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[Ⅶ-20]<ことば>プレス。道徳・教養、思考。心の肥やしを「知識のひきだし」に

<ニューズウィーク日本版>有名大学教授でありながら警察官になったリベラル女性が描く「警察の素顔」

 
 <AFP=時事>欧州の若い女性 約8割が「自衛のため行動制限」 EU報告書 <朝日新聞デジタル>深夜避難に感染対策、課題浮き彫りに 福島沖地震1週間
2/20(土) 14:12配信

<米警察で問題なのは人種差別だけではなく、現場のささいな状況や容疑者の言動に対して過剰反応するようになるトレーニングも問題>
2020年は、Black Lives Matter(ブラック・ライブズ・マター)運動への賛同が全米に広まるのと同時に、警察や警察官への批判が高まった。「defund the Police」というリベラル左派のスローガンは、警察への予算をカットしてそれをコミュニティー支援やソーシャルサービスに回すことを求めるものだった。
しかし、保守や中道のみならず、民主党を支持する投票者もこの発想に賛成する者はあまりいなかった。選挙中、民主党指名候補だったジョー・バイデンは「私は警察の予算カットには賛成しない」と自分の立場を表明したが、トランプ元大統領が「law and order(法と治安)」というスローガンで(黒人を殺害した警察官を含む)警察を全面的に支持したために「警察」はアメリカ人にとって政治的立場を試す「踏み絵」のような存在になってしまった。
筆者が住むボストン近郊のミドルセックス郡はリベラル色が強く、大統領選でバイデンに票を投じた者が71.83%、トランプのほうは26.41%だった。そのような地域なので、わが家からスーパーマーケットに行く途中には、BLMのヤードサインを前庭に掲げている家がかなりある。選挙中、そのなかで一軒だけ巨大な星条旗と「TRUMP2020」のサインを家の壁に貼り付けている家があり、すこぶる目立っていた。よく見ると、Blue Lives Matter(ブルー・ライブズ・マター〔警察官の命も大事〕)のヤードサインがあった。この家の人は、たぶん警察官なのだろうと思った。
隣人同士がヤードサインで睨み合っている風景は気持ちを重くする。というのは、このあたりは、つい最近まで保守の警察官とリベラルの住民が仲良く協働するコミュニティーだったからだ。私が以前、所属していた町の草の根団体のメンバーには、1971年に町でベトナム戦争反対デモを行ったジョン・ケリー(元国務長官で現在気候変動担当大統領特使)を当時警察署長だった父親が逮捕したことを誇りにしている警察署長と、社会活動家だった超リベラルの教育委員が混じっていた。
多様なメンバーのグループだったが、いつも和気あいあいで冗談を交わしながらミーティングをした。町に何かが起こったら一緒に解決し、マーティン・ルーサー・キング・ジュニア牧師の記念日には、一緒にイベントをして町の中心街を行進したものだ。
住民同士のたわいない揉め事が刑事事件にエスカレートしそうになったとき、この草の根団体のメンバーを招集して「逮捕ではなく、話し合いで解決」の指揮をしたのも、この警察署長だった。彼にとって、警察官が悪者のように扱われる今の時代はとても辛いことだろう。

<警察問題の「複雑な現実」>
アメリカの警察に問題があるのは事実だ。しかし、それは多くの人が想像するよりずっと複雑なものであり、解決策も簡単なものではない。
そう考えていたときに、『Tangled Up Blue: Policing the American City』が出版された。これは、私が待ち望んでいた「複雑な現実」を見せてくれる本だった。
作者のローザ・ブルックスは、ハーバード大学卒業、オックスフォード大学留学、イェール大学法学大学院で法学博士号取得という学歴を持ち、終身在職権があるジョージタウン大学法学部教授である。外交と軍事の専門家であり、国務省や国防総省でアドバイザーを務めたこともある。
これほど高学歴でキャリアもある女性が、子育て中の40代に首都ワシントンで警察官になったというのだ。暴露本を書くために潜入したのではない。ボランティアの立場でパートタイムの予備警察官になる手段があると知ってから、ずっと警察官になる可能性を考えていたらしい。

<貧困と犯罪が蔓延る首都ワシントン>
ボランティアとはいえ、通常の警官と同じように拳銃を携帯するし、逮捕することもできる。採用されるためには、ポリスアカデミーでトレーニングをしなければならない。
拳銃でターゲットを撃ち抜くテストにもなんとかパスして卒業したブルックスがパトロール警官として配置されたのは、首都ワシントンの7-D地区だった。そこは、黒人の人口が最も集中している場所であり、貧困と犯罪件数が多いことでも知られている区域だ。
トレーニング中にブルックスが何度も教え込まれたのは、(日本の110番に匹敵する)911の緊急電話で現場の状況を正しく予測することは不可能だということだ。たいしたことがないと思って行ったら罠だったこともある。
ゆえに、警察官は緊急電話の内容がどのようであれ、最悪の場合を想定して心身ともに身構えていなければならない。彼らは、すべての呼び出しが潜在的に危険であり、「君たちには、生きて家に戻る権利がある」と自分の安全と生命を優先するよう教え込まれる。
ブルックスのポリスアカデミーでの体験と新米パトロール警官として扱ったケースの話は、短編集のようで純粋に読むのが面白い。セクシャルハラスメントむき出しの問題教官はいるし、それをかばおうとする者もいる。でも、それに批判的な者も存在する。それは、他の場所でも同じだろう。

<リベラル急進派の母親>
これまで何をやっても優等生だったブルックスが、警官としてはかなり不器用で、「最良のときでも『まあまあ』のレベル」と自覚しているところは愉快だった。ほかの警官には見えている重要なことが彼女にはまったく見えておらず、不要なことにばかり気づくのだ。だから誰がパートナーになるかは重要だ。
あるとき、持ち主が不在の家で防犯ホームセキュリティアラームが鳴って駆けつけたら玄関の扉が開いていて、中の暗闇に人影があった。別の日にブルックスが同行したような過剰反応するパートナーだったら、まず銃を撃ってから状況を考え始めたかもしれない。幸いなことに、この日の彼女のパートナーは冷静沈着に行動できるタイプだった。そこで、結果的に笑い話で終わった。この体験は彼女に大きな学びを与えた。
この本からは、ブルックスが警官としての仕事を楽しんでいることが伝わってくる。むしろ彼女が苦労したのは、警察に批判的なリベラルの友人と家族への説明だ。特に、ブルックスの母親の警察への嫌悪感は強烈で、警察はすべて敵というスタンスだ。なにせ、ブルックスの母親はかのバーバラ・エーレンライクなのだ。
バーバラ・エーレンライクは、80年代から90年代にかけてアメリカ民主社会主義の中心的存在だった。ウエイトレスやホテルの掃除婦、ウォルマートの店員など低賃金の職を3カ月自ら体験して書いた『ニッケル・アンド・ダイムド - アメリカ下流社会の現実』は世界的に有名になり、現在でも政治的にリベラル左派の急進派である「プログレッシブ」の活動家としてツイッターのフォロワーが7万4000人もいる有名人だ。
アメリカのNetflixで近藤麻理恵さんブームが起こった2019年に「我々のお片付けのグルであるマリエ・コンドーが英語を話せるようになって初めて私はアメリカが衰退の道をたどっていないと認める」という嫌味なツイートをして炎上したこともある。母としてのエーレンライクの極端な決めつけ発言の数々を読むと、ブルックスが警察官になりたくなった気持ちが少しわかるような気がする。

<問題視される「過剰な取締り」>
ブルックスの体験談の素晴らしさは、エーレンライクのような読者にも「警察官も私たちと同じ人間なのだ」と気づかせてくれる人情味があることだ。どこにも、悪い人はいるし、良い人もいる。警察はマッチョな環境だし、7-D地区の住民を「アニマルズ」と呼ぶ差別者がいるのは事実だ。それらの警官は、人種差別者であり、「貧困」差別者でもある。このどちらもが混じっている。
自分の仕事は「人助け」だと信じて真面目に働いている警察官にとって、そういった差別的な警察官は迷惑な存在だ。彼らを肯定する気持ちがなくても、エーレンライクのような左派リベラルから「警察」をひとまとめにして悪者扱いされると、そちらへの憎しみのほうが強くなる。それは人間として当然の感情だろう。警察と市民との関係が悪化している原因として、この人間的な感情は無視できない。
ブルックスが指摘するもうひとつ重要な点は、over-policingと呼ばれて左派のリベラルからよく批判される「過剰な取締り」の実際だ。
ブルックスが配置された7-Dは、911コールで警察官が現場に呼び出されることが多い。警察官の数を減らすことができないのは、住民から呼ばれる件数が多いからだ。つまり「需要と供給」だ。黒人人口が多いために、容疑者だけでなく、911コールで警察官を呼ぶ被害者や目撃者もほとんどが黒人だ。貧困のために食べることに困って犯罪を犯すものが多い。911コールで警官を呼んだ店員も、かけつけた警官たちも、日常品と食べ物を万引した女性を逮捕するほどのことではないと思っている。だが、警官には逮捕するしないを決める権利はない。いったん呼びつけられたら、法に抵触するケースは逮捕するしかないのだ。
姉に頬をビンタされた妹が警察を呼び、法で定められた「ドメスティック・バイオレンス」の定義にあてはまってしまったために、ただのきょうだい喧嘩なのに看護師の姉を逮捕しなければならなかったケースもある。

<予算カットは解決策にならない>
警察に人種差別があり、人種差別する警官がいることはブルックスも認める。だが、それが「警察」全体ではないし、過剰な取締りと逮捕についても複雑な現実がある。警察官が過剰な取締りをしたくてしているのではなく、呼ばれる件数が多いから結果的に逮捕件数も多くなるというのも事実なのだ。
「警察への予算をカットしてそれをコミュニティー支援やソーシャルサービスに回す」という提案は、一見もっともだが、実際には解決策にならない。なぜなら、呼ばれた現場に行かなければ何が必要とされているのか不明だし、危険な状況の場合には訓練を受けていないソーシャルサービスの専門家が対応することはできない。
警官による黒人男性の殺人が多いケースでブルックスが指摘しているのは、トレーニングのときに「君たちは、生きて家に戻る権利がある」と自分の命を優先するよう教え込まれることの悪影響だ。ブルックスは統計から警察官が実際にはさほど危険な職業ではないことを指摘する。
それなのにトレーニングのときに「現場に行ったらいきなり殺される可能性がある」という危険性をあまりにも植え込まれているので、現場で遭遇した者や容疑者のちょっとした行動に過剰反応して銃で撃ってしまうような事件が起きるのだ。だから、「取り調べされる者には生きて家に戻る権利がある」と、市民の命を優先する重要性を教える必要がある。
ブルックスは、ジョージタウン大学の教授としての能力を発揮してコロンビア特別区首都警察と協働して警官のトレーニングを変えるプログラムを作った。
世界はとても複雑だ。シンプルな意見に偏ったほうがスッキリできるかもしれない。けれども、できれば以前のブログ【白人が作った「自由と平等の国」で黒人として生きるということ】でご紹介したタネヒシ・コーツの『Between the World and Me』や、【トランプ支持の強力なパワーの源は、白人を頂点とする米社会の「カースト制度」】でご紹介したイザベル・ウィルカーソンの『Caste: The Origins of Our Discontents』(カースト:アメリカの不満の源)などの本とあわせて、こうして現場の複雑さをそのまま伝える本も読んでほしい。

渡辺由佳里(在米エッセイスト)

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