あなたは、夫の暴力・DVを容認していませんか? 暴力のある家庭環境で暮らす子どもの心を守ることを忘れていませんか?

[Ⅲ-4]Ⅱ.児童虐待と面前DVの影響。暴力のある家庭で暮らす、育つということ

12.脳と子どもの発達

 
 13.人類の暴力性。中毒化した脳が暴走、規定や規範は無力 11.断ち切るために必要。加害者に共通する行動特性の理解
*新版3訂編集中(2017.12.17)

Ⅱ.児童虐待と面前DVの影響。
-暴力のある家庭環境で暮らす、育つということ-

私たちが、児童虐待や面前DVなど、暴力のある家庭環境で子どもが育つことを理解するうえで重要なことのひとつが、「人類の歩みにとって、危機的な状況とはどのような状況であったのか」を理解することです。
人類にとっての「危機的な状況」とは、「死の恐怖」を味わう状況です。
人類にとっての「死の恐怖」、つまり、「危機的な状況」とは、古代の人類が肉食獣に襲われ、捕食されることに怯えて暮らしていた状況です。
安全で、心穏やかに安心できない環境は、「死の恐怖」と隣り合わせ、つまり、「危機的な状況」ということになります。
人類にとって、いつオオカミやコヨーテ、ヒグマ、トラ、ヒョウなどの肉食獣に襲われるかわからない環境、いつ地震や川の氾濫、飢饉など災害にみまわれるかわからない環境、いつ砲弾や銃弾が飛んでくるのかわからない環境、そして、いつ暴力がおこなわれるかわからない環境は、ともに不安と恐怖に怯え、心穏やかに安心できる環境になく、安全が約束されていないという意味でなんら変わるものでない、つまり、人類にとって、等しく「危機的な状況」ということです。
このとき、身体は「強烈なストレス反応を示す」ことになります。
危機的な状況に遭遇すると、人は、脳の大脳辺縁系(海馬や扁桃体)が恐怖感を抱いて反応します。
危機が度重なると、過剰な反応が繰り返され大脳辺縁系は常に過敏状態になり、ほんの些細なことでも、激しい恐怖感を抱いたり、攻撃的になったりします。
この「危機的な状況」は、現在の日本社会では、第1に、虐待、面前DV、貧困、差別、いじめなどの慢性反復的(状態的)なトラウマ(心的外傷)体験であり、第2に、地震や河川の氾濫などの自然災害、火災、事故などの単回性のトラウマ体験ということになり、極度のストレスをもたらすものです。
慢性反復的な危機的な状況下では、成人した者や子ども(妊娠している母体、つまり、胎児を含む)は、ともに強烈なストレスを受け続けることになります。
このとき、副腎皮質からストレスホルモンのコルチゾールが継続的に長期間にわたり分泌されます。
特に、脳の発達する時期の子どもは、下垂体、視床下部がダメージを受けます。
発達期の脳に対する強い精神的衝撃は、脳の神経伝達物質の分泌にも影響を与えます。
例えば、ストレスを調節するホルモンであるコルチゾールや重要な神経伝達物質であるエピネフィリン、ドーパミン、セロトニン等に変化が生じます。
これら神経伝達物質のバランスに問題が生じると障害がおきます。
虐待はセロトニンのレベルを下げ、それは、鬱や衝動的攻撃の原因になります。
 乳幼児期(胎児期を含む)、脳の発達に大きなダメージを与える慢性反復的な危機的状況下で育ってきた、つまり、暴力のある家庭環境で暮らしてきた子どもは、愛着の持ち方、人格形成など広範な影響が及ぼされることになります。虐待、面前DV、貧困、差別、いじめなどのトラウマ体験によって、うつ、不安、パニック、解離、嗜癖、自傷行為(摂食障害を含む)などがひきおこされます。
 さらに、トラウマが固定化し、愛着障害、発達障害、人格障害(パーソナリティ障害)のかたちをとったり、ヒステリー(解離性障害)、身体化障害、疼痛や不定愁訴などの症状も認められたりします。
発熱や心身症など身体疾患に罹患しやすくなるのは、長期的にコルチゾールが分泌されると、免疫力の低下がおこるからです。
虐待経験者の怒り、恥辱、絶望が内に向かう場合には、抑うつ、不安、自殺企図を生じ、虐待の影響が外に向かう場合、攻撃性や衝動性が高まり、非行につながります。
さらに、虐待、面前DV、貧困、差別、いじめなどのトラウマ体験は、その後の人生において、トラウマが再現(再体験)されるのを過剰に警戒して身構えていることから、わずかな刺激に対して激しいトラウマ反応をひきおこします。
なぜなら、「あのときと同じ危険が、いまこの瞬間、次の瞬間にでも襲ってくるんじゃないか」という感覚に苛まれているからです。
誰が敵か、どこから敵が現れるか、あの瞬間がいつおこるか、常に緊張体勢(危機下)にあり、不意の刺激に対して極端に驚きます。
この状態にあるとき、知覚過敏、睡眠障害、過呼吸発作、パニック発作(パニックアタック)、感情の抑制不能などのPTSDの症状として表れます。
 加えて、自己防衛システムが粉砕された人たちは、ほんの少しの刺激で爆発的な怒り、攻撃や恐怖、逃走に走ります。
なぜなら、常に興奮し続けているため、興奮を抑制するホルモンが枯渇に近い状態になっているからです。
ささいな恐怖や怒りも抑えることができず、興奮ホルモン(アドレナリン)の過剰分泌によって、過呼吸発作やパニックアタックとよばれる恐慌状態(パニック状態:突発的な不安や恐怖による混乱した状態)がひきおこされます。
この状態は、眠っている間も続き、悪夢を伴う睡眠障害を招きます(過覚醒)。
過覚醒状態では、なかなか寝つくことができず、ささいな刺激で直ぐに目覚めてしまいます(ここが、「うつ病」の睡眠障害と異なる点です)。
外傷的体験を思いおこすような行動、できごと、音、におい、光、ことば、光景にあうと、外傷体験当時のような著しい反応をおこすことになります。
そして、感情の中でもとりわけ怒りのコントロールがきかなくなくなると攻撃的行動として爆発することになります。
これは、PTSD症状のひとつの「攻撃防御の機能不全」と呼ばれるものですが、戦争や紛争地からの帰還兵や被災者にも認められるものです。
被虐待者やDV被害者、性暴力被害者、そして、被災者が抱える怒りは、本来、加害者に向けられるものですが、実際は自分に対して向けられることが多くなるとされています。
暴力は、相手から自分の心と体を大切に生きていきたいという人間の基本的な欲求を奪う、つまり、人とつながりながら生きようとする本能的な力を押しつぶすものです。
特に、力を奪われた子どもは、成長に伴い、力の欠損を自殺、リストカットや過食嘔吐などの自傷行為、繰り返し暴力(性暴力を含む)の被害者になるなど、自分の心と体への暴力として表すことになります。
一方で、その怒りは、自分を虐待者から守ろうとしてくれる大人、優しく自分を受け入れてくれる大人に向けられることもあります。
また、なんの関係のない大人の何気ない注意や指摘などに過剰反応して爆発し、暴力行為に及ぶこともあります。
つまり、虐待、面前DV、貧困、差別、いじめなどのトラウマ体験による抑圧により溜め込まれた怒りは、子どもの成長に伴い、暴力、非行、反社会的なふるまい、そして、交際相手や配偶者へのDV、自分の子どもへの虐待に向かわせてしまう大きな要因となっているのです。
例えば、「私が父親に虐待されたとき、母親の方を見たら、顔を背けられてしまったことが忘れられない。」と話す虐待の世代間連鎖に苦しんでいる母親が、子どものときに、「父親の暴力から母親が守ってくれて、暴力のある家庭環境から私を救いだしてくれた」という体験をしていたとしたら、この母親は、人を信頼することができ、子どもを虐待する父親が特別と考えることもで、子どもと暴力で接する以外のかかわり方を身につけることができていたかもしれないのです。
「守られている体験」が、感情のコントロールを支え、自分を大切にする概念を身につけます。
「自分は大切な存在である=自分は大切にされる価値のある存在である」という概念が培われなければ、他人を大切にする概念は培われることはないのです。
つまり、母親をはじめ、誰も助けてくれなかった体験が、感情コントロールを困難にさせ、自分を大切にすること、そして、他人を大切にすることができなくさせてしまうことになるのです。
子どもが暴力のある家庭環境で暮らす状態の深刻さを端的に表すのが、国連児童基金(ユニセフ)の現地事務所をAFPが取材した平成28年12月12日の記事です。
このAFPの記事には、「シリア内戦でも最大の激戦地に数えられる北部アレッポ(Aleppo)では、すべての子どもたちが心的外傷(トラウマ)を負って苦しんでいる」、「アレッポ東部から逃げてきた子どもたちは、基本的な防衛本能を失いつつある」、「5-6歳の子どもたちは、生まれたときには既に内戦真っただ中で、戦争と爆撃しか知らない」、「彼らにとっては、爆撃を受けるのも、逃げ回るのも、腹を空かせたままでいるのも、防空壕に身を隠すことも、普通のことだ。このトラウマは非常に長く残るだろう」、「彼らにとって、それは危険なことではない。日常生活なのだ」、「政府支配地域のアレッポ西部に暮らす子どもたちも、学校へのロケット弾攻撃で級友や教師を目の前で失った体験から、深刻な影響を受けている」、「親たちも内戦による心的外傷に苦しんでいるため、子どもたちのケアをする余裕がなくなっているのが現状だ」とのことばが綴られていました。
70年前、第2次世界大戦に参戦し、空爆を受け、沖縄戦を経験した日本人も同じ状況下にあったという意味で、このユニセフの指摘は重要です。
親の庇護がなければ生存することができない乳幼児は、親から安全で、心穏やかに安心できるという環境、つまり、親に守られなければ、それは、“死”に直結する「危機的な状況」です。
例えば、幼児期の子どもに対し「でて行け!(いうことがきけない、できないならでて行きなさい)」という“否定(拒絶)のことば”を吐き捨てる親がいます。
その親は、子どもに虐待を加え逮捕された親が口を揃えたように口にする「しつけの一環だ」と主張します。
しかし、そのことばが子どもにどれほどの恐怖を与えているのかに思いを馳せることはありません。
親の庇護下でしか生存することができない幼児期の子どもにとって、このことばは、“死”に値する恐怖を味わうものです。
ここで重要なことは、第1に、成人の感じる「死の恐怖」と乳幼児期の子どもが感じる「死の恐怖」とは、まったく次元が異なるという理解です。
親の「でて行け!」ということばで、幼児期の子どもに“死”の恐怖を与える行為は、子どもにとって、『“わたし”は親に守られていない=“わたし”は親に大切にされていない(必要とされていない)=親に拒否・拒絶された“わたし”』という概念を植えつけます。
上記のような概念が形成された子どもは、「親から拒否・拒絶されない、つまり、親に認められる、受け入れてもらえるように親に献身的に尽くす、機嫌をとる、意に添うようにふるまう」ことが思考・行動の基本となります。
第2は、自己と他の境界線があいまい、つまり、母子分離がおこなわれる前の3-4歳の子どもにとって、母親が父親に「でて行け!」と怒鳴りつけられることは、乳幼児期の子どもにとって、自分がいわれていることになるという理解です。
このことは、母親が父親に殴られたり、蹴られたり、無視されたりするのを目撃する(面前DV)ことは、乳幼児期の子どもにとって、自分が殴られたり、蹴られたり、無視されたりするのと同じ暴力を受けるに等しいことを示すものです。
問題は、大人の母親と違い、脳が発達過程にあることから、脳に与える影響は、大人の母親以上であるということです。
つまり、子どもがDVを目撃する(面前DV)ことが、子どもの脳の発達に深刻なダメージを与え、将来にわたり心身の健康を損なわせるのです。
精神的(心理的)なものであっても、乳幼児期に親に拒絶され、“死”の恐怖を味わって育った子どもの脳の働きは、古代の人類が、肉食獣に襲われていた時代と同様に「理性よりも本能優位となる」ということです。
ここに、「人類の脳は、生存している環境に合った脳の機能がつくられる」という真意があるのです。
暴行傷害事件やレイプなど性暴力事件を犯した加害者の親が、「(加害者であるわが子どもは)本当に手のかからない子どもだった。」と述べることありますが、それは、子どもが、無邪気な子どもであることを捨て去り、「親にとって都合のいい従順ないい子」を演じてきただけです。
事件を犯した加害者の親は、子どものことを「いい子」「優しい子」「思いやりのある子」と表現する一方で、事件を犯した子どもは、子ども時代の自分のことを「悪い子だった」「親にいつも反発していた」と表現します。
親から見る子ども観と、自分の子ども時代の認識に真逆の解釈、つまり、“認識ギャップ”が表れます。
親は、暴力を回避するために親のご機嫌を伺い、意に添うようにふるまい喜ばせなければならなかった子どもの姿を親は、「いい子」「思いやりのある子」と認識し、一方の子どもは、親に拒絶される(暴力を受ける)のは、「自分が悪いから」「自分が期待に応えられないから」という自責感を背景にし、「悪い子だった」と認識させます。
その後、思春期・青年期と成長し抑圧に反発しはじめた私の記憶として、「親に反発していた」と認識していくことになります。
そして、低い自尊感や自己肯定感は、強烈な承認欲求を抱え、それが、暴行傷害事件やレイプなど性暴力事件をひき起こすことになるわけです。
 成人と乳幼児の感じる恐怖など“感覚”の違い、親の「手のかからない子だった」と子どもの「親にとって都合のいい従順ないい子を演じてきただけ」といった“印象”や“捉え方”の違いを理解することは、暴力の影響を理解するうえで重要です。




12.脳と子どもの発達
人間の脳は、生物の進化を全部とり入れ、なにひとつ捨てていないといわれています。
胎児のときにまず発達するのが、生存を司る「脳幹(brain stem)」です。
脳幹は、“生きるための脳”“爬虫類の脳”といわれ、自律神経を通して呼吸、体温、血圧、飲食、排泄、睡眠、目覚めなど、生存のための基本的、自動的な機能を司っています。
そして、シナプス(脳神経経路の連結部)の間を行き来するセロトニンやドーパミンなどの脳内伝達物質の分泌を調整しています。
次に発達するのが、“古代哺乳類の脳”“感じる脳”といわれる「大脳辺緑系(limbic system)」です。
大脳辺緑系は、外からの刺激(特に危険情報)を通すか通さないかの門番役を務める「視床」、危険信号の役割を果たす「扁桃体」、その情報や体験などの記憶をつくる「海馬」などがあり、体外からの情報を体内に伝え、危険を避けて生きながらえる機能を果たしています。
「小脳(cerebellum)」は、脳幹の後ろに突きでていて、大脳の下から少しのぞいている部分で、運動や動作を覚え、自動的に身体を動かし、そのバランスを司っています。
最後に進化したのが、“新哺乳類の脳”“考える脳”といわれる「大脳(cerebral sortex)」です。
胎児期7ヶ月ころには、大脳が中脳(脳幹の最上部)を覆い、少し皺や折り目ができてきます。
つまり、胎児期に形成し発達しはじめる「脳幹」「視床」「扁桃体」「海馬」などは、強いストレスに大きな影響を受けます。
胎児期に脳幹が形成されはじめてからの33ヶ月(2歳1-2ヶ月)が、もっとも子どもの脳の発達に影響を及ぼすことになります。

(1) 脳の仕組み
① 情報の伝達をする脳神経回路
脳の表面には硬膜、その下にくも膜、その下に3mmどの薄い大脳新皮質という膜があります。
大脳の中には1,400億個ものニューロン(脳神経細胞)が詰まっています。
ニューロンは対外からの刺激を受けると反応し、神経線維を伸ばしていきます。そして、同じように反応しているニューロンとシナプスをつくることができます。
脳神経回路は使うほど強化され、神経線維が軸索という脂肪の塊に覆われて絶縁体となり、電流がよく伝わることで情報処理ができるようになります。
使わない回路は消えていきます。
一方で、脳の神経回路の一部が障害されるようになっておきた症状を違う神経回路を発達させ、つなぎ方を変えることによって、その機能を回復させたりすることができます。
脳構造の本質的な柔軟性、変化しうる性質を指すのが、「脳の可塑性(かそせい)」です。
脳神経回路で情報をやりとりすることで、身体の運動機能をはじめ、見聞きしたことを認識したり、判断したり、考えたり、感情や行動のコントロールをしています。

② 右脳と左脳
右脳は感性を司るとされ、体内に向かって開かれている窓となります。映像や図形、空間認識、芸術的な活動、直感的な考え、並列処理、潜在意識などを扱います。
一方の左脳は、理性を司るとされ、対外に向かって開かれている窓となります。言語機能、共感能力、抽象的・理論的な思考、直列処理、顕在意識などを扱います。
赤ちゃんのとき、まず発達するのが右脳です。
“感じる脳”の大脳辺緑系につながり、そこから感情の情報を受入れ、それに反応する行動を起こさせます。
幼い子が、怒ってすぐに暴力をふるうのは、怒りをことばで表現する左脳が育っていないことから、右脳だけで反応しているためです。
左脳は、右脳より少し遅れて、生後6ヶ月ころから周りの大人たちと「意味のある相互関係を築く」ことで発達していきます。
そして、右脳と左脳は、“脳梁”という神経線維でつながり、左右の脳がコミュニケーションをとり、両方ほぼ同時に働くことができるようになっています。
左右の脳の情報伝達には、脳梁の発達を強化する赤ちゃんの左右交互運動、ハイハイが欠かせません。

③ 大脳の4つの部屋の役割
・前頭連合野(前頭葉)..脳の司令塔で、ものごとを考えたり、判断したりします。
また、不適当な感情や行動を抑制します。
思春期(10-15歳)から青年期(15-22歳)に大いに成長し、大人の大きさになるのが、女性20歳、男性22歳とされています。
・左右側頭連合野..音を聴く、見聞きしたものを判断します。視覚、聴覚、嗅覚、記憶を司る機能があります。
赤ちゃんは、胎児のときに母親の声や心拍、血流の音などを聴いて、聴覚の脳神経回路を発達させて産まれてきます。
・頭頂連合野..ものの動きや方向などを確認します。皮膚の感覚を感じます。
・後頭連合野..ものを見ます。


(2) 脳の発達(乳児期:0-1歳)
① 脳の第一形成期(乳幼児期0-3歳)
赤ちゃんの脳(10ヶ月で正常に出産)は、大人の脳の1/3の大きさで、親や保育者との愛着関係から多くの刺激を受けて発達し、6歳までに大人の脳の90%の大きさになります。
しかし、シナプスの数は大人の脳の500兆に対し、50兆しかできていません。
遺伝子に秘められた脳の発達の可能性を咲かせるのは、親や養育者の愛情に満ちたやりとりと、地域の保育所や学校を含めた生育環境であることがわかっています。
幼児期は、親や養育者との密接な相互関係で、体温調節や睡眠リズムなどを司る脳幹の機能が調節でき、2歳10ヶ月までに対人関係をつくる能力の基礎がつくられます。

② 乳児期(0-1歳)
・生まれて初めてのトラウマ的ストレス
出産時に赤ちゃんは、心地よかった母親の胎内から、物凄い明かりと騒音の中に押しだされてきて、はじめてのトラウマ的ストレスを体験します。
産室の明かりを薄暗くし、医師や助産師はできるだけ声を落として、薬や器具を使わず自然な出産をおこないます。
生まれた瞬間に、赤ちゃんはへその緒がつながったまま母親の胸に抱かれることが望ましいのです。
出産時に大体発達を遂げていて、脳の中ですでに機能をはじめるのが呼吸や睡眠などを司る「脳幹」と、大脳辺緑系のうち外界からの危険信号をとり入れるか入れないかの門番役となる「視床」と、危険信号の役割を果たす「扁桃体」です。
「痛だんいよう」、「眠いよう」と泣いている赤ちゃんを、母親がしっかりと抱き、胎児のときに聞き慣れた母親の心音と「よく生まれてきたね。待ってたのよ。」などという母親の声を聞かせることによって、視床と扁桃体に深い安堵が刻まれます。
そこに、母親のにおい、母乳の味などが加わると、安心感や安堵感を扁桃体が記憶し、のちのトラウマ的ストレスがくっつかないテフロンのような役目を果たします。
このことを、不幸や不運に打ち勝つ「弾力性」といいます。
つまり、視床と扁桃体に深い安堵感が刻まれないで育つと、「弾力性」が損なわれることになるのです。
・親子に睦の時間
赤ちゃんの顔をみつめて話しかけたり、小さな指に触ったり、額にキスしたりといろいろな愛情表現をします。
親がこの間、無関心でいるようなら、うつ病か児童虐待や放置の“要注意”のサインとなります。
薄暗い部屋の中で赤ちゃんはあまり見えない目を開いて、抱いている人の目をじっと見つめます。
大脳の後頭部にある視覚野は、未熟な赤ちゃんの脳を外部の刺激から守るためにもっとも遅く発達します。
そのため、大体20-25cmほどのところにあるものがボーッと見えるだけです。
しかし、赤ちゃんは生存本能の命令で自分を守ってくれる人の顔を覚えようとし、親や養育者の顔の表情を真似しようとします。
睦の時間が、親子の愛着形成(アタッチメント)に効果があり、児童虐待やネグレクトの予防になります。
a) 視覚の発達
生後4ヶ月には、親の顔だけではなく、周囲もはっきり見えるようになります。
人は、右脳の方が、人の顔を見分ける機能が強くなっています。
人は赤ちゃんを抱くときに本能的に左腕に抱いて、赤ちゃんの左目(右脳)を強く刺激します。
視神経は脳の中央で交差します。
左目は感情を司る右脳の支配下にあり、愛着の絆を強めます。
右目で見るより左目で見る方が、人の顔をよく認知できます。
生後7ヶ月になると、「怖い顔」、「楽しい顔」などの見分けがつくようになります。
顔の表情から、人の感情を読みとる社交技術を身につけていきます。
視覚を司る脳神経回路は、盛んに発達する時期(臨界期or感受期)を通り超すと発達が止まってしまいます。
例えば、生後4ヶ月まで真っ暗なところに置かれ、視覚の回路が発達しなければ、目を開けていても一生見えなくなってしまうことになります。
b) 親の愛情と脳幹の調整
赤ちゃんの脳幹は、呼吸、睡眠、体温調節などの機能は果たしても調節はまだされていません。
最初に、脳幹の機能により、空腹、痛み、眠さなどを泣いて親に知らせます。
親が子どもの泣き声を聞き分けて授乳します。
痛いところをさすり、優しく揺すって眠らせることで泣きやみ、脳幹の自律神経の機能を調整し、内臓や血管の働きを整えていきます。
母親にリズムをつけて静かに揺すられることは、母親との一体感を味わうことができ、安堵感や安心感を深めます。
安堵感や安心感が深まっていると、幼児期に転んだりしたときでも、自分を癒やして、泣きやむことができるようになります。
このことを「自癒能力」といい、トラウマの治療では自癒能力の再生が目標になります。
生後3ヶ月から6ヶ月の間が、赤ちゃんと母親との肉体の絆を愛着の絆に変えていく時期になります。
この時期は、「母と子のダンスのとき」と呼ばれています。
母親の笑顔、話しかけてくれる声や抑揚、抱かれたり、おぶさったりして味わう密着感などが愛着の絆を強めていくのです。
生後6ヶ月になると、母親の話しかけのことばの「音」を真似ることができ、マ・ム・ダ・ディ・ヒなど自分も音をだすようになります。
養育者との音ややりとりが会話の基礎になります。
玩具を差しだすと、両手を伸ばしてつかもうとしますが、それは、視覚野と運動野が“相応”して働きだしたことを示しています。
c) 言語の脳神経回路がつくられる(生後7-8ヶ月)
生後7-8ヶ月ごろ、家族とあまり見かけない人との区別がつくようになり、人見知りがはじまります。
人見知りは、自分を世話してくれる「安全」な人たちと、愛着の絆が結ばれた証拠です。
反対に、愛着の対象となる人がいない乳幼児の<反応性愛着障害(RAD)*-1>の症状のひとつは、見知らぬ人に愛想を見せ、本当に愛そうとする里親や養い親を拒否することです。
養育者との関係が原因で、脳の発達を遅らせ、ときには、体の発達まで遅らせます。
この時期は、特に動物園や遊園地を利用して五感を刺激する豊かな経験をさせます。
刺激によって、大脳新皮質に詰まったニューロンが爆発的な勢いで増え、神経線維を伸ばして多くのシナプスをつくっていきます。
興味と好奇心を示して、もっと自分の周りを探索しようとします。
好奇心がのちの学習につながります。
左脳の側頭葉にあることばを理解する場所(ウエルニッケ野)や単語の引出しである下側頭回、熟語のひきだしの角回が育ちます。
その後、ことばをつくり、発するブローカー野が育ちます。
乳児期に大人から話しかけられなかった子どもは、言語能力の発達が遅れてしまいます。
ブローカー野の発達は9歳までにほぼ確立されます。
そのため、ネグレクトなどで遅れた言語能力は、9歳までに適切なトレーニングを受けなければ、失われたままになります。
*-1 「反応性愛着障害(RAD)」については、「Ⅱ-15-(7)反応性愛着障害(RAD)」で詳しく説明しています。
d) 右脳と左脳の統合を促すハイハイ(生後9ヶ月)
生後9ヶ月ころになるとはじまる「ハイハイ」は、脳の発達にとても重要です。
1960年-70年代のアメリカで、ハイハイをあまりさせず、自分で移動できる車がついた椅子に腰掛けさせるのが流行りましたが、その数年後、学習障害児といわれる子どもたちの増加が目立つようになりました。
文字がさかさまに見えたり、目で見たものを写生することができないので、かんしゃくを起こしたりして学校が嫌いになる子どもたちが増えたのです。
ハイハイは、右手と左足を、左手と右足を一対にして、これを交互に動かす最初の動作で、歩行の基礎をつくるとともに、右脳と左脳をつなぐ脳梁を発達させ、左右の脳の“統合(同時に機能させること)”を強化することがわかっています。
脳梁を発達させ強化するハイハイを乳児から奪ったことで、この左右の脳の統合が損なわれてしまったのが原因でした。
また、脳梁の発達が損なわれていることが、境界性人格障害(ボーダーライン)発症の原因のひとつとされています。
e) 言語、運動神経、感情の発達(生後9ヶ月-1歳)
9ヶ月を過ぎると、養育者の「ダメ」という意味がわかるようになります。なるべくことばを使って親の意思を伝えるようにします。
少しずつ物を見て判断する前頭葉と理性を司る左脳が発達してきます。
小さなものを親指と人差し指の間で持つことができたり、家具などにつかまって立っていたりすることができるようになります。
動作を司る運動野の発達と身体の運動神経の発達も顕著になってきます。
この時期、ことばの遊びをとり入れ、語彙を豊かに覚えさせ、次の「ことばをしゃべる段階」の基礎をつくります。
1歳を過ぎると感情を司る大脳辺緑系が発達し、怒り、恐怖、愛情、嫉妬などの感情を表情や行動で表現できるようになります。
絵本の中の登場人物の表情や感情を真似るなど、養育者と赤ちゃんと一対一でかかわる時間をとることで、親子の愛着の絆が深まり、子どもの脳の発達の可能性を高めます。


(3) 脳の発達(幼児期早期:1-3歳)
① 運動神経(前頭連合野)が発達するとき(1-1歳半)
この時期は、前頭連合野の後部にある運動野が発達し、運動神経の機能が高まります。
支えなくても歩けるようになり、模索の領域が広がり、自分でなんでも試そうとします。
危険のない範囲でやらせることで、子どもは技術を習得し、達成感や満足感を味わい、自己尊重と自信を深めることができます。
このような体験は、大脳の発達に貢献するだけでなく、大脳辺緑系の視床の機能を強めます。
視床は「心の目」ともいわれ、外界の刺激を通すか通さないかの門番役で、脳波の原点ではないかと研究されている部分です。視床は実在感、「どっしりと足が大地についている感覚」を与えてくれるところです。
幼児期にトラウマ体験をした人たちは、トラウマ的ストレスに弱く、PTSDを発症したり、うつ病を発症しやすかったり、また、発症したときには、重篤化します。
それは、視床の機能が不調になり、外部の刺激を全部通してしまって、扁桃体を興奮させるからです。
また、この時期は、養育者からいろいろな物語やお話を聞きたがり、それも同じ本や同じ話を繰り返しねだります。
それは、本能的に母国語の語彙を取得し、言語を司る各分野の脳神経回路を強化しようとしていることの表れです。

② 「接近と逃避」の時期(1歳半-2歳)
いままで近づけなかった人や場所に興味を持ち、近づこうとしますが、直ぐに不安になって親元に逃げ帰り、安全を確認して、また接近しようと試みます。
この行動を親が励まし見守ることで、子どもは自信と達成感を深めます。
このとき、親が環境の安全を確保して見守ることと、過保護になり手助けすることでは、その後の子どもの発育に大きな違いがでてきます。
なぜなら、探究心や好奇心を支えてあげることで、子どもは大脳を発達させることができ、過剰な手助けは、探求心や好奇心を奪うことになるからです。

③ 自分と他人の分離と自我の発達(2歳)
目と手の相応(視覚野と運動野の統合)がすばやくできるようになり、また口にだすことばも増えていきます。
そこで、子どもに「自己」を認識させる問いかけをします。
いろいろな機会に、母親と子どもの「自」と「他」の分離をはかり、それと同時に、自分の感情や要求をことばにする(右脳で感じたことを左脳に移してことばで伝える)訓練を重ねます。
できるだけ早い時期に、「母親は子どもの自我の延長ではない」ことをお教えていくことが重要です。
そのことが、子どもの巣立ち能力を促進します。
例えば、「泣くだけでは、なにがあったかわからないのよ。ちゃんと教えてちょうだい。」となげかけ、子どもを抱きしめ、「それは痛かったでしょう」と声をかけ、優しくします。
そして、子どもの欲しがっているものを手渡します。
子どもの努力に親が応えてあげることがごほうびになり、子どもは自分の気持ちや考えを伝える方法を学んでいく礎となります。
ことばで自分の要求を表現させることは、右脳で感じたことを即行動に移す(キレる)という反応から、右脳で感じた怒りを前頭葉で抑え、左脳を使って表現するという行動パターンを子どもに習得させることになります。
「自己」と「他」の分離ができない、つまり、「自己」と「他」の境界線があいまいなまま成長してしまうと、思春期前の8-9歳ころから「ひとつの目標に向かって、皆で協力して(二人称・三人称)なにかをやる」という概念を獲得することができず、一方で、獲得していく子どもたちとの集団生活において徐々に支障がではじめます。
つまり、自己と他の境界線があいまいな認知状態のままで人とかかわることから、さまざまな対人トラブルを招いていくことになります。
自分の思い通りにコトが運ばないとキレ、怒りの感情を爆発させる関係性を、職場で上司と部下の関係性に持ち込めばパワーハラスメントやセクシャルハラスメント、交際相手に持ち込めばデートDV、配偶者との夫婦関係に持ち込めばDV、子どもとの関係性に持ち込めば虐待(体罰)ということになります。

④ 脳内の緊張が高まる(2-3歳)
2-3歳までの間は、大脳の各場所に脳神経回路が爆発的に連結している時期のため、子どもはイライラして、情緒的にも不安定になります。
「いやッ!」ということばの効果を覚えて、養育者のいうこときかずむずかり、いま笑っていたと思ったら、泣きだしたりして親を途方にくれさせます。
このとき、「この子は反抗している」と思わず、「かわいそうに、脳の発達でイライラしているのネ」と気持ちを汲みとって接してあげることが大切です。
同時に、この時期は、自分で排泄をコントロールするという脳幹の調節をしているときで、脳内の緊張も一段と高まっています。
そして、排泄の失敗などは、「恥ずかしい」といった高度な感情が発達します。
この恥の感情を増大させるような言動、つまり、失敗をひやかしたり、からかったりすることは、子どもが自尊心を育むことを損ないます。
また、日常の生活習慣のルールなど、子どもが家庭と社会の規則を学んでいくときです。
「しつける」ということは、「叱る」ことと違い、「教える」ことです。
当然、イラついた感情を子どもにぶつけるだけの「怒鳴る」「怒る」こととも違います。
生活には、習慣的におこなうことがあるので、「してはいけないこと」と、「しなければならないことがある」ということを学ばせ、身につけさせることは、子どもに安心感を与えます。

⑤ 父親の存在が大切になるとき(3歳-)
この年齢から父親の存在が大いに大切になってきます。
男の子にとっては、活発な遊びの友だちになり、人生に有効な技術を教えてくれる人になります。
女の子にとっては、最初の憧れの男性になり、「パパのにおいはいいにおい。」などといって父親の洋服のにおいを嗅いだり、強い腕に抱かれたりすることを望むようになります。
いままでと異なった人間関係を父親とつくることで、共感を司る前頭葉がどんどん発達していきます。
正常に発達した3歳児の脳は、MRI画像で見ると、共感能力の場所が赤く反応します。
しかし、虐待を受け児童養護施設に保護されて育った3歳児の脳はまったく反応せず、3歳までネグレストされた子どもの脳は、まるでアルツハイマーを患っている高年齢のように小さくなっているとの報告があります。
しかも、その状態は、正常な子どもの脳神経回路がたくさんできあがった脳に比べて6割の大きさで、しわも少ないということです。


(4) 脳の発達(幼児期後期:3-6歳)
① 長期記憶の機能の発達(3歳-)
遺伝と環境の両方の影響を受け、4歳までに子どもの脳は個人差ができます。無鉄砲で冒険好きな子、石橋を叩いてわたる子、ガキ大将としてリーダーシップを見せはじめる子、もっぱらリーダーに従っていく子など、性格的な違いがみえてきます。
その子の個性、性格を叱って直そう(押さえ込もう)とはせずに、そのよい傾向を伸ばしてあげることで、脳が飛躍的に発育していきます。
3-4歳ごろには、大脳辺緑系の中で、長期の記憶をつくる海馬が育っていきます。
海馬で記憶がつくられ(記銘)、大脳の側頭葉にバラバラに保持されていきます。
海馬の記銘の段階では、できごとなどを自分に受入れられるように適当に処理されていますが、思いだしている記憶力はあまり正確ではありません。
海馬は、愛着対象の親から虐待を受けたり、面前DV被害を受けたりしていると、副腎皮質から分泌されるストレスホルモンのコルチゾールの影響を受けることになります。
また、トラウマの記憶はあいまいではなく、映像、音、においなどをそのまま鮮明にしまっていますから、後々フラッシュバックなどで苦しむ要因になります。
・子ども同士の遊びの大切さ(4歳)
方向を確認したり、皮膚感覚を感じたりする頭頂葉の機能と四肢の運動筋肉の発育に伴って繊細な運動神経が発達します。
走る、昇る、飛ぶ、降りるなど、体を動かす喜びを全身で味わえるようになります。
そして、親以外の大人との接触や、同世代の友だちとの遊びの体験で一段と成長を遂げる時期です。
「ごっこ遊び」で、社会のルールを学んだり、自分たちで遊びを工夫したりして、空想力や想像力を育みます。
例えば、「事例116(分析研究11)」の家庭の長女Y(9歳)が、幼稚園当時をふりかえり、「周りの子がしているままごと遊びは、あほらしくてやったことがない。」と述べていますが、長女Yは、「ままごと遊び」を“自分の家はそうじゃない!”と批判し、バカバカしいと見向きもしませんでした。
一方で、暴力のある家庭環境で暮らす子どもにとって、「ままごと遊び」は、“自分の家にはないあこがれ”としてファンタジーの世界に陶酔していく(もうひとつのあこがれの世界に逃げ込む=解離させる)こともあります。
長女Yと3つ歳が離れた妹Aは、両親の怒鳴り声、長女Yが巻き込まれ罵倒される中、テーブルの下で、なにごともないように、ひとりでままごと遊びをしていました。
また、幼い男の子が、仮面ライダーやウルトラマンに変身し、母親に暴力をふるっている父親を怪獣に見立て、怪獣を退治して母親(世界)を守る「ごっこ遊び」をしていることもあります。
このときの男の子は、母親のナイトとして、父親の暴力から母親を守ることができない無力さを感じていることも少なくありません。
つまり、「ごっこ遊び」は、暴力のない家庭で育っている子どもと、暴力のある家庭で育っている子どもでは、その役割などの情景が違うわけです。
別のいい方をすると、その違いが顕著に表れるのが「ごっご遊び」ということになります。
また、子ども同士で遊べば遊ぶほど、大脳全体、特に前頭葉が育っていきます。
ケンカや争いごとで、人間社会での問題解決方法を学ぶ大切なときでもあります。
膝をすりむいたり、ケンカをしたりするのは、子どもの成長の貴重な体験となり、自分たちで問題解決することによって、トラウマに打ち勝つ、弾力性のある強い子に育っていきます。
しかし、DV環境下で、虐待を受けて育つ子どもは、この時期に叩く、殴る、蹴る、怒鳴る、からかうといった暴力のみが問題解決の方法として学んでしまいます。

② 自分の性へのアイデンティティ(5歳)
 保育園や幼稚園、家族内での人間関係が複雑になり、多くの人たちとの交わりの中で、前頭葉の中の共感性や同情心を司る部分が発達し、それに伴って親や先生を喜ばせるためによい行動をとろうとしたり、してはならないといわれた行動を抑制したりする能力が育ってきます。
倫理観の芽生え、その源は親や先生たちとの愛着の絆をつくっていくことです。自分の性へのアイデンティティ*-2が顕著になるのもこのころです。
僕は男の子、私は女の子とはっきり口にして、性別への健全な興味を示します。
自分の父母を理想化して「大きくなったらお父さんと結婚する」、「お父さんのようになって、お母さんみたいな人と結婚する」というのは、親との健全がアイデンティティの表れです。
*-2 「アイデンティティ」とは、「あるものがそれとして存在すること」、また、そうした認識をさし、「同一性」「一致」のことです。
心理学・社会学などでは、「人がときや場面を超えて、ひとつの人格として存在し、自己を自己として確信する自我の統一を持っていること」と説明され、「本質的自己規定」をさします。


(5) 脳の発達の臨界期(感受期)
刺激を受けて、脳の各所がもっとも発達するタイミングを「臨界期」といいます。
このことは、脳機能は、もっとも発達するときに発達することができないと、脳機能の獲得を逸することを意味します。
① 運動神経の発達..胎児期-4歳半(ハイハイ、歩く、走るからはじまって自分の体をスムーズに動かす)
② 感情の発達..3ヶ月-2歳半
③ 社交的愛着(愛着の絆)..3ヶ月-2歳10ヶ月(この間に愛着の絆ができなかった子どもは、人間関係が上手くとれない)
④ 視覚(認知)..3ヶ月-2歳10ヶ月(脳神経回路が育つ4ヶ月までに側頭葉にある画像を認識する視覚を司る部分が最も育つ。4ヶ月-2歳半)
⑤ 言語..6ヶ月-4歳半(ことばをつくり、発するブローカー野の発達は9歳までに確立される)。
⑥ 語彙..7ヶ月-(一生を通じて発達)
⑦ 数学の論理..1歳半-(右脳の発達)
⑧ 音楽..3歳半-


(6) 学童期(6-12歳)
脳とからだが急速に発育する2歳10ヶ月までは、アタッチメントを確立し世界への信頼と自己肯定感を育むと同時に、さまざまな体験をさせて脳に情報をどんどん送り込むことで、学力の土台となる非認知能力の向上につながります。
そして、6歳までには、大脳辺緑系が発達を遂げ、大脳新皮質の中には大人の2倍もの1,000兆の連結部ができて、大人の脳の90-95%の大きさになります。
言語を習う回路が多くできているので、外国語などを習うのに最適な時期です。
小学校に入り、規則的な学習をはじめると新しい回路が加わり、使用する連結はどんどん強化されていきます。
反対に、使わない回路、時に言語を習う回路は消えていってしまいます。
このことを「剪定」といいます。
12-14歳までに脳神経回路が剪定されていき、大人のシナプスの数と同じくらい、約500兆になります。
脳のシナプスは思春期前の8歳までにもっとも多くつくられ、それ以降は使わないシナプスは消滅していき(剪定)、この時期に得意・不得意がはっきりしてきます。
したがって、8歳までにさまざまな体験をさせてシナプスを複雑にしていくこと、つまり、発見や学びの楽しさや新たな知識を吸収する力、そして、集中力、理解力といった脳の回路をつくっておくことは、8歳以降の選択肢の幅が格段に広がるという意味で重要です。


(7) 思春期(10-15歳)と青年期(15-22歳)
① 思春期(10-15歳)..脳の第二形成期
思春期後期の14歳になるまでに、子どもは自分をコントロールする術を学ばなければなりません。
子どもの成長とともに、親は、子どもを世間(世の中)と対峙させ、自分から質問する力、傷ついてもめげずチャレンジし続ける力、他者を思いやる共感力を身につけさせます。
親が、子どもを世間(世の中)と対峙させていくうえで、特に重要なことは、「君ならできる」と側で見守り、支え、得意なことを見つけてあげることで自己肯定感を育んでおくことです。
子どもの自己肯定感を高めることが、傷ついてもめげずチャレンジし続ける力、そして、他者を思いやる共感力といった“生きる力(被認知能力)”を育むことになるのです。
15歳くらいまでに大きく発達するのが、体感感覚を司る頭頂葉と前頭連合野の中の運動野です。中学や高校時代は新しいスポーツをはじめたり、いままでやっていたスポーツの技術をさらに磨いたりする最適な期間となります。
一方で、思春期は、脳の爆発的な発達によるイライラした感情から、情緒の不安定さ、「大人に対する反抗」があらわれ、親が頭を抱える時期です。
思春期になると、分別のある子が支離滅裂になったり、気分の浮き沈みが激しくなったり、物分かりのよかった子が危険な運転をする人の車に乗ったり、ばかげたリスクをとったりすることがでてきます。
こういった親や大人にとって不可解な行動の謎を解明する新たな研究結果が、脳のイメージング(画像化)によっても、新たな類のデータが提供されるなど次々と発表されています。
それらは仮説を試したり、自らの行動や感情に関する若者自身の説明を裏づけたりするのに役立っています。
過去数年の間に実施された数十件の研究は、ある特定の時期の若者を比較するのではなく、子どもたちの発達について時間を追って観察しているものです。
これらの長期的な研究により、知的、社会的および感情的スキルの発達は、以下のような4つの段階に分けられることがわかっています。
・(10)11-12歳
思春期を迎えはじめる(10)11-12歳の子どもたちは、基本的なスキルの一部、つまり、空間学習や論理的思考の一部能力が落ちる(後退する)ケースが認められます。
展望記憶(将来なにをすべきかを覚えておく力)を司る脳の部位は、まだ成熟途中の段階にあります。
2014年に学術誌「Journal of Behavioral Decision Making」に掲載された76人を対象にした研究結果では、「10-11歳までに上手な意思決定の仕方を学んだ子どもは、12-13歳になったときに示す不安や悲しみがより少なく、けんかや友人とのトラブルも少ない傾向にあった。」と報告されています。
・13-14歳
この時期の子どもは、感情的に不安定になる場合が少なくありません。この時期の子どもは、仲間の意見に敏感になり、それに強く反応します。
しかし、仲間の真意を理解するのに必要な社会的スキルが十分に育つまでにはまだ何年もかかることから、この時期は厄介でつらいものになるのです。
ストレスへの対応が乱れ、ドアをわざと大きな音で閉めたり、涙を流したりすることが多くなります。
そして、社会的ストレスから受ける影響は、この時期にピークに達します。
ストレスが主な原因となる精神疾患を持つ成人の50%は、15歳になる前に診断されています。
他の研究によると、11-15歳はグループから仲間外れにされるなどの社会的ストレスにさらされると、悲しくなったり、不安になったりします。
2016年に学術誌「Developmental Science Review」に掲載された研究レビューでは、「ストレスから最も影響を受ける脳の領域はまだ成長途中のため、この段階で若者が使う戦略は、脳の回路に生涯のパターンとして刻み込まれる」としています。
そこで、自分を慰めるスキル、そして、仲間の表情やボディランゲージをどう理解すべきか、けんかしたあと、謝る、埋め合わせをする、妥協するといったことで仲直りをする方法など、友人関係のスキルを教えることが大切です。
・15-16歳
2015年、オランダのライデン大学の研究者が、8-27歳の200人強を対象に実施した研究調査によると、「リスクを取ることへの欲求は15-16歳にピークを迎える」ということです。
脳の報酬受容体は活発化し、喜びや満足感に関連したドーパミンに対する反応が増幅し、スリルを求めたがるようになります。
思春期、通常の危険への恐怖は、一時的に抑制されます。
同年、イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校のエバ・テルツァー准教授(心理学)が、10歳代の46人を対象に実施した調査では、「信頼できて助けを得られる友人を持っていると、万引きや無防備なセックスなどリスクの高い行動をしたがる傾向は弱まり、一方で、親友と口論することが多い10歳代はそうした危険な行為をしがちだ」という結果がでています。
ただし、15-16歳になっても、両親の愛情や助けにより、この状況を改善できるとしています。
同年、学術誌「Developmental Cognitive Neuroscience」に掲載された23人の若者を対象にした調査報告では、「15歳になり、両親との親密度を増した若者は、18ヶ月後にはリスクをとることに関係する脳の領域の活動が落ち、リスクをとる機会が減った」としています。
・17-18歳
この年齢では、10歳代の脳の変化・発達がはっきり見られ、IQが上昇する者もいます。
2013年、ペンシルベニア州立大学とコロラド大学の研究者の調査では、「もともと知力の高い若者は、この時期、さらに賢くなる可能性が高くなる」ということです。
10歳代後半になると、一般的に判断や意思決定を司る前頭前皮質の部位が発達し、感情の暴走やリスクを冒すことを制御するようになります。
この段階では、他人の気持ちを察知したり、共感を示したりする能力が向上します。
それでも、複雑な社会状況の中で他人の動機や態度を読み解く能力はまだ不足しています。
例えば、友人がなぜ急に話題を変えるのかが理解できなかったりします。

② 青年期(15-22歳)
a) 大人の脳に近づく途上期
思春期にいちばん発達を遂げるのが前頭葉です。
前頭葉は、過去の記憶と新しい経験を比較し、考えたり、判断したり、決断したり、実行を命令したりします。因果関係がわかり、長期の計画をたて、感情を抑え、行動をコントロールできるようになるのは、前頭葉が十分発達して、大人の脳になってからです。
青年期前期の高校生(15-18歳)が、首を傾けたくなるような愚かな行為を犯すのは、前頭葉がまだ発達途上なので、知覚情報の統合や感情、行動のコントロールができないからです。
16歳ぐらいまでに、前頭葉に脳神経回路がどんどん連結され、その後20歳代のはじめまで“剪定”されていくことになります。
大人の前頭葉の厚みになる時期(女性20歳、男性22歳)に、細胞から神経線維が軸索によってどんどん覆われていき、情報処理が早く効率的にできるようになります。
前頭葉には、ワーキングメモリーという短期の記憶を保持する場所があります。
ワーキングメモリーに詰め込んだ情報を何度も思いだしたり、使ったりすることで、海馬が長期記憶を処理し、側頭葉に保持(記憶)します。
この時期に発達するのが、左脳と右脳を連結する神経経路の束の脳梁です。
脳梁が太いほど右脳と左脳を同時使用(統合)できるようになります。
女性の方が脳梁は多いため、感情と理性の統合が優れています。
脳梁の異常が発症原因とされる境界性人格障害(ボーダーライン)が、女性が多いのはこうしたことに起因しています。
b) 性別で異なる思春期の脳の発達
思春期はホルモンの分泌が盛んになります。
男女異なった性器の成長とともに、女性はエストロゲンが記憶を司る海馬を早く成熟させ、男性はアンドロゲンが感情を司る扁桃体を発達させます。
この違いは、男性は、感情を抑制する前頭葉が未発達なために、怒りを感じるとすぐに暴力をふるう行動をとり、女性は、他人が何気なくいったことばをいつまでも覚えていてくよくよ気に病んだりする傾向(大きな括りとして)に表れます。

c) 前頭葉の病気、統合失調症(精神分裂病)
思春期から青年期にかけては、前頭葉の病気である「統合失調症(精神分裂病)」が一番発症しやすくなります。
統合失調症は100人に1人が発症するとされています。脳内伝達物質のひとつであるドーパミンを受けとる受動体が過剰反応をおこし、ないものが見えたり、聞こえるはずのない音が聞こえたりします。
感情や行動の抑制が上手にできなくなり、投薬治療と社会生活の指導が必要になります。
統合失調症は、ア)「誰かが自分を監視している」、「誰かに操られている」などの妄想、イ)「あいつが俺に命令している」と聞こえないはずの声が聴こえる幻聴が特徴的です。
そのため、思考が混乱してしまい、ウ)意味不明な会話をする、エ)落ち着きのない行動をとる、オ)感情が不安定になるといった症状もあらわれます。
他になにをするにも意欲がわかず、これがトリガー(引き金)になって、家に閉じこもったり、人とのコミュニケーションがとれなくなったりするほどの障害がみられることもあります。


(8) 男性と女性の脳の違い*
男性と女性では、器質的に脳が違います*-3。
女性の脳は、男性よりも8%小さいものの、高度に網羅した神経組織により、少ないエネルギーで複雑な仕事を能率的にこなすことができます。
そして、言語野は女性の方が男性より大きく、20%脳梁が太くなっています。
米ベンシルバニア大学の神経学医ラギニ・ヴァーマは、男女1000人の脳をスキャンし男女の脳構造の違いを研究し、「男性の脳神経は前後への結合が強く」、左脳と右脳をつなげる脳梁は、女性が男性より20%太くなっていることから、「女性の脳神経は左右のへ結合が強い」との報告をしています。
*-3 受精時の脳はすべてメス(女性)で、性器が女から男に形成され男性ホルモンの分泌によって脳のオス化(男性化)がはかられます。
男女関係なく一人ひとり、男性ホルモンの分泌量により脳のオス化の度合いが異なります。
つまり、100%オス化された脳、60%オス化された脳、30%オス化された脳ができあがることになります。
したがって、からだが女性で、脳の80-100%が男性のままであったり、からだが男性で、脳の80-100%が女性のままであったりするわけです(性同一性障害のひとつの要因)。
女性で男性的なものの考え方をしたり、男性で女性的なものの考え方をしたりするのも、脳のオス化による男性脳、女性脳の比重の問題ということです。
そして、この時期の脳のオス化(男性化)に影響を与えるのが、母親が抱えるストレスです。
特に、母親が暴力(収容所に送られたり、戦地や紛争地で生活していたりするなどを含む)にさらされるなど、強烈なストレスを抱えたりしていると、からだが男性であっても脳のオス化ができずに出産に至ることが知られています。
 そこで、男性脳と女性脳を論じるにあたり、一人ひとりの脳は、極端な男性脳と、極端な女性脳の間のスペクトラム(分布範囲)のどこかにある、つまり、誰の中にも、男性脳と女性脳の回路があり、人によって、その比重が異なるだけという視点に立つことは重要なことです。
ただし、男性脳と女性脳の比重の違いが、ものごとの捉え方の違いとなって表れることから、男性脳の比重の高い男性、女性脳の比重の高い女性における傾向を“性差”という視点で捉え、その特性を認識することが重要です。

① 脳梁が太い女性脳は、右脳でイメージしたことを速やかに左脳で言語化することができることから、次々と結論をだすことができます。
右脳と左脳の連携に特化しているため、過去のイメージを鮮明に現在のこととして捉えることができます。
つまり、「~しながら、~もする」ということができるように、複数のことを同時進行させることが得意です。
また、左脳で処理される言語を速やかに右脳でイメージすることができることから、感情移入しやすくなります。
これらの脳の特性から、女性は、過去のことでも感覚に結びつけて現在のように感じます。
そのため、突然、怒りだしたと思う感情の起伏も、過去の記憶が臨場感を持って現在に蘇るからです。
重要なことは、脳梁が太いことで感情起伏が大きく、突然怒りだすことと、怒りの感情(扁桃体)を前頭葉でコントロールできずに感情を爆発させ暴力的になること、強烈な脳幹刺激(快感)を求めて薬物やセックス、暴力に走ることとは根本的に違うということです。
なぜなら、前者は女性脳としての器質的な特性であり、後者は、生育期(胎児期を含む)の暴力によるストレスにより脳が感情をコントロールする機能を獲得できなかったり、暴力を体験し続けたことで、脳が覚えた強烈な刺激(快感)を求めてしまったりした成育歴による問題だからです。
先の「Ⅱ-9-(7)-②-b)」で、『思春期はホルモンの分泌が盛んになります。男女異なった性器の成長とともに、女性はエストロゲンが記憶を司る海馬を早く成熟させ、男性はアンドロゲンが感情を司る扁桃体を発達させます。この違いは、男性は、感情を抑制する前頭葉が未発達のために、怒りを感じてすぐ暴力をふるう行動をとり、女性は、他人が何気なくいったことばをいつまでも覚えていてくよくよ気に病んだりする傾向(大きな括りとして)に表れます。』と記していますが、同じ暴力のある家庭環境で育っているという成育歴のある男女で、その影響の表れ方が違うのは、脳梁、言語野、海馬、扁桃体など、器質的に脳の発達そのものに男女の違いがあるからです。
一方の脳梁の細い男性脳は、左右の脳の連携が悪いことから、現実の生活とは別の論理的な事柄を扱うこと、つまり、自らの感覚を絶ち、客観的な判断をしたり、大きな世界観を構築したりすることに適しています。
また、男性脳は、目の前の人の事情に頓着することはなく、自分の事情にも頓着しません。
なぜなら、「遠くのもの」ほど気になる習性があるからです。
自分の事情に近い「私」より、「公」を勘案する傾向があるのです。
女性は、親密度と共有したい時間が比例しますが、男性は反比例するのです。
そのため、両親、妻、彼女と過ごす時間よりも、友人や同僚と過ごす時間を優先する傾向があるのです。
そして、男性の脳は、空間全体を一気に把握し、広さや構造を理解し、自分の位置を測るといった高い空間認識能力が備わっています。
この能力は、見えない空間にも及び、数学空間や宇宙空間を楽しむことができます。女性にもこの能力のある人はいますが、男性の方が圧倒的に多いのです。
この空間認識能力は、男性脳の脳梁が細く、左右の連携が悪いことに起因しています。
左右の感覚器官から入ってきた情報に対して、右脳と左脳の受け止め方に差が生じ、三次元情報を算出するからです。
そのため、地図や青写真、組み立てマニュアルを見ると、決断力と集中力、視覚化をつかさどる脳の部分が活発に働き、図を早く理解することができます。
しかし、男性脳には、右脳に集中して空間認知能力を働かせていると、左脳への交信が疎かになってしまうといった「ボーッとする」特性があります。
なぜなら、男性の脳は、「~しているときに、話しかけられても応じることはできない」ように、主にひとつのことにしか集中できない構造になっているからです。
このため、話しかけてもすぐに反応できない時間が暮らしの中に挟まってしまうのです。
子育てしているとき、男の子がボーッとしていることが多くみられるのは、このことが原因となっています。

② 男性脳は、比較的ひとつのことこだわり、女性脳は、どちらかといえば人間関係を大事にする傾向があります。
そのため、同じ対象でもアプローチが異なります。
例えば、カメラで撮影するとき、男性は、レンズがどうだとか、画素数はいくつなど細かいスペックにこだわり、延々と議論して飽きることがないという傾向があります。
ひとつのことにこだわる男性脳は、人間関係が疎かになることが多く、ひとつのことにのめり込んで寝食を忘れたり、ゲームばかりやって人とのつながりが消えたりすることがあります。
一方の女性は、カメラを使って、人と人とがどのような関係を築けるかに興味を持つことから、一緒にスナップ写真を撮影したり、写真を共有したりすることに喜びを感じる傾向があります。
女性脳は、人間関係の細やかなニュアンスに関心を抱き、その中で自分を活かそうとすることから、家族や友人との絆がなによりも大切で、そこを離れて抽象的な問題を議論しても、仕方がないと考えます。
 人とのかかわり、つまり、ことばを使ってコミュニケーションをとる機能が優れている女性は、男性より言語野が大きくなっています。
女性は、共感してくれる相手に好感を持つようにできています。
感情が情報のヘッダーになっている女性脳は、結果より、どう感じたかのプロセスが大切なのです。
そのため、結論を話す前に、経緯を話したがります。
つまり、女性は、共感をえたり、共感をしたりしながらできごとを話したり、経緯を話したり、問題解決の議論を進めていくことを好みます。
一方で、プロセス優位の女性脳は、過去を「一部否定」されると、破綻します。
なぜなら、結果がよければ、女性脳はプロセスを肯定するように働くことから、プロセスでのミスを指摘されると脳が混乱して、傷が残るのです。
したがって、女性が暴力のある家庭環境で育つことは、暴力を受けるという結果に加え、暴力に至ったプロセスは「お前が悪い!」と原因を押しつけられて脳は混乱し、傷が深く残り続けることになります。
その深く刻まれた傷は、共感をしたり、共感をえたりしながらおしゃべりすること、経緯を話すこと、問題解決の議論を進めていくことが苦手になり、どうしていいのかわからず不安で、人と接することが恐怖になっていくことになります。
つまり、女性脳の特性が、根本的なダメージを受けることになるのです。
一方で、言語野が女性より小さい男性は、とりとめのない長話や前置きに対し耐性が低いことから、集中力を失います。
女性が友人たちとお茶をしながら何時間も話していられることに対し、「よくそんなに話すことがあるな?」と指摘したり、職場で、男性の上司や同僚が苛立って「論点を絞って話してくれないか!」と問題提起をしたり、暴力的な男性が、「なにをごちゃごちゃいっているんだ!」と怒鳴りつけたりするのは、脳の耐性が低いことが原因となっています。

③ 女性の脳構造は、感情を読みとることに長け、しかも、直感的な判断に長けています。
複数の赤ちゃんがいても、自分の赤ちゃんの泣き声を聞き分けることができ、赤ちゃんの泣き方で、オムツが濡れているのか、お腹が空いているのか違いを判断することができます。
つまり、女性は、目を見ただけでも相手の気持ちを察することができますが、男性にはできないことです。
 こうした「子を産み・育てる性」である女性は、基本的に自分と自分の子どもの身を守ることを第一に考えます。
自分に与えられた危害を忘れてしまうと、また同じ人に嫌な思いをさせられるかもしれないことから、二度と同じ目にあわないために、嫌な記憶を脳に留めておく、つまり、嫌な思いをした記憶を忘れないのです。
女性の脳は、不快な思いを大脳皮質という部位で処理するようにできています。
大脳皮質は、理性、知性、言語といった高度な脳活動を司っているところです。
女性は大脳皮質でネガティブな感情を捉えると、その感情を言語化し、長期記憶として蓄えます。
したがって、女性の脳は、過去のことでも感覚に結びつけて現在のように感じる特性があります。
そして、経験(年齢)を積み重ねることでひきだしが増え、現在の問題を解決できるようになります。
一方の男性の脳は、感情や記憶を制する大脳辺縁系が不活発であることから、男性は、人の表情や感情を読みとるのが苦手です。
男性の脳は、感情を脳の中心の扁桃体という器官で処理します。
扁桃体が司るのは、短期記憶であることから、すぐに忘れてしまうのです。
つまり、女性の脳は感情をどんどんため込むバケツで、男性の脳は感情を網目から素通りさせるザルと考えることができます。

④ 人間の脳には、「報酬系」という回路があり、ここが活動すると快感を覚えます。
その快感は、褒められたり、評価されたり、頼りにされたりして嬉しいといった“社会的報酬”から得られるものです。
特に、社会的報酬を求める男性(脳)は、ダイレクトな肉体的欲求より、疑似的な「社会的報酬=自分を認めてもらえる」こと、つまり、ことばよる快感を求めて、女性が接待するキャバクラやスナックに行くわけです。
一方の女性は、社会的な報酬よりも、私そのもの、つまり、自分に関心を向けられたり、自分について語られたりすることで、脳の報酬系が活性化(快感を覚える)します。
なぜなら、女性の脳を機能的に見ると、男性より女性の方が不安になりやすいからです。
不安になり、疑心暗鬼になりがちであることから、「バーナム効果」を活用した占いにハマったりします。
「バーナム効果」とは、誰にでもあてはまるような曖昧で一般的な性格を表す記述なのに、あたかもそれが自分にあてはまっている正確な分析であるかのように思い込んでしまう現象のことです。
このバーナム効果を実証したのが、米国の心理学者、バートラム・フォアが、学生に対し、「テストの結果であなたの性格を診断する」と伝え、実施した簡単な心理テストです。
その後、「あなたは弱みを持っていても、それをいつも隠しています。」、「あなたの願望には、時おり非現実的な傾向のものも見受けられます。」など、さまざまな星占いの文言を組み合わせた文章を読ませたところ、学生全員が「この内容は自分によくあてはまっている。」と回答したのです。

⑤ 男性ホルモンのテストステロンは、孤独を好む傾向を強めることから、男性は、ストレスが強くかかったとき、女性よりひとりになり、いろいろ考えたりする時間を求めます。
また、怒りに反応しやすい右側の扁桃体が活発になるため、運動をしたり、暴力をふるったりして発散しようとします。
射精には、怒りや憤り、苛立ちといった感情を発散する機能があることから、ときに、性暴力に向かうことがあります。
男性はストレスを溜め込むと、より多くのドーパミンを必要とすることから、よりスリリングでハイリスクな刺激を求める傾向、つまり、ギャンブルにハマったり、女性関係が乱れてしまったりします。
一方の女性は、ストレスと感じると、感情に反応する左の扁桃体が活発になることから、友人たちを集ったり、お喋りに講じたりします。
また、女性の脳は、男性に比べるとセロトニンの分泌量が少ないことから、ストレスが溜まると、やけ食いにハマりやすい傾向があります。
セロトニンが十分に分泌されていると、ストレスをやる気に変えていくことが容易になりますが、逆に、足りなくなると心が折れやすくなります。
甘いモノや肉などを食べたり、長時間入浴したりすると、気分が少し和らぐ効果があるのは、これらの食べ物がセロトニンの分泌量を多くするからといわれています。


(9) 脳の機能を発達させないリスク
-暴力のある環境で育つ子どもの脳では、なにがおきているか-
脳の正常の発達は、親や養育者との安定した愛着の絆によって発達が促され、逆に、虐待、暴力や放置といった慢性反復的トラウマ*-4 によって発達は阻害されます。
虐待による知的発達への影響は、ことばの遅れや学習の遅れがみられます。
カーティス(Curtiss)は、アメリカでおきたジーニーという女児の虐待事件について、次のような報告をしています。
女児は生後20ヶ月ころから10年以上にわたって、父親による虐待を受けました。
日中、夜間を問わず身体を拘束され、他者との接触がほぼ皆無で、父親による殴打を受け続けました。
13歳で救出されたときのジーニーの状態は、ことばがなく、身体も小さく、歩行不能で、食べ物のそしゃくや嚥下の仕方も普通ではありませんでした。
その後、3年くらいの間に数百のことばを覚えましたが、年齢相応に達することはありませんでした。
両耳分離聴検査では、左耳優位(右半球優位)でした。
これは、言語が右半球で処理されていることを示唆していました。
本来は左半球で処理されている言語機能が、長期間の監禁によって、ジーニーの左半球は、その機能を獲得できなくなっていたのです。
子どもの成育には、親との親密な触れ合い体験と良好なコミュニケーションを欠くことができません。
しかし、その成長過程で成長のタイミングを失ってしまうと、二度とその能力を身につけることができない機能があることを示している事例です。
この「手引き」で、子どもがDVのある家庭環境で育つことを問題視しているのは、カーティスの事例で示されているように、「人の脳は、生存している環境に合った脳の機能がつくられる」、つまり、「人は、育つ家庭環境やコミュニティで生存するために必要な脳の機能を発達させ、必要ない脳の機能は発達させない」という事実があるからです。
子どもの脳の発達に影響を与える時期は、出生後の環境だけでなく、出生前の妊娠期、つまり、胎児期の母体環境からはじまります。
妊娠中のDV被害は、母体の被害だけでなく、早産や胎児仮死、児の出産時低体重をひきおこし、セロトニン・ドーパミンなどの神経伝達物質の分泌に影響を及ぼすなど初期の脳形成に重大な影響を及ぼします。
発達期の脳に対する強い精神的衝撃は、脳の神経伝達物質の分泌にも影響を与えます。
例えば、ストレスを調節するホルモンであるコルチゾールや重要な神経伝達物質であるエピネフィリン、ドーパミン、セロトニン等に変化が生じます。
これら神経伝達物質のバランスに問題が生じると障害がおきます*-5。
人間の脳は、生存している環境にあった脳の機能がつくられます。
つまり、人は、育つ家庭環境やコミュニティで生存するために必要な脳の機能を発達させ、必要ない脳の機能は発達させないのです。
乳幼児期にある特定の入力(インプット)が欠けていると、そのインプットに関連する情報を感じ、気づき、理解し、判断し、それに従って行動するという脳のシステムの発達に異常が生じることになるのです。
ここでいう“異常”とは、人類の歴史の中での“現代”、加えて、戦争や紛争下のない地域、国家における法やルール(規制)、道徳観や倫理観(モラル)といった規範から外れる考え方や行為をいいます。
人は「前頭前野の中央部の下側にある眼窩領域」が損傷を負うと、「行動の抑制がきかなくなったり、衝動を抑えられなくなったりして、社会的なルールが守れなくなる」ことがわかっています。
重要なことは、この眼窩領域が損傷を負ったとしても、知的な活動をする脳の部分が損傷を負うことがなければ、知的能力の低下は見られないということです。
つまり、知的な活動と善悪な判断や道徳的な活動は、脳の異なる領域でおこなわれていることから、知的能力が高い状態で、行動の抑制がきかなかったり、衝動を抑えられなくなったり、法律やルールといった規制や倫理・道徳といった規範を守れないという状態がおきるということです*-6。
また、「出生後、人が生存する環境に順応する」という意味は、人は、乳幼児期以降、生まれた環境で生き延びるための選択を優先し、その環境で生き延びるための“術”を学び、身につけていくということです。
この事実は、「子どもも、大人も正しいことを学び、正しい選択をするわけではなく、その時々で、生き延びるために、当事者にとって最善と思われる選択をする」という“人の本質”に通じるものです。
例えば、戦争・紛争下にある地域や国、暴力のある家庭環境など、乳幼児期に命が脅かされる環境で育つと、「私は、養護者に守られているから安全で、安心して過ごせる」などといったある特定の入力(インプット)が欠けてしまうリスクが高まります。
そのインプットに関連する情報を感じ、気づき、理解し、判断し、それに従って行動するという脳のシステムの発達に異常(問題)が生じます。
脳のシステムの発達の異常(問題)のひとつは、人を貶めたり、罵ったり、嫌がらせをしたり、困らせたり、辱めたり、騙したり(騙して奪うを含む)、暴行を加え傷つけたり、暴行を加え奪ったり、そして、殺したり、レイプしたりする“人の本能”を抑制(自制=コントロール)することができない脳のまま発達を遂げてしまうことです。
脳のシステムの発達に異常(問題)を抱えると、生まれた時代のコミュニティの一員として生活していくうえで求められるルールや法(規制)、倫理観や道徳観といった規範に従って行動することの大切さを認識することができないリスクを抱えるわけです。
それは、規制や規範に反する行動をとってしまうことに対し、悪いことをしているという自覚を持つことができないことを意味します。
なぜなら、戦争・紛争下にある地域や国、暴力のある家庭環境などでは、コミュニティに安定をもたらす秩序、つまり、規制や規範に従っていれば、生き延びることができないからです。
生存本能として、規制や規範を破ってでも生き延びることを優先するのが、生物としての基本です。
「コミュニティの一員として生活していくうえで求められるルールや法(規制)、倫理観や道徳観といった規範に従って行動できない」ということは、自己の利益、つまり、自己のやりたいことだけを追求して行動するということです。
自己の利益のために人を「利用」し、人を「操作」するのが基本行動となりますから、主語は一人称、つまり、自己中心的な考え(世界観)しか持っていないことになります。
自己中心的な人物は、敵か味方か、好きか嫌いかといった極端な二元論(二者択一)でものごとを捉え、俺に従わない者(絶対服従を誓わない者)、俺に屈しない者、俺に媚びを売らない者に対しては、「俺の敵」、「奴は嫌い」と認識し、徹底的に、冷徹に排除する(こきおろし、誹謗中傷し、叩きのめす)ことになります。
つまり、コミュニティの中での対人関係における基本軸は、上下の関係性、支配と従属の関係性を成り立たせるためにパワー(力)を行使する、もしくは、パワー(力)に屈し庇護下に入る(パワーを利用)ことになるわけです。
このように、善悪の判断ができない脳をつくりあげてしまう環境は、逆に、規定や規範に反する行動の中で、生きていくことができる術を身につけさせることになるという特性があるのです。
ものごとに対する解釈、そして、モノサシ(価値観にもとづく判断基準)は“極端な二元論”ですから、ころ合いがいい、加減がいい、ちょうどよい距離感といった“ほどよさ”という概念(感覚)がわからないことになります。
“ほどよさ”という人とのかかわり方で重要な感覚を持ち合せていない人(=獲得できなかった人)は、対人関係で行使するパワー(力)を他者に向ける者と、自分に向ける者に分かれます。
前者は、他者に攻撃的な人で、後者は、自分に攻撃的な人ということになります。
自分に攻撃的な人というのは、自分は他人の傷つけられてはならない大切な存在であるとの自己規定を獲得できず、思春期(10-15歳)以降、リストカットや過食嘔吐(摂食障害)といった自傷行為を繰り返したり、思春期-青年期(15-22歳)に、交際相手に「嫌われたくない(別れ=捨てられる)から」と避妊しない性行為に応じて(性暴力被害)妊娠し、堕胎を繰り返したりしてしまう人たちのことです。
*-4 「慢性反復的トラウマ」については、「Ⅱ-13.トラウマと脳」、「Ⅱ-14.慢性反復的トラウマの種類(児童虐待分類)と発達の傷害」、「Ⅱ-18.PTSDとC-PTSD、解離性障害」において説明しています。
*-5 「子どもの脳の発達に影響を与える時期は、出生後の環境だけでなく、出生前の妊娠期、つまり、胎児期の母体環境からはじまる」という問題は、医学的(生物学的)な捉え方になります。
つまり、胎児、そして、妊娠している女性に対する捉え方は、医学的(生物学的)解釈と法律的解釈、人道的・倫理的な解釈は違うということです。
法律的な解釈では、堕胎(中絶)を殺人罪で問わない、胎児は相続権を持たないなど、「胎児は、出生後に得られる権利を持たない」存在と位置づけられています。
したがって、胎児期の母親への暴力の影響に対して、傷害罪(母親への暴行、胎児への虐待)などで訴えたり、損害賠償を請求したりすることはできないわけです。
一方で、公訴時効はありますが、出生した子どもは、幼少期の虐待による傷害や精神的苦痛に対して、親を傷害罪や強姦罪で刑事告訴したり、損害賠償金を請求したりすることはできます。
このように、胎児と出生した子どもとは、法に定める権利としては、大きく異なることになります。
また、人道的・倫理的な解釈では、妊娠している女性が殺害されたり、不慮の災害不慮の事故で亡くなったりしたときには、胎児が生まれてきたあとの生活(人生)に思いを馳せ、怒りや憎しみを増大させたり、哀しみが増大したりすます。
*-6 前頭前野は、予測や推論を司る最も重要な領域のひとつで、ここの機能は、実行機能として知られる心理学的働きです。見通しをつける働きは、この領域の機能に依存します。
被虐待児は、見通しを立てたり予測したりすることが苦手で、整理整頓が苦手、先に起こることの予測ができません。
その結果、後先のことを考えず、すぐにバレる嘘(方便の嘘、見栄の嘘)をつき、自分の首を絞める結果になってしまうということを繰り返します。
これらは実行機能の障害といえます。
また、感情中枢のコントロールをおこなっている前頭前野の機能が弱いと、感情や衝動に対する抑制が不十分な状況をつくりだすことになります。
そして、上側頭回や眼窩前頭皮質は、社会性やコミュニケーションの中枢であることが知られ、紡錘状回は表情認知と関連することから、これらの領域の障害は、扁桃体の障害とともに、社会的認知や社会的行動の機能障害に直結します。
被虐待児で異常が指摘されている脳領域と症状や障害との主な関係は、「脳梁、(島)→解離症状」、「海馬、(扁桃体)→PTSD、解離性障害」、「前頭前野→実行機能の障害」、「前帯状回→注意の障害(被虐待児のADHD様症状)」、「上側頭回、眼窩前頭皮質、扁桃体→社会性・コミュニケーションの障害」となります。

① ルーマニアの国営孤児院での実験
幼少期に深刻なネグレクトを受けた子どもは、認知や情動、そして、健康に長期的な問題を抱えることが多くなることを示すものとして、ルーマニアの国営孤児院において意図せずに実施された、生まれたばかりの子どもたちを対象とする邪悪な実験があります。
当時のルーマニアの国営孤児院の生活環境は劣悪で、収容された子どもたちは、社会的・知的な刺激を最低限しか与えられずに育っていました。
その結果、認知機能の発達が遅れたり、社会的行動に深刻な障害が生じたり、ストレスに対する異常な過敏性が見られたりすることになりました。
そして、個々の孤児院の質的状況や里親家庭の環境、孤児院にいた期間などによって差はあったものの、おしなべて養子になるのが遅いほど回復が進まなかったのです。
子どもたちが問題を抱えることになった一因は、幼少期の親密な触れ合いが脳の機能を司る重要な部分の発達に関連しているからです。
つまり、親と子どもの親密な触れ合い体験が欠落したことによって、脳の発達に異常が生じたのです。
例えば、監禁されるなど、4-5歳になるまでことばを聞き発する機会を奪われた子どもは、一生、片言のことばでしかコミュニケーションをとることができなくなります。
なぜなら、運動性言語中枢とも呼ばれ、言語処理、及び音声言語、手話の産出と理解にかかわり、喉、唇、舌などを動かして言語を発する役目を負う「ブローカー野(ウェルニッケ野と弓状束と呼ばれる神経線維で接続されている)」は、9歳までに発達させなければならないからです。
「Ⅱ-13.脳と子どもの発達」で記しているように、人の脳は、胎児期以降、この時期にこの部位が形成し、この機能を獲得するというのが決まっているのです。
ネグレクトされて育った3歳児の脳をそうでない子どもの脳と比較すると、脳のサイズが小さく、脳室が肥大し、大脳皮質の組織が委縮していることがわかっています。
虐待は海馬を20%程度萎縮させ、感情の中心である扁桃体をも重大な影響を与えます。
急に曲がってきた車を避ける動作、つまり、危険が迫っていることを知らせるのが扁桃体です。
しかし、「子どもが虐待を繰り返し受けていると(DVのある家庭環境では)、危険が迫っているわけでもないのに、扁桃体は危険を知らせるシグナルをだし続ける」ことになります。
ヒューストンにある子供トロウマ研究所(非営利団体)の神経科学者のブルース・ベリーは、「扁桃体に問題が生じている虐待児童では、ちょっとしたことで恐怖を感じて後ずさりをする。」と述べています。

② 福井大学の友田明美教授とハーバード大学との共同研究
福井大学の友田明美教授(発表当時、熊本大学准教授)は、ハーバード大学との共同研究の結果として、子ども時代(3-17歳)に両親間のDVを日常的に目撃した18-25歳の男女15人とDV目撃経験のない33人の脳をMRI(磁気共鳴画像装置)で解析、比較すると、DV目撃経験者(面前DV被害者)は「右脳の視覚野にある“舌状回”と呼ばれる部分の容積が20.5%小さかった。」、血流量の調査では、「同じ視覚野にある“中後頭回”だけ、DV目撃経験者は平均で8.1%多く、DV目撃経験のない人より活発に動いていることがわかった。」、「性的虐待を受けた女性は、性的虐待されたことのない女性と比べ、後頭葉の視覚や空間認知を司る“一次視覚野”が14.1%小さく、思春期を迎える前の11歳までに性的虐待を受けた人の方が、萎縮の割合がより大きかった。」とし、「DVの記憶がトラウマとなり、フラッシュバックや夢などで繰り返し思いだすことで視覚野が必要以上に活動し、脳の伝達物質が過剰放出され、脳細胞に悪影響を与えている。」と述べています。
また、「「お前なんか、生まれてこなければよかったのに!」、「なんどいったらわかるんだ! このトンマ(バカ、グズ)!」、「こんなこともできないなんて、うちの子じゃない!」といった(拒絶や否定のメッセージが込められた)ことばの暴力を日常的に浴びせられていると、会話や言語を司る聴覚野の一部が拡大していた。」、「侮蔑されたり、暴言をはかれたりする経験をほぼ毎日受けた脳は、そうでない人の脳と比べ、側頭葉の中で聴覚を司る“上側頭回”が左脳で9.2%、右脳で9.9%小さく、特に男性は萎縮の割合が大きく、左脳が15.9%、右脳が13.8%縮んでいた。」と述べています。
つまり、ことばの暴力は、側頭葉だけでなく、頭長頭にある言語を理解する部分にも萎縮をおこすことになります。
強い感情を伴う記憶が海馬に与える影響(海馬容積が一番小さい)は、3-4歳ころの虐待体験、女性の方が男性より太い脳梁(左右の脳を繋いでいる)に与える影響は、9-10歳ころの虐待体験とされています。
この脳梁の委縮が、境界性人格障害(ボーダーライン)、解離性障害の発症原因とされています。
そして、感情や理性を司る前頭前野の萎縮など、前頭前野に一番影響を与えるのは、親や学校の教師による頬の平手打ちや(棒で)尻をたたくなどの体罰、同級生からのいじめを長期にわたる体験など、14-16歳(中学2年-高校1年)時の対人関係といわれています。
高齢者が万引き(窃盗)などの犯罪を繰り返すとき、「累犯障害者」と呼ばれる善悪の判断ができない知的障害者であるケースが徐々に知られてきています。累犯(犯罪を繰り返す者)の15%、懲役刑を受け刑務所に収監される者の22%が、累犯障害者と指摘されています。
一方で、ほとんど知られていないのが、「Ⅰ-5-(3)レビー小体型認知症、レム睡眠行動障害などを起因とする暴力」の中で記している「前頭側頭型認知症(隠れ認知症)」です。
「前頭側頭型認知症(隠れ認知症)」は、認知症の1%とされています。

③ ハーバード大学マーティンH.タイシャー博士らの研究
アメリカ・ハーバード大学医学部マーティンH.タイシャー博士らは、「子どものころに受けた親のことばの暴力・言語的虐待が、青年期の精神・神経疾患に結びつく」ことを明らかにし、加えて、少年期に同級生から受けたことばの暴力・言語的虐待にも“同様の影響がある”があると調査・研究を進め、「少年期に同級生から受けた暴力によって脳が変質し、青年・成人期以降の精神・神経疾患の発症につながる」ことを明らかにしています。
調査は、家庭内暴力・性的虐待・両親や同級生などからの身体的虐待を受けたことのない848人の青年男女(18-25歳の男性363人と女性485人)と、比較対照群として虐待的なものを一切受けたことのない707人の青年男女(18-25歳の男性298人と女性409人)を対象に、質問紙と拡散テンソル画像を用いておこなわれ、その結果、「11-14歳にかけての時期が、同級生からの言語的虐待に特に脆弱で、青年期の精神神経疾患(不安症、うつ病、解離、薬物使用、大脳辺縁系過敏など)につながりやすい」としています。
また、大脳の拡散テンソル画像を分析した結果、「言語的虐待に晒された程度・度合いと、脳梁の異常に関連性がある」ことも明らかになりました。
同級生の言語的虐待によってうつ病は2倍、不安症と大脳辺縁系過敏(短い幻覚症状と視覚障害などが生じるものなど)は3倍、解離は10倍も発症リスクが増加するとしています。

④ ピッツバーグ大学とミシガン大学の共同研究
アメリカのピッツバーグ大学とミシガン大学の共同研究で、「思春期の子どもが悪いことをしたとして親から怒鳴られると、抑うつ症状や攻撃的な行動のリスクが上昇するなど、たたかれたときと同じ問題が生じる可能性がある。」、「母親や父親と温かく良好な関係を築いていていても、10代の子どもが親から怒鳴られたり、罵られたり、「怠惰」だの「愚か」だのと侮辱されたりすれば、悪影響は免れない。」と研究結果を発表しています。
アメリカでは、子どものおしりを叩く行為はタブーとしている共同体が多い一方で、怒鳴ることは世間体が悪くないという慣習があり、実際に、親は怒鳴れば子どもがいうことをきき、おこないを改めると考えることが少なくありません。
しかし、この研究結果において、共同研究者のピッツバーグ大学教育心理学部のMing-Te Wang准教授は「子どもを怒鳴っても、子どもの問題行動を減らしたり、直したりすることはできない。逆に悪化させる。」と真逆の結果が示されたことを明らかにしました。
研究では、両親と13歳ないし14歳の子どものいる家庭976世帯を追跡し、子どもにさまざまな質問をして、問題ある行動、抑うつ症状、親との親密度を判断し、親には戒めとしてひどいことばを発しているかどうかを調べる質問をしています。
「子どもが13歳だったとき、母親の45%、父親の42%が、前年に子どもにひどいことばを浴びせていた。」、「13歳の時に親から特にひどいことばを受けた子どもは、翌年に同年代の子どもとのケンカ、学校でのトラブル、親へのうそ、抑うつの兆候といった問題が増える度合いが高かった。」、「親が戒めとしてひどいことばを使ったときと、叩くなどの体罰を与えたときでは、問題が増加する度合いは似ていた。口論を除く親子の親密度が高くても、ひどいことばの悪影響は変わらなかった。逆に、子どもの問題は親がひどいことばによる戒めを増やすことにつながり、悪循環がエスカレートをさせていた。」などの結果が得られました。
こうした10歳代の子どもが親に怒鳴られることによる悪影響について、Wang准教授は「思春期は(子どもが)自分のアイデンティティを見極めようとする、非常に微妙な期間であるから、親が怒鳴ると、子どもの自己像を傷つける。能力や価値がなく、無駄な存在だと感じさせる。」と指摘しています。
また、今回の研究には参加しなかったアメリカのニューヨーク大学ランゴーン・メディカル・センターのティモシー・バーデュイン臨床学准教授は、「親は、テレビなどを見る時間や車のキーといった特権をとりあげることで、子どもを十分に罰することができる。
ただ、そうする際に、批判的、懲罰的、侮辱的なことばを大量に使わないことだ。」、「人は尊敬し称賛している人にいわれたときのほうが、ずっと自分の行動に責任を感じる。子どもを叱ったり恥ずかしい目に合わせたりするようなことをすれば、親の持つ力が損なわれる。」と指摘しています。


** ①-a)DV・デートDV・性被害に関する相談、-b)家庭裁判所への「婚姻破綻の原因はDVにある」とする離婚調停の申立て、地方裁判所への保護命令の申立て、警察への被害届の提出に向けての支援依頼、②DV被害の状況をまとめるためのWord文書フォーマット(DV・夫の暴力、子への虐待チェック・ワークシート;「Ⅲ-3.暴力の影響を「事例」で学ぶ。(Ⅰ)添付資料:ワークシート」の中の「DV・夫の暴力、子への虐待チェック・ワークシート」)の送付依頼、③カテゴリー〔Ⅲ1-9〕掲載『暴力の影響を「事例」で学ぶ。虐待とDVの早期発見・支援。母と子どもが暴力から脱するための手引き(3部5章42節)*』のPDFファイル送付依頼については、カテゴリー〔Ⅰ-I〕の中の「<DV・性暴力被害相談。メール・電話、面談>..問合せ・相談、サポートの依頼。最初に確認ください。http://629143marine.blog118.fc2.com/blog-entry-501.html」をご確認いただければと思います。


2016.3/4 ブログ再編成(第3次改訂)に伴い、主記事として掲載
2017.4/24 「第2章(Ⅱ(8-15))」の「改訂2版」を差し替え掲載




もくじ   3kaku_s_L.png   [Ⅲ-4]Ⅱ.児童虐待と面前DVの影響。暴力のある家庭で暮らす、育つということ
FC2 Blog Ranking
   

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメント投稿可能です。

~ Trackback ~

トラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【13.人類の暴力性。中毒化した脳が暴走、規定や規範は無力】へ
  • 【11.断ち切るために必要。加害者に共通する行動特性の理解】へ