あなたは、夫の暴力・DVを容認していませんか? 暴力のある家庭環境で暮らす子どもの心を守ることを忘れていませんか?

[Ⅲ-1]暴力の影響を「事例」で学ぶ。虐待とDVの早期発見・支援。母と子どもが暴力から脱するための手引き

暴力の影響を「事例」で学ぶ。DVの早期発見・支援。母と子どもが暴力から脱するための手引き

 
 -目 次- IES-R(改訂出来事インパクト尺度)
* 現在、この「手引き」は、第3次改訂の編集をおこなっています。編集終了後、差し替えていきます。

あいさつ

『暴力の影響を「事例」で学ぶ。DVの早期発見・支援。母と子どもが暴力から脱するための手引き』は、行動科学にもとづく組織・人材コンサルティングに携わってきた経営コンサルタントとしての20年間の経験(組織内のパワーハラスメント・セクシャルハラスメント対策を含む)と、「DV被害支援室poco a poco*-1」として、DV被害者支援に携わってきた8年間(平成26年6月現在)の経験をナレッジ(知識・経験・事例・ノウハウなど付加価値のある情報)としてまとめたものです。
行動科学では、「行動の原理や法則を導きだすことで、行動の予測と制御が可能になる」と考えます。行動の“見かけ”ではなくて、環境に及ぼす効果、環境が行動に及ぼす効果、つまり、“機能”に注目することによって、環境をどのように変えれば行動の頻度が変化するのかがわかり、望ましい行動を増やしたり、望ましくない行動を減らしたりする方法を考えることができるとするものです。
「DV被害支援室poco a poco」は、「ひとりでも多くの子どもたちが、家庭内で、DVを目撃する(面前DV)などの暴力で傷つかないようにしたい」との考えのもと、暴力のある関係性を断ち切り、生活の再構築を望んでいる被害女性に対するサポートとして、暴力のある環境に順応した考え方の癖の修正を踏まえながら、警察に傷害事件としての捜査を求めたり、地方裁判所に保護命令の発令を求めたり、女性センターに一時保護の決定を求めたり、離婚調停や裁判で「婚姻破綻の原因はDVにある」と離婚を求めたり、損害賠償金(慰謝料)の請求したりするうえで欠かせない「現在に至る事実経過(DV事実の報告書)」をとりまとめるなど、DVを立証するための支援に携わっています。
その支援の特徴は、第一に、暴力に順応するために身につけてしまった考え方の癖(認知の歪み)の修正を踏まえること、第二に、被害者の示すトラウマ(心的外傷)反応が、いまこのときの暴力行動にもたらされた直接的な被害に反応を示しているのか、それとも、いまこのときのトラウマ反応であっても、生い立ち(成育環境)が背景にあり、そのトラウマ反応を複雑にさせているのかを見極める*-2ことを重視していることです。暴力に順応するために身につけてしまった考え方の癖は、暴力の状況を正確に伝えるための事実認識に支障を生じさせ、トラウマ反応の見極めは、暴力に支配された関係を断ち切ったあとの暴力で傷ついた心のケア、つまり、パニック症状やうつ症状を伴うPTSD(心的外傷後ストレス障害)の症状の改善に大きく影響を及ぼすことになります。
 この「手引き」を通して伝えたいことが、「DVを目撃して暮らしている子どもが、DVの最大の被害者である」こと、「DVの目撃は精神的虐待に該当し、子どもの脳の発達に大きなダメージを与え、将来にわたり心身の健康を損なうことになる」ことです。
そして、被害者の心理特性、加害者の行動特性を理解するうえでも、「子どもがDVを目撃して育つ(面前DV被害下で暮らす)*-3」ことを問題視しています。なぜなら、行動科学的認識にもとづくと、生い立ち=生まれ育った家庭環境で暴力的なふるまいを受けてきたトラウマ反応にフォーカスすることが重要だと考えているからです。
また、「DV被害支援室poco a poco」では、「面前DVの早期発見・早期支援。あなたは、夫の暴力・DVを容認していませんか? 暴力のある家庭環境で暮らす子どもの心を守ることを忘れていませんか?(http://629143marine.blog118.fc2.com/)」というサイトを通じて、「いま必要な情報を、ひとりでも多く、情報を必要としている人に届けたい」との思いで、DVと密接な関係にある虐待、性暴力、そして、これらの暴力による後遺症としての心の問題にかかわる情報を提供しています。
 これらのテーマに対する「情報」を「いま、必要としている」のは、①配偶者や交際相手から受けている暴力が、DVに該当するものなのかを確認したいと思っている当事者やその関係者、②配偶者や交際相手からの凄惨な暴行から逃れる(一時保護の決定により、一時保護施設に入居し、その後、新たな生活をするなど)には、どうしたらいいのかわからず、情報を得たいと思っている当事者やその関係者、③婚姻破綻の原因はDV(子どもへの虐待を含む)にあるとして離婚調停に向けて動きはじめたものの、第三者にDV被害を理解してもらえず、理不尽な思いをし、なんとか状況を打開したいと切迫した状況にある当事者、④被害女性から相談を受けて、関連情報を集めている親族や友人、職場の上司や同僚、児童の学級担任や教職員、⑤児童・生徒の家庭でDVや虐待があり、児童や保護者への対応方法(緊急一時保護の決定などを受けての転入出を含む)などの情報を必要としている教職員、⑥DV被害者や虐待被害者、または、その家族と接したり、診察したりする機会が多い福祉関連職に就いている公務員、医師や歯科医、看護師、関連職員など、そして、⑦暴力のある家庭環境で育ち、人との距離感がわからずに強い不安を感じ、葛藤に悩み、苦しむなど生き難さを抱えている人などです。
必要とする情報の用途はそれぞれだと思いますが、共通しているのは、その多くが、いま切迫した状況にある中で情報を必要としていることです。
 そうしたさまざまなニーズに対応することを考え、『暴力の影響を「事例」で学ぶ。DVの早期発見・支援。母と子どもが暴力から脱するための手引き(3部6章34節(プロローグ4節を含む)。以下、「手引き」)』では、被害者や加害者の人物・行動特性、行政や学校、司法の対応のあり方など、具体的な理解をしていただくために、240の事例、47の判例、11の対応例を紹介しています。
*-1 DV被害支援室poco a pocoの事務局は、東京都23区内ですが、詳細な所在地(住所)については、緊急一時保護施設(行政や民間のシェルター)などと同様に、DV加害者との接触を避け、相談をしている被害者とその援助をしている者(アボドケーター)に対する加害行為を防ぐ必要があることから“非公表”です。
*-2 過去の生い立ちにトラウマ(心的外傷)となりうる暴力を体験してきた人たちに認められる共通した特性や傾向を抱えている人たちは、アダルトチルドレン(AC)、発達性トラウマ症候群、被虐待女性症候群(バタード・ウーマン・シンドローム)などの総称で呼ばれています。
*-3「面前DV」とは、子どもが、父親と母親の間(あるいは親の交際相手との間)の暴力を目撃したり、聞いたりすることで、「児童虐待の防止等に関する法律(児童虐待防止法)」では、精神的虐待とみなされています。



(暴力描写や性的表現による「トラウマ反応」表出のリスク)
この「手引き」では、延べ240の事例をとりあげています。女性や子どもに対する暴力の状況、凄惨な殺害状況について、トラウマになりうるような残虐な行為は必要最低限の表記に留めています。
一方で、とりあげた事例に加え、「Ⅱ-10-(5)性暴力被害と解離性障害」、「Ⅱ-11.パラフィリア(性的倒錯・性嗜好障害)」では、性暴力被害の深刻な事態を軽視し、事実を歪めて認識することのないように、生々しい暴力の描写、性的な表現がされています。
そのため、女性の中には不快に思われたり、気分を害したり、さらに、サバイバー(被虐待者やDV被害者)の方の中には、PTSDの主症状の侵入(フラッシュバックなど)によりトラウマを体験したその瞬間にひき戻されたり、離人症状や解離症状が現れて意識が切り離されてしまったり、パニックアタックによる過呼吸がひきおこされたり、動悸、ふるえ、吐き気に襲われたりする可能性が十分に考えられます。
そこで、サバイバーの方には、フラッシュバックによるパニック症(過呼吸)を予防するため、そして、自ら脳内物質セロトニンの分泌を促すことができるという観点から、心を調えることができる「吐いてから、吸う呼吸法」を身につけて欲しいと思います*-4。
*-4 「吐いてから、吸う呼吸法」については、「Ⅴ-27.DV被害者の抱える心の傷、回復にいたる6ステップ」の冒頭で、「丹田呼吸法。セロトニンを安定させる反復運動」詳しく説明しています。


(精神疾患や発達障害の診断名の表記について)
精神疾患の診断や表記は、「精神障害の診断と統計マニュアル(DSM;Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)」、邦訳「精神疾患の分類と診断の手引」にもとづいています。
例えば、「発達障害」ですが、DSM-ⅢからDSM-Ⅳまでは、生得的・先天的な脳の成熟障害によって発生する広汎な領域に及ぶ発達上の問題や障害を「広汎性発達障害(PDD;Pervasive Developmental Disorder)」という概念で表してきましたが、最新のDSM-5では、広汎性発達障害(PDD)という概念の使用をやめ、レット障害を除いた発達障害はすべて「自閉症スペクトラム(ASD;Autism Spectrum Disorder)」という自閉性の連続体(スペクトラム)を仮定した診断名が使用されることになっています。
平成26年5月28日、日本精神神経学会は、「DSM-5 病名・用語翻訳ガイドライン」を作成しました。
児童青年期の疾患では、病名に「障害」がつくと、児童や親に大きな衝撃を与えるという理由で、「障害」を「症」に変えることになりました。
「言語障害」は「言語症」、「学習障害(LD)」は「学習症」に、不注意や多動性、衝動性が表れる「注意欠如多動性障害(ADHD)」は「注意欠如多動症」、「自閉スペクトラム障害」と捉えてきた対人関係などに問題が生じるアスペルガー障害や自閉性障害は、「自閉スペクトラム症」となりました。
そして、「反応性アタッチメント障害/反応性愛着障害」と「脱抑制型対人交流障害/反応性愛着障害・脱抑制型」は、ともに「心的外傷およびストレス因関連症候群」になりました。
この他、突然強い不安感などに襲われ、動悸や身震いなどの発作を繰り返す「パニック障害」は「パニック症」、「アルコール依存症」は「アルコール症障害」、「拒食症」は、「神経性やせ症」に、そして、体の性と自ら感じる性が一致しない(生物学的な性別と自己意識が一致しない)「性同一性障害」は「性別違和」へと統一されました。
この「手引き」では、上記の「DSM-5」に則したガイドラインによる名称の変更以前の一般的に知られている名称、つまり、「自閉スペクトラム症」や「自閉スペクトラム障害」ではなく、アスペルガー症候群(AS)、注意欠陥多動性障害(ADHD)などと表記しています。
この「手引き」内で、主に使用している表記は、以下のとおりです。
・発達障害
・注意欠陥多動性障害(ADHD)
・アスペルガー症候群(AS)
・双極性障害(躁うつ病)
・統合失調症(精神分裂病)
・(反応性)愛着障害
・人格障害(パーソナリティ障害)
・依存症
ただし、裁判で実施されている精神鑑定による診断名は、どの「DSM」が使用されたのかにより異なることから、この「手引き」では、裁判で用いられた診断名をそのまま記載しています。


(「事例で学ぶ」ということ)
 この「手引き」では、DVとはどのようなものか、子どもが暴力のある家庭環境で育つということはどういうことかを理解するうえで、以下の5点を重視し、繰り返し説明しています。
第一に、“DVの本質”は、「本来対等である夫婦の関係に、上下の関係、支配と従属の関係性を構築するためにパワー(力)を行使すること」という“関係性”で認識する必要があること、第二に、近しい者に対して暴力行為に及ぶ者には、自己愛と反社会性が高いサイコパス的*-5な特質を持つ者による支配性の高い暴力の他に、自己正当化型ADHDやアスペルガー症候群*-6などの「コミュニケーション・社会性の障害」による特性が、結果として、DVやハラスメントとなる暴力などがあり、その違いの見極めが、関係性を理解するうえで重要であること、第三に、児童虐待やDV問題を理解し、その問題に対応するうえで、人を支配するために暴力を使う者、障害の特性が暴力となる者の人物特性、行動特性を正確に把握することが必要であること、第四に、暴力(面前DV、過干渉・過保護、いき過ぎた教育(教育的虐待)を含む)のある家庭環境で育つことが、どのような考え方(価値観や思考習慣にもとづくモノサシ(判断基準))や行動習慣を身につけることになるのかを正確に知ること、第五に、慢性反復的(日常的)に暴力を受ける環境が、心身に及ぼす影響について軽視することなく、その後の人生に及ぼす影響について、慢性反復的(日常的)暴力被害で傷ついた心のケアを含めて、正確に理解することです。
少し大きい文字*-5 「自己愛と反社会性が高い」人物の特性については、「Ⅱ-15-(10)人格障害(パーソナリティ障害)とは」で、「サイコパス」については、「Ⅰ-5-(5)-⑥サイコパス」で詳しく説明しています。
*-6 「自己正当化型ADHD」「アスペルガー症候群」については、「Ⅰ-5-(5)-⑤“障害の特性”が結果として暴力となる」、「Ⅱ-12-(11)自己正当化型ADHD・アスペルガー症候群とAC」で詳しく説明しています。

そして、この「手引き」では、240事例(うち24事例は分析研究、53事例は事件研究)のうち183事例で、DV(身体的暴力・性的暴力・精神的暴力(ことばの暴力)、社会的隔離、経済的暴力)、デートDV(リベンジポルノ・レイプを含む)、ストーカー行為、虐待(ネグレクト、身体的虐待、性的虐待、精神的虐待、面前DV(精神的虐待)過干渉・過保護、いき過ぎた教育(教育的虐待)、カサンドラ症候群による虐待行為を含む)、差別、貧困、いじめ、教師体罰、レイプなどの性暴力、マタニティハラスメントなどを受けた人たちの訴え、アルコールや薬物、ギャンブル依存者、戦地から帰還した兵士と家族の声(帰還兵のPTSDの症状)、そして、子どもたちが発するSOS(暴力被害のサイン)をとりあげ、暴力による支配とはどのようなものか、暴力を受けると人はどのような心理状態に陥るのか、加えて、DV離婚調停の現状などを詳細に説明しています。
特に、慢性反復的(日常的)に暴力被害を受け続ける被害者は、なぜ、暴力に支配された関係を断ち切れないのかについて、「Ⅰ-2-(7)被害者にみられる傾向」で、2つの事例(事例68、事例69)」をとりあげ、被害者に見られる特徴、傾向を、①“恋愛幻想”下でのデートDV、②別れる決意、恐怖のストーカー体験、③再び別れ話を切りだし、酷くなる暴力、③DV環境下で育ってきた子どもの状況、④快楽刺激とトラウマティック・ボンディング、⑤感覚鈍磨と誤認、⑥退行願望、⑦トラウマティック・ボンディングとできない理由づくり、⑧別れることの障壁、⑨思考混乱、考えるということ、⑩「見捨てられ不安」と無視・無反応、⑪暴力の世代間連鎖、低い暴力への障壁、⑫暴力から逃れたあと、「共依存」へのアプローチ、⑬加害者の生い立ちに共感、⑭暴力のある家庭環境で育ったことを起因とする精神的脆弱さ、⑮被害者の空虚感、渇望感を埋める加害者の夢と財として、まとめています。
さらに、凄惨な殺人事件をおこした加害者が、暴力のある家庭環境で育った被虐待者(面前DV、過干渉・過保護、いき過ぎた教育(教育的虐待)被害を含む)であることに着目し、53の事例(事件研究)をとりあげ、事件の全容、育った家庭環境、判決状況までを詳細に説明しています。
 「Ⅰ-6-(6)デートDVとストーカー殺人事件)」でとりあげる4事例は、桶川ストーカー殺人事件(事例39)、長崎ストーカー事件(事例40)、逗子ストーカー殺人事件(事例41)、三鷹ストーカー殺人事件(事例42)で、元配偶者や元交際相手に執拗なつきまとい行為の末に殺害された殺人事件です。
「Ⅱ-9-(15)回避的な意味を持つ子どもの「非行」」では、広島県16歳少女集団暴行死事件(事例137)、大阪2児餓死事件(事例138)の2事例、「Ⅱ-9-(16)「キレる17歳」、理由なき犯罪世代」では、栃木女性教師刺殺事件(事例139)、豊川主婦刺殺事件(事例140)、西鉄バスジャック事件(事例141)、岡山県金属バット母親殺害事件(事例142)、会津若松母親殺害事件(事例143)、八戸母子殺害放火事件(事例144)の6事例、「Ⅱ-9-(17)アタッチメントを損ない、抑圧がもたらした凄惨な殺害事件」において、東大浪人生父親殺害事件(事例145)、光市母子殺害事件(事例146)、音羽幼女殺害事件(事例147)、佐世保小6女児同級生殺害事件(事例148)、宇治学習塾小6女児殺害事件(事例149)、奈良自宅放火母子3人殺害事件(事例150)、秋葉原無差別殺傷事件(事例151)、柏市連続通り魔殺傷事件(事例152)、北海道南幌町母祖母殺害事件(事例153)の9事例、「Ⅱ-11-(2)フェティシズム」では、宝塚市窃盗・少女強姦事件(事例190)の1事例、「Ⅱ-11-(4)性的マゾヒズムと性的サディズム」において、京都連続強盗・強姦事件(事例191)の1事例、「Ⅱ-11-(6)小児性愛(ペドフィリア)」において、奈良小1女児誘拐殺人遺棄事件(事例192)、倉敷市女児監禁事件(事例193)の2事例、「Ⅱ-11-(9)性的サディズムと人格障害などが結びついた誘拐監禁・殺害事件」において、新潟少女監禁事件(事例197)、北海道・東京連続少女監禁事件(事例198)、東京・埼玉連続幼女誘拐殺人事件(事例199)、大分県一家6人殺傷事件(事例200)、大阪姉妹殺害事件(事例201)、自殺サイト連続殺人事件(事例202)、付属池田小児童殺傷事件(事例203)、神戸連続児童殺傷事件(事例204)、佐世保同級生殺害事件(事例205)、名古屋大生殺害事件(事例206)の9事例をとりあげています。
この34の事件をおこした加害者の生い立ちに共通しているのは、「暴力のある家庭環境、つまり、機能不全家庭で、親に支配され、抑圧されて育っている」ということです。
世間を驚愕させる凄惨な殺害事件の背景には、親の価値観を押しつけ、親の思い描いた、あるいは、親が達成することができなかった人生を歩むことを子どもに強い、期待通りの結果がえられなければ、罵倒したり体罰を加えたりする「いき過ぎた教育(教育的虐待)」、親こそが絶対的な存在であることを見せつけるための禁止と否定のメッセージが込められたことばによる「過干渉・過保護」という子どもの自主性を奪い、生きる力を奪う暴力(虐待行為)が存在していることです。
つまり、親の支配にもたらされた強烈な抑圧が、子どもの犯行の重要な動機となっているのです。
これらの事例を通して明らかなことは、暴力のある、機能不全家庭に暮らす子どもたちに対し、思春期(10歳-15歳)に達するまで、つまり、6-9歳までに早期発見・早期支援ができなかったとき、残念ながら、その後の学校や職場での教育や指導では、事件を防ぐことも、対応することもできないということです。
このことは、脳の発達と脳機能の獲得という視点に立つことの重要性を示すものです。
例えば、幼児が外斜視や遠視により、「はっきりと見えない状態が続くと、脳の神経回路が目から適切に刺激を受けることができず、脳の発育・発達にも影響し、発達障害と関係する」とされるわけですが、「人の視力は6歳までには完成する(側頭葉にある画像を認識する視覚を司る部分がもっとも育つのは、脳神経回路が育つ生後4ヶ月までとされ、視覚は3ヶ月-2歳10ヶ月までがもっとも発育する)」とされることから、幼児期に発見し、適切な治療をおこなうことができなければ、その後の回復は期待できなくなります(「弱視」と診断されます)。
また、狼に育てられたとされる少女が、ことばを司るブローカー野の機能が確定する9歳になる前に保護されました。現在、40歳代のその女性は、その後の教育により、片言ですが、人との会話ができるようになりました。重要なことは、なんらかの理由で獲得できなかった脳機能の回復には、脳の発達上、明確な“期限”があるということです。
例えば、英国貴族の男性が、乳児期に遭難先でゴリラに育てられた映画「ターザン」では、成人期以降に人の社会に戻ったその男性が、流暢なことばを話せるようになっていますが、それは、架空の話の世界だけの話です。
したがって、凄惨な殺人事件をひき起こすなど、アタッチメントを損ない「愛着障害*-7」を起因とした人格に歪みが生じていることが背景にある者に対しては、「情緒障害児短期治療施設(情短施設)*-8」での治療や支援、または、「医療少年院*-9」の精神科医らによる長期の矯正教育と医療支援などでおこなわれる「育て直す特別なプログラム」などが実施されていますが、それは、絶対的なものではないけれども、矯正機関として、唯一考えられる教育的な対応というわけです。
このことは、暴力で傷つき、病んだ心に対する早期のケア・治療こそが必要で、学校や職場での教育・指導で解決できると信じ込んでいると、判断を誤り、介入・援助のタイミングを逸してしまうことを教えてくれるものです。
この観点に立つことができれば、DV・ストーキング、性暴力加害者の“認知の歪み”にアプローチする「加害者更生プログラム」は、ある程度の効果が期待できる加害者と、効果は期待できない加害者に分けられることを認識することができます*-10。
*-7 「愛着障害」については、「Ⅱ-9-(8)反応性愛着障害(RAD)」で詳しく説明しています。
*-8 児童福祉法では、心理(情緒)的、環境的に不適応を示すなど心理的問題を抱え日常生活の多岐にわたり支障をきたしている子どもたちに、医療的な観点から生活支援を基盤とした心理治療を中心に、学校教育との緊密な連携による総合的な治療・支援をおこなう施設を設けています(情緒障害児短期治療施設(情短施設))。施設への入所(宿泊)・通所は児童相談所(長)が適当と認めた場合に「措置」として決定されます。
*-9「医療少年院」は、医療法上の病院に該当するもので、「第3種少年院」と呼ばれるものです。少年審判によって、「心身に著しい故障がある」と判断されたおおむね12歳以上26歳未満の者を収容し、治療と矯正教育を施す施設です。精神疾患のある未成年者を重点的に受け入れ、治療をおこなっています。被収容者に対しては、平均して約1年間のプログラムが組まれ、専門医による治療と並行して、生活・職業指導といった教育が施されます。
*-10「加害者更生プログラム」については、「はじめに」の中の「根拠のない期待感で、「きっと、加害者更生プログラムを受ければ変わってくれる」との考えは危険」、そして、「Ⅴ-31.DV加害者更生プログラム。「ケアリングダッド」を実施するうえでの原則」において詳しく説明しています。


 「DVを目撃して暮らしている子どもが、DVの最大の被害者である」との認識にもとづく、暴力のある家庭環境に対する介入、支援にあたって理解しておかなければならないことがあります。
それは、デートDVやDVの被害者は、なぜ暴力から逃れることができないのかを理解しなければならないということです。
そのためには、「人が暴力による恐怖下におかれたときにどのような反応(行動)を示すのか」といった“人類の特性”、つまり、脳の働きについて学ぶ必要があります。
  そこで、「Ⅰ-7.被害者心理。暴力でマインドコントロールされるということ」では、暴力による恐怖により心が縛られ、逃げる選択ができなくなるという心理状態、つまり、どのようにマインドコントロールされていくのかについて、「ストックホルム症候群」、「学習された無力感」、「ミルグラムのアイヒマン実験」などの理論と、ストックホルム銀行強盗人質事件、ペルー日本大使公邸占拠事件、伊予市17歳少女殺人事件(事例88)、堺市傷害致死・死体遺棄事件(事例89)、元看護師4人組保険金連続殺人事件(事例90)、尼崎連続変死事件(事例91)、北九州連続監禁殺府門真市17歳少女変死事件(事例92)を通じて、理解していただきたいと思います。
加えて、不安を煽り、弱みにつけ込み、人を騙していくカルトのやり口について、福島悪魔祓い事件(事例97)、青森全裸監禁事件(事例98)、聖神中央協会少女性的暴行事件(事例99)、摂理女性信者性的暴行事件(事例100)、明覚寺グループによる霊視商法事件(事例101)、豊田商事グループ詐欺事件(事例103)など、実際の事件と照らし合わせて説明しています。
また、被害者支援に携わる者にとって、「被害者心理」を理解するうえで重要なことは、「Ⅱ-9-(3)ツラさを体調不良で訴える」の「②子どもの心身症」の中で記しているとおり、暴力のある家庭環境で育ってきた被虐待者、DV被害者の中には、「暴力被害と体や心の不調を結びつけることを受け入れたくないと強い拒否反応を見せることがある」ということです。
そうしたケースでは、「私は、夫(親)にマインドコントロールなんかされていない。そんなに弱くはない。」と受け入れようとしない、もしくは、そうした指摘をする者に対して、懐疑的に捉え、拒絶してしまうこともあります。
この「手引き」でとりあげる240の事例、特に、事件研究の53事例の結果だけをみると、その凄惨さは特別なことと感じるかもしれません。
しかし、そこに至る状況やその時々の心情などは、暴力のある家庭環境で育ってきた人たちが、「その気持ちはわかる。私も同じような状況に苦しんだ。だけど、違うのは、私は一線を超えなかっただけだと思う。」と口にするように、決して特別なことではなく、共感できる部分が多々認められるものです。
そういった意味からも、「Ⅰ-7.被害者心理。暴力でマインドコントロールされるということ」の記述は、“人が暴力を受けるとどのような反応を示すのか”を理解するうえで、特に重要と考えています。

 「事例で学ぶ」ことによって、被害の実態(事実)を知ることで身近な問題と捉えることができ、加えて、「同じテーマであったとしても、どのような立ち位置でものごとを捉えるかにより、それぞれの認識はまったく異なる」、「対象者により、有効性の違い、効果の開きが生じる」、「平等な機会の提供と、等しい成果を見込めると期待することは次元が違う」など、広い視野でものごとを捉えたり、考えたりするうえで、“多角的な切り口(着眼点)”とすることができると思います。
 広い視野でものごとを捉え、考えるうえで、“多角的な切り口(着眼点)”を持つことは、暴力に支配された関係を断ち切りたいと思っている被害者はいうまでもなく、アボドケーターとして被害者支援に携わる者にとっても、被害者対応、加害者対応の判断をするうえで、重要な意味を持ちます。
なぜなら、当事者の自己判断、そして、当事者に相談された家族、友人、職場の上司や同僚、アボドケーター(援助者)として適切な対応が求められる学校の教職員、行政機関の職員、医師、弁護士の助言が、当事者の判断に大きな影響を及ぼすからです。
その“助言”が、暴力のある家庭環境下にあるという異常性を前提にせず、一般常識的な考え方、「親としての責任・義務」といった倫理・道徳観といった規範や、善悪の判断を持ち合せていない加害者に対して、「話し合えばきっとわかってくれる」といった根拠のない期待感にもとづくものであったとき、とり返しのつかない事態を招くことになります。
慢性反復的(日常的)なデートDVやDV事件、復縁を求める執拗なストーカー事件、児童虐待事件における「とり返しのつかない事態」とは、いうまでもなく、「当事者が死亡する事態」のことを指します。
 そして、「当事者が死亡する事態」というだけに留まらず、「当事者が心身に大きなダメージを与え、将来にわたり心身の健康を損ない、ときに、障害を抱えて生活しなければならない事態」、「当事者が理不尽にも、これまで築いてきた(歩んできた)人生、つまり、家族や友人、仕事のキャリアなどを失い、身を隠して生活を余儀なくされる事態」もまた、当事者やその家族にとって、とり返しのつかない事態になります。
日本では、レイプなど性暴力*-11が“魂の殺人”と指摘されるような心の命を含めて、命を守ることに対するリスクマネジメントは、家族を含めた当事者、被害者支援に携わる人たちを含め、その認識は、まだまだ希薄です。
*-11 DV行為の「性(的)暴力」の中には、望まない性行為を強いられるレイプは、夫婦間においても強姦罪が成立する(最高裁判所判決で、「夫婦間での強姦罪の成立」を認定)ことを、ほとんどの人たちは認識していません。詳細は、「Ⅰ-3-(3)DVとは、どのような暴力をいうのか」の中の「②性暴力」で説明しています。

この「手引き」を通して、「DVを目撃して暮らしている子どもが、DVの最大の被害者である」という認識、「DVの目撃は精神的虐待に該当し、子どもの脳の発達に大きなダメージを与え、将来にわたり心身の健康を損なうことになる」という視点に立ち、児童虐待・面前DVなど、子どもが暴力のある家庭環境で暮らすことの影響を知り、学び、理解して欲しいことは、以下の5点です。
 第一に、子どもに対して、慢性反復的な危機的状況をもたらす虐待、面前DV、貧困、差別、いじめによる強烈なストレスは、脳の一部の発達を阻害し、脳自体の機能や神経構造に永続的にダメージを与えるということ、第二に、その永続的なダメージは、胎児期以降、脳の発達段階に準じてゆっくりと致命的なダメージを与えながら、思春期を前にした8-9歳で顕著な姿を現しはじめるということ、第三に、2歳10ヶ月までに脳の主要となる部分(90%)できあがり、3-5歳で「海馬」がダメージを受けることから、1日も早く、子どもの暴力(児童虐待・面前DV)を発見し支援につなげることが重要であること、第四に、就学するまで発見し支援につなげることができなかったとしても、小学校就学時の4歳-6歳、あるいは、顕著な姿を現しはじめた7-9歳のときに、少なくとも思春期間中(10-15歳)に子どもへの暴力(虐待・面前DV)を発見することができれば、その後の適切なかかわり次第では、9-10歳で境界性人格障害や解離性障害の発症原因となる「脳梁」、14-16歳で「前頭前野(感情や理性を司る)」のダメージを多少なりとも軽減させることができると信じることです。
思春期前の8-9歳、思春期の10-15歳でのサポートは、アタッチメントを損ない、「自己と他の境界線があいまいなまま」成長しているため“人との適切な距離感”を獲得できておらず、加えて、「見捨てられ不安」といわれる渇望感と底なし沼のような寂しさを埋める=親から得られなかったアタッチメントの獲得を大人の異性に求めてしまう地に足がついていない危うさを抱えていることから、暴力のある家から逃れるための「家出」が非行につながったり、レイプ被害にあったり、生活費のために援助交際をしなければならなかったりするなどの2次被害を防ぐことも重要です。
第五として、思春期中後期以降は、解離症状が顕著になり解離性障害を発症が見られたり、高校受験の失敗などをきっかけに、リストカットや過食嘔吐、ODなどの自傷行為に走ったり、人との適切な距離感がわからず、人とのかかわり方に苦しみひきこもるようになったり、非行行為など問題行動を繰り返すようになったり、さらに、不安障害(パニック障害)、適応障害、気分障害(うつ病など)、統合失調症(精神分裂病)、双極性障害(躁うつ病)、人格障害(パーソナリティ障害)の症状が顕著になりはじめたりしたとき、世間体を気にして家庭内で解決しようと考えてはいけないということです。
重要なことは、躊躇することなく第三者のサポートを受け、適切な治療を受けさせる決断をすることです。

当「手引き」が、いま切迫した状況にある方々にとって、なにかしらのお役にたてるなら幸いです。



平成25年11日12日
改訂新版:平成28年2月28日/新版2訂:平成29年4月15日
小学校講師 もりのやまね
DV被害者支援室poco a poco 代表 庄司薫


庄司薫:
はじめに、第1部・プロローグ・第1章(Ⅰ.密接な関係。児童虐待とドメスティック・バイオレンス)、第2章(児童虐待・面前DV。暴力のある家庭環境で暮らす、育つということ)、第3部・第4章(Ⅳ.「婚姻破綻の原因はDVにある」ときの離婚)、第5章(Ⅴ.DVのある家庭環境で育った子どもと母親のケア)を担当

もりのやまね:
第2部・第3章(Ⅲ.学校現場で、児童虐待・面前DVとどうかかわるか)を担当



2016.3/3 ブログ再編成(第3次改訂)に伴い、主記事として掲載
2016.9/9 「暴力の影響を「事例」で学ぶ。虐待とDVの早期発見・支援。母と子どもが暴力から脱するための手引き(目次)」を、「暴力の影響を「事例」で学ぶ。虐待とDVの早期発見・支援。母と子どもが暴力から脱するための手引き」と「目次」に分割し、掲載
2017.3/21 「手引き」の「はじめに」を「改訂3版」としての編集により、「暴力の影響を「事例」で学ぶ。虐待とDVの早期発見・支援。母と子どもが暴力から脱するための手引き」、「目次」、「はじめに」、「プロローグ」として掲載
* 「第1章」以降、つまり、カテゴリー「Ⅲ-3」-「Ⅲ-10」の「改訂2版」については、改訂作業を終えた「章」から差し替えていきます。




もくじ   3kaku_s_L.png   [Ⅲ-1]暴力の影響を「事例」で学ぶ。虐待とDVの早期発見・支援。母と子どもが暴力から脱するための手引き
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