あなたは、夫の暴力・DVを容認していませんか? 暴力のある家庭環境で暮らす子どもの心を守ることを忘れていませんか?

[Ⅶ-22] 継続情報<震災・地震/火山/氾濫>ストレスとトラウマ、命と心を守る

I. 災害後のこころの反応 神戸大学医学部小児科 中村肇

 
 <SYNODOS JOURNAL> リスク認知のゆがみ方(1) 心の「重み付け」によって効率性が左右される <日本小児科学会>障害のある子どもへの災害時対応の手引き宮本信也(筑波大学大学院人間総合科学研究科)
はじめに
 
 平成7年1月17日の阪神・淡路大震災は、6千名を越える死者、20万棟を越える家屋の損壊という未曾有の都市型の大災害をもたらし、直接的な被害を被らなかった市民にも長期にわたるライフラインの途絶は日常生活に大きな混乱をひき起こしました。この阪神・淡路大震災をきっかけとして、大災害時におけるPTSD(心的外傷後ストレス障害)の存在が一般にも広く認識され、なかでも「子どものこころのケア」の重要性が小児に関わりをもつわれわれにとって大きな関心事となっています。  
 平成7年度より厚生省厚生科学研究「災害時支援対策総合研究事業」に関わる分担研究「災害が母子の心身に及ぼす影響についての総合研究」として、兵庫県、神戸市の全面的な協力を得て、母子の心身に及ぼす中長期的な影響を明らかにするため大規模かつ継続的なアンケート調査を乳幼児をもつ母親に対して実施してきました。その結果、子どもにとって恐ろしい体験や喪失体験、長期にわたる異常な生活環境は、当然強い苦痛として子どもの急性反応として表れてきますが、子どもではこころとからだの発達が未分化であるために、その反応は精神的な問題としてよりも、むしろ身体症状や行動上での問題として表れてくることが明らかになりました。また、中長期的な影響としては、母親自身のライフスタイルが子どもの心身に大きな影響を及ぼしていることも明らかになりました。
 母子のこころのケアに関するこのマニュアルは、「災害が母子の心身に及ぼす影響についての総合研究」の成果をもとに、阪神・淡路大震災の際に福祉現場で、保育所・幼稚園で、医療現場で活躍された方々が、大災害発生時に家族支援をいかに行うか、また支援する上での問題点について自らの体験を通じてまとめたものであります。
 在宅障害児・慢性疾患患児への対応、避難所を中心に身体的・精神的要医療児の早期発見と適切な処置、マスメディア、インターネット・ホームページ、電話相談を通じて被災児やその周辺への心理的安定に対する情報の提供、災害時のメンタルヘルスについての正しい理解を深めるための情報提供について記載し、保母、教諭、養護教員、保健婦など子どもと関わりをもつ職種の人々がリスク児の早期発見、早期の積極的介入に役立つように編纂しました。
 3年を経過した今日なお、被災地では仮設生活者が2万世帯以上あり、各種調査から「こころのケア」を要する児の存在が明らかにされ、とくに肉親を喪失した児への支援が強く求められています。子どもを預かる立場として、慢性期のこころの問題に今後も注意を向けていきたく思います。
 
平成10年3月17日
神戸大学医学部小児科
中 村  肇


I. 災害後のこころの反応
 
1. 災害時の体験   
 
 災害は子どものこころにも大きな影響を与えます。災害の正体がわからず、また、自分で対処できる範囲も限られており、余計に不安になるのです。
 子どもにとって、怖い体験や喪失体験(親しい人との別離、住居の損壊、生活環境の変化、おもちゃ・人形の紛失など)あるいは長期にわたる異常な生活環境(避難生活、食生活、大気汚染など)は強い苦痛として感じられます。このような災害時の体験が子どもに急性の反応を引き起こすのは当然のことと考えられます。また、子どもはこころと身体が未分化であるため、そのような反応は精神的な問題として表れるよりもむしろ身体症状や行動上の問題として表れることが多いといわれています。反応そのものは、誰にでも認められる普通のものですが、その苦しみを和らげることができるように適切な時期に的確に支援する必要があります。
 
2.悲嘆と喪のプロセス  
 
 災害で喪失体験をした人々の間で起こってくる心理反応には“悲嘆”があります(図1)。愛着対象を失った心理的な苦痛に対処しながら、 新たな現実に適応し、新たな愛着関係を作っていく過程を“喪のプロセス”といいます。子どもに直接的に影響するのは日頃の愛情のかけられ方の変化です。子どもは死などの概念が曖昧なために喪失を自分のまわりの環境に生じた変化で判断し、時として自分が原因と考えることがあります。通常、悲嘆は4~6週までにある程度軽快するといわれていますが、ストレスの存在などにより複雑化・遷延化する可能性があります。子どもの喪のプロセスを健康な形で促すためには、子どもが安心することのできる環境が不可欠です。それにはまわりの大人たちの安定がまず必要で、いかに子どもをもつ家族を支援するかが重要になります。
 
参考文献: 1)Drotar D,Baskiewicz A,Irvin N,Kennell J,Klaus M. The Adaptation of Parents to the Birth of an Infant With a Congenital Malformation:A Hypothetical Model.Pediatrics.1975;56:710-717. 2)奥山眞紀子. 親の死に対する子どものmourning. 小児の精神と神経.1992;31:123-129.

 
II.トラウマ(こころの傷)について
 
1.トラウマ体験   
 トラウマとはこころが受けた傷のことをいいます。トラウマをひき起こす体験には比較的急性の出来事によるものと、持続的・慢性的な状態によるものとがあります。子どもにとっては後者の方がこころの成長に大きく影響するといわれています。災害による影響を長引かせないことが重要です。
 
2.災害後のこころの反応  
 災害後には次のようないろいろなこころの反応が起こります。  
1)感情が麻痺したようになる。  
2)何もする気が起こらなくなる。
3)感情的に高揚する。
4)災害に関連するものを避けようとする。  
5)災害遊びや悪夢などで災害時の体験を想いおこし不安になる。  
6)不眠・怯え・落ちつかない・いらいらするなど過度に覚醒する。  
7)赤ちゃん返りなど退行するようになる。  
8)登園しぶり・後追いなどの分離不安を示す。   
 これらの反応は通常は最初の数週間で軽快するといわれていますが、1カ月以上持続したり、数カ月の潜伏期を経て表れたり、長期的な問題をひき起こしてくることもあります。また、元々こころが不安定であった子どもほど災害や喪失による影響を受けやすく、ふだんから子どもの精神保健の充実を心がけることが大切です。
 
3.Post-traumatic Stress Disorder(PTSD)とは?   
 PTSD(心的外傷後ストレス障害)という言葉が阪神・淡路大震災の後によく用いられました。PTSDとは生命に危険を感じるような異常な体験の後に、  
1)悪夢・フラッシュバックなどトラウマの持続的な再体験。  
2)トラウマを連想させる状況からの持続的な回避と無感情など反応性の鈍麻。  
3)不眠・易刺激性・集中困難・過度の警戒などの覚醒の亢進。  
の3つの症状が1カ月以上持続し、日常生活の支障となる状態をいいます。
 
4.表現させて受け入れること   
 子どもは不安な気持ちを遊びの中で表現したり、絵に描いたり、話をしたりすることで整理し、それが受け入れられることで異常な体験を過去の記憶として処理していきます。身体的な接触を十分に行ない、安心して表現できる場を多くし、無理に表現させるのではなく、表現しやすい状況を整えることが大切です。また、退行とは、子どもが基本的信頼を確認し安心感を得て自分を守るためにとった反応です。まわりの大人たちがその退行を十分に受けとめてあげれば、やがて、子ども自身が苦しみを乗り越えていくことができるようになります。
 
参考文献: 1)Shannon MP,Lonigan CJ,Finch Jr.AJ,et al.. Children Exposed to Disaster:・. Epidemiology of Post-Traumatic Symptoms and Symptom Profiles.J.Am.Acad. Child Adolesc. Psychiatry. 1994;80-93. 2)AmericanPsychiatric Association.Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders,Fourth Edition.1994;424-432.

 
III.乳幼児および小児を対象とした評価と調査
 
1.乳幼児のトラウマを評価するには?   
 乳幼児においても、大規模な災害の後にはさまざまな精神・身体症状が出現することが知られています。しかし、乳幼児の症状を評価するのは容易ではありません。PTSDという言葉が、阪神・淡路大震災の後によく用いられました。しかし、一般に2~3歳の子どもたちには、時間の観念が十分に発達しておらず、言葉で表現することもうまくできません。特にPTSDの一症状である逃避行動を捕えるのはきわめて難しいと考えられています。それでは、子どもたちのトラウマをどのように評価すればよいのでしょうか。
 
2.調査の方法   
 一般的によく用いられるのは、両親やいつも世話をしている人を通じて調査用紙に記入してもらう方法です。この方法には次のような長所と短所があります。  
1)長所  
・直接観察するよりも時間が節約でき、マススクリーニング法に適す。
・専門家は両親へのアドバイスなどを通じて支援が可能。
・結果を客観的に解釈可能。  
2)短所  
・観察者の主観がはいる。  
・対照群のデータが必要。  
・多くの症状は外部からの観察だけで判定するのが難しい。  
・乳幼児を対象とした適切な調査質問表が確立されていない。  
 
3.調査表の標準化はなぜ必要か?   
 阪神・淡路大震災では、さまざまな質問表が使われました。しかし、施設ごとに異なった内容ではお互いの比較が難しくなります。また、国際的な比較もできません。できることなら、世界中同じ形式の質問表が使用できれば良いのですが、残念ながら乳幼児に対してはそのようなものはないのです。そこで、私たちは兵庫県下の広域調査を行なうために自分たちで質問表を作成しました。(巻末に実物をはさんでいます。また、平成8年度における被災地域での回答結果を示しましたので、参考にしてください。)
 もちろん、これらの質問表はスクリーニングのために用いるものですので、もっと詳しい観察が必要な場合には、専門の施設に助言を求める必要があります。
 
4.阪神・淡路大震災で用いられた質問表の実際
 表1に私たちが兵庫県下の大規模調査に用いた質問表の中で、子どもの心身症状についてたずねた項目を示します。I章で述べたように子どもでは、心の葛藤が身体症状として出現することがあるので注意が必要です。
 私たちの質問表は、・子どもの心身の状況、・被災状況、・母親の心身の状況、・子育ての状況に関する項目の4分野からなっています。各々の項目に対して、「いいえ」「すこし」「かなり」「とても」の4つの答から選ぶようになっています。このような評価法をrating scaleと呼びます。(表1) 
表 1 子どもの心身症状についてのチェック項目

--------------------------------------------------------------------------------
1. 食欲がない。          12. 小さな物音に驚く  
2. 食べすぎる。          13. すぐ怒ったり興奮しやすい。  
3. よく便秘あるいは下痢をする。  14. いらいらしやすい。 
4. よくおねしょをする。      15. ものごとに集中しにくい。  
5. ひとりでトイレに行けない。   16. 指しゃぶりや爪かみをする。  
6. ひとりで寝れない。       17. 目をパチパチしたり、どもる。  
7. よく夜泣きをする        18. ゼーゼーいうことがある。  
8. 暗いところを恐がる。      19. 皮膚や目のかゆみを訴える。  
9. いつも親と一緒にいたがる。 20. 自分にできることもやってもらいたがる。
10. 地震について繰りかえし話す。 21. がまんしすぎている
11. 地震の話をとてもいやがる。  22. そのほか気になることがある

5.調査における留意点  
1)調査と支援体制
 調査を行なう時には、被災者の気持ちをよく考慮し、同時にすぐに必要な支援が可能な体制を作っておくことが重要です。
 私たちの調査では、被災地域の3カ所の児童相談所が、保健所、保育所のバックアップをし、それをさらに大学病院小児科と中央の専門機関が応援するという体制をつくりました(図2)。調査のためだけの調査は慎むべきです。
2)被災程度による違いはあるのか?   
 震災後、1年以上経過しても、子どもたちの心身状況と住居の被災状況には明らかな関係がみられました。図3にその例を示します。このような関係は、PTSDに関連する多くの項目でみられました。  
3)母親の意識と子どものこころ   
 乳幼児では、母親のこころの状態がさまざまな影響を与えます。また、母親が自分のフィルターを通して子どもを評価してしまう可能性があります。住居被害のひどい家族では、母親のこころはいらだちやすく、まわりと接触する時間も少なくなります(図4)。  
 
6.調査結果をいかに役立てるか?   
 調査結果をどう生かすかは今後の大きな課題です。子どもの症状は母親の心理状態を反映していることが多いため、その点に十分留意して支援していくことが大切です。母親の子育て環境を安定したものにするためには、父親も含めた家族全体の理解と地域社会からの支援が不可欠です。(図5)
 
参考文献: 1)Mollica RF,Shibuya K,Allden K. Harvard Japanese Trauma Manual.Harvard Program in Refugee Trauma.1996. 2)Swenson CC,Saylor CF,Powell MP,Stokes SJ,Foster KY,Belter RW. Impact of a natural disaster on preschool children: adjustment 14 months after a hurricane.Am.J.Orthopsychiatric Association. 1996; 66:122-130. 3)Scheeringa MS,Zeanah CH,Drell MJ,Larrieu JA. Two approaches to the diagnosis of posttraumatic stress disorder in infancy and early childhood. J.Am.Acad.Child Adolesc.Psychiatry. 1995; 34:191-200. 4)Saylor CF ed.. Children and disaster.Issue in Clinical Child Psychology. NewYork:Plenum Press,1993.

 
IV.災害時のストレス
 
1.子どもとストレス
 災害時に子どもたちが受けるストレスは、大きく二つに分けることができます。  
1)災害そのものの衝撃によるストレス   
 災害の衝撃によるストレスは、災害の恐ろしい記憶に悩まされることが特徴です。災害を想いだしておびえる子どもたちの気持ちを優しく受けとめてあげることは、子どもたちがこのストレスを解決する手助けになります。(I章参照)  
2)災害後の生活変化によるストレス   
 このストレスは、わがまま、乱暴な行動、おこりっぽくなるなど、さまざまな形で表れます。子どもらしい遊び、身近な大人とのゆったりとした時間が、ストレスの解消に役立ちます。
 
 日々の生活の中では、この二つのストレスを区別することは難しいと思います。しかし、いずれのストレスであれ、毎日の生活の中で子 どもたちが少しでも安心しのびのび生活ができる工夫をすることが、ストレスの解消に役立ちます。
 
2.避難所での問題
1)プライバシーが失われること   
 見知らぬ人たちの中にいることは、乳幼児にもストレスになりますが、保護者にとっては、もっと大きな問題になります。保護者のストレスは、子どもたちのストレスを増やします。
・簡単なしきりで、家族だけの空間をつくる。
・談話室のような部屋を避難所内につくり、人目を気にせず過ごせる時間がもてるような工夫をする。

2)生活習慣が変化すること   
 食事、洗面、入浴、排便、遊びなど、子どもの日常生活のリズムは大きく崩れます。例えば、一日中電灯が灯されているため、睡眠のリズムが崩れやすく、精神的な疲労をひき起こします。排便も深刻な問題です。多くは、対処しようのないものですが、子どもたちがストレスのまっただ中にいることを理解しておくことが大切です。
子どもたちが寝るときには、覆いをかけて陰をつくる工夫をする

3)子どもの行動が制限されること   
 自宅では許されていた、大声ではしゃいだり、走り回って遊ぶことが避難所では叱られてしまいます。ストレスを発散させることができないだけなく、一層ストレスをためてしまうのが避難所での生活です。
4)保護者の心理   
 家族を守ろうとする責任感、将来への不安、災害にうまく対処できていないと感じる無力感など、保護者は大きなストレスを抱えています。保護者のストレスを少しでも減らす工夫も必要です。

 
V.保育所・幼稚園での支援
 
 神戸市の保育所を例にとって、保育の現場で「誰が何を行なったか」、「どんなことで困ったか」、「どのような現状だったか」などを見直してみましょう。
 
1.被災直後の緊急対応  
1)建物の被害状況チェックと安全確認。  
2)被災職員と出勤可能な職員の状況把握。
3)在籍児童の安否確認。
4)孤児、遺児対策(喪の作業など)と負傷した児童の入院先の把握。
5)保護者連絡網の再チェック(疎開児童の住所確認など)。
阪神・淡路大震災では地震の起きた時間帯が早朝であったため上記の対応で済みました。
これが保育中であれば、在園児童の緊急避難と救急医療が最優先課題となったでしょう。

2.保育再開に向けて   
 乳幼児の保育に携わるものは1日も早い保育の再開を目指さねばなりません。一般に被害の甚大な地区ほど保育再開の要望は強くなります。被災地区に最低1カ所は保育可能な場を確保することが大切です。保育を再開するための条件としては、次のようなものがあげられます。  
1)保育者の確保(交通が麻痺した状態では、本来の勤務先でない近くの職場に出向けるなどの臨機応変な対応策が必要な場合もあります)。
2)二次災害防止のため建物本体の安全チェックと物理的環境の整備。
3)ライフラインの確保(全てのライフラインが止まることを前提に対応策を検討すべきです)。
4)乳幼児保育のための生活必需品(粉ミルクとそれを溶く熱湯や離乳食、紙おむつ、毛布、遊具の調達やアトピー食など)の確保。
5)伝染性疾患への対策など医療面の配慮。
6)最新情報を収集するための手段(連絡用の自転車、携帯電話、FAXなど)の確保。
神戸市では、部分的であれ保育再開が可能になったのは震災の2~3週間後でした。2,3カ所の園児を1カ所にまとめ、園児の兄弟姉妹も一緒に預かるといった変則的保育でしたが、子どもたちにとっては「日常性の回復」となり、震災後のストレス軽減に役立ちました。その後も避難所になった保育所では園庭に仮設保育室を建て、時間外保育を行ないました。また他府県に緊急避難した児童が疎開先の保育所に緊急入所できるように超法規的対応がなされました。

3.保育者の苦悩と葛藤   
 保育者側が抱える問題としては、次のような項目があげられます。
1)圧倒的に女性職員が多く、ライフラインの確保などで肉体的負担が大きい。
2)家庭と仕事の両立に葛藤が生じる。
数日間職場に出勤できなかった職員の中に、救助や支援を最も必要とした時期に担当の子どもたちを守れなかったと自責の念に苛まれた人もいました。逆に職場に出向いた職員の中には、家に残された子どもが“見捨てられ体験”から後に不登校や種々の情緒的問題をひき起こした場合もありました。

3)孤児・遺児やわが子を亡くした保護者あるいは友達との死別という強烈な喪失体験をした在園児に直面し、“喪の作業”と“死の教(death education)”に携わることになる。
4)災害後の救援活動が半恒久的に続き、被災者である保育者が援助者の役割を担う苦痛を背負い続ける。
 
 保育者の側にも深刻な苦悩と葛藤が生じるため、彼らに対してのきめ細やかな「こころのケア」が不可欠です。保育者をささえることが子どもとその家族をささえることにつながります。
 
4.養育者(母親)へのサポート
 乳幼児に安心感を与え、かつ彼らのさまざまな症状を慢性化させないためには、その家族、特に母親をささえることが重要です。母親が急性ストレス障害をうまく乗り越えれば、子どもの二次的ストレス反応はかなり軽減できます。母親のストレス緩和のため、保育室の一室を開放し、被災した親相互が共にその苦痛や悲哀を語り合える憩いの場を提供することも一つの方法です。
 混乱期の親子関係の特徴として、次のような3つのタイプがあげられます。  
  1)親子密着タイプ
    過剰なまでに親子がしがみつき分離不安が親子双方に強い。  
  2)放任タイプ   
    わが子が生きていさえすればそれでよしとして、しつけらしいことが全くできない。
  3)攻撃・過干渉タイプ   
    震災という危機場面で家族システムが揺らぎ、そのため母親自身が情緒不安定になる。
 
5.ハイリスク乳幼児の早期発見
 家庭再建に追われる親にとって乳幼児の養育は大きな負担になります。親としてはわが子をまず安全な場所に移したいと願うものです。
震災の起きた平成6年度当初に神戸市の保育所に在園していた児童総数は12,799人でした。阪神・淡路大震災では乳幼児は親戚縁者宅にいち早く疎開しました。しかし、震災2週間後には約3分の1の児童が、震災6週間後には約3分の2の児童が保育所に復帰し、震災10週間後には約90%が戻っていました。

 災害によるハイリスク乳幼児の発見はきわめて重要であり、そのために保育者は次のようなことに留意すべきでしょう。
1)早い段階で専門家(小児科医、児童精神科医、心理臨床家など)あるいは専門機関(児童相談所、保健所など)と連絡をとり、乳幼児特有のPTSDや急性ストレス障害について理解しておく。
2)混乱している保護者に代わり兆候を正しく読み取り、専門家の援助が必要かどうかを判断する。(保育者自身が急性ストレス障害に陥り、子どもの症状ーSOSサインーを読み取る余裕をなくす場合も多い。)
3)交通が復旧していない時期では、たとえ危険な兆候に気づいても、専門の相談機関を訪ねることは物理的に不可能なので、保護者をまず支援する。
 
6.被災幼児と「遊び」  
1)遊び場の欠如と子どものストレス
 大規模な災害の後には、公園という公園に仮設住宅が建ち、復興資材が置かれます。そうでない公園もフェンスはこわれガラスの破片が散乱し遊具の安全性もチェックされない場合があります。道路は至るところに亀裂が入り、復旧工事に向かう大型ダンプ、ショベルカーやクレーン車が往来します。子どもたちが安心して遊べる場所は、きわめて少なくなります。
2)「遊び」の提供
 保育再開が可能となった保育所では、遊びを積極的に取り入れるようにします。設備面での不備があっても、子どもは彼らなりに遊びを創意工夫するものです。子どもの自己回復していくバイタリティに保育者側が逆に鼓舞される場合がよくあります。  
3)ボランティアの受け入れ
 ボランティアが遊びや各種のレクリエーションを企画し提供してくれる場合には、保育者がボランティアとのパイプ役を担ってコーディネートしていくことが大切です。
 
7.保育所・幼稚園在園児への「こころのケア」
 1~6では主に災害発生後3カ月までの保育現場の現状とその時々の対応策について述べました。次の段階では在園児童へのトラウマ対策としての具体的支援を模索していくことになります。
 震災後半月が経過した頃から、児童相談所の精神科医、心理臨床家、ケースワーカーの三者からなる「こころのケア」巡回指導班が保育所・幼稚園を訪問しはじめました。また、3カ月から6カ月後には被災幼児の実態把握のための調査、例えば激震地区と非激震地区の幼稚園児に対する比較調査や保育所での聞き取り調査などが実施されました。その結果、母親のストレス症状は子どもの数倍におよんでおり、母親への直接的援助が必要なことがわかりました。この後、保育所・幼稚園では専門機関と連携し「こころのケア」活動を行ないました。その代表的なものは次の2つです。
 
1)幼稚園での「やすらぎ保育」
 「やすらぎ保育」と名づけて幼稚園の園庭を月2回、地域の親子に解放し、次のような支援活動を行ないました。
 ・安全な遊び場と遊びの提供
 ・保護者へのPTSD理解のための講演会
 ・保護者への集団心理療法的アプローチによる「こころのケア」の実施
 ・相談希望者への個別面接による助言
 
2)保育所への巡回指導と事例検討会
 各区1カ所の保育所を拠点にして、PTSDハイリスク児童の事例検討会を開き、保育者への助言を行ないました。

8.乳幼児「こころのケア」機能を目指して
 広域の大災害に見舞われた場合、保育所や幼稚園は「こころのケア」システムの中で重要な役割を担います。緊急対応としては生活場面での支援活動からはじめなければならず、「ローカル・ゲートキーパー」としての役割を期待されます。そのためには、次のような日常的な取り組みや活動が望まれます。  
1)防災コミュニティづくりへの積極的参加(自治会や児童の健全育成活動に携わっている団体との交流。区役所、福祉事務所、警察、消防署、ボランティアとの連携。)  
2)子育て支援のための情報収集と情報発信機能の充実  
3)「こころのケア」のためのヒューマン・ネットワークの構築(教育センター、児童相談所、保健所や病院などとの連携。)
4)乳幼児とその保護者を多面的に支援するコーディネート機能の拡充
 
参考文献: 1)三宅芳宏、執行弘幸、清水將之. 大型災害時において児童施設は何を体験したか.児童精神医学とその近接領域 1995; 36: 297- 307.



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