あなたは、夫の暴力・DVを容認していませんか? 暴力のある家庭環境で暮らす子どもの心を守ることを忘れていませんか?

[Ⅲ-9]Ⅴ.DVのある家庭環境で育った子どもと母親のケア

29.虐待する親の回復の視点-MY TREEペアレンツ・プログラム-

 
 30.性暴力被害者支援の連携体制-SART(性暴力被害者対応チーム)- 28.暴力被害女性と子どものためのプログラム-コンカレントプログラム-
* 現在、この「手引き」は、第3次改訂の編集をおこなっています。編集終了後、差し替えていきます。

※ 『暴力の影響を「事例」で学ぶ。虐待とDVの早期発見・支援。母と子どもが暴力から脱するための手引き(マニュアル)』は、「DVを目撃して暮らしている子どもが、DVの最大の被害者である」との立ち位置で、「密接な関係にある児童虐待とDVの本質的な理解」に加え、「児童虐待とDVが、被害者である母親だけでなく、子どもの心までも破壊する可能性がある、つまり、胎児期を含めて脳の発達に大きなダメージを与える」ことを理解していただくために、一般的な抽象論ではなく、行動分析や脳科学、人類学、発達心理学などをベースに、前半の『はじめに』、『第1章(Ⅰ.密接な関係。児童虐待とドメスティック・バイオレンス)』、『第2章(Ⅱ.児童虐待と面前DV。暴力のある家庭環境で暮らす、育つということ)』は作成しています。
 マニュアル冒頭の『はじめに』では、「社会の女性や子どもへの暴力に対する理解」、「危機的状況がもたらす脳のトラブル」、「「事例で学ぶ」ということ-人類とは何者か、脳の発達論の見地でという考え方-」、「暴力描写や性的表現による「トラウマ反応」表出のリスク」、「第三者の支援を受け、暴力で傷ついた心のケアにとり組む意味」、「被害女性の家族や友人たちのアンカーとしての役割」、「被害者支援に携わる人たちに向けて」、「-付記- 「二重の被災」..東日本大震災とその後の虐待・DVの増加の影響は“これから”の問題-阪神淡路大震災、戦争体験によるPTSD発症、その後の人生に学ぶ-」というテーマで、このマニュアル全般に及ぶ着眼点や論点、問題提起をしています。この行動分析や脳科学、人類学、発達心理学などをベースにした着眼点や論点、問題提起は、その後に続く、『第1章(1-5節)』、『第2章(6-12節)』、『第3章(13-20節)』、『第4章(21-26)』、『第5章(27-31)』とそれぞれと相互する関連性がある、あるいは、説明の前提となっていることから、『第1章(1-5節)』、『第2章(6-12節)』、『第3章(13-20節)』、『第4章(21-26)』、『第5章(27-31)』をお読みになる前に、『はじめに』に目を通していただきたいと思います。


29.虐待する親の回復の視点-MY TREEペアレンツ・プログラム-
(1) MY TREEペアレント・プログラムの特徴
(2) セッション・プラン


 虐待があるとして一時保護措置により親子分離がされたあと、“親子(家族)の再統合”へとつなげることを目的として開発された「MY TREEペアレンツ・プログラム*」を、以下、「マッセOSAKA 研究紀要(第16号) 特集:児童虐待防止への対策と支援特集」の「5.虐待する親の回復支援の視点 ~MY TREEペアレンツ・プログラムの実践から~」をもとに紹介したいと思います。
*「MY TREEペアレンツ・プログラム」は、エンパワメント・センターの森田ゆり氏が、親子再統合へ向けた司法制度の受け皿として開発したものです。開発のきっかけは、平成12年、衆議院青少年特別委員会における虐待防止等に関する法律の法案審議の参考人として参加し、「深刻な虐待ケースで、児童福祉法28条の適応によって親子分離がされたあと、親が虐待的行動を終止する回復プログラムを受講・修了することを義務づけ、親子再統合へとつなげる、そこに家庭裁判所が直接関与する法制度をつくることが必要不可欠である」との主張に対し、議員に「そういうプログラムはすでにあるのですか」との質問があったことと述べています。当時、育児不安に悩む母親への支援プログラムはあったものの、深刻な虐待行動の終止を目的としたプログラムはなく、「法制度の理想を主張しても、その受け皿がなければ法律条文を策定できない」と強く思ったことが開発にとり組んだモチベーションとなったということです。

 先に記してきた「Ⅴ-28.暴力被害女性と子どものためのプログラム(コンカレントプログラム)(1)-(3)」と同様に、「MY TREEペアレンツ・プログラム」などのプログラムの必要性は、例えば、平成20年5月兵庫県伊丹市で、菅明日香(5歳)ちゃんが、母親から暴力的に揺さぶられ、揺さぶられ症候群で死亡し、虐待容疑で逮捕され起訴される事件に明確に示されています。
 死亡した女児は、母親の養育拒否(ネグレクト)から1歳5ヶ月で乳児院に入所し、家庭に戻されたあと、右腕骨折により虐待として一時保護されて児童養護施設への措置入所、同年20年2月、施設からの措置解除後に家庭に戻った直後から「首付近に痣がある」などして、近隣住民から3回通報があり、児童相談所が母親と面談しているものの、再び保護する判断はされないまま、児童の死に至ったのです。二度にわたり親子分離し、しかも、措置解除直後に虐待通報を受ける中でも「家族再統合」を目指したわけですが、そこには、親子再統合に向けてのプログラムは存在していませんでした。虐待を繰り返す母親の中には、「自分の虐待行動の非を認め、子どもへのかかわりを変えたい」と、自ら児童相談所(子ども家庭センター)などに助けを求めようとする人たちも少なくないのです。
 そして、児童相談所や児童養護施設の職員の多くが、「親が変わらなければ子どもは自宅に帰れない。親への指導やサポートが大切なのはわかっている。しかし、うちには1人の子にそこまでできるだけの体制がない。両親をサポートする機関がもっとあればと思う。“この親はだめ”ではなく、親をどう支援していくかが課題だ。」と認識しているものの、先のような状況は、平成27年10月現在も変わっていません。
 虐待する親の立ち直り支援のためには、虐待行動を病理として捉え、診断名にこだわるのではなく、個人の苦しさ、困り感、その背景に着目し、生きること全般に対する困難課題を、自らが気づいていけるように支援することが重要です。
虐待を繰り返してしまう親の多くは、次のような問題を抱えて苦しんでいます。
・低い自己肯定感
・孤立感と疎外感
・心の余裕がない
・感情の意識化、言語化に乏しく、攻撃的な言動になりやすい
・放置されたままになっているトラウマ。過去の加害または、被害体験による未解決なトラウマと抑圧している感情(罪悪感、喪失感など)
・歪んだ子ども観や誤った躾
・ジェンダー・バイアス(性別役割意識):母性神話と父権神話への囚われ
・ドメスティック・バイオレンスの被害または加害
・うつ症状、PTSD、依存症など精神的身体的不調
・特別なニーズを必要とする子どもの負担:夜泣きの激しい子ども、多動な子どもなど

(1) MY TREEペアレント・プログラムの特徴
① 対象者を明確に限定している
 不安、孤立、生きること全般への自信のなさ、配偶者や家族との関係の悪さ、躁鬱、PTSD症状、未解決の傷つき体験(トラウマ体験)などを背景に子どもへの虐待的言動やネグレクトが顕著な保護者を対象に、ジェンダー別に約10人のグループを構成しておこなわれます*。
* 育児不安はあるものの虐待はおこなっていない保護者については、別の親子支援プログラムを紹介しています。

② プログラムの達成目標を明確に設定している
 目的はセルフケアに加え、問題解決力を学ぶことを通じて、子どもへの虐待的言動を終止することを目指します。
(具体的な“達成目標”)
・安心して、自分、子ども、家族の問題を語れる場を持つ
・呼吸法、リラクゼーション、単純な太極拳や気功の動作などを学ぶことによって、身体、思考、感情のハーモニーとコントロール法を体得する
・自分について新しい気づきを得る
・子どもが内に持つさまざまな力に気づく
・子ともにダメージを与える子育て(体罰、暴言、脅し、いじめ、侮蔑、無視、無関心、教育放棄、過剰期待、過剰保護)を脱学習する
・体罰に代わるしつけのスキル、アイディアを学び、練習する
・感情表現、アサーティブなコミュニケーションスキルを学び、練習する
・虐待的な子どもへのかかわりを意識的に終止する

③ エンパワメント
 虐待にいたる家族の背景や要因はさまざまですが、虐待的言動を繰り返してしまう親の多くは、過去に人として尊重されなかった深い痛みをかかえていることから、その体験がもたらすトラウマやその他の障害から心身のバランスを崩しています。その結果、人間関係にさまざまな問題を抱えてしまっている。有効なしつけや子育てのスキルがないから虐待するのではない。体罰に代わるしつけの方法や、効果的なコミュニケーション力を身につけることも大切だが、まずは、人としてしっかりと受容され、尊重される体験を通して、自分の存在を認め受け入れ、語ることのなかった痛みの感情に気づき、自分の持つリソースを発見していく契機となるエンパワメントの関わりが不可欠である。
a) 支持的環境
 人に内在するさまざまな力は人間として尊重され、かつ受容されます。安心して支持的関係性の中で最も活性化されます。
b) グループ・エンパワーメント
 参加者の中には、自分の経験や気持ちを率直にことばにしたことで批判されたり、馬鹿にされたりする経験をした人が少なくありません。誰からも受けとめられないことから、受容できなくなった自分のストーリーこそが語られることが大切なのです。自分の体験と他人の語るストーリーの接点を見だし、他人の痛みに共感し、自分の痛みに涙してくれる人と出会うことで、孤立感は連帯感に、帰属感にとってかわられることになります。
 グループに参加する人の多くは、「八方塞がりの状態で選択肢はなにもない」と思っています。その思いは、絶望感、あるいは無力感の状態に近いものです。グループミーティングは、そのような状態から脱けだそうとする“内的な力”を揺りおこします。グループ心理教育は、対象者を明確に定めて目的を明確に設定し、それを参加者と共有し、適切にしたうえで、注意深いファシリテーション・スキルのもとに進行することができれば、相乗的なエンパワメントを可能にすることができます。
c) 問題解決力が生まれる
 安心な場で自分の気持ちに正直に語ったことに傾聴し、共感してもらうことで、参加者は自分への自信をとり戻していきます。その積み重ねは、“自分で問題解決ができる”との自信をとり戻すことにつながり、また同時に、問題解決の選択肢をいくつも考えることができます。
 他の人の経験、工夫、努力の話しを聴き、「今度、わたしもそうしてみようかな」との思いが芽生えます。実践者(ファシリテーター)からの適切な助言を得て、八方塞がりの壁の一面が落ちたような気持ちになります。こうした積み重ねにより、「自分にも選択肢はある」、「これをやってみよう」と自から選んでいくことができるようになることが、問題解決力を身につけていく重要なプロセスなのです。

④ ホーリスティック・アプローチ
a) 虐待とは、親としてのライフスキルのなさから起きるのではなく、これまで人として尊重されなかった深い痛みや悲しみを、怒りとして子どもに爆発させている行動です。したがって、子育て支援、養育支援に限定することなく、さらに、母親として、父親として、妻として、嫁としてといった分断されたアイデンティティとして参加者を見るのではなく、人としての全体性の回復を視野にした姿勢が重要です。
b) 木や太陽や風や雲からも生命力の源をもらうという人間本来のごく自然な感覚をとり戻すために、身体、感情、知性、理性、魂(ソウル)のすべてに働きかけます。そして、自分の苦しみに涙してくれる仲間がいるという人とつながれることの喜びは、本来、誰もが内に持つ健康に生きる力を活性化させます。

⑤ 心理教育(Psycho-educational approach)
<まなびのワーク>13回の参加型心理教育カリキュラム
<自分をトーク>への適切なコメント返しがもたらす効果


(2) セッション・プラン
<電話でのスクリーニング、または、担当ケースワーカーからの紹介>
<開始前 個人面接>
1回目 安心な出会いの場:目的、約束事、身体ほぐし
2回目 安心な出会いの場:私の木、Iメッセージ
3回目 私のエンパワメント
4回目 怒りの仮面
5回目 感情のコントロール
6回目 体罰の6つの問題
<中間 個人面接>
7回目 気持ちを聴く
8回目 気持ちを語る
9回目 自己肯定感:否定的ひとり言の掃除
10回目 自分をほめる、子どもをほめる
11回目 母親らしさ 父親らしさ(母親グループバージョン)
12回目 もっと楽なしつけの方法
13回目 MY TREE
<終了時 個人面接>
 3ヶ月・6ヶ月後リユニオン

⑥ 例え話とシンボルを多用した心理教育は、参加者がプログラム終了後も自分で使っていける道具を手わたしていくことが重要です。そこで、毎回、木についての短いエピソードをわかちあったり、感情のコントロール法を「怒りの仮面」、「死の危険」といったシンボル的に学ぶ方法を身につけたりしていきます。

⑦ 熟達したグループ・ファシリテーション・スキルは、適切なコメント力、質問力につながります。

⑧ コミュニティ(地域のネットワークをフルに活用した協力体制)
 児童相談所、保健センター、家庭児童相談室、学校、保育所からの連携支援を受けながら実施していきます。

⑨ ジェンダーの視点
 配偶者との性的関係、嫁姑の確執などが、大きなストレッサー(寒暑、外傷、怒り、不安、緊張など、ストレスをひきおこす物理的・精神的因子のこと)になっている人も少なくありません。また、性的虐待の被害体験を語る人もいることから、それらを安心して語れる場を保証するために、性別グループをつくります*。
* 酒害(アルコール依存症、問題飲酒)から回復し、自力更生するために、相互援助団体(自助会、自助グループ)でおこなわれている「断酒会」はよく知られていますが、その多くは、ジェンダーの視点は重視されず、男女が同じ場で話し合うことが少なくないのです。例えば、「なぜ、アルコールに依存するようになったのか」というテーマが設けられたとき、女性が「性的虐待を受けてきた、レイプされたことが“きっかけ”となった」と語ることもあり、以降、男性参加者に、「親に性的虐待されてきたんや」、「レイプされたんだとよ」と“色眼鏡”でみられたり、面白おかしく語られたりするだけでなく、「だったら、俺にもさせろよ」とセックスを執拗に求められたりするなど、決して安全、安心が担保されていない中でおこなわれていないことがあります。そういった意味で、ジェンダーに配慮することは重要であるにもかかわらず、軽視されているのが実情です。

⑩ スーパービジョンの下で実践
 プログラムの実践者は、既に、虐待ケースに携わった経験のある臨床心理士、福祉士、看護師、助産師、カウンセラーや子育て支援活動をしてきたコミュニティリーダーなどで、このプログラムを実施するための研修を修了していることが必要不可欠です。加えて、すべての実践者のスーパービジョン会合と、各グループへの個別のスーパービジョンを必要に応じて実施されます。




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