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[Ⅶ-18]<児童福祉・行政・司法、介護、育児>新聞事件簿。母子を取巻く環境

<神戸新聞>ずっと家族がほしかった(6)旅立ち届いたメールに笑顔

 
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大学では秘書の資格を取得するのが目標だ。「将来は分からないけど、一人前に生きていきたい」
 ポケットの中がぶるぶるっと震えた。
  「勉強にバイトに一生懸命頑張っているようですね。(中略)余裕ができたら、いつでも帰っておいで。待ってるよ」
  五月中旬、愛さん(19)=仮名=の携帯電話に里親からメールが届いた。絵文字入りの長文。思わず口元がほころんだ。
  愛さんは今春、大阪府枚方市の短大に進学。語学を学ぶ傍ら、スーパーで働く。
  大学近くのアパートで一人暮らし。きちんと片づいた部屋。ベランダにはしわを伸ばした洗濯物。冷ましたご飯が一膳分ずつラップでくるまれていた。
  「里親さんはこういう風にしてたから」


  三歳のころ、愛さんを残し母親は病死した。父親は二年後、やむなく愛さんを施設に預けた。
  父親が再婚したのは十二歳のとき。同居した新しい母親は何かにつけつらく当たった。愛さんが行儀よくしていると「子どもらしくない」となじり、父親に甘えると「私にはなつかない」と怒った。
  八カ月後、父親と話し合った末、愛さんは施設に戻った。「大好きなお父さんに幸せになってほしいから」。父とは今も電話やメールでやり取りする。恨む気持ちはない。
  昔から自分の気持ちを押し殺してきた。わがままをいえず、本音でぶつかれない。心の底から笑えない。人との接し方が分からず、施設では自分の部屋にこもり、好きな英語の勉強に没頭した。
  里親と出会ったのは中学二年の夏休み。長期の休みに一週間ほど預かる季節里親をしている六十代の夫妻だった。
  初日の夜、お盆とあって五十人近い親せきで宴会が始まった。愛さんも料理を運び、空いた皿を下げた。酒が入って盛り上がる大人。その横では子どもたちが家族対抗のじゃんけん大会に興じていた。
  「普通の家のお盆てこんな感じなんや」。輪に加われなくても、いっぺんにこの家が好きになった。施設に戻る前夜、浴衣を着て年が近い里親の孫と夏祭りに出掛けた。「帰りたくない」と思った。
  年二回の〝里帰り〟は五年続いた。親せきの顔もすべて覚えた。大学センター試験の直前、仲良しの里親の孫から合格祈願のメールがきた。吉報は最初に父に、次に里親に伝えた。


  高校卒業を区切りに、里親里子の関係は制度上は終える。児童福祉法の適用対象が原則十八歳だからだ。
  施設を出た愛さんにはときどき手紙やメールが届く。誕生日には図書カード。「困ったら里親さんに相談できる。帰る家がある」。そう思うだけで、胸の奥が熱くなる。
  アルバイトはスーパーのレジ打ち。最初は人と向き合わずに済む皿洗いを考えていた。
  「でも、いつまでも逃げていられない。二年後は社会に出るんだし」
  仕事の合間、ふっと里親夫妻の顔が浮かぶ。「一人じゃない」。勇気がわいてくる。
  「今年の里親さんの誕生日にはバイト代ためてプレゼントしようと思う。これまで祝ってもらうばかりだったから」
  恥ずかしそうな笑顔だった。

(坂口紘美)

2008/05/28



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