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[Ⅵ-G] DV・児童虐待行政対応マニュアル

第5章 判定・処遇決定

 
 第9章 児童相談所の決定に対する不服申し立てについて 子ども虐待対応の手引き

第5章 判定・処遇決定

1.各種診断はどのようにたてるか
(1) 社会診断
(1)社会診断とは何か
 児童相談所に持ち込まれる問題の効果的解決を図るには、担当者の価値観や人生観、好悪といった個人的性向を排除し、専門的な科学的知見に基づき問題の本質、性質を分析することにより、合理的・客観的見地から個々の事例について最善の処遇を検討する必要がある。この過程が診断であり、診断には児童福祉司による社会診断、心理職員による心理診断、医師による医学診断、一時保護所の児童指導員や保育士による行動診断等がある。そして、これら各専門職がそれぞれの診断結果を持ち寄り、協議した上で総合的見地から児童相談所としての処遇方針を立てるのが判定(総合診断)である。ここでは、判定の基礎となる社会診断のポイントについて述べる。
 社会診断は、調査結果を踏まえ、問題の性質、子ども、保護者等の置かれている環境および問題と環境との関連を社会学、社会福祉学的知見に基づき把握、分析することにより、最善の処遇のあり方について判断するものであり、問題の様相、原因、処遇に関する所見等が含まれる。
(2)社会診断の内容
 下記の項目について具体的に把握、分析し、診断に盛り込む。
ア.主訴は何か
 主訴を具体的に記述する。
イ.主訴の背後にある本質的問題は何か
 他の種別の相談であっても、虐待状況が認められる場合もある。特に、保護者からの相談においては「遅れがある」「強情で育てにくい」「言うことを聞かない」「金品の持ち出しがある」等、子どもの性格・行動上の問題を主訴とした事例が少なくない。これら子どもの性格・行動上の問題があるため、これを治したいとの焦りから虐待している場合もある。このような事例では、保護者自身も虐待しているとの意識を持たない場合もあるので注意が必要である。また、事例によっては保護者による虐待の結果、子どもに性格上の問題や行動上の問題が現れている場合もある。いずれにしろ、主訴の背後に、むしろ援助目標をそこに置くべき本質的問題が潜んでいることもあるので注意する。
 なお、虐待が判明した場合、他のきょうだいも虐待を受けているおそれがあることにも留意する必要がある。
ウ.虐待の内容、頻度、危険度
 家庭裁判所への申立てや行政不服審査等に備え、いつ誰が誰のどこをどのように叩き、その結果、どうなったのか等、具体的、客観的に記述する。そして、これらの事実から緊急に親子分離を図るべきか、在宅で経過を観察することとしてもよいのか(危険度の判断)等について記述する。この場合、そう判断した根拠を明記しておく必要がある。
エ.虐待が子どもに与えていると考えられる影響
 虐待によって子どもがどのような影響を受けているのか、身体的・心理的影響を具体的に記述する。
オ.なぜ虐待するに至ったか
 虐待発生のメカニズムについて、保護者の生育歴、家族歴、性格、価値観、子どもの性格・行動、家庭や近隣との人間関係等、種々の要因との関係について社会・心理学的観点から分析を加える。
カ.他の家族の虐待および虐待する保護者に対する認識、感情、態度
 他の家族成員が虐待行為や虐待を加える保護者にどのような認識、感情、態度をとっているのかを記述する。このことは、虐待発生のメカニズムを分析する上で必要となるばかりでなく、処遇を検討する上でも重要な資料となる。
キ.家族内外におけるキーパーソンの有無
 虐待を行う保護者には援助を受ける動機づけがないばかりか、拒否的な者も多い。家族内外にキーパーソンがおれば介入に当たっての仲介役や緊急時の連絡を引き受けてもらうことができ、援助や介入が円滑に運びやすくなる。キーパーソンの氏名、連絡先等を具体的に明記する。
ク.社会資源の活用の可能性
 経済的に困窮している場合の生活保護適用、アルコールや薬物依存の場合における保健所保健婦や精神保健福祉相談員による援助、保護者の育児負担軽減のための保育所入所やショートステイの活用等、社会資源の活用が有用であると判断される場合、所管する機関との調整結果を含め当該資源の活用の可能性や制約等について明記する。
ケ.援助形態および援助方法
 上記の情報や分析を踏まえながら、緊急保護の要否、親子分離の必要性の有無等について総合的な判断を加え、助言指導、児童福祉司指導、施設入所(施設種別)、里親委託等の援助形態を選択するとともに、その援助形態を選択した根拠を必ず明記する。
 面接指導を行うとした場合は援助目的や援助方法、施設入所措置を採るとした場合は、施設入所措置上の留意点や施設入所措置後の児童相談所としての援助方法等を具体的に明記し、処遇指針に繋げるようにする。
 また、施設入所した児童の保護者への指導については、必要に応じ児童福祉法第27条第1項第3号の措置に併せ、同法第27条第1項第2号及び児童虐待防止法第11条に基づく措置を実施する。
コ.処遇方針に対する子ども、保護者の意向
 処遇方針に対する子ども、保護者の意向を具体的に明記する。
 なお、子どもや家庭の状況は常に流動的であり、また、ソーシャルワーク的関与によっても変化しうるものであるから、適宜社会診断を改める必要があることは言うまでもない。

(2) 心理診断
 心理診断は虐待を受けた子どもたちが、その不適切な関わりによって、発達や心理にどのような影響を受けたか、その状況について、どのように感じ、どのように受け止めているかを把握することにより、心理学的見地から、診断と予後の予測を行い、処遇の方針をたてる。
(1)心理診断の方法
 虐待を受けてきた子どもたちの多くは、虐待によって心身共に傷ついていることが多いのに加え、児童相談所という機関で、どのようなことがどのように行われるのか、何をされるのか、不安や緊張感を抱いている。また身柄を一時保護などの形で、保護者や慣れた環境から分離されている場合は、多くの場合、虐待に加え、分離体験という大きな心理的ダメージを受けることになる。
 子どもは人間関係の基本となるべき、養育者との愛情に基づく良い関係が築けず、虐待という不幸な環境で育っているため、無力感や自己防衛、周囲の大人への不信感が強い。したがって、自分の心の中を素直に表すことができない。そこで、子どもに関わった時点から「あなたが悪いのではない」「児童相談所はあなたの味方である」ことを十分に伝え、時間や回数を重ねて、子どもが安心して心の中を表すことが出来るような信頼関係を作っていかなければならない。
 そのような関係を築き上げた上で、初めて子どもたちの診断が可能になる。
 子どもたちが表出しにくい心の中を、的確に把握するためには面接だけではなく、行動観察や心理検査、関係者からの聴取等を行い、それぞれの結果を総合して心理診断を行う必要がある。したがって、いきなり虐待の事実を聞き出したり、即座に心理検査を行うことは却って心を閉ざすことになるので慎むべきである。
(2)心理診断の内容
ア.発達・知的レベルとその内容
 虐待を受けている子どものなかにはしばしば、「扱いにくい子」と保護者から見られている場合がある。言うことがきけない、場面理解が悪い、動きが遅い、落ち着きがない、人への関心が乏しい、集中力が乏しい、多動であるなどで「扱いにくい子」と見られて、虐待の対象にされる場合がある。このような場合、知的発達レベルに遅れが見られたり、知的内容にアンバランスが見られることが多い。また、発達上は遅れがないにもかかわらず、情緒面に問題があり能力の発揮が十分でなく、学業においても低空飛行を続けていて知的障害が疑われる場合がある。このような場合、保護者が子どもの発達の状況を知り、その対応方法を知ることによって虐待が軽減される場合もある。
 また一方、発達の遅れや知的内容のアンバランスが生来的なものではなく、虐待に起因する場合がある。したがって、行動観察や知能検査を行うだけではなく、医師との協力体制をとってそのメカニズムや状態像を明らかにすることが望ましい。
イ.情緒・行動面の特徴とその心的外傷体験の程度
 虐待された子どもたちは素直に甘えが表現できず、情緒面でのコントロールも悪い。また、大人の気持ちを逆撫でするような言動に出ることも多い。要するに内面と外に表す行動に大きなギャップが見られる。そのため、保護者から「扱いにくい嫌な子だ」と評価され、更に虐待が繰り返されるという悪循環に陥っている場合がある。
 愛情を持って育てられていないため、自分自身に対して自信が持てない、周囲の人に注目してもらうためにはどのような態度を取るべきか分からない、そのようなことから来る不安定な行動のため、周囲の人たちからも理解されず、益々嫌われ、孤立してしまいがちになる。
 また、心的外傷体験に起因するものとして、不眠、食欲不振、頭痛、易疲労感等の身体症状の訴えがあったり、感情のコントロールができず、すぐに興奮したり、泣き易かったり、反対に無表情であったり、怯え、無気力、強い依存、強い緊張、乱暴な行動や、自信の欠如、集中力の欠如、対人関心の欠如などの症状等が見られたりする。
 これら、虐待を受けたことによる子どもの行動の特徴や心的外傷体験による傷の深さを把握することは、処遇方針、治療方針を検討する上で重要なことである。
 また、これらの把握には精神科の医師との協力が欠かせない。
ウ.親子関係・家族関係
 どのように虐待を受けていても、多くの場合、子どもたちは親の悪口は言わない。むしろ、年少の場合は、親を慕う発言が多く聞かれる。年長の場合でも親を許容したり、「自分が悪かったから」「自分のためを思ってくれている」というようにかばうような発言がきかれる。それは自分が悪いからと思い込まされていることの他に、自分が親を悪く言うことで、はかない親子の絆を断ち切ってしまうのではないか、という恐れの気持ちの表現とも考えられる。また、文章完成法テストなどで、「父は自分を大事にしてくれる」「母は優しい」等という表現が見られることがあるが、これは現実の親子関係と言うよりも、その子どもにとっての理想や願望であったりする。  この子どもにとって、親子関係はどのようなものであるのか、家族のなかでこの子どもがどのような位置にあるのか、この子どもを支えているのは誰なのか、親子関係の修復のために親子それぞれがどのような援助を必要としているのか、子どもの表面に現れた発言だけにとらわれないで、きちんと押さえておくことが肝要である。
エ.集団生活(学校、保育所等)の適応状況
 虐待を受けていた子どもにとって、家庭以外の場はどのような意味を持っていたのか。集団生活をどのように受け止めていたのか、自分にとってどのような意味を持っているのか、子どもからは面接や心理テストなどを通して把握する。
 家庭の外の、学校や保育所等の集団生活での行動状況については、担任や保育士などから聞き取る。
 家庭で十分に養育されていなければ、学校や保育所が安心できる生活の場になっていてもよいはずだが、必ずしも居心地のいい場として生活をしてはいない。集団に入っていけない、孤立している、周囲の友達に乱暴をしたり、意地悪をしたりする。器物を壊したり、周囲の人たちに迷惑をかけたりする。先生や保育士を独占しようとしたり、人にやたらとベタベタしたり、あるいは避けようとしたり、など対人関係で適当な距離をおくことができなかったりする。
 また一方、学校では明るく振る舞って、そのような暗い影の部分を周囲の人に感じさせないで頑張っている子どももいる。かなり無理をしていることもあって、一時保護所のような安全な場での生活に入ると、緊張が急激に解け、様々な不適応症状が出てきて、周囲を困惑させることもある。
オ.虐待者の病理性
 虐待されている子どもだけではなく、虐待を行っている保護者についても状況を押さえておくことは必要である。虐待を行っている保護者は、自身、過去に虐待を受けている場合が多い。その心的外傷体験の影響により、精神的に不安定であったり、自信がないままに子育てをし、どうしてよいか分からないために、結果的に虐待をしてしまう。
 虐待を行っている保護者の精神症状を、医師との協力によって確かめることが出来ればよいが、大変困難なことである。
保護者に対しては
* どのような時虐待をするのか
* 子どもについてどのように思っているのか
* 子育てをどのように思っているのか
* 自分の行っていることが子どもにどのように影響していると考えているのか
* 親子関係、家族関係のなかでの自分の立場、葛藤、不安等
できればこのようなことも確かめたい。しかし、保護者からこのようなことを聞き出すことは大変困難を伴うことであるので、児童福祉司と協力して、子どもの面接や、関係者からの聞き取りなどを通して、情報を集めておくことが必要である。

(3) 行動診断
 医学診断、心理診断に際しても行動観察はなされるが、一時保護所での行動観察は児童の生活態度、行動、対人関係等の状況を、共に生活するなかで客観的に、あるいは子どもに関わりながら全生活場面について観察し、それを基にして処遇方針を立てる。
(1)行動診断を立てる上での留意点
 行動診断の特徴は、日常生活場面に近い条件の下で、子どもに対し24時間の直接観察が出来ることである。一時保護所の生活は集団生活であり、家庭生活とは異なるルールの下にあり、また対応する職員もほとんどの場合交代制で関わるため、一般の日常生活とはかなり異なるが、多くの場合、日常生活場面の言動がそのままの形で出現しやすい。
 しかし、虐待を受けてきた子どもは、心身共に傷ついており、さらに慣れた生活の場からの分離体験により不安感や緊張感が大きいため、保護をしてすぐに日常生活と同様の言動が現れることは稀である。
 入所の当初は、自分の行動を必要以上に抑制したりして、自分のありのままを見せないことが多い。むしろ職員に対して迎合するような態度を見せたり、同情を誘うような振る舞いを見せたりする。したがって、初めのうちは「良い子」を演じているが、やがて職員や周囲の子どもに対し、顔色をうかがったり、試し行動や、裏切りとも取れるような行動を見せたりするようになる。一方、心的外傷体験による問題行動や、身体症状、精神症状が現れてくるのは時間がかかることが多い。したがって、短期間の一時保護中には、問題となる行動が現れにくいということがあるので、職員が受容的に関わりながら、子どもの行動を一面的にとらえることのないよう、また様々な変化を見逃さないような注意が必要である。
 生活場面で、危険を伴うような行動や、極度に他の子どもたちに迷惑をかけたり、不快な思いをさせたりする行動以外は、あまり禁止したり、制約したりすることなく、日課やルールについても子どもの状況に応じて柔軟に指導するなど受容的な対応が望まれる。
子どもは安心して自分を表出しても大丈夫だということが分かって、次第に自分の内面を表せるようになるので、一時保護所が自分にとって安全で、安心できる場所と感じられるように、職員の対応も含めて環境を整えることが大切である。
(2)診断のために行われる行動観察のポイント
 子どもの言葉、行動についてはできるだけていねいに観察し記録する。言葉はそのまま具体的に記録し、どのような場面で、どのような表情で、その話がされたか、またどのような行動が現れたのかも記録しておく。
 一時保護所では複数の職種の職員が関わることになるので、主担当の職員が中心になって、他の職員の観察結果についても十分に情報を得、多面的な観察がされることが望まれる。また、観察は生活場面だけではなく、時に応じて個別の面接等も併せて行うことが望ましい。
 子どもの状況によっては、児童福祉司、心理職員や医師に対し情報を提供し、子どもへの対応を依頼したり、一時保護所での対応の仕方、観察の視点等について助言を得たりするなど、協力を求めることも必要である。
 これらの観察の結果は観察会議で情報交換と検討を行い、行動診断の資料とする。
 診断のために行われる行動観察のポイントは次のようになるが、就学前の幼児と学齢児では若干異なっている。
ア.幼児の場合
* 食事:過食・過度の偏食の有無、食事の習慣やマナーの習得状況
* 排泄:自立の度合い、予告の有無と方法、汚れても平気でいるかどうか
* 着脱衣:自立の度合い、介助あるいは点検すべき事柄
* 睡眠:寝つきの良し悪し・睡眠の深さ等の睡眠の状態、寝ぼけ・夜泣き・夜驚等の有無
* 午睡の習慣と睡眠の状態
* 夜尿の有無、夜尿をした後の様子
* 洗面、歯磨き等の習慣:習得の有無
* 入浴:習慣の有無
* 清潔:手洗い・うがいの習慣の有無、清潔への関心の有無
* 意思疎通:発語の状況、基本的概念(挨拶、簡単な要求、自分の名前など)の表出方法、言語理解の状況、指示の理解度
* 安全への意識:注意力、理解力の程度
* 遊び:好きな遊び、遊び方、他の子どもと遊べるか
* 対人関係:同年代の子どもとの関係、年長児との関係、大人との関係、自他の区別、人見知りの有無、大人に甘えられるか、萎縮していないか、他の子どもへの意地悪や乱暴の有無
* 習癖:習癖の有無とその程度
* 健康状態:栄養状態、アレルギーの有無、体質の特殊性等
* 入所時、退所時の様子:家族との分離時の様子、保護所の生活への慣れの状態
* 面会時の様子、面会後の様子:緊張の程度、喜ぶか否か、面会後の反応
イ.学齢児の場合
* 入所初期の様子:入所時の様子、緊張の度合い、生活への慣れ、他児との会話・交流
* 起床:自ら起きるか、機嫌の良し悪し、身支度の様子
* 就寝:身支度、寝付きの良し悪し、寂しがり、特異な行動(就眠前儀式、特定の物へのこだわり等)、寝言・寝ぼけ・夜驚・夜尿等の有無
* 食事:態度、姿勢、マナーの有無、食事の量、偏食の状態
* 生活管理:身だしなみの状態、所持品の整理・整頓の状況、清潔への意識
* 健康管理:自分の健康を自分で管理する自覚があるか
* 自由時間:一人遊び、集団遊び、無気力、孤立、ごろ寝、おしゃべり、ウロウロ、騒ぐ、職員の手伝い、等どのような状況で、どの様にして過ごすか
* 集団行動への参加:呼びかけに対する反応、参加態度、勝手な行動の有無
* 行事への参加:参加態度、興味の持ち方、リーダーシップ
* 学習:学習進度、集中力の有無、自習能力
* 作業:参加態度、手抜きの有無、集中力の有無
* 指示に対する反応:素直に応じるか、拒否的か、空返事
* ルールの守り方:守れるか、ルールに対する自覚の有無
* 褒められたときの様子:喜ぶ、照れる、得意になる、表情に出ない
* 叱られたときの様子:すぐに従う、文句を言う、責任転稼、相手により態度を変える、黙る、泣く、怯える、強い緊張、反抗、平然、不服
* 面会時・面会後の様子:喜ぶ、嫌がる、拒否、表情に出ない、面会後不安定になる
* 無断外出:実行計画があるか、誘われてどうしたか
* 要求:はっきりといえるか、我慢しているか、すぐ諦めるか、しつこく要求するか、相手を見るか、あまり要求はない、勝手に満たす
* 感情表現:喜怒哀楽の表情、すぐに怒る、泣く、大騒ぎする、表情を出さない
* 対人関係:同年齢児・年下・年上・大人に対して態度がどのように異なるか、他児から好かれるか、嫌われるか、他児への関心の有無、マイペース、いじめ、いじめられ、除け者にされる、特定の子を選ぶ、誰とでも付き合える
* 習癖:習癖の有無と内容、程度
* 不適応行動:孤立、無気力、乱暴、など

(4) 医学診断
 虐待を受けた子どもは養育環境の問題という社会的要因だけでなく、遺伝負因や出産時の問題、発達の遅れ、身体疾患、障害など子ども自身の生物学的要因が背景にあることが多い。また、一見心身共に健康に見えても虐待体験で受けた心的外傷により情緒的発達の停滞が見られたり、後の社会性や行動上の問題、精神疾患発症の危険性も指摘されている。このため、虐待に対する諸機関の対応が始まった時期に、虐待を受けた子どもの特殊性を考慮した医学的評価を行うことが重要となる。具体的には子どもの発育・健康状態を把握し虐待を裏付ける所見を確認すること、医学的検査や経過観察、治療の必要性を判断することが目的となる。ここでは児童相談所の医師が被虐待児の状態像を評価する上で留意すべき点について述べる。
(1)精神医学的診察
 診察室には子どもが「守られている」と安心できる雰囲気が必要である。服装や清潔さの外見に加えて表情、態度に注目する。感情表出が乏しかったり、年齢に比し言語的表現力に劣ることがよく認められる。また指示に従えず多動で落ち着きのなさが目立つ子どもも多い。
 問診を始めるに当たって意思表示ができる子どもに対しては、できるだけ自分の言葉で何が起きたかを説明させる。「どうしてここに来たの?」と尋ねると淡々と出来事を説明し始める子どももいるし、連れて来られたことに不満や不安があり、「親の元へ戻りたい」と泣きじゃくる子や自分が家の秘密を公にすれば家族が崩壊するのではないかと恐れ、口をつぐむ子どももいる。どんな場合であれ、まずは子ども自身の目に何が映りそれをどう受け止めているかを共感を持って知ることに努める。医師は事実関係よりも子どもの気持ちに関心があること、他の職種と異なった立場からの味方であることを診察を通して示す。
 初めの質問に自由に答えさせて、子どもの診察への協力度と理解力を大まかに把握し、それから生活上の細かな出来事を聞いていく。緊張が強ければ、当たり障りのない学校や好きな遊びの話題から始め、身体症状の有無、食欲、睡眠、そして家族のことや受けた虐待に話を移していく。話したくない様子が明らかな場合や性的虐待を受けた思春期の子どもに対しては、あらかじめ「今言いたくないことは、言わなくてよい」と保証し、無理強いは避ける。ほとんどの子どもは虐待について話すことで不安が高まるため、必要であれば質問を途中で中断することをためらってはならない。すでに得られている情報との食い違いを指摘しないよう、誘導尋問にならないよう配慮する。また、不用意に虐待を行っている保護者を非難する発言や態度を取るべきではない。それは子どもが虐待を行っている保護者を嫌悪していたとしても、身内を第三者から非難されることに傷つきやすいからである。
 虐待について尋ねる時には、具体的事実に加え子どもがその状況をどのように感じ、どう反応したかを明確にする必要がある。虐待される理由はあるのか、不当なものと感じているのか、逃げ出すことは考えたのか、誰かに相談できたか、あるいは逃げられないと絶望的になっていなかったかなどである。性的虐待に関する問診には細心の注意を払う。年少児では、基本的には子どもとの直接の面接からは、虐待を受けたことが疑われるかどうかまでが判断できればよく、子どもが以前使った言葉で確認する程度に止めた方が安全である。年長児で性行為は隠すべきことと認識していたり、性的な刺激で快感を体験している場合には、行為に対しての嫌悪感と共に羞恥心や自責感が強いことが多い。繰り返し説明させることは、子どものイメージの中で虐待を再体験させることになるため極力避けなければならない。事実確認が強く求められる時は、子どもの了解を得た上でビデオ撮影をしながら問診することも必要で、他の関係者がビデオを利用することで同じ質問を避けることができる。
 抑うつ気分や不安感は外見から判断できない場合が多く、侵襲的にならない範囲で具体的に尋ねる。「悲しいことはよくあるか?」「泣きたくなる日は多いか?」「元気が出なかったり疲れていることは多いか?」「心配で眠れないことは?」「どこに居るとき一番気が休まるか?」「死にたいくらいつらい気持ちになったことはあるか?」などである。年長児であれば集中力について「学校の授業を理解できるか?」「成績が落ちていないか?」「本を読んで内容がよくわかるか?」などと尋ねるのもよい。また「他の人とうまくやれているか?」「誰かに好かれていると思うか?」「ひとりぼっちだと思うことが多いか?」「自分が好きか?」「自分を悪い子と感じるか?」などと質問すると子どもの自己像について大まかに知ることができる。さらに心的外傷後ストレス障害(PTSD)の症状について確認する。「怖かった出来事を繰り返し思い出してしまうか?」「怖い夢をみることは多いか?」「ちょっとの音や刺激で驚いたり怖くなってしまうことはないか?」「いつもいらいらして怒りっぽくないか?」「楽しかったり嬉しいと感じられるか?」「忘れっぽくなったと感じることはあるか?」などである。年少児の場合、典型的PTSDと診断できないことが多いが、診察時の所見を得ておくことは後の参考になる。その他あらかじめ問題行動や精神症状が知られていればそれについて問診する。
 最後に、面接で明らかにされた事実を踏まえ、どのような理由があるにしても大人の虐待行為は許されないこと、あなたは悪くないこと、勇気を持って話してくれたことで事態は必ずよい方向へ向かうことをわかりやすい言葉で強調する。子どもの自責感を軽減する働きかけは特に重要で、侵襲的になりがちな診察に少しでも治療的意味合いを持たせることができる。
(2)身体医学的診察
 まず身体計測を行う。適切な食事が与えられていても精神的ストレスにより発育の停滞を来すことが知られており、以前の測定値も含め身長・体重曲線が作成できれば不適切養育の時期を推定する有力な所見となる。皮膚所見では子どもが指摘する部位だけでなく全身を視診することを心がける。外傷があれば、それを受けた状況を子どもに確認しながら、傷の種類、部位、大きさを図示して記録する。火傷、皮下出血斑や腫脹など変化しやすい所見は、できるだけその場でカラー写真を撮影しておく。写り具合をすぐに確認でき撮影の失敗を避けられるためポラロイドカメラが使いやすい。口腔内の衛生状態や外傷の確認を行い、頭部・顔面を受傷した既往がある場合には鼓膜や眼底所見も得ることが望ましい。
 虐待を受けた子どもには微細な神経学的異常(ソフトサイン)が認められることが少なくないため、神経学的診察もルーチンに行いたい。必要があれば、恐怖感を与えないよう配慮して最後に外陰部を診察する。性的虐待が強く疑われる女児には、感染症の検査も含め婦人科医の診察を依頼すべきことも多い。
 骨折や頭蓋内出血の疑いを認めれば、検査・治療を依頼することは言うまでもないが、頭部外傷の既往がなくても、虐待が長期間に及んでいたり、衝動性や気分易変性が目立つ子どもの場合は積極的に脳波検査を施行する。虐待を受けた子どもでは脳波異常の頻度が高いことが知られており、検査結果をこの時点で確認しておくことは治療の観点からも参考となる。
(3)予後の予測と医学的援助
 緊急に一時保護された際の診察では医師が直接養育者と面接する機会は少なく、子どもに関する情報が十分明らかにされていないことが多い。しかし、予後を予測するためには乳幼児期の養育環境、現在の発達水準や集団への適応度などは把握しておきたい。発達の程度を知る上で用いられる知能検査の中でも、WISC-R(あるいはWISC-III)はより詳細に認知機能や神経心理学的異常のスクリーニングができるので有用である。
 被虐待児の中でも特に配慮が必要と考えられるのは、
1)知的な障害等があり、周囲の誰かと良好な関係を作ることに困難性がある、
2)保護者の代理者との情緒的な繋がりが希薄で、信頼感、自律心、自発性が十分育成されていない、
3)能力を正当に評価してくれる学校や地域など外部の援助組織がなくそれらへの帰属意識が持てていない、などの児童であると言われている。また、社会適応や予後の悪さを示唆する要因としては、重度の虐待やネグレクトを受けていること、養育者への愛着が何度も崩壊したり養育環境が転々と変わり不安定であることが挙げられている。リスクの高い子どもに対しても日常生活に支障を来す程の問題行動や症状がなければ、まず安定した環境に置くことを第一に考えるべきである。虐待を受けた子どもはいつ襲われるとも予測できない体罰や叱責、怒号の中で生活してきている。毎日が一定のリズムで進行し、安心でき、世話をしてくれる大人の言動が予測できると実感することは、それ自体治療的である。そして、環境を整えてもPTSD、不眠、不安、うつ状態、攻撃性など様々な精神症状や問題行動が認められてくる場合、薬物療法や精神(心理)療法など専門的治療への導入が必要となる。時期を逸せず対応できるよう、養育者として期待される者と医師や心理職員が協力しながら、日ごろから経過を見守る体制を整えることが重要である。


2.判定はどのように行うか
(1) 判定の意義
 判定は、事例の総合的理解を図るため、児童相談所専門職が行う各種診断をもとに、それらの担当者の協議により作成される総合診断である。それは、後に続く処遇指針の作成と具体的処遇に直結する。
 児童相談所の相談援助活動の原則は、チーム・アプローチと合議制にある。児童相談所の専門性は、各種専門職のチームによる活動により維持される。また、児童相談所の専門性は、各種専門職のそれぞれの専門性を尊重した合議により作成する判定および処遇指針並びにそれに基づく処遇が大きな特徴となっている。これにより、子どもとその環境の総合的理解が可能となり、また、担当者の先入観、価値観、対人関係の特徴等にとらわれた事例理解や援助活動を排除できると考えられているからである。

(2) 判定の方法
 判定は、通常、判定会議において検討される。処遇会議にあわせて実施されることもある。通常、判定会議においては、原則として児童相談所長、各部門の長、各担当者等が参加し、社会診断、心理診断、医学診断、行動診断、その他の診断等を総合的に検討し、判定を行い、これに基づき処遇指針案を検討する。
 その際、子どもの特性のみならず、子どもの家族の特性、例えば入所を考える児童福祉施設の特性等を十分考慮に入れ、関係専門職間で十分に意見をたたかわせることが重要でる。あつまり、どの種別のどの施設に入所決定を行うことが「子どもの最善の利益」にかなうかは、それぞれの意見を出した専門職の協議によることが前提条件となる。児童福祉司が提出している「保護者の近くの施設」という意見が、心理職員の提出している「小舎制の施設」と両立しない場合、次善の策としてどちらを優先し、また、それを補完するどのような方法をとるかは、各専門職の協議により初めて達成されると考えられるからである。

(3) 判定の視点
 判定は、子どもの身体的、心理的、社会的特性を十分考慮して行われることが必要である。また、子どもを含む家族、所属集団全体を視野に入れて行い、また、当事者の問題解決能力等についても考慮しなければならない。さらに、児童相談所の限界や処遇決定先の援助能力に関する判断も考慮されなければならない。
 また、判定は、何より子どもとその家族の処遇に活かされるものでなければならない。そのためには、子どもやその保護者の意向を踏まえたものでなければならない。また、具体的処遇を委託する機関・施設等に理解されるものでなければならない。わかりやすく、説得力を持ち、子どもの心や児童を含む事例の全容が生き生きと浮かび上がるものでなければならない。さらに、子どもの生活場面も視野に入れた社会関係のなかで生きてくるものでなければならない。
 最後に、判定は、子どもの自己実現を援助するものでなければならない。そのためには、子どものもつ良い面、積極的な面にも着目することが必要である。いい判定は、子どもとその家族を支援するための材料を豊富に含むものであることを銘記しておきたい。

(4) 再判定の必要性
 子どもは、発達する存在である。また、子どもを囲む環境も変化していく。このため、判定は、処遇の経過のなかで漸次修正されていくべきものである。そのためには、例えば6カ月ごとに処遇チームの協議により、再判定を行っていくことが必要である。

(5) 被虐待児事例の判定所見例
 判定は個別的なものであり、また、個々の子ども観や援助観等により多様なものであるため決まった形式、内容を示すことは困難であるが、具体性をもたせるために被虐待児事例の判定所見を例示すると、例えば以下のようになる。

[事例]
主訴:中学2年生女児、警察署から被虐待児として通告。実父による虐待。 社会診断、心理診断、行動診断等:(略)
判定:
(1)実父からの被虐待児。実父からの身体的暴力に耐え切れず、自ら警察に助けを求めたものである。
(2)知的な能力は特に問題ないものの怠学の時期もあり、学習面の遅れは否めない。特に数学は、分数の計算や正負の概念がほとんど理解できていない。
(3)情緒面、対人関係においては基本的な信頼感や感受性を備えているが、傷つきやすい繊細さや弱さもあわせもち、率直な感情表現や行動を抑制する傾向がある。一時非行に傾きかけたが、学校や地域の大人との信頼関係が歯止めになったものと思われる。
(4)家族としての機能は極めて弱い。父が疾病のため就労できず長期にわたり生活保護を受給。父は飲酒癖があり、母にも暴力を振るうため、母は3カ月ほど前に家出し、その
への恨みも抱いている。きょうだいへの愛着も薄い。しかし、妹には思いやりを示すこともある。父への嫌悪感は強く「あんなん死んだらええ」と吐き捨てる。母の家出後、父の暴力が本児に向かったのは、母への恨みや自己の無力感を克服する自己防衛によるのだろうが、本児も反撃するので悪循環になっている。本児は帰宅を強く拒否している。
(5)父は酒を飲んでは本児を返せと威嚇的言動に出る。親族関係も疎遠で地域からも孤立しており、援助の可能性はない。
(6)社会診断や本児の心理診断および本児の意向を踏まえると、現時点で本児を帰宅させても父と衝突し、家出することは目に見えている。母の消息も知れず、本児にとってはしばらく家を離れ、中学校卒業を目途に学習の遅れを取り戻し、父との関係調整を図り、自立への準備を進めることが望ましい。
(『児童相談事例集』第19集掲載事例より構成)


3.処遇指針はどのように作成するか
(1) 処遇指針の意義
 処遇指針は、相談に応じたこどもおよびその家族に対する児童相談所の援助の理念、基本的視点の表現である。それはまた、文字どおり児童相談所の専門性の表現でもあり、かつ、児童相談所における援助チームの共通理解を構成するものである。具体的処遇を関係機関や施設等に委託する場合には、児童相談所と子ども、保護者、関係機関・施設とをつなぐ橋渡しの役割を果たすものとなる。したがって、チームアプローチと合議制に基づく援助プログラムの作成とその実行を使命とする児童相談所のいのちともいうべきものであり、処遇指針作成の重要性はどれだけ強調してもし過ぎることはないであろう。

(2) 処遇指針の内容
 処遇指針は大きく二つに分かれる。一つは、個々の子ども、保護者等に対する具体的処遇の選択であり、二つは、選択された処遇のなかで実行が期待される具体的援助の指針である。
(1)処遇の選択
 まず第一の処遇の選択に当たっては、子どもや保護者の意向および具体的援助を行う者や社会資源の条件を考慮し、その子どもと保護者にもっとも適合する処遇を選択するとともに、その理由を明確にしておくことが求められる。また、選択した処遇に対する子どもの意向、保護者の意見を明記するとともに、第6章に述べる都道府県児童福祉審議会の意見を聴取した場合には、その意見も明記しておくことが求められる。
 処遇の選択に当たっては、特に、処遇先の状況に関する情報を収集し、慎重に判断することが必要である。例えば、一般に児童福祉施設は、その歴史性や入所児童の多様性から各施設が特徴をもっているのが普通である。規模別にも大規模から小規模まであり、運営形態も小舎制、中舎制、大舎制等があり、また、入所児童についても年齢的に特徴をもっていたり、立地条件、運営方針も多様である。父から性的虐待を受けた子どもなど子どもによっては、家庭から離れた施設に入所させることの方が「子どもの最善の利益」にかなう場合もある。また、低学年中心の施設に高校生を1名入所させるより、高校生が多く、また、治療的処遇ができる施設の方が、遠くても適当な場合がある。このように、処遇の選択に当たっては、個々の子どもの最善の利益を常に念頭に置き、幅広い観点から処遇の選択を行っていくことが求められる。さらに、前節において述べたように、子どもにとって必要とされるすべての事項を実現する選択肢がない場合においては、次善の策の選択とそれによって生ずる課題を克服する方法についても検討しなければならない。
(2)具体的援助の指針
 具体的援助の指針は、子どもやその保護者等が有するそれぞれの問題点や課題について、家庭環境調整を含めた援助の目標、援助方法、その他留意事項を短期的、長期的に明確にするとともに、活用し得る社会資源や人的資源、制度等についても明らかにする。特に、関係機関や施設等と連携し、あるいは委託して援助を行う場合には、それぞれの機関・施設等の役割について明確にしておくことが必要である。
 さらに、施設に援助を委託する場合は、施設での子どもに対する援助の具体的方向性、配慮事項等をでき得るかぎり具体的に作成することが望まれる。その際、一時保護所における行動観察所見や行動診断を活用することも必要である。具体的指針には問題点への対応だけではなく、子どもがもっている良い面を伸ばしていくという側面にも配慮しなければならない。児童相談所の援助の根本理念が子どもの自己実現の支援であることを思うとき、子どもがもっている健康な部分、得意な部分に着目する姿勢を忘れるわけにはいかない。児童相談所はこの処遇指針を足がかりとして、子どもや保護者の真のニーズを、関係機関や施設等へとつないでいくのである。

(3) 処遇指針作成の方法
 処遇指針は、診断、判定プロセスをもとに、原則として処遇会議を経て決定される。軽易な事例や緊急を要する事例等においては、児童福祉司や心理職員が単独で判定を行い援助を開始することがあるが、この場合においても他の専門職種の関与が必要がないという判断がその時点で行われた結果であり、そこで行われた行為もやはり判定行為であるということができる。したがって、その判断すなわち判定やその結果とられた処遇や処遇指針の成否は、必ず処遇会議等において確認されなければならない。処遇会議の方法は厚生省児童家庭局長通知である「児童相談所運営指針」によるが、電話による相談も多い現在、効率的な運営を心がけることも必要とされるであろう。
 なお、処遇指針の作成様式の標準については、「児童相談所運営指針の改定について」に提示されており、図5-1のとおりである。

(4) 処遇指針の実行と再検討
 処遇指針は一度立てればよいというものではない。事例は常に変化しうるものであり、これにともない援助における課題や援助の方法も変化することから、処遇指針は定期的に見直すことが必要である。このため、判定と同様、次期の検証時期を明確にしておくことが必要である。関係機関や施設に援助を委ねる場合や連携して援助に当たる場合には、児童相談所の処遇方針を十分伝え、中心となって対応する機関・施設を明らかにするとともにそれぞれの機関と打合せを行い、了解した事項についても処遇指針に盛り込んでおくことが求められる。

(5) 処遇指針と自立支援計画
 子どもが児童福祉施設に委ねられた場合には、児童相談所が策定した処遇指針は、施設の作成する自立支援計画に引き継がれていく。自立支援計画は、施設が、児童相談所の処遇指針を受けて子どもの入所時に作成し、以後定期的に児童相談所等との協議のなかで見直していく子どもの自立支援のための計画である。具体的には、平成10年3月5日付児家第9号厚生省児童家庭局家庭福祉課長通知「児童養護施設等における入所者の自立支援計画について」に示されているとおりである。

(6) 処遇指針と子ども、保護者の参加
 児童相談所が処遇指針を決定するに当たって子どもや保護者の意向を確認することは当然のことであるが、処遇指針はあくまで児童相談所長が決定するものである。しかし、問題解決の主体は子どもやその保護者であり、子どもや保護者の主体性、自発的な努力を尊重していくことが問題解決に有効である。このため、児童相談所と子ども、保護者の間で当面取り得る方策を検討し、それを書面等で確認する作業を行い、その書面の実行を処遇指針に盛り込むなどの工夫もなされてよいのではないかと考えられる。
 例えば、施設入所中の被虐待児の家庭復帰を望む保護者に対し、面会、外泊計画、家庭復帰後の通所、訪問計画、家庭での遵守事項、関係機関の関与と役割等について書面で確認し、児童相談所長と保護者双方の署名を行った文書を作成し、その実行を処遇指針の一部として盛り込むことなども考えられる。利用者主権の時代、援助機関と利用者とのパートナーシップ形成の重要性を指摘しておきたい。

(7) 被虐待児の処遇指針例
 判定と同様、処遇指針はすぐれて個別的なものであり、また、個々の子ども観や援助観等により多様なものであるため決まった内容を提示することは困難であるが、具体性をもたせるため、被虐待児事例の処遇指針を例示すると、例えば以下のようになる。

[事例]
主訴:中学2年生女児、警察署から被虐待児として通告。実父による虐待。
判定:前節「事例」のとおり。
処遇指針
(1)処遇の選択およびその理由
(1)処遇
 児童福祉審議会の意見を踏まえ、児童福祉法第28条第1項第1号に基づく児童養護施設入所の承認について家庭裁判所に申請。平成○年○月○日承認の審判。抗告期間を経て○月○日審判確定。入所を考慮する児童養護施設としてはA学園が適当。また家庭に対しては児童福祉法第27条第1項第2号に基づく児童福祉司指導措置を採り、福祉事務所の社会福祉主事と連携して父の指導を行うことが適当。
(2)その理由
 現時点で本児を帰宅させても父と衝突し、家出することは目に見えている。母の消息も知れず、本児にとってはしばらく家を離れ、安定した環境のなかで学習の遅れを取り戻し、自立への準備を進めることが望ましい。父は審判後は家で酒を飲んでいることが多く、無気力で抗告も行わない。入所する施設は、本児の意向を踏まえ、施設から高等学校進学の可能性もあり、また、地元の非行仲間との縁を断絶し、家庭的雰囲気で安定した生活を送ることのできる可能性の高いA施設への入所が適当である。  現在、本児はA施設に委託一時保護中であり、地元教育委員会等の配慮で仮入学扱いで通学しているB中学校への転校が望ましい。なお、本児の妹の生活保障が課題として浮かび上がってきており、児童相談所の家庭への介入も考慮すべき状況である。
(2)保護者・子ども等の意向
(1)父は当初、本児の児童養護施設入所に反対し本児を引き取りたいとの希望であったが審判確定後はその後の家庭養育についての明確な意思表明はない。しかし、酒を飲んでは娘を返せ」と電話してくることがあり、予断は許さない。
(2)本児は、絶対に父のもとには帰りたくないと言う。見学後、委託一時保護に同意しA施設で生活を開始しているが、審判確定を心から喜んでいる。
(3)児童福祉審議会の意見(法第28条に基づく施設入所承認の家事審判請求について)
(1)審議会諮問の事由
 父からの長期にわたる身体的暴行により本児は父との生活を強く忌避し、児童養護施設への入所が適当と考えられるが、父が帰宅を強要しているため対応に苦慮している。
(2)審議会の答申
 児童福祉法第28条第1項第1号の規定に基づき、家庭裁判所に対して児童養護施設入所の承認申請を行うことが適当である。なお、今後、暴力的引取りの強行が考えられまた、本児に早期に安定的環境を用意するためにもA施設への一時保護委託も考慮すべきである。さらに、当分の間の面会禁止等の対応を行うことも考慮すべきである。
(4)短期的課題と援助方法
(1)短期的課題
a.本児の安定的生活の保障
b.父からの強制的引取りへの対応と本児の妹の安全の確保
(2)課題達成のための具体的援助方法
a.A施設における具体的援助
・繊細で傷つきやすい面をもっているため、当初は施設生活や仲間集団に適応するべく頑張り過ぎる可能性がある。定期的に本児との個別的な時間をもち、本児の話をじっくりと聴くなど受容に努めることが必要である。
・不安やストレスが身体症状として出やすい面があり、健康面でも配慮が必要である。
・学業の遅れがあり、当面は個別的学習の時間を設けることが必要である。ほめていくことで伸びる可能性が高い。
・何より、安定的な環境での規則正しい生活で、担当職員の一貫した配慮がもっとも求められる。
・あまり表面には出さないが自分の意見をはっきり持てる子どもであり、本児の意向を聴きながら生活を進めていくことが適当である。なお、場合によってはそのことが裏目に出て仲間と大きな衝突を起こすことがあり、その場合は極端な行動に出ることも考えられるため、本児の行動の細かな観察も求められる。
・父が再び引取りに来ることを恐怖しており、本児に心配のないことを伝えるとともに学校等とも連携しつつ留意が必要である。
b.児童相談所における援助
・本児から信頼の厚いC心理職員を中心に、ときどき施設訪問を行う。
・父に対する訪問を福祉事務所担当社会福祉主事とともに定期的に行う。その際本児の妹の養育について機会をとらえて話し合うとともに、学校とも連携をとりつつ妹の生活状況を観察し、援助する。
(5)中長期的課題と援助方法
(1)A施設における中長期的課題と具体的援助方法
 a.高等学校進学を前提に自立への支援を継続的に実施する。
 b.父や母に対する感情の整理を行う。
(2)児童相談所における中長期的課題と具体的援助
 a.定期的にA施設を訪問し、本児を支える。
 b.父に対する指導を継続するとともに、妹の生活状況を見守る。場合によって、妹の家庭からの保護も考慮する。
 c.母の行方を捜し、家庭再構築の可能性を模索する。
(6)次期検証時期:半年後(○年○月)
(『児童相談事例集』第19集掲載事例より構成)
図5-1 児童記録票処遇指針欄の標準様式


4.親子分離の要否判断はどう行うか
 一時保護後、親子分離を検討する際には、下記の事項について情報を収集し合議による評価を行う。
 なお、どうしても子どもが帰りたいとの意思が強く、年長で虐待行為から自力で逃げることが可能であると判断される場合、子どもに逃げ方、緊急の連絡先・連絡方法を教え、また関係者によるセーフティーネットワーク(安全網)を作ってから帰宅させるようにする。
 例えば、通所・通学先を休んだらすぐに児童相談所に連絡が入るようにするなど、近隣の機関や住民で当該家庭とつながりを持つことができ、日常的に観察できる立場の協力者からの連絡ルートを確保しておくことが必要となる。

表5-1 親子分離の要否評価チェックリスト
(現在の状況および将来予測される状況)
下記の事項に該当する場合親子分離の必要性が高い
* 在宅では子どもの生命に危険が及ぶ
* 在宅では子どもの心身の発達を阻害する
* 子どもが帰ることを拒否する
* 家族・子どもの所在がわからなくなる可能性が強い
* 性的虐待である
* 繰り返し虐待の事実がある
* 子どもの状況をモニタリングするネットワークを構築できない
* 保護者が定期的な訪問・来所指導を拒む
* 家庭内の著しい不和・対立がある
* 絶え間なく子どもを叱る・罵る
* 保護者が虐待行為や生活環境を改善するつもりがない
* 保護者がアルコール・薬物依存症である


5.処遇方針について保護者、子どもにどう説明するか

(1) 親子分離の場合
 虐待は家族の抱える様々な問題状況が、弱者である子どもに集約されるという意味で「家族病理」という共通要因をもっている。この「家族病理」を治療し、その家庭を子どもの養育にふさわしい場に変えるために、一定期間親子が離れて生活し、それぞれ自分を振り返ることが必要であることを伝える。
(1)保護者への説明
・子どもが起こしている問題行動は、長期にわたる過度のストレス状態から起こっていることを説明する。
・子どもにストレスを与えている環境は何なのかを考えてもらう。
・子どもが助けを求めても、それを得ることができない辛さがどんなものかを考えてもらい、保護者自身が子どもだったときに同じようなことがなかったか、保護者の生育歴を受容的に聞き、保護者が少しでも自分を振り返るような関わりを心がける。
・現在はうまくいかない親子関係を、時間をかけて改善・修復するために施設入所が必要なこと、入所中に保護者に考えてもらいたいことや児童相談所として保護者を援助したいことがたくさんあることを説明する。
(2)保護者の意向確認の方法
 保護者は施設がどんなところなのか、どのような生活をするところなのかを十分知らないために、不安になったり、入所に抵抗したりすることもある。施設にどのような年齢の子どもがいるか、部屋はどんな分け方をしているか、学校はどうなるのか、日課はどうなっているのか、どんな職種の職員がいるのか、どのような関わり方をしてくれるのか、面会や外泊のことはどうなっているのか、費用はどれだけかかるのか等、保護者の疑問については、納得がいくようパンフレットやアルバムなどを活用して理解を深めてもらう。
 保護者が入所を了解したら、書面で確認する(例えば承諾書に署名・捺印してもらう)。口頭だけの確認では、後から同意「した」「していない」でもめる危険性があること、承諾書の署名により保護者として子どもの施設入所に自らが同意したという責任の重さを自覚させることにもなるからである。
(3)保護者への指示や約束ごと
 入所の同意をとるときには同時に今後の処遇の方向も併せて提示できるようにしておく。

[事例]
 母から「妹が生まれたころから兄(6歳)が反抗的になり、イライラして首を絞めたり風呂に沈めたりしてしまう」との訴えがあり、一時保護した後施設入所。
 この事例では
・子どもは多弁で攻撃的であり情緒不安定になっている。
・母は「子どもを愛しているのに傷つけてしまい、母親失格だ」と自分を責めて落ち込んでいる。
・また、母は自分の親から「お前が女の子と分かっていたら生まなかったのに」と言われたことが傷として残っており、親に甘えられずに今日に至っている。
・父は困ったことがあると家を出てしまい、母の支えになっていない。
という事実があり、それに対し今後
・子どもは施設から児童相談所のセラピーに定期的に通う
・母はカウンセリングを受けにクリニックに通う
・母のクリニック通院にはできるだけ父が同行する
ことが必要であること、それを前提で
・子どもが施設の生活に慣れたら(約1カ月)、施設および児童相談所の職員の立ち会いのもとで面会を行う。その後は双方の関係を見ながら面会を続け許可外出許可外泊と順次親子関係の改善を図る。
・引取りの時期については、子どもの状態、保護者の状態、相互の関係を総合的に判断して決定するが、6カ月ごとに点検・協議をする。
ことを確認、約束して入所の同意を得る。
これらの方針は「処遇指針」として整理し、施設が策定する「自立支援計画」の内容に反映するよう入所予定の施設に伝えておく。
(4)子どもへの説明
・子どもにとって「毎日安心して暮らすことができる」ということはとても大切であるが、「どうすれば安心して暮らせるのかを一緒に考えよう」と伝える。
・安心して暮らす」とは具体的にどんなイメージを持つのかを子どもに語ってもらったり、子どもが一時保護されている場合は、家にいるときはできなかったのに、ここに来てできるようになったこと等を聞きながら、心地よい場所では自分のよいところが発揮できることを話したり、確認したりする。
・施設入所は自分の良いところをたくさん見つけるために必要であることを説明するとともに、入所している間に保護者には「子どもが家で安心して暮らすためにはどうすればよいのか」を考えてもらうつもりであることも説明する。
・子どもが施設入所を了解したら、施設の生活がどのようなものかをパンフレットや写真で説明する。保護者の了解がとれており、施設も了解すれば事前に見学をしたり、施設の職員に一時保護所で面会をしてもらうなどして、子どもの不安な気持ちを少しでも和らげる工夫も必要である。
・虐待を受けている子どもは、親から見離されることへの不安が大きく、施設入所することに躊躇することもある。子どもの家族への複雑な思いを受けとめながら、施設入所は親子関係を改善・修復していくためのものであり、一定の約束のもとで面会や外泊をすることを伝える。

(2) 在宅指導の場合
(1)保護者への説明
 虐待を行っている保護者およびその家族に対し、保護者がそうせざるを得ない問題の解決と、子どもの受けた身体的・心理的な傷を癒すための専門的な援助が必要であることを説明する。
 まず、虐待を行っている保護者が、虐待行為をどう認識しているかを把握する。  虐待の内容や程度が比較的軽易なものであり、かつ保護者が虐待行為を自分自身の問題としてある程度認め、それをどうにかしたいと考え、周囲の援助を得る心づもりがあれば、在宅指導の方向で援助を検討する。
 援助方法については、児童相談所への親子通所指導、家庭訪問を中心とした児童福祉司指導等がある。児童福祉司指導の場合は、書面にて児童福祉司指導の通知をする。どうしても子育てがつらくなれば、一時保護や施設利用もあることを、併せて紹介しておく。いずれも、保護者と子どもの状況に合わせて、「十分に話し合いながら進めていきたい」と提案し、柔軟な対応を心がける。通所指導、家庭訪問については定期的に実施することを双方で確認する。保健所等と連携して援助する場合で、そのことを保護者が了解していれば、共に訪問することも確認しておく。
 保護者の動機付けが低い場合は、約束の日時に来所しなかったり、訪問しても留守であったりすることがある。これらは、リスクの高さを示す要素と考えられる。このような場合、処遇方針を親子分離に変更する場合もあり得ることを想定して、保護者への説明方法を考えておく必要がある。
 親の状況について以下の事項を観察する。
・援助者を受け入れているか。率直に話せているか。
・子どもに対することばかけ等関わりはどうか。
・子どもに対し、どの程度攻撃的、否定的であり、それをどう認識しているか。
・地域で孤立していないか。
・家事ができているか。
・仕事は順調か。経済的問題を抱えていないか。
・夫婦関係がうまくいっているか。
・健康管理はどうか。アルコール等の問題の有無。
・その他、生活上のストレスはないか。
(2)子どもへの説明
 児童相談所について説明する。その上で「お父さん、お母さんは○○ちゃんの気持ちをもっとよくわかって、楽しく暮らせるようになりたいと思っている。そのために時々一緒にここに来てもらうことになった。」というように、通所指導や家庭訪問の目的や方法について話す。子どもが安心感を持てるように配慮する。
 子どもの状況について以下の事項を確認する。
・外傷等がないか。
・発育、発達の状況はどうか。
・保護者に対する態度、行動はどうか。
・保護者のいる場面といない場面での表情や行動面での差異が極端にないか。
・保護者をいらだたせる要因(学業成績、性格行動、きょうだいとの葛藤、習癖、アレルギー、病気等)はどうか。


6.共同親権者の一方が施設入所に反対している場合の対応について
 施設入所については(一時保護と異なり)親権者の意思に反しないことが要件とされている。すなわち施設入所に反対するかどうかは親権の行使の一場面ということになる。
 民法第818条第2項で、共同親権(父母が婚姻中)の場合は親権の具体的な行使も共同でしなければならないが、例外として「父母の一方が親権を行なうことができないときは、他の一方がこれを行なう」とされている。(なお父母が別居していて一方のみが家庭裁判所で法的な監護者と定められているときは、単独親権者として監護者のみの意思のみ確認すればよいであろう。)
 共同行使が可能な場合には、父母双方の意思に反しないことが要件であるが、積極的な同意は必要でないから、一方が同意し、他方が黙っていれば、児童福祉法第27条第1項第3号の措置でよい。その場合でも措置決定に対する不服申立てはできるので、措置決定がなされた旨の告知は双方に必要である。一方が同意し、一方が反対であれば法第28条でいくしかない。
 以上が原則であるが、これに対して共同行使の例外事由としては、一方が行方不明、刑務所に服役中、長期の海外旅行中、など事実上共同行使が不可能な場合が挙げられる。
 別居していて事実上一方が監護している、というだけでは例外事由にあたるとは言い難いが、一方が子どもの養育を放棄しているとき(例えば「遺棄」しているとして児童扶養手当が支給されているようなとき)には例外事由にあたる場合もあると考えられるのではないか。監護していない親が第三者と同棲している場合に例外事由にあたるとした下級審判例もある。
 また、特別養子縁組の場合に(家庭裁判所の審判は必ず要るが、そのほかに)父母の同意が要件ではあるものの、虐待・遺棄等の場合には父母の同意は不要である、という規定(民法第817条の6)も参考になる。
 このほか、民法第825条で、父母の一方が他方の了解を得ずに父母両方の名義を使って第三者と財産上の行為をした場合に、その第三者が他方の了解を得ていないことを知らなかった時は、その行為は無効にはならない、と規定していることも参考になる。この規定は財産上の行為の相手方である第三者を保護する趣旨のものであるが、その根底には、共同親権の行使ということが第三者からみて確認しにくいため、一応夫婦の意見は一致しているものと推定して扱い、あとは夫婦の内部関係で解決すべきものという考えがある。
 したがって児童相談所としては、監護に関わりのない「親権者」の意思を確認せず、監護している親の意思によって法第27条による措置が認められる場合もあると解する。その後に監護していない親が施設入所を知って、親権の行使として反対の意思を表明したときは、あらためて法第28条の手続をとればよい。


7.法的分離にはどのようなものがあるか
 虐待を行っている保護者等から子どもを強制的に分離するためにとりうる法的手続としては、次のようなものがある。親権を一時的又は部分的に制約するものと、親権をなくすものがある。

(1) 児童相談所長による一時保護等(児童福祉法第33条)
(1)児童相談所長による一時保護等は親権を一時的に制約する措置であり、著しい虐待が存在し、あるいは虐待の反復が疑われ、子どもを保護者等から緊急に分離する必要がある場合には、この一時保護等を積極的に活用して、子どもの迅速な保護を図ることが必要である。
(2)一時保護に当たっては、子どもと保護者の同意を得て行うことが望ましいが、保護者との円滑な関係維持に配慮するあまり一時保護の時機を失したり、一時保護をあきらめて、その後さらに深刻な虐待を引き起こすようなことがあってはならない。したがって、同意が得られないときは、状況を的確に判断して子どもの福祉を最優先にした対応を図り、児童相談所長が迅速に行政処分としての一時保護を行うことが必要である。
(3)法第33条は、児童相談所長が必要があると認めるときは、令状なしに、行政機関の判断で職権をもって子どもに対して一時保護ないし委託一時保護を加えることができると規定している。この場合、保護者や子どもの意思に反してでも、これを執行できる。
(4)一時保護の実施に当たっては、(ア) 緊急保護、(イ) 行動観察、(ウ) 短期入所指導等の要否がその判断基準となる。一時保護の目的、期間、留意点、一時保護中の子どもに対する処遇等については第4章に記載のとおりである。
(5)一時保護を行った後も、引き続き保護者に対して児童福祉施設等への入所の同意を働きかけたり、あるいは家庭裁判所への法第28条第1項に基づく児童福祉施設等への入所の承認の申立ての要否を検討することが必要であろう。
(6)現に児童相談所で一時保護をしている子どもについて、次に記載するいわゆる法第28条手続を行う場合でも、一時保護期間が相当長期化すると推測される場合には、児童福祉施設等への委託一時保護の要否の検討が必要となる場合もある。

(2) 家庭裁判所による子どもの里親委託または児童福祉施設等への入所の承認(児童福祉法第28条第1項)─ いわゆる法第28条手続
(1)どのような場合にいわゆる法第28条手続による家庭裁判所への申立てを行うか
 法第28条手続は、親権を部分的に制約する措置である。すなわち、親権者や後見人が当該子どもに対して持つ親権のうち、監護権や居所指定権を制約し、また、承認審判に基づいて施設長は監護、教育権や懲戒権を行使できることになる。したがって、本条の承認の申立てに当たっては、次の二要件が必要である。
ア.虐待、監護懈怠、その他の福祉侵害があること
 法第28条第1項では、「保護者が、その児童を虐待し、著しくその監護を怠り、その他保護者に監護させることが著しく当該児童の福祉を害する場合」と規定している。ここで「虐待」と「監護懈怠」を挙げているのは、本条文の体裁から、それらが保護者が行う監護に関して「福祉侵害」がある典型的な行為についての例示であると解すべきである。したがって、虐待の存在が大きく推定される場合はもちろんのことであるが、法第28条手続は、(1)虐待そのものの有無のみに拘泥しなくても、現在、保護者に監護させることが子どもの福祉を著しく害する状況にあることと、(2)保護者にその子どもの監護を任せておいたのでは将来子どもの福祉を損なうおそれがあること、の2点があれば申立ての要件の一つを満たしていると考えられる。あとは、申立てをした後に、その要件を家事審判の手続の中で明らかにしていくことが必要である。
イ.法第27条第1項第3号の措置(子どもを里親委託又は児童福祉施設等へ入所させること)が保護者の意に反すること
 これは、法第27条第1項第3号の措置に当たって保護者への理解を求めたり説得に努めたが、最終的に同意が得られない場合に本条の申立てを行うものであるから、保護者の意に反する状況の存在の説明や証明は比較的容易にできるであろう。
(2)虐待、監護懈怠、その他の福祉侵害の認定について
 本条についての家庭裁判所の最近の審判例を整理した文献として釜井裕子論文(「児童福祉法28条1項1号の家庭裁判所の承認について」家庭裁判月報第50巻第4号)がある。これによると、申し立てられたうちの6割について虐待、監護懈怠、その他の福祉侵害のいずれかを認定して本条を認容しているが、その中で虐待そのものがあったと言い切った例は少なく、身体にかなりの危害が加えられていると思われる事例でも、福祉侵害を設定している例が多い。このように虐待の認定例が少ない理由は、虐待を窺わせるような傷痕等があっても、保護者や子ども自身がそれを否定したりして虐待の事実の認定が相当困難であるからだと考えられる。家庭裁判所では、虐待の事実の有無を認定することよりも結論として法第27条第1項の入所等措置の承認ができるか否かを判断することがより重要であることから、少なくとも子どもに対する福祉侵害がある、あるいは措置権行使の事態にある等の認定を行っていると考えられる。
 したがって、本条申立てに当たっては、早急に親子分離が必要であるという観点から子どもに対する福祉侵害があることを明らかにして法第28条の承認を得られるようにするとともに、将来的には、虐待の事実を一層明確にさせて、虐待の事実の存在を理由として本条の承認が得られるようにしていくことが課題であろう。また、事例によっては、申立てに当たって弁護士の協力を求めることも必要であろう。
(3)法第28条手続の進め方
ア.家庭裁判所への申立権者は、都道府県知事(法第28条第1項)又はその委任を受けた児童相談所長(地方自治法第153条)である。
イ.管轄は、子どもの住所地の家庭裁判所である(特別家事審判規則第18条)。
 家庭裁判所への申立てと連携については、次の点に留意して進めるとよい。
ウ.後述する保全処分をはじめ、子どもの虐待に関しては、迅速に家庭裁判所の審理を仰ぐ必要のある場合が多い。家庭裁判所では、児童相談所や社会福祉機関などの連絡に当たる家庭裁判所調査官を定めている。そこで、機関同士の連携を円滑に図るためにも、家庭裁判所への申立てが予想された時点で、いつごろどのような事件を申し立てる予定かなど、連絡担当の家庭裁判所調査官とあらかじめ連携をとっておくと、その後の審理が円滑に運ぶことにつながる。
エ.家庭裁判所に申立てをした場合、最初から裁判官による審問がなされる場合もあるが、家庭裁判所調査官による調査が先行することが多い。そこで、申し立てた後は、ただ審判期日を待つといった姿勢でなく、緊密に家庭裁判所調査官と連絡をとり、調査への協力や必要な資料の追完等によって、迅速な審理に協力していく姿勢を示し、速やかに審判が開始され、子どもの福祉の観点から時機にかなった適正な終局が得られるように努めることが必要である。
オ.家庭裁判所で取り扱う法第28条事件は、これまでは全国で毎年20件程度であったが、平成7年から増加して平成9年には63件となった(最高裁判所事務総局編『司法統計年報・家事編』)。しかし、従来から申立て件数が少ないために、担当する裁判官や家庭裁判所調査官のすべてが、子どもの虐待に対して十分な知識と適切な対応への見通 しを持っているとは必ずしも言い切れない場合もある。そのような場合には、必要な認識が得られるように、子どもの虐待に関して参考となる種々の資料や文献などを積極的に提出して、十分な知識と認識に基づいて適正な判断をしてもらえるように努めることが必要であろう。
カ.多くの保護者は虐待の事実を否定しがちであり、虐待の明確な証明には困難を伴うことが多い。また、法第28条が承認された審判例を見ると、虐待があったと言い切った例は少なく、福祉侵害を認定している例が多い。これを考慮すれば、虐待の有無を明白にすることのみに拘泥しなくても、子の養育状況の顕著な問題点や、保護者にその子どもの監護を任せておくと将来子の福祉を損なうおそれがあることに力点を置き、それを明確化することによって、法第28条の承認が得られるように努めることが必要と考えられる。
キ.子どもの虐待について家庭裁判所に一層の理解を深めてもらうためには、法第28条の手続が必要と判断されたときは、ためらわずに申立てをし、家庭裁判所と児童相談所とが、子どもの虐待や子どもの福祉侵害に対する適切な対応についての共通 認識を深めていくことが必要である。
ク.法第28条事件の最近8年の審理結果のうち、認容は61パーセント、取下げは35パーセント、却下は14パーセントである。取下げの内訳としては、事実上解決したり、解決の方向が見出せた結果 の取下げも多くあろうが、中には認容できそうにないということで取り下げた場合も考えられる。しかし、家庭裁判所の判断が却下になりそうである場合でも、児童相談所としては福祉侵害が明らかにできると判断した場合には、却下の審判に対して高等裁判所に抗告し、福祉侵害の存否の判断を仰いで新しい判例を得ていくことも時には必要であろう。
(4)法第28条手続に伴う保全処分の申立てについて
ア.本条を本案とする保全処分の可否については、特別家事審判規則に保全処分を認めた条文がないので、これまではこれができないとする考えが強く、また、これまでの実務でも認めないのが大勢であった。
イ.しかし平成8年には、本条を本案として(1)子どもの病院からの転退院禁止、(2)児童相談所長の一時保護と親権者のこれへの妨害禁止を内容とする保全処分がなされた審判例が出された。(平成8年5月16日 浦和家庭裁判所審判例)
ウ.その後、本条を本案とする保全処分の適否については、児童相談所長が行う法第27条第1項第3号の入所等措置に保護者等が同意しそうにない場合等に保護者への説得力の強化のために行う場合、あるいはその他の場合においても本条を本案とする保全処分が認められてよいとする説も出されており、事案によっては今後これを活用する事例が徐々に出てくると考えられる。
 保全処分の具体的な手続等については、後述のとおりである。

(3) 家庭裁判所による親権喪失宣告(民法第834条、児童福祉法第33条の6)と失権宣告の取り消し(民法第836条)
(1) 民法第820条には、「親権を行う者は、子の監護および教育をする権利を有し、義務を負う」と定めている。しかし、親権の概念は時代とともに変遷してきており、親子法も家のためから親のため、さらに子のためへと展開してきている。また、児童の権利に関する条約を念頭に置いて、その視点から親権と子どもの権利について見ていく必要がある。
 親権の具体的な内容としては、子どもを監護、教育する権利と義務のほか、子どもの居所指定権、懲戒権、職業許可権、財産管理権、子どもの身分上の行為(認知、養子縁組等)の代理権等がある。
(2) 民法第834条には、「父又は母が、親権を濫用し、又は著しく不行跡であるときは、家庭裁判所が当該親の親権の喪失を宣告することができる」と規定している。親権喪失は「子どもの福祉や利益」を基準に考える必要があり、親権の濫用とは、子どもに対する身体的・性的虐待やネグレクト(保護の怠慢・拒否)等が考えられる。また、著しい不行跡とは、単に保護者の性的不品行や飲酒を言うのでなく、著しい不行跡の結果 、保護者の子どもに対する暴力(身体的虐待)やネグレクト(保護の怠慢・拒否)等が親権喪失理由とされるべきであろう。
 保護者が居所指定権を濫用して再三にわたって子どもを強引に施設等から連れ戻し、虐待を続けているような場合にも親権喪失宣告請求が考えられよう。
(3) したがって、親権喪失宣告の請求が必要と考えられるのは、保護者の子どもに対する著しい虐待により、子どもの生命や身体への重大な危害が予測されたり、監護や養育の著しい懈怠があり、子どもへの福祉が侵害されていて、将来的にもその状況の継続が予測され、あるいは改善が期待できないなどの場合であろう。
(4) 通常は、虐待が発見された場合、(ア) 在宅指導、(イ) 緊急一時保護、(ウ) 保護者の同意による施設入所等の措置、(エ) 法第28条の手続などを順次検討し、それでも足りないときに親権喪失宣告の申立てを考えることになる。
 従来、児童相談所において親権喪失宣告の申立を行うことは
ア.一旦親権喪失の宣告がなされると、その後、虐待を受けた子どもとその家族との再統合が困難である。
イ.児童相談所で扱う件数が他の措置と比べ極端に少ないためノウハウも少なく、申立をしても宣告されるかどうか分からず、もし宣告されなければその後の処遇が極めて困難になる。
ウ.社会的にも親権喪失の宣告は親と子にとって重大な出来事である。
エ.従って、児童相談所が親権喪失宣告の申立を行うのは最後の手段である。といった考え方により、慎重に取り扱われてきた。
 親権喪失の宣告制度については、喪失制度のみ(民法834条、児童福祉法第33条の6)が強調されてきたが、民法の親権喪失の制度は、親権喪失の宣告と同時に、管理権喪失の宣告、失権宣告の取り消し、すなわち親権の回復(民法836条)、親権・管理権の辞任と回復の制度と一体で運用されるものであることから、児童虐待防止法第15条において、親権喪失の制度は、児童虐待防止及び児童の保護の観点からも適切に運用されなければならないと規定されたものである。
 民法の親権喪失の制度が、広く児童の福祉のために運用されるべきであることに加えて、児童虐待の防止及び児童の保護の観点からも適切に運用されるべきものであるという趣旨であり、福祉的援助によっては児童の福祉が十分確保できないときは、児童相談所は法的介入制度の一環として親権喪失及び親権の回復制度の有効な活用について検討し、ノウハウを蓄積する必要がある。
〈参考〉
○民法
第834条(親権喪失の宣告)
父又は母が、親権を濫用し、又は著しく不行跡であるときは、家庭裁判所は、子の親族又は検察官の請求によって、その親権の喪失を宣告することができる。 第836条(失権宣告の取り消し)
前二条に定める原因が止んだときは、家庭裁判所は、本人又はその親族の請求によって、失権の宣告を取り消すことができる。
(5)親権喪失手続
ア.家庭裁判所への請求権者は、子の親族又は検察官(民法第834・835条)、児童相談所長(法第33条の6)である。
イ.管轄は、事件本人(親権者)の住所地の家庭裁判所である(家事審判規則第73条)。
(6d)
 この親権喪失宣告を本案とする親権者の職務執行停止および職務代行者の選任の保全処分の申立てができるため、本案の審判手続の進行と並行して、親権者が子どもに対して生命や身体的に重大な危険が及ぶ虐待を行う(あるいは行っている)可能性が高い場合(かつ、本案の認容の蓋然性が高い場合)には、すみやかに上記の保全処分の申立てを認容することによって、当面 子どもを保護者から分離することが可能となる。

(4) 家庭裁判所による保全処分(家事審判法第15条の3第1項)
(1)審判前の保全処分
 家庭裁判所が審判を行うためには、一定の手続のための日時を要するが、現に虐待を受けている現実があれば、とり急ぎ虐待を行っている保護者から緊急に子どもを引き離す必要がある。家庭裁判所は、一定の種類の事件において、審判を求める事項(これを本案という。)の結論が出る前に一定の事項について仮の処分としての保全処分を命ずることができる。
 親子の分離を図る事件のうち家事審判規則で保全処分が明記されているのは、親権喪失宣告、親権者変更、子の監護者の指定・監護についての必要な事項(面 接交渉等)の指定、監護者の変更・監護についての相当な処分(子の引渡し等)などであり、そのほか家事審判規則に明記されていないが、法第28条に関する保全処分の申立てについても肯定説が増えている。
(2)保全処分の内容
 本人の職務の執行停止または職務代行者の選任の保全処分ができるものとしては、a.親権・管理権の喪失宣告、b.後見人・後見監督人の解任、c.親権者の指定・変更などがある。
 事実上の行為を禁止し、または命ずる仮処分(いわゆる仮の地位を定める仮処分ともいう)は、急迫な危険を防止するための子の生活の妨害禁止、子の連れ去りの禁止、子の就学手続をとるべきことの命令、親子の面 接交渉等の処分などがある。このような保全処分ができるものとしては、a.子の監護、b.親権者の指定・変更などがある。
 法第28条手続について、明示された根拠条文はないが、このような保全処分ができると認識されつつある。
(3)親権者の職務執行停止および職務代行者の選任の保全処分(家事審判規則第74条第1項)
ア.上述のとおり、親権喪失宣告の請求をした場合に、これを本案として、親権者の職務執行停止および職務代行者の選任の申立てができる。本申立てをした場合、家庭裁判所は、本案の認容の蓋然性が高く、かつ親権者の職務執行停止の必要性があると認めた場合には、本案である親権喪失宣告請求についての審判の効力が生ずるまでの間、親権者の職務執行停止および職務代行者の選任を認容することになる。
イ.申立権者は、本案親権喪失宣告事件の申立人である。
ウ.管轄は、本案親権喪失宣告事件が係属している家庭裁判所である。
エ.本保全処分によって親権の職務代行者に選任された者は、親権者に代わって虐待を受けていた当該子どもの居所を指定するなど、必要な措置をとることができる。
(4)いわゆる法第28条手続を本案とする保全処分
ア.上述のとおり、いわゆる法第28条手続を本案とする保全処分を認める審判例が出ており、保護者による病院からの子の引取りを禁止する場合など、事案によっては、法第28条手続においても保全処分の申立てをすることが考えられる。
イ.申立権者は、本案である法第28条の申立人である。
ウ.管轄は、本案である法第28条による申立事件が係属している家庭裁判所である。

(5) 家庭裁判所におけるその他の家事事件の申立てによる対応
 家庭裁判所に対して、上述の事件の他に、親権者変更(民法第819条第6項)、子の監護者の指定・監護についての必要な事項(面 接交渉等)の指定(民法第766条第1項)、監護者の変更・監護についての相当な処分(子の引渡し等)(民法第766条第2項)等の事件を申し立てることによって虐待を行っている保護者と子どもとの分離を図ったり、両者の関係を調整する働きかけをしてもらうことも一つの方法として活用できる場合がある。
 具体的に家事事件として扱えるかどうかということについては、連絡担当の家庭裁判所調査官などと連携をとって相談をすることがよい。


8.法的分離手続の実際
(1) 各種申立書はどのように記載するか
(1)家庭裁判所への家事審判事件の申立て
ア.申立てに当たっては、その趣旨および事件の実情を明らかにし、証拠書類がある場合には、同時にその原本又は謄本を提出する。
イ.書面で申立てをする場合には、申立書に(ア) 当事者の氏名、住所、代理人があるときは代理人の氏名、住所、(イ) 申立ての趣旨およびその実情、(ウ) 申立年月日、申立裁判所、を記載して、申立人または代理人が署名押印する。
ウ.申立てに当たっては、定型の申立書式があるが、必要な内容が記載されていれば、必ずしも定型書式を使用しなくてもよい。
(2)児童福祉法第28条による児童の里親委託または児童福祉施設等への入所措置の承認
ア.根拠 法第28条第1項
イ.申立権者 都道府県知事(地方自治法第153条により児童相談所長に委任)
ウ.管轄 子どもの住所地の家庭裁判所
エ.申立費用 収入印紙600円、郵便切手800円
オ.添付書類 子ども、親権を行う者または保護者等の戸籍謄本
 児童相談所長が申立てる場合には、所長個人の戸籍抄本および資格証明(児童相談所への任命辞令の写し、申立権が委任されている旨の知事名の公文書等)が必要である。家庭裁判所によっては、次回からの申立てでは、初回の申立事件番号を付記し、戸籍抄本と資格証明のコピー添付でよいと取り決めている庁もある。
カ.申立ての趣旨欄には、児童養護施設への入所等、何を求めるのか、およびその理由を簡潔に記載する。
キ.申立ての実情欄には、事件の概要、経過、子どもが虐待を受け、あるいは著しく子どもの福祉が害されている状況および問題点、解決課題等、必要な事項を簡潔に摘記し、重要な参考になる事項を付記する。
ク.提出書類 虐待または保護者の監護が不適切で子どもの福祉が著しく害されており、保護者に子どもの監護を任せておいては将来子どもの福祉を損なう恐れがある旨の証明に役立つと思われる疎明資料を整えて提出する。疎明資料は、申立て時に間に合わなければ、順次追完して提出すればよい。
ケ. 留意点 本件の申立ては、虐待の有無の証明について家庭裁判所と争うことでなく、子どもの福祉を著しく害する状況があるので、施設入所措置の承認を得ることに目的がある。そこで、虐待の存在のみを強調し過ぎるより、虐待が疑われる状況も含めて子どもの福祉を著しく害する状況の存在により、早急に保護者から分離して施設への入所が必要な点に力点を置いて説明することがよい。
(3)法第28条申立てに伴う保全処分の申立て
ア.根拠 法第28条については、保全処分の根拠となる明文はないが、家事審判規則第52条の2の類推適用を提唱する見解がある。
イ.申立権者 本案申立事件の申立人
ウ.管轄 本案申立事件が受理され、審理されている家庭裁判所
エ.申立費用 収入印紙不要、郵便切手約3000円
オ.添付書類 本案申立認容の蓋然性、保全処分の必要性を疎明する資料
カ.求める保全処分 何を求めるのかを簡潔に記載する。
キ.保全処分を求める事由 本案の申立てを相当とする事情および緊急に保全処分を必要とする事情を簡潔に記載する。
ク.留意点 迅速に審理をしてもらうために,必要な疎明資料を逐次迅速に用意し、審理や調査の進行に当たっては、調査官等と随時密接に連携をとっていく姿勢を記載しておくとよい。
(4)親権喪失宣告請求
ア.根拠 民法第834条
イ.申立権者 子の親族・検察官(民法第834条)、児童相談所長(法第33条の6)
ウ.管轄 事件本人(親権者)の住所地の家庭裁判所
エ.申立費用 収入印紙(子1人につき)600円、郵便切手800円
オ.添付書類 申立人、事件本人・子の戸籍謄本
 児童相談所長が申立てる場合には、所長個人の戸籍抄本および資格証明(児童相談所への任命辞令の写し、申立権が委任されている旨の知事名の公文書等)が必要である。家庭裁判所によっては、次回からの申立てでは、初回の申立事件番号を付記し、戸籍抄本と資格証明のコピー添付でよいと取り決めている庁もある。
カ.申立ての趣旨欄 どの事件本人(親権者)のどの子どもに対する親権の喪失を求めるかを明確に記載する。
キ.申立ての実情欄には、(ア) 同居の有無を含めて申立人、子ども、事件本人等の家族関係、(イ) 簡単な事件の経過と虐待の事実を含めた問題状況の推移、(ウ) 子どもの現状と早急に手を打たなければならない状況、(エ) 親権を喪失させなければならない虐待行為の事実および理由、などを記載する。主張は簡潔に、証拠となるべき事実や状況は詳しく記載する。
(5)親権喪失宣告請求に伴う親権者の職務執行停止および職務代行者選任
ア.根拠 民法第834条・家事審判法第15条の3・家事審判規則第74条
イ.申立権者 本案審判事件の申立人
ウ.管轄 本案審判事件が受理され、審理されている家庭裁判所
エ.申立費用 収入印紙不要、郵便切手約3000円
オ.添付書類 本案請求認容の蓋然性、保全処分の必要性を疎明する資料
カ.求める保全処分 子どもの親権者につき、職務の執行を停止することと職務代行者の選任を求めることを簡潔に記載する。併せて、事案によっては、事件本人は職務代行者の職務を妨害してはならないこと、あるいは、職務代行者が同意した施設等から子どもを引き取ってはならない、などの具体的な事項を明示してもらうことも考えられる。
キ.保全処分を求める事由 本案請求の主張に併せて、本案についての結論がでるまでの間に、親権者が親権を引き続き行使した場合に、子どもの福祉が著しく害され、子どもにとって回復が困難なほどに不利益が生じることを具体的事実を示して、緊急に仮の処分を要することを記載する。
(6)親権者変更の申立て
ア.根拠 民法第819条第6項
イ.申立権者 子の親族(民法第819条第6項)
ウ.管轄 調停の場合は、相手方の住所地の家庭裁判所または当事者が合意で定める家庭裁判所。審判の場合は、子の住所地の家庭裁判所
エ.申立費用 収入印紙(子1人につき)900円(調停の場合)郵便切手800円
オ.添付書類 申立人、相手方、子の戸籍謄本
カ.申立ての趣旨欄 未成年者の親権者を相手方から申立人へ変更することの調停(または審判)を求める。
キ.申立ての実情欄には、相手方の子どもに対する虐待や著しく子どもの福祉を害している行為を明らかにし、相手方が親権者として子どもの養育をすることが著しく不適切であることを明確にする。同時に、申立人が親権者となった場合に、子どもの福祉のためにどのようなことをしてやれるかを具体的に記載する。

(2) 虐待の疎明、証明はどうすればよいか
(1)証拠の準備
 家庭裁判所が審判や審判前の保全処分の審理を行うに当たっては、虐待の事実、あるいは福祉を侵害していることが証拠によって認定されなければならない。申立てに当たっては、裁判官が理解しやすく、虐待や福祉侵害の事実を認定しやすいようにできるだけ具体的で簡明な証拠となる資料を提出する必要がある。
(2)資料源の秘密の保持について
 家庭裁判所の記録は原則非公開とされている。虐待は密室で行われることが多く、これを明らかにするためには、子どもを取り巻く種々の関係機関や近隣の人などが、微細と思われる情報や資料を提供し集積することによって次第に明確化してくる。近隣住民や民生・児童委員(主任児童委員)の陳述の記録は、家庭裁判所に提出されることの了解を得ておくとともに、虐待を行っている保護者と直接利害関係が生じてくるので、これらの陳述書は保護者等に対して非開示扱いとしてもらえるように家庭裁判所に申し入れておく必要があろう。
(3)提出資料の作成
 以下に列挙するものの中には、いわゆる証拠資料のみならず、参考資料も含まれる。また、これらの資料は申立てに必要不可欠というものではなく、事実をより正確に家庭裁判所に知ってもらうことにより迅速な審理を期するためのものである。
ア.写真
 外傷、着衣の状態、家屋内の様子、子どもの表情や行動等を写真、ポラロイド写真、ビデオカメラ(ビデオテープは、撮影されている当該部分の箇所と内容が分かるよう書面で明示する。)などで撮影し、撮影者、日時、場所、角度等と何を証明しようとする写真であるかの説明を加えた写真撮影報告書を作成する。
イ.診断書、カルテの記載内容、レントゲン写真
 診断名のほか、カルテに客観的事実、通常起こり得ない外傷等か、身体の成育状況(低身長、低体重)、親の弁解、医師の感想、所見などの記載があれば、後日裁判所の職権調査や弁護士法による照会(弁護士の協力を求めた場合)で、カルテに基づく回答を得ることもできる。
ウ.報告書、各種の記録、陳述書、日記、業務記録等
 各書類は、作成者(住所、氏名、職業)、作成日を記載する。児童相談所が収集できる資料としては次のものがあげられよう。
(ア) 児童記録票、虐待に関する調査票、行動観察記録
(イ) 通告者、親戚、近隣者、民生・児童委員(主任児童委員)、保育所、幼稚園、学校の担任、医師、保健婦等の陳述書または面接聴取書
(ウ) 警察等からの通告の場合は、要保護児童通告書や担当の警察官との面接聴取書
(エ) 学校照会書
(オ) 子どもからの面接聴取書、子どもの日記、作文、意見書等
(カ) 保護者の暴力、飲酒、夫婦仲、監護態度等の性癖、態度に関する面接記録、保護者との電話対応録、保護者に対する診断書等
(キ) 身体的発育(低身長、低体重)、知能や情緒面に関する診断、発達の遅れの有無、生活態度・問題行動についての児童記録票、医師の診断書・意見書等
(ク) 過去の児童記録票
これらの中から、虐待および福祉侵害の証拠となり得る資料を選択の上、提出する。
(ケ) 家庭裁判所の審理の進行状況に応じた種々の上申書
エ.事情聴取書、電話録取書
 関係者(医師、看護婦、児童福祉施設、近隣住民、保育所、幼稚園、小学校の担任)や被虐待児から事情聴取して事情聴取書を作成する。面会を求めて事情を聞く場合には、聴取書の形で家庭裁判所等に提出することを事前に伝えておくとよい。
オ.福祉侵害の状況報告書
 福祉侵害の状況については、子どもが適切な監護・養育を受けられず、ネグレクト(保護の怠慢や拒否)すなわち食事、衣料、健康、衛生、愛情に基づく養育などが与えられていない状況等、保護者の監護の不適切さがあれば、それに関する具体的な資料を集めて状況報告書を作成する。
(4)提出資料作成上の留意点
ア.保育所や学校での被虐待児の生活の記録(欠席・遅刻の状況、けがや身体の異常・健康状態、着衣や衛生状態、その他目立った言動等)など、客観的に記録されているものがあれば、その写しまたはそれに基づいて作成した客観的な記録が役に立つ。
イ.保護者の言動や態度などは、言い訳や説明なども含めてできるだけ簡潔かつ客観的に記述することがよい。
ウ.うわさ程度の資料は、証拠として扱うことは難しい。



第6章 児童福祉審議会の意見聴取

1.どのような事例を児童福祉審議会に諮るか
(1) 児童福祉審議会諮問の意義
 この手続は、児童相談所における処遇決定の客観性の確保と専門性の向上を図るために、平成9年の児童福祉法改正により新たに規定されたものである。とかく外部から見えにくい児童相談所の処遇決定プロセスについて、外部の目を導入することによりその客観化を目指すとともに、被虐待児事例等多様な専門職の参加が求められる事例に対して、医師、弁護士等外部の専門家が児相談所をバックアップすることが期待されている。
 なお、児童福祉審議会の運営や諮問の手続等については、児童福祉法、同法施行令および平成9年9月25日付児発第596号厚生省児童家庭局長通知「児童福祉法等の一部を改正する法律の施行に伴う関係政令の整備に関する政令等の施行について」のほか平成2年3月5日付児発第133号厚生省児童家庭局長通知「児童相談所運営指針について」(平成10年3月31日付児発第247号厚生省児童家庭局長通知「児童相談所運営指針の改定について」により大幅改正)等が基本となっている。

(2) 児童福祉審議会に諮問する事例
 児童相談所が相談に応じた事例について、都道府県児童福祉審議会の意見を聴取しなければならない場合とは、
・子どももしくは保護者の意向が児童相談所の措置と一致しないとき
・児童相談所長が必要と認めるとき
のいずれかの要件に該当する場合である。
(1)子どももしくは保護者の意向が児童相談所の措置と一致しないとき
 「子どももしくは保護者の意向が児童相談所の措置と一致しないとき」とは、児童相談所運営指針によると、児童相談所の処遇会議を経て出された処遇方針と、子どももしくは保護者の双方もしくはいずれかの意向とが一致しない場合を指す。具体的には、
ア.保護者が子どもの監護を怠っている場合や親子浮浪の事例で、児童相談所としては子どもを施設入所させる必要があると判断しているが、保護者や子どもに問題意識がなく、保護者、子どもの双方が、施設入所を拒んでいる場合
イ.親が行方不明等のため子どもたちだけで生活している事例で、客観的に子どもの福祉が害されていると判断されるため、児童相談所としては施設入所を勧めているにもかかわらず、子どもが当該措置を強く拒んでいる場合
ウ.触法・ぐ犯行為等相談において、児童相談所としては施設入所措置が適当と判断しているが、保護者の意向が定まらず、子どもも施設入所を強く拒んでいる場合
エ.児童福祉法第28条に基づく施設入所措置に対する家庭裁判所の承認に関する申立てを行うべきかどうか、児童相談所としては判断しかねる場合
オ.子ども並びに保護者の同意を得て施設入所措置を採った事例で、その後保護者等の意向が変化し、引取りを強く要求している場合が挙げられている。これらの場合のうち、児童相談所が審議会の意見を聴くまでもなく法第28条の家事審判請求や法第27条第1項第4号に基づく家庭裁判所送致が適当と判断した事例は、審議会意見聴取が除外される。
(2)児童相談所長が必要と認めるとき
 児童相談所運営指針によれば、児童相談所長が必要と認める場合とは、措置決定または措置決定後の処遇について、法律や医療等の幅広い分野における専門的な意見を求める必要があると判断する場合や、子どもまたは保護者の意向の確認が不可能または困難なため、子どもの最善の処遇を確保する上でより客観的な意見を求める必要があると判断される場合等である。具体的には、
ア.児童相談所の処遇方針と子どもまたは保護者の意向は一致しているが、措置解除をめぐって児童相談所と子どもが入所している施設の意見が異なるため、より幅広い観点からの客観的な意見を求めることが妥当と判断される場合
イ.保護者が行方不明等でその意向が確認できず、かつ子どもが幼少等の理由によりその意向を明確に把握しがたい場合
ウ.措置変更の場合等で、保護者が行方不明等でその意向が確認できず、子どもは当該措置に同意の意を示しているが、子どもの最善の処遇を確保する上で、より幅広い観点からの客観的な意見を求めることが妥当と判断される場合が挙げられている。これらの例のほか、特に虐待相談や施設処遇等に関わる子どもからの苦情相談等、一般的に権利侵害性が強いと考えられる事例についても、審議会の意見を求めることが望ましいとされている。なお、これらの事例について、緊急を要する場合で、あらかじめ諮問するいとまがないときは、事後報告することとされている(児童福祉法施行令第9条の8第1項)。
 各自治体では諮問事例について模索が続けられているが、たとえば、A自治体では、以下のような事例が諮問されている。

A自治体における児童福祉審議会諮問事例(例)
(ア) 集団不適応、親子関係不調の中学校1年男児の施設入所について
(イ) 実父からの身体的虐待が繰り返される中学校1年女児の施設入所について
(ウ) 被虐待により施設入所した3歳男児の保護者からの引取り希望について
(エ) 保護者からの虐待が繰り返される小学校4年女児および小学校2年女児のきょうだいの施設入所について
(オ) 子ども、保護者とも必要な医療を拒否する摂食障害の中学校2年女児の処遇について
(カ) 分裂病と推定される実母によって家庭に閉じ込められている小学校2年女児に対し、立入調査および一時保護を行うことの可否について


2.児童福祉審議会の意見聴取の手続はどのように行うか
(1) 意見聴取の手続
 審議会に対する意見聴取の手続について、児童相談所運営指針に基づいて略述すると以下のようである。
 まず、児童相談所において該当する事例があった場合、児童相談所長の考えを付して事前に児童福祉審議会に諮問することを原則とする。ただし、あらかじめ審議会の意見を聴くいとまがない場合はこの限りではないが、採った措置について速やかに審議会に報告しなければならない。
 審議会に諮問する際には、児童相談所長は原則として子どもや保護者に対してその旨の説明を行い、事例の概要や処遇意見、子どもおよび保護者等の意向等を記載した資料を作成し、これに基づき審議会に対して説明を行う。
 審議会の審議結果は諮問に対する答申として示されるが、児童相談所長は審議会の意見を尊重して処遇決定を行う。また、子どもや保護者等に対してその結果について説明を行う。さらに、審議会の意見と実際の措置とが異なった場合は、速やかに理由を付して審議会に報告する。また、審議会に諮った事例のその後の経過等について随時審議会に報告する。

(2) A自治体の場合
 以上が運営指針にみられる標準的な手続であるが、児童福祉審議会の運営は都道府県が行うものであるため、都道府県が指針に基づき独自に取扱要領等を作成することとなる。ここでは、例としてA自治体の手続について紹介することとする。

A自治体における児童福祉審議会部会への諮問に係る手続(概要)
1.諮問事項
(1) 子どもまたはその保護者の意向と児童相談所の措置とが一致しない事例
(2) 児童相談所が必要と認める事例
(1)厚生省通知「児童相談所運営指針」に示されている具体例に該当するもの
(2)特に、虐待理由で施設入所措置した子ども(子どもおよび保護者の同意を得て措置しているものを含む)を施設入所措置解除する事例については諮問するよう努める。
(3) 緊急を要する場合で、あらかじめ諮問するいとまがないときは、事後直近の部会に報告する。


2.子どもまたはその保護者への意向の確認
(1) 子どもまたはその保護者への処遇方針の説明や、施設入所に向けての説明および意向の確認は、原則として、処遇会議の提案日前に担当の児童福祉司等から施設種別も含めて説明する。処遇会議において処遇方針や施設種別に変更があった場合は、その旨を改めて説明する。

(2) 子どもおよび保護者の意向や確認の方法は、児童記録票に記録する。


3.諮問の依頼
(1) 諮問の依頼は、処遇会議を経て児童相談所長が決定する。
(2) 児童相談所長は、原則として審議会開催日の10日前までに別添様式1(第6章末に添付)に必要事項を記載して中央児童相談所長に提出する。
(3) 措置を先行した事例の事後報告を行うときは、直近の部会開催日前までに、別添様式2(略)を中央児童相談所長に提出する。


4.子どもまたはその保護者への諮問および答申の説明
(1) 担当の児童福祉司等は、子どもまたは保護者に対し、ソーシャルワークを行う中で、部会に諮問する旨および答申の内容について説明する。
(2) 担当の児童福祉司は、諮問日および答申について、児童記録票に記入する。また、子どもや保護者への説明経過についても記録しておく。


5.児童福祉審議会運営の実際と活用はどのように行うか
(1) 児童福祉審議会の運営について
 児童福祉審議会運営の留意事項については、前述の「児童福祉法等の一部を改正する法律の施行に伴う関係政令の整備に関する政令等の施行について」に述べられている。これによると、
(1)都道府県児童福祉審議会の運営に当たっては、法律、医療等の専門家を含めた数名からなる専門の部会を設置して毎月審議を行うなど円滑な運営に配慮すること。
(2)地域の実情に応じて、専門の部会は複数設置しても差し支えないものであること。
とされている。
 審議会の運営は、本制度の目的である児童相談所における処遇決定の客観化と専門性の向上に資するものでなければならない。そしてそのことが、結果 的に子どもやその保護者の福祉向上に資するものでなければならない。そのためには、局長通 知にも示されているように、なるべく頻回な開催が望ましいし、例えば、部会を一定エリアごとに複数設置するなど児童相談所の相談援助活動を鼓舞し、支援する運営が望まれる。

(2) A自治体における運営の実際
 都道府県児童福祉審議会の運営については当該都道府県に属することであるので、国レベルのガイドラインは極めて簡潔である。したがって、運営のあり方は都道府県により異なっているが、ここではA自治体における運営の実際について紹介することとしたい。

A自治体における児童福祉審議会部会の運営とその実際
1.会議の運営
(1) 開催日は、原則として月1回第○月曜日の○時から開催する。
(2) 部会は委員7名で構成し、定足数はA自治体審議会規定に基づき4名とする。
また、議決は出席委員の過半数で決定する。
(3) 児童相談所長から諮問がない場合は、原則として部会を開催しない。
(4) 会議は非公開とし、会議資料は非開示とする。
(5) 資料説明は、諮問を行う児童相談所長または児童福祉司等が行う。
(6) 司会および記録は、中央児童相談所が行う。
(7) 委員および各児童相談所への通知は、児童福祉審議会事務局が行う。
(8) 答申の通知は、児童福祉審議会事務局が別添様式(3)(第6章末に添付)により委員長名で各児童相談所長に通 知する。
(9) その他必要事項は、児童相談所長会および児童福祉審議会事務局等と協議して決定する。
 なお、部会は、諮問事例に対して答申するとともに、子どもの権利擁護に関する提言を行う役割も担っている。


2.会議運営の実際
(1) 大学教員4(児童福祉2、心理1、精神科医師1)、小児科医師、弁護士、教育相談員
(2) 開催場所:児童福祉審議会事務局(本庁児童福祉所管部局)
(3) 委員会審議の流れ
1. 事務局より審議について説明(出欠、提出事例等の確認)
2. 部会長が議事を進行
3. 各委員は、事前に送付された諮問並びに報告事例の概要を読んだ上で出席
4. 諮問事例担当児童相談所長、担当者から諮問事例1について概要説明
5. 諮問事例に関する質疑および諮問事項に関する協議
6. 結論
7. 諮問事例5~について担当児童相談所長等から説明
8. 協議および結論
9. 事後報告事例に関する説明および協議
10. 部会長より議事のまとめ
11. 事務局より既諮問、事後報告事例のその後の経過報告等および次回日程等の確認
(4) 諮問および事後報告事例数
5月(1)、6月(1)、7月(2)、8月(1)、10月(4)、11月(2)、12月(3):計14事例(複数回諮問された事例を含む)

(5) 諮問事例と答申の例(抜粋:一部改編)
1. 事例の概要
 子どもは小学2年女児A子。母子2人の家庭。母は無職で生活保護受給、被害妄想が強く昼間はA子と家庭に閉じこもっているためA子は登校できない状態が続いている。母は精神分裂病か。室内は極めて不潔な状況。栄養状態も悪い。家庭訪問するも鍵をかけ中に入れない状況。関係機関や親族、近隣の関与を一切断っている。A子は母の妄想の影響を受け、共生関係を強めている。
2. 諮問の事由
 母親が関係機関との関わりを一切拒否し、外部との接触を遮断し、学校に行けない状況が続いている中で、法第29条による立入調査および法第33条によるA子の一時保護の可否について諮問する。
3. 答申
 法第29条の立入調査およびA子の一時保護は妥当である。登校禁止状態およびネグレクト、さらに被害妄想のある母との共生関係が強まることが心配されるため、早い時期の親子分離が必要である。また、母に対しても医療の必要性がある。場合によって施設入所の同意が取れないことが予想されるため、その場合には法第28条の適用も検討することが適当である。

(3) 児童福祉審議会の答申の活用について
 A自治体の事例はあくまで一つの方法である。児童相談所も部会委員も、模索の状態が続いているといってよい。
 児童福祉法第27条第8項は、同法第27条第1項第4号による家庭裁判所送致及び法第28条による施設入所承認のための家庭裁判所への家事審判請求について、審議会の意見聴取から除外している。したがって、児童相談所が法令を消極的に解すれば、審議会の意見を聴取すべき事例は限りなくゼロに近づくこととなる。しかし、積極的に解すれば多様な活用が考えられる。審議会の開催場所や開催方法、運営方法も工夫されてよい。審議会委員の適切な選定も重要である。始まったばかりの本制度を形式的なものとしてしまうか積極的な活用を行うかは、各都道府県・児童相談所の判断、戦略に負う部分が多いといえるのではないであろうか。

別途様式(1):児童福祉審議会に対する諮問事例の記載様式(A自治体)
児童福祉審議会に対する諮問事例の概要

別途様式3:児童福祉審議会の答申様式(A自治体)



第7章 処遇(在宅指導)

1.在宅指導上の留意事項は何か
(1) 在宅指導の条件
虐待通告後、児童相談所が在宅で援助が可能と判断するためには、以下のような条件が必要である。
ア.虐待の危険度はそれほど高くない。(*)
イ.関係機関内で「在宅で援助していく」との共通認識がある。
ウ.家庭内にキーパーソンとなり得る人がいる。
(少なくとも家庭内の情報がある程度得られる)
エ.子どもが学校や保育所、幼稚園などの所属集団へ毎日通っている。(*)
オ.保護者が定期的に相談機関に出向くか、民生・児童委員(主任児童委員)、保健婦、家庭相談員、児童相談所職員等の、援助機関の訪問を受け入れる姿勢がある。(*)
なお、この項目のすべてを満たすことが困難であれば、(*)印の項目だけは最低限必要である。

(2) 在宅援助の危険性
子ども虐待は家庭という密室で行われる。
 特に暴力の場合はエスカレートしやすく、特に乳幼児については死亡などの危険性が高い。
 そのため乳幼児を在宅で援助する場合は、保育所等家庭外で毎日通う場所を確保することが条件となる。
 年長児でも、虐待の内容によっては生命の危険性がある。
 子ども虐待は「意識」や「愛情の有無」ではなく行為の問題であることに留意すべきである。

(3) 所属集団との協力
 在宅援助においては、学校や保育所、幼稚園などの所属集団の協力が大切である。
 一般に所属集団に対しては、虐待発見時の情報収集などですでに接触があることが多いが、在宅で援助するに当たっては、これらの機関との連携が不可欠である。
 所属集団の役割は以下のように考えられる。
ア.安全な場所の確保
イ.家庭状況の把握と変化の観察
ウ.家庭と違う価値観の提供(保護者によるマインドコントロールからの解放)
エ.同年齢集団内での心の癒し(心の健康の回復)
オ.家庭内でのストレスの発散(時には集団不適応行動となるが)

(4) モニター
 児童相談所や福祉事務所、保健所などの専門機関は、一般に住所地から遠く、多くの事例を抱えていることから、日常的な援助は難しい。そのため、学校等の所属集団や民生・児童委員(主任児童委員)など、日常的に子どもや家庭に接触が可能で、日常的な細かな援助を行うと同時に、緊急な場合には専門機関に通告する役割(モニター)を担う機関が必要となる。
 児童相談所等専門機関はモニターを依頼した機関との間に、下記のような事項を確認しておく必要がある。
ア.虐待の内容やメカニズムと危機的状況の予想
イ.情報の連絡網や各機関の窓口(担当者)の確認
ウ.緊急対応が必要なレベルの確認とその時の役割分担
 なお、年に数回程度、関係機関が集まり事例検討会を行ったり、児童相談所とともに事実確認や危険度の分析等を行っていくことが大切である。

(5) 保護者と子どもによる定期的な通所
 在宅援助が選択されたのは、虐待が比較的軽易な上、在宅でも虐待が拡大しないとの予想が立つ場合である。
 しかし、子ども虐待は家庭内でのシステムの中で起こるため、家族だけでシステムの改善は困難であり、専門家による援助や治療が必要となる。その場合、児童相談所以外にも精神科クリニックや民間のカウンセリングルーム、各種相談室などの活用も考えられる。
 具体的な援助方法としては、次のようなことが考えられる。
ア.保護者に対する医学的治療や心理療法、自助グループなど
イ.子どもに対する遊戯療法などの心理療法など
ウ.家族全体に対する家族療法
 なお、これらの治療は、効果が目に見えて現れるまで時間がかかり、通っているからといってすぐに虐待行動がなくなる訳ではない。また治療者同士の連携を十分に行わないと、虐待をする保護者に関係者が振り回されることにもなる。  虐待を行う保護者自身が過去に自分が虐待され、そのトラウマに苦しんでいる場合が多い。そのような場合、精神科クリニックや自助グループなど保護者の側に立って援助する機関の活用も検討する。

(6) 母子生活支援施設の場合
 「母子生活支援施設」は母子家庭を受け入れ、自立に向けて援助するのが設置目的であるが、最近は、夫からの妻への暴力や、父親からの子どもへの虐待から逃れるためのシェルター的な役割も果たしている。
 ただ一般に、夫から叩かれてきた母親は、過去において虐待を体験した女性が多いと言われている。そのため施設の対人関係がうまくいかなかったり、子どもに対して不適切な養育をしている場合も多い。
 また、父親から母子ともに暴力を振るわれ続けた後、やっと離婚して母子生活支援施設に入ると、子どもは安心した反動で、今まで我慢していたわがままを一気に出したり、退行した行動を見せたり、自分を守ってくれなかった母親への攻撃を現したりする。また母親自身も、情緒的に不安定になったり、一人で現実に立ち向かうことに消耗してしまうことが多い。
 母子生活支援施設では生活指導を中心に指導が行われているが、上記のような母子に対して心理的な援助や家族全体に対する援助的関わりを行うことも必要となっている。
 このため虐待問題やトラウマについての知識と、適切な援助を行う資質が職員に求められる。


2.子どもへの心理的援助はどのように行うか
 虐待を受けている子どもは心理的な負荷を負っている。現在、精神症状が明確ではなくても、将来の精神的な危険を考えると早期に心理的援助をしていく必要がある。ただし、心理的援助といっても一様ではない。例えば、現在も虐待が継続しているか否かや、虐待を思い出させる環境にあるか否かといった状況によっても左右されるし、子どもの年齢によっても左右される。特に、年齢が低くて、現在も虐待の可能性がある場合には、心理的援助は困難を極めることも多い。しかし、子どもの変化が親の変化につながることもあり、あきらめずに行う必要がある。

(1) 全体的援助計画の一部としての視点が必要である
 在宅での援助は、虐待の悪化や再発の危険をはらんでいる状況での援助であることを十分に認識する必要がある。いつ危機が訪れるかもしれない。現在、虐待をした人と同居していなくても、いつその人が戻ってこないとも限らないし、他の虐待をする人との同居が始まるとも限らない。したがって、常に、家族全体への援助計画の一部としての子どもへの援助であることを念頭に置く必要がある。また、子どもは家族に依存して生活している。したがって、いくら子どもへの援助を一生懸命に行っていても、虐待をしている保護者や家族全体への援助と噛み合っていなければ、かえって子どもを困難な立場に立たせてしまうことすらある。例えば、子どもが援助者との面接を楽しみにするようになると、保護者が子どもを援助者にとられてしまうような不安を抱いて虐待が悪化してしまうこともあるし、自己表現が進むにつれて同居している保護者に対する罪悪感を抱いてしまうこともある。子どもが援助を受けることで家族力動が変化するのである。もちろん、良い方向に変化することもあれば、悪い方向に変化することもある。したがって、子どもへの援助を独立したものと考えるのではなく、保護者への援助を含めた全体的な援助計画の中の一部として考える必要がある。

(2) 子どもの心理的状態の把握
 子どもにどのような援助を行うかを考える上では、子どもの面接を通して、子どもの心理的状態を的確に把握することが必要である。虐待を受けている子どもの場合は、一般の心理的面接で行われる心理状態の把握に加えて、(1)どのような愛着が成立しているのか、(2)どのような自己感を発達させているか(特に、自己の連続性は保たれていて乖離がないか、自己評価はどうか等)、(3)子どもが保護者からの虐待をどのように認識しているのか、(4)虐待による心的外傷に対してどのように心理的に処理をしているのか(どのような防衛機制を働かせているのか)、などといった点をできるだけ的確に把握する必要がある。虐待を全く否認していて何事もなかったように振る舞う子どももいれば、保護者に対する怒りを般化してすべてに怒りをぶつけている子どももいる。
 最近、被虐待児の行動特徴を愛着障害(attachment disorders)としてとらえようとする見方がある。アメリカ精神医学会の診断・統計マニュアルDSM-IV(1994)には「反応性愛着障害」(Reactive Attachment Disorder)(抑制型、脱抑制型の2型がある)として記載されており、WHOの国際疾病分類ICD-10(1994)にもほぼ同じ内容の記載がある。
 DSM-IVの反応性愛着障害の診断基準の概略は次のとおりである。
 5歳以前に始まる、著しく障害され十分に発達していない対人関係で、(1)過度に抑制された、恐れた、非常に警戒した、または非常に両価的で矛盾した反応(抑制型)、あるいは、(2)選択的な愛を示さない(拡散した愛着)(脱抑制型)を示し、その原因は病的な養育(虐待やネグレクト、あるいは主たる養育者がしばしば代わる施設養育)による。
 しかし、DSMあるいはICDに示された愛着障害についての研究はあまり見られない。最近の愛着障害への関心は児童精神医学におけるというよりも、養子あるいは里親教育の領域における実践的研究によるところが大きい。とくに、アメリカ・コロラド州のエヴァグリーンアタッチメントセンターでは、愛着障害をもつ子どもの特徴としては次のようなことを指摘している。
・行動:反抗的、挑戦的、衝動的、破壊的、攻撃的、ウソと盗み、多動、小動物への残虐さなど
・情動:強い怒り、抑うつ的で無力感をもつ、不機嫌、恐れと不安、いらだちなど
・思考:自己・関係・生活全般に対する否定的な確信、因果的な思考の欠如、注意と学習の問題
・関係性:信頼感の欠如、支配的、操作的、愛情を与えることも受けることもしない、見知らぬ人への無差別な感情、不安定な仲間関係、自分の失敗を他者のせいにするなど・身体的:身体接触をいやがる、夜尿や遺糞、事故を起こしやすい、苦痛への耐性など。
(Levy,T.M.:Handbook of attachment interventions. N.Y. : Academic Press, 2000)
 このように、被虐待児の行動を理解するうえで愛着障害の概念は示唆的であるが、今後の研究が必要であるといえる。
 いずれにしても、その子どもの心理的状態の把握をし、それを全体の援助計画に反映させることが必要である。

(3) 援助の目的・構造・方法
 全体の援助計画の中で、子どもへの援助をどのようにするかを決める。援助の目的は短期の目的と長期の目的を立てる。短期の目的は達成可能なものを選択し、援助者も被援助者も達成感を持てることが必要である。また、できるだけ子どもや保護者と目的を共有することが望ましい。特に子どもには援助を受ける意味を子どもの言葉で伝える必要がある。例えば、「自分ではいい子でいたいと思っても時々頭に来すぎて人を傷つけてしまうことがあるんだよね。どうしたらそうならないか一緒に考えていこうね。」などといった言葉かけをして、理由を伝えることは子どもの安心感を育てることにつながり、その後の援助をやりやすくする。
 心理的援助の中には、個人療法(低年齢では遊戯療法が主流)、家族療法、親子面接、集団療法、教育(権利教育など)など、様々なアプローチの方法がある。子どもの年齢、虐待の種類や状況、現在の家族の状況、援助者の技術などによってどの方法を行うかは判断されるべきである。重複して行うことが必要になることもある。どれくらいの頻度で行うかも検討されなければならない。一般に、子どもへの心理的援助は頻回に行われる必要がある。なぜならば、子どもにとっては、間が開くと、以前の面接との連続性を維持することが困難だからである。特に虐待の事例では、日常の生活の中では無力感を感じさせられる体験が多いだけに、面接場面で子どもが安心して受け入れられる体験をしても、そう長くはその感覚を維持できない。低年齢の子どもでは、援助開始の初期や状態の悪い時には最低1回/1週間の面接が望ましい。
 ただ、虐待の事例の場合には、保護者の動機付けの程度や保護者の不安定さなどから、こちらの希望するような構造を取れないことも多い。虐待の事例では、保護者が望んで子どもの心理的援助を受けさせることは少ないし、たとえ望んでいるように見えても、その背後には強いアンビバレンツがあることも稀ではないからである。したがって、通常の事例に比べて援助の構造を維持することが困難で、頻回なキャンセルがあったり、突然の中断をして呼び出しに応じないことはよく見られる。援助の中断は子どもにとって新たな喪失体験になってしまう。学校や地域の福祉機関や保健機関と協力をして、安定して援助を継続できるように図ることが大切である。
 また、援助の流れの中で目的や構造は柔軟に修正を加えていく必要がある。例えば、初期の面接では現実対応をよくする援助を主体に考えて、1回/月の集団療法で開始したところ、子どもが性的行動化を示し始めた場合、それに加えてより頻回な個人療法が必要となることもある。柔軟な変化が求められる。

(4) 援助に当たっての留意点
 児童相談所や福祉事務所、保健所などの専門機関は、一般に住所地から遠く、多くの事例を抱えていることから、日常的な援助は難しい。そのため、学校等の所属集団や民生・児童委員(主任児童委員)など、日常的に子どもや家庭に接触が可能で、日常的な細かな援助を行うと同時に、緊急な場合には専門機関に通告する役割(モニター)を担う機関が必要となる。
 児童相談所等専門機関はモニターを依頼した機関との間に、下記のような事項を確認しておく必要がある。
(1)安心できる環境を提供する…総合的援助計画の中で、子どもが安心して安定した生活ができる環境を確保することが、子どもへの心理的援助としても、最も大切である。しかし、現実には生活が安定しないときも多い。少くとも、援助者との関わりの中では子どもが安全で安定した場と感じられ、援助者を信頼できることが必要である。そのためには、援助者が振り回されないで常に安定した関わりを持つことが大切である。虐待を受けた子どもたちは相手を怒らせるような行動をしたり、相手を振り回す行動をすることがあるが、それに耐えて一定の包み込むような関わりを続けることにエネルギーを使う必要がある。
(2)自己評価の向上に努める…虐待を受けた子どもたちは自分が悪いと思い込んでいることが多い。自己評価を下げない関わりが大切である。
(3)自己表現を促す…子どもたちが様々な形で自己、特に自己の感情を表現することが促進される必要がある。そのためには、いい感情も悪い感情も表現が許される環境が必要である。また、表現をしても裏切られることがない体験が繰り返されなければならない。
(4)表現の受容と行動制限の実施…怒りの表現も促進させる必要があるが、破壊的行動は制限する必要がある。最終的には子どもたち自身が自己抑制できることが目標であるが、心理的援助の中で破壊的行動がよい形で外部から制限される体験をすることも大切である。時には抱きしめて押さえることが必要なこともある。子どもを否定する形ではなく、子どもを破壊者になることから守るためにその行動を押さえる技術も獲得しておく必要がある。
(5)自己の連続性を強化する…虐待を受けた子どもたちは恐怖の体験から自己の連続性が弱まり、解離症状を出すことも稀ではない。援助者が安定して関わる中で、普段の自分と解離した自分を統合させ、子どもの連続した自己感を育てることが大切である。
(6)SOSを出せるように心理的強化を行う…虐待が悪化したり虐待が再発したときに子どもが逃げることができるような工夫が必要である。SOSを出せる心理的能力を高めると同時に、具体的なSOSの出し方を一緒に考える必要がある。
(7)虐待体験を含めた自己の記憶の統合…最終的に、虐待を受けた人は、虐待された体験を表現し、虐待をした人への認識を含めて、過去の記憶をストーリーとして統合することが望まれる。しかし、子どもが虐待をした保護者の元にいる時には、自己-対象である保護者に対する怒りを表現することは自己を破壊することにつながり、困難であることが多い。心理的に虐待をした保護者から独立して距離を置けるようになって初めてこのような治療が可能になる。子どもの現実対応を促すような自我支持的援助を行いながら、心理的外傷(トラウマ)に近づいても耐えられるような自我を作り、保護者からの心理的独立を促して、心理的外傷(トラウマ)に近づけるようになるまでに5年以上を要することも稀ではない。気長な取り組みが大切である。

(5) 援助の終結
 援助がある程度の目的を達したときや子どもの転居などによって援助が終結になることがある。援助の終結は子どもにとっては新たな喪失体験である。したがって、よい別れが必要になる。子どもには終結は突然告げられるのではなく、ある程度余裕を持って告げられ、援助者と子どものこれまでの関わりとこれまでのプロセスを振り返る時間が必要である。


3.保護者への援助をどのように行うか
(1) ソーシャルワーク的観点
(児童相談所)
(1)在宅援助の枠組み
 虐待事例における在宅援助に際しては、日常的な細かい部分での「継続的な援助」と、長いスパンで要所要所を押さえ虐待再発の「抑止力」となるような援助、さらに専門知識や技術を伴った定期的な「治療的援助」の三つが必要である。
 これらの援助が虐待を行った保護者に対し効果を上げるためには保護者が児童相談所の指導を受けるかどうかを保護者の自由意思に任せるのみでは充分ではない。児童虐待防止法第11条において、保護者は児童相談所の指導を受ける義務があること、また、保護者が指導を受けないときは都道府県知事は保護者に対し指導を受けるよう勧告することができることを規定している。さらに、都道府県知事は同法第13条において入所措置を解除するにあたっては児童福祉司等の意見を聴取することが義務づけられており、同法第11条の指導の実施を担保している。外部の専門機関の活用を含め、様々な指導に応じない場合には、児童相談所として知事に勧告を要請するなど、保護者への指導に積極的に取り組む必要がある。
(2)日常的継続的保護者援助
 保護者と日常的に接触する人たち(例えば民生・児童委員(主任児童委員)、保育所保育士、学級担任など)の受容的な態度は、保護者の情緒の安定にとって極めて大切で、安定した援助関係は結果として子どもの虐待防止になる。例えば以下のような方法がある。
ア.地域の民生・児童委員(主任児童委員)など
 地域や子ども会の行事に誘ったり、通院や行政的な手続に同行するなどで、日常的な付合いを通しての援助を行う。
イ.保育所や幼稚園など
 毎日の送迎時の声かけや、時には園長が個別の話合いに誘い、養育の大変さに共感するなど、受容的に対応する。
ウ.育児ボランティアや保健婦など
 保護者が知的能力や経験不足のために新生児や乳児の扱い方が分からず、不適切な対応をしたり、育児のイライラを子どもに向けるような虐待の場合には、子育ての技術的な支援も有効な場合がある。
 ところで、一般に虐待をする保護者は対人関係が下手で、被害感も強いため、援助する人たちに対してもなかなか打ち解けず、安定した援助関係を保つことが難しい。しかし、援助者が、保護者を責めたり、悪い点を指摘するのではなく、気長に受容的に対応することがそのまま保護者が子どもに対応する時のモデルになる。
 なお、このように日常的に保護者と接する人は、保護者の側から話がない限り、援助者の側から親子関係や虐待に関わる事柄について話題にしない方がよい。
 また、日常的に援助する人たちへの専門機関からの支援も極めて大切である。時には連絡会や「悩みを打ち明け合う会」を開くことで、長期間の継続した援助が可能となる。
(3)「抑止力(監督者)」としての保護者援助
 児童相談所は広い範囲の地域と多くの管轄人口を抱えているため、きめの細かい対応は難しいことが多い。しかし、法的には強力な権限が付与されており、これを生かした援助が可能である。
 緊急対応としての一時保護を行った事例には、家に帰す条件として「虐待が再発すれば再度一時保護する」旨を伝え、児童相談所や関係機関での定期的な面接や訪問を行うことで、虐待再発の抑止力を発揮することが出来る。
 なお、この場合であっても、実際の面接を担当する職員は、受容的で援助的な言動を心がけることが大切である。
(4)児童相談所が行う専門的援助
 児童相談所には児童福祉司や心理職員、精神科医等の専門職がおり、その専門性を活かした援助が可能である。
ア.子どもの発達援助
 虐待をする保護者も基本的には子どもに対して愛情を持っている。そのため、子どもの発育や言語の遅れ、乱暴や落ち着きのなさ等の行動上の問題、いじめやいじめられ等の対人関係、万引きや家出などの反社会的行動等に焦点を当て、発達のチェックや対応方法について、親子で通いながら「対応策を一緒に考える」というスタンスで信頼関係を作り、援助を行う方法である。
イ.保護者サポート
 児童相談所に寄せられる虐待相談の約1割は虐待をする保護者本人からで、子どもの「しつけ」や問題行動に手を焼き、「何とかしてほしい」という訴えである。保護者自身が自分の育児方法に限界を感じ、対応に困っているので、その主訴を入口に援助を開始する方法は、援助関係が作りやすいという利点がある。
 しかし、保護者は今まで、親類や学校等から「親の対応が悪い」と言われ続けているため、批判されることに敏感で、周囲の人にささいなことで攻撃的になりやすい。しかも「自分は悪くない、子どもが問題」と考えており、自分の課題として内省する姿勢は乏しく、保護者の行動パターンが変わるのは難しいことが多い。
援助者は、「対応の難しい子どもに対して、保護者がいかに努力してきたか」を話題の中心にし、「本当は子どもが嫌い」とか「腹がたって子どもを叩いた」と保護者が話しても、受容的に聞くことで保護者も徐々に落ち着いてくることが多い。
 その中で、「虐待という方法でない子どもの育て方」を一緒に考えていく。
ウ.家族療法
 児童相談所では様々な相談に対して家族全体を視野に入れた援助を行っている。また正式な形でないにしても、家族療法を行っている事例も多い。
 子ども虐待問題はまさしく家族関係全体の歪みであり、システムとして継続しているため、家族療法が最も適している分野でもある。しかし、実施するに当たって難しいのは、距離的に遠い、家族全員が揃わないなどの家族療法一般の拒否理由以外に、以下のような理由が考えられる。
(ア) 虐待事例は、一般に緊急対応や法的手段など介入的要素が多いこともあって、継続的な在宅援助になりにくい面がある。
(イ) 虐待が家族全体の問題なだけに、虐待をしている保護者が自分を責められると思い、または自分がコントロール出来ない場への出席を嫌う。
(ウ) 家族員の多くが、現在の家族関係を変化させることに困難を感じていて、面接に積極的にならない。
(エ) 家族療法場面でも、実際の家庭状況の再現となってしまい、家族システムを変化させるだけの有効な援助が出来ない(と思ってしまう)。
(オ) 児童相談所職員が「子どもの味方」になってしまい、「出席者全員と同等の距離」を保てなくなる。
エ.親子遊び訓練
 虐待を行ってきた保護者は、「子どもと遊んでも楽しくない」「どう相手してよいか分からない」と言うことが多い。そのため、ままごとやトランプ、ゲームなど家庭で出来る「遊びの訓練」を行う。
 これは遊戯療法の一種であるが、多くの場合、その中で「口やかましくささいなことで叱る」保護者や、「ルールを無視し、落着きのない」子どもなど、虐待のシステムが再現されやすい。親子遊び訓練の中での「ルール作り」は、そのまま「虐待を起こさない親子関係作り」へと結び付く。
オ.心理療法
 児童相談所の心理職員の中には、自主的に専門的な訓練を受け、心理治療にかなりの力量を持つ人もいる。しかし、業務として保護者の心理治療まで手が回らないのが実情である。
 ただ、保護者面接の中で保護者自身のトラウマが課題となる時もあり、今後EMDRや各種の心理治療、トラウマワークなどの知識が求められてくる。
(5)児童相談所以外での専門的な援助
 児童相談所以外で有効な援助機関や病院があるかどうかは、地域により大きく差があり、またその内容も様々であるが、一般的な内容は以下のとおりである。
ア.精神科クリニック
 最近各地で精神科クリニックが増え、以前に比べるとずっと利用しやすくなった。その中にはACミーティングを行っていたり、アディクション(嗜癖行動)への援助を得意とするものもある。また、女性の精神科医の所へは、過去に虐待を経験した大人の女性が数多く訪れ、有効な援助を行っている例が多い。  しかし、一般的には精神科医で虐待問題やPTSD問題に理解のある者は多いとは言えず、紹介するにあたっては事前に内容や評判を聞いておいた方がよい。
 なお、公的機関である児童相談所が、民間機関であるクリニックを紹介することに賛否があろうが、上記の状況を考えれば、受診を強制したり引取りの条件にするのでなければ、紹介を行っても差し支えはなかろう。
イ.保健婦
 母子保健関連事業の多くが市町村に移管されたのに伴い、地域での保健婦の役割は増大している。保健婦は、妊娠中から出産、乳幼児健診、成人病の管理、高齢者援助と全ての年齢層に対して援助を行う。特に精神保健福祉関係の知識や経験の豊富な保健婦であれば、虐待をする保護者への有効な援助が期待できる。  ただ、保健婦が保護者援助を担当する場合、子どもの援助を分担する児童相談所等の関係機関との情報交換や連携を密接に行う必要がある。
ウ.自助グループ
 最近大都市を中心に、虐待を行う当事者たちの自助グループが結成されつつある。
 虐待をしている保護者全員が対象ではないが、過去に自分の受けた虐待に目が向いている保護者や、自分の苦しさを分かってほしいとの強い希望をもつ人にこれら自助グループを紹介することは有効である。出席者は「このような経験をしたのは自分一人ではなかった」ことに勇気づけられる場合が多いようである。 エ. 女性センター
 女性のための活動拠点として各地で作られ、活動の一環として相談活動や自助グループの育成を行っている。
 児童相談所はどうしても「子どもの味方」に偏りがちであり、その意味で「母親の味方」を看板に掲げる場所として、今後大きな役割が期待できよう。

(2) 心理学的観点
 虐待を行う保護者は、自分自身が子どもの頃に虐待を受けるなど、不安定な親子関係を持ってきていることが少なくない。そのため、保護者への援助を行う場合には、保護者自身の子どものころの家庭生活上の問題や、それに起因した心的外傷を直接取り扱うような長期にわたる心理療法や精神療法が望まれることが少なくない。しかし、実際の福祉・心理臨床の現場では、そうした援助が可能となる事例はむしろ少ないと言わざるを得ない。そこで本項では、保護者への援助のあり方を、危機介入的な視点を中心に述べていく。 (1) 虐待」もしくは「乱用性」の認識の形成に向けた援助
 家族に対して何らかの援助を行う場合、虐待という言葉を使うかどうかは別として、虐待の告知は必須であると考えられる。援助を行うものが、「虐待だと認識している」ということを伝えないで介入を行おうとすると、援助の対象を保護者の虐待的な行動以外の問題にしなければならない。援助を行う側と受ける側の問題認識のズレが、後の援助のあり方を混乱させてしまう結果につながる。
 従来、保護者が自分の行為を「虐待」であると認めない場合には、子どもの分離を考える必要性があるとされてきた。しかし、児童相談所が通告を受けて初期介入を行う時点で、保護者が自分の行為を虐待だと認めている事例はほとんどないことを考えるなら、そうした基準はあまり実際的ではないと言える。保護者が認識できなければならないのは、子どもに対する自分の行為あるいは態度の「乱用性」である。ここで言う「乱用性」とは、子どもに対する行為が保護者自身のため(たとえば怒りの解消など)になっている、つまり、子どもの存在や子どもとの関わりを自分のために利用していることを意味する。たとえば、子どもを殴るという行為を保護者が「子どものしつけのため」と説明しながらも、その行為の背景に保護者自身の「怒り」や「苛立ち」を認めているような場合には、保護者は「乱用性」を部分的に認めたことになる。そうした場合には、保護者の意図(子どもをしつける)と行為(怒りに基づく行為)を分離して考えたり、あるいは、怒りをぶつけることによる子どもへの悪影響をテーマにするといった具合に、危機介入的な接近が可能になるのである。
(2)援助の必要性の認識を形成するための援助
 虐待を生じる家族は、子どもへの暴力やネグレクトといった問題以外に、経済的な問題、夫婦関係の不安定さ、職業生活上の問題、社会的な不適応など、さまざまな問題を抱えていることが多く、ある意味ではストレスが日常化した生活を送っていると言える。そのため、子どもへの暴力や暴力を生じる原因もさほど重大なことであるとは認識されない傾向がある。また、子どもを虐待する保護者の中には、子どものころに暴力を受けて育つという体験をしたものが少なくないということは周知のとおりであるが、「虐待的な家族は、非虐待的な家族にとっては明らかに危機状態とみなされるような慢性的な困難と暴力の中で生活している。しかし、暴力的な家族の中で育った大人にとっては、暴力とは決して危機状況ではなく、人間関係の痛みの一部にすぎない」(Justice & Justice, 1990)ため、虐待という問題で自発的に援助を求めるといったことが起こりにくい。こうした家族に対しては、児童相談所が介入してくること自体が家族の危機状況であり、自分たちは援助を必要としているという認識が形成できるような援助が必要となる。
(3)虐待行為の制限の必要性
 子どもを家族の元においたままで援助的介入を行おうとするなら、保護者の虐待行為を制限することが必要となる。こうした制限は、基本的には子どもの安全を確保するという意味を有するが、一方、保護者への援助にとっても極めて重要な意味を持つ。
 後述するように、虐待を生じた保護者への危機介入的な接近のテーマの一つに、「ある意図を達成するための、虐待的ではない方法の発見と習得」があるが、そうしたテーマを達成するためには、虐待行為を一時的にでもやめられることが必要条件となる。
 保護者によっては、一時的に虐待行為をやめられたとしても、それが長続きしないといったものもいる。おそらく、虐待行為自体が保護者の心理的・精神的な「病理」の現れであり、たとえ、虐待に代わる行為を獲得できたとしても(その行為は「子どもをしつける」という目的は達成するかもしれないが)、保護者自身の問題(病理)の解決にはつながらないためであろう。そのような場合には、ある程度長期にわたる心理療法・精神療法が必要となる。こうした長期間の心理療法にとっても、保護者が虐待行為を制限できることは大きな意味を持つ。前述のように、保護者にとって虐待行為は自分自身の抱える心理的・精神的困難の行動化の一種であり、行動化されている限りはその背景に存在する問題に接近することはできないからである。
 このように、保護者の虐待行為の制限は、危機介入的な意味でも、あるいは長期間のカウンセリングにとっても非常に重大な意味を持つものである。したがって、子どもを家族の元においたままで援助的な介入を可能とするためには、虐待行為の制限が必要条件となる。
(4)虐待への危機介入的アプローチ
 虐待を生じた保護者への危機介入的な接近は、以下の各点をテーマに行われる必要がある。
ア.子どもを利用せずに自分の欲求の満足を図れるようになること
 虐待傾向のある保護者は、自分自身の幼少時に満たされなかった愛情欲求などの基本的欲求を引きずっていることが多い。彼らは無意識の内に、これらの欲求の代理的な満足を自分のパートナー、そして子どもから得ることを期待する。こうした期待は多くの場合、非現実的なものであり、その結果、絶望感を生じ、それが暴力を導くことになる。
 虐待傾向のある保護者すべてがこうした心理力動を示すわけではないことは言うまでもないが、保護者にこうした傾向が認められる場合には、愛情欲求や依存欲求などを満たせるための適切な方法を獲得することが、援助の上では重要なテーマとなる。
イ.社会的・情緒的孤立から抜け出すこと
 虐待傾向のある保護者は、社会的、情緒的に他者を切り離してしまっていることが多い。その背景には、これまでの生活における被害体験や、それにまつわる被害感、不信感などが存在しているものである。こうした保護者にとって、グループ・セラピーやグループワークなどへの参加が、社会的、情緒的孤立から抜け出すためのきっかけになることがある。グループへの参加を通して、他者が自分を認めてサポートを提供してくれたり、気遣ってくれるということを具体的に経験することが、従来の他者に対する認知的枠組みを修正するような体験となることが少なくない。
ウ.夫婦関係の改善を図ること
 虐待を生じる家族において、夫婦関係が肯定的で満足の行くものであることはまずない。先に述べたように、虐待傾向のある保護者は子どもの頃の愛情欲求の不満を引きずっており、それをパートナーに満たしてもらおうとする無意識の期待を持って結婚関係に入ることが多い。その結果、多くの場合、パートナーに対する否定的な認知や感情が生じることになる。彼らに必要なのはコミュニケーション技術である。基本的な欲求の満足を適切な形でパートナーから得ることを可能にするコミュニケーションの技術を保護者が習得できるような援助が必要になるのである。
エ.暴力を使わないしつけのための技術と子どもの発達上の基本的欲求への反応性の獲得
 虐待傾向のある保護者は、異なった年齢や発達段階にある子どもの欲求を理解しておらず、その欲求にどう応えていいのかを知らないことが多い。そういった父親や母親は、自分自身がどのように育てられたかに頼ることになるが、それが往々にして不適切な経験であり、従うべき健康的なガイドラインを持っていない。さらに、子育てにおいて直面する子どもの基本的欲求は、保護者に自分自身の子どもの頃の満たされなかった欲求を意識させることになる。
 こうした保護者への援助においては、子どもの発達段階、保護者としての適切な反応、暴力的でないしつけのための技術などの、基本的な技術に関する情報の提供に多くのエネルギーを費やす必要がある。
 家族への援助的介入を行う時点では、それまでの虐待行為の結果、子どもに夜尿や虚言、夜驚や盗みなどの「問題行動」が生じていることが多いため、一般的な育児技術を教えるだけでは十分でない。これらの問題行動にどのように対処していったらよいかを、援助者が保護者と一緒になって工夫していくといった態度が必要となる。
オ.援助者が陥りがちな「役割行動」
 虐待を生じた保護者に援助を提供しようとするものが陥りやすい「役割行動」として、「救世主」、「迫害者」、「被害者」があると言われている(Justice & Justice, 1990)。救世主とは、援助者が「自分が何とか助けてあげなければならない」と考えて行動するものであり、迫害者とは、「なんてひどいことをするんだ」と感じて保護者を攻撃してしまうことを意味する。また、被害者とは、援助者が保護者の攻撃を受けることで被害感を強く持ってしまうことである。援助過程の中でごく自然に生じるこうした役割や感情は、援助関係を非常に困難なものにしてしまう。援助者は、こうした役割に陥らぬよう、常に意識しておかねばならない。

(3) 保健上の観点
(1)現代の育児環境と虐待が起こる家族の病理を理解する
ア.育児経験のなさが子育てを不安にし、育児不安や虐待に追い込む
 今の母親たちは、自分が生んだ子どもが初めて触れる赤ん坊で、それまで赤ん坊に触ったこともなければ、育児を手伝ったこともない親がほとんどである。経験のなさを知識で補おうとして育児雑誌等で勉強しているが、経験がないのでマニュアルに書いてないことは分からない。例えば「湯冷ましを与える」とあると、「湯冷ましは何処に売っているんですか」と聞いたりする。このようなささいなことがきっかけで育児不安や虐待寸前の状態に陥る人も少なくない。育児不安や虐待予備軍の発見と早期対応が重要である。
 対応する側は、「こんなことも知らない」と驚かないこと、非難しないことが肝要であり、知らないことを受け入れて助言をする。特に妊娠中、乳幼児期の子どもを持つ保護者には市町村保健センターで実施している母子保健事業の利用を勧める。母親学級、新生児訪問、未熟児訪問、離乳食講習会、乳幼児健診、心理相談、育児相談、電話相談等のサービスがあるので保健婦につなぐように対応する。保健婦は"育児指導"をしないこと、一人で背負っている育児の辛さを分かち合えるように対応する。しかし、一方常に虐待に対する客観的な視点を持って関わることが必要である。
イ.家族から押し付けられる"神話"とその期待に応えようとする母親
 実家や親戚からは母親に対する期待(いい母親、いい子を育てる)が高いが、その割りには実質的な育児を手伝ったりはせず、交流も薄くなっている。家族や周囲から母親に"母性神話""家族神話""三歳児神話"等の固い信念を押し付けられ、その期待に応えなければいけないと思い込んで苦しんでいる。自由な考えができず、硬直した考えや物事を白か黒かで判断する、あるべき論に執着しているというのは、機能不全家族に育った大人に見られがちなので、原家族との関係がどうであったか、被虐待経験はないのか、アルコール・薬物等の嗜癖問題がなかったか等の判断も必要である。
 「いいお母さんにならないでいい」「もっと気楽に、もっと "いいかげん(手抜き)"な育児でいいんだ」「一人で頑張らないで、私たちにも手伝わせて」というメッセージを伝える、そしてなるべく利用しやすい社会資源の利用方法を勧め、母親が育児のストレス解消をできるように一緒に考えて実行させる等、保健婦は母親の立場に立ってサポートし、母親が力をつけていく(empowerment)ように関わっていく。場合によっては実家の祖父母と面接したり、父親と面接を設定して、育児に対する考え等を聞き、苦しんでいる母親の気持ちを理解してもらえるように調整する。
ウ.パートナーとの関係にも視点を当てる
 夫婦関係はもちろんのこと、保護者と子どもの関係、実家と父親との関係も機会をとらえて聞取りをしておく。子どもへの虐待の原因に、父親に対する不満、嫁姑関係の葛藤等が潜んでいることもあるので、家族関係の修正や調整は欠かせない。あるいは、時には父親が暴力夫(batterer)、母親も殴られ妻(battered wife)で、小さな家出を繰り返していたりすることもある。子どもへの虐待が起こっている家族は、他の暴力がないかどうか見極めることが大切である。
 母親が不満を訴える父親として、「僕は仕事しているから」と育児の手助けも何もしないタイプ、妻よりも実母に何でも相談に行くタイプ、子どもが生まれると子どもに嫉妬する未熟で子どもっぽいタイプなどがあり、これら父親の存在も家庭内で虐待を生み出す一因となっている。このような状況を把握すれば、保健婦は徹底的に母親の立場に立って話を聞く。事例によっては、家族の人間関係を修正する専門的なカウンセリングや夫婦セッションまで持ち込むこともあるので、その必要がある時はメッセージを伝えておく。
(2)虐待の告知
 在宅で虐待家族を援助していく場合、虐待の告知はいつ誰がするかという問題がある。保健所で発見され、そのまま在宅でも援助していく事例、一時保護や児童福祉施設入所から在宅指導に処遇方針が変わっていく事例、援助を拒んでいるために仕方なく在宅で経過を見守っている事例等がある。いずれの場合も、事例のことを一番分かっており信頼関係ができている援助者(医師、保健婦、児童福祉司、弁護士等)が時期を見て「あなたのやっていることは虐待である。」という告知をする。これをしなければ保護者はいつまでも「しつけである」と否認してしまうため介入が困難となる。告知は、なぜそういうことに至ったのか共感しながら、さらりと、しかしはっきりと伝えるというのがポイントである。
 しかし、時として援助者側に虐待の認知を回避する心的機制が働く場合もある。虐待という言葉が重すぎて抵抗があるとか、先の見通しが立てられない等という場合には、問題を曖昧にしたまま「育児困難」と敢えて結論づけるかもしれない。問題を直視することは援助者にとっても苦痛なことであるため、援助者自身が防衛的に振る舞ってしまう。そのような場合には、「なぜ今、虐待と告知しないのか、できないのか」と自分自身の心の動きを振り返ることも大切である(自己覚知)。
(3)具体的な援助の手法
ア.家庭訪問による家族への関わり
 虐待をする家族は、外部に対し閉鎖的である反面、家族同士が固着した関係になっている場合が多く、世間との家族境界が固いため、困っていても援助を拒否したり、受けようとしない傾向が強いが、援助者が訪問して受容的・共感的態度で話を聞いたり、相談にのることは、保護者との信頼関係を深める上で有効な手段である。
イ.子どもを叩きたくなったときの対処方法を教える
 保護者が子どもを虐待しそうになったとき、子どもと離れる方法を教える。24時間常に母親が子どもの世話をしなくてもよい環境をつくる。日中子どもと二人になることを避け、保育所やベビーシッター、保育ママ、友人に預ける、近隣でボランティアを見つける、入院する等で周囲が育児をサポートするシステムをつくる。
ウ.一人で抱え込まないで、援助チームをつくり、チームで関わる
 地域で生活していく場合は保健婦がキーパーソンになる場合も少なくなく、コーディネーターとしての役割で関係機関をつないだり、調整する役割も果たす。保護者の精神状態(不眠、イライラ、怒り、罪悪感等)にも注意し、必要な場合、精神科医や臨床心理士等とも連携する。援助チームを作るには、誰が中心となって関わっていくかを確認するとともに、それぞれが困っていることや問題点、対応策等を率直に話し合うことが肝要である。
エ.乳幼児健診や経過観察等の母子保健事業も必要なときは活用する
 母子保健事業は最も身近な市町村で実施されているため、誰もが利用しやすい資源である。新生児訪問や未熟児訪問から母親の育児不安が発見されることも少なくないし、健診から関わりが始まることもある。体重が少ない、夜泣き、離乳食を食べない、発達が遅れている等、子育てがうまくいかないと悩んでいる母親の相談を小児科医・助産婦・保健婦・栄養士等の専門職が適切に関わり、時には一緒に手を組んで対応するような仕組みも作らなければいけないだろう。母子保健からアプローチする虐待予防や保護者への援助も重要な分野である。
オ.虐待に焦点を当てた「専門相談」「心理相談」「グループミーティング」設置
 育児不安や虐待で悩んでいる母親たちは、同じ悩みの人達と出会い、自分の問題に気づき語ることで回復していくことが多い。個別の相談だけでなく、グループ化していく試みもこれから必要である。虐待する母親たちの自助グループもできつつある。
 また、虐待や育児不安の母親を対象とした「虐待相談」や「母親の心理相談」も保護者を援助する手法として一部の保健所で試みられている。



第8章 処遇(親子分離)

1.児童相談所における対応
(1) 親子分離(施設・里親)について子ども、保護者にどう説明するか
 虐待を受け危機的状況にある子どもとその家族に対し、家族関係の修復に向けた援助を試みた結果 、どうしても在宅での指導が困難であると判断した場合には施設入所の措置(里親委託を含む)を採ることが必要になる。その場合速やかに保護者と子どもを説得することになるが、さまざまな困難が予想される。
(1)保護者への説明
 初めは保護者の気持ちの流れに逆らわない対処を心がける。「親子でうまくやってほしいと思いましたが、お互いに少し距離をとったほうがよさそうですね」「しばらくこちらで本人と話を続けてみて、親御さんの気持ちをよく伝えたいと思います」「子どもさんの育てにくさが集団生活の中で少し変わるかも知れませんね」など保護者の気持ちを酌んだ言葉かけをする。
 保護者が虐待の事実を認め、子どもとの関係改善を望んでいる場合は同意を得やすいが、全く虐待の事実を認めなかったり、子どもの問題行動が原因で自分は少し厳しくしただけだと正当化したり、世間体を気にして施設入所に同意しない保護者も多い。
 そういう保護者は次のような言い方で抵抗する。
・親が一番子どものことをわかっている。その親が育ててこれないのに、他人が育ててよくなるはずがない。
・施設は親のない子の行くところ。親がいるのだから行く必要がない。
・しつけをゆるくしたらもっと悪くなる。そうなったらどうしてくれる。
・職員が一生子どもの面倒をみてくれるのか。
・施設に入れるのなら親子の縁を切る。職員の子どもにすればいい。
・家族は一人でも欠けたら家族ではない。子どもがいないと働く気にならない。金が入ってこなかったらどう責任とってくれるのか。
・親戚が反対したら説明できない。親が責められる。
・近所で「子どもはどうしたのか」と聞かれたら困る。
・他のきょうだいが学校で事情をきかれたら、返事に困る。
 このような言い方に対しては、「親御さんは一番子どもさんのことを知っておられます。ただ、子どもさんの方はもっと自分の気持ちを分かってほしいようですよ」「子どもさんに『親子の縁を切ると言って親は帰った』と言い渡してみます」「そうです。家族は揃って生活するものですね。早くそうなってほしいと子どもさんも望んでいます。そのために何を努力したらいいのかを考えませんか」といったように、まず保護者の言い分を肯定して、それ以上突っ込みようがない形にする対処が有効と思われる。
 上記のようなやりとりをしながら同意を取り付けていくが、留意しなければならないことは、保護者が虐待を認めてはいても、「自分が虐待するのは子どもの問題行動が原因である」と自分の行動を正当化しているような場合である。この場合、保護者の主張にそって、表面 的に現れている子どもの問題行動を治療するために施設入所が必要であると説明すると同意を得やすい。しかし、この方法では保護者の子どもに対する不適切な養育は不問に付され、保護者は自らの虐待行為を振り返ることもないため、行動が改善される見通 しは乏しい。また、子どもも「自分が悪い子だから施設に入れられる」という思いになり、虐待で受けた心身の傷の上に更に傷を負うことになる。これは施設入所後の子どもの情緒や行動にも大きく影響する。そのため、入所はできたものの保護者への治療的関わりができず、問題が持ち越されたままになってしまうこともある。
 虐待事例については保護者の不適切な養育が問題なのであり、子どもの問題行動の多くはその結果 として現れたものである。したがって、施設入所についての説明をする場合は、保護者が子どもに行ってきた虐待の事実をあいまいにせず、保護者自身の問題として認識させることが必要である。
 その上で、
・今は子どもが保護者と一緒にいることを苦痛に感じており、安心できる生活を保障することが必要なこと
・安全で伸びやかに生きることは子どもにとっては権利であること
・今のままであれば健全な成長が望めず、もっと性格的な歪みが大きくなること
・ずっと家に帰れないわけではなく、家庭で親子がうまく生活していくためには家族がどのような努力をすればよいのか考え、家庭復帰に向けた具体的な計画を一緒に立てることが必要なことを説明し、同意を得るべく努力する。
 施設入所の同意が得られたら書面で確認し、施設での生活と援助(治療)の目的・方針、入所の期間(治療の見通 し)、援助方法(親子関係の持ち方、面会、外泊等)、苦情解決の仕組みの概要を説明する。これについては、虐待を行っている保護者のみならず配偶者や同居の親族等の承認を得ることも重要である。
 保護者にどのような説明をしても、何を言っても引き下がらず同意をしない場合は、「保護者とわれわれは意見が異なり、折合いがつかないため家庭裁判所の判断を仰ぐことにしたい」と提示するのがよい。保護者はどこかで自分のやったことのまずさを感じているため、裁判所までは行きたくないと思い、消極的ではあるが「施設入所に反対はしない」という態度に軟化することが多い。
 それでも引き下がらず、「裁判所に出てもかまわない」という態度であれば、児童相談所としては迷うことなく児童福祉法第28条の申立てをする。
 なお、施設入所については保護者の反対を押し切っての措置はできないという意味であり、積極的な同意を条件とはしていない。
(2)子どもへの説明
 虐待を受けた子どもは、人間に対する不信感を抱いており、なかなか本当のことを言おうとしない。そして次のような特性を持っていることが多い。
・虐待の事実を家族内のこととして秘密を守ろうとする
・親はよい存在であってほしいという思いから、親をかばおうとする
・親は悪くない、悪いのは自分だから暴力を振るわれるのだという理解をして、虐待されることを納得しようとする
・こんな悪い子どもは親から見捨てられるのではないか、という不安を持っているためにより親にしがみつく  したがって虐待が子どもにとって耐えがたい状況になって、明らかに親子を分離し施設に入所させなければならない場合でも、保護者の前では萎縮し、保護者の意向にそった返事しかできないこともある。施設入所についての子どもの意向は、安心した状況のなかで子どもの本心を酌み取るための配慮をした上で確認したい。
 一時保護所などで子どもが保護者と分離できている場合、「家には帰りたくない」とはっきり表明することがある。このような場合、子どもは施設入所に納得していると判断できるが、「どういう気持ちで施設にいくの?」と質問すると、「僕が悪いことをするから、イライラしたお父さんが酒を飲んで家の中がもめる。僕がいないほうが家が平和だから施設に行く」と答えた事例もある。これは明らかに「虐待されるのは自分が悪いから」という低い自己評価に陥っており、このような思い込みは修正する必要がある。
・保護者がイライラするのは子どもの性格や行動だけが原因ではない。保護者もまた助けを必要としている人である
・すべての子どもは「安全に」「自信をもって」「自由に生きる」権利を持っており、大人はそれを認めなければならない
・今の家族の中では子どもの体や心が傷つき、安心して暮らすことができない
ことを説明した上で、心身の安全と健やかな成長のために、家族から離れて施設で生活する必要があることを伝える。
 また、親が「行け」というなら施設に入所するが、自分から親を切るようなことはしたくないと施設入所に躊躇する子どもに対しては、「児童相談所が様々な状況から判断して施設入所が適当と決定した」と言い渡してやることが、子どもの精神的負担を軽減する。
 子どもが施設入所に同意したら、パンフレットやアルバム等で施設の生活について説明するとともに、その目的や入所期間の見通 し、施設における苦情解決の仕組みや社会福祉協議会に設置される運営適正化委員会への苦情の申し出の方法、入所中の親子関係の持ち方(治療方法、面 会、外泊等)などを分かりやすく説明し、子どもの不安をできるだけ除去しておく。また、大阪府の「子どもの権利ノ-ト」のようなものに基づいて、施設の中で保障される子どもの権利について、年齢に応じた説明をするのもよい方法である。

(2) 保護者の強引な引取要求にどう対応するか
(1)ソーシャルワーク的対応
ア.入所直後の場合
 自ら同意して施設入所させた場合でも、保護者にとって入所直後は子どもがいなくなった喪失感が非常に大きい。「今ごろ子どもは何をしているだろう」「職員はきちんとみてくれているだろうか」「同じ部屋の子どもにいじめられていないだろうか」等、次々と様々な思いが巡り、「淋しくて耐えられない」気持ちになってしまうこともある。それが「すぐにでも引き取りたい」という短絡的な行動を引き起こしてしまう。このような保護者に対してはじっくり話を聞き、動揺している気持ちを吐露させ、どの保護者も子どもを預けた直後は同じような気持ち、淋しさを経験するものだと説明する。
 また、入所については保護者自身が迷った末に、新たな親子関係を築くために決心した経過を再度評価し、今無理に子どもを連れて帰れば、入所前の状態が繰り返されるだけであることを伝える。子どもは新しい環境に慣れようとがんばっており、保護者もがんばることで子どもを支えてほしいと励まし、動揺した気持ちを収めるような面 談を行う。
 もし、保護者が直接施設に行ってしまった場合は、「引取りについての相談窓口は児童相談所である」と施設から保護者に説明してもらい、児童相談所に来所するよう伝えてもらう。それを納得しない場合は、施設職員に上記と同様の対応をしてもらうが、保護者は「子どもに面 会だけでもさせてほしい」と引き下がらない可能性もある。その場合は、引取りの話は絶対出さないことを約束させた上で、職員が同席し、子どもと保護者の話を整理するなどの措置をとる。
 いずれにしても、根気強く入所の意味付けを再確認し、その後も積極的に保護者と面 接や電話で関わりを持ち、保護者の気持ちを受け止めるよう努力する。
イ.入所後一定期間を経ている場合
 施設では虐待を受けて入所してきた子どもに対し、まず大人との信頼関係を取り結べるように受容的な関わりから始める。子どもは、これまでの保護者の対応とは異なる対応を経験するために戸惑うこともあるが、しばらくしてこの場合は安全だとわかると、いままで抑えてきた感情をストレートに表すようになる。どこまで自分を許してくれるかを試すように、攻撃、挑発、過度の要求をぶつけたり、とめどなくわがままや甘えを出してくることもある。こういった様子を保護者が面 会時に見たり、外泊時に子どものやりにくさを感じたりすると、「施設に入って前よりも悪くなった。施設の職員が甘やかすからこうなる。やっぱり子どもは親が厳しくしつけるべきだ」と施設を批判し、引取を要求してくる場合がある。
 このような主張に対しては、「子どもなりに自分の気持ちを出せるようになってきている」という評価をすることを基本にし、「もう少し上手に表現できるような関わりを持ちたいと思う」とこれからの課題を分かりやすく説明することも必要である。また保護者は「子どもが自分よりも施設の職員になついてしまうのではないか」という不安や焦りの気持ちから引取りを主張していることも考えられるので、子どもが親を肯定的に表現している具体例をあげながら、親は何にも替えがたい存在なのだということを伝える。
 意を尽くして説明しても納得せず、強引な引取要求をしてくる場合は、入所中であっても一時保護委託に切り替え、児童福祉法第28条の申立てを行い、家庭裁判所の決定によって再度入所の措置をとる。
ウ.同意によらない入所の場合
 法第28条や法第33条の6等家庭裁判所の決定等による入所の場合、保護者は裁判所の決定に従わざるを得ないと半ば納得し、以降児童相談所の指導に応じる場合と、逆に自分の考えや意向が全く無視されたと児童相談所に対し、家庭裁判所に申立てをしたことおよび子どもを施設入所させたことに激しい怒りをぶつけ、衝動の抑制のないまま「子どもを返せ」と怒鳴り、暴力に訴える場合もある。
 後者の場合、あくまでも毅然とした態度を失ってはならず、児童相談所としては家庭裁判所の決定に基づいて処遇していくこと、施設入所は子どもを取り上げたわけではなく、時間をかけて親子関係を修復するためのものと考えていること、そのために保護者の協力が必要なことを説明し、それでも協力が得られない場合は子どもの福祉を守るため居所を教えられないこともあると伝える。
 対応については、複数の職員で臨むことを原則とし、必要に応じて警察に協力依頼し、職員の身の安全を図るとともに、第3章92に述べた法的対応についても検討する必要がある。
(2)法的対応
 結論的に言えば、法第27条による入所の場合には引取要求に応じざるを得ないが、法第28条による入所の場合には拒否できる。
 従来この問題は法第28条の場合について議論されてきた。すなわち、法第28条の家庭裁判所の承認は、入所させることについては親権(その一部である居所指定権)を制限するものではあるが、その後に継続して入所させることにまで制限が及ぶのかどうか、という議論である。入所以後も親権の制限が及ぶということを積極的に否定する学説はなかったが、児童相談所や施設の現場では否定する考え(すなわち拒否できないとする考え)が支配的であった。これに対して研究者や法律家の間では、入所以後も親権の制限が及ぶという考えが有力であり、家庭裁判所においてもそのような考え方が有力になりつつある。厚生省も平成9年6月の通 知で、拒否できるという考えを明確にし、これによって現場の混乱は解消された。(もちろん児童福祉施設は開放施設なので、施設職員が強引な引取りを事実上阻止できるか、という問題は残る。)
 これに対して法第27条の場合には親権者の意思を要件としており、当初反対していなかった親権者が途中で反対に変わる(同意を撤回する)ことは禁止されていないので、その時点から法第27条入所は根拠を欠くことになる。親権者が当初から期限付で同意していた場合にも、期限が到来すれば同様な状況となる。したがって、親権者が反対に転じた時には、直ちに法第28条の申立てをするべきである。申立てから承認までの間は、一時保護または一時保護委託に切り換える必要がある。(法第28条申立てに伴って保全処分が可能である、という考えが有力なので、それも追及すべきであるが、その場合でも申立てから保全処分までは若干の時間的間隔は避けられない。)
 なお、法第27条の場合でも児童相談所の措置決定が解除されない限り、引取要求を拒否できるという考えもある。しかし、施設入所措置決定は「親権者の意に反しない」か、または家庭裁判所の承認がある場合にはじめて適法になるのであって、いずれも欠いている時に、措置決定が形式的に継続していることを理由に、入所を継続できるというのは疑問である。
 ただし、施設への引取要求があっても、その事実を児童相談所が確認するまでは、施設としては引取りを拒否できると解される。したがって、施設としては親権者に対し、入所に反対である旨を児童相談所に申し出るよう促し、児童相談所としては、親権者から直接(あるいは施設を通 じて)反対意思を確認し次第、直ちに一時保護または一時保護委託の決定をすべきであろう。(なお法第27条の措置決定は不適法となったので解除する必要があるが、それは一時保護または一時保護委託の決定の後でも差し支えない。)
 以上は保護者が親権者である場合を前提としたが、親権者でない保護者については、当初から反対していても法第27条第1項が可能であるし、引取りを求めても無視できる。

(3) 家庭環境調整、保護者への援助はどのように行うか
 子どもの状態、保護者の状況をよく観察、把握し、長期的に見て、親子関係の改善ができるように援助するという姿勢で臨む。
(1)分離直後の保護者への援助
同意による施設入所であっても、入所直後の保護者の喪失感は大きいことを理解する必要がある。これは、虐待している、いないにかかわらず、どちらの保護者にも起こりうることである。保護者の思いとしては、次のようなことがよく言われる。
・今頃、子どもは何をしているだろうか
・何か欲しがっているもの(足りないもの)はないか
・やはり、預けたのは間違っていたかもしれない
 これらの思いに対処する方法としては、分離の前から「離れた後には、誰にでもこんな気持ちが出てくるもの。その時は、また、話してみてほしい」と説明しておくことも考えられる。保護者が、経験を話しながら、気持ちを整理できるようにするのである。保護者の気持ちの揺れを収めるためにも、入所後は、一定期間子どもとの交流を控えてもらう。子どもにとっても、施設になじむ期間がある程度必要なことも説明する。
 一般的には2~3週間、手紙、電話、面会を控え、この間に積極的に保護者と関わりを持ち、気持ちを受容する。保護者が入所に同意したことは、親子関係をこれまでと違う形で作りなおすために必要だったことを再度説明し、その決断を評価することが必要である。保護者自身が、自らの決断を受け入れ、今後の目標を持てるように動機づけする。
(2)保護者と親族等との調整
 在保護者と親族との葛藤状況が長く続いている場合が多い。親族から、子どもの施設入所に反対されることもある。このようなストレスを、保護者から率直に話せるような相談関係を持ち、共に対応について考えるようにする。
 必要であれば、親族と会って、施設利用についての正確な情報を伝え、その目的のために理解と協力を求める。また、子どもの目前で親族間の葛藤をあらわにすると、子どもの気持ちに負担をかけるので、このようなことがないよう配慮を依頼する。
(3)転校について
 きょうだいの内の一人の子どもだけ分離するような場合で、学校等に所属していれば、転校理由についての配慮が必要である。分離する子どものプライバシーを十分守れるよう、保護者・学校ともよく協議しておく。
(4)援助者の体制
 援助者自身も、入所当初は保護者の気持ちの揺れがあることを充分理解した上で、急な連絡にも対応できるよう気持ちと体制を整える。
 保護者が大変不安定で、不眠・食欲不振等があれば、医療につなげることを検討する。経済的問題が大きければ、生活保護の相談も必要である。いずれの場合も、それぞれの機関の状況を事前によく把握し、初回は保護者に付き添うなどして、できるだけ不安を軽減するように努める。
(5)面会・帰省について
 面会は、子どもと保護者の安定性を見計らい、それぞれの意向を十分聞いた上で実施する。どちらかがその気持ちになれない時は、児童福祉司が間に入り、双方に理解できる形で説明し、期間をおくようにする。
 保護者には「関係の修復には時間を要する。焦らず、じっくり取り組もう」と説明する。子どもの中には、電話や面 会は難しくとも「手紙を出す」という気になることもある。施設職員にも、タイミングをみて手紙の内容を一緒に考えてもらう等、援助をしてもらう。児童福祉司が手紙を受け取り、保護者に手渡して気持ちを聞き、返事をもらえるよう働きかけるといったことも想定される。
 入所後の初めての面会には慎重な配慮が必要である。特に、保護者が不用意に引取りを口にしそうな場合には注意がいる。子ども・保護者・施設の三者を全体として見極め、今後の方針を確認するため、児童福祉司も同席する。
 面会の具体的な進行としては、次のような流れが考えられる。
・施設職員と児童福祉司が保護者に会い、入所後の子どもの様子を報告する
・子どものよい面を最初に伝える。「自分の気持ちが少しずつ出せるようになっている」というように、評価できる形で話す
・子どもの今後の課題を話す
・保護者の感想や意見を聞く
・施設職員、児童福祉司が同席し、保護者と子どもに面会してもらう
 入所後の子どもは、それまでの抑圧していた気持ちを、色々な形で表現するものであり、それはごく自然な形であると、保護者に説明しておくことが大切である。
 保護者の中には、「施設で子どもが前より悪くなった」と受け取ることもあるが、事前に情報を提供し、これをなるべく防ぐようにする。そのためには、子どもの行動を、評価して報告することが必要である。保護者自身の努力を評価したり、体調を気遣ったりすることも同様に大切である。
 面会は、最初からあまり頻繁に設定するのではなく、状況を見て、頻度を決めていく。子どもと保護者が、共に安心感を持って面 会できるよう心がけ、面会の様子が落ち着くまで、職員が同席したり様子を見たりして気を配る。
 面会後、子どもと保護者双方に感想を尋ね、今後の課題について検討する。例えば、保護者が子どもに「もっとがんばれ、まだよくなっていない」というようなストレスをかける場合は、まず、現在の家庭の家族関係について考えるよう働きかけることも想定できる。子どもと保護者相互のイメージアップにつながるような援助の姿勢を持つことが必要である。
 面会状況が安定し、親子関係の改善が見られるようになってくれば、施設からの外出・休日の家庭への帰省も段階を踏んで検討する。特に、子どもが保護者の意向を先に読み取って、それを自分の気持ちより優先してしまわないように気を付ける。
 学年終了時期等、節目には、保護者が引取りを希望してくることが予測されるので、十分施設と情報交換し、対応に備えておく。
(6)保護者のカウンセリング等について
 子どもの施設入所後に、保護者自身がカウンセリングを希望してくることは、まだ事例として少ないが、基本的には大変重要なことである。
 施設入所の大きな目標は、子どもの安全を確保し、家族の病理的現象としての虐待を治療し、できる限り家族の再統合を図ることにある。そのために一定期間親子が離れて生活し、家庭環境や親子関係を適切な状況に変化させる必要がある。
 施設職員による働きかけとともに、児童相談所としても、保護者の意思を確かめながら、児童相談所の医師や心理職員等と相談し、カウンセリング等につなげる必要がある。場合によっては、地域の資源(保護者への治療を行っている医療機関、保健所やアルコール関係のグループ等)につなぐことも考えられるが、拒否や中断に対しては、虐待を行った保護者には児童相談所の指導を受ける義務のあること、保護者が指導を受けないときには知事は指導を受けるよう勧告を行うことが出来ること、さらには、入所措置等の解除に当たっては、児童福祉法第27条第1項第2号の指導を行った児童福祉司等の意見が聴取されることについても説明しなければならない。

(4) 施設への技術的支援、家庭環境調整に向けた連携をどう図るか
(1)施設職員への支援
 施設入所してきた子どもにとって、最も必要とされる「安心感」を提供してもらえるよう、また、保護者にも受容的かつ的確に対応してもらえるよう、施設職員を支援していくのが児童相談所の役割である。子どもと保護者のこれからの行動をある程度予測して、参考になりそうな文献を紹介し、対応を考えるといった、共に学び対処する姿勢で行う。
(2)子どもとの関わり
 子どもに関わる職員には、子どもの生育歴をできる限り詳しく知ってもらう。虐待状況に適応するために子どもがどう生き延びてきたのか、施設入所後にその後遺症がどのように出ると予測されるかを併せて説明する。
 担当職員に対しては、子どもは攻撃、挑発、過度の要求をぶつけることが多くなる。子どもの行動が激しいほど、職員間に緊張状態が生じ、相互に批判的になりやすいことを当初からよく説明し、対処の方法を共に考えておく必要がある。担当職員が一人で子どもを抱え込まぬ よう、また、「担当が子どもを甘やかしすぎるからああなる」と周囲が批判して追い詰めることのないよう、周囲が担当職員を援助できるように働きかける。子どもの日常の様子をそれぞれの職員がよく観察し、情報交換を密にして、行動の流れやパターンを把握したり、何気なく話していることの意味を酌み取ったりしながら、職員全員がよりよく子どもを理解できるような雰囲気を作ってもらう。
 予測し得ないことがいろいろ起こることになるので、いつでも、施設から児童福祉司に率直に相談できるような関係を築いておくことが基本である。児童福祉司にとっても施設からの情報は大変貴重なものであり、多くの示唆が得られる機会ととらえて、経験を蓄積するようにしておく。また、心理療法やカウンセリングなどの心理治療が必要な児童に対して、心理職員は、施設と連携を図り、施設への訪問指導や子どもの通 所指導などを検討し、積極的に心理治療を行うことが求められている。
(3)保護者への関わり
 保護者に一環した対応をするため、基本的には保護者担当の職員を特定してもらう。しかし、保護者によっては、担当が不在でも早急に対応を求めてきたりするので、臨機応変な対応体制を整えておくことが必要である。
 施設職員と保護者の関係がうまくつけられるよう、特に入所当初は配慮が必要となる。「保護者自身も困難な生い立ちを抱えている等から、周囲の人に対しては、不信感や攻撃性をあらわにしがちである」というような説明を十分にしておき、保護者の言動に振り回されたり、職員との間に葛藤を引き起こしたりすることを防いでおく。基本的には、保護者の気持ちを受容的に聴いたり、体調を気遣ったり、努力を評価したりして、子どもよりもむしろ保護者自身のことを話題にし、気にかけていくと、より話がしやすくなることも心得てもらう。
 子どもの状態については、保護者に不安を与えないよう配慮して報告してもらう。不安な気持ちから、「前よりも施設で子どもが悪くなった」と批判的になることはよく見られる。「子どもなりに気持ちが出せるようになっている」というような評価を基本にしながら報告し、保護者の反応も見ていく。子どもと職員の関係について保護者に、「子どもは何でも話してくれる」などと言ってしまうと、保護者は子どもとの距離を感じたり、施設職員に競争心を持ったりしがちなので注意を要する。
 子どもが、恐怖心から保護者との面会や帰省を拒否している場合は、子どもの意向をそのまま保護者に伝えるかどうかは慎重に考慮しなければならない。施設職員、児童福祉司が相談した上で「子どもがまだ十分に気持ちを出せていない。不安定な状態が続いている」と状況説明し、時期が適切でないことを理解してもらう方法も考えられる。
 初めての面会、外出、帰省は、大切な節目であり、保護者対応について十分協議できるようにしておく。
 いずれにせよ、保護者との関係づけは決して容易ではないことを、全ての職員に理解してもらい、施設、児童相談所の両者で、焦らず、たゆまず取り組めるように働きかけていく。

(5) 施設入所中の子どもへの心理的援助はどのように行うか
 虐待のために家族から分離されて施設に入所することは、子どもにとって非常に重大な体験である。こうした体験は、子どもに「二重のトラウマ(心的外傷)」を生じさせる可能性がある(西澤哲「虐待を受けた子どもへの初期対応」1995)。一つは、保護者からの虐待によるトラウマであり、もう一つは保護者を失ったことによるトラウマである。何らかの手当を施されない限り、こうしたトラウマが自然に癒えていくことはまずないと言っていいだろう。したがって、子どもの施設入所後にも、彼らがこれらのトラウマから回復できるよう、児童相談所はできうるかぎりの援助を行わなければならない。
 本項では、施設に入所している子どもに対して児童相談所が行いうる援助を、施設職員へのコンサルテーションと子どもに対する直接的な心理療法の二つに分けて述べる。
(1)施設職員へのコンサルテーション
 虐待や家族からの分離によるトラウマは、子どものさまざまな「問題行動」として現れる傾向がある。施設の職員は日常的にこれらの行動に振り回されてしまう傾向があり、そうした事態で子どもが「処遇困難」のレッテルを貼られてしまうことも珍しくない。
 子どものトラウマ性の反応としてまず考えられるのは、PTSD(Posttraumatic Stress Disorder:心的外傷後ストレス障害)である。Benedek(1985)は、DSM-ⅢのPTSDの症状は基本的に成人を対象とはしているものの、子どもにも適用可能であるとしている。しかし、虐待という刺激の反復的、慢性的な特質を考えた場合、子どもが示すトラウマ反応をPTSDにのみ限って考えるのは適切ではないといえる。Terr(1991)が指摘するように、単回性のトラウマ刺激に対するものと、反復継続的なトラウマ刺激に対する子どもの反応には、かなりの違いが見られるようである。またBriere(1992)も、虐待を受けた子どものトラウマ反応は、認知、情緒、感情、行動、対人関係などさまざまなな領域において観察されるとしている。
 こうした従来の諸研究と、児童養護施設における西澤らの観察(「養護施設における子どもの入所以前の経験と施設での生活状況に関する調査」1996)に基づいて、虐待というトラウマによって生じうると考えられる特徴を列記すると以下のようになる。
・入眠困難などの睡眠障害(PTSDの過覚醒症状)
・注意集中困難、多動性(PTSDの過覚醒症状)
・悪夢、夜驚(PTSDの侵入性症状)
・無感情、無感覚(PTSDの回避・麻痺症状)
・無気力、抑うつ(慢性化した回避・麻痺症状)
・年少の子どもや小動物に対する過度の攻撃行動(行動上の再現性)
・かんしゃく・パニックや、それにともなう破壊的行動(感情調整障害)
・年長者や力の強いものに対する従順さ(力に支配された対人関係)
・年少時に見られる無差別的愛着傾向(愛着形成の障害)
・思春期以降に見られる対人関係の希薄さ(愛着形成の障害)
・他者、特に自分にとって重要な意味のある年長者に対する挑発的行動と、それにともなう虐待的な対人関係(トラウマとなった対人関係の反復的再現)
・万引き、暴力的行為、喫煙などの反社会的行為(トラウマ性の情緒の行動化)
・セルフカットなどの自傷行為(感情調整障害、あるいは乖離症状への対処行為)
・拒食や過食などの摂食障害、食べ物への固執(口唇期性障害)
・アルコールや薬物への依存(PTSDの回避・麻痺症状)
児童相談所としては、以上のような症状もしくは行動を、保護者からの虐待や家族の喪失のトラウマに起因するものであると施設の職員が理解できるようなコンサルテーションを提供することが必要となる。なお、子どもの問題行動への対応については、第8章23で述べる。
(2)子どもの心理療法 
ア.虐待によるトラウマへの接近
 保護者からの虐待という体験は、そのままにしておけば子どもの性格や人格の発達に非常に深刻な影響を与えうるトラウマを生じる可能性がある。こうしたトラウマの多くは、子どもを例えば児童養護施設などの虐待的ではない環境に移しただけで癒えることはない。子どもには、虐待体験を直接扱っていくことでトラウマを軽減するための援助が必要となる。こうした心理療法的な援助のシステムが十分確立されているとは言えない現状において、児童相談所は、施設入所後もできる限り子どもに対する個別 的な心理療法や集団療法などの援助を行っていく必要がある。
 施設入所後の子どもへの心理的な援助には、児童相談所への子どもの通 所と児童相談所職員の施設への訪問という二つの形が考えられる。子どもが思春期年齢に達しており成人型のカウンセリングが可能である場合には、セラピストが定期的に施設に行って個人的なカウンセリングを行うことも可能である。しかし、子どもが低年齢の場合には、プレイセラピーを実施する必要が生じるため、児童相談所への通 所が望ましい。ただし、こうした子どもが一人で児童相談所にやってくることは不可能、あるいは望ましくないことが多く、その際には施設職員の付添いが必要となる。施設の職員が子どもの通 所に付き添うことには、子どもとの個人的な特別の時間を持つことができるという利点や、来所の機会を利用して施設職員にコンサルテーションを提供できるといった利点があるが、一方で、その時間帯の施設での職員数が1名減になるといったマイナス面 もある。どのような形で子どもの心理療法を実施するかは、こうした点も考慮に入れて決定しなければならない。なお、虐待体験によるトラウマを扱っていくための心理療法については、第8章24で述べる。
イ.家族の喪失への接近
 虐待を受けた子どもへの心理的な援助で、今一つ重要なテーマとなりうるのは、家族との関係である。虐待を受けた子どもは、自己中心的な認知傾向(self-centeredness)と保護者からのメッセージとが相まって、「自分が悪い子どもだから虐待されたんだ」という罪悪感や「それほど悪い子どもだから施設に入れられたんだ」といった見捨てられ感を持っていることが多い。したがって、子どもの心理療法において、こうした罪悪感や見捨てられ感を解決する必要がある。
 罪悪感を修正するためには、第8章24で述べるようなトラウマへの接近を通 して保護者による虐待行為などを吟味していくことで、最終的には「保護者が間違ったことをしたんだ」という認知を持てるようになることが重要である。その際に、保護者の「意図」と「行為」を分けて、行為を問題にすることが大切であり、決して保護者を「悪者」にしないよう留意しなければならない。
 こうした罪悪感への接近に関連して、見捨てられ感を扱っていくことも重要である。その際、援助者は「保護者はあなたを見捨てたりはしないよ」「また家族のところに帰れるよ」などといった、場合によっては非現実的なものとなりうる保証を与えないよう注意する必要がある。むしろ、「見捨てられたんだ」という子どもの思いや、家族を失うことへの喪失感にしっかり寄り添うことが援助者には求められる。また、保護者がどのように変われば家族の元に戻れるかといったテーマを大切に扱うことも重要である。そのためには、家族のソーシャルワークや心理療法の担当者と緊密に連携することが大切である。

(6) 措置解除の適否判断と解除時の子ども、保護者等への指導はどうあるべきか
 入所時および入所後の節目時に点検、確認してきた処遇指針に沿って、親子関係の修復・改善がなされ、他に養育上の問題がなければ、子どもを家庭に復帰させることになる。単に保護者と子の両者が家庭復帰を希望しているからとの理由だけで引き取らせると、虐待行為が再発したり、新たな問題を引き起こすことにもなるので、施設と児童相談所が次のような点を十分確認し、協議をした上で決定することが重要である。
(1)子どもについて確認すべき事項
・子どもは家庭に復帰したいと望んでいるか
・家庭復帰するについて、子どもはどのような意向や条件を示しているか
・子どもの虐待を行っている保護者に対する思いはどのようなものか
・許可外泊(週末帰宅、短期帰省等)によって、虐待を行っている保護者に対する態度や気持ちがどのように変化したか
・親子関係改善のための指導や心理治療によって、子ども自身の生活態度や性格行動および保護者に対する態度や気持ちが、どのように変化したか
(2)虐待を行っていた保護者について確認すべき事項
・子どもを家庭に引き取りたいと思っているか
・虐待行為が子どもに与えた心的外傷が理解できているか。また、子どもに対する気持ちはどのようなものか
・虐待の原因について理解できているか
・虐待の原因を解消するように改善努力がなされてきたか。また、解消されているのかどうか
・一時帰宅(週末帰宅、短期帰省等)によって、子どもに対する態度や気持ちがどのように変化したか
・親子関係改善のための指導や援助によって、保護者自身の生活態度や性格行動および子どもに対する態度や気持ちがどのように変化したか
・子どもの性格行動や精神的・身体的発達状況、心理状態が理解できているか。また、家庭復帰するについて、子どもの意向や条件提示をどのように理解しているか
・保護者としての自覚を持てるようになっているか。また、具体的な育児技術をどのくらい習得できたか
・家族関係、きょうだい関係の状況はどのようなものか
・地域社会、近隣との関係はどのようなものか
・保育所、幼稚園、小中学校との関係はどのようなものか
・虐待の再発防止のための援助機関(児童相談所、福祉事務所(家庭児童相談室)、市町村保健センタ-、保健所、民間虐待防止団体等)との関係はどのようなものか
以上のような事項について綿密に協議、評価した結果、親子関係の改善が確認でき、家庭復帰を進める方向に結論が出た場合、次に地域で当該家族を援助する関係機関との調整に入る。
(3)地域関係機関等との調整
 虐待再発防止のため、福祉事務所(家庭児童相談室)、市町村保健センタ-、保健所、病院、保育所、幼稚園、小・中学校、警察、民生・児童委員(主任児童委員)等、当該家族が生活している地域の関係機関、関係者との相互理解・協力によって被虐待児とその家族を援助していくことが非常に重要である。
 当該家族のプライバシ-を侵害しないように配慮しながら、関係機関および関係者に対し家庭復帰について説明し、受入れの準備を整えてもらう。
 もし、家庭復帰について関係機関から問題点の指摘があった場合は、十分時間をかけて検討・協議し、結論を導き出すようにしなければならない。
 また、援助を行うにあたって、関係機関の果たすべき役割や児童相談所の役割について、また、援助内容の適否を点検するため事例検討会を定期的に開催することなどについて確認をしておく。
(4)家庭復帰にあたって
家族および地域での受入れ準備が整えば、家庭復帰ということになる。その際、子どもおよび保護者の双方に対し
・虐待問題が再発したり、他の問題が発生したときの相談場所について分かっているか
・虐待問題が再発したり、他の問題が発生した場合、再入所の可能性があること。また、そのことを了解できるか
・家庭復帰後の親子関係の改善や子どもの性格行動の改善を目的とした治療、あるいは経過観察のための通 所や家庭訪問を了解できるか
等について、親子の考えや意思を確認し、約束の履行を取り付ける。
 家庭復帰に当たっては、まず「措置停止」を行い、当該家族の経過観察を行った上で、最終的な解除の判断をする。また、定期的な家庭訪問による指導を実施することが当該家族と児童相談所との間で了解されている場合は施設入所措置の解除と同時に「児童福祉司指導」への措置変更を行う。さらに、地理的要件等で児童相談所による頻繁な家庭訪問等が困難と思われる場合は、加えて「児童家庭支援センター指導」や「児童委員指導」等についても検討する。

(7) 措置解除後の指導をどう行うか
(1)措置解除の条件
 措置解除を行うにはおおむね以下のような条件を満たしていなければならない。
ア.家族システムが施設入所措置前(虐待が行われていたころ)から変化し、虐待が再発する可能性が少ないと判断されること。
イ.保護者が自分の行為を反省し、「もうしない」と断言しており、これに合理的根拠があると判断されること。
ウ.援助機関と保護者の間に信頼関係が樹立されており、今後も継続的な援助が可能と判断されること。
エ.援助や再発の早期発見のためのネットワーク(セーフティーネットワーク)が地域に存在すること。
(2)措置解除後の指導体制
 措置解除後の指導に当っては、虐待行為の再発の可能性を十分考慮した取り組みが必要である。
 そのため、措置解除と同時に「児童福祉司指導」に切り替え、継続的な援助を行う。
 同時に、家族や子どもに日常的に接触し、様々な援助を行いながら、緊急の場合は児童相談所や福祉事務所に速やかに通 告する役割(モニター)を持った人や機関によるネットワークを整備する。
 例えば、子どもが通う学校や保育所、幼稚園にはこの役割を依頼しやすいし、地域では民生・児童委員(主任児童委員)に依頼することもできる。また、近くに住む親族や自治会役員などもあり得る。ただ、虐待という事実や家族関係等、かなりプライバシーに関わることであり、人選には慎重さが必要である。
(3)子どもの通所
 家からの距離にもよるが、小学校4年生程度になると子どもは一人で児童相談所や以前入所していた施設に通 うことが出来る。来所した子どもから家庭の状況を聞き、危険度を判断することも大切だが、それ以上に子どもが楽しく遊べることが大切である。
なぜなら、虐待をする保護者は、子どもを自分の支配下に置き、自分と異なる感情や価値観を持つことを許さず、ロボットのようにコントロールしようとする。子どもの通 所は、「家族の価値観」というマインドコントロールから子どもを解放し、世の中の常識的な価値観や自分自身の感覚を確認する大切な作業である。
 その結果子どもは、保護者の虐待行為を客観的に見つめ直したり、家族のシステムを意識化することで、自らの生き方を主体的に模索することが可能となってくる。何より精神的なバランスの回復を図り、自信をよみがえらせる。
(4)家族の援助
 子ども虐待は家族システムの問題であるため、家族全体を視野においた援助が常に必要である。
 子どもが施設から家庭に復帰する場合、子どもは施設内で様々な経験をしたり、年齢的にも成長しているが、家族は以前のシステムのまま変わっていないこともある。そのため、帰ってきた家に子どもの居場所がなかったり、数日で以前と同じ親子関係の葛藤が再現する場合もある。
 家庭復帰に先立って面会や試験外泊を繰り返すなど慎重な対応を行うことは言うまでもないが、家庭引取り後も家族全員に定期的に児童相談所に来てもらい、引取り後の様子や対立点を家族療法的に調整していくことが大切である。


2.施設における対応
(1) 自立支援計画はどのように作成するか
(1)被虐待児にとって……自立支援計画とは
平成9年に児童福祉法等の大幅な改正が行われ、要保護児童、すなわち「保護者のない児童、又は保護者に監護させることが不適当であると認める児童」(法第25条)への施策について、保護から自立支援への基本理念の転換があった。
 保護者から虐待を受けた子どもが死亡するという事件が時々発生しており、虐待を行っている保護者から子どもを緊急に分離し、児童養護施設等へ入所させる事例が増加している。これらの介入は、必要な場合、子どもの福祉、子どもの権利を守る意味で速やかに行わなければならない。
 被虐待児は身体的な目に見える外傷、火傷、熱傷、骨折だけでなく、乳幼児の頃からの保護者の不適切な関わりの中で発達遅滞、情緒・行動障害も併せ持ち、目に見えない心的外傷による後遺症が深刻で複雑・多様な心理的課題を抱えている場合が多い。子どもが受けた身体や心の傷を癒し、まわりの大人や保護者に対する信頼を回復させるとともに、独立した人格と主体性を尊重し、さまざまな要因により停滞していた育ちを保障していくのが自立支援の目的である。
 被虐待児の年齢と成熟度に応じて子どもの意向を尊重しながら、保護者と共に協働して子どもの自立を支援していくことが児童自立支援施策ではあるが、保護者の求めがなかったり、同意が得られなかったり、また保護者の意に反する場合でも、必要な場合は子どもにとって「最善の利益」を追求しながら、子どもの権利擁護の立場で事にあたることが肝要である。そのためには、関係機関との連携は不可欠で、特に児童相談所とは密接に連携を取りながら、施設での生活と援助の目的、方針、入所期間、援助方法(親子関係の持ち方、面会、帰宅)などを含む児童相談所の「処遇指針」に対応して児童自立支援計画を策定することが義務づけられているところである。(「児童養護施設等における入所者の自立支援計画について」平成10年3月5日付児家第9号)
 保護者から虐待を受けたり遺棄された子どもは、発達期に十分な心身の回復のための援助を受けないまま成人すると、薬物やアルコールへの嗜癖行動や精神疾患を発症したり、我が子をまた虐待してしまう「虐待の世代間連鎖」が指摘されている。この虐待のチェーンを断ち切り、子どもを健全に育成出来るように児童自立支援計画にのっとり援助し、実効を上げていくことが今、児童福祉施設に求められている。
(2)自立支援への取り組みについての考え方
 自立支援とは、子どもが社会人として自立して生活していくための総合的な生活力を育てることであり、基本的生活習慣の習得や、職業訓練だけを意味するものではないことは言うまでもない。自立とは孤立ではなく、他者や社会とのよい関係のなかで、社会的資源を活用して生活していく能力を備えることである。しかし、保護者から虐待(不適切な扱い)を受けて入所する子どもは、まわりの大人や保護者に対する不信感(基本的信頼感の欠如)や自己概念の歪み(自信のなさ、劣等感、自己に対するマイナスイメージ)などにより、この社会自立に不可欠な人間関係につまづいている。すなわち低い自己評価や自尊心の欠如から対人関係がうまくとれず、過度の愛着傾向を表したり、攻撃や虐待関係の反復傾向などの「ためし行動」で施設内の生活にも馴染めず孤立してトラブルが頻発する事例も少なくない。しかし、児童福祉施設が被虐待児入所の受け皿として、また「最後の砦」としての役割を担っている以上、この現実から後もどりすることは出来ない。すべての子どもにとって安心して生活出来る環境を保障しながら、心のケアを含めた援助を行っていく具体的な自立支援の取り組みが急がれるところである。
 各施設においては、永年にわたり、地域や施設の特徴を活かして独自に施設としての専門性を高め、地域からも評価を得て事業を展開し、次に述べる課題もすでに研究、実施されていることであろうが、自立支援の考え方に立ってさらに具体的に検討、実施する時が来ている。
ア.「施設内の処遇について、地域の人々や、職員間で理解できるものになっているか」(処遇の社会化・客観化)
イ.「子どもの意見表明や最善の利益が尊重されているか」(子どもの権利擁護)
ウ.「自己実現や存在感の確立が体験できるプログラムが用意されているか」(ウェルビーイング)
エ.「児童相談所や地域関係機関などと意思伝達、関係がうまくとれているか」(機関との連携)
オ.「いじめや体罰等の施設内虐待がないか」(暴力の否定、懲戒に係る権限の濫用の禁止、施設内虐待の防止)
カ.「調理員や事務員などを含む施設職員全員が被虐待児一人ひとりに対する共通理解を持っているか」(全職員参加) 特に施設の全職員が参加して施設内研修やケースカンファレンスを実施するのは困難さを伴うが、被虐待児処遇の専門職集団となるためには不可欠である。すなわち、被虐待児およびその保護者への対応は、担当保育士や児童指導員が一人で関わることは不可能である。虐待関係の再現傾向を示したり職員を挑発するなど、子どものいわゆる「試しの行動」に対して、体罰などの施設内虐待に至らないようにするためにもチームで関わることが大切なのである。生活の場面で発せられる子どものサインや保護者の意向をどのように読み取り、分析、対応していくかが、施設の機能の根幹をなすところである。施設長、保育士、児童指導員、心理療法担当職員、栄養士、事務員、調理員などすべての職員が同じ目的で協働して、連携を図りながら相互理解を深めそれぞれ異なった立場・方法で役割分担していくことで、より高い効果が生まれる。自立支援計画に基づいて児童の自立支援を図ろうとするならば、どのような計画が適切であるかという職員間の不断の議論が必要となり、その過程を通じて職員の相互理解と連携が図られていくことになる。また、効果を上げるためには児童相談所や関係機関との連携が不可欠であり、日頃より信頼関係を深めるとともに、専門性を向上させ目前の課題に全員で全力で取り組むことが大切である。
 特に施設入所初日やはじめに援助に関わった職員の言葉や態度は重要である。「受入れ準備は万全であるか」「歓迎の意の伝達はどのようになされたか」(不安からの解放)、「個別処遇プログラムや個別に関わる人がいるか」(自由な自己表現の受容と安心感)、「適切な対人関係の習得プログラムがあるか」(人間関係と歪んだ自己概念の修正)「施設や学校、地域での友だちづくりやグループダイナミクスの活用、集団による育ち合う関係をどうしていくか」など具体的な検討が求められる。
 スポーツやレクリエーション、野外活動、キャンプなどは参加すれば本来楽しい行事であるが、「参加できにくい子どもに自主的に判断して参加していく力を養うにはどうすればよいのか」(自我の強化や欲求不満耐性の確立)ということも重要な課題となる。
 さらに、「親子関係の改善はいつから、どのように進めていくのか」(親子関係の再構築)ということも重要な検討対象となる。保護者イメージの修正と親子関係の再構築は正比例している。子どもとよく関係の取れている職員が児童相談所と連絡を密にする中で、電話、面会、帰宅等の機会をとらえ、あせらず慎重に進めることが肝要である。
 また、「子どもの社会性を養うプログラムはどのようなものを実施しているか」についても留意する。施設を退所して、立派に社会人となって自立している卒園生との交流会や、職場見学、現場実習、ボランティア活動など、生活経験の幅を広げる中で、社会的適応力、達成感が習得されていく。保護者から心と身体に深い傷を受けて、自己評価(Self Esteem) が低く、無力感(Learned Helplessness)を持つ子どもであるが、ただ人から与えられるだけの受動的な立場から、ボランティア活動などのような人の役に立ち、人に喜ばれ、感謝されるという体験を通して得られた実感により、自己評価を高め、自信を身につけ、やらされてやるのではなく、主体的に取り組みながら能動的な立場に立って生活していけるよう援助することが自立支援の最終段階となってくる。
 なお、P.T.S.D など心的外傷による後遺症がより重篤な場合は、情緒障害児短期治療施設への入所が適切ではあるが、地域の事情により児童養護施設への入所があった場合は、綿密に児童相談所と対応について協議し、児童相談所や適切な医療機関への通所などによる「心のケア」を行うことも自立支援計画の中に取り入れなければならない。
(3)自立支援計画作成のポイント
 「児童養護施設等における入所者の自立支援計画について」(平成10年3月5日付児家第9号厚生省児童家庭局家庭福祉課長通知)により、子どもが入所している施設は、児童相談所の「処遇指針」を受けて子どもおよび保護者の意向と関係機関の意見を踏まえながら、支援計画を作成し、子どもおよびその家庭への援助に当たることになる。
 従来、児童福祉施設では、個別処遇計画を策定し、援助に当たってきてはいるが、今回改めて、すべての施設に自立支援計画の策定が求められ、その中の重要な柱として、入所措置等を採る際の子どもおよび保護者の意向聴取が法定化された。加えて施設入所後も常に子どもの意向を尊重し、これを支援計画の中に盛り込み自立支援に当たることとされた。
 自立支援計画は、子どもの自立を支援していくための計画であり、実効性を上げるためには、全職員が、入所から退所まで一人ひとりの課題を認識し、自立支援計画を踏まえながら継続して援助にあたる必要がある。また、自立支援計画は、子どもの将来の自立や家庭復帰を見通した中長期の目標設定と共に、定期的にその内容を検討し、計画の見直しを図らなければならない。
 支援計画策定に当たりまず第一に大切なことは、子どもを理解する力を養うことである。子どもの抱えている問題の本質を見きわめ、現状を客観的に分析することにより達成課題を明確化し、着実に効果的援助が実行できることが求められる。そのためには、高度の専門性をもつ職員集団の育成が急務である。幅広い施設内研修の充実を図るとともに、施設外の研修会への積極的な参加などを通じて広く研鑽をつみ、バランスのとれた熱意のある職員集団を育成する必要があり、そのために施設長の果たす役割は大きい。
 子どもの抱えている問題をどうみるか。児童相談所からの処遇指針における短期的、中長期的課題に基づき、児童相談所と協議の上、緊密に連携を図りながら援助を進めていくことが肝要である。そのためにはまず、子どもの持つ「人間としての力をどうみるか」が重要なポイントになってくる。施設のもつ力量が問われるところである。生活の中の具体的目標を児童指導員・保育士が中心となって協議の上、自立支援計画の中に盛り込む。前述の厚生省児童家庭局家庭福祉課長通知には、別添1のような児童自立支援計画票が示されている。
 また、B自治体において、児童相談所が作成している「児童福祉施設入所児童援助計画」(別添2)と、これとの整合性を図りながら、児童養護施設で作成している「自立支援計画票」(別添3)を参考として掲げておく。子どもの状況に速やかに対応し、処遇に活かしていくために、具体的に学習目標・生活目標をたて、3カ月程度をめどに評価点検するのもよいであろう(別添4)。
別添1
別添2
別添3
別添4

(2) 入所時における子ども、保護者への対応はどうあるべきか
(1)施設入所の考え方
─自立支援に向けた援助─
被虐待児の施設入所は緊急避難的な意味では、やむを得ないことであるが、心と身体に傷を負って入所した子どもにとって、施設での生活は治療面でも十分とは言えない。しかし、児童養護施設には長い歴史のもと、永年にわたり培ってきた子育てに関する豊富な知識と技術があり、身体的、精神的に虐待を受けた子どもなどを数多く受け入れ、効果を上げつつある。
 被虐待児も一定期間の施設生活の後退所し、大多数は社会的、経済的に自立して家庭を築き、子どもや伴侶と共に施設に里帰りしたり、あれだけ憎しみ合っていた母など虐待を行っていた保護者との和解を知らせてくれるなど明るいニュースも数多くある。専門的に処遇技術等を学習した職員が24時間体制で子どもと生活する中で、その都度発せられるサインを読み取り、どのように対応していくかを相談、連携しながら行っていく子育て技術には、高度な専門性があると言えよう。入所中は、生活環境の保障に加え自立に向けて子どもが受けた身体や心の傷を癒し、大人や保護者に対する信頼を回復していけるよう、直接処遇職員のみならず、施設長をはじめ全職員が専門性の向上に努めることが大切である。
 施設入所といえどもすべてが施設だけで完結するのではなく、保護者との適切な対応が求められる。その他学校など地域関係機関との連携、とりわけ児童相談所との密接な連携、協力が不可欠である。保護者と子どもへの適切な援助を積み重ねる中で、傷が癒され成長し、親子関係の再構築が図られる。施設入所の究極の目標は家庭復帰にある。しかし、家庭復帰が出来ず施設から社会へ自立させなければならない事例も数多くある。長期にわたっての入所が続くなかで、大人をイライラさせたり、怒らせたりする「試し行動」や荒っぽい攻撃的な行動などが思春期の問題と重複する時など、施設処遇に困難を感じることがある。被虐待児にとって、施設とは何なのだろうか。それは始まりであり、終わりでなければならず、これより先がない、すなわち子どもの権利擁護の「最後の砦」としての役割を担っているという自負心と責任感が求められる。欧米のように契約不履行等の理由で施設や里親を転々と移される「ドリフト」は問題を大きく先送りするだけでなく、ますます心の傷を深めることになるため、厳に心しなければならないことであろう。
(2)入所直前の対応とは
─子どもにとってその時点で施設入所が最善という共通認識を持つべきである─
 被虐待児は基本的な信頼感の欠如からも、きわめて対人関係の取り方が不得手で、一部の例外を除いては極度に緊張したり、不安感をもって入所してくる。保護者についても同様で、なれない公的機関との入所事務手続などのやりとりで疲れ、心痛めて付き添ってくるわけであり、入所前の関わり(admission care) では不安感をどのように取り除くかが重要である。
 このためには必要に応じて事前に児童相談所と相談、調整の上、施設職員が一時保護所を訪問して、子どもの権利を説明したり、施設のパンフレットやカラーアルバムで諸行事を見せるなどして不安感を軽減したり除去することも必要である。
 入所に至る理由や経過については事前に把握し、虐待の事実に関して、保護者、子どもとのやりとりの中で施設職員がどのように触れていけばよいかを児童相談所と調整する。子どもによっては身体的外傷が顕著であったり、表情や態度が固く他の子どもに奇異に映る場合があり、孤立してしまうこともあるので、施設および学校で自然に受け入れられるよう配慮していくことが必要である。
(3)入所日には
─子どもの不安を取り除き、物心両面で安心して生活出来る場所だと実感させる─
 長年入所している子どもとの会話で「入所当日の昼食のメニューは大好きなハンバーグだった」とか、初めての担当保育士が「添い寝してくれた」など、当日の記憶の確かさには驚かされる。入所日は子どもにとって大きく環境が変わる重要な日であり、不安も大きいことから、緊急の入所であってもネーム入りのスリッパを揃えたり、生活に必要な物をあらかじめ準備しておくといった配慮が大切である。また、勤務を工夫するなどして担当保育士、児童指導員、施設長などが揃って入所時の面接に立ち合いたいものである。
 入所当初の関わり(beginning care)は歓迎の意をどのように伝えるかが目標であるから、緊張がほぐれ、ほっと出来るように温かく受け入れる配慮、および一人の人間として尊敬の念を持って受容的な態度で接することが肝要で、事務的な取扱いや保護者に対して高圧的な態度は禁物である。また、入所後も、施設と保護者が補い合いながら協働して子育てに当たっていくことを確認することも重要である。
 入所時の面接において、施設の生活について分かりやすく説明するとともに、子どもは虐待により心身に深い傷を受け、大人に対する不信感からどう救いを求めていのかわからないなど施設生活への不安感を抱いており、「苦情解決のしくみ」(図8-1)、保護者と子どもの関係の持ち方(面会、帰宅)、保護者と施設との協働の子育てなどについて説明し、児童と保護者に安心感を抱いてもらえるよう配慮することが必要である。また、児童福祉法第47条や児童虐待防止法第12条に基づき、児童の健全育成の観点から児童と保護者との通信や面会を制限する場合もある。この場合は、児童相談所と連携し、子どもと保護者との関係が断絶してしまわないように十分、配慮、調整する必要がある。
 また、入所中に児童相談所等への通所指導等が併用される場合においても、その目的や方法についても説明しておく必要がある。
 子どもの不安を軽減し、1日でも早く施設生活になじめるようホーム歓迎パーティー、レクリエーションの実施、担当保育士との一対一の食事やショッピング、入浴、添い寝などきめ細かな個別プログラムを検討するとともに、学校へ事前に見学に行くなど、地域、学校による受入れ調整を行う。
 児童相談所からの処遇指針を受けて「この施設では何を学ぶのか」といった生活目標を子どもと話し合う中で具体的に設定し、児童自立支援計画の中に盛り込む。それを踏まえて「正しい理解と適切な対応」を施設の全職員が習得、理解するためにケースカンファレンスには全員の参加を求めるべきである。
図8-1 福祉サービスに関する苦情解決の仕組みの概要図
(4)入所初期には
─受容体験の積み重ねと集団の中でのステイタスの確立─
 虐待を受けた子どもの多くは対人関係の取り方が不得手であったり、性格行動面に問題を抱えていることがあるので、入所初期には自立支援計画に沿って計画的な援助に当たらなければならない。子どもを暖かく受け入れ、あらゆる場面で支持し、共感してくれる職員との出会いの場が重要である。このような受容体験が積み重なるにつれ、不安が取り除かれ「私は守られている……」と安心して生活できる場所になり、ステイタスの確立(居場所)が実感できていくのである。
 保護者との基本的な信頼関係につまづいている子どもは、少し注意されただけでもふてくされたり、閉じこもったり、ささいなことでけんかをしたり、相手を怒らせたり、他罰的、攻撃的な態度をとったりする。甘えや暴言など「試し行動」をも暖かく受け止め、理解し、頭ごなしに叱りつけるようなことは慎むべきである。従来から施設が備えている幅広い年令層の安定した職員集団がそれぞれ異なった価値観を持ちながらも、自立支援計画に基づいて協力し、被虐待児の抱える問題ならびに保護者への対応について共通認識を持ち、ていねいな対応がなされなければならない。また、援助に当たり、難しいケースを持つ担当職員に適切な助言、指導を行えるスーパーバイザーなど、経験豊かな専門性に富んだ職員の養成も重要である。子どもが虐待に起因する心的後遺症を有している場合は、児童相談所へ通所して心理療法を受けたり、児童相談所の心理療法担当職員が施設を訪問して治療を行う等の方法を児童相談所と連絡調整しながら検討することが必要である。
(5)施設処遇は人として「生きる力」の学習
─自分を肯定的に見ることができるために─
 21世紀の我が国を担うかけがえのない存在である子どもを、心身ともに健やかに育成し、社会人として自立して生活していくための総合的な生活力を育てるのが児童福祉施設の役割であり、その基礎となるのは「生きる力」の学習である。本来大切にされ愛されたいと願い慕っていた母親からさえも、「保険金が欲しいから生んでやっただけだ!」とか「おまえの顔を見ているとうっとおしいだけ、むこうへ行け!」など人間の尊厳を傷つけられたり、物心がつかない乳幼児期から心身の成長および発達を支え育むための適切な関わりがなされなかった状況、いわゆる「不適切な関わり」(マルトリートメント)の結果、「どうせオレはバカだ!」と自己に対するマイナスイメージ、すなわち自己評価(SelfEsteem)が低く、「誰も信じない」「大人はみんな嘘つきだ!」と人に対する不信感(基本的信頼感の欠如)や、自信が無く、劣等感など自己概念に歪みが見られ、ときには「学習された無力感・絶望感」(Learned Helplessness)さえ認められたりする。
 施設が従来から備えている24時間生活を共にし、職員と子どもとの適切な関わりにより、心身の成長および発達の回復が図られる。自分の誕生を否定し、自分自身をも信じられなかった子どもが、自分が大事な存在だと自覚したり、大事なものとして自分の持物を大切にできるようになっていく。様々な行事などの実体験を通して、「やったらできたじゃないか」と自信を取り戻してゆき、表情が豊かとなり、「今生きててよかった」と自分が今生きていること、すなわち自分の人生を肯定的にとらえ、生きていく意味や「希望」、「生きる力」を学習していくのである。
 「児童の権利に関する条約」の批准・発効などを背景に、子どもの権利が尊重され、いじめや体罰などを許さず、平和と正義に満ちた施設環境を整備することが求められている。
 一人ひとりのつぶやきや意見に耳を傾けることの出来る職員や、落ち着いて目標に向かって励んでいる安定した年長児から多くのことを学習し、集団の遊びやスポーツ活動、各種の行事等により、自分自身を見つめることのできた子どもは、今まで学び得なかった「自我の強化」を学習するよいきっかけをつかみ、正しいルールに裏打ちされた評価や承認による達成感を得て「欲求不満耐性の確立」や「社会的適応力」等を獲得していくことができるのである。
 しかし、被虐待児の施設処遇においては、子どもが虐待関係の再現傾向を示すことに注意しなければならない。子どもは「自分が悪いから罰として虐待を受ける」と思っていて、罰を受けないと不安定になり挑発してくる。いわゆる虐待されたことによる「試し行動」である。そのため、被虐待児の中には、職員の指導に対し過度に反抗的、挑発的であったり、暴力で問題を解決しようとする傾向を示す子どももみられる。職員が虐待関係の再現に巻き込まれてしまい、子どもに対して虐待的感情を持ってしまうこと(逆転移現象)になってはならないし、体罰等の施設内虐待をしてはならない。心の傷が深い児童ほど、何度も何度もこのような行為を繰り返すことによって職員の人間性を確かめようとすることが多いのである。その職員は本当に自分のことを受容し自立させてくれる人なのか、その真意や力量などを見定めようとするものであれば、その子どもがその職員を見切らない限り、信頼を寄せるようになるまで続くのである。だからこそ、職員はこのような「試しの行動」や「問題行動」などへ適切に対応することが大切なのである。被虐待児の心理、行動特性について十分な理解に基づいて援助に当たる必要がある。児童相談所等の専門職員を交えた研修や事例研究会を実施して、施設の全職員が虐待についての正しい認識と適切な対応を習得し、一貫したしつけと愛情に満ちた援助がなされなければならない。また、職員相互の協力、連携プレーが大切で、担当職員といえども個人プレーは慎まねばならない。一人だけで関わってしまうと、精神的な負担が大きく、処遇効果が上がらないどころか抱えこんでしまって大きな問題に発展する場合がある。連携していくためには、生活の場面で発せられる様々な子どものサインをどう読み取り、分析、対応するのかが問われる。また、子どもの行動を観察する際も、ややもすると否定的言動、問題行動に視点が偏りがちであるが、常に子どもの長所や可能性に目を向ける必要があり、これらを適切に助言し援助するスーパーバイザーやサポートスタッフを各施設で工夫しなければならない。

(3) 子どもの問題行動にどう対応すべきか
 虐待を受けた子どもは、そのトラウマゆえに対人関係や感情体験に様々な問題を抱える傾向がある。こうした子どもの問題、たとえば自分にとって養育的、保護的立場にある大人に挑発的に関わって虐待的な人間関係を繰り返す、あるいは、かんしゃくを起こしてパニックに陥り、暴力的、破壊的な行動にでるなどといったことは、カウンセリングルームでよりも、施設での日常生活場面において生じやすい。そのため、施設環境が環境療法(milieutherapy: Trieschman et al., 1969)的な要素を備えることによって、子どもの問題行動の修正的接近が可能になると考えられる。
 虐待を受けた子どもに対して、施設が備えていなければならない環境療法的特徴の中で特に重要なものを以下に列記する。
(1)安全感・安心感の再形成
 虐待を経験した子どもは、いつ身体的暴力を受けるか分からないといった危険に満ちた環境で成長してきたわけで、そのために自分を取り囲む環境が危険なものだという学習をしてきている。環境や他者が危険なものだという認知は、当然、子どもと他者の関係に大きく影響する。そのため、子どもは環境や他者が安全なものであり、自分は安心できる環境にいるのだということを再学習しなければならない。他者が自分にとって危険な存在ではないという再学習を可能にするためには、子どもを取り巻く環境を「非虐待的」なものにすることが重要となる。
(2)保護されているという感覚(保護膜)の再形成
 子どもが心理的に健康な発達をとげていくためには、「自分は保護されている」「自分は守られている」という感覚を持てることが非常に重要である。「自分は守られている」という感覚は、子どもの心を様々なストレスから守ってくれる保護膜とでもいえるような機能をはたすのである。しかし、虐待環境で育った場合、子どもの心は保護膜を持つことができなくなる。自分を最も愛してくれて、守ってくれるはずの存在である保護者から暴力を受けるということが、子どもの心から保護膜を奪ってしまうのである。
 したがって、虐待環境で育ち、保護膜を持たない子どもに対して、施設環境は保護膜の再形成を目指した関わりを行う必要がある。子どもが、「自分は守られている」という感覚を回復できるためには、まず「自分のことが分かってもらえている」という感じが持てることである。現在の自分を取り巻く施設環境内に存在する大人が、自分の苦しい体験、現在抱えている様々な問題や不安、そして自分の考えや気持ちを理解してくれていると感じられることが、保護膜の再形成に向けた第一歩となるのである。虐待を受けた子どもたちは、その体験に関連したトラウマ性の感情や思考、認知を日常生活において持ちやすい。また、虐待のために家族から分離されて養育される子どもは、自分が保護者から見捨てられたという考えを持ちやすく、それが日常において様々な悲しみや怒りを生じることが多い。子どもの養育に関わる大人が子どものこうした状態を理解し、「おうちであったことを思い出して怖くなったみたいだね」「もしかしてお母さんから見捨てられたような気持ちになって悲しくなったのかなあ」といったような言葉を子どもに向けることによって、子どもは「この人は自分のことを分かってくれているのかもしれない」という考えを持つようになる。自分が理解されているという体験を積み上げた子どもは、次第に、その大人に対して心の中にある様々な思考や感情を伝えていくようになる。こうした関係の中で、子どもは「この人は自分を守ってくれているんだ」という思いを持つことができるようになるのである。
(3)人間関係の修正
 虐待環境で成長することによって、子どもの対人関係のパターンは様々な歪みを抱えてしまう。その最たるものが虐待的人間関係の再現傾向である。その他にも、無差別的愛着傾向を中心とする親密な人間関係の歪み、強いものへの従順さと弱いものへの抑圧・攻撃性を特徴とした「力に支配された対人関係」、人間関係を苦痛なもの、不快なものとして避ける対人関係の回避傾向などが見られることもある。
 こうした対人関係のパターンを身に付けてしまった子どもに対して、施設環境はそのパターンを修正する機会を提供しなければならない。たとえば虐待的な対人関係を再現する傾向のある子どもが挑発的な言葉や行動で関わってきたとき、そうした再現傾向に捕まることなく、子どもがどのような心理状態にあるのかを理解しようとする態度を大人が示すことによって、子どもの対人関係パターンの修正への道が開かれることになる。「今、あなたは僕を怒らせようとしているみたいなんだけど、どんな気持ちでそうするのかなあ」といった言葉が大人から返ってきたとき、自分の言葉に対する大人からの虐待的な反応に慣れている子どもは虚を突かれて驚くことになる。もちろん、これがすぐに子どもの人間関係の修正につながるわけではないことは言うまでもないが、こうした体験の積み重ねが、子どもをして自分の行動傾向に目を向けさせることになるのである。そして、子どもと大人の間で、対人関係パターンの裏に潜む子どもの不安や恐れなどの感情が次第に理解されていくことになる。こうした理解を通して、次第に子どもはそのパターンを変えていくのである。
(4)感情コントロールの形成
 虐待などによるトラウマを抱えた子どもはトラウマ性の感情反応を生じやすく、また、保護者の不適切な関わりのために感情調整能力が形成されていない場合が多い。虐待環境で育った子どもは、それが怒りや不安などの否定的なものであれ、あるいは喜びや興奮などの肯定的なものであれ、ある程度の強度を持った感情を抱えておくことができなくなり、それを爆発的な行動として表現したり、パニックを起こしてしまうことが多い。こういった傾向を示す子どもに対して、施設環境は感情コントロールの形成に向けた関わりを行わねばならない。
 感情コントロールの形成のためにまず必要となるのが、環境による「抱きかかえ」(holding)である。子どもは自分の中に起こった感情を抱きかかえておくことができないため、爆発的に表現したり行動化することでそれを自分の外に放り出す。それを環境が抱きかかえて吸収するわけである。そして、次に必要となるのが、環境から子どもへのフィードバックである。子どもの感情表現を受け止めて抱きかかえた環境が、今度は受け止めたものを子どもが理解し受け入れることのできる言葉に直して再び子どもに戻す、つまりフィードバックしてあげるのである。たとえば「あなたが~したかったのに、私が忙しくてあなたの相手をできなかったから、あなたは私に無視されたような気持ちになって、すごく悲しくなって、それからとっても腹が立ったのね」といった具合にである。
 自分の気持ちを抱えることができない子どもにとって、環境がそれを抱きかかえてくれて、さらに言葉で自分の心の状態についてのフィードバックを受けるという体験は、抱えられたことによる安心感と、そして、フィードバックによる自己の感情の理解へとつながっていく。こうした体験を積み重ねることにより、子どもは次第に自分の感情を理解し始める。こういった感情の理解は、子ども自身が次第に自分の感情を抱きかかえておくことができるといった状態へとつながる。
 感情コントロールの形成に向けた関わりとして、もう一つ必要とされるのが、言語化の促進である。これまで述べてきたプロセスによって、自分の感情についての子どもの理解はある程度進んできたと考えられるが、今度は、その自己理解の言語的表現を促進するわけである。こうした言語化の促進によって、感情をコントロールする力が次第に獲得されていく。「あなたが~したから、僕はとっても腹が立った」と言える子どもは、その怒りを爆発させたり、あるいは行動で表さなくてもいいようになるのである。

(4) 虐待を受けた子どもへの心理的援助の基本的枠組
(1)保護者等から虐待を受けて施設に入所してきた子どもは、直接的な身体の外傷が治癒した後も、心理的虐待や虐待的な生育環境、分離体験等から生じる様々な課題を抱えていることが多い。その場合には職員や他の子どもとの間で安定した関係を取り結ぶことが難しく、自立した社会人として成長していくための障害となること等が指摘されている。
(2)虐待を受けた子どもの援助に当たっては、施設が従来から持ってきた受容と支持の機能が基盤となる。職員と子どもが起居を共にする中で、施設が子どもを暖かく受け入れている場所であることを伝え、職員が子どもの感情を否定的な感情も含めて支持し共感的に理解するなかで、子どもが物心両面で安心して生活できる場、守られているという実感をもてる場を提供していくことが援助の基本である。日常生活の場面場面での職員と子どもとの感情の交流を通して密接な信頼関係を築き、それを維持していくことによって、子どもが心の傷を癒し、自立した社会人として成長していくための基盤ができるのである。
 このことを可能とするためには、児童福祉司、心理職員、精神科医等の児童相談所の専門職が共同の事例検討や助言・指導を通じて施設を技術的に支援していくことが不可欠であるとともに、施設職員が被虐待児の心理・行動特性を理解し、社会福祉援助技術と臨床心理学等の基礎的知識・技術を身につけるための研修の機会を体系的に充実していく必要がある。
(3)虐待を受けた子どものうち、虐待に起因する心的後遺症(単なる心の傷ではなく日常生活に支障があって治療を要するもの。)を有していて、心理療法や精神科医の治療・助言等が必要と考えられる子どもに対しては、児童相談所への通所や児童相談所職員の施設訪問等により、心理療法等必要な治療を受けさせるとともに、生活上の援助に当たる職員への専門家の助言を得ることが必要である。
 これら心理療法を必要とする子どもが一定数以上入所している場合には、通所や施設訪問が困難となる場合があるため、平成11年度から、こうした児童養護施設が非常勤の心理療法を担当する職員を雇い上げるための経費が計上されることとなった。非常勤職員が行う心理療法等の子どもへの援助および施設職員への助言等は、児童相談所と密接に連携しつつ、その指導・助言の下に行われるものである。 また、独りで心理的治療に取り組むことの危険性が指摘されているように、虐待を受けた子どもへの心理的援助を行う上で大切なのが、チームによる援助体制の確立である。心理的援助をスムーズに展開していくための前提条件となるのが、援助者をサポートできる良好なチームを維持することであり、専門家としての姿勢と資質を兼ね備え、職員間のチームワークを良好に維持していくことによって、はじめて心的外傷を受けた子どもの心理的援助が促進されるのである。
(4)ただし、虐待を受けた子どもの心的後遺症が重篤な場合には情緒障害に該当し、情緒障害児短期治療施設の対象となるから、情緒障害児短期治療施設に入所して精神科医と心理療法を担当する職員による治療とそれら専門家の助言をもとに行われる生活指導を受けることが適切である。情緒障害児短期治療施設は昭和36年に創設された児童福祉施設であるが、十分な整備が進んでいない。未設置の都道府県では児童相談所の通所部門や医療機関等を活用して必要な子どもへの援助に当たっているとしているが、虐待を受けた子どもの急増から心理・精神医学的治療の必要な子どもも増加しており、整備の促進が望まれている。

(5) 子どもへの心理的援助をどのように行うか
 虐待を受けた子どもへの心理的援助は、環境療法的接近と心理療法的接近とに大別される。環境療法的接近については第8章23で述べた。本項では、虐待を受けた子どもの心理療法の中でもっとも多く行われるプレイセラピーのあり方について述べる。虐待を受けて施設に入所している子どもの多くが、児童相談所の心理職員、施設に勤務している非常勤セラピスト、病院や相談所など子どもが援助を受けている相談・医療機関のセラピストなどから、この種の援助を必要としているのである。
(1)プレイセラピーの目標
 虐待を受けた子どもに対するプレイセラピーの目標は、虐待やネグレクトによって生じたトラウマティックなストレスを子どもが乗り越えられるように子どもを援助することである。そうすることによって、子どもの心理社会的発達の歪みを修正、もしくは予防することが可能となる。
(2)プレイセラピーにおいて扱われなければならないテーマ
 虐待を受けた子どもの心理的な問題として、比較的共通に見られるテーマを以下に示す。プレイセラピーにおいては、これらのテーマが評価され、取り扱われなければならない。
ア.身体的暴力の恐怖、および見捨てられの恐怖:こうした恐怖が、抑うつ感や強い不安につながることがある。また、こうした恐怖がきっかけとなって、攻撃性、人間に対する不信感、衝動コントロールの欠如が生じることが多い。
イ.保護者の歪んだ期待に応えられなかったこと:こうした「失敗体験」が、対象関係の歪み、依存-自立葛藤、極端に自己評価の低い「悪い子ども」という自己イメージの形成につながることが多い。また、抑うつ状態を悪化させることも多い。
ウ.分離や自立性の獲得の困難性:予測のできない恣意的な報酬と拒否の交代にさらされ続けたことによって、子どもは自己と対象をいわゆる"all good"と"all bad "に乖離させるという原始的な状態にとどまってしまうことが多い。
エ.複数にわたる拒否体験と家庭外への措置による問題:虐待を受けた子どもは、病院への入院や里親委託、児童養護施設への入所など、保護者からの分離を体験することが多い。こうした体験は、分離不安を強めるとともに、他者への愛着形成の障害を生じることが多い。
(3)子どもの適用年齢
 プレイセラピーという媒体の性格から、その適用には年齢的な限界がある。年齢の下限は約3歳であろう。Gil(1991)は、知的な発達の高い子どもの場合には2歳6カ月でも適用が可能な例があるとしている。年齢の上限は、小学校の高学年、10歳から12歳あたりであると考えられる。ただし、子どもの状況次第で、もう少し上の年齢でも適用が可能な場合がある。
(4)方法
 過去には、子どもの抱えるあらゆる問題の心理療法の方法として、プレイセラピーが用いられてきた。しかし、プレイセラピーに対するこうした期待は非現実的と云わざるを得ない。現在では、虐待などを体験した子どもの心理療法の道具として、プレイセラピーが再評価されてきている(Man & McDermott, 1983)。その際に、従来のプレイセラピーのあり方とは違い、以下のような点に注意が向けられなければならない。
ア.プレイセラピーに用いられるおもちゃなどの道具が、子どもが体験した特定の出来事をプレイで扱う上で適したものであるという基準で選択されていること。
イ.子どもが自分のトラウマティックな体験を扱うための方向付けがセラピーにおいてなされること。
ウ.プレイセラピーが、子どもの虐待などの体験の再現を中心に展開し、その再現を通して、より適応的なレベルの回復を目指したものであること。
(5)プレイルームのセッティング
 虐待を受けた子どもは、一般的にいって注意の集中が困難で易刺激的であり(注意欠陥多動性障害の診断を受けていることも珍しくない)、衝動コントロール障害のために爆発的な暴力的行動化を示すことが多い。したがって、こうした子どものプレイセラピーを行う空間としては、適度の広さを持った刺激の少ない質素な部屋であることが望まれる。プレイルームには、本棚などの固定式の家具はおかないようにする。机やいすも、容易に移動可能なシンプルなものであることが望ましい。また、部屋の装飾はできるだけ少なくし、特に、子どもが興奮したり攻撃的になったときに「武器」になるようなものは置かないようにする。
 また、一般のプレイルームに多く見られるような、部屋の棚に遊具を並べておくといった形態は避けるべきである。こうしたおもちゃの配置は、子どもにとって過剰な刺激となってしまう。子どもは目に飛び込んでくるおもちゃという刺激に翻弄され、次から次へと新しいおもちゃを手にとるといった行為に終始し、その結果、「まとまりのないプレイ」に終わってしまうことが多い。したがって、虐待を受けた子どもへのプレイセラピーを行う場合、部屋にはおもちゃを置いておかず、別の部屋におもちゃをストックしておき、プレイの始まりの時点で子どもがおもちゃの部屋に行って自分が遊びたいおもちゃを選ぶといった方式にするとよい。また、こうした方式をとるようにすれば、適切なタイミングで、子どもが自分の受けた虐待を再現するのに適したおもちゃをセラピストが選んであらかじめプレイルームに置いておくといった方法で、子どもの再現性を刺激することも可能である。
(6)プレイセラピーに使用するおもちゃ
 おもちゃの選択は、子どもの年齢、セラピーの進展、子どもの体験の種類によって異なるが、原則的には高価でなく、壊れにくく、子どもがそれを「武器」として使っても安全なものであることが望まれる。以下に、虐待を受けた子どものプレイセラピーに必要なおもちゃを列記する。
・ドールハウスおよび家族人形
・様々なままごとの道具
・赤ちゃん人形とほ乳瓶
・医療セットや救急車のミニカー
・各種のパペット(様々な動物や、魔女や妖精などの手人形)
・象徴的な意味を持つ人形
・電話、サングラスなど
・描画の道具や粘土など
・その他、子どもの体験に応じた特定のおもちゃ
(7)虐待を受けた子どものプレイセラピーの展開
 以下に、虐待を受けた子どものプレイセラピーの展開を4段階に分けて述べる。
【第I段階:関係の形成】
 子どもはセラピストとの関係において、虐待的人間関係の再現やリミット・テスティングを示し、次第に退行を示すようになる。こうした退行によって、子どもはセラピストからエネルギーを得るのである。
【第II段階:虐待の再現的表現】
 セラピストとの関係でエネルギーを得た子どもは、次第に自分の受けた虐待行為などの体験をプレイの中で再現するようになる。こうした体験の再現を中心としたプレイを、ポストトラウマティック・プレイと言う(Gil, 1991)。
【第III段階:人間関係への適応の試み、衝動コントロールの形成、自己評価の修正】
 前段階で自分の体験を再現し、その体験にともなう恐怖、不安、怒りなどを解放した子どもは、次第に現実的なテーマをセラピーに持ち込むようになる。そこで取り扱われるべきテーマは、現実の人間関係への適応、衝動コントロールの形成、自己評価の修正などである。
【第IV段階:終結】
 虐待を受けて施設に入所している子どもは、分離・喪失をめぐる葛藤を抱えている。そして、心理療法の終結は、子どもにとってもう一つの分離喪失体験となり得る。それだけに、この終結の段階では終結に対する子どもの反応をていねいに扱っていく必要がある。
(8)心理治療事例紹介
[事例I]児童養護施設における心理治療、ケースワーク援助
1.事例の概要
 Aは実母からの身体的・心理的虐待のために1歳時に乳児院に入所し、その後、2歳時に児童養護施設に措置変更となり、9歳時に実父・継母のもとに退所した。
 実母は精神的に不安定で、情緒的に混乱しやすく、非常に暴力的になりやすいといったことが原因でAの父親と離婚し、乳児であったAを連れて母子での生活を始めた。その直後からAに対する様々な虐待行為が顕著となり、近隣から児童相談所への通報がなされ、Aは1歳時に一時保護の後、乳児院への入所となった。
 一時保護および乳児院への入所に際して、実母は特に抵抗を示さなかった。また、乳児院への入所後に、親権は父親に移されたが、この時点で父親はAの養育に当たることが困難であったため、施設養育の継続を希望し、2歳時に乳児院から児童養護施設への措置変更が行われた。
2.援助の経過
 数年後、実母は再婚し、再婚相手との間に男児を出産したが、その頃からAを引き取りたいと考えるようになった。母親は周囲の反対を押し切って児童養護施設に連絡を取り、施設で心理職員とのカウンセリングが開始された(当面Aに会うことはできないことを了解してもらった)。カウンセリングでは、「虐待行為については何も覚えていない」としながらも、「自分は夫との離婚などでとてもつらい思いをしているのにAはニコニコして寄ってきて憎らしかった」「叩いても叩いても寄ってくるのはなぜなのかわからなかった」など、虐待を生じていた頃の心理的な状況に関する話や、思春期の頃の精神的な混乱、自分の母親との関係などが中心になり、このようなカウンセリングが約一年続いた。その後、実母側からの連絡が突然途絶え、施設から実母に連絡を取ると、現在の育児が大変なためなかなか施設に行くことができない、この状況では引き取りについても考え直したいとのことであった。
  Aが小学校3年の頃、児童福祉司が父親に働きかけを開始し、それに応じて父親はAと再会した。父親は引き取る意向を示し、週末を利用しての一時帰宅など、父親との関係形成のためのプログラムが実施された。しかし、一方で、この時期、Aは施設での生活で、万引きの増加や暴力的な行動化の激化など、様々な不適応を示すようになった。
  こうした状況の変化に対応するため、Aに対して定期的なプレイセラピーが開始された。プレイセラピーにおいて、Aは自分を捨てていった実母に対する攻撃性と思慕の入り交じった感情を表現したり、あるいは2人の大人が子どもを競って奪い合おうとしており、子どもがその2人の間に挟まれて非常に苦しい想いをしているなどといったテーマを持つ物語を展開するなど、現在の自分をめぐる混乱状況を表現した。こうしたプレイセラピーの内容から、母親への断ちきれない想いや自分を「捨てた」実母への怒り、あるいは自分の意向とは無関係に進められた父親との関係形成といった方向性に対する納得のいかなさがAの問題行動の増悪と関連し ているのだろうと判断された。
  こうしたプレイセラピーでのA自身の心理面への理解に基づき、施設側は父親にAの気持ちを伝えるなど、積極的な働きかけを継続した。既に再婚していた父親は、Aを引き取りたいとの意思は非常に強固なものとなっており、実母に対するAの気持ちについては「それはわがままなことで、直ぐにでも引き取る」との主張をしたが、施設側のねばり強い働きかけが功を奏し、「Aの実母に対する想いが断ち切れないうちに引き取ることは、大人の都合で子どもを振り回すことになってしまう」との施設側の考えを、徐々にではあるものの理解するようになった。その結果、父親の承諾のもと、Aと実母の面会が可能となり、実母との面会の場で、実母の口から直接「引き取れない」という意思を伝えてもらい、さらに父親が「自分が引き取りたい」ということを伝えるという方針で面会が実施された。
  その後、Aはプレイセラピーにおいて実母との別れや父親との和解をテーマとしたプレイを展開し自分の気持ちに何とか区切りをつけた後、父親の元に引き取られていった。 引き取り後も、Aが施設に遊びに来たいとのことで、何度も気軽に訪れている。その後も父親宅でうまく適応できていると思われる。
3.考察
  日常生活における暴力的な行動化が激しく、周りの子ども達への影響力も強かったため、施設側としては積極的に関わらざるを得ないケースだった。日常的なケアにおいては包み込むようなケアを心がけた。また、プレイセラピーの場面では「大人が子どもを奪い合う」「母親が抱えていた赤ちゃんを悪者がさらっていく」といったテーマを中心として展開が見られた。セラピストは、これらは子どもの実母への想いが表現されており、こうした混乱した情緒状態がさまざまな行動化の根底にあるものと解釈し、その解釈を日常生活を担当するケアワーカーに伝えた。ケアワーカーはこうした理解に基づいたケアワークに心がけ、Aの行動化は次第に影を潜めるようになった。施設における心理療法と日常レベルでのケアワークとがうまく連動した事例といえよう。心理職員とケアワーカーとの連携についてもうまくいったといえる。また、こうした連携は、心理療法とソーシャルワークの領域でも見られた。Aの家庭引き取りを 目指して開始された父親への働きかけは、Aに対して様々な心理的影響を生ずることになったが、そうした心理的反応をプレイセラピーによってうまく扱っていくことが可能となった。また、Aの心理的状況を父親に説明することで、ねばり強いソーシャルワークの展開が行われ、最終的な引取りへと結びついたと言える。さまざまな局面で引き取りに向けて丁寧に関わり、それが功を奏したと思われるケースである。

[事例Ⅱ]情緒障害児短期治療施設における心理治療
1.主訴:小学校4年生男児A 家の金の持ち出し、盗み食い、衝動的な暴力
2.生育歴:Aは出生すぐから母親に受け入れられず、実母から厳しい体罰と家庭のことに無関心な父親のもとで育つ。夜尿しないようにとペニスを紐で縛られたこともある。夫婦関係は悪く、家の中は冷たい雰囲気であった。小1の時、実母が自宅で急死し、Aが発見する。学校では明るくひょうきん者で振る舞う一方、友達はなく、家の軒下に木などで作った武器を大量に隠し、裏山に行っては小動物に危害を加えていた。スパナを隠し持ち、女児にケガを負わせたり、年下の子を階段から突き落としてケガを負わせた。家庭では、盗み食い、ウンチを隠す、家の金の持ち出しなどが始まるが、注意しても耳に入らない。継母がAの有様を心配し、困り果て、小4になって児童相談所に相談する。
3.診断:行為障害
4.施設での受け入れ:Aの問題に対して心理治療的なケアが十分に行われることが必要であり、情緒障害児短期治療施設であるX学園が紹介される。しかしAの衝動的な暴力や隠蔽行動などに現れている問題の深さに、学園が十分対応できるかどうかが懸念され、見学や面接などを繰り返し、治療の動機をAと家族に慎重に確かめた上で入園となった。
5.治療経過
第1期:入園後しばらくは、一見陽気に振る舞っているが、落ち着きがなく、何かしていないと気がすまないようであった。食事はむさぼるように大量に食べた。あれをやらせろこれをやらせろと要求が多く、生活の枠になかなか収まらない。妬みや恨みを抱きやすく、他児とのトラブルが増え、険しい表情で「殺したい。凶器で殴って殺す。」などの言葉を平気で口にする。入園後1ヶ月したところでプレイセラピーを開始する。箱庭を創り、内面にある深く恐ろしい世界を表現する。その後のプレイは人形を使った戦いが執拗に繰り返されるが、心底にある闇の世界と必死に戦っているようであった。生活場面でも「いざというときに使うんだ。」と木製の刀を作り持ち歩くようになり、やがて「お母さんが幽霊になって出てくる。怖い。」と訴え、脅えて眠れない日が続く。小5になったある日のプレイセラピーで、玩具の鉄砲を手に取ったとたんに表情が青ざめ倒れてしまう。病院に運ばれ、不整脈と分かる。Aは「プレイは続けたいけれど、もうあの部屋は嫌だ。」と訴え、その後のプレイは場所を変え、ブロック遊びやラジコンバギーといったAの内面にあまり触れずにすむ活動に移行し、穏やかな場面に変わる。不整脈はその後日常生活場面でも頻発するようになり、安静時に職員が寄り添い、脈を計るなど、不整脈のケアに重点を置いた関わりが中心となる。その後腹痛や頭痛などの身体症状も増え始め、それらのケアを通して大人との信頼関係が芽生えてきた。よく眠れるようになり、疲労感を訴えることが減る。食事も適量をゆっくりと食べるようになった。
第2期:小6になると、「自分のことを考えると惨めな気持ちになる。」「将来はどうせだめ。」など自分を卑下し将来を悲観する言動が目立つようになってくる。中1になると、そうした苦しみから逃れたい気持ちから、「退園したい。」と強く訴えるようになる。まずはしばらく帰省して、退園については改めて検討することにした。ところが帰省中に不整脈が生じ「学園に戻りたい」とSOSの電話が学園に入る。家に帰ってもイライラする。しばらく帰省せずに自分のことを考えたい。」と語る。中1の終わり頃、学校の授業でマラソン大会の練習が始まる。不整脈のあるAの参加をどうするかで学校職員と話し合い、ゆっくり自分のペースを守ることを目標に、学園職員が授業に参加してAと併走し、脈を取りながら練習することになる。これを契機に職員との関係がより確かなものとなり、Aは自信をつけていく。
第3期:中3になってからはさまざまな活動に積極的に挑戦し、学力や体力が著しく向上する。不整脈などの身体症状が嘘のように減ってくる。個人心理治療場面は自分のことや家族のことを言葉にして語ることが増え、将来に対しても「やりたいことが一杯ある。昔はなかったんだよ。」と希望を抱くようになる。一方で父親に対して否定的な言動が増え、父親の面会さえ拒絶するようになる。卒業を機に退園後は家に帰らず、児童養護施設から高校に通うことを自ら決めた。高校卒業後父親に対する感情にも折り合いをつけ、同居が可能となった。
6.まとめ:乳幼児期から虐待環境におかれた子どもは、Aのように根深い不信感、恐怖感、攻撃的衝動の処理のできなさ、過剰な欲求とそれが通らないときの恨みなどの問題を呈しやすい。こうした初期の心理的な発達に障害を受けた子どもの治療に当たる場合、大きく分けると次の3つの段階が重要であろう。
第1段階 安心感と安全感を抱き、大人との信頼関係を構築する段階。生活の中で安心感や安全感を抱けるよう環境を工夫する必要がある。同時に子どもがそうした治療環境を受け入れるには相当の時間がかかることを熟知しておくことが大切であろう。無理やり施設のプログラムに乗せようとしても被害感を強める結果に陥りやすい。
第2段階:自分自身の有り様や自分の過去、家族を振り返り収める段階。この段階は思春期に、より顕著に生じやすい。短期間の外傷を振り返るのとは違って、長期にわたって劣悪な環境におかれていた子どもは、自分の生い立ちの喪失感を伴うため、自己を卑下し、将来に対して絶望感さえ抱いてしまいやすい。治療者はそっとかたわらに寄り添い続けながら、新たな希望を抱けるように支えることが必要である。
第3段階:地域社会への復帰の準備をする段階。培われてきた力を基盤に様々な物事に挑戦し自身を深めるときである。
 第1段階から第3段階まで行きつ戻りつしながら進むのが普通であり、治療には常に困難を伴う。単独で治療を行うことは不可能であり、チームを組むことが不可欠となる。チーム治療は治療者の抱え込みを防ぎ、皆で見ているという感覚は治療者を安心させる。さらに様々な視点があることで子どもへの理解を深めることを可能にする。また、個人心理治療などの特別な治療プログラムは日常生活という現実場面から遊離することなく常に有機的関連性を意識しながら進めることが重要であろう。

(6) 保護者の強引な引取要求への対応をどうするか
(1)家庭に子どもを帰せるか
 保護者の引取要求が出た場合、施設として子どもを家庭に帰せるかどうかが問題になり、賛否両論で論議が交わされるのが常である。被虐待事例の場合は、なおさら慎重にならざるをえない。それは、これまで少なからず失敗の事例を施設が抱えているからである。そしてその多くが、保護者の強引な引取要求の事例である。
 施設側として保護者の状況からみて、また子どももあまり気が進まない様子から、引取りに反対しても、保護者は親権を楯にして強引に引取要求をしてくると、実際にはこれを拒むには相当な覚悟とエネルギーが必要となる。ましてや、児童相談所が引取りもやむなしということであれば、実務的には阻止することはできない。そして、1、2年以内にまた再措置になり、他の施設へ入所することもめずらしくない。こうしたことは一般の事例でも起きやすいが、これが被虐待事例であれば、子どもの生命の安全にかかわることだけに苦慮するところである。これまでも、保護者が強引に引き取って家庭に連れ戻した後、子どもの生命を奪ってしまった事実も報じられたことがあった。そこまでいたらなくても、虐待が再発したり、また子どもを放任したりということを起こす苦い経験も、多くの施設で見られるところである。
 したがって、被虐待児の家庭復帰について、その判定は慎重でなければならない。そして、少なくとも施設の判断のみで保護者の引取りに応ずることがあってはならない。引取りについては、児童相談所をはじめ、関係機関との連携によらなければならないのは言うまでもないことである。
(2)保護者の同意を得ないで入所している場合の引取要求への対応
 厚生省児童家庭局長通知(平成9年6月20日付児発第434号)「児童虐待等に関する児童福祉法の適切な運用について」では、保護者の強引な引取要求への対応についての見解を以下のとおり明らかにしている。
・「保護者等の同意を得ずに児童福祉法第28条による家庭裁判所の承認があった以上、児童福祉施設の長に与えられた監護権が保護者等の監護権に優先することになるので、これを拒むこと」
・「保護者等の強引な引取りに対しては、児童相談所の援助を求めるとともに、必要に応じ、児童又は担当者に対する保護者等の加害行為等に対して迅速な援助が得られるよう、警察に対する事前協議を行い、これに基づく連携をとりつつ毅然とした対応に努めること」
 このように、施設側が保護者による強引な引取要求を拒否できる旨明らかな見解を示したことは画期的なことであり、施設現場にとっても対応していくうえで大きなよりどころを提供したと言える。つまり「厚生省の通知により施設の判断では保護者のもとへ返すことができない」旨を、はっきりと保護者に申し渡すことができるようになったのである。
 法第28条によって保護者の意に反してせっかく施設入所させても、その後、保護者が強引に子どもを引き取ってしまった事例もかつてはあった。家庭裁判所の承認は施設入所を承認したのみで、退所についてまでも及ばないという意見も存在していた。それに反して、家庭裁判所の承認は、居所指定権の制限を意味するものであるから、当然引取りは拒否できるという反論もあり施設側は混迷していた。これが児童福祉法改正の機会に、厚生省が家庭裁判所の承認を得て児童養護施設等に入所した場合には、施設に与えられた監護権が親権者の監護権より優先するとして、保護者の強引な引取要求を拒否できると明言したことによって、施設現場の対応が明確になった。
 施設側に毅然とした態度で対応することを指導したことも、これまであいまいな態度を取らざるを得なかったことからかえって保護者の攻撃的な行為を誘発していた面もあったことを考えると、この指導を機会に保護者の攻撃的な態度が収まっていくことも期待できる。
 しかし、中には、衝動的に暴力を振るうことも予測していなければならない。とくに暴力的な、攻撃的な行為をとりやすい保護者等については、一人で面接することを避け、複数の男性で関わることが必要である。夜間等の職員の数の少ない場合にも適切に対応することができるよう、あらかじめそうした場合の対処方針、対処方法を決めておくことが重要である。また、児童相談所とは事前に十分、対応について協議しておく必要がある。そして前もって施設と児童相談所および最寄りの警察署の三者による協議を設定するなど、事前に警察の協力が得られるよう十分な配慮をすることも求められる。そして、暴力の程度によっては, 躊躇せず警察に通報するなど万全を期すべきである。
(3)保護者の同意を得て施設入所した子どもの引取りの対応について
 件数的には保護者の同意を得て施設入所した被虐待児事例は、法第28条による施設入所の被虐待児をはるかに上回っている。そして、保護者の同意を得て施設入所させたにもかかわらず保護者が、「いかに子どもを早く引き取るか」を考え、一方的に引取要求をする場合もある。保護者の同意を得たとしても、児童相談所の説得によってやっと入所にこぎつけた事例も多く、やむを得ないことであろう。
 しかし、改正後の児童福祉法においては、子ども並びに保護者の同意を得て施設入所措置を採った事例で、その保護者等の意向が変化し、引取りを強く要求している場合には、都道府県児童福祉審議会への意見聴取をしなければならないとされている。この結果、保護者引取り不可となれば、保護者にその旨伝えて説得することができる。  もし保護者に引き取らせることが子どもの生命・安全に危惧が感じられる場合には、厚生省の次の対応が参考になる。
 「保護者の同意によって入所した場合であっても、保護者に引き取らせることが児童の身体・生命に重大な危険を及ぼすことが予想される場合には、児童相談所に一時保護(一時保護委託)の検討を求めることが必要である。法第33条の一時保護は親権者の意に反しても行うことができるので、一時保護委託に切り替えることによって児童の保護を図ることが可能となるからである。」(「児童自立支援ハンドブック」厚生省児童家庭局家庭福祉課監修)
 施設入所後、処遇過程において家庭環境の調整が功を奏し, 保護者も心理的に安定して虐待の再発の危険がないと判断されれば、家庭復帰が可能となる。それにいたるまでのプロセスにおいて、どう家庭環境調整を図るかが鍵になる。

(7) 親子関係の調整をどう行うか
 保護者への援助に当たっては、懲罰的な意識を持ってはならない。受容と保護者の置かれた状況への共感的理解を基本に、虐待する保護者から子どもを取り上げたのではなく、親子関係が改善されるよう援助するのが児童福祉施設の立場で、究極の目的は家庭復帰である。虐待をする保護者には、依存性が強い者や地域社会で孤立し、対人関係を円滑に持つことができない者、神経症に苦しんでいる者もおり、また保護者自身が幼児期に保護者からの虐待を受けた者も多く、児童相談所を中心に保健所、精神保健福祉センターや医療機関、児童家庭支援センターや福祉事務所、母子相談員、民生・児童委員(主任児童委員)等と連携を密にする中で、施設としても専門的な対応を図っていく必要がある。このような保護者の多くは、子どもを施設に入所させたことにより「親失格」という烙印を押されたと恥じているから、「子育てが大変だったね! よくここまで頑張ってこられたね!」と理解の態度や支持的関わりに努め、いつでもどのようなことでも保護者とともに考える姿勢であること、協働して子育てしていくことを根気強く言葉や態度で表わしていくことが重要である。
 保護者と施設の関係がよくなると子どもも安定していき、成長と発達の回復にも効果が現われてくるので、施設が保護者にとっても「ここへくるとほっとする」所として、心のよりどころとなるよう接することが親子関係の修復にも役立つのである。
 なお、児童相談所と協議の上で、保護者へのカウンセリングを施設内で実施する場合においては、児童相談所の保護者を指導してきた担当職員と緊密な連携を図り、チームによって実施することが重要である。(第7章3を参照)
 児童相談所で立てた保護者に対する指導計画に基づき実施することになるが、目標は、明確かつ具体的で、しかも実用的であることが望ましい。取り組むべき課題についてどのような行動をとれるようになったら課題達成なのか、具体的で実用的な目標行動について保護者と担当職員とで一致しておくことや、保護者が目標を確認でき、その有効性について納得できることが大切である。「子どもに対して適切な対応をとれるようになること」という抽象的な目標ではなく「体罰を用いないで子どものしつけを行うこと」といった具体的な目標を立てることが望ましい。
 こうした明確かつ具体的な目標の設定により、保護者自身も課題への取り組みに対する自己評価ができ、課題をクリアーしたときの達成感や満足感を自己認識に基づき味わうことによって肯定的な自己イメージや自主性等の強化を図れるからである。
 また、児童虐待防止法第12条に基づき、児童の健全育成の観点から児童と保護者との通信や面会を制限している場合、児童相談所による指導に対する保護者の態度や施設での子どもの状況等が、通信や面会をさせるか否かの判断をする上でのポイントになることはいうまでもない。このため、施設職員は、親子関係の調整について的確に判断するためにも、児童相談所での保護者へのカウンセリングについて、児童相談所の担当職員と共通認識を持ちながら、前もって保護者に対する理解を深めていくことが大切である。
(1)面会
 面会は家族との関係の維持または家族関係の再統合を図る上で、重要な役割を持つ。入所している子どもに面会にくる保護者は、何らかの形で子どもとの関係がうまくいかないことで傷ついており、勇気を出して出かけてきている。受容的関わりと共感的支持に努め、保護者と施設が補い合いながら協働して子育てに当たっていることを常に念頭において保護者を迎えることが大切である。
 面会から面会の間の親子の空白を埋めるため、子どもの生活について話したり、絵画・工作などの子どもの作品を見せたり、身長・体重の増加を知らせたり、行事の写真を見せて説明し、持ち帰ってもらうなどのことを通して、共に育てているという実感を持てるようやわらかな接触態度が肝要である。
 「今回の面会が、職員の対応いかんによって最後になるかもしれない。子どもと保護者との絆を危ういものにしてしまうかもしれない」という緊張感や危機感を職員が持ち、次の面会をイメージして保護者が来所しやすいような雰囲気が感じられるような対応が望まれる。
 施設が、子どものみならず保護者を歓迎していることが感じられるように、また、いつでもどんなことでも子どもに対する問題は、ともに考え答えを出していく重要なパートナーであると保護者が感じられるよう配慮することが肝要である。加えて、保護者参加のレクリエーションへの呼びかけや施設の行事などを通し、面会そのものを関係改善の機会としてとらえたい。面会や外出等については児童相談所と施設が協議しながら、具体的対応策を決めていくことが必要である。
 常に児童相談所の「処遇指針」や施設の「自立支援計画」にそって、施設と児童相談所が緊密な連絡を取り合い、状況の変化に的確に対応しながら援助すべきである。状況は刻々と変化しており、それぞれの機関の役割と守備範囲に応じて連絡をとり、援助を推し進めていくこととなる。
 また、面会時には、親子関係のあり方や子育て等についての助言なども押付けにならないように配慮しながら、会話の中に盛り込んでいくこともよい。
 保護者と子どもの関係の変化を児童相談所、施設がともに正確に把握するとともに、柔軟に対応し、時には勇気ある英断も必要となる場合もでてくる。
 何より子どもに必要なサービスを提供し、子どもの権利保障をしなければならないという基本理念にもとづき援助を行うことが大切である。
 保護者が暴力をふるうなどの加害行為に及ぶことが予想される場合には、児童相談所が中心となって、児童相談所・施設・警察の三者が協議し、協力が得られる体制を事前に確保しておく必要がある。
 なお、入所中の児童に対する面会、通信の制限について、児童虐待防止法第12条において児童福祉法第28条の規定により家庭裁判所の決定に基づき入所した児童に対する保護者からの面会、通信を児童相談所長又は施設長が制限することができる明文規定がされた。
 児童福祉法第28条によらない場合の入所についても、児童福祉法第47条第2項に規定する施設長の監護、教育の権限に基づき、児童が面会や通信を拒否したり、精神的に動揺したりあるいは保護者が児童を威圧、脅迫したりする恐れがある場合には、面会、通信等を制限することは可能である。なお、入所時点で面会や通信の方法等について十分保護者、児童を交え説明しておくことは前述の通りである。
 しかし、意を尽くして説明しても納得せず、強引な面会等を要求してくる場合は、強引な引き取り要求と同様に、児童相談所と協議の上、一時保護委託に切り替え、児童福祉法第28条の申立を行い再度入所措置をとる等の対応をしなければならない。
 なお、保護者が暴力を振るうなどの加害行為に及ぶことが予想される場合には、警察に対して、児童虐待防止法第10条に準じた対応を依頼するのが適当である。
(2)一時帰宅
 一時帰宅は、事例によって大変危険を伴うものとなってしまうこともあり、その時期の見極めは慎重に行う必要がある。
 虐待を行っている保護者は多くの問題を抱えている上、子どもによっては虐待等に起因する発育、発達障害を残している場合もある。どちらにもそれぞれに応じた暖かな配慮が必要であり、一時帰宅を一つの試行として引き続き援助していくことが求められる。
 帰宅時期の決定に際しては、保護者や子どもの具体的な会話や面会時の様子などを児童相談所に連絡し、懸念される事柄を率直に伝える必要がある。帰宅中でも行事等の連絡をするなど児童と接触を持ったり、帰園当日の入浴時などにゆったりとした時間の経過の中で、家庭での出来事や身体観察などを行うのも一考である。一時帰宅時の様子をどう理解し、事を進めていくかは、職員の専門性と取り組みに対する姿勢が問われるところである。
(3)施設行事等
 施設行事への参加は、保護者と子どもの関係改善や関係を促進していくための重要な役割を果してくれるものである。
 施設と保護者が協働して子育てをしているのだということを実感できる機会として行事参加をとらえるべきである。お祝い会や親子遠足、クリスマス会、卒業送別会など、各施設独自のプログラムを作成し、当日は、保護者にも役割を担ってもらうなど、施設業務に貢献してもらうことにより、その後好展開が図られることも多い。
 親子の関係を改善するためには、一緒にいて楽しいことがあったとか、互いにいて助かったといった体験のつみ重ねが重要である。行事を通じ、親としての役割を果たす中で親としての喜びが実感出来るよう工夫することが大切である。学校との事前調整の上、授業参観や懇談会、運動会などへも保護者の参加を求め、子どもへの理解を深めてもらうことも必要となろう。

(8) 退所する子どもとその保護者への指導はどうあるべきか
(1)家庭引取りの際の留意点
 面会・一時帰宅などで親子関係の改善・修復がすすみ、保護者と子ども双方の意見や児童虐待防止法第13条に基づく保護者の指導を行っていた児童福祉司等からの意見の聴取、児童福祉法施行令第9条の4に基づく施設長等の意見の聴取を経て、虐待の再発など養育上の問題がないと判断されれば、子どもの家庭復帰は可能となる。児童相談所と連絡、協議の上、面会や一時帰宅を繰り返し、十分な帰宅中の観察を行い、今後子どもが通学する予定の学校や地域の「事例検討会」等を児童相談所が中心となって開催・検討したのち、入所措置の停止を経て、措置の解除がなされるのであって、保護者と子どもの双方が退所を希望しただけでは家庭復帰はありえないことは言うまでもない。子どもが家庭復帰した直後の数カ月は、子ども虐待が再発するハイリスクな時期とされており、保護者の強い希望で家庭に帰った数週間後に、子どもが保護者の暴行によって死亡するという事例も報告されている。家庭に復帰した直後は、児童相談所、学校など地域関係機関との連携を十分行いながら、頻繁な観察・接触を行う必要がある。施設入所の究極の目標は家庭復帰であることは言うまでもないが、家庭復帰のみがゴールではなく、一時帰宅などを積み重ねても、さまざまな問題で虐待の再発などが予想される場合は、施設での自立支援計画にのっとり、心と身体の傷を癒し、進学・就職を経て社会へ自立出来るように援助していくこととなる。
 留意点としては、虐待の重症度評価指標(リスクアセスメント・モデル)による高いリスクの場合、例えば乳幼児等で年齢がまだ低いのではないか、致死的な外傷を受けていないか、性器や肛門及びその周囲の外傷があったか、硬膜化血腫や頭蓋骨骨折・眼球損傷など頭や目などの外傷がなかったか、説明に合わない不審な火傷・外傷がなかったか、また、極端な養育放棄および「閉じ込もり」など保護者の養育に問題がなかったか、言うことが支離滅裂で精神病が疑われたり、アルコールや薬物の乱用があり、反社会的傾向が強く、対人関係が極度に不安定など家庭の病理性が疑われる場合、この中で2~3点該当していれば、家庭復帰は相当困難になると予測される。実父や継父など養育者による性虐待も同様である。どのような場合にあっても、虐待行為が再発しないよう、子どもの側に立ってその権利を擁護していかなければならない。
(2)家庭引取りの際、確認すべき事項
ア.子どもについて確認すべき事項
・家庭復帰することを望んでいるかどうか。
・家庭復帰するについて、子どもの意向や条件提示はどのようなものか。
・虐待を行った保護者に対する思いはどのようなものか。
・一時帰宅(週末帰宅、短期帰省等)等によって、保護者に対する態度や気持ちがどのように変化したか。
・親子関係改善のための指導や心理治療によって、子ども自身の生活態度や性格行動および保護者に対する態度や気持ちが、どのように変化したか。
・虐待問題が再発したり、他の問題が発生した時の相談場所や避難場所の確認をしているか。
・虐待問題が再発したり、他の問題が発生した時の保護者への対処法が分かっているか。
・虐待問題が再発したり、他の問題が発生した場合、再入所の可能性もあることを分かっているか。
・家庭復帰後の親子関係改善や子どもの性格行動問題改善を目的とした治療、あるいは経過観察のための通所や家庭訪問が、どの機関の誰がどのようにするのかを理解しているか。
イ.保護者について確認すべき事項
・子どもを家庭に引き取りたいと思っているか。
・虐待行為が子どもに与えた心的外傷が理解できているか。また、子どもに対する気持ちはどのようなものか。
・虐待の原因について理解できているか。
・虐待原因の解消について改善努力がなされたか。また、解消されているのかどうか。
・子どもの心理状態、性格行動や精神的・身体的発達状況が理解できているか。
また、家庭復帰するについて、子どもの意向や条件提示をどのように理解するか。
・保護者としての自覚や育児技術の習熟度はどのようなものか。
・家族関係、きょうだい関係の状況はどのようなものか。
・地域社会、近隣との関係はどのようなものか。
・保育所、幼稚園、小中学校との関係はどのようなものか。
・虐待再発防止のための援助機関(児童相談所、福祉事務所(家庭児童相談室)、保健所等)との関係はどのようなものか。
・一時帰宅(週末帰宅、短期帰省等)等によって、子どもに対する態度や気持ちがどのように変化したか。
・親子関係改善のための指導や心理治療によって、保護者の生活態度や性格および子どもに対する態度や気持ちが、どのように変化したか。
・虐待問題が再発したり、他の問題が発生した時の相談場所が分かっているか。
・虐待問題が再発したり、他の問題が発生した場合、再入所の可能性もあることを分かっているか。また、了解できるかどうか。
・家庭復帰後の親子関係改善や子どもの性格行動問題改善を目的とした治療、あるいは経過観察のための通所や家庭訪問が、どの機関の誰がどのようにするのかを理解しているか。
ウ.地域関係機関等と調整すべき事項
 福祉事務所(家庭児童相談室)、保健所、市町村保健センター、保育所、幼稚園、小・中学校、警察、民生・児童委員(主任児童委員)、病院等の家庭復帰する居住地の関係機関との相互理解・協力が、虐待再発防止に重要である。
 ア.イ.について、当該家族のプライバシーを侵害しないよう配慮しながら、関係機関職員等に家庭復帰について説明し、受入れの準備を整えてもらう。
 なお、家庭復帰について、関係機関から問題点の提示があった場合は、十分検討協議し、結論を導き出すようにしなければならない。
 また、各関係機関の職員等が果たすべき役割や児童相談所の役割についても確認し、サポート体制を整える必要がある。

(9) 退所後のアフターケアをどう行うか
 施設入所児童に対する支援は、児童自立支援計画に基づき、入所から退所後までを見通して継続的・総合的に行われる必要がある。とりわけ被虐待児の退所後の援助は児童相談所との密接な連携のもとに継続的に行われなければならない。
 退所にいたるまでの期間、虐待を行っていた保護者に対して、家庭環境の調整、とりわけ親子関係の調整に援助してきた結果、保護者も心理的に安定して、虐待の再発の危険がないと診断されれば家庭復帰が可能になる。もちろん子どもも保護者に対して、依存できる信頼関係が回復していることが前提であることは言うまでもない。事例によっては、親子分離によって時間の経過を得たことや、空間的な距離ができたことによって、保護者、子どもそれぞれが自己を振り返るよい機会になり、関係が修復されることがある。もちろん自立支援計画に基づいて、虐待を行っていた保護者、被虐待児の両者への根気強い援助の成果によるものである。
(1)施設退所に際しての留意点
ア.退所前に一時帰宅を繰り返し、帰宅期間中の家庭環境の観察と助言をすること
 施設退所にいたるまでの間に子どもの面会、外泊体験を重ねたり、また親子関係の修復等のための合宿体験を行ったりという工夫をしているところもある。しかし、短期間でも親子分離していた子どもを家庭復帰させれば、家庭内は少なからず変化することは当たり前である。それが比較的長期間であれば、保護者や家族にとっても思いもかけない変化となって現れることがある。こうした大きな変化にとまどい、保護者も子どももストレスが高まって行動に現れ、それが虐待の再発につながることもある。
 例えば、治っていた子どもの夜尿やおもらしが再発してしまい、保護者の叱責から虐待につながった例や、また家庭に戻ってみたら家族以外の見知らぬ男性や女性が一緒に生活していたことから、その者との人間関係から問題が発生してくる例もある。
 このようなことに留意し、事前に十分観察を行うとともに、必要な助言援助を行うことが肝要である。
イ.措置停止を経てから、措置解除を行うこと
 児童相談所との十分な連携のもとに、措置停止の期間をとったのち、措置解除を行うことが必要である。一般的には、家庭復帰直後の数カ月は特に子ども虐待が再発するハイリスクの期間とされており、保護者の強い希望で家庭に返した数週間後に、子どもが保護者の暴行によって死亡するという事例も報告されている。したがって、退所直後は児童相談所と綿密な連携をとりながら、頻繁に家庭訪問等で観察を続けるべきである。
ウ.子どもにも非常時には緊急通報で連絡をとらせるよう指導をすること
 学童の場合には、施設へ電話連絡がとれる能力をもっている。退所に際して子どもに万一の場合には、SOSの電話通報を施設にしてくるように指導しておくとよい。こうした方策で実際に、子どもを救出した例が次の事例である。

[事例]
 家庭復帰して4カ月経過したある夜、父親が酒を飲んで暴れており、頭を殴られ怖くて家を飛び出した。母親は仕事からまだ戻ってきていないという訴えの電話をA男(小5)から、施設に通報してくる。A男の家は、自動車で施設から20分程度のところにある。家の近くの公衆電話から電話をしたということで、そこで待合せをすることにした。
 直ちに出向きA男に会い事情を聞く。こうした状況は今回で2回目だという。家に出向くと、父親は酔いも覚めていたようで、バツのわるい顔しておとなしく頭を下げて恐縮した態度をとる。父親に注意をしているところに母親が戻ってくる。母親からも父親の状況を聞き、こうした状況が続くようならば再措置になる旨を伝え、A男が今日のところは家でがんばるということで帰ることにする。もし同じようなことがあったらまた連絡してくるようにA男に伝えておく。
 その後、半月足らずで同じことが発生し、A男から連絡があり、「家にいたくない」と言ってくる。行ってみると、頬に青あざをつくったA男が泣きながら事情を説明した。そのままA男を施設で保護し、両親にその旨、通告する。 こうした救出例もあることから、子どもにも退所前によく指導することが必要である。
エ.地域の関係機関との連携を十分に図ること
 児童相談所との連携は当然であるが、それだけでは必ずしも十分ではない。子どもが通所、通学する幼稚園、保育所、学校をはじめ地域の民生・児童委員(主任児童委員)、保健所、福祉事務所(家庭児童相談室)等との連携を十分に図ることが大切である。そのためには児童相談所を介して連携方策を見いだすことが必要である。
 虐待の再発を防ぐために、早期発見、早期対応が最も重要である。ただし、密室化している家庭は早期発見が困難な場合が多く、しかも様々な問題を多く抱える虐待問題の対応には、各関係機関の緊密な連携が不可欠である。関係機関が一同に会し、情報交換を行うとともに共通の認識に立って、それぞれの役割分担を協議する等、各関係機関が連携しながら早期発見並びに効果的対応を図ることが極めて重要である。
オ.家庭復帰後、転居した際の移管についての対応
 家庭復帰後、時には転居する場合が起きてくることがある。それには意図的に転居する場合と就労の事情によって転居する場合とがある。そうした時は、事例を所管していた児童相談所を通して転居先の児童相談所に連絡をし、調査依頼をするとともにケース移管する必要がある。
 しかし、とくに公的関与を好まない保護者が意図的に転居するとなると、消息不明になる危険性は大きい。保護者のプライバシーの問題はあるにしても、子どもの生命・安全が優先されることから、情報収集の方策を工夫していかなければならない。
 平成11年中に保護者の他県への失踪により、転居先での対応が手遅れになった例があったことから全国の児童相談所間で児童虐待に関する情報交換を行い、円滑な初期対応が図れるように児童相談所CA(Child Abuseの頭文字)情報連絡表に基づく情報連絡システムが実施された。
 情報を得た転居先の児童相談所(ケース移管を受ける児童相談所)は、元の児童相談所に情報の確認をするとともに地域の中で関係機関とネットワークを組むなど迅速な対応を図らなければならない。

(10) 施設内虐待の対応はどうあるべきか
 施設内における懲戒に係る権限の行使については、「懲戒に係る権限の濫用禁止について」(平成10年2月18日障害第16号、児企第9号 厚生省大臣官房障害保健福祉部障害福祉課長・児童家庭局企画課長連名通知)により適切に行われなければならないこととされているが、万が一施設内虐待が疑われる場合は早急な対応が求められる。  施設内虐待においては、虐待者を特定しにくい場合もある。例えばある児童に不審なアザがあった場合、次のような推測が成り立つからである。
ア 事故によるもの
イ 他児によるいじめや暴行によるもの
ウ 他児との喧嘩によるもの
エ 本児自身による自傷行為
オ 職員による身体的虐待
 それぞれの可能性の高さはその児童の特徴、置かれた立場、環境などによって異なってくる。その児童の行動特性から、いくつものことを同時に推測させるような児童もいる。したがって安易な憶測や判断は慎むべきであり、虐待の再発防止に向けた取り組みを強化するなど、何よりも児童の立場に立った児童の権利擁護を最優先すべきである。
 仮に不審なアザなどを発見した場合、数人の職員で確認の上、発見した日時、傷の状態、箇所などの記録を残し、可能な場合には、写真に撮っておくことも必要である。また、できる限り速やかに施設長をはじめ他の職員に報告することや、会議等で問題提起をすることが大切であり、重大な問題として表面化させることが虐待の防止に結びつくからである。
 もし児童虐待が疑われるような不適切な場面を発見した場合には、子どもの安全を確保するために制止するとともに施設長に報告することが必要である。
 虐待であった場合、報告を受けた施設長は、虐待を受けた児童に対する心理的なケアをはじめ、そのような事態が二度と起こらないよう速やかに対策を講じなければならない。
 また、子どもや保護者及び関係機関に謝罪や報告をすることは言うまでもないが、虐待の内容や程度によっては、児童の意向等を尊重しつつ、緊急一時保護を行うなど安心できる生活の場を確保するといった児童相談所等の関係機関との連携による対応が必要である。
 虐待は身体的虐待に限られたことではない。職員が気づかない内に言葉の暴力による心理的虐待を行っている場合もあり、施設内虐待については十分な注意と配慮が必要である。
 施設内虐待は起こってはならないことであるが、起こりうることを十分認識すべきである。虐待を防止するためにも、施設における施設内虐待防止の姿勢を明確に打ち出すとともに、施設全体における虐待防止の雰囲気づくり、研修などによる職員の資質の向上、職員間での相互チェック、ケース・カンファレンス、スーパービジョン、処遇に対する自己評価システム、苦情解決システムなどにより、施設内虐待の未然防止に努めることが何よりも重要である。


3.児童相談所における里親への支援、指導
(1) 里親委託時における子ども、保護者への対応はどうあるべきか
 里親は、被虐待児の処遇において重要な社会資源である。個別的で、親密な人間関係を保障する里親養育は、被虐待児の処遇において大きな可能性を有するとともに、その特徴ゆえの困難さもある。個別的であるがゆえに施設のように各種専門職員の連携、援助が期待できない。また、親密な人間関係ゆえに里親と子どもの関係がうまくいかなかった場合、委託された子ども、里親ともに傷が深いものとなる。
 このため、里親委託に当たっては、下記の点に留意する必要がある。
(1)子どもを紹介するに当たって、子どもの状況(性格や行動、発達状態等)を具体的に説明する。
(2)委託前における里親と子どもの面会を十分に行うなど、両者の関係づくりに十分配意する。
(3)里親委託を決定する際は子どもの意向を確認するとともに、里親宅での生活や実親との面会等について懇切に説明し、不安の軽減を図る。
 また、子どもが有する権利や子どもが守らなければならない約束などについてわかりやすく説明する。そのためには、大阪府が作成した「子どもの権利ノート」のようなものを作成して活用するのも一つの方法であろう。
(4)虐待を受けた多くの子どもが、はじめは不安や緊張で「いい子」であるが、慣れてくるにしたがって注意獲得行動や過度の依存、退行現象、攻撃的行動等を現しやすい。
 また、虐待を受けた子どもは、大人との関わりの中で、いらだちを引き出しやすいなどの傾向が認められる。  このような被虐待児に現れやすい行動特徴等について里親に十分説明し、理解を得ておくとともに、もしそのような行動が現れた場合には早めに児童相談所に相談するよう周知を図ることが肝要である。
(5)保護者との面会のあり方や引取り希望への対応等について綿密に打合せを行う。特に、約束外の面会希望や引取り希望については里親だけで対応したり判断したりすることは絶対に避け、児童相談所の指示を仰ぐよう周知を図る。

(2) 里親への支援、連携をどう図るべきか
 里親は子どもにとって重要な社会資源であり、相互の密接な連携を図ることは言うまでもないが、他方里親はクライエントとしての側面も有する。特に、虐待を受けた子どもの場合、1で述べた問題行動等が出やすいので、児童相談所や施設による里親援助、児童相談所と里親との緊密な連携がとりわけ重要となる。
 以下、里親委託後の里親への援助、里親との連携上の留意点について述べる。
(1)保護者の動向や子どもの状況等について情報交換を密にし、共通認識を図るとともに、役割分担を行うなど、一体的な援助活動を心がける。
(2)定期的に訪問し、里親の相談に応じるとともに、子どもの問題行動等の早期発見、早期対応に努める。特に、子どもに問題行動等が出現した時や里親の不安等が強いと思われる時には訪問頻度を増やす等、柔軟な対応を図る。
(3)子どもに問題行動等が出現した場合、里親は「自己の至らなさからそうなった」と自罰的心情を抱いたり自信喪失に陥ったりする場合がある。このような時には、受容的、共感的態度に心がけ、必要な援助を行う。また、必要に応じて子どもに対する心理検査や医師の診察、訪問や通所による心理的ケア等について検討する。
(4)子どもの問題行動等への対応について児童相談所が支援を行っても改善されず、子どもの問題行動がエスカレートしたり、里親が子どもに対して拒否的感情を募らせている場合は、一時保護等による冷却期間を設けたり、どうしても事態の改善が期待できないと判断される場合は委託解除を検討するなど、柔軟な対応を行う。

(3) 被虐待児を受託している里親への指導をどう行うか
(1)児童相談所と里親との信頼関係
 委託された子どもが様々な「問題行動」を起こしたりすることがある。それに対して里親が混乱したり不適切な対応をしている場合、児童相談所は速やかに関わらなくてはならない。
 問題の解決に向けて重要なポイントは、里親が「問題行動」をどのように理解し、どの程度受容できるかである。里親が「問題行動」を理解し受容するためには、里親自身が変わらなくてはならない場合もあり、多大な負担をかけることにもなる。
 まず、家庭内(家族関係;里父母との関係、他の子どもとの関係など)の変化を求めているサインではないかという判断がある場合は、夫婦面接や家族面接が家族変化のための有効な手段となる。
 また、必要な場合は、地域の資源を積極的に活用する。身近な相談相手としては市町村児童福祉担当者、福祉事務所(家庭児童相談室)、民生・児童委員(主任児童委員)、保健所や市町村保健センターの保健婦等がある。この場合、児童相談所が中心となって連絡を密にし、被虐待児を受託している里親家庭についての共通認識を関係者に十分持ってもらうことが前提である。
 また、先輩里親(被虐待児の養育経験者)との交流が、里親にとっての大きな支えになるので、里親同士が互いに触れあえる機会を児童相談所が積極的に保障していくことも必要である。
 いずれにしても、これらのことは児童相談所と里親との間に十分な信頼関係がなければ成り立たないことを銘記すべきである。
(2)養育上の視点
ア.初期
 一般に委託当初は、親子関係も浅く、なじみのない環境の中で、子どもは想像以上に緊張し、いわゆる「良い子」になりがちである。それまでの生活の中で体験してきたしつけや規則を守ろうという形で現われることが多い。この時期には里親家庭内の大人が徹底して子どもを受け容れることが重要である。
 特に被虐待児の場合、その表現が固すぎたり、過剰だったりする。無理に悪いところを矯正するような対応をすると緊張が長期化し、親子関係を築く妨げになる。
 また、この時の子どもの姿を本来の姿だと思うのは危険であるので児童相談所としては特に委託直後は頻繁に往き来しなくてはならない。この「良い子」の状態が長く続く場合は、子どもが里親家庭で緊張し続けていると考えられるので注意を要する。
 この時期に児童相談所が状況把握するポイントとして
・食事、入浴、睡眠等基本的な生活を誰とどのように送っているか
・排泄や着脱衣はどうしているか
・問題があった場合、それを誰が受け止め、誰がどう対応しているか
・夫婦、家族の協力の状況について
・家族の中で、子どもが大切にされている雰囲気やエピソ-ドはどんなものか
・家族のコミュニケ-ションのあり方に、年齢や委託日数を考慮して、自然な感じがあるか
・子どもの発達に応じた部屋の雰囲気があるか
・ペットがいる場合、子どもとペットとの関係はどうか
・里親が子どものことを語る時、可愛いいという感じが伝わってくるか
・地域や学校に子どもをどのように紹介しているか
・子どもが安心していられる決まった居場所があるか
等々が挙げられる。
イ.中期(混乱期)
 子どもが里親家庭に慣れるに従い、個人差があるものの、手のかからない「良い子」から手をかけさせる「悪い子」や「赤ちゃん」に変わっていく。ある年齢まで退行していく現象は「赤ちゃん返り」と言われ、新しい親、特に里母との関係を確認するために、本来の養育経験をやり直しているものと考えられている。そして、子どもなりに満たされると自然に年齢相応のところに戻ってくるものである。
 これはあるがままの自分をどこまで受け入れてくれるのか無意識のうちに試しているということである。そこで子どもは親の愛情を確認するために、親の一番嫌がることをしがちであり、特に被虐待児には行動の逸脱や激しさが目立つ。
 これらの特徴について列挙すると
・里母から片時も離れず、里父になつかない
・反抗的な態度をとり続ける(自己中心的で叱っても効果がない状態)
・自分を表現しない(何を考えているかわからない)
・嘘をつく
・里親以外の大人に甘えたり、他の家に行き食事等を欲しがる
・過食が続く
・排泄、着脱衣、あいさつ等できていたことができなくなる
・夜泣きや夜尿が続く
・教室や友人の家から物を持って来たり、里親宅からお金を持ち出す
・同年齢の子どもに乱暴する、噛みつく等々
が挙げられるが、これらの行動は環境の大きな変化による心因的なものが大半である。
しかし、一部には器質的な原因を内在している場合もあるので、児童相談所は十分な観察をしなければならない。
 この時期に里親が子どもの状態をどのように受け止め、どのように対応するかによって、状況が変わる。里親が振り回されて混乱したり、しつけを急いだりするとさらに「悪い子」になるという悪循環に陥ることとなる。  児童相談所はこの時期に頻繁に訪問して(内容によっては心理職員が関わっての通所も考えられる)問題を共有の上、一緒に問題を乗り切る姿勢をとらなくてはならない。
 ここで里親が陥りやすい状態として
・子どもに振り回され、心身ともに疲れ果てる
・受託前に抱いていた子どものイメ-ジと、現実との違いに失望する
・「良い子にしなければ」としつけが厳しくなる
・溺愛したり、拒否的になったりと、片寄った養育姿勢をとる
・「子どもが急に変化するのではないか」と過度の期待感を持つ
・養育方針の違いで里親夫婦の葛藤が新たに起きる
・祖父母と同居している場合、関わり方について互いに批判的になる等、世代間の葛藤が表面化する
・実子がいる場合、実子との違いに戸惑い、愛情が公平に持てないと悩む(二人目以降の里親委託でも同様である)
等々がある。
 この時期を乗り越えるために児童相談所はいろいろな形態で援助を行うが、その場合の留意点は以下のとおりである。
・里親はかくあるべきという先入観を持ったり、実子でもこの程度のことはある(問題を大げさにとらえているのではないか、問題にする里親こそ問題)という視点で臨むことは避ける
・里親も子どもも変化するものであるという視点で、焦らず、問題を一緒に解決していこうという姿勢を持ち続ける
・育てていく中での心配や不安の訴えが「里親失格」や(余程のことがない限り)子どもを引き離すことにつながるのではないかという不安を里親が感じないよう配慮する
・児童相談所が行うグル-プ指導や里親会の活動に積極的に誘い、里親同士のつながりが持てるように配慮する このように里親と児童相談所が協調しても「問題行動」が軽減しなかったり、逆にエスカレ-トし続けるようであれば、里親家庭への不適応行動と考えて、処遇の再検討をする必要がある。
ウ.後期(安定期)
 安定したかどうかは、「問題行動」が落ち着くということ以外に、次の点を目安にする。
・子どもが安心してくつろいでいる
・子どもが自由にふるまえる
・子どもが家族全員に親愛感を持つ
・子どもを含め、家族全員の表情がよい
・里親の言動に自信(安定感)が感じられる
・混乱期の大変さを理解して、里親なりにその意味をつかんでいる
・理屈抜きに子どもを可愛いと感じている雰囲気がある



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