あなたは、夫の暴力・DVを容認していませんか? 暴力のある家庭環境で暮らす子どもの心を守ることを忘れていませんか?

[Ⅶ-5]<虐待>新聞事件簿。隣の家の子どもは大丈夫?子どもを助けてあげて!

<ダイヤモンド・オンライン>暴力から育児放棄まで、激増する「児童虐待」の実態。子どもたちの心の傷は本当に癒えるのか?

 
 女性に対する暴力のない社会を目指して(答申) <産経新聞>ダンベル付きロープに長男を縛る 虐待で母親ら逮捕
 長崎県中央部にある大村湾。コバルトブルーの美しい海を一望できる坂道を車で通るたび、その風景に心を奪われるものの、私たち取材班にそれを楽しむ余裕はない。目指す施設が目前に迫っているからだ。饒舌だったカメラマンが押し黙り、緊張の表情が伺える。いったい今日は、何が私たちを待ち受けているのだろうか・・・。

 親から子どもへの虐待。近年、子どもが命を奪われる悲惨なニュースは後を絶たず、児童相談所へ寄せられる報告件数も年々増加している。その数は昨年4万件にのぼった。「いったいこの国はどうなっちまったんだ」と憤る方たちも多いと思うが、一方で救い出された子どもたちがどこでどんな思いをしながら生きているのか、皆さんはご存じだろうか。恥ずかしながら私も少し前まではほとんど知らなかった。そんな私が虐待を受けた子どもたちの取材を始めたきっかけは一年前、不登校の子どもたちに関するドキュメントの制作を終え、文科省の担当者と話していた時のことだった。
「虐待を受けた子どもたちの苦しみは想像を絶します。その子どもたちと向き合っている人たちがいることを伝えてもらえませんか」
 そう言って紹介してくれたのが情緒障害児短期治療施設(以下:情短)だった。心を閉ざしてしまったり、暴力が抑えられないなど情緒に重い混乱をきたした子どもたちが、人と関係が結べるようになることを目指し、共同生活を送りながら治療を受ける施設だという。現在全国に33ヵ所あるが、入所している多くは、虐待や育児放棄をくりかえす親元から保護された子どもたちだ。
 私たちは取材を受け入れてもらえないか、1カ所1カ所訪ねて回ったが、子どものプライバシーの問題からなかなか許可は下りなかった。そうしたなか、保護者の承諾をもらい、治療の妨げにならないことを条件にカメラを入れることを許可してくれた施設があった。それが私たちが向かった、長崎県大村市にある「大村椿の森学園」。受け入れてくれた理由はただ1つ、心の傷から立ち直ろうと格闘する子どもたちの姿を多くの人に知ってほしいということだった。

突然キレ出し、暴力的に!?“豹変”する子どもたち
 心に大きな傷を負った子どもとはいったいどんな感じなのだろうか。不安を抱いたまま施設に着いた私たち撮影スタッフを迎えてくれたのは、底なしに明るい子どもたちだった。暮らしているのは7歳から18歳までの35人。初めて見るカメラや音声機材に目を輝かせながらじゃれついてきた。

突然キレ出し、暴れ始めた少女。指導員にも掴みかかる
「なんだ、普通の子どもたちと変わらないじゃないか」。しかしそんな気持ちはすぐに打ち砕かれ、私たちは現実を知ることになる。今まで私たちと遊んでいた中学生の女の子がいきなりキレて小学生の首を絞めはじめたのだ。慌ててカメラを構えるカメラマンの存在などお構いなしに小学生を殴りつける。周りの友だちが必死に止めようとするが、その手を払い除け、暴れる。そして怒りの矛先は、止めにきた職員にも向けられた。彼女がキレた原因、それは男の子の手が誤って女の子にあたってしまった、というものだった・・・。
 暴れる女の子を止めようとしたある女の子に私たちは話を聞いた。マリコさん15歳。母親からタバコを押しつけられたり、殴られたりしてきたという。児童相談所に保護された後、ここにきて2年。しかし彼女も友だち同様、暴力が止められないという。
「母親からされたことを自分もしている。暴力はいけないとはわかっているけど、止められない」
 苦しそうに語る彼女の姿から、虐待による心の傷の深さを改めて実感した。

心に深い傷を負った子どもたちが行き着いた場所
 彼女らが暮らす「情短」とはどのような施設なのか、ここで簡単に触れておきたい。まず、情短とは児童福祉施設の一種である。虐待や育児放棄の疑いがある場合、児童相談所がその家庭の調査を行なう。そしてそのまま放っておくと子どもに危険が及ぶ可能性が高く、家族を分離することが望ましいとなった場合、子どもは主に次の4つの場所のいずれかで暮らすことになる。「里親」「児童養護施設」「児童自立支援施設」、そしてとりわけ心に深い傷を負った子どもたちが暮らすのが「情緒障害児短期治療施設(情短)」だ。
 情短は原則として18歳まで入所できる。児童精神科医や心理セラピストといった医療の専門スタッフと子どもたちの生活全般を支える児童指導員がチームを組んで心のケアにあたり、子どもたちが社会で安定した生活をできるよう、治療を行なっていく。
 椿の森学園には地元の小中学校の分教室があり、子どもたちは日中、そこで勉強している。しかし、授業が始まってもみんな、じっとしていることができない。歩き回ったり、抜け出したりする子が続出する。
 私たちは教室を抜け出した1人に話を聞いてみた。小学6年生のハヤト君。5年前、母親の育児放棄で保護され、この施設にきた。生き物が好きで普段から昆虫を観察したり、魚を採ったりして過ごすハヤト君は子どもらしく、虐待のトラウマに苦しんでいるようには見えなかった。しかし夜が深まるにつれ、ハヤト君の姿が“豹変”する。消灯時間後、不安から寝ることができず、荒れてしまうのだ。昼間の人懐っこい表情は消え、攻撃的で暴力的な一面が表出する。寝るように諭す職員には悪態をつき、私たち取材班にも絡み出す。
 どうにも感情をおさえられなくなった時、ハヤト君が一番慕っている職員がやってきた。主任児童指導員の中島喜伸さんだ。中島さんの姿を見たとたんハヤト君は涙を流し、「キツイ。こんな生活もう嫌だ」と訴える。泣きじゃくるハヤトく君を受け止める中島さん。しかし、このやりとりは夜ごと繰り返されているという。子ども時代の育児放棄によるトラウマがハヤト君を毎晩苦しめているのだ。ハヤト君の母親は夜、息子をおいて外出していた。当時、小学1年生だったハヤト君は、寂しさから夜の街を徘徊するようになる。それから5年。ハヤト君は今でも夜が怖いのだ。

心のよりどころを求める少女。施設の指導員が親代わりの存在に
 35人が共同生活を送る施設では、年上の子がお兄さん、お姉さん代わり。小さい女の子たちが不安にならないよう、絵本の読み聞かせをする女の子がいた。アオイさん、17歳だ。アオイさんは施設から地元の普通高校に通っているが、友だちとうまく付き合えず休みがちでいた。そんな彼女が慕い、心を開いているのが生活指導員の鳥羽瀬康子さん。毎日着る服のことから学校での悩みごとまで、なんでも相談できる鳥羽瀬さんがアオイさんの親代わりの存在なのである。

 アオイさんが施設に来たのは5年前。父の再婚後、激しい暴力を受けるようになったという。しかし、最も傷ついたのは心の中だった。「弟が生まれてから『お父さんはあんたのお父さんじゃなくて弟のお父さん』って言われた。殴られるよりもつらかった」と語るアオイさん。施設に来た時、医師は彼女を「反応性愛着障害」と診断した。自分は必要のない存在だと心を閉ざしてしまう症状だ。
 ここにきて5年。鳥羽瀬さんとの触れ合いなどを通じて、少しずつ人との関係を作れるようになってきた。しかし、春休みの終わり、事件が起きる。アオイさんが鳥羽瀬さんに突然殴りかかったのだ。きっかけは夕食のとき、鳥羽瀬さんが別の子どもと一緒に座っていたこと。甘えたいのに自分のそばにいない…学校のことで溜まったストレスが爆発したのだ。「お前に私の何がわかるんだ!」。荒れ狂うアオイさんに鳥羽瀬さんは寄り添う。不安な心を鎮め、安心して寝静まるまで見守った。
 4月、アオイさんは高校3年生に進級したが、学校が始まると暴力の回数は増えていった。児童精神科医師は、アオイさんが施設を出て1人になった時、目の前に鳥羽瀬さんがいない不安から自分で心を落ちつかせることができない状態であると判断。離れていても鳥羽瀬さんのことをイメージし、存在を感じられるように手を打つべきだと鳥羽瀬さんに指示した。
 自分が目の前にいなくても安心してもらうにはどうしたらいいのだろうか。当直明けで翌日まで会えないという朝、鳥羽瀬さんはアオイさんにメッセージを残した。自分を思い出してもらう手がかりにしてもらおうというのだ。その日の午後、学校から帰ってきたアオイさんは鳥羽瀬さんのメッセージを受け取ると、照れながらも繰り返し読み返していた。

親子の関係を取り戻せるのか?心の傷の深さゆえの長い道のり
 赤ちゃんの時から自然に受け取るはずだった安心と愛情。子どもたちは今、この施設でゆっくりと取り戻し、立ち直ろうとしている。時間をかけながら少しずつ回復していく子どもたち。椿の森学園ではこの6年間で44人が退所していった。しかし、その全員が治療を終えて戻っていったわけではないという。親が親権をタテに、子どもを強引に連れ戻すことがあるのだ。そうなると再び虐待が起きる可能性があるという。

ハヤト君親子の絆を取り戻すため、懸命に向き合う指導員の中島さん
 そうしたなか、施設では、親子が関係を立て直せるよう仲立ちを試みている。今、力を入れているのは夜眠れないハヤト君のことだ。ハヤト君は母親が大好きだと言っており、かつて育児放棄をしていたと児童相談所に指摘された母親もハヤト君を引き取りたいと強く希望している。施設の主任指導員の中島さんは今後のことを話し合いたいと母親に申し入れ、5月、話し合いが実現した。
 夜、不安から暴れてしまったり、職員に悪態をつくことを中島さんが説明しても、母親は自分の前ではそうした姿を見せないと主張。それに対し中島さんは、母親が厳しく接するためにハヤト君の心を抑え込んでいると指摘した。
 話し合いの後、私たち取材班は、お母さんにハヤト君との接し方について直接尋ねることにした。育児放棄や虐待があったという認識はないという母親だが、一緒に暮らせるようになった時の不安について次のように語った。
「不安は息子からの暴力だけ。そうさせないよう、いつまでたっても私の方が上だってことを教えこんでおかないといけない」
 子どもの治療と親への支援。親子の関係を取り戻す長い道のりがこれからも続く。
 取材の後半、学校のことで苦しんでいたアオイさんに新たな問題が持ち上がった。高校卒業後、保育士の資格をとるために大学に進学したいのだが、そのことで両親と相談しなくてはならないからだ。親と連絡をとるのをためらうアオイさんを鳥羽瀬さんたちが何度も励ました。「あなたを1人にはしないから。私たちがついているから」。つらい記憶を思い出したくないと親の話になると耳を塞いできたアオイさん。しかし今、逃げずに向き合おうと考え初めていた。
「いつまでも虐待を受けたけん、わぁわぁ言っていられない。やれるとは言い切れないけどやってみる」
 過去のトラウマを乗り越え、社会に一歩を踏み出せるのか。アオイさんに新たな試練が始まろうとしている。


 椿の森学園の子どもたちと初めて出会ってからちょうど1年が経とうとしている。その間、傷つき、苦しむ姿を何度見てきただろうか。虐待による心の傷、その深さは私たちの想像を絶するものだった。しかし同時に、子どもたちはゆっくりではあるが柔らかい心を取り戻し、立ち直る可能性を確かに持っていると感じることもできた。子どもたちが虐待のトラウマに悩まされずに生きていけるようになれるのか、私はその答えが出るまで、このテーマを追い続けていきたいと考えている。

(文:番組取材班 杉浦大悟)

取材を振り返って
【鎌田靖のキャスター日記】
 おだやかな波音が琴の音を思わせたのでしょうか。「琴の湖」とも呼ばれる長崎県の大村湾。その美しい湾を見下ろす高台に情緒障害児短期治療施設(情短)の「大村椿の森学園」があります。私も先日、取材スタッフと共にこの施設を訪れました。
 施設は6年前にできました。現在35人の子供たちがここで治療を受けながら暮らしています。出迎えてくれたのは番組にも登場した指導員の中島喜伸さんです。
 スタッフたちは半年以上もこの施設で取材を続けているため、すぐに顔見知りの子供たちが集まってきました。抱きついてくる子供もいます。私はというとはじめての訪問なので、子供たちは少し緊張気味。それでも中島さんの案内で施設の中を見学している私に話しかけてくる子供もいました。
 私は以前「週刊こどもニュース」という番組を担当していたこともあって比較的多くの子供たちと付き合いがあります。施設の子供たちもまったく変わらない印象でした。

 しばらくすると突然子供の大声が聞こえてきました。番組でも紹介した中学1年生のハヤト君です。職員につかみかかっています。さっきまでスタッフとじゃれあっていたのに・・・。あまりの落差に言葉がありませんでした。まるでガラス細工のように触っただけで壊れてしまいそうな子供たち。虐待で受けた心の傷の深さを思い知らされました。
 中島さんに聞きたかったことがあります。親から殴られたりといった虐待を受けた子供が暴力的になることは理解できますが、親から育児放棄された子供も暴力的になるのはどうしてか、ということです。
 中島さんの説明はこうでした。
「人としてちゃんと扱っていないということでは同じです。自分の不満やストレスのはけ口として子供に暴力を振るう親。躾の一貫だと親はいいますが本当にそうでしょうか。一方で自分がしたいようにして子供を放っておく親。どちらも子供を人として扱っていません。すると子供は『自分はいらないんだ。存在しなくていいんだ』と思って自己破壊的な行動をとるのです。それが暴力になったり、あるいはリストカットの引き金になったりします。虐待も育児放棄も同じことなのです」
 私の子育てはどうだったろうと思わず考え込んでしまいました。
 もうひとつ中島さんに聞きたかったことがあります。指導員たちは子どもに対して全力で取り組んでいました。その真摯な姿勢に感銘を受けました。でも治療の効果はすぐにはあらわれません。長い時間がかかります。
「やめたいと思ったことはないですか?」――これに対して中島さんは、
「自分の指導は間違っていないか毎日悩みます。やめたいと思ったこともあります。でもそんなときに限って子供たちから何かをもらうのです。勇気とか力とか。入所してきたときと比べれば子供たちは確かに成長しています。そう考えると『ああ続けてよかった』と思えるのです」

 終始、力むこともなくおだやかに中島さんは答えてくれました。
 椿の森学園では野球の好きな子供たちが集まっていつも練習しています。この練習も見学させてもらいました。番組で紹介した高校生のアオイさんがいるからです。私は中学と大学で軟式野球をやっていたので野球のことはまあ分かります。アオイさんはとてもうまい。女性とは思えないくらいの強肩です。そしていつも声を出して周りのメンバーを気遣っていました。
 残念だったのは時間がなかったのでアオイさんとあまり話しができなかったこと。いつか再会して今度はキャッチボールをしたいなあ。




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