをケアする立場の人や子どもに接する人には、次のようなことが求められています。
① 教育的な接し方
子どもの主体性を重んじ、子どもの目線に立ちながらも、子ども任せにするのではなく、教育的な働きかけをすることが大切です。
・柔軟で、かつ体系立てられた規範を提示できるロールモデルである
・否定的な問題解決方法ではなく、前向きな問題解決方法を提案する
・子どもの目の高さまで降りていって話すなど、ことばがけの調子や態度に配慮する
・支援者からの提案や支持は最小限に留める
・不適切な行動は改めるように指導するが、子どもの人格を批判しない
・暴力や虐待について、明確にことばにする

② 基礎的な知識
・暴力の構造についての知識等がある
・子どもが置かれている環境をよく知っている
・子どもの身体的、精神的発育についての十分な知識がある

③ 気づく感受性と情報を持っていること
・暴力が原因であらわれる兆候に気づく
・支援者がどこまで支援できるのか、自分自身の限界を知っている
・子どもを援助するための主要なサービスに関する情報を持っている
・子どもと自分自身を守るための情報を持っている
・生命の危険がある緊急時に、危機介入できる判断と行動力がある
・インテイクする際の繊細でかつ高度な面接技術、適性と感受性がある
・忍耐、融通性、創造性、ユーモアのセンスがある
・子どもが強い関心を持っている最近の読み物、テレビ番組、映画、スポーツヒーロー、アニメのキャラクターやゲームなどを知っている
子どもと親に対して“DV家庭の親子”という先入観・偏見を持って支援しないこと、また、問題を一人で抱えこまずに同僚やスーパーバイザーのアドバイスを受けることが大切です。


(7) 虐待を受けてきた子どもへの対応
虐待は、子どもの心の発達に大きな歪みをもたらします。
こうした歪みがもたらすさまざまな障害が、多くの場合、子どもの学校や社会への適応を難しくします。
そこで、虐待を受けてきた子どもへの対応の骨格は、①ここは安全な場所だと伝える、②感情を許容される方法で表現させる、③適切な社会的行動のスキル獲得を支援する、④自己イメージと他者イメージを回復させる、⑤自分が変われたという自覚を持たせるの5つです。

① ここは安全な場所だと伝える
対応の第一は、子どもに、“ここ”は安全な場所であるということを伝えること、つまり、“ここ”では子どもは虐待されないことを理解させることです。
暴力のある家庭環境下で生活をしている、つまり、家庭で虐待を受けている子どもへの対応というとき、初期対応としての対応機関(学校を含む)が“安全である”ことを伝えることと、暴力で傷ついた子どものケアをおこなううえで家庭生活そのものが“安全な状況になった”こと伝えることとは明確に違うことを理解しておかなければなりません。
子どもにとって“安全である”と伝えられた学校や児童相談所であっても、日常生活の拠点となる家庭そのものが安全な場所でなければ、虐待を受けてきた子どもへの対応の骨格としてあげた5つは意味を持たないことになるということです。
つまり、虐待を受けてきた子どもが、暴力のある家庭環境下に留まっている状況では適切な対応をとることができないのです。
虐待を受けてきた子どもは、しばしば集団生活の中でトラブルをおこします。こうしたトラブルは「行動化」と呼ばれ、子どもが自分の感情をもてあましたときに、行動にして表すのです。
こうした「問題」がおこったときこそ、ここが安全であることを伝えるチャンスになります。
虐待を受けてきた子どもでは、ことばと感情をつなげることができないのです。怒って暴れる子どもは、自分がなににどうして怒っているのか説明することができません。
その怒りが収まったあとで話を聞いても「なんとなく腹が立った。」、「頭がまっ白になった。」としか応えられなかったり、はたから見れば「たかがそんな理由で」としか思えない些細な原因を主張したりします。
そればかりか、子ども自身、自分がどうして怒っているのか、その本当の理由がわかっていないということも少なくありません。
したがって、支援に携わる者は、子どもと一緒になって、怒りの“真の理由”を探しあてるといった心構えが必要となるのです。
個々の「問題行動」に対しては、「どうして、あんなことをやったの?!」と問い詰めてはならないのです。
なぜなら、ここは安全だからねといいながら、「どうして、あんなことをやったの?!」ということばは、行動を咎めたり、非難したりするメッセージを含むなげかけでしかないことから、自分を“拒絶した(敵、危害を加える者)”と受けとってしまいかねないからです。
虐待を受けてきた子どもに対しては、子どもの全般的な行動傾向についてコメントすることです。
つまり、「こんなふうに感じているように見えた。」、「誰々のこのことばにカッときたように見えた。」と指摘することが大切です。
子どもが落ち着いている状況では、「あなたはたくさんの人が集まる場面では落ち着かなくなるみたいだね。」、「数学の授業になるとトラブルが多いようだけれど。」のように、子どもの行動化の背景にある気持ちの動きを察しているということを伝えることが大切なのです。
なぜなら、気持ちの動きを察していることを伝えることが、子どもにとって自分のことを「わかってもらえている」という感覚につながるからです。
子どもが「わかってもらえている」と感じられることが、“信頼できる”という安心感や安全感には欠かせないことなのです*-19。
*-19 園・学校といった集団生活が中心となる場所では、「周囲を困らせてしまう言動や行動」が気になってしまいますが、目線(アイライン)を「困らせていない場面」や「あたり前のことをあたり前にできている場面」にして、それをほめてあげることが大切です。
大人は、子どもの問題行動だけに注目してしまうことが多くなり、結果として、子どもとのかかわりの多くが「叱る」ことになってしまい、子どもがあたり前のことをあたり前にできていることに気づかずに流してしまっていることが少なくありません。
重要なのは、子どもにかかわる大人の視点を変えることで、子どもが肯定的な注目を受けられるような環境をつくっていくことです。

虐待を受けてきた子どもは、他の子どもにとってはなんでもないようなことを脅威に感じたり、安心・安全感を奪われたと感じたりして、さまざまな不適応行動が現れることも十分に考えられます。
「こんなことくらいで」と考えてしまうのではなく、「こういう刺激にこんな反応をするのか」と理解していくことが大切です。
支援する者との間に一定の信頼関係が築かれることは、とりもなおさず子どもが、いまの生活を安全なものだと感じはじめたことを意味します。
しかし、支援する者との間に一定の信頼関係が築かれるまでには、「リミットテスティング(試し行動)」と呼ばれる行動が示されることが少なくありません。
リミットテスティング(試し行動)とは、子どもが、新しい生活の中で、どこまでやったら“慣れ親しんだ”虐待的な関係がでてくるのかを確かめようとする行動傾向のことです。
ひどく挑発的な言動、叱らざるを得ない言動などが示されます。
例えば、児童養護施設から通学することになった児童に対し、小学校の教員たちは「絶対に叱らないようにしよう」という申し合わせをしました。児童は、授業から抜けだし、職員室で好き勝手をしても教員たちがないもいわないでいると、突如、窓辺の花瓶から花を抜き捨てて、中の水を机上にあったパソコンのキーボードにこぼして回りはじめたのです。
こうした行為が、典型的なリミットテスティングです。
小学校は社会性を身につける場所であるわけですから、どうしても許容してはいけない行動というものはあります。
なぜなら、管理やルールがまったくない社会場面などあり得ないからです。
したがって、児童に対し、現実感のあるルールを毅然として守ってみせる態度は重要であることから、「絶対に叱らない」などという対応は不可能なのです。
「他者を傷つける」こと、「自分を傷つける」こと、「意図的に物を壊す」ことといった行動は、制止しなければならないのです。
重要なことは、教職員が、児童の言動の背後にある心性を十分に理解していることです。
なぜなら、十分に理解できていることによって、児童の表面的な言動ではなく、児童の心の動きをくみ取ったことばかけをしていくことができるからです。
社会的な基準から見て許されないのは行為であって、その行為に結びついてしまった感情は認めることが必要です。
その感情を、社会的に許される行為につなげていくのが教育の仕事、支援する者の仕事なのです。
リミットテスティングには、「先生を怒らせたいみたいに見えるね。でも、先生は、それがわかるから怒らないよ。」、「そうやって、うんと叱られたら、いつものことだって安心できるのかな。でも、別のやり方もあるよ。」と感情を認め、他のやり方を提案し、身につけさせていくようなことばかけで対応していくことになります。
子どもにとって安全で、安心できる環境を整えることができれば、次のアプローチとして、子どもの中で渦巻いている怒りや恐怖といった否定的な感情を含めて、周囲から許容されるようなやり方で気持ちを表現することを教えていくことができます。
このとき、子どもが自分の気持ちをだせるようになってくれば、「人とのやりとりとして、どのようなやり方が望ましいのか」といったさまざまなソーシャルスキルの獲得を目指していきます。
さまざまなソーシャルスキルを身につけていくかかわりを通じて、子どもの“自己イメージ”と“他者イメージ”を回復させていくことが可能になるのです。
このときの最終目標は、児童養護施設に入居可能な18歳まで(幼稚園・保育園、小学校から高等学校までの教育期間を通して)*-20、子どもが、自分は変わることができたのだという感覚を持つことができるようにすることです。
「自分は、自分の人生を主人公として生きていてよいのだ」と思うことができるように支援をしていくということになります。
*-20 平成27年11月18日、増加する児童虐待の対策を議論する厚生労働省専門委員会が、児童の自立支援のために児童福祉法の改正などを盛り込んだ骨子案を示し、18歳を超えても児童養護施設で暮らせるよう、児童福祉法の対象年齢を現行の「18歳未満」からひきあげる本格的な検討に入り、年内に報告書をまとめると発表したしました。
児童福祉法は、「児童」の定義を18歳未満と規定し、児童が、児童養護施設や里親家庭にいられる期間を原則18歳までと定めています。
民法で「未成年者は住居の契約ができない」と規定されていることから、18歳の誕生日を迎え、児童養護施設や里親家庭をでなければならなくなったとき、アパートなどを借りられないことが問題となっています。


(最低限の規範としてのルールの明示は、子どもの生活の見通しを助ける)
心理面・行動面での障害等を抱える子どもに、どこまでの規範を求めるかは、その子どもの能力や回復の度合いによっても異なります。
とはいっても、最低限の基本線として「自己への危害」、「他者への危害」、「器物の意図的な破損」は、理由のいかんを問わず制止されなければなりません。
このことは、たとえ個別対応ができる状況にあってもなんら変わるものではありません。
カウンセリング・マインドでは、「受容的態度」の重要性が問われていますが、この「受容」ということばを「放任」することと間違って解釈してはいけません。
受容とは、一定の社会的な約束があって、その範囲であれば許されるという意味です。施設や学校は社会的な場です。
無制限の自由は、誰にも与えられていないことから、虐待を受けてきた子どもへの対応でも、最低限の行動制約は必要です。
つまり、子どもの能力や情緒的な状態からみて、到底、不可能なほどに高い目標を押しつけることは論外ですが、「制約や禁止をすることがいけない」と考えるのではなく、むしろ「ルールを明確に提示する」ことが、子どもの行動の安定がはかられると考えることが大切なのです。
また、ルールを明確にすることは、施設や学校の教職員によって「原則が違う」という事態を避けることにもつながります。

② 感情を許容される方法で表現させる
虐待を受けてきた子どもへの対応の第二は、感情を許容される方法で表現させること、感情の表出を支えることです。
子どもに適切な感情表出を獲得させていくということは、子どもがおこす感情爆発を受けとめなければならないということです。
そして、感情爆発を受けとめる中で、その子どもの中で生じていたであろう感情を「ことばにして返してあげる」ことが求めらます。
ただし、感情爆発を受け止めるというのは、子どもの意のままにさせるということではありません。
子どもが爆発的な行動をはじめたときには、その行動をある程度抑えなければならないのはいうまでもありません。
施設や学校での集団生活では、教職員がいくら子どもに配慮しても、子ども同士の関係の中で虐待を受けてきた子どものトラウマが刺激されてしまう事態はいくらでもおこります。
こうした意味では、感情爆発を起こさないようにすることは困難です。
したがって、子どもが感情爆発をおこしたり、パニックをおこしたりしても、最善の対応ができるようにする必要があります。
子どもがコントロールを失いそうになったり、パニックをおこしたりしたとき、できる限り二次的被害をださずにすむ場所を提供することが有効です。
ひとつが「タイムアウト」で、子どもが“落ち着きをとり戻す”までの間、周囲の人々や危害を加えられやすいモノから引き離すことです。
また、子どもの体格や体力次第では隔離が困難なときがあります。
このときは、周囲が離れてあげることでタイムアウトの効果がでることがあります。
重要なことは、「罰として隔離する」のではなく、自分の力でコントロールを回復するのを待ち、そして、回復できたときには、その事実を認めてほめてあげるという“姿勢”です。
もうひとつが、子どもがコントロールを失いそうになったとき、自分を沈静化させられる場所(安全基地)へ行くことを認めることで、集団生活の中での大きな失敗を未然に防ごうとする方法です。
安全基地とする空間は、壊れやすい備品を置かないなど、失敗しないですむ環境を予め整備します。
そして、施設や学校といった集団生活では、予め「フリーに動くことができる教職員を確保しておく」ことで、直ぐに“サポートができる”ような体制を整備しておくことも重要です。
予め整備しておくことの重要性は、「失敗させてから対応するのではなく、失敗しないですむ環境を整えておく」という支援する者の心遣いや配慮、つまり、とり組む“姿勢”を意味しているからです。
こうした特別な場所を設けたり、支援する者が工夫したりする“姿勢”は、パニックをおこした子どもが「誰にケガをさせた」、「なにを壊した」といった二次三次的な被害を問題視し、指導することを防ぐことができます。
なぜ、このことが重要なのかは、二次三次的な被害をサポートする者が予め防ぐことで、子どもは、あくまでも自分のパニックのみに対応することができるからです。
子どもの感情を受け止めることが可能になったら、次は、子どもの感情をことばに置き換えていくためのモデルを示していく必要があります。
それは、感情爆発が起こってしまう状態に関して、ことばのラベルを与えることを試みていくことです。
このとき、「気持ちが泥みたいになった」、「頭が噴火した」といった子どもの感情を表すことばを、支援する者が、子どもといっしょに考えだしていくプロセスが重要です。
人の感情は時々刻々と変化し、過ぎ去っていくものです。
特に、虐待を受けてきた子どもでは、「解離」症状によって、嵐のような感情が過ぎ去ったあとはそのときのことをはっきりと記憶していないということもしばしばあります。
そこで、子どもに、自分の感情に対する気づきを深めていくサポートが重要になっていきます。
それは、子どもが荒れているときではなく、普段どおりに生活している中で、さまざまな感情について探索させることです。
施設や学校の中でいちばんイヤなことはなにか、いちばん楽しいことはないかといった探索は、子どもが自分の感情と外的な生活条件を結びつけていく手助けになります。
虐待を受けてきた子どもには、好き嫌いを明確に表現できないことが少なくありません。
このときは、自分はなにが好きで、なにが嫌いなのかをはっきりと自覚する練習からはじめることが有効です。
また、年齢が幼かったり、言語発達の問題があったりして、子どもがことばにするということに困難が伴うときには、絵を描いたり、からだを動かしたり、人形やぬいぐるみをつかったり、絵本などの登場人物やパペット*-21などを使ったりして、感情の察しや表出の仕方について学ばせていきます。
爆発的な行動をおこすよりも社会的に許容され得るような行動に置き換えていく指導が必要になります。
子どもが自分自身の感情に気づくことができるようになっているときには、日記のような活動で、自分の感情をふりかえられることを日々の活動に組み込んでいくことが有効です。
*-21「パペット」とは人形劇などで使われる操り人形の総称で、抱き人形や飾り人形を意味するドールに対して、動かして楽しむためにつくられた人形のことです。
「感情」と「ことば」に結びつきが生じてくれば、どんな環境だとそのような感情状態になりやすいのかといった予測も立てやすくなります。
仮に、子どもが、事前に自分の感情の変化に気づいて訴えてきたり、これまでならば簡単に爆発をおこしたと思われるときであっても、その場から立ち去る努力をしたりしたら、どんなに小さな改善でもそれを認めることが大切です。
なぜなら、子どもに対して「努力はしたかもしれないが、結局は爆発したじゃないか」と評価(ことばに表さなくとも、表情や態度にでてしまうことを子どもは察します)してしまうと、子どももやはり「やっても無駄だ」と学習してしまい、子ども自身が行動を改善する意欲を失ってしまいます。

③ 適切な社会的行動のスキル獲得を支援する
子どもが、施設や学校といった集団生活で示す逸脱した言動や行動は、家庭の中で学習してきてしまった“虐待環境に適応した言動や行動”であることを理解したうえで、子どもの心の動きを汲みとったアプローチを教職員が示すことで、子どもは徐々に「新しい人間関係」を学習(学び直し)していくことになります。
子どもの行為について、それがどのような結果をもたらしたのか、なにが望ましい結果で、なにが望ましくない結果だったのかということを、一つひとつ整理して教えることは大切な課題です。
「そんなことくらいわかっていて当然だ」と感じたりせずに、虐待を受けてきた子どもは、自分の行為と、それがひきおこした結果の因果関係を認識できていないことが少なくないのです。
“自分ごと”と認識できていないということは、結果を「認めることができない」ことを意味しています。
なぜなら、虐待は、子どもが納得できる理由があっておこなわれるものではなく、理不尽にも、親のそのときの気分(感情)でおこなわれます。
こうした虐待環境下で育っていると、「原因」と「結果」といった論理(因果関係)、「過去」と「現在」という時間軸でものごとを認識することができないのです。
虐待を受けてきた子どもが周囲に責任を転嫁してしまうのは、自分の行為と、それがひきおこした結果の因果関係を認識できていないからです。
結びついていない(認識できていない)子どもに、「責任転嫁をしてはいけない」と叱責しても、子どもは、なぜ叱られているのか、なぜ責められているのか理解できず、自分に危害を及ぼす者としか思わないのです。
したがって、感情については肯定し、自身の行ないがどのような行為に結びついたのか、その結果としてどのような望ましくない事態を招くことになったのか、その事態をどのように感じているのか(社会はどのように評価することになるのか)を理解させていく指導、つまり、学び直しが必要になります。
とはいっても、社会生活を営むうえで必要不可欠とされる技能は、その技能を必要とする実際の場面でいきなり練習するよりも、よりストレスが少なく、失敗してもダメージの少ない状況下で練習する方が効果的な場合もあります。
例えば、子どもが、施設や学校での集団生活でしばしば示す失敗の場面を書きだして、“ゲーム感覚”でサポートする者(施設や学校の教職員)と子どもが、相互にその状況下で適切な対処行動を示し合ったりする“遊ぶ”をとり入れた指導方法は有効です。
そして、子どもの感情爆発やパニックには、必ずきっかけになった“ひきがね刺激”がありますが、無意識下の“トラウマ反応”であることが多く、子どもが自らこの刺激を自覚しているとは限らないのです。
したがって、サポートする者(施設や学校の教職員を含む)はトラウマ(心的外傷)が及ぼす影響などの理解が必要不可欠です。
虐待を受けてきた子どもが抱えるトラウマ反応を理解したサポートをする者から、「この刺激に対して弱いみたいだね」、「こうしたことに心が反応したみたいだね」と指摘していくことが、子どもの自己理解につながります。子ども自身がなぜ感情を爆発させることになったのか、なぜパニックをおこすことになったのか、トラウマ反応を理解し、自覚していく中で、そのときの感情をコントロールしていくことができるようになります。
子どもにとって否定的に感じとれる刺激については、サポートする者と子どもが一緒になって、その刺激を感じたときにどのような対処行動が考えられるのかを検討していくことが大切です。
そして、子どもには、同じ感情であっても、その表し方には多様な方法があることを伝えていくことが大切です。

④ 自己イメージと他者イメージを回復させる
虐待を受けてきた子どもの心の中では「自分は価値のない悪い子だ」という自己イメージ、「大人は僕をいじめるものだ」という他者イメージができあがっていきます。
これらは、いずれも間違ったイメージです。
それが間違いであることを理解させていくためには、子どもを認め、励ます根気強いかかわりが必要になります。
そして、間違ったイメージであることを理解するには、子どもが自分の虐待体験をふりかえることができるようになる必要があります*-22。
なぜなら、自分が、親に“なをされてきたのか”ということが理解できすることができることで、はじめてそれを乗り越えていく考え方を身につける土台ができるからです。
*-22「自身の虐待体験をふりかえることができるようになる」ことは、「トラウマの再体験」、つまり、「どのような暴力を受けてきたのか、暴力がどのような状況で、どのようにして起こったのかをことばにする(話をする)ことで再現し、言語化し、再確認していく」ものとして、「Ⅴ-30.DV被害者の抱える心の傷、回復にいたる6ステップ」など、この「手引き」の中で繰り返し述べていることですが、子どもだけの問題ではなく、成人した大人になったときであっても必要なことです。
とはいっても、虐待を受けてきた子どもは、自分が悪いという自罰的な感情と屈辱感とを心に根深く刻み込まれています。
そこで、サポートする者は、「大人と子どもという力関係の中では、どうしようもなかった」、「あなたが悪いのではない」という理解を促していく必要があるのです。
それは、自己が被ったダメージについて理解させることが目的であることから、子どもには、自身が示している逸脱行動に免罪符を与えることではないことを理解させることが必要です。
支援する者が、子どもが虐待という不適切な環境に置かれてきたことで、どのような発達的ダメージを被ってしまったのかを正しく理解することで、子どものどういったおこない、どういった思考プロセスを修正していくことが必要なのかを見いだすことができます。
サポートする者が、その見いだされた子どもの修正点を、適切に子どもに示していくことによって、子ども自身が社会生活の中でどうしていくことがいいのかを見出していくことにつながるのです。
こうしたかかわり方は、子どもが、ある程度の言語性を獲得している年代、つまり、思春期(10歳-15歳)にはいった年代で有効ですが、それ以前の子どもであっても、精神的な状態や言語能力が許すのであれば試す価値が高いと覆います。
思春期後期(中学校2年生-高校1年生)で、親に“なにをされてきたのか”“どのような状況におかれてきたのか”といった自分の生育歴をある程度整理できてきたときには、喪のワーク*-23として、傷ついた自分に対する手紙を書くという方法もあります。
こうすることで、子どもは傷ついた自分以外に、その自分を評価し、認めることができる自分の存在に気づいていくことができるようになります。
*-23「喪のワーク」については、「Ⅴ-30-(4)STEP-4.喪のワークの段階..弔いと別れの儀式」として述べています。

⑤ 自分が変われたという自覚を持たせる
虐待を受けてきた子どもにとって、思春期(10-15歳、小学校4年生-高校1年生)をうまく乗り越えることは、とても重要な課題です。
長いサポートや教育(学び直し、生き直し)にとり組んできた期間を通して、望ましい感情表現の仕方や社会的行動のスキルを獲得し、自己イメージ・他者イメージの回復をはかることができる子どもたちには、最終的に「自分は変われた(自分は変われたかもしれない)」ということを、自ら確認することが重要な意味を持ちます。
虐待を受けてきた子どもが、変わった自分を確認するということは、自らの存在の価値に気づき、自分の人生を主人公として生きてよいのだと思えるようになることです。
例えば、中学校や高等学校の進路指導では、単に進路選択をするだけではなく、その方向でどんな自分になっていきたいのかという話ができることが望ましいのです。
中学生から高校生にかけての年代で、子どもは「こんな大人になりたい」というモデルを見出していきます。
教職員は、子どもにとって、身近で、模範となる大人の1人です。
模範となる大人は、間違いを認めることができ、どうすればいいのかを考えて実行し、自らの言動やふるまいの責任をとることのできる存在です。
サポートする者(施設や学校の教職員たち)は、虐待を受けて育った子どもたちにとって、「あんな大人になりたい」と思えわれる“モデル”になる心構え(姿勢)が必要なのです。


(8) 学校園での周囲の子どもへの対応
学校園において、虐待を受けてきた子どもの一人ひとりに見合った生活ルールを示すということは、ある意味で、その児童だけに、周囲の児童たちとは異なった要求水準を与えるということを意味します。
これは、学級に“二重基準”を持ち込むことになります。
どの児童であっても安全で楽しい学校生活を送りたいと考え、学校に対し、そのような環境が確保されるよう要求して当然です。
しかも、虐待を受けてきた子どもが、周囲の子どもに危害を加える怖れがあるとき、周囲の児童に対して「がまんしなさい」だけの対応は論外です。
とはいっても、「この児童は虐待を受けている」からとと説明することはできないのです。
このような中にあっては、教職員自身が、虐待を受けてきた子どもに対して努力している姿、力を合わせて対処している姿を見せることがなによりも大切になります。
教職員が、児童たちの前で「あいつはもうどうでもいい」という態度を示せば、周囲の児童たちは自然にそうした“排除的な姿勢”に染まっていくことになります。
さらに、外部の専門機関との協力をしていることも含め、多くの人が知恵をだし合っている姿を伝えていく必要があります。
このことが、学級や学年の子どもたちからも知恵と協力を得ていく説得力になっていきます。
同時に、「どの児童にもそれぞれ個別の課題がある」ことを伝えることも大切です。
その個別的な課題の違いとして、虐待を受けてきた子どもへの教職員の要求水準を理解してもらうことができれば、地に足がついた対応が可能になります。 学級運営等では当然のことですが、最後の決め手になるのは、教職員が児童たちに対して有している求心力です。
学校が日々対応することになる虐待事案の多くは、子どもが家庭から通学している現在進行形です。
虐待的な関係がそれほど重度なものでなければ、学校の教職員による子どもへのかかわりがうまくいくことで、保護者に対しても、子どもとの上手なつきあい方についてモデルを示す可能性がでてきます。
一方で、学校での積極的なかかわりが功を奏し、虐待を受けてきた子どもが心理的・行動的に回復してくると、父親を怖れて萎縮するばかりだった子どもが「お父さんは殴るから嫌いだ!」と自分の考えや気持ちを口にできるようになることは、保護者にとって、「子どもが生意気になった」と受け止められかねないことになります。
そればかりか、さらなる虐待行為の激化を招いてしまうことが懸念されるのです。
家庭から通学している、つまり、現在進行形で虐待を受けている子どもに対しての介入(学校でのサポート)は、不合理にもこうしたリスクを伴っています。
幼く、可塑性(いったん心理的・行動的に回復すると、もとに戻らない性質)に富んでいる幼稚園や保育園、小学校低学年では、こうしたリスクがしばしば生じます。
だからこそ、学校園の教職員だけでなく、保健センターや児童相談所、スクールカウンセラーなどチームで対応し、定期的にリスク評価をおこない、対応方法を検討していくことが重要なのです。
学校での適切なかかわりによって、仮に、保護者の虐待行為を激化させてしまったとき、保護者を怖れてなにもしないということではなく、とり組んできたチームが助けてくれるという信頼感のもとで、対応していくことがなによりも重要になります。
虐待を受けている子どもを担当することになり、ここに述べてきたようなかかわり方にとり組んでいこうという姿勢のある教職員、特に、担任は、ともすると「自分が担任の間に」とか、「卒業までに」といった“学校的な時間区分”を意識してしまい、自分がなんとかしなければという意識を強く持ってしまうことがあります。
しかし、その強い思いが焦りなったり、強引な指導になってしまったりしては逆効果です。
学級担任制が敷かれている小学校では、自分だけで解決しようと気負うことなく、いまできることをチームの中で見極め、真摯にとりくみ、次へバトンをわたすという意識でいることが重要です。
そこで、重要なのが「記録」です。虐待の可能性を疑ったときから、記録を残しておくことが重要です。
児童のケガや痣は、日数が経てば状況が変化してしまい、虐待(身体的な暴行)を疑う根拠が消えてしまうことがあります。
また、児童や保護者の状況も記録に残していないと、時期や状況が曖昧になってしまいます。
さらに、虐待対応では、チームで対応することが重要であることから多くの機関がかかわり、対応が長期に及ぶことが少なくありません。
そのため、人事異動などで担当者が替わっても、関係機関への連絡や後任への引き継ぎなど、必要な情報が確実に伝わっていくように、事実か伝聞かの区別を明確にした憶測を交えない正確な記録を残す必要があるのです。

(正確な記録を残すポイント)
a) いつ、どこで、誰が、誰に、なにを、どのようにということを、できるだけ正確に詳しく記録します。
「子どもに落ち着きがなかった」といった印象だけよりも、どんなことばを使っていて、どんな様子を見てそう感じたかを事実をもとに具体的に記しておきます。
b) 児童の傷やあざは、治りやすいので、気づいたときに、写真や絵などで残しておくようにします。
カメラの場合は、傷と正対するようにかまえ、大きさがわかるよう手元の物体も一緒に撮ります。
そして、日付を入れるのを忘れないようにします。
また、撮影者がしゃがむなど、児童に不安を与えないような十分な配慮が必要です。



2014.1/9 小学校教職員のための「児童虐待・DV対応の手引き」..学校として虐待の早期発見と対応手順
2015.4/18 改訂新版
2016.3/11 ブログ再編成(第3次改訂)に伴い、『暴力の影響を「事例」で学ぶ。DVの早期発見・支援。母と子どもが暴力から脱するための手引き』の「第3章(Ⅲ(13-20))」として再編集、掲載
2017.4/25 「第3章(Ⅲ(エピローグ、16-23))」の「改訂2版」を差し替え掲載




もくじ   3kaku_s_L.png   [Ⅲ-6]Ⅲ.学校現場で、児童虐待・DV事案とどうかかわるか
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