あなたは、夫の暴力・DVを容認していませんか? 暴力のある家庭環境で暮らす子どもの心を守ることを忘れていませんか?

[Ⅲ-7]Ⅳ.「婚姻破綻の原因はDVにある」ときの離婚

22.夫婦関係調整(離婚)調停

 
 (7) 離婚裁判の進行と判決文(判例12-24) 21.一時保護の決定、保護命令の発令。「身を守る」という選択
* 現在、この「手引き」は、第3次改訂の編集をおこなっています。編集終了後、差し替えていきます。

※ 『暴力の影響を「事例」で学ぶ。虐待とDVの早期発見・支援。母と子どもが暴力から脱するための手引き(マニュアル)』は、「DVを目撃して暮らしている子どもが、DVの最大の被害者である」との立ち位置で、「密接な関係にある児童虐待とDVの本質的な理解」に加え、「児童虐待とDVが、被害者である母親だけでなく、子どもの心までも破壊する可能性がある、つまり、胎児期を含めて脳の発達に大きなダメージを与える」ことを理解していただくために、一般的な抽象論ではなく、行動分析や脳科学、人類学、発達心理学などをベースに、前半の『はじめに』、『第1章(Ⅰ.密接な関係。児童虐待とドメスティック・バイオレンス)』、『第2章(Ⅱ.児童虐待と面前DV。暴力のある家庭環境で暮らす、育つということ)』は作成しています。
 マニュアル冒頭の『はじめに』では、「社会の女性や子どもへの暴力に対する理解」、「危機的状況がもたらす脳のトラブル」、「「事例で学ぶ」ということ-人類とは何者か、脳の発達論の見地でという考え方-」、「暴力描写や性的表現による「トラウマ反応」表出のリスク」、「第三者の支援を受け、暴力で傷ついた心のケアにとり組む意味」、「被害女性の家族や友人たちのアンカーとしての役割」、「被害者支援に携わる人たちに向けて」、「-付記- 「二重の被災」..東日本大震災とその後の虐待・DVの増加の影響は“これから”の問題-阪神淡路大震災、戦争体験によるPTSD発症、その後の人生に学ぶ-」というテーマで、このマニュアル全般に及ぶ着眼点や論点、問題提起をしています。この行動分析や脳科学、人類学、発達心理学などをベースにした着眼点や論点、問題提起は、その後に続く、『第1章(1-5節)』、『第2章(6-12節)』、『第3章(13-20節)』、『第4章(21-26)』、『第5章(27-31)』とそれぞれと相互する関連性がある、あるいは、説明の前提となっていることから、『第1章(1-5節)』、『第2章(6-12節)』、『第3章(13-20節)』、『第4章(21-26)』、『第5章(27-31)』をお読みになる前に、『はじめに』に目を通していただきたいと思います。
* マニュアル「改訂新版」の上程後6ヶ月が経過したことを踏まえ、アニュアルの一部見直し、加筆修正にとりかかっています。平成28年9月29日、『はじめに』の“加筆改訂”を終えました。「第1章」以降については、スケジュールを調整しながら、随時、“加筆改訂”にとりかかり、加筆改訂を終えた「章」から差し替えていきますが、『原本』では、追加した事例を踏まえて、本文ならびに目次の“事例番号”は修正したことを踏まえ、『ブログ』の“目次”ならびに“小目次”での「事例番号」は修正していますが、『ブログ本文』の加筆修正は、『はじめに』は終えたものの、第1章以降はまだ手つかずであることから、第1章以降の「事例番号」は修正されていません。そのため、目次ならびに小目次に記載されている「事例番号」と異なっています。


22.夫婦関係調整(調停)離婚
(1) 民法770条に定める離婚事由
(2) 親権者・監護権者の指定
  <「子の利益」、親権者・監護権者の判断要素>
  <親権者・監護権者の簡易判断方法(子どもの年齢別>
 ・判例1-11
(3) 離婚調停とは
  <離婚調停の申立て>
 <調停離婚の手続き>
(4) 離婚調停の進行
(5) DVの立証に欠かせない「事実経過をまとめた報告書(陳述書)」
  ・書面の位置づけ
  ・「現在に至る事実経過」を“主”にすることが重要なのはなぜか
(6) DV離婚事件、証拠としての「診断書」をどう捉えるか
  ・診断書A
  ・診断書B(病状経過書:A4版横2頁)


 離婚は、婚姻後の共有財産に対しての財産分与をどうするか、子どもがいるときには、どちらが親権や監護(養育)権を持つか、毎月の養育費の支払い額をいくらにするか、どのように面会交流*-1を実施するか、さらに、離婚事由により精神的な苦痛を被ったとして慰謝料を求めるかなど、解決しなければならないことが多々あります。
 そこで、夫婦で離婚の話し合いができ、「親権者」「監護権者」についても合意できるとき*-2には、たとえ離婚の条件となる「養育費」、「財産分与」、「慰謝料」についての解決ができていないときでも、役所においてある(協議)離婚届に夫婦が署名押印し、証人2人に署名押印してもらい、その用紙を戸籍係に届けでることで協議離婚は成立することができます。したがって、重要なことは、離婚と離婚の条件を一緒に解決するのか、離婚の条件は離婚が成立したあとで解決するのかについて十分に考える必要があります。「財産分与は離婚成立時から2年以内」、「慰謝料の請求は、離婚が成立してから3年間」は請求することができます。
*-1 面会交流とは、親権者または監護者として、現実に自ら子を監護および教育できない親が、その子と個人的に面会・交通・接触することをいい、これを権利として観念するときには「面会交流権」といいます。
*-2 子どもがいる夫婦間では、子どもの親権者(監護権者を含む)を決めてそれを記入していなければ、離婚について合意ができていても協議離婚は成立しません。

 また、こうした離婚の条件について、話し合いで解決できるときには、その話し合いの内容を文書に作成しておきます。特に重要なことは、子どもがいるとき、養育費の支払いが滞ったときに、裁判をしないで給与などの財産を差し押さえることができる(強制執行)「強制執行認諾約款」付の「公正証書」を公証役場で作成しておくことが大切です。なぜなら、婚姻費用や慰謝料、財産分与、養育費といったお金を支払う約束をしても、約束を守らない人が少なくないからです。離婚後の数ヶ月は毎月養育費の支払っていても、半年、1年と経っていくと支払いが滞ることが少なくなく、事実、離婚後3年経過すると2/3のケースで支払い滞っています。しかも、支払いの催促をしても、相手に支払う意思がまったくないこともあります。このような事態を想定して、事前に、法的に有効な手続きをおこなうこと、つまり、口約束ではなく、約束ごとは必ず文書にして残すようにします。
 文書には、「離婚合意書」「協議離婚書」「念書」など、夫婦で取り決めた内容を記載する方法と、公正役場にて公証人に作成してもらう「公正証書」があります。個人間で作成した合意書に法的な強制力はありませんが、裁判で有効な証拠として扱われます。
 「公正証書」には、「金銭債務の支払いを履行しないときは、直ちに強制執行に服する」等の強制執行認諾約款付きの条項を記載しておきます。なぜなら、裁判の確定判決を待たなくとも、すぐに強制執行をおこなうことができるようにするためです。「強制執行認諾約款」付きの条項がないと、相手の財産や給与などを差し押さえるために何度も裁判所に足を運んだり、いくつもの書類を作成しなければならなくなったりします。また、差押さえるものによっては、供託金を納める必要がでてきますし、弁護士に依頼するとなれば、更なる費用負担となります。強制執行をおこなうと、相手の収入や財産を差し押さえ、そこから金銭を回収できます。強制執行の対象となるのは、給与、賞与(会社勤めの場合)、会社の売上(自営の場合)、動産(家財道具、自家用車など)、不動産(土地、建物)、預金、貯金などです。強制執行の手続きをおこなうには、対象となる以上の物の詳細を把握しておかなければなりません。例えば、給与を差し押さえる場合は相手の勤め先、預金を差し押さえる場合は預金のある銀行、支店、口座番号がわからなければ差し押さえることはできません。給料の差し押さえは、相手方の会社と交渉すれば、給料から天引きする形で毎月養育費等を確保することができ、その金額も従来は1/4%でしたが、1/2まで受けとることができるようになっています
 また、調停や審判、裁判の判決で金銭の支払いが決まっていたり、面会交流の実施が決まっていたりするとき、支払いが滞っていること、面会交流の実施ができない状況にあることを家庭裁判所に報告すると、家庭裁判所が支払い、実施の催促をおこないます。このことを、履行勧告といいます。家庭裁判所は、正当な理由がないのに支払いを滞らせていたり、面会交流の実施を拒んでいたりするときには、相手に対して、家庭裁判所でとり決めたとおりに実施するように指導をしたり、説得を試みます。にもかかわらず、相手が履行勧告に従わないときには、裁判所は「履行命令」をだします。正当な理由がなく履行命令に従わないときには、10万円以下の過料に処せられます。履行勧告と履行命令の手続きには、手数料もいらず、電話で対応してもらうことができます。履行勧告と履行命令には強制力がないことから、相手が支払いを依然拒否することもあります。そのときは、強制執行をおこなうことになります。


(1) 民法770条に定める離婚事由
 婚姻による夫婦関係は、「お互いに助け合う(協力し合う)」、「お互いに扶助し合う」といった“前提”にたっています。例えば、夫が病気や事故の後遺症、失業などで働くことができなければ、妻が働いて生計をなりたたせることが求められます。子どもや年老いた両親や親族などを養育する、扶養することは、民法752条で定める「扶養の義務」です。つまり、民法752条では「夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない。」としています。
 お互いの話し合いで合意に至り離婚(協議離婚)できないときには、婚姻とは違い、簡単に離婚を成立させることができないことになります。なぜなら、「お互いに助け合う(協力し合う)」、「お互いに扶助し合う」義務を果たしてきたかが問われることになるからです。夫婦間による話し合い(協議)で離婚することに合意できないと、家庭裁判所に夫婦関係調整(離婚)調停を申立て、調停で調停委員を介した話合いで合意に至らないと不調となり、裁判に移行し、離婚の判断を委ねることになります*-1。家庭裁判所における離婚を認めるか否かの判断は、民法770条で定める離婚事由に該当するかどうかで見極めていくことになります。
 民法770条に定める離婚事由は、次の5つです。①配偶者に不貞行為がある、②配偶者から悪意で遺棄された(「同居義務、協力義務、扶助義務を負う」に対し、不当に違反する行為)、③配偶者の生死から3年以上明らかでない、④配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがない*-2、⑤その他、婚姻を継続し難い重大な理由がある、つまり、a)配偶者からの暴力・暴言、その他の虐待行為を受けた、b)夫婦間の性関係がない(セックスレス)、c)性格の不一致、d)配偶者が某宗教団体に入会し、布教活動に熱中し家庭を顧みない、e)配偶者と両親との不仲などといったおこないが認められる必要があるわけです。
 つまり、「婚姻破綻の原因は、夫のDVにある」として離婚を求めることは、⑤(民法770条第1項5号)の「その他、婚姻を継続し難い重大な理由がある」の中の「a)配偶者からの暴力・暴言、そのほかの虐待行為を受けた」が、法律上の離婚事由になります。そして、重要なのは、離婚を求める側は、上記の離婚事由(配偶者からの暴力・暴言、そのほかの虐待行為を受けた)に該当していることを、事実にもとづいて立証しなければならないということです。このとき、④(民法770条第1項4号)にあるように、夫が回復の見込みのない精神病やレビー小体型認知症、レム睡眠行動障害などの発症が暴力の原因であるときには、治療に取り組むなど「手を尽くせることはすべてやった」事実が必要になります。
 したがって、夫婦間の協議で離婚できず、調停に話し合いの場を移すときには、「夫は自己愛性人格障害(または、境界性人格障害)だと思われるから離婚したい」、「夫がうつ病(統合失調症)を発症したから離婚したい」、「夫はアスペルガー症候群*-3だから離婚したい」など、精神疾患や人格障害、発達障害などを起因とする暴力(DV)であったとしても、“病名”を離婚理由とするのではなく、暴力という“行為だけ”にフォーカスして主張することが必要です。なぜなら、離婚事由に該当しないと判断されないだけでなく、誹謗中傷し、貶めるおこないとして、あなたの人となりを疑われることになりかねないのです。
*-1 夫婦のどちらかが夫婦関係調整(離婚)調停を申立てたとき、家庭裁判所(2人の調停委員)を介して、調停で合意に向け話し合うことが求められます。また、夫婦に子どもがいるときに、親権・監護権を求める者が「面会交流を実施させない」と主張しているときに、「面会交流を求める」と子の監護に関する処分(面会交流)の調停を申立ているときには、2人の調停委員の他に調査官が加わり、合意に向け話し合いがおこなわれます。その話し合いにおいて、合意に至らないときには裁判で争われることになります。いわゆる「調停が不調になり、裁判に移行する」ということになります。また、裁判に移行することを、訴訟をおこす、提訴するといいます。
*-2 ただし、措置入院などの公的保護を受けて、療養できる体制を整えたり、治療費等の金銭的な手当てをしたりするなど具体的な方法を尽くしていないと、離婚が認められないことがあります。なお、暴力をどのように捉えるかについては、「Ⅰ-3-(5)DVでない暴力、DVそのものの暴力」で詳しく説明しています。
*-3 「精神障害の診断と統計マニュアル(DSM;Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)」の早見表を「精神疾患の分類と診断の手引」と邦訳し、最新のDSM-5は平成26年10月23日に出版されています。
 DSM-ⅢからDSM-Ⅳまでは、生得的・先天的な脳の成熟障害によって発生する広汎な領域に及ぶ発達上の問題や障害を「広汎性発達障害(PDD;Pervasive Developmental Disorder)」という概念で表してきましたが、最新のDSM-5では、広汎性発達障害(PDD)という概念の使用をやめ、レット障害を除いた発達障害はすべて「自閉症スペクトラム(ASD;Autism Spectrum Disorder)」という自閉性の連続体(スペクトラム)を仮定した診断名が使用されることになりました。しかし、当レポートでは、DSM-5による自閉症スペクトラムとまとめた診断名ではなく、DSM-4以前のアスペルガー症候群、広汎性発達障害いう診断名を使用しています。また、広汎性発達障害に含まれるアスペルガー症候群を総括して発達障害と記載しています。



(2) 親権者・監護権者の指定
* 親権が存続するのは、「子どもが20歳になるまで」です(民法4条、同法818条1項)。
① 親権者の指定は協議が整わない場合に調停、審判を利用できる
 離婚話が進んでいる夫婦間、離婚を決意した配偶者が家をでて別居がはじまった夫婦間では、子どもをどちらがひきとるかが問題になることがあります。離婚後、子どもの親権者は、協議離婚、調停離婚で、当事者(夫婦間)で協議して定めます(民法819条1項)。家庭裁判所の調停離婚で、調停委員を介した(交えた)話合いで合意に至らず、審判での離婚となるときには、家庭裁判所が親権者を判断します(民法819条2項、5項)。

② 離婚前(別居時)は監護権者指定の手続を利用できる
a) 離婚前でも監護権者指定は認められる
 別居するとき、一方の配偶者が子どもを連れて家をでて行ったとき、もう一方の配偶者が「子どもを連れ去った!」と訴えることがあります。離婚前は、親権は父母の共同ということになっていますから、一方の親の親権を奪うことはできません。民法上、親権者や監護権者を指定するのは離婚の時とされています(民法766条)。ただし、離婚前であっても、家庭裁判所に「看護者指定の調停(あるいは審判)」を申立てることによって、監護権者を父母どちらかに指定することを求めることができます。
b) 例外的に監護権者指定自体を認めなかった裁判例もある
 離婚前に監護権者を指定し、子の引き取り先を決めることは、後日、離婚のときに親権者を決めることになることから重複が生じること、両親のうち片方の親権(の一部)を奪う結果となり、共同親権の原則(民法818条)にも反することになります。そのため、非常にレアなケースですが、離婚前に単独で子の監護権者を指定すること自体を否定する裁判例もあります。

③ 親権者、監護権者指定の調停、審判のときは、子の引渡も同時に申立てることが望ましい
 親権、監護権者の指定により、子どもを確保できることになりますが、子どもを引き渡してもらうには、手続上別扱いになっています。したがって、親権、監護権者指定の調停や審判を申立てるときは、「子の引渡の調停(あるいは審判)」も同時に申立てるのが通例です。子の取り戻しを急ぎたいときには、審判前の「保全処分」も申立てるようにします。

④ 親権者、監護権者の指定においては子の利益*によって判断する
 親権者・監護権者の指定における判断要素は、条文上詳しく規定されているわけではなく、親権者変更に関して、考慮対象として「子の利益」が記載されているくらいです(民法819条6項)。つまり、子どもにとって、どちらの親のもとで育てられた方がよいかが判断基準になるということです。
* 平成23年民法改正により、「子の福祉」から「子の利益」と表現が変更されています。

<「子の利益」、親権者・監護権者の判断要素>
a) 父・母の事情
・監護の意欲(子に対する愛情の度合い)
・監護に対する現在・将来の能力
 親の年齢、親の心身の健康状態、時間的余裕、資産・収入などの経済力、実家の援助、生活環境、住宅事情、居住地域、学校関係、
・奪取の違法性
・面接交渉への許容性
b) 子の事情
・子の年齢・性別
・子の意思
・子の心身の発育状況
・兄弟姉妹の関係
・環境の変化による影響の度合い
・親や親族との情緒的結びつき

⑤ 「子の利益」の判断基準として、4つの原則がある
 「4つの考え方の原則」は、これまでの判例の蓄積で、形成された基本的考え方(原則論・ナレッジ)です。なお、離婚の要因についての責任、有責性については、親権者の判断には直接関係することはありません。以下、典型的なものをあげておきます。
ア) 継続性の原則
 「実際に、それまでに子を監護してきた者を優先する」という原則で、現状維持というものです。子どもの友人関係を含めて、親の事情で子どもの環境をできるだけ変えない方が望ましいという考え方にもとづいています。
イ) 子の意思の尊重
 子どもの発言ひとつで結論が決まるわけではなく、子どもの発言がどの程度の深い意味を持つかといったことを判断したうえで考慮することになります。審判、訴訟においては、子どもが15歳以上のときには、子どもに意見を聞くのは義務とされています。
ウ) 兄弟姉妹不分離の原則
 「兄弟姉妹を一緒に育てることが、子どもにとって望ましい」という考え方です。ただし、この原則は、ア)の継続性の原則と衝突することがよくあります。
エ) 母親優先の基準
 「特に子どもの年齢が低いときには、母親が育てることが望ましい」という考え方です。最近の傾向は、男女平等との考え方が拡がっていることから、以前ほど重視されなくなってきています。

<親権者・監護権者の簡易判断方法(子どもの年齢別>
* 実際の訴訟・審判では、簡易な判断方法を用いるわけではなく、あくまでもひとつの目安です。
・0-10歳  母が指定される可能性が高い
・10-15歳 父・母に優劣がつけられないときには、母とされる可能性が高い
・15-20歳 子ども自身の意見が尊重される
・20歳以上 成人に達しているので、親権者を決める必要はない

⑥ 子どもの苗字は、母とともに変わるわけではなく、家裁の許可を得る必要がある
 離婚の際、原則的に結婚時に変更した苗字は戻ることになります(民法767条、復氏という制度*)。例えば、母親が子どもの親権を獲得し、子どもを引き取りました。母親は、婚姻中の苗字Aから旧姓Bに復氏しました。しかし、復氏は、子どもの苗字は対象外であることから、この時点では、子どもの苗字はAのままです。生活をともにする母親と子どもで苗字が違うことになります。そこで、離婚によって親子で苗字が食い違うという場合は、家庭裁判所の許可があれば、子ども苗字をA→Bと変更することができます(民法791条1項)。
 なお、婚姻前の氏に復した夫又は妻は、離婚の日から3ヶ月に戸籍法の定めるところにより届け出ることによって、離婚の際に称していた氏を称することができます。
小* 法律上は、苗字のことを「氏」と呼びます。

⑦ 離婚後の親権者・監護権者の変更
 親権者・監護権者は、離婚時に決まりますが、その後、「親権者・監護者の生活環境や収入等の変化によって、子どもの利益にとって必要(民法819条6項)」と判断されたときには、親権者・監護権者を変更することができます(民法819条)。離婚時に、元夫婦間で「親権者を変更しない」との合意がされていたとしてもその合意は無効です。
 「子どもの利益」は、親権者・監護権者のa)監護体制(経済状況、居住環境、教育環境、家庭環境など、子どもを健全に養育できる環境が整っているかどうか)、b)監護意思(その親が子どもを養育していく意思があるかどうか)、c)心身の健全性(その親に子育てができる能力・資質があるかどうか)、そして、子どもの事情として、a)子どもの年齢や心身の状況(子どもの年齢が低いほど母親が親権者とされやすい)、b)環境の継続性(子どもの生活環境が頻繁に変更されるのは、子どもの養育上好ましくないので、できるだけ現状を維持しようという傾向があります。子どもがどちらの親に育てられたいかという意思は、年齢が上がって判断能力がつくほど重視されます。子どもが15歳以上のときには意志を確認することになっています(家事審判手続法65条))によって、親権者の変更をしなければならない“特別の事情”があるのかが判断されることになります。
a) 親権者の変更
 親権者を変更するときは、「親権者変更の調停あるいは審判」を家庭裁判所に申立てる必要があります(民法819条6項)。調停で成立するか、審判で確定されてから10日以内に戸籍の変更をおこないます。戸籍の変更は、調停調書か審判調書を市区町村役場に提出して手続きをおこないます。
b) 監護権者の変更
 監護者の変更は、父母の合意があれば、家庭裁判所で調停あるいは審判の申立てをすることなく、父母の話合いで変更することが可能です。ただし、父母の話合いでまとまらないときには、「監護者変更の調停あるいは審判」を家庭裁判所に申立てることになります。
c) 親権の喪失
 親権者に子どもを養育する者としてふさわしくないとき、子どもの親権を喪失する可能性があります。例えば、子どもに対し、日常的に虐待が加えられていたことを理由に、親権喪失が宣言されるケースもあります。ここで、重要なことは、親権の喪失が認められたときであっても、自動的にもう一方の親が親権者になるということではないことです。したがって、一方の親が、親権を保有することを希望するのであれば、家庭裁判所に「親権者変更の申立て」をおこなう必要があります。

-判例1- 大阪家庭裁判所 平成8年2月9日審判
 父につき、アルコールや睡眠薬に依存する傾向、情緒不安定で子を虐待することがあり、予防接種や定期健康診断を受けさせないなどから、保護者として適切ではないとして監護中の母に親権を認めました。

-判例2- 東京高等裁判所 平成63年4月25日判決
 15歳女子と12歳男子をいずれも約5年間父が養育してきましたが、父は第2子に対して折檻を加えるなど暴力をふるっており、第1子は母親との同居を必ずしも望んでおらず、第2子はいずれとの同居がよいか迷っているという事案で、「一般に、複数の未成年の子はできるだけ共通の親権に服せしめる方が望ましいが、ある程度の年齢に達すれば、その望ましさは必ずしも大きいものではないと考えられる。」として、現状を尊重した原判決をとり消し、第1子は父、第2子は母を親権者としました。

-判例3- 東京高等裁判所 昭和53年11月2日判決
 現在は母に収入はありませんが、保母の資格を有し、母方の祖父からの援助と父(夫)からの婚姻費用分担金により母が5歳と6歳の2子を育てている事案で、経済的条件は他の事情に劣後するものであり、総合的には母が監護する方が子に利益をもたらすとし、経済的条件は父親が相応の養育費を負担し支払うことで、ある程度解決できる問題であるとしました。

-判例4- 甲府家庭裁判所 平成20年11月7日決定
 一方の共同親権者の監護下にある未成年者を他方が違法に連れ去った場合における子の引しを求める審判前の保全処分の申立てを、却下しました。
(事件の概要)
 父と母は平成17年に長男をもうけたあと、いったん母を親権者と定めて離婚しましたが、同じ当事者間で再婚しました。再婚後、父の実家で、父と母、長男と父の両親で同居しました。しかし、母は心療内科を受診するようになり、医師に環境を変えるように勧められ、平成20年の長男の3歳の誕生日祝いのあと、ひとりで母の実家へ帰りました。母と父の間で離婚調停がおこなわれましたが、不成立で終了しました。母は長男との面接交渉を望みましたが、父は調停で「面接条件等定めなければ応じない。」と回答しました。母は、保育所から長男を連れだし、相手方に居所を伏せて長男を監護養育したことをうけて、父が、監護者の指定と子の引き渡しの仮処分を申立てました。
(判決の概要)
 子の引き渡しは、未成年者の保護環境を激変させ、子の福祉に重大な影響を与えるので監護者が頻繁に変更される事態は極力避けるべきであり、保全の必要性と本案認容の蓋然性については慎重に判断すべきです。別居当時は、母は静養して戻ってくることが予定されていたと思われ、離婚までの別居期間中、事実上父が監護することを了解していたとはいえないこと等から、母の不法性が極めて顕著である場合にあたるとはいえないとされました。従前監護の中心が相手方(母)であること、相手方と未成年者との関係が良好であること、相手方の不法性が極めて顕著である場合とはいえないことから、保全の必要性と本案認容の蓋然性は認められないとしました。

-判例5- 東京高等裁判所 平成17年6月28日決定
 子の監護者指定申立事件の即時抗告審において、周到な計画の下におこなわれた父及びその両親による子の奪取は、極めて違法性の高い行為であり、子の監護者を父と指定しなければ子の福祉が害されることが明らかといえるような特段の状況が認められる場合に限って、子の監護者を相手方(父)に指定することが許されるとしたうえ、本件においては、特段の事情を認めるに足りる証拠はないとして、父を監護者と定めた原審判をとり消し、母を監護者と定めました。
(事件の概要)
 母は父の暴言、父が精神的暴力で母を威圧すること等に耐えられないとして、長男(7歳)を連れて実家に戻り父と別居するに至りました。父は、母の帰宅を促し、長男との面接交渉を求めましたが、拒否されたことから、夫婦関係円満調整調停、子の監護者の指定の審判及び審判前の保全処分を申立てました。調停の席上で、父は、調停委員会から自力救済をしないように指導を受けていましたが、長男が祖母とともに通園バスを待っていたところ、自動車で待ち伏せし、奪取し、以後父の自宅で長男を監護養育していました。父は奪取後、審判前の保全処分を取り下げましたが、奪取事件当日、母は、子の監護者指定の審判及び審判前の保全処分の申立てをし、その後離婚調停も申立てましたが、いずれも不成立で終了しました。原審東京家庭裁判所が、父の申立てを認容し、母の申立てを却下したので、母が即時抗告をしました。
(決定の概要)
 原審(東京家庭裁判所)は、①抗告人が職業を有していること、②抗告人が審問の際、「長男が生まれたのは脅されて関係を持ったからです。」と供述していることをとらえて、抗告人が果たして長男に対して母性を発揮することができるか疑わしいと判断していますが、本決定は、①については、何ら合理的根拠を有するものではないとし、②については、これは相手方に対する思いからでた発言にすぎないとし、長男は「現在7歳とまだ幼少の年齢であり、出生以来主に実母である抗告人によって監護養育されてきたものであって、別居後相手方らによる本件奪取時までの抗告人側の長男に対する監護養育状況に特に問題があったことをうかがわせる証拠はないとしました。
 相手方及び同人の実父母による長男の実力による奪取行為は、調停委員等からの事前の警告に反して周到な計画の下におこなわれた極めて違法性の高い行為であるといわざるを得ず、この実力行為により長男に強い衝撃を与え、同人の心に傷をもたらしたものであることは推認するに難くないとしました。
 面会を実現する見込みの立たない状況の下でいわば自力救済的に本件奪取行為がおこなわれた旨の相手方の主張については、相手方が申し立てた夫婦関係円満調整調停等において、面接交渉についての話し合いや検討が可能であったもので、それを待たずに奪取する行為にでたことは何らの正当性も見出すことはできないとしました。
 このような状況の下で、長男の監護者を相手方と定めることは、奪取行為を追認することになるのであるから、そのようなことが許される場合は、特にそれをしなければ長男の福祉が害されることが明らかといえるような特段の状況が認められる場合に限られるというべきであり、本件においては、このような特段の事情を認めるに足りる証拠はないとして、相手方を監護者と定めた原審判をとり消し、抗告人を監護者と定めました。

-判例6- 大阪高等裁判所 平成17年6月22日決定
 子の監護者指定申立事件及び子の引渡し申立事件の即時抗告審において、子の監護者を母と指定し、母に無断で子を連れ去った父に対し、子を母に引き渡すよう命じた原審判の判断は適正なものであるとして、父からの即時抗告を棄却しました。
(事件の概要)
 母は父から暴力を受けたとして、子(4歳)を連れて実家に戻り、別居をしました。母は、夫婦関係調整調停と婚姻費用分担調停を申立てましたが、いずれも不成立に終わりました。父は、面接交渉を求める調停を申し立てる意向を示しましたが、申立ててはいませんでした。父は、幼稚園内の遊具で遊んでいた子を、母に無断で連れ去り、以後、父の実家で監護を開始しました。
 母は、子の監護者の指定及び子の引渡審判と審判前の保全処分の審判を申立てました。保全処分につき、神戸家庭裁判所伊丹支部は、子の監護者を仮に母と定め、子を母に仮に引き渡すよう父に命じる審判を下しました。父の抗告は、棄却されました。しかし、父は、家庭裁判所調査官による子の引渡しの履行勧告にも応じず、母がした3度の強制執行も執行官が待機している際に父が子を抱いて逃走するなどしたため、執行不能により終了しました。そこで、原審神戸家庭裁判所伊丹支部(審判、平成17年4月5日)は、子の監護者として母を指定し、子を母に引き渡すべきことを命じました。原審判に対して、父は即時抗告しました。
(決定の概要)
 本決定は、以下のとおり、原審判を正当として抗告を棄却しました。
 父の親子の情愛から、子の連れ去り行為はやむを得ない行動であったとの主張については、以下の通り退けました。子との面接については、夫婦関係調整調停事件が不成立になったあとも、引き続き協議することが予定され、抗告人は、面接交渉を求める調停を別途申し立てる意向を示していました。それにもかかわらず、抗告人は、調停の申し立てをすることなく、相手方の膝下で平穏に監護されていた子を実力で連れ去ったものであり、この行為をもって、子を見かけて思わずとってしまったもので、偶然に発生したことなどと評価することはできないとしました。このような抗告人の行為は、たとえそれが子に対する愛情に基づくものであったという面があるとしても、法的手続を軽視するものと評されて当然のものであるだけでなく、親密平穏な母子関係を事実上断絶させるという深刻な結果をもたらす点においても看過しがたいものというべきであって、これを正当化するいささかの事情も認められないとしました。

-判例7- 札幌高等裁判所 平成17年6月3日判決
 母の監護権を侵害した違法な状態を継続している父が子の安定した状態を主張することは許されないとして、子の監護者を母と指定し母の子の引き渡しの申立を認容した原審判に対する即時抗告を棄却しました。
(事件の概要)
 母(相手方)は、父(抗告人)の不貞を疑い、子(2歳)を連れて実家に戻りました。父は、不貞を否定していますが、別居は渋々同意しました。母が離婚を求め調停を申立てた直後、母と祖母が子を連れて買い物をしている最中に、父が現れ、子を奪い、子が泣くにもかかわらず離さず、近くの派出所で長時間押し問答となりました。父の要請に母が折れ、父が連れて帰ることを認めましたが、翌日母が子の引き取りを申し入れたところ、父は拒びました。
 母が申立てた子の監護者の指定及び子の引き渡しの調停は不成立になり、審判に移行し、本決定の原審判(札幌家庭裁判所苫小牧支部(審判、平成17年3月17日)は、母の申立てを認容しました。
(判決の概要)
 抗告人は、未成年の安定した状態、抗告人の実母の協力による監護態勢、抗告人の資力等、子の福祉という観点から、監護者は抗告人が適当であると主張しました。しかしながら、相手方の監護権を侵害した違法状態を継続している抗告人が現在の安定した状態を主張することは到底許されるものではないとされました。また、未成年者がいまだ2歳の女児であり、本来母親の監護が望ましい年齢であること、相手方が育児することについて不適格な事情が認められないことから、監護者として相手方が相当であることは明白であるとして、原審判は相当であるとしました。本決定は特別抗告されましたが、最高裁判所は平成17年9月15日、抗告を棄却しました。

-判例8- 仙台高等裁判所秋田支部 平成17年6月2日判決
 別居中の母が公然かつ平穏に子らをその監護下に置き、監護を継続していたにもかかわらず、父が子らを無断で連れ去り、その監護下に置いたため、母が子らの引き渡しを求めた事案の即時抗告審において、父に引き続き子らを監護させる場合に得られる利益が母に子らを監護させる場合に得られる利益をある程度優位に上回ることが積極的に認められない限り母による引き渡し請求を認容すべきであるとしたうえで、本件では両者の利益に優位な差異は認められないとして、母の申立てを却下した原審判をとり消し、認容しました。
(事件の概要)
 母(抗告人)は、父(相手方)の暴言、暴行が続いたため、実家に子ら(6歳、5歳、3歳)を連れて行き、以後、父とは別居しました。別居後、父は週に1-2度子らと面接交渉をおこなったりしていましたが、母に対して、子らを引き渡すよう求めたり、そのために法的措置をとることを検討することはありませでした。父母はそれぞれ離婚等を求めて調停を申立てましたが、その後、父は子らが通園する保育園に赴き、母に無断で、子らを自宅に連れ帰りました。離婚等調停は不成立に終わり、母は、子の引き渡しを申立て、ほぼ同時に、離婚等請求事件を提起しました。
 原審判(青森家庭裁判所弘前支部、平成17年3月1日)は、父が母に無断で子らを連れ去った際、暴力的であったとか威嚇的であったといった事情は伺われず、父が子らに対し暴力的に接しているという事情は窺えないとしました。さらに、父の監護状況について、母のそれに比し劣悪とはいえず、本案訴訟における訴訟における証拠調べの結果を待つまでもなく母が親権者として指定されることが明らかであるともいえないとしました。したがって、父における子らの監護養育を継続することが子らの心身の安定に資し、子の福祉に合致するとし、母の申立てを却下しました。母は即時抗告しました。
(判決の概要)
 別居中の夫婦のうち一方配偶者甲が公然かつ平穏に子をその監護下に置き、監護を継続していたにもかかわらず、他方配偶者乙が子を無断で連れ去るなど、違法にその監護下に置いたため、甲が家庭裁判所に子の引渡しを申立てた場合には、子の福祉の観点から、乙に引き続き子を監護させる場合に得られる利益と甲に子を監護させる場合に得られる利益を比較し、前者が後者をある程度有意に上回ることが積極的に認められない限り甲による子の引渡し請求を認容すべきものと解されています。なぜなら、乙が、違法な連れ去りによらず、正当に家庭裁判所に子の引渡しを申し立てていれば、乙の監護によって得られる利益の方がある程度優位に甲の監護によって得られる利益を上回ることを明らかにしない限り、その申立ては認められないはずにもかかわらず、違法に子を連れ去ったことによって、甲がその監護によって得られる利益の方がある程度優位に乙の監護によって得られる利益を上回ることを明らかにしなければならなくなってしまうとすれば、乙が法的な手続を選択するよりも自力救済を選択することによってかえって有利な地位を獲得することを許すことになり、違法行為を助長する結果を招き、家庭裁判所の審判によって子の奪い合いを抑え、平穏に子の監護に関する紛争を解決することが困難となるからです。
 本件では、抗告人と相手方との間に有意な際は認められないので、抗告人の引渡し請求を認容すべきであるとして、原審判をとり消し、認容しました。

-判例9- 金沢家庭裁判所七尾支部 平成17年3月11日審判
 子の祖母からの監護者指定の申立てを認め、祖母を子の監護者に指定しました。
(事件の概要)
 本件子は相手方である父と母の子ですが、相手方である父は子の姉である次女に虐待を加えて死亡させ、服役しました。相手方父の出所後、本件子は申立人である子の祖母のもとに、相手方である子の母により預けられました。その後、子の祖母は本件申立てに及びました。
 家庭裁判所の調査官の調査によると、子は、「パパに何も食べさせてもらえなかった。」と述べ、相手方らに対して好感情を有していないことが推測されました。一方、相手方らは、本件審問期日に出頭しないなど、本件審判手続に積極的に関与しませんでした。
(判決の概要)
<家庭裁判所が子の祖母からの監護者指定の申立を認めた点について>
 協議離婚の場合の民法766条を家庭裁判所の権限につき監護者等を決定する権限をも定める趣旨の規定と解し、また、父母に関する親権喪失についての民法834条を一定の範囲の者の請求がある場合には父母の監護権を制限する趣旨の規定と解することにより、父母が子の監護権に関する合意を適切に成立させることができず、子の福祉に著しく反する結果をもたらしている場合には、家庭裁判所の権限につき民法766条を、申立権者の範囲につき民法834条をそれぞれ類推適用し、子の親族は子の監護に関する処分事件の申立権を有すると判示しています。そのうえで、同申立てにもとづいて、家庭裁判所は、家事審判法9条1項乙類4号により子の監護者を定めることができると判示しました。
<家庭裁判所が祖母を子の監護者に指定した点について>
 裁判例は、父母が親権をその本来の趣旨に沿って行使するのに著しく欠けるところがあり、父母に親権を行使させると子の福祉を不当に阻害することになると認められるような特段の事情がある場合には、父母の意思に反してもこの父母ではない者を子の監護しに指定することができる(東京高等裁判所昭和52年12月9日決定)と判示しました。そのうえで、本件については、祖母は、子と同居して子を適切に監護しており、子も祖母に対し自然な愛情を感じており、申立人である祖母が子の監護を継続することが子の福祉に合致すると判示しました。その一方で、子は父母に対して好感情を有しておらず、父母は子の姉である次女に虐待を加えて死亡させ、相手方である子の母は子を申立人に預けると述べ、相手らは本件審判手続に積極的に関与しないなど、相手方らは子の親権者としての責任ある養育態度や監護に対する意欲を見せていないので、上記特段の事情があると認められると判示し、祖母を子の監護者に指定しました。

-判例10- 横浜家庭裁判所 平成14年10月28日審判
 3歳女児につき、夫の違法な奪取を追認せず、母への引渡しが命じられました。
(事案の概要)
 夫婦は平成8年婚姻し、平成11年に男子出生しました。申立人妻は平成12年4月に子を連れて実家に帰り、同年9月以降は夫のところに戻ることはなく、申立人から家裁に離婚調停が申立てられました。調停中、夫は「強引に子を連れていくことはない」といっていたにもかかわらず、妻の元から子を連れ去りました。妻から監護者の指定と引渡しの審判の申立て、引渡の保全処分の申立てがなされ、一方、夫からも監護者指定の審判の申立てがなされました。家庭裁判所での申立人と子の試行的面接では、子(約3歳)は申立人のところで2ヶ月前まで安定的に監護されていたにもかかわらず、大泣きをしました。決定は、「表面的には、相手方の家庭や保育園に適用しているかに見える未成年者の中に、よって立つ大地が揺らいでいるような人間関係の基本的なところでの不安や怯えが存在しているために、面接試行時のような反応になった。」ものとして、子を申立人に引き渡せとの保全処分の決定を下しました。

-判例11- 福岡高等裁判所 平成14年9月13日決定
 子らの祖母から申立てた子2人の監護者の指定を本案とする審判前の保全処分を、いずれも却下した審判に対する即時抗告審において、2人のうち1人の子についての保全処分を却下した部分について、度重なる両親の暴力を伴った紛争、父親による暴力や性的虐待が加えられている可能性が極めて高いこと等が否定できないから、親権の行使が子の福祉を害すると認めるべき蓋然性があるとして、原審判をとり消し、監護者を仮に抗告人である祖母と定めて仮の引渡を命じました。
(事件の概要)
 被抗告人である両親の間に長女(平成2年生まれ)と次女(平成3年生まれ)が誕生しました。両名の母親は、平成13年8月に夫婦喧嘩や自分や子らへの暴力が原因で一旦、子どもたちを連れて実家に戻り、抗告人(子らの母方の祖母)と同居しました。しかしその後、平成14年4月に両親はよりを戻し同居を開始し、子ら連れていこうとしたことから、子らは児童相談所に一時保護されることになりました。その後、同年5月に子らは同相談所から逃げだし、祖母方に戻りましたが、同年6月に両親が子らを連れだし一緒に生活をはじめました。ところが、長女は両親のもとから逃げだして祖母と一緒にいたところを警察に保護され、児童相談所に一時保護されました。一方、次女は両親のもとに留まっています。子らの祖母は、父は子らに対して暴力や性的虐待を加えているとして、子の監護者の指定を求める(祖母に指定を求める)審判を本案とする審判前の保全処分を申立てました。原審は、申立てをいずれも却下しました。
(判決の概要)
 抗告審では、長女について、原審判を取り消し、監護者を仮に抗告人である祖母と定めて仮の引渡を命じました。一方、次女については本件抗告を棄却しました。
(判決の理由)
 第三者が申立てた子の監護者の指定が認められるためには、親権者に親権を行使させることが子の福祉に反するような特段の事情が必要です。本件では、度重なる両親の暴力を伴った紛争、長女に対する被抗告人である父親による暴力や性的虐待が加えられている可能性が極めて高いことから、被抗告人らの親権の行使が長女の福祉を害すると認めるべき蓋然性があります。また、長女の相手方に連れ戻されるのを怖れて学校にも登校することができない状況は、子の福祉に反することは明らかであり、保全の緊急性も認められます。以上から、本件保全処分のもいずれも認めることができると判断しました。
 一方、次女については、父による性的虐待を否定はできませんが、相手方らと生活しており、保全の必要性を判断すべき的確な資料がなく、現段階における保全の必要性の疎明に欠けると判示し、抗告を棄却しまし。なお、本案については、福岡高等裁判所久留米支部で確定しました。


(3) 離婚調停とは
 夫婦だけでは話し合いができなかったり、条件がおりあわないために離婚ができなかったりするときには、家庭裁判所に「夫婦関係調整(離婚)調停」を申し立てます。調停は、男女各1名の調停委員が夫婦の間に入り、当事者のそれぞれのいい分を聞きながら、互いに譲り合って紛争を円満に解決する場であって、どちらが正しいか白黒の決着をつける場ではありません。つまり、判決が下されるわけではありません。離婚の問題は、夫婦間の話し合いで解決することが望ましいと考えられ、訴訟(裁判)の前に、家庭裁判所に離婚の調停を申し立てなければならないことになっています。このことを、調停前置主義といいます。
 ただし、協議離婚ではなく、家庭裁判所を介して離婚をするときには、次項(Ⅳ-20-(2)民法770条第1項に定める離婚事由)に記している5つの離婚事由に該当していなければ離婚が認められないので注意が必要です。DV離婚事件は、民法770条第1項5号の「その他、婚姻を継続し難い重大な理由がある」の「配偶者からの暴力・暴言、そのほかの虐待行為を受けた」ことを離婚理由とすることになります。そして、DV離婚事件では、夫婦間での離婚に向けての話し合い(協議)において、被害者が訴える民法770条第1項5号の離婚事由「配偶者からの暴力・暴言、そのほかの虐待行為を受けた」、つまり、「婚姻破綻の原因はDVにある」という主張を、加害者は認めないことが多かったり、DVから逃れるために家をでたり、緊急一時保護されたりすることから、夫婦間において離婚に向けて前向きの話し合いがおこなわれていなかったるすることが多くなります。そのため、家庭裁判所における離婚調停を介して、離婚に向けて話し合われることが多くなります。被害者の多くは、加害者に対して強烈な恐怖心を抱いていることから、顔を合わせないように待合室など別々にして開くように要望することができます。

<離婚調停の申立て>
 調停の申立ては、相手の住所地の管轄にある家庭裁判所か、もしくは夫婦が合意して決めた家庭裁判所に対しておこないます。例えば、東京都内で結婚生活を送っていた夫婦が離婚することになり、調停を申立てた妻が富山の実家で生活しているという場合には、夫が生活している東京都の管轄である東京家庭裁判所に申立てることになります。しかし、健康上の理由などやむをえない理由で、遠方にある家庭裁判所に出向くのが難しいときには、自分の住所地の家庭裁判所で処理してもらえるよう上申書を提出することができます。この提出によって家庭裁判所が認めれば、自分の住所地にある家庭裁判所で調停をおこなうことが可能になります。また、夫婦が合意して決めるときには、全国のどこの家庭裁判所でもおこなうことができます。ただし、この合意は、調停を申立てるときに合意書を添付するか、申立書に主旨を記載することが必要です。
 家庭裁判所へ提出した調停の申立てが受理されると、この申立てに「・・家庭裁判所 平成25年(イ)第110号」などと事件番号がつけられます。調停を申立てた者が「申立人」、申立てられた者を「相手方」と呼ばれることになります。また、裁判所へ書類や資料の提出をしたり、調停に関して問合せをしたりする場合には、事件番号が必要になります。家庭裁判所での事件処理が開始されると、裁判所内で事前調査されたあとに担当の調停委員が決められ、調停期日が指定され、申立人と相手側の両方に呼出状が郵送されます。調停期日に、家庭裁判所に出頭することになります。調停期日に、病気や海外出張などのやむをえない理由で出頭できないときには、「期日変更申請書」を提出します。
 調停にかかる費用は一定額で、調停申立書に添付する収入印紙が1,200円、このほか呼びだしなど事務連絡のための実費負担として裁判所に予納する切手が800円で合計2,000円かかります。特殊な鑑定や出張などが必要な場合を除いて、特別な費用を要することはまずありません。

<調停離婚の手続き>
 夫婦の一方の同意がなくても申立てできる
・家庭裁判所に調停申立を行う
  ↓(1ヶ月)
・期日の指定と呼出状が届く
  ↓(1ヶ月)
・「調停」→調停が不成立の時は、審判離婚・裁判離婚へ。通常は5-6回、多くても10回以内が多い
  ↓(調停が成立すると..)
・調停成立、調停調書の作成
  ↓
「市町村役場へ届出」・調停調書の謄本1通
          ・離婚届1通(夫婦と証人と著名押印は不要)
          ・夫婦の戸籍謄本(住所地が本籍の場合は不要)
          ・印鑑


(4) 離婚調停の進行
① 裁判所内の調停室へ
 調停は、家庭裁判所の庁舎内にある調停室でおこなわれます。調停室は、法廷が開かれるようなものものしい部屋ではなくまったく普通の部屋で、調停委員も当事者もひとつのテーブルをはさんで席につき、話し合います。また、調停委員との話合いは、両者別々に調停室に呼ばれるのが一般的です。一方の聞きとりをおこなっている間、もう一方は控え室で待つことになりますが、控え室は申立人と相手方と別々になっていて、なるべく顔を合わさなくてすむように配慮されています。DV事案では、通路で出会わないようしたり、帰りが一緒にならないようにしたりするために時間をズラしてもらえるなど配慮されます。

② 調停委員に話を聞いてもらう
 第1回目の調停は、申立人から先に調停室に呼ばれます。調停委員から調停を申立てた経緯、夫婦生活や子どものことなどについて質問されます。申立人の事情聴取が終わると、今度は相手方が部屋に呼ばれ、申立人が述べた内容に関する真偽や離婚に対する意向などが訊かれます。
 調停委員は、原則として40歳以上70歳未満の男女各1名が選ばれますが、弁護士の資格を持っていたり、長く民生委員を務めていたり、頼できる豊富な社会経験の持ち主が調停にあたるとされています。プライベートな問題について質問されるので、応えにくいこともたくさんありますが、できるかぎり自分の気持ちや真相を包み隠さずに話すことが大切です。とはいえ、話の受けとり方は、調停委員の価値観に大きく影響を受けます。特に、DVや子どもへの虐待が絡むケースでは、加害者の外面のよさ、流暢で雄弁な語り口にいい含められてしまったり、「愛している。やり直したい」と涙ながらに訴える姿にコロッと騙されてしまったりすることがあります。加害者の暴力の状況、特徴を明確にできるように、”なにをされてきたのか””どのような状況におかれてきたのか”を詳細にまとめ(証拠としての事実経過をまとめた報告書の意味を持つ「陳述書」)、提出することが、事実認識に役立ちます。

③ 調停が終了するまで
 調停が1回で終わることはほとんどなく、合意できるまで、1ヶ月程度の期間をおいて何度かおこなわれます。調停の多くが6ヶ月以内で終了しますが、1年以上かかる場合もあります。また、幼い子どもがいて、親権・監護権が争われるる離婚事件では、養育環境を確認するために、調査官が家庭訪問をし、その結果を「調査官報告書」としてまとめて裁判官(審判官)に提出します。
 一方で、合意できる見込みがないとして、早々に調停を不調に終わらせ、審判に移行させたり、提訴したりして裁判官の判断に委ねようとすることもあります。

④ 財産の保全
 調停の最中に、勝手に財産を処分されてしまったり、名義を変更されてしまったりする怖れがあるとき、「勝手に財産を処分してはいけない」との処分の措置を申請することができます。また、同ウ)のように、調停中(別居中)の生活費を支払って欲しいときには、「生活費としてとりあえずいくらか支払うこと」との処分の措置を申請することができます。「調停前の仮の処分の申立書」に、申立ての趣旨と実情を記入して調停のときに提出します。この措置に違反したときには、10万円以下の過料がかかります。なお、それでも効果がないと思われる場合には、地方裁判所に仮差押や仮処分の申立てをします。この手続きをおこなうことにより、未然に財産を処分されることを防ぐことができますが、調停前の仮処分に強制力はありません。相手が正当な理由なく決定にしたがわない場合は、10万円以下の過料に処せられますが、それを承知で処分することも考えられます。

⑤ 調停での発言
 民事事件といえども、DV離婚事件では、被害者の多くは、自分が被害者であり、相手は加害者であるのだから、自分が正義で相手が悪であると構図で調停が進むことを強く求めます。この背景には、私がどれだけツラく苦しい思いをさせられてきたのかを、皆にわかって欲しい、認めて欲しいとの強い思いがあります。相手の話になど耳を傾けずに、私の気持ちだけに共感して欲しいと強く願うわけです。したがって、調停委員が自分の味方なのか、敵なのかと二元論で判断してしまうことになります。そのため、調停委員が公平な立場として、相手の話にも耳を傾け、「相手方はこのようにいっていますが」と伝える態度に、相手の話を鵜呑みにしてしまっていると激しく憤り、私のツラく苦しい思いをわかってくれないと敵とみなしてしまいます。自分の周りは敵だらけという危機感は強迫観念となり、感情的に、相手を誹謗中傷する発言を繰り返してしまったり、「誰も私の気持ちをわかってくれない。話をしてもムダ」と口を閉ざしてしまったりすることで、より自分の立場を悪くしていくことがあります。調停は、どちらに白黒をだす場ではなく、合意に向けて話し合いをする場です。したがって、調停委員は、双方の話を聞いて合意に向けての落としどころ探ったり、合意に向けての助言をしたりする立ち位置で仕事をしていると認識することが不可欠なのです。

⑥ 調停の成立
 調停の結果、離婚の合意が成立し、離婚に伴う慰謝料や財産分与、親権者や養育費などについても話がまとまり、調停委員会、家事審判官からも離婚は妥当であると認められれば調停は成立となります。


(5) DVの立証に欠かせない「陳述書(証拠としての事実経過をまとめた報告書)」
 DV離婚事件以外の離婚事件では、調停時に陳述書を提出することは稀であることから、依頼した弁護士でさえも「調停では陳述書はいらない」と応じることが少なくありません。さらに、担当する2名の調停委員、調査官(幼い子どもがいて親権などが争点となっている事案)、審判員(裁判官)が、DV事件そのものの本質、つまり、「本来対等であるはずの夫婦間において、上下の関係、支配と従属の関係を成り立たせるために暴力が行使される」ということを認識していないことも少なくないことから、調停の最初に、DVの本質について“共通認識”下で話し合われる状況をつくっておく必要があるのです。そのため、配偶者から「なにをされてきたのか」、「どのような状況におかれてきたのか」を把握してもらうための陳述書が必要不可欠なのです。
 陳述書は、証拠としての事実経過をまとめた報告書ですから、「どのようにして結婚し、どのような結婚生活を送って、離婚調停を申立てるまでに、どのような事情があったのか」といった事実経過を具体的に書く必要があります。また、隠し立てしたり、事実を歪めて書いたりすれば、調停委員の印象、そして、後の審理にも大きく影響することから、真実をできるだけ詳細に、つつみ隠さずに記載するようにします。自分で陳述書の原案をつくって専門家にわたし、スムーズに裁判が運ぶよう相談しながら、チェックしてもらい、司法関係者が好む文体や表現になるように手を加えてもらうようにすることが理想的です。
 では、調停や裁判では、独特のいい方や呼称が使われますのでまとめておきたいと思います。

(呼称)
 「調停」では、調停を申立てた者が「申立人」となり、申立てられた者が「相手方」となります。そして、「裁判」では、裁判をおこした者(提訴した者)が「原告」となり、おこされた者が「被告」となります。また、原告がおこした訴訟事実とは異なる事実で、被告が訴訟をおこしたときには、同裁判において、被告が「反訴原告」となり、原告が「反訴被告」となります。つまり、「原告」「被告」という表現は、刑事事件の刑事訴訟とは違い、民事訴訟の離婚事件では、単なる呼称でしかありません。

(書面の位置づけ)
 「準備書面」、「訴状」、「答弁書」は、“自己の主張を展開する”書面で、「陳述書」は、書類や写真、音源データ、証言などと同じ“証拠として提出する”書面です。
 「陳述書」は、当事者以外の者が、原告または被告を擁護するために裁判所に提出する書面、そして、当事者が裁判所に提出するときには、「自己の事実の報告書」の意味合いを持つことになります。しかし、よく見られるのは、当事者が提出する陳述書においても、当事者以外の者が提出する陳述のように、どのような気持ちなのかにフォーカスされてしまっていることです。被害者が提出する陳述書は、事実の記述にフォーカスすること、つまり、「私が○年○月○日の21時ころ、被告の家に行ったが留守で会えなかった。」と“事実”を報告書のように記載するということです。
 「準備書面」は、相手方の主張に対する「認否」や反論を行うものです。「認否」とは、相手方の主張に対して、どの部分を認め、どの部分を否定するか自己の態度を明確に示すものです。認めるときには「認める」、認めないときには「否認する」、そして、知らないときには「(主観につき)不知」と記します。そして、民事裁判において、「訴状」が原告の最初に提出する書面で、「答弁書」が被告の最初に提出する書面ということになります。
 「訴状」には、①当事者の表示(誰が原告で、誰が被告になっているかが書かれている)、②訴訟物の価額(最初に裁判所に支払う印紙代の算定根拠となる数字)、③請求の趣旨(その)訴訟でなにを求めるか)、④請求の原因(請求を理由づける根拠)、⑤証拠の方法(請求の原因に書いてあることの真偽を立証するための資料)を書きます。
 被告が、原告の請求を認めることを「認諾」といい、原告の請求が確定してしまうことになります。もし、被告が、原告の請求を認めたくないときには、棄却を求める必要があります。つまり、原告の訴状「請求の趣旨」に対する答弁(棄却を求める)をするのが、「答弁書」ということになります。そして、訴状の「請求の原因」に対する「認否」をおこない、「被告の主張」を書き、訴状に対する内容的反論を加えます。提出期日まで時間がないときには、「請求の原因に対する認否を追ってする」と書き、提出します。
 では、「準備書面」、「答弁書」における「認否」について、少し補足説明をしておきたいと思います。
 1つのセンテンスごと、または、前中後段ごとに「事実を認める」「事実は否認する」「主観であるから不知」と応えていきます。つまり、文章の「。」ごとに、第1文、第2文と・・とし、それぞれの文章の中で、この部分の事実は「認める」、この部分の事実は「認めない」、この部分は、相手が自分に都合のいい勝手な解釈で述べていること(主観)だから「不知(知らない)」と、あなたの主張(意志)を伝え、「真実はこうである」と反論・主張を書き述べていきます。 「不知」とした部分について、あなたが示す証拠がない場合は、「いった、いわない」「やった、やっていない」と不毛なやり取り(泥仕合)になりかねないので、反論する場合には、明確な証拠を伴うことが求められます。あなたが明確な証拠を示すことができないときには、「主観であるから不知」と記し、簡潔に主張したいことだけを書きます。
 「このままでは、相手の主張ばかりが認められてしまう」と強迫観念に駆られ、「いい負かされたくない」との思い、「なんとか私の辛かった、苦しかった気持ちをわかって欲しい」との強い思いを押し殺し(心に秘め)、くどくどとした文章(反論・主張)を書かないことが大切です。つまり、裁判では、離婚事件の事実を「認否」し、判断を仰ぐ場所であって、私の気持ち(意見)をわかってもらう場所ではないということです。「私の気持ちをわかってもらえない」ではなく、「事実を認めてもらう」ために、どう手を打つか(対策を練るか、準備をするか)にすべてがかかっていると理解し、臨むことが求められます。

(DV離婚事件で、「陳述書(現在に至る事実経過)」を“主”にすることが重要なのはなぜか)
 先に記したとおり、「「陳述書」は写真、音源データ、証言などと同じ“証拠として提出する”書面で、「準備書面」「訴状」「答弁書」は“自己の主張を展開する”書面とは役割は違います。特に、“当事者”が裁判所に提出するときには、「自己の事実の報告書」ということになります。つまり、“事実を記す”のが「陳述書」です。ところが、当事者以外の者が、原告または被告を擁護するために裁判所に提出する「陳述書」と混同している方がとても多いのです。
 「Ⅰ-5.被害者心理。暴力で支配、マインドコントロールされるということ」の中で、伊予市17歳少女殺人事件、堺市傷害致死・死体遺棄事件、尼崎連続変死事件、北九州連続監禁殺人事件、古くは浅間山荘リンリ事件など、凄惨なリンチ事件に巻き込まれた被害者と同じ心理的状況下にあることなどを説明しているように、そこ(刑事事件)では、なぜそのような凄惨なリンチ事件がおきたのかなど、暴行や暴力が繰り返されてきた背景を詳細に把握し事件の全貌を明らかにしたうえで、判決(判断)が下されるわけです。そして、企業のコンプライアンス体制を問題視して争われるパワーハラスメントやセクシャルハラスメント訴訟と同様に、「DV」という暴行事件、暴力事件の全貌(背景)、つまり、「事実経過」を明らかにしていくことがなにより重要になるわけです。
 したがって、「陳述書」では、民法770条第1項で定められている「離婚」事由に至った経緯を示すことが必要になります。
 離婚事由に至った経緯を示すには、夫婦の関係性を示すことなしには因果関係を明らかにすることができません。因果関係を明らかにすることができないということは、論理的に説明することができないということです。そこで、当事者が裁判所に提出する「陳述書」において、夫婦の関係性を事実にもとづいて報告するということになり、民事事件(DV離婚事件)で主張する“主(軸)”に位置づけられます。そして、写真、動画、メールや音源データ(文字おこしした書面)などは、記載している事実を裏づける(“補完”する)位置づけになります。この関係性を正しく認識することが、因果関係、論理性を考えるにあたってもっとも重要なことです。なぜなら、なにを争点にするか、夫側の論理(証拠にもとづく主張)に対し、なにをもって切り崩すのかのベクトル(方向づけ)を合わせることができるからです。ベクトルを合わせることができず、“主(軸)”とするものがない中でバラバラに分析がされていないメール文や音源データを提出してしまったために、逆に、被害者が加害者である夫の証拠にもとづく主張を“裏づける主張”をしてしまう事態を招いてしまうこともあるのです。その原因は、“主(軸)”するものがなく、ベクトルを合わせるというもっとも重要なプロセスを経ていないことです。なぜ、このプロセスを経ていないことが、「夫の主張を裏づける主張をしてしまうのか」というと、“主(軸)”、つまり、「現在に至る事実経過」をまとめあげるためには、“なにをされてきたのか”“どのような状況におかれていたのか”という問題と真正面に向き合うことによって、暴力に順応した考え方の癖(認知の歪み)で判断したり、行動したり、発言したりしてしまうからです。夫の機嫌を損ねないために意に添うようにふるまってきた思考・行動習慣(考え方の癖)が、調停や裁判の場でもでてしまうのです。DV環境の中で、どのような考え方の癖で生活してきたのかを理解することがとても重要なのです。
 したがって、夫の主張(裁判所に提出される上記のような書面を含む)に対しては、離婚事由に至った経緯をまとめた書面、つまり、“夫婦の関係性”を「現在に至る事実経過」としてまとめた書面(証拠としての「陳述書」)をもと(よりどころ)に、主張(裁判所に提出する上記のような書面、そして、それを裏づけるメールや音源データなどの証拠)していくことになります。そして、“主”を裏づけるための補完は、“第三者(調停委員や裁判官、乳幼児がいる事案では調査官が加わります)の判断に影響を及ぼす”夫の証拠にもとづく主張に対してフォーカスすることです。ここが重要なところです。主を裏づけるための補完といった関係性が明確になっていないと、事態が見え難くなり、見え難いことはわかり難くくなり、わかり難いことは伝わり難くなるということです。つまり、調停委員や裁判官、調査官に「わかってもらえない」という事態を招きます。


(6) DV離婚事件、証拠としての「診断書」をどう捉えるか
 「婚姻破綻の原因はDVである」とする離婚事件では、暴力の事実を示すものとして、一般的に、「診断書」を提出する必要があるとされています。いまだに、相談した弁護士に「診断書はありますか?」と訊かれ、「もらっていません」と応えると、「なら、難しいですね。」と応じられることもあります。ここでいう「診断書」とは、身体的暴行による頸椎捻挫、打撲、裂傷、骨折など外傷を指していますが、身体的暴行や精神的暴力によりPTSDやうつ病、パニック障害を発症した可能性が認められるときには、「Ⅳ-22-(1)-⑤慰謝料」の「*」の説明の中で、『民事事件ではなく刑事事件として捉えるときには、夫婦間におけるDV、親子間における虐待によってPTSDを発症したときには、「健康状態を損なった(判例)」として傷害罪(刑法204条)が適用されると解釈できます。傷害罪は、PTSD(C-PTSD)やうつ病、パニック傷害の発症、病気の罹患、疲労倦怠などの外傷を伴わないものでも適用されるということになっています。』と記していますが、民事事件としての離婚事件においても、暴力の事実を示すものと考えられるわけです。「*」の説明の中でも、「適用されることと認められることとは違う」と記しているとおり、配偶者からの暴力との因果関係が示されていなければならないことになります。そういった意味では、頚椎捻挫、打撲、裂傷、骨折などの外傷についても、配偶者からの暴力の暴力によるものなのか、それとも、自身の行為でぶつけたり、転んだりしたものなのか、その違いを明らかにすることができなければ、配偶者からの暴力を立証することはできないことになります。「DVをでっちあげられた」、「冤罪DV」と主張されないように、疑問点は埋めておく必要があるわけです。これは、児童虐待事件として、子どものケガを親の身体的暴行(虐待)によるものなのかを見極める現場の判断と同じ視点で解決できるものです。
 したがって、身体的暴行による外傷については、第3章(学校現場で、児童虐待・面前DVとどうかかわるか)14節(初期対応としての緊急性の判断)で、外傷の見極めのポイントを詳細に説明していますので、それに準じて判断していただくとして、ここでは、家庭裁判所でDV被害を立証するという視点で、配偶者からの暴力による精神的な被害、つまり、PTSDやうつ病に対する「診断書」のあり方について述べておきたいと思います。
 そこで、「診断書」が、被害者である母親が親権者、監護権者となる決定が下されるにあたり大きな役割を担ったDV離婚事件を見ていきたいと思います。このDV離婚事件では、DV加害者の夫が離婚に応じようとしないだけでなく、被害者が重いうつ症状により自殺未遂をおこしているために、高校1年生の長男、小学校6年生の次男の養育は難しいとして、親権、養育(監護)権が争われました。ここでは、同じDV離婚事件の中で、家庭裁判所に提出された2通の診断書を見ていただきたいと思います。最初に見ていただく「診断書(A)」は、DV離婚事件において、支援者(アボドケーター)がサポートする前に作成されたものです。

-診断書A-
・うつ病、パニック障害
 平成16年9月28日に当院初診、上記診断のもと内服加療を開始。しかし、家庭内融和を計ることが、夫の暴力により困難となり、病状は不安定のままであった。内服薬としては抗うつ剤、抗不安剤の服用が続いていたことを証する。

 一般的な診断書といえるものですが、「夫の暴力により、家庭内融和をはかることが困難であることから、妻の病状は不安定なままである」という文面は、妻の病状の回復には夫の暴力がない状況、つまり、妻は夫と離れて暮らすことが不可欠ということを示すものです。したがって、「夫が離婚に応じない」ことへの問題提起はしているものの、夫の「妻は重いうつ病を患っているので、長男と次男の養育は難しい」との主張を覆すものではありません。つまり、このDV離婚事件で争点になっている“子どもの養育”、つまり、親権と監護権が争われているわけですから、「診断書」には、「妻が夫と離れて暮らすことができれば、妻の病状は回復することが可能であることから、長男と次男の養育に支障があるとは考えにくい」といった記述が必要になるのです。そして、こうした記述のない診断書は、逆に、夫の主張を裏づけてしまいかねないことにのです。診断書の記載内容次第で、提出側の主張に反する、つまり、相手側の主張を裏づけてしまうものになり得るということです。
 そして、先の「…といった記述が必要になる」との記述だけでは足りず、「診断書」において、「妻が夫と離れて暮らすことによって、妻の病状が回復する」可能性に対する“根拠”を示すことが必要になります。
 したがって、「診断書」というよりも、「診断結果にもとづく意見書」という意味合いのものが必要になるということです。そこで、支援者(アボドケーター)が、このDV離婚事件の被害女性からサポート依頼を受けて、ワークシートに“なにをされてきたのか”“どのような状況におかれてきたのか”の書き込み作業をしたうえで、診断書(A)を作成したクリニックではなく、被害女性が自殺未遂をおこし入院治療を決めた医師に、別途「診断書(B):病状経過書」の作成を依頼しました。

-診断書B(病状経過書:A4版横2頁)-
 当院診察録により本人達の供述を参考にして、下記の通り診断する。
氏名:M(昭和46年 月 日生れ;41歳)
病名:うつ病(不安抑うつ状態)
原因:夫による理不尽な重度ストレス(所謂DV)による反応が主たる原因
1.当院初診日:平成23年8月19日
2.本人の主訴:不安感・恐怖感が強く受診時にも希死念慮が強く自分で押さえが利かず。夫の激しい暴言・暴力の為実家に避難していたことから両親が同伴し来院した。外来治療は困難且つ危険と判断し、翌日より精神科病院(・・病院)に入院とした。ここで、8月20日より9月6日の間、入院治療を受けた。状態が軽快したので同院を退院し、再び当院にて現在も外来通院治療を継続中である。
3.改めて病状の聴取したところ、以下のような経緯があったとのことである
 夫とは1年間の交際の後に23歳時に結婚した。勿論当時はうつ病や特別の精神的問題もなく、服薬等は全くしていなかった。しかし、間もなく夫は威圧的・重圧的となり「俺のいうことをきいていればいいんだ」と、自己中心的なやり方を押しつけてきた。「てめえ、ふざけんな、この野郎」等と激しいことばをなげつけ、その通りにしないと不機嫌となるため非常に怖かった。
 更に2人の子供達にも、同様のことばをいわせたりもした。暴言からはじまり次第に殴られたりと暴力は酷くなり、自分の心身の状態も悪化してきた。
 結婚3年目(26歳)頃より心療内科に通院を始めた。「うつ病」との診断を受け服薬等治療を受けてきた。しかし、夫は金の無駄遣いだとまったく理解がないだけでなく、激しい暴言・暴力が引き続き、どうすることもできない状況が続いてきた。
 辛さのあまり、平成22年3月に自殺未遂をした。それでも家庭内の状況は変わらず、23年5月にも自殺目的で大量服薬・飲酒もし意識朦朧として首吊りをしたが失敗した。翌日夫は、心配するどころか「この馬鹿女め」とまた殴ろうとしたが、長男(当時中学3年)がカバーしてくれた。次男(小学5年)は、これらによる急性心因性胃腸炎と診断され服薬するようになった。
 どうにもならなくなり、・・区役所に相談し家庭支援センターより勧められて、平成23年 5月22日より、父・母・兄のいる実家(・・市)に避難しているとのことであった。
 その後、23年5月24日から3ヶ所ほど精神神経科(・・クリニック、・・クリニック、・・クリニック)に通院を続けた。
 しかし、動悸・不安恐怖感、更に自殺願望(希死念慮)が収まらず、上記のように平成23年8月19日に当院初診に至ったものであるが、危機回避のため翌日より精神科病院に入院治療とした。
 通院後、当初よりは諸症状は軽快してはいるものの、夫の話を聞き適切な対応がなければ今後の同居生活は考えられないために、23年10月29日に夫・本人の両親・弟に当院に集まってもらった。それぞれのいい分を聞き、話し合いをした。夫は「気をつけた方が良いことを教えて欲しい」ともいうため、病状の発生・状態と夫の言動との関連を説明し、日常の注意事項当を詳しく話した。
 この後、23年10月29日から本人は(夫・2人の子供がいる)・・の自宅に戻った。
 しかし夫は「俺だけ嫌な思いをさせられた」とまったく理解も進まず、むしろ逆恨み的であった。
 暴力こそ振るわなくなったが、相変わらずの自己中心的・威圧的な態度はまったく変わらなかった。夫が嫌味をいったり暴言を吐くと、子供達が泣いたり、時には本人をかばったり助けてくれたりした。
 結局状況も変わらず、本人の病状も改善しないために、24年4月28日再び父母のいる・・市の実家に戻ってきた。子供達のこと、今後のことが心配で、恐怖感・抑うつ感は今も尚持続している。
4.本人の病状と夫の言動との関連性について
 23歳で結婚し41歳に至る16・7年間、夫による様々な威圧的態度・暴言・身体的暴力等が繰り返されてきた。本人に対するものが主であるが、時には子供達(現在:長男は高校1年生・次男は小学6年生)に対しても同様の理不尽な暴言等が認められる。
 本人の諸症状は明らかに夫による家庭内暴力(DV)が主要な原因であると診断できる。話し合いをするものの、夫はまったく自分には何らの非はないと主張し続けており、相協力して平安な家庭を作り直そうとの考えはまったく望めない状況の様である。
 なお、本人自身には特別性格的偏りや対人関係・社会生活上の能力の低下などの諸問題は見出すことができない。元来、通常社会生活の範囲内では健常な精神状態の人物と思われる。
5.本人の病状の発生・病状の継続・実家に逃げ戻らなければならない理由は、その大部分は夫の暴言・暴力(所謂DV)によるものと判断するのが妥当であろう。また、このような状況下で子供達が健全に生育していけるかどうかは、かなり問題があるものと推定される。
以上の通り相違ないものである。

 見ていただいた通り、診断書(B)では、“なにをされてきたのか”“どのような状況におかれてきたのか”をことばにしたものをまとめた「現在に至る事実経過」と、精神科(クリニック)の受診記録とつき合わせて、経緯聴取という形式で記載していただいたものです。被害女性は、かなりひどい虐待体験を起因とするうつ病であるものの、発症のきっかけとなった夫のDV行為そのものにフォーカスし、「病状=夫のDV行為」、「子どもの心身の健全な発育に望ましくない環境」との論理が明記されています。さらに、「時には子供達(離婚確定時:長男は高校1年生・次男は小学6年生)に対しても同様の理不尽な暴言等が認められる。」と父親(夫)による子どもへの暴力についても明記し、「本人自身には特別性格的偏りや対人関係・社会生活上の能力の低下などの諸問題は見出すことができない。元来、通常社会生活の範囲内では健常な精神状態の人物と思われる。」と、“夫の暴力下になければ健常な精神状態にある”と明確に因果関係を示しています。
 したがって、配偶者の暴力により後遺症としてうつ病やPTSDを発症し、その症状が問題であるとして、「子どもの養育に支障がある」と主張されるときDV離婚事件おいて、家庭裁判所に被害者が診断書を提出するのであれば、診断書(B)レベルの「診断結果にもとづく、意見書」と位置づけた「診断書」が必要になるのです。


2016.3/5 ブログ再編成(第3次改訂)に伴い、主記事として掲載




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