あなたは、夫の暴力・DVを容認していませんか? 暴力のある家庭環境で暮らす子どもの心を守ることを忘れていませんか?

[Ⅲ-5]Ⅱ.児童虐待と面前DVの影響。暴力のある家庭で暮らす、育つということ

9.脳と子どもの発達

 
 11.慢性反復的トラウマの種類(児童虐待の分類)と発達の傷害 -基礎編- 8.虐待の発見。DV家庭における子ども
* 現在、この「手引き」は、第3次改訂の編集をおこなっています。編集終了後、差し替えていきます。

Ⅱ.児童虐待と面前DVの影響。-暴力のある家庭環境で暮らす、育つということ-
-基礎編-
8.虐待の発見。DV家庭における子ども
(1) 子どもが最大の被害者
(2) 子どもは心を傷めている
  ・事例106
(3) 子どもの複雑の思いを理解する
(4) 子どもに表れる影響
 ・事例107-128
(5) 子どものSOS(発信するサイン)を見逃さない
・6つのこ食
 ・「食べてよい」、すなわち「おいしい」
  ・味は必要、危険のシグナル
  ・おいしさは食欲を刺激する
  ・おいしさは生命維持のために備わった快感
・砂糖の過剰摂取(ペットボトル症候群)と低血糖症
・心身の健康にはミネラルが欠かせない
  ・情緒不安や体調不良。見逃しがちな気象変化

9.脳と子どもの発達
(1) 脳の仕組み
(2) 脳の発達(乳児期:0-1歳)
(3) 脳の発達(幼児期早期:1-3歳)
(4) 脳の発達(幼児期後期:3-6歳)
(5) 脳の発達の臨界期(感受期)
(6) 学童期(6-12歳)
(7) 思春期(10-15歳)と青年期(15-22歳)
(8) 男性と女性の脳の違い

10.トラウマと脳
(1) トラウマ(心的外傷)になりうるできごとに直面すると
(2) 単回性トラウマの子どもに見られる行動
(3) 慢性反復的トラウマがひきおこす7つの問題

11.慢性反復的トラウマの種類(児童虐待分類)と発達の障害
(1) ネグレクト(育児放棄)
<ネグレクトによる発達の障害>
(2) 身体的虐待
<身体的虐待による発達の障害>
(3) 心理的(精神的・情緒的)虐待
<精神的虐待による発達の障害>
(4) 性的虐待
<児童期性的虐待の基準(ハーマン著「父-娘 近親姦」抜粋)>
<性的虐待による発達の障害>

-応用編-
12.暴力のある家庭で育った子ども。発達段階で見られる傾向
(1) 乳児期。既に、母親と父親との関係性を理解している
 ・乳児部屋のおばけ
  ・産後うつ
(2) 発達の遅れ
 ・睡眠不足症候群(ISS)
  ・小児慢性疲労症候群(OCFS)
(3) ツラさを体調不良で訴える
 ・子どもの心身症
  ・子どもの気分障害
(4) ファンタジー色の強い子どもの解離
(5) 子どもが“ズル”をする深層心理
(6) 学童期(小学校低学年)にみられる被虐待児童たちの行動特徴
(7) 暴力を受けて育った子どもの脳では、なにがおきているか
(8) 反応性愛着障害(RAD)
(9) 失感情言語症(アレキシサイミア)と高次神経系トラブル
(10) 危機とPTSD
(11) 自己正当化型ADHDとAC
(12) 思春期・青年期の訪れとともに
 ・がまんさせられること、抑圧されることはなにをもたらすか
  ・父母の不和と暴力は、子どもの心の土台になる安心感と愛着を揺さぶる
 ・家族間の信頼関係を損なった子どもたち
  ・親に配慮しなければならない状況は、子どもに緊張を強いている
  ・子どもにとっての緊張とは
・親にとって都合のいい従順な子は、ありのままの私を認めて欲しいと訴える
  ・周りが輝いて見えるとき、人とのかかわりを避ける
  ・子どものために、“しつけ”と銘うった暴力が、子どもを従順な子にさせる
 ・思春期、男の子は14歳が母子間におけるターニングポイントになる
  ・女の子は、自分の命が大切だからこそ、傷つける価値があると思う
(13) 問題行動としての“依存”
  ・事例129-130
(14) 子どもに手をあげる背景。幼児期に抑圧された怒り
  ・事例131-136
(15) 回避的な意味を持つ子どもの「非行」
 ・事例137(事件研究22:広島県16歳少女集団暴行死事件(平成25年6月))
  ・事例138(事件研究23:大阪2児餓死事件(平成20年7月))
(16) 「キレる17歳」、理由なき犯罪世代
 ・事例139(事件研究24:栃木女性教師刺殺事件(平成10年1月))
 ・事例140(事件研究25:豊川主婦刺殺事件(平成12年5月))
  ・事例141(事件研究26:西鉄バスジャック事件(平成12年5月))
 ・事例142(事件研究27:岡山県金属バット母親殺害事件(平成12年6月))
  ・事例143(事件研究28:会津若松母親殺害事件(平成19年5月))
 ・事例144(事件研究29:八戸母子殺害放火事件(平成20年1月))
(17) アタッチメントを損ない、抑圧がもたらした凄惨な殺害事件
  ・事例145(事件研究30:東大浪人生父親殺害事件(平成7年4月))
 ・事例146(事件研究31:光市母子殺害事件(平成11年4月))
  ・事例147(事件研究32:音羽幼女殺害事件(平成11年11月))
 ・事例148(事件研究33:佐世保小6女児同級生殺害事件(平成16年6月))
  ・事例149(事件研究34:宇治学習塾小6女児殺害事件(平成17年12月))
 ・事例150(事件研究35:奈良自宅放火母子3人殺害事件(平成18年6月))
  ・事例151(事件研究36:秋葉原無差別殺傷事件(平成20年6月8日))
 ・事例152(事件研究37:柏市連続通り魔殺傷事件(平成26年3月))
  ・事例153(事件研究38:北海道南幌町母祖母殺害事件(平成26年9月))

13.PTSDとC-PTSD、解離性障害
(1) PTSDになると、どうなるか?
(2) PTSDの主要症状
(3) C-PTSDの主要症状
(4) C-PTSDと不安障害、人格障害
(5) 性暴力被害と解離性障害
  ・事例154-182
 ・皮膚から心地よい安心感をとり組む女性が、性的虐待を受ける残酷さ
  ・「レイプ神話」という間違った考え
  ・セックスをどう捉えるかは、思春期までに受けた親の影響
 ・事例183(事件研究39)
(6) 摂食障害とクレプトマニア(窃盗癖)
 ・事例184-185
(7) 解離性障害とアルコールや薬物依存症
  ・事例186(分析研究15)
  ・アルコール依存とギャンブル依存の相関
 ・事例187-189

14.パラフィリア(性的倒錯・性嗜好障害)
(1) 精神疾患としてのパラフィリア(性嗜好障害)
(2) フェティシズム
  ・事例190(事件研究40:宝塚市窃盗・少女強姦事件(平成25年12月))
(3) 露出症・窃視症
(4) 性的マゾヒズムと性的サディズム
  ・窒息プレイ
 ・事例191(事件研究41:京都連続強盗・強姦事件(平成22年7月-10月))
(5) 性的サディズムを示す刻印という“儀式”
(6) 小児性愛(ペドファリア)
 ・日本のロリコン事情と児童ポルノ
  ・女の子は母親と父親に興味を示し、男女関係、夫婦関係を学ぶ
  ・事例192(事件研究42:奈良小1女児誘拐殺人遺棄事件(平成16年11月))
 ・事例193(事件研究43:倉敷市女児監禁事件(平成26年7月))
(7) パラフィリア(性的倒錯)の夫との性生活
  ・事例194-195
(8) 性的サディズム、露出性愛者の夫による性暴力
 ・事例196(分析研究16)
(9) 性的サディズムと人格障害などが結びついた誘拐監禁・殺傷事件
  ・事例197(事件研究44:新潟少女監禁事件(平成2年11月(発覚:平成12年1月)))
 ・事例198(事件研究45:北海道・東京連続少女監禁事件(平成13年-平成17年))
  ・事例199(事件研究46:東京・埼玉連続幼女誘拐殺人事件(昭和63年8月-平成元年7月))
 ・事例200(事件研究47:大分県一家6人殺傷事件(平成12年8月))
  ・事例201(事件研究48:大阪姉妹殺害事件(平成17年11月))
 ・事例202(事件研究49:自殺サイト連続殺人事件(平成17月2月-))
  ・事例203(事件研究50:付属池田小児童殺傷事件(平成13年6月))
 ・事例204(事件研究51:神戸連続児童殺傷事件(平成9年2月))
  ・事例205(事件研究52:佐世保同級生殺害事件(平成26年7月))
 ・事例206(事件研究53:名古屋大生殺害事件(平成27年1月))
(10) 福祉と医療、教育。行為障害、反抗挑戦性障害者のサポート

15.ACという考え方と人格障害(パーソナリティ障害)
(1) ACという考え方
(2) どうして、ACになってしまうのか?
(3) 時に、ACは母親がつくる
 ・事例207
(4) ACと人格障害、そして、ACの破綻
(5) ACのカウンセリング、認知の修正
(6) ACに“共依存”の傾向がみられるとき
(7) 共依存からの回復
(8) 仮面うつ病(非定型うつ病・新型うつ病)
(9) 人格障害と呼ぶ前に..
(10) 人格障害(パーソナリティ障害)とは
(11) 人格障害の治療
(12) 児童虐待やDVといった暴力も依存症のひとつという考え方

第1部の結びとして


人間の脳は、生物の進化を全部とり入れ、なにひとつ捨てていないといわれています。
しかし、脳の正常の発達は、親や養育者との安定した愛着の絆によって発達が促され、反対に虐待、暴力や放置といった慢性反復性トラウマ*-12 によって阻害されます。
 虐待による知的発達への影響は、ことば
の遅れや学習の遅れがみられます。
カーティス(Curtiss)は、アメリカでおきたジーニーという女児の虐待事件について、次のような報告をしています。
彼女は生後20ヶ月ころから10年以上にわたって、父親による虐待を受けました。日中、夜間を問わず身体を拘束され、他者との接触がほぼ皆無で、父親による殴打を受け続けました。
13歳で救出されたときのジーニーの状態は、ことばがなく、身体も小さく、歩行不能で、食べ物のそしゃくや嚥下の仕方も普通ではありませんでした。
その後、3年くらいの間に数百のことばを覚えましたが、年齢相応に達することはありませんでした。
両耳分離聴検査では、左耳優位(右半球優位)でした。
これは、言語が右半球で処理されていることを示唆していました。
本来は左半球で処理されている言語機能が、長期間の監禁によって、左半球はその機能を実現することができなくなっていたのです。
子どもの成育には、親との親密な触れ合い体験と良好なコミュニケーションを欠くことができません。
しかし、その成長過程で成長のタイミングを失ってしまうと、二度とその能力を身につけることができない機能があることを示している事例です。
胎児のときにまず発達するのが、生存を司る「脳幹(brain stem)」です。
脳幹は、“生きるための脳”“爬虫類の脳”といわれ、自律神経を通して呼吸、体温、血圧、飲食、排泄、睡眠、目覚めなど、生存のための基本的、自動的な機能を司っています。
そして、シナプス(脳神経経路の連結部)の間を行き来するセロトニンやドーパミンなどの脳内伝達物質の分泌を調整しています。
次に発達するのが、“古代哺乳類の脳”“感じる脳”といわれる「大脳辺緑系(limbic system)」です。
大脳辺緑系は、外からの刺激(特に危険情報)を通すか通さないかの門番役を務める「視床」、危険信号の役割を果たす「扁桃体」、その情報や体験などの記憶をつくる「海馬」などがあり、体外からの情報を体内に伝え、危険を避けて生きながらえる機能を果たしています。
「小脳(cerebellum)」は、脳幹の後ろに突きでていて、大脳の下から少しのぞいている部分で、運動や動作を覚え、自動的に身体を動かし、そのバランスを司っています。
最後に進化したのが、“新哺乳類の脳”“考える脳”といわれる「大脳(cerebral sortex)」です。
胎児期7ヶ月ころには、大脳が中脳(脳幹の最上部)を覆い、少し皺や折り目ができてきます。
つまり、胎児期に形成し発達しはじめる「脳幹」「視床」「扁桃体」「海馬」などは、強いストレスに大きな影響を受けます。
胎児期に脳幹が形成されはじめてからの33ヶ月(2歳1-2ヶ月)が、もっとも子どもの脳の発達に影響を及ぼすことになります。
*-12 「慢性反復的トラウマ」については、「Ⅱ-10.トラウマと脳」、「Ⅱ-11.慢性反復的トラウマの種類(児童虐待分類)と発達の傷害」、「Ⅱ-13.PTSDとC-PTSD、解離性障害」において説明しています。


(1) 脳の仕組み
① 情報の伝達をする脳神経回路

脳の表面には硬膜、その下にくも膜、その下に3mmほどの薄い大脳新皮質という膜があります。
大脳の中には1,400億個ものニューロン(脳神経細胞)が詰まっています。
ニューロンは対外からの刺激を受けると反応し、神経線維を伸ばしていきます。そして、同じように反応しているニューロンとシナプスをつくることができます。
脳神経回路は使うほど強化され、神経線維が軸索という脂肪の塊に覆われて絶縁体となり、電流がよく伝わることで情報処理ができるようになります。
使わない回路は消えていきます。
一方で、脳の神経回路の一部が障害されるようになっておきた症状を違う神経回路を発達させ、つなぎ方を変えることによって、その機能を回復させたりすることができます。
脳構造の本質的な柔軟性、変化しうる性質を指すのが、「脳の可塑性(かそせい)」です。脳神経回路で情報をやりとりすることで、身体の運動機能をはじめ、見聞きしたことを認識したり、判断したり、考えたり、感情や行動のコントロールをしています。

② 右脳と左脳
右脳は感性を司るとされ、体内に向かって開かれている窓となります。映像や図形、空間認識、芸術的な活動、直感的な考え、並列処理、潜在意識などを扱います。
一方の左脳は、理性を司るとされ、対外に向かって開かれている窓となります。言語機能、共感能力、抽象的・理論的な思考、直列処理、顕在意識などを扱います。
赤ちゃんのとき、まず発達するのが右脳です。
“感じる脳”の大脳辺緑系につながり、そこから感情の情報を受入れ、それに反応する行動を起こさせます。
幼い子が、怒ってすぐに暴力をふるうのは、怒りをことばで表現する左脳が育っていないことから、右脳だけで反応しているためです。
左脳は、右脳より少し遅れて、生後6ヶ月ころから周りの大人たちと「意味のある相互関係を築く」ことで発達していきます。
そして、右脳と左脳は、“脳梁”という神経線維でつながり、左右の脳がコミュニケーションをとり、両方ほぼ同時に働くことができるようになっています。
左右の脳の情報伝達には、脳梁の発達を強化する赤ちゃんの左右交互運動、ハイハイが欠かせません。

③ 大脳の4つの部屋の役割
・前頭連合野(前頭葉)..脳の司令塔で、ものごとを考えたり、判断したりします。また、不適当な感情や行動を抑制します。
思春期(10-15歳)から青年期(15-22歳)に大いに成長し、大人の大きさになるのが、女性20歳、男性22歳とされています。
・左右側頭連合野..音を聴く、見聞きしたものを判断します。視覚、聴覚、嗅覚、記憶を司る機能があります。
赤ちゃんは、胎児のときに母親の声や心拍、血流の音などを聴いて、聴覚の脳神経回路を発達させて産まれてきます。
・頭頂連合野..ものの動きや方向などを確認します。皮膚の感覚を感じます。
・後頭連合野..ものを見ます。


(2) 脳の発達(乳児期:0-1歳)
① 脳の第一形成期(乳幼児期0-3歳)

赤ちゃんの脳(10ヶ月で正常に出産)は、大人の脳の1/3の大きさで、親や保育者との愛着関係から多くの刺激を受けて発達し、6歳までに大人の脳の90%の大きさになります。
しかし、シナプスの数は大人の脳の500兆に対し、50兆しかできていません。
遺伝子に秘められた脳の発達の可能性を咲かせるのは、親や養育者の愛情に満ちたやりとりと、地域の保育所や学校を含めた生育環境であることがわかっています。
幼児期は、親や養育者との密接な相互関係で、体温調節や睡眠リズムなどを司る脳幹の機能が調節でき、2歳10ヶ月までに対人関係をつくる能力の基礎がつくられます。

② 乳児期(0-1歳)
・生まれて初めてのトラウマ的ストレス
出産時に赤ちゃんは、心地よかった母親の胎内から、物凄い明かりと騒音の中に押しだされてきて、はじめてのトラウマ的ストレスを体験します。
産室の明かりを薄暗くし、医師や助産師はできるだけ声を落として、薬や器具を使わず自然な出産をおこないます。
生まれた瞬間に、赤ちゃんはへその緒がつながったまま母親の胸に抱かれることが望ましいのです。
出産時に大体発達を遂げていて、脳の中ですでに機能をはじめるのが呼吸や睡眠などを司る「脳幹」と、大脳辺緑系のうち外界からの危険信号をとり入れるか入れないかの門番役となる「視床」と、危険信号の役割を果たす「扁桃体」です。
「痛いよう」、「眠いよう」と泣いている赤ちゃんを、母親がしっかりと抱き、胎児のときに聞き慣れた母親の心音と「よく生まれてきたね。待ってたのよ。」などという母親の声を聞かせることによって、視床と扁桃体に深い安堵が刻まれます。
そこに、母親のにおい、母乳の味などが加わると、安心感や安堵感を扁桃体が記憶し、のちのトラウマ的ストレスがくっつかないテフロンのような役目を果たします。
このことを、不幸や不運に打ち勝つ「弾力性」といいます。
つまり、視床と扁桃体に深い安堵感が刻まれないで育つと、「弾力性」が損なわれることになるのです。
・親子に睦の時間
赤ちゃんの顔をみつめて話しかけたり、小さな指に触ったり、額にキスしたりといろいろな愛情表現をします。
親がこの間、無関心でいるようなら、うつ病か児童虐待や放置の“要注意”のサインとなります。
薄暗い部屋の中で赤ちゃんはあまり見えない目を開いて、抱いている人の目をじっと見つめます。
大脳の後頭部にある視覚野は、未熟な赤ちゃんの脳を外部の刺激から守るためにもっとも遅く発達します。そのため、大体20-25cmほどのところにあるものがボーッと見えるだけです。
しかし、赤ちゃんは生存本能の命令で自分を守ってくれる人の顔を覚えようとし、親や養育者の顔の表情を真似しようとします。睦の時間が、親子の愛着形成(アタッチメント)に効果があり、児童虐待やネグレクトの予防になります。
a) 視覚の発達
生後4ヶ月には、親の顔だけではなく、周囲もはっきり見えるようになります。
人は、右脳の方が、人の顔を見分ける機能が強くなっています。人は赤ちゃんを抱くときに本能的に左腕に抱いて、赤ちゃんの左目(右脳)を強く刺激します。視神経は脳の中央で交差します。
左目は感情を司る右脳の支配下にあり、愛着の絆を強めます。
右目で見るより左目で見る方が、人の顔をよく認知できます。
生後7ヶ月になると、「怖い顔」、「楽しい顔」などの見分けがつくようになります。
顔の表情から、人の感情を読みとる社交技術を身につけていきます。
視覚を司る脳神経回路は、盛んに発達する時期(臨界期or感受期)を通り超すと発達が止まってしまいます。例えば、生後4ヶ月まで真っ暗なところに置かれ、視覚の回路が発達しなければ、目を開けていても一生見えなくなってしまうことになります。
b) 親の愛情と脳幹の調整
赤ちゃんの脳幹は、呼吸、睡眠、体温調節などの機能は果たしても調節はまだされていません。
最初に、脳幹の機能により、空腹、痛み、眠さなどを泣いて親に知らせます。
親が子どもの泣き声を聞き分けて授乳します。
痛いところをさすり、優しく揺すって眠らせることで泣きやみ、脳幹の自律神経の機能を調整し、内臓や血管の働きを整えていきます。
母親にリズムをつけて静かに揺すられることは、母親との一体感を味わうことができ、安堵感や安心感を深めます。
安堵感や安心感が深まっていると、幼児期に転んだりしたときでも、自分を癒やして、泣きやむことができるようになります。
このことを「自癒能力」といい、トラウマの治療では自癒能力の再生が目標になります。
生後3ヶ月から6ヶ月の間が、赤ちゃんと母親との肉体の絆を愛着の絆に変えていく時期になります。
この時期は、「母と子のダンスのとき」と呼ばれています。
母親の笑顔、話しかけてくれる声や抑揚、抱かれたり、おぶさったりして味わう密着感などが愛着の絆を強めていくのです。
生後6ヶ月になると、母親の話しかけのことばの「音」を真似ることができ、マ・ム・ダ・ディ.ヒなど自分も音をだすようになります。
養育者との音ややりとりが会話の基礎になります。
玩具を差しだすと、両手を伸ばしてつかもうとしますが、それは、視覚野と運動野が“相応”して働きだしたことを示しています。
c) 言語の脳神経回路がつくられる(生後7-8ヶ月)
生後7-8ヶ月ごろ、家族とあまり見かけない人との区別がつくようになり、人見知りがはじまります。
人見知りは、自分を世話してくれる「安全」な人たちと、愛着の絆が結ばれた証拠です。
反対に、愛着の対象となる人がいない乳幼児の<反応性愛着障害(RAD)*-13>の症状のひとつは、見知らぬ人に愛想を見せ、本当に愛そうとする里親や養い親を拒否することです。
養育者との関係が原因で、脳の発達を遅らせ、ときには、体の発達まで遅らせます。
この時期は、特に動物園や遊園地を利用して五感を刺激する豊かな経験をさせます。
刺激によって、大脳新皮質に詰まったニューロンが爆発的な勢いで増え、神経線維を伸ばして多くのシナプスをつくっていきます。
興味と好奇心を示して、もっと自分の周りを探索しようとします。
好奇心がのちの学習につながります。
左脳の側頭葉にあることばを理解する場所(ウエルニッケ野)や、単語の引出しである下側頭回や熟語のひきだしの角回が育ちます。
その後、ことばをつくり、発するブローカー野が育ちます。
乳児期に大人から話しかけられなかった子どもは言語能力の発達が遅れてしまいます。
ブローカー野の発達は9歳までにほぼ確立されます。
そのため、ネグレクトなどで遅れた言語能力は、9歳までに適切なトレーニングを受けなければ、失われたままになります。
*-13 「反応性愛着障害(RAD)」については、「Ⅱ-12-(7) 反応性愛着障害(RAD)」で詳しく説明しています。
d) 右脳と左脳の統合を促すハイハイ(生後9ヶ月)
生後9ヶ月ころになるとはじまる「ハイハイ」は、脳の発達にとても重要です。
1960年-70年代のアメリカで、ハイハイをあまりさせず、自分で移動できる車がついた椅子に腰掛けさせるのが流行りましたが、その数年後、学習障害児といわれる子どもたちの増加が目立つようになりました。
文字がさかさまに見えたり、目で見たものを写生することができないので、かんしゃくを起こしたりして学校が嫌いになる子どもたちが増えたのです。
ハイハイは、右手と左足を、左手と右足を一対にして、これを交互に動かす最初の動作で、歩行の基礎をつくるとともに、右脳と左脳をつなぐ脳梁を発達させ、左右の脳の”統合(同時に機能させること)”を強化することがわかっています。
脳梁を発達させ強化するハイハイを乳児から奪ったことで、この左右の脳の統合が損なわれてしまったのが原因でした。
また、脳梁の発達が損なわれていることが、境界性人格障害(ボーダーライン)発症の原因のひとつとされています。
e) 言語、運動神経、感情の発達(生後9ヶ月-1歳)
9ヶ月を過ぎると、養育者の「ダメ」という意味がわかるようになります。なるべくことばを使って親の意思を伝えるようにします。
少しずつ物を見て判断する前頭葉と理性を司る左脳が発達してきます。
小さなものを親指と人差し指の間で持つことができたり、家具などにつかまって立っていたりすることができるようになります。
動作を司る運動野の発達と身体の運動神経の発達も顕著になってきます。
この時期、ことばの遊びをとり入れ、語彙を豊かに覚えさせ、次の「ことばをしゃべる段階」の基礎をつくります。
1歳を過ぎると感情を司る大脳辺緑系が発達し、怒り、恐怖、愛情、嫉妬などの感情を表情や行動で表現できるようになります。
絵本の中の登場人物の表情や感情を真似るなど、養育者と赤ちゃんと一対一でかかわる時間をとることで、親子の愛着の絆が深まり、子どもの脳の発達の可能性を高めます。


(3) 脳の発達(幼児期早期:1-3歳)
① 運動神経(前頭連合野)が発達するとき(1-1歳半)

この時期は、前頭連合野の後部にある運動野が発達し、運動神経の機能が高まります。
支えなくても歩けるようになり、模索の領域が広がり、自分でなんでも試そうとします。
危険のない範囲でやらせることで、子どもは技術を習得し、達成感や満足感を味わい、自己尊重と自信を深めることができます。
このような体験は、大脳の発達に貢献するだけでなく、大脳辺緑系の視床の機能を強めます。
視床は「心の目」ともいわれ、外界の刺激を通すか通さないかの門番役で、脳波の原点ではないかと研究されている部分です。視床は実在感、「どっしりと足が大地についている感覚」を与えてくれるところです。
幼児期にトラウマ体験をした人たちは、トラウマ的ストレスに弱く、PTSDを発症したり、うつ病を発症しやすかったり、また、発症したときには、重篤化します。
それは、視床の機能が不調になり、外部の刺激を全部通してしまって、扁桃体を興奮させるからです。
また、この時期は、養育者からいろいろな物語やお話を聞きたがり、それも同じ本や同じ話を繰り返しねだります。
それは、本能的に母国語の語彙を取得し、言語を司る各分野の脳神経回路を強化しようとしていることの表れです。

② 「接近と逃避」の時期(1歳半-2歳)
いままで近づけなかった人や場所に興味を持ち、近づこうとしますが、直ぐに不安になって親元に逃げ帰り、安全を確認して、また接近しようと試みます。
この行動を親が励まし見守ることで、子どもは自信と達成感を深めます。
このとき、親が環境の安全を確保して見守ることと、過保護になり手助けすることでは、その後の子どもの発育に大きな違いがでてきます。
なぜなら、探究心や好奇心を支えてあげることで、子どもは大脳を発達させることができ、過剰な手助けは、探求心や好奇心を奪うことになるからです。

③ 自分と他人の分離と自我の発達(2歳)
目と手の相応(視覚野と運動野の統合)がすばやくできるようになり、また口にだすことばも増えていきます。
そこで、子どもに「自己」を認識させる問いかけをします。
いろいろな機会に、母親と子どもの「自」と「他」の分離をはかり、それと同時に、自分の感情や要求をことばにする(右脳で感じたことを左脳に移してことばで伝える)訓練を重ねます。
できるだけ早い時期に、「母親は子どもの自我の延長ではない」ことをお教えていくことが重要です。
そのことが、子どもの巣立ち能力を促進します。
例えば、「泣くだけでは、なにがあったかわからないのよ。ちゃんと教えてちょうだい。」となげかけ、子どもを抱きしめ、「それは痛かったでしょう」と声をかけ、優しくします。
そして、子どもの欲しがっているものを手渡します。
子どもの努力に親が応えてあげることがごほうびになり、子どもは自分の気持ちや考えを伝える方法を学んでいく礎となります。
ことばで自分の要求を表現させることは、右脳で感じたことを即行動に移す(キレる)という反応から、右脳で感じた怒りを前頭葉で抑え、左脳を使って表現するという行動パターンを子どもに習得させることになります。
「自己」と「他」の分離ができない、つまり、「自己」と「他」の境界線があいまいなまま成長してしまうと、思春期前の8-9歳ころから「ひとつの目標に向かって、皆で協力して(二人称・三人称)なにかをやる」という概念を獲得することができず、一方で、獲得していく子どもたちとの集団生活において徐々に支障がではじめます。
つまり、自己と他の境界線があいまいな認知状態で、人とかかわることしかできないことから、さまざまな対人トラブルを招いていくことになります。
自分の思い通りにコトが運ばないとキレ、怒りの感情を爆発させる関係性を、職場で上司と部下の関係性に持ち込めばパワーハラスメントやセクシャルハラスメント、交際相手に持ち込めばデートDV、配偶者との夫婦関係に持ち込めばDV、子どもとの関係性に持ち込めば虐待(体罰)ということになります。

④ 脳内の緊張が高まる(2-3歳)
2-3歳までの間は、大脳の各場所に脳神経回路が爆発的に連結している時期のため、子どもはイライラして、情緒的にも不安定になります。
「いやッ!」ということばの効果を覚えて、養育者のいうこときかずむずかり、いま笑っていたと思ったら、泣きだしたりして親を途方にくれさせます。
このとき、「この子は反抗している」と思わず、「かわいそうに、脳の発達でイライラしているのネ」と気持ちを汲みとって接してあげることが大切です。
同時に、この時期は、自分で排泄をコントロールするという脳幹の調節をしているときで、脳内の緊張も一段と高まっています。
そして、排泄の失敗などは、「恥ずかしい」といった高度な感情が発達します。
この恥の感情を増大させるような言動、つまり、失敗をひやかしたり、からかったりすることは、子どもが自尊心を育むことを損ないます。
また、日常の生活習慣のルールなど、子どもが家庭と社会の規則を学んでいくときです。
「しつける」ということは、「叱る」ことと違い、「教える」ことです。
当然、イラついた感情を子どもにぶつけるだけの「怒鳴る」「怒る」こととも違います。
生活には、習慣的におこなうことがあるので、「してはいけないこと」と、「しなければならないことがある」ということを学ばせ、身につけさせることは、子どもに安心感を与えます。

⑤ 父親の存在が大切になるとき(3歳-)
この年齢から父親の存在が大いに大切になってきます。
男の子にとっては、活発な遊びの友だちになり、人生に有効な技術を教えてくれる人になります。
女の子にとっては、最初の憧れの男性になり、「パパのにおいはいいにおい。」などといって父親の洋服のにおいを嗅いだり、強い腕に抱かれたりすることを望むようになります。
いままでと異なった人間関係を父親とつくることで、共感を司る前頭葉がどんどん発達していきます。
正常に発達した3歳児の脳は、MRI画像で見ると、共感能力の場所が赤く反応します。
しかし、虐待を受け児童養護施設に保護されて育った3歳児の脳はまったく反応せず、3歳までネグレストされた子どもの脳は、まるでアルツハイマーを患っている高年齢のように小さくなっているとの報告があります。
しかも、その状態は、正常な子どもの脳神経回路がたくさんできあがった脳に比べて6割の大きさで、しわも少ないということです。


(4) 脳の発達(幼児期後期:3-6歳)
① 長期記憶の機能の発達(3歳-)

遺伝と環境の両方の影響を受け、4歳までに子どもの脳は個人差ができます。無鉄砲で冒険好きな子、石橋を叩いてわたる子、ガキ大将としてリーダーシップを見せはじめる子、もっぱらリーダーに従っていく子など、性格的な違いがみえてきます。
その子の個性、性格を叱って直そう(押さえ込もう)とはせずに、そのよい傾向を伸ばしてあげることで、脳が飛躍的に発育していきます。
3-4歳ごろには、大脳辺緑系の中で、長期の記憶をつくる海馬が育っていきます。
海馬で記憶がつくられ(記銘)、大脳の側頭葉にバラバラに保持されていきます。
海馬の記銘の段階では、できごとなどを自分に受入れられるように適当に処理されていますが、思いだしている記憶力はあまり正確ではありません。
海馬は、愛着対象の親から虐待を受けたり、面前DV被害を受けたりしていると、副腎皮質から分泌されるストレスホルモンのコルチゾールの影響を受けることになります。
また、トラウマの記憶はあいまいではなく、映像、音、においなどをそのまま鮮明にしまっていますから、後々フラッシュバックなどで苦しむ要因になります。
・子ども同士の遊びの大切さ(4歳)
方向を確認したり、皮膚感覚を感じたりする頭頂葉の機能と四肢の運動筋肉の発育に伴って繊細な運動神経が発達します。
走る、昇る、飛ぶ、降りるなど、体を動かす喜びを全身で味わえるようになります。
そして、親以外の大人との接触や、同世代の友だちとの遊びの体験で一段と成長を遂げる時期です。
「ごっこ」遊びで、社会のルールを学んだり、自分たちで遊びを工夫したりして、空想力や想像力を育みます。
例えば、「事例68(分析研究6)」の家庭の長女Y(9歳)が、幼稚園当時をふりかえり、「周りの子がしているままごと遊びは、あほらしくてやったことがない。」と述べていますが、長女Yは、「ままごと遊び」を“自分の家はそうじゃない!”と批判し、バカバカしいと見向きもしませんでした。
一方で、暴力のある家庭環境で暮らす子どもにとって、「ままごと遊び」は、“自分の家にはないあこがれ”としてファンタジーの世界に陶酔していく(もうひとつのあこがれの世界に逃げ込む=解離させる)こともあります。長女Yと3つ歳が離れた妹Aは、両親の怒鳴り声、長女Yが巻き込まれ罵倒される中、テーブルの下で、なにごともないように、ひとりでままごと遊びをしていました。
また、幼い男の子が、仮面ライダーやウルトラマンに変身し、母親に暴力をふるっている父親を怪獣に見立て、怪獣を退治して母親(世界)を守る「ごっこ遊び」をしていることもあります。このときの男は、母親のナイトとして、父親の暴力から母親を守ることができない無力さを感じていることも少なくありません。
つまり、「ごっこ遊び」は、暴力のない家庭で育っている子どもと、暴力のある家庭で育っている子どもでは、その役割などの情景が違うわけです。
別のいい方をすると、その違いが顕著に表れるのが「ごっご遊び」ということになります。
また、子ども同士で遊べば遊ぶほど、大脳全体、特に前頭葉が育っていきます。
ケンカや争いごとで、人間社会での問題解決方法を学ぶ大切なときでもあります。膝をすりむいたり、ケンカをしたりするのは、子どもの成長の貴重な体験となり、自分たちで問題解決することによって、トラウマに打ち勝つ、弾力性のある強い子に育っていきます。
しかし、DV環境下で、虐待を受けて育つ子どもは、この時期に叩く、殴る、蹴る、怒鳴る、からかうといった暴力のみが問題解決の方法として学んでしまいます。

② 自分の性へのアイデンティティ(5歳)
 保育園や幼稚園、家族内での人間関係が複雑になり、多くの人たちとの交わりの中で、前頭葉の中の共感性や同情心を司る部分が発達し、それに伴って親や先生を喜ばせるためによい行動をとろうとしたり、してはならないといわれた行動を抑制したりする能力が育ってきます。
倫理観の芽生え、その源は親や先生たちとの愛着の絆をつくっていくことです。自分の性へのアイデンティティ*-14が顕著になるのもこのころです。
僕は男の子、私は女の子とはっきり口にして、性別への健全な興味を示します。
自分の父母を理想化して「大きくなったらお父さんと結婚する」、「お父さんのようになって、お母さんみたいな人と結婚する」というのは、親との健全がアイデンティティの表れです。
*-14 「アイデンティティ」とは、「あるものがそれとして存在すること」、また、そうした認識をさし、「同一性」「一致」のことです。
心理学・社会学などでは、「人がときや場面を超えて、ひとつの人格として存在し、自己を自己として確信する自我の統一を持っていること」と説明され、「本質的自己規定」をさします。


(5) 脳の発達の臨界期(感受期)
刺激を受けて、脳の各所がもっとも発達するタイミングを「臨界期」といいます。
このことは、脳機能は、もっとも発達するときに発達することができないと、機能の獲得を逸することを意味します。
① 運動神経の発達..胎児期-4歳半(ハイハイ、歩く、走るからはじまって自分の体をスムーズに動かす)
② 感情の発達..3ヶ月-2歳半
③ 社交的愛着(愛着の絆)..3ヶ月-2歳10ヶ月(この間に愛着の絆ができなかった子どもは、人間関係が上手くとれない)
④ 視覚(認知)..3ヶ月-2歳10ヶ月(脳神経回路が育つ4ヶ月までに側頭葉にある画像を認識する視覚を司る部分が最も育つ。4ヶ月-2歳半)
⑤ 言語..6ヶ月-4歳半(ことばをつくり、発するブローカー野の発達は9歳までに確立される)。
⑥ 語彙..7ヶ月-(一生を通じて発達)
⑦ 数学の論理..1歳半-(右脳の発達)
⑧ 音楽..3歳半-


(6) 学童期(6-12歳)
脳とからだが急速に発育する2歳10ヶ月までは、アタッチメントを確立し世界への信頼と自己肯定感を育むと同時に、さまざまな体験をさせて脳に情報をどんどん送り込むことで、学力の土台となる非認知能力の向上につながります。
そして、6歳までには、大脳辺緑系が発達を遂げ、大脳新皮質の中には大人の2倍もの1,000兆の連結部ができて、大人の脳の90-95%の大きさになります。
言語を習う回路が多くできているので、外国語などを習うのに最適な時期です。
小学校に入り、規則的な学習をはじめると新しい回路が加わり、使用する連結はどんどん強化されていきます。
反対に、使わない回路、時に言語を習う回路は消えていってしまいます。
このことを「剪定」といいます。
12-14歳までに脳神経回路が剪定されていき、大人のシナプスの数と同じくらい、約500兆になります。
脳のシナプスは思春期前の8歳までにもっとも多くつくられ、それ以降は使わないシナプスは消滅していき(剪定)、この時期に得意・不得意がはっきりしてきます。
したがって、8歳までにさまざまな体験をさせてシナプスを複雑にしていくこと、つまり、発見や学びの楽しさや新たな知識を吸収する力、そして、集中力、理解力といった脳の回路をつくっておくことは、8歳以降の選択肢の幅が格段に広がるという意味で重要です。


(7) 思春期(10-15歳)と青年期(15-22歳)
① 思春期(10-15歳)..脳の第二形成期

思春期後期の14歳になるまでに、子どもは自分をコントロールする術を学ばなければなりません。
子どもの成長とともに、親は、子どもを世間(世の中)と対峙させ、自分から質問する力、傷ついてもめげずチャレンジし続ける力、他者を思いやる共感力を身につけさせます。
親が、子どもを世間(世の中)と対峙させていくうえで、特に重要なことは、「君ならできる」と側で見守り、支え、得意なことを見つけてあげることで自己肯定感を育んでおくことです。
子どもの自己肯定感を高めることが、傷ついてもめげずチャレンジし続ける力、そして、他者を思いやる共感力といった“生きる力(被認知能力)”を育むことになるのです。
15歳くらいまでに大きく発達するのが、体感感覚を司る頭頂葉と前頭連合野の中の運動野です。中学や高校時代は新しいスポーツをはじめたり、いままでやっていたスポーツの技術をさらに磨いたりする最適な期間となります。
一方で、思春期は、脳の爆発的な発達によるイライラした感情から、情緒の不安定さ、「大人に対する反抗」があらわれ、親が頭を抱える時期です。
思春期になると、分別のある子が支離滅裂になったり、気分の浮き沈みが激しくなったり、物分かりのよかった子が危険な運転をする人の車に乗ったり、ばかげたリスクをとったりすることがでてきます。
こういった親や大人にとって不可解な行動の謎を解明する新たな研究結果が、脳のイメージング(画像化)によっても、新たな類のデータが提供されるなど次々と発表されています。
それらは仮説を試したり、自らの行動や感情に関する若者自身の説明を裏づけたりするのに役立っています。
過去数年の間に実施された数十件の研究は、ある特定の時期の若者を比較するのではなく、子どもたちの発達について時間を追って観察しているものです。
これらの長期的な研究により、知的、社会的および感情的スキルの発達は、以下のような4つの段階に分けられることがわかっています。
・(10)11-12歳
思春期を迎えはじめる(10)11-12歳の子どもたちは、基本的なスキルの一部、つまり、空間学習や論理的思考の一部能力が落ちる(後退する)ケースが認められます。
展望記憶(将来なにをすべきかを覚えておく力)を司る脳の部位は、まだ成熟途中の段階にあります。
2014年に学術誌「Journal of Behavioral Decision Making」に掲載された76人を対象にした研究結果では、「10-11歳までに上手な意思決定の仕方を学んだ子どもは、12-13歳になったときに示す不安や悲しみがより少なく、けんかや友人とのトラブルも少ない傾向にあった。」と報告されています。
・13-14歳
この時期の子どもは、感情的に不安定になる場合が少なくありません。この時期の子どもは、仲間の意見に敏感になり、それに強く反応します。
しかし、仲間の真意を理解するのに必要な社会的スキルが十分に育つまでにはまだ何年もかかることから、この時期は厄介でつらいものになるのです。
ストレスへの対応が乱れ、ドアをわざと大きな音で閉めたり、涙を流したりすることが多くなります。
そして、社会的ストレスから受ける影響は、この時期にピークに達します。
ストレスが主な原因となる精神疾患を持つ成人の50%は、15歳になる前に診断されています。
他の研究によると、11-15歳はグループから仲間外れにされるなどの社会的ストレスにさらされると、悲しくなったり、不安になったりします。
2016年に学術誌「Developmental Science Review」に掲載された研究レビューでは、「ストレスから最も影響を受ける脳の領域はまだ成長途中のため、この段階で若者が使う戦略は、脳の回路に生涯のパターンとして刻み込まれる」としています。
そこで、自分を慰めるスキル、そして、仲間の表情やボディランゲージをどう理解すべきか、けんかしたあと、謝る、埋め合わせをする、妥協するといったことで仲直りをする方法など、友人関係のスキルを教えることが大切です。
・15-16歳
2015年、オランダのライデン大学の研究者が、8-27歳の200人強を対象に実施した研究調査によると、「リスクを取ることへの欲求は15-16歳にピークを迎える」ということです。
脳の報酬受容体は活発化し、喜びや満足感に関連したドーパミンに対する反応が増幅し、スリルを求めたがるようになります。
思春期、通常の危険への恐怖は、一時的に抑制されます。
同年、イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校のエバ・テルツァー准教授(心理学)が、10歳代の46人を対象に実施した調査では、「信頼できて助けを得られる友人を持っていると、万引きや無防備なセックスなどリスクの高い行動をしたがる傾向は弱まり、一方で、親友と口論することが多い10歳代はそうした危険な行為をしがちだ」という結果がでています。
ただし、15-16歳になっても、両親の愛情や助けにより、この状況を改善できるとしています。
同年、学術誌「Developmental Cognitive Neuroscience」に掲載された23人の若者を対象にした調査報告では、「15歳になり、両親との親密度を増した若者は、18ヶ月後にはリスクをとることに関係する脳の領域の活動が落ち、リスクをとる機会が減った」としています。
・17-18歳
この年齢では、10歳代の脳の変化・発達がはっきり見られ、IQが上昇する者もいます。
2013年、ペンシルベニア州立大学とコロラド大学の研究者の調査では、「もともと知力の高い若者は、この時期、さらに賢くなる可能性が高くなる」ということです。
10歳代後半になると、一般的に判断や意思決定を司る前頭前皮質の部位が発達し、感情の暴走やリスクを冒すことを制御するようになります。
この段階では、他人の気持ちを察知したり、共感を示したりする能力が向上します。
それでも、複雑な社会状況の中で他人の動機や態度を読み解く能力はまだ不足しています。
例えば、友人がなぜ急に話題を変えるのかが理解できなかったりします。

② 青年期(15-22歳)
a) 大人の脳に近づく途上期
思春期にいちばん発達を遂げるのが前頭葉です。
前頭葉は、過去の記憶と新しい経験を比較し、考えたり、判断したり、決断したり、実行を命令したりします。因果関係がわかり、長期の計画をたて、感情を抑え、行動をコントロールできるようになるのは、前頭葉が十分発達して、大人の脳になってからです。
青年期前期の高校生(15-18歳)が、首を傾けたくなるような愚かな行為を犯すのは、前頭葉がまだ発達途上なので、知覚情報の統合や感情、行動のコントロールができないからです。
16歳ぐらいまでに、前頭葉に脳神経回路がどんどん連結され、その後20歳代のはじめまで“剪定”されていくことになります。
大人の前頭葉の厚みになる時期(女性20歳、男性22歳)に、細胞から神経線維が軸索によってどんどん覆われていき、情報処理が早く効率的にできるようになります。
前頭葉には、ワーキングメモリーという短期の記憶を保持する場所があります。
ワーキングメモリーに詰め込んだ情報を何度も思いだしたり、使ったりすることで、海馬が長期記憶を処理し、側頭葉に保持(記憶)します。
この時期に発達するのが、左脳と右脳を連結する神経経路の束の脳梁です。
脳梁が太いほど右脳と左脳を同時使用(統合)できるようになります。
女性の方が脳梁は多いため、感情と理性の統合が優れています。
脳梁の異常が発症原因とされる境界性人格障害(ボーダーライン)が、女性が多いのはこうしたことに起因しています。
b) 性別で異なる思春期の脳の発達
思春期はホルモンの分泌が盛んになります。
男女異なった性器の成長とともに、女性はエストロゲンが記憶を司る海馬を早く成熟させ、男性はアンドロゲンが感情を司る扁桃体を発達させます。
この違いは、男性は、感情を抑制する前頭葉が未発達のために、怒りを感じてすぐ暴力をふるう行動をとり、女性は、他人が何気なくいったことばをいつまでも覚えていてくよくよ気に病んだりする傾向(大きな括りとして)に表れます。
c) 前頭葉の病気、統合失調症(精神分裂病)
思春期から青年期にかけては、前頭葉の病気である「統合失調症(精神分裂病)」が一番発症しやすくなります。
統合失調症は100人に1人が発症するとされています。脳内伝達物質のひとつであるドーパミンを受けとる受動体が過剰反応をおこし、ないものが見えたり、聞こえるはずのない音が聞こえたりします。
感情や行動の抑制が上手にできなくなり、投薬治療と社会生活の指導が必要になります。
統合失調症は、ア)「誰かが自分を監視している」、「誰かに操られている」などの妄想、イ)「あいつが俺に命令している」と聞こえないはずの声が聴こえる幻聴が特徴的です。
そのため、思考が混乱してしまい、ウ)意味不明な会話をする、エ)落ち着きのない行動をとる、オ)感情が不安定になるといった症状もあらわれます。
他になにをするにも意欲がわかず、これがトリガー(引き金)になって、家に閉じこもったり、人とのコミュニケーションがとれなくなったりするほどの障害がみられることもあります。


(8) 男性と女性の脳の違い*
男性と女性では、器質的に脳が違います*-15。
米ベンシルバニア大学の神経学医ラギニ・ヴァーマは、男女1000人の脳をスキャンし男女の脳構造の違いを研究し、「男性の脳神経は前後への結合が強く」、左脳と右脳をつなげる脳梁は、女性が男性より20%太くなっている*-16 ことから、「女性の脳神経は左右のへ結合が強い」との報告をしています。
*-15 受精時の脳はすべてメス(女性)で、性器が女から男に形成され男性ホルモンの分泌によって脳のオス化(男性化)がはかられます。
男女関係なく一人ひとり、男性ホルモンの分泌量により脳のオス化の度合いが異なります。
つまり、100%オス化された脳、60%オス化された脳、30%オス化された脳ができあがることになります。
したがって、からだが女性で、脳の80-100%が男性のままであったり、からだが男性で、脳の80-100%が女性のままであったりするわけです(性同一性障害のひとつの要因)。
女性で男性的なものの考え方をしたり、男性で女性的なものの考え方をしたりするのも、脳のオス化による男性脳、女性脳の比重の問題ということです。
そして、この時期の脳のオス化(男性化)に影響を与えるのが、母親が抱えるストレスです。
特に、母親が暴力(収容所に送られたり、戦地や紛争地で生活していたりするなどを含む)にさらされるなど、強烈なストレスを抱えたりしていると、からだが男性であっても脳のオス化ができずに出産に至ることが知られています。
 そこで、男性脳と女性脳を論じるにあたり、一人ひとりの脳は、極端な男性脳と、極端な女性脳の間のスペクトラム(分布範囲)のどこかにある、つまり、誰の中にも、男性脳と女性脳の回路があり、人によって、その比重が異なるだけという視点に立つことは重要なことです。
ただし、男性脳と女性脳の比重の違いが、ものごとの捉え方の違いとなって表れることから、男性脳の比重の高い男性、女性脳の比重の高い女性における傾向を“性差”という視点で捉え、その特性を認識することが重要です。
*-16 女性の脳は男性よりも8%小さいものの、高度に網羅した神経組織により、少ないエネルギーで複雑な仕事を能率的にこなすことができます。
そして、言語野は女性の方が男性より大きく、20%脳梁が太くなっています。


① 脳梁が太い女性脳は、右脳でイメージしたことを速やかに左脳で言語化することができることから、次々と結論をだすことができます。
右脳と左脳の連携に特化しているため、過去のイメージを鮮明に現在のこととして捉えることができます。
つまり、「~しながら、~もする」ということができるように、複数のことを同時進行させることが得意です。
また、左脳で処理される言語を速やかに右脳でイメージすることができることから、感情移入しやすくなります。
これらの脳の特性から、女性は、過去のことでも感覚に結びつけて現在のように感じます。
そのため、突然、怒りだしたと思う感情の起伏も、過去の記憶が臨場感を持って現在に蘇るからです。
重要なことは、脳梁が太いことで感情起伏が大きく、突然怒りだすことと、怒りの感情(扁桃体)を前頭葉でコントロールできずに感情を爆発させ暴力的になること、強烈な脳幹刺激(快感)を求めて薬物やセックス、暴力に走ることとは根本的に違うということです。
なぜなら、前者は女性脳としての器質的な特性であり、後者は、生育期(胎児期を含む)の暴力によるストレスにより脳が感情をコントロールする機能を獲得できなかったり、暴力を体験し続けたことで、脳が覚えた強烈な刺激(快感)を求めてしまったりした成育歴による問題だからです。
先の「Ⅱ-9-(7)-②-b)」で、『思春期はホルモンの分泌が盛んになります。男女異なった性器の成長とともに、女性はエストロゲンが記憶を司る海馬を早く成熟させ、男性はアンドロゲンが感情を司る扁桃体を発達させます。この違いは、男性は、感情を抑制する前頭葉が未発達のために、怒りを感じてすぐ暴力をふるう行動をとり、女性は、他人が何気なくいったことばをいつまでも覚えていてくよくよ気に病んだりする傾向(大きな括りとして)に表れます。』と記していますが、同じ暴力のある家庭環境で育っているという成育歴のある男女で、その影響の表れ方が違うのは、脳梁、言語野、海馬、扁桃体など、器質的に脳の発達そのものに男女の違いがあるからです。
一方の脳梁の細い男性脳は、左右の脳の連携が悪いことから、現実の生活とは別の論理的な事柄を扱うこと、つまり、自らの感覚を絶ち、客観的な判断をしたり、大きな世界観を構築したりすることに適しています。
また、男性脳は、目の前の人の事情に頓着することはなく、自分の事情にも頓着しません。
なぜなら、「遠くのものほど」気になる習性があるからです。
自分の事情に近い「私」より、「公」を勘案する傾向があるのです。
女性は、親密度と共有したい時間が比例しますが、男性は反比例するのです。
そのため、両親、妻、彼女と過ごす時間よりも、友人や同僚と過ごす時間を優先する傾向があるのです。
そして、男性の脳は、空間全体を一気に把握し、広さや構造を理解し、自分の位置を測るといった高い空間認識能力が備わっています。
この能力は、見えない空間にも及び、数学空間や宇宙空間を楽しむことができます。女性にもこの能力のある人はいますが、男性の方が圧倒的に多いのです。
この空間認識能力は、男性脳の脳梁が細く、左右の連携が悪いことに起因しています。
左右の感覚器官から入ってきた情報に対して、右脳と左脳の受け止め方に差が生じ、三次元情報を算出するからです。
そのため、地図や青写真、組み立てマニュアルを見ると、決断力と集中力、視覚化をつかさどる脳の部分が活発に働き、図を早く理解することができます。
しかし、男性脳には、右脳に集中して空間認知能力を働かせていると、左脳への交信が疎かになってしまうといった「ボーッとする」特性があります。
なぜなら、男性の脳は、「~しているときに、話しかけられても応じることはできない」ように、主にひとつのことにしか集中できない構造になっているからです。
このため、話しかけてもすぐに反応できない時間が暮らしの中に挟まってしまうのです。
子育てしているとき、男の子がボーッとしていることが多くみられるのは、このことが原因となっています。

② 男性脳は、比較的ひとつのことこだわり、女性脳は、どちらかといえば人間関係を大事にする傾向があります。
そのため、同じ対象でもアプローチが異なります。
例えば、カメラで撮影するとき、男性は、レンズがどうだとか、画素数はいくつなど細かいスペックにこだわり、延々と議論して飽きることがないという傾向があります。
ひとつのことにこだわる男性脳は、人間関係が疎かになることが多く、ひとつのことにのめり込んで寝食を忘れたり、ゲームばかりやって人とのつながりが消えたりすることがあります。
一方の女性は、カメラを使って、人と人とがどのような関係を築けるかに興味を持つことから、一緒にスナップ写真を撮影したり、写真を共有したりすることに喜びを感じる傾向があります。
女性脳は、人間関係の細やかなニュアンスに関心を抱き、その中で自分を活かそうとすることから、家族や友人との絆がなによりも大切で、そこを離れて抽象的な問題を議論しても、仕方がないと考えます。
 人とのかかわり、つまり、ことばを使ってコミュニケーションをとる機能が優れている女性は、男性より言語野が大きくなっています。
女性は、共感してくれる相手に好感を持つようにできています。
感情が情報のヘッダーになっている女性脳は、結果より、どう感じたかのプロセスが大切なのです。
そのため、結論を話す前に、経緯を話したがります。
つまり、女性は、共感をえたり、共感をしたりしながらできごとを話したり、経緯を話したり、問題解決の議論を進めていくことを好みます。
一方で、プロセス優位の女性脳は、過去を「一部否定」されると、破綻します。
なぜなら、結果がよければ、女性脳はプロセスを肯定するように働くことから、プロセスでのミスを指摘されると脳が混乱して、傷が残るのです。
したがって、女性が暴力のある家庭環境で育つことは、暴力を受けるという結果に加え、暴力に至ったプロセスは「お前が悪い!」と原因を押しつけられて脳は混乱し、傷が深く残り続けることになります。
その深く刻まれた傷は、共感をしたり、共感をえたりしながらおしゃべりすること、経緯を話すこと、問題解決の議論を進めていくことが苦手になり、どうしていいのかわからず不安で、人と接することが恐怖になっていくことになります。
つまり、女性脳の特性が、根本的なダメージを受けることになるのです。
一方で、言語野が女性より小さい男性は、とりとめのない長話や前置きに対し耐性が低いことから、集中力を失います。
女性が友人たちとお茶をしながら何時間も話していられることに対し、「よくそんなに話すことがあるな?」と指摘したり、職場で、男性の上司や同僚が苛立って「論点を絞って話してくれないか!」と問題提起をしたり、暴力的な男性が、「なにをごちゃごちゃいっているんだ!」と怒鳴りつけたりするのは、脳の耐性が低いことが原因となっています。

③ 女性の脳構造は、感情を読みとることに長け、しかも、直感的な判断に長けています。
複数の赤ちゃんがいても、自分の赤ちゃんの泣き声を聞き分けることができ、赤ちゃんの泣き方で、オムツが濡れているのか、お腹が空いているのか違いを判断することができます。
つまり、女性は、目を見ただけでも相手の気持ちを察することができますが、男性にはできないことです。
 こうした「子を産み・育てる性」である女性は、基本的に自分と自分の子どもの身を守ることを第一に考えます。
自分に与えられた危害を忘れてしまうと、また同じ人に嫌な思いをさせられるかもしれないことから、二度と同じ目にあわないために、嫌な記憶を脳に留めておく、つまり、嫌な思いをした記憶を忘れないのです。
女性の脳は、不快な思いを大脳皮質という部位で処理するようにできています。
大脳皮質は、理性、知性、言語といった高度な脳活動を司っているところです。
女性は大脳皮質でネガティブな感情を捉えると、その感情を言語化し、長期記憶として蓄えます。
したがって、女性の脳は、過去のことでも感覚に結びつけて現在のように感じる特性があります。
そして、経験(年齢)を積み重ねることでひきだしが増え、現在の問題を解決できるようになります。
一方の男性の脳は、感情や記憶を制する大脳辺縁系が不活発であることから、男性は、人の表情や感情を読みとるのが苦手です。
男性の脳は、感情を脳の中心の扁桃体という器官で処理します。扁桃体が司るのは、短期記憶であることから、すぐに忘れてしまうのです。
つまり、女性の脳は感情をどんどんため込むバケツで、男性の脳は感情を網目から素通りさせるザルと考えることができます。

④ 人間の脳には、「報酬系」という回路があり、ここが活動すると快感を覚えます。
その快感は、褒められたり、評価されたり、頼りにされたりして嬉しいといった“社会的報酬”から得られるものです。
特に、社会的報酬を求める男性(脳)は、ダイレクトな肉体的欲求より、疑似的な「社会的報酬=自分を認めてもらえる」こと、つまり、ことばよる快感を求めて、女性が接待するキャバクラやスナックに行くわけです。
一方の女性は、社会的な報酬よりも、私そのもの、つまり、自分に関心を向けられたり、自分について語られたりすることで、脳の報酬系が活性化(快感を覚える)します。
なぜなら、女性の脳を機能的に見ると、男性より女性の方が不安になりやすいからです。
不安になり、疑心暗鬼になりがちであることから、「バーナム効果」を活用した占いにハマったりします。
「バーナム効果」とは、誰にでもあてはまるような曖昧で一般的な性格を表す記述なのに*-17、あたかもそれが自分にあてはまっている正確な分析であるかのように思い込んでしまう現象のことです。
*-17 米国の心理学者、バートラム・フォアが、学生に対し、「テストの結果であなたの性格を診断する」と伝え、簡単な心理テストをおこないました。
その後、「あなたは弱みを持っていても、それをいつも隠しています。」、「あなたの願望には、時おり非現実的な傾向のものも見受けられます。」など、さまざまな星占いの文言を組み合わせた文章を読ませたところ、学生全員が「この内容は自分によくあてはまっている。」と回答しました。


⑤ 男性ホルモンのテストステロンは、孤独を好む傾向を強めることから、男性は、ストレスが強くかかったとき、女性よりひとりになり、いろいろ考えたりする時間を求めます。
また、怒りに反応しやすい右側の扁桃体が活発になるため、運動をしたり、暴力をふるったりして発散しようとします。射精には、怒りや憤り、苛立ちといった感情を発散する機能があることから、ときに、性暴力に向かうことがあります。
男性はストレスを溜めこむと、より多くのドーパミンを必要とすることから、よりスリリングでハイリスクな刺激を求める傾向、つまり、ギャンブルにハマったり、女性関係が乱れてしまったりします。
一方の女性は、ストレスと感じると、感情に反応する左の扁桃体が活発になることから、友人たちを集ったり、お喋りに講じたりします。
また、女性の脳は、男性に比べるとセロトニンの分泌量が少ないことから、ストレスが溜まると、やけ食いにハマりやすい傾向があります。
セロトニンが十分に分泌されていると、ストレスをやる気に変えていくことが容易になりますが、逆に、足りなくなると心が折れやすくなります。
甘いモノや肉などを食べたり、長時間入浴したりすると、気分が少し和らぐ効果があるのは、これらの食べ物がセロトニンの分泌量を多くするからといわれています。




10.トラウマと脳

(1) トラウマ(心的外傷)になりうるできごとに直面すると..

トラウマには、命を脅かす危険があったり、戦慄を伴う洪水や地震にあったりするといった自然災害、戦争やテロといった人的災害、爆発や航空機墜落といった事故、交通事故や火災、殺人や強盗、DVや児童虐待、いじめなどの「大きなトラウマ」と、悪口、トイレの失敗、親族やペットの死、動物にかまれるなど、生命に危険はなくても心の傷として残る「小さなトラウマ」があります。
トラウマになりうるできごとには、①他人の自分の体の安全を脅かすようなできごとと、②そのできごとに強い恐怖感、無力感、またはぞっとするような戦慄を伴うものといった、2つの条件があります。
トラウマにあうと、脳がどのように反応しているかについては、「Ⅰ-5-(6)-②暴力の後遺症としての「PTSD」」で詳しく説明しています。
トラウマに対処する姿勢とその結果は、以下の2つで説明できます。
ひとつは、立ち向かったり、逃げたりすることができると、「うまく対処できた」と危険から脱する生活のリズムを継続することができます。もうひとつは、凍りついてしまったり、失神したりしてしまうと、「うまく対処できなかった」と緊張ホルモンの分泌が止まらず、ストレス障害になっていきます。
そして、トラウマになりうるできごとに直面すると、5感を通して脳に「危機(ストレス)」を伝え、情報を与えます。
「ストレス障害」を発症するメカニズムは、先の「Ⅰ-5-(6)-②暴力の後遺症としての「PTSD」」で詳しく説明しています。


(2) 単回性トラウマの子どもに見られる行動
子どもに見られるトラウマは、自然災害など防ぎきれずにおきる外傷的できごとによる「単回性トラウマ」と、日常的に繰り返される外傷的できごとにもとづく「慢性反復的トラウマ」にわけられます。
単回性トラウマは、地震や火事、事故に対して、子ども自身が危険と感じるもので、その症状は恐怖感や無力感です。
慢性反復的トラウマは、親や養育者からの放置や虐待、度重なる面前DV、いじめによるもので、人格形成や対人関係に影響、複雑な症状をあらわします。
地震や火事、事故などによる単回性トラウマは、以下の4つ症状を示します。
① 侵入(再体験(フラッシュバック))
 ・トラウマ的できごとを再演したり、その一部を繰り返し遊びとして表現したりする
 ・できごとに関する夢やはっきりとして内容はない。でも、怖ろしい夢を繰り返し見る
 ・赤ちゃん返り(退行)をして、今までの発育段階で習得したことができなくなる
② 過覚醒
 ・なかなか眠らなかったり、眠ってもすぐおきてしまったりする。養育者のそばで寝ることを主張したりする
 ・少しの音にもビクッとしたり、落ち着きがなくそわそわしたり、必要以上 に怯えたりする
 ・イライラして怒りっぽくなり、ものを投げたり、壊したり、養育者や友だちにあたったりする
③ 麻痺
 ・表情がなくなり、ボーッとしている
 ・食欲がなくなる
 ・ひっ込み思案になり、日常活動の全体が減退する
④ 回避
 ・トラウマ的できごとを思いださせるような人や場所を避けようとする
 ・トラウマ的できごとを思いださせるようなにおい、色、光、体感、人の表情などに強い拒否反応をおこす
 ・トラウマ的できごとに関する経験や感情をことばで表現できない、またはしたくないので、吐き気、腹痛、頭痛など体調の不調として訴えたりする
乳幼児では、愛着関係を結んだ人が急にいなくなることは、大変な喪失感を味わい、食事を拒否して生命にかかわることがあります。
子ども特有の反応として、喪失に対する強い罪悪感を持つことがあります。
それは、愛する人が亡くなったり、いなくなったり、両親が離婚したりしたのは、「自分の責任だ」と思い込んでしまったりするのです。
自分を悪い子だと思い込み、わざと自傷行為をしたり、ケガをするような遊びにふけったりして、養育者から叱られる行動をとります。
別離に対して異常な不安感を持ち、母親や養育者にまつわりつき、少しでも姿が見えないと恐怖に駆られて大泣きをすることもあります。
これまでとは人が変わったような行動をみせるようになったら、親や養育者は絶対に叱らず、トラウマの原因を探し、その痛みを和らげることに専念することが重要です。


(3) 慢性反復的トラウマがひきおこす7つの問題
慢性反復的トラウマは、「複合的トラウマ」、あるいは、「複雑性トラウマ」ともいわれます。
日常的に、継続して繰り返し受けた乳幼児期と学童早期の外傷的できごと、つまり、放置(ネグレクト)や虐待(身体的虐待・精神的虐待・性的虐待)、両親や養育者のDVの目撃(面前DV)などは、子どもがもっとも必要とする「安全の基地」が奪われます。
誰にも助けを求められないもっとも無力の状態に長期的に置かれるできごとは、子どもの脳と肉体の発達に悪影響を与え、のちに人格障害をひきおこすリスクを高めます。
信頼関係のある人からの性的虐待は人格形成に最悪の影響を及ぼします。
愛着と信頼の対象となる人から、何回も繰り返された性的虐待は子どもを傷つけ、成長してからの人格形成に悪影響を与え、精神的に混乱させます。
性的虐待を嫌いながら、拒否したら欲しい愛情を失ってしまう、「いい気持ちだろう?」などといわれて快感を経験すると(またはしたと思い込まされて)罪悪感を抱き、精神的に非常に混乱させます。
「誰にも話してはいけない」と「ふたりだけの秘密」という約束をさせられることが少なくなく、さらに混乱と無力感を心に刻み込むことになります。
性的虐待の加害者から受けた虐待の記憶を脳の奥深くにしまい込み、表面はなにごともなかったようにふるまってきたものの、男性と親密な人間関係がとれず、性交にいたる愛情関係を拒否し続けてしまうことさえあります。
感じる脳の扁桃体が危険をにおわせ、爬虫類の脳である脳幹が心臓の鼓動を早くしたり、手に汗を握らせたりして、恋人(男性)を受入れることができなくなってしまったりします。
子どものときに、慢性的に繰り返されるトラウマ的できごとにさらされると、HPA軸と交換神経組織の調節ができなくなり、視床下部からでるCRFという科学物質が脳内に慢性的にたまり、思考を促すドーパミンや、いい気持ちにさせてくれるセロトニンなどの脳内伝達物質を受容するシナプスの受容体を使ってしまうことから、大脳辺緑系の扁桃体や海馬の活動を低下させるか、異常に向上させることになります。
この状態は、成人のうつ病の症状と同じで、脊髄や脳内にCRFホルモンが過剰にたまっていて、いつも無気力でなにごとにも興味を示さないか、いつも不安で眠れず、イライラして過覚醒状態になっています。
子ども時代に慢性反復的トラウマを受けたことが、青年期・成人になって、うつ病を発症する原因となっています。
緊張ホルモンのコルチゾールは、記憶を処理する海馬の脳神経回路の連合部を破壊し、ついには脳神経細胞までも破壊します。
そのため、海馬が収縮して記憶に歪みがでてきます。
海馬の細胞だけは、脳内伝達物質のセロトニンによって、新しい細胞が生まれることから、うつ病やPTSDの一時期に、SSRI(選択的セロトニン再吸収阻害薬)を使って海馬の再生をはかる治療がおこなわれています。
しかし、アスペルガー症候群など発達障害と診断された児童に対して、安易にSSRIを投与すると自殺をひきおこすとの指摘があり、安易な処方が問題になっています。

慢性反復的トラウマは、以下の7つの分野に問題を抱えることになります。

① 愛着形成(アタッチメント)
親や養育者との愛着の絆が形成されない、または、破壊されたことで、この世界が信頼できるものであるということに疑いを持つようになります。
 ・自と他の境界線がうちたてられない
 ・人を信用できない
 ・社会的に孤立する
 ・ほかの人の感情を読むことができないので、対人関係に問題が生じる
 ・釣り合いのとれた見解が持てない
 ・他の人を自分の味方につけることができない

② 生理的発達
体感運動神経の発達に障害がおきて、人とのスキンシップに過剰に敏感だったり、反対に無痛覚症であったりします。
 ・人が自分の机のどの箇所に触れたか指摘できない
 ・体のバランスをとったり、四肢を協調して動かすことができなかったりする
 ・精神的ストレスを身体症状に変換する(身体化)ので、成人してから慢性の広範囲にわたる持病に苦しむ

③ 感情の調整
 ・感情の自制がきかない
 ・自分の感情や気持ちを言語化できない
 ・自分の望みや欲求をほかの人にことばで伝えることができない
 ・自分の気持ちを探索したり、指導したりできない

④ 行動の抑制
 ・衝動を抑えることが困難である
 ・自己破壊的行動をとる
 ・自分が優位なときは他人に攻撃的であったり、自分が劣位のときは不必要に受動的だったりする(対等的な関係を持てない)
 ・病的な自慰行為にふける
 ・睡眠に障害がある
 ・過食や暴食など食べることに難点を示す
 ・有害物(タバコ、酒、麻薬など)を乱用する
 ・権利者に向かって反抗的である
 ・規則を理解したり、守ったりできない
 ・日常生活の中で、遊びの中でトラウマ的できごとを再演する(暴力をふるう、性的いたずらをする)

⑤ 認知能力
 ・集中してものごとを考えたり、注意を払ったりできない
 ・興味を持続して保てない
 ・新しい情報を理解するのに問題がある
 ・安定した愛着関係を保てない
 ・予測したり、計画を立てたりできない
 ・自分の行為の結果を受入れることができない(因果関係がわからない)
 ・学習障害がある
 ・言語の発達に問題がある
 ・時間と空間の把握ができない
 ・聴覚と視覚からの認知に問題があるので、見たことときいたことを統合できない
 ・目で見る空間の複雑なパターンの理解に障害がある

⑥ 自己の確立
 ・安定した予期できる自己意識が欠如し、自分の体系の認識に障害がある(骨と皮のように痩せているのに、肥満だと思って過食症に陥るなど)
 ・自己尊重が育っていなくて、恥と罪悪感を持っている
 ・自分が他の人から独立した存在であるということが認識できない

⑦ 自意識の統合
 ・自意識にはっきりした変化が起こる
 ・現実感がなくなり、生きている感じがしない
 ・人間らしさがなくなったように思う
 ・記憶が喪失する
 ・2つまたはそれ以上の別個の自意識(赤ちゃんの自分と自分を罰する大人の自分など)を経験する(記憶の損傷からくる多重人格症状)

①-⑦に示した症状、もしくは、傾向がみられるときには、乳幼児期に慢性反復的トラウマとなる体験をしている、つまり、虐待や面前DVのある家庭環境で育っていることを示していることになります。


2016.3/4 ブログ再編成(第3次改訂)に伴い、主記事として掲載
2017.4/24 「第2章(Ⅱ(8-15))」の「改訂2版」を差し替え掲載




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