あなたは、夫の暴力・DVを容認していませんか? 暴力のある家庭環境で暮らす子どもの心を守ることを忘れていませんか?

[Ⅲ-7]Ⅳ.「婚姻破綻の原因はDVにある」ときの離婚

26.悩ましい面会交流。いま司法はどのように捉えているか

 
 27.DV被害者の抱える心の傷、回復にいたる6ステップ 25.DV被害者に待ち受ける懸案事項
* 現在、この「手引き」は、第3次改訂の編集をおこなっています。編集終了後、差し替えていきます。

※ 『暴力の影響を「事例」で学ぶ。虐待とDVの早期発見・支援。母と子どもが暴力から脱するための手引き(マニュアル)』は、「DVを目撃して暮らしている子どもが、DVの最大の被害者である」との立ち位置で、「密接な関係にある児童虐待とDVの本質的な理解」に加え、「児童虐待とDVが、被害者である母親だけでなく、子どもの心までも破壊する可能性がある、つまり、胎児期を含めて脳の発達に大きなダメージを与える」ことを理解していただくために、一般的な抽象論ではなく、行動分析や脳科学、人類学、発達心理学などをベースに、前半の『はじめに』、『第1章(Ⅰ.密接な関係。児童虐待とドメスティック・バイオレンス)』、『第2章(Ⅱ.児童虐待と面前DV。暴力のある家庭環境で暮らす、育つということ)』は作成しています。
 マニュアル冒頭の『はじめに』では、「社会の女性や子どもへの暴力に対する理解」、「危機的状況がもたらす脳のトラブル」、「「事例で学ぶ」ということ-人類とは何者か、脳の発達論の見地でという考え方-」、「暴力描写や性的表現による「トラウマ反応」表出のリスク」、「第三者の支援を受け、暴力で傷ついた心のケアにとり組む意味」、「被害女性の家族や友人たちのアンカーとしての役割」、「被害者支援に携わる人たちに向けて」、「-付記- 「二重の被災」..東日本大震災とその後の虐待・DVの増加の影響は“これから”の問題-阪神淡路大震災、戦争体験によるPTSD発症、その後の人生に学ぶ-」というテーマで、このマニュアル全般に及ぶ着眼点や論点、問題提起をしています。この行動分析や脳科学、人類学、発達心理学などをベースにした着眼点や論点、問題提起は、その後に続く、『第1章(1-5節)』、『第2章(6-12節)』、『第3章(13-20節)』、『第4章(21-26)』、『第5章(27-31)』とそれぞれと相互する関連性がある、あるいは、説明の前提となっていることから、『第1章(1-5節)』、『第2章(6-12節)』、『第3章(13-20節)』、『第4章(21-26)』、『第5章(27-31)』をお読みになる前に、『はじめに』に目を通していただきたいと思います。
* マニュアル「改訂新版」の上程後6ヶ月が経過したことを踏まえ、アニュアルの一部見直し、加筆修正にとりかかっています。平成28年9月29日、『はじめに』の“加筆改訂”を終えました。「第1章」以降については、スケジュールを調整しながら、随時、“加筆改訂”にとりかかり、加筆改訂を終えた「章」から差し替えていきますが、『原本』では、追加した事例を踏まえて、本文ならびに目次の“事例番号”は修正したことを踏まえ、『ブログ』の“目次”ならびに“小目次”での「事例番号」は修正していますが、『ブログ本文』の加筆修正は、『はじめに』は終えたものの、第1章以降はまだ手つかずであることから、第1章以降の「事例番号」は修正されていません。そのため、目次ならびに小目次に記載されている「事例番号」と異なっています。


26.悩ましい面会交流。いま司法はどのように捉えているか
(1) 面会交流のあり方を一転させた民法766条改正とハーグ条約
 ・判例40-44(面会交流)
 ・判例45-47(面会交流。平成24年4月、民法766条改正以降)
(2) 難しい判断。面会交流は「条件提示」で合意をめざし裁判を避ける
(3)「子どもに悪影響を及ぼす」と面会交流を拒むのは困難
 ・事例174(分析研究23)
  ・「診断結果にもとづく意見書」で、面会交流の実施を拒むことができるか?
(4) DV被害者が被虐待者であるとき、気づくことができない「私の事情」
 ・事例175(分析研究24)
(5) 国際結婚における離婚問題。子どもの連れ去りとハーグ条約
  ・事例176-177


 面会交流とは、別居中(離婚調停・裁判中を含む)あるいは離婚後に、親権者・監護権者でない親が、子どもと個人的に面会したり、接触したりすることをいいますが、親権者・監護権者が、離婚した元配偶者に対して抱いている思い(感情)が先立って、子どもとの面会交流を拒んでしまうことが少なくありません。ここには、日本が、世界では主流となっている「共同親権制度」ではなく、「単独親権制度」であることが大きく影響しています。つまり、一方の親が親権者・監護権者として子どもをひきとったあとは、養育費を含め、子どもの養育すべてにかかわる責任を負うことがあたり前のような風潮ができあがってきました。日本では、娘が結婚したとき「嫁にだしたので、向こうの家の者になった」という“家制度”の風習が色濃く残ってきました。この家制度は、娘が離婚して子どもを連れて実家に“帰ってきた”ときには、家として、“出戻ってきた娘”と子どもの生活の面倒をみるという役割を果たしてきました。ここに、父親は、離婚後は子どもの面倒をみない、つまり、子どもの養育費などの支払いをしなくてもいいといった考え方をつくりあげてきました。この家としての風潮が、離婚後、親権者・監護権者でない親と子どもが会ったり、接触することを拒んだりする一方で、子どもの養育費も受けとったりしないという考え方を後押ししてきたのです。
 そこで、子どもと離婚に関して記している民法766条を改正し、子どもの親が離婚したとしても、双方の親は、共同して子どもの養育することとしたのです。つまり、改正民法766条が施行された平成24年4月以降、a)双方の親は、離婚後も子どもの養育費の支払いを共同して負うということと、b)親権者・監護権者となった親は、親権者・監護権者でない親と子どもが会ったり、接したりすることに協力するということ(拒んではならないこと)になったわけです。こうした共同親権の考えを後押しすることになったのが、国境を越えての子どもの連れ去りを禁止する「ハーグ条約」を批准し、平成26年4月1日発行されたことです。


(1) 面会交流のあり方を一転させた民法766条改正とハーグ条約
① 平成13年「配偶者暴力防止法」制定以降、一度は面会交流を認めない流れに
 父親が子どもに虐待をおこなっていることを示すことができれば、「子の福祉を害する怖れが高い」として、「子どもとの面会を認めない」と判断される可能性があるわけです。
 子どもを連れて家をでて行った妻(仕事を持たずに収入のない)が、婚姻費用の分担請求(調停)の申立てを家庭裁判所におこない、調停の夫(子どもの父親)は、「子どものことを愛している。どうしているか心配でならない。」と訴える一方で、「勝手に子どもを連れてでて行った妻に、なぜ、生活費(婚姻費用の分担)を払わなければならないんだ!」と声を荒げることがあります。夫(子どもの父親)の言動は、子どものことを心配していながら生活費をわたさない(お金を奪っている)という意味で相反するものです。子どもを連れて家をでた妻が仕事を持たず、収入のない事実を認識しているわけですから、扶養者に対する生活費の支払いを拒むことは、「子どもの生命を危険にさらす」ことに他ならないのです。こうした夫の言動、行為は、経済的暴力そのものです。つまり、夫の後者の言動の根底にあるものは、子どもに対し愛情など微塵もなく、俺に逆らって(裏切って)家をでて行った妻へのこらしめ・罰という意味合いのものであることがわかります。そして、別居時の婚姻費用の分担請求に続き、夫婦関係調整(離婚)調停が申立てられると、生活費を奪おうとして(生活費の支払いを拒んで)子どもの生命を危険にさらした夫が、子どもの親権を主張したり、離婚後の子どもとの面会交流を求めてきたりすることはナンセンスなのです。本来、婚姻費用の分担請求や養育費の支払いを求めることは、権利として認められているわけですから、きちんと主張すべきことです。しかし、夫婦の関係にDV行為があり、子どもは面前DV被害、つまり、精神的虐待行為(直接、叩いたりしていれば身体的虐待、怒鳴りつけたり、罵倒したりしていれば精神的暴力になりますが、両親間にDVのある環境に暮らす子どもは、その状態が精神て虐待を受けていることになります)が認められることは、「子の生命を危険にさらしている」ことから、権利としての婚姻費用の分担請求、養育費の支払いなど、子どもの父親としての責任、養育の義務を求める必要があるのか疑問です。

-判例40- 東京家庭裁判所 平成14年5月21日審判
 暴力を原因として離婚した夫からの面接交渉の申立てを却下しました。
(事件の概要)
 未成年者の父母は、平成9年に婚姻しました。平成12年3月、裁判上の和解をして協議離婚となり、親権者を母とし当分面接交渉を求めないと離婚時に合意しました。未成年者は、審判時3歳9ヶ月の女子と母の前夫との間の子の2人(年齢不明)がいました。「当事者間の離婚の原因は、申立人の暴力にあり、申立人がいわゆるDV加害者であったことは、申立人自身そのための治療を受けるなどしていることからも明らかでした。そして、申立人は、相手方に対する暴力を反省しており、治療も受けているので、面接交渉に支障はない旨主張しています。しかし、現在でも申立人に加害者としての自覚は乏しく相手方を対等な存在として認め、その立場や痛みを思いやる視点に欠け、また、事件本人(注 子どものこと)について、情緒的なイメージを働かせた反応を示すこともありません。他方、相手方は、平成12年1月にPTSDと診断され、安定剤等の投与を受けてきたほか、心理的にも手当が必要な状況にあり、さらに、母子3人の生活を立て直し、自立するために努力しているところであって、申立人と事件本人の面接交渉の円滑な実現に向けて、申立人と対等の立場で協力し合うことはできない状況にあります。現時点で申立人と事件本人の面接交渉を実現させ、あるいは間接的にも申立人との接触のを強いることは、相手方に大きな心理的負担を与えることになり、その結果、母子3人の生活の安定を害し、事件本人の福祉を著しく害する虞が大きいといわざるをえません。したがって、現時点で申立人と事件本人との面接交渉を認めることは相当でない」として父からの面接の申立てを却下しました。

-判例41- 横浜家庭裁判所 平成14年1月16日審判
 暴力を原因として離婚した夫からの面接交渉の申立てを却下しました。
(事件の概要)
 未成年者である子の父母は10年間の同棲後、平成3年に婚姻しました。平成13年に離婚裁判が確定し、夫には500万円の慰謝料支払いが命じられた母が親権者となりました。未成年者は審判時に7歳の女の子がいます。「申立人は相手方に対し、繰り返し、暴力をふるい、骨折を伴うような重大な障害を与えていること、そのため、相手方は、申立人に対し、強い恐怖感を抱いており、所在を知られることによって、再び暴行を受けるかもしれないという危惧感をいだいており、そのような感情を抱くことが不自然、不相当ということはできないこと、これに対し、申立人において、例え暴力をふるったことに理由があるとしても、その暴力について反省し、相手方の恐怖感を和らげるような行動が十分にとられているとは認めがたいこと(平成13年6月に到達した申立人の相手方代理人宛の書面によると、申立人は相手方が嘘をついているとして相手方に対し詫びを求めており、また、人の心をわからない人には天罰が降りてもおかしくないなどの記載がある)、相手方及び未成年者は、現在は、暴力を受けることなく、安定した状態で生活をしていること、前記認定のような暴力が過去にあり、未成年者は積極的に申立人との接触を求めてはいないことなどが認められ、これに本件記録に現れた一切の事情を総合すると、申立人が未成年者に愛情を抱いている事実があるとしても、現時点において、申立人が求める面接交渉を認めることが子の最上の利益に合致するとは認められない。反対に、もし、これを認めると、未成年者が再び両親の抗争に巻き込まれ、子の福祉が害される危険がある。」として父からの面接の申立てを却下しました。

-判例42- 東京家庭裁判所 平成13年6月5日審判
 面接交渉の申立てを認めませんでした。
(事件の概要)
 父が、母方にいる4歳、6歳の子との面接交渉を求めました。父母の対立・不和はいまなお厳しく、現時点における面接交渉は未成年者らに弊害を招きかねず、子の福祉に合致しないとして、申立てを却下しました。破綻の原因は、父の暴力でした。母の勤務先や母子の寄宿先を繰り返し探知し、面会を求め、待ち伏せ、子を奪おうとし、接見禁止の仮処分命令が下されています(配偶者暴力防止法の施行前)。子は父への嫌悪感を明確にしています。

-判例43- 長野家庭裁判所上田支部 平成11年11月11日審判
 面接交渉の申立てを認めませんでした。
(事件の概要)
 子の実父が、祖父母かつ養父母である相手方に対し面接交渉を求めましたが、離婚にまつわる紛争が子の精神に悪影響を及ぼしていると推測されること、当事者双方において未成年の福祉を最優先に考えて冷静に面接交渉を検討する心構えができていないことなどから、申立てを認容すると申立人が相手方らの監護方針に干渉し、子が精神的に傷つけられ混乱し、相手方が適切な監護ができなくなる怖れがある等、子の福祉に合致しないとして却下しました。

-判例44- 東京高等裁判所 平成19年8月22日決定
(事件の概要)
 子の監護に関する処分(面接交渉)審判に対する抗告で、面会交流の申立てを却下しました。
 父(相手方)から母(抗告人)に対して、面接交渉を求めた事案の抗告審において、母には、父が未成年者らを連れ去るのではないかと強い不信感があり、面接交渉に関する行動につき信頼が回復されているとはいいがたく、未成年者らも将来はともかく、現在は相手方との面接を希望しない意思を明確に述べているような状況においては、未成年者らと相手方との面接交渉を実施しようとするときには、未成年者らに相手方に対する不信感に伴う強いストレスを生じさせることになるばかりか、父母との間の複雑な忠誠葛藤の場面にさらすことになる結果、未成年者らの心情の安定を大きく害するなど、その福祉を害する恐れが高く、未成年者らと相手方の面接交渉を認めることは相当ではないとして、面接交渉を認めた原審判をとり消し、面接交渉の申立てを却下しました。

② 民法766条の改正、ハーグ条約の批准・発効が、面会交流に与えた影響
 判例12-16のとおり、平成13年に「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律(平成16年、同19年改正、同24年改正新法「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律」)施行以降、「父母との間の複雑な忠誠葛藤の場面に子どもをさらすことになる結果、未成年者の心情の安定を大きく害するなど、子の福祉を害する恐れが高く、未成年者との面会交流を認めることは相当ではない(東京高裁、平19.8.22決)」とする判決が下されるなど、DV離婚事件では、DV加害者の夫と子どもとの面会交流は認めないという流れになっていました。
 ところが、平成24年4月、民法第766条(子どもと離婚に関して記した条文)が改正され、施行されたことに伴い、離婚届には「面会交流」と「養育費の分担」についての項目が設けられることになりました。以降、この養育費を子どもの監護者(養育者)に支払うことは、親権者でない親と子どもとの面会交流をおこなうことがセットとして認識されることになっています。そのため、エフピックなどの第三者機関が面会交流に同席すれば、たとえDV加害者の父親であっても、子どもとの面会交流の実施を妨げるものではないとの考えに大きく舵を切ってきています。
 ここには、離婚後に子どもの養育費の支払いが30%程度に留まり、しかも、離婚後3年を経過すると15%ほどに低下しているなど、特にシングルマザー世帯の貧困が社会問題になってきたことと、単独親権制度を採用している日本が、世界各国が採用している共同親権制度の考えを反映させる意向を示す意図がありました。
 この共同親権の考えを後押しすることになったのが、国境を越えての子どもの連れ去りを禁止する「ハーグ条約」を批准し、平成26年4月1日発行されたことです。条約は、国内法よりも国家間の条約が優先されることになることから、日本が共同親権に則る考え方を主流にしていく必要性があったのです。この共同親権という考え方は、離婚後の面会交流のあり方をどう考えていくかについて、大きな変化を示すことになりました*-1。
*-1 「婚姻破綻の原因はDVにある」とし、「子どもの親権と面会交流のあり方が争点になる」ことが想定される離婚事件において、「共同親権推進派の弁護士」に依頼すると、「どのような経緯があっても、子どもが親権(もしくは監護権)を有していない親と会う権利を奪うことはできない」との考えで進んでいます。

-判例45(判決文)-最高裁判所小法廷 平成25年3月28日決定(平成24年(許)第48号)
 相手方Xと抗告人Yは、平成16年に婚姻届を提出し、平成18年に長女Aをもうけました。その後、XY間で不和が生じ、平成22年、XとYを離婚し、Aの親権をYとする判決が確定しました。平成24年5月、札幌家庭裁判所において、Yに対し、原々決定別紙面会交流要領のとおり「XがAと面会交流を許さなければならない」とする審判がされ、 同審判は、同年6月確定しました(以下この審判を「本件審判」といい、原々決定別紙面会交流要領を「本件要領」といいます)。
 本件要領には、①面会交流の日程等について、月1回、毎月第2土曜日の午前10時から午後4時までとし、場所は、Aの福祉を考慮してX自宅以外のXが定めた場所とすること、②面会交流の方法として、Aの受渡場所は、 Y自宅以外の場所とし、当事者間で協議して定めるが、協議が調わないときは、JR甲駅東口改札付近とすること、Yは、面会交流開始時に、受渡場所においてAをXに引き渡し、Xは、面会交流終了時に、受渡場所においてAをYに引き渡すこと、Yは、Aを引き渡す場所のほかは、XとAの面会交流には立ち会わないこと、②Aの病気などやむを得ない事情により上記①の日程で面会交流を実施できない場合は、XとYは、Aの福祉を考慮して代替日を決めること、④Yは、XがAの入学式、卒業式、運動会等の学校行事(父兄参観日を除く)に参列することを妨げてはならないことなどが定められていました。
 そして、Xは、平成24年6月、Aと面会交流をすることを求めましたが、Yは、「Aが面会交流に応じない」という態度に終始し、「Aに悪影響を及ぼす」として、XがAと面会交流をすることを許さなかったため、Xは、同年7月、札幌家庭裁判所に対し、本件審判にもとづき、Yに対し本件要領のとおりXがAと面会交流をすることを許さなければならないと命ずるとともに、その義務を履行しないときは、YがXに対し一定の金員を支払うよう命ずる間接強制決定を求める申立てをしました。これに対し、Yは、AがXとの面会交流を拒絶する意思を示していることなどから、間接強制決定が許されないと主張しました。
 原審(札幌高等裁判所判決 平成24年10月30日)は、「本件要領は、面会交流の内容を具体的に特定して定めており、また、Aが面会交流を拒絶する意思を示していることが間接強制をすることになじまない事情となることはない」などとして、「Yに対し、本件要領のとおりXがAと面会交流をすることを許さなければならない」と命ずるとともに、「Yがその義務を履行しないときは、不履行1回につき5万円の割合による金員をXに支払うよう命ずる間接強制決定をすべき」ものとしました。Yは許可し、抗告ましたが、棄却されました。
(判決内容)
 Aを監護しているYとAを監護していないXとの間で、XとAとの面会交流について定める場合、Aの利益が最も優先して考慮されるべきであり(民法766条1項)、面会交流は、柔軟に対応することができる条項にもとづき、YとXの協力の下で実施されることが望ましい。一方、給付を命ずる審判は、執行力のある債務名義と同一の効力を有する(平成23年法律第53号による廃止前の家事審判法15条)。Yに対し、XとAとの面会交流をすることを許さなければならないと命ずる審判は、少なくとも、Yが、引き渡し場所においてXに対してAを引き渡し、XとAとの面会交流の間、これを妨害しないなどの給付を内容とするものが一般であり、そのような給付については、性質上、間接強制をすることができないものではない。したがって、Yに対しXがAと面会交流をすることを許さなければならないと命ずる審判において、面会交流の日時又は頻度、各回の面会交流時間の長さ、子の引渡しの方法等が具体的に定められているなどYがすべき給付の特定に欠けるところがないといえる場合は、上記審判にもとづきYに対し間接強制決定をすることができると解するのが相当である。
 そして、Aの面会交流に係る審判は、Aの心情等を踏まえたうえでされているといえる。したがって、Yに対しXがAと面会交流をすることを許さなければならないと命ずる審判がされた場合、AがXとの面会交流を拒絶する意思を示していることは、これをもって、上記審判時とは異なる状況が生じたといえるときは上記審判に係る面会交流を禁止し、又は面会交流についての新たな条項を定めるための調停や審判を申し立てる理由となり得ることなどは格別、上記審判に基づく間接強制をすることを妨げる理由となるものではない。
 これを本件についてみると、本件要領は、面会交流の日時、各回の面会交流 時間の長さおよび子の引渡しの方法の定めによりYがすべき給付の特定に欠けるところはないといえるから、本件審判にもとづき間接強制決定をすることができる。

-判例46(判決文)-最高裁判所小法廷 平成25年3月28日決定(平成24年(許)第41号)
 未成年者の父である抗告人Xが、未成年者の母であり、未成年者である長男Aおよび二男Bを単独で監護する相手方Yに対し、XとAおよびBとの面会およびその他の交流(以下、面会交流)に係る審判(以下、本件審判)にもとづき、Yに対し本件条項のとおりXがAおよびBと面会交流をすることを許さなければならないと命ずるとともに、その義務を履行しないときはYがXに対し一定の金員を支払うよう命ずる間接強制決定を求める申立てをしました。本件審判の内容は、「1箇月に2回、土曜日又は日曜日に面会交流をするものとし、また、1回につき6時間面会交流をする」というものであり、本件審判にもとづき、AおよびBの面会は、平成24年3月に2回おこなわれましたが、同年4月以降はおこなわれていません。
 原審(高松高等裁判所判決 平成24年9月24日)は、本件審判は、「面会交流の大枠を定めたものに留まり、Yが履行すべき義務内容が具体的に特定されているとは認められないことから、本件審判にもとづき間接強制決定をすることはできない」としました。Xは抗告しましたが、棄却されました。
(判決要旨)
 判例45と同様に、「給付の特定に欠けるところがないといえる場合は、上記審判にもとづきYに対し間接強制決定をすることができる」としたうえで、判例46では、「AおよびBの引き渡しの方法については何ら定められてはいない。そうすると、本件審判においては、Yがすべき給付が十分に特定されているとはいえないことから、、本件審判にもとづき間接強制決定をすることはできない。」としました。

-判例47(判決文)-最高裁判所小法廷 平成25年3月28日決定(平成24年(許)第47号)
 未成年者である長男Aおよび二男Bの父である抗告人Xが、AおよびBの母であり、AおよびBを単独で監護する相手方Yに対し、XとYとの間で成立したXとAおよびBとの面会およびその他の交流(以下、面会交流)についての合意を記載した調停調書(以下、本件調停調書)にもとづき、間接強制の申立てをしました。
 平成22年1月に、下記イの喫茶店においてXとAは面会交流をしましたが、その後、Aとの面会交流は実現されず、Bについては一度も実現されていません。
 本件調停調書の内容には、次のような条項(以下、本件調停条項)があります。①Yは、Xに対し、Aと、2箇月に1回程度、原則として第3土曜日の翌日に、半日程度(原則として午前11時から午後5時まで)面接をすることを認める。ただし、最初は1時間程度からはじめることとし、Aの様子を見ながら徐々に時間を延ばすこととする。②Yは、前項に定める面会の開始時にA県B市のc通りの喫茶店の前でAをXに会わせ、Xは終了時間に同場所においてAをYに引き渡すことを当面の原則とする。ただし、面接交渉の具体的な日時、場所、方法等は、子の福祉に慎重に配慮して、XY間で協議して定める。
 原審(仙台高等裁判所判決 平成24年10月29日)は、本件調停条項は、面会交流をすることを「認める」という文言を使用していることに照らして、Yの給付の意思が明確に表示されたものと直ちにはいうことはできず、また、面会交流の内容について強制執行可能な程度に具体的に特定するものということもできないなどとして、本件調停調書にもとづき間接強制決定をすることはできないとしました。Xは抗告しましたが、棄却されました。
(判決内容)
 「給付の意思が表示された調停調書の記載は、執行力のある債務名義と同一の効力を有する(平成23年法律第53号による廃止前の家事審判法21条1項ただ し書、15条)。…YとXとの間におけるXとAおよびBとの面会交流についての定めは、少なくとも、Yが、引渡場所においてXに対してAおよびBを引き渡し、XとAおよびBとの面会交流の間、これを妨害しないなどの給付を内容とするものが一般であり、そのような給付については、性質上、間接強制をすることができないものではない。そして、調停調書において、Yの給付の特定に欠けるところがないといえるときは、通常、Yの給付の意思が表示されていると解するのが相当である。」とし、判例17-19と同様に、調停調書の給付の特定がなされているときには、「間接強制を許さない旨の合意が存在するなどの特段の事情がない限り、上記調停調書にもとづき監護親に対し間接強制決定をすることができると解するのが相当である。」としました。続けて、「これを本件についてみると、本件調停条項①における面会交流をすることを「認める」との文言の使用によって直ちにYの給付の意思が表示されていないとするのは相当ではないが、本件調停条項①は、面会交流の頻度について 「2箇月に1回程度」とし、各回の面会交流時間の長さも、「半日程度(原則として午前11時から午後5時まで)」としつつも、「最初は1時間程度からはじめることとし、Aの様子を見ながら徐々に時間を延ばすこととする。」とするなど、それらを必ずしも特定していないのであって、本件調停条項②において、「面会交流の具体的な日時、場所、方法等は、子の福祉に慎重に配慮して、XとY間で協議して定める。」としていることにも照らすと、本件調停調書は、Xと Aとの面会交流の大枠を定め、その具体的な内容は、XとYとの協議で定めることを予定しているものといえる。そうすると、本件調停調書においては、Yがすべき給付が十分に特定されているとはいえないから、本件調停調書にもとづき間接強制決定をすることはできない。」としました。

 面会交流の状況としては、平成23年法律61号による民法766条の改正で、親と子の面会交流が明文化され、平成24年4月1日に施行され、以降、面会交流を原則的に実施する方針が台頭してきています。判例45-47は、そうした中で、審判および調停にもとづく面会交流についての間接強制決定をするにあたり、給付をすべき義務が特定されていることが要求されたはじめての最高裁判所が示した決定です。そして、判例45において、最高裁判所は、その特定性の判断基準として、面会交流の日時または頻度、各回の面会交流時間の長さ、子の引渡しの方法等が具体的に定められているなど Yがすべき給付の特定に欠けるところがないといえる場合に、間接強制決定を認める、つまり、給付が特定していれば、間接強制は肯定されるとの判断を示したことになります。
 子どもが面会交流について消極的な意向を示していたとしても、裁判所が、子の利益を総合的に考慮して、審判または調停において面会交流を命ずることもあり得ることです。また、面会交流について、審判または調停時とは異なる状況が生じ、従前の審判または調停で示された内容の面会交流を強制することが相当でなくなる状況も考えられるわけですが、間接強制決定の審理において、子の心情等を考慮することができるのかという問題があります。それは、子の意向調査にとって最適な機関とされる家庭裁判所調査官は、裁判所法61条の2第2項によって関与できる事件が明確に限定され、執行事件に関与することができないことになっているからです。つまり、間接強制決定の審理については、手続法上、子の意向調査をすることは予定されていないと解釈できるのです。
 したがって、相手方債務者としては、請求異議の訴え(民執法35条1項)および執行停止(民執法36条1項)を求める方法か、事情変更を理由とする面会交流の禁止を求める審判または調停を申立て、これらの事件の中で、「子どもの利益を害する事実を明らか」にして、審判または調停前の保全処分(旧家事審判規則52条の2、家事事件手続法157条3号)で執行停止を求めて、強制執行を阻止する方法しかないことになります。


(2) 難しい判断。面会交流は「条件提示」で合意をめざし裁判を避ける
 最高裁判所判決にあるとおり、平成24年4月の民法766条改正以降、面会交流は避けられない状況にある中、「面会交流を認めたくないけれども、避けられないのなら条件を提示するので、相手が受け入れてくれるなら面会交流を受け入れます。」と、調停で合意する姿勢を示さなければならない流れができています。審判・裁判に持ち越してしまうと、「エフピックなどの第三者機関を介して実施する」などの“条件提示”を加味されず、「面会交流を実施する」と決まってしまうことがあります。
 難しい判断になりますが、調停での合意であれば、家庭裁判所が作成する「調停事項」の中に、『5.申立人は、相手方が第2項記載の子らと2ヶ月に1回程度面会することを認め、その方法は下記のとおりとする。(1)面会については、第三者機関を利用し、日時・場所・方法等については、子の福祉(利益)に配慮し、第三者機関の定めるルールに従う。(2)第三者機関に要する費用は、相手方の負担とする。』といった状況を盛り込んでもらうことが可能になります。
 配偶者に金にこだわり(執着)があり、こと細かにお金の使い方に詮索し、自由に使えるお金を持たせようとしない特性(経済的暴力)が顕著で、しかも、パチンコや競馬、競輪などのギャンブル、風俗通い(複数の女性と交際するなどを含む)を好み、また、毎日アルコール飲酒が欠かせないといった傾向を抱え、高所得者でなく、子どもが手のかかる幼児であるといった条件を満たしているとき、ア)毎月の養育費の支払いに加え、イ)面会交流の実施に伴う第三者機関に要する費用を負担しなければならないことは、経済的に大きな負担となります。
 例えば、夫が33歳で給与取得者(平均年収)、妻が専業主婦で1歳半と4歳の2人の子どもがいるケ-スを「養育費算定表」で算出すると、養育費は2人で月額6-8万円(給与取得者・年収375-475万円/年収0-125万円)となります。月の手取りは21万円-27万円程度と仮定し、前者で養育費6万円(28.57%)、後者で養育費は8万円(29.63%)とすると、残金は前者で15万円、後者で19万円となります。半年、1年、2年と経過するほど養育費の支払いが滞るようになったり、支払われなくなったりするのは、いっしょに生活していない子どもに手取りの30%(6-8万円)近くを持っていかれるよりも、自分のために使いたいとの衝動が強くなるからです。なぜなら、「Ⅰ-3-(6)被害者に見られる傾向、加害者が持つ特性」でとりあげている事例42を通じて詳細に説明いますが、人の脳は、“快楽刺激”を優先するようにできているからです。そして、ここに、下記「面会交流の実施にあたっての確認事項(例)」に記しているようなエフピックの利用に関する費用に順じると、1回の面会交流につき20,000円程度(付き添い型)が加わることになります。結果として、面会交流の実施月は、13万円から17万円で家賃、光熱水道費や携帯電話代、その他の生活費を賄うことになります。
 したがって、面会交流の実施月と実施しない月で、この2万円の増減は心理的な負担となることから、目先の“快楽刺激”を優先したいことがらが目の前にある、つまり、パチンコや競馬、競輪などのギャンブルや風俗に通う習慣を抱えているときには、最初に面会交流にかかわる費用、そして、養育費を切り捨てていく可能性があります。
そこで、加害者である配偶者が同意するかどうかは別として、エフピックなどの第三者機関を介して面会交流を実施するとした考えられる条件提示は、下記のようになります。

-面会交流の実施にあたっての確認事項(例)**-
** 合意時、子どもが2歳-3歳を想定したものです。
1.子どもが 小学校卒業まで、エフピックによる仲介により面会を実施し、その費用は、夫の負担とする。子どもの面会交流を行うにあたってのいっさいのやり取りは、母と父が直接連絡を取り合うのではなく、すべてエフピックを介しておこなうこととする。
 エフピックによる仲介とは、ⅰ)受け渡しや日時、場所、面会方法の打合せや調整、面会交流中の緊急連絡、ⅱ)子どもの移動につき添い、面会に同席することをいう。ⅱ)については、小学校3年生までエピックに依頼し、ⅰ)については、小学校卒業時までエフピックに依頼する。
2.4歳になるまでは、面会は2ヶ月に1回とする。
 4歳以降の実施については、エフピックのアドバイスなどを受け、別途とり決める。ただし、移動に片道2時間半から3時間を要するため、子どもの体力的な負担を考慮し、毎月1回を限度とする。また、幼少期は突然発熱したり、保育園などで感染症を発症したりすることがあるため、体調不調のときには、面会を取りやめることがあることを了承し、なお、代替日などは、2-3週間の子どもの状態をみて判断することに同意する。
3.面会時間は1回2時間を限度する。ただし、4歳になるまでは、1回1時間を限度とする。これは、子どもの体力的な負担を考慮してのことである。
4.面会対象者は夫のみとし、夫の父母(子の祖父母)は含まない。
 したがって、面会を夫の家、夫の実家で行うことはできず、子どもを夫の家、夫の実家に宿泊させてはならない。
 これは、エフピックの面会同席が終了する小学校4年生以降についても変わらない。
5.子どもの写真をインターネット(ブログ、SNS)にアップしない。
6.子どもの通う保育園(幼稚園)や小学校などの行事に参加することはできない。
 これは、面会交流の実施が、エプピックを仲介せずに実施できない諸事情*を踏まえてのことである。
* 「エフピック(などの第三者機関)を仲介せずに実施できない諸事情」とは、行政や警察にDV相談を経て“一時保護”が決定され、一時保護施設(シェルター)に入所し、その後、アパートを借り生活の再建をはじめているものの、住民票の登録をしていなかったり、「住民基本台帳事務の支援措置」の手続きをしていたりして、配偶者(元配偶者)に住所を知られないようにしていることを指しています。
7.a)以上の確認事項に反したおこないがあったときや、b)子どもに対し、暴行(叩いたり、小突いたり、つねったりなど)や暴言(怒鳴りつけたり、禁止や否定のことばばかりをいうなど)、からかったりひかして笑ったり、c)オムツ交換を含めトイレにつき添ったり、無理やり着替えをさせたり、嫌がることを無理強いしたり、d)通っている保育園(幼稚園)や小学校や住所を聞きだそうとしたとの確認がとれたとき、ならびに、e)養育費の支払いが滞ったときには、面会交流の実施が中止されることに意義を述べない(*)。
小さい文字(*) 毎月 日までに指定の銀行口座(※)に、養育費 万円の振り込み確認ができないときには、その旨をエフピックに伝え、上記1-ⅰ)の「受け渡しや日時、場所、面会方法の打合せや調整」をおこなわない。
以上

 年収、DV加害者の特性、ギャンブルやアルコール、風俗通いや複数の女性との交際を好む嗜好があるといった条件が整っているときには、養育費の負担に加え、会交流の実施に伴う第三者機関に要する費用を負担しなければならないことは、離婚時に受け入れていたとしても、経済的に大きな負担となり、継続を困難にさせる要因となります。
 したがって、民法の定める「子の利益」、そして、最高裁判所の判決に反する考え方になってしまうかもしれませんが、DV離婚事件における調停では、「面会交流の実施にあたっての確認事項(例)」のような“条件”を提示し、合意に向けて交渉することはひとつの有効な選択と考えます。
 さて、先の条件には、もうひとつ、「子どもが手のかかる幼児であること」を設けていました。
 暴力のある家庭環境で育ちアタッチメント獲得を損なっている被虐待者である者がDV加害者となっているとき、自分が楽しむために子どもとかかわる(遊ぶ)ことはできますが、子どもを楽しませるために、子どもが望んでいることを主にかかわることはできません。しかも、面会交流の場に、エフピックなどの第三者機関の者がつき添っていることから監視の目があることは、“自分が楽しむ”時間が損なわれることになります。
 ところが、面会交流に送りだす親権者(監護権者)は、子どもが楽しめるようにと、エフッピクなどの第三者機関の施設内にある「おもちゃが用意されている部屋」での面会交流を希望してしまうことが少なくないのです。この状態は、「Ⅰ-3-(1)暴力のある環境に順応するということ」で指摘している、暴力のある家庭環境に順応するために身につけてきた考え方の癖(認知の歪み)にもとづくもの、つまり、配偶者の機嫌を損ねないように気を使い、配慮してしまう状況をつくりだしてしまうことになるのです。その結果、「おもちゃで遊ぶ子どもと戯れる」状況が自然とつくられてしまうことから、子どもがなにを望み、なにを訴えているのかわからずにイラついたり、ちっとも楽しめないと失望したりすることなく、「面会交流は楽勝!」と平穏で楽しいひとときを過ごすことになります。そして、次回の面会交流を楽しみにするという意欲を持たせてしまうのです。
 一方、面会交流につき添った者から「お子さんと元配偶者は、特に問題が認められることもなく、おもちゃでいっしょに遊んで、楽しい時間を過ごしていた。」、「帰るときは、パパばいばいといっていました。」と報告を受けた親権者(監護権者)は、“やっぱり子どもには元配偶者が必要なのかもしれない”と、婚姻中にそうであったように、配偶者の意に添うような思考パターンに入り込んでいくことになります。そして、「次回もおもちゃのある部屋でお願いします。」とお願いすることになるのです。
 子どもが幼児であることから、子どもが面会交流に慣れるまでは、子どもが嫌がらず面会に臨める状況を用意することは大切なことです。しかし、子どもが慣れたところを見計らって、配偶者にプレッシャーをかける方向転換する必要があるということです。冷静にそのタイミングを見計らうこと、そして、その変化は子どもに影響を及ぼすことになりますからそのケアについても、継続的な治療を受けている精神科医、サポートを受けている保健センターの保健師、そして、支援者(アボドケーター)と密に連絡をとりながら準備をしておくことが必要不可欠です。つまり、この「子どもが手のかかる幼児であること」という条件を生かせるか、生かせないかは、親権者(監護権者)としての被害女性(母親)の“姿勢”にかかっているということです。
 なお、上記のような「面会交流の実施にあたっての確認事項(案)」を受け入れ、離婚の合意に至ったとき、エフピックなどの第三者機関による事前面談では、上記書面内容の確認をする中で、ア)暴力(身体的な暴力)、暴言(ことばの暴力)、威圧(精神的な暴力)、連れ去り、同居親の家や職場、保育園など付近に現れ現れたり、イ)薬物使用で逮捕されたりしたときには「援助が中止」されることが確認されます。
 一方で、「夫婦は離婚したけれども、子どもは、どのような父親であっても父親なので、離婚後も子どもは父親、母親とそれぞれかかわっていくことになります。私たちは、そうした中でお手伝いできればと考えています。子どもが父親に会っていく中で、“父親はこうだ”と自分で考えられるようになったとき、子ども自身で父親を評価します。つまり、父親にずっと会ったり、連絡をとり続けたりしたいと思うか、父親とはずっと会いたくない、当分会いたくないと思うかは、子どもが考えることです。』と、子どもが自分で評価し、考え、判断することができるようになったとき、子ども自身が口にすることであって、母親が、幼児期の子どもの心情を察して代わりに訴えることは慎まなければならない、それが、「子どもの権利を尊重する」ことになると、釘をさされれることになります。
しかし、暴力のある家庭環境で育ち、再び配偶者の暴力を受けた被害女性の中には、自己と他(子ども)との境界線があいまいなため、母親が、子どもが「父親との面会交流は嫌だ」の気持ちを汲みとっているようで、実は、母親が父親に対しての思いを口にしてきたことを代弁する、つまり、母親の気持ちを汲みとっている発言と気づくことができずに、「子どもが嫌がっている!」と強い拒否反応を示すことがあります。加えて、自身のトラウマ反応でツラく嫌な思いをしたくない(回避)との思いを子どものツラく嫌な思いに置き換えてしまうことで、状況を悪化させてしまうことがあります。


(3) 徹底抗戦。「子どもに悪影響を及ぼす」と面会交流を拒むのは困難
 先に、『平成24年4月、民法第766条(子どもと離婚に関して記した条文)が改正され、施行されたことに伴い、離婚届には「面会交流」と「養育費の分担」についての項目が設けられることになりました。以降、この養育費を子どもの監護者(養育者)に支払うことは、親権者でない親と子どもとの面会交流をおこなうことがセットとして認識されることになっています。そのため、エフピックなどの第三者機関が面会交流に同席すれば、たとえDV加害者の父親であっても、子どもとの面会交流の実施を妨げるものではないとの考えに大きく舵を切ってきています。』と記しているとおり、離婚調停や裁判において、「面会交流を実施しない」ことを認めることはほとんどない状況です。

-事例169(分析研究23)-
 私は前夫との間に長男がいて、再婚した夫Dとの間に次男がいます。私は、夫Dの暴力に耐えられなくなり実家に帰り、離婚調停を申立てました。第2回離婚調停で、2人の男の子の親権と監護権は母親の私が得ることになりましたが、父親との面会交流について合意に至らず、調停(面会交流)は継続されることになりました。その間、次男に偏食や苦手の音など多少の偏りがあることから、病院で「被虐待児童、広汎性発達障害」と診断されました。第5回調停で、私は、「次男は父親に会うことを怖がり、不安がっています。父親と会うと行動や情緒が不安定になる可能性が高く、本児の状態を悪化させると思われます。面会はしばらく避けることが望ましいと判断します」と記載された診断書を提出しました。しかし、調査官は、「広汎性の子どもでも父親でも会える子どももいる」と認識していました。そして、第6回離婚調停で、私は調停を調停を不調にし、審判に移行しました。その審判で、2人の男の子と父親(元夫)との面会交流が決まりました。
 1回目の面会交流はホテルで、次男と兄(長男)、私の祖母、私と元夫Dの5人で会いました。審判で決められた面会交流は2時間程度でしたが、次男が元夫を見ると嫌がり、泣き、怒りだし、30分も持たずに帰ることになりました。面会交流後、次男は、私に「ママが外出しているときにパパに大きな声で怒鳴りつけられていたこと、腕をつねられたり、ひっかかれたりしたこと、そして、優しくしてもらったことなんて1度もない。」と涙ながらに訴えてきました。以降、再び、次男はチック症状がでるようになりました。私は、このことを家庭裁判所に訴えると、裁判官は「審判で決まったことなので、今後大きな変化がない限り、このままでいきます。」と応じました。いまさらでしたが、子ども(次男)は、私が思っていた以上に大きな傷を抱えていました。いくら審判で決まったことでも、私は納得することができなかったので、元夫Dに、2回目の面会交流に応じることはできないと伝えると、裁判所から履行勧告書が届きました。そして、元夫Dは、私と2人の子どもが生活している住所を調べあげ、お年玉や子ども宛の手紙を送ってきました。また、元夫Dの両親の車が、私たちが歩いている横を通り過ぎ、Uターンをして反対車線にきて走り去っていきました。運転していたのは元夫Dでした。そして、次男が「あの車のナンバーが学校にいたと思う。」といい、怖がっていました。履行勧告に応じることができないでいると、元夫Dが、家庭裁判所に申立てた間接強制は認められ、「子どもが1回会わないごとに、5万円支払う」と決定されました。

 この事例169、離婚調停において「DV環境にあった」こと、子どもたちは「面前DV被害を受けていた」ことなど、事実経過を示した「陳述書」を提出していない中で、離婚調停、面会交流調停がおこなわれていました。そのため、診断書の「被虐待児童」の記載の“根拠”は裏づけされることなく、調停を不調にし、審判がおこなわれたのです。
 面会交流に応じられない根拠として、夫婦間にDV(身体的暴力、精神的暴力(ことばの暴力、性暴力、経済的暴力))があり、同居している子どもは父と母の暴力にさらされる(暴力を見て、聞いて、察する)状況にあった(面前DV)だけでなく、直接、精神的虐待、身体的虐待を受けていることを主張するとき、この主張と診断書の「被虐待児童」との記載について、どのように関連づけ、根拠を示していけるかが重要になります。なぜなら、「子どもを加害者である父親に会わせたくない」ケースでは、「子どもが会いたくないといっている。」と主張することがありますが、共同親権の考え方が一般的になっている中では、それは、母親(養育者)の主観が入った解釈であり、母親が権利を害する発言をしていると受けとられてしまうからです。事例169では、『調査官は、「広汎性の子どもでも父親でも会える子どももいる」と認識していました。』と調査官の考え方に不信感を抱いている気持ちが表れていますが、広汎性発達障害を抱えた子どもが「もう、学校に行きたくない!」と訴えたとき、親は、その子どもの意思を尊重して、以降、学校に行かなくていいとするのか、その子どもの特性を理解したうえで、学校や担任と密に連絡をとり良好な関係を築きながら、子どもが学校やクラス、社会に適応できるように協力していこうとするのか、どちらを選択するのかと同じ問題をなげかけられているに過ぎないのです。つまり、子どもが「嫌だ!」「できない!」といっても、できるように子どもを支えていくのが親の努めであるという前提に立っているわけです。ここの親の務めを放棄するような主張は、親の身勝手な「私の事情」と受けとられてしまうのです。
 したがって、「子どもが父親と会うのを嫌がっているのは父親を怖れているからであり、父親を怖れているのは、父親から暴力を受けてきたからである」ことを、事実にもとづいて明確に示す(立証する)ことが必要になるわけです。
 この事例169のケースでは、この「精神的虐待を受けている」主張そのものがきちんとされていないわけですから、父親による子どもに対しての精神的虐待と、子どもが父親に会いたくないとの主張を関連づけ、根拠を示すプロセスそのものが存在していなかったことになります。つまり、事例169の状況は、家庭裁判所は、「精神的虐待(面前DV被害)を受けてきた子どもがその加害者の父親を怖れ、会うのを拒んでいる」という構図ではなく、「子どもが広汎性発達障害の自閉症の特性により、生活パターンが乱れることを嫌がり、母親が父親と会うのを拒んでいる」と認識することになりました。つまり、離婚調停、審判で明確にされることがなかった「子どもはDVのある家庭環境で育った、面前DV被害を受けて育った」という“前提(根拠)”のない中で、「子どもが、父親に写真を撮られるのを嫌がっている」主張は、広汎性発達障害の自閉症のひとつ傾向でしかないと判断されることになります。そして、被害女性(母親)が「納得できない」思いは、「私の事情」を持ち込んでいると認識されることになってしまったのです。
 双方がこの「私の事情」を持ち込んでしまうとき、「子どもの利益」という名目で、それぞれが異なる意見、つまり、「片親疎外症候群を懸念する立場」、「DVや児童虐待を懸念する立場」で主張し合うことがあります。
 「片親引き離し症候群(Parental Alienation Syndrome;PAS)」とは、1980年代初めにリチャード・A・ガードナーによって提唱された用語で、「洗脳虐待」と訳されることがあるものです。両親の離婚や別居などの原因により、子どもを監護している方の親(監護親)が、もう一方の親(非監護親)に対する誹謗や中傷、悪口などマイナスなイメージを子どもに吹き込むことでマインドコントロールや洗脳をおこない、子どもを他方の親から引き離すようし向け、結果として、正当な理由もなく片親に会えなくさせている状況を指します。また、子どもをひきとった親に新しい交際相手ができたときに、子どもに対してその交際相手を「お父さん(お母さん)」と呼ぶようにしつけ、実父・実母の存在を子どもの記憶から消し去ろうとする行為も該当します。こうした異なる意見を主張し合う問題は、子どもの利益を達成する過程で、子どもも含めた家族構成員にとって、どちらの方法がより危険度が高いか、また、より有害なのはどちらかという観点から捉えることが重要と考えられています。

(「診断結果にもとづく意見書」で、面会交流の実施を拒むことができるか?)
 では、面会交流に応じられない根拠として、夫婦間にDV(身体的暴力、精神的暴力(ことばの暴力、性暴力、経済的暴力))があり、同居している子どもは父と母の暴力にさらされる(暴力を見て、聞いて、察する)状況にあった(面前DV)だけでなく、直接、精神的虐待、身体的虐待を受けていることを主張するとき、この主張と診断書の「被虐待児童」との記載について、どのように関連づけ、根拠を示していけばいいのでしょうか? そのひとつが、「Ⅳ-21-(7)DV離婚事件、証拠としての「診断書」をどう捉えるか」でとりあげた「診断書B(病状経過書:A4版横2頁)」のように、「診断書」というよりも、“なにをされてきたのか”“どのような状況におかれてきたのか”を言語化してまとめた「現在に至る事実経過」と、医師による診療記録との整合化をはかった「診断結果にもとづく意見書」という意味合いのものを、家庭裁判所に証拠として提出するということです。
 ただし、診断書Bの案件は、親権と監護権が争われたものですから、「妻の病状=夫のDV行為」、「子どもの心身の健全な発育に望ましくない環境」との論理が明記され、「妻は、夫と離れて暮らすことによって、妻の病状が回復する」可能性に対する“根拠”が示されていればよかったわけです。しかし、面前DV、もしくは直接的な虐待行為を加えた加害者であるとはいえ、平成24年4月の民法766改正以降、父親と子どもの面会交流の実施を拒むことは非常に難しいことになります。
 したがって、子どもに見られる症状や傾向が、父親による加害行為によるものであること立証したうえで、父親との面会交流は、子どもに見られる症状や傾向を悪化させる怖れが高いという因果関係を明らかにしなければならないことになります。
 事例169では、第5回調停において、「次男は父親に会うことを怖がり、不安がっています。父親と会うと行動や情緒が不安定になる可能性が高く、本児の状態を悪化させると思われます。面会はしばらく避けることが望ましいと判断します。」」と書かれた診断書を提出したわけですが、なぜ、父親に会うことを怖がり、不安がっているのかを明確にしていないのです。
 子どもが見せる症状や傾向、特に、暴力のある環境で子どもに発達障害の症状がみられるときには、「Ⅱ-4.脳と子どもの発達」、「-5.面前DV・虐待を受けた子ども。発達段階にみられる傾向」、「-6.トラウマと脳」、「-7.児童虐待の分類と虐待による発達の障害」、「-8.PTSDとC-PTSD、暴力で傷ついた母親と子どもを理解するために。」、「-9.アタッチメントを損なった人の特性と傾向」の記述内容に照し合せ、子どもの見せる行動が暴力(虐待)によるものなのかを冷静に見極めることが大切です。このとき、子どもが、DV加害者である父親に接するときに見せる態度や言動、そして、DV被害者の母親と接するときに見せる態度や言動については、主観(私の事情)を持ち込まず、冷静にその真意を読みとらなければなりません。
 そのためには、児童虐待防止法や児童福祉法、そして、ハーグ条約など子どもや母子にかかわる行政の実務にかかわるなど、DV事件や虐待事件に精通した専門医による子どもの診断と治療、そして、専門医と連携体制を築いている支援者(アボドケーター)によるサポートが必要不可欠です。仮に、専門医による子どもの診断と治療、支援者(アボドケーター)によるサポートにより、子どもにとっては、被害女性(母親)が父親と変わらない立ち位置で脅威になっていること、つまり、加害者になっていることが明らかになることもあります。こうした事実が明らかになったとしても、現実から目を背けず、自身の心の問題と向き合うことから逃げずに、専門家による治療とサポートにとり組んでいく決意も必要です。
 面会交流の実施が争点になっているDV離婚事件で、家庭裁判所に提出する「診断書」、つまり、DV事件や虐待事件に精通した専門医による子どもの診断と治療、そして、専門医と連携体制を築いている支援者(アボドケーター)によるサポートにより明らかにすることができた事実をまとめた「診断結果にもとづく意見書」では、以下のような記載がされていなければならないことになります。
・夫の行為は、子どもに対しても虐待にあたるもので、大きな影響を及ぼすものであったといえる。DVの目撃としてショックを与えること、暴力を肯定する不適切な価値観に子どもをさらしてしまうことが、子どもに悪影響を及ぶすといえる。また、重要な養育者である母親の養育機能を低下させ、子どもの情緒的な発達にとって最も重要なアタッチメントを不安定化させてきたことが懸念される。DVが他の児童虐待のタイプ以上に大きなダメージを与えるのは、ショックを与えると同時に、そのつらさを受け止めてくれる母親の養育機能を低下させてしまうためであると考えられており、本事例においても同様のことがおきてきたといえる。
・虐待やDVをおこなう父親は、むしろ子どもの健常な発育、母子の安定を壊してしまうものであり、きちっとわけて考えられるべきである。親という立場での人であっても、その人が子どもに被害を与える場合にはその影響から保護するというのが児童虐待防止法や児童福祉法の観点であることを考えれば、父であるからあわせるべきというのは適切な考えでないといえる。なぜなら、父がいることで提供される養育機能よりも、子どもやその母親に与える悪影響がずっと大きいからである。
 この文面を見ていただければわかると思いますが、こうした「診断結果にもとづく意見書」の作成には、「児童虐待防止法や児童福祉法、そして、ハーグ条約など子どもや母子にかかわる行政の実務にかかわるなど、DV事件や虐待事件に精通した専門医」でなければ作成することは不可能です。
 「児童虐待防止法や児童福祉法、そして、ハーグ条約など子どもや母子にかかわる行政の実務にかかわるなど、DV事件や虐待事件に精通した専門医」を見つけることは難しいと思われるかも知れませんが、「Ⅳ-25.悩ましい面会交流。いま司法はどのように捉えているか」でとりあげた「判例43-45」にあるとおり、「親権・監護権を持たない親と子どもとの面会交流はおこなわれなければならない」といった最高裁判所の判決があることから、難しくことであっても見つけなければならないのです。
 さらに、子どもの診察だけでなく、被害女性が、配偶者と交際することになったきっかけ、結婚に至る状況、そして、結婚して今日に至るまでの夫婦の関係、そして、親と子どもの関係を詳細に把握することが欠かせないことがわかります。被害女性と子どもが、配偶者、そして、父親(被害女性から見て配偶者)に“なにをされてきたのか”“どのような状況におかれてきたのか”を言語化してまとめた「現在に至る事実経過」による情報は欠かせないことになります。
 ただし、これらの情報は、被害女性から専門医に与えられたものであることから、主観的な情報に留まってしまいます。そこで、DV加害者の配偶者が被害女性宛に送ったメールやLINEの文面、留守電に残っていた音源、夫婦や親子の会話を録音した音源、さらには、離婚調停で家庭裁判所に提出した「陳述書」「準備書面」などの情報を分析し、加害者の特性を明らかにすることができなければ、すべての根底となる「配偶者がDV加害者である」「父親が虐待の加害者である」と示すことにはならないことになります。ここに、専門医と連携体制を築いている支援者(アボドケーター)によるサポートが不可欠な理由があります。なぜなら、これらの膨大な情報を整理し、分析する膨大な作業を、精神科医(専門医)に依頼することは現実的ではないことから、この初期作業は、専門医が信頼をしている支援者(アボドケーター)との連携の下でおこなわれることが必要だからです。
 支援者により、加害者の被害者宛のメールやLINE、加害者と被害者の会話などが録音された音源データなどを整理し、分析結果を踏まえて、被害女性と子どもの診察結果としてまとめた「診断結果にもとづく意見書」では、
・夫○○氏は、DVをおこなっていないとしているが、これまでの調停での陳述やメールなどを含む通信の内容をみても非常に一方的に自分の考えを押しつけ、それに従わない相手に対しても心理的なダメージを与える言動や態度が一貫しており、こうした支配的な関係の持ち方そのものがDVの本質であるといえる。自分なりの考えによる行動であっても、それが妻である○○氏に心理的なダメージを与えるているということがあれば、それを受け止めて尊重をもとにした関係に近づける努力をすべきであるが、むしろそうした行動をおこなった理由を述べるに終始しており、相手への共感性を持てず、自分の正当化のみをいい続けており、このままでは○○氏やその子どもに継続的なダメージを与え続けることになる蓋然性(がいぜんせい)*が非常に高い。
・DVがおきていたかどうかの証明について問題になる事例もあるが、この事例では調停や審判での陳述や言動そのものがDV行為にあたる内容を含んでおり、DVの存在は明確であるといえる。むしろあまりにも暴力行為に対する認識が乏しいために、そうした問題性を隠すことなく述べている点が特徴的な事例といえる。
といった、配偶者が加害者であることの根拠を示すことができるのです。
* 「蓋然性(がいぜんせい)」とは、ある事柄がおこる確実性やある事柄が真実として認められる確実性の度合いのことで、これを数量化したものが確率です。
 ただし、上記のような因果関係を示した「診断結果にもとづく意見書」を家庭裁判所に提出したとしても、判断は、家庭裁判所に委ねなければならないことになります。つまり、希望する結果とは違う判断が下されたときには、「納得できない」と拒否し続けたりするのではなく、決まったことには従うという覚悟は必要です。


(4) DV被害者が被虐待者であるとき、気づくことができない「私の事情」
 離婚調停において、上記のような面会交流の実施にあたっての“条件提示”をおこない、相手がその条件を受け入れ、合意され、「調停条項」付きの離婚調書がつくられたDV離婚事件であっても、面会交流を実施する段階になって、状況を悪化させてしまうもうひとつの理由が、自身のトラウマ反応でツラく嫌な思いをしたくない(回避)との思いを子どものツラく嫌な思いに置き換えてしまうことです。DV被害者が、暴力のある家庭環境で育ちアタッチメント獲得を損なっている被虐待者であるとき、いざ面会交流がおこなわれるとなったとき、ツラい現実から目を背けようとする回避行動が原因で、「面会交流に応じられない」と強い拒否反応を示してしまうのです。

-事例170(分析研究24)-
 夫のDVに耐え切れず家をでて、居所を知られないように県外で再建をはかりながら、「婚姻破綻の原因はDVにある」とする離婚調停に臨んでいる被害女性は、「調停の期日(あるいは、面会交流の期日)が近づいてくると、私は情緒不安定になり、子どもに大きな声をだしたり、育児が疎かになったりします。私が情緒不安定になると、子どもたちも精神的に不安定になり、愚図って甘えてきたり、夜泣きがひどくなったり、発熱したりするようになります。」と心内を述べていました。
 母子の生活環境を見に、2人の家庭裁判所の調査官が家を訪れました。調査官のひとりが母親と面談している間、もうひとりの調査官が子どもを遊んでいました。おやつを食べたあと昼寝をしていた子どもが、調査官が帰ったあとしばらくすると目を覚ましました。いつものように、隣の部屋から泣きながら「ママ~」と呼んでいます。調査官の訪問日が近づくに連れ情緒不安定になり、緊張しっぱなしだった被害女性(母親)は、子どもの鳴き声を耳にした瞬間に涙があふれ、「子どももツラい思いをして嫌だったんだ」と自身の思いを子どもの鳴き声に投影してしまいました。
 この調査官調査により、家庭裁判所内で子どもと父親(夫)との施行面接は可能と判断され実施されることになりました。施行面接の期日が近づくと被害女性は情緒不安定になり、子どももその影響を受け精神的に不安定になり、愚図ったり、夜泣きをしたりするようになりました。そうした状況で施行面接がおこなわれ、裁判所をあとにして、家のある最寄り駅に到着した被害女性は、子どもを乗せたベビーカーを押しながら涙をポロポロ流し、声をあげて泣きだし、電車でぐっすりと寝ていた子どもが、母親の鳴き声に驚き目を覚まして泣きだすと、被害女性は、泣きだした子どもに「ごめんね、嫌な思いをさせたね。ツラかったね。ごめんね。」と謝り続けたといいます。その後、被害女性は、調停において、夫が面会交流の実施はエフピックなどの第三者機関を介しておこなうこと、その費用は夫が負担することなどの条件を受け入れたことから、調停での離婚が決定しました。しかし、被害女性は、エフピックとの事前面談を放置してしました。8ヶ月後、家庭裁判所(調査官名)から「履行勧告書」が送られてきました。家庭裁判所の履行勧告書には、「権利者によると、2ヶ月に1回程度の面会交流をすることが調停で決まっているのに、調停成立後8ヶ月経過しても面会交流が実現していないので、権利者(元夫)から、離婚調書のとおりの履行を求める履行勧告の申し出があった」こと、そして、「調停または審判で決められた内容については、必ず履行しなければならない」ことなどが記載されていました。
 離婚調停時に依頼していた弁護士とは再契約を結ぶことができない理由があったため、被害女性は、別の弁護士に「面会交流の中止を求める申立てができないか」を相談することになりました。弁護士との面談に用意した書面には、「私は面会交流を実施したくなかったのに、親権と面会交流を交換条件のようなかたちで決めざるを得なった。」と“仕方なく応じた”と不満が心を支配し、“調停のせいでこうなった”と責任転嫁し、「離婚調停、離婚後も、夫が感情的になり、強引に押し切ろうとしているいまの状況は、交際してから家をでるまでの間、夫の顔色を伺い、意に添うことだけを強いられてきた状況となにも変わらないと感じた。」と、2年前の離婚調停時に提出した陳述書の文面の「現在も」を「離婚調停、離婚後も」書き直して引用し、自らのおこないを正当化するために、離婚後はいっさいの接触もないにもかかわらず“事実”であるかのように述べ、エフピックの事前面談を放置してしまったおこないを正当化する文面が書かれていました。そして、弁護士相談を経て、被害女性は、家庭裁判所の調査官宛に、「親権と面会交流を交換条件のようなかたちで決めざるを得ませんでした。あらためて面会交流について考えると、同居中のMのDV、子どもに対しての性的虐待、乱暴なふるまいなどを思いだし、どうしても面会交流について調整できる心理状態ではありません。」との回答を送りました。
 その後、紆余曲折を経て、被害女性は、改めて、家庭裁判所に「面会交流を実施する意志がある」ことを伝え、エフピックでの事前面談を終え、間接強制を回避することができ、その後、エフピックの面会室で最初の面会交流を実施しました。

 この事例170の被害女性の問題は、「ツラいことから逃げる」ときに、そのおこないを正当化するために、自分で納得できる理由づけをしてしまうことです。そして、「ツラい」「嫌だ」という感情と、「理由づけ」がつながっていないということです。つまり、加害者との接触はツラいできごと(記憶)につながること(トラウマ)に対しての強い拒絶する反応は、「ツラいから嫌だ!」との思いに通じることになることから、回避行動としてそのおこないをどうにかして止めることはできないかと考えを巡らすことになります。被害女性は、事例170で記しているとおり、「責任転嫁」と「事実の置き換え」ることで、面会交流に応じないことの理由をつくってしまったのです。このときの脳は、“トラウマ反応(PTSDの症状)”として回避することしか考えることができなくなっていることから、回避するための理由づけによって、結果としてなにをもたらすのかに思いを馳せることはできないのです。
 被害女性が、家庭裁判所の調査官宛に送った文面により、想定できることは、第一に、「いつなら調整できる心理状態になるのか?」ということで、仮に、面会交流に対し、間接強制(実行しなければ、1回に5万円を支払わなければならない罰則を伴う)が決定されたり、元夫が親権者・監護権者変更の審判を申立てられ、面会交流の実施に応じられないのは「母親のトラウマ反応により、心理状態が不安定である」ことから、「養育環境が心配であり、任せられない」と主張され、再び親権・監護権が争われたりすることが想定されます。問題は、暴力被害の後遺症として重いPTSDの症状が表れ、被害女性が「子どもを幼稚園に送ったあと、家の中で横になっている状態(起きあがっていられない)で、子どもにご飯をつくることが難しい状態になる」ことから、うつ病の診断により「精神障害者福祉手帳(2級)」を取得し、週3回、家事援助を受けていることが、家庭裁判所の調査官査により、養育状況が元夫側に知られる怖れがあり、元夫に調停のときのように徹底的に糾弾される可能性が高いということです。そもそも被害女性は、調停を不調して提訴するのを諦めたのは、これ以上、夫と対峙するのは「精神的に耐えられない」ことが理由だったわけです。家庭裁判所から履行勧告が届いた状況は、離婚成立時より体調面、養育面ともに悪化していることから、再度、裁判所で争うだけの気力と体力は備わっているとは考えられず、しかも、子どもの養育環境には問題を抱えているという大きなハンデがありました。被害女性は、調停を不調にして提訴するのを諦めたときに、面会交流の実施に協力しないとこのような事態になることの説明を受けていたにもかかわらず、ツラい思いをしたくないので、面会交流を回避したいとの思いが頭を駆け巡ってしまった瞬間、過去に説明を受けていた記憶は吹っ飛んでしまったのです。
 調停時とは違う弁護士に相談し、最初の書面を家庭裁判所に送ってしまったあとでしたが、支援者(アボドケーター)とともに、「いまの状況」と「これから考えられるリスク」を、トラウマ反応として回避行動であることを踏まえて一つひとつ理解していき、被害女性は、家庭裁判所に改めて「面会交流の実施にむけて、エフピックと事前面談の日程を調整しています。」などと記した書面を送り、調査官との電話で「面会交流を実施していく」という意志を伝え、間接強制に至らずに事態の収束をはかることができました。
 最初の面会交流の前日、はじめての面会交流を明後日に控え、被害女性は、「3歳2ヶ月の子どもが「パパ嫌だ。パパバイバイ。」、「パパ嫌だ。いたいいたい嫌だ。」といっています。どう対応したらよいのか、なかなか気持ちの整理がつかずにいます。』と心境を綴りましたが、3歳2ヶ月の子どものこうした発言は、被害女性が、子どもに「父親はこういう人」、「父親と会う(会わせる)のは嫌だ」と話してきたを口にしているに過ぎないこと、つまり、子どものことばの習得は、親が発することばを真似て覚えることを基本としていることに思いを馳せることができないことを示すものです。
 そして、面会後、被害女性は、「2ヶ月に1度の面会は決まっている。私は離婚したときに元夫の私や娘へのDVや虐待を不問にした」のだから、「私は面会で娘たちに楽しい思いでをつくるために支えていかなくてはならない」、そして、「元夫Mが面会を止めたいといってくるのを待つことにしたい」と心境を綴りました。「2ヶ月に1度の…を不問にした」が、「元夫Mが面会を止めたいといってくるのを待つことにしたい」という論理に、「私は面会で娘たちに…ならない」と“娘たちのために”という考え方を持ち込んでしまっていることが、被害女性が、被虐待者が抱える“発達障害者”のひとつの特徴でもある「本音と建て前の区別がつかない」という同じ特性を抱えていることを示しています。そのため、「建て前はこうであるけれども、本音はこうだからこういう姿勢で臨めば、やがて、こういう状況になることが期待できる」という考え方をとることができないのです。

 DV被害者が調停で離婚の合意を求め、訴訟で争う精神的負担は大きく、暴力を受けた後遺症の治療を損なうものです。しかも、離婚が成立後、父親との面会のために子どもを送りださなければならない心情、加害者とかかわり続けなければならない精神的苦痛は、さらに、暴力を受けた後遺症の治療を大きく損なうものです。しかも、DV被害者が、暴力被害の後遺症(PTSDや被虐待女性症候群、パニック障害、適応障害などの症状)を抱えているケース(無自覚で、診断を受けず治療をしていないときも含む)では、精神的苦痛はより深刻です。
 加えて、被害女性が暴力のある家庭環境で育ち、アタッチメントの獲得を損なっているなど、愛着障害や発達障害を抱えている可能性があるときには、事例170の被害女性のように、本音と建て前の区別がつかず方針がバラバラ(混乱状態)になってしまったり、自己と他の境界線があいまいであることから自身と子どもの気持ちを分離して考えることができずに投影してしまったり、置き換えてしまったり、ツラく嫌な思いを避ける(回避)考え方の癖が強く現れ、自分が納得できるできない理由を正当化してしまおうと試みてしまったりすることで、第三者には「私の事情」を持ち込んできたと新たな問題(トラブル)を生じさせてしまって、自ら精神的な苦痛のタネを招き寄せてしまうことがあります。
 問題は、被害女性がこうした事態を招いているのが、暴力のある家庭環境に順応するために身につけてきてしまった“考え方の癖”、つまり、被虐待者が抱える「認知の歪み」が根底にあることを認識していないということです。ここに、暴力のある家庭環境で育ち、再び、配偶者に暴力を受けることになったDV被害者に対して、認知の歪みに対してのケア(学び直)が大切な理由があります。
 犯罪の被害を被った人やその家族の心情を尊重し、またその被害の回復に資する措置を定めることによって、被害者等の保護をはかることを目的として、平成12年に「犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事手続きに付随する措置に関する法律(いわゆる犯罪被害者保護法)」が成立しました。しかし、暴行や傷害事件として起訴せず、民事としてのDV離婚事件では同法を適応することはできません。離婚は民事事件であるとはいえ、「配偶者暴力防止法」にもとづいて“一時保護”の決定がされたり、“保護命令”が発令されたりしているのであれば、同法にもとづく犯罪被害者としての配慮がなされる必要があると思います。日本社会では、長く家庭内での暴力を見過ごしてきたわけですが、人に暴力がどのような影響を及ぼすのかについては配慮されていない現実がここにあります。


(5) 国際結婚における離婚問題。子どもの連れ去りとハーグ条約
 国境を越えての子どもの連れ去りを禁止する「ハーグ条約(国際的な子の奪取の民事面に関する条約)」とは、1983年に発効し、国際結婚の破綻等に伴って、16歳未満の子どもを、親のひとりが国境を越えて移動させ、その行為がもうひとりの親の監護権を侵害している場合に、これを「不法な連れ去り」とし、子どもをもといた国に原則として返還するという条約です。ハーグ条約には、平成24年1月現在、91ヶ国が加盟し、主要8ヶ国(G8)では日本だけが加盟していませんでした。外国人の夫による子どもの虐待やDV(ドメスティック・バイオレンス)が原因で、子どもを連れて帰国した日本人女性に対し、夫側が「子どもを連れ去った」と訴えるケースが欧米で相次いだため、強く条約への加盟(批准)が求められていました。
 例えば、日本人の女性と米国人の男性が結婚してアメリカで生活し、子どもを設けていたとします。その後に、残念ながら夫婦関係が破綻した場合に、アメリカでは、離婚裁判の結果として「共同親権」という制度があり、父母のどちらかが子どもに危害を加える危険がない限り、そして双方が親権を望む限りは「共同親権」になります。つまり、子どもは、離婚した父母の間を行き来することになります。アメリカでの離婚裁判で「共同親権」となったとき、「子どもが18歳になるまで、母子は日本への移住ができない」という問題、「一時的に日本に帰国する場合も、父親の方の承諾が必要になる」という問題がおきます。このことが、なぜ問題になるかというと、アメリカの離婚弁護士、裁判官の間では、「日本人の母親は、日本へ子どもを連れ去るとそのままアメリカには戻らない危険がある」ということが“常識”になっていたからです。つまり、母親が共同親権の判決が下りているにもかかわらず、子どもを日本へ連れ去ってアメリカに戻らないケース、母親がアメリカでの離婚裁判を省略したまま、日本に子どもを連れ去ってアメリカに戻らないケースが相次いだことが、日本にハーグ条約を批准するようにと圧力をかけたわけです。この母親が子どもを連れ帰っている2つのケースでは、アメリカの各州から誘拐罪や逃亡罪などの逮捕状がでています。
 問題となるのは、日本では「父親の母親への暴力は、子どもへの心的外傷ともなりうるので、父親には親権を与えない」という理由になりますが、アメリカには「将来にわたって子どもが暴力の対象にならないのであれば、DVは夫婦間の問題であって、DVがあったからといって親権を自動的に剥奪されるわけではない」という考え方があることです。このことが、「Ⅳ-25-(1)面会交流のあり方を一転させた民法766条改正とハーグ条約」に記しているとおり、ハーグ条約の批准、そして、発効に伴い、改正民法766条(平成24年4月)につながっているのです。
 これまで、日本では、国際離婚に伴い子どもと一緒に親が実家のある日本に戻ってくることは違法だとは考えられてきませんでした。親が子どもと一緒に実家のある日本に戻ってくる中には、外国で、配偶者から深刻なDV被害にあい、命の危険を感じて逃げてきたり、母子ともに生活に困窮し、実家のサポートを得てようやく帰国することができたり、やむを得ない事情を抱えて帰国するケースも含まれます。国内結婚においても、DV被害に苦しむ女性の多くは精神的に追い詰められ、周囲に相談することもできず、周囲からも孤立していることが少なくありません。しかも、「裁判に備えて証拠を残す」というような合理的思考も働かず、最後の最後までがまんし続け、それでも耐えられなくなり、恐怖にかられて、子どもとともに、「配偶者暴力防止法」にもとづいて一時保護を受けることが多く、先に法的手続をとったうえで別居するケースはほどんどありません。それが、国外でDV被害にあったとき、親戚や友人も近くにいない、経済的基盤もない、ことばの壁から行政や司法のサポートも受けられないという中で、被害者は、精神的にも経済的にも追い詰められていきます。
 一方、日本を含む世界190ヶ国以上が批准している「子どもの権利条約」の3条では、「子どもに関する措置をとるにあたっては、子どもの最善の利益を主として考慮する。」と定めています。どの国でどの親と生活するかは、子どもにとって重大な決定であることから、返還ありきではなく、子どもの利益を最優先に判断がなされることが必要です。
 そして、ハーグ条約には、以下の返還の例外が定められています。
ア) 子の連れ去りから1年以上が経過し、子が新たな環境に適応していること
イ) 連れ去った当時、申立人が子に監護権を行使していない
ウ) 連れ去った当時、連れ去りに同意したなどの事情があること
エ) 返還が、子の心身に害悪を及ぼし,子を耐え難い状況に置く重大な危険があること
オ) 成熟した子どもが返還を拒んでいること
カ) 返還が人権保護に関する基本原則に反すること
 そして、遂に、日本政府は加盟(批准)を決め、2013年(平成25年)6月に手続き法(国内法)を成立させ、平成26年4月1日、「ハーグ条約」は発効されました。
 国内法には、子や親が外国の親から暴力をふるわれる怖れがあるときには、家庭裁判所が返還を拒否できる規定を盛り込みました。ハーグ条約の発効後は、連れ去られた子どもの返還を家庭裁判所に申立ることができ、家庭裁判所が加盟国に返還命令をだすことができるようになります。しかし、審理できるのは、東京、大阪の2家庭裁判所だけです。
 ハーグ条約では、政府に訴訟によらない「(子どもの)任意の返還」と「友好的な解決」の促進を求めていますので、訴訟によらない解決をはかるADR事業(裁判外紛争解決手続き)として下記の5つを委託先としています。ADRでは、あっせん人が当事者間に入り話し合いを進め、子どもの任意の返還、離婚、親権(監護権)、養育費などさまざまな問題の解決をはかることになっています。

-事例171(ハーグ条約1)-
 国境を越えて連れ去られた子の扱いをとり決めた「ハーグ条約」が、平成26年7月、はじめて適用され、同年8月29日、母親と滞在していた英国から父親のいる日本に戻された日本人の子どもが、再び英国に戻りました。再出国したのは、別居中だった日本人夫婦の7歳の子どもで、母親が同年3月、父親の同意を得ずに子どもを連れて仕事で赴任することになった英国にわたり、同年5月になっても戻らなかったことから、父親が同条約にもとづいて子どもの返還を申請しました。ロンドンの裁判所が、同年7月22日、子どもを日本に戻すようにと命じ、同月末、子どもは帰国することになりました。その後、日本国内の家庭裁判所での裁判で、8月上旬に調停が成立しました。子どもは、母親が滞在する英国に戻り、父親が定期的に子どもと面会する条件で合意しました。

-事例172(ハーグ条約2)-
 平成26年6月、ドイツ人の父親に無断で、日本人の母親がドイツで生活していた5歳の子どもを日本に連れ帰りました。5歳の子どもは、日本とドイツの両方の国籍を持っています。とり残された父親は、8月下旬、ドイツ政府にハーグ条約にもとづいて子どもの返還を求めました。ドイツ政府から日本の外務省に援助要請があったことから、外務省が国内の母親に接触して交渉を開始しました。話し合いを経て、母親が子どもの返還に同意し、同年10月中旬、子どは母親に連れられドイツへ戻されました。

 平成26年4月に条約が日本で発効してから10月末までの半年間で、子どもの扱いを巡る外務省への援助申請は73件で、日本在住の親から海外の親への申請は、返還8件、面会13件、海外在住の親から日本の親への申請の方が多く、返還9件、面会43件でした。そのうち9件は、事例168と同じ、日本人同士の夫婦でした。事例168の初適用後、10月末までに、日本人夫婦の子どもが米国から、米国人父と日本人母の子どもがスイスから、それぞれ日本に戻されました。また、海外の親と子どもが、テレビ電話で面会できたケースが1件ありました。海外の親が、日本にいる子どもとの面会を求めた日本ではじめて家庭裁判所に審判を申立てた事件では、裁判によらない友好的な解決がはかられましたが、不調に終わりました。
 事例169は、ハーグ条約で認めている「裁判ではなく、両国の政府の仲介で話し合いにより解決する」方法で解決されたもので、ハーグ条約発効後、日本にいる子どもが海外へ返還されたはじめてのケースです。

(外務省が当事者に和解などを勧める「裁判外紛争解決手続き」(ADR)事業)
東京弁護士会、第一東京弁護士会、第二東京弁護士会、公益社団法人「総合紛争解決センター」(大阪市)、沖縄弁護士会

(ハーグ条約に加盟・参加している国・地域(50音順))
アイスランド、アイルランド、アゼルバイジャン、アメリカ合衆国、アルゼンチン、アルバニア、アルメニア、アンティグア・バーブーダ、アンドラ、イギリス(英国)、イギリスの海外領土(ジャージー島、ガーンジー島、マン島、ケイマン諸島、バーミューダ諸島、フォークランド諸島、ジブラルタル、モンセラット、セントヘレナ島、アンギラ、タークス・カイコス諸島、英領バージン諸島)、イスラエル、イタリア、インド、ウクライナ、ウズベキスタン共和国(EIF:15-IV-2012)、ウルグアイ東方共和国(EIF:14-X-2012)、エクアドル、エストニア、エルサルバドル、オーストラリア、オーストリア、オランダ、オランダの海外領土(アルバ島、キュラサオ島、シント・マールテン島)、オマーン国 (EIF:30-I-2012)
カザフスタン、カーボヴェルデ共和国 (EIF:13-II-2010)、キプロス、ギリシャ、キルギス共和国 (EIF:31-VII-2011)、グルジア、グレナダ、クロアチア、コスタリカ共和国 (EIF:14-XII-2011)、コロンビア
サモア、サンマリノ、サントメ・プリンシペ民主共和国 (EIF:13-IX-2008)、スイス、スウェーデン、スペイン、スリナム、スロバキア、スロベニア、スワジランド、セーシェル、セルビア、セントクリストファー・ネーヴィス、セントビンセント、セントルシア
大韓民国(韓国)(2008)、チェコ、デンマーク、ドイツ、ドミニカ共和国 (EIF:30-VIII-2009)、ドミニカ国、トリニダード・トバゴ、トルコ、トンガ
ナミビア、ニカラグア共和国(EIF:14-V-2013)、日本、ニュージーランド、ニュージーランドの海外領土(クック諸島、ニウエ)、ノルウェー
パナマ、バヌアツ共和国 (2008)、バハマ、バルバドス、バーレーン王国 (EIF: 31-XII-2013)、ハンガリー、フィジー、フィンランド、フランス、フランスの海外領土(グアドループ島、仏領ギアナ、マルチニーク島、レユニオン、ニューカレドニア、ワリス・フテュナ諸島、サンピエール島、ミクロン島、仏領ポリネシア)、ブルガリア、ブルネイ、ベネズエラ、ベラルーシ、ベリーズ、ペルー共和国 (EIF:30-IX-2010)、ベルギー、ボスニア・ヘルツェゴビナ、ボツワナ、ポルトガル、ポルトガルの全海外領土、ポーランド、香港特別行政区、ホンジュラス、パラグアイ共和国 (予定:30-VIII-2014)
マーシャル諸島、マカオ特別行政区、マケドニア旧ユーゴスラビア共和国、マラウイ、マルタ、南アフリカ共和国、メキシコ、モーリシャス、モナコ、モルドバ、モンテネグロ、モンゴル国 (EIF:31-XII-2009)
ラトビア、リトアニア、リヒテンシュタイン、リベリア、ルクセンブルク、ルーマニア、レソト、ロシア


2016.3/6 ブログ再編成(第3次改訂)に伴い、主記事として掲載



もくじ   3kaku_s_L.png   [Ⅲ-7]Ⅳ.「婚姻破綻の原因はDVにある」ときの離婚
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