あなたは、夫の暴力・DVを容認していませんか? 暴力のある家庭環境で暮らす子どもの心を守ることを忘れていませんか?

[Ⅵ-A] 臨床現場からのレポート(1) DV・児童虐待。暴力と精神疾患

ドメスティック・バイオレンスの被害者としての子ども達「親と子と教職員の教育相談室」相談員 徳永恭子

 
 <毎日新聞>損害賠償:わいせつ行為受け娘が自殺 両親提訴 高松地裁 戦争加害によるトラウマの世代間連鎖と和解修復の試み
 ドメスティック・バイオレンス(DV)とは、夫婦や恋人などの親密な関係にある相手からの暴力を言います。家庭内で起こる暴力で、社会的に強い立場にある者から弱い立場にある者への暴力で、そのほとんどは男性から女性に対するものです。その暴力の方法では、殴る・蹴る・髪を引っ張るなどの身体的暴力が第一番目にあげられます。その他に、相手をなじったり、馬鹿にしたりする言葉による暴力や女性に罪悪感を感じさせるような心理的暴力。家計の管理を独占して、収入や財産のことを教えなかったり、借金を作ったりするなどの経済的暴力。女性の望まない性行為をする、避妊に協力しないなどの性的暴力などがあります。2009年の内閣府男女共同参画局の「男女間における暴力に関する調査」報告書によると、この5 年以内に配偶者から何らかの被害を受けた女性は、13.6%いるという調査結果も出ています。

1. 両親の間のDVに子どもは気がついています。
 DVがある家庭に子どもがいる場合は、必ず子どもへの影響があります。子ども自身が暴力を受けている場合と、子どもは直接には暴力を受けていないが暴力の目撃者になっている場合があります。
 子どもが直接暴力を受ける場合は、父親から母親といっしょに暴力を受けたり怒鳴られたり、何か物を投げられたり、無視されたりする場合があります。また、母親が父親から受ける暴力のストレスを子どもに向ける場合もあります。また、子どもの面倒を見る精神的ゆとりがなくなったりして、子どもに当たる、怒る、食事を準備しないなど育児放棄をしてしまう場合もあります。どちらにしても子どもへの虐待と言えます。直接的な暴力を受けなくても、子どもが暴力の目撃者になる、そのあおりを子どもが受けるということは、心理的虐待です。
 家庭にDVがあるということを、子どもは知らないと両親は思っていても、ほとんどの場合は子どもは知っているという調査結果があります。物を投げる音、叩く音、怒鳴りあう声などを耳にすることや家の散らかった様子、母親の様子や顔つき、また母親の怪我、あざなどから暴力や異変を察知します。

2. DVのサイクルに子どもは混乱します。
 アメリカの心理学者のレノア・ウォカーはドメスティック・バイオレンスにはサイクル(周期)があると提唱しています。そのサイクルとは大きく三段階あります。第一段階は、少しずつ夫の緊張が増していき、ちょっとしたことが気になり、神経がぴりぴりしてくる「緊張を蓄積する期間」です。第二段階は、あるきっかけで怒鳴ったり、物を投げたり、暴力を振るったりする「暴力の爆発期」です。その後、第三段階は暴力を振るった夫が謝罪したり、二度と暴力を振るわないと約束したりして女性に許しを願ったり、何かプレゼントを買ってきたりして、優しくなる「ハネムーン期」です。この時期になると、これまで暴力を受けていた女性も今度は暴力を止めてくれると信じようとします。
 しかし、その「ハネムーン期」がしばらく続くと、また第一段階の「緊張を蓄積する期」に戻っていきます。サイクルはなかなか止まらず、時間の経過とともにサイクルの速度が増していきます。さらには暴力の頻度や深刻度が増加することもあります。なかには、「ハネムーン期」がなくなり、緊張と暴力が交互に来る場合もあると言われています。
 家庭内にこのサイクルがあると、子どもは今両親はどんな状態にあるのかいつもうかがっていなくてはなりません。また、先日までは凄い喧嘩をしていたのに、突然「ハネムーン期」に入った状況をどう解釈していいのか混乱します。暴力の最中は、どうなる事か心配と恐怖で恐れおののいているでしょう。もしかしたら、母親が家出をしたり、離婚したりするかもしれない、そうなったら自分はどうなるのだろうと不安にさいなまれる子どももいるでしょう。子ども達は、そういうサイクルの中では、安定し信頼した家族関係を築く事はとても難しくなり、精神的に混乱してしまいます。

3. DV は子どもたちの家族間の信頼感を損ないます。
 父親が母親に対して暴力を振るう状態を見て、父親をひどい父親だと憎み、嫌悪するかもしれません。また、暴力を受け続ける母親を見て、情けない、非力な母親だと軽蔑したり、あるいは可哀相な母親だと同情を募らせる場合もあります。
 また、子どもは、そういう父親の姿を見て、要求や欲望は暴力で解決すればいいのだと学習したり、母親(女)は暴力で言う事を聞かせればいいのだと言う女性蔑視の考えを刷り込まれたりする場合もあります。両親の間でののしる言葉が飛び交う場面が多いと、穏やかで親密な家族関係が作れなくなるでしょう。子どもは父親と母親との関係の中で、どちらも信頼できずに失望してしまいます。あるいは、二人の関係に気持ちが引き裂かれてしまい、感情的な安定感は作れなくなります。
 意図的に子どもを利用するDVもあります。父親がわざと自分の言いたいことを子どもに言わせたり、子どもを通して母親を攻撃する場合もあります。家庭内がスムーズに進まないのは、母親の責任だとして母親を責めるように子どもの心理操作をする場合もあります。
 母親が別居ないしは離婚したいと思っているときに、父親が「子どもを取り上げるぞ。」「子どもと一緒に暮らせなくしてやる。」などの攻撃や脅しを言ったりする言葉を子どもが聞いたとき、子どもは身がすくむ思いをします。そして子どもは、いつ親に見捨てられるかという不安感に苛まれるかもしれません。
 子どもが言った言葉や起こした失敗をきっかけに、父親が母親に暴力を振るい始めた場合は、子どもは自分のせい、自分が悪いと自分を責め、そのたびに自己否定を積み上げていきます。家庭は子どもが安心して過ごせる場、穏やかに生活できる場から縁遠いものになってしまいます。自分の気持ちを素直に表現したり、話したいことを受け止めてもらえたりする場も少なくなります。いつも神経を過敏にし、自分が原因で喧嘩が再発しないように、また何かのきっかけで暴力が起こらないようにおどおどと日々緊張して生活することになります。常に自分のせいで喧嘩が起きないように「良い子」でいる努力をしているうちに自分の気持ちを素直に表現することを忘れてしまいます。子どもは、両親の間で安定した場を確保するために神経を使い、本来の子どもの伸びやかさ、明るさ、無邪気さが少しずつ損なわれていくことにもなります。
 友達同士でおしゃべりしていても、自分の家のこと両親のことは言わないようにと、暗黙のうちに自己規制したり心理的防衛をすることもあります。家族のことや両親のことは外では言ってはいけない秘密のこととして、自分の内面にふたをしたりして、孤立感や疎外感を味わうことにもなります。

4. DVは子どもに深刻な影響を与えます。
 教室で机をけったりして暴れる、怒るとすぐ友達に乱暴をする、嫌な事をされても嫌だといわずに黙って我慢している、スポーツで勝ち負けに非常にこだわる、気に食わないことがあると暴言をはく、教室から突然出て行ってしまう、いじめにあう場面が多い、遅刻・欠席が多いなど心配な様子の子どもが時々います。担任が個人面談などで子どもの行動を具体的に話していくと、母親が「実は、夫がわたしに暴力を振るうのです。その影響が出ているのではないかと心配しています。」などと相談を持ちかけられることもあります。周囲の大人は、子どもの言動を子ども個人の問題にしないで、その子どもの言動の裏にDVがないかどうか注意深く観察してみましょう。
 子どもの感情の不安定は、「突然怒る」「原因なく不安がる」「感情の起伏が激しい」など神経の過敏さや突然の気分の変化に関するものがとても多く見られます。身体的な症状として、腹痛、下痢、嘔吐など消化器系の不調に現れることもあります。すこし成長すると、不登校、家出、チック(瞬き、顔しかめなど子どもに現れる症状)、夜尿、拒食や過食などの摂食障害、自分で自分の体を傷つける自傷行為、学業不振、宿題忘れや学習用具の忘れ、万引きなど多様な影響を与えているといわれています。また、交友関係がスムーズにいかなかったり、クラスでの居場所がなかったりしていじめを受けるかもしれません。逆にいじめをする側に回るかもしれません。子どもをめぐる様々な問題があらわれてきます。
 アメリカの臨床心理士、バンクロフトとシルバーマンなどの調査結果でも、DV家庭に育った子どもは、自殺傾向や、アルコール・薬物依存、抑うつ、発達遅滞、学習困難、集中力の欠如、暴力への関与など多様なリスクを抱え、トラウマにさらされることがあると報告されています。このようなDVの中で直接、間接の暴力にさらされている子どもの発見そしてケアやサポートが、学校や相談機関・医療機関・専門機関で、緊急に検討される必要があります。そして、具体的にサポート体制が構築されることが重要です。

5. DVに関する法律を知り、サポートにつなげましょう。
 「配偶者からの暴力防止及び被害者の保護に関する法律」(DV 防止法)は、2007 年に被害者の声が反映された内容に改定されました。まだまだ十分とはいえませんが、被害者支援や自立への手立てを行うこととなっています。周囲にいる人や保護者などがDV の被害にあっている場合もあります。被害者本人は、躊躇、恐怖、不安、無力感、子どもへの配慮などで自分からは専門機関などにも訴えることができないことがあります。周囲の人が、今法律がどうなっているかを知っておいて、被害にあっている人ができるだけ早く保護されるよう対応することが必要です。
 この法律には先ず、配偶者の暴力に関わる通報、相談、保護、自立支援などの体制を整備することが定められています。また、法律婚だけではなく、内縁関係や離婚した夫婦関係にも適応されます。
 各都道府県には女性センターがあり、配偶者暴力相談支援センターとしての機能が果たせるようになっています。一番近い配偶者暴力相談支援センターに電話で相談したり、面接相談にいったりして解決の方法を見つけることが必要でしょう。そこでは、相談はもちろん、心身の回復のための医学的、心理的指導や被害者や家族の一時的保護も行います。
 また、自立して生活できるように就業の促進や住宅の確保や様々な制度利用の情報提供も行うことになっています。保護命令の制度の利用や保護施設についての情報提供も行います。
 法的な罰則はないのですが、「配偶者からの暴力を受けている者を発見した者は、その旨を配偶者暴力相談支援センターまたは警察官に通報するよう努めなければならない」と定めています。学校で教職員がDVだなと気がついた人は速やかに通報し、母親や子どもの保護などの対応をしてもらった方がいいでしょう。
 DVのある家庭に育つ子どもは、戦場で暮らす子どものようなものだといわれています。いつ、何が起こるか子どもには予測できずに、びくびくして暮らしています。安全な空間や時間、逃げ場はないのです。ましてやそのことを外で話すこともできません。被害の事実に気がついた大人は、できるだけ早急に、子どもが安心して安全に暮らせる環境を準備することが求められています。そして、自分達の身の回りで起きたことの説明を受け、子どもが慰められ、励まされ、安心してくらせるよう心身のケアを受ける必要があります。

参考文献
* バンクロフト・ランディ、シルバーマン・ジェイ・G 『DVにさらされる子どもたち―加害者としての親が
家族機能に及ぼす影響』 金剛出版(2004)
* 信田さよ子 『DVと虐待「家族の暴力」に援助者ができること』 医学書院(2002)
* 豊田正義 『DV-殴らずにはいられない男たち』光文社(2001)
* 「夫(恋人)からの暴力」調査研究会 『ドメスティック・バイオレンス新版』 有斐閣(2002)
* 戒能民江 『DV防止とこれからの被害当事者支援』 ミネルヴァ書房(2006)
* 山下英三郎・石井小夜子 『子ども虐待 今、学校・地域社会は何ができるか』 現代書館(2006)
* チルドレン・ソサエティ 『虐待とドメスティック・バイオレンスのなかにいる子どもたちへ―ひとりぼっちじゃないよ』 明石書店(2005)
* 田上時子 『知っていますか?子どもの虐待一問一答』 解放出版社(2007)
*バンクロフト・ランディ 『DV・虐待にさらされた子どものトラウマを癒す―お母さんと支援者のためのガイド』 明石書店(2006)
*バンクロフト・ランディ 『DV・虐待加害者の実体を知る―あなた自身の人生を取り戻すためのガイド』 明石書店(2008)



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