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[Ⅵ-G] DV・児童虐待行政対応マニュアル

第9章 児童相談所の決定に対する不服申し立てについて

 
 DV~暴力の悪循環を断つ、そして回復・癒しへの道  中央大学・横湯園子教授 第5章 判定・処遇決定
1.行政不服審査とは何か
 児童福祉法上、児童相談所の決定としては、一時保護決定と入所措置決定などがある。これらは行政処分として裁判所への行政訴訟の対象となるほか、行政内部の不服申立てとしての行政不服審査の対象となる。
 行政不服審査については行政不服審査法に手続等が定められているが、もともと行政処分をした官庁に対して不服申立てをする「異議申立て」と、その上級官庁に対して不服申立てをする「審査請求」とがある。
 一時保護決定等の行政処分について、保護者等は、行政不服審査法(昭和37年法律第160号)第5条(児童相談所長が行政処分を行った場合の都道府県に対する審査請求)又は第6条(都道府県が行政処分を行った場合の都道府県に対する異議申立て)に基づき不服申立てを行うことができる。
 行政処分をした時は、処分の相手方に不服申立先や不服申立期間を教示することが義務付けられている。
 異議申立期間は、一時保護がされたことを知ったときから60日以内である。
 一時保護は、保護者の同意の有無に関わらず、児童相談所長又は都道府県知事の判断により処分がなされる行為であり、当初の同意、その後の不同意により行政処分そのものの変更が要請されるものではないため、一時保護がされたことを知ったときから60日以内が申立期間である。
 異議申立権者は、一時保護した当時の保護者であり、親権者に限られず、親権者ではないが監護している親等も含む。
 入所措置決定に対する異議申立ても可能であるが、実例はあまり多くない。児童福祉法第27条の場合であれば、親権者は反対の意思を児童相談所に表明することによって引取りが可能となるので、親権者としては、反対意思を表明したにもかかわらず、引取りを拒絶された場合に、「引取拒否」という行政の事実上の行為に対して(すなわち当初の入所措置決定に対してでなく)異議申立てをすればよい。法第28条の場合であれば、まず家庭裁判所の承認に対して、高等裁判所に抗告するのが通例である(2週間以内)が、施設入所措置そのものは知事(児童相談所長)による行政処分であるから、入所措置決定に対する異議申立てを行うことも可能である(60日以内)。


2.行政不服申立てにどう対応するか
 一時保護の正当性(必要性)の有無が判断される。判断の資料としては、一時保護実施当時の資料だけでなく、その後一時保護継続中に得た資料、例えば一時保護所での子どもについての検査結果や言動等に関する観察記録、あるいはこれと平行して児童相談所の児童福祉司が収集した家族に関する情報などが、資料として用いられる。
 審理に当たるのは知事部局の担当職員である。審理方法は、行政不服審査法に規定があり、原則として書面審査であるが、申立人の要求や審理担当者の職権によって、申立人や証人的立場の者の陳述を聴くこともある。
 児童相談所の職員としては、いずれにせよ資料を整え、一時保護の正当性(必要性)について明快かつ緻密な説明ができるよう準備しておくことが重要である。



第10章 関係機関との連携の実際

1.児童相談所
(1) 児童福祉施設・里親との連携
(1)はじめに
 児童相談所と児童福祉施設は従前から密接な関係があったが、児童福祉法改正に伴って児童の自立支援が大きな柱となり、また被虐待児の施設入所措置数の増加等に伴い、今まで以上に密接な連携が必要となっている。
 児童相談所は子どもを施設入所させた後も、施設から報告を聴取したり、定期的に訪問して子どもと面接する、施設と合同で事例検討会を開催するなど、施設と協働して子どもの自立を支援していく必要がある。
(2)措置時の情報提供
 連携の基礎は情報の共有であり、有効な援助を行うためには、適切な情報の提供は不可欠である。今までも措置時に児童相談所から施設へ送られる児童記録票には、様々な情報が記載されている。
 しかし、虐待事例については、これら以外に次のような情報が必要となる。
ア.虐待の事実関係とその時間的経過
イ.虐待をする保護者の性格や児童相談所に対して示した態度
ウ.保護者への対応上の留意点
エ.虐待をする保護者以外の家族メンバーの性格と施設入所する子どもとの関係
オ.虐待が家庭内で起こり、継続したメカニズム
カ.子どもの性格や行動パターンと、一時保護中の他児や職員への態度
キ.子どもに対して特に必要な援助や対応上の留意点
ク.学校での子どもの様子、担任等の評価
ケ.今後、子どもが示すと予想される行動や症状
コ.子どもや家族の特徴を端的に表しているエピソード(出来事)
サ.家庭復帰の見通しと子どもへの説明内容
シ.施設(里親)と児童相談所の役割分担
(3)保護者への対応について
 子どもを施設入所措置した場合、子どもの処遇以上に保護者への対応に追われる時が多い。そのため施設入所措置に当たっては、面会の頻度や外泊の可否等について事前に児童相談所と保護者の間でとり決めておく必要がある。
 なお、施設に対する保護者からの強引な引取要求については断固として拒否し、児童相談所に行くように指示するが、以後の対応策については、施設と児童相談所で協議する必要がある。また、保護者の暴力的な言動や職員に対する脅し等がみられれば、警察との協力が必要だが、児童相談所の方から警察署に依頼をする方が協力が得られやすい。
 なお、ネグレクトや心理的虐待の場合、親子で楽しく遊んだ経験が少なかったり、適切な親子のコミュニケーションが成立していない例が多く見られる。このような親子の場合、当人同士だと交流パターンに変化がみられないため、面会時に施設職員が入って「親子の遊び方」や「会話の仕方」を練習することも有効な援助方法である。
(4)困難事例への共同の取り組み
 虐待された子どもが施設生活の中で不適応症状を見せたり、対応困難な行動を示すことは多い。以前は、児童福祉施設から児童相談所に援助を求める場合は、施設なりに努力を尽くして、いよいよ行き詰まってからが多かったと思われる。
 しかし、今日のように急激に子どもの様子が変わり対応に困る事例や、被虐待児の入所の増加に伴い、施設内の努力の限界を超える事態が多発している。
 今後は行き詰まる前に、両者がもっと密接に連携していくことが必要である。
 児童相談所が持つ専門性を活かした施設援助の例をいくつか紹介する。
ア.施設内での事例検討会への出席
 施設内で様々な不適応行動が目立ち、職員の努力にもかかわらず収まる気配がない場合など、児童相談所の担当者や精神科医などが施設に出向き、その行動のメカニズムや本人の潜在的意図、対応方法などを一緒に考える。 イ. 児童相談所への通所指導および訪問指導
 施設内で対応に困った事例について、児童相談所に定期的に通わせるか児童相談所職員が施設を訪問して個別の治療を心理職員等が行う。
ウ.児童相談所での一時保護
 施設内での対応に限界を感じたり、行動がパターン化して指導が効果を発揮しない場合など、子どもの行動観察や再判定、処遇方針の再検討のために児童相談所に一時保護する。
エ.研修会への出席
 都道府県や施設関係団体等が主催する研修会に児童相談所からも積極的に出席し、被虐待児の心理構造や集団不適応の対応方法について研修を行う。
 県によっては、児童相談所や施設での困難事例を集めて対応の事例集を作るなどの取り組みを行っているが、これらの積極的活用により、援助技術の共有化を図ることも有用である。
(5)児童養護施設等から児童相談所に通所指導させる場合の効果と留意点
 児童養護施設等入所児童を児童相談所に通所させて、心理職員等の定期・不定期の指導を継続した場合の効果と限界を施設側から整理すると、以下のようになる。
ア.通所指導の効果
(ア) 職員と子どもが1対1で通ってくるため、集団生活で見せない面を見ることができ、また個人的な関係形成ができる。
(イ) 専門家の目で現在の状況を説明されるので、状況の整理や子どもの内面の把握が容易になる。
(ウ) 通所を繰り返し、子どもへの理解が進むと、事件が起きても原因を考えたり、有効な打開策を検討するなど、子どもへの対応が変わる。例えば、単に叱ったり、力で押さえ付けるのでなく、柔軟に対応できる。
(エ) 同様に、子どもの雰囲気や行動で心理状況が理解し易くなるため、事件を起こす前の先読みができ、予防的な対応ができるようになる。
(オ) 普段の子どもの様子が分かっているので、急な問題が起こっても心理職員等に電話で相談して指示を仰げる。
(カ) 児童相談所で聞いた話を他の職員にも継続して話し、子どもの理解を共有化する中で、職員全体の子どもの見方が変化する。
イ.子どもにとっての通所指導の意味
(ア) 施設での集団生活から解放され、「ガス抜き」につながる。
(イ) 自分のことを真剣に考え、話を聞いてくれるところとの認識がもてる。
(ウ) 心の深層に触れる面接や治療により、心理的に疲れるが、反面心の問題が解決し、すっきりした気分になれる時もあるので、行くのは楽しいと思うようになる。
(エ) 行き帰りに寄り道したり、食事したりの非日常的体験が楽しみになる。
ウ.留意点
(ア) 一人の子どもに職員が一人ついて児童相談所まで出かけ、子どもへの指導が終るのを待ち、心理職員との面接を行うと、相当な時間が取られる。そのため「誰を」「どのタイミングで」「本人に何と言って」「誰が連れていくか」等の検討が必要となる。
(イ) 子どもによっては、児童相談所に行くことを他の子に秘密にしたがるので、その気持ちへの配慮を行う。
(ウ) 常に施設長などに報告を行い、職員個人やチームの独走にせず、施設全体の理解を得るようにする。
(6)帰りたがる子どもへの対応
 保護者から虐待され、時には生命の危険さえあった子どもでも、施設に入所すると、家庭内での楽しかった思い出や保護者の優しい面ばかりを思い出して、家に帰りたがる子どもがいる。特に虐待を受けて育った子どもの多くは、安定した人間関係を保つのが苦手で情緒的にも不安定なため、施設の集団生活の中で様々なトラブルを起こし、それがまた「施設を出たい、家に帰りたい」という発言にもつながる。
 この場合、子どもなりの意向も尊重すべきであるが、生命の危険もあり、安易に応じるわけにはいかない。このような場合、特に家庭内の状況や虐待の危険度、措置されたいきさつなど施設職員では分かりかねる部分もあるので、児童相談所の担当者との協力は欠かせない。
(7)退所に向けての準備
 家庭状況が改善され、家庭復帰が可能になると、その準備が始まる。その際には施設と児童相談所が頻繁に情報交換を行い、面会や外泊の頻度を調整したり、試験外泊での様子を踏まえて、児童相談所が最終的な結論を出す。  なお、保護者からの強引な引取要求に児童相談所が押され、家庭復帰が決まりそうだが、施設として不安が強い場合は、施設長は児童福祉法施行令第9条の4に基づき、場合によっては公式な文書で「家庭復帰には反対」の意思を児童相談所に明確に伝えるべきである。
(8)フォローアップについて
 第8章1.(7)、第8章2.(9)を参照のこと。
(9)里親との連携
 児童虐待の場合、家族関係の歪みが子どもにしわ寄せされている。特に、言葉の暴力で人間としての尊厳が否定されたり、放置されて人間的な扱いを受けてこなかった子どもたちにとって、基本的な愛着関係の形成の場として里親が選択される場合がある。
 このような子どもたちは、情緒的には赤ちゃんからの育て直しが必要であり、かつトラウマにより安定した人間関係が困難で、様々な不適応行動を起こすことが予想される。そのような場合、児童養護施設以上に心理職員や精神科医などによる専門的な援助が継続的に必要である。里親との連携については、第8章3.(1)~(3)を参照のこと。

(2) 福祉事務所(家庭児童相談室)との連携
(1)福祉事務所(家庭児童相談室)
 福祉事務所は、生活保護、児童家庭、高齢者、障害者等地域住民の福祉を図るための第一線機関として、都道府県および市が設置義務を負い(町村は任意設置)、全国に約1200カ所ある。生活保護の実施や様々な手当、制度の窓口であり、母子生活支援施設や助産施設への施設入所措置権限を有する。
 また、児童福祉法第25条の要保護児童通告の受理機関でもある。
(2)家庭児童相談室
 福祉事務所には、家庭児童の福祉に関する相談や指導業務の充実強化を図るため、全国約980カ所に家庭児童相談室が設置されている。その設置、運営については、「家庭児童相談室設置運営要綱」(「家庭児童相談室の設置運営について」昭和39年4月22日付厚生省発児第92号厚生事務次官通知)等によっている。地域に密着した援助機関として、軽易な相談を主に担当し、社会福祉主事と家庭相談員が相談に応じているが、児童相談所との関係等については、「家庭児童相談室の設置運営について」(昭和39年4月22日付児発第360号厚生省児童家庭局通知)に述べられている。
(3)福祉事務所(家庭児童相談室)との連携の必要性
 福祉事務所は児童相談所と並んで法第25条の要保護児童通告の受理機関となっている。通告受理の窓口が二本化されているのは、国民の通告義務履行の便宜のためであり、通告受理後のそれぞれの専門機関の判断によって、困難で高度な専門技術を必要とするものは児童相談所、そうでない一般的な軽易なものは福祉事務所で取り扱う。つまり、児童相談所と福祉事務所(家庭児童相談室)は車の両輪のような関係であり、一体的な連携を図ることが求められている。
 また、虐待が行われる家庭は、経済的問題や就労問題、夫婦関係、健康問題等同時に多くの問題を抱えている場合が多く、住民の第一線の相談・援助の窓口である福祉事務所は、これら問題に関与する過程において虐待を早期に発見しやすい立場にある。法第27条の措置や判定を要すると考えられる事例等、児童相談所の関与が適当と考えられる事例について福祉事務所は児童相談所に送致する(法第26条の2)。
 逆に、在宅指導等の処遇面において社会福祉主事等の指導が適当と考える事例について、児童相談所は福祉事務所に送致する(法第26条第1項第3号)。
(4)主な連携事項と留意点
ア.通告
 福祉事務所に通告のあった事例で、児童相談所による対応が必要と認めるものについては、速やかに児童相談所に送致してもらうよう徹底を図る。
イ.調査の依頼
 虐待の通告を受けた場合、例えば家族構成(住民票)、家族関係(戸籍)、生活保護適用の有無、子どもの所属集団(保育所、学校等)等の基本的事項についての調査をまず依頼することが考えられる。
ウ.制度の活用
 福祉事務所が有する様々な制度や機能を活用することで家族援助が可能と考えられる場合、その活用について紹介する。福祉事務所ではこれをきっかけに、家族への援助を開始する。この場合、窓口に保護者が来た時にスムーズに家族相談員につなぐなど、事前の打合せをしておく。
エ.援助の依頼
(ア) 通所指導
 虐待事例でも在宅での援助が可能であったり、一時保護や施設入所後に家庭復帰する例も多い。その場合、継続的な保護者面接等が必要であるが、ある程度状態が落ち着いており、日常的な子育ての援助や家族関係の相談等であれば、必ずしも児童相談所まで行く必要はない。
 特に住居地から児童相談所まで距離が遠い場合は、継続的な援助の機関として福祉事務所(家庭相談室)の利用を勧めるのも一つの方法である。
 なお、この場合、福祉事務所(家庭児童相談室)と児童相談所の役割分担は重要で、保護者に伝える前に、十分に打合せを行うとともに、依頼後も引き続き情報交換を密にするなど、密接な連携が必要であり、福祉事務所(家庭児童相談室)に任せっぱなしにしてはならない。
(イ) 援助のきっかけ
 虐待事例の調査の場合、以前から福祉事務所(家庭児童相談室)で関わっている事例だけでなく、新規の場合でも児童相談所の職員等と一緒に家庭訪問してもらうようにし、必要があればその後も継続的な援助を依頼する。
 虐待事例の場合、複雑・困難な問題を同時に抱えていることが多く、児童相談所による援助のみならず総合的な援助が必要であること、また、緊急の場合、児童相談所に代わって必要な対応を依頼することも考えられるからである。
(ウ) 場所の提供
児童相談所の職員が保護者と面接する場所として福祉事務所を使うことにより、児童相談所が地理的に遠い保護者に便宜を図ることができる。その際、家庭相談員等と合同で面接をすることにより、以後の継続的、日常的な援助につなげることもできる。
オ.関係機関の調整
 虐待家庭に関わる諸機関が一同に会し、事実の確認と認識の共有を図るとともに、当面の課題への対応策、各機関の役割分担などを決める会議(事例検討会)を定期、不定期に開催する。
 なお、この会議には、児童相談所からは、担当児童福祉司だけでなく機関決定権限のある役職者も出席することが望ましい。その場で「一時保護や強制的な介入」を要請されることも多く、それに対して児童相談所としての考え方や限界等を明確にする必要があり、時には強制的な援助の決断が必要な場合もあるからである。
(5)援助活動チーム
 子ども虐待の場合は、一人の人や一つの機関だけでは対応できず、機関連携が絶対に必要である。
ア.「チーム」という考え方
 子ども虐待の場合、特に「通告をしたから、後は自分の所は知らない」とか、「通告を受けたのだから、今後はウチの考えで進める。ヨソは口を出すな」というような狭いセクト主義では適切な援助はできない。
 「援助活動チーム」とは平成8年度の厚生省の「児童虐待ケースマネージメントモデル事業」で使用された言葉であるが、参加した機関が協力して課題に取り組み、得意分野や担当する部署を分担することで、大きな成果を上げることができる。
イ.援助の実際
 例えば、A地区で保育所に通っている子どもに身体的虐待があれば、保育所、医師、福祉事務所(家庭児童相談室)、児童相談所、警察等がチームを組み、B地区で中学生に性的虐待があれば、学級担当、養護教諭、女性精神科医、児童相談所、弁護士、警察等がチームを組む。
 このように「援助活動チーム」は常設の機関ではなく、事例の内容や地域により参加するメンバーは変わる。児童相談所長が主催することを原則とするが、連携の必要性を感じた人(機関)が呼びかけてもよい。
 いずれにしろ、「援助活動チーム」の運営で重要なことは、誰が(どの機関が)責任を持って当該事例のマネージメントを行うか、明確にしておくことである。

(3) 児童家庭支援センターとの連携
(1)児童家庭支援センターについて
 児童家庭支援センターは、児童相談所等の関係機関と連携しつつ、地域に密着したよりきめ細かな相談支援を行う児童福祉施設である(児童福祉法第44条の2第1項)。
 児童家庭支援センターの業務は児童福祉施設最低基準および「児童家庭支援センター設置運営要綱」(平成10年5月18日付児発第397号厚生省児童家庭局長通知)により下記とされている。
ア.地域の子どもの福祉に関する各般の問題に関する相談、必要な助言
イ.児童相談所長の委託に基づく法第26条第1項第2号、第27条第1項第2号の規定による指導
ウ.訪問等の方法による要保護児童および家庭に係る状況把握
エ.児童相談所、福祉事務所、児童福祉施設、民生・児童委員(主任児童委員)、母子相談員、母子福祉団体、公共職業安定所、婦人相談員、保健所、市町村保健センター、学校等関係機関との連絡調整
オ.要保護児童および家庭に係る援助計画の作成
カ.その他子どもまたはその保護者等に対する必要な援助
 なお、児童家庭支援センターは、児童福祉施設の相談指導に関する知見や、夜間・緊急時の対応、一時保護等に当たっての施設機能の活用を図る観点から、乳児院、母子生活支援施設、児童養護施設、情緒障害児短期治療施設および児童自立支援施設に附置することとされている。
(2)「児童家庭支援センター指導措置」における連携
ア.「児童家庭支援センター指導措置」が適当と考えられる事例
 「児童相談所運営指針の改定について」(平成10年3月31日付児発第247号厚生省児童家庭局長通知)により、「児童家庭支援センター指導措置」は法第26条第1項第2号、第27条第1項第2号による指導が必要と認める事例で、地理的要件や過去の相談経緯、その他の理由により児童家庭支援センターによる指導が適当と考えられるものについて行うこととされている。
 虐待事例について「児童家庭支援センター指導措置」が適当と考えられるものを下記に例示する。
(ア) 児童相談所の調査、判定の結果、虐待の程度や内容等から施設入所措置を採るほどでもないが、頻繁な家庭訪問により経過を見守るとともに、必要な指導を行うことが適当と考えられる事例で、地理的要件等から児童相談所が直接これを行うことが困難と思われるもの。
(イ) 在宅指導が適当と判断される事例で、かつて児童家庭支援センターへの相談歴があり、保護者と児童家庭支援センターとの信頼関係がすでに確立されているため、児童相談所が直接これを行うより児童家庭支援センターが行う方が円滑かつ適切な指導ができると見込まれるもの。
(ウ) 施設入所措置と並行して保護者等への指導を継続する事例で、地理的要件や過去の相談経緯等から、児童家庭支援センターによる指導が適当と考えられるもの。
イ.連携上の留意点
(ア) 児童家庭支援センターに指導を委託するに当たっては、指導の一貫性等を確保するため、委託の趣旨、委託後の指導のあり方等について児童家庭支援センターと十分な協議を行う。「児童家庭支援センター指導措置」を採る場合、子ども、保護者にその旨十分説明し、了解を得ることを原則とするが、特に虐待事例の場合、一旦保護者の了解が得られてもその後の対応に問題があると、保護者の協力が得られにくくなるばかりか、却って虐待をエスカレートさせ、子どもの死亡等重大な事態を招きかねないことから、児童相談所と児童家庭支援センターとの打合せはとりわけ綿密に行う必要がある。
(イ) 計画的な援助の実施を図るため、援助を行うに当たり児童家庭支援センターは当該児童および家庭に係る援助計画を作成することとされている。援助の一貫性・的確性を確保するため、児童家庭支援センターが援助計画を作成するに当たって、児童相談所は処遇指針との整合性を図りながら児童家庭支援センターを指導することになる。援助計画には、虐待の内容や頻度等を含めた家族の問題点(主訴並びに主訴の背後に存在する真に解決すべき問題点)、援助目標、援助方法、援助計画の再評価等を盛り込むことになるが、特に援助目標や援助方法等については具体性が要求される。
(ウ) 児童相談所は、指導を委託した事例について、指導状況について定期的な報告を求める等、児童家庭支援センターの指導状況を常時把握するよう努めるとともに、必要な指示、指導、援助等を行う。また、必要に応じ児童家庭支援センター職員を含めた事例検討会を開催する。
(エ) 児童相談所は、指導を委託した事例について、必要に応じて施設入所措置や児童福祉司指導措置に切り替えたり、児童家庭支援センター指導措置に児童委員指導措置を加える等、柔軟な対応を図ることが重要である。
(3)その他の連携
ア.要保護児童の通告等
 児童家庭支援センターは広く地域・家庭等からの相談を受けるが、これらの内、複雑・困難および法的対応を必要とする事例については児童相談所等の関係機関に通告またはあっせんすることになる。これらが適切かつ円滑に行われるよう、児童相談所は日頃から児童家庭支援センターとの意思疎通、情報交換等に努めるとともに、必要な指導を行う。
イ.夜間等の緊急の相談等
 児童家庭支援センターは、夜間等の緊急の相談等に迅速に対応できるよう、あらかじめ必要な関係機関等との連絡方法等の対応手順について附置される施設、児童相談所等の関係機関等と協議の上、定めることとされており(「児童家庭支援センター設置運営要綱」)、虐待事例等において迅速かつ適切な対応が図れるよう児童相談所は児童家庭支援センターの対応手順整備に積極的に協力する必要がある。 特に、必要な場合は児童家庭支援センターが附置されている児童福祉施設において児童相談所による一時保護委託が円滑に行えるよう、児童家庭支援センター、児童福祉施設、児童相談所間の相談・連絡体制について万全を期す必要がある。
ウ.児童相談所による技術的支援等
 地域住民に密着したきめ細かな相談・援助を通じて、子ども虐待の発生防止、早期発見・早期対応において児童家庭支援センターの果たす役割は極めて大きい。児童家庭支援センターがその役割を遺憾なく発揮できるよう、児童相談所は常に児童家庭支援センターと密接な連携を図るとともに、児童家庭支援センターに対し必要な技術的支援を行い、また、児童家庭支援センターが他の関係機関と円滑な連携が行えるようその仲介、調整等の協力を行うことが肝要である。

(4) 民生・児童委員(主任児童委員)との連携
(1)児童委員とは
 児童委員については児童福祉法に規定があり、民生委員をもって充てられる。その職務は、児童および妊産婦の保護、保健、その他福祉に関することについて援助や指導を行うと共に、児童福祉司等の職務に協力すると規定されて、全国で約19万7千人が委嘱されている。
 主任児童委員は厚生省児童家庭局長等の通知により平成6年に設置され、主として児童福祉に関する事項を専門に担当するものとして、地域における児童および家庭支援を行う。全国で約1万4千人が委嘱されている(平成5年3月31日付児発第283号厚生省児童家庭、社会・援護局長連名通知「主任児童委員の設定について」)。

[事例]
 ある地区に父子2人の世帯があり、父親は子どもが幼児期から暴力的なしつけを行うと同時に、小遣いをふんだんに与えるなど溺愛的な面も見られた。子どもが小学校高学年になると、それまで一方的に叩かれていた状態から少しずつ反抗が見られ、物を投げたり、お互いが棒で殴りあったあげく近隣に逃げ込むなど、激しい物音と争いで、たびたび警察に通報する状態となった。
 父親から福祉事務所への援助依頼があったり、近隣の要請で児童委員や主任児童委員が家庭訪問を繰り返し、親子関係の調整や保護者指導、緊急時の通告役等を担当した。関係機関が集まっての事例検討会にも両者は参加した。その時の結論は「施設入所措置」になったが、父親は拒否し、子ども自身も施設入所を嫌い、児童相談所への一時保護を繰り返しながらの在宅援助を続けた。
 結果的には子どもの意思で施設入所措置となったが、措置後も児童委員らは父親自身の寂しさの話し相手や、身体的不調に伴う役所の諸手続や病院への同行等を通して、強制的な引取要求を回避することができた。
 またその後、別の虐待事例が同地区で発見されたが、その際には主任児童委員から直接児童相談所に通告があり、保育所での事例検討会にも参加し、その後も保護者に対する地域での日常的な援助を行っている。
(2)連携上の問題点V
 上記のような事例もあるが、現実には民生・児童委員や主任児童委員と児童相談所の連携は密接とは言い難い。その原因としては以下のようなことがあると思われる。
ア.民生・児童委員の行政側の窓口が市町村の社会福祉協議会や地域福祉課で、児童福祉部門と関わりが少なく、かつ最近は民生委員として高齢者対策に追われがちである。
イ.児童相談所から見れば、児童委員の地域割りが細かく、担当者が分かりにくい。
ウ.民生委員は高齢者が多いため、保護者への援助を依頼しても、説教調になったり、話が合わないのではないかと危惧される。
エ. 主任児童委員は児童福祉が専門とされているが、地区によっては他の児童委員や総務との関係で、十分に活躍しにくい事情がある。
オ.今までもほとんど連携や協力の実績がないため、お互いに協力の仕方が分からない。
カ.虐待事例の場合、保護者は安定した人間関係を保つことが困難であり、また援助の進め方にデリケートな面もあるため、援助に当たっては細かい配慮が必要で、児童相談所からの援助依頼を躊躇する児童委員もいる。
キ.児童委員から見ると、児童相談所が物理的に遠いだけでなく心理的にも距離があり、権限や業務内容、援助の進め方などが分からず、近づきにくい。
ク.児童委員から見ると「虐待」かどうかの見極めが難しく、いつの時点で通告するのか、どこまで関わるのか、判断に迷う。
(3)連携上の留意点
 以上を見ると、お互いが良く知らないこと、および連携の「コツ」が分からない面が多い。
 複雑化、深刻化する児童問題への対応として、地域においてきめ細かな児童虐待防止活動を進めるため、主任児童委員等に対し児童相談所が児童虐待に関する研修を実施し、研修修了者を登録する等の方法により地域での児童虐待の発見・通告の促進、調査及び在宅指導等の協力体制を整備する必要がある。
 また、「社会福祉の増進のための社会福祉事業法の一部を改正する等の法律」(平成12年法律第111号)の施行に伴い、児童委員に関して、児童福祉法、民生委員法、児童委員の活動要領等が改正された。
 要保護児童の通告について、児童相談所の迅速な対応のため、緊急の場合は市町村長を経由せず直接児童相談所長に通知し、また、地域住民の通告を促進するため児童委員を介して通告することができることとされた。
 なお、児童委員の活動要領において要保護児童通告受付票も様式として整備された。
 そのため、民生・児童委員や主任児童委員との連携強化に当っては以下のようなことに留意する。
ア.児童委員等に児童虐待について、継続的な研修会を開催し、体系的な知識の伝授を行う。
イ.上記研修の修了者を中心に連絡網を整備し、児童相談所との密接な連携のもと、地域での援助を積極的に行ってもらうと同時に、いくつかモデル的な取り組みを実施する。
ウ.市町村で行われる児童委員等の研修会に児童福祉司も参加し、連携のあり方について直接話し合うとともに双方の顔つなぎを行う。
エ.子育て支援が必要な家庭に対し、コーチのように日々のきめ細かな子育て支援を行う。この場合、児童相談所との役割分担が重要である。
オ.「安定した人間関係作り」の苦手な保護者に対し、深入りしすぎない声かけや援助を行う。
 なお、「エ」や「オ」については、児童相談所のスーパーバイズや双方の役割分担が必要である。

(5) 学校、保育所、幼稚園との連携
(1)所属集団
 学校や保育所、幼稚園とは、昼間子どもたちが家庭から離れ、同年齢集団の中で学び、遊び、生活をする場である。特に学校は義務教育であり、保護者は子どもを学校に就学させる義務がある。また3歳以上の子どものほとんどは保育所か幼稚園に通っている。
 子ども虐待について言えば、昼間だけでも家庭から離れ、安全な居場所を保障され、子どもの精神的な健康を保障するとともに、家庭での状態を日々観察することができる意義は大きい。
(2)日常的な連携
 児童相談所は普段から所属集団からの相談にも積極的に応じ、日常的に連携を深めると同時に、被虐待児の発見や対応方法の周知、また通告義務についても広報に努めなければならない。
(3)発見通告時の現場のとまどい
 虐待されている子どもは、自分から「虐待されている」と訴えてくることはほとんどない。外傷等で明らかな場合を除けば、多くの場合、教師や保育士によって子どもの雰囲気や様子から虐待が発見される。
 しかし、保護者は「子どもが悪いことをしたので叱った」と言い張り、また教師等も虐待する現場を直接見たわけでない、伝聞・推測情報が中心になる。そのため現場では「どこまでが虐待か」「誰に相談すればいいか」「通告後にどうなるか」等について迷う。
 保育所については、「保育所保育指針」が平成11年10月29日児発第799号厚生省児童家庭局長通知をもって改訂され、第12章に「虐待などへの対応」の項目が立てられ、発見の具体的な手がかり、関係機関との連携等の必要性が強調されるとともに、第13章においても虐待が疑われる子どもや保護者への対応方法等が盛り込まれた。
 現在各県で様々な虐待防止マニュアルが作成され、虐待発見のチェックリストや重症度の判断基準が掲載されているが、虐待か否かの判断はある程度できても、その後の対応については十分明記されていない場合が多いので、現場にはとまどいや不安がある。連携を図る上で児童相談所はこのことに十分配慮するとともに、学校の教職員や児童福祉施設の職員等児童の福祉に職務上関係のある者は、児童虐待を発見しやすい立場にあることを自覚し、児童虐待の早期発見に努めなければならないこと、発見した者は速やかに児童相談所等に通告しなければならないことを広報する必要がある(児童虐待防止法第4条第3項及び第5条)。
 したがって、「虐待かもしれないが迷っている。話を聞いて」というレベルでの相談(通告)が行える関係づくりがとても大切である。
(4)通告の仕方
 子どもが所属している現場から通告するに当たっては、
ア.「疑い」の段階でよいから早めに知らせる。
イ.公文書や様式を決めた通告用紙等は必要ない。直接電話でかまわない。
ウ.クラス担任等の担当者の判断でかまわないが、できれば組織としての判断があった方が調査の時などに混乱が少ない。
エ.組織としては動かないが、子どもの様子が危険と判断し放っておけない状態の時には、「匿名の手紙」を児童相談所に出すという方法もある。
オ.診断書や写真等の虐待を証明する資料は、あった方がいいが、必ずしも必要ない。
カ.虐待に関する事実関係は、できるだけ細かく具体的に記録しておく。
(5)調査
 児童相談所等通告を受けた機関は直ちに調査に入る。その最初の調査対象は、通告をした所属集団である。調査に当たってはおおむね以下のようなことを聴取する。
ア.虐待を疑った事実と経過
イ.危険度の判断と当面の対応策
ウ.さらに調査が必要なら、その役割分担
エ.今後の見通し
(6)緊急保護と保護者への通告
 虐待の通告の場合、生命・身体の危険性があり、通告と同時に子どもの身柄の保護を要請される場合がある。児童相談所としては生命・身体の安全を最優先して判断を行う。一時保護については児童相談所長の権限でできるため、必要に応じ身柄を保護した上で対応を考えるべきである。
 子どもを一時保護した後、児童相談所から保護者に対し、一時保護している旨の連絡を入れる。その場合、学校等との兼合いから以下のように説明することが多い。
 「どこからとは言えないが、お宅の子どもさんが危険な状態であると通告があり、調査の結果、今日、児童相談所が子どもさんをお預かりしました。保護者の方からもお話をお聞きしたいので、○日○時に児童相談所に来てください」と電話で話す。
 この際、通告者や調査内容については答えないが、長いソーシャルワーク実践の中では、児童相談所なりに虐待とその危険性を判断した根拠(例えば「首を絞めた」、「耳から血が出るくらい殴った」等)の説明はいずれ必要であろう。また多くの場合、緊急保護の後、保護者が学校等に押しかけて「学校が言い付けた」と言うことが多い。このような事態に備えて、学校等から得た情報をどの程度話すか、学校と児童相談所との関わりをどのように説明するか等は、事前に調査をした所属集団と十分に詰めておく必要がある。
 なお基本的には、「学校に調査した結果、いろいろ話を聞いたが、他からの情報と総合して、最終的には児童相談所が判断した」と責任を明確にしておく必要がある。
(7)措置(一時保護)解除後の受入れ
 施設入所措置や一時保護から子どもが家庭に復帰し、所属集団に戻る場合がある。時には保育所入所を家庭引取りの条件にする場合もある。
 家庭復帰前には、事前に所属集団への復帰を知らせると同時に、入所中の親子の様子や今後の連携の仕方について、打合せが必要である。特に初めてその集団に入る場合などでは、緊急保護の時の連携の経験がないので、児童相談所側から説明に出向き、以後の連携の方法等を確認する必要がある。
 なぜなら子ども虐待は家族システムとして発生し、繰り返すことがほとんどなので、「虐待は再発する」ことを前提に、しばらくの間はかなり注意して経過を見ていく必要があるからである。
(8)在宅援助中の連携(モニターに対して)
 虐待の危険度が低く、保護者にも虐待の自覚があり援助を自分から求めるような場合には、在宅のまま子どもが所属集団に通ってくる。
 児童相談所等に定期的に保護者と通ったとしても月に数回であり、ほとんどの時間を地域で過ごす。児童相談所は距離的にも遠い場合が多く、日常的な援助と緊急時の通告役としてのモニターを任された機関としては、毎日保護者や子どもと向かい合うストレスで大変である。そのため以下のような援助が必要になってくる。
ア.日常における細かい対応についてのスーパーバイズ
イ.当初は数カ月ごとに関係機関を集めた事例検討会を開催
ウ.「何かあれば、児童相談所が責任を持つ」という姿勢
エ.モニターを任された機関や人の不安な心理に対する理解

(6) 医療機関との連携
 児童虐待防止法第5条において、医師について児童虐待の早期発見の努力義務が課せられたことなどから、虐待の早期発見やその後のケアにおいて医療機関との連携は今後ますます重要になる。ケース・マネージャーとしての役割を担う児童相談所としては、医療の特徴をもう少し理解しておく必要がある。以下に理解しておいた方がよいと思われる特徴を挙げておく。
(1)子どもを扱う医療機関のリズムが早い……子どもを扱う医療機関では急性期の治療方針が立つまでのリズムは非常に早い。しかし、方針が決まって急性期が過ぎると比較的ゆっくりな対応となる。福祉機関での対応のリズムとはかなり異なる。このリズムの違いが認識のずれと不信を生むことがある。子どもの安全が確保されるまでの初期段階での意思決定をできるだけ早く行い、児童相談所の方針を様々な条件を考えたフローシートとして説明することで医療機関の協力が得やすいものとなる。
(2)医療の中でのキー・パーソンは医師とは限らない……ソーシャルワーカーや保健婦など、地域との連携を担当する職種が医療機関の中にいるときはよいが、そうでないときには、相手の医療機関の中で誰がキー・パーソンであるかを考えて動かなければならない。必ずしも医師がキー・パーソンとなるとは限らない。医師は治療の主体者であるが、生活の援助者は助産婦や看護婦である。看護職との連携が必要なことも多い。
(3)医療機関は生物学的な客観的真実を重視し、社会的対応には慣れていない……その事例に対して医療機関がどのような役割を担う必要があるのかを明確に伝える必要がある。特に、診断書や意見書の提出を求める場合には、それがどのような意味を持つのかを伝えなければならない。医師には診断書や意見書は客観的な真実を書かねばならないという責任感がある。したがって、虐待であるという推定を含んだ診断書を書くことには抵抗がある。虐待であるという断定でなくても、その傷が不自然な外傷であり、虐待の可能性もあるという診断書でも十分であることを伝えることで、診断書や意見書は書きやすくなる。
<具体的な場面への対応>
1)医療機関からの通告があったとき(身体的虐待を中心として)
 医療機関から虐待の可能性があるという通告があったときには、できるだけ素早い対応をする必要がある。まず、できるだけ早期に医療機関へ出向いて状況を把握することが望ましい。そこで、医師や看護婦との連携が始まる。しかしながら、医師はかなり多忙な中での会話となる。その中で必要な情報を得るには、児童相談所として知りたい内容に関して、医師に対する質問をあらかじめ構想しておくとよい。例えば、
1:その医療機関にかかった経過や理由、
2:医療機関が虐待を疑った理由、
3:保護者が医師や看護婦に行った説明、
4:子どもの現在の医学的な危険度、
5:医学的な予後、
などについて順を追って尋ねるようにする。その際、医療用語で分からない部分があるときには、その場で質問するようにする。分からないところをそのままにしておくことはその後の誤解の元になる。
 その上で、児童相談所としては、今後、どのような対応をすることになるかについて説明する。そして、その日のうちに、
1:保護者への告知をどのようにするか、
2:虐待をした保護者と子どもの接触をどのようにするか(面会の制限など)、
3:警察との連携をどうするか、
4:緊急の法的対応(一時保護委託など)が必要か、
等といった点について合意を得る。告知は非常に重要である。最初の告知が後々まで処遇に響くことが多い。身体的虐待の場合には、医師からの告知が望ましいが、医師が慣れていない場合には、事故としては不自然な外傷であることを告げてもらい、虐待の可能性があるというところからの説明を児童相談所が引き受ける方がよいことも多い。医師と看護婦と児童相談所の職員とが一緒に告知と説明をすることが望まれる。
 面会の制限が必要なときには、児童相談所がその点を明確に伝え、医療機関には児童相談所の許可がなければ面会をさせないよう依頼する。虐待をしていると考えられる保護者が強制的に退院させる可能性があるときには、それを防ぐ方法をあらかじめ考えておく。可能性が高いときには、児童福祉法第33条の一時保護とした上で、医療機関に入院させることも考慮する。
 警察との連携に関しては、傷害事件としての通報と同時に、保護者などによって医療機関や児童相談所職員に危害が及ぶ可能性があるときに、警察の対応を依頼する必要が生じる。医療機関、特に小児科では警察との連携になれていない。児童相談所が仲立ちをすることも望まれる。保護者からの脅しの電話や実力行使に対してどのように対応するかを警察を含めて合意しておく。
 最後に、これから予想される経過を説明し、医療機関に期待する役割を説明する。その上で、医師や看護婦の記録が役に立つことを告げて、保護者の説明などについても記録をしてもらうようにする。また、その後の連携に関して、それぞれの機関のキーパーソン、または連絡の窓口となる人をお互いに明確にしておくことはその後の連携で非常に重要である。
 経過の中で関係者の事例検討会が必要になるときも多い。忙しい医療関係者の協力を得るには、効率のよい会議を行う必要がある。できるだけ関わる可能性のある人(保健婦・施設職員など)を全員一堂に医療機関に集まってもらい、短時間のカンファレンスを行う(原則として1時間以上になることは避ける)。
 緊急対応が必要ではなく、外来対応となる時には、医療機関と関係機関とが合同でその後の対応計画を立てる。医療機関との連携を密にする上でも、頻回な連絡を心がける。
2)虐待によると考えられる身体的問題や精神的問題の評価が必要なとき
 身体的虐待では、レントゲンで発見される骨折の跡があったり、網膜剥離などの眼科的問題や鼓膜破裂などの耳鼻科的問題が生じている可能性がある。性的虐待が疑われるときには、性器の診察とともに、性感染症の検査が必要となる。これらの問題は、医学的な評価を行わなければ発見されない。医学的評価は、子どもの治療に必要であると同時に、法的対応が必要になったときの、状況証拠の一つとなる。身体的虐待や性的虐待が疑われるときにはこれらの医療的に精密な診察や検査に基づく評価が必要となる。また、頻回な頭部外傷からてんかんを発症している子どももいる。時々ボーッとするなど急に行動が変化するといった症状は心理的な乖離症状である可能性もあるが、てんかんの可能性もあり、脳波などの検査が必要になることも珍しくはない。児童相談所での心理的評価から精神医学的評価が必要となるときにも医療機関への依頼が必要な場合がある。これらの評価を依頼できる医療機関を確保しておく。
3)虐待をしている人や、虐待のある家族の精神的評価や治療が必要なとき
 虐待をしている保護者の精神医学的評価や治療が必要となることも多い。その結果が子どもの危険度の判定に影響し、ひいては処遇に影響する。治療が必要なときには、主治医に子どもの危険を十分に伝え、主治医から保護者に養育が不可能であることを伝えてもらう必要が生じることも多い。
4)虐待の後遺症と考えられる身体的・精神的問題の治療が必要なとき
 身体的問題や精神的問題の治療を継続する必要があるときには、その事例の全体的な援助計画の一部と位置付けて児童相談所が総合的にマネージすることが重要である。医療機関には定期的に全体の状況を伝え、必要な場合には全体的援助の事例検討会に参加してもらう。医療機関で会議を行ったり、医師が忙しいときには看護婦に参加を頼むことなどで医療機関の参加を得ることができる。会議の結果は必ず医療機関に報告する。

(7) 保健所・市町村保健センター等との連携
1)母子保健からの虐待への取り組み
(1) 児童虐待への取り組みについては、既に平成8年に「母子保健施策の実施について」(平成8年11月20日児発第933号厚生省児童家庭局長通知)の中で、保健所で行う母子保事業として「児童相談所との連携による児童虐待の防止対策」が明記されている。
 特に、母子保健からの援助については、平成12年に「健やか親子21検討会」において様々な検討がなされたが、そこでは、虐待を引き起こす条件を満たすことのないよう、あらゆる社会的資源を用い、さまざまなアプローチや援助を駆使することが重要であることが報告されている(後段枠囲の報告書抜粋を参照)。
(2)ハイリスク家庭の把握と援助、健全育成の確認(1次予防)
ア.妊娠から分娩まで
 母子保健事業は、児童虐待にとって、予防的な係わりができる重要なものである。
 母子健康手帳を発行する際に、各種の母子保健事業案内や妊娠出産に関するパンフレット等を渡し、妊婦が自己の健康管理を行っていくことの動機づけを行う。
 また、母親(両親)学級などへの参加を勧める。平成10年では、99.8%の分娩が病院、診療所、産院で行われており、多くの人たちは病院等においても、さまざまな教室の受講の機会がある。
 しかし、近隣社会と孤立しがちな母親たちにとっては、居住地域においてのお互いの出会いの場が必要である。母親(両親)学級は、正しい知識の提供や不安の軽減と友達作りをすることが重要な目的であり、講義はなるべく少なくし、グループワークやディスカッションなど、お互いに交流できる場の提供が望まれる。
 さらに、妊娠中の病院等で行われる健診の場や母親(両親)学級等でハイリスク妊婦が発見されることもあり、施設と地域をの繋がりを基盤とした助産婦、看護婦、保健婦によるフォローアップが今後期待される。
 育児不安が危惧されるハイリスク妊婦のスクリーニングによる予防と早期発見は重要である。例えば、10代の妊娠で配偶者がいない場合、多胎児の妊娠の場合、妊娠の届け出が妊娠8ヶ月を過ぎてからの場合などにおいては、こちらから声をかけることによって気軽に相談できることを提示しておくことが重要である。
イ.施設から家へ
新生児訪問・未熟児・低体重児訪問
 市町村は、新生児訪問を行っている。一般に、退院後1週間が大変難しい時期といわれており、病院、診療所、助産所等で母乳保育や育児方法を習得できず、不安なまま自宅に帰って初めて母親が赤ちゃんの面倒を一人で見ないといけないとなれば、パニックを起こすことが予測される。援助者がいるかどうかの確認も必要となる。
 また、未熟児や低体重児の場合は、母親だけが先に退院して、しばらく赤ちゃんが病院に入院することもある。この時期に、NICU(新生児集中治療管理室)の医師や助産婦、看護婦は親子の愛着形成がスムースにできるように、母親や両親に対して援助することが望ましい。子どもの退院が決まれば、必要なケースに対しては、地域の保健所や保健センターと連携し、訪問を依頼したり、病院から直接訪問するなどの継続的なフォローアップや支援が重要である。
 未熟児、低体重児、双胎児、多胎児は虐待のハイリスクと言われている。子どもが入院中の間でも、家庭に立ち寄って保健婦が関わることも重要であり、電話相談やサービスの利用方法を紹介したり、子どもとの愛着形成ができているかどうか、父親や周りの支援はあるのかなど、親へのアプローチが大切となる。
ウ.乳幼児健診
 主なものとして、3~4か月健診、1歳6か月健診、3歳児健診がある。乳幼児健診については、従来からの発達・育児のチェックや異常・病気の早期発見という疾病指向から健康指向へと転換させていく必要があり、保健・福祉・医療の連携が重要となっている。
 医師や保健婦の何げない一言、例えば「小さい」、「発育が悪い」、「母乳では不十分。ミルクを足した方が良い」、「言葉が遅い。発達に遅れがある可能性がある。」などの言葉は医療関係者としては、真剣にフォローアップをしている中から発せられるのであろうが、母親にとっては、自分こそが常日頃子どもと関わっており、いくら専門家といっても、少しの時間関わった情報からだけで一方的に非難されたように感じられることも多い。それよりも、母親たちは、育児に追われている自分をまず受け止めて、認めて欲しい、理解し共感して欲しい、サポートして欲しいと考えており、そのための、具体的な方法、工夫、社会資源の紹介を望んでいる。
 子育て中の親は、多かれ少なかれ、次のような悩みを経験するのである。
・母親らしく頑張らなければと思えば思うほど、子供をガミガミ怒鳴りつけてしまう。
・子供が自分の思いどおりにならないことで、自分自身の不安やいらだちを我慢できない。
・自分自身の残忍性や暴力性に気づき、弱い者(子ども)を支配してしまいたいとか、時には傷つけたいと思うことがある。悪いことだとは思うが、時々頭に浮かぶことがある。
 しかし、子育ては、そのことを通じて親自身が成長する機会を得たことともいえる。現代社会における子育ては簡単ではなく、すべての親は、虐待の加害者になり得るという共通理解を持つ必要がある。その上で、潜在しているニーズに対応し、子育ての困難さを表現させ、親が肩の力を抜くことができる機会を作ることが援助者に求められている。
 健診を受けていない親には、必ず連絡し、家庭訪問を行うべきである。訪問を拒否したり、育児についての質問等に対して「何も困っていない」とか「相談することはない」というような拒絶的な態度をとる親は虐待が疑われることがあり、フォローアップが必要である。
(3)虐待の早期発見、再発防止(2次、3次予防)
 虐待の可能性のあるケースは、健診、相談、訪問、電話、他部門からの連絡等で発見できる。
 その対応として、できるだけたくさんのネットワークを活用し、対象となる家族と子どもの情報を収集した上で、子どもと家族へのかかわりを持つ。時には、家族や子どもが警戒する場合もあるので、慎重に糸口を見極めることが重要である。
 また、家庭訪問を行い生活場面を観察する場合は、子どもの身体・精神的状況と、家族の状況が重要なポイントである。
 情報を整理し、記録を行い、組織内での対応について意思統一を図り、必要と判断すれば児童相談所に連絡する。また、関係者のネットワークを構成する。
 虐待の発見後は、必要に応じ早期に関係者会議を開催することが大切である。そこでは、情報の共有や認識の確認を行い、役割分担を明確にする。調整役は、地域の関係組織や職種の状況を把握している保健婦が望ましい。
 その後は、会議を定期的に持ちながら、同時に家庭訪問等を行い、子どもや家族の観察を継続する。
 また、最近の取り組みとして、民間虐待防止団体の、虐待をする母親のための治療的グループ「MCG(母と子の関係を考える会)」や、保健所MCGも開催されるようになってきている。
そこは、地域に身近な保健所で、定期的に、安心して悩みが語り合え、癒され、孤立しがちな現代の母親の大きな安らぎの場となっていると報告されている。
 今後、このような取り組みが全国に広がることを期待する。
子どもの心の安らかな発達の促進と育児不安の解消
 一般に、母と子の心の関係の成り立ちは、
1:母の心の状態、
2:育児に関する親の知識や技術、
3:社会や先輩や仲間からの育児の伝承、
4:育児の負担や楽しみを夫婦間で分かち合う、
5:生活基盤の安定、
などによって支えられ、形成され、発達し、確立すると言われている。しかしながら、少子化、核家族化、国際化、長時間労働が恒常的な職場環境、父親が育児に参加しないことを是とするような社会風潮、地域の育児支援能力の低下等の社会環境は、これらの親子の健全な心の関係の確立の阻害要因となっている。そのための早急に有効な対策が取られなければ、育児への不安感や孤立感を持つ母親の数は今後増加していくことが予測され、その影響を受ける子どもの心の問題も増加し、深刻化するものと考えられる。
 児童虐待の研究から、虐待では、
1:多くの親は子ども時代に大人から愛情を受けていなかったこと、
2:生活にストレス(経済不安や夫婦不和や育児負担など)が積み重なって危機的状況にあること、
3:社会的に孤立し、援助者がいないこと、
4:親にとって意に添わない子(望まぬ妊娠・愛着形成阻害・育てにくい子など)であること、
の4つの要素が揃っていることが指摘されている。
(健やか親子21検討会報告書より抜粋)

図10-1
図10-2
図はともに平成11年度厚生科学研究
「虐待の予防、早期発見及び再発防止に向けた地域における連携体制の構築に関する研究」
(主任研究者 松井一郎)から

2)児童相談所からの連携の取り方
(1)保健婦ができることと役割
ア.一定の地域を管轄し、住民の体と心の健康問題に対して病気の早期発見・予防からリハビリテーションまで幅広く、地域特性に応じた取り組みを行っている。
イ.相談者からの聴き取りや家庭訪問などによって得た情報から、経過や状況を読み取り、判断し、援助目標を設定して、相談者に直接介入したり、あるいは他の家族メンバーに働きかけたり、必要に応じ社会資源を導入したり、福祉サービスの提供も行う。
ウ.保健婦は医療や福祉、教育等の関係機関に直接働きかけたり、調整したりというコーディネート機能をもっている。医療機関をネットワークに組み込むときに、特にパイプ役になりやすい。
エ.個人および家族を対象とし、家族内の関係の歪み、家族内力動を評価しながら対人関係の問題改善の個別相談あるいはグループワークの手法を使って援助する。
オ.その他、地域の健康問題の分析、調査研究、企画・調整の機能を持つ。
(2)保健婦との連携が必要な事例
ア.児童相談所が保護者と対立し、保護者への援助的介入ができない場合
イ.乳幼児への育児支援が必要になる場合
ウ.ネグレクトケース
エ.保護者に心の病がある場合
オ.以前からのかかわりで保健婦がキーパーソンとなっている場合
(3)保健婦とのネットワークの組み方
ア.問題を抱える家族に保健婦の存在を伝える
 保健婦への連絡の前に、当事者である問題を抱える家族に、地域の保健所や保健婦も援助者の一人であることを伝え、関わりを了解してもらう方がその後の介入がうまくいく。保健婦は何をしてくれる人か、どんな役に立つ人かを具体的に伝える。例えば「育児の相談にのってくれる人」「家族の悩みを聞いてくれる人」「病院を紹介してくれる人」等といった紹介の仕方で了解をとる。保健婦とつながることを保護者が固く拒否する場合には、今は拒んでいるが徐々に導入するように働きかけることも大切である。
イ.保健婦と連携し、ネットワークをつくる
 児童相談所へ通告があり、地域の保健婦を巻き込んで対応する必要がある場合には、問題を抱えている家族の居住する管轄の保健所に連絡をする。所属する課や係は都道府県・特別区・政令市によって異なるが、地区担当保健婦の氏名を確認して直接連絡をとる方がよい。地区担当性ではなく、機能分担性になっているようであれば、「母子保健担当の保健婦」「精神保健担当の保健婦」と伝えて担当者を確認する。最初の連絡は電話でもよいが、一度は顔合わせをしておく方が連絡がしやすくなる。連絡は事例の概要とともに何をどう依頼したいのか具体的に伝えていく。例えば「母親の育児相談にのってほしい」「精神疾患が疑われるので一緒に関わってほしい」「母と子に福祉サービスを導入したいが家庭訪問してほしい」等と依頼する。
 児童福祉司が連絡した後、保健婦がどう動いたか、情報を取り合うことが大事である。保健婦が、即動いて対応し、早い連絡が入るとネットワークが機能していくが、連絡もなく「忙しいからまだ訪問していない」「電話してもいない」と、緊急性があるにもかかわらず、動いていない保健婦の場合はネットワークが組みにくい。まだ経験が浅いため動けないでためらっていたり、拒否的な反応を示す保健婦の場合は、所管課の課長・係長にも連絡相談して所内での対応を依頼する。それでも保健所全体の動きが鈍いようであれば、児童相談所長を通して保健所長に連絡し、組織レベルのネットワークを組む。
 乳幼児が虐待されているとか、妊娠中の母親がいる場合は、母子保健事業を実施している市町村保健センター保健婦との連携も必須である。保健所保健婦から市町村保健婦に連絡して情報交換をするだろうが、児童福祉司からも直接市町村保健婦に連絡しておく方が動きやすい。保健所と市町村がともにネットワークを組みながら関わるような地域のサポートシステムをつくる。キーステーションがどこになるかは、事例ごとの判断になる。
ウ.保健婦から通告・相談を受けたとき
 子どもへの虐待は、家庭という密室で行われているために保健婦の家庭訪問や乳幼児健診から発見されることが少なくない。保健所や市町村保健センターでは、通告までいかない虐待のグレーゾーンもたくさん抱えている。その中から児童相談所に通告するのは、虐待かどうか評価をしてほしい、虐待なので一緒に関わってほしい、子どもの心理テストの依頼、保護者のカウンセリングを依頼する等々の場合である。いずれにしても保健婦と児童相談所との連携は、より必要であり、より密接な機関として位置づけ、連絡をとり合う必要がある。通告は電話でも了解し合うものとし、児童福祉司はその求めに応じていくような柔軟性が望まれる。
 地域保健分野で関わってきている事例は、これまでの信頼関係が保健婦とできているため、児童福祉司が一人で動いたり、初回に単独訪問することは控えるのが望ましい。初回は保健婦と同行して訪問し、信頼関係を壊さないように家庭の聴き取り調査等を行う。この場合ア.と同じように、保健婦から事前に児童相談所の機能と役割を伝え、保護者の了解を得ることもあるし、了解なしに通告することもあるので、詳細は個々に検討し対応していくようにする。
エ.ネットワークを動かすには
 保健婦等と連携しネットワークをつくっても、それが機能していかないと意味がない。特に、虐待が明らかな事例は児童相談所がキーステーションになることが多いので、ネットワークを動かしていくのも児童福祉司の仕事である。虐待の評価が一致しているか、共有されているか、事例の動向が共有され情報交換が双方にされているか、子どもの保護や保護者との関係修正・修復について話し合いがなされているか等について適宜見直しを行う。児童相談所だけで判断して、一方的な動きになっていくと、ネットワークはつぶれてしまう。ともに継続して家族に関わっていくようにする。ネットワークが機能するには、キーステーションに情報が集まり、情報が関係者の間を回るような仕組みにしていかなければならない。
 援助者としては保護者のプライバシーを守ることは最も注意しなければならない点であるが、そのことと援助チームが事例に関する必要な情報を出し合って率直に話し合うということは別の問題である。事例がよい方向に行くように関わる援助者同士の信頼関係がネットワークの基礎になる。ネットワークが機能しないとき、多問題でどこから介入すればいいか行き詰まったとき、誰かが抱え込んで情報が回らなくなったとき、児童福祉司も対応に疲れたとき等、困ることが生じたときには関わる関係者を集めて事例検討会を開く。
(4)事例検討会の開き方
ア.家族に身近な関係者が企画する(キーステーションとキーパーソン)
 事例処遇の経過から開催時期の判断、関わっている関係者の把握、何のために開くかの目的を明らかにして開催をする。通知は電話一本で了解されることが望ましい。ネットワークがタイミングよく機能していくためには形式主義から脱却する必要があるし、そうした関係性の中にこそ生きたネットワークが形成されていく。また、関わっている関係者には全員に声をかけることも大事なことである。
イ.会議体というよりミーティング感覚で開く(支え合うネットワークへ)
 地位や立場に左右されず、参加者は平等、できれば円形に座り、進行役を決める。それぞれの関係者が自分の関わりや事例に関する情報をオープンにして率直な話合いを順次していく。批判や非難をするのではなく、なぜそういう関わりになっているか問題を整理して、これからの方針や援助目標の最低ラインを定め、役割分担を話し合う。関係者が支えられているという感覚になるネットワークを目指す。
ウ.多問題、困難事例には専門家の助言を求める(自分の限界を知る)
 客観的な立場で、専門的に助言する弁護士や小児科医等のスーパーバイザーは、虐待への介入や治療には不可欠である。専門家をいかに巻き込むかということがポイントになる。

(8) 警察との連携
(1)日常の接触
 子ども虐待問題で有効な連携を行うためには、日常的な協力関係が重要である。
(2)迷子とネグレクト
 幼児の迷子で長期間保護者が見つからない場合や、短い期間で繰り返し迷子になる場合は、家庭での養育が問題になる。夜中に子どもが一人でウロウロしたり、2~3歳の幼児が日中長時間放置されているのは、「一種の虐待である」という認識を警察官にも持ってもらう必要がある。
 時には単に保護者の監護不行届というだけでなく、もっと深刻な放置(例えば食事を十分に与えない、数日家に帰ってこない)や、拒否(「いなくなればいい、事故にあって死ねばいい」と考える)の場合もある。
(3)家出と虐待
 小学校に入るころから公園等に寝泊まりしたり、「家に帰りたくない」と言う子どもが時々いる。警察としては普通、要保護児童として保護者に注意をしたり、子どもに注意を与える。
 しかし、この年齢の子どもが家出を繰り返すのは、夜間に家庭に一人で置かれ寂しい思いをしている、ひどい身体的虐待がある、常に両親が夫婦喧嘩で子どもが辛い思いをする、厳しいしつけで子どもが息が詰まりそうなど、子どもにとって適切でない家庭環境が考えられる。
 つまり、虐待とまで言えない場合でも、家庭内で子どもに対して不適切な養育が行われている現れである。虐待が疑われる外傷やその跡が見られたり、不潔でネグレクトが疑われる場合などには、児童相談所への通告が可能な場合もあるし、それが無理でも、保護者に児童相談所等の援助機関に相談に行くよう勧めてもらうことはできる。
(4)警察への通告の依頼
 住民や地域の関係機関から、児童相談所へ「あの家庭で保護者が子どもを放置しており、子どもだけで夜ウロウロしている」との通告がある場合がある。
 児童相談所として、状況の調査、児童の安全の確認、必要な場合には一時保護等を行う必要がある。調査の結果、直ちに一時保護までの必要がない場合についても、警察において発見や保護した場合には、児童相談所に通告してもらうよう管轄警察署に状況を伝えておくべきである。
(5)立入調査の際の援助の依頼
 児童相談所は虐待事例において、児童福祉法及び児童虐待防止法により家庭等への立入調査が認められている。  しかし、法に基づく立入調査が最近まで余り活用されなかったこともあり、その運用に当ってノウハウが十分に熟知されているとは言えない。
 立入調査に際して警察官の援助が必要と認められる場合には援助を依頼し、事前協議の上児童の安全の確認、必要な場合の一時保護、適切な立入調査等を実施しなければならない。いずれにしろ、虐待への対応においては、警察の十分な理解を求めつつ、あくまで児童相談所が主体的に行動することが大切である。
 なお、児童虐待防止法第10条において児童の安全の確認、一時保護又は立入調査等の執行に際して「援助の必要があると認めるとき」とは、保護者又は第三者から物理的その他の手段による抵抗を受けるおそれがある場合、現に児童が虐待されているおそれがある場合などであって、児童相談所長等だけでは職務執行をすることが困難なため、警察官の援助を必要とする場合をいう。
(6)虐待行為の犯罪性
 子ども虐待、特に身体的虐待は、刑法の「傷害罪」「暴行罪」に当たり、死に至れば「殺人罪」や「傷害致死罪」などに問われる。また性的虐待の場合は、「強姦罪」「強制わいせつ罪」「準強制わいせつ罪」などに問われる。児童相談所が行う立入調査や一時保護の執行が妨害されたり、職員に対し暴行、傷害、脅迫がなされれば、暴行罪、傷害罪、脅迫罪或いは児童福祉法第62条第1号に該当する。刑事訴訟法第239条では、公務員はその職務を行うことにより犯罪があると思料するときは、告発する義務のあることが規定されている。
 子ども自身が「自分が悪いことをしたために家族がバラバラになり施設に入所せざるを得なくなった。」と否定的に受け止めないために、また、客観的な情報をもとに処遇方針を決定するため、正確な事実関係を把握する上で告発が必要な場合もある。
 児童相談所は子どもと保護者を含めた家族全体を視野に入れた援助を行うための機関であり、児童の最善の利益の観点から告訴、告発が必要な場合には躊躇なく行うべきものである。
 保護者には援助的に関わり、虐待のない家族関係の構築を目指すことが原則であるが、一方で「虐待は犯罪である」ことの自覚を援助者自身が持っておく必要があり、保護者の逮捕・拘留など警察との連携が必要な事例もあることに留意する。
 なお、告訴、告発の際には児童相談所が提出する情報、資料についての開示、非開示に関して警察と十分協議しなければならない。
 また、立入調査の妨害については、立入調査自体が通常の福祉的援助が不可能な状況下で実施されるものであり、児童の福祉上不可欠な措置として強制力を間接的に担保するため、児童福祉法第62条で罰則が規定されているものである。正当の理由なく立入調査の執行を拒み、妨げ、若しくは忌避し、又はその質問に対して答弁をせず、若しくは虚偽の答弁をするなどの場合には、必要に応じ本規定の活用が図られるべきである。具体的には、保護者の立入調査への妨害等に対して、児童福祉法に違反する旨を告げ、調査への協力を説得し、調査の執行が円滑に行われるようにする。それでもなお、調査に応じない場合には、児童の状況、虐待の蓋然性を総合的に判断し、警察等への告発等を検討する。
〈参考〉
・刑事訴訟法
第239条(告発)
何人でも、犯罪があると思料するときは、告発をすることができる。
2:官吏又は公吏は、その職務を行うことにより犯罪があると思料するときは、告発をしなければならない。
第241条(告訴告発の方式)
告訴又は告発は、書面又は口頭で検察官又は司法警察員にこれをしなければならない。
2:検察官又は司法警察員は、口頭による告訴又は告発を受けたときは調書を作らなければならない。
(7)警察への働きかけ
 児童虐待防止法が施行されたとはいえ、児童相談所、警察双方に虐待への対応についての協力のノウハウがまだ十分ではない場合もある。何かあったとき突然に警察に援助を依頼するのではなく、日頃からの情報の共有や意見交換の機会を持ち円滑な協力関係を作ることが必要である。

(9) 弁護士との連携
 虐待問題に関する弁護士の関心はかなり高まってきたが、まだすべての地域に揃っているわけではなく地域差がある。
 弁護士は通常、社会的な要請、ニーズによって関心が育ち、研究するようになるので、児童相談所としては積極的に弁護士に問題提起をしていくのがよいであろう。その場合でも、関心を示しそうな弁護士を探すのも時間がかかるので、ストレートに弁護士会に対して「共同研究会を開催したいので出席を呼びかけてほしい」と申し入れることもよい。あるいは「日本弁護士会連合会の子どもの権利委員会(子どもの福祉小委員会)」に連絡し、「○○県ではどういう弁護士が関心を持っているだろうか」と問い合わせるのもよい。
 弁護士と接触できるようになったら、まずは共同研究会をしっかり継続して、具体的な事例によって弁護士を教育するくらいの意気込みが望ましい。弁護士による法的介入が直ちに必要な事例ではなくとも、広く虐待の実情を弁護士が知ることは、非常に大きな力になるはずである。弁護士会と児童相談所が共同研究会を継続して行っている地域として、神奈川県や北九州市、大阪府、大阪市などがある。
 これらは任意の研究会であるが、そこで関心を持った弁護士を県の公的な対策委員会や審議会のメンバーに加えることもよい。(漫然と従来からの県の顧問弁護士を充てるというのは感心しない。)
 具体的な事例に弁護士が関わるようになると、連携は一段階進む。児童相談所として児童福祉法第28条申立てに協力してもらう、という形もあるであろうし、親族による親権喪失宣告や親権者変更の申立ての代理人という形で実質的に児童相談所と連携する場合もある。現在、大阪や神奈川で、弁護士が個々の児童相談所の虐待事例を恒常的に分担して相談に預かるようになっている。
 弁護士が動く場合にはそれなりの費用が問題となるが、対策委員会や個別事例の作業委員会への参加日当等の形で賄われているのが実情である。(ちなみに、親族による申立ての代理人となる場合には、その親族から費用まで出してもらえないこともあり、法律扶助制度を利用するのも一方法である。)

(10) 家庭裁判所との連携
(1)子どもの虐待事件が発生した場合、児童相談所による援助や介入の仕方は、在宅指導、緊急一時保護、保護者の同意を得た施設入所の順に親子関係への介入が強まってくる。虐待が発生し、あるいは虐待が強く疑われて、子どもの福祉と最善の利益を実現するために保護者の意思に反してでも緊急に親子関係への介入が必要な場合、次に記すような事件を申し立てることによって親子の分離を図ることになる。
 なお、連携にあたり一般的に念頭におくべきこととしては第5章7.(2)を参照のこと。

[事例1]
子どもの児童福祉施設等への入所の承認、および事案によっては併せてこれを本案とする審判前の保全処分の申立事件
ア.父28歳、母26歳の間に生まれた3歳の男児は、よく泣くことから母が叩いて折檻を加え、食事を与えず発育遅滞が見られた。父も飲酒の上、男児の太腿にたばこの火を押し付けたして虐待を繰り返していた。男児が食事をこぼしたことから母は怒って男児を放り投げ、床に頭部を打ち付けて脳内出血で病院に収容された。それまでにも男児の大きな泣き声に不審を抱き、民生・児童委員が児童相談所に通報し、 児童福祉司が家庭訪問をしたが、父母は虐待の事実を否定していた。男児が入院後、父母を児童相談所に呼んで事情を聞いたが、男児が転倒して頭を打ったと主張して虐待事実を否認し、早期に男児を病院から退院させて引き取りたいと医師や児童相談所の職員に迫った。
イ.男児は、入院後食事もよく摂り、身長や体重の増加が見られた。児童相談所の職員は、父母に男児の児童養護施設への入所を勧めたが父母は同意を拒否し、今にも病院から男児を連れ戻そうという素振りを見せた。児童相談所では、困難な事例であることから、男児が入院した直後に家庭裁判所への申立てもあり得ると判断し、申立ての時期、必要書類、その他の留意事項等について家庭裁判所調査官と連携をとった。
ウ.母が病院で男児と面会した折に男児を連れ出そうとして医師から阻止されたことを契機に、児童相談所では、緊急に処遇会議を開き、児童相談所長が家庭裁判所に法第28条による児童福祉施設への入所の承認を申し立て、併せて同事件に対する承認が得られるまでの間、父母が病院からの転退院手続の禁止と男児が退院可能となった時点から児童福祉施設への入所承認が得られるまでの間、児童相談所長は男児に対して一時保護を加えることができる旨を内容とする審判前の保全処分の申立てをした。
エ.児童相談所の職員は、とりあえず必要な資料をそろえて家庭裁判所に申立てをした。家庭裁判所は1週間後に裁判官による審問期日を指定するとともに、それまでの間に、2人の調査官による共同調査を命じ、調査官は、手分けをして児童相談所の職員との面接や追加資料の提出指示、病院での子どもの調査と担当医師や看護婦との面接、父母との面接を実施し、要点を整理して簡潔な報告書を裁判官に提出した。第1回の審問期日に裁判官は、児童相談所からの申立て資料、調査官の報告書に加え、父母に対する審問の結果を総合して判断し、本案である法第28条についても認容の蓋然性が高いと判断して、申立てどおり審判前の保全処分を認容した。
オ.その後も児童相談所の職員は、子どもの様子や父母との面接の経過を調査官に密接に連絡した。調査官は、更に種々の資料を集めるとともに児童相談所で職員と父母との合同の面接を行い、父母の男児への養育の大変な気持ちを支持するとともに、父母がとりあえず男児を児童養護施設へ預け、その間に児童相談所の職員や保健婦から男児のしつけや養育の仕方について助言を受けていく方向に話が進んだ。その後、第2回の審問があり、裁判官は法第28条の施設入所の承認を言い渡した。
(2)家庭裁判所との関係では、事前の連携、迅速な申立て、虐待や福祉侵害の資料の追完、児童相談所職員を中心とした子どもを取り巻く関係機関ネットワークの人々と調査官との円滑な連携、裁判官および調査官への当該子どもの虐待理解を助ける資料の提出などに留意しておくとよい。
 なお、法第28条事件の審理に臨むに当たっては、必ずしも明白な虐待の有無の証拠提出に拘泥せず、監護の著しい不適切さの有無の存在など、子どもの福祉侵害の状況を明らかにするように努めることでよい。
(3)法第28条の申立てのうち、35パーセントは取下げで終了している。その中には、家庭裁判所に申し立てて審理を進める過程で、保護者が施設等への入所に同意し、実質的な解決を見た事例もある。その一方で、施設等入所の承認が得にくく、却下が予想されたためにやむなく取り下げた事例もある。しかし、子どもの福祉侵害が強く推認され、資料等をそろえて審理を受けても、家庭裁判所の理解が十分に得られずに却下される場合には、却下を恐れず、抗告して高等裁判所の判断を仰ぐことも必要であろう。福祉侵害の存在が強く疑われる場合には、高等裁判所の判例を積み重ねることによって、子どもの虐待や子どもの最善の利益を図ることへの認識が広く理解されていくことになる。

[事例2]
親権喪失宣告、および事案によっては併せてこれを本案とする親権者の職務執行停止および職務代行者選任の保全処分の申立事件
ア.母33歳は離婚し、3年前に5歳年下の男性と再婚し、自分の9歳と5歳の女児は継父と養子縁組をしている。母は夜スナックに勤めているが精神障害があり、二人の子どもを殴る、蹴る、髪の毛を持って引き回すなどして、これまでも度々けがをさせて入院を繰り返していた。養父も定職がなく、粗暴性があり、子どもへの殴打のほか、母が深夜帰宅すると母を殴ったり、さらに2年前から寝ている二人の養女を触ったりして性的虐待を繰り返してきた。長女が夜間徘徊して警察に保護され、帰宅を嫌がったことから児童相談所に通告された。長女の話や身体のけがの跡や痣から父母の身体的虐待が強く推測され、養父の性的虐待も疑われた。
イ.父母は、子どもへの殴打はしつけの一環であると言い、長女の引取りを強く主張した。しかし、長女は帰宅を嫌がったことから児童相談所は長女に対して一時保護の措置をとり、 長女と次女の身体的、性的虐待が強く疑われて緊急に二人の子どもを保護することが必要と認められた。そこで、児童相談所長は、弁護士に相談し、その協力を得て母の実母を申立人として家庭裁判所に親権喪失宣告の請求をした。また、緊急に子どもを親から分離する必要があると考え、翌日に親権者の職務執行停止および職務代行者の選任の保全処分を追加して申し立て、弁護士に職務代行者になってもらうことにした。
ウ.児童相談所では、事前に家庭裁判所調査官に電話で事件の概要を説明し、間もなく親権喪失宣告事件を請求する予定であることを含めて連携をとった。家庭裁判所では、事件受理後、事件についての打合せをし、虐待が相当程度疑われ、かつ緊急性があり、親権喪失宣告(本案)の認容の蓋然性も高そうであることから、まず親権者の職務執行停止および職務代行者の選任について調査を進め、同時に第1回の審問期日を決めた。三人の調査官による共同調査が決まり、調査官は申立人である母の実母、児童相談所の職員、弁護士等と面接調査をし、保全処分の審理に必要な諸資料の提出を受けた。同時に、第1回審問期日に裁判官が親権者の職務執行停止および職務代行者の選任を認容した場合、親権者の職務執行停止をどのように父母に告知し、同時に父母と同居している次女をいかにタイミングよく父母から分離して児童相談所に一時保護するかを弁護士を中心に綿密に検討し、無事次女を父母から分離させた。
エ.その後、母や養父が再三児童相談所に押しかけて子どもへの面会や引取りを要求して職員を困らせた。三人の調査官は、さらに調査を進めるとともに児童相談所において担当職員、弁護士、長女を委託一時保護した施設の担当職員、一時保護所の担当職員など、子どもを巡る関係者と定期的な情報交換と打合せを重ねた。裁判官は、調査官の調査結果や児童相談所等から提出された諸資料、父母への審問の結果に加え、父母のこれまでの行為や養育への考え方、父母の将来の養育方針等を総合的に検討した結果、父母の下で養育されることは将来的にも二人の子どもの福祉に著しく反すると判断して、親権喪失宣告を認容した。二人の子どもは、実父に引き取られ、養父との養子縁組を解消した上で親権者を母から実父に変更して本件は最終的な決着を得た。
(4)虐待の事例が家庭裁判所に係属した場合、家庭裁判所調査官や裁判官に対して子どもを中心にした虐待に関する資料や情報をこまめに提出し、虐待の問題に対して家庭裁判所調査官や裁判官等に一緒に考えてもらい、子どもの福祉や最善の利益が得られるような判断をしてもらうことが必要であろう。

[事例3]
親権者変更申立事件
ア.父37歳は離婚し、13歳の女児と古いアパートに住む父子家庭である。父は、肝臓を患って生活保護を受給し、女児を家に閉じこめて朝から酒を飲んでいることが多い。女児は不登校で中学校の教師が家庭訪問しても、父は戸を開けようともしない。福祉事務所の社会福祉主事の話によると、家の中は衣類や弁当の空き箱などが一面に散乱して足の踏み場もないほどであり、万年床が一枚敷いてあってそこに親子で寝ている様子だという。近隣の住人によれば、女児は不潔な服装で痩せて顔色も悪く、ひどくおびえている様子であったという。
イ.児童相談所に近隣の人から通告があり、保護の怠慢など子どもの虐待が疑われ、放置できないと判断されたため、父親の外出時に合わせて児童相談所と福祉事務所の職員が家を訪れ、女児を説得して戸を開けさせ、おびえて躊躇する女児を納得させて児童相談所に緊急一時保護した。父親は酒に酔って児童相談所に女児を返せと怒鳴りこんできて暴れたりした。女児は、食事も十分に与えられず、半ば監禁されているような状況であった。父は、女児の施設への入所には全く応じないため、児童相談所は、対応を検討し、女児の実母を見つけ出して実情を話した。実母は女児を引き取れる状況にはなかったが、女児の窮状を理解し、自分が親権者になると言って児童相談所の援助を得ながら家庭裁判所に親権者変更の申立てをすることにした。
ウ.児童相談所は,日ごろから協力を得ている弁護士と相談し、家庭裁判所に親権者変更の申立てをした。父は、調査官に女児の引取りと自分が養育することを繰り返し強く主張した。裁判官も実母が直接引き取って養育できないことから、親権者変更の必要性と相当性についての判断をなかなか示さなかったが、児童相談所の職員が調査官に子どもの福祉が侵害されていて虐待に当たることを具体的な事実や資料を提出して説明し、また、福祉事務所の社会福祉主事からも資料の提出や説明をしてもらい、女児自身も父と生活をともにしたくないと考えるようになり、自分の気持ちを書いた上申書を裁判官に提出したりした。
エ.調査官は調査を進め、女児を一旦は児童福祉施設に預けるものの、近い将来、実母が家庭環境を整えて女児を引き取れる可能性が見えてきたことから、裁判官にも調査結果を報告し、裁判官は、審判を開いて父母をはじめ児童相談所の職員等の意見を聴取して検討を加えた結果、親権者変更の決定がなされた。
(5)児童相談所と家庭裁判所が協議を行い、家庭裁判所が遵守事項を定めて保護者に約束させることにより、28条申立を取り下げた事例。

[事例4]
施設入所の承認を求める児童福祉法28条申立事件
ア.父は2人の連れ子を伴い、また母も2人の連れ子を伴って再婚し、さらに新たに生まれた乳児を抱え7人で生活を営んでいた家族。しかし、父は飲酒癖があり、仕事も転々として現在は失業中である。妻子に暴力を振るうほか、他人に対しても暴力・暴言を常習とし、過去に恐喝事件を起こしている。また、近隣では有名なトラブルメーカーとして親族も含め、周りの者が皆が関わりを避けている。
イ.父が妻子に対し頻繁に暴力をふるっている旨、近隣より通報が入る。長男が通っている学校に出向いて調査を行うと、父がしばしば学校に対しても無理難題を押しつけたり、子どもに命じて暴力行為をさせたり、また時に実子の幼児に足蹴りをしたりという事実が明らかになる。関係者による緊急ケース会議の場をもうけ協議を行うが、とうてい話し合いのできる親ではないとの意見により、立入調査と職権による子どもの一時保護を実行する旨、意志確認する。
ウ.打ちあわせた日に、児童相談所、警察、弁護士を交えて立入調査を実行。当初、生活保護費の支払いの機会をとらえ、福祉事務所において母だけに面接をして暴力の事実と逃げる意向を確認するが、母自身は夫と別れる意志がない旨判明。よって、学校、保育所、自宅と巡回し、上の4人の子どもを職権で保護するとともに、父母には今後の子どもの監護については家庭裁判所の判断に委ねる旨伝える。なお、末子の乳児には被虐待の兆候がなかったので、父母の意向を斟酌し、保護については保留の扱いとする。
エ.家庭裁判所には末子を除いた4人の児童を28条対象として申立を行う。一時保護を行った4人の児童の観察では、母の連れ子を除いて、家庭への愛着が強く、子どもにより微妙に差異があることが明らかになる。家庭裁判所との何度かの協議では、現状では28条の承認に迷いがある旨裁判官の判断が示される。父母もまた、いきなりの職権保護で、このまま施設に入所するのでは親として努力のチャンスが得られないとの訴えもあり、一定の枠組みを与えた上での在宅での指導と観察ができないか、児童相談所と家庭裁判所で協議がなされる。
オ.家庭裁判所が児童相談所と保護者双方に対して、在宅での遵守事項を守るという約束のもとに、申立を取り下げるという合意を交わし、以降、在宅指導による経過観察ケースとして対処することになる。
カ.遵守事項は以下の通り。
一 父○○及び母○○は、以下の事項を約束する。
1 子どもたちに対して暴力を振るわない。
2 子どもたちを学校や保育所に毎日通わせる。
3 子どもをめぐって近隣等ともめごとを起こさない。抗議や口論の場に子どもたちを連れていったり、子どもたちをもめごとに巻き込んだりしない。
4 以上1ないし3のほか、子どもたちが安心して落ち着いた生活を送ることができるよう、子どもたちを適切に監護養育する。
5 児童相談所が子どもたちや家族の生活の様子について、電話や家庭訪問等によって確認を行う場合には、これに協力する。
6 転居したり長期間自宅を不在にする場合には、事前に児童相談所にその旨を連絡する。
一 父○○は、母○○に対し暴力を振るわないことを約束する。
(6)虐待に関する事件については、郵送による申立ては避け、事前に連携を取ったり、家庭裁判所に申立てに行き、調査官に直接事件のポイントや状況、緊急に必要なことや申立て後の連携のとり方などについて十分打合せをすることが望ましい。
 家庭裁判所は、司法的判断をする機関であるが、子どもの虐待に関する事件は緊急性や流動性を持ち、虐待への深い理解、必要な資料の収集、虐待を行っている保護者や虐待を受けている子どもへの内面の理解、関係者個々の持つ問題性、同居の可否、家族の再統合の可能性の判断など、家庭裁判所で扱う他の家庭事件とはかなり違った要素を多く含む事件であるので、申立てに当たっては、そのような状況を十分に考慮して、裁判官、調査官、書記官などを虐待問題の理解者であり、子どもの福祉実現のための協働者となってもらえるような種々の配慮と工夫をしていくことが必要である。

(11) 民間虐待防止団体との連携
(1)民間虐待防止団体について
 1990(平成2)年に大阪で「児童虐待防止協会」が、1991(平成3)年には東京に「子どもの虐待防止センター」が発足して以来、子どもの虐待に関心を持っている専門家やボランティアによる活動が全国各地に広がりつつある。
 各団体の組織や活動内容などについては、地域により異なるが、主なものは以下のとおりである。
ア.目的・組織
 各団体には、福祉、保健、医療、心理、法律等の専門家も参加しており、子どもの虐待防止と子どもと家族への援助、関係機関・専門家のネットワークの形成等を目的としている。
イ.活動内容
 具体的な活動の主なものは、子どもの虐待に関する電話相談や地域の関係機関への紹介・通報、学生や専門家向けの講演会・研修会の開催、虐待の早期発見や防止のための啓発活動、調査研究活動等である。
 虐待に悩む母親の治療グループや自助グループへの援助活動をしたり、危機介入時に弁護士を派遣しているところもある。
 電話相談では、相談者に対する心理的サポートや助言が中心であるが、継続的な電話カウンセリングを実施しているところもある。また、電話で受けた相談や通報で緊急対応が必要な場合など、地域の関係機関(児童相談所、保健所、市町村保健センター、福祉事務所(家庭児童相談室)等)に紹介・通告することもある。
 なお、1994(平成6)年に「国際児童虐待防止国際シンポジウム&セミナー」が東京で開催されたのを契機に、1996(平成8)年4月「日本子どもの虐待防止研究会(JaSPCAN)」が発足し、第2回大阪大会として開催された。以後、第3回横浜大会、第4回和歌山大会と毎年開催されており、講演、シンポジウム、事例研究、各専門分野からの研究発表などが行われている。会員は、福祉、保健、医療、心理、教育、司法、行政等、幅広い領域から集まっており、会員数は、1998(平成10)年7月現在、 996人となっている。
(2)連携のあり方
 これら民間虐待防止団体は電話相談を活動の主要な柱としているが、電話という手段による簡便性、匿名性、民間団体の機動性、柔軟性といった利点から、多くの相談が寄せられており、効果を上げている。
 児童相談所の場合、関係機関からの通告に基づく親子分離を必要とする深刻な虐待問題が多いのに対し、これら民間団体に寄せられる相談は虐待をしている本人からのものが多く、その内容も「子どもの育て方がわからず、イライラする」「子どもに愛情が感じられない。このままだと虐待してしまうのではないか」といった虐待の前段階か早期の段階での相談が多いのが特徴である。
 子育て家庭の孤立が虐待の大きな要因となっている現在、これら民間団体による支援活動は虐待防止の観点から極めて重要な役割を果たしている。
 しかし、民間の虐待防止団体は法的権限を有しておらず問題解決において一定の限界がある。また、守秘や組織的対応等においても限界があると言わざるをえない。したがって、民間虐待防止団体の利点を活かしながら問題の効果的解決を図るには、民間の虐待防止団体、児童相談所がそれぞれの利点や限界を補完しあいながら一体的な援助活動を展開していく必要があり、そのためには相互の緊密な連携が不可欠となる。民間虐待防止団体との連携を図る場合には下記の点に留意する必要がある。
ア.通告・紹介
 民間虐待防止団体の機能的限界を超えた法的対応等を要すると認めた場合は速やかに児童相談所に通告または紹介してもらえるよう、児童相談所は日頃から民間虐待防止団体との意思疎通、情報交換を密にしておくこと。  民間虐待防止団体が児童相談所、保健所、福祉事務所(家庭児童相談室)などに呼びかけて定期的な連絡会を開催し、事例報告や情報交換等を行っているところもある。
 なお、民間虐待防止団体から児童相談所に通告、紹介してもらう場合は、原則として相談者本人の同意を得ておく必要があり、このことを民間虐待防止団体に周知しておく必要がある。
イ.援助
 上述したように民間虐待防止団体には民間ゆえの気軽さがあり、児童相談所が係属している事例についても保護者が引き続き電話等によって民間虐待防止団体に相談することはあり得る。援助の実効性、一貫性を確保するためには、必要に応じ処遇方針や処遇内容等について情報・意見交換を行うことが重要である。
 ただし、民間虐待防止団体には法上の守秘義務がないことに鑑み、連携に当たってはプライバシーの保護等が確保されるよう十分留意する必要がある。


2.児童福祉施設
(1) 児童相談所との連携
(1)何故、今連携が求められるか
 被虐待児に対する施設入所措置を採るまでの児童相談所のファミリーソーシャルワークは、時に困難をきわめる。入所させた後は関わりが緩慢なように見られる場合があり、児童福祉施設側も措置入所した以上、児童相談所との距離が離れていて、そんな細かいことを話しても分かってもらえないと感じたり、施設にベテラン職員が配置されているからなどの理由から、連絡や相談を控えるなどの事例が見受けられる。
 しかし、児童相談所と児童福祉施設は車の両輪のようなもので、双方とも電話連絡、相互訪問による面接や連絡会議、処遇検討のための会議などを通じて、共通した認識で同じ方向を目指さねばならない。被虐待児の援助に当たっては、子どもが虐待関係の再現傾向を示し、逆転移に巻き込まれてしまう場合もあり、グループホームや家庭的養育の場合も個人プレーは禁物で、二人以上の職員で連絡、相談していくのと同様に、被虐待児とその保護者に対する援助は一施設だけでは良い結果が得られない。児童福祉施設としては、措置入所である以上、児童相談所との密接な連携は当然のことである。児童相談所の処遇方針と保護者・子どもの意向が異なる場合や困難な保護者対応が求められる事例において、児童相談所が児童福祉審議会への意見聴取するのと同じく、施設もまた、児童相談所と適切に役割分担をしながら、互いに助け合い連携しながら、虐待を行った保護者と子どもを援助することが重要である。なお、連携を進めるためには子ども、保護者の権利やプライバシーの保護への配慮をベースとした、両者の専門的信頼関係が求められる。
(2)具体的な連携のあり方について
ア.入所直前の協議
 子どもの入所に備え、事前に施設での生活と援助(治療)の目的・方針、入所の期間(治療の見通し)、援助方法(親子関係の持ち方、面会・帰宅等)、家庭復帰後の援助などについて児童相談所と十分協議する。時には地域の学校や保健所など関係機関にも協力が得られるよう調整することも必要である。場合によっては子どもや保護者の不安を軽減するのに、施設長、保育士、児童指導員等が一時保護所を訪問したり、子どもや保護者に施設を事前に見学させるなども効果がある。
イ.入所当日の連携
 入所当日は子どもと保護者の緊張が高く、面識がある児童相談所職員と施設職員双方が協力して、歓迎している気持ちが伝わるように、あたたかな接触態度を心がけるべきである。面接途中、子どもと保護者にホームの見学などの時間を設定し、その間、施設と児童相談所が保護者対応において必要な事柄を再度点検・打合せしておくのもよい。
 保護者の同意が得られにくい状況での入所では、保護者が突然、子どもの面会や引取りを求めてくる場合があり、事前に児童相談所から最寄りの警察へ連絡をしてもらうなど、不測、不慮の事態にも対応出来るための方策や、夜間や休日にも児童相談所職員と緊急連絡が取れるための体制などについて十分打合せをしておく必要がある。
ウ.入所直後の連絡
 入所直後の子どもの様子、学校での生活、保護者の動きなど児童相談所と連絡を取り合うことは、その後の援助に必要である。
エ.面会、許可外泊時における連携
 面会に当たっては、親子の表情や双方の言葉のやりとり等を十分観察し、これらを具体的に記録しておくとともに、必要に応じて児童相談所に報告する。
 親子関係に一定の改善が見られ、許可外泊が適当と思われるときは、児童相談所と十分協議を行う。許可外泊中に観察や指導のため外泊先の訪問が必要と思われる事例については、事前に児童相談所と協議し、誰がいつ訪問しどのような指導や援助を行うのか綿密な打合せを行う。
 許可外泊を終え子どもが施設に戻って来たら、子どもや保護者から外泊中の様子を聞くとともに、子どもと保護者の様子や会話等を観察する。また、入浴時の身体観察等を自然な形で行う。これらを具体的に記録し、児童相談所に報告する。
 また、児童虐待防止法第12条に基づき、児童の健全育成の観点から児童と保護者との面会を制限する場合には、児童相談所と連携をし、子どもや保護者に対して十分に配慮、調整する必要がある。
オ.処遇指針と児童自立支援計画
 「児童養護施設等における入所者の自立支援計画について」(平成10年3月5日付児家法第9号)により、児童相談所からの処遇指針に基づき、児童養護施設等では児童自立支援計画を策定することとされている。作成にあたっては、児童相談所と十分連携を図る。児童相談所職員の施設訪問や連絡会、処遇検討会議等を通じて、児童相談所と施設が子どもの処遇について十分協議し、これを児童自立支援計画に盛り込む等、児童自立支援計画は定期的かつ必要に応じて見直していく。
カ.退所にあたっての連携
 許可外泊を繰り返し、親子関係が改善され、家庭環境も調整され養育機能の回復が見えてきたら、児童相談所と協議の上、措置停止を経由して措置解除すなわち退所となるが、この見極めが最重要課題である。第8章2.(8)(2)を参照して、慎重を期して連絡、相談を繰り返し、密接な連携のもとに決定される。
 退所が決定された場合は、児童相談所を介して保育所、学校、保健所等の関係諸機関と連携するとともに、児童相談所が中心となって開催する地域関係機関による事例検討会等に参加し、退所後も子どもが安心して生活出来る環境を整備するなど、児童相談所と連携しながら必要な自立支援に努める。

(2) 福祉事務所(家庭児童相談室)との連携
(1)家庭児童相談室の業務
 家庭児童相談室は、1964(昭和39)年「近年、社会の変動に伴う家庭生活の変化により、家庭における児童養育に関し、種々複雑な問題が発生している現状である」という状況認識のもとに、家庭児童福祉に関する専門的な相談指導の強化を図るために設置され、その設置運営については「家庭児童相談室設置運営要綱」(昭和39年4月22日付厚生省発児法第92号厚生省事務次官通知)により規定されている。現在、全国に約1,000カ所近く設置されている。
 家庭児童相談室の相談内容は以下のとおりである。
・家庭における児童養育の技術に関する事項
・子どもに係わる家庭の人間関係に関する事項
・その他家庭児童の福祉に関する事項
 上記の業務を担当する中心スタッフとして社会福祉主事と家庭相談員が配置されている。
(2)福祉事務所(家庭児童相談室)との連携の必要性
 保護者や子どもへの援助は、施設と児童相談所のみの連携では十分ではない。特に、保護者宅が児童相談所から遠距離にある場合には、詳細な家庭状況や子どもの状況把握は困難である。そうした場合、福祉事務所(家庭児童相談室)との連携が不可欠になってくる。地域によっては、家庭相談員が個別の幅広い相談に応じながら、地域の子育て支援活動を進める役割を果たしてきている。こうした活動を通して、地域の関係者との対人的なつながりを形成してきて地域に密着している場合が多い。その意味からも、被虐待事例の対応のために、施設側としてこうした地域資源を活用するために、福祉事務所(家庭児童相談室)との積極的な連携方策を求めていくべきである。
(3)施設入所中の連携
 施設に被虐待児が入所してきた当初は、保護者は子どもを引き戻したいという強い気持ちにかられている場合が多い。なかには強引に子どもを引き取ろうとする保護者もいる。そうした場合の援助者として家庭相談員等の活用が有効である。あるいは、虐待を行った保護者への援助なしには、問題改善に結びつかないことから、こうした保護者へのソーシャルワーク的、あるいは心理的な援助を、施設との連携のもとに展開することが可能である。事例としても家庭相談員等のカウンセリングによって、保護者自身が守られているという安心感から、怒りなどの感情の適切な抑制が形成されるようになった例も報告されている。
 また、施設より一時帰省中の子どもの状況や、保護者の状況など観察結果の報告も期待でき、親子関係修復のプログラムに生かしていくことも可能である。あるいは、保護者が生活保護世帯の場合には、社会福祉主事の家庭訪問等が定期的にあるので、その結果について随時報告を受けることが可能であり、保護者の生活状況が適切に把握できる。こうした資料をもとに児童自立支援計画や家庭環境調整に活かしていけるのである。
(4)家庭復帰をめぐる診断評価への参加
 被虐待児の家庭復帰については、施設をはじめ関係機関の慎重な判断が求められる。最終的には児童相談所の判定によることだが、その診断資料として福祉事務所(家庭児童相談室)の観察報告が重要になってくる。保護者宅の情報を最も多く収集していることも多く、診断にとって貴重な資料になることは言うまでもない。こうした重要な評価への参加は連携の産物である。
(5)家庭復帰後の状況把握と援助
 家庭環境、親子関係の調整が成功して家庭復帰をした場合、もちろん施設側も可能なかぎり家庭状況の把握に努めなくてはならないが、関係機関の連携によって的確な実態把握が可能となる。同時にさまざまな側面から虐待の再発防止のために援助していかなければならない。特に、保護者の居住地に近い福祉事務所(家庭児童相談室)の場合には、その役割に期待できることが大きい。

[事例]
 A地区には、中学校区を範囲とし地域の中に子育て支援のネットワークが確立されており、家庭相談員がコーディネーターとなっている。ネットワークを構成するメンバーは家庭相談員、児童相談所、民生・児童委員(主任児童委員)、保健婦、児童館である。早期発見・早期対応を図るために情報交換を行い、危惧する事例があれば緊急に事例検討会が開かれる。
 場所はときには児童館であったり、保健所であったり、地域の集会所であったりする。
 そうしたA地区に児童養護施設から被虐待児であったB子(中学2年生)が家庭復帰してきた。B子は、養父による性的虐待のため自分から保護を求めてきた子どもであった。実母は離婚し父子家庭であったが、B子が施設入所したことを知って、実母はB子と共に生活をしたいと引き取りを希望した。実母とB子との交流を半年間続けた後、A地区の母子住宅に家庭復帰させた。母子住宅は、家庭児童相談室の配慮に基づくものであった。養父にはこうした情報をいっさい漏らさないことを、施設をはじめ関係機関で決定した。家庭相談員は、B子に対して母親が不在のときに万一養父が出現したら、福祉事務所もしくは主任児童委員宅に避難するよう指示し、それぞれに案内をして説明した。中学校長にも事情を説明し支援を求めた。
 施設側に対しては、定期的に家庭相談員から情報提供がなされており、安定した母子生活が送られていることが報告されている。

(3) 学校、保育所、幼稚園との連携
 児童養護施設等にとって、被虐待児の事例に限らず教育機関や保育所などとの連携は、子どもの処遇上不可欠なことである。学校、保育所、幼稚園での子どもの生活を通して保護者の状況や、子どもの家庭での生活状況の把握ができることから、施設側は入所前や入所中、退所後の学校等と情報交換や意見交換を行ったりすることが当然のこととなっている。とりわけ被虐待児の事例では、子どもの心の癒しのためにも、再発防止のためにも学校等との連携は必須条件であり、児童福祉施設側から積極的に働きかけを行うべきである。
(1)施設入所前の学校等との連携
 児童養護施設等における被虐待児の自立支援計画の策定については、より慎重に行わなければならない。特に子どもの心の癒しを最優先に取り組まなければならないことから、入所前の情報をできるだけ正確に把握し、それを資料にして適切な処遇を提供していくことが求められる。子どもの学校等での行動特徴や人間関係の形成能力、集団への参加・適応度などや教員との関係をはじめとして、親子関係、家族関係など収集すべき情報は多々ある。  また、これらの情報は施設入所後の学校等における生活適応にも役立つ情報でもある。もちろん学校間同士による情報交換は多くされているが、保育所や幼稚園ともなると必ずしも情報交換が行われているとは限らない。いずれにしても施設側がより望ましい処遇を提供するためには、入所前の学校等との連携を積極的に行うべきである。
(2)施設入所後の学校等との連携
 児童福祉法第28条の承認により施設へ入所してきた子どもについては、とりわけ学校等との密接な連携が必要になってくる。よくある事例としては、登下校において保護者が子どもを連れ去ったりとか、保護者であるといって、学校側に子どもの面会や引戻しを要求したりする例もある。学校側がよく子どもの事情を理解していないと、保護者との対応にとまどうことが出てくる。
 こうした例もあることから、保護者が学校に現われた場合には、学校側の単独での判断をせず、施設に即連絡をするような申合せを事前にしておくということも必要である。性的虐待を行った養父が、子どもを取り戻そうと登下校に校門に待ち伏せしていた例があり、そのため数カ月間、子どもの登下校を職員が付き添ったという報告もされている。子どもの生命・安全のためにも、施設入所後の学校等との連携を強めなくてはならない。
 また、被虐待児のなかには人間関係が上手にとれず、学校の友人にも攻撃的になったり暴力的行為をする場合がたびたびある。また、教師に対しても、挑発的であったり、反抗的であったりして、指導困難に陥ることもある。そうした被虐待児の心理や行動特性について、十分理解を得ることが円滑な学校生活のためには欠かせないことであり、施設としても積極的に協力していく必要がある。
(3)施設退所後の学校等との連携
 家庭環境の調整等により、家庭復帰が可能になった場合には、子どもの通学する学校等と十分な連携を図ることがまず必要である。虐待の再発防止のために、また虐待の早期発見・早期対応のためには、子どもの通学する学校での観察が有効である。また、子どもが不安定な学校生活によって巻き起こすさまざまな問題が、虐待のきっかけになることもあることからも、学校との密接な連携が求められる。もちろん児童相談所との連携のもとに行うべきであることは、言うまでもない。
 より好ましい連携の仕方としては、学校両者が比較的遠方ではない場合、転校前の担任教師、転校後の担任教師と施設とが一堂に会し、子どもの学校生活の状況や保護者の状況について意見交換を行うことも効果的な方法である。特に子どもが学校生活で、被虐待児によく見られるような友人関係の形成能力に問題があったり、教師の指導になかなか従えない行動があったりした場合には、転校前の教師の指導方法がかなり参考になる場合がある。
 また、施設側からこれまでの保護者や家族の状況、子どもの生活状況を差し支えない範囲内で情報提供しておくことも必要である。そして、子どもにささいなことでも異常があれば、施設側に連絡をとる方法を確立しておくとよい。いずれにしても、転校後の学校等との信頼関係の確立なしには、円滑な連携は期待できない。ややもすると、これまでの例では、プライバシーの尊重を理由に被虐待児の関係機関への通告・相談が積極的とは言えない学校もあることから、施設側の誠意と積極的な関わりが期待される。

(4) 保健所、市町村保健福祉センター等との連携
(1)連携の必要性
 施設入所措置は緊急避難措置と考えてよく、援助の最終目標は子どもの家庭復帰である。家庭復帰に向けた家庭環境調整は基本的に児童相談所が児童福祉施設と連携しながら行うことになるが、施設入所措置後も保健所や市町村保健センターは保護者への関わりを続けていることも多く、家庭環境調整を行う上で、保健所や市町村保健センターの役割は重要である。
 また、保護者への指導のあり方、親子の面会時の留意点等について、保護者に関する十分な情報を保有している保健所や市町村保健センターの助言を直接仰ぐことも時には有用である。
 さらに、虐待を受けた子どもは、それまでの家庭環境等から保健上の特別な配慮を必要とする場合が少なくない。子どもを正しく理解し、適切な対応を図るためにも、保健所、市町村保健センターの助言を仰ぐことが有用である。
(2)連携上の留意点
・施設が単独でこれら保健所や市町村保健センターと連携を図る場合は、原則として児童相談所と事前に協議し、その了解を得ておく。
・入所して1~2カ月以内に、地域で関わっていた関係機関等に児童福祉施設に集まってもらい、事例検討会を開くよう児童相談所に求めることも有用となろう。虐待から保護に至るまでの各機関の関わりとその家族に関する情報の共有化、入所後の援助目標の設定と子どものトラウマ治療の必要性とその方法の検討、保護者への関わり方と治療的介入の目標設定と共有化、外出や外泊が可能であるかの検討、保護者の面会等の留意点等について関係機関、児童相談所、施設で話し合っておけば、お互いにこれからの見通しをもって関わることができる。

(5) 医療機関との連携
(1)もともと医療的援助が必要な疾患を抱えている場合
 被虐待児のなかには障害を持っていたり、慢性的な疾患を抱えている子どもたちが少なくない。障害や慢性疾患が虐待のリスク要因となっていることもある。近年、医療の分野では、できるだけ長期の入院を避けて在宅援助を行う傾向がある。したがって、これからは、リハビリが必要な子ども、自己導尿を行っている子ども、透析を行っている子ども、在宅酸素療法を行っている子ども、などが施設に入所する可能性も高い。医師や看護婦から十分な情報を得て、児童福祉施設での医療援助を行わなければならない。医療援助の技術を習得するとともに、それぞれの疾患に関する知識も得て、日常生活の制限の仕方、子どもへの病気の説明の仕方、自立の支援などを行う必要がある。医療機関との一対一の連携を行うだけではなく、児童相談所をはじめ保健機関や学校などとも連携をしていかなければならない。
(2)虐待によると考えられる症状に関して連携が必要となる場合
<身体的治療が必要な時>
 虐待による外傷から障害を生じていたり、てんかんを発症していたり、ということはよく見られる。また、ネグレクトによって低身長や低体重が見られることもある。このような症状があるときには、定期的な通院で医療的治療を受けるとともに、児童福祉施設での医療的援助についても学ぶ必要がある。
<発達の遅れがあるとき>
 虐待で保護された子どもに発達の遅れが見られることはよく経験される。そのような場合には、一度は専門の医療機関、もしくは療育機関に付属している医師の診察を受ける必要がある。背後に医学的原因が存在することが稀ではないからである。ネグレクトによって、新生児のスクリーニング検査で発見された甲状腺機能低下症の治療がなされていなかったケースもある。中耳炎からの聴力の問題や弱視などの眼科的問題は見逃されがちである。原因を検査した上で、必要な療育を行う。療育機関への通園が必要なこともあれば、その子の発達を促進する関わり方を学んで、児童福祉施設で実行することも必要である。被虐待児の発達の遅れは頻度の高いものであり、発達の遅れに対応できる医療機関や療育機関と日ごろから連携しておくことが望まれる。
<虐待による精神的障害があるとき>
 被虐待児は注意欠陥多動障害などの行動の障害、学習の障害、排泄の障害、睡眠の障害、感情の障害、などといった精神的障害を持っていることが多い。そのような問題に対する医学的な評価と治療(薬物療法を含む)が必要になることは本来非常に多いと考えられる。しかし、これまでは児童福祉施設の認識の問題と子どもの精神障害に対応できる医療機関の不足から医療的対応がなされていないことが多いのが実状であった。頻度の高さから考えて、子どもの精神障害に対応できる医療機関を確保し、個別の通院だけでなく、相談を適宜行えるような連携が望ましい。
(3)保護者の治療機関との連携
 保護者に精神障害があるときなどは、保護者の状態の変化に関する情報がないと、面接などの場面で子どもが精神的被害を被ることを防ぐことができない。保護者に精神障害があって、子どもに何らかの影響があることが考えられる時には、保護者の治療を行っている医療機関との連携が欠かせない。児童相談所が仲立ちをするか児童福祉施設が直接連絡を取り合うかは状況によるが、いずれにしても連携は欠かせない。保護者の精神状態によっては子どもとの接触を制限していく必要が生じる。一般に、保護者の治療者は保護者からの情報しか入らないため、保護者の側しか見ていないことが多い。子どもの状態や子どもと一緒の場面での保護者の状態に関する情報を、保護者の治療をしている医療機関に伝えることは、子どもを守る上で非常に重要である。治療者から面会の制限を伝えてもらう方が保護者を説得しやすいことも多い。

(6) 警察との連携
(1)事前協議
 施設入所してきた被虐待児のうち、保護者が引取りや面会を強引に求める場合がある。そうした保護者に対して施設としては根気よく説得をし、理解させる努力を払うが、時にはその過程で思わぬ展開になることがある。特に激昂しやすい保護者が、説得する職員に対して暴力を振るう例もある。そうした保護者は、施設入所前にも加害行為をとっていることが多い。こうした保護者との対応については、児童相談所との連携のもとに地元警察署の協力を求めることが必要である。警察署に対しては事前協議をしておき、保護者の加害行為が予測される場合には、即応できる体制を確保しておくことが重要である。とりわけ施設側にとっては、地元警察署の少年係とは比較的緊密な関係にあることが多いことから、そうした係を仲介して協力関係を確立しておく方法もよい。
(2)警察への通報
 保護者の強引な引取りをめぐって、保護者が職員等に危険な行為を起こすおそれがある場合や、実際に加害行為を行った場合には、毅然として早期に警察へ協力要請を行うべきである。もちろん原則的には、職員は保護者の態度変容を期待して、相手の態度を和らげるような接し方を基本とすることが必要である。保護者と対決することが目的ではなく、さまざまな援助方法によって保護者の気持ちを和らげることを目指して対応することはいうまでもないことである。
 子どもを多く抱える施設においては、子どもの面前で警察の協力を得ての対応についてはやや消極的になりやすい。できれば避けたいという態度をとりやすいが、警察の協力があれば、保護者は躊躇することは間違いない。再発防止のためにも、生命の安全の確保のためにもやむを得ないことであり、暴力行為をとることを常套手段とする保護者には警察の協力を求めることが適当である。
 施設において一時保護の委託を受けた児童や措置を受け入所している児童に対する保護者からの強引な引き取り要求に関しても児童虐待防止法の趣旨、目的からこれらの場合についても第10条に準じた対応を依頼することが適当である。なお、施設においても日頃から警察との情報の共有や意見交換の機会を持ち円滑な協力関係を作ることが必要であることは児童相談所の項での記載と同様である。
 子どもの生命・安全を第一義的に考えて対処すべきである。


3.事例検討会における留意事項について
 関わる機関が増えていくと、保護者への対応が機関によって違ったり、重複したりということが起こってくる。こういった不一致や重複をさけ、関係機関が共通 認識のもとで、効果的な援助を行うためには、関係する機関のすべてがそれぞれの役割と機能を確認しあった上で有機的な連携を図ることが重要である。特に、対応が困難な時や多機関の連携が必要な時には、できるだけ関係者が一堂に会して事例検討会を開催し、認識を高めあうことが必要である。このような事例検討会の留意点は以下のとおりである。

(1) 開催
(1)会議の開催を呼びかけるのは、当該事例に主として関わっている機関が望ましいが、関連情報を集中して入手しうる機関、あるいは連絡調整をしている機関が開催する場合もある。開催する機関では必ずその機関内での事例検討を行っておく。
(2)複数の機関が関与している場合は、できるだけすべての機関に集まってもらえるように、事前の日程調整を十分に行う。ただし、危機状況がある場合は一刻も早く開催することが重要であるので、参加できる機関で開催する。
(3)場所は主催機関が望ましいが、交通の便や、できるだけ多くの人が参加しやすい場所を考慮するなど、事情に合わせて選定する。
(4)事例検討に先だって、主催機関は事例検討会の目的や秘密の保持について十分に説明し、理解と協力を求めておく。

(2) 参加機関および出席者
(1)主催機関の直接事例に関わった担当者とできれば機関としての意思決定能力を有する責任者
(2)参加要請を受けた機関の担当者
(3)参加機関は虐待の問題に関して直接対応している機関が中心になるが、必要に応じ、保育所、幼稚園、学校、福祉事務所(家庭児童相談室)、施設、民生・児童委員(主任児童委員)、弁護士、警察等の関係機関の参加も得る。

(3) 目的
(1)各機関の情報を交換し、情報を共有する。
(2)虐待であるかどうかを検討する。
(3)虐待の状況や程度の確認を行う。
(4)危機状況かどうかを判断し、介入方法を検討する。
(5)援助方針を決定し、援助方針を一致させる。
(6)役割分担を明確にして、事例の主担機関とキーパーソンを決める。
(7)具体的な援助のあり方についての検討をする。

(4) 進行
(1)会議の司会、記録は主催機関で行う。
(2)出席者の紹介(名前、所属機関、職種等)。
(3)開催理由と秘密保持についての説明。
(4)事例概要の説明(簡単な記録を配付)。
ア.子ども:名前、性別、年齢(生年月日)、所属集団(学年等)、住所、生育歴、医療状況等
イ.家族状況:家族構成、続柄、年齢、職業(学年)等
ウ.虐待者:性別、続柄、年齢、職業、生育歴、性格、養育態度、経済状況等
エ.問題の経過(虐待の状況)
(5)協議事項の検討と決定
ア.情報交換:これまでの経過でお互いに知らないでいることや、誤解していることがないか、特に虐待につながったと思われる背景(育児上や生活上での問題等)についての情報の相互確認を行う。各機関の機能、体制についても説明し、相互認識を深める。
イ.問題についての共通理解:問題の状況やメカニズムに対する共通の認識を図り、危機状況かどうかについて話し合う。
ウ.援助の評価:各機関が当該事例をどう考え、どういう方針で関わっていくかを話し合い、援助方針について共通 の方向を確認する。
エ.援助方針の決定:援助方針を決定し、一致させる。
オ.役割分担の確認:事例の主担機関とキーパーソンを決める。どのような援助をどこまでできるのか具体的な対応について各機関の役割分担を確認する。
カ.連絡体制の確認:どんなことがあったらどこへ連絡するかなど連絡調整をするコーディネーター機関を決める。
(6)決定事項については、会議終了直前に全員で確認する。もし、具体的な対応策が決定できない場合でも、決定していないということを確認しておく。次回会議の開催の必要性の有無や時期等について検討し、確認する。
(7)事例検討会の時間はあまり長くならないよう、1時間30分程度が適切である。
(8)プライバシー保護の観点から、事例検討会において知り得た個人情報は、関わりのない第三者や機関等に漏れることのないよう厳重な注意と管理が必要である。会議の資料や記録については、各機関で責任をもって管理するか、会議終了時に回収し廃棄する。
(9)会議での検討結果や決定事項については各機関内で確認し、組織としてのバックアップ体勢をとる。必要があれば、機関内でも事例検討会を開催する。担当者個人で抱え込まないことが肝要である。

(5) 会議を有効に進めるために
(1)子どもや家族に一番多く接触し、最も危機感を持っている人の意見を尊重する。
(2)済んだことで他の機関や職種を責めるのではなく、今後どうしていけばよいかという具体的な対応を中心に前向きな議論を進める。
(3)お互いに自分の機関の機能や役割について、他機関・他職種にわかるように説明し、各機関の役割や職種の職務内容を十分に相互理解するように努める。また、日頃から訪問するなどして機関へのイメージを具体的に持つことも大切である。
(4)各機関・職種は、受身的、消極的に機関の機能を提供するのではなく、問題に対して積極的にかつ最大限に機能を提供し、活用し合う姿勢で臨む。
(5)他の機関・職種との信頼関係を深める。
・自分の機関・職種・専門性の限界を認め、他の力を借りることに抵抗感を持たないようにする。
・自分の機関や職種がイニシアティブを取るべき時、逆に、引くべき時を念頭におき、柔軟な姿勢をとるようにする。
(6)具体的な対応策に関してタイムリミットを決めておく。タイムリミットがきたら、予定どおりに進んでいるかチェックするための会議を開催する。援助がうまく進んでいない時はすみやかに方針を見直す。そのためには、定期的に情報を交換し合い、援助の評価、方針の継続あるいは変更について協議することが必要である。



第11章 電話相談の実際
匿名性と手軽さという電話相談の特性は虐待に関わる相談ではとりわけ利用しやすい相談手段である。それゆえ電話相談には幅広く虐待関連の相談が寄せられ被虐待児発見のきっかけとなることも少なくない。しかし、反面その特性は電話相談の限界でもあり、そこを十分認識して相談に当たることが必要である。


1.子ども本人からの相談
 子どもは自分がかなりひどい状態にあっても、あまりストレートにはそれを表現しないことが多く、はじめはふざけて電話してきたのか、あるいはいたずら電話かと疑う中に虐待の訴えが隠れていることがある。したがって、話の中に少しでも気になる点があったら事実関係を明らかにすることを急がず、とにかく受容的に話を聴くことが大切である。子どもは受け入れられている、安心して話せると感じた時、次第に本当のことを話し出す。
 子ども本人からの相談で特に留意しなければならないのは、女子からの性的虐待の相談である。彼女たちは助けを求めていてもその事実を最初から直接的に訴えるようなことは決してしない。はじめは「生理が遅れているんだけど……」と言うような遠回しな表現から入る。これらの問いに表面的に答えたり、他機関を紹介してしまうと肝心な虐待の話に行かないままに終わってしまう。急がずに話を聴いていく必要がある。性的な話になったとき事実関係を正確に把握しようとする必要はない。細かく尋ねると彼女たちは電話を切ってしまう。詳しいことは面接相談につないでから少しずつ判明すればよい。彼女たちは性的虐待を訴えることにより、家庭が壊れてきょうだいに迷惑をかけるのではないか、家から追い出され学校に行けなくなるのではないか等々の不安を強く持っているので、児童相談所が味方となって必ず助けることを伝えて心を開かせ、援助の手がかりとなる情報を把握していくことが大切である。


2.養育者からの相談
 子ども虐待への関心の高まりとともに、自分は子どもを虐待しているのではないか、あるいは子どもを虐待してしまいそうだ、という電話相談が急増している。電話をしてくるのはほとんどが乳児や年少の幼児を持つ母親である。この種の相談は全くの取り越し苦労でごく一般的なしつけ相談の範疇のものから、明らかに子どもを傷つけており虐待と思われるものまで非常に幅が広い。「子どもの寝顔をみると悪かったと反省する」「子どもはかわいいと思う」などの言葉を聞くと、どこからを虐待と考えるのか悩むところであるが、親の意図がどうであれ子どもの心身の発達に有害な行為は虐待であるという考えで対応すべきである。
 この種の相談には次のような傾向がみられる。
・完璧を目指し育児マニュアル通りに子育てしようとする養育者が多い。
・夫婦間の不和や祖父母との葛藤など家族間の問題で悩んでいる。
・父親が家事・育児に協力しない。
・母親が女性としての自立や社会参加から取り残されるという焦りを感じている。
・泣いてばかりいる、あまり寝ない、ミルクの飲みが悪い、少食である、など育てにくい子の場合が多い。
・母親自身が人付き合いが苦手で、子育ての悩みをうち明けたり話し合ったりする相手がいない。
 いずれにせよ相談者は躊躇の末、電話相談の持つ匿名性という特性ゆえに電話してきていることを十分認識して、次のような対応を図ることが大切である。
・悩みをそのまま受け止め、時間をかけて話を聴き共感を示す。相談者は話を聴いてもらえた、解ってもらえたと感じるだけで溜まっていたイライラが軽減され子どもに向かう攻撃性が多少なりとも弱まる。
・「またいつでも電話して下さいね」と、何度でも電話してよいことを伝えて終わる。相談を重ねることにより子どもの見方や考え方が変わっていくことが期待できる。虐待が疑われる時には次回の電話を約束してもよい。
・批判や説教じみたことは言わない。理解されないと感じると相談者は電話を切ってしまう。たとえ聞いていたとしてもそれで相談者の態度が変わることはない。むしろイライラがさらに高まりそれが子どもに向かい状況は更に悪くなる。
・十分に話を聴いた上で保健所や児童相談所などに相談することや、保育所を利用して子どもと離れる時間を持つことを助言する。相談者はそれぞれの機関についてそれまでの体験から一定の先入観を持っていることが少なくないので、いくつかの機関を紹介し相談者の行きやすい所を利用するように勧めるのがよい。
・明らかに虐待と思われ、早急な介入が必要と判断される時は、相談者を責めず根気よく話を聴きつつ、何とか子どもを特定できる情報を引き出し、できれば相談者の同意を得て関係機関に連絡する。状況によっては同意なしでも連絡すべきである。


3.養育者以外からの相談
 養育者以外からの虐待に関わる相談としては親戚・近隣・関係機関(保育所・幼稚園・学校・児童館・学童クラブ等)からの電話がある。いずれも担当の児童相談所につなぐことが基本である。親族や関係機関は面接担当者につなぐことにあまり問題はないが、近隣からの相談の場合は対応に注意を要する。電話を受けた者がきちんと相談を受け止め、その時点で出来るだけ多くの情報を把握すべきである。中には最初からその地区の担当者と話した方がよい場合もあろうが、担当の児童相談所を紹介しても相談者が必ず電話をかけ直すとは限らず、せっかくの被虐待児の発見の機会を逃してしまうかもしれない。相談者の中には被虐待児を助けたいと思う反面、あまり深く関わりたくはない、面倒なことになってはいやだと思う人もいるので、相談者の住所や電話番号や名前は絶対に漏れないこと、相談者に迷惑がかかることはないことを約束する。匿名を希望するならそれでも構わない。大切なのは被虐待児に関する情報を提供してもらうことである。子どもの住所・名前・年齢・性別などが正確にわからない場合も少なくない。そういう時は○○町○○丁目の○○マンションの○○階の左から○番目の家とか、○歳位の男の子とか、○○幼稚園に通っているようだなど、後から調査するときの手がかりとなるものを出来るだけ多く聞いておく。
 近隣からの相談には不正確な情報や実際には虐待ではなかったという場合もかなりあることも事実である。しかし、電話相談の段階でそれを見極めようとする必要はない。あくまで電話相談は訴えをそのまま受け止め、面接担当者につないでいくことである。近隣からの通報は虐待の早期発見に大変有効であり、その窓口として電話相談の果たす役割は大きい。



第12章 特別な視点が必要な事例への対応

1.保護者にアルコールや薬物依存症がある事例への対応
(1) 依存症はどんな病気か
 酒は薬物の一種であるが、適量の飲酒であれば精神をリラックスしてくれる嗜好品として日本の文化には根付いている。しかし、飲酒が習慣化していくと体の耐性が上昇し、量を増やさないと陶酔感が得られなくなる。飲酒量の増加によってブラックアウト(記憶を失うこと)が現れたり、「今日は飲むまい」と誓っても泥酔するまで飲んでしまう。あるいは酒が切れるとイライラしたり、不眠、寝汗をかく、手が震えるというような離脱症状が現れ精神依存の状態になる。また身体的にも依存が進んでいくと肝疾患、糖尿病、神経炎などの合併症が現れたり、欠勤、事故、けがが多くなってくる。
 依存症は酒に対してコントロールを失った病気である。もはや自分の意志ではやめることはできない。世間からは酒をやめられないのは意志が弱いと非難されるが、これは間違いである。彼らは飲むことに対しては非常に強い意志を持っているのである。"コントロール障害"を来しているから、依存症になってしまうともう二度と上手に飲めなくなる。しばらく酒をやめていても体が覚えているので、再飲酒するとすぐにブレーキが効かなくなり、連続飲酒発作まで飲み続けるということになる。最終的には酒をとるか、命をとるかまで底をつかないと立ち直れない依存症者が多い。しかし、本人も家族もアルコール問題を認めたくないという否認が強いのもこの病気の特徴である。
 このような依存症家庭は、家族メンバーが固着して風通しが悪く、外部からの援助をなかなか受け入れようとしない。依存物質への執着が強くなると、生活はそのことが中心で回っていくようになるので次第に生活が破綻してくる。社会的にも疎外され、近隣からも孤立してくると子どもも放置されたり、傷つけられたり、暴力にさらされたりする危険率が高くなる。薬物依存症も嗜癖問題であるので、基本的な病理や対応は同じである。

(2) 保護者にどのように対応したらいいか
 子どもへの虐待を発見したら、家族のなかのキーパーソンを探すことが第一である。家族メンバーで誰が困っているか、誰が悩める人であるかの情報を家族や関係者から聴取する。家族の力が弱くてキーパーソンがいなければ、保健婦や福祉事務所の社会福祉主事などの関係者がキーパーソンになることもある。子どもへの暴力や虐待があると夫婦間暴力もあると見た方がよいので、子どもを保護するとともに母親への危機介入も行わなければならないことが多い。
 児童相談所は子どもを保護する立場と役割で関わるが、依存症者がアルコール治療するかどうかの初期介入は保健分野の仕事になる。家族関係を修復・修正するためには依存症者が専門治療や自助グループにつながることが必要最低条件である。そのためにも保健所(市町村保健センターも含む)の保健婦(精神保健福祉相談員を含む)と連携することは必須である。そして保健所はどのような専門相談を行っているのか、酒害相談を実施しているかどうかについて児童福祉司は確認しておく必要がある。地域にそのような受皿がなければ、都道府県精神保健福祉センターやアルコール専門病院(専門クリニック)の専門家と協議しながら対応する。
(1)具体的な対応方法
ア.適切な機会をとらえて、アルコール依存症者本人に問題を直視させ、「アルコール依存症は病気である」というメッセージを伝える。また、専門治療や自助グループにつながることによって回復することができる病気であることも伝える。
イ.依存症は家族が勉強したり対応を変えることが必要なので、酒害相談(なければ断酒会やAAミーティング)に行くように勧める。関係者で役割分担をして保健婦やソーシャルワーカーが治療的介入をすることになるが、関わっている人みんなが同じメッセージを伝えることが大切である。
ウ.酒を飲んでいるときは面接したり話はしない。しらふのときに話をすること。
エ.安易な約束はしない。約束したことは守り、できないことははっきりと「できない」と言うこと。
オ.断酒を誓わせたり、誓約書を書かせることは無意味である。
カ.本人の飲酒を止めさせようとして、脅したり、説教したりしない。
キ.本人の暴力や脅しに屈しない毅然とした態度で対応する。もし暴力的な行動があったら迷わず警察へ連絡する。
ク.依存症者は周りを振り回したり、巻き込む傾向が強いので、一人で対応したり、抱え込むのは危険である。地域の関係者とネットワークを組んで情報交換しながら対応すること。
ケ.保護者に対応する専門職と子どもに関わる専門職を分ける方が望ましい。場合によっては地域の関係者との役割分担を十分協議すべきである。

(3) 子どもの安全確認と保護はどのように行うか
(1)虐待の重症度による介入方法
ア.生命に危険があり虐待の重症度が高いとき
 依存症者が酒を飲んで急激な怒りの感情が爆発して、家族や子どもの生命に危険を及ぼすような暴力をふるったり、家財や物を壊す、暴言を吐くような事例には緊急介入が必要である。虐待の重症度が高いときは、酒を飲んでいてもいなくても説得は効かないことが多いので、必要な場合は児童福祉法第29条、同法第33条、同法第28条、児童虐待防止法第8条、同法第9条及び同法第10条の規定に基づき緊急介入を行う。
 子どもの保護を最優先して、警察との連携のもと、立入調査を行い子どもを保護する。
 なお、立入調査の執行に際し必要があると認めるときは、警察への援助の依頼を検討する(本手引き第3章参照)。
 ただし、依存症本人への治療は、本人の治療意思がなければ地域のネットワークを組み、経過を見守る体制を固めていき、底つきを待つ。
イ.小さい暴力や暴言が時々あって、母親は被害を受けているが、子どもまでは及んでいない事例のとき
 依存症家族に直接的な暴力の被害がなくても、保護者の飲酒問題に家族や子どもが巻き込まれているときには、子どもに何らかの症状や問題行動が現れることがある。例えば、薬物を使う、非行、家庭内暴力、不登校、拒食、閉じこもりなどの症状が思春期の問題として出てくる。子どもは症状をメッセージとして保護者に伝えているのだが、保護者は自分が困らないと相談には行かない。保護者が手に余るようになれば保健所、精神保健福祉センター、教育相談室、精神病院等に相談に行くだろうが、子どもの虐待状況を把握し、保護者である依存症者のアルコール問題に介入が進んでいかないと子どもは回復しない。学校や教育相談室、警察等から通告を受けたら、子どもへの虐待の程度を把握し、思春期相談を行っている保健所や精神保健福祉センターに家族がつながるよう働きかけ、そして経過を把握しておかなければいけないので保健婦と連絡をとり、情報を収集しておく。殴られている保護者は自分から逃げ出せないのが普通である。相談を受けたらなぜ逃げられないのかを聴き取り、母親が自分の生活や生き方を見直すように援助していくことが必要である。
ウ.母親が依存症者で、子どもへの身体的・心理的虐待やネグレクトがあるとき
 母親が依存症者の場合は事態がより深刻になる。キッチンドリンカーで朝から酔っ払っている姿を見せたり、夜になると飲みに出かけていなくなり、子どもたちだけが家に置き去りにされる。食事を十分与えられなかったり、放任されたり、言葉による暴力で心を傷つけたりするので、子どもは非行に走ったり、家庭内暴力、不登校で保護者を困らせるような問題を起こす。ひとり親であれば母親の依存症に対する介入を行うことが優先するので、そのためにも子どもは保護して治療できる環境づくりをしなければいけない。父親がいても子どもを養育しながらの勤務は困難なので、説得をして子どもを保護するように対応するのが望ましい。
 子どもを保護した後の面会、外出、外泊については慎重な対応をする。児童相談所は施設と保健所保健婦等と協議をして許可を出すが、外出や外泊の際は依存症者が専門治療、自助グループにつながり、しらふ(断酒)が維持されていることを最低の条件にしなければいけない。


2.精神疾患が疑われる事例への介入と対応
(1) 気になる精神症状に気付くことが、精神疾患の介入に結び付く
(1)不安定な対人関係で、孤独に耐えられず不安が強かったり、約束が守れない、待てない、かんしゃくを起こしやすい、自殺未遂を図ったり自傷行為がある、周囲を振り回すなど関わっているうちに種々困難な場面に出会うことが多い
(2)妄想、幻覚、支離滅裂の会話、意欲の欠如、感情の平板化、思考の貧困化等
(3)興味や意欲の減退、集中力や思考の減退、不眠、易疲労感、気分の落込み、日中は寝ていることが多い、閉じこもり
(4)抑うつ気分、朝に抑うつが悪化、早朝覚醒、食欲不振、体重減少、精神活動の停止、過度な罪悪感等
(5)強迫的な手洗い行動、見回り行動、確認作業などの強迫神経症状
(6)気分が異常に高揚し、易怒的であったり、多弁、注意散漫、誇大妄想、焦燥感、不必要なものまで買い漁る等
(7)無為、家の中に段ボールや物を置いてバリケードを作る、他人と接触するのを拒否したり怖がる、ゴミの山等 保護者と関わっているときに、例えば上記のような気になる精神症状や状態が疑われるときは、一人で抱え込まずに保健所を利用する。保健所では保健婦または精神保健福祉相談員がまず対応する。次に保健所で実施している精神保健福祉相談、酒害相談、思春期精神保健相談を家族に紹介し、専門医と相談をする。必要なときは保健婦の家庭訪問や精神科同行受診、精神科入院の対応、民間専門機関カウンセリングを紹介する等の処遇方針が立てられる。都道府県精神保健福祉センターも精神保健関連の専門的情報を集めており、困難な事例にはコンサルテーションを実施している。

(2) 精神疾患事例への対応方法
 虐待があり、さらに保護者に精神疾患が疑われたり、現在も治療中であったりするケースは専門的な知識や対応が必要であり、介入に困難を伴うことが多いので、必ず保健所や精神保健福祉センターの精神科医や主治医を援助チームの一員に入れる必要がある。そして、患者は最も信頼する人が主治医ということもあるので、その医師に家族の病理と子どもの保護の重要性を理解してもらうことが危機介入の決め手となる。主治医であっても相談者の家庭に虐待問題が潜んでいるとは気付かない場合が多いからである。保健所保健婦との情報交換を緊密にすることはもとより、主治医にも随時情報を入れて、症状が悪化する傾向を早く発見したり、緊急を要する場合は入院ベッドの確保に直ちに動かなければ子どもの命が危ないこともある。クリニックに受診している場合は、後方病院がどこになるかを把握しておく必要がある。
 患者が呈している主な精神症状と、悪化するときのメルクマール(例えば性的な妄想が出てくる、独語が多くなる等)を把握しておき、関係者にもそのことを伝えてみんなで共有しておく。向精神薬の服薬を定期的に続けていれば、日常生活には支障のない病気もあるが、病識がないというのも精神病の特徴なので、薬の使い方は主治医や保健婦と相談する。服薬の自己管理ができない患者は、デポ剤を筋肉注射すれば長時間効果が持続するため精神症状を安定維持させることもできるので専門家と相談をすることが大事である。
 精神疾患が疑われるから、保護者を入院させればいいと安易に考えるのは誤りである。加えて、本人が納得した入院でなければ治療効果も得られない場合が往々にしてある。入院の形態は表12-1のとおりであるが、法的に強制的な措置入院が適用できるのは自傷他害(患者が自殺を試みたり、子どもを殺すと言って刃物を振りかざすなど)の場合だけである。病気である患者の人権も配慮したかかわりや対応をしていかなければ、患者との信頼関係も構築できないし、さらに不信感を強めるだけである。
 境界性人格障害やパーソナリティに問題がある事例は、自ら治療に訪れて相談することはほとんどない。見捨てられ不安が強く、ささいなことに怒り、弱点をつき、脅したりするので、治療者も巻き込まれて話を切りたくても切れない等、対応に疲れてしまうことがある。こんな場合は、患者が最も信頼している人(医師や保健婦等)が前面に立ち、後方を他の人が支えるという体制をとる。患者とはできる範囲の小さな約束(課題)をして枠をはめた対応をすることが大切である。「今日は1時間しか話せない」とか、次回いつ会うかを決め、その約束が達成できるように関わっていく。暴力や脅しには毅然とした態度で向き合い、脅しには応じない姿勢を示すことが必要である。

[事例1]
精神疾患の疑いで子どもを緊急保護できた事例経過と危機介入:Kさんは結婚し子どもを生んだ途端父親が家出し、その後協議離婚をした。住込みなどを転々としてきたが、 平成8年H市に転入して生活保護を受けるようになった。 通園している幼稚園から「5歳の長女が虐待されているのではないか」 と児童相談所に通告があった。 保健所にも隣人とのトラブル、 精神不安定、 体調が悪いとの相談あり。 極度の潔癖症で自分の感情をコントロールできない。自分の怒りをあちこちに当たり散らす等あり。
子どもは頭痛、顔に傷痕、左外傷性鼓膜穿孔等で病院受診を繰り返している。 また「おもらしをしたので風呂場へ閉じ込めた」「子どもが言うことを聞かないと憎くて仕方がない」と訴えることも度々あったが、児童相談所が一時保護しても短期間でまた母子生活になり、関係者は心配していた。
 平成10年11月、幼稚園の先生にKさん自身から「子どもを殺す」と電話があり、幼稚園は直ちに児童相談所へ通告、児童福祉司から保健所へ連絡が入り、児童福祉司と保健所長、保健婦が現場に急行した。警察にも連絡して婦人警察官と刑事が私服で駆けつけた。アパートは鍵がかかって開けてくれない。裸で風呂につけている様子、一時間説得を続けたが子どもの声も弱々しくなったので児童福祉法第29条の立入調査もやむを得ないと判断、合鍵で入った。子どもは衰弱しきっており、体に叩かれた傷跡、顔はお岩さんのように腫れ上がっていた。処遇経過:子どもを緊急一時保護した後、児童福祉法法第28条の承認により児童福祉施設に入所措置している。母親は保健所長が"意見書"を提出して精神保健福祉法第29条該当で精神病院に措置入院になった。この事例を通して、自傷他害が疑われるときは、医師を同行することが意見書の提出や判断に効果をもたらすことが分かる。

[事例2]
てんかんがあり、ネグレクトする保護者への地域援助Hさんは未婚で子どもを生み、実家で祖父が子育てをしてくれていたが、育児も家事も何もしない母親に、実家では愛想をつかして母子生活支援施設に無理やり入所させた。4カ月の子どもを連れて母子生活支援施設に引っ越してきたものの、1カ月以上経っても荷物はそのままで片付けられなかった。福祉事務所は生活保護を適用し、保健婦とともに保育所に入所させるように説得するとともに少しずつ荷物を片付けるよう、家庭訪問しながら指導をしていった。
 母親は抗てんかん薬の自己管理ができないので、母子生活支援施設の指導員が毎朝服薬を確認する、朝起こして保育所通所を促すなどの働きかけを行った。生活保護担当者は母親が何でも買い込む癖があるので、生活費の使い方を週1回窓口で面接して経過をみた。保健婦はネットワーク全体の調整と生活指導、子どもの発育発達のチェック等の役割を担うなど保育所、母子生活支援施設、福祉事務所、保健所がネットワークを組み、相互に連携を図りながら一体的な援助を行った。保育所通所も当初は半分でも通えればよしとするなど期待値を高くしないように、少しでもできたことを認めていくような対応を行うことを全員で確認した。
 児童相談所も事例検討会に参加し、相談の進捗状況を把握しておくとともに、今後母子分離を行う必要が生じたときに一緒に関わることとした。母親は次第に保育所へも毎日連れていくようになったし、保健婦にも自分から声をかけてきたり、相談をするようになるなど以前に比べずいぶん変わってきた。
表12-1 精神障害者の入院形態一覧
入院形態 条 文 入院要件 入院時の医師 制限その他
任意入院 第22条の3 (1)本人の同意 医師 72時間の退院制限可
医療保護入院 第33条 (1)医療及び保護の必要あり(2)任意入院が行われる状態にない(3)保護者の同意 指定医1人  
措置入院 第29条 (1)自傷他害のおそれあり 指定医2人以上  
緊急措置入院 第29条の2 (1)自傷他害のおそれが著しい(2)急速を要する 指定医1人 72時間以上に(1)法第29条の診察実施(2)他人院形態に切替え(3)退院
応急入院 第33条の4 (1)急速を要する(2)保護者の同意を得られない 指定医1人 72時間以内に(1)他入院形態に切替え(2)退院
精神保健福祉研究会監修:改訂精神保健福祉法詳解;中央法規出版 2000


3.保護者による治療拒否の事例への対応
 保護者による治療拒否は、保護者の果たすべき「治療を受けさせる義務」を怠るネグレクトの一態様であるが、児童相談所や施設が子どもを引き取って保護者に替わって養育するだけでは足りず、治療機関という第三者の協力を得なければならない点に一つの特色があり、また治療拒否の理由が保護者の信念(宗教的信念等)に基づく場合が多いというのも、もう一つの特色である。
 医師としては、手術など患者に危険をともなう重大な医療行為をする場合には、(意識のない救急患者が運ばれてきたような場合は別として)社会的非難を受けないように通常本人の依頼ないし承諾に基づいて行う。
 患者が未成年の場合、通常は保護者が親権者として(子どもの代理人として)医師に治療を依頼する。保護者がこれを拒否して健康が悪化している場合に、医師が職業上の倫理として保護者の承諾を得ずに治療してくれることがあり、その時は社会的な相当行為として許されるが、医師がそこまで踏み込んでくれない時は、児童相談所が児童福祉法に基づく措置をとるしか方法がない。
 児童福祉法には、施設の長の権限として、親権者がいる場合にも監護について必要な措置をとることができる(同法第47条2項)と定めており、これは施設の長に親権類似の権能を与えたものであって、これには、治療を受けさせる権限、つまり治療機関に依頼する権利を含むものと解釈できる。治療機関としては、施設にいる子どもの治療について、施設の長の依頼があれば治療に応じている。そのほか親権喪失宣告がされれば後見人が、親権者の職務執行停止の保全処分がなされれば、職務代行者の依頼によって治療が可能になる。
 治療が長期間にわたる時で、なお保護者が治療を拒否している時には、家庭裁判所に対して施設入所のために親権喪失宣告の申立てや法第28条申立てが必要となる。本来は親権を喪失させたり子どもの生活の場を保護者から分離することまでは必要なく、治療さえ受けさせれば足りるのであるが、そのようなことを保護者に命ずる制度は日本にはないので、保護者へのダメージの比較的少ない法第28条申立てが穏当であろう。


4.性的虐待への対応
 性的虐待は虐待を受けた子どもの精神的危険の高い虐待であり、その対応は、虐待をしている人と分離させることが基本である。しかし、事実確認が非常に困難であったり、子どもの心理的なアンビバレンツのために分離がなかなかうまく行かないこともある。そのために、援助者のフラストレーションが溜まることが多いタイプの虐待といえる。対応のステップを以下に示すが、例外も多く、柔軟な対応が必要である。
(1) 被虐待児への面接
 虐待発見のきっかけは、本人の開示によるものもあれば、他者からの疑いの場合もある。いずれにしても、まず、被虐待児に面 接をすることが重要である。以下の点に注意する。
(1)年齢によって面接の方法は異なるが、人形を使ったりして、虐待の状況を表現しやすくする。
(2)面接は会話の内容だけではなく、使われている言葉や行動全体に注意を払う。その年齢では知り得ない言葉や行動、体験していなければ使われない言葉、などといったことが判断の材料になるからである。
(3)面接者が動じないで、性的な表現もストレートに行う。面接者がストレートな表現をすることで子どもが話しやすくなる。
(4)面接者は性的な質問の仕方に慣れておく必要がある。
(5)子どもが安心できるような関わりを取りながら、徐々に聞いていく。
(6)その時の子どもの感情に敏感であることが求められる。
(7)子どもが罪悪感を持っていることが多いので、その点についての配慮を行う。
(8)虐待の場面だけではなく、家族の生活時間や家の間取りなどについても聞いておくとよい。
(9)性的虐待に関しては、必ずしもいやな思いだけではなく、愛されているとか自分の存在が認められているというポジティブな感覚を持っている子どもも多い。また、性的快感を感じている子どももいる。その点に関しての罪悪感や恥の感情を持たせないように配慮する。
(10)虐待について話すことは子どもに新たな罪悪感と不安を生じさせることが多いので、話し終わってからその不安を軽減させる対応を図る。話をした勇気を誉め、そのことが保護者を裏切ったことにはならないことを伝えておく。年少児の場合には、質問が終わった後に子ども主体の遊びをさせて、そのなかで不安を軽減させる。
(11)年長児の場合には、法律的な対応方法についても伝えておくようにする。
(12)子どもにとって、虐待状況を他人に話すことは非常に心理的負荷の大きいものである。何回も同じことを聞くことはさけ、同性の安心できる担当者が一貫して面 接する方がよい。
(13)子どもは自分の言動がどのような結果を招くか不安である。子どもの状況に応じて、今後の見通 しについて伝えておくようにする。

(2) 保護者との面接
 虐待をしていると考えられる保護者とも、虐待をしていない保護者とも面 接をする必要がある。できるだけ個別に面接を行う。虐待をしている保護者は、一回で認めることは少ない。「誤解されるようなことをしたかもしれない」といったように、部分的に認めることもある。相手を責める形ではなく、しかし、毅然とした態度で面 接を行うことが望ましい。直接虐待をしていない保護者との面接も非常に重要である。父親から娘への性的虐待の場合、母親が子どもの言葉を信じるか父親側に立つかは子どもの精神的予後を左右すると言われている。虐待をしていない保護者も虐待の事実を知っていながら否定することも少なくない。家族力動を十分見据えて対応していかないと、後の処遇を困難にすることもある。

(3) 調査
 他の虐待と同様、学校や関係者から情報を得ることも必要である。プライバシーに十分配慮しながら対応する。

(4) 分離の際の注意点
 子どもにとっては分離されることは非常に不安である。子どもにとって信頼できる相手をまず確保することである。そのためには、子どもの居住先を頻回に変えることは望ましくない。また、本人が打ち明けた相手がいれば、その人が頻回に本人と会うことも必要である。心的外傷の癒しはその段階から始まっているのである。

(5) 医学的チェック
 性器および性感染症(STD)のチェックのため、医学的診察と検査を行う。必要であれば、加療する。

(6) 子どもへの援助
 二度と同じことが起きない安全な環境を与えることがもっとも重要である。したがって、虐待者からの分離が基本である。その上で、以下のような心理的援助を行う。
(1)自己評価の低下を防ぐ
ア.虐待を受けたからといって自分が汚い存在ではないことを認識させる。
イ.自分が悪いわけではないことを認識させる。
ウ.性関係がなくても自分が認められていることを認識させる。
(2)被虐待を繰り返すことを防ぐ
ア.性的関係は大人から子どもへの愛情とは別であることを認識させる。
イ.「No」という勇気を持たせる。
ウ.自分を守る行動を教育する(部屋に鍵をかける、挑発的行動を避ける)
(3)正常な性行動の発達を促す
ア.愛情と性の分離を促す。
イ.誘惑的な行動をしないような教育をする。
ウ.自分を大切にするような教育をする。
(4)虐待者への感情を整理し、言語化する
ア.虐待者へのすくむような恐怖を表現する。
イ.虐待者への怒りを表現する。
ウ.虐待者への愛情と憎しみのアンビバレンツな感情を表現し、それが受け入れられる体験をする。

(7) 虐待者への援助
 虐待者に罪悪感を感じる能力があるかどうかが大きな分かれ目となる。
(1)虐待の事実を認めさせる…虐待をした自分と直面させる。
(2)虐待をしない状況作りをする…例)飲酒を避ける、部屋を別にし、鍵のかかる部屋にするなど。
(3)被虐待者の恐怖を理解させる。
(4)可能な時には同居に戻れる条件をはっきりさせる。
(5)同居に戻る前には被虐待児とのコミュニケーションを助ける。

(8) 家族への援助
(1)虐待の事実を家族が認めることを援助する(家族が否認することも多い)。
(2)被虐待児を守ることが必要であることを理解させる。
(3)性的虐待が子どもにとって重篤な精神的問題となることを理解させる。
(4)きょうだいに同様の虐待が起きないような対策を講じる。



第13章 虐待致死事例に学ぶ
 厚生省では平成10年度、全国の児童相談所を対象に「児童虐待に対する児童相談所の対応の実態に関する調査」を実施した。この中で、児童相談所が受理した事例(受理年度不問)で平成9年度中に死亡を確認したものについて、事例の概要、児童相談所としての留意点等について報告・意見を求めているが、計15件の該当事例があった。
 以下、これら致死事例における児童相談所の対応の問題点を分析し、これを踏まえて対応に当たっての留意事項を述べる。


1.対応において問題のあった事例と留意事項
(1) 養育上の相談において「虐待を受けているのではないか」との認識が職員に希薄なため、十分な調査を行わず終結する等、対応に甘さが見られた事例
 主訴は他の問題であっても、その背後に虐待が絡んでいるケースが多い。虐待者本人や配偶者がわざわざ相談してくる背後には、深刻な問題が秘められている場合が多いことに留意すべきである。
 また、きょうだいの一人についての相談であっても、他のきょうだいが虐待を受けている場合もあること、また、虐待者とされている者の他にも虐待している家族がいることも考えられることから注意が必要。
 虐待を疑った場合は、速やかに幅広い情報収集を開始するとともに、子どもの身体の状況や表情等について直接観察を行うこと。

(2) 対応や処遇について機関決定がなされず、担当者が一人で処理していた事例
 虐待事例には調査や判断の客観性がより強く求められること、虐待者による職員への加害の危険性があること、担当者の精神的負担が過大になりやすいこと等から、一人の担当者に調査や判断等を任せるのではなく、組織的対応を図ること。  具体的には、随時処遇検討のための会議を開催する、逐次所長等に報告・相談させるとともに、複数職員で対応させる等の措置が必要。

(3) 介入に慎重なあまり迅速な対応ができなかった事例
 介入について学校や保健所等他機関の協力や理解が得られず介入を躊躇したり、児童相談所においても保護者等とのソーシャルワーク関係を重視するあまり、調査や一時保護等の介入に慎重になり過ぎる場合もあるが、事例によっては積極的介入が必要なものもあることに留意し、必要な場合は毅然とした対応を図ること。

(4) 関係機関との連携において中心的役割を果 たすべき機関を明確にしなかったため、十分な調査や対応ができなかった事例
 虐待事例の場合、関係機関との連携が必要不可欠であるが、複数の機関が対応する場合、必ず主として対応する機関を明確にしておくこと。そうでないと、責任の所在が曖昧になり、調査や援助過程において一貫性、効率性を欠く等、適切な対応ができなくなる。特に、職権介入の必要性が予想される場合は、児童相談所が主たる対応機関となるか、主たる対応を他機関に委ねるとしても、その機関と常時緊密な連携を図る必要がある。

(5) 親子分離を図るべきか否かについて重大な判断ミスが見られた事例
 親子分離を図るべきか否かの判断には高度な専門性と客観性が求められる。このため、必要に応じ処遇検討の場に関係機関の参画を要請し、幅広い観点から検討するなど、的確な判断が行われるよう万全を期すこと。特に、低年齢児の場合、死亡等重大な結果 につながる危険性が高いことを肝に銘じる必要がある。

(6) 措置解除の適否判断に誤りがあった事例
 措置解除の適否判断は、それまでの調査結果や関係機関からの情報はもとより、面会、外泊等を通じた親子の状況等も踏まえる等、総合的かつ慎重に行われるべきである。解除を決定する場合には、これを行う合理的理由が求められることは当然であって、いやしくも保護者の強引な引取要求に屈して、先の見通しがないまま引き取らせることがあってはならない。

(7) 措置解除後のフォローアップが不十分な事例
 親子関係の著しい改善が見られ措置解除を行った事例であっても、一定期間のフォローアップは不可欠である。その際、児童相談所だけでこれを行うには限界があるので、施設をはじめ、民生・児童委員(主任児童委員)、福祉事務所(家庭児童相談室)、児童家庭支援センター、保健所等、関係機関と密接な連携を図る必要がある。  また、フォローアップ期間中に、管轄区域外に転出した場合は、新住所地を管轄する児童相談所にケース移管を行うべきことは言うまでもない。
 特に、他の都道府県に転居した場合については、転居先の居住地を管轄する児童相談所において、CA情報連絡表に基づく情報連絡システム等により情報を把握した場合は、転居元児童相談所に対し速やかに情報を確認し、新居住地での対応が円滑に行われるよう留意しなければならない。


2.その他の留意事項
 子どもが死亡する等、重大な結果を招いた事例については、その原因を徹底的に究明するとともに、改善策を明らかにすること。その際、担当者個人の責任に帰するのではなく、組織としての問題点、反省点等を明確にすること。なお、この場合、担当者は大きなトラウマ(精神的外傷)を抱えることになるので、その修復についても十分な配慮を行う必要がある。

[事例1]
 父の暴力に耐えかねた母が、長女(2歳)と次女(1歳)を父の元に置いたまま実家に戻ったが、「残してきた子どもたちのことが気がかりである」と児童相談所に相談。児童相談所の担当者は「必要であれば即応するので、まず母から父に連絡を取る」よう助言。同日、母から「父が『面倒を見ていく』と言っている。何かあれば児童相談所にまた相談する」との連絡があったが、半月後、栄養失調で長女が死亡、次女も緊急入院。食事を殆ど与えられていなかった。なお以前にも「父がベランダで子どもの足を持って振っている」旨の通報が福祉事務所に入り、福祉事務所は様子を見ることにしたが、このことは児童相談所には知らされていなかった。
(問題点)
・母が相談の電話をしてくるのは「よくよくのこと」と認識すべきであり、対応を母のみに任せるのではなく、児童相談所が中心となって事実関係の把握をすべきであったと思われる。特に乳幼児はハイリスクであることを十分認識すべきであった。
・虐待の通報を受けていた福祉事務所から児童相談所に連絡がないなど、関係機関のネットワーク化がなされていなかった。

[事例2]
 生後5カ月の時、父の虐待による大腿骨骨折で通告あり。母が本児を連れて別居。離婚を決意していたため、児童相談所は関与を中断。半月後、父の暴行により死亡。児童相談所には、父母が再度同居した等の情報は入っていなかった。
(問題点)
来談時の保護者は精神的にも生活面においても極度の混乱状態に置かれている場合が多く、決心も揺らぎやすい。特に、バタードワイフの場合は一度夫と別れても再び同居する例が多いことが指摘されている。生活の安定を見極めるまでの間、フォローアップが必要である。

[事例3]
 福祉事務所から「6歳の男児。両目にあざ、円形脱毛あり、母の内縁の夫による虐待が疑われる」旨児童相談所に通告あり。3日後、市保健センターに家庭訪問を依頼するも、内縁の夫が暴力団員の可能性あり、アポなしの訪問に難色を示したため、本児宅周辺の様子を確認してもらうにとどめた。翌日、児童相談所、市福祉事務所、市保健センターの三者で対応協議、3歳児健診のフォロー等の理由で、市の保健婦とソーシャルワーカーが家庭訪問を実施することになる。10日後、児童相談所が福祉事務所に家庭訪問結果を照会したところ、家庭訪問は未実施。4日後実母および内縁の夫の折檻により本児死亡。
(問題点)
・事前の情報では内縁の夫による虐待とのことであったが、実際には実母も虐待に加わっていた。
・通告があって約3週間後に本児が死亡するまで、どの機関も直接家庭や本児への調査を行っておらず、即応性に欠けていた。
・関係機関と連携する場合、相互の役割分担や日程等について具体的な打合せを行い、常に進捗状況を確認し合う必要がある。本事例の場合、児童相談所が主導性をもってケースマネージメントを行うべきであったと思われる。

[事例4]
 2歳男児。父親による虐待からの保護を求めて母親から相談、乳児院入所措置に至る。その後両親は一旦離婚したが、再び復縁し、本児の引取りを要求するようになる。親族の葬儀のために外泊したことを機に、母親が引取りを主張、「父からの虐待はない」旨の確認を母から行い、そのまま措置解除としたが、その10日後に本児は両親の折檻により死亡。
(問題点)
・措置解除の理由が曖昧である。措置解除の合理的判断を下すまでは、引取り要求があっても拒否すべきであった。
・虐待の絡んだ事例は措置解除後もフォローアップを行うことが原則であるが、特に本事例のように、乳児であり、かつ保護者に押し切られる形で措置解除を行った場合はなおさらである。児童相談所だけでフォローアップを行うには限界があるので、児童相談所が中心となってセーフティーネットワークを構築すべきである。
・母からの相談では、父が虐待者とのことであったが、実際には母親も加担していた。当該虐待者以外の家族も虐待を行っている可能性があることを念頭において綿密な調査を行うべきであったと思われる。


「子ども虐待対応の手引き」改定検討会委員
* 相澤  仁
 厚生省児童家庭局家庭福祉課児童福祉専門官
* 青木 孝志
 国際学院埼玉短期大学助教授
* 奥山眞紀子  埼玉県立小児医療センター保健発達部・精神科 医長
* 柏女 霊峰
 淑徳大学教授
* 才村  純
 日本子ども家庭総合研究所ソーシャルワーク研究担当部長
* 庄司 順一
 青山学院大学教授
* 高橋 重宏
 日本社会事業大学教授
* 津崎 哲郎
 大阪市中央児童相談所企画主幹兼副所長
* 徳永 雅子  東京都世田谷保健所健康企画課
* 新野 由子
 厚生省児童家庭局母子保健課母子保健指導専門官
* 西澤  哲
 大阪大学助教授
* 平湯 真人
 平湯法律事務所(弁護士)
* 福島 一雄
 全国児童養護施設協議会会長(児童養護施設・共生会希望の家施設長)
* 前橋 信和
 厚生省児童家庭局企画課児童福祉専門官
* 森   望
 大分大学助教授
 (50音順・敬称略)

執筆協力者
* 相澤  仁
 厚生省児童家庭局家庭福祉課児童福祉専門官
* 庄司 順一
 青山学院大学教授
* 津崎 哲郎
 大阪市中央児童相談所企画主幹兼副所長
* 新野 由子
 厚生省児童家庭局母子保健課母子保健指導専門官
* 西澤  哲
 大阪大学助教授
* 前橋 信和
 厚生省児童家庭局企画課児童福祉専門官
* 増沢  高
 情緒障害児短期治療施設・横浜いずみ学園副園長
 (50音順・敬称略)




もくじ   3kaku_s_L.png   [Ⅵ-G] DV・児童虐待行政対応マニュアル
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