あなたは、夫の暴力・DVを容認していませんか? 暴力のある家庭環境で暮らす子どもの心を守ることを忘れていませんか?

[Ⅲ-2]Ⅰ.密接な関係。児童虐待とドメスティック・バイオレンス

11.断ち切るために必要。加害者に共通する行動特性の理解

 
 12.脳と子どもの発達 10.育った家庭環境が影響する思いを断ち切れない複雑な心理
*新版3訂(2018.2.14)

ここまで(第1章(Ⅰ.密接な関係。児童虐待とドメスティック・バイオレンス)の1節-10節)、さまざまな切り口でDV問題を捉え、DV行為が、夫婦関係、親子間になにをもたらすのかを考えてきました。
この章の最後の11節では、被害者が、離婚事件や暴行・傷害事件に備え、対応するために、DV加害者(加害行為に及ぶ者)の言動・行動特性にフォーカスして整理したいと思います。

(1) DV加害者に共通する暴力のあり方
① 認知の歪み(間違った考え方の癖)

加害行為に及ぶ者の多くは、暴力のある家庭環境で育ち、アタッチメントのトラブルを起因とする「見捨てられ不安」など、被虐待者に見られる「発達の障害」としての“特徴”を有しています。
では、「Ⅱ- .慢性反復的トラウマの種類(児童虐待の分類)と発達の障害」を引用したいと思います。

A) ネグレクト(育児放棄)による発達の障害
精神的な放置の結果、愛着の絆を親と結べずに「反応性愛着障害(RAD)」になります。
養育者との相関関係で調整できるはずの脳幹の機能が不調で、自癒能力(泣きだしても自分から泣きやむなど)が発達せず、大脳の共感能力が未発達であることから、対人関係づくりに障害がでてきます。
扁桃体の過剰興奮で緊張ホルモンの分泌が抑えらせず、自制がきかず多動になりやすくなります。
脳の発達を遅らせるだけでなく、身体の発達まで遅らせます。
問題は、反応性愛着障害ではなく、ADHDなどと誤った診断をされることも少なくないことです。
ア) 発達への影響
 ・愛着関係の欠乏、歪み
 ・基本的信頼の欠乏
 ・受容されている感覚の欠乏
 ・万能感の欠乏
 ・発達刺激の欠乏
 ・構造*の欠陥、歪み
*構造..認知機能は、入ってくる情報を感覚的、物質的な分析をおこなう「浅い」水準から、抽象的、意味的、連想的な「深い」水準へと階層的に構造化されています。
情報を深く処理するほど記憶痕跡が強固になり、忘れ難くなります。

イ) 精神的な影響(精神症状)
・精神活動の低下..精神発達の遅れ、感情の極端な抑制、抑うつ
 ・自己の主体性の障害..易興奮性*、極端な頑固さ、多動、衝動性、暴力、自傷行為
*易興奮性..ちょっとしたことで、興奮しやすい状態。
また、血中カルシウム濃度の低下(低Ca2)が、易興奮性をひきおこすこともわかっています。

 ・刺激防御能力の障害..自己治癒能力の低下、易刺激性*
*易刺激性..ちょっとの刺激によって興奮しやすいことです。
爆発性、易刺激性はいわゆる「気が短い(自他を問わず、あらゆる人のあらゆる行為に対して、直ぐに腹を立てる)」ことと違い、それまで穏やかな心理状態であった人が、相手のほんのひとこと、ちょっとの刺激によって突然興奮しはじめることです。
 ・満足感の障害..過食、早食い、隠れ食い、盗み、万引きなど
 ・他者関係能力の障害..無差別的愛着、希求と回避の混在、共感性の低下

B) 身体的虐待による発達の障害
叩く、蹴るなどの肉体的な仕置きは、親にとっては、“しつけ”のつもりであっても、子どもにとっては、慢性反復的トラウマとなる暴力でしかありません。
大人は体も大きく力も強い、子どもはとても立ち向かえないので、無力感と恐怖から激怒を感じ、怖ろしい記憶を海馬がそのまま長期記憶として、特に右脳の側頭葉に保持(記憶)されます。
家庭でぶたれたり、叩かれたりした子どもが、園や学校で暴力をふるうのは「トラウマの再演(PTSD症状の再演)」の可能性があるので、注意が必要です*-133。
海馬が十分に発達していない幼児期の場合は、恐怖、激怒、不安感を大脳辺緑系の視床や扁桃体、脳幹で覚えていて、暴力をふるってしまいます。
蓄えられた暴力の記憶が、青少年非行の最大の原因といわれ、思春期に「行為障害」として表れ、状態がひどいときには、青年期に、「反社会的人格障害(サイコパス)*-134」と進展していきます。
不満があるとがまんすることができずに敵意を示したり、暴力的になったりします。
人を人としてではなく、モノとしか見ることができず、自分のためなら他人のことなどお構いなし、平気で危害を加えてしまうのです。
その無謀で、残虐な行為は、戦時下、紛争下では“英雄”になったりしますが、平和時には“危険な殺人者”になりかねないのです*-135。
自己中心的で無思慮な衝動性、反社会的な犯罪性、虚言癖(嘘つき)、他者への共感の欠如、反省や良心の不足などが特徴です。
子どものトラウマに対する特徴的な反応で、なにごとも自分が悪いと思い込むというものがあります。
自己尊重、自己肯定があってはじめて、人は自分に自信をもって毎日の生活上の問題に挑戦できるようになります。
ところが、愛着の対象者から身体的虐待を受けると、子どもはその人に直接怒りをぶつけることができず、他の子どもやきょうだいにぶつけるか、自分にぶつけてケガをすることが多くなります。
同時に、自分は大切にされる資格がないと思い込み、自己尊重、自己肯定が育ちません。
身体的虐待を毎日のように受け続けると、子どもは無気力なうつ状態になったり、自分が自分でないような解離症状をおこしたりします。
「自己」という境界線をいつも他人から犯されているので、自分と他人という境界線がなく、思春期後期から青年期以降、暴力の加害者か、被害者になりやすくなります。
反対に、自分と他人の間に強固な壁をつくって、人を信用せず、自分の考えや感情を人と共有できなくなります。
*-133 自分が叩かれた行為をしてみることで、自分におこなわれたことはなにかを確認する行為ということです。
そのため、「どうして、叩いたりするの?! 友だちを叩いてはダメでしょ!」と叱られても、なぜ、叱られるのかを理解できないのです。
なぜなら、自分を叩く親は、叩いたあと、ダメともいわれないし、叱られることもないからです。
*-134 「反社会性人格障害(サイコパス)」については、「Ⅰ-6-(3)サイコパス(精神病院、反社会性人格障害)」、「Ⅱ-22-(11)-⑤反社会性人格障害」で詳しく説明しています。
*-135 「人を人としてではなくモノとしか見ることができず、危険な殺人者になった」事件は、「Ⅱ-21-(6)性的サディズムと人格障害などが結びついた誘拐監禁・殺害事件」で詳しく説明しています。

ア) 発達への影響
 ・外傷体験
 ・信頼感の低下
 ・罪悪感による自尊感情の欠乏
 ・愛情と暴力の混同
 ・暴力による解決方法の学習
イ) 精神的な影響(症状)
 ・外傷による障害..記憶の問題(記憶の侵入、記憶の抑圧など)、生理的防御(睡眠妨害、過度の警戒、易刺激性など)、心理的防御(精神活動の低下、抑圧、孤立化、二分化など)
 ・虐待者への同一化..自傷行為、自殺願望、幻聴
 ・自己調整能力の低下(ネグレストを参照)
 ・抑うつ感情..楽しむ能力の低下、学習能力の低下
 ・無力感
 ・行為への障害..弱いものへの暴力、反社会的行為

C) 心理的虐待による発達の障害
親が子どもの達成感を認め、支援することは、子どもの知的、心的、肉体的発達を助長します。
反対に、子どもの達成感を奪う、なにをしてもほめない、いやみをいう、からかう、子どもの顔や肉体の特徴をあざ笑うなどは、子どもの自尊心を大きく傷つけることから、うつ症状をおこしたり、リストカットやOD(過剰服薬)といった自傷行為をしたり、過食嘔吐や拒食(摂食障害)の原因となっています。
直接痛い目にあわなくても、子どもの心の傷として長く影響を及ぼすのが、その父親が母親に暴力をふるっているのを目撃したり、怒鳴り声や悲鳴などを毎日のように聞いたりするなど、暴力のある家庭環境で暮らすということです。
重要なことは、子どもの脳に慢性的にCRFを増やし、うつやC-PTSD症状をおこす原因となるのは、子どもが暴力のある家庭環境で暮らしていることだけでなく、学校園などでいじめを受けた子どもに対して、教職員が適切な対応を怠り、いじめ被害を慢性化させることも原因となるということです。
  心理的虐待の影響は、大脳皮質側頭葉にある「聴覚野」の一部の容積が増加するなど、正常な脳の発達を損ないます*-136。
その脳の肥大、萎縮などの影響は、身体的虐待を凌ぐものです。
*-136 親の不適切なかかわり、つまり、虐待行為が、子どもの脳の発達にどのような影響を及ぼすのかについては、「Ⅱ-12.暴力を受けて育った子どもの脳では、なにがおきているか」などで、詳しく説明しています。
ア) 発達の影響
 ・自己否定感
 ・心的外傷体験
 ・信頼感の欠乏
 ・善悪の混乱
イ) 精神的影響(精神症状)
 ・自尊感情の障害..抑うつ、自己破壊行動、学習の問題
 ・自己感の発達障害(ネグレスト参照)
 ・他者関係の障害..孤立傾向、他者への希求と回避
 ・心的外傷による障害(身体的虐待を参照)
 ・自己調整能力の障害(ネグレストを参照)

D) 性的虐待による発達の障害
性的な虐待ほど、人の魂を破壊する虐待はありません。
子どもの魂に、焼け爛れるような消えない刻印を背負わせることになります。
穢れのない、普通の子どもには戻れないと嘆き、自分を呪いながら生きていかなければならない苦痛を抱えさせます。
自分が親から受けたのは性的虐待ではなく、単なる自分の受け止め方が歪んでいるのだと自分を責めながら苦しんでいる被害者は少なくありません。
家庭という神聖な壁の中でおこる愛着の対象者(父親、母親、祖父、祖母、兄、姉、近い親戚)などからの性的虐待は、加害者から「逃げたい」という気持ちと、「愛されたい」という気持ちが重なり合って、子どもにとってもっとも混乱させられるできごとになります。
特に、愛着の対象者である加害者に、「お前が可愛いから(大切だから)するんだよ。」とか、「これは2人だけの秘密なんだから、誰にも話してはいけないよ。」などといわれることで、子どもは“秘密を守る責任”と“秘密を持つ罪悪感”に挟まれ、助けを求めることもできず、大変な孤立感、孤独感を味わうことになります。
さらに、子どもが幾らかでもその行為に気持ちよさ(快感)を感じていると、子どもの魂はこれ以上ないほどのダメージを負うことになります。
反応している自分はなんて罪深いのだろうと、自分を呪います。
性的な行為に気持ちよさ(快感)を感じてしまっても、子どもには罪はありません。
殴られれば痛さを感じたり、かさぶたをはがすのがなんだか痛気持ちよかったりするのと同じように、人は触れられれば一定の感覚が呼び覚まされます。
それは、生物としてあたり前の反応であって、罪ではありません。
第5章(暴力のある家庭環境で育った子どもと母親のケア)の「Ⅳ-38.DV加害者プログラム。「ケアリングダッド」を実施するうえの原則」の冒頭で、『性的虐待を行った父親は、「ケアリングダッド」に入ることはできない。』とし、その理由を、『性的虐待をしたときには、父親としてのかかわりを見直す以前に、性犯罪者としての処遇を受ける必要があるから』と記しているとおり、性的虐待をする存在こそを責められ、罰せられるべきであって、幼い被害者に責任転嫁しようとする卑劣ないいぐさを決して許してはならないのです。
思春期の自殺、自傷行為(リストカット、OD(過剰服薬)など)、過食・拒食症(摂食障害)、解離性障害、解離性同一性障害(多重人格)の最大の原因が、子ども時代の性的虐待です。
虐待のないときの「昼間の私」と虐待を受けている「夜の私」が解離し、統合した「自我」の確立を妨げることになります。
しっかりと足が地についているという現実感が乏しく(視床の機能低下)、「ふわふわと目的もなく漂っている感じ」に包まれています。
愛着の対象者を拒みきれず、自己防衛の方法を習得しなかったことと、初潮が早まるなど、女性ホルモンを他の女性の5倍も多く分泌することから早く大人びてしまうことから、変質者につきまとわれたり、痴漢にあったり、セクシャルハラスメントなどの被害者になったりするリスクが高くなります。
ここに、虐待被害者として、アタッチメント獲得を損なっていることを起因とする自己と他の境界線の分離ができていない状態が重なり、思春期後期から青年期以降、自尊心をくすぐられたり、自己肯定されたりする優しく甘いことばに誘されてレイプされたり、交際相手や友人・知人からデートレイプされたりするなど、2次被害ともいえる性暴力被害を受けるリスクが高くなります。
ここにも、被害女性に問題(原因)があるのではなく、幼児期に性的虐待をおこなった加害者こそ、被害女性に2次被害を招いた真の加害者ということになります。
また、性的虐待は子どもにとって、受入れられることのできないほど嫌な思い出であるため、記憶の奥にしまい込んで、一見なにもなかったかのように生活を続けていくこともあります。
これは、解離症状のひとつです。
実際にデートや結婚などで、急に記憶が復活し、PTSDの症状がでてくることがあります。
そして、性的虐待の治療が遅れると、自我の統合の未発達や罪悪感、嫌悪感からくる自殺、自傷行為が見られ、境界性人格障害(ボーダーライン(Borderline Personality Disorder;BDO))」、解離性障害、解離性同一性障害(多重人格)を発症するリスクが高くなります。
ボーダーラインは、「Ⅰ-5-(5)-⑥境界性人格障害(ボーダーライン)」で詳しく説明しているとおり、不安的な自己-他者のイメージ、感情・思考の制御の障害、衝動的な自己破壊行為などの特徴があります。
「見捨てられ不安」が常につきまとうため、繰り返し寂しさや怒り、むなしさ、絶望感、孤立感、自暴自棄感情に襲われます。
それは、まるで泣き叫ぶ赤ちゃんと見間違うばかりの状態です。
いったん相手を信頼できると思い込むと、見捨てられないようにひたすらしがみつこうとします。
相手が困り果て、避けようとすると、一転して激しい怒りをぶつけたり、引き止めるために自殺しようとしたりします。
また、性的虐待の加害者になる人たちは、男性が圧倒的に多く、一方で、必ずといっていいほど幼児期に性的虐待を受けています。
早期の性的虐待で、脳幹の奥にある性欲や快感の場所が異常に発達しています。
そのため、被害者から加害者に転向し、家庭内の性的虐待が世襲されていってしまうことになります。
そして、早期の性的虐待により、脳幹の奥にある性欲や快感の場所が異常に発達してしまうことが、マスターベーションを止められなくなったり、ゆきずりの相手とのセックス衝動を止めることができなくなったり、薬などを使った強烈な快感刺激を求めたセックスに溺れてしまうことになったりするセックス依存症を発症させることになります。
強烈な快感刺激を求めることが、性的倒錯(パラフィリア)としての性的嗜好、性的サディズムやマゾヒズムを生みだすことになります*-137。
*-137 「性的倒錯(パラフィリア)としての性的嗜好」、「性的サディズムやマゾヒズム」については、「Ⅱ-21.パラフィリア(性的倒錯・性嗜好障害)」で、これらの嗜癖を背景とした性暴力については、「Ⅰ-6-(6)性的サディズムを示す刻印という“儀式”」、「同-(7)パラフィリア(性的倒錯・性嗜好障害)の夫による性暴力」、「同-(8)性的サディズム、露出性愛者の夫による性暴力」で詳しく説明しています。
ア) 発達への影響
 ・外傷体験
 ・愛情と性の混同
 ・受容できない現実
 ・秘密を守る負担
 ・「穢い」という自己認識
 ・身体への過度の関心
イ) 精神的影響(精神症状)
 ・外傷による障害(身体的虐待を参照)
 ・抑うつ(身体的虐待を参照)
 ・自尊感情の低下..(自分を)穢いと思う、無力と思う
 ・ファンタジー傾向..白昼夢、虚言
 ・身体化障害..過食・拒食など
・性行動の障害..過度の性行動、性的誘惑、性的関係への過度の不安、異性への希求と回避

 暴力のある家庭環境で育つということは、程度の差は別として、以上のような「発達の障害」が少なからず存在するということです。
  この「発達の障害」の“延長線上”に、対人関係にパワー(力)を持ち込み支配したり、パワー(力)に屈し、従順に従ったりする特性があるということです。
  そして、対人関係にパワー(力)を持ち込む者、つまり、加害行為に及ぶ者が、被害者に示す“認知の歪み(間違った考え方の癖)”は、以下の2点に集約できます。
ア) 自分本位、自己中心的で身勝手なふるまいをおこなっても(強いても)、悪いことをしている自覚(罪悪感)を持ち合わせていない
イ) 人の気持ちを考える、思いやる、気遣うことといった共感性を獲得していない
* 共感することと、機嫌を損なわないように、意に添うようにすることとは違います。

② 相反する拒絶と受容の言動やふるまい
DVの本質は、「本来対等な関係である交際相手や配偶者との間に、上下の関係、支配と従属の関係を成り立たせるために、パワー(力)を行使する」ことです。
つまり、パワー(力)により恐怖を与えることで、上下の関係、支配と従属の関係性を構築するわけです。
そのためには、「Ⅰ-8.被害者心理。暴力でマインドコントロールされるということ」で詳述しているとおり、人をコントロールするためのさまざまな“術(すべ)”に長けている必要があります。
その基本軸が、「“相反する拒絶(怖さ)と受容(優しさ)」の言動やおこないを繰り返し、思考を混乱させ、思考をコントロールすることです。
拒絶には、無視する、反応しないといった態度も含まれます。
「相反する拒絶と受容の言動やふるまい」とは、以下のような行為です。
a) 怒鳴り散らしり、暴行(身体的暴力)の直後であっても、優しい(甘い)ことばをなげかけてきたり、セックスをしようとしたり、無視したり、拗ねたりする(予想していないことをいわれると黙り込み、しばらくすると怒りをあらわにしたかと思うと、優しくふるまったりする)*
* 典型的な「相反する拒絶と受容のふるまい」です。
一方で、暴力の直後に、なにごともなかったようにふるまうときには、(自己正当化型)ADHDの障害の特性によると考えるのが妥当です。

b) 別れ話が持ちあがると、言動やおこないを徹底的に批判し、一方で、家をでて行かれると、下手にでてみて、なびいてこないと怒りをあらわにしたり、(普段はセックスレスであっても)セックスに持ち込んできたりする*
* 典型的な「相反する拒絶と受容のふるまい」です。
暴力に耐えきれなくて、子どもを連れ実家に身を寄せているとき、「子どもに会いにきた」という口実で、なにごともなかったかのように実家に会いにきて、食事をしていったり、泊っていったり、さらに、子どもに会いにきて、勝手に連れだし実家に泊らせたりしながら、別居状態をうやむやにして、元の鞘に納めてしまうときには、この行為の背景にあるのは、(自己正当化型)ADHDの障害の特性と考えるのが妥当です。

c) 実家に逃れたものの、「もう、暴力はふるわない」、「嫌がることはしない」と謝られ、そのことばを信じて戻ってみると、逆らった(裏切った)罰としての“こらしめ”、しつけ直しとしての暴力を強める*
* 典型的な「相反する拒絶と受容のふるまい」です。
d) (特に子どもに対し)怒鳴ったり、叩いたあと、“くすぐったり”し笑わせ、遊びに持っていき、“怖い”と“楽しい”を共存させたりする*
* 典型的な「相反する拒絶と受容のふるまい」です。

③ 自己顕示欲が高く、自分本位、自己中心的である
加害行為に及ぶ者は、収入や地位、職業、学歴に関係なく存在しています。
高学歴で、難関試験(医師、歯科医師、獣医、弁護士、税理士、公認会計士、公務員、教師など)と突破し専門的な職業に就いていたり、上場企業にエリート社員として勤務していたりしている者には、少なからず自己顕示欲が高いという特徴があります。
自己顕示欲は、自分本位、自己中心的な考え方に通じるものです。
  高学歴で、加害者行為に及ぶ者が育った家庭環境に共通する特徴は、学校や習いごとの成績がよいことだけを認める、勉強(習いごと)以外の成果には価値を見いださない、親の考え、価値観以外は認めないということです。
  こうした支配的な家庭環境にある子どもは、いき過ぎた教育、過干渉・過保護、厳しい教育、そして、面前DV(心理的虐待)被害を受けて育っているということです。
つまり、子どもは、強い抑圧を受けて育っていることです。
その強い抑圧を受けて育った子どもが、成長すると、勤務先でハラスメント行為に及んだ理、交際相手や配偶者にDV行為に及ぶリスクが高くなるわけです。
一見理知的な紳士に見え、人あたりがよく、誠実そうであっても、家庭内では、妻や子どもに対して信じられない暴力をふるっていることがあります。
また、どこへ行くにも家族と一緒で、子煩悩な父親に見えても、実際は単に妻や子どもを詮索干渉し、束縛し、監視することが目的であることもあります。
このようなDV加害者は、理屈っぽく、自己の暴力を否認し矮小化し、暴力行為に及ぶのは、妻や子どものせいだ!と責任転嫁し、自己の行為を正当化しようと試みます。
ところが、妻や子どもが家をでると、一転して不安になり、憤激し、狂ったように執拗に探し回ります。
  つまり、収入や地位、職業、学歴は、加害行為には関係なく、異常に自己顕示欲が高い人物は、自分本位、自己中心的な考え、ふるまいになることから、職場ではハラスメント行為に及んだり、学校では体罰行為に及んだり、家庭では、交際相手や配偶者へのDV行為に及んだりするリスクが高いことになります。
  異常に自己顕示欲が高い、自分本位、自己中心的な考え方にもとづき、加害行為に及ぶ者に共通する暴力のあり方を整理したいと思います。
a) すべて自分本位にものごとを進めようとし、思い通りにことが運ばなかったり、気に入らないことがあったりすると(子どもたちの前でも)怒鳴り散らす*
* 暴力のある家庭環境で育った被虐待者の中には、子どものときに思い描いていた理想の家庭像(ドールハウス)をつくりあげ、頭に描いているとおりにものごとが進まないことが、“突然”、“豹変して”怒りだす原因になっていることがあります。
これは、アスペルガー症候群の手順へのこだわりによるものではなく、パラノイア(偏執病、被愛妄想)、妄想性人格障害を発症している者に見られる傾向のひとつで、病的に嫉妬したり、執拗に執着したりすることから、ストーカーリスクは高くなると考える必要があります。
b) 怒りの感情をコントロールできなくなると、(妻が妊娠していても)躊躇することなく、投げ飛ばしたり、殴ったり、蹴ったりできる*
* 我を忘れたように殴り続けるのは、2歳10ヶ月までに、怒りの感情、暴力衝動をコントロールする脳機能を身につけていないことを示しています。
  ここでいう脳機能とは、扁桃体を前頭葉でコントロールすることです。
扁桃体は、情動的なできごとに関連づけられる記憶の形成と貯蔵における主要な役割を担っています。

c) あらゆることに詮索干渉し、しつこく干渉し、必ず否定し批判する*
* 交際後、婚姻後にDV行為がみとめられる場合、交際時に、仕事の終わり、同僚や友人との飲み会(食事や買い物、映画、コンサート、出張に行くなどを含む)のときに迎え(送り迎え)にこようとしたりするのは、「監視」の意味合い、つまり、つきまとい・ストーカー行為ということです。
  背景にあるのは、暴力のある家庭環境で育ち、アタッチメントのトラブルを起因とする「他人だけでなく、自分を信用できず、猜疑心に囚われている」ことです。
  さらに、事例78-83のような病的な詮索干渉、束縛に至っているときには、「①*」と同様に、パラノイア(偏執病、被愛妄想)の可能性が高くなります。

d) “からかい”“ひやかす”“はやしたてる”など執拗に嫌がること繰り返す*
* からかい、ひやかし、はやしたてる行為は、典型的な「いじめ」の行為で、高いサディスティックさを示すものです。
e) 裏づけられた自信がない(自己肯定感が低い)ために、人のおこないを認め、ほめることができないので、ア)一方的に、言動やおこないのすべてを否定、非難、侮蔑、卑下する*。その行為は、過去のことを繰り返し持ちだすなど、執拗で、徹底的におこなう
 また、イ)不利(困った)な状況になったときには、自分に都合がいい状態に持っていく、つまり、相手を批判できる話にすり替えてしまう
* 人を認めること、ほめることは、“負ける”“屈する”ことと認知しています。
  この認知は、暴力のある家庭環境で育っていることを明確に示すものです。
なぜなら、勝つか負けるか、敵か味方か、好きか嫌いかといった二者択一的な解釈しか存在していない環境でつくられる概念だからです。
表面的な上辺だけで、裏づけられたものでないことを見透かされないために、おこないを否定し、批判・非難し、侮蔑し、卑下することばで自尊心、自己肯定感を奪っていかなければならないのです。
また、ツラい、苦しい、哀しいと口にすることは“強くない”ことです。
強くないことは弱いこと、つまり、負けることを意味します。
そのため、被害者である妻がツラい、苦しいと暴力を止めて欲しいと訴えるふるまいは、“負け”を認めることを意味するわけです。
加害者は“勝ち”を自覚するよりも、なぜそんなに簡単に“負け”を認めるのかが理解できないことから、直ぐに負けを認めるその愚かな妻をとるに足らない奴とバカにし、見下します。
f) 家の外では人あたりがよいなど外面がよく、一方で、世間体を気にする。上辺だけの格好のよさにこだわり、偽り、嘘の話で塗り固めている*。その場だけ、恰好がよければ(自慢ができれば)いいので、一貫性はなく、コロコロと変わる。
* 社長だとか、役員や部長だと認識している社員や部下、顧客に対し、必要以上に威張ったり、見栄を張ったり、大声で怒鳴り散らしたりする姿は、滑稽で、情けないものです。
社員や部下、顧客にどう見られているか不安なために偉く見せようと、立派に見せようと虚勢を張る必要がでてくるのです。
人を信用できない、自分も信用できないといった自信がない人ほど、上辺だけの格好よさをとり繕うとするものです。
偉いと思われたい、敬われたい思いを満たそうとする上辺だけの格好よさを見せびらかす(虚栄心にみまわれた)人たちは、自分の考えや言動に対し、意に反するふるまいや言動を徹底的に排除する、許さないのです。
徹底的に服従、自分のためだけに尽くすことだけを求めます。
暴力は、“俺”が上で、“おまえたち”は下であることの支配従属関係を確認する、思い知らせるためのおこないです。
「お前は、俺のいうことをきいていればいい!」、「こんなこともわからない(できない)のか!」、「自分で考えろ!」と声を荒げる人たちは、そもそも自信がないのです。
そして、その解を持って(きちんとした知識や技能を習得して)いないのです。
普段、俺はなんでもできる、なんでも知っていると精一杯見栄を張っている(虚像の中の私を演じている)人たちは、その偉く賢い“俺”の姿が偽その不安感や恐怖心を拭い去るために、“俺”を危険に晒している相手を徹底的に叩くのです。
はむかったり、口ごたえしたりできないように、時には、跪き許しを請うまで、徹底的に傷めつけるのです。
そうしなければ、虚像(嘘)がいつかバレてしまうのではないかと不安で仕方がないのです。
不安感は、怖れとなり、暴力によって猜疑心を拭い去ろうとするのです。
嘘で、ちっぽけであることがバレることを怖れます。

g) 妊娠し、子どもが生まれると暴言がひどくなるなど、子どもの世話をすることに嫉妬し、気を惹くために幼児のように駄々を捏ね、癇癪をおこしたりするような暴力をふるう
* 妊娠・出産という関係性の変化を受け入れられないことで、暴力行為がはじまっているときには、アスペルガー症候群の障害の特性であると考えるのが妥当です。
  妊娠・出産のタイミングに関係なく、暴力行為がおこなわれていたり、その他の典型的な暴力行為が認められたりするときには、アスペルガー症候群の障害の特性以外の可能性を見極めることになります。

h) 乳幼児のときは、ただ面倒な厄介な存在として極端にかまうこと(接すること、世話をすること)を嫌う。
しかし、子どもがことばを覚え会話がなりたってきたり、身の回りのことができるようになったりすると、必要以上にかまいだし、いうことをきかない(黙らない)とどうなるかを思い知らせるために恐怖を植えつける*
* 過度に干渉したり、甘やかしたりする行為(過干渉、過保護)は、禁止と否定のことばが使われるため、支配のための暴力(虐待)そのものであり、また、しつけを厳しく、教育熱心という名の下で、怒鳴りつけたり、罵倒したり、叩いたりする行為は、当然、支配のための暴力(虐待)になります。

④ 命を守ることを最優先に考えなければならないDV
  ①-③で示される加害行為に及ぶ者に見られる典型的な特徴に加え、
ⅰ) 執拗にいたぶることで、嫌がる姿、痛がる姿にこのうえない快感を覚えるといった高いサディスティック性と
ⅱ) 嫉妬心や嫉妬心(独占欲)が異常に高く、気持ちを無視した性行為を強い
ⅲ) 一度でも、首に手をかける(首を絞めた)ことがある
ときには、もっとも危険なDV事件と認識する必要があります。
それは、別れ話を切りだしたり、家をでて別居をはじめたりしたとき、ストーカーリスクが非常に高くなります。
つまり、「命を守る」ことを最優先に考える“対応”をしなければならないということです。
それは、判断や対応を誤ると、命に危険が及ぶということです。
「高いサディスティック性」の有無は、日々の生活の中で、指図されて戸惑ったり、どうしていいかわからずジタバタしたり、嫌がったり、恐怖におののたりする姿を見たり、声を聞いたりすることを楽しんいるかどうか、また、他人の前で声高らかに「お前はバカか!」と怒鳴りつけたり、「お前は本当に役に立たないな! 足手まといなんだよ。」と愚弄したりして恥をかかせたりしているかどうかで見極めることができます。
絶対君主的な“主人”に、従順に尽くし、絶対忠誠を誓わなければならないのは、耐え難い屈辱です。
サディスティックな人物にとって、耐え難い屈辱を味わせられる状況は、優越感に浸り、王様気分を味い、満足感に浸れる至福のときです。
問題は、アタッチメントを損なっていることから、ころ合いとか、さじ加減といった感覚はわからないことです。
つまり、「満足する」という感覚がわからないのです。
人にどれだけひどい思いをさせているのか、人がどれだけ苦しんでいるのかなどに思いを馳せることはできません。
一方で、常に不安で、常に猜疑心いっぱいで、誰がどのように接しても、どれだけ尽くされても、心が満たされることはありません。
「見捨てられ不安」を起因とする不安感、猜疑心、恐怖感は、人格の歪みを生じさせ、愛着障害を起因とするサイコパス(精神病質者、反社会性人格障害)、そして、パラノイア(偏執病、被愛妄想)、妄想性人格障害、ボーダーライン(境界性人格障害)と結びついています。
そのため、交際相手や配偶者が別れ話を持ちだしてきたり、離婚したいといってきたりしたとき、別れる(裏切る、見捨てる)ことを受け入れず、徹底的に執着することになります。
その結果、殺傷事件に発展しかねない執拗なつきまとい・ストーカー行為に及ぶことになります。
加害行為に及ぶ者の特性や傾向が、どのような態度や行動、どのような言動に表れているのかを把握しておくことは、別れ話を切りだしたり、家をでたりしたあとのストーカーリスクを判断するうえで、とても重要です。
さらに、離婚調停などで、「暴力を認めず、離婚に応じようとしない」ときや、“一時保護”されたり、“接近禁止命令”が発令されているときに学校などに「居場所を知りませんか?!」、「子どもに会わて欲しい」と問合せがあったときの対策を考えたりするうえでも、欠かせない問題です。
加えて、加害行為に及ぶ者に、サディスティックな言動はふるまいが認められるときには、性癖や性倒錯(性行動)の状態や傾向について詳細な把握が必要になります。
これらは、「Ⅰ-6-(4)MNPD(悪性の自己愛性人格障害)」、「同-(5)パラノイア(偏執病、被愛妄想)」、「同-(6)性的サディズムを示す刻印という“儀式”」、「同-(7)パラフィリア(性的倒錯・性嗜好障害)の夫による性暴力」、「同-(8)性的サディズム、露出性愛者の夫による性暴力」で示される暴力性の有無で見極めることができます。
加えて、被害者が深刻な性暴力被害を受けているかどうかの見極めは、被害者が暴力による支配の関係性を断ち切り(離婚し)、暴力で傷ついた心のケア(後遺症の治療)にとり組むうえでも重要なことです。
また、注視が必要なのは、加害者の多くは雄弁ですが、逆に、無口で、一見、依存性が高そうに見える加害者です。
「依存性が高そうにみえる」のであって、「依存性が高い」わけではなく、無口であることは、別のいい方をすると、無視したり、無反応であったりするということです。
重要なことは、被害者にとって、この無口な状態は、「拒絶されている」とのメッセージを受けとる行為になるわけです。
被害者にとって、「無口」、つまり、ほとんど意思表示のない状況は、耐えられない苦痛です。
加害行為に及ぶ者は、「無口」であることによって、なにもいわなくとも、勝手に意を汲み、ちゃんと世話をしてくれることを認識しているわけです。
  つまり、意思表示をしないと、人は、なにを考えているかわからず不安になるという心理を巧みに利用した行為です。
不安がもたらす“うまみ”を、知り尽くしているわけです。
「無口である(自分の考えを長々と話すことはしないだけで、「イヤ」、「ダメ」、「しない」など、否定と禁止のことばを使って明確な意思表示をしています)」ように見える加害者は、憤りや怒り、恨みを内在化させ表面化させないことから、復縁を求めたものの拒まれたり、逃げた居所をつきとめたりしたとき、殺害しようとするなど極端な行為に及ぶことがあります。
つまり、いきなり過激な行為に走ることもあるとの認識が欠かせないのです。
被害者だけが、加害者の不気味さに強烈な恐怖を抱いているものの、周りの人たちが「そんなようには見えない」とか、「そんなことしないんじゃない。心配し過ぎじゃない」などと危機感がなく、最悪の事態を招きやすいパターンは、こうしたタイプの加害者であることを理解しておくことが重要です。
いきなり過激な行為に走る可能性があるかどうかを見極めるためには、日々の言動やふるまいなど詳細な情報が必要です。


(2) DV加害者の認知にもとづく言動・行動パターン
「Ⅰ-4.別れ話が発端となるストーカー事件」で詳述しているとおり、元交際相手や元妻に対する凄惨なストーカー事件が繰り返し発生していることから、加害者に対してのアプローチ(加害者更生プログラム)のあり方が注目されています*-138。
それは、人とどうかかわるかといった認知、つまり、“認知の歪み(間違った考え方の癖)”に対しておこなわれるものです。
つまり、人の言動や行動に、“認知の歪み(間違った考え方の癖)”を示す言動・行動パターンが認められるときには、加害行為に及ぶ者である可能性が高いことになります*-139。
加害行為に及ぶ者の特徴は、「Ⅰ-11- (1)DV加害者に共通する暴力のあり方」で示しているとおり、「自己顕示欲」が異常に高いことです。
自己顕示欲は、自分本位、自己中心的な考え方にもとづく言語体系は、強烈な自己主張、独自的な持論を延々と述べるなど、特徴的なものです。
特に、特徴的な言語体系は、第1に、相反する受容と拒絶の言動・ふるまいを繰り返していること、第2に、「感受性訓練の要素を組み込んだ手法に似通っている論理構成」がされていることです。
第1の「相反する拒絶と受容の言動・ふるまいを繰り返す」は、「Ⅰ-11-(4)妻が別れを切りだし、家をでたあとのDV加害者のふるまい」で、詳しく見ていきたいと思います。
第2の「感受性訓練の要素を汲み込んだ手法に似通っている論理構成は」、「Ⅰ-8-(7)自己啓発セミナー。それはカルト活動の隠れ蓑」で詳しく説明していますが、あらためてポイントを整理しておきたいと思います。
感受性訓練とは、「地獄の特訓」で知られる「自分の気持ちに素直になれる」という名目のもと、非日常という状況下(合宿形式)でおこなわれるものです。
「自己啓発セミナー」としておこなわれていた内容は、感受性訓練そのものです。
それは、「閉ざされた空間で、課題(ゲーム)や自己告発(シェア)を繰り返して一体感や高揚感を煽り、とり込んでいく」のが特徴です。
“自己告発”とは、「わたしのここが悪い。これからは、わたしはこうしていきます」と意図的に思い込まれたメッセージを声高々に宣言させ、心にとり込ませていくことで、マインドコントロールには欠かせないプロセスであるとされているものです。
感受性訓練の要素を組み込んだ手法は、
a)「理想描写」..「夢・理想の世界」をいっしょに描き、われわれと行動すればそれが実現できると訴える、
b)「理論提供」..理想像をとくとくと唱える。「このような理論や法則がある」、「~先生の臨床データでは、…」などと裏づけ・根拠をひとつひとつ示しながら話す、
c)「現状把握」..ここで一度冷や水を浴びせる。「あなたは、こういう問題を抱えている(これまでのこうしたふるまいが悪いとか、中には、前世の因果応報(酬い)であるとか、顔相や手相が悪い、方位(風水)が悪いとか脅しながら)」と悪い、問題がある限定の現実を突きつけ、「理想はココ、今のあなたはココです」と理想と現実のギャップを示し、自己変革の必要性を認識させ、
d)「目標設定」..「小さな階段をコツコツ地道に上っていけば、あなたも理想に到達できる」とあるべき方向性を示していく、
e)「支援表明」..「私が、あなたを全面的に支援するから、理想を手に入れられるようにいっしょに頑張ろう」と一体感を感じさせる(許してもらうことを目的とした「~します」「~することを約束します」といった「決意表明」はオ)に該当します)、といった5つの手順の「型」で表されます。
基本的なマインドコントロール手法は、
ア)「思考操作」..「リーダーは絶対的な存在である」と刷り込ませることや、思想や理念をあたかも唯一の心理で正しい道だと思い込ませる
イ)「感情操作」..例えば、なにかに対して極端に罪悪感を抱かせたり、自分との生活でこそ最高の喜びを見いださせると思い込ませたりする。また、自分がなにか失敗をしても、それは自分の責任ではなく、遠まわしにでも妻のせいだと信じ込ませ、深く罪悪感を抱くようにもっていく
ウ)「情報操作」..余計な情報を遮断する。自分の主張が唯一無二であり、その他は間違ったものになるので、テレビの情報、親やきょうだい、友人と接することを禁じる
エ)「行動操作」..誰かと一緒に行動させたり、集団生活をさせたりすることで、行動そのものを手中に入れる。過酷な労働をさせたり、考える時間を奪ったりする、の4つの型で表されます。

ここでは、多くのDV加害者に認められる一人称による(自己主体)解釈ならびに主張や、強烈な自己主張、高い自己顕示欲が、どのようなことばや表現となって表れるのかを見ていきたいと思います。
共通する表現方法として、
ア)「きっと~だと思う(考える)。だから、~である。」と自己認識(仮説)でしかない考えをあたかも嘘偽りのない真実であるかのように話す(論じている)
イ) 受け入れられない(納得できない)事実や現実をつきつけられたとき、自分で受け入れられる(納得できる)理由や根拠を見つけだし、事実認識を置き換えてしまう
ウ) 会話の流れではなく、反応した“ことば”に対し説明は反論を試みる。
そのため、回答ごとに説明や反論が異なることになり、論点からズレ、話がすり替わり、一貫性がなくなってしまう
エ) 自分の考えは常に正しい。意に反するふるまいを許さず、自身の考え方と異なるものを独特の持論によって、否定し、非難・批判し、侮蔑し、卑下する。
  自己の過ちを認めさせ、自己変革を強く求める発言を繰り返す
オ) 敵か味方か、好きか嫌いか二元論的にものごとを捉え、二者択一で回答を求める
ことがあげられます。
「エ)の自己変革を強く求める」とは、「お前が悪いのだから、俺がしつけ直してやる」との考え方にもとづいています。
この考え方自体は、夫婦の関係に上下、支配と従属の関係性のもとで成り立つものですが、問題は、「自分は、そのおこないをするに値する人物である」との前提に立っているということです。
つまり、自身のおこないは正しく、正義のための行動と信念にもとづいています。
この正義のためという恩旗、信念にもとづいている「自己変革を強く求める」行為は、先の「感受性訓練の要素を組み込んだ手法に似通っている論理構成」に認めらるものです。
次に、自己の絶対性を自己の力だけでは誇示できない加害者は、スピチュアルな力や運命論を借りて自己を特別な存在であることを誇示しようとします。
こうした傾向が認められる加害者のときには、
カ) 運命論・神秘性さを随所に持ちだしたり、独自的なものごとの捉え方をし、時に強迫観念に囚われ、自己認識(仮説)でしかない考えを嘘偽りのない真実として論じていたりするといった傾向が認められます。
なお、以上のア)-カ)に示された「一人称による(自己主体)解釈・主張」にもとづく表現方法に示される特徴は、暴力のある家庭環境で育ち、アタッチメントの獲得に問題を抱えている者の特徴であることから、暴力のある家庭環境で育ち、再び、交際相手や配偶者から暴力被害を受けることになった者にも認められるものです。
なぜなら、「一人称による(自己主体)解釈・主張」は、自己と他の境界線があいまいなまま成長した人、つまり、自分と他人との距離感がわからない人に見られる謙虚な特徴です。
「自己と他の境界線があいまいなまま成長した」とは、アタッチメントの獲得に伴い、3-4歳ころから母子分離がおこなわれる成長のプロセスが、アタッチメント獲得に問題を抱えることにより阻害されているということです。
*-138「加害者更生プログラム」については、「Ⅳ-33.DV加害者更生プログラム。「ケアリングダッド」を実施するうえでの原則」で詳しく説明しています。
  また、“認知の歪み”に対するアプローチする「加害者更生プログラム」の受講により、加害者は更生できるのか、あるいは、暴力行為に及ばなくなるのか、という問題については、「Ⅰ-10-(9)危険な「きっと、加害者更生プログラムで変わってくれる」との考え」で詳しく説明しています。
*-139このことは、被害者が訴える夫からのDV行為が、殴る、蹴るなど身体的暴力被害を訴えるものではなく、家庭という密室の中でおこなわれ、提出できる証拠そのものが限られる精神的(ことば)暴力と性暴力被害を訴えるものである場合、家をでる前(同居しているとき)に夫との日々のやり取りを録音した音源データ(文字起こしをしたもの)、家をでたあとに夫から送られてきたメールに書かれている言動(使われていることば、文章表現)を詳細に分析し、上記のようなDV加害者の特性が認められるのか見極めることが重要であることを意味しています。
また、離婚調停で、夫が答弁書や主張書面、陳述書などを提出しているときには、併せて、それらの書面における言動(主張)の内容を詳細に分析し、メールの内容と書面での内容(主張)の食い違いなどを見極めていくことも重要になります。



(3) 妻が別れを切りだし、家をでたあとのDV加害者のふるまい
被害者が意を決し家をでたあと、DV加害者がどのような行動にでるのか、夫婦関係調整(離婚)調停でどのようにふるまうのかについて、3つの切り口で考えてみたいと思います。

① 家では暴力をふるい、外では愛想よくいい人を演じる“二面性”にふりまわされる
「Ⅳ-28-(3)妻が家をでたあと、DV加害者が送るメールなど認められる特徴」の冒頭で、『多くのDV加害者が家をでた妻に対し送るメールにも、夫婦関係に上下の関係、支配と従属の関係をつくりあげ、維持していくために必要不可欠な“相反する拒絶と受容”の言動パターンが顕著に表れます。
それは、家をでていった妻に対し、ⅰ)「受容から拒絶へ」の行動パターンか、ⅱ)「拒絶から受容へ」の行動パターンかで状況の打開(離婚の回避)を企てるということです。』と記していますが、典型的なⅰ)「受容から拒絶へ」の行動パターンを、次の事例182で見ていきたいと思います。

-事例182(DV96、分析研究18)-
私が家をでたあと、DV加害者の夫からの電話にでず、メールに返信しないでいると、「考え直してくれ! 俺が悪かった。」と夫の優しい声が留守電に何件も入っています。
メールにも同じ優しいことばがあふれています。
“これまで”何度も期待を裏切られてきているのに、「もしかして、今度は本当に変わってくれるかも知れない」との思いが、再び頭をかすめました。
1週間経ち、返信しようかなと心が揺れはじめたとき、低姿勢だった夫が突然、「テメエ。いつまでもそうやって隠れていて、どうなるかわかってんだろうな! ただですむと思うなよ。」と恫喝するメールが送られてきました。
やっぱり、夫は変わらないと絶望しました。
外で物音がすると、夫が居所を探しだし、連れ戻しにきたのではないのかと思いが頭をかすめ、一晩中、ドキドキし動悸とふるえが止まりません。
警察や女性センター、DV被害者支援をしている人たちから、「2人で会ったり、近親者を伴っての話し合いにも応じてはいけない。」、「電話にでたり、メールに返信したりしてはいけない。」との助言を受けていたので、連絡をしたい衝動を抑えることができました。
優しく甘いことばを信じなくてよかったとつくづく思いました。
やがて、電話やメールがピタッと届かなくなりました。
今度は、なにもいってこないことが無性に気なり、再び連絡をとりたい衝動に駆られました。
必死に堪えました。
しばらくすると、DV被害者支援をしている人が助言していたとおり、私と夫の共通の友人から電話が入り、「小さい子どももいるのだから、もう一度、話し合ってみたら…。近いうちに会って、話をしてみない?」となげかけられました。

近しい関係において、無視されること、反応されないこと、相手にされないことは、とてもツラく、耐え難いものです。
外部の人たちとのかかわりを閉ざされてきた被害者にとって、配偶者に無視され、会話をしてもらえないことはツラいことです。
暴力で支配される環境では、殴られたり、罵倒されたりすることより、「口をきいてもらえない」ことが耐えられないことになっていることが少なくありません。
なぜなら、強烈な“孤独感”に襲われることになるからです。
孤独感に耐えられなくなった多くの被害者は、自ら配偶者にすり寄り、媚び、状況の打開をはかろうとします。
しかし、このふるまいの結末は、強烈な敗北感を味わさせられ、自尊心を傷めつけられます。
この孤独感(見捨てられ不安)を回避するおこないは、「やっぱり私にはこの人しかいない」との確認行動の意味があります。
つまり、この確認行動は、暴力を受け続ける生活に留まっている“わたし”を正当化するためには、必要なのです。
なぜなら、そうしなければ、心が壊れてしまうからです。
事例182の夫がそうであるようにDV加害者は、無視していれば、向こうの方から連絡があり、謝ってきたり、媚びてきたりすると目論んで(期待して)います。
にもかかわらず、なにもいってこないと、心が穏やかではなくなっていきます。
その結果、「ふざけやがって。俺が本気になったらどうなるか思い知らせてやる!」と、加害者は苛立ちはじめます。
一方で、事例182の被害者は、多くの被害者がそうであるように、夫がなにもいってこないのが不気味で、夫はなにを考えているのだろうか?と不安になります。
しかし、DV被害者支援をしている人から、これから起こり得る可能性として、『「妻が子どもを連れて家をでて行った。どうしているのか心配で仕方がない。妻から連絡がありませんでしたか?(妻がどうしているのか知りませんか?)」と交友のあった人たちに電話をしたりして、居所を必死に探り回っている間はなにもいってこないときがありますよ。』と説明されていたので、連絡を入れるのを必死に耐えることができました。
そして、共通の友人から連絡が入ることになりましたが、これも、加害者の常套手段のひとつです。
それは、意図的に、友人や家族の同情心を煽って、“おびきだそう”との目論みによる行為です。
事例182では、このあと、夫は“これも”失敗したことを悟ると、“離婚されることを怖れていた(そう仕向けてきただけですが)”妻をこらしめる(罰を与える)ために、離婚調停を申立ててきました。
最初の離婚調停で、夫の意向を確認した調停委員に、事例182の被害者は、「あなたの夫は離婚するといっていますが、あなたはどうお考えですか?」と訊かれ、「離婚します。」と応えています。
調停委員を介して、離婚の意思が固いことを聞かされた夫は、離婚を受け入れ、「子どもの親権も妻に」ということで、あっさりと離婚が決まることになりました。
被害者は、このときの心境を「DV離婚経験者のプログを読んだりしたときに、婚姻破綻の原因はDVであるとする離婚調停では、話が拗れ、10ヶ月、15ヶ月と長びくこともあると書かれていたので、少し拍子抜けしました。」と述べています。
妻は、あとは慰謝料と養育費を決めるだけだと思い、足取りを軽く、第2回調停に向うことができました。
しかし、第2回調停で、夫は「離婚はしない。妻に騙され、子どもも連れ去られた。」と、前回の調停での主張を翻(ひるがえ)してきました。
かみ合わないやり取りが続いたあと、終了間近には、再び「やっぱり子どもには母親が必要だし、養育費も日々の生活を節約して、父親としてできるだけのことをしたい。」といいだしました。
一度、強烈に拒み、その後、調停委員の声に耳を傾け、被害者の主張に歩み寄ったりして、その場その場でいうことが変わります。
いっていることがコロコロ変わる状況に、調停委員たちが、最初に抱いた夫の印象が変わりはじめると、夫は「父親だから、子どものことを第1にしたい。」と身を引く発言をしました。
その結果、調停委員に対し、自分の発言がコロコロ変わったのは、「子どもと離れることの気持ちの整理ができずにいたからだった」と思わせることができました。
第2回調停において、夫は、調停委員に対して、子どものことを第1に考える“いい夫”、“理解ある父親”、そして、なにより“とうてい、暴力をふるうようにはみえない”というイメージ(印象)を植えつけることにみごとに成功しました。
加害行為に及ぶ夫にとって、「いい父親」、「恰好のいい男」と思われたい思いは、上辺だけの“虚像”であって真意ではありません。
暴力のある環境で育ち、アタッチメント(愛着形成)を損なっていることに起因する空虚感を、“いい人であると思われる”ことで満たそうとする“性(さが)”ということになります。
その空虚感は、強烈な“見捨てられ不安(恐怖)”となって表れることから、「絶対に俺から逃れること(俺を裏切ること)など許さない」との思いに心が支配されていることになります。
この見捨てられ不安を刺激されることが、支配のための暴力のエネルギーの源となるわけです。
一方で、言動パターンとして「いうことがコロコロ変わる」のは、これまでの状況や話の流れという“前提”を踏まえてことばを選び、話すのではなく、その瞬間に思ったこと、感じたことをそのまま口にするからです。
表面的な格好のよさをアピールしたり、物わかりのいい人をアピールしたりしたいと思ったときには、それに応じたことばを発し、俺を裏切りやがってと怒りが溢れてきたときには、怒りをあらわにすることばや離婚を拒むことばを発することになります。
つまり、「コロコロ変わる」というのは、「相反する拒絶と受容の言動とふるまいを繰り返す」ということです。
その結果、話を聞かされる側は、なにをいいたいのか、どうしたいのか真意がわからず戸惑い、混乱させられることになります。
ここまでは、加害者のいつもの勝ちパターン、つまり、セオリー通りです。
“これまで”の家庭生活では、この状況まで持っていくことができれば、妻をいい含めたり、謝らせたり、媚びらせたりすることができました。
ところが、家をでていったあとの妻は、なかなか動じません。
調停では、当初の目論みとは違うおかしな方向になり、離婚に同意してしまいました。
おかしいと苛立ち、このままではやばくなる、どうしようと不安になり、やがて、憤りとなり、怒りを抑えられなくなっていきます。
いい人を演じ続けたばかりに離婚が決まり、子どもが奪われたと怒りがふつふつと沸いてきます。
“絶対に許さない”と憎しみ、そして、やっぱり別れたくない(見捨てられなくない)思いが、交錯します。
つまり、“いい人と思われたい”虚像を演じてしまう私と、“逃げられて(見捨てられて)なるものか”という心の声の狭間で、加害者自身が“なにがなんだかわからなくない”、つまり、思考混乱をおこしてしまうのです。
「相反する拒絶と受容の言動やふるまい」により、相手に思考混乱をおこさせ、思考をコントロールすることができるはずが、これまでと違い、妻の心が惑わされずに動じないのです。
このことは、夫にとって、状況を打開する術(成功パターン)を失うことになり、一転して、どうしたらいいのかわからず、逆に、思考混乱をおこしてしまうことになったのです。
つまり、暴力のある家庭環境下での成功パターンは、暴力下でなければ、諸刃の剣になってしまったのです。
ところが、この夫は、思考混乱から脱する術を心得ていました。
それは、自分だけに都合のいい解釈をしたり、自分だけが納得できる解(真実)をつくりだしたりすれば、問題を解決することができるという考え方です。
それは、法律上の離婚が成立しても、俺の心は、妻と子どもとは別れていないという考え方です。
紙っきれでしかない離婚届けなんてくそっくらえ!
決めるのは、俺だ!
俺がルールだ!
「妻も俺といっしょで、本当は別れるつもりがないのに、弁護士や調停委員に騙されて、離婚に応じてしまっただけじゃないのか?!」、「弁護士や調停委員が介入しなくなったいまだったら、もう一度やり直せるんじゃないか!」という考え方です。
まず、居所を探しださなきゃならないなと考え、探偵事務所に相談しに行きます。
ここから、離婚が成立した夫からのストーカー行為がはじまることになります*-140。
*-140 暴力のある家庭で育ったDV加害者の中には、思春期以降、問題やトラブルをおこすたびに、すべて親が“後始末をしてきた(過干渉、過保護という支配)”というケースがあります。
こうした加害者の中には、“ある瞬間”に「面倒なことは止めた!」となり、新たなターゲットを探すことに頭をパッと切り替えてしまう者がいます。
ある瞬間に「はい。もう止めた。」と離婚に応じ、慰謝料や養育費を親に払ってもらって(尻拭いをしてもらって)、「あとは知らん。勝手にやってくれ!」と“かかわりを終わらせる”ことで、自分が裏切られたこと、拒絶されたこと、つまり、自己存在を否定された現実から逃げ(回避し)、自分が傷つかないように守りに入るのです。

② 家をでたあと、DV加害者が送るメールなどに認められる特徴
多くのDV加害者が家をでた妻に対し送るメールにも、夫婦関係に上下の関係、支配と従属の関係をつくりあげ、維持していくために必要不可欠な“相反する拒絶と受容”の言動パターンが顕著に表れます。
それは、家をでていった妻に対し、ⅰ)「受容から拒絶へ」の行動パターンか、ⅱ)「拒絶から受容へ」の行動パターンかで状況の打開(離婚の回避)を企てるということです。
DV加害者に「殴ってでもいうことをきかせてなにが悪い」と悪びれないときには、「永遠に俺に従順に尽くすのがあたり前、自分勝手なことをしやがって」と怒りが先にでることから、ⅱ)のパターンを優先します。
逆に、妻から暴力被害を訴えられ、家をでていったのはそのことが理由であることを自覚しているときには、「離婚される」と“見捨てられ不安”が強く表れることから、ⅰ)のパターンを優先します。
ただし、家をでていったのは自身の暴力に原因があると自覚していても、別れ(離婚)を受け入れることはできないので、本当の理由は他にあるのではないかと思いたがろうとして、「理由を知りたい」、「直接会って、理由を話してくれ」と執拗に接触を求めます。
それだけでなく、別れ(離婚)を受け入れることができず、「妻にこそ原因がある」と問題をすり替え、自身で納得できる理由をつくりあげ、しかも、その根拠としてしまいます。
そのため、妻が自分を裏切った、見捨てたとの怒りで、「俺こそが被害者だ」と自己のふるまいを正当化する方向に舵を切っていくことになります。
この時点で、頭の中は、「自分は一生懸命やってきたのに」と悲劇の主人公に置き換わっていますので、「俺はあんなに俺は頑張ってきたのに」と思いが報われなかった怒りに満ちあふれ、妻のふるまいを徹底的に非難し、誹謗中傷を繰り返していきます。
では、相反する拒絶と受容の言動パターンが、どのようなことばでおこなわれるのかを見ていきたいと思います。
ⅰ) 「心配している」、「帰ってきてくれ」、「連絡してきてくれ」と心に訴える–受容-
ⅱ) 逆に、自分が傷つき、食欲もなく、すっかり意気消沈した状況を伝え、「心配してもらおう」と気を惹いたり、また、気を惹くために「死んでやる」、「自殺する」と訴えたりする–気を惹く試し-
**ストーカーリスク「危険レベル」。
ここで、反応がなければ(状況が打開できなければ)、
ⅲ) 「ごめん。俺が悪かった。暴力はもうふるわない」、「お前がこうして欲しいということは、なんでもやる」、「だから、許して欲しい。そして、帰ってきてくれ」、「怖い思いはさせない(もう暴力はふるわない)から、連絡してきてくれ」と懇願する–受容(優しく甘いことば)-
** ストーカーリスク「やや危険レベル」)
それでも反応がなければ、
ⅳ) 「俺が下手にでて謝っているのに、無視し続けるってどういうことだ。バカにするのもいい加減にしろ!」と苛立ち、怒りをぶつける–拒絶(怒り)-
ⅴ) 家をでたり、離婚しようとしている判断は間違っていると説得を試みたり、これまでのいたらないおこないや悪いところをひとつひとつあげながら否定し、非難・批判し、侮蔑し、卑下し、自己変革を求めたりすることになる–拒絶(否定・非難、しつけ直し(マインドコントロール))-。
さらに、
ⅵ) 「どこにいても、絶対に見つけだしてやるからな」、「~にいるのはわかっているんだからな」、「お前は離婚なんてできないからな」、「お前は俺から逃れることはできないからな」と凄んでみせたり、「~までに帰ってこなかったらお前の荷物を全部処分してやるからな!」、「お前の両親にすべて話してやる」と脅したりすることも少なくない–拒絶(威圧・脅し)-
** ストーカーリスク「かなり危険レベル」
上記ⅰ) ⅱ) ⅲ) ⅳ) ⅴ) ⅵ)を大まかな別ないい方にしてみると、「謝り」、「優しくし、労り」、「怒りをぶつけ」、「突き放し(無視・無反応)」、「威嚇し、脅す」という言動・行動パターンとなります。
DV加害者は、こうした相反する拒絶と受容の言動や態度を、タイムリーな状況の変化に対応して、巧みに使いわけます。
また、脅しのことばが書かれたメールは“脅迫”の証拠になり、刑事告訴(被害届をだし、事件として起訴する)には必要不可欠です。
会っているときや電話であれば、会話を録音し、証拠の確保に努めるようにすることが大切です。


③ DV加害者が「謝る」という意味
上記ⅲ)にあるように、暴力をふるう人の「謝る行為」には、対人関係を良好に保つために自身のふるまいを悔い改める意図はありません。
つまり、自身が招いた困った状況を打開するためにおこなわれる術(すべ)・手段にすぎないということです。
なぜなら、DV加害者には、「良好に対人関係を保つ」という関係性は、“対等”とあると前提で成り立つという概念は存在していないからです。
人とのかかわることは、上か下か、支配するかされるか、力があるかないかという関係性でしか捉えることができないのです。
したがって、加害行為に及ぶ者には、自身の行為が悪かったと認め、謝るという行為は存在しません。
加害行為に及ぶ者が口にする「ごめん」ということばは、いまの面倒な状況、うっとうしい状況を早く終わらせるための“術”でしかないのです。
つまり、口先だけのことばです。
そのため、たとえ、「もうしないから、許して欲しい。」との“約束のことば”が添えられていたとしても、約束が守られることはないのです。
また、DV加害者の多くは、「事例180」の夫Oように、暴力行為による関係性の悪化を避けるために、「俺は変わる」、「俺は変われる」、だから、「心配しなくてもいい」、「安心して欲しい」、「信じて欲しい」ということばを多用します。
しかし、「心配させずに、安心させるふるまい」、「心配させずに、信用させるふるまい」が、どういう行為なのかを知りません。
なぜなら、育った暴力のある家庭環境には、“思いやる”“労わる”“安心”“信用”“信頼”という概念が存在していないからです。
存在していない家庭環境では、学び、身につけることができない、つまり、上辺だけのことばは使えても、行動で示すことはできないのです。
身につけているのは、困った状況を回避する、つまり、自己保身としてのその場をとり繕う(乗り切る)ことだけです。
つまり、「これからこうします」、「これからこういうことに気をつけて、~しないようにします」という実質的な思考習慣は、存在していません。
そのため、「ごめん」のあとに続くことばを持っていません。
「どうして、俺の気持ちをわかってくれないんだ!」と苛立ち、怒りに転換してしまったり、「ごちゃごちゃなにをいいたいのか、ちっともわからん!」と啖呵を切ってその場を立ち去ったり、なにも口にすることなく、黙り込んだまま部屋に閉じこもってしまったりするのです。
「謝る」という行為について、もうひとつ理解しておかなければならないことがあります。
それは、人が罪悪感を抱かされたとき、罪悪感を解き放つ(回避する)ための思考や行動が刺激される(促される)ということです。
この心理を巧みに利用する企みが、平身低頭になって「謝る」という行為です。
残忍な暴力をふるう者が、一転して、「ごめんなさい。」と何度も謝ったり、大袈裟に土下座をしてみせたり、「ごめんなさい。もうしません。許してください。」と泣いて訴えたりするということです。
これは、作為的な行為です。
なぜなら、人はこうした姿を見せつけられると、「こんなに謝っているのに、わたしは、許さないほど非常ではない」との罪悪感を解き放とうとすることを知っているからです。
「Ⅰ-8.被害者心理。暴力でマインドコントロールされるということ」で詳述している「意図的に感情を揺さぶり、その隙を突こうという行為」なのです。
つまり、不利な(困った)状況を打開するための“術”でしかないことから、この策に落ちれば、同じ過ち(迷惑なおこない)を繰り返すことになります。
約束が破られたことを咎めると、「あなたが勝手に許したのであって、俺は許してもらうことを強要した覚えはない。」と開き直り、「騙されたお前が悪いんだ! 相変わらずアホやな、お前は!」と侮蔑するのです。
こうしたDV加害者の考え方の根底にあるものは、自己利益だけ、自分だけが得をすればいいと身勝手な考え方です。
しかし、自己と他の境界線があいまいなまま(一人称しか獲得できていないまま)大人になっていることから、自分のものは自分のもの、妻や子どものものは自分のものという認識しかなく、二人称(あなた)、三人称の人たち(あなたたち)が困ろうが、哀しがろうが「知ったことじゃない!」のです。
自己と他が分離された概念の二人称、三人称が存在していないからです。

④ 気弱を装い、周りの同情心を操る
次は、DV加害者の「謝る」行為についての応用です。
事例182(分析研究18)は、『私と夫の共通の友人から電話が入り、「小さい子どももいるのだから、もう一度、話し合ってみたら…。近いうちに会って、話をしてみない?」となげかけられました。』という文言で終わっています。
この事例で、共通の友人が、被害女性に連絡をしてきたのは、夫が、家をでていった妻に連絡をとることもできない状況で、親戚や知人に居所を探る電話をし、涙ながらに「これまでのおこないをどれほど後悔しているのか、傷ついているのか。」と弱々しく、肩を落とし、滅入っている姿をわざとらしく見せつけ、気を惹こうとしたからです。
外面がよい一方、自分の思い通りにコトを進めるためだけに、いうことがコロコロ変わり、いったことに責任を果たさなければならないといった思いなど微塵もない演技性の高いDV加害者なら、人を欺くことなど朝飯前です。
暴力のある家庭環境で、虐待行為を繰り返してきた親に優しくしてもらえる数少ない機会が、具合が悪くなったり、病気になったりしたときだけだった者が、体験として身につけた術です。
優しくしてもらえる体験を通して、意図的に、具合悪くなったり、病気になったりすることを覚えていったわけです。
強烈なストレスを受けると、直ぐに心身が過度の反応を示すのが、習慣になっています。
この傾向が顕著に表れているのが「事例182」です。
「食欲がない」といい、10kg以上体重を落として、頬がこける姿を見せつけます。
これだけのことをしている自分自身の姿に酔い知れている間は、苦しくもツラくもありません*-141。
例えば、家に残って父親の世話をしている娘の同情をかい、娘が「お母さん。お父さんもこんどは本当に参っているみたいだよ。食欲もなく、げっそりしているし…。それに、お母さんがでていってから、ずっとタバコも止めているんだよ!」と母親に連絡するのをずっと待っているのです。
これらのふるまいの背景にあるのは、幼児が、親の“気を惹くため”の拗ねる演技の延長線上にあるので、「もう、大丈夫だよ」と安心させてもらえること、「よくやったね、頑張ったね」とほめてもらえることがモチベーションとなっています。
つまり、褒美をもらうことで、自己存在を確認する(承認欲求を満たす)ことです。
そのため、いつまで経っても褒美がもらえない、つまり、家をでていってどころ居所のわからない妻から連絡がなかったり、戻ってこなかったりすると、長距離走で息切れし、走るのを止めるように、突然、われに返る瞬間が訪れます。
「俺がこんなにしている(努力している)のに、なんだ!」、「下手にでていりゃあ、いい気になりやがって(つけあがりやがって)!!」と自分勝手な“報われない思い”に怒り狂うことになります。
つまり、先に示した「ⅰ」 ⅱ」 ⅲ」 ⅳ」 ⅴ」 ⅵ」」のように、a)弱々しく反省している姿を見せつけ、“状況”の打開(謝って、拗ねてみる)に失敗すると、b)「下手にでていればいい気になりやがって」と苛立ち、怒りを爆発させるわけです。
そして、次の“状況”の打開の手を打ちます。
それは、例えば、c)「俺の力を思い知らせてやる」と躍起になることです。
このときには、被害者の両親や近親者、友人や職場に対してなりふりかまわずに居場所を探しだそうとしたり、嫌がらせをしたりして、“状況”の打開(なりふりかまわず、癇癪をおこす)をはかろうとします。
DV加害者に対しては、「どう接してくるか」、「なにを仕掛けてくるか」に思いを馳せ、「どう演じてくるか」という“視点”で言動や行動の意図をつかまなければならないのです。
*-141 吐き気や発熱、発作などを巧妙に真似たり、時には、大便や小便に故意に血液を混ぜたりするなど演技的な要素を含む仮病・詐病に留まらず、インスリンを使って血糖値を下げるなど自分の体に影響のあるようなことまでして重大な病気を演出してまで、近しい人たちの気を惹こうとするときには、演技性人格障害、あるいは、ミュンヒハウゼン症候群が疑われます。
演技性人格障害については、「Ⅱ-22-(11)-⑦演技性人格障害」中で、ミュンヒハウゼン症候群については、「Ⅴ-34-(2)虐待を疑うということ」の「代理ミュンヒハウゼン症候群」で説明しています。


⑤ 「自殺」を匂わせて心を揺さぶり、別れる意志を阻害する
「Ⅰ-7-(2)デートDVから結婚に至る経緯」では、デートDV被害を受けながら、結婚に至ったケース(事例111-114)をとりあげ、事例116では、中学校の同級生であった夫と再会し、9年間に及ぶ遠距離交際を続けたあと上京すると、聞かされていた話が嘘と偽りであることに恐怖を感じ知人の家に身を寄せ、ストーカー行為による恐怖で別れることができず結婚に至ったケース、さらに、事例81では、深夜までの暴行(性暴力を含む)後に家をでたあと、夫から「家を燃やす。」、「死にます。」、「力入れたら刺さった。おまえは止める気もないのもよくわかった。」と自殺を匂わせるメールが届き、慌てて家に戻ったケースをとりあげました。
「Ⅰ-4-(1)-③特徴的な目的達成のための手段」で、人は「死」をかけひき(脅し文句)に使われると、別れる意志を阻害され、無力化してしまうことを理解していただくために事例57-58を提示しましたが、ここでは、加えて、2つのケース(事例)を見ていただきたいと思います。

-事例183(DV97、分析研究19)-
交際してまだ間もないとき、夫Pは、私に「昔、自殺しようとした。」とうちあけました。
以降、私はPに“自殺をされたらどうしよう”と考えるようになりました。
そして、Xjapan Hideの自殺が報道され、しばらくした深夜の電話で、Pは「いま、同じような方法で死のうと思ってやったけど死ねない。」といってきました。
私は慌てて、Pの家に駆けつけた。
しかし、ロープを吊るした痕跡等、自殺を試みた気配はありませんでした。
私(W)が、Pの実家に行ったとき、突然、「母親の返事の仕方が気に食わない!」と暴れだし、椅子を投げました。
止めに入った私は、Pに義母といっしょに土下座をさせられました。
この人に逆らったら、なにをされるかわからないと恐怖で、別れることなどできないと思いました。
結婚直前、Pは電話で「いまからお前の家に行ってやる!」と怒鳴り、私の実家に押しかけてきたこともありました。本当に、怖ろしかったです。
Pと結婚すると、Pは就寝中に、「テメエ、バカヤロー!」と怒鳴り声をあげたり、ワーワー喚き散らしたりすることがありました。
そして、Pはめまいを訴えるようになり、耳鼻科で紹介された大学病院でMRIを受けることになったとき、Pは、私に「つき添って欲しい。」といいましたが、私が「仕事もあるし」と渋ると、「俺がいわなくとも、自分からつき添うというのが女房だろ! お前は本当に酷い女だ!」、「あんな狭いところで、俺は閉所恐怖症だ!」、「お前に俺の気持ちがわかるか!」、「俺は本当に苦しんどるんだぞ!」と怒鳴り散らしました。
MRI検査などでは異常は見つからず、Pはメンタルクリニックに通院をはじめました。
Pは「俺は本当に自殺ぎりぎりだった」と訴え、「お前は俺を理解していない。お前じゃダメだ。お前なんかいらん。死ね!」と怒鳴りつけ、「ぶっ殺すぞ! 顔面グーで殴ったろか!」、「Y家を敵に廻すと怖いぞ。T家なんかあっという間だ!」、「俺の病院につき添ったことが一度でもあるか? ないくせに! 俺のことを文句いうな!」と非難し、責め続けました。
そして、Pは「見た目は普通に見えるかもしれんが、俺は病気なんだぞ! いたわれ! 理解しろ!」と声を荒げる日々です。

-事例184(DV98、分析研究20)-
私は、夫Nに「満足な食事は衣服など与えられず、親から虐待(ネグレクトを含む)を受けて育った。」、「小学校の低学年のときに両親が離婚し、自営業を営む父親がひき取り、中学校のときにK市内に引っ越し、父の母親(祖母)と同居をはじめた。」と生い立ちを聞かされ、自分の生い立ちと重ね合わせ共感してしまいました。
Nを心底かわいそうだと思い、また、私が支えなければと強く思いました。
私は、私の友人から「Nは結婚しているけど、浮気を繰り返し、女癖が悪いよ。」と聞かされていましたが、私ならうまくやれる、なんとかしてあげられる、そして、Nを支えられるのは私しかいないと思いました。
そして、Nが妻との離婚調停で、私との不倫をしたことに対する慰謝料を支払うこと、2人の子どもの親権は妻が持つこと、そして、養育費を支払うことが決まり、離婚が成立しました。
するとNは、私に「いま、○○にいる。車にガスコンロを持ち込こんだ。死にたい。」と自殺を伺わせるメールを送ってきました。
私は、車で1時間半かかる場所まで、「死なないで」と祈りながらかけつけました。
かけつけると、車の窓に目張りはされておらず、自殺していませんでした。
このとき、私は、Nを「私がさ支えなければ」と本気で思いました。
このことが、両親の反対があっても、私が、Nとの結婚に踏み切る動機となりました。
しかし、あれだけ優しかったNは、結婚すると、私のやることなすことを否定し、非難し、大声で罵倒し、見境なく殴ったり、蹴ったりしました。
そして、第2子の出産間近に、Nが前妻にしはらうことになった慰謝料は、私との不倫に対してではなく、前妻に対するDVであることを知りました。

事例183の夫P、事例184の夫Nは、「Ⅰ-11-(4)-②家をでたあと、DV加害者が送るメールなどに認められる特徴」の中で、『ⅱ)逆に、自分が傷つき、食欲もなく、すっかり意気消沈した状況を伝え、「心配してもらおう」と気を惹いたり、また、気を惹くために「死んでやる」、「自殺する」と訴えたりする–気を惹く試し(ストーカーリスク「危険レベル」) –。』と記している状況に該当しています。
問題は、別れ話がでる以前に、交際相手(のちに配偶者)の気を惹き、かまってもらうためにこうした言動を使っていることです。
つまり、夫P、夫Nは「困らせて、いうことをきかせる」という脅しのテクニックを駆使する人物ということです。
子どもが「嫌だ! いらない。」とご飯を食べずに、困った親や祖父母は、「△△ちゃん、食べたら、○○を買ってあげる。」などということばをひきだすのと同じです。
幼児は、癇癪をおこしたり、駄々を捏ねたりして、親にいうことをきかせること(親を支配すること)ができるかといったかけひき、つまり、“試し”を繰り返します。
そして、自分の親は簡単には屈しないものと認知したり、逆に、親は簡単に屈するものと認知したりしていくことになります。
癇癪をおこしたり、駄々を捏ねたりすることで、親を屈服させ、いうことをきかせること(コントロールすること)ができた子どもは、家庭、学校、近所の大人のコミュニティ、そして、友人関係で、日々その術を磨いていくことになります。
「学校に行かない!」、「仕事を辞める!」、「離婚する!」、「死んでやる!」、「俺がいなくなりゃいいんだろ!」と、いわれた者が困るいい方は、幼児期の子どもが、親の気を惹くため、親にいうことをきかせるための“試し”と同じふるまいです。
したがって、こうした言動をする人物は、アタッチメントが損なわれる環境で育ってきたことで、精神的に成熟できず、幼稚性を秘めているということです。
そして、「そんなこといわないで。」とか、「止めて欲しい。」とのことばを常に期待している、待ち望んでいる人物です。
なぜなら、そうしたことばは、自分のことを気にかけてくれている、心配してくれている、そして、自分の存在を認めてもらえていることを意味しているからです。
そのため、実行することは稀で、ほとんどのケースが、「首をつろうとしたがベルトが壊れた(ひもが切れた)ので死ねなかった。」とか、「刃物を手にあててみたけど死ねなかった。」と電話がかかってきたり、メールが届いたりして、事例183の被害者Wのように、慌てて家に帰って(行って)みると、本人は、ケロッとなにごともなかったかのようにしているのです。
「実行することは稀で、ほとんどのケースが…」としているのは、リストカットやOD(drug overdose;過量服薬)といった自傷行為は、気を惹くための自殺企図としておこなわれることがあり、死ぬつもりがないのに、予定していた発見が遅れたり、体調などで薬の効き方が違ったりして死亡してしまうことがあるのと同じで、死ぬつもりがなくても間違って死亡してしまうことがあるからです。
こうした“試し”がおこなわれたときは、訴えた部位にすり傷があるのか、切り傷があるのかを確認し、事実を正確に把握していくことが大切なのです。
なにもなかったときに確認せずに、なあなあにすませてしまうことは、平気で嘘をついたり、つくり話をしたり、カマをかけたりする人という事実認識を疎かにしてしまうことになります。
その結果、“試し”を仕掛けた者には、これでいうことをきかせられる、コントロールすることができた成功体験となってしまい、有効な常套手段として用いることになります。
ただし、気をつけなければならないのは、「お前を殺して、俺も死ぬ」、「一緒に死のう」という発言があるときです。
このことばには、「自分の手で殺せば、永遠に自分のものにできる」との神聖な思いが秘められています。
「神聖な思いが秘められている」とは、「Ⅱ-11.パラフィリア(性的倒錯)」でとりあげているようなおしっこを飲みたがったり、唇を噛み、唇の皮を口に入れたりしたがる者が、「これでキミの一部分を自分の体にとり込むことができ、一緒になれた」と幸福感に浸ったり、人肉を食べるカニバリズムを神聖なものと信仰的な尊厳を感じたり、ときには、過去の交際(セックス)を”穢れたもの”として謝罪させ、全裸にして平手打ちしたり、蹴りつけたり、鞭で打ちつけたりする暴行には、体の中にいる悪魔(淫乱さ)を追いだすための宗教的な儀式の意味を持たせたりする“認知”にもとづいています。
つまり、事例60-63の加害者のように、別れたり、離婚したりしたあとも執拗につきまとい、凄惨なストーカー殺人(猟奇的な殺人を含む)をおこしてしまう加害者には、こうした危険な考え方が秘められていることがあることです。
また、配偶者からのDV被害からの逃れるために実家に帰った被害者が、「母親を怒鳴りつけ、殴ったりしていた父親が、認知症を発症し、体も不自由になってきた母親の食事や身の回りの世話をし、車椅子に乗せて散歩にでかけているのです。」と父親の変化に驚き、戸惑いを見せることがあります。
こうした母親に暴力をふるってきた父親の心境(行動)の変化を理解するには、やはり、「自分の手で殺せば、永遠に自分のものにできる」などといった神聖な思いに照らし合わせてみると理解できます。
人には自分の意思があり、考え方があることが、上下関係、支配と従属の関係を成り立たせるために暴力で怖がらせたり、絶対服従を求めたりしても、完全に自分の者にしきれない、つまり、思い通りにならない、支配しきれない部分が残ります。
ところが、神聖な思いを抱くような加害者にとって、配偶者が認知症を発症し、自分の意志や考えが失われる状態は、すべてを自分の者にできたことになります。
つまり、“人形のように無垢”で、神聖な存在なのです。
それが、甲斐甲斐しく世話をするという行為につながるのです。
同じ「死」ということばを持ちだしても、実は、暴力のある家庭環境で育ち、人格形成に大きな歪みがもたらされた人たちにとっては、意味や意図が違うことがあるということを理解しておく必要があるのです。

⑥ 運命論・独自的な考えを持ち込み、生い立ち、親を否定する
「Ⅰ-11-(2)」の中のイ)「受け入れられない(納得できない)事実や現実をつきつけられたとき、自分で受け入れられる(納得できる)理由や根拠を見つけだし、事実認識を置き換えてしまう」、カ)「運命論・神秘性さを随所に持ちだしたり、独自的なものごとの捉え方をし、時に強迫観念に囚われ、自己認識(仮説)でしかない考えを嘘偽りのない真実として論じていたりする」“傾向”のあるDV加害者が、妻が家をでて行ったとき、妻宛にどのようなメールを送るのかについて、「事例112(分析研究8)」のケースを、再度、事例181(分析研究21)で見ていきたいと思います。

-事例185(DV99、分析研究21)-
妻Aは、携帯電話のGPS機能を利用され夫Mに居所を特定されることのないように、携帯電話の電源を消していましたので、離婚調停ははじまっても、携帯電話の着信、受信メールに目を通すことはありませんでした。
離婚調停において、夫Mがどのような人物なのかを示すうえで、夫Mが妻A宛に送ったメールは重要でした。
そこで、妻Aが使っていたフリーメールには、69件のメールが届いていました。
さらに、夫Mが、妻Aの友人宛に送った3件のメールは、友人から妻Aに転送されてきていました。
そして、のちに確認したAの携帯電話には、61件のメールが送られていました。
夫Mは、妻Aが子どもを連れて家をでたまま帰ってこないことから、早朝(3-5時の間と想定されます)、捜索願をだしに警察署を訪れます。
妻Aは、役場の職員につき添われシェルターに入居する前に警察署に立ち寄り、「捜索願の不受理届」を提出していたことから、応対した警察官に、「捜索願は受けとれない」こと、そして、「DV被害を受けたとしてシェルターにいる」ことを知らされます。
そして、夫Mは、警察署でその事実を知らされてから、36時間後に、「もしシェルターにいるなら、一刻も早くでてきなさい。」と妻Aのおこないを非難し、「シェルターとは、一種の宗教的な施設でさまざまな洗脳があるはずです。」などと記したメールを妻宛に送りました。
以降、「いろんなことを吹き込んで、俺のところに戻ってくることを拒むと思う。」、「役所の連中はノルマがあって、1人シェルターに入れるごとに300万円の補助金が降りる仕組みになっているんだよ。」、「シェルターは国の税金を霞めとって運営しているDV離婚産業なんだから、騙されちゃダメだよ。」、「産後うつを利用した離婚ビジネスの餌食になっている。」とシェルターや児童相談所を非難しつつ、“誤り”に気づかせようと諭すメールを送っています。
重要なことは、こうしたメールを送っている間に、夫Mは「妻が家をでて行った理由は自分にあるのではなく、シェルターに騙されたからである」と自分が納得できる理由に置き換え、本人の中では、疑う余地のない真実のことになっていくことです。
夫Mは、警察署でDV被害を相談していたこと、そして、シェルターに入ったことを知らされ、上記のメールを送る36時間で、DV被害でシェルターに入るということがどのようなことなのかネットで調べ、いまの自分の心境にパッタリとあてはまるサイトをみつけだしました。
それは、シェルターや児童相談所を悪徳なDV離婚産業と位置づけ、それら機関に妻は騙され、自分から妻と子どもを奪った“敵”であるとして糾弾するDV加害者が開いたサイト(ブログ)でした。
そこには、妻や子どもを奪った行政やシェルター、そして、弁護士や裁判所を悪の象徴として徹底的に糾弾しようとする内容が綴られていました。つまり、自身のDV行為を認めないDV加害者たちが、「免罪DV被害」を訴えるものです。
そして、夫Mは、妻Aに対し、自分は間違ったことをいっていないことを示すために、妻A宛のメールに、a)悪徳DV法 娘を連れ去られた怒りのblog、b)子どもの未来を大切に 子どものこころを壊してしまう裁判所・児童相談所問題を研究します、c)児童相談所の拉致なんてありえない、d)続..児童虐待、DV、女性センターについてはあわせて要望しよう、e)DV免罪による離婚の仕組みと利権に群がる暴走フェミニスト(1)(2)、f)DV免罪に加担するフェミニスト・カウンセラー、g)(DV免罪)離婚ビジネスで大儲けするフェミ「DVチェック」の矛盾、h)離婚シングル、児童相談所巨大利権構造の実態。弁護士や行政を信用するな、i)maのブログ DVシェルターに入ってはいけません!、j)主婦が解くDVでっち上げ解決マニュアルのブログのURLを貼りつけたのです。
つまり、夫Mは、妻Aにこれらのブログを読むことを求め、妻Aのおこないがいかに愚かなものかを悟らせようと目論んだのです。
また、妻Aが家をでて行ってから28日後に、夫Mが妻Aの友人宛に送ったメールには、「…。実際、妻の通話履歴より失踪当日に(妻AがDV相談をしていた)役所へ連絡を取っていました。73分間話した後、…」と記しているように、夫Mは、妻Aの詳細な通話状況を把握していました。そして、妻Aの友人宛のメールにも上記URLの2点を貼りつけていることにも、夫Mの自己主張の強さが表れています。
夫Mは、妻Aが家に置いてきてしまった「機種交換前に使用していた携帯電話」に残っていたメールのやり取りすべてに目を通していることが、夫Mから妻Aに送ったメールで明らかになっています。
さらに、同時に、夫Mは、探偵事務所に妻Aの居所を探すように依頼しています。
そして、妻Aが申立てた離婚調停、妻Aが家をでていってから3ヶ月後に開かれた第1回調停に、妻Aが顔を見せなかったのを受けて、暴力のある家庭環境で育ち、自己と他の境界線があいまいな夫Mは、「騙されてシェルターに入れられたDV被害者が、子どもを児童相談所にとりあげられ、児童相談所と闘っている」と訴えるブログを読み、調停に顔を見せなかった妻Aは、同じ状況にあるのではないかと妄想し、強迫観念に怯えるようになっていきます。
第1回調停から1ヶ月後、夫Mは、妻A宛に「AのことをビジネスライクにDVシェルターに入れたように、次は子ども達が児童相談所に入れられるようになる可能性が高いんだよ。確実に目はつけられちゃうんだよ。児童相談所に子どもを入れると、やはり国から補助金が出る仕組みになるんだよ。児童相談所に連れていかれたら、もうお手上げなんだよ。」、「だから頼むから子ども達から目を離さないで守ってあげて、本当にお願いします。児童相談所が子ども達を狙っているんだよ。」、「今、Aは離婚ビジネスのベルトコンベアー上にいます。このまま、離婚したら子ども達は連れ去られます。ってか、離婚しなくても取り上げられる可能性が高いんだ。本当にマズイ状況だよ。」などと記したメールを送りつけたのです。
では、「Ⅰ-11-(4)-②妻が家をでたあと、DV加害者が送るメールなどに認められる特徴」と「同- (2)DV加害者の認知にもとづく言動・行動パターン」の中で説明している「感受性訓練の要素を組み込んだ手法に似通っている論理構成」を踏まえて、夫Mから妻A宛に送られた69件のメールを大きな流れで読み解いてみると、以下のような傾向が表れてきます。
ア)いかに心配しているか、身を案じているかと優しいことばをなげかけ、自分が味方であることを示したあと、イ)「妻Aが子どもを連れて家をでていったのは、産後のうつを利用した離婚ビジネスの餌食になっている」とサイトやブログ記事のURLを貼りつけ、その根拠(理論提供)を示しながら“持論”を展開しています。
そして、ウ)「騙されている、洗脳されている」と悲劇を大袈裟に嘆きながら、妻Aのとった愚かで、恩知らずなおこないを徹底的に否定し、批判し(現状把握)ながらも、それを、エ)「正しく判断できないのは、産後うつと境界性パーソナリティ障害に原因がある」と独自の解釈で、だから仕方がないこと(現状把握)としています。
一方で、オ)「そこから、救いだせるのは自分しかいない」と強く自己存在を訴えています。
さらに、カ)「既に、カウンセリング先を決めている。親からの過干渉による心の病を治せるのも俺しかいない(目標設定と支援表明)」と、俺だけがお前のことを理解してあげられる、お前を助けだせるのは俺だけ、お前が信じるのは俺だけしかいないと思い込ませようと試みています。
さらに、夫Mが妻Aに送ったメールの文面には、「Ⅱ-19-(6)アタッチメントを損ない、抑圧がもたらした凄惨な殺害事件」でとりあげた事例87-95の加害者、「Ⅱ-22-(6)性的サディズムと人格障害などが結びついた誘拐監禁・殺傷事件」でとりあげた事例136-141の加害者の何人かに見られるように、神秘的なできごとに傾倒し、独特なものごとの捉え方で持論を真実のようにとくとくと述べる特徴が認められます。
その文面のひとつが、『亡くなったAの爺さんは立派な方です。会った事はないですが尊敬に値しています。Aにもその血が流れているからこそ、結婚したと言っても過言ではありません。しかし、その血が薄まったのではないでしょうか。その原因として考えられるのが、出産の際の流血です。そもそも、AはK家の血の方が濃かったと考えられます。しかし爺さんや婆さん、俺等と生活して行くうちに、K家の血が薄くなり、A自身が作り出した新たなAの血が、Aを作っていたと考えられます。だが、その血も出産の際の流血で多く流れ出し、また新たな血を作る事になりました。恐らくは、その血はK家の遺伝子が多く含んだ血液だったのではないでしょうか。悲しい思いや、嬉しい思いは、実は頭ではなく心臓で記憶するのではないかと考えます。一つ一つの感情の歴史を心臓で記憶し、血液にして体中に巡らせる。体で覚えている事ってありますが、実は心臓がその役を担っているのではないかと考えます。しかし、その心臓も、流血が多かったり、産後の鬱状態では機能を低下し、感情を記憶する血液を作り出すことが出来なくなるのではないでしょうか? その結果、産まれ持った純粋な血液を送り出すことしか出来なくなると考えられます。産まれ持った血液とはAの場合、Kの血です。その血が一気に濃くなったせいで、今回の逃亡劇につながったのではないでしょうか?』というものです。
この文面の異様さは、先の加害者(殺人者)にも感じる不気味さに共通するものです。
こうした夫Mの歪んだものごとの捉え方が、DV加害者たちが自らのおこないを認めず、被害者支援に携わる人たちを「DV離婚産業(ビジネス)」と呼び、悪の象徴として糾弾する考え方に傾倒していったこととは無関係ではないわけです。
「Ⅰ-8.被害者心理。暴力でマインドコントロールされるということ」を通じて、人は、同じ人から相反する受容(優しさ)と拒絶(批判・殴る・無視)のおこない(ことば)を繰り返されると、「どちらが本当だろうか」「この前とはうって変って、いったいどうしたのだろう」と困惑し、それらが継続的に繰り返されることによって、「なにがなんだかわからない」と思考を混乱させてしまうことを説明してきました。
夫Mが、妻Aに送信したメールの数々には、恐怖感を抱かせ、そして、優しいことばを交え、おこないを否定し、愚かなおこないと非難し、とくとくと説き伏せる持論を展開し、思い通りにことを運ぼうと目論んでいる行動・言動パターンが読みとれるものでした。
しかも、夫Mは、自らの思いや感覚を神秘的なもの(特別なもの)と結びつけ、おきたできごとを運命や試練と納得させようとするだけでなく、一方で、第三者(世の中、社会、誰々と固有名詞を設けて)を共通の“敵(悪の象徴)”に見立てて徹底的に叩こうとする偏ったものの考え方をしています。
夫Mは江戸時代から続く老舗割烹料理店の後継者として仕事をし、生活します。
つまり、DV加害者が普段見せている顔、普段の言動からでは、どのような人物なのかを見極めることは不可能です。
加害者と被害者という関係性だけで見せる顔、言動(加害行為)をつかまなければ、対外的に被っている仮面(ペルソナ)、つまり、化けの皮を剥がすことはできないのです。
問題は、そして、「Ⅲ-29.悩ましい面会交流。いま司法はどのように捉えているか」に記しているとおり、平成24年4月、改正された民法766条の施行に伴い、夫Mのように明らかに人格に歪みがあると思われても、エフピックなどの第三者機関を介して子どもとの面会交流の実施は可能との判断を示しているということです。

⑦“巧妙に気を惹く術”で心を操り、迫真の演技で手玉にとる
「婚姻破綻の原因はDVである」とする夫婦関係調整(離婚)調停では、被害者と加害者が直接顔を合わさないように別々の控室が用意されます。
被害者の主張(考えや思い)は、調停委員や調査官(親権を争う幼い子どもがいるとき)を介して加害者に伝えられ、同様に、加害者の主張(考えや思い)もまた調停委員や調査官を介して被害者に伝えられます。

-事例186(DV100)-
調停委員は、私に、『あなたの夫は、お子さんたちと一緒に写った写真を持ってこられ、「このとき初めて立ち歩きをした。」、「一緒に公園で(家で積み木をして)遊んだ。」と熱心に話されていました。
そして、突然、涙ぐみ、「“パパまた遊ぼうね”といってくれていたのに・・。その大切な時間を妻に奪われた。」と悲痛な語り口で訴えていましたよ。』と話しはじめました。
その瞬間、調停委員は、外面がよく、愛想がよくふるまう夫にすっかり騙されていることを察し、絶望感にうちひしがれました。

事例155のように、加害者の中には、調停委員や調査官に対し、子どもとその一瞬を過ごしたできごとを、毎日そうであるかのように語りかけるケースがあります。
一瞬のできごとを、特別なイベントとして調味料を効かしながら流暢に話をつくり、人の気を惹く“術”を巧みに扱うのは、DV加害者の“十八番”です*-142。
被害者が加害者に出会ったころ、巧みな話術に心を翻弄され、操られたように、調停委員や調査官も、最初は加害者の迫真の演技に魅了され、騙されてしまうこともあります。
調停委員や調査官に、「哀しみにうちひしがれている父親像」を見せ、同情心を煽りグッと心をつかみ、子どもを取り返そうとするのが、加害者の典型的な手口ともいえます。
この行為の背景には、a)子どもをとり返せば、母親を繋ぎとめておける(とり戻せる)との“目論み”と、b)母親にとって子どもを奪われる(子どもと離れて暮らす)ことが一番ツラいことから、俺を裏切った(俺のもとから逃げた)ことへの“こらしめ・罰”を与えられる絶大な力を誇示することができるという“自信”があります。
被害者と出会ったころ、加害者は自分の不幸な生い立ちを話し、夢をアツく語りかけ、心を鷲づかみにします。
「私しか彼の苦しさや哀しみをわかってあげられる人はいない」、「この人の寂しさは私が癒してあげる。私にしかできない」と心を固めました。
しかし、不幸な生い立ちや身のうえ話は、加害者が狙いを定めた“女をオトす”ために仕掛けた罠しかありませんでした。
オトしたあとは、そのアツく語った夢物語や実態は虚像でしかなったことがバレ、愛想をつかされ、別れ話を切りだされないか不安になります。
そのため、嘘や虚像を信じ込ませてつかみとった心を逃さないために、暴力(恐怖)で支配しなければならなくなります。
その暴力に耐えられない気配を感じるたびに、巧みな話術と時々みせる優しさで心をグッとつかんできました。
それは、相反する拒絶(恐怖)と受容(優しさ)のふるまいやことばを繰り返されたことで、思考混乱をおこされ、思考をコントロールされてきた日々だったのです。
そして、妻の実家では、親や親族の前で、保育園や幼稚園の父兄や保育士の前では、子煩悩さを見せ、巧みな話術でいい夫、いい父親を演じる“得意技”を披露し、 「子煩悩でうらやましい」という評価をつくりあげてきました。
そういうやり口で、妻が、両親に夫に暴力をふるわれていることを相談できないように状況をつくりあげ、逃げ道を閉ざしてきました。
離婚調停で、調停委員や調査官の前でも、これまで妻や妻の家族をコントロールしてきた巧みな話術でいい夫、いい父親を演じる“得意技”を披露することになります。
*-142 DV加害者のすべてが、口が達者であるわけではありません。
逆に、無口で、人づきあいが苦手で、自分の考えはいわず、母親が自分の思いを察して代わりにいってくれる(決めてくれる)ように持っていくのが行動パターンの加害者も少なくありません。
つまり、妻が自分の思いを察することができず、期待している通りの働きができないことに苛立ち、幼児が癇癪をおこしているかのように怒りをぶつけてくる加害者です。
しかも、大声で怒鳴りつけたり、罵ったりするのではなく、ふるまいをネチネチと執拗に否定し、非難し、侮蔑し、卑下するか、幼児のように拗ねて、黙り込むかです。
そのために、DV被害(ことばの暴力、精神的暴力、経済的暴力)を自覚することが難しいだけでなく、それを、離婚調停で、調停委員だけでなく依頼した弁護士にさえ、暴力行為(DV行為)をきちんと説明できず、なぜそれほどツラい思いをしてきたのかが伝わらない事態を招くことになります。




-DV事件等のデータ-
① 全国247ヶ所(うち74ヶ所は市町村が設置)の「配偶者暴力相談支援センター」における平成26年度の相談件数は102,963件で、女性からの相談が101,339件で全体の98.4%を占めており、男性からの相談は1,624件で全体の1.6%となっています。
ただし、「男性には女性以上に、相談しにくい心理が働いている」と指摘されていることから、この男女比は上記の通り、そのままDVの実態を指しているものではないとの認識は必要で、「配偶者暴力防止法」の規定では、25-35%は男性が被害者と考えていいと思います。
加害者との関係では、配偶者(事実婚を含む)が87,304件で全体の84.8%、離婚後が12,694件で12.3%、生活の本拠を共にする交際相手(元交際相手を含む)が2,965件で2.9%となっています。

② 平成24年8-10月の間にA県の警察安全相談1,141件(DV660件(53.18%)、デートDV248件(21.74%)、ストーカー233件(20.42%))によると、DV660件の関係性は、配偶者・元配偶者533件(80.76%)、内縁・元内縁98件(14.85%)であり、男性加害者と女性被害者の組合せが616件(93.33%)、女性加害者と男性被害者の組合せは44件(6.67%)となっています。
デートDV248件の関係性は、交際・元交際相手248(100%)であり、男性加害者と女性被害者の組合せが207件(83.47%)、女性加害者と男性被害者の組合せは44件(16.53%)となっています。
ストーカー233件の関係性は、面識なし9件(3.86%)、交際がない知人(27.90%)、交際・元交際相手119件(51.07%)、内縁・元内縁15件(6.44%)、配偶者・元配偶者25件(10.73%))となっています。
ストーカーということばから多くの人がイメージする「面識のない人物によるつきまとい(誰につきまとわれているかわからず、不気味で、底知れない恐怖を感じる)」は4-5%に満たないことになり、ほとんどが面識のある人物によっています。
男性加害者と女性被害者の組合せが190件(81.55%)、女性加害者と男性被害者の組合せは43件(18.45%)となっています。

③ 平成26年、都道府県警察において、配偶者からの身体に対する暴力または生命等に対する脅迫を受けた被害者の相談等の受理件数は59,072件、生活の本拠をともにする交際(婚姻関係における共同生活に類する共同生活を営んでいないものを除く)をする関係にある相手方からの暴力事案は7,402件となっています。

④ 平成25年度、婦人相談所(女性センター)における「配偶者暴力防止法」にもとづく被害者及びその同伴家族の一時保護件数は11,623件で、夫等の暴力を理由とする者が4,366件で全体の37.6%、夫等の暴力を理由とする者以外が1,759件で15.1%、同伴する家族が5,498件で全体の47.3%となっています。
平成26年、地方裁判所に申立てられた保護命令の既済件数は3,125件で、認容(保護命令発令)件数は2,258件で、発令率は72.26%となっています。

⑤ 平成26年、「ストーカー行為等の規制等に関する法律」第8条の規定にもとづき、配偶者暴力相談支援センターが実施したストーカー行為等に関する相談件数は1,587件のうち女性からの相談が1,524件(96.03%)、男性からの相談は63件(3.97%)です。

⑥ 平成25年、配偶者間の殺人検挙件数153件のうち、夫が妻を殺害したのが106件(69.28%)、妻が夫を殺害したのが49件(32.03%)となっています。
DVをテーマとした講演などでは、この数字にもとづいて、「3日に1人、妻は夫に殺害されている」、「年間120人の妻が、夫によって殺されている」と表現することがあります。
一方で、「6日に1人、夫は妻に殺害されている」事実には触れられることは少なく、少しフェアでないと感じますが、平成26年、同傷害2,697件のうち2,550件(94.55%)、同暴行2,953件のうち2,775件(93.97%)が、夫が加害者、妻が被害者となっています。
圧倒的な差となっている傷害・暴行事件数に比べ、妻が夫を殺害した件数及びに殺害率が高いのは、男性に比べ一般的に“力が劣る”女性が殺害に及ぶときには、刃物など武器を使用するからです。

⑦ 配偶間の暴力において、「夫が加害者で、妻が被害者」となる比率は、“相談レベル”では98.4%対1.6%(平成26年度)と圧倒的に女性が被害者になっています。
しかし、平成19年の横浜市がおこなった調査では、交際経験がある人の中で「デートDVの被害にあった」と回答したのは、女性371人中144人(38.81%)で、男性は204人中56人(27.45%)、同年神戸市がおこなった調査では、「デートDVを受けたことがある」と回答した女子が38%、男子が29%で、横浜市と神戸市でおこなわれた調査ではほぼ同じ結果がでている一方で、平成26年、交際相手からの暴力被害の相談件数3,300件のうち、女性からの相談が3,233件(97.97%)、男性からの相談は67件(2.03%)と、婚姻関係における相談比率と変わらない結果になっています。
以上のことから、配偶者間の暴力のうち25-35%は、「妻が加害者で、夫が被害者」というのが実情だと思われます。
そして、「本来対等な関係に、上下の関係性、支配と従属の関係性を成り立たせるために、パワー(力)を行使すること」という暴力の構造(DVの本質)としては、男女の違いはないものの、女性から男性への暴力の背景には「大切にされない」「報われない」思い、「見捨てられ不安」を起因とする“試し行動(リミットテスティング)”の要素が、男性よりも強く表れる傾向があります。

⑧ 内閣府と警察の調査では、男性から身体的な暴行を受けたことのある女性の割合は約4人に1人、継続的で執拗な暴行を受けたことのある女性の割合は約10人に1人、殺されそうな暴行を受けたことのある女性の割合は約20人に1人となっています。
つまり、15歳以上の女性を約5,300万人と考えると、一生涯(これまで)のうちに、男性から身体的な暴行を受けたことのある女性は1,325万人となり、継続的で執拗な暴行を受けたことのある女性は530万人となります。
そして、殺されそうな暴行を受けたことのある女性は265万人となり、この数は、政令指定都市の名古屋市の人口228万人よりも多いことになります。
  しかし、DV事件としての検挙件数は年間2,000件に留まっています。
年間検挙数×60年(15歳-75歳)で計算すると120万件となりますが、先の継続的で執拗な暴行を受けたことがあると自覚している女性530万人の22.64%にすぎないことになります。
このことは、暴行・傷害罪や殺人未遂で立件されるべき事件であっても、継続的で執拗な暴行を受けていると自覚できているDV被害者であっても、警察に被害届をだして告訴をしていないことを意味します(捜査を進めるには被害届をだすだけではなく、警察で告訴することが必要と認識しておく必要があります。
本来、暴行・傷害罪や殺人未遂で立件されるべき加害者が野放しにされ、再び、同じ暴行を重ねられていることが少なくないということです。
殺されそうな暴行を受けても、夫を傷害事件の加害者として立件しなかったり、かかわりを断ち切ったり(離婚)できないのが、DV事件の難しさということになります。
  なお、厚労省の人口動態統計によると、他殺による死亡者数は減少傾向にあり、357人(平成26年)で、おおむね1日に1人が誰かに殺されていることになります。
「犯罪被害者白書 平成27年版」では、平成25年の「殺人(嬰児殺、自殺関与などを除く)」の検挙数のうち、被害者が「配偶者」であるケースは146件です。
また、被害者が「実父母(子どもが加害者)」のケースは134件で、被害者が「実子(親が加害者)」82件、「兄弟姉妹」は35件です。
殺人検挙数全体の中で、家族・親族(養父母や継子などを含む)が加害者であるケースは53.5%で、半数以上が近親者です。
近年減少傾向にある自殺者数は、平成24年で2万7858人、交通事故の死者数の約6倍、他殺の70倍以上です。

⑨ DV被害のリスクを有する妊産婦は、全体の14%以上存在するとされ、特に、10歳代の妊産婦のDV被害が際立って高くなっています。
10歳代の妊産婦のDV被害には、交際相手によるデートDVを受け、妊娠したことにより結婚に至っていることが少なくなく、「望まない妊娠をした」といった思いや暴力のある環境で妊娠をしたストレスが、「産後うつ」を発症する引き金になり、乳幼児に対する虐待につながることもあります。
また、妊娠中のDV被害は、母体の被害だけでなく、早産や胎児仮死、児の出産時低体重をひきおこし、セロトニン・ドーパミンなどの神経伝達物質の分泌に影響を及ぼすなど初期の脳形成に重大な影響を及ぼします。
暴力は、身体的なダメージを与えるだけではなく、他者や自分自身に対する信頼感を粉々に打ち砕いてしまうほど心に深い傷を残します。
とりわけ、児童虐待やDVなど、家庭という密室での暴力は、親密な関係性の中でおきるがゆえに複雑で深刻なダメージを女性や子どもたちに与えるものです。
「妊娠期を含め、被害親子の精神健康は相互に影響している」という視点に立ち、両者のケアがリンクすることが重要なテーマであり、被害親子のケアにあたっては、安全な居場所の確保が最優先事項です。


** ①-a)DV・デートDV・性被害に関する相談、-b)家庭裁判所への「婚姻破綻の原因はDVにある」とする離婚調停の申立て、地方裁判所への保護命令の申立て、警察への被害届の提出に向けての支援依頼、②DV被害の状況をまとめるためのWord文書フォーマット(DV・夫の暴力、子への虐待チェック・ワークシート;「Ⅲ-3.暴力の影響を「事例」で学ぶ。(Ⅰ)添付資料:ワークシート」の中の「DV・夫の暴力、子への虐待チェック・ワークシート」)の送付依頼、③カテゴリー〔Ⅲ1-9〕掲載『暴力の影響を「事例」で学ぶ。虐待とDVの早期発見・支援。母と子どもが暴力から脱するための手引き(3部5章42節)*』のPDFファイル送付依頼については、カテゴリー〔Ⅰ-I〕の中の「<DV・性暴力被害相談。メール・電話、面談>..問合せ・相談、サポートの依頼。最初に確認ください。http://629143marine.blog118.fc2.com/blog-entry-501.html」をご確認いただければと思います。


2016.3/3 ブログ再編成(第3次改訂)に伴い、主記事として掲載
2016.9/9 「暴力の影響を「事例」で学ぶ。虐待とDVの早期発見・支援。母と子どもが暴力から脱するための手引き(目次)」を、「暴力の影響を「事例」で学ぶ。虐待とDVの早期発見・支援。母と子どもが暴力から脱するための手引き」と「目次」に分割し、掲載
2017.3/21 「手引き」の「はじめに」を「改訂3版」としての編集により、「暴力の影響を「事例」で学ぶ。虐待とDVの早期発見・支援。母と子どもが暴力から脱するための手引き」、「目次」、「はじめに(DV理解1.2.3.4.5)」、「プロローグ(1-4)」として掲載
* 「第1章」以降、つまり、カテゴリー「Ⅲ-2」-「Ⅲ-9」の「改訂2版」については、改訂作業を終えた「章」から差し替えていきます。




もくじ   3kaku_s_L.png   [Ⅲ-2]Ⅰ.密接な関係。児童虐待とドメスティック・バイオレンス
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