あなたは、夫の暴力・DVを容認していませんか? 暴力のある家庭環境で暮らす子どもの心を守ることを忘れていませんか?

[Ⅶ-18]<児童福祉・行政・司法、介護、育児>新聞事件簿。母子を取巻く環境

<神戸新聞>ずっと家族がほしかった 児童相談所編(3)感情移入「たたく前に連絡を」 父親に携帯番号教えた

 
 <神戸新聞>ずっと家族がほしかった 児童相談所編(4)一時保護所よく生きてこれたな そう思う子どもがいる <神戸新聞>ずっと家族がほしかった 児童相談所編(2)親子分離「これでよかったのか」 決意信じて支えていく
公用の携帯電話。使う際は周囲に人がいないことを確認する
 兵庫県内の児童相談所(児相)で、虐待班を五年間率いた相田さん(47)には、その父子は忘れがたい存在になっている。
  児相に赴任した最初の夏。中学二年の男子生徒が近所の家に駆け込んできた。顔が腫れ上がり、緊急保護された生徒は「お父ちゃんにやられた」と繰り返した。
  後日、父親と面談したのが相田さんだった。「自立のためのしつけや」「こんな状態では将来が心配なんや」と感極まって涙ぐむ。こわもてで言葉遣いも乱暴だが、子を思ういちずなものが感じられた。


  生徒は学校で問題が絶えなかった。授業中に大声を上げ教室を飛び出す。窓ガラスを割り同級生に手を上げていた。児相の検査で、発達障害が濃厚と分かった。
  生徒が問題を起こすのはしつけが足りないため。父親を含め家族はずっとそう信じていた。
  面談二回目。相田さんは「お父ちゃん。今までほんま大変やったと思うわ」と切り出した。驚いて顔を上げる父親。「でも、力で押さえつけても変わらんかったやろ。どうしたらいいか一緒に考えよう」。その言葉に表情は和らいでいった。
  生徒の障害や対応を中心に面談を重ね、腹を割って話せる仲になった。学校や地域の協力も得られる見通しが立ち、児相は在宅指導を決めた。
  退所の日、子どもを迎えに来た父親に尋ねた。「これからは手を上げないと約束できますか」
  「90%はできる」
  「正直やなあ。我慢できなくなったらこの番号に電話しておいで。たたく前やで」。そう言って、相田さんは携帯電話の番号を紙に書いた。
  指導のため親と信頼関係を築く一方、相手との距離感や冷静さも求められる。ほかの親との公平性を保つためにも、過度の感情移入はつつしまねばならない。だが、相田さんはこの父子は例外だと思った。
  「思いつく限りの手は打ったが、再発の可能性が高いことに変わりはない。親子が心配でしょうがない自分自身を納得させたかった」


  最初の電話は半年後だろうか。
  「先生ごめん! やってもうた」
  クラスメートを殴ってしまい、父子で謝罪に出向いたが、頭を下げない息子に腹が立ち、つい手が出てしまったという。
  「三年生になってから、ちょっと手こずっとんのや。この前も自転車盗んでなあ」。声は少し疲れていた。
  着信は続いた。相田さんはその都度、生徒に会い父親との約束を守るよう諭した。「『このままじゃどこの高校にも行けない』と中学の担任に言われた」と父親から泣きつかれたときは、勉強するようきつくしかった。
  生徒は定時制高校に合格。同じころ、父親の暴力もなくなっていた。中学卒業を区切りに問題が解決したとして指導を終えた。
  今春、相田さんは異動で児相を離れた。携帯電話は後任に渡し、緊急呼び出しのため絶っていたアルコールを久しぶりに口にした。
  五年間で受理した虐待事案は八百件を下らない。おおまかだが今も頭に残っている。特別な家庭などない。愛情があるのに、力だけで子どもをしつけようとする人がなんと多いことか。
  八百件のうち、相田さんが携帯の番号を教えたのはあの父子を含めて数えるほどだ。元気にしているだろうか。今もときどき考える。

=文中仮名=
(坂口紘実)

2009/05/23



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