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[Ⅵ-A] 臨床現場からのレポート(1) DV・児童虐待。暴力と精神疾患

婦人保護施設における性暴力被害者支援の実態 堀 千鶴子

 
 <産経新聞>精神科病棟 増える認知症の人 岡本海渡さん死亡事件検証報告 ~児童虐待死ゼロをめざして~ 江戸川区・江戸川区教育委員会
1 はじめに
 「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律」などの制定にみられるように、近年、ドメスティック・バイオレンス、ストーカー、レイプなど女性に対する暴力は、深刻な社会問題と認識されつつある。特に、レイプなど性暴力被害者は、犯罪被害者支援における重要な対象の一つとなっている。我が国における犯罪被害者支援対策は進展しつつあり、2004年には「犯罪被害者等基本法」が成立、2005年には「犯罪被害者等基本計画」(以下、基本計画と略)が策定された。基本計画では、重点課題に係る具体的な施策が掲げられ、そこでは性暴力被害者に対する支援策も盛り込まれている。
 一方、社会福祉においては、従来から「更生保護(司法福祉)」という分野はあるが、犯罪被害者支援については分野として確立されてこなかった。性犯罪被害者への支援についても、同様である。そのような中で、性暴力被害者に対して支援を行ってきたのは主として婦人保護事業であった。1992年に発せられた厚生省通達「婦人保護事業に係る取扱について」では、婦人保護事業対象者の範囲の一つとして、「売春を行うおそれは当面ないが、その者が家庭環境の破綻、生活の困窮、性被害等正常な社会生活を営むうえで困難な問題を有しており、かつ、その問題を解決すべき機関が他にないために、放置すれば将来売春を行うおそれが生ずることとなると認められる場合に、未然防止の見地から保護、援助を要する者(下線筆者)」を挙げている。換言すれば、性被害などの問題を抱えた女性に対する支援は、婦人保護事業対象者の拡大の中で、他に支援機関のない者に対して、売春への「未然防止」として消極的、暫定的に行われてきたにすぎない1。そして、婦人保護事業における性暴力被害者支援の実態に対しては、ほとんど明らかにされてこなかった。本稿では、婦人保護施設における性暴力被害者支援の一端を明らかにし、今後の課題を抽出することを試みたい。そのことは、性暴力被害者支援に対して、婦人保護施設が果たす役割やあり方を検討するための礎石となろう。なお、本稿は、「財団法人こども未来財団」による研究助成をうけた「婦人保護施設における児童ケアと親支援に関する調査研究」(2008年度 児童関連サービス調査研究等事業2)において得られたデータに基づいている。


2 先行研究と本稿の位置づけ
 性暴力被害者支援については、被害者学における研究の蓄積がある。被害者学は、学際的な分野であり、フェミニズムや被害者援助活動による影響を大きく受けている。特に、1960年代以後、アメリカにおけるDVやレイプ被害者、女性犯罪者に対する支援の実践から、多くの暴力被害の実態が明らかとなっていった3。
 日本においても、性暴力被害者に関する実態調査4や支援のあり方に関する研究は、進みつつある5。精神医学領域ではPTSD研究が活発にすすめられ、性暴力被害者の心身への影響について研究が進展してい
る6。看護学においても、諸外国にみられる性暴力被害者支援のあり方や、性暴力被害者支援看護師について紹介、検討されている7。
 他方、社会福祉の領域においては、性暴力被害者支援に関する調査研究は行われてこなかった。ただし、婦人保護事業利用者の多くが、性暴力被害を被っていることは、利用者に関する調査8や現場からの実践報告9の中で、以前から指摘されていた。また、厚生労働省が所管する「婦人保護事業実施状況報告」にみられる「婦人相談所来所相談の主訴」「婦人相談所一時保護所の主訴」「婦人保護施設入所者の主訴」などの統計には、「売春強要」「人身取引」など性暴力を推測させる項目がある。しかし、婦人保護事業利用者における性暴力被害者数などの実態については、全く報告されてこなかった。
 こうした中で、近年の動向として、NPO法人「全国シェルターネット」(以下、「シェルターネット」と略)と「婦人保護施設あり方検討会」(以下、「あり方検討会」と略)による貴重な調査がある。「シェルターネット」は、全国の民間シェルターと婦人保護施設において、DV被害を受けて一時保護を利用した女性と子どもの性暴力被害体験について、職員を対象とした統計調査とヒアリング調査を行っている10。DV家庭に限定したものであるが、女性・子どもの深刻な性暴力被害とその実情をつまびらかにする、重要な資料である。また、「あり方検討会」は、2003年度から2005年度の3年間について、東京5施設の利用者における性暴力被害者数、及び加害者との関係を明らかにしている11。2005年度を例にあげると、利用者数247名のうち53名、21%が何らかの性暴力被害を受けていた。東京5施設という限定ではあるが、婦人保護施設利用者の性暴力被害実態を報告する貴重な資料となっている。しかし、管見の限りでは、全婦人保護事業利用者における被害者数や、具体的な支援についての調査研究はなされていない。そもそも全国の婦人保護施設における支援機能や利用者を対象とした調査は、2008年に実施された本調査が初めてであり12、婦人保護施設の研究自体が、未だ緒に就いたばかりといえる。本稿では、婦人保護施設においては性暴力被害者に対して、どのような支援を提供しているのか、また支援を行う上での困難について明確にし、今後の課題を抽出するものである。それは、今後の研究の基礎データとなるものである。


3 性暴力被害者とは-用語の理解
 本稿では、主として「性暴力」という用語を使用している。性暴力と関連する用語として、「性犯罪」があるが、ここでは性犯罪より広い概念として性暴力という用語を使用する。まず、それらの定義について確認しておきたい。
 性犯罪とは、端的に言えば、刑法等法律に規定された罪を犯すことである。刑法では、第176条(強制わいせつ)、第177条(強姦)、178条(準強制わいせつ及び準強姦)、178条の2(集団強姦等)を規定している。刑法177条(強姦)では「暴行又は脅迫を用いて13歳以上の女子を姦淫した者は、強姦の罪とし、3年以上の有期懲役に処する。13歳未満の女子を姦淫した者も、同様とする。」とある。ここでは、強姦の被害者は女子に限定され、性器の挿入がなされていることが要件となっている。なお、それ以外の性暴力は、強制わいせつとなる。また、「暴行又は脅迫」とは、被害者の意志を抑圧するに足りるものとでなければならず、判決において強姦罪の被害者と認められるためには「貞操観念の強固さ」が必要であるという13。このように性犯罪といった場合、刑法の規定に沿った厳密なものとなる。また、「犯罪」とは、法律違反行為者として逮捕、有罪となって初めて確定するものである。性犯罪申告率は、非常に低く、たとえば、2008年では13.3%14であり、検挙されない暗数が多い。つまり、「性犯罪」という場合、検挙された「犯罪」のみを対象に考察することになり、非常に限定されたものとなる。
 一方で、性暴力といった場合、「性犯罪」と比較して広義の定義が使用されることが多い。藤岡は、欧米での研究動向から、性暴力の判断基準として、同意の有無、対等性の有無、強要性の有無が用いられていること、それらを踏まえた「他者の意志に反して性行為を強要すること」といった定義を紹介している15。また、板垣は、より行動記述的な定義として、「本人の意志に反して性交され、性器への接触や異物を挿入された人であり身体的もしくは心理的な危害、または苦痛となる行為をされた者である。さらに、被害によって生命と人格を脅かされ、基本的人権と性的自由を侵害された人をいう」16と規定している。いずれの定義も、年齢や性別に関わりなく、「意志に反する」行為であることを重視し、性器の挿入以外の行為も含めた、強制による性行動を、性暴力として位置づけている。「性暴力」といった場合、司法手続きに乗ることは要件ではなく、露見していないもの-検挙されていないもの-も認知される。つまり、性犯罪より広義な定義であり、性犯罪として規定されているものは、ほとんどすべてが性暴力に含まれる。
 なお、藤岡は、性暴力の本質は、「性的欲求によるというよりは、攻撃、支配、優越、男性性の誇示、接触、依存などのさまざまな欲求を、性という手段、行動を通じて自己中心的に充足させようとする「暴力」である」17としている。性的欲求によって性暴力が行われるのではなく、優越や支配、男性性の誇示などの多様な欲求を充足する手段として、性行為が使用される。性暴力について考察する際には、このような性暴力の本質を認識する必要がある。


4 婦人保護施設における被害者支援の実際-調査結果と考察
(1)調査の概要―調査の方法・期間・回収状況
 筆者らは、2008年度に「婦人保護施設における児童ケアと親支援に関する調査研究」18の一環として実施した「婦人保護施設機能調査」の中で、性暴力被害者支援について調査を行った。調査においては、利用者(措置入所者)及び同伴児童の両者を対象としたが、本稿では紙数の制限もあり、同伴児童に対する支援についてはふれていない。
 「婦人保護施設機能調査」では、2008年9月に、全国47ヶ所19の婦人保護施設を対象として、郵送によるアンケート調査を行った。回収結果は、42ヶ所からの回答、回収率89.4%である。回答のあった施設の設置主体については、公立公営施設19ヶ所、公立民営施設11ヶ所、民立民営施設12ヶ所である。
 現在、公立民営、民立民営の婦人保護施設では、本来の措置入所の他に、一時保護を委託されている場合が多い。なお、公立公営施設では、婦人相談所の一時保護所を併設しているため、もともと一時保護を行っている。本調査では、一時保護委託・一時保護併せて「一時保護部門」とし、同一婦人保護施設であっても、措置入所部門と一時保護部門とを区別した。それは、一時保護部門の平均在所期間は、概ね2週間から4週間程度と短期間であり、「生活支援」や「就労支援」を主目的とする措置入所とは、果たしている
 役割が異なっているためである。本稿では、措置部門のみについて言及し、一時保護部門については、別稿に譲ることとする。

(2)調査結果と考察
①治療の支援の有無
 性暴力被害経験のある利用者に対する治療の支援の有無は、表1のようである。回答のあった婦人保護施設全数(42ヶ所)の71.4%(30ヶ所)において何らかの支援が行われている。多くの施設において、性暴力被害者が存在すること、そうした女性に対する治療の支援を行っていることがうかがえる。さらに設置主体別に詳細にみると、支援を行っている施設は、公立公営施設11か所(57.9%)、公立民営施設8ヶ所(72.7%)、民立民営では最も高く11ヶ所(91.7%)に上る。民立民営施設において支援の割合が高い理由の一つは、公立公営施設と比べ、長期入所者が多いことが推測できる。前述したように、公立公営施設では、婦人相談所の一時保護所を併設していることがほとんどであり、同一建物内で緊急一時保護の利用者と、措置入所による長期利用者が共存していることが多い。緊急一時保護の利用者については、追跡者からの安全を確保するため外出制限がなされることが多いため、追跡の危険性のない措置入所者も就労など外出困難な場合が多い20。このような状況について、「一時保護に対応しながら本入所者の就労を支援する人的・物理的環境にない」21といった現場からの指摘もある。これらのことから、公立公営施設においては、他の設立・経営主体と比べて利用者の平均在所期間は短期傾向にある22。また、利用者の性暴力被害は、主訴として語られることは少なく、「安心できる施設環境の中で信頼関係が構築された後に、聞き取りから把握」23されることが多い。こうした理由から、公立公営施設より長期入所者が多い民立民営施設の方が、支援に繋がる傾向が高いと推察できる。
 ②具体的な支援内容-カウンセリングの有無、特別なプログラム、法的措置への支援婦人保護施設において実践している具体的な支援内容としては、カウンセリング、施設内での特別なプログラム、法的措置への支援などが想定できる。それらについては、以下のように回答されている(表2)。
 カウンセリングを実施しているのは、42施設のうち23ヶ所(54.8%)であった。設置主体別にみると、11ヶ所の公立民営施設のうち8ヶ所(72.7%)、12ヶ所の民立民営施設のうち8ヶ所(66.7%)、19ヶ所の公立公営施設のうち7ヶ所(36.8%)であり、公立民営、民立民営施設での比率が高い。カウンセリングを行っていると回答した23施設のうち、施設内で行っていると回答した施設は16ヵ所であった。公立公営施設は内部のみで行い、公立民営・民立民営施設では施設内部実施とともに、外部利用も多い。外部によるカウンセリングの場所としては、「病院」の他に、「県警、女性被害者相談室カウンセリングの継続利用」「児童相談所」の利用などが挙げられ24、様々な機関を利用していることが理解できる。
 カウンセリングの担当は、自由記述によると「カウンセラー」「心理担当職員」のほか、「看護師、職員」が挙げられていた。本調査における職員配置状況をみると、回答のあった全42施設のうち「心理担当職員」を「常勤」として配置している施設は、8ヶ所(うち公立公営施設7ヶ所、公立民営施設1ヶ所、民立民営施設は0ヶ所)、「非常勤」として配置している施設は、13ヶ所(うち公立公営施設6ヶ所、公立民営施設3ヶ所、民立民営施設4ヶ所)である。すなわち、常勤配置をしている施設は19%、非常勤配置をしている施設は31%であり、併せて半数の施設が心理担当職員の配置をしている。職員を配置している施設では、内部でカウンセリングを実施していることがうかがえる。しかし、心理職を配置できている施設は、半数であり、特に、民立民営施設では、常勤職員の配置は困難であり、非常勤配置のみである。このような職員配置状況から、心理担当以外の職員もカウンセリングに携わっているといえよう。
 次に、「施設内での特別なプログラムの有無」についてである。施設内にプログラムが「ある」と回答したのは、8か所のみである。支援内容についての自由記述では、「生と性の勉強会(学習会)」を挙げている施設(2施設)や「カウンセラーによる定期的な面談」「希望者へのカウンセリング」などが挙げられていた。特別なプログラムが「無い」と回答しているのは、29ヶ所であり、ほとんどの施設では特別なプログラムを作成していない。しかし、自由記述において、「心理的ケアについては、心の中に不用意に立ち入れないので専門的なプログラムが必要」と回答している施設があり、プログラムの必要性を認識している施設もある。
 「法的措置への支援」は、32施設(76.2%)で行われていた。どの設置主体においても7割以上が実施している。具体的な支援は、表3にあるように「弁護士などの情報提供」は30ヶ所、弁護士や警察などへの「同行支援」は27ヶ所と、いずれも高い。その他の支援としては、「法テラス等の情報提供」「警察との連携・相談」「警察に来てもらう(事情聴取)」「医療との連携」「職場への介入」などが挙げられていた。様々な関係機関と連携が、図られていることがわかる。
 こうしてみると、婦人保護施設での支援は、被害直後の緊急対応としてではなく、法的措置をとるための情報提供・同行支援などの実際的援助を中心に、カウンセリングなど精神的支援を実施している。
③性暴力被害者に対する支援の困難
 性暴力被害者支援に関して、施設が困難に感じている点については、自由記述で問うた。記入された内容は、1)精神的支援の困難、2)制度や施設の制約などに関する困難、3)育児・養育に関わる困難に大別できる。以下、記述内容についてみていきたい。
1) 精神的支援の困難
・ 精神的な支援
・ 精神的うつなどを併発しているケースも多い。精神的ケアは短期間では難しい。
・ トラウマが強く、生活の中の様々な場面で不安定になったり就労の継続ができない。
・ 人間関係を作るのが大変
・ PTSDやフラッシュバックがまだ激しい段階で、諸手続や集団生活をしなければならず、精神的安定が獲得しづらい。
・ 過去に義父により性虐待、出産の若年少女の入所があり、夜間時、希死念慮があった。(職員が同室付き添いで過ごした。県警、女性被害相談室カウンセリングの継続利用、児童相談所対応)
・ 警戒心が強く、感情の波が激しく、集団生活が難しい。
・ 入所理由が性暴力被害ではないが、生活の中で聞き取りを通して性暴力被害が明らかになる利用者が多い。
・ 性暴力を受けているにも関わらず、本人にその自覚がない。支援にとても長い時間が必要である。
・ 回復に時間がかかるため自立支援が困難で、入所期間が長期化しやすい。
・ 二次被害を起こさないよう注意。特に男性職員の関わり。すごく傷が深くて、関わり方、環境整備等、細かな配慮が必要である。
・ 無意識の言動が二次被害につながる。(例 支援者や施設利用者の声や雰囲気が加害者に関することを思い出すなど)
・ 心理的なケアについて、心の中に不用意に立ち入れないので専門的なプログラムが必要
 「うつ」「希死念慮」「トラウマ」「PTSD」「フラッシュバック」など精神的な支援が必要な利用者に対して、施設側は支援の困難を感じている。こうした利用者は、集団生活という環境になじみにくく、精神的安定が得難いことが指摘されている。また、入所理由が性暴力ではなく、生活の中で聞き取りを通して性暴力被害が明らかになる場合、本人に自覚がない場合など、長期的な支援が必要であることが記述されている。これらの記述から、性暴力被害の回復には時間がかかり、自立支援や就労などが困難であることがうかがえる。換言すれば、精神的支援に関する困難とは、処遇のあり方に対する課題と読み取れる。さらに、心理的ケアに対する「プログラム」の必要性が挙げられていた。これは、専門的な処遇プログラムの必要性についての課題である。また、職員が二次被害を与えないための配慮の必要性とは、性暴力被害を理解するための研修や教育の必要性といった課題と共に、処遇のあり方に対する課題と言い換えることができる。
2) 制度や施設の制約などに関する困難
・ 集団生活であること、個室が用意されないことで、ゆっくり傷をいやすことができず、入所後はかなり不安定になる利用者がいる。
・ 妊娠が分かり中絶を希望していても、費用の面で困難になることがある。
・ デリケートな問題であるため核心に触れる際には、慎重を期さねばならず、そこに至るまでには時間がかかる。
・ 回復に時間がかかるため自立支援が困難で、入所期間が長期化しやすい。
・ 短期間の利用施設のためどこまで掘り起こしていいのか迷う。次につなげていく支援が困難な場合は特に慎重になる。
・ 満18歳以上の未成年者は児童買春、児童ポルノ禁止法からはずれるので、警察はほとんど動かない。児童相談所にも入れない。しかし、未成年なので、自分で契約が結べないので法的措置はとれない。しかし、親はしばしば性暴力加害者そのものである。親から被害を受けた18歳、19歳は制度のすきまにこぼれ法的に何もできない。
 施設の制約などに関する困難としては、「集団生活であること、個室が用意されないことで、ゆっくり傷をいやすことができず、入所後はかなり不安定になる利用者」の存在が指摘されている。集団生活であり、個室化されていないという施設の物理的環境に起因するものである。これらは、婦人保護施設の「最低基準」に関わる課題である。
 加えて、時間的な制約についての困難がある。性暴力被害は、「デリケートな問題であるため核心に触れる際には、慎重を期さねばならず、そこに至るまでには時間がかかる」ことや、回復への支援を行うためには時間がかかるが、「短期間の利用施設のためどこまで掘り起こしていいのか迷う。次につなげていく支援が困難な場合は特に慎重になる」など、時間的制約の中で、職員の支援へのとまどいが読みとれる。時間的な制約の中で、どのように処遇を行っていくか、処遇のあり方に関する困難といえる。
法制度の問題としては、親から加害を受けた18歳以上、20歳未満の女性は、制度の狭間に陥っており、法的な措置をとることが困難であることが記述されている。現行法制度の狭間にある大きな問題といえる。
3)育児・養育に関する困難
・ 育児を続けながら、本人の深い課題に向き合うことの困難さ
・ 被害者の身体的、精神的ダメージが大きく同伴児童のケアもしなくてはいけない状況は、非常に厳しく、休養が必要な状況時に、保育士の援助が望まれる。
 現在の婦人保護施設には、子どもを同伴している利用者も多数みられる。しかし、本来、婦人保護施設は単身女性の入所を原則としており、児童担当職員の配置は必須ではない。本調査においても、常勤の児童担当職員がいる施設は1ヶ所のみ、非常勤配置も7ヶ所と少ないものであった25。婦人保護施設を利用している女性たちは、性暴力被害など様々な問題やニーズをかかえており、そうした状況で育児を行うことは困難であり、育児支援の必要性が指摘されている。これは、職員配置の問題でもある。
 こうしてみると、婦人保護施設では、1)利用者の精神的支援に関する困難、2)制度や施設の制約などに関する困難、3)育児・養育に関わる困難が実感されている。そこからは、①精神的な問題をかかえた利用者に対する処遇やプログラムのあり方など処遇に関する課題、②性暴力被害についての職員研修や教育の実施といった課題、③職員配置-心理職や保育士など-や施設の物理的環境など婦人保護事業を巡る現行制度上の課題が浮かび上がる。

5.おわりに
 以上みてきたように、婦人保護施設における性暴力被害者支援は、現在7割の施設において行われている。中でも、民立民営施設における支援の割合は高い。具体的な支援としては、法的措置への支援の割合が高い。加えて、半数の施設では、施設内・外部利用を含めカウンセリングといった精神的支援を行っている。これらのことから、被害後の実際的援助-情報提供・同行支援など-を中心に、精神的支援といった機能を果たしていることがうかがえる。
 被害者支援に対して施設側が感じている困難としては、1)利用者の精神的支援に関する困難、2)制度や施設の制約などに関する困難、3)育児・養育に関わる困難、が浮き彫りになった。それらは、①精神的な問題をかかえた利用者に対する処遇やプログラムのあり方など処遇に関する課題、②性暴力被害についての職員研修や教育の実施といった課題、③職員配置-心理職や保育士など-や施設の物理的環境など婦人保護事業を巡る現行制度上の課題、と言い換えることができる。これらの課題については、一層詳細な検討が必要である。
 こうした課題に取り組むためには、その前提として婦人保護施設のような生活施設における被害者支援のあり方を考察する必要がある。被害者援助は、一人の援助者や一つの機関による支援にとどまるものではなく、「経済的援助、法的援助、社会福祉的援助、精神的援助、医療的援助、それらの情報を提供する窓口としての援助」26 などが必要であり、ネットワークの形成が重要であるとされる。社会福祉施設、中でも生活施設である婦人保護施設における性暴力被害者支援のあり方について、他機関との役割分担・ネットワークのあり方を含めて、検討を重ねなければならない。そのためには、今後、個々の施設において実践されてきた性暴力被害者支援の実績を評価し、検証することが希求される。そうした実証こそ、婦人保護施設における性暴力被害者支援のあり方に関する論議の端緒を開くこととなる。それこそが現下の大きな課題といえよう。

【註】
1 ただし、1999年に厚生省が発した通達では、婦人保護事業対象者の範囲から「性被害等」といった文言は削除されている。
2 本調査は、『婦人保護施設における児童ケアと親支援に関する調査研究』財団法人こども未来財団 平成21年3月 としてまとめられている。なお、研究メンバーは、堀千鶴子、宮本節子、本多洋実、川原恵子である。
3 Rafter, N. H., & Heidensohn, F. (ed.) 1995 The development of feminist perspectives on crime. International feminist perspectives in criminology: Engendering a discipline. Open University Press. p.1-14
藤岡淳子『性暴力の理解と治療教育』誠信書房 2006年 p.29
4 内閣府男女共同参画局『男女間における暴力に関する調査』 2009年3月、小西聖子「日本の大学生における性被害の調査」『日本性研究会議会報』第18巻2号 1997年 p.28-47、野坂祐子「高校生の性暴力被害調査-実情とその課題」『Sexuality』第21巻 2005年 p.60-65など
5 たとえば、安田貴彦「犯罪被害者の支援・援助を考える-性犯罪被害者対策を中心として」『被害者学研究』第9号 1999年 p.107-114、板垣喜代子「性暴力被害者に二次被害をもたらす要因の研究-茨城県内の医療従事者の実態調査から」『被害者学研究』第11号 2001年3月 などがある。
6 宮地尚子「性暴力とPTSD」『ジュリスト』1237号 2003年1月1日~15日 p.156-173、小西聖子「性暴力被害者の心理とケア」『精神科』6号3巻 2005年 p.211-214、同『犯罪被害者の心の傷』白水社 2006年、白川美也子「性暴力被害のセクシュアリティにおよぼす影響とその回復」宮地尚子編著『トラウマとジェンダー』金剛出版 2004年、廣幡小百合他「性暴力被害者における外傷後ストレス障害-抑うつ、身体症状との関連で」『精神神経学雑誌』104巻6号 2002年 p.529-550 など。
7 三田村博子「性暴力被害者への支援の実際-SANEの活動をとおして」『看護技術』54巻13号 2008年11月 p.1457-1462、江藤宏美他「Women’s Healthと性暴力被害者支援-医療関係者のためのカナダ研修に参加して」『聖路加看護大学紀要』No.29 2003年3月 p.32-39
8 林千代・慈愛会編著『慈愛寮に生きた女性たち』婦人福祉理論研究会 1997年 など
9 細金和子「慈愛寮の利用者を通して見える性虐待被害者支援の課題」『婦人新報』2007年9月号 p.13-15
10 全国女性シェルターネット編・発行『DV家庭における性暴力被害の実態』2009年
11 東京都社会福祉協議会婦人保護部会『女性福祉の砦から』東京都社会福祉協議会 2008年
12 ただし、東京など大都市圏の婦人保護施設の実態と直接処遇職員の意識に関する調査としては、『大都市圏における婦人保護施設の実態と直接処遇職員の処遇意識に関する研究』(平成7年度~9年度文部省科学研究費補助金(基盤研究(B)(2) 研究代表者細井雅生)によるものがある。
13 角田由紀子『性差別と暴力』有斐閣 2001年
14 法務省法務総合研究所編『平成20年 犯罪白書』国立印刷局 2008年
15 藤岡淳子『性暴力の理解と治療教育』誠信書房 2006年 p.13
16 板垣喜代子「性暴力被害者に二次被害をもたらす要因の研究-茨城県内の医療従事者の実態調査から」『被害者学研究』第11号 2001年3月 p.16
17 前掲(15) p.15
18 本研究では、「婦人保護施設機能調査」「婦人保護施設利用者調査(措置入所の利用者)」「婦人保護施設利用者調査(一時保護部門の利用者)」を郵送調査として実施した。さらに、職員を対象とした聞き取り調査を実施した。詳細は、前掲(2) 参照のこと。
19 本調査では、大阪府にある四天王寺社会福祉事業団経営の婦人保護施設は、経営主体が1ヶ所であり施設長も一人、同一敷地内にあることから、1ヶ所の婦人保護施設とみなしている。また、岡山県は、行政統計では婦人保護施設があるとなっているが、実質的には休止状態にあるため、施設数から除外している。
20 「婦人保護事業の原点と現点」第9回『福祉新聞』2006年7月17日
21 同上
22 『婦人保護施設における児童ケアと親支援に関する調査研究』では「婦人保護施設利用者調査」の中に、利用者の在所期間のデータがある。公立公営施設の在所期間は、「6ヶ月~1年未満」が最長であり、1年以上の在所者は公立民営施設、民立民営施設にしか在所していない。ここからも、公立公営施設では在所期間は、非常に短いことが明らかである(前掲(2) p.86)。
23 東京都社会福祉協議会婦人保護部会『女性福祉の砦から』東京都社会福祉協議会 2008年 p.28
24 なお、これらは「支援の困難」についての問いの中で、記述されていたものである。
25 前掲(2) p20
26 柑本三和・小西聖子「効果的な被害者援助の提供をめざして」『法律時報』第71巻10号 1999年9月 p.50



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