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[Ⅵ-G] DV・児童虐待行政対応マニュアル

子ども虐待対応の手引き

 
 第5章 判定・処遇決定 性暴力と学校-その現状と課題-(杉村直美)
第1章 援助に際しての基本的留意事項
1.虐待とは何か
(1) 子ども虐待への取り組みの沿革
 我が国では、昭和8年に児童虐待防止法が制定されている。昭和22年には児童福祉法が制定され児童虐待防止法は廃止されたが、その第34条に児童虐待防止法の禁止事項が掲げられている。当時の子ども虐待の背景には絶対的な貧困と儒教的家父長的家族制度に基づく「私物的我が子観」があり、幼い子どもがその犠牲になっている。
 1973(昭和48)年には、厚生省が「児童の虐待、遺棄、殺害事件に関する調査」、1976(昭和51)年には大阪府児童相談所による「虐待をうけた児童とその家族の調査研究」、1983(昭和58)年には「児童虐待調査研究会による調査」、1988(昭和63)年と1996(平成8)年には全国児童相談所長会による「家庭内虐待調査」が実施されている。
 1989(平成元)年、国連総会で「児童の権利に関する条約」が採択された。その第19条1に「締約国は、児童が父母、法定保護者又は児童を監護する他の者による監護を受けている間において、あらゆる形態の身体的若しくは精神的な暴力、傷害若しくは虐待、放置若しくは怠慢な取扱い、不当な取扱い又は搾取(性的虐待を含む。)からその児童を保護するためすべての適当な立法上、行政上、および教育上の措置をとる。」と明記された。初めて国際条約の中に子ども虐待やネグレクトが明記されたことは画期的なことであった。
 厚生省でも、1990(平成2)年度から児童相談所における虐待を主訴とする相談処理件数を厚生省報告例により公表するとともに、1996(平成8)年度には「児童虐待ケースマネージメントモデル事業」を北海道、栃木県、神奈川県、愛知県、大阪府、山口県、香川県、北九州市の8道府県市において実施し、子ども虐待対応における機関連携を推進することとした。さらに同年度、「子ども虐待防止の手引き」を作成し、学校、保育所、保健所、警察、民生・児童委員(主任児童委員)等、関係機関による児童相談所への通告等を促すこととした。
 1997(平成9)年度には児童福祉法が制定後50年ぶりに大幅に改正され、児童相談所が施設入所等の措置を採るに当たって一定の場合には都道府県児童福祉審議会の意見を聴取することとされ、児童相談所における措置決定の客観化を図るとともに、子ども虐待等複雑・多様化する子ども家庭問題に児童相談所が的確に対応できるよう児童相談所を専門的にバックアップする仕組みが講じられた。さらに、同法の改正では、地域に密着したきめ細かな相談支援を通じて問題の早期発見・早期対応を図るための「児童家庭支援センター」が創設された。
 また、同年6月には一部疑義のあった児童福祉法について解釈の明確化を図るとともに、子どもの福祉を最優先した積極的な取り組みを促す通知が発出された(「児童虐待等に関する児童福祉法の適切な運用について」平成9年6月20日付児発第434号厚生省児童家庭局長通知)。さらに、1998(平成10)年3月にも、虐待問題に対する市町村による広報啓発活動や児童相談所における夜間休日の対応体制の必要性等を盛り込んだ通知が出されている(「児童虐待に関し緊急に対応すべき事項について」平成10年3月31日付児企第13号厚生省児童家庭局企画課長通知)。また、同時に法改正や子ども虐待の増加等に児童相談所が的確に対応できるよう「児童相談所運営指針」が大幅に改定された。
 1999(平成11)年3月には、子ども虐待の対応において中心的な役割を担う児童相談所や児童福祉施設における対応のあり方について、これまでの通知等の趣旨を踏まえつつ具体的に解説した本手引き書を作成した。 また、同年5月18日に、18歳未満の児童に対する性的搾取や性的虐待が児童の権利を著しく侵害し、児童の心身に有害な影響を及ぼすことから、児童買春や児童ポルノに係る行為等を禁止、処罰するとともに、児童の権利を擁護するため「児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律」(以下、「児童買春・ポルノ禁止法」という。)(平成11年法律第52号)が成立し、5月24日に公布され、11月1日に施行された。
 さらに、近年児童相談所における虐待相談件数の急増、児童虐待によって最悪の場合生命を奪われ、生命を奪われないまでも心身に重大な被害を受ける児童が後を絶たないことなどから、国会の衆議院青少年問題に関する特別委員会において、多数の参考人からの意見聴取、児童福祉施設への視察、精力的な集中審議等が実施され、2000(平成12)年5月17日に、「児童虐待の防止等に関する法律」(平成12年法律第82号)(以下、「児童虐待防止法」という。)が成立し、5月24日に公布され、11月20日より施行された。
 一方、子どもの権利を擁護するための地方における取り組みも活発化しており、1998(平成10)年10月1日からは神奈川県で「子どもの人権相談室事業(子どもの人権審査委員会)」が、同年11月1日からは東京都で「子どもの権利擁護システム(子どもの権利擁護専門員)」がスタートし、子ども虐待の予防、啓発、適切な社会的介入に大きく貢献している。
 なお、1996(平成8)年には、大阪で「日本子どもの虐待防止研究会」が結成され、以後毎年学術集会が開催されるなど、職域を超えた全国規模の学究的な取り組みも始まっている。
(2) 子ども虐待のとらえ方
 子ども虐待については様々な定義が試みられてきたが、児童虐待防止法においては、「児童虐待」を殴る、蹴るなどの身体的暴行や、性的暴行によるものだけでなく、心理的虐待やネグレクトも含むものであることを明確に定義している。また、同法第3条において、何人も児童に対する様々な虐待行為(児童福祉法第34条や児童買春・ポルノ禁止法に掲げる禁止行為や、暴行罪、傷害罪、保護責任者遺棄罪、強制わいせつ罪等はもちろん含まれる。)をしてはならないことが規定されたことに留意すべきである。
(3) 子ども虐待とは何か
 児童虐待防止法第2条において、「この法律において、「児童虐待」とは、保護者(親権を行う者、未成年後見人その他の者で、児童を現に監護するものをいう。以下同じ。)がその監護する児童(18歳に満たない者をいう。以下同じ。)に対し、次に掲げる行為をすることをいう。」とされている。
 この場合の、「保護者」及び「監護する」については、基本的に児童福祉法第6条における「保護者」及び「監護する」と同様に解釈すべきである。すなわち「保護者」とは、親権を行う者、未成年後見人その他の者で、児童を現に監護、保護している場合の者をいう。そのため、親権者や後見人であっても、児童の養育を他人に委ねている場合は保護者ではない。他方で、親権者や後見人でなくても、例えば、児童の母親と内縁関係にある者も、児童を現実に監督、保護している場合には保護者に該当する。「現に監護する」とは、必ずしも、児童と同居して監督、保護しなくともよいが、少なくとも当該児童の所在、動静を知り、客観的にその監護の状態が継続していると認められ、また、保護者たるべき者が監護を行う意思があると推定されるものでなければならない。また、児童が入所している児童福祉施設の長は、児童を現に監護している者であり、「保護者」に該当する。なお、施設長や職員によるいわゆる体罰は、児童福祉施設最低基準により懲戒に係る権限の濫用として禁止されており、これに反する場合には最低基準違反として行政処分等の改善措置が図られるべきものである。
 個別事例において虐待であるかどうかの判断は、法の定義に基づき行われるのは当然であるが、併せて子どもの状況、保護者の状況、生活環境等から総合的に判断するべきである。その際留意すべきは子どもの側に立って判断すべきであるということである。
 小林美智子は次のように述べている。
 「虐待の定義はあくまで子ども側の定義であり、親の意図とは無関係です。その子が嫌いだから、憎いから、意図的にするから、虐待と言うのではありません。親はいくら一生懸命であっても、その子をかわいいと思っていても、子ども側にとって有害な行為であれば虐待なのです。我々がその行為を親の意図で判断するのではなく、子どもにとって有害かどうかで判断するように視点を変えなければなりません。」(小林美智子,1994)
 なお、児童虐待防止法では、
 1.児童の身体に外傷が生じ、又は生じる恐れのある暴行を加えること。
 2.児童にわいせつな行為をすること又は児童をしてわいせつな行為をさせること。
 3.児童の心身の正常な発達を妨げるような著しい減食又は長時間の放置その他の保護者としての監護を著しく怠ること。
 4.児童に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと。
 と4つの行為類型として規定された。具体的には、以下のものが児童虐待に該当する。
1. 身体的虐待(第1号)
* 外傷としては打撲傷、あざ(内出血)、骨折、頭部外傷、刺傷、たばこによる火傷など。 * 生命に危険のある暴行とは首を絞める、殴る、蹴る、投げ落とす、熱湯をかける、布団蒸しにする、溺れさせる、逆さ吊りにする、異物をのませる、食事を与えない、冬戸外にしめだす、縄などにより一室に拘束するなど。
3. 性的虐待(第2号)
* 子どもへの性交、性的暴行、性的行為の強要・教唆など。 * 性器や性交を見せる。* ポルノグラフィーの被写体などに子どもを強要する。
4. ネグレクト(第3号)
* 子どもの健康・安全への配慮を怠っているなど。例えば、1:家に閉じこめる(子どもの意思に反して学校等に登校させない)、2:重大な病気になっても病院に連れて行かない、3:乳幼児を家に残したまま度々外出する、4:乳幼児を車の中に放置するなど。
* 子どもにとって必要な情緒的欲求に応えていない(愛情遮断など)。
* 食事、衣服、住居などが極端に不適切で、健康状態を損なうほどの無関心・怠慢など。例えば、1:適切な食事を与えない、2:下着など長期間ひどく不潔なままにする、3:極端に不潔な環境の中で生活をさせるなど。
* 親がパチンコに熱中している間、乳幼児を自動車の中に放置し、熱中症で子どもが死亡したり、誘拐されたり、乳幼児だけを家に残して火災で子どもが焼死したりする事件も、ネグレクトという虐待の結果であることに留意すべきである。
* 子どもを遺棄する。
6. 心理的虐待(第4号)
* ことばによる脅かし、脅迫など。
* 子どもを無視したり、拒否的な態度を示すことなど。
* 子どもの心を傷つけることを繰り返し言う。
* 子どもの自尊心を傷つけるような言動など。
* 他のきょうだいとは著しく差別的な扱いをする。
マルトリートメントとは諸外国では、「マルトリートメント」という概念が一般化している。「マルトリートメント」とは、大人の子どもに対する不適切な関わりを意味しており、「虐待」より広い概念である。「マルトリートメント」は一応次のように定義づけられよう。 1. 18歳未満の子どもに対する 2. 大人、あるいは行為の適否に関する判断の可能な年齢の子ども(おおよそ15歳以上)による 3. 身体的暴力、不当な扱い、明らかに不適切な養育、事故防止への配慮の欠如、ことばによる脅かし、性的行為の強要などによって 4. 明らかに危険が予測されたり、子どもが苦痛を受けたり、明らかな心身の問題が生じているような状態  この定義の1と3の項目は、従来の「虐待」の定義とほぼ同じ内容である。2では、「親、または、親に代わる保護者」に限定せず、「大人、あるいは行為の適否に関する判断の可能な年齢の子ども(おおよそ15歳以上)」とされている。例えば、学校・塾などの教師や保育所の保育士などによる体罰など、家庭外での不当な行為も「マルトリートメント」と考えられる。また、「子ども」が含まれているのは、施設内での年長児による年少児への暴力や、きょうだいの間の性的虐待等を考慮しているからである。 4については、従来の「虐待」の定義では「明らかに心身の問題が生じている」場合のみとされてきたが、子どものウェルビーイングの促進、啓発を考える上で、また、問題の重度化、深刻化を防いで行く上で、たとえあざや骨折がまだ生じていなくても、殴られたり、蹴られたりすることは不適切なことであることを明らかにするために、「明らかに危険が予想されたり、子どもが苦痛を受け」ている場合も含めている。 「マルトリートメント」の程度と社会的介入のレベルの関係を図示すると、図1-1のようになる。
図1-1 子どもへの不適切な関わり(マルトリートメント)の範囲と社会的介入
※社会的介入のレベル図の説明
A レッドゾーン(要保護) :子どもの命や安全を確保するために、児童相談所が強制的に介入し、子どもを保護するレベルです。
B イエローゾーン(要支援) :問題を重度化、深刻化させないために、児童福祉司(ソーシャルワーカー)、心理職、保健婦、医師、看護婦、保育士、幼稚園・学校の教員、児童委員などが、セーフティー・ネットワーク(安全網)を形成し、子どもを見守りつつ、親への支援を行うレベルです。
C グレーゾーン(啓発・教育) :子どもの権利条約や子どもへの不適切な関わりについて、大人に啓発・教育することで、マルトリートメントを予防していくレベルです。児童福祉施設、幼稚園、学校、保健所、産婦人科・小児科病院などで、マルトリートメントを防ぐための啓発・教育プログラムの整備・発展がこれからの課題です。
出典:高橋重宏他「子どもへの不適切な関わり(マルトリートメント)」のアセスメント基準とその社会的対応に関する研究(2) 日本総合愛育研究所紀要第32集


2.虐待事例における援助の特質と子どもの自立支援とは何か

(1) 虐待事例における援助の特質
1:虐待の子どもへの影響
 子ども虐待は、子どもに対するもっとも重大な権利侵害といえる。
 前述のように、子ども虐待はいくつかのタイプに分けられ、それぞれのタイプによる心身への影響は異なる面はあるが、いずれにおいても子どもの心身に深刻な影響をもたらすものである。また、多くの事例においては、いくつかのタイプの虐待が複合していることに注意しなければならない。
 虐待の子どもへの影響としては、死亡、手指の切断・頭蓋内出血・火傷などによる身体的障害、暴力を受ける体験からトラウマ(心的外傷)を持ち、そこから派生する様々な精神症状(不安、情緒不安定)、栄養・感覚刺激の不足による発育障害や発達遅滞、安定した愛着関係を経験できないことによる対人関係障害(緊張、乱暴、ひきこもり)、自尊心の欠如(低い自己評価)等、様々な内容、程度がある。

2:虐待事例への援助の特質
ア.保護者の意に反する介入の必要性
虐待を受けた子どもに対しては、単に保護するだけでなく、心理的治療が不可欠となる。しかも、虐待事例においては、保護者が心配して来所する一般の相談とは異なり、保護者は虐待の事実を認めなかったり、否定したり、気付いていなかったりすることも多く、相談や子どもへのサービスを実施しにくい。虐待の場合には、子どもの生命や健全な成長・発達、ウェルビーイングを守るため、保護者の求めがなくとも、あるいは保護者の意に反しても、介入していかなければならない場合が少なくない。
イ.諸機関(専門家)の連携の必要性
このように保護者の同意が得られにくいこと、そしてそのような家庭には多くの困難な要因(条件)が複雑に関与しているために、一機関、一専門家では対応が困難で、相互の連携が不可欠といえる。例えば、保護者が子どもの施設入所に同意しない場合には、弁護士の関与により法的に対応する必要も出てくる。家庭が貧困であったり、病人を抱えていたり、保護者に精神的な問題があれば、福祉事務所や保健所との連携が必要となろう。
ウ.児童相談所と施設の連携の必要性
虐待事例では、児童福祉司や心理職員による家庭訪問や通所での相談・指導を行う一般の相談とは異なり、親子分離をせざるをえない場合が少なくない。子どもを虐待環境から離し、「安心できる」あるいは「安全である」と感じられる乳児院・児童養護施設や里親のもとに保護しなければならない事例も多い。しかし、通常これら親子分離による処遇は、援助の一過程にしか過ぎず、援助の目標は家庭復帰である。このため、施設入所や里親委託後の家庭環境調整や子ども、虐待を行った保護者への援助が不可欠であり、入所後の児童相談所と施設の連携が強く求められる。
エ.虐待をする保護者のリスク
虐待をする保護者は、子どもにとって、安心できる、愛情を感じられる大人ではない。したがって、施設入所後、子どもの家庭引取りは慎重にすすめなければならない。「何と言っても親子だから」と、いわゆる「親子不分離の原則」に基づき、性急に家庭引取りを目指すのは、しばしば危険である。同じように、施設入所後、保護者の面会や自宅への外泊も慎重に計画すべきである。安易な面会、外泊により、子どもが虐待を再体験することもある。
オ.在宅での援助を継続する場合
必ず子どもの安全が確保できる体制を組むべきであり、保健婦、民生・児童委員(主任児童委員)、保育所の保育士、幼稚園・学校の教諭らとの連携を図る必要がある。

(2) 子どもの自立支援とは何か
1:自立とは
 平成6年の「児童の権利に関する条約」の批准、発効などを背景として、子どもを単に保護、養育の対象としてとらえるのではなく、その人格と主体性を尊重しつつ、調和のとれた成長発達を援助していくべきであるとの認識が高まってきた。
自立をどのように考えるかは様々な意見があるが、一般に、・経済的職業的自立、・心理的社会的自立、・生活技術的自立などの側面があげられる。
ただ、ここで強調したいことは、自立とは、何でもかんでも一人でやらなければならないということではないことである。自立するとは、できることは自分でし、できないことは人に頼れることといえる。
大人でも子どもでも、日々生活していれば、自分の手に余ること、自分では解決困難な事態に、しばしば出会う。人の手、あるいは人の知恵を借りなければならないことはしばしば起きてくる。したがって、人の手、人の知恵を借りられることは生活する上で大事なことである。自立は孤立ではない。そのように考えると、自立するためには、困ったときには助けてもらえるという体験を重ねることが重要であり、自分にとって重要な人物との間に愛情と信頼のしっかりした絆(attachment)を確立することが前提となろう。
近年の子育て状況をみると、子どもの個性が十分尊重されず、知情意の中で「知」のみが重視されがちである。他方、我が国では、我が子を私物視する傾向が根強く、その結果、子どもが自発性を発揮し、自ら試み、その結果に責任を持つという経験をする機会も乏しい。子育て観の変革が望まれる。

2:自立支援の理念
 自立支援の理念は、厚生省児童家庭局家庭福祉課監修の「児童自立支援ハンドブック(P.18)」に、次のように適切にまとめられている。
 「児童の自立を支援していくとは、一人ひとりの児童が個性豊かでたくましく、思いやりのある人間として成長し、健全な社会人として自立した社会生活を営んでいけるよう、自主性や自発性、自ら判断し、決定する力を育て、児童の特性と能力に応じて基本的生活習慣や社会生活技術(ソーシャルスキル)、就労習慣と社会規範を身につけ、総合的な生活力が習得できるよう支援していくことである。」
 問題は、ここに述べられていることをどう実現していくか、ということである。自立のキーワードは「自主性や自発性、自ら判断し、決定する力」と考えられるが、こうした「力を育て」るためには、子どもが選択をし、そのことに責任を持つという体験が不可欠といえよう。つまり、自己決定と自己責任の機会を子どもが持てるようにすることが重要である。
 従来、我が国では、子どものことは保護者が決めるという文化的伝統が根強くあった。それは、日々の生活においても、また両親が離婚してどちらのもとで子どもを暮らさせるかということや施設入所の判断など、子どもの生活に直接関わる重大事でも、そうであった。つまり、子どもの考えを聞き、意向を確認するという作業をすることは少なかった。しかし、子どもの自立を支援するためには、大人の子どもへの関わり方を変えなければならない。
 ここで重要なことは、第1に、子どもの考えをよく聞く機会を持つこと、第2に、選択し、判断し、決定するためには、子どもに分かるように、必要な情報が提供されなければならないということである。例えば、子どもが有する権利について分かりやすく解説したガイドブックである大阪府の「子どもの権利ノート」のようなものが施設入所に当たっては必要になるであろう。


3.援助に際しての基本的留意事項は何か
 個々の子ども虐待は極めて多様であるだけでなく、福祉、保健、医療、教育、司法など多岐にわたる問題を抱え、かつその背景やメカニズムも複雑である。したがって、援助に際しては個別的特性を十分に酌み取り、個々の問題に応じた複合的対処をしなければならないが、以下の事項は基本的なこととして留意することが大切である。

(1) 迅速な対応
 子ども虐待は、事例によっては猶予を許さない緊急な対応が必要であることが少なくない。児童相談所や児童福祉施設などの職員は日常業務に追われ多忙を常としていると思われるが、虐待の発見や通告がなされたときは他の業務に先んじて対応を行うことを原則としなければならない。初期の対応が緩慢であったり手間取ることによって取り返しのつかない事態に至る事例が少なからず生じていることを背景として、児童虐待防止法では、「児童相談所長は、速やかに、当該児童の安全の確認を行うよう努めるとともに、必要に応じ同(児童福祉)法第33条第1項の規定による一時保護を行うものとする。」と規定されたことに留意すべきである。
 また、夜間や休日に虐待が発生することもよくあり得ることなので、夜間や休日における相談や通告、あるいは緊急保護の体制を整備し、関係機関や住民に周知するよう努めなければならない。

(2) 組織的な対応
 子ども虐待への援助は、担当者一人の判断で行うことを避けなければならない。発見や通告があれば、即刻受理会議を開いて調査やアプローチの方法、あるいは一定の評価を機関として行わなければならない。以降も情報の収集や機関連携、援助の方向などを組織的協議に則って進めていく必要がある。特に困難な保護者への対応、ポイントとなる調査や機関協議などは複数の職員で対応することを心がけねばならない。担当者一人に負担がかかり過ぎないように組織としてサポートしなければならないし、一視点による判断の弱点を組織としてカバーすることに留意しなければならない。
 また、総合的、多面的に問題をとらえ、より的確な評価や判断を行うためにも、児童福祉審議会や事例検討会などを積極的に活用するよう心がけるべきである。

(3) 家族の構造的問題としての把握
 子ども虐待が生じる家族は、保護者の性格、経済、就労、夫婦関係、住居、近隣関係、医療的課題、子どもの特性等々、実に多様な問題が複合、連鎖的に作用し、構造的背景を伴っているという理解が大切である。したがって、単なる一時的な助言や注意、あるいは経過観察だけでは改善が望みにくいということを常に意識しておかなければならない。放置すれば循環的に事態が悪化・膠着化するのが通常であり、積極的介入型の援助を展開していくことが重要との認識が必要である。また、家族全体としての問題やメカニズムの把握の視点と、トータルな家族に対する援助が必要不可欠である。

(4) 機関連携による援助
 多様な複合的問題を抱える家族に対しては、一機関の自己完結的な援助で効果をあげることは困難である。したがって、問題に対する対応機能をもった機関との連携が援助にあたっての必須の条件になる。しかし、機関連携が効果を発揮するためにはお互いがそれぞれの立場と機能を十分に理解し、問題に対する認識と援助目標を共有化させる作業が必要である。そして、その上で相互の役割分担や援助のキーパーソンを定め、随時援助の評価や調整を行っていくことが大切になるが、機関の合同会議に当たっては事前に機関内で十分詰めをすることや、必要に応じ機関としての決定権をもつ人の参加が重要になる。また、日ごろからの機関同士の協力関係の維持や職員の相互面識も大変重要な要素であるので、日常的なネットワークの構築や多職種研究会の取り組み等にも積極的に努力すべきであろう。

(5) 子どもの安全確保の優先
 我が国の制度においては、児童相談所が介入・保護の役割と後の指導・治療の役割を担うため双方のバランスが難しく、できれば保護者と摩擦を起こさないことに注意が注がれることになりがちであるが、個々の子どもにとっては安全確保こそが最優先課題であることを常に意識しておかなければならない。保護者との関係性に配慮が行き過ぎることによって介入や保護の判断が鈍り、結果として子どもが犠牲になってしまう事例が少なからず生じていることをより重視すべきである。関係者との協議や事例検討会においても、危険性を最も懸念している人の判断に立った上で援助を展開していくことを原則とすべきである。

(6) 基本としてのカウンセリングマインド
 介入・保護と一見矛盾するが、保護者も往々にして虐待の被害者であったり、困難に直面した社会的弱者であることが多いので、できるかぎり保護者の心情や背景を酌み取った面接や対応に心がけるべきである。その意味で保護者のニーズに沿う介入や援助を相手の特性や状況に応じて種々工夫し、相手にとってもメリットのある手立てや納得のいく方法をいろいろな角度から検討・吟味すべきである。しかし、その効果と全体的な虐待の状況、危険性、家族や保護者の特性などを総合的に勘案・評価し、ソーシャルワークアプローチと行政権限・司法的介入の手法選択を、極力早期に決断すべきである。

(7) 保護者への援助
 虐待への対応において、これまでは、まず子どもの安全の確保、保護を中心とした対応が進められてきた。そのことは当然のこととして、虐待を行った者に対する対応も今後重要となる分野である。援助に際しては、在宅にせよ、親子分離にせよ、子どもと保護者の双方の自己実現への支援という観点も踏まえ、適切な親子関係を基本とする家族の再統合が援助の際の究極の目標であり、その目標に沿った援助を進めることが必要である。

(8) 親権の制限と権限の行使
 行政権限による一時保護や家庭裁判所申立てなどの手法は、何らかの形で親権の制限を伴うものであり、保護者との信頼関係に基づいて援助活動を展開するソーシャルワークの基本から言えば違和感を感じることがあるかもしれないが、子ども虐待の援助においては必要不可欠な援助手法である。特に児童福祉法において唯一法的権限を与えられている児童相談所は、他の機関では代替できない権限であることの重要性を強く認識し、権限発動の社会的使命を担っているとの自覚が必要である。 したがって、状況に応じた速やかな決断と実行が求められることになるが、早い段階で保護者に仕組み(保護者と子どもや機関の意見が異なれば裁判所の判断を仰がなければならない)を伝え、かつ裁判所へ申し立てることが後のソーシャルワーク関係回復にも良い結果をもたらす場合が多いことを認識すべきである。


4.守秘義務について

(1) 児童相談所職員の守秘義務について
 児童相談所職員の守秘義務についての規定をみると、児童福祉法第61条に「児童相談所において、相談、調査および判定に従事した者が、正当の理由なく、その職務上取り扱つたことについて知得した人の秘密を漏らし(てはならない)」とあり、また地方公務員法第34条に「職員は、職務上知り得た秘密を漏らしてはならない」という規定がある。
 したがって、児童相談所職員が職務上知り得た情報を第三者に提供することは、正当な理由がないかぎり(地方公務員法にはこの言葉はないが同様に解されている)、守秘義務に違反し、刑事処罰の対象になる。
 そこで「正当な理由」の意味が問題となるが、1.他の法律で(漏らすことが)義務とされている場合、2.本人の承諾がある場合、3.他人の正当な利益を保護することとの比較において、秘密を漏らす方が重要である場合、と解されている。  医療関係者や公務員が、職務上知った虐待の事実を児童相談所へ通告しても守秘義務違反にならないのは、1.の理由、すなわち児童福祉法第25条の通告義務を果たすことになるからである。
 しかし、現実には守秘義務違反に当たるのではないかと通告者が躊躇することがあり得たことから、児童虐待防止法第6条において児童虐待を発見した者が児童相談所に通告することは守秘義務違反に当たらないことを法律上明記し、躊躇なく通告を行うことを促進しようと規定されたところである。
 ここでは児童相談所から第三者への情報提供が問題となるが、3.の要件を満たせば、違反とはならない。例えば、施設入所措置に伴い子どもの養育に必要な情報を施設に提供する場合や家庭裁判所へ児童福祉法第28条申立て等をするための資料とする場合が、その典型であるが、虐待事例の解決のため、民間団体を含む関係機関へ情報を提供する場合も含まれる。
 虐待問題は情報収集だけでなく解決のためにも関係機関の連携は不可欠である。児童相談所は連携の要であり中核的位置にあって、関係機関からの情報が集中し、関係機関と連携しながら必要な行動をとる。問題解決のために「関係機関が一堂に会し、情報交換を行うとともに、共通の認識に立ってそれぞれの役割分担を協議する等、各関係機関が連携しながら早期発見並びに効果的対応を図ることが極めて重要である。」(平成10年3月31日付児発第247号厚生省児童家庭局長通知「児童相談所運営指針の改定について」)とされている。
 関係機関への情報提供の延長として、例えば(児童相談所でなく)親族が親権喪失申立てや親権者変更申立てをする場合でも、児童相談所として問題解決のために相当と判断できる時には、家庭裁判所への資料提供に協力することも許されるであろう。  以上のとおり、虐待の予防や解決のために必要な範囲で情報を第三者に提供することは、守秘義務違反に当たらず、刑事処罰の対象になることはない。
 なお、児童虐待防止法第7条においては、「・・・児童相談所又は福祉事務所の所長、所員その他の職員及び当該通告を仲介した児童委員は、その職務上知り得た事項であって当該通告をした者を特定させるものを漏らしてはならない。」と規定された。
 これは、虐待を行っている親等に対して通告をしたことが漏れることにより、近隣住民などが、通告を躊躇する事があってはならないとの趣旨から設けられたものである。
 虐待を受けた児童の保護のために通告を受けた児童相談所又は福祉事務所等が、警察、学校、保健所、家庭裁判所等関係機関と密接な連携を行い、情報を共有し、児童の保護が円滑適切に行われるための情報交換、協議を妨げるものではない。
 なお、守秘義務違反は刑事処罰の問題にだけでなく、民事責任の問題にもなり得る。すなわち、その情報が保護者の名誉やプライバシーに関する事項であれば、保護者から民事の損害賠償請求を起こされる可能性もあり得るが、虐待またはその疑いが十分にあった時は、「正当な理由」がある場合として、賠償義務を負うことはないと考えられる。

(2) 関係者の守秘義務について
 1でふれたように、児童相談所以外の関係者が児童相談所から、あるいは関係機関の協議の場を通じて他の機関から提供された情報については、(情報公開の対象となっていない限り)関係者も守秘義務を負う。関係者が公務員であれば職務上知り得た情報ということになるので、公務員法により当然守秘義務を負うことになる。
 関係者が民間団体メンバーであれば、ストレートに守秘義務を定めた法律の規定はないが(したがって、刑事責任の問題にはならないが)、正当な理由なく他人に秘密を漏らした場合には、名誉やプライバシーの侵害として民事責任を負うことはあり得る。
 したがって、児童相談所としては、秘密を保持できる意思と能力のある民間団体でなければ、連携の対象として情報を提供することはできない。
 この点で参考になるのは、北海道の子どもの虐待防止協会が北海道児童相談所長等協議会との間で取り交わした「被虐待児童の相談援助に関する覚書」である。この覚書では双方の具体的な連携をうたったうえで、第4条(プライバシー保護)として「児童相談所および防止協会は(情報の)保管および事例検討会の運営に当たって、相談援助活動上知り得た個人のプライバシーの保護に細心の注意をする。」と定めている。この場合には防止協会の守秘義務は契約(覚書)に基づく義務になった、ということができる。
 また、民間団体では自らの活動として虐待に関する相談を受ける中で情報を収集しているが、医療機関の守秘義務に準じて、(条理上の)守秘義務を負っている、といってよいであろう。相談者もそれを信頼して情報を提供しているのであるから、「正当の理由」がない限り(児童相談所への提供や関係機関の協議の場での提供はこれに当たる)、他へ漏洩してはならない。
 実際には、各地の虐待防止の民間団体では、入手した情報の管理について気を配っており、事例について法的介入が必要であるとして複数の弁護士にファックスで応援を求める場合でも、保護者と子の氏名住所等の特定事項は記載せず、確定的に応援が決まった段階で、完全な情報を提供するようにしている。(この時点で弁護士は職務上の守秘義務を負うことになる。)



第2章 通告・相談への対応

1.通告・相談時に何を確認すべきか
 虐待については、子ども本人や虐待を行っている保護者からの相談と近隣等個人や関係機関等からの文書または口頭による通告のほか、匿名の通告もある。  通告者が個人の場合には、「虐待でなかったらどうしよう」と通告することを躊躇する気持ちや、「恨まれたり、責任を問われるのではないか」と通告後の事態への危惧感から不安な心理状態で通告してくることが多い。一方で、児童相談所が、すぐに虐待をやめさせて問題を解決してくれると期待して、通告してくる場合もある。  いずれの場合であっても、不安や不信感を相手に与えない対応によって、通告・相談の内容を聴取し、確認しなければならない。

(1) 通告・相談時に確認すべき事項
 あらかじめ必要事項を記載した虐待通告受付票を作成しておき、これに基づいて聴取する。(表2-1参照)

(2) 通告・相談者別の対応
(1)子ども本人からの相談
ア.児童相談所が必ず安全を守ることを伝えた上で、子どもの状況を把握する。
a. 協力してもらえる人はいるか。
b. 虐待の内容と程度。
c. 子どもが一人で行動できる力の程度や範囲。
d. 連絡方法の確認や会って話を聴く約束をする等、子どもとの継続的な関わりが持てるようはたらきかける。
イ.児童相談所の援助の内容、方法を具体的に説明する。
ウ.子どもと関わりのある学校等の関係機関と協力して解決していくことを説明して子どもの了解を得る。
(2)虐待を行っている保護者からの相談
ア.非難や批判をせず、訴えを傾聴する。共に問題を考える姿勢を示し、必要な場合には解決への方法や見通しについて、具体的な助言や指示をする。
イ.虐待の内容と程度。
ウ.被虐待児に対する気持ち。
エ.家族関係や生活の状況。
オ.援助者(親族・関係機関)の有無。
カ.どんな援助を求めているか。
キ.児童相談所の援助の内容、方法を具体的に説明し、来所できなければ訪問することを伝える。
(3)家族、親族からの相談・通告
ア.家族、親族としての立場や心配を受け止めながら話を傾聴し、虐待を行っている保護者や被虐待児との関係等についての情報を聴取する。
イ.家族については、虐待状況の中に置かれている当事者として受け止め、共に家族の問題を考える姿勢で向かい合う。解決への方法や見通しについて具体的助言や指示が必要な場合もある。
ウ.親族の通告には、虐待を行っている保護者への恐れからの躊躇や、家族間の軋轢による中傷等が含まれることもあるので、通告の真意を十分理解して状況を把握する必要がある。具体的な助言や指示等は慎重に行わなければならない。
(4)地域、近隣住民からの相談・通告
ア.匿名通告の場合は、通告者のプライバシーの保護をていねいに説明して、氏名、住所、連絡先等を教えてもらう努力をする。また、以後の情報を受ける窓口として、担当者名を伝える。
イ.児童相談所が責任を持って対応することを伝え、継続的な情報提供等の協力を依頼する。
ウ.通告者の考え方や態度から、直接的行動が危惧されるような場合は、注意を喚起する必要がある。
(5)警察からの通告
ア.虐待を通告の理由としたものの他、家出、徘徊、迷子、万引き等の背景に虐待がある場合も多いので留意が必要である。
イ.通告がされた場合
a. 虐待内容と受傷の程度等の情報を聴取し、一時保護所で保護が可能かどうか、入院の要否や医師の待機の必要性を確認する。
b. 保護者に連絡したか、していれば保護者の反応はどうだったかを確認する。
c. 保護者からの物理的な抵抗を受けるおそれがあり、児童相談所だけでは一時保護の実施や児童の安全の確保等が困難な場合には、警察への援助の依頼を検討する。
d. 関係機関(学校、保育所、保健所、福祉事務所等)から情報を収集する。
e. 状況により、警察にパトロール等を依頼する。なお、身柄の引き渡しがない場合であっても、児童相談所として受け付け、状況の聴取、関係者への調査、児童の安全の確認等適切に対処する。
(6)保育所、幼稚園、学校等からの相談・通 告
ア.身体的虐待やネグレクト、性的虐待がみられたり疑われる場合には、訪問調査により実態を把握する。
a. 被虐待児の在籍状況(入所年月日、入所理由、出欠状況等)。
なお、きょうだいが在籍していればその状況も聴取する。
b. 被虐待児の状況(身辺の様子、行動、食欲等)。
c. 虐待を行っている保護者の状況(虐待の認否、負傷についての受診の有無、送迎等の状況、家族関係、性格、経済状況等)。
イ.子どもが帰宅を拒否したり、けがが重い場合には、一時保護を検討する。
ウ.受傷の程度によっては、医療機関へ受診させ、写真を撮影する。
エ.身柄の緊急保護を要請された場合には、身柄付通告に準じて対応する。
オ.福祉事務所、教育委員会等関係機関から情報を収集する。
(7)福祉事務所からの相談・通告
ア.調査に際しての立会いや同行訪問の協力を依頼する。
イ.ケースカンファレンス等により、緊密な情報交換を行い、経済的援助や入院指導などによる家族環境の改善等についての協力体制をつくる。
(8)保健所・市町村保健センターからの相談・通 告
ア.家族状況、きょうだい関係や健康診断歴等の情報を確認する。
イ.虐待を行っている保護者に精神疾患がある場合は、精神保健福祉相談員または保健婦と連携し、必要な場合は主治医、警察等への協力を要請する。
ウ.緊急性を見極めながら、緊密な情報交換や同行訪問などの連携体制をつくる。
(9)保健所・市町村保健センターからの相談・通 告
 ほとんどは入院中のケースであるが、外来受診時に虐待を危惧して通告される場合もある。通告を受けたら、医療機関に出向いて主治医や関係職員から状況を聴取し、子どもが入院中の場合はその状態を直接確認する。

ア.受診経過(いつ、どこから、誰が付き添って来たか)。
イ.子どもの状態と見通し(外来であれば継続あるいは再受診の可能性の確認)。
ウ.虐待と判断もしくは疑った根拠(診断書発行の依頼)。
エ.警察への通報の確認(場合によっては通報を要請)。
オ.保護者に対して、主治医から受傷等についての所見をどのように説明したり、伝えているか。(保護者が若年の場合には、祖父母が同席での説明が望ましい)。
カ.保護者の病院に対する反応はどうか。
キ.保護者について病院が知り得ている情報と意見。
ク.児童相談所が関わることについての事前設定と紹介の方法および今後の連携の窓口担当者を確認。
(10)民生・児童委員(主任児童委員)からの相談・通告
ア.通告の内容を聴取し、地域での家族の生活状況や、家庭への援助者の有無等について、当該家族の人権を配慮した調査協力を要請する。
イ.継続的な観察情報の提供と協力について依頼する。


2.通告・相談があった場合にまず何をやるべきか
 通告・相談を受理した児童相談所は、被虐待児の生命を守り、安全を確保することを最優先して対応することが必要である。
 虐待が疑われる事例や、将来虐待にいたる可能性の高い事例等も、児童相談所が相談や情報提供等を受けたことをもって通告として受理する。
 通告・相談を受けた者は、単独で判断せずに速やかに責任者に報告し、緊急受理会議を開催して、初期対応を検討する。

(1) 緊急受理会議の開催
(1)所内の管理職、通告受理者を中心に対応可能な職員が参加する。必要に応じて、一時保護所職員の参加を求める。
(2)協議決定事項は、受理会議録として決裁を受け保存する。

(2) 緊急受理会議の検討事項
虐待通告受付票(表2-1)に基づいて検討する。
(1)虐待の確認と判断
通告内容から虐待が明確に判断できない場合でも、子どもの安全を確認するための調査を行う。
(2)緊急性の判断
子どもの被虐待状況(症状・程度)はどうか。生命の危険はないか等緊急保護の必要性について、関係機関との連携も考慮しながら判断する。
(3)担当者の決定
原則として複数体制とし、身体的虐待が疑われる場合には、医療職(看護婦・保健婦・助産婦)を加える。
(4)初期調査の内容
ア.虐待通告の正確な内容把握と事実の確認(虐待通告受付票情報の補完)。
イ.危機状況の評価と緊急保護の判断(第3章3参照)。
ウ.関係する機関の確認と調査依頼および役割分担。

(3) 緊急通告への対応
(1)緊急受理会議を開催し、まず緊急保護が必要かどうかを検討する。即時に保護が困難な場合の対応について、児童福祉法第28条や法第29条の適用も含めて検討する。
(2)児童相談所から民生・児童委員(主任児童委員)や福祉事務所等に状況の確認を依頼する。
(3)必要な場合は、通告者に対して警察や消防署への通報を依頼する。
(4)緊急保護を行う場合には、子どもの身柄の保護を優先し、保護した後早急に保護者等から事情を聴取し、一時保護あるいは入院についての相談、説得を行う。
(5)保護者の一時保護後の強引な引取要求等が予測される場合は、警察へ協力を要請する。
(6)緊急保護先は、一時保護所の他、施設、病院等があるが、事前に受入体制について確認・調整を行う。

(4) 時間外の対応
 休日、夜間についても適切な対応ができる所内体制(時間外窓口、職員連絡網、夜間対応のマニュアルなど)の整備が必要である。
 緊急対応を要する場合には、当面の対応方針と担当職員(チーム体制)を決定して初期対応を行う。
 翌日等に緊急受理会議を開き、時間外対応の状況報告と評価を行い、今後の方針を決定する。


3.子どもが自ら保護を求めてきた場合、どう対応すべきか
 子どもが自ら保護を求める状況とは、激しい身体的虐待を継続的に受けていたり、性的虐待を受けているなど、子どもがせっぱつまった状態で、救助を求めている危機状況にあると受け止め、事実の確認を早急に行って対応する必要がある。
 ほとんどの子どもは、自分が保護を求めることにより、保護者の虐待の事実が顕在化することや保護者に対する恐怖心等から、心理的に動揺している状態にある。
 児童相談所が必ず守ってあげることを伝えた上で、子どもの訴えをまず聴くことに徹し、その話を支持して安心感を与え、緊張状態を緩和することが大切である。子どもの年齢に合わせた対応の仕方と表情や態度の観察を通 して、緊急保護対応の判断のための情報収集を行わなければならない。
 一方で関係機関からの情報収集と対応についての意見を聴取し、緊急受理会議によって方針を決定する。

(1) 子どもが電話や手紙等で保護を求めてきた場合
(1)第2章1.(2)による対応をする。
(2)原則として来所を促し、信頼のおける人に同行してもらうように助言する。
(3)来所できない場合には出向くことを伝え、本人の意思を尊重して対応する。
(4)緊急の場合には110番通報や警察に助けを求めるように助言する。

(2) 子どもが来所して保護を求めた場合
(1)子どもとの面接により、下記の事項を把握する。
ア.虐待の内容と程度(事実の確認、証拠資料が得られるか)。
イ.子どもの状態(外傷の有無・程度、衣服の様子等)。
ウ.自分の身を守り、危機を回避できる能力がどの程度あるか。
エ.保護者へはどんな気持ちを持っているのか。
オ.親族のなかに援助を期待できる人はいるのか。
カ.保護者の状況。
a. 保護者は、保護を求めたことを知っているのか。
b. 保護者は、児童相談所から連絡するとどんな反応や行動をとるか。
(2)児童相談所の援助について説明する。
(3)学校、警察や福祉事務所等の関係機関へ連絡協議することの了解を得る。
(4)関係機関から情報収集を行う。
情報収集については、第3章1を参照。

表2-1 虐待通知受付票

(3) 緊急受理会議
第2章2.(2)と同様に対応方針を決定する。
(1)緊急保護する。
身柄を一時保護する。
第2章2.(2)および(4)により初期対応を行う。
(2)緊急保護はしない。
 虐待の程度が比較的軽く、子どもが危険から逃れる能力があり、子ども自身も保護について決心がつかない場合、必要な調査や情報収集を行った後に対応方針を決定する。
 子どもに対しては、今後、いつ、どんな時でも必要があれば保護することができると伝え、連絡方法や警察などの連絡窓口等についての情報を具体的に教える。
 関係機関に連絡し、今後の情報交換、連携について協力を依頼する。



第3章 調査および保護者・子どもへのアプローチ

1.他機関等からの情報収集はどのように行うか
(1) 通告の種類と相談の必要性
最近は子ども虐待についての世間の認識が広がり、児童相談所や福祉事務所等に「虐待かもしれない」との通告や相談が数多く寄せられるようになった。通告や相談のパターンは大きく分けて次の三つになる。
(1)学校、保育所、幼稚園、病院等、子どもが通ってくる、または現実にいる機関からの通告や相談で、家庭内の状況はある程度分かるし、通告や相談内容も具体的なものが多い。
(2)同居の家族や親族など、子どもの虐待を直接見ているが、独力では解決が困難で通告や相談をしてくるもの。多くは自分が通告・相談したことを秘密にしてほしいとの気持ちが強く、直接の援助や介入の糸口を期待しにくい。また、主観的・感情的な表現が多く、緊急な対応を求められることも多い。
(3)近隣住民等からの通告・相談で、子どもや家族の様子は断片的にしか分からないが、貴 重な情報になる。しかし住所や氏名、家族構成など基本的なことから調査が必要になる。

(2) 収集すべき情報とその目的
情報収集は、虐待の事実やその家族の背景等に関するものであるが、具体的には次のような事柄である。
(1)虐待の種類やレベル
(「虐待」と断定できなくても、親子関係の様子やエピソードなど)
(2)虐待の事実と経過
(日時やその時の様子など、具体的に細かく)
(3)虐待が疑われている保護者の年齢や職業、性格、行動パターンなど
(保護者自身の育てられ方や価値観、家族背景等を含む)
(4)その他家族全員の年齢や職業、性格、虐待との関わり
(5)保護者の結婚のいきさつから現在までの家族の歴史
(6)家族以外でキーパーソンとなりうる人、援助や介入の窓口になりそうな人

(3) 調査(情報収集)する機関と目的
以下の情報は、子ども虐待が疑われる家族につき、援助や介入の必要性を判断するために収集するものであるが、個人のプライバシーの保護には十分配慮が必要である。また当然のことであるが、得られた情報を正当な理由なく第三者に漏らすことのないよう配慮が必要である。
(1)家族全員の住民票
同居している家族構成を把握するための基礎資料であり、市町村から公文にて取り寄せる。
(2)戸籍謄本(付票を含み、保護者が離婚していれば両親とも)
親権者の確認や家族の法的関係、転居歴等家族の歴史を知る上で重要。本籍地から公文にて取り寄せる。
(3)生活保護の有無
本人家族が受給しておれば、福祉事務所を通じて詳しい生活歴が分かる。また、援助を行う場合、福祉事務所との連携が図れる。
(4)妊婦・新生児・乳幼児発達健康診査等の結果
保健所や市町村保健センター(保健婦)では妊娠中から新生児、乳幼児等各段階で健康診査があり、受診していれば母子関係や子どもの発達等について様々な情報が得られる。また、受診していなければ「健康診査のお誘い」を理由として家庭訪問ができる。
(5)子どもが通っている(いた)学校、保育所、幼稚園からの情報
子どもがどこかに通っていれば、訪問し、担任教師や養護教諭、保育士等から虐待の状況、子どもの様子や家族関係、その他保護者に関する情報を得る。また、虐待と断定できなくても、以後の情報提供や協力を依頼する。
また、過去に担任をしていた教師や保育士に会えれば、子どもの性格や行動、親子関係、家庭の雰囲気などを知ることができる。
(6)きょうだいが通っている学校等からの情報
他のきょうだいへの虐待の有無、親子関係や家族の価値観、家庭の雰囲気等の情報を得る。さらに、各機関が家庭訪問する際のきっかけを作ってもらうなどの協力を期待できる。
(7)病院からの情報
入院や通院の事実が分かれば、直接主治医に会って話を聞く。虐待に直接関係ないと思われても、病状については詳しく聞く。また受診時の親子の様子や保護者の態度などについても尋ねる。なお、保護者が信頼して今後も継続的に通うことが予想されれば、援助活動チームの一員として共同して家族援助を行うよう依頼する。
(8)警察からの情報
子どもや家族の状況、虐待の状況等について情報が得られる場合がある。また、援助や介入等について協力を依頼することができる。
(9)民生・児童委員(主任児童委員)からの情報
住民に最も身近な援助機関であり、家族の状況等について具体的かつ詳細な情報が得られることがある。

(4) 情報収集における留意点
情報収集における重要な留意点を列挙する。
(1)面接の原則
情報収集に際しては直接出向き、面接する。これは秘密を保持する上で重要であるばかりでなく、細かい情報を得るとともに以後の連携のためにも必要である。特に、初めての機関に対しては、お互いに慎重になりがちなので、是非訪問面接を心がける。 ただ、緊急の場合には電話で情報収集を行うが、その際には誰かに仲介してもらう、電話をかけ直して機関の確認をしてもらう等の配慮が必要である。
(2)複数対応の原則
調査に当たっては、原則として複数の職員が同行する。調査項目に漏れをなくす、重要な話を正確に把握する、主観的な印象を修正する、共通認識を持つ等、調査の客観化を図るためである。
(3)守秘義務の保障
調査結果に対する守秘は当然のことであるが、調査する相手機関の守秘義務についても理解が必要である。「口頭なら答えられる」「公文書が必要」という相手機関の事情等を尊重することが大切である。
(4)保護者への伝達の範囲
ソーシャルワークの過程で、保護者に対し児童相談所が介入する根拠として「こんな話を聞いたので子どもが危険と判断した」と話すことがある。情報源を秘匿しても、学校など子どもの所属集団に怒鳴り込んでくることもあるので、調査の際話せる内容や範囲等について情報提供者と事前に打ち合わせておく必要がある。


2.調査に拒否的な保護者へのアプローチをどうするか
 調査や介入に対して拒否的な態度をとる保護者へのアプローチは、虐待に関する初期援助の中で最も難しい課題の一つである。欧米の場合、何らかの子どもの危険性が察知されたときは、保護者の意向は抜きにして緊急に子どもを保護できる制度が、行政や司法によって整備されているが、我が国の場合は伝統的に家庭内問題に対する社会的介入の制度や社会的コンセンサスが弱いので、実務的には様々な創意と工夫を用いてこの課題に対処する必要がある。
 この創意と工夫は緊急に介入しなければ子どもの身体・生命に危険がある場合を除き、原則から言えば保護者にとって違和感や抵抗の少ない方法、ときには保護者にとって何らかのメリットが得られる方法を優先的に検討し、それらのアプローチが効を奏さないか困難であるときに、行政権限発動や司法的手法を採択するという手順になる。以下に、実務上実践されているいくつかの方法を具体的に例示したい。

(1) 保健所、市町村保健センター等の保健活動を利用する方法
 被害を受けた子どもが乳幼児であれば、保健所の乳幼児健診、6カ月健診、1歳半健診、3歳児健診などに結びつけて、呼び出しや訪問をしてもらえれば違和感がないし、保健婦等による子どもの状態の確認が可能である。そこで子どもの育てにくさや、保護者の子育ての大変さを受け止め、児童相談所の説明や精密検査へつなぎをしてもらうことができれば、児童相談所とのコンタクトもスムーズに行きやすい。

(2) 関わりのある機関を経由する方法
 保育所や幼稚園、あるいは学校などの機関が関与していれば、それぞれの機関の職員が保護者の子育ての苦労に共感を示しながら、保護者が困難に感じている子どもの問題に対する児童相談所での検査の必要性や、場合によれば無料で一時預かりが可能であることなどを提示して一定の納得が得られると、児童相談所がコンタクトを取りやすくなる。

(3) 医療機関へつなぐ方法
 保護者に児童相談所など行政機関への拒否感があるときや、子どもに外傷、発育不良などの医療的課題があるときは、協力が得られやすい医療機関に一旦つないで、次の展開を考えることが適切なことがある。その際、医療機関には検査などの目的で入院させてもらえると次の対処がそれだけやりやすくなる。

(4) 親族、知人、地域関係者等を介する方法
 保護者と何らかの面識や関わりのある親族、知人、地域関係者等がいる場合は、保護者の子育ての困難さと子どもの側の問題などについて保護者の相談にのってもらうなどの方法により、何らかのコンタクトを取ってもらいながら子どもの現状確認と家族の状況把握、そして児童相談所へのつなぎの協力を求めると、機関が単独でいきなり接触するよりはずっとスムーズに関わりがもてることが少なくない。

(5) 警察との連携により保護者へのアプローチを進める方法
 従来から、警察との連携のもとに児童虐待への対応を行っているところであるが、児童虐待防止法第10条において、同法第8条又は同法第9条による児童の安全確認、一時保護又は立入調査等の際に、警察官の援助を求めることができると規定されたことなどから、より一層警察との連携を進めることが必要である。
 通告があった際の通告内容の正確な把握、被虐待状況の評価と緊急性の判断、関係機関に対する初期調査など児童の安全確認のための調査や必要な場合の緊急保護、立入調査等は児童相談所がその専門的知識に基づき、主体的に実施するものであり、警察官の任務ではない。また、警察官は児童相談所長等の権限行使の補助者ではない。しかし、立入調査等の執行に際して援助の必要があると認めるときは、警察官の援助を求め、法に基づき立入調査による安全の確認等が必要な場合もある。
 児童の安全の確認、一時保護又は立入調査等の執行に際して「援助の必要があると認めるとき」とは、保護者又は第三者から物理的その他の手段による抵抗を受けるおそれがある場合、現に児童が虐待されているおそれがある場合などであって、児童相談所長等だけでは職務執行することが困難なため、警察官の援助を必要とする場合をいう。
 なお、援助依頼の際には、緊急の場合を除き、児童相談所長から警察署長に対して、事例の概要や援助の必要性などを記載した文書(第3章5.(3)「警察への援助依頼様式」参照)で援助を依頼し、事前協議することを原則とすべきであるが、援助が円滑に行われるためには、警察との具体的事例の共有など日頃からの関係づくりが重要である。以下、実際例を参考までに紹介する。

[事例Ⅰ]
 警察が虐待との通報を受け、保護者と子どもを警察で事情聴取した。体罰が行われており、親もしつけに困っているとのことから、警察官から児童相談所に相談するよう助言があり、また、児童相談所への通告も行われた。通告に基づき児童相談所から保護者への指導が開始された。
[事例Ⅱ]
 病院から熱傷を治療した児童について、警察への通報、児童相談所への通告があり、児童相談所職員と警察官が病院を訪問。経過を確認の後、児童相談所職員が家庭訪問し子どもの一時保護を提案。拒否の際は家庭裁判所の判断を仰ぐ可能性を示唆し保護を実行。後に保護者と関わりを継続する。(当初保護者に抵抗があったが、いずれ拒み切れないと保護に同意。後に受容的面接で関わりを継続する)
[事例Ⅲ]
 児童相談所で情報を把握している、ネグレクトが疑われる状態で徘徊する傾向がある子どもについて、警察での発見や保護が行われた場合には、児童相談所に通告をしてもらうよう、警察に連絡し協力を依頼。警察から通告があり児童相談所において一時保護。保護者に一時保護している旨伝え、保護者への指導の端緒が得られた。
[事例Ⅳ]
 中学生の性的虐待事例。学校の担任に事実を打ち明け救済を求めた。学校から児童相談所に通告があり、性的虐待については犯罪に当たる蓋然性が高いため、児童相談所の職員が本人の同意を得て警察に同行し、事情を訴えた後一時保護。保護者に対しては警察への同行の後一時保護したことを伝え、性的虐待は犯罪であることを説明。児童の処遇については施設入所を強く説得する。
[事例Ⅴ]
 保護者への接近が困難な小学校高学年の被虐待児。一時保護や施設で保護することが可能であること、また緊急の場合には、児童相談所や警察へ保護を申し出るように学校の場を利用してあらかじめ情報を伝達。児童相談所から警察へは状況を伝え緊急の場合の保護、児童相談所への通告等の協力を依頼。結局児童自身が警察に保護を求め、警察からの通告により児童相談所が一時保護をした。
[事例Ⅵ]
 子どもに体罰による外傷があったので、傷害事件として親族が保護者を警察に告発。警察は刑事事件として立件し、保護者の逮捕に踏み切る。後に、保護者が覚醒剤事件に関与していることも判明し比較的長期の拘留となる。保護者が拘留されたことにより子どもは施設入所となる。
[事例Ⅶ]
 母親に精神疾患が疑われる身体的虐待の事例。母親が暴れて子どもが傷を負っているため、民生・児童委員より警察への緊急通報とともに保健所へも通報がされた。警察官から保健所へ精神保健及び精神障害者福祉に関する法律第24条に基づき通報し、指定医による診察を要請。診察の結果措置入院にはならなかったが、要入院治療の診断がでる。親族の協力が得られなかったため、保護義務者がいない場合の市長同意により、母親を医療保護入院させ、子どもを一時保護する。母親を医療ベースに乗せることによって初めて母親との話合いも可能になる。

(6) 司法的手法によるアプローチ
 調査や介入など、当該家庭に対する接近が困難で関わりの手がかりがなかなかつかめなかったり、子どもの保護が必要であるにもかかわらず普段の保護者の言動からアプローチが極めて困難であるときは、当初から司法的手法を用いることを検討してもよい。従来児童相談所は司法的手法に十分慣れていなかったが、近年、児童相談所における先駆的な取り組みの事例報告がなされたり、弁護士による実践報告例も発表されるようになってきているので、各児童相談所が司法的手法を援助方法の一つとして共有し積極的に活用を進めていくことが重要である。

[事例Ⅰ]
 子どもが入院中(大腿部骨折)に情報を収集。一方親族に事情を話し、協力を要請。弁護士の協力も得て親権喪失と保全処分を申し立てる。家庭裁判所との協議により関係機関からの調査のみにて、保全処分の決定を得る。保全処分が下りた時点で親権代行者の権限に基づき、子どもを転院させ身柄の安全確保を行う。以降は家庭裁判所で子どもの養育監護の話合いを行い、最終的には親権を変更して実母が引き取り養育を行う。親権変更が成立した時点で親権喪失の申立てを取り下げる。
[事例Ⅱ]
 母親の内夫によって虐待を受けた3歳と1歳の保育所入所児。保育所、病院(頭蓋内出血)等から情報を収集。離婚していた非親権者の実父に事情を話して協力を要請。弁護士の協力も得て、在宅のまま親権喪失と保全処分を申し立てる。家庭裁判所へ調整を行い関係機関からの調査のみで保全処分の決定を得る。保全処分の決定と同時に保育所で子どもの身柄の確保を行い、親権代行者の同意で1歳児を乳児院に措置し、3歳児を一時保護。家庭裁判 所による監護決定は被害が大きかった1歳児が非親権者の実父へ。母親に愛着を示した3歳児は母に決定。しかし、弁護士が調整を行い、双方の監護状況を児童相談所が向こう5年間フォローし、それぞれに伝えることで合意する。
[事例Ⅲ]
 小学6年の女児。アルコール依存のある実父から性的虐待を受け、母親もそれを黙認している。父母との生活を嫌がった本児がすでに独立していた姉の元へ逃げ込んだ。姉は自らも父に性的虐待を受けた体験があり、父母の元へ戻すことが適切でないと判断。姉は本児を養育する意図で転校の手続をとろうとしたが、父親が妨害。強引に連れ戻される心配もあったので児童相談所に相談。児童相談所は本児の監護については、今後姉が行うことが適当と判断し、姉に対する監護権の指定と保全処分の申立てを家庭裁判所に行うよう援助する。家庭裁判所の呼び出しに対して、父親は従順であったため保全処分の適用はなかったが、姉が監護権者になり、本児は安定した形で姉の元で暮らせるようになった。


3.調査における留意事項は何か
(1) 調査の意味
 一般の相談においては、調査(事実の聞取り)そのものがすでに治療的要素を含んでいるから、調査に当たっては客観的事実の把握・確認よりもむしろ来談者の訴えを傾聴し、受容的態度で臨む等、来談者主体(Client-centered)で行われる場合が多い。また、治療的観点に立脚すれば、客観的事実よりクライエントの主観的事実を重視すべきことも多い。虐待事例の調査においても信頼関係(ソーシャルワーク関係)を基本として行うことが原則であるが、保護者自身に相談への動機づけがない場合が多いこと、保護者への治療効果を期待する以前に子どもの福祉を最優先した迅速な対応が求められること等、他の一般的な面接調査とは異なる側面もある。
 虐待事例では、常に最悪の場合は子どもの生命が脅かされる事態も想定し調査しなければならない。場合によっては子どもの安全確認、緊急保護が優先されることもある。また、その後の対応で法的な措置を講じる場合の証拠・根拠を把握しておく調査でもあることに十分留意する必要がある。
 情報収集においては、現在子どもがおかれている状況だけでなく、将来起こることが予見される状況も視野に入れた、客観的・多角的な調査が望まれる。
 また、虐待を行っている保護者などへの対応の基本はあくまでも「援助的関わり」であることは当然であるが、子どもの人権・生命安全の確保という観点においては、調査の必要性の説明と同意に配慮しながらも、「子ども虐待の事実」という「証拠固め」を行わなければ一時保護や児童福祉法第28条の申請手続、親権喪失宣告請求等法的対応が必要な事例の措置において説得力を持つ客観的な事実を十分そろえることができない。
 さらに、処遇の過程で、保護者側からの訴訟や情報開示請求などが行われた場合にも、初期段階からの調査による情報収集とその整理・分析が適正な対応に資することになると言えよう。

(2) 調査の方法
(1)通告者・保護者・子ども・他の関係者への聴き取り
 保育所や幼稚園、あるいは学校などの機関が関与していれば、それぞれの機関の職員が保護者の子育ての苦労に共感を示しながら、保護者が困難に感じている子どもの問題に対する児童相談所での検査の必要性や、場合によれば無料で一時預かりが可能であることなどを提示して一定の納得が得られると、児童相談所がコンタクトを取りやすくなる。
(2)関係機関への文書・口頭による照会
 より多くの情報を収集することが正確な状況把握と客観的な判断には不可欠である。状況把握のために関係機関への文書・口頭による照会も必要である。なお、虐待の事実がまだ未確定である段階では照会先への説明の仕方に配慮する。常にプライバシーへの最大限の配慮が求められる。
(3)状況や環境の見取図
 虐待が起きた環境の家具、間取りなどの寸法を計測・記入した見取図は詳細で正確な状況の分析に有用である。例えば、「乳児がベビーベッドから落ちてけがをした」という保護者の説明とけがの程度や形態につじつまが合わない場合、ベビーベッドの高さを記録しておくことによって、その高さから落ちても実際に生じたけがの程度にはならないことなどの根拠の一つとなる。特に身体的虐待が起こった状況の記録には有用である。
(4)写真・音声録音・ビデオテープ録画
 フィルムによる撮影を基本とするが、露光の失敗、フィルム紛失などに対処するため、フィルムによるものとポラロイドによるものの両方で撮影する。また日付・時間が入るタイプのものを使用する。また、必要な場合は、テープレコーダーやビデオレコーダーにより音声や画像を記録しておく。
 後になって、裁判手続きを進める場合、写真等は裁判官に虐待の状況を理解してもらうために極めて有効である。医師がレントゲン写真等を撮影しカルテに添付したり図示するように、身体的虐待の場合の受傷の状況、ネグレクトの場合の生活状況、心理的虐待の場合の児童の表情などを、虐待状況の把握に必要な程度において、写真等を撮影し児童記録に添付するなどの方法により具体的、客観的に記録しておくべきである。
 これは、身体的症状等は直ちに保全しておかなければ時間の経過、治療の実施などで変化するおそれがあり、また、子どもに対する虐待が疑われる場合に受傷の状況を記録しておくことは、子どもの利益に沿った処遇を進める上でも、児童相談所のとった措置に対する不服申立に応じる上でも、その必要性・相当性から許容されるものである。

(3) 調査に際しての留意事項
(1)保護者への十分な説明
調査に当たっては、子どもと保護者に対し下記の点について十分に、また、繰り返し説明し理解を得るようにする。
ア.職務に関する説明
・児童相談所および児童福祉司等職員の職務に関して説明する。
・守秘義務に関して説明する。
イ.調査対象事項に関する説明
・今回の調査の該当事項とその必要性について説明する。
ウ.子どもの権利に関する説明
・法的に保障されている子どもの権利とそれを擁護するために児童相談所が取り得る措置について説明する。
(2)対象者の権利・プライバシーへの配慮
調査において対象者の権利・プライバシーを侵さないよう十分に配慮する。
ア.子どもの身体的状況を把握する際は本人の意思確認を経た上で家の個室、機関の診察室、面接室などで調査の心理的なダメージを最小限にするよう行う。
イ.衣服を脱いで確認する部位については、小学生以上の場合、医師の診断を除き同性の職員により行うようにする。
ウ.保護者の聴き取りにおいても第三者がいるような場面・場所では行ってはならない。
エ.保護者の不在時に緊急に調査や保護を行った場合、調査や保護の事実と法的根拠、主旨、不服申立て手続の教示(保護を行った場合)および連絡先等を明記した文書を分かりやすい場所に提示しておく。
 その際、玄関の中など、帰宅後すぐに目につくところであると同時に近隣の住民など第三者の目に触れないところに置くべきである。やむをえない場合を除いて、不用意に児童相談所の名称が入った封筒を玄関のドアに貼り付けたりしない。
(3)調査技法の柔軟な適用
 虐待を行っている保護者に対し、当該行為を「虐待」として宣告してから調査をする場合と「養育に関する相談」として調査を始める場合では進め方が異なるが、いずれの方法をとるかあらかじめ検討してから調査を始めることが肝要である。
 また、初回において聴取する事項と2回目、3回目で聴取する事項は、保護者のパーソナリティーをはじめとする多様な状況と調査者の技法や力量などでケースバイケースであり、聴取事項や順番を固定化して考えたり、無理に初回ですべてを把握するのはかえって効果的な援助を阻害することになることに十分留意して調査を進めたい。

(4) 調査で把握・確認すべき事項
 他の相談事例と同様の調査事項に加え、虐待事例に必要な事項について下記を参考に調査を進める。
(1)通告者から通告時の状況を確認する。
(2)子どもと保護者の関係の把握
ア. 法的関係
・戸籍謄本の請求により、親権者、養子縁組等の法的関係を把握する。
・住民票(外国人登録票)の請求により、居所確認、同居家族関係等を把握する。
イ. 対人関係
・子どもと保護者との人間関係の全体像を把握する。
(3)子どもの身体・心理・生活環境の把握
ア. 子どもの身体的状況
写真、ビデオ等の活用も含め傷害部位及びその状況を具体的に記録する。
イ. 子どもの心理的状況
心理的影響が表情や行動に表れている可能性があるので子どもの全体を写真・ビデオ等により記録に残すとともに、心理的状況を克明に記録する。
ウ. 子どもが置かれている生活環境
衣食住等の生活環境を写真・ビデオ等の活用も含め克明に記録する。
(4) 保健所、市町村保健センター、学校、保育所、民生・児童委員(主任児童委員)等関係機関からの情報収集
・これまでの生活状況
・過去の関係機関や諸制度の利用状況
・通所・通学先での状況

(5) 虐待の状況と生活環境の評価
 虐待の状況と生活環境を評価するために、他の相談種別の事例で調査する項目に加え、表3-1の事項は最低限把握する。

表3-1 子ども虐待評価チェックリスト (確認できる事実および疑われる事項)
子どもの様子(安全の確認) 評 価
不自然に子どもが保護者に密着している  
子どもが保護者を怖がっている  
子どもの緊張が高い  
体重・身長が著しく年齢相応でない  
年齢不相応な性的な興味関心・言動がある  
年齢不相応な行儀の良さなど過度のしつけの影響が見られる  
子どもに無表情・凍りついた凝視が見られる  
子どもと保護者の視線がほとんど合わない  
子どもの言動が乱暴  
総合的な医学的診断による所見  
保護者の様子 評 価
子どもが受けた外傷や状況と保護者の説明につじつまが合わない  
調査に対して著しく拒否的である  
保護者が「死にたい」「殺したい」「心中したい」などと言う  
保護者が子どもの養育に関して拒否的  
保護者が子どもの養育に関して無関心  
泣いてもあやさない  
絶え間なく子どもを叱る・罵る  
保護者が虐待を認めない  
保護者が環境を改善するつもりがない  
保護者がアルコール・薬物依存症である  
保護者が精神的な問題で診断・治療を受けている  
保護者が医療的な援助に拒否的  
保護者が医療的な援助に無関心  
保護者に働く意志がない  
生活環境 評 価
家庭内が著しく乱れている  
家庭内が著しく不衛生である  
不自然な転居歴がある  
家族・子どもの所在がわからなくなる  
過去に虐待歴がある  
家庭内の著しい不和・対立がある  
経済状態が著しく不安定  
子どもの状況をモニタリングする社会資源の可能性  

(6) 調査において有用な身体医学的知識
 身体医学的所見は虐待された子どもの治療に必要なだけではなく、虐待の証明にも有用である。以下に虐待を強く疑わせる身体的所見を挙げたが、このような所見が同時に複数存在したり、何回も繰り返し存在する時には虐待の可能性は高まる。身体医学的所見は専門家でないと判断に苦しむこともある。小児病院や大学病院など比較的分化された専門家のいる病院と相談できる体制を取っておくことが望ましい。
(1)皮膚所見
 皮膚所見は専門家でなくとも気付くことのできる所見である。しかし、その程度や時期などを特定するためには専門家に依頼して診察をしてもらうことも必要となる。以下に虐待を強く疑わせる皮膚所見の例を挙げる。
ア.噛み跡:噛み跡は虐待を強く疑わせる皮膚所見である。歯の形に添った傷や内出血が見られる。
イ.道具によると見られる傷痕や内出血:直線的な傷痕やある形の傷痕が複数見られる時には道具による身体的虐待が強く疑われる。事故によってはそのような傷になることはほとんどないからである。
ウ.柔らかい組織の内出血:一般に子どもが転んで起きる内出血は、膝や肘などの硬い組織が主である。腹部や大腿内側といった柔らかい組織にある傷や内出血が複数・頻回にある時には殴る、強くつかんで持ち上げる、などといった虐待が比較的強く疑われる。
エ.皮下出血を伴う抜毛:髪の毛を強く引っ張って引きずったり持ち上げようとすると、一度に多くの髪が引っ張られ、皮下の血管が破れて皮下に出血が起きる。一本ずつ抜く心理的な抜毛ではこのような出血はほとんど見られない。したがって、皮下出血を伴う抜毛がある時には虐待が強く疑われる。
オ.顔面の側部の傷:耳や頬やこめかみのあたりの傷は比較的強く虐待を疑わせる。眼周囲の内出血も殴られた結果であることが多い。また、乳幼児の唇の傷は直接殴ったり、食事中にスプーンなどで傷つけられた時に生じることが多い。子どもがハイハイをする前の唇の傷や、他の傷との合併は虐待を強く疑わせる。
カ.首を絞めた跡:首に内出血がある時には、首を絞められた可能性を疑う。線状の出血などはその可能性が高い。また、実際に強く首を絞められると、顔が浮腫状になっていることもある。
キ.境界鮮明な火傷の跡:上肢のグローブ状の火傷、下肢のソックス状の火傷、アイロンの跡、など境界が鮮明な火傷は虐待を強く疑わせる。
ク.上記の皮膚所見が複数種類見られる:一つであれば事故の可能性も全く否定はできなくても、複数重なることは虐待の疑いが飛躍的に強くなる。
(2)頭蓋内障害
ア. 歩く前の乳児の頭蓋内出血:虐待の頻度が高い。特に硬膜下血腫が起きることが多い。
イ. 乳児ゆさぶり症候群(Shaken Baby Syndrome):2歳以下の子どもは前後に首が揺さぶられることで、頭蓋内出血や脳の断裂を起こすことがある。この場合には眼底の出血を伴うことが多いので、眼科的診察が必要となる。虐待が疑われている保護者が子どもを激しく揺さぶっていることが目撃され、大事に至る前に分離に踏み切ることができた事例もある。
(3)眼科的所見
外傷性眼障害:眼部への強い殴打は水晶体脱臼の原因になったり、顔への頻回な殴打(それほど強くなくても)が白内障の原因になったりする。自傷行為のない子どもに外傷性眼障害がある時には虐待が強く疑われる。また、顔面の外傷が見られる時には、必ず眼科的な診察が必要である。
(4)耳鼻科的所見
鼓膜破裂:鼓膜破裂は強く殴られた時に起きる。虐待が強く疑われる。
鼻中隔骨折:やはり外傷によって起きる。転んで強く顔面を打ったという既往がない時には虐待が疑われる。顔面を殴られたことが疑われる時には耳鼻科受診が必要である。
(5)骨 折
 骨折は古くから虐待の所見として重要とされてきた。いろいろな治癒過程の複数の骨折跡が見られることは強く虐待が疑われる。また、一つ一つの骨折も、どのような状況で起きた骨折かを示唆する。それが保護者の説明と合わない時には強く虐待が疑われる。どのような検査を行い、その所見をどのように判断するかは専門家の意見が必要である。身体的な虐待の場合は、小児病院や大学病院などの放射線科の医師に相談すべきである。
(6)内臓出血
 腹部内臓の出血:腹腔内出血や腸管内出血などは外傷性で起きることがある。
ECHOやCTの検査によって、外傷性の可能性が判断できる。
(7)溺 水
 歩行開始前の乳児の溺水は虐待を強く疑わせる。また、幼児期であっても子どもを安全に護る監視を怠ったネグレクトの可能性もある。
(8)発育障害
 基礎疾患のない低身長・低体重・低栄養などの医学的所見はネグレクトを疑わせる。表情の欠如などの他の症状がある時には特に強く疑わなければならない。
(9)婦人科的所見
 性的虐待の場合には、妊娠の有無、性器の診察や性感染症の検査が必要である。性器の外傷や性感染症の存在は性的虐待を強く示唆する。


4.立入調査の要否をどう判断するか
 立入調査の行政権限発動については、従来、児童相談所は非常に慎重であった。それには一体どのような理由があるのだろうか。そして、もしその理由に正当な根拠があるのだとしたら、実務において本当に活用することができるのであろうか。児童虐待防止法の施行に伴い、今後それを積極的に活用するとすれば、一体どのようなときにその要否を判断することが妥当であるのだろうか。

(1) 立入調査の法的根拠
 立入調査については、児童福祉法第29条において、都道府県知事(委任により児童相談所長)が児童の居所等への立入調査をさせることができることを規定していた。
 しかし、従来主に次のような理由から行政権限の発動としての立入調査に慎重であり、十分活用されてこなかった。
(1)初期の調査や介入を行政権限に基づいて行うと、保護者との摩擦が大きくなり後のソーシャルワーク援助において支障になる。
(2)児童福祉法第29条の立入調査権の規定は、前条(第28条)をとることを前提にしており、法第28条の申立てを行うかどうか判断が立ちがたい状態での権限発動はしにくい規定になっている。
(3)立入調査の実際的効力に疑問があり、権限を発動することによって相手がそれに応じてくれるかどうか分からない以上、他の何らかの工夫によって調査や介入を行う方がより現実的な場合がある。
 これらの理由については、従来法解釈として、虐待等の事実の蓋然性、児童の保護の緊急性、保護者の協力の程度などを総合的に勘案して、柔軟に運用するよう「児童虐待等に関する児童福祉法の適切な運用について」(平成9年6月20日付厚生省児童家庭局長通知)、「児童虐待に関し緊急に対応すべき事項について」(平成10年3月31日付厚生省児童家庭局企画課長通知)等により要請し、本書において具体的解説を行ってきたところである。
 今回、児童虐待防止法第9条第1項において、虐待のおそれがあると認めるときの立入調査が法律上の規定として明記されたこと、及び第10条に警察官の援助が規定されたことにより、児童相談所における対応が今まで以上に円滑に行われることとなった。是非本条等を活用し、立入調査を効果的に行うべきである。
 また、児童虐待防止法第9条第2項において、第1項に基づく調査質問を児童福祉法第29条の規定による調査質問と見なし、児童福祉法第62条第1項の規定を適用することにより、正当な理由なくしてこれを拒み、妨げ、若しくは忌避し、又は質問に答弁しなかったり、若しくは虚偽の答弁をし、又は児童に答弁させなかったり、若しくは虚偽の答弁をさせたりした者は、20万円以下の罰金に処せられることとされており、当該規定も必要に応じて活用が図られるべきである。

(2) 立入調査の制約
 児童虐待防止法の施行により、立入調査が以前より格段に活用しやすくなったことは事実であるが、併せて、実施上の制約があることも十分踏まえた上で、立入調査の要否や方法、あるいは警察等の関係機関への援助依頼のタイミングや内容等を判断する必要があることも当然である。
 警察官は警察法、警察官職務執行法等の法律により与えられている任務と権限に基づいた措置を行うことが基本であるということは承知しておく必要がある。
 また、保護者が立入調査を拒否し施錠してドアを開けない場合、鍵やドアを壊して立ち入ることを可能とする法律の条文がない以上、当然にできるとはみなされていないということも理解しておかなければならない。
 正当な理由なく立入調査を拒否した保護者等は、児童福祉法により罰則規定が設けられているが、それはあくまで事後的な制裁であって、その場で何らかの強制的執行をみとめる趣旨ではない。
 したがって、立入調査権を発動することによって無条件に家屋内に立ち入れると思うのは早計であって、立入調査が失敗に終わらないための方法、例えば管理人によるあらかじめの合鍵の入手や部屋の出入りの時間帯・タイミングのキャッチ、あるいはドアを確実に開けてもらうための手段や人物の介在など、かなり綿密に計画を立てた上で実行しなければならない。また、ときには立入調査権とは別次元の判断、つまり事態の緊迫度によっては正当防衛等として許される場合にあたるのではないかとの判断や行動が必要になる可能性があることも心得ておくべきであろう。

(3) 立入調査の要否の判断
 ソーシャルワーク的アプローチが効果を発揮しそうなときや、知人・親族・地域関係者等が仲介する形でコンタクトが得られると判断されるときは、その方法を優先する方が相手にとり摩擦が少ないしより実務的である。
 しかし、それらの方法が困難で保護者等に接近する手立てがなく、かつ子どもの安否が気遣われるようなときには、立入調査権の発動を決断しなければならない。ただ、そのような場合であっても、第3章2で例示されている各種の接近方法とどちらを採用すべきかは、そのときのタイミングや状況、また関係者の協力などを総合的に勘案して決めることになるだろう。
 一般的に立入調査が必要と判断されるのは以下のような場合である。
(1)学校に行かせないなど、子どもの姿が長期にわたって確認できず、また保護者が関係機関の呼び出しや訪問にも応じないため、接近の手がかりを得ることが困難であるとき。
(2)子どもが室内において物理的、強制的に拘束されていると判断されるような事態があるとき。
(3)何らかの団体や組織、あるいは個人が、子どもの福祉に反するような状況下で子どもを生活させたり、働かせたり、管理していると判断されるとき。
(4)過去に虐待歴や援助の経過があるなど、虐待の蓋然性が高いにもかかわらず、保護者が訪問者に子どもを会わせないなど非協力的な態度に終始しているとき。
(5)子どもの不自然な姿、けが、栄養不良、泣き声などが目撃されたり、確認されているにもかかわらず、保護者が他者の関わりに拒否的で接触そのものができないとき。
(6)入院や医療的手立てが必要な子どもを保護者が無理に連れ帰り、屋内に引きこもってしまっているようなとき。
(7)施設や里親、あるいはしかるべき監護者等から子どもが強引に引き取られ、保護者による加害や子どもの安全が懸念されるようなとき。
(8)保護者の言動や精神状態が不安定で、一緒にいる子どもの安否が懸念されるような事態にあるとき。
(9)家族全体が閉鎖的、孤立的な生活状況にあり、子どもの生活実態の把握が必要と判断されるようなとき。
(10)その他、虐待の蓋然性が高いと判断されたり、子どもの権利や、福祉、発達上問題があると推定されるにもかかわらず、保護者が拒否的で実態の把握や子どもの保護が困難であるとき。
[事例]
 精神的に不安定な母親が子どもを囲い込み、母子でマンションに閉じこもってしまった事例。閉じこもりは3年以上にわたって続き、子どもの安否が全く確認できない状態に陥ってしまった。学校や地域関係者が頻繁に訪問するが応答がなく、児童相談所の働きかけにも拒否的で接触の手がかりがつかめないままに推移。親族の協力も得られず事態が膠着化したため、打開を求めて在宅のまま家庭裁判所へ法第28条の申立てを行う。保護者は裁判所の調査にも応じないため、家庭裁判所は申立てを承認。児童相談所は承認による施設措置を実行するため、児童虐待防止法第10条に基づく警察官の援助を得て立入調査を行う。ドアは施錠されていたため、保護者の出入りのタイミングを待ってドアの解放を確保。保護者とは多少もみあいになるが、立入調査票を提示し子どもの一時保護を宣告する。保護者の抵抗があったため警察の協力も得て児童相談所に同行し、子どもの一時保護を実行する。


5.立入調査に当たっての留意点は何か
(1) 立入調査の手続上の留意点
 立入調査を円滑に実施するために、以下の2点にまず留意する必要がある。
(1)身分証明証の交付
 立入調査に携行する身分証明証については、個々の事例について、その都度作成交付する必要がなく、民生・児童委員(主任児童委員)または児童の福祉に関する事務に従事する吏員が、その職に就いた時に交付し、平素携帯させてよい旨の通知(昭和23年8月23日付児発第554号 厚生省児童局長通知)が出されているが、実情として証明証が交付されていないところも見受けられる。緊急事態に備えて、あらかじめ交付しておく必要がある。
(2)都道府県知事の指示について
 立入調査は都道府県知事の指示の下に実施することと規定されているが、自治体レベルの施行規則等において、児童相談所長に権限が委任されているところもある。権限が委任されていない児童相談所においては、立入調査の必要性が認められたら速やかに、決裁を行う。通常、決裁には時間がかかるため、あらかじめ権限が委任されるように、規則等を整備しておくべきである。

(2) 立入調査の執行にあたる職員
 立入調査には予測される事態に備え、調査にあたる職員を複数選任する。児童福祉司、相談員、スーパーバイザー等を基本として、子どもの心身の状態や性別に配慮し、保護や入院の必要性を的確に診断することのできる医師(小児科医、児童精神科医等)や保健婦の同行も有効である。
 また、これら児童相談所職員のほか、福祉事務所の社会福祉主事、都道府県または市町村において直接児童福祉に関する事務に従事する吏員も立入調査の執行に当たることができる。

(3) 立入調査における関係機関との連携
(1)警察との連携
 従来から、児童相談所長等による立入調査や一時保護に際して、必要な場合は事前協議の上警察官による支援が行われていたところであるが、児童虐待防止法第10条において警察官の援助についての規定が設けられた。
 執行に当たって、保護者の妨害や現に児童が虐待されているおそれがある場合などであって児童相談所長等のみでは立入調査が困難であると考えられる場合には、警察官の援助を依頼することが望ましい。立入調査等は児童相談所がその専門的知識に基づき、主体的に実施するものであり、警察官の任務ではない。また、警察官は、児童相談所長等の権限行使の補助者ではない。しかし、立入調査等の執行に際して援助の必要があると認めるときは、警察官の援助を求め、法に基づき立入調査による安全の確認、必要な場合の一時保護等を適切に行う必要がある。警察官は、立入調査においては、不測の事態に備えて児童相談所長等に同行し現場付近で待機するなどの援助を行うことが多いと考えられるが、必要に応じて警察官職務執行法、刑事訴訟法等に基づき必要な措置を取る。援助を求められた警察官は、具体的には
1. 職務執行の現場に臨場したり、現場付近で待機したり、状況により児童相談所長等と一緒に立ち入ること
2. 保護者等が暴行、脅迫等により職務執行を妨げようとする場合や児童への加害行為が現に行われようとする場合等において、警察官職務執行法第5条に基づき警告を発し又は行為を制止し、あるいは同法第6条第1項に基づき住居等に立ち入ること
3. 現に犯罪に当たる行為が行われている場合に刑事訴訟法第213条に基づき現行犯として逮捕するなどの検挙措置を講じることなどの措置を取ることが考えられる。
なお、上記2.の警察官職務執行法第6条第1項に基づく立入りについては、立入りの際に、必要があれば、社会通念上相当と認められる範囲内で、鍵を破壊する、妨害する者を排除するなどの実力を行使することもできる。また、上記3.の現行犯逮捕において、必要があれば認められる住居等への立入り(刑事訴訟法第220条第1項第1号)についても同様である。
○警察官の援助を「求める」とは、児童相談所長等から警察官に援助を求めることであるが、行政組織を一体的に運営し、児童の保護の万全を期する観点から、緊急の場合を除き、文書(別添「警察への援助依頼様式」参照)により事前に組織上の責任者から責任者に対して行うことを原則とする。
なお、緊急の場合においては、事後に上記援助依頼様式を参考に、文書により警察署長宛送付する。
 援助の依頼に係る警察側の窓口は、少年部門(警察署生活安全課等)である。
 依頼に際して具体的には、
1. 保護者、被害児童その他の家族、同居人等の状況
2. 保護者の性格、行動特徴
3. 虐待の態様及び被害児童の状況
などについて、可能な範囲で情報を共有しなければならない。
 その上で、児童の保護を最優先課題として、児童相談所と警察との間の適切な連携と役割の分担が実現されるように、必要な警察官の援助の内容やその時期、体制等について具体的に事前協議を行う必要がある。
 事前協議においては、特に、児童相談所と警察の持つ情報の突き合わせなどを確実に行い、状況判断に誤りのないようにしなければならない。
○児童の安全の確認、一時保護又は立入調査等の執行に際して「援助の必要があると認めるとき」とは、保護者又は第三者から物理的その他の手段による抵抗を受けるおそれがある場合、現に児童が虐待されているおそれがある場合などであって、児童相談所長等だけでは職務執行をすることが困難なため、警察官の援助を必要とする場合をいう。
 なお、児童相談所長等からの援助の求めの有無にかかわらず、警察が児童の保護等のため必要と認める場合は、所要の警察上の措置をとることがあり得ることは言うまでもない。
<参考>
警察官職務執行法
<第5条 >(犯罪の予防及び制止)
警察官は、犯罪がまさに行われようとするのを認めたときは、その予防のため関係者に必要な警告を発し、又、もしその行為により人の生命若しくは身体に危害が及び、又は財産に重大な損害を受ける虞があって、急を要する場合においては、その行為を制止することができる。
<第6条>(立入)
1 警察官は、前二条に規定する危険な事態が発生し、人の生命、身体又は財産に対し危害が切迫した場合において、その危害を予防し、損害の拡大を防ぎ、又は被害者を救助するため、已むを得ないと認めるときは、合理的に必要と判断される程度において他人の土地、建物又は船車の中に立ち入ることができる。 (以下省略)
刑事訴訟法
<第212条>
(1) 現に罪を行い、又は現に罪を行い終ったものを現行犯人とする。
(2) 左の各号の一にあたる者が、罪を行い終ってから間がないと明らかに認められるときは、これを現行犯人とみなす。
一 犯人として追呼されているとき。
二 贓物又は明らかに犯罪の用に供したと思われる凶器その他の物を所持しているとき。
三 身体又は被服に犯罪の顕著な証跡があるとき。
四 誰何されて逃走しようとするとき。
<第213条>
現行犯人は、何人でも、逮捕状なくしてこれを逮捕することができる。
<第220条>
検察官、検察事務官又は司法警察職員は、第19条(逮捕状による逮捕)の規定により被疑者を逮捕する場合又は現行犯人を逮捕する場合において必要があるときは、左の処分をすることができる。210条(緊急逮捕)の規定により被疑者を逮捕する場合において必要があるときも、同様である。
一 人の住居又は人の看守する邸宅、建造物若しくは船舶内に入り被疑者の捜索をすること。
二 逮捕の現場で差押、捜索又は検証をすること。
(以下省略)
(2) その他の関係者との連携
 保護者に精神的な疾患が疑われる場合は、保健所と連携し、精神保健福祉相談員の同行が考えられる。同行しない場合においても、事前の情報によっては、入院を要する事態も想定し、指定医診察や入院先の確保などの手配をあらかじめ行っておく必要がある。
 その他、福祉事務所の職員や民生・児童委員(主任児童委員)など、保護者や家族との関係において有効であると思われる人を同行することも可能である。あるいはまた、子どもとなじみのある保育所の保育士や、学校の教師等が同行するか、保護後に備えて待機することで、子どもを安心させたり、落ち着かせたりする方法も考えられる。更には、協力関係にある弁護士の同行もありうる。
 ただ、いずれの場合も、事前に周到な打ち合わせを行い、種々の事態を想定した柔軟な役割分担を決めておくことが必要である。

警察への援助依頼様式

(4) 立入調査の執行手順
(1)立入調査を事前に相手に知らせるべきか
 立入調査はその必要性が認められる状況からして、それまでにソーシャルワーク的アプローチが効を奏さなかったり、緊急逼迫している場合等に執行されることを考慮すると、事前に通知することは適当でない。相手が事前に察知することにより、鍵を厳重にして調査を妨げたり、虐待の事実を覆い隠そうとするような結果をもたらせば、調査の目的を達成することができない。
(2)どのようなタイミングで執行するか
 執行のタイミングは非常に重要なポイントである。個々の事例の入念な検討、関係者の協議に基づく判断によることとなる。比較的緊急性がないと判断される場合は、法文の規定とは順序が逆になるかもしれないが、在宅により児童福祉法第28条の承認審判を待って行う方法もある。
 虐待を行っている保護者と子どもが、共に在宅しているときと、保護者が外出して子どものみ在宅しているときの、いずれが良いのかも慎重に検討を要する。仮に立入調査によって逆上した保護者が子どもに危害を加えるおそれがあるようなときは、警察官が同行するとしても、なるべく同室時を避け、子どもの身柄の安全な確保を先行させることが適切であろう。
(3)拒否的な事例に対する執行手順
 正攻法で玄関から呼びかけても応じそうにない場合は、いろいろな工夫が必要である。例えば、親族などの協力を得て、玄関を開けさせたり、家主や管理人に合鍵を借りる方法がある。居住者の権利を理由に、貸すことを渋る家主等もあろうが、法の趣旨を説明し、子どもの権利と福祉を守るための理解を求め、協力を得る必要がある。時には子どもを救済するために、やむなく錠などを壊さなければならない事態が生じることも予測される。法第29条の解釈としてそれらの行為が法的に当然可能であるとは容認されにくいが、子どもの生命や権利侵害の状況によれば、緊急避難の判断が必要なこともあり、実際に現場における踏み込んだ判断が、良い結果をもたらした事例もある。
(4)立入調査時の対応と留意点
 まず相手に調査は法律に基づいた行政行為であることを説明し、冷静な対応を心がける必要がある。その上で、調査者が何を目的とし、どういうことを確認したいのか、なぜ今回の立入調査を行ったのかなどを誠意をもって説明しなければならない。また子どもに対しても、突然の訪問の意図を年齢に応じて、分かりやすく説明し、安心感を与える配慮が必要であろう。
ア.保護についての的確な判断と実行
 子どもの身体的な外傷の有無やその程度、発育状況、保護者や大人に対する態度、脅えの有無などを観察すると共に、できれば同行の医師による診断的チェックを受けることが望ましい。可能であれば、子ども自身の気持ちを聴取した方が良いが、その時は保護者から離れた場所で聴取する必要がある。
 子どもの養育環境を判断するためには、室内の様子に注意をはらうことも重要で、極めて不衛生・乱雑であるなど、特徴的な様相があれば、写真の撮影をしておくと、後に法第28条の申立ての挙証資料として有効である。
 保護者の態度、子どもの心身の状態、室内の様子等総合的に判断して、子どもに保護の必要性が認められれば、一時保護をしなければならないことを伝え、多少摩擦があったとしても実行に踏み切らなければならない。課題を残したままで一時保護がなされないと、次の接触が困難になったり、子どもの状態がより悪くなることを銘記すべきである。その後、状況によって、保護者に対して法第28条の申立て等の法的対応を行う旨を説明したり、子どもの状態によっては入院の措置を採るなどの対応が必要である。
イ.一時保護が必要でないと判断された時
 差し当たって、保護の必要が認められない時は、関係者の不安が今回の調査で解消されてよかったということを率直に保護者に伝え、突然の立入調査で驚かせたことに対する相手の心情に配慮したソーシャルワーク的フォローを十分行っておくことが大切である。加えて、各機関のサービス機能の説明や、社会から孤立的になりすぎた場合、子どもの安全や健康の確認が社会的に要請されることになるという仕組みについても、十分理解を求めるようにしなければならない。

(5) 調査記録の作成と関係書類等の整備
 立入調査を執行した後は、調査記録の作成を行う必要がある。とりわけ、家庭裁判所における審判が予定される事例については、詳細な記録が求められる。子ども、保護者の両方と室内の様子について、前項4④ア. に記したチェックポイントを中心に、具体的で綿密な記録を作成する。
 関係書類については、子どもの外傷の状況を撮影した写真や、医師の診断書、調査に同行した関係者による記録などの入手、保存に努め、上記記録と共に整備しておくことが大切である。


6.子どもからの事実確認(面 接・観察)はどのように行うか
(1) 虐待を行っている(または、行っていると思われる)保護者に内密で面 接をする場合
 「子どもがオドオドしていて、時々なぐられたようなあざがある」とか「家に帰りたがらない」等虐待が疑われる特徴が見られるが、はっきり断定出来ないという相談が、保育所や学校等から入ることがある。
 このような場合、「子どもが育てにくい性格なのではないか。保護者が子育てに困っているのではないか」と話しかけてもらい、それをきっかけに相談を始めるという方法が一番自然である。しかし、保護者が、「何の問題もない」「家庭のことに口出しをしてほしくない」と言ったり、子どもも虐待を否定するなど、状況がはっきりしないようなときには、保護者に知らせずに子どもの状況を確認せざるを得ないことになる。
(1)保護者も子どもも虐待を否定する場合(子どもが意思表示できない場合も含む)
教職員等に子どもの様子を細かく観察してもらい、言動やあざ、けがの状態を記録しておいてもらうことが大切である(児童福祉法第28条の申立て等のときに重要な資料になる)。児童相談所としては、その他の情報(過去の経過、病院や近隣等からの情報)と合わせて検討し、関わりのタイミングや方法などを工夫していくことになる。
(2)保護者は否定するが、子どもが虐待を訴える場合
ア.教職員等に子どもの気持ちを受け止めてもらいながら、児童相談所についてできるだけ具体的に説明をしてもらう。子どもが希望すれば保護者に内密で会うことが出来ることも話してもらい、学校等子どもの希望する場所で会う。ただし、子どもが児童相談所職員と会ったことを保護者に秘密にできそうでなかったり、秘密を持つことがひどく負担になるときは勧めないほうがよい。その場合は、必要な情報を教職員等を通 じて間接的に伝えていく方がベターである。
イ.子どもは保護者から虐待について他人に話さないようにというメッセージを受けていることが多い。したがって、人に話すことによって不安になったり、ときには恐怖心が沸いてくる子どももあるので、無理に話を引き出すよりも子どもの気持ちを受け止めながら、子どものぺースで話を聞くように心がける方がよい。
ウ.児童相談所職員からは、児童相談所の機能(継続的に相談を受けることができること、保護者の同意がなくても一時保護ができること、保護者が同意しなくても家庭裁判所に申立てをして施設に入所できること等)について、子どもの年齢に応じた話し方で、具体的なイメージが伝わるようていねいに説明を行う。
エ.できれば、次に会う場所や方法を決めておく。また、困ったときには身近に駆け込めるところを子どもと一緒に考えて決めておく。この場合には、当該関係者や関係機関にはある程度の事情を説明し、子どもが保護を求めて来れば児童相談所に連絡してくれるよう依頼し、相談に対する協力体制を作っておくことが大切である。

(2) 保護者が児童相談所の関わりを認めて、子どもと面 接する場合
 保護者が児童福祉司等の関わりを認めていると、子どもは比較的安心して虐待の事実について話すことができるが、「自分が悪かったからではないか」という自責の念や不安等は持っている。それを和らげながら聞き出すことが大切である。また、子どもの面 接者と保護者の面接者は出来る限り別々にし、それぞれが秘密を守られているという安心感を持てるように配慮することが大切である。
(1)事実を確認しながら、どのようなメカニズムで虐待が起こったのかを確認する
 嘘をつく、約束を守らないということで虐待を受けることが多いが、どうして嘘をついたのか、約束を守らなかったのかをていねいに聞くと、子どもの年齢に不相応な約束であったり、他の子どもたちと比べてかなり厳しい規制であったりする。それが保護者の意識的、または無意識的な押付けとなり、子ども自身が自主的にした約束とされていることが多い。虐待が起こる前後の脈絡を確認しながら保護者側の問題であることにも気付かせて、子どもの自責の念を少しでも和らげていくことが大切である。嫌なこと、してほしくないことを話すことは悪いことではないと伝え、否定された自己の感情を肯定的に受け止められるように支える。そして、虐待を受けたことについて話し合える場所として児童相談所があることを分かってもらう。
(2)子どもの安全に絶えず注意する
在宅の子どもに関わる場合、児童相談所職員が子どもの気持ちを支持すると、子どもは安心して保護者への攻撃性や不信、怒りを出してくる場合がある。保護者と児童相談所職員の信頼関係が生じていて共に協力して受け止めて行くことができるときはよいが、そうでないときは、反対に保護者の怒りを引き出してしまい、虐待がひどくなったり突発的暴力となって表れることがある。危険が予想されるときは、タイミングを見て一時保護等を考える必要がある。

(3) 子どもを一時保護(または一時保護委託)した上で面 接する場合
(1)子どもの虐待が疑われるがはっきりせず、他の理由(子どもの問題行動、保護者の育児負担の軽減等)で一時保護した場合
 生活場面で過食や他児への乱暴やいじめがあるか、極端に甘えたり警戒したりしていないか等、被虐待児にありがちな行動の特徴を観察する。虐待を受けている子どもの中には、一時保護の間に身長や体重がぐっと伸びる子もある(キャッチアップ現象)。
 観察や心理検査の結果、虐待を受けている可能性が高ければ、子どもの安心感の確保を図る中で、徐々に日常の出来事の確認を行う。併せて保護者への愛着の有無や今後の生活の仕方など子どもの年齢や状況に応じた話を具体的に進めていかなければならない。
(2)虐待を受けていると断定できる場合や子どもが援助を求めてきて帰宅を拒否している場合
 子どもの安全確保を第一に考える。子どもは保護者に連れ戻される不安や恐怖感が和らげば虐待について話すことができるようになるが、安心感が持てないときは保護者の意向に左右されたり、違うことを言うことがある。このような時は責めたりせず、子どもが不安に思っていることをじっくり聞き、安心できるように対応することが大切である。また、子どもが希望しなければ、保護者の要求に応じて帰すことはないという保証を始めに与えておくことが重要である。
 この場合、法第28条等の法的対応の可能性が強いため、子どもの意向等については克明に記録にとどめておく。

(4) 性的虐待を受けた子どもからの事実確認について
 子どもが性的虐待を受けたことを話したとき「そんなはずはない」と否定されたり「おまえが誘ったのだろう」と責められて、逆に家庭にいづらくなったりすることも多い。そのため、子どもは性的虐待を話すことができなかったり、自分を汚いとか汚らわしいと強く嫌悪していることもある。面 接者はそういう心理状態を十分理解し、子どもが話したことをありのままに受け止めていくことが大切である。面 接者の方に、恥ずかしいとか性的な関係への嫌悪感や偏見があると子どもに伝わるため、面 接者の方も正確でしっかりとした知識を持つ必要がある。おおげさに反応したり、あなたはこんなにひどい取返しのつかないことをされたのだと、面 接者の感情や価値観の伴った説明をすることで、かえって子どもの不安をかきたて、自分はもうほかの子どもとは違ってしまったのだという自己否定につながることもあるので気を付けなくてはいけない。子どもが受けた性的虐待の内容を具体的に話し始めたとき、解剖学的名称が分からないこともあるため、絵や人形を使って聞く方が分かりやすいし、子どもにとってもその方が事実を伝えやすいということに留意しておく。


7.虐待の認識を保護者にどう持たせるか
(1) 子どもへの虐待が比較的軽い場合(ソーシャルワーク的アプローチ)
 虐待をしている保護者は「子どもの問題行動(盗癖、嘘をつく、自分の意見を言えない、盗み食いをする等)を治すためにやっていることだ」と自己を正当化したり、「自分の子どもなのでどうしようと勝手だ、他人にとやかく言われる筋合いはない」と他者の関与を否定する者も少なくない。
 虐待をしている保護者の生育歴を調べると、保護者自身も不遇な状況で育っている場合が非常に多い。このような状況を考慮に入れた上で、次の点に留意して対応することが大切である。
(1)援助者の基本的立場
ア.援助者自身が虐待をしている保護者への怒りや批判を持っていると言動に表れ、保護者は敏感にそれを感じ取ってしまうため、カウンセリングマインドを基本にして、どういうメカニズムで虐待が起こってきたのか、どうすればその悪循環を断ち切れるのかという観点で面接を進めることが大切である。
イ.保護者との関係をつけようと思うあまり、虐待を仕方のないことと認めてしまったり、援助者が保護者の代理的に行動することになるような要求を受け入れたりすると、援助者の方がコントロールされてしまうので注意が必要である。保護者が子どもに対してどう関われるのか、援助者はそれをどう応援していけるのかという立場をいつも忘れないようにしなくてはいけない。
(2)児童相談所の役割について理解を図る
 人に対する不信感が強く被害的にものごとを受け取りやすい保護者には、虐待の行為だけを取り上げて話し合っても親子関係の改善には結び付かず、保護者の苦労や苦しみを分からない人に話をしても仕方がないと関わりを拒否されてしまうことが多い。そのため、児童相談所が、保護者を責めたり育児に強制的に介入して親権を奪ってしまうために関わるのではないことを伝え、話し合える関係を作ることが大切である。その上で児童相談所の役割や機関として提供できるサービスなどについて理解が得られるよう誠意をもって話し合いを進めていく必要がある(ただし、子どもへの虐待がひどく、生命の危険がある場合は強制的な介入をせざるを得ないこともある)。
(3)行為の背景にある目的を確認する
 子どもに暴力を振るったり顔も見たくないほどの拒否感を感じたとき、どうしてそういう行動になったのか、子どもをどうしたくて行ったのか等、保護者の感情や意図を確認して行くと、「こうあってほしい」という保護者なりの子ども像が分かってくる。援助者はその子ども像について話し合い、今取っている方法は、「こうあってほしい」と思う子どもにするためにはあまり役に立たないのではないかと伝えていく。また、子どもを虐待しているときの気持ちを確認していくと、保護者の過去の体験と重なり合っていたり、イライラしていた自分の気持ちを子どもにぶつけていたことに気付き自分の行為への理解が深まることもある。
(4)虐待についての社会的判断を伝える
 穏やかに話ができるようであれば、今、保護者が取っている方法は社会的には虐待と考えられることであると説明する。虐待と言われるような方法でなく子育てができるよう応援していきたいという思いが伝わるようにしていく。保護者自身も多かれ少なかれ自分の養育の方法が他人から批判されるであろうことは分かっていることが多く、困っている面もあるため、援助者が責めずに関わると虐待を認めることもできるようになることが多い。虐待を保護者自身の問題として解決して行くためには、子どもの問題行動として関わりを始めても、時機をみて保護者による虐待であると気付かせることが大切である。
(5)親であることを強要しない
 親だから愛情を持って育てなければならないとか、良い子に育てなければいけないというような「常識」に振り回されて、顔も見たくないほど憎んでいる子どもを育てていて虐待してしまう事例もある。親であるから育てなければいけないのではなく、親であっても子育てを休憩したり、時には子どもを育てたい人に任せてみたり、養子に出すこともできるという提案をしてみるのも良い。一時保護等により子どもと離れることで、子育てについてゆっくり考える機会ができる場合があることを知ってもらうことも有益である。

(2) 子どもへの虐待がひどく、早期に分離を考えた方がよい場合
(行政介入によるアプローチ)
 子どもが病院に運び込まれるほどの大けがをしたり、生命に関わるほどの状況で放置されていたり、性的虐待を受けている場合等は、早急に一時保護につなぐことが大切である。このような場合、ソーシャルワーク的アプローチをしていると、保護者だからとか、しつけだからという理由を強引につけて連れ帰られたりする可能性が高く、子どもへの虐待がさらにひどくなったり、児童相談所が子どもと接触できない状態になってしまうこともある。そのため次の点に留意して対応する必要がある。
(1)子どもの身柄の安全が確保できている場合
 子どもの状態について、はっきりと保護者の虐待が原因であると伝える。強引に引取りを要求して来る保護者に対しては、一時保護は保護者の同意が必要でないことを伝える。この対処を行う場合には、児童福祉法第28条や法第33条の6の手続をとる心づもりをしておかなければならない。状況によっては家庭裁判所の判断を仰ぐと伝えることによって施設入所の同意に転ずる保護者も少なくないが、保護者との関わりが可能となればソーシャルワーク的援助を展開して行けばよい。
(2)子どもの身柄の安全が確保できていない場合
 子どもが保護者の元にいる間は、保護者を刺激するとさらに虐待がひどくなる可能性が高いため、虐待の認識を持たせることよりも子どもの身柄の保護を優先させた対処が必要である。保護者に何らかの納得のいく理由づけを行って一時保護につなげるか、児童相談所の職権による一時保護を行うべきである。


8.調査に当たって他機関との連携をどう図るか
(1) 連携と初期対応
 各機関が虐待事例について通告・相談を受けてからの流れは、以下のとおりである。
 なお当然④と⑥の間では、電話等での情報交換は行われる。

(2) 調査の位置
 上記の図から分かるように、最初に通告や相談を受けた機関の判断が大切になる。  子ども虐待の通告・相談を受けた機関は、
1. 情報の真偽や事実確認の調査
2. 事態の危険度や緊急度の判断
3. 介入や援助方法の検討(援助のシナリオ書き)
の三つを一連の作業として同時進行する必要がある。
 その中で調査に当たっては、
1. 虐待の事実と経過
2. 家族構成や家族の生活の背景
3. 介入や援助に当たって使える方法や人(キーパーソン)
などについての把握が必要である。ただ、完璧な調査のために手遅れになることは避けなければならない。
 そのため、軽易な事例と思われても、「一応このような情報があります」と児童相談所に通告しておく方がよい。

(3) 主な情報源
(1) 市町村
住民票から家族構成が、戸籍謄本から家族関係が分かる。また、個々の事例について様々な情報を持っている場合がある。
(2) 福祉事務所
生活保護の受給の有無のほか、各種手当等を受給していれば家族状況などが分かる場合もある。
(3) 保健婦・助産婦・看護婦
母親の妊娠中の状況、子どもについては新生児や乳幼児健診時の状況等が分かる。
(4) 民生・児童委員(主任児童委員)
地域に住んでいるので、近所の評判や家庭内の雰囲気、保護者の性格まで分かる場合がある。
(5) 子どもの通う学校や保育所、幼稚園等
日常的な子どもの様子や最近の変化等の基本的情報が得られる。
(6) きょうだいの通う学校等
きょうだいに対しての虐待の有無と、家族状況や最近の様子等が分かる場合がある。
(7) かかりつけの医者
慢性疾患があったり、日常的・継続的に診ている医者がいれば、病歴だけでなく家族内の様子も把握している場合がある。
(8) 救急医療を行っている病院等

(4) 事例検討会と援助活動チーム
 虐待の通告・相談を受けた後、各機関と連携して援助を行おうとすれば、それぞれが把握した情報の共有化並びに虐待であるかどうかの認識の統一を図るとともに、危険度の判断、援助に当たる各機関の役割分担等について話し合う必要がある。
 事例検討会は、調査を依頼した機関だけでなく、この家族の援助に関わるすべての機関に呼びかける。呼びかけ人は、機関同士が連携して援助することの必要性を感じた人(機関)でよく、場所は出来れば子どもが通っている学校や保育所等が良い。
 そして、この会議に参加した機関が、実質的に援助活動チームとして、連携した援助を行う主体となる。


9.児童相談所や施設の職員に対して暴力的な保護者にはどう対応すべきか
(1) 組織的対応をどう図るか
(1)複数の職員による対応
 原則として複数の職員で対応すべきである。困難な保護者への対応は、児童福祉司や施設の職員が単独で行うことを避け、複数の職員がその攻撃や難題の圧力を分散して受け止めることが重要である。非常事態に対しても対処できる体制をとりつつ、必要に応じて協議を交えながら、要求に対する組織的受け答えを行うように努めるべきである。
 やむをえず単独で対応する場合は、事務所に近い面接室を利用し、怒声が聞こえるなどの不穏な事態が生じたら、他の職員が様子をうかがったり、すかさず面接場面に立ち会うなどの応援体制を取れるよう、普段から心がけておかなければならない。相手の興奮を抑えるため、いったん面接を中断させた方がよいと判断される場合は、他の職員が電話等を口実に面接者を呼び出すなどの方法も実践的工夫のひとつである。
 また面接室においては、職員が必ず入り口に近い席に座り、あらかじめ灰皿等の凶器になりそうな物を撤去しておくなどの状況に対する細かい配慮も必要である。
 なお、感情的な保護者の挑発行為には決して乗らないように注意しなければならない。応じると、相手の駆け引きにはまってしまったり、抑制のきかない保護者の暴力をまともに受けてしまうことにもなりかねない。
 家庭訪問においても、複数で対応することを鉄則とすべきである。必ずしも児童相談所や施設の職員同士でなくとも、保健婦、児童委員等の関係者との同行も有効である。状況によれば、携帯電話の持参も、一定の時間に他の職員がコールしたり、非常時の通信手段にできるなどのメリットがある。
(2)保護者の性格や心情に配慮したチーム対応
 暴力的な言動を繰り返す保護者は、自らの被虐待体験や困難な生育歴等、複雑な背景を持っており、社会的に未熟で円滑な対人関係を持ちにくい人が多い。劣等感や対人不信が強く、物事を力関係で支配しようとする傾向があるが、対応の基本はやはり、カウンセリングマインドによる相手の心情に対する配慮である。これらの保護者は固有のこだわりを持っていることも多いので、その内容を見極めながら、一定相手の意図を酌む姿勢も示しつつ、現実的な解決方法を提案すると、案外援助者の期待する同意が得られることも少なくない。また、子どもに対する期待と現実の養育の難しさの狭間で虐待的状況に陥っている保護者の苦しい心情に理解を示すことにより、態度が軟化する場合もある。このような保護者の特性と心情を的確に把握するためには、児童福祉司の対応だけに終始することなく、心理職員や精神科医などによるチーム対応も積極的に取り入れて、より有効な対処を工夫すべきである。
(3)関係機関との連携と法的対応
 保護者の暴力的言動が限界を越え、機関内で対処することが困難と判断したら、速やかに警察に通報し、協力を求めることが望ましい。警察に協力を求めることによって、ソーシャルワーク関係が難しくなるとの考えもあるが、何をしても警察が介入することはないという印象を相手に与えることは、より暴力的言動を継続させる素地を作りやすくするものである。
子どもの面会や引渡しを強引に求める保護者に対しては、無理な要求が続けば、裁判所の判断を仰ぐことになることを率直に伝えた方がよい。また、問題の進捗や相手の特性によっては、弁護士との連携を図り、家庭裁判所に親権の制限や、場合によっては地方裁判所に面談禁止の仮処分を求めるなどの法的対応を行うことも視野に入れ、毅然とした対応を図ることが混乱を長引かせない最善の対処方法といえるであろう。
 また、精神的に不安定な保護者に対しては、保健所との連携を密にし、精神保健福祉相談員などの協力を得ながら、医療サイドによる働きかけを考慮することも重要である。

(2) 法的対応にはどのようなものがあるのか
 一時保護や施設入所に対して不満な保護者が児童相談所や施設の職員に暴力的な態度をとることは、少なくない。
(1)最も強力な法的対応は、警察等への告訴又は告発である。児童相談所の立入調査や一時保護の執行の際に警察の援助を求めることができるが、その際に児童相談所の職員に暴行・脅迫が向けられれば、公務執行妨害罪が成立する。児童相談所におしかけて暴行・脅迫行為をすれば威力業務妨害罪が成立する。また、施設におしかけて暴行・脅迫行為をすればやはり威力業務妨害罪が成立する。それ以外の場合でも児童相談所や施設の職員に暴行・傷害・脅迫がなされれば、暴行罪・傷害罪・脅迫罪が成立する。
虐待への対応については、児童相談所として毅然とした対応が求められるが、その一つとして犯罪行為が疑われる場合については、客観的事実に基づき告訴又は告発することも必要となる。
告訴又は告発に際しては、写真や録音テープなどの証拠をそろえることが重要である。
(2)地方裁判所に民事仮処分命令の申立てをするのも有効である。暴行・脅迫行為の禁止だけでなく、面会を強要すること、電話をしつこくかけること等を禁止してもらい、違反があれば制裁金を支払わせることができる。児童相談所や施設の職員が申し立てることもできるし、業務の妨害を受けている児童相談所長や施設長が申し立てることもできる。いろいろな立場の人から、自分の行為が違法である、と評価されることは、暴力を鎮めることにつながる場合もある。
(3)一時保護や施設入所そのものに対する不服申立てを促すことも有効であろう。自分の不満を別な立場の人に表明する場を保障することは、やはり暴力を鎮めることになるであろう。
(4)弁護士を代理人につけるよう促すことも同様に有効である。
なお一時保護や施設入所前の介入段階で暴力的な傾向が見られる時には、早い時期にこれら法的介入方法をとることも効果がある。その後の不服申立ても含めて、きちんとした枠組みと発言の場をつくる、という意味があるからである。



第4章 一次保護

1.一時保護の目的は何か
 一時保護の第一の目的は子どもの生命安全を確保することである。単に生命の危険にとどまらず、現在の環境におくことが子どものウェルビーイング(子どもの権利の尊重・自己実現)にとって明らかに看過できないと判断されるときは、まず一時保護を行うべきである。
 一時保護を行い、子どもの安全を確保した方が、子どもへの危険を心配することなく虐待を行っている保護者への調査や指導を進めることができ、また、一時的に子どもから離れることで、保護者も落ち着くことができたり、援助を開始する動機付けにつながる場合もある。
 子どもの観察や意見聴取においても、一時保護による安全な生活環境下におくことで、より本質的な情報収集を行うことが期待できる。
 以上の目的から必要とされる場合は、まず一時保護を行い、虐待の事実・根拠はそれから立証するという方が子どもの最善の利益の確保につながりやすい。


2.緊急一時保護の要否判断はどのように行うか
(1) 緊急一時保護の要否判断について
 緊急一時保護が必要か否かは、第2章通告・相談への対応及び、第3章調査および保護者・子どもへのアプローチとの一連の流れの中で判断しなければならない。
 児童虐待防止法では、児童相談所長が児童福祉法第25条の規定による通 告又は送致を受けた場合の速やかな安全確認の努力義務及び必要な場合の同法第33条の規定による一時保護が規定された。
この場合の「速やかに」は、何時間以内などの期限を示すものではない。事例によっては直ちに安全の確認、緊急保護の必要な場合もある。
 通告の段階で特に緊急性が予測される場合などには、直ちに対応すべきであるが、生命に関わるなど重大な事件が発生する前の対応を進める上で、休日や夜間に関わりなくできる限り速やかに対応(安全確認)する事を原則とすべきである。
 これまでも児童相談所においては早期の安全確認の努力がなされているが、今後は、児童虐待防止法に基づき安全確認の努力義務が課せられたことに留意しなければならない。

(参考)参議院法務委員会会議録(平成12年5月16日)から抜粋
質疑者 「児童相談所長が通告や送致を受けたとき「速やかに、当該児童の安全確認を行うよう努める」とありますが、この「速やかに」というのはどのくらいの時間を想定しているのでしょうか。・・・」
答弁者 「ただいまご指摘の点でありますけれども、この「速やかに」という点は現場で実務に当たっている方々が大変に注視されている点であるという常に認識を持って対応をしてまいりました。正確にこの点を御答弁させていただきたいと思いますが、「速やかに」とはできるだけ早急にという意味でありまして、具体的に何時間以上かかれば違法になるというものではございません。ただ、この条項の立案に際しましては、埼玉 県の児童相談所が通告を受けた時点から48時間以内に安全確認を行うこととなっておりまして、それを参考にしたことは事実でございます。・・・・・・」
 緊急保護の要否判断は組織として行われることは言うまでもないが、判断の客観性、的確性を高めるため、あらかじめ用意されたリスク度判定のための客観的尺度(リスクアセスメント基準)に照らし合わせて緊急介入の必要性や緊急保護の要否判断等を行うことにより、対応の遅れや判断の躊躇等を防止し、児童福祉の専門機関としての客観的な判断を定着させなければならない。

 平成9年度から取り組まれていた厚生科学研究「子ども虐待・ネグレクトリスクマネージメントモデルの作成に関する研究」(分担研究者 高橋重宏)において、虐待対応の先進国であるカナダ、オーストラリアにおけるリスクアセスメントやアメリカでの対応方法、国内研究等を参考に、日本版のリスク・アセスメントモデルが児童相談所での適用研究を経て示された。
 上記研究を参考に、リスクアセスメントシートによる保護の要否判断の方法を児童相談所での適用の参考として以下に示す。

(2) 児童虐待が疑われる事例への対応の流れ
 児童虐待が疑われる事例の場合、緊急かつ組織的な対応が必要である。ことに、通 告があったにも関わらず、安全の確認、一時保護などの対応の遅れにより子どもの生命に危険が及ぶようなことがあってはならない。そこで、通 告から一時保護の要否を判断するまでの対応の流れを示したのが図1「子ども虐待対応・アセスメントフローチャート」である。
(1)通告及び当面の方針決定
 虐待については、子ども本人や虐待を行っている保護者からの相談と近隣等個人や関係機関等からの文書又は口頭による通 告のほか、匿名の通告もある。
 通告者が個人の場合には、「虐待でなかったらどうしよう」と通告することを躊躇する気持ちや、「恨まれたり、責任を問われるのではないか」と通 告後の事態への危惧感から不安な心理状態で通告してくることが多い。一方で、児童相談所が、すぐに虐待をやめさせて問題を解決してくれると期待して、通 告してくる場合もある。
 いずれの場合であっても、通告を受理した場合の対応の方法や情報源の秘匿について十分理解を求めるなど、不安や不信感を相手に与えない対応によって、通 告・相談の内容を聴取し、確認しなければならない。
 通告受付票(表1)の記入方法や当面の方針を決定する緊急受理会議の持ち方については、後述する通 りである。
(2)情報収集
 子どもや保護者との面接だけでなく、子どもの通園・通学先、地域の民生・児童委員や主任児童委員、各専門機関など多面 的な情報収集を行う。特に、子どもについては、所属集団への訪問など、把握しやすい方法を優先することを考慮する。  家庭訪問にあたっては、複数の職員で行うとともに関係機関の職員に同行を依頼するなど、調査の客観性を確保する。子どもや保護者との面 接では、事情聴取的な情報収集は避け、カウンセリングマインドを心がける。
 収集した情報は、情報を得た日時、調査者、同行者、調査先、具体的内容などを克明に記録に残す。また、口頭で得られる情報だけでなく、観察によって得られる情報も重要な判断材料となるので、観察結果 を記録にとどめるように努める。法的対応をとる際の証拠資料・参考資料となる場合もあるので、調査結果 は具体的かつ克明に記録するとともに可能な限り文書や写真等を収集することも必要である。
(3)速やかな安全確認および面接
 安全確認は、原則として伝聞でなく、児童相談所の職員が直接子どもに会うことが望ましい。
 この段階の訪問は子どもの安全確認や一時保護の要否判断など、緊急かつ客観的な判断が必要なため、児童相談所の心理職や管理職など、あるいは福祉事務所の職員等を交え複数の職員が立ち会うこととする。男女の職員を組み合わせることが対応に有効な場合もある。地区担当の枠にこだわらずに役割を分担することも重要である。
 通告受理後速やかに安全を確認することは、生命に関わるような事件が発生する前に対応する観点が重要である。したがって、通 告の段階で特に緊急性が予測される場合など、特に早い対応が必要である。とりわけ乳幼児については速やかな対応が必要となる。
 また、休日や祝日に関わりなく対応すべきことは言うまでもない。
(4)居所の情報欠落・不明への対応
 通告によっては、保護者や子どもの居所に関する情報が欠落していたり不明な場合もある。そのような時でも、記録は残すとともに、住所がわからなくても地域が判明している場合は、主任児童委員や民生・児童委員、警察、市町村児童福祉主管課、保健所・保健センターなど、必要と思われる機関には通 告内容を伝え、注意を促すとともに、該当事例に関して情報を得た場合には速やかな連絡を依頼する。他の機関に、似たような訴えがなされる場合もしばしばあるからである。
 なお、情報収集における留意点や調査に際しての他機関との連携方法、調査に拒否的な親へのアプローチ、子どもからの事実確認の方法等について、本手引き第3章「調査および保護者・子どもへのアプローチ」を参照のこと。
(5)立入調査
 事前に同行する職員や関係機関とで綿密な打ち合わせを行い、立入調査の目的や役割分担を明確にしておく。
 特に、保護者からの加害行為等に迅速に対応し、子どもや職員等の安全確保を図るため、必要があると認めるときは、警察に援助を依頼して事前協議を行い、これに基づく連携を図るよう努める。
 このほか、立入調査に当たっての留意点等については、本手引き第3章「調査および保護者・子どもへのアプローチ」を参照のこと。
(6)アセスメントシートによる保護の要否判断
 表2および図2を参照のこと。
(7)保護・安全確保の実施
 一時保護に際しての留意点等については、本手引き第4章「一時保護」に、また在宅指導における留意点等については同手引き第7章「処遇(在宅指導)」を参照のこと。

(3) 虐待通告受付票の記入
(1)虐待通告受付票の記入
 児童虐待の第一報を受けたら、まず通告者からできる限りの情報提供をしてもらい、その情報を虐待通 告受付票(表1)に記入する。多少あいまいな情報や不明な項目があっても、記入可能な事柄を記入しておくことが重要である。
 後日法的対応をとる際の家庭裁判所への提出書類の一つとなる可能性もあるので、鉛筆ではなく、ボールペンなどによって記入する。 記入後は、所長の決裁を受ける。
 決裁後は、虐待通告受付台帳に編綴するとともに、児童記録にも添付する。
 なお、虐待の「通告」という形を取らない一般的「相談」などの中や当該児童以外のきょうだいへの虐待が潜んでいる場合があるので、注意を払う必要がある。
 たとえば、「たびたび嘘をつく」「おもらしをする」「夜遅くまで帰らない」「親の言うことを聞かない」など、子どもの行動や性格、育児などの相談、非行の通 告などの場合でも、虐待の潜在に留意しなければならない。
(2)緊急受理会議
 虐待通告受付票を記入した後、速やかに緊急受理会議を開催する。
 緊急受理会議の準備の一環として、通告を受けた事例について、過去の通 告や援助などを通して児童相談所に情報が蓄積されているかどうかを確認しておく。
 緊急受理会議では、第一に、通告の段階で得られた情報の範囲で緊急介入の必要性について判断する。緊急を要すると判断される事例では、その場にいる職員で分担して対応を開始する。一時保護が必要と判断された場合には、現場に向かう役割・一時保護の段取りをする役割・調査をする役割・警察等他機関との調整をする役割などを分担して、即刻対応を開始する。
 通告の段階で得られた情報では緊急性がないと判断できる場合や、情報が不足する場合は、その後の調査方針と調査担当者を決定する。調査しなければならない項目を列挙し、誰がどこの機関に何を聞くかを明確にして分担する。
 緊急受理会議で決定した内容は、受理会議録に記入し、速やかに所長の決裁を受ける。
 受理会議録は2部作成し、一部は受理会議簿に、一部は児童記録票に編綴する。
(3)通告者への報告
 虐待の通告をした人は、多くの場合、児童相談所の対応に期待と関心を寄せている。守秘義務の許す範囲で、児童相談所の対応方針について報告することが望ましい。
 また、通告者が子どもや家族に引き続き関わる可能性がある場合は、どのような関わり方をすることが望ましいのか、児童相談所としての要望やアドバイスを伝える。

(4) 一時保護の要否判断はどのように行うか
(1)客観的判断の必要性
 一時保護の要否判断は、子どもや家族の生活に大きな影響を与える。誤った判断により子どもの生命を守れずに終わる危険性もあるが、一方、必要のない親子分離により子どものトラウマの原因になったり、家族が子育てをする力を弱めてしまう危険性もある。過不足のない介入や援助のあり方を的確に判断しなければならない。
 保護の要否判断については、担当児童福祉司個人の判断であってはならず、所内会議等を通じた機関決定は無論のこと、外部との連携も含め、できる限り客観的で合理的な判断をしなければならない。そのためには、系統的かつ専門的な情報収集と情報整理、そして情報評価が必要である。
(2)情報収集
 一般の相談援助の場合でも始めからすべての情報が得られるわけではないが、児童虐待が疑われる事例では特に、最初は不確実な情報から出発することが多い。したがって、児童相談所内部で情報を集約できる体制を整えることはもちろん、関係機関とも早い時期から情報を共有することが重要である。たとえば、福祉事務所と保健所と児童相談所が把握している情報を総合化すれば、子どもの生命に危険があることが判ったはずなのに、それぞれが断片的な情報しか持っていなかったために判断を誤ったというようなことがあってはならない。情報の共有化を図るためには、電話連絡だけでなく、文書による連絡やネットワーク会議の開催など、様々な連携方法を工夫する必要がある。
 なお、お互いに守秘義務を持った専門家としての信頼関係に基づき情報を共有するのであり、交換した情報を不必要に外に漏らすことがあってはならない。
 児童虐待が疑われる場合、情報収集に許される時間が限られている場合もある。このため、当面 の判断に必要な情報を優先して集める。表2に示した「一時保護決定に向けてのアセスメントシート」は、どのような情報を優先的に集めるかを計画する際にも参考となるものである。
 緊迫した状況などで、児童相談所職員が情報を聞き漏らしたり、尋ね忘れたりすることも起こりやすい。必要な情報を漏れの無いように収集するためにもこのアセスメントシートを活用すべきである。ただし、このシートは情報の整理と判断を目的としているので、情報収集のためには充分な記述欄が備えられてはいない。シートには要点のみを記すこととし、詳細な情報は別 に記録する必要がある。
(3)情報整理(アセスメントシートの記入)
 持ち寄った断片的な情報を一つに統合するためには、情報整理の枠組みが必要である。
 加藤曜子等が作成している「保護決定アセスメント指標」をもとに、項目を8群に分けて再編成したものが、表2のアセスメントシートである。
 シートに記入する際には、まず、各群の中の小項目から記入する。それぞれの小項目について該当すれば□の中にチェックをつける。チェックを付けるかどうか迷うような場合は、まずはチェックを付けておいて、④の判断をする段階で十分に協議する。
 小項目に「例」が掲げられている場合には、該当するものを○で囲む。例に示されていない場合は(  )内に記述する。
 各群の中で、一つでもチェックが付いた項目がある場合、その群の見出しとなっている質問について「はい」の方にチェックを付ける。たとえば、「外傷」という項目にチェックがあれば、その群の見出しとなっている「すでに虐待により重大な結果 が生じている?」という質問に対し、「はい」の方にチェックを記入する。
 右側の自由記述欄には、小項目や見出し項目に関してチェックがついた状況を理解するのに必要な情報を記入する。
(4)情報評価(アセスメントシートを用いた判断)
 上記のように記入すると、第1群から第8群までの各見出し項目に「はい」または「いいえ」のチェックが記入された状態となる。この結果 に基づき、図2「一時保護決定に向けてのフローチャート」をたどる。
 以下、図2について解説する。
ア)表2の第①~第③群のいずれかで「はい」がある時
  → 直ちに一時保護を検討する必要がある。
イ)表2の第④群に該当項目があり、かつ第⑤群にも該当項目がある時
  → 次の虐待が発生しないうちの保護を検討する必要がある。
ウ)第①~⑤群のいずれにも「はい」がないが、第⑥群または第⑦群のいずれかで「はい」がある時 = 虐待やネグレクト発生につながる危険因子(リスク要因)がある。
  → 表面化していなくても深刻な虐待が起きている可能性がある。
  → あるいは虐待が深刻化する可能性がある。
  → リスクを低減するための集中的援助を計画する。その見通しによっては一時保護の検討が必要。
エ)第①~⑦群のいずれにも「はい」がなく、第⑧群のみに「はい」がある時
  → 現状では虐待やネグレクトを理由に一時保護するに足りる情報は得られていない。
    しかし、虐待やネグレクトの発生につながる家族内外のリスク要因はあるので、家族への継続的・総合的援助が必要。
 表2および図2は、一時保護の必要性をできるだけ客観的に判断するための補助的な道具として用いられるべきものであり、機械的に判断すべきではない。それぞれ、チェックが付いた項目について、基となった情報に戻り状況を十分に理解、分析することが的確な判断につながる。そして、表2および図2を参考にしつつ、児童相談所内で協議して一時保護の要否を判断し、決定する必要がある。
 また、一時保護の要否判定をできる限り的確に判断するためには、できる限り幅広く情報を集め、総合的な判断をすることが重要である。仮に第①群から第⑤群で「はい」にチェックがついた場合であっても、時間の許す限り、第⑧群までの項目を含めて情報収集に努めなければならない。しかし、一方で、緊急を要する状況なのに第⑧群までの情報がすべて集まっていないことを理由にして介入を遅らせるべきでもない。
 たとえば、乳幼児が頭部に外傷を負って複数回目の入院をしたとすれば、表2の第③群と第④群、⑤群に「はい」のチェックが記入されることになり、リスクアセスメントの結果 としては、一時保護まで考える必要がある重大事態であることを示唆している。
 しかし、少なくとも退院までの時間的な余裕があるので、その間、関係機関へ照会するなどして、子どもや家族の状況についての情報収集を継続し、より的確な結論を出せるように努めるべきである。しかし、子どもが退院する時点で、保護者の生育歴に被虐待歴があるかどうか分からないなどリスクアセスメントが未完了だという理由で、判断を遅らせてはならない。
 いずれにしても、リスクアセスメントをすることにより、情報収集を綿密に行うことと、速やかに判断することとのバランスについても、的確な判断が必要である。

図1 子ども虐待対応・アセスメントフローチャート
表1 虐待通知受付票
表2 一時保護決定に向けてのアクセスメントシート
図2 一時保護に向けてのフローチャート


3.職権による一時保護の留意点は何か
 職権による一時保護をするに当たって、まず留意すべきは、それが非常に強力な行政権限であるという認識を踏まえて適切に運用しなければならない、ということである。
 児童福祉法においては、従来一時保護の期間は定められていなかったが、児童虐待防止法において、児童福祉法に基づく一時保護の期間を原則として2月に限ることとされた。もっとも、施設入所のように児童福祉法第27条第4項のような保護者の同意を要する旨の規定はなく(すなわち職権で実施できる)、(法第27条の3の規定からして、児童の行動の自由を制限できると解されるので)児童の意思にも反して実施できる。関係者の意思に反して行う強制的な制度は、通常は裁判所の判断を必要とするが、児童福祉法の一時保護については裁判所の事前事後の許可も不要である。このような強力な行政権限を認めた制度は、諸外国の虐待に関する制度としても珍しく、日本にも類似の制度は見当たらない。
 このような強力な制度であるがゆえに、職権一時保護は被虐待児の救出のためには非常に有効であり、必要な場合には積極的に活用することが期待されているのであるが、同時にあまりに強力であるがゆえに保護者の反発も大きいことは避けられない。
 これまではややもすると、保護者の反発を怖れるあまり、職権一時保護を控える傾向があったことは否定できないが(例えば、職権一時保護は警察からの身柄を伴った通告の場合に限る、という運用をしていた児童相談所もあった)、それは誤りであって、あくまでも子どもの保護を重視しつつ、具体的な運用に配慮する、という姿勢が重要である。
 従来、期間の定めがないことから、保護者は「いつまで保護されるのかわからず、児童相談所に聞いても答えてくれない」と反発することが多かったことから、また保護者の不安を緩和するとともに、児童とその保護者を引き離すという強制力を伴う措置を行う際に人権に配慮する必要があることから一時保護の具体的期間が設けられたものであり、児童相談所としても短期の目標を設定し、それを保護者に告知するような運用が望ましい。
一時保護の延長が必要な場合の例としては、
1. 家庭裁判所に対し審判を申し立てており、決定が直ちに得られそうにない場合。
2. 施設入所の方向であるが、当面の医療的なケアのために入院あるいは継続した通院が必要であるが、施設へは医療的なケアが必要な状況では入所できず、かつ、保護者のもとにはおいておけない場合。
3. 既に親権者間等で親権者指定あるいは監護権者指定などの調停又は審判が起こされており、その推移を見守っている場合。
4. 保護者へのカウンセリングが軌道に乗ったとは言い難いものの、若干の時間的余裕があれば保護者の変化が十分期待でき、そうすれば保護者、児童ともに納得した処遇が進められる見込みがあり、この時点で家庭裁判所への審判申立を留保している場合。
5. 共同親権者の意向が一致せず、まず親権者間の調整が必要で、施設入所、家庭裁判所への審判申立等の方針が出せない場合。
6. 児童は一時保護しているものの、保護者がしばしば行方不明になったり、他府県との転居を繰り返したりするため、その都度連絡が途絶えたり管轄が変わったりする場合。
7. 共同生活を行っていた特定集団から離れた児童を一時保護したものの、その集団自体への接近が困難で保護者等の状況が確認できず処遇方針が決められない場合。
などが考えられるが、個別事例で判断に迷う場合等については児童福祉審議会の意見を聴取して判断することも方法としては考えられる。
 具体的な執行の場面でも、保護者の同意が得られそうもないときに児童相談所の責任ある決断として行うのであるから、保護者が抱きかかえているような時に単独でも執行できそうか、警察の協力が必要か等を的確に判断して、協力が必要と判断したら直ちに明確な要請をすべきである。保護者が家の中に閉じ込めているような時に立入調査と連動させて保護することもできるので、具体的な立入方法についても児童相談所の責任で決めるべきである。(なお、建物内部で暴行、傷害などの犯罪が行われていると警察が判断した場合には、警察の犯罪捜査が主になることもあり得る。)
 また、警察が先に警察官職務執行法によって保護し、児童相談所に電話で通告をしてきたものの、直ちに一時保護できないときには、暫時警察に一時保護を委託する場合があるが、どの時点で一時保護を決めて委託したのか、を明確にするべきである。  子どもが保護者と離れて学校や保育所にいる時に保護することもできるが、できれば敷地外で保護する等の配慮が必要なこともあり、また保護者への告知も速やかに(同時である必要はないであろう)行う必要がある。


4.一時保護について子ども、保護者にどう説明するか
 一時保護の判断は、子ども自身の意思に反しても、あるいは保護者の同意が得られない場合にもこの処置は可能であるとされている。
 しかし、虐待事例が一時保護だけで解決することはまずなく、その後の保護者との関係を考えれば、当然同意を得るよう最大限の努力をすべきである。また、子ども自身も、親子分離の局面 に立たされて明確に意思表示ができなかったり、同意しようとしない場合もあり、一時保護に当たって子どもおよび保護者にどう説明するかということは、その後の援助に大きな影響を及ぼす重要なポイントである。
(1) 子どもへの説明
(1)子ども本人が、帰宅を拒否し保護を求めている場合
 子どもに対して虐待の事実関係や状況等を確認することはもちろんのことであるが、まず、子どもの話や言葉を十分に傾聴し、子どもに安心感を与えることが大切である。
 保護者の同意がなくても安全に生活できる場があることを伝え、一時保護所のパンフレットやアルバムなどを見せて具体的な情報を提供する。併設されている場合は、見学させてもよい。「少し親と離れて生活しながら、これからのことをいっしょに考えよう」などと話し、ひとりで問題に立ち向かうのではないということを伝え、不安な気持ちを少しでも取り除くような配慮が必要である。
 また、面会や引取りについても、子どもの意向を聞いて判断するということを説明し、児童相談所として「親には引き渡さない」という保証をする必要がある。
(2)子ども本人が、家には帰りたくないが一時保護も躊躇している場合
 虐待を受けた子どもは、人間に対する不信感を抱いており、心を開いて本当の気持ちを表現できないことが多い。保護者の前では萎縮して保護者の意向にそった返事しかできないこともある。また、悪いのは自分だから仕方がないと思い込んでいたり、家を出ることで親から見捨てられるのではないかという不安から、自分からはなかなか判断できないでいるような場合もある。
 このような場合、子ども自身に決断を求めることは、保護者との分離を子ども自身が決定したという心理的負担を強いることになり、追い詰めてしまうことにもなりかねない。
 したがって、虐待の事実があり、保護者からの分離が必要と判断される事例で、子ども本人が一時保護を躊躇したり、拒否する場合は、児童相談所として「子どもの身の安全を確保するために、保護者には引き渡せない」という判断をしていることを伝える必要がある。
 「このまま家にいては、安心して生活できないと思う」「あなたが悪いから暴力を振るわれるのではない」などと話し、虐待を受けている子どもに対して、その原因が子ども自身にあるのではないということを分かりやすく説明する。
 その上で、(1)と同様に一時保護所について具体的な紹介をして、少しでも不安感の除去に努める。実際に見学などをして、自分より年少の子どもが生活しているのを見て安心する場合もある。
 いずれにせよ、子どもが同意している場合であっても、基本的には「あなたが帰りたくないと言うから保護する」のではなく、「子どもの最善の利益を守るために、児童相談所として保護者には引き渡せないという判断をした」という説明をすることが重要である。

(2) 保護者への説明
(1)保護者自ら、子どもを預かってほしいと希望する場合
 「イライラして子どもを叩いてしまう」「このままでは殺してしまいそう」など、養育に疲れ、「預かってほしい」と、保護者自身が電話や相談をしてくる事例がある。 このような場合は、子どもや保護者の心身の状態を見極め、必要であれば、「子育てに疲れておられるようだから、とりあえずお預かりしましょう」「しばらく離れて体や気持ちを休めてください」などと伝え、保護者の大変な気持ちを受容する。
 保護者の言いなりになって、簡単に預かっていいのだろうかと躊躇して判断のタイミングを逸すると、実際に虐待につながってしまったり、その後の援助の展開が難しくなることもあるので、迅速に対応することが重要である。
(2)警察から要保護児童として通告があった場合
 「これからのことをじっくり考えるためには、いったんお子さんをお預かりして、いっしょに相談していきましょう」「しばらくこちらで子どもの気持ちを聴きながら、親御さんの気持ちも伝えていきたいと思います」「子どもさんにも育てにくいところがあるようですから、行動を観察したりいろいろな検査もしてみようと思いますが」などと、まずは、保護者の気持ちを酌み取りながら説明する。
法的には同意を必要としないからといって、強引に保護をしてしまうと保護者とは敵対関係になってしまい、その後の援助が非常に困難になってしまう。したがって、保護者を説得することが基本になる。
 「児童相談所としては、保護が必要と判断しています」などと、毅然とした態度で伝え、とにかく一定の期間は保護が必要であることを、保護者に理解してもらうよう説得する。
 しかし、それでも納得しない時は、「このような場合は、児童相談所としては、家庭裁判所の判断を仰ぐことになっているので、そちらで決定してもらいましょう」と提示する。わせて、児童相談所に一時保護の権限があることも伝える。それでも、引き下がらない場合は、児童福祉法第28条の申立てをする。その際、困難な事例については弁護士の協力を求めることも有効である。
(3)関係機関からの通告で、調査の結果により一時保護が必要と判断した場合
 すでに援助の過程にあり、保護者との関係ができている場合は、その時の状況や保護者の心情を踏まえて、説明する。
 保護者が自分でも養育態度が不適切だとわかっているはずだと思って、そのことを指摘したりするとそれまでの援助関係が切れてしまい、子どもの保護ができなくなる。
 「子どもさんにも育てにくさがありそうですし、親御さんのやりかたとうまく噛み合っていないように思われます。少し離れてみて、お互いにこれからのことを考えてみる時期にきているように思います」「集団生活をすれば、子どもさんにとってもいろいろ考える機会になるかもしれませんよ」など、保護者に抵抗の少ない形で保護につなげられるように説得する。
 保護者は「どのくらいの期間、入所するのか?」「その後はどうなるのか?」など尋ねてくるので、「子どもの様子を観察して、どういう処遇がよいかを検討するには、おおむね3週間ぐらいかかると思います」「その間に今後のことをいっしょに考えましょう」「面 会についても、子どもの気持ちを聴きながら考えます」など、一応の見通 しを伝えておく。
 また、他の関係機関ですでに関わりがあり、一時保護を勧められるような関係が持てている場合は、協力を依頼してもよい。しかし、そのことでその機関と保護者との援助関係が切れてしまう危惧がある場合は差し控えなければならない。
 保護者や家族の状況がよくわからない場合、あるいは保護者が同意しそうにないと思われる場合は、関係機関の協力を得て児童の安全の確認を早急に行わなければならない。
 緊急に保護が必要と判断される場合は、いずれにしても、関係機関の協力を得て、先に子どもの安全を確保した上で、保護者に伝えるようにする。
 連絡が遅れると、「なぜ連絡をしなかったのか」と攻撃されて説明がより困難になることもあるので、できるだけ早く連絡することが望ましい。


5.保護者への一時保護告知について
 一時保護は施設入所と異なり、保護者の意思は要件とはなっていない。すなわち児童相談所の職権で実施することができる。したがって、意思を確かめ、同意を求めた上で、一時保護を行うことが原則であるが、法的には保護者の意思を確かめる必要はない。
 他方で一時保護は行政処分として行政不服申立ての対象となり、保護者には不服申立権があるので、児童相談所としては、保護者に一時保護の事実を告知する必要がある。その場合には、一時保護所の具体的な所在地までも記載するのが原則である。(平成10年3月31日付児発第247号厚生省児童家庭局長通知「児童相談所運営指針の改定について」告知書面のひな型参照) 他方で、実際問題として、職権一時保護をしたような時は、保護者も興奮しており、一時保護所から取り戻そうという気配を示すことも多く、取戻しの危険について言えば、一時保護所は福祉施設に比して閉鎖的な構造になっているところが多く、かつ公の施設であるという点で、保護者としても容易には取戻しに踏み切れない。しかし、小規模な一時保護所の場合には宿直体制も弱く、危険がないとは言えない。
 したがって、取り戻す危険が大きい時には、一時保護を決定した児童相談所所在地以外にある一時保護所に保護した上、告知事項から一時保護所の所在地を省略する、という扱いもありえよう。また、遠方の福祉施設に一時保護委託をした上、同様に施設所在地を告知事項から省略する、という扱いも許されるであろう。一定の場合には具体的所在場所を告知しないことも許容されるべきとした判決も出ており、この判決は確定している(平成11年2月22日大阪地方裁判所第17民事部)。

・平成11年2月22日大阪地方裁判所第17民事部判決
 一時保護は児童を緊急に保護する必要性の観点から親権者の監護教育権を合理的限度で制限するものであるから、一時保護の原因となった事情や児童の意向その他の事情に鑑みて児童の福祉のためにその所在場所を知らせることが相当でないと判断される場合には、親権者に対して(児童)養護施設に一時保護委託をしている旨を告知するのみでその具体的所在場所を告知しないことも許容されるべきであり、それが適正手続ないし児童福祉法の精神に反するということはできない。

 なお、告知は必ず両親あてにしなければならないか、という問題がある。例えば、母親と子どもが父親の暴力から逃れて家出している場合に、母親の希望(一時保護願)によって一時保護する時には、児童相談所としては、わざわざ父親にも告知する必要があるだろうか。告知した場合に父親は子の所在ひいては母親の所在を知って追及するであろう。告知するにせよしないにせよ、児童相談所としては父母のいずれかに加担せざるを得ない立場に置かれる。
一時保護の制度が、保護者すなわち現に子どもを監護している者から子どもを分離する制度であって、上記の場合には母親のみを保護者として扱えば足りる、という考えをとれば、不服申立権も母親のみに認めればよく、その方が子どもの安全に資することになる。しかし、従来から父親と母子が別居していればともかく、上記のような場合であれば父親に不服申立権がないとは言いがたいので、父親にも一時保護を告知した上、一時保護所または一時保護委託先の所在地を告知事項から省略する、という扱いにとどめるのが相当であろう。


6.一時保護中の子どもに対する処遇はどうあるべきか
 一時保護所に入所することは、子どもにとって家族から分離されて新しい環境に入ることである。とりわけ、虐待を受けた子どもにとっては、緊急避難場所として安心して生活できる場であるとともに、親子関係を見つめなおし、その後の生活の方向を決定する場でもあり、一時保護所での生活は非常に重要な役割を担っている。
 一時保護所では、ゆるやかで規則正しい生活の中での保育や学習、スポーツやレクリェーション等を通して、行動面の観察や生活指導を行うが、この間に、児童福祉司の面接や心理職員による心理検査、精神科医の診察なども並行して実施する。

(1) 入所時の対応
 入所時は、即座に子どもの健康・身体状況を把握しておくことが重要である。
1. 虐待による外傷・発熱・栄養状態等の身体状況を正確に把握し、子どもの表情や顔色にも注意を払う。
2. 顔や手足等、露出している部分だけでなく、衣服で隠れた部分の傷のチェックも必要である。衣服の着替えの時、入浴時、身体検査等を利用して確認する。
3. 発熱していたり、身体に痛み等を訴える場合は、応急処置をした後に、医療を受けさせる。診察の結果、即入院となることもある。医師の診断書を取得する。
4. 必要に応じて、虐待の状況を示す写真を撮る。
5. 性的虐待を受けた子どもについては、ソーシャルワーカーの調査や子ども本人の話などから、妊娠や性病の疑いがある場合は、早急に産婦人科で受診させる必要がある。子どもには不安を与えないよう十分に説明をし、了解をとっておく。

(2) 子どもに対する指導上の留意点
(1)虐待を受けた子どもは基本的に大人への不信感や恐怖心を抱いているので、受容的に接し、不安や緊張をやわらげることが必要である。
入所時は特に緊張感が高いが、入所時の面接が終わり、保護者や児童福祉司が帰った後、着替えをする時などに少しホッとした表情を見せたり、話をする子どももいる。「嫌なことは言わなくてもいいよ」「ゆっくりといっしょに考えていこう」などと伝え、まず、不安感をやわらげる。
(2) 誰にでも安心して生活する権利がある」「安心して生活するためにここに来ることになった」など、「安心して暮らす大切さ」を分かりやすく話す。そして、「ここで安心した感じがするかどうか」を聴き、常に安心感が守られ、それを子どもが実感できているかどうかを確認していく。
(3)子どもを守るためにこれからみんなで考えていくことを、できるだけ分かりやすく伝える。そのために、今後どんな人と会ったり、診察を受けたりするのかなどについて説明する。
(4)子どもの気持ちを徐々に引き出し、気持ちの整理をできるように支えていくことが必要であるが、無理強いするのではなく、自然な感じで対応するよう心がける。
職員との交換日記などで、自分の思いや気持ちの変化を引き出していったり、慣れてきたら職員が散歩に連れだすなどして、1対1でゆっくりと子どもが気持ちを出せるような機会をつくる。子どもが心配ごとを表出してきた時に、しっかり受け止めてじっくりと関わるのが重要なポイントである。
(5)虐待の状況については、「大変なときには、どこでどんなふうにがんばっていたの?」などと子どもがこれまでどのようにして適応してきたかを聞くと、子どもも話しやすい。
(6)子どもの行動面の特徴や問題行動をよく観察する。情緒不安定、集団不適応、攻撃的行動などの問題行動に巻き込まれることなく、まず大人との信頼関係を築き、情緒の安定を図りながら個別指導をしていくことが必要である。
* 過食、拒食、小食、偏食等の問題があることが多い。まず、子どもの情緒的な安定を図りながら、徐々に指導していく。
* 子どもたちがおおぜい集まっているところを避けて部屋の隅や壁際などで過ごすこともあるが、無理に集団に入れようとせず、居場所を確保してやることが必要である。
* 職員によって態度をかえたり、大人を逆なでするような行動をとることがあるが、こうした行動には相手をコントロールすることで自分が安定するという心理的な背景がある。
その行動の意味や心理を理解しながら、職員間でよく連絡をとりあって大人が子どもの行動をどのように理解したかを子ども自身に伝えていく。
* 大人に対して独占的に甘えてくるなどの退行的な行動に対しては、まずは子どもの行動をありのまま受け止め、安心感を与えることが重要である。
* 物への執着や攻撃的な行動で他児とのトラブルになることも多いが、「抱きかかえ」(holding)などの方法で怒りの感情を受け止め、まず行動を制止し、決して一方的に注意したり叱責しないで、基本的なルールを守る必要性を説明する。
(7)安心感に伴い、悪夢、不眠、物音や人影に対する脅え、フラッシュバック、突然の怒りの爆発などの症状が現れることがある。子ども自身がそれに驚き、混乱しないように十分に対応する。話をよく聴き、「誰にでも起きることで、少しずつおさまっていく」と安心感をもたせる。
(8)性的虐待の事例では、子どもが性に対する誤った認識や非行文化への親和性を持っている場合があるので、子どもを十分に理解した上で指導する必要がある。
(9)保護者の面会や電話には、基本的に子どもの意思を尊重して対応する。面会時は必ず職員が同席して、できるだけ短時間で終えるようにする。また、電話応対でも、子どもが自分の思いを言えることは少なく、一方的に言われていることが多いので時間を見計らって適当な時間で切り上げるように配慮することが必要である。
(10)保護者の子どもに対するそれまでの対応が、攻撃と受容の両極端であればあるほど、子どもの保護者に対する思いも一貫性を失っている。「家に帰りたい。帰りたくない。」と気持ちが揺れ動くこともあると認識しておくことが必要である。
(11)ネグレクトの事例など、それまで社会的な常識に従った生活体験ができていない場合があることを理解する必要がある。掃除や入浴の仕方など十分にできなくても、配慮して、生活上の基本的なルールを少しずつ指導していく。


7.保護者が一時保護中に面 会を希望する場合の対応について
(1) 対応上の留意点
 虐待事例の一時保護は、保護者と分離して子どもの生命および安全の確保と情緒的な安定等を図る目的がある。一時保護して問題となるのは保護者の面会や引取要求への対応である。 面会は子どもの福祉を最優先して実施する。保護者の強引な面会要求には、子どもの福祉と権利を守る公的機関としての児童相談所の立場を伝えて対応する。
(1) 面会の連絡調整
ア.一時保護に当たっての児童福祉司等と一時保護所との連絡調整
 担当の児童福祉司等は子どもの意向と一時保護に至る経過を考慮して、一時保護所の児童指導員、保育士等と面会および外出外泊等の対応について連絡調整する。一時保護所の職員は直接的に家庭訪問や保護者等と行き来する機会は少なく、児童福祉司等の情報が保護者への対応の判断材料となるため、保護者の細部にわたる情報を提供する。
イ.窓口は担当の児童福祉司とする
 保護者の連絡調整の窓口は担当の児童福祉司であることを徹底する。保護者の執拗な連絡等により複数の職員で対応する場合、保護者を微妙な言い回し等で混乱させる可能性が予測されるため、事前に保護者に対し窓口となる児童相談所職員の氏名を伝える。
ウ.直接一時保護所に保護者から面会要求が出された場合の対応
 直接、保護者の面会希望の申し出が一時保護所にあった場合、一時保護所の職員は保護者に対し、児童福祉司に連絡して了解を求めるよう説明するとともに、児童福祉司に保護者の状況について連絡する。保護者の強引な面会要求には「上司と検討して連絡します」などと対応し、「児童相談所としてお断りします」といった即答は避ける。
エ.担当者が判断を躊躇する場合の対応
 虐待事例の保護者は児童福祉司等に「俺は親権者だ」「面会させなければお前を訴えてやる」等と攻撃的な態度を見せたり、理不尽な筋の通らない面会要求を突き付ける場合がある。判断を躊躇する場合、担当者の恣意的な行動は理不尽な面会要求を強化する可能性があるため、処遇会議、臨時処遇会議を開催して組織として面会の適否を検討する。
(2)面会の適否の判断材料
ア.子どもの側の判断材料
a. 子どもの感情や意思
 子どもの保護者に対する感情や意向を確認する。子どもは保護者の虐待行為により恐怖感や拒否感がある。不安解消の認められない時期の面会は時期尚早と判断する。
b. 児童福祉司、心理職員による保護者と子どもとの面接内容
c. 一時保護所の児童指導員、保育士と子どもとの面接内容
d. 一時保護所における行動観察
 掃除、食事、遊び、入浴等は保護者の子どもに対する関わり方を具体的に知る機会となるため、留意して行動観察する。
 特に、子どもは保護者との虐待的人間関係を再現するため、一時保護所の職員に対して暴言を吐いたり、反抗的な態度をとったりする場合がある。また、子ども集団では支配・服従の力関係に敏感に反応してトラブルメーカーとなったりする。
e. 子どもの描く家族画、作文や日記等の保護者像を参考にする。また、類似した体験を有する子ども同士の会話は自然と本音を漏らすこともある。
イ.保護者側の判断材料
a. 児童福祉司との信頼関係(ラポール)が樹立されており、面会の回数、制限の範囲等を説明して理解が得られる場合はプラス材料となる。
b. 保護者自身、虐待行為を認めるとともに、子どもとの関わりに葛藤、不安を訴えており、親子関係を修復したいと児童相談所の指導に応じる場合はプラス材料となる。
c. 保護者が児童福祉司等の説得を受け入れず、強引な面会要求および引取要求のある場合、面会は制限あるいは拒否する。
d. 保護者の優柔不断な態度や精神的不安定が認められる場合、子どもの精神的な動揺が大きくなるため、面会は制限する。また、飲酒、酩酊状態の面会は拒否する。
(3) 面会の留意事項
ア.面会は必ず児童福祉司、一時保護所の職員等が同席する
 面会中の保護者と子どもの状況観察、並びに突発的な事態に備えるため、児童福祉司、心理職員、一時保護所の職員等が同席する。同席した児童相談所職員は保護者と子どもの状況により面会時間の設定等の配慮を行う。また、面会前、事前に子どもに面会日時等を伝えて不安を取り除く。
イ.面会の中断、中止
 保護者は子どもに「自分が悪かった」「お前の帰る日を待っている」等と一見非を認める発言を繰り返したり、「何で児童相談所へ行った」「親を訴えるお前は悪魔の子だ」等と怒ったり、虐待を正当化したりする。子どもに動揺を与えたり、不安感をもたらしていると判断した場合は面会を中断、中止する。
ウ.面接中の子どもの言動に留意する
 子どもは一時保護所の職員に「家は嫌だ」「絶対に施設へ行きたい」等と発言していても、保護者を目の前にすると虐待場面を思い出して怖くなり、攻撃を回避するため「家に帰りたい」「殴らないなら帰る」と逆の発言をすることも多い。このため、保護者はそれを家庭復帰の意思として受け止めるので、状況により直接保護者に子どもの真意を伝える必要もある。
エ.面会は家庭復帰の判断材料となる
 面会の状況によっては、今後の処遇方向が左右される可能性もあり、面会前、面会中、面会後の保護者と子どもの変化に留意する。面会による親子関係の変化は以後の面会、外出、外泊訓練と家庭復帰を考えるための重要な判断材料となる。
(4)強引な面会の対応等について
ア.職権による一時保護における保護者の面会
 児童相談所長の職権により一時保護した事例では、面会要求への対応は常に子どもの福祉を最優先して対応する。保護者が面会を希望して強引に来所する場合や刃物等を持参して児童福祉司等を威嚇する場合があるが、複数の職員で組織的対応を図るとともに、保護者に子どもと面会させられない事情を説明して拒否する。
 なお、一時保護中の強引な面会についても、警察に対し、児童虐待防止法第10条に準じた対応を依頼するのが適当である。
イ.保護者の攻撃的態度への対応
 保護者は面会拒否に対する抗議として、深夜に来所したり、一時保護所の外壁に抗議文を貼る等の行動に出る場合がある。強引な保護者への対応として、一時保護所の施錠を徹底し、保護者の侵入を食い止める。保護者が暴言あるいは玄関の扉を蹴る、窓硝子を割る等の攻撃を繰り返す場合、警察へ緊急通報する。また、そのようなおそれがある場合には、警察に対して児童虐待防止法第10条に準じた対応を依頼することが適当である。
ウ.保護者からの子どもの所在確認への対応について
 保護者から子どもの所在を尋ねる電話が一時保護所にあった場合、一時保護所としては回答を避け、担当児童福祉司に連絡するよう説明する。保護者の加害行為や強引な引取り等が予測されたり、子どもが怖えていたり、面会を拒否している場合は、一時的に子どもの所在を知らせないこともあり得る。
エ.面会初期の外出希望への対応
 保護者によっては児童相談所の指示を守る素振りを見せながら、実際に外出させると一時保護所に子どもを戻さない場合もある。原則的に面会初期の外出は控えることとする。

(2) 面会に対する基本的な考え方
 一時保護の目的として1.緊急保護、2.行動観察、3.短期入所指導などがあるが、いずれの場合でも子どもの生活の場所を保護者の家庭から分離することが基本的な要請であり、それ以上に親子の接触をどの程度制限するかは、各々の目的によって異なる。
 本来、親子はともに生活する権利があり、やむを得ず分離される場合でも親子の交流は保障されなければならない。
 一時保護制度は、行政機関だけの権限で実施できる強大な制度であるだけに、具体的な運用においては、子どもにとっても保護者にとっても過剰な制限にならないように、十分配慮すべきである。犯罪被疑者を拘束するための勾留制度においても、第三者との面会を禁止するには裁判所の別個の許可が必要であることも留意すべきであろう。
 ところで、虐待の場合の一時保護は1.に該当し、子どもの安全の保障が第一目的となることはいうまでもない。生活の場の物理的分離はもちろん必要であるが、子どもとしては保護者への怯えなど虐待による精神的動揺や不安が強く、これらを治療することも一時保護の重要な課題であるから、保護者との接触(面会・電話・手紙)をある程度制限することはやむを得ない。精神科医、児童福祉司、心理職員、一時保護所の職員の協議により、面会が子どもに精神的なマイナスを及ぼすおそれがあれば、禁止することもやむを得ない。
 また、保護者は「子どもに『会いたいかどうか』の意見を聞いてほしい」と要求することもあるが、「子どもの意見を聞いた結果、面会させない」という対応をすることは避けるべきである。子どもに聞くにしても、その回答は保護者にはそのままは伝えない、という形で子どもに安心感を保障してやる必要があるからである。
 したがって、保護者に対しては、「客観的な判断として面会は子どもにとってマイナスである」という説明ができなくてはならない。そのためにも保護者に対して、一時保護の理由をきちんと説明しておく必要がある。虐待と判断できるのに「育児が大変でしょうから、しばらく預かってあげましょう」という説得の仕方も有効な場合も多いが、いつまでもそのままでは、面会を拒否する理由にはならないので、配慮を要する。


8.保護者の強引な引取要求への対応について
 一時保護は保護者の意思にかかわりなく職権で実施できる。したがって、当初同意していた保護者が途中で引取りを要求したとしても、応ずる必要はない。一時保護決定が都道府県知事またはその委任を受けた児童相談所長によって解除されない限り、その効力は継続しているのであって、担当職員の判断で引取りに応ずることはできない。
 また、保護者による実力行使や担当職員に対する暴力行為等が予想されるときには、警察と連絡をとって、児童虐待防止法第10条に準じた対応を依頼することが適当である。(本手引き第3章参照)
 なお、保護者に不服申立てを促すことも有意義である。


9.家庭引取りさせる場合の子ども、保護者への指導上の留意点について
 子どもの家庭引取りは、虐待の再発の危険性が認められないことと、再発を防ぐ家族周辺の援助体制のネットワークが形成されているか否かにより判断する。

(1) 家庭引取りの適否判断に際して把握する事項
 虐待事例の一時保護は、保護者と分離して子どもの生命および安全の確保と情緒的な安定等を図る目的がある。一時保護して問題となるのは保護者の面会や引取要求への対応である。 面会は子どもの福祉を最優先して実施する。保護者の強引な面会要求には、子どもの福祉と権利を守る公的機関としての児童相談所の立場を伝えて対応する。
(1)保護者の発言の真相を調査確認する
 保護者によっては、子どもを早く引き取りたいために、「仕事を見つけました」「病院に受診しました」等虚偽の発言をする場合がある。ところが、家庭周辺の調査をすると事実と反する場合もあるので、必ず事実確認の調査を実施する。
(2)保護者の子どもに対する責任ある行動は引き取る際の重要な判断材料となる
 子どもに「面会に来るよ」「外泊の迎えに来るわね」等と約束しながら、実際には来所しない保護者もいる。このような場合、子どもは保護者に対して絶望感と裏切られ感を持ち、心の傷を深める危険性がある。保護者の責任ある態度と子どもの保護者に対する感情等を十分見極める。
(3)面会を通じて親子関係の変化を確認する
 通所、家庭訪問等により保護者に一定の改善が見られた場合は、親子関係再構築の作業として面会を実施することとなるが、面会前、面会中、面会後の保護者と子どもの言動等を行動観察して、子どもの心身の安全が確保されると判断できれば、外泊を実施する。
(4)外泊時の状況は家庭引取りの最終的な判断材料となる
 保護者は「子どもも変わりました」、子どもは「お父さん、お母さん、優しくなった」等と、双方とも面会の一瞬を捉えて問題解決されたと錯覚することが多い。外泊は一時保護後の親子の変化を相互に体験する機会となる。親子関係修復のため、面会、外泊等の回数および期間を変える等、個別の事例に応じて課題内容を検討して実施する。

(2) 家庭引取りに際しての確認事項
(1)社会資源の有無を確認するとともに、親戚、近隣知人等による援助の可能性を確認する
 社会資源を利用することは、保護者の精神的・物理的な負担の軽減につながる。例えば、家庭の養育機能の補完として保育所や放課後児童健全育成事業等を利用することは在宅生活を維持する上で重要であり、同時に虐待の再発を早期発見することにもつながる。また、在宅生活を維持する上で、親戚、近隣知人等の家族周辺の援助は重要な意味を有する。
(2)家族の状況観察と家族援助のためのネットワーク作りを進める
 家族の状況観察と家族援助を実施する場合、緊急時に即応できる相談援助体制、すなわち、セーフティーネットワークを整備する必要性がある。例えば、子どもの欠席が続く場合、保育所、学校等に家庭訪問を依頼して家族の状況観察を実施する。そのようなことを想定して家庭引取り前に関係機関との事例検討会等を開催して役割分担を決定しておく。
(3)保護者と子どもに在宅指導を実施することを確認する
 保護者に在宅指導の目的を伝えると同時に、子どもには安心感を与えるため、継続して児童福祉司等が関わると伝える。家庭引取り後も在宅指導を実施することを保護者、子どもに理解させることが重要である。
(4)児童相談所の立地的・物理的限界を考慮する
 交通手段等の事情により定期的な家庭訪問等が困難な場合、福祉事務所の社会福祉主事、区域担当の児童委員等に指導依頼する。その際、保護者に社会福祉主事、児童委員等が関わることを説明して同意を得るとともに、保護者と子どもに紹介する。この場合、福祉事務所送致、児童委員指導と併用して児童福祉司指導とするなど、児童相談所としては、指導を他機関に依頼した後も引続き進捗状況を把握するとともに必要な指導を行う。

(3) 子どもに対する留意事項
(1)子どもの意見を聴き、無理のない家庭引取りを考える
 子どもは「お父さん、変わるなんて嘘だ」「お母さん、優し過ぎて変な感じ」等と家庭復帰を拒む場合もある。児童福祉司と心理職員、一時保護所の職員等がチームを組んで、子どもの意見を聴き、不安を取り除く。また、子どもに無理のない緩やかな家庭引取りプログラムを検討する。
(2)子どもにも考えさせる
 子どもは一時保護所の生活に慣れると「保護所は楽しい」「家より施設に行きたい」等と話すことがある。保護者の不適切な関わりの結果、子どもも自分本位な態度をとったり、ささいな刺激に感情的に反応しやすくなっており、子どもの保護者に対する感情等に配慮しながら自分のことを自分で考える体験を積ませる必要性がある。
(3)子どもは、家庭引取りと同時に児童相談所との関わりがなくなるのではないかと不安を募らせるから、家庭引取り後も、通所、家庭訪問等により保護者や子どもの相談にのっていく旨伝え、安心感を持たせる。また、家庭引取り後、子どもは保育所および幼稚園、小学校、中学校等に復帰するが、保育所、学校等は児童相談所と密接な関係にあり子どもを心配する存在であることを理解させるため、一時保護中に保育所、学校職員等に子どもの面会を求める。
(4)子どもに身近な相談相手と緊急避難先を知らせる
 家庭引取りは虐待の再発の危険性が解消されたとの判断から実施するが、家庭引取り後、新たな要因により再発する可能性もある。子どもには虐待が再発した場合、親戚、近隣知人あるいは学校、福祉事務所、民生・児童委員(主任児童委員)等の緊急避難先を知らせる。幼児、小学校低学年の子どもの場合、自ら連絡したり、緊急避難することは難しく、緊急避難対策を事前に関係者間で検討しておく。

(4) 保護者に対する留意事項
(1)保護者の家庭引取りの判断材料は問題意識と問題解決能力の有無である
 保護者自らが虐待に至る要因に対して問題解決する意識を持っていると、第三者の援助を受け入れる可能性は高くなり、問題解決に向けて進展する。問題意識を持たせるため、保護者との関わりでは虐待に至るストレスの受容と、精神的・物理的な負担を軽減させることに力点を置く。
(2)虐待は世代間連鎖の問題がある
 保護者自身の被虐待歴を確認する。被虐待歴のある場合、保護者の辛さ、苦しさを共感する。また、保護者との面接中、子どもにとって肯定的な関わりと否定的な関わりを判別して、保護者の自己評価を高めるとともに否定的な関わりを排除するため、肯定的な関わりは賛成、同調して安定した親子関係を強化する。
(3)家族援助の際の留意事項
 保護者と児童福祉司等の間で信頼関係を結べるようになると、具体的な虐待要因の問題解決を図る段階へ移行する。例えば、経済困窮、保育所利用等の場合は福祉事務所を保護者に紹介するが、保護者と他機関との信頼関係が樹立されていない場合が多い。このため、児童福祉司が保護者に付き添い、他機関を紹介する等の配慮を要する。
(4)家庭訪問して一時保護前後の家庭環境の変化を調査する
 子どもの一時保護により家庭内の関係に変化が生じる。家庭訪問して夫婦関係および家族関係、親戚関係、保護者の内面的な変化等を把握するとともに、必要に応じ親戚および近隣知人、学校、民生・児童委員(主任児童委員)等から事実関係を確認する。それらの状況の変化を考慮しながら面会、外泊等の具体的な家庭引取りのプログラムを作成する。


10.委託一時保護の留意点は何か
 原則として一時保護は児童相談所の一時保護所を活用する。ただし、一定の場合には医療機関、児童福祉施設、里親、警察署その他適当な者に委託一時保護できることとなっている。
 その他適当な者とは民生・児童委員(主任児童委員)、親戚、近隣知人、学校の職員宅等が考えられる。

(1) 主な委託一時保護先の性格と留意事項
(1)民生・児童委員(主任児童委員)
ア.夜間、休日における子どもの緊急一時保護も、原則的に児童相談所による対応となるが、遠隔地および交通手段等の事情により緊急対応が困難な状況もある。そのような場合、区域担当の民生・児童委員あるいは、保護者との関係で家庭より離して一時保護することが望ましいと判断する時は主任児童委員への委託一時保護も考えられる。
 また、在宅指導中の事例で子どもの緊急避難先として児童相談所職員が駆け付けるまでの間、民生・児童委員(主任児童委員)宅に委託一時保護を行う場合もある。
イ.民生・児童委員(主任児童委員)に委託一時保護する場合は、当該家庭が個人宅であることに鑑み、緊急やむを得ない場合に限定的に実施する。
(2) 児童福祉施設
ア.乳児や重度の障害を有する子ども等は、児童相談所における一時保護が困難な場合がある。このような場合は、当該児童に対応できる施設への委託一時保護を検討する。
イ.一時保護所における行動観察、短期治療等を終えたものの、親権者等からの施設入所の同意が得られず、児童福祉法第28条第1項の申立て等により一時保護期間が相当長期化すると予測される場合は、子どもの生活環境や公教育等を考慮して児童福祉施設等への委託一時保護を検討する。

(2) 委託一時保護する一定の理由
 子どもへの虐待は常に昼間一時保護所に近い場所で発生するとは限らず、夜間や遠隔地で発生することもあり得る。子どもの年齢や心身の状況、地理的要件等を勘案して、やむを得ない場合は委託一時保護を考慮する。
 「児童相談所運営指針の改定について」(平成10年3月31日付児発第247号厚生省児童家庭局長通知)では、委託一時保護を行う一定の理由として下記のものを挙げている。
(1)夜間発生した事例等で、直ちに一時保護所に連れてくることが著しく困難な場合。
(2)乳児、基本的な生活習慣が自立していないため一時保護所において行うことが適当でないと判断される幼児の場合。
(3)自傷、他害のおそれがある等行動上監護することが極めて困難な場合。
(4)その他特に必要があると認められる場合。
 また、現に児童相談所において一時保護している児童で、法第28条第1項の申立て等により一時保護期間が相当長期化すると推測される場合においても、児童養護施設等への委託一時保護を検討する。

(3) 委託一時保護する際の留意事項
(1)委託一時保護はあくまで緊急的な措置であり、その目的を終えた場合、速やかに施設入所等他の処遇を実施する。特に里親、民生・児童委員(主任児童委員)、親戚、近隣知人、学校職員の家庭等、個人の家庭に委託一時保護を実施する場合は早急な対応を要する。
(2)委託一時保護は行政処分であり、処分権者(都道府県知事または児童相談所長)の解除を要件とするため、保護者が強く子どもの引取りを求めても委託一時保護受託者の判断で家庭に戻すことはできないことを徹底しなければならない。

(4) 委託一時保護の通知
 委託一時保護を行うに当たっては、一時保護の期間等について保護者と委託一時保護先に通知する。委託一時保護を解除した場合も同様である。
 なお、保護者に委託一時保護を通知する際には、行政不服審査法第57条の規定に基づく不服申立ての方法等を教示する。
 通知は文書で行うが、緊急を要する場合は、保護者等に対し口頭による通知および教示を行って、委託一時保護後速やかに文書通知する。なお、上記のような個人の家庭に委託一時保護する場合は、保護者等に個人の家庭について通知することとなるため、必要最小限の一時保護期間とし、場合によっては所在地を記載しないことも検討する。




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