あなたは、夫の暴力・DVを容認していませんか? 暴力のある家庭環境で暮らす子どもの心を守ることを忘れていませんか?

[Ⅵ-A] 臨床現場からのレポート(1) DV・児童虐待。暴力と精神疾患

DV~暴力の悪循環を断つ、そして回復・癒しへの道  中央大学・横湯園子教授

 
 H20年度 DV防止講演会 「家族関係の中で起こるDV・虐待を考える ~被害者・加害者を生まないために~」(竹下小夜子) 第9章 児童相談所の決定に対する不服申し立てについて
 7月23日に開かれた中央大学文学部と読売新聞立川支局共催のリレー講座「恋愛、家族、そして未来」第4回。今回は、教育学科心理学コースの横湯園子教授が「DV~暴力の悪循環を断つ、そして回復・癒しへの道」と題し、配偶者による暴力の構図を明らかにし、根絶の必要を説いた。人の尊厳と命にかかわる問題を見据えた講義の要旨を紹介する。

 ■知られて10年
 DV(ドメスティック・バイオレンス)という言葉が知られるようになって、まだ10年そこそこ。以前は、バタードウーマン(被虐待女性)という言葉が使われていましたが、暴力を振るわれているのは、女性だけではない。内閣府の調べでは、配偶者暴力相談支援センターへの相談件数は2004年度、女性4万9107人、男性222人です。
 「問題は意識され、命名されるようになって存在するようになる」とは、精神科医の斎藤学先生が児童虐待について語った言葉です。かつては、児童虐待とはどういうことか、なかなか理解してもらえなかった。DVもそう。警察へ訴え出ても「夫婦関係」と、相手にされない時代が長く続きました。現在も、暴力を振るわれるほうの問題ばかりが注視されることがあるように思います。
 例えば、暴力を振るわれている方に暴力被害症状が出ているのを、「精神疾患」だと見られてしまうことがある。すると、離婚話が出た場合、子供の親権が暴力を振るった側に行くことも。一見、正常に社会生活をしている人が親権者になっただけのようだし、私たちも法の前では、心を痛めるだけで何もできない。当事者は、まだ大変な状態です。
 そういう中で今、私が一番考えているのは、暴力の悪循環を断ちたいということ。配偶者間だけでなく、この社会にある暴力を根絶したいと願っています。

 ■暴力のメカニズム
 「被害者はなぜ逃げないのか」と、よく質問されます。檻(おり)があるわけではないのに逃げない。そこに、問題の核心がある。奴隷キャンプや強制収容所での行為と、DVは驚くほど似ている。虐待や学校でのいじめ・いじめられの関係の中で自殺していく子供とつき合っていても同じことを感じます。同じ暴力のメカニズムが働いている。
 被害者を心理的に支配するために、加害者が、まず試みるのは、〈無力化〉と〈断片化〉です。
 心的外傷、いわゆるトラウマを反復して加えると、被害者は、主体的な力を失って逃げられなくなる。これが〈無力化〉です。すると、「殴るぞ」など、言葉だけで支配できるようになる。「逃げれば肉親や友人に仕返しをする」と脅せば、被害者は「私一人が犠牲になれば」と動けなくなってしまいます。
 〈断片化〉は対人関係から切り離され、孤立無援の状態になること。恋人関係のある段階、または、新婚時点から始まります。
 例えば、「僕を愛しているなら、過去を消して、僕だけを見て欲しい」と言う。そして、アルバムも、アドレス帳も、同窓会名簿も処分させられ、所持金もすべて彼名義にさせられる。以後は、毎日必要なお金だけ与えられ、実家に電話するテレホンカードも買えない。手紙も出せない。
 逃げないのではなく、逃げられなくさせられ、心理的支配は完成していきます。

 ■サイクル理論
 なぜ逃げないかで、もう一つ。暴力にはサイクルがあります。レノア・E・ウォーカーの「暴力のサイクル理論」によると、第一相から三相に分類されます。
 第一相では緊張が高まり、ささいな暴力事件が起きますが、被害者は「仕事で何かあったのかも」「飲み過ぎかも」「野菜をゆですぎたかも」などといった事柄のせいにしようとする。怒りを感じずに済むからです。
 第二相では、加害者は抑制が利かなくなり、徹底的な暴力が。でも、第三相では「二度としない」と悔い、優しさを見せる。すると被害者は「本当はいい人」と思いこもうとする。特に、第二相の後、被害者は、心理的な虚脱状態が続いており、時には抑鬱(よくうつ)状態になっているので、天にも昇るような感謝をしてすがってしまう。でも、そのうち第一相に切り替わる……。それが繰り返されるうち、被害者は無力状態になっていきます。

 ■“共依存”に陥る
 具体的事例の話をします。プライバシーの観点から背景を加工し、文献の内容も混ぜていますから、特定の誰かのことではありませんが、心の有り様やプロセスには手を加えていません。
 第一の事例は、Aさんという女性。20年近くのおつきあいで、最初は不登校の娘さん、B子ちゃんのことでお話ししていました。
 ある時、ふと「Aさんは、配偶者から暴力を受けているのでは」と思い、DVを話題にし、〈共依存〉について説明しました。暴力を振るう人は加害者だが、被害者もその人を支えることに意義を見いだす関係です。彼女は、自分の状況を思い返し、「私はDVだったんですね」と言いました。
 カウンセリングを重ねる中、彼女は夫と話し合い、「引きずられたり、けられたり、痛くて仕方がなかった」と告げますが、「お前が痛いとは知らなかった」と言われたそうです。この人に限らず、加害者は、一心同体という言葉をはき違えて「自分が痛くないから、相手も痛くない」、あるいは、“所有物である配偶者”に、何をしてもどうということはないと思っている。そんな中、Aさんは離婚の決意を伝えますが、夫は病気で入院。離婚をやめます。
 そのうち、Aさんから電話がありました。夫が仕事場でけがをして右手を切断。「神様は知ってらした。殴る手を切り取ってくれたんですね」と彼女は言いましたが、今は口での暴力が中心になっているようです。

 ■自由への入り口
 次は、目撃者である子供の事例です。親が被害を受けるのを目撃しながら育つのは、心理的に虐待、暴力を受けているのと同じです。
 Aさんの娘のB子ちゃんがそうでした。彼女は小学校低学年で一度いじめを受け、中学でも言葉の暴力を浴び登校拒否になる。自由な雰囲気の私立高へ進学しましたが、なかなか行けない。「自由への入り口がわからない」と言うのです。
 やがて彼女は父親による母親への暴力について語りました。父親への恐怖から、学校でも、特に男子に対して、おどおどしてすくむ。対人的不安を抱えていると、いじめの餌食になりやすいのです。B子ちゃんは、「元気な時は大丈夫。でも、ちょっと何かあると『どうせ私はダメ』と動けなくなる」と言っていました。
 そんな彼女が、「入り口がわかりました」と言ってきた。授業中、ある生徒が「先生、休憩していいですか?」と言って教室を出ると、伸びをして戻ってきたそうです。ほかの生徒は全然気にしない。先生を見るとニコッと笑った。その時、「ああ、自由は一人ひとりの心の中にある。私は私でいい。そう思ったら楽になれた」と。
 もう大丈夫だと感じました。お母さんとのおつきあいは20年近くですが、B子ちゃんは「私には私の自由がある」というところへ行き着けて良かったな、と思っています。

 ■ジェンダーフリー
 「暴力の悪循環はどうしたら断ちきれるか」ということですが、私の中でも回答はありません。でも、人類が群れをなし、家庭を作りだしてから続いてきた配偶者や子供への暴力に、ようやく光が当てられ、なくそうという動きがある。
 ひとつ、感じてきたことは、どうも「男は強くあらねば」とか、「女は優しく控えめでなければ」という考えが固まってしまっている。男女とも自由と言いながらも、性別のステレオタイプが、やはりある。男性にはプレッシャーですし、女性も逃げられなくなる。男女とも、人間対人間としての対等なあり方を探り合うべきだと、思います。
 あるお母さんは、息子を虐待する夫に離婚話を切り出し、今度は自分が暴力の対象になりました。子供の前で性行為を強いられた。レイプです。勇気をもって離婚にこぎつけましたが、その後、息子さんの暴力で大変苦しみました。お母さんは疲れ切って「私が悪いんですね。私があの人と結婚したから」と言いましたが、私は「悪いとは思わない。勇気を持って離婚されたステキな方だと思っています」と言い続けました。
 やはり、だれかが、「子供を、暴力で人を支配する以外に感情表現できない人間にしたくない」という形で関係を築くことが大事。暴力的関係を断ちたいと願う当事者たちに、もっと関心を持ち、お手伝いする必要がある。私たち臨床家だけでなく、法整備と同時に、行政もシェルターを作るなど援助を始めています。民間のシェルターや、いろんな善意の方も存在します。やっと逃げようと思った女性を救うためには、働ける環境について、社会がさらに援助する必要もあります。
 最後に、加害者についても何らかの治療が必要だと考えています。加害者はかつての被害者かもしれません。DVの問題は「加害者が悪い」と言うだけでは解決しないと思っています。

(2005年7月23日 読売新聞)



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