あなたは、夫の暴力・DVを容認していませんか? 暴力のある家庭環境で暮らす子どもの心を守ることを忘れていませんか?

[Ⅲ-3]Ⅰ.密接な関係。児童虐待とドメスティック・バイオレンス

Ⅰ.密接な関係。児童虐待とドメスティック・バイオレンス

 
 5.DVは、夫婦の関係、親子の関係になにをもたらすか ワークシートへのチェック、書き込みを終えて。DV被害者支援に携わる立場からのコメント
* 現在、この「手引き」は、第3次改訂の編集をおこなっています。編集終了後、差し替えていきます。

第1部
Ⅰ.密接な関係。児童虐待とドメスティック・バイオレンス
-DV事件等のデータ-

5.DVは、夫婦の関係、親子の関係になにをもたらすか
  ・事例15
 ・事例16-17(分析研究1-2)

(1) 暴力のある環境に順応するということ
(2) DVの本質。暴力で支配されるということ
  ・事例18 同棲した男からのDV被害は、つきまとい・ストーカー行為からはじまった
  ・事例19 暴力の連鎖。暴力のある家庭環境で育った夫によるDV、息子をかばう義母の暴言
  ・事例20 たとえ一度の暴力でも、その後、心が凍るほどの恐怖に支配される
  ・事例21 暴力と知りながら、助けてくれない人たち
  ・事例22 離婚の決意。凄惨なDV被害よりも愛人をつくったことに思いが
  ・事例23 夫の暴力から逃げる難しさ
  ・事例24-26(分析研究3-5)
(3) DVとは、どのような暴力をいうのか
  ・離婚調停申立書の「動機欄」とDVの相関性
  ・暴力にかかわる用語の説明
  ・DV行為の具体例
(事例27-53)
(4) DV被害者にとって、区別し難い解釈
(5) DVでない暴力、DVそのものの暴力
・事例54
・“障害の特性”が結果として暴力になる(自己正当化型ADHD、アスペルガー症候群)
  (事例55-59)
・サイコパス
(6) 被害者に見られる傾向
 ・レノア・E・ウォーカーの「暴力のサイクル理論」と「被虐待女性症候群」
  (事例60-61)
・暴力の後遺症としてのPTSD
  (事例62-64)
 ・被虐待体験による後遺症
 ・カサンドラ症候群
  (事例65-67)
  ・事例68(分析研究6)
   (“恋愛幻想”下でのデートDV)
   (別れる決意、恐怖のストーカー体験)
   (再び別れ話を切りだし、酷くなる暴力)
   (DV環境下で育ってきた子どもの状況)
   (快楽刺激とトラウマティック・ボンディング)
   (感覚鈍磨と誤認)
   (退行願望)
   (トラウマティック・ボンディングとできない理由づくり)
   (別れることの障壁)
   (思考混乱、考えるということ)
  ・事例69(分析研究7)
   (「見捨てられ不安」と無視・無反応)
  (暴力の世代間連鎖、低い暴力への障壁)
   (暴力から逃れたあと、「共依存」へのアプローチ)
   (加害者の生い立ちに共感)
   (暴力のある家庭環境で育ったことを起因とする精神的脆弱さ)
  (被害者の空虚感、渇望感を埋める加害者の夢と財)
 ・暴力をエスカレートさせないために..「脅し」を含んだことばには、まず「ノー」という



「家庭での親密な関係における暴力を犯罪と認める」という考え方の背景には、国際連合の「子どもの権利委員会」において、「体罰を撤廃することは、社会のあらゆる形態の暴力を減少させ、かつ防止するための鍵となる戦略である。」と明確に人権解釈が示され、1989年(平成元年)の第44回国連総会において採択され、1990年(平成2年)に発効したことがあります。
日本政府は、発効から4年後の1994年(平成6年)に批准しています。
女性や子どもへの暴力や黒人など人種差別の根絶するとり組みは、「ベトナム戦争(1960年代初頭から1975年4月30日)」をきっかけに、アメリカでは反戦運動、女性の開放運動が盛んとなり、女性解放運動家たちがDVということばを使うようになりました。
当時のアメリカでは、親しい男女間の暴力は個人の問題であり、社会問題、人権問題といった意識はありませんでした。なぜなら、社会的な背景として、「男だから女性への暴力は許される」「女性は男性の暴力に耐えなければならない」、「親の子どもへの暴力は許される」といった暴力を正当化しようとする考え方が、世代間で受け継がれていたからです。
そうした中で、女性解放運動家たちが、緊急一時避難所(シェルター)を被害者に提供したことに端を発して、アメリカでのDV活動がはじまりました。それから20年、1990年代になり、「DVとは、女性の基本的人権を脅かす重大な犯罪である」と認識されるようになりました。
時を同じくして、1986年、合衆国最高裁判所がヴィンソン対メリター・セービングス・バンクの裁判で初めて、「セクハラ(セクシャルハラスメント)行為が人権法に違反する性差別である」と認めました。1989年には、実話をもとに映画化(スタンドアップ(2005年))された北米の炭鉱でセクハラ行為に対する労働者による集団訴訟で勝訴し、「性的迫害から女性を守る規定」を勝ちとり、その後、全米の企業に、「セクハラ防止策の制定」「産休の保障」などが適用されることになりました。
そして、1993年、国連総会で「女性への暴力撤廃宣言」が採択されました。女性に対する暴力には、夫やパートナーからの暴力、性犯罪、売買春、セクシュアル・ハラスメント、ストーカー行為の他、女児への性的虐待も含まれます。1994年には、アメリカ議会で、「女性に対する暴力防止法(Violence Against Women Act)」が成立し、連邦政府レベルのとり組みが位置づけられ、アメリカ社会でのDV対策は急速な変化を遂げることになりました。
「女性への暴力撤廃宣言」が国連で採択された6年後の1999年12月、国連総会は「11月25日」を「女性に対する暴力撤廃国際日」と定めました。これを受けて、日本の内閣府その他男女共同参画推進本部は、「女性に対する暴力は、女性への人権を侵害するものであり決して許されるべき行為ではない」とし、2001年(平成13年)、アメリカの「女性に対する暴力防止法」にあたる「配偶者からの暴力の防止ならびに被害者の保護に関する法律」が施行されることになりました。
同法は、平成16年(2004年)に改正され、被害者の子どもの保護、精神的暴力(ことばの暴力など)が加わり、さらに、平成26年(2014年)、改正新法として「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律(以下、配偶者暴力防止法)」となり、婚姻関係になくとも同じ居住地で生活を営んでいる者(元を含む)に対しての保護が加わりました。
2001年以降、毎年11月12日-25日は、「女性に対する暴力をなくす運動」期間と定め、他団体との連携、協力の下、意識啓発活動にとり組むことになり、現在に至ります。
また、日本では、昭和22年「児童福祉法」の制定に伴い、昭和8年に制定された「(旧)児童虐待防止法」が統合・廃止されていましたが、平成12年(2000年)、家庭での親密な関係における暴力を犯罪と認め、深刻化する児童虐待の予防および対応方策とするために、「児童虐待の防止等に関する法律(以下、児童虐待防止法)」が制定されました。
DVは、直接被害を受けた女性のみならず、それを目撃している子どもたちの心までも破壊する可能性のある犯罪であると認識されるようになってきました。つまり、「暴力のある家庭環境で暮らしている子どもは、恒常的なストレス状態の中で暮らしている」ことになり、平成16年、“DVの目撃”は、面前DVとして「精神的虐待(心理的虐待)」にあたると「改正された児童虐待防止法」で位置づけられることになりました。
家庭や親密な関係での暴力に関する法律が制定されたことにより、これまで法律が入りにくかったプライバシーの問題、「女性や子どもに対する暴力」に対し、人々の関心が向けられるようになり、公の場でこの問題が語られるようになってきました。
国際連合の「女性及び女児に対するあらゆる形態の暴力の撤廃と防止」に対する積極的なとり組みは、パープルリボン(女性に対する暴力の撤廃)、ホワイトリボン(DV防止の願い)、オレンジリボン(未来を切り開く子どもへの希望を込めて)などのキャンペーン運動へとつながり、女性や子どもへの暴力の根絶を願う思いが徐々に社会に広がってきたことがあります。
「パープルリボン」とは、国際的な女性への暴力根絶を訴えるキャンペーンです。1994年、米国のベルリンという小さな町のサバイバー(被虐待者・DV被害者)による集まりからはじまったインターナショナル・パープルリボン・プロジェクト(IPRP)が代表的で、現在40ヶ国以上に知られ、国際的なネットワークに発展しています。
キャンペーンには、紫色のリボンを購入して身に着けたり、車につけたりするなど、誰でも、ひとりでも参加することができます。そして、1999年12月、国連総会は「11月25日」を「女性に対する暴力撤廃国際日」と定めました。女性に対する暴力には、夫やパートナーからの暴力、性犯罪、売買春、セクシュアル・ハラスメント、ストーカー行為の他、女児への性的虐待も含まれます(1993年、国連総会採択「女性への暴力撤廃宣言」) 。
これを受けて、内閣府その他男女共同参画推進本部は、2001年以降、「女性に対する暴力は、女性への人権を侵害するものであり決して許されるべき行為ではない」とし、毎年11月12日-25日は、「女性に対する暴力をなくす運動」期間と定め、他団体との連携、協力の下、意識啓発活動にとり組んでいます。この期間、東京タワーなど各都市のシンボルとなる建造物をパープル色に点灯するなど啓蒙活動として広く利用されています(他に、乳がん撲滅を願いピンク色に点灯するなど、さまざまなキャンペーンで利用されています)。
 一方で、日本は、「性的搾取(性の商業的利用)」について繰り返し国連から改善を求められています。
「人身取引」「密入国」「銃器」の三議定書からなる国境を越えた組織的犯罪に対する「パレルモ条約」が、2000年(平成12年)11月15日、国際連合総会において提起されました。パレルモ条約の「人身取引に関する議定書」には、女性と児童の人身取引を防止・抑制し、罰する規定が明記され、2015年(平成27年)4月現在、147ヶ国が著名し、185ヶ国が締結しています。
しかし、日本は、平成15年5月14日の国会において、「人身取引」「密入国」の2つの議定書について承認した(「銃器」は非承認)ものの、批准していません。
そのパレルモ条約を批准していない日本では、「風俗を利用した」「風俗に行ってきた」ということばを使用し、「女性を買った」「未成年者を買った」と“性を売買”する、つまり、“性”を商品(物)として売買することばを使用しません。このことが、“性を売買”した者の後ろめたさや罪悪感を薄め、そして、“性”を商品(物)として売買すること、つまり、「性的搾取(性の商業的利用)」という問題認識を曖昧にしたり、目を逸らしたりする役割を担っています。
性を売買している、性を商品としている認識のない日本は、平成8年(1996年)にストックホルムで開催された「第1回児童の商業的性的搾取に反対する世界会議」において、日本人によるアジアでの児童買春やヨーロッパ諸国で流通している児童ポルノの8割が日本製と指摘され、厳しい批判にさらされることになりました。
 日本において援助交際(買春)が社会問題化していたことから、平成11年11月1日、「児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律(児童ポルノ禁止法)」が施行しました。平成18年、「単純所持規制」と「創作物規制」の検討を盛り込んだ与党改正案が提出され、平成21年、「児童ポルノの定義の変更」および「取得罪」を盛り込んだ民主党案が提出されましたが、いずれも衆議院解散に伴い廃案となり、5年後の平成26年6月、「単純所持禁止」を盛り込んだ改正案が衆議院で可決成立し、平成27年7月15日から適用されています。
ここに至るまで、「児童ポルノの8割が日本製」と指摘され、厳しい批判にさらされてから、実に19年の月日を要しました。
しかし、日本では、「児童ポルノにしか見えない商品」が普通に陳列され、大量に売られている現状は、日本の児童ポルノに対しての感覚は、グローバルスタンダードとはかけ離れていることを示しています。
例えば、ジュニアアイドルの握手会などが頻繁におこなわれている東京の秋葉原では、毎週のように、小学校低学年の女児の撮影会やサイン会や、女子中学生の水着姿の撮影会がおこなわれています。しかし、一般の人たちの多くは、この様子を大人の性的欲望を満たすために、女児が性的搾取被害にあっていると問題視することはほとんどありません。
ここには、「親自身が子どもを商品として、性的搾取している」、つまり、性的虐待をおこなっているという重大な問題が潜んでいます。にもかかわらず、懸命に大人の要求に応えている女児に対して、「頑張っている」とか、「かわいい」という印象を抱きながら素通りしています。
明らかに“ポルノ”として消費(性的搾取)され、その背景には、性的虐待が絡んでいるにもかかわらず、多くの大人が“アイドル作品”であるかのようにふるまっているのです。日本社会、国民1人ひとりが、「性的搾取(性の商業的利用)」という問題に寛容であることは、「性的虐待」、「性暴力」に対しても寛容にしてしまいます。寛容であることは、真実を見誤るなど、事実認識を歪めてしまうことになります。
「配偶者暴力防止法」が施行されて18年、「児童虐待防止法」が施行されて19年の月日が経過したものの、DVや児童虐待、性暴力に対する正しい理解はいき届いていないのが現実です。
いき届かない理由のひとつは、社会的な背景として、「女性や子どもに対して暴力をふるってなにが悪いんだ!」」と思っている者たちが、いまだに主流であるということがあげられます。
これまで女性や子どもに対して暴力をふるってきた者たち、あるいは、暴力を容認してきた者たちは、女性や子どもへの暴力の根絶を願う思いが徐々に社会に広がり、権利を勝ちとり、ルールや法(規定)がつくられ、倫理観や道徳観といった規範となりつつあることを、疎(うと)ましく、忌々(いまいま)しいと思っている事実があります。
 例えば、米国オレゴン州のビルズボロ警察が、「DV被害を受けている職員のうち74%が、仕事中に加害者からハラスメントを受けている」「DV被害者の28%が仕事を早退したことがある」「DV被害者の56%が仕事に遅刻したことがある」「DV被害者の96%が、その暴力・虐待行為によって仕事に支障をきたした経験がある」と、DV被害が、被害者の仕事の効果性や効率性を損なうなど、職場においてもDVの影響が及んでいる状況をまとめています。
 また、被害者が受ける心身の大きなダメージについては、身体的な暴行による加療を要する傷害(受傷)だけでなく、「配偶者暴力防止法」にもとづく“一時保護”に準じ、「母子寮(母子生活支援施設)などの保護施設(シェルター)に逃れてきた被害者の40-60%にうつ症状、30-80%にパニック症状を伴う急性ストレス障害(ASD*-1)やPTSDの症状(侵入・過覚醒・回避・狭窄、身体化)が認められる」という報告があります。
精神的暴力や望まない性行為の強要(性暴力)などの慢性反復的(常態的)なトラウマ(心的外傷)体験により、被害者の多くが、うつ症状やパニック症状を伴う心的外傷後ストレス障害(以下、PTSD)や解離性障害の発症、他に、頭痛、背部痛などの慢性疼痛、食欲不振や体重減少、機能性消化器疾患、高血圧、免疫状態の低下、自殺傾向、不安障害、解離性障害、身体化障害が認められています。
そして、多くの被害女性は、繰り返された暴力により自尊心が損なわれ、自己肯定感が奪われるなどの被虐待女性症候群(バタードウーマン・シンドローム)が見せる傾向に苦しみます。
被害者が暴力のある環境から逃れ、暴力のある関係を断ち切ったあとも長く後遺症に苦しみ続けることは、仕事を続けられなくなったり、職に就くことができなかったりする問題と直結します。
このことが、被害者が暴力のある関係性を断ち切ったあと、生活の再建をはかっていくうえで大きな支障となり、貧困につながりかねない重要な問題となっています。
日本のパワーハラスメントやセクシャルハラスメントに対するリスクマネジメントなど、コンプライアンス(企業の法令遵守)に対する意識は、欧米諸国に比べて、かなり低くなっています。パワーハラスメントやセクシャルハラスメントが、組織としてのコンプライアンスが問題になるにもかかわらず、そのリスクマネジメントは、あまりにも軽視されています*-2。
それは、職場で、パワーハラスメントやセクシャルハラスメント被害を受けた(元)社員が、その後、自殺したり、PTSDやうつ病を発症して休職や退職に追い込まれたりしたときに、自殺した(元)社員の遺族から「自殺したのは、職場(もしくは学校)が対応を誤り、管理を疎かにしたからである」と労働基準監督署に労災認定の申立て(公務員は公務災害)られたり、(元)社員から「PTSD(もしくはうつ病、パニック障害など)を発症するなど、多大な精神的な苦痛を被った」と地方裁判所に提訴(民事訴訟)したりする可能性を想定していないことに表れています。
  そこには、ハラスメント認識の低さ、耐えられず自殺した者やPTSDやうつ病を発症した者が弱い、敗者という認識、訴える者が異常(おかしい)という考え方が根底にあるわけです。
 また、DV事件では、別れ話を切りだし、もしくは、素振りもなく突然、家をでていった被害者(交際相手や配偶者)に対し、加害者が、復縁を求める話し合いをするために会社の前で待ち伏せする行為を繰り返したり、会社に押しかけてきたりすることがあります。
このとき、社員である被害者と加害者との間で傷害事件に発展することがあります。また、加害者が、「アイツが別れ話を切りだしたのは、他に好きな人ができたからに違いない」と被害妄想を膨らませ、しかも、その相手は上司や同期入社の者と決めつけ、その人物に対し電話やメール、ファックス、時にはチラシを配るなどの誹謗中傷を繰り返したり、脅したりする(つきまとい・ストーカー行為)など、意図せず、上司や同僚が巻き込まれてしまうこともあります*-3。
加害者から「(会社や特定の人物に)迷惑をかけたくなかったら、俺のいうことをきけ!(俺に従え!)」と脅され続けてきた被害者の中には、「会社に迷惑をかけられない」と退社に追い込まれることもあります。
女性や子どもへの暴力に対する理解は徐々に広がってきている一方で、DV被害を受けている社員に対する企業の理解は進んでいないのが現状です。
*-1 SADの症状が1ヶ月以上継続しているときにPTSDと診断されます。PTSDには後発性という特徴もあり、数ヶ月-数年を経て強い症状となって表れることもあります。
*-2 上司からのパワーハラスメントやセクシャルハラスメント被害でうつ症状やパニック症状を伴うPTSDを発症し、出勤できなくなった社員を解雇したり、担任の体罰や同級生からのいじめ被害を受け、登校できなくなった児童やその保護者に対し「自己(自社・学校という組織を含む)保身のために、いじめや体罰の事実を隠蔽する」といった不適切な対応をしたり、または、相談を受けた社員や児童に対し、「法律やその分野にかかわる正確な知識にもとづくものではなく、自身の考え(価値観)の範囲(レベル)」で対応してしまったりすることが少なくありません。
こうした誤った対応をしたことにより、「その行為を組織体制の中で放置したという責任が問われる、つまり、コンプライアンス体制に不備がある(過失がある)」として高額な損害賠償金(慰謝料)の支払いを命じられたり、逸失利益として不適切な解雇であるとして未払分の給与の支払いを命じられたりすることになります。
したがって、暴行(DV)による傷害、つきまといなどのふるまいに対し、「刑法(傷害罪、もしくは暴行罪)」の適用、「ストーカー規制法」の適用、「配偶者暴力防止法(一時保護の決定、保護命令の発令)」の適用など、“事件化”した当事者(被害者と加害者)に対し、企業や学校では適切な対応をしなければならないのです。
つまり、企業や学校での適切な対応には、法の理解や正しい知識が欠かせないわけです。
また、虐待やDV、いじめ、体罰、ハラスメントなどにより「加療を要するPTSDを発症した」ときには、「傷害罪が適用される(最高裁判所判決:平成24年7月24日)」のです。
「傷害罪(刑法204条)」では、「健康状態を損なった」と規定されている通り、外傷に限定したものではなく、PTSD(C-PTSD)やうつ病、パニック傷害の発症、病気の罹患、疲労倦怠などの外傷を伴わないものでも適用されます(傷害について、人の生理的機能を害することを含み、生理的機能とは精神的機能を含む身体の機能的すべてをいう(名古屋地方裁判所判決:平成6年1月18日))。
それは、婚姻関係にある者に対しても変わるものではありません。夫婦間において望まない(同意のない)性行為を強いるときには「強姦罪」、夫婦間の性行為で性病を罹患させられたときにも「傷害罪(HIV感染しているときには「殺人罪」)」が適用される可能性があるということです。
したがって、企業や学校は、外傷を伴わない心の傷、身体に表れる不調に対しても傷害罪が適用されるという理解は不可欠です。パワーハラスメントやセクシャルハラスメントと同様に、DVは、「被害者対応と誤る」と死亡事件に発展する可能性のあるものです。被害者から相談を受けた者が、法律やその分野にかかわる正確な知識にもとづくものではなく、自身の考え(価値観)の範囲(レベル)で対応してしまうことは許されないという意識が必要です。適用になる法、法にもとづく制度や施策に至るまで熟知し、コンプライアンス体制を構築しておくことが急務です。
このコンプライアンス(企業の法令遵守)は、個々人の法やルールといった規制や、道徳や倫理観といった規範に対する意識の集合体であることから、「この程度のことであれば、許されるだろう」と自分勝手な自己規定を持ちだしてしまう心理が大きくかかわってきます。例えば、「夫婦だから、多少のことは許される」、「夫婦の問題だから、第三者が口を挟む問題ではない」という自己規定が、個々人の価値観としてどのように構築されていくのかに目を向けることは重要なことです。
*-3 つきまとい(ストーカー行為)に及んでいる元交際相手(加害者が「交際している」「自分に好意を持っている」と勝手に思い込んでいることを含む)との話合いをするとき、「危害が及ぶのを避けるために、体格や力の差という視点で、女性の上司や同僚、友人ではなく、男性の上司や同僚、友人に同席してもらうことが望ましい」と助言している支援機関やメディア(雑誌などの紙面)もありますが、加害男性と同性の男性が、「つきまといをやめるように」という話合いの席に同席することは、“逆効果になる怖れが高い”という認識に立つことが必要です。
つきまとい行為に及ぶ加害者の特徴は、アタッチメント(愛着形成)の獲得に問題を抱えていることを起因とする“見捨てられ不安”」と「自己と他の境界線があいまい(母子分離ができていない)なまま成長しているために、自分と別れる、自分を受け入れないという行為を認められないという考え方(認知の歪み)」が、主なモチベーション(動機)になっています。
加えて、つきまとい行為に及ぶ加害者の多くは、アタッチメントの獲得に問題を抱えていることを起因する「信頼・信用という概念が存在しない」ことから、「身のうえ話など、重要な話をしている相手は、深い関係(特別な関係)にあるとしか考えられない」と思い込む特性があるため、上記のような新たな加害行為に及ぶモチベーションを与えてしまうことになります。
そして、その受け入れ難い現実で自分が傷つくのを避けるために、「自分たちは好き合っているのに、他の連中が邪魔をしている」と暴力の矛先を被害者の家族、かくまったりしている同僚や友人などに向け、「自分に危害を加える者を排除する」ために凄惨な殺傷事件を招くこともあります。凄惨な殺傷事件については、「Ⅰ-6-(6)デートDVとストーカー殺人事件」で詳しく説明しています。
したがって、元交際相手や元配偶者によるつきまとい行為であったとしても、家族、加害男性と同性である男性の上司や同僚、そして、友人などが間に入った話合いで解決できるとは考えず、DV被害者支援機関や警察による介入が必要です。また、つきまとい・ストーカー行為については、リベンジポルノという問題も含みますが、「Ⅰ-6-(2)デートDV。人生に大きな影響を及ぼすリベンジポルノとレイプ」で詳細に説明しています。
 なお、つきまとい・ストーカー行為については、「Ⅰ-6-(4)ストーカー行為。復縁を求めるものか、一方的な思慕か」、「Ⅰ-6-(5)「SRP」のストーカー類型、ストーキングの背景と特徴、介入」、加えて、「Ⅳ-27-(3)妻が家をでたあと、DV加害者が送るメールなどに認められる特徴」、「Ⅳ-27-(7)被害者宛のメールの文面からストーカーリスクを把握する」で詳しく説明しています。
また、被害者自身が無自覚であっても、交際のきっかけとなった出会いそのものがつきまとい行為によるケースも少なくないことから、「Ⅰ-6-(3)デートDVから結婚に至る経緯」でとり扱っている事例で詳しく説明しています。



-DV事件等のデータ-
① 全国247ヶ所(うち74ヶ所は市町村が設置)の「配偶者暴力相談支援センター」における平成26年度の相談件数は102,963件で、女性からの相談が101,339件で全体の98.4%を占めており、男性からの相談は1,624件で全体の1.6%となっています。
ただし、「男性には女性以上に、相談しにくい心理が働いている」と指摘されていることから、この男女比は上記の通り、そのままDVの実態を指しているものではないとの認識は必要で、「配偶者暴力防止法」の規定では、25-35%は男性が被害者と考えていいと思います。
加害者との関係では、配偶者(事実婚を含む)が87,304件で全体の84.8%、離婚後が12,694件で12.3%、生活の本拠を共にする交際相手(元交際相手を含む)が2,965件で2.9%となっています。

② 平成24年8-10月の間にA県の警察安全相談1,141件(DV660件(53.18%)、デートDV248件(21.74%)、ストーカー233件(20.42%))によると、DV660件の関係性は、配偶者・元配偶者533件(80.76%)、内縁・元内縁98件(14.85%)であり、男性加害者と女性被害者の組合せが616件(93.33%)、女性加害者と男性被害者の組合せは44件(6.67%)となっています。
デートDV248件の関係性は、交際・元交際相手248(100%)であり、男性加害者と女性被害者の組合せが207件(83.47%)、女性加害者と男性被害者の組合せは44件(16.53%)となっています。
ストーカー233件の関係性は、面識なし9件(3.86%)、交際がない知人(27.90%)、交際・元交際相手119件(51.07%)、内縁・元内縁15件(6.44%)、配偶者・元配偶者25件(10.73%))となっています。
ストーカーということばから多くの人がイメージする「面識のない人物によるつきまとい(誰につきまとわれているかわからず、不気味で、底知れない恐怖を感じる)」は4-5%に満たないことになり、ほとんどが面識のある人物によっています。
男性加害者と女性被害者の組合せが190件(81.55%)、女性加害者と男性被害者の組合せは43件(18.45%)となっています。

③ 平成26年、都道府県警察において、配偶者からの身体に対する暴力または生命等に対する脅迫を受けた被害者の相談等の受理件数は59,072件、生活の本拠をともにする交際(婚姻関係における共同生活に類する共同生活を営んでいないものを除く)をする関係にある相手方からの暴力事案は7,402件となっています。

④ 平成25年度、婦人相談所(女性センター)における「配偶者暴力防止法」にもとづく被害者及びその同伴家族の一時保護件数は11,623件で、夫等の暴力を理由とする者が4,366件で全体の37.6%、夫等の暴力を理由とする者以外が1,759件で15.1%、同伴する家族が5,498件で全体の47.3%となっています。
平成26年、地方裁判所に申立てられた保護命令の既済件数は3,125件で、認容(保護命令発令)件数は2,258件で、発令率は72.26%となっています。

⑤ 平成26年、「ストーカー行為等の規制等に関する法律」第8条の規定にもとづき、配偶者暴力相談支援センターが実施したストーカー行為等に関する相談件数は1,587件のうち女性からの相談が1,524件(96.03%)、男性からの相談は63件(3.97%)です。

⑥ 平成25年、配偶者間の殺人検挙件数153件のうち、夫が妻を殺害したのが106件(69.28%)、妻が夫を殺害したのが49件(32.03%)となっています。
DVをテーマとした講演などでは、この数字にもとづいて、「3日に1人、妻は夫に殺害されている」、「年間120人の妻が、夫によって殺されている」と表現することがあります。
一方で、「6日に1人、夫は妻に殺害されている」事実には触れられることは少なく、少しフェアでないと感じますが、平成26年、同傷害2,697件のうち2,550件(94.55%)、同暴行2,953件のうち2,775件(93.97%)が、夫が加害者、妻が被害者となっています。
圧倒的な差となっている傷害・暴行事件数に比べ、妻が夫を殺害した件数及びに殺害率が高いのは、男性に比べ一般的に“力が劣る”女性が殺害に及ぶときには、刃物など武器を使用するからです。

⑦ 配偶間の暴力において、「夫が加害者で、妻が被害者」となる比率は、“相談レベル”では98.4%対1.6%(平成26年度)と圧倒的に女性が被害者になっています。
しかし、平成19年の横浜市がおこなった調査では、交際経験がある人の中で「デートDVの被害にあった」と回答したのは、女性371人中144人(38.81%)で、男性は204人中56人(27.45%)、同年神戸市がおこなった調査では、「デートDVを受けたことがある」と回答した女子が38%、男子が29%で、横浜市と神戸市でおこなわれた調査ではほぼ同じ結果がでている一方で、平成26年、交際相手からの暴力被害の相談件数3,300件のうち、女性からの相談が3,233件(97.97%)、男性からの相談は67件(2.03%)と、婚姻関係における相談比率と変わらない結果になっています。
以上のことから、配偶者間の暴力のうち25-35%は、「妻が加害者で、夫が被害者」というのが実情だと思われます。
そして、「本来対等な関係に、上下の関係性、支配と従属の関係性を成り立たせるために、パワー(力)を行使すること」という暴力の構造(DVの本質)としては、男女の違いはないものの、女性から男性への暴力の背景には「大切にされない」「報われない」思い、「見捨てられ不安」を起因とする“試し”の要素が、男性よりも強く表れる傾向があります。

⑧ 内閣府と警察の調査では、男性から身体的な暴行を受けたことのある女性の割合は約4人に1人、継続的で執拗な暴行を受けたことのある女性の割合は約10人に1人、殺されそうな暴行を受けたことのある女性の割合は約20人に1人となっています。
つまり、15歳以上の女性を約5,300万人と考えると、一生涯(これまで)のうちに、男性から身体的な暴行を受けたことのある女性は1,325万人となり、継続的で執拗な暴行を受けたことのある女性は530万人となります。そして、殺されそうな暴行を受けたことのある女性は265万人となり、この数は、政令指定都市の名古屋市の人口228万人よりも多いことになります。
 しかし、DV事件としての検挙件数は年間2,000件に留まっています。
年間検挙数×60年(15歳-75歳)で計算すると120万件となりますが、先の継続的で執拗な暴行を受けたことがあると自覚している女性530万人の22.64%にすぎないことになります。
このことは、暴行・傷害罪や殺人未遂で立件されるべき事件であっても、継続的で執拗な暴行を受けていると自覚できているDV被害者であっても、警察に被害届をだして告訴をしていないことを意味します(捜査を進めるには被害届をだすだけではなく、警察で告訴することが必要と認識しておく必要があります。
本来、暴行・傷害罪や殺人未遂で立件されるべき加害者が野放しにされ、再び、同じ暴行を重ねられていることが少なくないということです。殺されそうな暴行を受けても、夫を傷害事件の加害者として立件しなかったり、かかわりを断ち切ったり(離婚)できないのが、DV事件の難しさということになります。
 なお、厚労省の人口動態統計によると、他殺による死亡者数は減少傾向にあり、357人(平成26年)で、おおむね1日に1人が誰かに殺されていることになります。「犯罪被害者白書 平成27年版」では、平成25年の「殺人(嬰児殺、自殺関与などを除く)」の検挙数のうち、被害者が「配偶者」であるケースは146件です。
また、被害者が「実父母(子どもが加害者)」のケースは134件で、被害者が「実子(親が加害者)」82件、「兄弟姉妹」は35件です。殺人検挙数全体の中で、家族・親族(養父母や継子などを含む)が加害者であるケースは53.5%で、半数以上が近親者です。
近年減少傾向にある自殺者数は、平成24年で2万7858人、交通事故の死者数の約6倍、他殺の70倍以上です。

⑨ DV被害のリスクを有する妊産婦は、全体の14%以上存在するとされ、特に、10歳代の妊産婦のDV被害が際立って高くなっています。
10歳代の妊産婦のDV被害には、交際相手によるデートDVを受け、妊娠したことにより結婚に至っていることが少なくなく、「望まない妊娠をした」といった思いや暴力のある環境で妊娠をしたストレスが、「産後うつ」を発症する引き金になり、乳幼児に対する虐待につながることもあります。
また、妊娠中のDV被害は、母体の被害だけでなく、早産や胎児仮死、児の出産時低体重をひきおこし、セロトニン・ドーパミンなどの神経伝達物質の分泌に影響を及ぼすなど初期の脳形成に重大な影響を及ぼします。
暴力は、身体的なダメージを与えるだけではなく、他者や自分自身に対する信頼感を粉々に打ち砕いてしまうほど心に深い傷を残します。とりわけ、児童虐待やDVなど、家庭という密室での暴力は、親密な関係性の中でおきるがゆえに複雑で深刻なダメージを女性や子どもたちに与えるものです。
「妊娠期を含め、被害親子の精神健康は相互に影響している」という視点に立ち、両者のケアがリンクすることが重要なテーマであり、被害親子のケアにあたっては、安全な居場所の確保が最優先事項です。



2016.3/4 ブログ再編成(第3次改訂)に伴い、主記事として掲載
2017.4/16 「第1章(プロローグ(1-4)・Ⅰ(5-7)」の「改訂2版」を差し替え掲載




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