あなたは、夫の暴力・DVを容認していませんか? 暴力のある家庭環境で暮らす子どもの心を守ることを忘れていませんか?

[Ⅵ-C] 臨床現場からのレポート(3) 更生困難な加害者への教育プログラム

カナダとアメリカにおけるD V 被害の実態と「ケアリングダッドプロジェクト」の概要

 
 「ケアリングダッド」を実施する上での原則 D V に曝された子どもたちと母親たちへの援助〜コンカレントプログラムについて〜
DV加害者が良き父になるために~ケアリングダッドプログラムに学ぶ~⑦

 2001年,ケリー氏らが主体となり,DV・虐待の加害者となっている男性へのプログラムを実施しようとした。だが,既存のプログラムでは適切なものが存在しなかったため,独自の新しいプログラムを開発した。そのプログラムが「ケアリングダッド」であり,同年開設されたケリー氏が所長を務める援助機関「チェンジングウェイ」において実施されることになった。
 当プログラムは,多機関から構成される諮問委員会(図②)の連携・協力を得て実施されている。ロンドン市では,諮問委員会にかかわるすべての機関のスタッフがDV・児童虐待についての専門トレーニングを受けており,他機関の連携・情報共有も行われている。
 ベーカー,カニングハム両氏の研究によると,子どもがDVに曝されることで以下のリスクが高まることが実証されている。
(1)DVは“世界が安全で信頼できる場所である” という子どもの認知を破壊してしまう。
(2)DVは母子関係を傷つけることがある。
(3)本来子どもの役割ではない養育者役・秘密を 守る役・夫婦の審判役など,不健全な役割が家庭に出来上がる可能性がある。
(4)子どものサバイバルスキルやコーピングその ものが問題となり,これが子どもたちの自己否定的な信念につながる可能性がある。子どもが DVを正当なものだと思ってしまい,被害を受 けることは不可避なことである,DVはノーマルなものである,などという認知を持つ可能性がある。
 両氏は,DVと児童虐待が重複する可能性の高さも指摘している。
 このような子ども時代の悪しき経験は長期にわたり影響を与え,それらを経験した人たちは高い割合で成人以後,アルコール・薬物問題,抑うつ症状,自殺未遂などで,主要な医療機関からのサービスを受けなくてはならない現実がある。
 以上の研究や調査の結果からも,DVと児童虐待は世界共通で緊急かつ深刻な問題である。

DV に曝される子どものリスク 「ケアリングダッドプロジェクト」 の歴史と背景
 当プログラム実施以前は,DV・虐待が起こっている家庭において介入・援助の対象は母親と子どもであった。避難場所を探すこと・子どもの保護・モニタリングを受けること・母親と子どもの安全計画・母親と子どもの被害体験へのケアなどの責任は母親に課せられていた。
 一方で,加害者である父親は家を退去し,場合によっては処罰を受けるが,以後は何の介入もなされず,孤立したままになるという状態が続いていた。DV・虐待加害者としての父親の,子どもに対しての責任についても明確に言及されないままであった。
 加害者への静的リスクアセスメント(将来的に被害者とかかわりを持つ可能性,別のパートナーと関係を持つ可能性など今後変わりうるものに対するリスクアセスメント)を通じ,加害者への継続的な介入がなされず彼らが孤立した場合,DV・虐待の再発,被害者・子どもへの接近・付きまとい,新たなパートナーへの暴力など非常に危険度が高いという現実があった。
 こうして被害者のみならず加害者をモニタリングし,介入・援助する必要性が認識された。「ケアリングダッド」は被害者の母親に,自身のDV被害経験・虐待された子どもを守ることへの責任を負わせるという既存のプログラムの制度的な矛盾と,加害者である父親を放置しておくリスクに留意し,開発されたものである。
 当プログラムの特徴は,DV・虐待加害者男性に彼らの虐待行為への責任に直面させ,家族および本人の安全計画を作成させるという点である。
 当プログラムは,父親が親業に参加することによる子ども・母親・父親へのメリットという点からも考察されている。DV・虐待の加害者であった父親が加害者としての責任をとるのみならず,良き父親へと変化することもこのプログラムの目的である。
 父親が親業に適切にかかわることは,子どもの健全な認知の発達・学業成就・適切な情緒や社会性の発達の助けとなる。父親が親業に協力することで,夫婦間の対等な関係の構築,女性の雇用機会の拡大,母親の家庭外での活動参加を可能にするなど母親の福祉にもつながる。父親自身にとっても健康と福祉の実現,地域との結びつきの強化,社会的資本の活用などのメリットがある。「ケアリングダッド」は,加害者を良き父親へと変化させることを通じ,家族全体の福祉を実現させることをも目的としている。
 このような点から,当プログラムは国際的にも独創的なプログラムであり,現在,カナダ,アメリカ,スウェーデン,ドイツの多くの地域社会に広がっている。               

 1 7週間にわたる「ケアリングダッド」プログラム
「ケアリングダッド」のプログラムの概要について説明する。
 対象者は,警察・裁判所・児童相談所からリファーされた,DV・虐待加害者の父親である。対象者はリファー先の機関から紹介され,当プログラムに参加することになる。
 プログラムでは,加害者である父親の責任に焦点を当てる。また必要であれば,加害者に依存症専門機関,精神保健サービス等も紹介する。 母親と子どもに対しては,関連の専門機関でトラウマと暴力に対する介入・安全確保に関する援助・住まいの確保など,実質的なニーズに応える援助を提供する。当プログラムと母親・子どもを援助する関連機関は情報をすべて共有し,連携をとりながら,加害者にとっても被害者にとってもより安全な臨床を実践する。
 プログラムの枠組みは,インテーク面接と17週間にわたるプログラムとなる。
 1セッションの長さは2時間となっている。参加人数は8名から12名のグループである。ファシリテーターは2~3名の男女からなる。
 グループに参加する父親は,子どもへの虐待・母親へのDV,もしくはその両者の加害行為を行ったという履歴が確認されていなくてはならない。
 プログラムの出欠は,参加者のリファー元へ報告されることになっている。



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