あなたは、夫の暴力・DVを容認していませんか? 暴力のある家庭環境で暮らす子どもの心を守ることを忘れていませんか?

[Ⅵ-C] 臨床現場からのレポート(3) 更生困難な加害者への教育プログラム

D V 加害者更生の意味とわが国における課題 D V 加害者更生の意味とわが国における課題

 
 虐待する親への指導の取り組み― 修復モデルの実践事例― 田中清美(愛知県海部児童相談センター心理判定員) 「ケアリングダッド」を実施する上での原則
妹尾 栄一(東京都精神医学総合研究所 精神科医)

DV加害者が良き父になるために~ケアリングダッドプロジェクトに学ぶ~③


 加害者更生のための研究会が組織されたとき,銃器規制の調査地と全く同じ地域で制度を勉強してみたいとの気持ちが湧いてきた。また銃刀法の時の調査で,ニューヨーク,オルバニー(ニューヨーク州の州都),オタワ(カナダ連邦の首都),オリンピア(カナダ・ブリティッシュコロンビア州の州都),シアトル(アメリカ・ワシントン州)を候補地として訪れていたため,DV加害者更生システムの調査地でも,トロント(カナダ・オンタリオ州),オタワ,バンクーバー(カナダ・ブリティッシュコロンビア州),シアトルの4地点を選び,アメリカ,カナダの両国での制度の共通点と相違点,さらにはカナダ州政府間での相違,カナダ連邦政府での方針などを比較検討する機会を得た。
 平成16年の加害者更生プログラムの試行を経て,引き続き原宿カウンセリングセンターに会場をお借りして,かれこれ5年間にわたり任意参加による加害者更生プログラムを実施してきた。男性グループの実施過程で,強く印象に残るのは,我々の主宰するグループでは,パートナーと同居している事例が比較的多い点にある。海外でも非公式に「ワイフ・オーダー」という用語があるらしいが,妻からプログラムに通わなければ離婚すると言われ,いやいや重い腰を上げて相談に来所する加害男性がいるのも事実である。
 そのような事例では,当然のことながら妻と共に子どもも同居している場合が多い。家族の中で父から母への暴力を目撃している子どもは,どのような影響を受けているだろうか,気になっていた。また別居となったケースですらも,プログラムに通い始めと並行して家庭裁判所の調停手続きが始まり,子どもの面接交渉権を巡る争いが発生していた。そうした問題意識を起点に,DV対策と児童虐待対策がどのような連携体制にあるのか,モデルとなる試みは実施されているのかいろいろ勉強を重ねることにした。
 そうした中で,たまたま2003年に調査地として選んだオンタリオ州のロンドン市で,進んだ取り組みがあることを知り,実際に2年前に訪ねて調査を行った。ロンドン市での試みの先駆性として二つの柱を挙げることができる。
 第一は,「アビューズされた母子へのコンカレントプログラム」が実施されており,開発者のお二人を昨年3月に招聘したことである。
 第二のユニークな試みは,加害男性に対するケアリングダッドのプログラムである。
 オンタリオ州では「バラの蔓で叩いただけでも逮捕する」ほどの,厳罰主義の立場で臨んでいる。結果として,多数の加害者がチャージされて検察官のもとに送られてくる。オンタリオ州のユニークな点は,「ダイバージョン」と呼ばれる司法制度で運用されており,正式の刑事裁判へかけるまえに,DV専門コートで方針が決められることにある。
 Victim Advocatesと呼ばれる専門スタッフは,検察官のもとで被害者側への情報提供を行う。これとは別に,シェルターや女性相談センターにもスタッフがいる。裁判所での協議に加害者プログラムのスタッフも加わって対象者への面接を行ってレポートを提出し,DVコートのカンファレンスで協議される。対象者がDV加害行為を認めており,面接したプログラム・スタッフが受け入れ可能と判断している場合に,DVコートが命令し,パートナー・アソールト・プログラム(PARプログラムと呼ばれる)への参加を義務づける。
 講師の一人ティム・ケリー氏が主宰するチェンジングウェイは,このプログラムの実施団体である。長年にわたるDV加害者プログラムの実績の上に,今回紹介するケアリングダッドのプログラムが築かれている点を強調したい。
 もう一つの側面として,離婚が成立した後にも,多くのDV加害者は子どもとの定期的な面会を続けるので,被害母子はいずれかの時期に加害者と再会していくことになる。非常に恵まれた環境では,専門家が同席して父子面接を重ねるので,直接の脅威とはならないが,専門家が立ち会わない面接もまた多く行われている。
 多くの被害母子にとって,やっとの思いで加害男性から逃れているので,父子の面接を避けたいところではあるが,一切の面接交渉権を認めないことは,離婚調停を停滞させてしまうので,現実的には譲歩する。すなわち母子が別居を決意して逃げたとしても,調停場面でさまざまな困難さに遭遇している。
 以上のような相談者の現状を踏まえるならば,現行の配偶者間暴力防止法に規定された支援策にとどまらず,より長期的な支援を考えていく必要がある。被害者が避難している場合でも,同居している場合でも,加害者と子どもとの関係はほぼ途切れることなく続いている。
 RRP研究会としては現状への適切な対応策として,世界的な動向を踏まえつつ二つの基本プログラムの導入や推進に力を入れている。その一つが平成18年と平成20年に2回ワークショップを実施した「DVに曝される被害母子のための同時並行プログラム」である。これについての詳細は別原稿にゆずる。
 もう一つが,今回のワークショップの眼目である,DV加害者が子どもとの関係を見つめる「ケアリングダッド」のプログラムである。ケアリングダッドは,オンタリオ州ロンドン市で,DV加害者のための更生プログラムを実施してきた「チェンジングウェイ」で実践され,発展したプログラムである。
 DVに曝される子どもをテーマにした研究は,2000年以降に活発に発表されるようになったが,もっとも古くからこの問題に着目してきたのが,Peter Jaffe博士である。Jaffe博士はロンドン・ファミリーコート・クリニックに所属しておられた当時から,DVがその子どもへどのような影響を与えているか,「child witness」をキーワードに詳細な報告を論文化してきた2,3,4)。ロンドン・ファミリーコート・クリニックはその後名称を「The Centre for Children and Families in the Justice System」に変更しているが,現所長のリンダ・ベーカー博士を中心に,DVに曝される子ども,あるいは母子を対象とする懇切丁寧なハンドブックを発表し続けており,それら全てがウェッブページに掲載されている。このページは参考資料の宝庫となっており,なんと年間で26万5000件のアクセスが寄せられている。
 各種の臨床疫学調査でDVと児童虐待の併存(重なり合い)が繰り返し確認されているにもかかわらず,伝統的にDVの被害者支援に携わる援助職と,児童虐待の援助職の間には微妙な緊張関係があったとされる。その背景は複雑であるが,被害を受けている母親が子どもを連れて逃げようと決心するまでには,長い試行錯誤の期間があり,もし子どものみを児童支援機関が引き離して一時保護した場合には,夫からも暴力をうけ,かつ子どものことを守ってあげられない母親との批判が,母親側に集中することになる。もし,母親が逃げないままに介入をためらった場合でも,なぜ母親は子どもを守ってやらないのだと,非難は被害者である母親へと集中する。結局どちらを選択しても,いずれかの専門家側からもう片方の専門家側への非難の応酬となる。
 そのような文脈で,DVに曝される子どもに関して,ちょうど支援機関間の谷間に転落する現象で,見落とされていたテーマであった。
 被害者支援の連携が取りにくかったこともこの問題への取り組みを遅らせていたが,1990年代以降にはDVが子どもに与えるダメージに関して,数多くの研究論文が発表され蓄積してきているので,もはや今日の時点で,DV加害者はパートナーへ与えた影響に対して洞察することのみでは不十分であり,子どもへの影響に関しても無視し得ない責任を有している。実際,海外で実践されている加害者更生プログラムのカリキュラム構成を検討してみても,数回分は子どもへの影響と責任に関するセッションが組み込まれるようになっている。
 しかし,それにしても,加害者に対して社会の側が説明責任を追及する制度が曖昧なままでは,加害男性が子どもに対して与えた影響を洞察するようなプログラムは発想されにくいのも事実である。
 もとよりDV加害行為への説明責任をとばして,子育て(ペアレンティング)の課題として責任を追及するのは本末転倒であるが,どのような機関が加害男性に対して説明責任を引き受けさせるべきか,施策のあり方として論じる必要がある。その場合,日本では公式の制度としてDV加害者が自らの暴力行為を反省し更生していく道は用意されていないのだから,児童虐待の専門機関が子どもを虐待にさらした父親に対する指導助言の一環として,今回紹介するような「ケアリングダッド」のプログラムを用意することも,ある種の里程標としては意義がある。
 DVコートに代表されるような裁判所命令が,海外のDV加害者プログラムではほぼ標準化しているのは明らかである。しかし,日本では刑事裁判の判決の中に(刑罰の一環または代替措置として)特定の在野プログラムの受講命令を組み込むことは,刑法の規定にないために導入不可能となっている。刑法の規定自体を,DV加害行為への処罰規定のみ改正することもまた不可能なので,日本ではDV加害者プログラムが司法制度として導入される蓋然性は極めて低い。
 しかし法制度の壁に遮られてDV加害者更生へ向けての端緒すらも開かれないことは,被害者支援の観点からはまことに歯がゆい事態である。その意味では,児童相談機関からの助言でDV加害者が動機づけられることは,変則的ではあるかもしれないが,永久に道が開けない現状よりは一歩前進とも言えよう。
 DV加害者への効果的動機づけという観点で,講師のカトリーナ・スコット博士ならびにティム・ケリー氏に尋ねたところ,DVコートからの紹介経路と,児童相談機関からの紹介経路で,更生変化に差異はないとのコメントであった。「DVに曝される子ども」への援助が中心テーマになったことの反映として,DV被害者への援助専門家ならびに児童虐待の援助専門家が相互に研鑽を深める,クロス・トレーニングが活発化している。その流れに合致して,児童虐待の専門家達が母子を虐待するDV加害者に対してどのようにアプローチすべきか,懇切丁寧に解説したマニュアルも発行されている(Medeous5))。
 それによると,児童に与えた被害を根拠に父親を専門機関に呼び出してヒアリングを行う手はずとなるが,その際,過度に直面化的な態度で接するのではなく,今後の面接プロセスに参加し続けられるように,「動機づけ」の視点を重視することが強調される。
 母子双方への暴力が問題となるケースなので,本マニュアルによると,児童相談所からDV加害者更生プログラムへの参加をいかに促進すべきか,具体的ノウハウが盛り込まれている。また,初期面接の時点で,具体的な指導指針を押し付けるのではなく,まずは加害暴力行為に関する幅広いリスク評価を行うよう強調している。とくに加害者本人からの主観的な陳述を鵜呑みにするのではなく,警察とのやりとり,格闘技や武器など致死性を一気に増加させる要因のチェックなどの見落としがないよう,警告している。
 本マニュアルでは,児童相談機関自身がDV加害者を更生プログラムに受講させる命令権限は有していないことも明記しており,社会的役割分担を踏まえつつ有機的な連携をはかるための有益な参考資料である。

 DV加害者プログラムへの取り組みにかなりの実績を有する国,あるいは地域を例にとっても,被害者支援の専門家集団との間にはなお緊張感が存在する。ただし,それもここ数年で大きく変貌してきている。
 例えば,平成20年9月に開催された第1回国際女性シェルター会議のプログラムを見ると,3日間の日程中の1日を通じて,「男性との共同:女性への暴力を終息するための同盟として」をテーマに集中討議を行っている。また,RRP研究会が調査した海外の加害者プログラムのいくつかでは,大学で被害者支援のためのソーシャルワークを修めたスタッフが,被害者支援の経験と実績を踏まえた上で,意図して加害者更生プログラムのスタッフメンバーを志す例に出会っている。さらには,被害者支援のシェルターを運営している女て,子育て(ペアレンティング)の課題として責任を追及するのは本末転倒であるが,どのような機関が加害男性に対して説明責任を引き受けさせるべきか,施策のあり方として論じる必要がある。その場合,日本では公式の制度としてDV加害者が自らの暴力行為を反省し更生していく道は用意されていないのだから,児童虐待の専門機関が子どもを虐待にさらした父親に対する指導助言の一環として,今回紹介するような「ケアリングダッド」のプログラムを用意することも,ある種の里程標としては意義がある。
 DVコートに代表されるような裁判所命令が,海外のDV加害者プログラムではほぼ標準化しているのは明らかである。しかし,日本では刑事裁判の判決の中に(刑罰の一環または代替措置として)特定の在野プログラムの受講命令を組み込むことは,刑法の規定にないために導入不可能となっている。刑法の規定自体を,DV加害行為への処罰規定のみ改正することもまた不可能なので,日本ではDV加害者プログラムが司法制度として導入される蓋然性は極めて低い。
 しかし法制度の壁に遮られてDV加害者更生へ向けての端緒すらも開かれないことは,被害者支援の観点からはまことに歯がゆい事態である。その意味では,児童相談機関からの助言でDV加害者が動機づけられることは,変則的ではあるかもしれないが,永久に道が開けない現状よりは一歩前進とも言えよう。
 DV加害者への効果的動機づけという観点で,講師のカトリーナ・スコット博士ならびにティム・ケリー氏に尋ねたところ,DVコートからの紹介経路と,児童相談機関からの紹介経路で,更生変化に差異はないとのコメントであった。「DVに曝される子ども」への援助が中心テーマになったことの反映として,DV被害者への援助専門家ならびに児童虐待の援助専門家が相互に研鑽を深める,クロス・トレーニングが活発化している。その流れに合致して,児童虐待の専門家達が母子を虐待するDV加害者に対してどのようにアプローチすべきか,懇切丁寧に解説したマニュアルも発行されている(Medeous5))。
 それによると,児童に与えた被害を根拠に父親を専門機関に呼び出してヒアリングを行う手はずとなるが,その際,過度に直面化的な態度で接するのではなく,今後の面接プロセスに参加し続けられるように,「動機づけ」の視点を重視することが強調される。
 母子双方への暴力が問題となるケースなので,本マニュアルによると,児童相談所からDV加害者更生プログラムへの参加をいかに促進すべきか,具体的ノウハウが盛り込まれている。また,初期面接の時点で,具体的な指導指針を押し付けるのではなく,まずは加害暴力行為に関する幅広いリスク評価を行うよう強調している。とくに加害者本人からの主観的な陳述を鵜呑みにするのではなく,警察とのやりとり,格闘技や武器など致死性を一気に増加させる要因のチェックなどの見落としがないよう,警告している。
 本マニュアルでは,児童相談機関自身がDV加害者を更生プログラムに受講させる命令権限は有していないことも明記しており,社会的役割分担を踏まえつつ有機的な連携をはかるための有益な参考資料である。

 DV加害者プログラムへの取り組みにかなりの実績を有する国,あるいは地域を例にとっても,被害者支援の専門家集団との間にはなお緊張感が存在する。ただし,それもここ数年で大きく変貌してきている。
 例えば,平成20年9月に開催された第1回国際女性シェルター会議のプログラムを見ると,3日間の日程中の1日を通じて,「男性との共同:女性への暴力を終息するための同盟として」をテーマに集中討議を行っている。また,RRP研究会が調査した海外の加害者プログラムのいくつかでは,大学で被害者支援のためのソーシャルワークを修めたスタッフが,被害者支援の経験と実績を踏まえた上で,意図して加害者更生プログラムのスタッフメンバーを志す例に出会っている。さらには,被害者支援のシェルターを運営している女性団体自身が,直接に男性プログラム(例えば本ワークショップで学んだケアリングダッド)の実施主体になる例も見られている。
 被害者支援員自身が側面的援助ではなく,直接に加害者へのソーシャルワークを担い始めている契機として,監護権・面接交渉権を巡る援助の必要性を挙げることができる。
 シェルターに母子が避難し,次のステップとして自立支援の段階に移行するが,その段階ではいよいよ離婚調停の困難な交渉が始まる。一般に北米ではDVカップルへの調停手続きは禁忌とされ,裁判で監護権・面接交渉権が示される。被害母子に対して保護命令が担保されている時期に,加害男性とその子との間に面接交渉が許可されることはないであろうが,それでも切迫した暴力がなくなって年単位で経過した場合,家庭裁判所での繰り返しの審議を経た後に,面接交渉が認められる場合もある。その場合でも当初は「監督下」での面会設定で行われ,慎重なモニタリングを行った上で次第に自由な面会へと移行する。
 ここで重要なことは,監督下での面接交渉のステップを含めて,被害女性が直接加害者と対面することはないにせよ,子どもについては面接交渉の枠が拡大していく蓋然性はある。したがって,よしんばDVによるパートナーへの脅威がなくなっていてもなお,子どもに対して男性がバタラーとして振る舞う蓋然性は残っている。
 こうした中で,女性支援者達は被害母子への息の長い支援を心がける一環として,バタラーとその子どもとの関係改善に焦点を当てた「ケアリングダッド」プログラムについて,自らファシリテーターの役割を担おうとし始めている。家庭裁判所における「監護権・面接交渉権」の課題は,結果として草の根レベルでの被害者支援の体制を大きく変貌させ始めているのである。
 ひるがえって日本での監護権・面接交渉権の問題はどのように取り扱われているであろうか。
 家庭裁判所の内部事情に精通しているわけでないが,DVの加害者に対して,「子どもへの脅威」としてどれだけリスク管理がなされているのか,いくつか疑問を感じることがある。その要因としては,日本ではかならず調停作業を前置するので,調停案を手際よくまとめること(妥協案)を念頭に置くとなると,被害者側は不本意な譲歩を迫られる懸念はぬぐえない。日本での面接交渉については文献6),海外での動向は文献7)に詳しい。
 もとより,調停でまとまることは義務ではなく,制度的に調停作業から離脱して審判や抗告審まで進む選択がないわけではない。しかし,調停を回避して審判に移行したほうが,面接交渉をより厳しく査定してもらえるという保証は,すくなくとも公にはない。調停が制度的に前置されている以上,被害者の心情として「速く調停でまとまりたい」との気持ちが湧いても誰にも非難できないし,諦めないで審判場面まで拒否の態度を貫くべきと要求するのは,被害者に対して過酷すぎる。
 逆に,調停で妥協しないで審判までたどり着けば,加害者への面接交渉が本当に制限されやすい蓋然性があるのならば,当然そのようなポリシーは公表されるべきであろう(階梯を登るほうほど福音が届きやすいのであれば,『虹の階梯』〈中沢8)〉とでも名付けるであろうか)。
 また調停員を含めた全てのスタッフが,DVに曝され続けた子どもの長期的影響に精通しているとは言いかねるため,DV加害者に対する面接交渉権を全て足並みそろえて厳密に査定しているとは言えないであろう。換言すれば,調査官,調停委員,裁判官の組み合わせによって,対応にばらつきが生じることは避けがたいであろう。
 これらの点を考慮すると,たとえ被害女性自身は加害者と別居して安全な生活を志向しようとしても,元の加害男性がきちんと説明責任を果たさないまま,子どもと定期的に面会している限りは,いつ母子の居場所が知られるか安心できないことになる。また面接交渉の場面で,加害男性が子どもに対して有害な対応や振る舞いを繰り返すことも,被害者にとっては懸念材料である。したがって,直面している懸念材料としては日本も他の国と大きく異なる点はなく,むしろ調停前置主義を採用している分,被害者側に偏って,生き延びるための対処行動が要求されている。
 被害者のみへの対処行動の押しつけを回避するためには,シェルターを出た後の自立支援体制を踏まえた射程で考えると,被害者支援の一環としての加害者更生プログラム,なかんずく父子の関係性へ焦点を当てたプログラムがいかに重要か,ご理解いただけると思う。

 以上のように有志のレベルで継続的な加害者プログラムを実践してきたRRP研究会としては,当初DV防止法の改正を射程に入れて海外の先進的プログラムを学んできたにもかかわらず,その後5年以上経過してもなお,加害者対策が全く進展していない現状には,正直「啞然・呆然」の気持ちをぬぐい去ることができない。試みに,過去2~3年間に相次いで決定された都道府県レベルでのDV被害者支援基本計画の報告書をできる限り入手し,とくに加害者更生に言及した部分をピックアップして表にまとめてみた(p.24~29の表)。
 基本計画の該当箇所を一覧表にまとめることで浮き彫りにされた共通性は,一言で述べるならば「国や他の都道府県の取り組みを調査することで,相談体制のあり方について検討する」というラインでほぼ全国の足並みがそろっている点である。
 それぞれの自治体が,相互に他の自治体の動向を調査研究すると,施策の実現は一体どのような方向に動いていくのだろうか。特に国の調査研究の動向が一様に注視されているが,もし国による調査研究が進展しない場合には,国民の福祉は永遠に向上しないままで放置されるのであろうか。
 例えば,クラスの生徒に「自分の学習目標を立てましょう」と尋ねたところ,それぞれの生徒が「先生やお友達の学習目標の動向を調査研究してから決めます」と一様に答えたら,冗談ではすまないであろう。それとも各都道府県が,各都道府県あてに,「参考までにおたくの施策を調査したいのでご教示願いたい」とアンケートを発送したら,「これと同種の調査アンケートを実施しました,お互い様」と「郵便的」(東9))に回答するのか。
 加害者更生プログラムへの言及で,もう一点,常套的に用いられる言説として,「加害者更生プログラムの実施がかえって被害者の安全を脅かす新たな危険性」という記述があり,頻出する。しかし,加害者の巧妙さにたぶらかされずに,被害者の安全を脅かさないプログラムをいかに実施すべきか,あくまでも責任ある実施体制の中で論じられなければ,意味がない。
 これらの記述の問題点は,あたかも被害者への配慮として言及しているように見せかけつつ,実際には問題先送りのエクスキューズとして用いられているため,本来のあるべき姿として「加害者更生プログラムは被害者への安全性に資する限りで実査される」との責任主体が明白にされていない。危険性はあくまでも加害者にあるのだが,それをあたかもプログラムのはらむ危険性へとすりかえ,被害者の安全のために導入を躊躇しているかのような論法はやめてほしい。
 加害者が被害者を引き留めておくために,プログラムを利用する可能性は確かに存在するが,そのような陥穽を避けるための,被害者支援と一体となった指導体制を築く責任は,行政側にあることを明記してほしい。まっとうな市民であれば,言説にたぶらかされることはないであろう。
 もう一つの問題は,ごく少数の自治体で男性向けの施策をかろうじて実施する場合でも,なぜか「男性の悩み相談」という看板に落ち着いてしまうことである。DVの加害者更生プログラムについて,少しでも調査してみればすぐにわかることであるが,心の悩みに耳を傾けることでDV加害行為から回復することはできない。
 なによりも,相談事業を行うに際して,被害者の声に耳を傾ける被害者支援員の役割が等閑視されているのは致命的である。おしなべて,日本のDV加害者対策は「他県の動向の調査」にとどまるか,または「心の悩み相談」でお茶をにごすかの二つの選択肢に終始している。
 それにしても,各自治体がおのおの独立して基本計画を策定したにもかかわらず,これほど記述が一様で足並みがそろうのはなぜなのであろうか。
 当然のことながら,被害者の安全を向上させる一環で加害者更生のプログラムを実施する責任は,地方自治体に課された重要かつ不可欠の課題であり,にもかかわらず国や他の自治体の動向を調査研究するのみでは,被害母子の人権は永遠に無視され続けることになる。
 例えば児童虐待の防止で,「親への指導がかえって被害児の安全性を脅かすことになる」なら,親指導を躊躇するであろうか。性犯罪者への教育プログラムが性犯罪を巧妙化させるなら,実施を思いとどまるであろうか。

 まとめにかえて
 また,メカニズムや確定的な改善効果が実証されていないことを導入しない理由にしているが,それならば加害者更生プログラムが成果を上げることを,外国の研究者が発表するまで,じっと待つのであろうか。
 児童虐待でも,性犯罪でも,飲酒運転でも,すべて問題を引き起こしている責任主体,すなわち加害者への対応を欠いたままの対策はあり得ない。これらの問題について,海外で確定的な改善効果の報告が成されるまで,調査研究を行い続けると言ったら果たして通用するだろうか。
 結局のところは,被害母子の人権が軽視されたままで,いたずらに時間が推移しているように思える。別の視点から検討するならば,現行のDV防止法は,DVを防止する方策としては決め手に欠ける法律であり,DVの深刻な被害者に対して,必要最小限の措置を講じている「DV被害防止法」にとどまっている。
 人道的な救済措置が不可欠な制度であることは言うまでもないが,もし真に,実効的にDVを防止したいのであれば,加害者への更生措置を盛り込まないままでは,永遠に未解決状態が続くであろう。
参考文献
  
1) Tita, G.E.: STRATEGIES FOR REDUCING GUN VIOLENCE: THE ROLE OF GANGS, DRUGS AND FIREARM ACCESSIBILITY.
Research Report: 2007-3, National Crime Prevention Centre( NCPC) Public Safety Canada, Ottawa, Ontario, Canada.
 2) Jaffe, P. G., Crooks, C. V., Bala, N.: Making appropriate parenting arrangements in family violence cases: Applying the literatureto identify promising practices (Family, Children and Youth Section Research Report No. 2005-FCY-3E). Ottawa, Ontario,Canada: Department of Justice Canada. 2006.
 3) Jaffe, P. G., Juodis, M.: Children as victims and witnesses of domestic homicide: Lessons learned from domestic violence deathreview committees. Juvenile and Family Court Journal, 57(3), 13-28, 2006.
 4) Jaffe, P. G., Lemon, N. K. D., Poisson, S. E.: Child custody and domestic violence: A call for safety and accountability.Thousand Oaks, CA: Sage. 2003.
 5) Medeous, F.: Accountability and Connection with Abusive Men. Family Violence Prevention Fund. 1998.
 6) 善元貞彦「面接交渉とその制限 事例の分析を中心として」『家事事件の現況と課題』西家事事件研究会代表 右近健男・小田八重子・辻朗編, 判例タイムズ社, 東京, 2006
 7) Lawrie Moloney, L., Smyth, B., Weston, R., et. al.: Allegations of family violence and child abuse in family law children' s proceedings, Research Paper No. 15, The Australian Institute of Family Studies, 2007.
 8) ケツン・サンポ, 中沢新一『改稿 虹の階梯——チベット密教の瞑想修行』中公文庫, 東京, 1993
 9) 東浩紀『存在論的, 郵便的』新潮社, 東京, 1998



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