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[Ⅶ-18]<児童福祉・行政・司法、介護、育児>新聞事件簿。母子を取巻く環境

<神戸新聞>ずっと家族がほしかった 児童養護施設編(10)大人になるいくつも資格を取った 「人に頼らず生きていく」

 
 <神戸新聞>ずっと家族がほしかった 児童養護施設編(11)取材を終えてあまりに冷たい法律と社会。その中で子どもたちは生きる <神戸新聞>ずっと家族がほしかった 児童養護施設編(9)ホーム実の親にはかなわないけど、離れても気持ちは通じ合う
里香さんの部屋。勉強の合間、ギターなどを弾いて気分転換する
 家族の質問をするたび、高校二年の里香さん(16)の口は重くなった。
 生まれて間もないころ両親が離婚。一歳のとき、二人の兄とともに児童養護施設に預けられた。音信不通だった父親は里香さんが小学二年のころ突然現れ、月に一度は面会に来た。その後きょうだいは父のもとに引き取られることになったが、約束の日に父の迎えはなかった。以来連絡はなく、一度も会っていない。
 「もういいでしょ」「忘れました」
 立ち入ろうとする記者を拒む強いものを内に秘めていた。
 施設のグループホームでは、里香さんは面倒見のいい快活な女の子だ。高校では軽音楽部に入った。部屋には愛用のギターやベースがあった。
 育った境遇ゆえか、もともとの性格だろうか。父親がきょうだいを迎えに来なかった日、二人の兄は「あいつはおれたちを裏切った」と怒ったが、里香さんは「やっぱり」と思った。「私は父のことをあまりよく知らなかったから、割り切れたのかもしれない」
 中学生のころ、遠方に住む祖母に実母の写真を送ってもらった。赤ちゃんの長兄を抱いてほほえむ二十歳そこそこの母。何の感慨もわかず自分でも拍子抜けした。
 「私はお母さんと同じ失敗はしない」
 何の気負いもなく話す里香さんは、古びたデニムのバッグを大切にしている。小学生のころ、父からプレゼントされたジーンズを仕立て直したものだ。けば立っているが捨てられない。
 望んでもかなわない。期待しても何も始まらないのに、どこかに家族への淡い思いがある。里香さんの心は揺れている。


 頼りになり強くみえるが、繊細で臆病(おくびょう)。そんな里香さんのもろい一面が、あらわになったことがある。
 高校一年の一学期。人見知りでクラスにとけ込めず、ホームの食卓で愚痴が増えた。夏休みを前にして、小学校から皆勤賞の里香さんが初めて学校を休んだ。翌日から登校するよう強く促す職員と言い争ううち、自分でも思ってもみなかった言葉が口をついて出た。
 「学校辞めたら、おばあちゃんの家に行く」
 職員からの連絡で、近くに住む兄がホームに駆けつけた。兄は中学卒業後、施設を出て働いた。中卒であることをハンディと思ったのか、勤め先を辞めて祖母のもとに身を寄せたが、すぐに帰ってきた。そのことを里香さんは知っていた。
 「現実は甘くない。自分で乗り越えるしかないんや」
 兄の言葉に励まされ、翌日恐る恐る登校した。昼休み、中学時代の部活の先輩が来てくれた。兄が頼んだらしい。夏休みに入るまで、先輩は毎日教室に顔を出し、自然にクラスの友達も増えていった。


 児童養護施設で暮らせるのは原則十八歳まで。里香さんは進学を決めている。大学と専門学校。どちらにすべきか、迷っている。
 目標は税理士や会計士だ。浮ついた夢ではない。兄に諭されてから、いくつも資格を取った。学費を工面するため、奨学金のことも調べている。もちろんいつかは結婚して家庭を持ちたい。「姉さん」と慕うホームの女性職員が理想の母親像だ。
 祖母からはたびたび電話がかかってくる。昔は甘えたかったのに、今は祖母の元気な声を聞いて安心する。苦労した分、長生きしてほしいと思う。
 「早く自立したい。人に頼らず生きていきたい」
 同級生の誰よりも大人になることを考えている。

=文中仮名=
(坂口紘美)

2008/08/26



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