あなたは、夫の暴力・DVを容認していませんか? 暴力のある家庭環境で暮らす子どもの心を守ることを忘れていませんか?

[Ⅲ-5]Ⅱ.児童虐待と面前DVの影響。暴力のある家庭で暮らす、育つということ

-基礎編- 8.虐待の発見。DV家庭における子ども

 
 9.脳と子どもの発達 7.被害者心理。暴力でマインドコントロールされるということ
* 現在、この「手引き」は、第3次改訂の編集をおこなっています。編集終了後、差し替えていきます。

**「Ⅱ.児童虐待と面前DVの影響。-暴力のある家庭環境で暮らす、育つということ-」は、「プロローグ-1.人の脳の機能は、生まれ育った環境に合うようにつくられる」で示した問題提起に準じて、より詳細に、より具体的に説明するものです。

Ⅱ.児童虐待と面前DVの影響。-暴力のある家庭環境で暮らす、育つということ-
-基礎編-
8.虐待の発見。DV家庭における子ども
(1) 子どもが最大の被害者
(2) 子どもは心を傷めている
  ・事例106
(3) 子どもの複雑の思いを理解する
(4) 子どもに表れる影響
 ・事例107-128
(5) 子どものSOS(発信するサイン)を見逃さない
・6つのこ食
 ・「食べてよい」、すなわち「おいしい」
  ・味は必要、危険のシグナル
  ・おいしさは食欲を刺激する
  ・おいしさは生命維持のために備わった快感
・砂糖の過剰摂取(ペットボトル症候群)と低血糖症
・心身の健康にはミネラルが欠かせない
  ・情緒不安や体調不良。見逃しがちな気象変化

9.脳と子どもの発達
(1) 脳の仕組み
(2) 脳の発達(乳児期:0-1歳)
(3) 脳の発達(幼児期早期:1-3歳)
(4) 脳の発達(幼児期後期:3-6歳)
(5) 脳の発達の臨界期(感受期)
(6) 学童期(6-12歳)
(7) 思春期(10-15歳)と青年期(15-22歳)
(8) 男性と女性の脳の違い

10.トラウマと脳
(1) トラウマ(心的外傷)になりうるできごとに直面すると
(2) 単回性トラウマの子どもに見られる行動
(3) 慢性反復的トラウマがひきおこす7つの問題

11.慢性反復的トラウマの種類(児童虐待分類)と発達の障害
(1) ネグレクト(育児放棄)
<ネグレクトによる発達の障害>
(2) 身体的虐待
<身体的虐待による発達の障害>
(3) 心理的(精神的・情緒的)虐待
<精神的虐待による発達の障害>
(4) 性的虐待
<児童期性的虐待の基準(ハーマン著「父-娘 近親姦」抜粋)>
<性的虐待による発達の障害>

-応用編-
12.暴力のある家庭で育った子ども。発達段階で見られる傾向
(1) 乳児期。既に、母親と父親との関係性を理解している
 ・乳児部屋のおばけ
  ・産後うつ
(2) 発達の遅れ
 ・睡眠不足症候群(ISS)
  ・小児慢性疲労症候群(OCFS)
(3) ツラさを体調不良で訴える
 ・子どもの心身症
  ・子どもの気分障害
(4) ファンタジー色の強い子どもの解離
(5) 子どもが“ズル”をする深層心理
(6) 学童期(小学校低学年)にみられる被虐待児童たちの行動特徴
(7) 暴力を受けて育った子どもの脳では、なにがおきているか
(8) 反応性愛着障害(RAD)
(9) 失感情言語症(アレキシサイミア)と高次神経系トラブル
(10) 危機とPTSD
(11) 自己正当化型ADHDとAC
(12) 思春期・青年期の訪れとともに
 ・がまんさせられること、抑圧されることはなにをもたらすか
  ・父母の不和と暴力は、子どもの心の土台になる安心感と愛着を揺さぶる
 ・家族間の信頼関係を損なった子どもたち
  ・親に配慮しなければならない状況は、子どもに緊張を強いている
  ・子どもにとっての緊張とは
・親にとって都合のいい従順な子は、ありのままの私を認めて欲しいと訴える
  ・周りが輝いて見えるとき、人とのかかわりを避ける
  ・子どものために、“しつけ”と銘うった暴力が、子どもを従順な子にさせる
 ・思春期、男の子は14歳が母子間におけるターニングポイントになる
  ・女の子は、自分の命が大切だからこそ、傷つける価値があると思う
(13) 問題行動としての“依存”
  ・事例129-130
(14) 子どもに手をあげる背景。幼児期に抑圧された怒り
  ・事例131-136
(15) 回避的な意味を持つ子どもの「非行」
 ・事例137(事件研究22:広島県16歳少女集団暴行死事件(平成25年6月))
  ・事例138(事件研究23:大阪2児餓死事件(平成20年7月))
(16) 「キレる17歳」、理由なき犯罪世代
 ・事例139(事件研究24:栃木女性教師刺殺事件(平成10年1月))
 ・事例140(事件研究25:豊川主婦刺殺事件(平成12年5月))
  ・事例141(事件研究26:西鉄バスジャック事件(平成12年5月))
 ・事例142(事件研究27:岡山県金属バット母親殺害事件(平成12年6月))
  ・事例143(事件研究28:会津若松母親殺害事件(平成19年5月))
 ・事例144(事件研究29:八戸母子殺害放火事件(平成20年1月))
(17) アタッチメントを損ない、抑圧がもたらした凄惨な殺害事件
  ・事例145(事件研究30:東大浪人生父親殺害事件(平成7年4月))
 ・事例146(事件研究31:光市母子殺害事件(平成11年4月))
  ・事例147(事件研究32:音羽幼女殺害事件(平成11年11月))
 ・事例148(事件研究33:佐世保小6女児同級生殺害事件(平成16年6月))
  ・事例149(事件研究34:宇治学習塾小6女児殺害事件(平成17年12月))
 ・事例150(事件研究35:奈良自宅放火母子3人殺害事件(平成18年6月))
  ・事例151(事件研究36:秋葉原無差別殺傷事件(平成20年6月8日))
 ・事例152(事件研究37:柏市連続通り魔殺傷事件(平成26年3月))
  ・事例153(事件研究38:北海道南幌町母祖母殺害事件(平成26年9月))

13.PTSDとC-PTSD、解離性障害
(1) PTSDになると、どうなるか?
(2) PTSDの主要症状
(3) C-PTSDの主要症状
(4) C-PTSDと不安障害、人格障害
(5) 性暴力被害と解離性障害
  ・事例154-182
 ・皮膚から心地よい安心感をとり組む女性が、性的虐待を受ける残酷さ
  ・「レイプ神話」という間違った考え
  ・セックスをどう捉えるかは、思春期までに受けた親の影響
 ・事例183(事件研究39)
(6) 摂食障害とクレプトマニア(窃盗癖)
 ・事例184-185
(7) 解離性障害とアルコールや薬物依存症
  ・事例186(分析研究15)
  ・アルコール依存とギャンブル依存の相関
 ・事例187-189

14.パラフィリア(性的倒錯・性嗜好障害)
(1) 精神疾患としてのパラフィリア(性嗜好障害)
(2) フェティシズム
  ・事例190(事件研究40:宝塚市窃盗・少女強姦事件(平成25年12月))
(3) 露出症・窃視症
(4) 性的マゾヒズムと性的サディズム
  ・窒息プレイ
 ・事例191(事件研究41:京都連続強盗・強姦事件(平成22年7月-10月))
(5) 性的サディズムを示す刻印という“儀式”
(6) 小児性愛(ペドファリア)
 ・日本のロリコン事情と児童ポルノ
  ・女の子は母親と父親に興味を示し、男女関係、夫婦関係を学ぶ
  ・事例192(事件研究42:奈良小1女児誘拐殺人遺棄事件(平成16年11月))
 ・事例193(事件研究43:倉敷市女児監禁事件(平成26年7月))
(7) パラフィリア(性的倒錯)の夫との性生活
  ・事例194-195
(8) 性的サディズム、露出性愛者の夫による性暴力
 ・事例196(分析研究16)
(9) 性的サディズムと人格障害などが結びついた誘拐監禁・殺傷事件
  ・事例197(事件研究44:新潟少女監禁事件(平成2年11月(発覚:平成12年1月)))
 ・事例198(事件研究45:北海道・東京連続少女監禁事件(平成13年-平成17年))
  ・事例199(事件研究46:東京・埼玉連続幼女誘拐殺人事件(昭和63年8月-平成元年7月))
 ・事例200(事件研究47:大分県一家6人殺傷事件(平成12年8月))
  ・事例201(事件研究48:大阪姉妹殺害事件(平成17年11月))
 ・事例202(事件研究49:自殺サイト連続殺人事件(平成17月2月-))
  ・事例203(事件研究50:付属池田小児童殺傷事件(平成13年6月))
 ・事例204(事件研究51:神戸連続児童殺傷事件(平成9年2月))
  ・事例205(事件研究52:佐世保同級生殺害事件(平成26年7月))
 ・事例206(事件研究53:名古屋大生殺害事件(平成27年1月))
(10) 福祉と医療、教育。行為障害、反抗挑戦性障害者のサポート

15.ACという考え方と人格障害(パーソナリティ障害)
(1) ACという考え方
(2) どうして、ACになってしまうのか?
(3) 時に、ACは母親がつくる
 ・事例207
(4) ACと人格障害、そして、ACの破綻
(5) ACのカウンセリング、認知の修正
(6) ACに“共依存”の傾向がみられるとき
(7) 共依存からの回復
(8) 仮面うつ病(非定型うつ病・新型うつ病)
(9) 人格障害と呼ぶ前に..
(10) 人格障害(パーソナリティ障害)とは
(11) 人格障害の治療
(12) 児童虐待やDVといった暴力も依存症のひとつという考え方

第1部の結びとして



Ⅱ.児童虐待と面前DVの影響。-暴力のある家庭環境で暮らす、育つということ-文字

 「虐」という字は「虎」が「爪で傷つける」という意味があります。
虐待の定義は大人が子どもに不当な権力行使をし、その結果、子どもの心身に重大な影響が生じることをいいます。
「しつけ」との違いは、「子どもの側から見て、親との間に不適切なかかわりがあり、結果、子どもの心身になんらかの障害が認められるかどうか」ということになります。
つまり、子どもの人権を無視した大人の誤った力の行使はすべて虐待とみなされることになります。
子どもが、両親間のDVを目撃すること(面前DV)が、「児童虐待の防止等に関する法律(以下、児童虐待防止法)」で“精神的(心理的)虐待”とみなされているわけですが、「子どもの将来のため」と教育という“一定の条件下”であれば、体罰などを伴う厳しいしつけやいき過ぎた教育などを容認してきた日本では、「親との間に不適切なかかわり」「子どもの人権を無視した大人の誤った力の行使」の“解釈のレベル”は相当低くなっています。
 虐待が子どもに及ぼす影響は、a)子どもの身体生命への危険に加え、b)子どもの心に深い傷を残し、生き難い人生を送ることになったり、将来の犯罪につながりやすくなったりするということと、c)次世代にも虐待をひきおこす“虐待の連鎖”などをもたらすことです。
「子どもの愛し方がわからない」、「どう接したらいいのかわからない」、「なぜなら、私は親から殴られ、罵倒されて育った」と、親からされてきたことでしか接することができないなど、虐待の背景のひとつには、親から暴力を受けて育っていたことがあります。
「あんな親のようになりたくない」と固く誓った子どもが、成長し、親となったとき、親と同じやり方でしか子どもに接することができない悲劇が、児童虐待・DV問題の背景に存在しています。
「親に与えられたやり方でしか子に与えられない」ように、子どもは、親の下で学び、すり込んだ暴力で支配する親子関係を青写真のようにゆっくりと時間をかけコピーしてしまうのです。
児童虐待・DVの世代間連鎖と呼ばれるものです。

-事例108(虐待の世代間連鎖)-
両親と長男に4人家族で暮らしていた3歳の女児Fが、母親Sから虐待されていました。
児童相談所に通報があり、訪問した職員に対し、母親Sは、「Fが女だから」、「Fがグズグズする」、「Fができることをわざとしない」という理由があるのだから、「叩いてでも、教えるのが親の務めだ!」と応じました。
その母親Sは、その母親であるPからかなり厳しく育てられていました。
つまり、Sは、母親Pから叩かれて育っていました。
そして、Sは、「自分が悪かったから、親から叩かれた」と認識していました。
夫Nは、Sがこうした家庭環境で育っていることを知っていました。
夫Nによると、妻Sに「あんただって、親から叩かれたときは嫌だっただろう。それなのに、どうして、自分の子どもにてをあげるのか?!」と問い詰めたとき、Sは、「子どものころは嫌だったけれども、いま考えると叩いてでも教えるのが親の愛情だ。いまでは叩かれたことに感謝している。」と応じたといいます。
一方で、長女Fと2歳違いの長男に対して、Sは、「お兄ちゃんはかわいい。この子は女だから嫌い。」と述べています。
Sのこの発言から、S自身が「女として生まれたことを受け入れることができていない」という“女性性”に問題があることがわかりました。
S自身は、このことには無自覚で、「子どもは、叩いてでも教えるのが親の務め。それが、親の愛情だ。」と思い込んでいます。

 この事例108で、重要なことが2つあります。
ひとつは、Sが「叩く以外の方法を知らない」ということです。
S自身が、子どもときに、失敗したり、親のいうことをきかなかったりしたときに叩かれていたので、叩く以外のしつけ方を知らないのです。
そして、どのようなときに、どのようなタイミングで、子どもをほめたらいいのかもわからないのです。
Sのように、子どもに虐待を加えている保護者自身が、子どものとき親から虐待をされて育っているときには、子どもの叱り方、そして、ほめ方を具体的に教えていくことが重要です。
 もうひとつは、母親のSが「自分を叩いて育ては親の行為には、自分への愛情があったからで、叩かれたのは自分が悪かった」という認識に至っているということです。
 ここには、「親が自分を叩くのは、自分のことが嫌いだからだ」と思いたくない(受け入れたくない)という心理が働いています。
子どもは、「親は、本当は自分のことを愛してくれている。自分が悪いから自分のためを思って叩いている」と思うことで、親の下で生活することができるのです。
 なぜなら、幼い子どもは、親の庇護下でしか生きていけないからです。
 表面的には、子どもは、「見捨てられ不安」から開放されます。
 しかし、子どもの心の中では、「愛情と暴力」を結びついしまうことになります。
このことは、子どもが、暴力のある家庭感情に順応し、生き抜くために身につけてしまった考え方の癖(認知の歪み)と捉えることができます。
 それは、「親に叩かれるは嫌だったけれども、親は、自分のことを愛しているから叩いて、間違い正してくれた」と自分を納得させることで、心の安定をはかってきた考え方の癖(認知能力)です。
 この自分を納得させ、心の安定をはかることができた考え方の癖(認知の歪み)は、自分が親になったとき、「自分は子どもを愛しているから、間違ったことをしていない」と、子どもを叩く行為を正当化させ、心の安定をはかろうとします。
 場合によっては、子どもを叩くことで、「自分が親から愛されていた」ことを確認していることもあります。
 ここに、虐待の世代間連鎖の根が深い問題があります。

 虐待の通報を受けた子どもの年齢分布は、0-3歳が20%、3歳-学齢前が25-30%、小学生35-38%、中学生10-15%、高校生5%で、学齢前で45-50%となっていますが、子どもが死亡する児童虐待事件では、約70%が3歳未満(0歳が40-50%)で約70%を占めています。
ここで、加えて理解しておかなければならないことは、親と子どもの間に身体的な暴行(虐待)がおこなわれている家庭の60-70%では、夫婦の間にも身体的な暴行(DV)がおこなわれているという事実です。
つまり、児童虐待とDVは非常に密接な関係があるということです。
しかし、親の暴力を目の前で見たり、聞いたり、察したりする子どもが、精神的虐待を受けている(面前DV)と認識され、通報され、早期支援を受けることはほとんどないという現実があります。
このことは、面前DV(精神的虐待)被害を受けている子どもが、学齢前までに通報されるなど警察や児童相談所がかかわる機会がないまま学齢年齢に達し、入学してくることを意味します。
ここには、面前DV被害(精神的虐待)を受けた子どもへの影響を軽視している、もしくは、影響があると思っていないという現実があります。
ここで、2つの点を問題提起したいと思います。

 ひとつは、子どもが、親の暴力を目の前で見たり、聞いたり、察したりする面前DV(精神的虐待)被害を受けている家庭では、母親の多くが婚姻前、妊娠中を含めてDV被害を受けている、つまり、第1子の就学時には、児童の母親は少なくとも7年以上(胎児期を含む)にわたってDV被害を受けているということです。
このことは、同時に、第1子もまた、脳の発達上もっとも重要な時期となる胎児期、乳児期、幼児期早期・後期の7年以上にわたって、暴力のある家庭環境で育ってきていることを意味しています*-1。
 長期化するDV被害の特徴は、身体的な暴行よりも、日常的に否定され、非難・批判され、侮蔑され(バカにされ)、卑下される(見下される)ことばを浴びせられるといった「ことばの暴力(精神的暴力)」が“主(中心)”であることです*-2。
こうしたDV環境下では、母親が「子どもには父親が必要だから」、「子どもが学校をでるまで」と、自分自身で暴力のある家庭で暮らす理由づけをしてしまい、結果として、子どもを虐待環境で暮らすことを強いてしまっていたり、DV被害を受け強いストレスにさらされてきた母親が、子どもに虐待をおこなっていたりすることがあります。
例えば、乳児が泣いたとき、夫に「うるさい! 俺は仕事で疲れているんだ! 泣かせるな!」と怒鳴り声をあげられたり、殴られたりした妻は、怒鳴られたり、殴られたりしないために、乳児が「お腹がすいたよ」、「うんちをしたよ」、「オムツが気持ち悪い(冷たい)よ」と泣く前、つまり、乳児が自分の気持ち(意志)を伝える前に、おっぱい(ミルク)を与えたり、オムツを交換したりすることで、夫の気分を害しないように、夫を怒らせないように気を配るようになります。
この行為が、母親が子どもに過剰に干渉したり、詮索したりする(過干渉・過保護になる)大きなきっかけになっている事実があります。
一方で、この行為(こうした夫婦間のやり取り)には、「乳児が泣くせいで、私が怒鳴られたり、殴られたりしてツラい思いをさせられている」という感情を伴います。その感情は苛立ちになり、怒りとなって子どもにツラくあたる、つまり、怒鳴りつけたり、暴言を吐いたり、殴ったりする行為につながっていきます。
ここには、「配偶者からのDVがなければ、児童虐待に至ることはなかった」という構図も見えてくるわけです。
 ことばの暴力が主となるDV被害は、家庭外には見えにくく、また、2次被害ともいえる子どもへの虐待(過干渉・過保護、いき過ぎた教育(教育的虐待)を含む)を招いていることが少なくなく、その影響は、「はじめに」、「プロローグ」の「1.人の脳の機能は、生まれ育った環境に合うようにつくられる」に記しているように、計り知れないほど甚大なものです。
深刻な虐待と認識され難い「ことばの暴力(精神的虐待)」は、わかりやすい外傷(骨折、外傷や打撲痕、うっ血痕など)を示す身体的な暴行(体罰)とは違い、眼に見えない脳に影響を及ぼします。
重要なことは、胎児期に最初に脳幹を形成し、2歳10ヶ月までに90%の脳機能を形成し発達させていくことになるということです。
脳幹の形成期に強いストレスにさらされると、脳(心)の安定に欠かせないセロトニンやドーパミンなどの脳内伝達物質の分泌・調整、自律神経の働きなど、生存そのものに影響がでることになります。
 セロトニン不足は、「うつ病」を誘発し、副交感神経の働き(リラックスする)を損ない、交感神経と副交感神経のバランスを崩します。自律神経の不調は、呼吸、消化、体温調節、ホルモン分泌などさまざまな機能に影響を及ぼし、体調不調を招きます。
そして、恐怖や不安のコントロールが効かなくなり混乱を招き、動悸や呼吸困難などの身体症状をみせる「パニック障害」をひきおこします。
そして、注意力散漫で多動、感情をコントロールしにくいなどの症状をみせる「ADHD(注意欠陥多動性障害)」も、脳幹形成期のセロトニンの分泌に影響がでたことが発症原因のひとつとされています*-3。
「怒りのホルモン」といわれ、「意欲」「不安」「恐怖」「緊張」といった感情・精神状態と深い関係があるノルアドレナリンは、多くの動物に分泌されている原始的な物質(生物の生存本能の源泉)で、危険(ストレス)を察知すると、交感神経を刺激し、心拍数や血圧を上昇させ、覚醒、集中、判断力の向上、痛覚の遮蔽などの効果をもたらし、脅威(外敵など)に対抗する働き(闘争か逃走)を促します。
また、「性格形成のホルモン」ともいわれ、ノルアドレナリンの分泌バランスがとれていると、ストレスへの耐性が強く(がまん強く)、物事の判断力に優れ、危機に立ち向かう率先した行動をとることができます。
「ドーパミン→ノルアドレナリン→アドレナリン」の順序で生成され、ノルアドレナリンが不足すると、仕事や学習の効率低下、注意力の散漫、外部からの刺激に鈍くなることで意欲や判断力が低下、無気力、無関心となり、いわゆる抑うつ状態の症状が現れ、うつ病をはじめとする精神疾患を発症させます。
一方で、ノルアドレナリンが過剰に分泌されると神経が昂り、イライラしやすく、落ち着きがなくなり、キレたり攻撃的になりやすくなります。そして、ストレスによりノルアドレナリンの分泌量が慢性的に過剰になると、次第にノルアドレナリンは減少し、枯渇することになります。
その結果、ストレス耐性が下がり、パニックをおこしたり、キレやすくなったり、消極的な感情(恐怖感、自殺観念、強迫観念、不安感など)をひきおこす原因にもなります。
ノルアドレナリンと同じく、ストレスに反応して分泌されるストレスホルモンであるコルチゾールは、過剰に分泌され続けることで脳細胞を破壊して死滅させてしまいアルツハイマー型認知症を発症させます。
血圧や血糖などを上げる作用があるノルアドレナリンが、慢性的な過剰状態は高血圧や糖尿病の発症要因となります。
 また、ドーパミンの過剰分泌は「統合失調症(精神分裂病)」の発症原因とされ、幻聴や幻視を招きます。
ドーパミンが過剰に分泌され続けると、以前と同じ刺激ではドーパミンによる快感が得られなくなってしまうために、麻薬のように、さらなる刺激(快感)を求めてエスカレートして依存行為に走ってしまうことになります。
逆に、ドーパミン不足は、手足の震え、手足の関節が固くなったり、身体のバランスが悪くなったり、動きがぎこちなくなったりするといった症状を見せる「パーキンソン病」、足がむずむずと火照ったように感じられ、気持ちの悪い不快感を覚える「むずむず足症候群」の発症原因となっています。
さらに、手洗いや確認など特定の行為に執着して繰り返さずにはいられない「強迫性障害」は、セロトニンとともにドーパミンの分泌量が低下しておきる症状です。
このように、脳幹形成期の胎児が強いストレスにさらされると生存そのものに影響がでる、つまり、出生後の人生に大きな影響が及ぶことになるのです。
そして、出産後の発達過程に負った不適切な養育による心の傷は、認知や情緒面の発達に深く影響を及ぼすだけでなく、脳自体の機能や精神構造に永続的なダメージを与えます。
子どもの脳では分子レベルの神経生物学的な反応が幾つもおこり、それが神経の発達に不可逆的な影響を及ぼします。
不適切な養育によるストレスは、認知機能の発達を阻害し、知的障害・学習障害のような様相を示したり、記憶や情動を適切に制御する力を損なうことで落ち着きのなさや多動傾向・衝動的な傾向を示したり(注意欠陥多動性障害:ADHDなどの発達障害)、フラッシュバックや夜驚、ぼんやりしたり、記憶が欠落したりするといったような解離症状を示すことがあります。
 子どもが幼少時期に安心して生活することができず、いつも不安や恐怖に脅え、自分を大切な存在であると感じることができずに育つと、良好な自己像を形成することが難しくなります。
「自分は愛される価値のないだめな人間だ」と感じ、自己肯定感を育むことができず、対人関係の築き方にも障害をきたしてしまいます。
怒りや恐怖などの感情をコントロールすることができず、不適切なところで急に爆発させてパニックになったり、衝動的、攻撃的な行動に走ってしまったりすることもあります。
その結果、対等な対人関係を築いたり、円滑な集団生活を送るためのルールを身につけたりすることが困難になり、年齢相応の社会性の発達は阻害されていくことになります。
抑うつに陥りやすかったり、ささいなことで不安を強めたり、無気力や自己嫌悪から自傷・自殺企図などを示したり、かつての心的外傷(トラウマ)体験の影響を心身に色濃く残し、不眠や悪夢、パニック発作、解離性障害や身体化障害、独特の対人関係の問題、薬物・アルコール依存等の嗜癖行動等の情緒的、行動的問題を抱え続けることなります。
さらに、子どもの心と脳に大きな傷跡を残し、青年期、成人期になってからも精神的後遺症となって残り、精神障害や人格障害、行動面の問題等をひきおこします。

 もうひとつは、平成19年施行の「発達障害者支援法」によって、教育現場での判定や親の見解、医師の主観によって、多くの子どもたちが発達障害と診断され、その結果、<支援>という名のもと、「自殺や突然死、心臓麻痺、錯乱、妄想などの副作用がある精神治療薬が処方されている」ということです。
日本の子どもに処方されている抗うつ剤は、いまアメリカでは銃乱射事件の原因になったとされ、販売停止になっているものです。
にもかかわらず、メチルフェニデート(リタリン等)の投与は、平成16年以降ADHDの子どもへの薬物療法として、より積極的に使われているのです。
平成18年1月13日、厚生労働省はSSRI等12種類の抗うつ剤について、「24歳以下の患者が服用すると、自殺を企てる危険性が高まる」として、副作用による自殺リスクを明記するよう製薬会社に注意書改訂を指示し、平成19年10月31日同省は、国内で流通する16種類すべての抗うつ剤について、製薬会社に添付文書改訂を指示しました。ところが、多くの子どもたちが、依然として自殺に追込まれる可能性のある抗うつ剤を服用されています。
 精神科で処方される抗うつ剤や安定剤、中枢神経興奮剤などの向精神薬には、興奮、錯乱、激越、幻覚、せん妄、誇大性、敵意、攻撃的、自殺企図などの副作用があるとされ、上記のとおり、厚生労働省も危険な副作用が多いことを認めています。向精神薬は、依存性や習慣性などがある危険な薬物として指定されています。
その向精神薬「リタリン(中枢神経興奮剤)」は、化学構造や薬理作用が覚醒剤に類似していることから、「集中できる」「勉強がはかどる」「眠気が覚める」と、合法覚醒剤として乱用者の間で大人気となっています。
平成20年1月、うつに対する効能、効果が厚労省によって削除されました。なぜなら、抗うつ剤による自殺、突然死、心臓麻痺などの副作用が問題になっているからです。
現在、精神科医は、「MRIや光ポグラフィー検査などの画像診断や血液検査によるセロトニン値把握など、その他の科学的診断をすることもなく、うつ病などの精神疾患を患っている」と診断し、精神治療薬を処方されることを許されています。
平成9年に1,789億円だった精神神経疾患治療剤の市場は、平成16年には3,127億円に膨れあがっています。
ここには、平成9年以降、日本で心と脳の研究が盛んになったこと以外に、病院経営として利益追求のために、不必要な薬を処方しているという背景があります*-4。
平成28年、医療経済研究機構などのチームが健康保険組合加入者162万人を対象におこなわれた調査では、「主に統合失調症の治療に使われる抗精神病薬が知的障害児の約1割(12.5%)に処方されている」「そのほぼ半数で年300日分以上も薬がでていた」ことが明らかになり、「大半は精神疾患がないケースとみられ、知的障害児の自傷行為や物を破壊するなどの行動を抑制するためだけに処方されている可能性が高い」と警鐘を鳴らしています。
この調査は、健康保険組合の加入者162万人の診療報酬明細書(レセプト)のデータベースを使い、平成24年4月-平成25年3月に知的障害と診断された患者2035人(3-17歳)を1年間追跡調査した結果、抗精神病薬を期間内に1回でも使った人は12.5%で、年齢別では、3-5歳が3.7%、6-11歳が11%、12-14歳が19.5%、15-17歳が27%と、年齢が上がるほど処方割合が高くなっていました。
また、2種類以上の薬が31日以上継続して処方される「多剤処方」の割合も年齢とともに増加していました。
知的障害児の行動障害の背景に精神疾患が認められない場合、世界精神医学会の指針では、まずは薬を使わず、環境整備と行動療法で対処するよう勧めています。なぜなら、抗精神病薬は興奮や不安を鎮めるが、長期服用により体重増加や糖代謝異常などの副作用があるほか、適切な療育が受けられない怖れがでてくるからです。

このように、子どもが不適切な養育、つまり、暴力のある家庭環境(機能不全家庭)で育ったり、安易な診断や誤った診断などで、本来処方を避けなけなければならないにもかかわらず、危険な向精神薬を投与されたりすることは、子どもの心身の健やかな発達を阻害し、その後の人生に甚大な影響を及ぼすことになります。
しかし、このことを理解している者は少なく、見過ごされているのが現実です。
*-1 暴力が子どもの発達に伴う脳に与える影響については、「Ⅱ.児童虐待・面前DV。暴力のある家庭環境で暮らす、育つということ」で説明する前の章、つまり、「プロローグ-1.人の脳の機能は、生まれ育った環境に合うようにつくられる」で詳しく説明しています。
*-2 ことばの暴力(精神的暴力)は、被害者の身の安全を確保するために法的に“一時保護”を実行したり、“保護命令”を発令したりすることを定めた「配偶者からの暴力の防止及びに被害者保護等に関する法律(平成13年制定、同16年改正、同26年改正新法)」では、平成16年の改正時に、対象とするDV行為に加えられました。
そのため、離婚事件に対応する弁護士であっても、法改正を認識していないときには、精神的暴力(ことばの暴力)をDVと認識せず、DV=身体的暴力と認識し、DVとモラルハラスメント(精神的虐待)を分けて捉えているケースがあります。
加えて、社会で認識されず、軽視されていることが、子どもが、両親間のDVを目撃すること(面前DV)が、「児童虐待の防止等に関する法律(いわゆる、児童虐待防止法。昭和8年に制定されていた児童虐待防止法は、昭和22年児童福祉法の制定により統合廃止されており、平成12年に同法が制定され、平成16年に改正)」において、「精神的(心理的)虐待」とされているということです。
時に、母親がことばの暴力を浴びせられているのを目の前で聴いている子どもが、「自己(自分)と他(親)の境界性があいまいな乳幼児であるとき、子ども自身が直接ことばの暴力(DV)を受けていることになる」という視点が必要です。
*-3 20人-60人に1人が発症しているとされるアスペルガー症候群を含む多くの発達障害は、「先天的な脳の器質障害」であり、生育歴は一切関係ないとされていますが、アスペルガー症候群は、脳の損壊や変形による情緒の安定を司る神経伝達物質であるセロトニンの産出や受容量が少ないことが発症原因とされています。
この「手引き」では、受精後の脳の発達論を主におき、「妊娠中のDV被害は、母体の被害だけでなく、早産や胎児仮死、児の出産時低体重をひきおこし、セロトニン・ドーパミンなどの神経伝達物質の分泌に影響を及ぼすなど初期の脳形成に重大な影響を及ぼす」、「例えば、ストレスを調節するホルモンであるコルチゾールや重要な神経伝達物質であるエピネフィリン、ドーパミン、セロトニン等に変化が生じます。
これら神経伝達物質のバランスに問題が生じると障害がおきる」とされていることから、暴力のある家庭環境で出生している条件のもとでは、「成育歴は一切関係ない」との考えには否定的で、「一定の発達障害の発症には、暴力のある家庭環境で出生していることが原因となっている」との立ち位置で説明しています。
*-4 副作用のある精神治療楽を処方され続けているのは子どもたちだけではありません。日本には、1661の精神病院がありますが、これは、実に全世界の18%を占め、35万4296の病床数を持っています。全病床の平均在院日数の1ヶ月間に、治癒したとされ退院する患者は僅か約200人で、0.06%に過ぎません。
その一方で、6倍以上の1242人の患者が亡くなって病院をでています。精神疾患とかかわりなく死亡していく人は、実に14,904人にのぼるとされています。
そして、入院患者の30%前後が生活保護の受給者です。
平成17年度予算ベースでは、生活保護医療扶助の入院費用の約40%(3,200億円)が精神疾患にあてられ、公費負担医療給付分の約16%にあたります。しかし、入院治療の必要のない患者が約7万人いると指摘され、そのうち、生活保護の受給患者は6.3万人にのぼります。





-基礎編-
8.虐待の発見。DVのある家庭環境における子ども

子どもは、夫(子どもの父親)から暴力を受け耐え続ける姿を目撃するたびに、「母親は、自分を大切な存在として、自分の人生を自分のものとして生きていない」と感じます。
このことは、子どもの生きる力そのもの、自分を大切にして生きる力を奪うことになります。このとき、子どもは、母親に対抗しようとして「やる気のなさ」を態度に表したり、強く反発したりします。
ところが、夫(子どもの父親)からの暴力に耐え続ける母親は、夫に大切にされない思いを子どもに干渉したり、厳しくあたったり、子どもを避けたりすることで解消してしまうことがあります。
母親が、「お前を生まなきゃよかった」と拒絶のメーセージを口にしたり、「お前さえいなければ、離婚できるのに」と子どもに責任転嫁することばや態度を示したり、なにかに一生懸命向かい合い、楽しそうに見える人物を誹謗中傷したり、蔑んだり、愚痴をいったりすることで自身の満たされない感情のバランスをとろうとしたり、「子どもの将来のため」という温旗を立て、自分自身の満たされなかった理想の人生像を子どもの人生で生き直しを押しつけたりしていると、子どもは最終的に自分の人生を“自分事”と捉えることができず、“他人事”として生きていくことを選んでしまうことになります。
 “他人事”として生きていくとは、本人すら気づかないまま「精神的虐待(過干渉・過保護、いき過ぎた教育(教育的虐待)を含む)を受け、能力や将来を削りとられた自分」を「本来の自分」だと思い込んでしまうことです。
 暴力を見たり、聞いたり、察したりしている子どもは、積極性、自主性、意欲などを奪われてしまっていることから自己肯定できず、自信を喪失し、本来持っている能力を十分に生かす機会を奪われてしまいます。
一方で、暴力によって、他者に恐怖心や敵意を抱くようになり、社会性・協調性の欠如、精神不安、自傷行為、自殺願望などという重荷を背負わされることになります。
 そして、不登校やひきこもり、家出や非行、リストカットや過食嘔吐(摂食障害)などの自傷行為に及ぶなど、子どもがなにか問題にぶつかったとき、子ども本人がなかなか解決に立ち向かうことができないなら、そこには、“愛着”の問題が絡んでいます*-5。
思春期以降になると、相手をあまり選ぶこともなく恋人関係になってしまう子どもがいますが、ここには、アタッチメント(愛着形成)を起因とした親子関係がしっくりいっていない背景が潜んでいます。
親子関係を解決することを諦めた子どもが、アタッチメントの獲得が損なわれた、つまり、カラカラに乾いた渇望感や底なし沼のような寂しさを埋めるためのおこないとして、他の場所に愛情を求めるのです。
自分が幼かったころの父親と同じような年代の男性との援助交際を繰り返す子どもたちも、同じ問題を抱えています。
こうした心(アタッチメントの獲得)に問題(見捨てられ不安)を抱える子どもたちは、寂しいから直ぐに異性と親しくなるものの、その相手もまた同じ心の問題を抱えていることが少なくないことから、生い立ちなどに共感したものの、一方通行的に愛情を欲し合うためやがてトラブルになり別れ、そして、それほど時を経ず寂しさを埋めるために別の異性と親しくなることを繰り返します。
こうした行為は、私にどれだけ愛情を注いでくれるかを見定めるためであることから、“試し”行動ということになります。
 暴力のある家庭環境で育つと、ストレス体制に関わる遺伝子の発現が悪くなるということがわかっています。
幼少期(胎児期を含む)の暴力体験が生物学的なレベルで影響し、ストレスに弱くなってしまうことから、ストレスがかかる場面に対処する脳機能が低下してしまうのです。
 人は、生存したその環境に適応するために必要とされる脳の機能が発達します。
つまり、育つ家庭環境やコミュニティで生存するために必要な脳の機能を発達させ、必要ない脳の機能は発達しないということです。
虐待やDVの目撃など、日常的に恐怖にさらされ、親に守られていないと、自分で自分を守ろうとすることから、恐怖、危険から逃れるためのその場限りの反射的行動が主になってしまうのです。
つまり、暴力のある環境に合った脳の機能がつくられることになります。
その結果、「コミュニケーション能力」や「感情コントロール」を司る前頭葉の機能の発達が損なわれることになります。
そのため、他人の気持ちを理解できずストレスに感じたり、他人との適度な距離感がわからず苦しんだり、感情を抑制できず、行動の型として身につけた暴力に直結したりすることになります。
加えて、日常的に暴力が存在していた家庭に育つことによって、子どもは暴力による解決する方法を身につけてしまうことから、成長に伴い、自分より弱い者、つまり、子どもや女性、老人、部下、教え子に対し、暴力(ハラスメント)で解決してしまうことになります。
*-5 人と人とが結びつきを持つときには、オキシトシンというホルモンが働いています。
オキシトシンには、親密さを深めたり、相手の気持ちへの共感を高めたり、不安やストレスを軽減したりする働きがあります。
オキシトシンは、人間だけでなくほかの哺乳類にも備わっており、「愛着」を形成する生物学的な仕組みとして捉えることができます。
幼児期、親から安定的に愛情を受けて世話をされていたときには、愛着の仕組みは安定します。
逆に、幼児期に受けた愛情や世話が不十分であったり、傷つけられたりする体験が度重なったりすると、愛着のスタイルが不安定になります。
前者を愛着スタイルの「安定型」、後者を「不安定型」と大別することができます。
そして、愛着スタイルが「不安定型」のまま大人になると、パートナーとの関係や子育てにおいて、思いやりがもてない、厳しすぎる、不安やストレスを抱えるなどの困難を抱えやすくなります。「不安定型」は、人と親密な愛情を築くのが苦手な「回避型」と、過剰な結びつきを求めるが裏切られたり見捨てられたりすることに強い不安を抱く「不安型」に分けられます。
特に「不安型」は、幼少期において、親のそのときの気分(気まぐれ)でかわいがられたり、突き放されたりするなどムラのある接し方をされていることに起因するとされています。
「回避型」と「不安型」の反応はあらゆる面で正反対であることから、それぞれのタイプの者がかかわるとき、なにかのきっかけですれ違いが生じると溝がどんどん深くなってしまうことになります。
例えば、悩みを抱えている「不安型」の人が、「回避型」の人に、自分の気持ちに共感を寄せてほしい一心で悩みを相談したときには、「回避型」の人は、人と情緒的なつながりをもつことが苦手であることから、その相談そのものを受け流してしまおうとします。
また、「回避型」の人は、自分の苦しさについては表にださないことから、ストレスをひとりで溜め込んでしまいます。



(1) 子どもが最大の被害者
 DV環境にある家庭では、子どもはDVの目撃者であり(面前DV)、巻添えとなって暴力の被害者になっています。
子どもの成長を育くむ日々の生活そのものが、DVによって破壊されていると考えられるのです。
目に見える傷がなくても、子どもたちは心にいろいろな傷を受け、人にはいえない「秘密」をたくさん抱えて生活しています。
このような家庭環境は、子どもの人生にはかり知れない悪影響を及ぼすと考えられます。
DVを目撃したり、虐待を受けたりした子どもは、自尊感情の低下、無力感や絶望感、感情麻痺など、情緒面、行動面でさまざまな問題を抱えるリスクが増大するといわれています。
もっとも深刻なのは、「子どもたちの心の奥底に、無力感と自己否定が埋め込まれること」など、価値観や考え方に与える影響といわれています。
また、DV被害によって心身のバランスを崩した母親からの虐待など、安定した養育環境が維持できず、子どもに様々な影響が生じる可能性が高くなります。

① DVのある家庭での力関係
 子どもが小さいうちは、どんな環境であれ、そこで自分を養育してくれる親や保護者に頼らなければ生きていけません。子どもは、家庭内のひずみを一番強く受ける、ある意味、最大の被害者といえるのです。DVのある家庭環境で育っている子どもたちは、家庭の中の複雑な「力と支配」の関係に巻きこまれています。そこには、加害者(実父や養父など)から被害者(母親)への「力と支配」、加害者と被害者から子どもたちへふるわれる直接的な暴力など、不安と緊張に満ちた家庭環境があります。
そして、青写真のようにゆっくり時間をかけてコピーしていく、つまり、力と支配の関係性のある環境に順応するための術を学習し、行動習慣として身につけながら成長していきます。
したがって、DV被害者の母親と子どもの問題を切り離さずにケアをすることが必要になるのです。

② 子どもは暴力を目撃している(面前DVを受けている)
 多くの親たちは、家庭でDVがおきていても、「子どもに知られないようにしている」、「まだ幼児だから、たとえ見聞きしていても、なにがおきているかわからないはず」と思い込んでいます。
しかし、DVのある家庭に暮らす子どものほとんどは、実際になんらかの暴力を見たり、聞いたり、察したりしています。
DV被害者の8割以上に子どもがいて、そのうちの4割は小学校入学以前の乳幼児とされています。
つまり、半数以上の子どもが、胎児期を含む乳幼児期にDVを目撃していることになります。
そして、DVを目撃したときの年齢は、生まれてから12歳までが7割以上にのぼっています。目撃の回数は年に数回に及ぶものが多く、毎日から週に2-3回である例も少なくありません。
しかし、3歳以前は、言語野に記憶されるのではなく、脳のあらゆる個所にバラバラに保存されていますので、DVを目撃してきたことをことばにできる記憶は、4歳以降ということになります。
そのため、過去の暴力体験を話すとき、「幼稚園や保育園になったころからDVや虐待がおこなわれるようになった。」と述べることになるわけです。
したがって、この告白は、暴力がはじまった時期に関しては鵜呑みすることなく、暴力は幼稚園や保育園になったころに突然にはじまったのではないことを理解しておく必要があります。

③ 子どもも直接の被害を受けている
 これまで日本では、DVと子どもへの虐待は、別々のものと考えられてきましたが、妻(母親)を殴る夫(父親)の6割は子どもに手をあげているとされ、直接的な暴力を受けケガをしているなどの実態が明らかになってきています。
また、DVのある家庭の4割では身体的な暴行を継続的にふるわれ、週に2-3回が暴行の頻度で最も多くなっています。
さらに、日常的にDV被害にあっている子どもの母親は、恐怖・無力感などにより精神的に不安定になる場合が多く、その4割は子どもに手をあげているとされ、子どもに「ことばの暴力」を向けたり、家事・育児を疎かにしたり、結果的に、子どもを十分適切に養育できないネグレクトに至ることもあります。
DV被害の状況が悪化するにしたがい、母親と子どもとの関係も悪くなり、たとえ、加害者と離れて暮らしはじめたとしても、母親と子どもの生活に問題がおきる可能性があります。


(2) 子どもは心を傷めている
① 子どもを蝕む家庭環境

 年齢の低い子どもは、ごく限られた狭い範囲の生活しか知りません。自分の親の言動や、自分の家庭でおきていることが、子どもたちの判断基準や価値観の根幹を形成していきます。
DVにさらされて育つ子どもにとっては、理不尽な支配関係が日常的なことになります。子どもは、暴力による支配関係のもとで、父親と母親の仲裁に入ったり、父親に傷つけられた母親の相談役になったり、子どもが大人の代わりをしなければならなかったりします。
子どもにとって、親から依存されたり、過度に干渉され、詮索されたりする、つまり、強く抑圧された状態は大きな負担となります。
親に抑圧される環境下にある子どもは、子どもとしての自分の生活を楽しみ、夢を持つこともできずに、いつも親のこと、家庭のことに心を砕いています。
子どもとして、十分に自分らしく生きることができずに、大人にならなければならないのです。

② 子どもの気持ち
-事例106(DV46)-
 私は、4月になると中学3年生になります。幼稚園のころから、イライラしはじめるともう感情を抑えられなくて、怒りを爆発させるしかありませでした。担任の先生に「少しは落ちつきなさい」とよく叱られましたが、身体がイライラして、座っていることができませんでした。
 家でも、家族みんなでの外出でも、お父さんの機嫌ばかりが気になり、顔色をうかがい、全神経をお父さんのイラッの瞬間に備えていました。だから、自然に大人の顔色が気になるようになっていました。この人はいま楽しそうに笑っているけれど、「本当は、心の中ではつまらないと思っている」、「もしかしたら怒っているのかも知れない」と気になって、不安で仕方がありませんでした。いつ、お父さんがお母さんに「ばかやろう! テメエは俺のいうことがきけないのか!」と怒鳴り声をあげられるか、お母さんの「ごめんなさい。許してください!」と悲鳴のような声が聞こえてくるのかが気になって、集中して勉強することなんてできませんでした。
幼稚園のとき砂場で山をつくったり、積み木を上手に積んだりしながら楽しそうに仲よく遊んでいたりすると、うらやましく、腹立たしくなって、蹴って壊しました。
下校時、家が近くなるとイライラしてきて友だちをからかったり、叩いたり嫌がることをしました。
だんだん友だちが煙たがるようになっていきました。
友だちにちょっかいをだすと煙たがられ、次第に登校している列から、少し離れるようになっていきました。
だから、いつも不機嫌そうな顔をしていました。そして、だんだん気持ちを表せなくなっていきました。
小学校4年生になると、父親の怒鳴り声や母親が必死に謝る声が聞こえてくると、胸がドキドキし、身体がガタガタと震えるようになっていました。
時々、吐き気もしたり、ぐるぐると回るめまいがしたりして、おきていることができなくなりました。
一方で、妹や弟をからかい、ひやかして、叩いて、騒いで、お母さんに「やめなさい!」と怒鳴られ、引き離されても、隙をみてまたちょっかいをだしました。なぜなら、妹や弟が、私にかわれて嫌がる姿や泣くのを見たり、聞いたりするのが楽しかったからです。
そして、お母さんに怒鳴られるようにちょっかいをだしていたのは、わたしのことをちゃんと見て欲しかったからです。
だけど、お母さんは、お父さんの前ではいつもおどおどしていて、私と妹、弟のことはうわの空でした。

a) やり場のない怒りと無力感
 「優しくしてほしい」、「安心したい」、「楽しい家にいたい」と、子どもとして当然のことを望んでも、DVのある家庭で育つ子どもは、それらが満たされることはありません。
子どもたちは、父親や母親に対する愛情(受け入れてほしい、認めて欲しい、愛して欲しい思い)があるからこそ、かえってツラい思いを味わいます。
父親が母親を傷つけることを哀しんだり、自分の家でおきていることに負い目を感じたり、愛情に満ちた家庭を羨ましいと思ったり、楽しそうにしている友だちに妬みの感情を持ったりします。
家庭の状況をどうにかしたいと思い心を砕いても、状況が変わらなければ、子どもたちの心は、やり場のない怒りと無力感に支配されていきます。
b) ひき裂かれる気持ち
 父親に対して、「どうしてお父さんはお母さんに、あんなひどいことばかりいうのだろう」と怒りを感じる一方で、「いいところもあるし、優しいところもある…」という気持ちにもなります。
子どもたちは両親に対して、怒りと愛情の混在したアンビバレント*-6な感情にひき裂かれています。
また、母親からは「お父さんが悪いから、お父さんのいうことを聞いたらダメ」といわれ、父親からは「お母さんのいうことを信じてはいけない」など、母親と父親から同時に別々のメッセージを受けとり、どうしていいかわからなくなることもあります。
子どもは、母親と父親の間で気持ちが揺れ動きます。
DVのある家庭では、父親や母親のそれぞれのメッセージが一貫していないことが少なくありません。
「お父さんのいうことをきいてはいけない」という母親が、翌日には、「お父さんのいうことをききなさい」といったりします。
父親を拒絶させる試みをしたあと、父親を受容させる試みをするなど、相反する拒絶と受容のことばやふるまいは、子どもを混乱させます。
子どもは、暴力的な怖い父親(母親)と優しい父親(母親)、どの親が本当なのか、どのことばを信じたらいいのかわからなくなるのです。
*-6「アンビバレンス」とは、ある対象に対して、相反する感情を同時に持ったり、相反する態度を同時に示したりすることです。
例えば、ある人に対して、愛情と憎悪を同時に持つこと(「愛憎こもごも」)、あるいは尊敬と軽蔑の感情を同時に持つことをいいます。
二つの感情のうち、一方が(とりわけ「望ましくない」などとされがちな面)が無意識下に抑圧され、それがその人の行動に様々な影響を与えたり、この状態が昂じると、葛藤状態に陥ったり、神経症の原因となることもあるとされています。
なお、当「手引き」では、「アンビバレンス」をつくりだす加害者の「相反する拒絶と受容のことばやふるまい」についてフォーカスし、「Ⅰ-8.被害者心理。暴力でマインドコントロールされるということ」の中で詳しく説明しています。



(3) 子どもの複雑な思いを理解する
 DVにさらされた子どもたちは混乱し、相反するさまざまな感情を抱えているといえます。
しかし、子ども自身が自分の感情を整理できずにいるときに、周りの大人が勝手に子どもの感情を代弁し、判断することは避けたいものです。
また、暴力を批判しても、加害者である父親や母親を批判するのは避けます。なぜなら、たとえ加害者であっても愛着対象の親に対して、受け入れて欲しい、認めて欲しい、愛して欲しい思い=愛情も求める強い思いを秘めています。
こうした子どもの複雑な思いを理解し、子どもたちに接することが大切です。
a)子どもに対して、加害者に怖れや怒り、哀しみ、愛情といったさまざまな感情を持っていてもいい、そうした気持ちを表にだしてもいいことを伝え、安心感を与えます。
例えば、「ドキドキして不安だったんだね」、「お父さんもお母さんも両方とも好きなのに、ケンカばかりして嫌なんだね」、「お母さんとお父さんに対して同じように 「好き」という気持ちを持ってもいいんだよ」などです。
b) 援助者は、加害者の暴力行為は批判しても、加害者自身を批判したり、攻撃したりしてはいけません。
例えば、「お父さんがお母さんを怖がらせたんだね、暴力をふるってはいけないね」といういい方をし、「お父さんは悪い人だ」とはいわないようにします。
c) 子どもに対して、「加害者への愛情を捨てなければならない」といったプレッシャーを与えることはよくありません。
例えば、「暴力をふるうお父さんのことは忘れた方がいい」などはいってはいけないことばです。
d) 加害者の暴力について慎重に聞きだし、子どもが「家の中でおきていることを知っているのは自分だけ」と思っている重荷をとり除く手助けをします。
例えば、「お母さんはつらい思いをしてきたんだね。ここでは、君が見てきたことを話しても大丈夫だよ」と話しかけるなど、子どもが、自分の「秘密」を自由に話しても大丈夫であるという気持ちになるようにします。
e) 暴力があったことやその影響を話すことは、加害者に対して裏切り行為にはならないことを伝えます。
例えば、「あなたが暴力をふるわれたり、嫌な気持ちになったりしたことを話しても、お父さん(お母さん)を裏切ることではないよ」といったことばがけが大切です。
f) どちらか片方の親が家をでて行った場合、喪失感を感じるだけでなく、両親が別れたのは自分のせいだと自責の念にかられ、罪悪感を持つ子どももいます。
家庭でおきていることは子どものせいではなく、大人が解決しなくてはならない問題だと知らせることも必要です。


(4) 子どもに表れる影響
 DVのある家庭環境で育つ子どもたちは、心の中に抱えている怒り、混乱、不安、哀しみなどを自分で整理できず、また、うまく表現することもできず、あるときは攻撃的になったり、あるときは抑うつ的になったりすることがあります。
 こうした行動を周りの大人たちは「問題行動」と捉え、その子に問題があるかのように考えてしまいがちです。
しかし、子どもたちの「問題行動」といわれるものを、実は子どもたちが発している「悲痛な心の叫び」、身をもって発している「SOS」と受け止めることによって見えてくることがあるはずです。
一見、大人びていて、いうことをよくきく“よい子”、“問題のない子”であっても、その子は必死で暴力のある環境に適応しようとしているだけかもしれないのです。
 以下にあげる例は、すべてがDVの影響だといい切れるものではありませんが、子どもたちの様子をよく観察し、背景にある問題がなんなのか見極めることが大切です。

① 身体面にあらわれる影響
 子どもが暴力の標的になる、巻き添えになってケガをすることがあります。または、加害者から暴力を受け、行き場をなくした母親から暴力をふるわれ、ケガをすることもあります。
・加害者が被害者に対してふるう暴力の巻き添えになってケガをするなど
・暴力を見たり聞いたりして、緊張感や恐怖感が加わり、吐き気、嘔吐、頭痛、腹痛、発熱などを訴える
・アレルギーの発作が激しくなったり、風邪をひきやすくなったりするなどの症状がでる
・体の痛みに無反応になる可能性がある

-事例107(虐待5・面前DV12)-
 5歳のA君が、父親が母親にふるう暴力を止めようとしたとき、父親に突き飛ばされて、柱の角に頭をぶつけ、2センチほど切れて出血しました。幸い、すぐに治療したため大事にはいたらず、回復しました。
しかし、A君は、父親が帰宅する時間になると、「お腹が痛い」というようになりました。
また、7歳の姉は、時々心臓がキューとつかまれるように痛くなるといいます。
病院で検査を受けましたが、「異常なし、神経質な子どもに見られる症状」といわれました。
検査に異常はないものの、いまだに、心臓がつかまれるような感じがあるといいます*-7。
*-7 こうしたケースで、病院での診察や検査のとき、母親が「DVがある」と医師に告げることはほとんどありません。
また、母親がよけいなことは話さないように、診察時に、父親がつき添うことも少なくありません。


② 心理面にあらわれる影響
 子どもは、親子関係の中で感情を調整する力を獲得していくものです。
しかし、DVのある家庭環境ではその力を十分に育むことができません。そのため、子どもが感情を爆発させたり、押さえ込んだりするなど、感情を適切にコントロールできない傾向が見られます。
・喜怒哀楽などの情緒の発達が遅い
・大声や大きな音に神経質になる
・イライラ感が増す、集中力が不足する
・悪夢を見る、不眠を訴える、夜尿症など
・自分はなにもできないという絶望感、不安感を感じ、やる気がでないなどの反応
・暴力そのもの、家族の崩壊、ケガに対して漠然と理由のない 恐怖心を持つ
・怒りや恐怖の感情を表現することを恐れ、自分の感情をださなくなる

-事例108(虐待6・面前DV13)-
 保育所に通う5歳のMちゃんは、自分で洋服を脱ぐ、ごはんを食べるなどの日常生活の習慣部分はよくできているのに、ことばをほとんどしゃべりません。
感情の表現が乏しく、「喜び」「怒り」「愛情」「嫉妬」といった情緒的な気持ちの動きが見られません。
発達障害かと思い、お母さんに相談したころ、家庭にDVがあることがわかりました。

③ 行動や態度にあらわれる影響
 子どもの「問題行動」には愛情や配慮が十分に向けられないことからおきると思われる場合があります。
また、こうした行動は、解離性の反応やPTSDの反応であることも考えられます。
さらに、大人に対して挑発的な言動や態度を示し、その人から怒りや攻撃性をひきだすといった、自分が受けてきた暴力的な人間関係を再現する傾向も見られます。
一方で、DV環境下で生活している母親にとって、DV環境下で育ってきた子どもが見せるサインはいつものこと、子どもの心の叫びを見逃してしまうことが少なくありません。
 そこで、DVのある家庭で暮らしていたり、虐待を受けて育ったりした子どもが、トラウマ反応としてどのような傾向を示すか知ることで、「なぜそうした反応をするのかと心配になる」ところから、さらに一歩進めて、家庭内に暴力がある可能性を隠している(自覚していない)母親とどのようなかかわり方をしたらいいのかと考えていくことができます。

-事例109(暴力被害のサイン1)-
 4歳5ヶ月で保育所に入ったGちゃん(男児)について、事前に母親からは「おとなしく、ひっこみじあん」と説明を受けていました。
しかし、初対面時の緊張の強さが目立ち、表情も固まっているようで、泣くこともありませんでした。
視線を合わすことも少なく、保育士の方から視線を合わせると避けようとしました。
朝送ってきた母親にしがみついて離れないという様子はなく、お迎えのときも母親の声を聞いて飛んでいくことも見られませんでした。
おもちゃにもなかなか手がでず、扱い方もぎこちなくみえました。
他の子どもや保育士にも関心が乏しく感じられましたが、その後、慣れていくと「バカー!」と声をあげて離れていきます。
怪獣とヒーローのおもちゃの遊びでは、怪獣を閉じ込めたり、怪獣へ激しい攻撃をしたりすることが気になりました。
しかも、すぐ飽きてしまい長続きしませんでした。
また、事前の母親の話では、身辺自立しているとことでしたが、排尿便を教えることが少なく、下着を汚しても平気です。
好き嫌いも多く、スプーンやフォークの使い方も不十分でした。おやつなどは真っ先に飛んできて、他の子どもを押しのけてつかみとろうとします。
要求をことばで表すより行動が先で、語彙は少なく、やや不明瞭な発音が気になりました。

-事例110(暴力被害のサイン2)-
 担任の教師が、小学校2年生のKちゃんが授業中ぼーッとして、肩まである自分の髪の毛を舐めていることに気がつきました。
また、音楽の授業のときに、誰かがトライアングルで大きな音を立てたら、急に体を硬直させ、動かなくなってしまいました。
担任は、Kちゃんが大きな音にびくつく様子をみて、なぜそうした反応をするのかと心配になり、母親にそれとなく家庭の様子を訊きました。
母親は、「家でもいつもそういうところがある。だから、特別に変わったことはない。」と応えました。

 事例109では、Gちゃんのことを気にかけた保育士が、保育所の巡回相談を利用して相談したところ、児童相談所の利用を進められました。
最初は躊躇していた母親も、集団での様子を見たりすることで、利用の必要性を感じ利用することになりました。
母親の成育歴や妊娠出産をどう受け止めたのか、育児についてどうしてきたかなどを話してもらう中で、愛着関係の問題があるのではないかということがわかり、保育所での対応、家での対応を話し合い、Gちゃんにとっての環境の整備をしました。
その結果、Gちゃんは、少しずつですが友だちとも遊べるようになり、トイレの失敗も減りつつあるなど変化が表れてきました。

-事例111(暴力被害のサイン3)-
 親から虐待を受け児童養護施設で暮らすことになった小学校4学年(9歳)のタクミは、みんながココアを飲んでいるのを見て、「それはなんだ? 俺も飲む」といい、ココアを飲もうとしました。
しかし、タクミは猫舌で、ココアを飲むことができませんでした。すると、タクミは、「熱いよー。無理だー! 飲みたいのに無理だー!」と、2歳児のように泣きじゃくりました。
このときのタクミは、息を吹きかけて冷ますといった解決法がなにも思い浮かばず、すぐに自分は「ダメだー!」になってしまっていたのです。
 これまで、やればできるといった成功体験も極端に少なく、自分の将来に小さな希望を持つことができずに育ってきたことから、9歳のタクミは、できるように努力するのではなく、いつも「無理だー!」と嘆くだけでした。ゲームをしたり、学校の勉強をしたりするときも同じでした。
そこで、児童養護施設の職員や補助員が、どんな小さなことでも一つひとつ「できたじゃない」と評価し、「頑張ったね」と受け止めていきました。
1年半経ち小学校6年生になったタクミからは、「無理だー!」ということばはすっかり消えました。

子どもが見せる暴力被害のサインには、以下のようなものがあります。
・学校や家で落ち着きがなくイライラし、暴力をふるったり、攻撃的な行動をとったりする
・ものごとに集中できず、うわの空の状態でいることが多い(忘れ物が多い)
・大きな音や大声をきいたとたんに家庭でおきた体験がよみがえり、パニック状態になる
・自分を守ってくれる親との結びつきが強くなる
・指をしゃぶったり、まとわりついたりするなどの退行行動が見られる
・過度に人目を惹きたがる
・きょうだいの面倒をみるなど無理をして保護者役を引き受ける
・夜中、DVがおきていると子どもたちは眠れず、朝、おきづらい
・適切な養育を受けていない子どもの場合、不潔になる
・食生活の乱れ

④ 人間関係に対する影響
 DVによる悪影響を受け、親との間に情緒的なつながりが持てなかった場合、他者や世の中に対する「基本的な信頼感」を育むことができません。
例えば、親からいっときも離れることができない(分離不安、見捨てられ不安)、しがみつき的な人間関係を持つ、信頼関係をつくって発展させにくいなど、他人との間でコミュニケーションがうまくとれない傾向も見られます。
a) 親との関係での影響
・暴力をふるう父親への恨みと、抵抗せずなすがままになっている母への怒りを持つ
・親に対する信頼を失う。親を慕わない、敬わない
・暴力的な父親、または母親に対して攻撃的、反抗的になる
・性的虐待を受けた場合、人格が破壊されるほどの深い傷を負うこともある
b) 対人関係での影響
・暴力がある家庭を恥ずかしく思い、家族に関することを秘密にし、他人を遠ざける
・友人がいない、または、親しい付き合いができないなど孤立したり、ひきこもったりする
・自分を無意味な存在として卑下する
・人間を信頼できない、人間不信の気持ちを抱く。友人との関係が深まるにつれ 不安になり、突然に自分からコミュニケーションを絶ったりする
・人とのコミュニケーションがうまくいかず、もめごとをうまく解決できない
・家にいたくないために外出がち。一人でいる事ができずに不適切と思われる親密な関係性を求める傾向がある

-事例112(虐待7・面前DV14)-
 33歳になるH子さんは、DVのある家庭で育ちました。
職場の人たちが家族の話題で楽しそうに盛りあがっているとき、なぜか疎外感を覚えてしまいます。
「自分だけが、不幸な子ども時代を過ごしてきたのだ」という気持ちがこみあげてきてしまうのです。
つくり笑いをしてその場をやり過ごしますが、なんとなく輪のなかで浮いてしまいます。
「子どものころからずっとこうだった。みんな明るく楽しそうに暮らしているのに、なぜ私だけいつも うつうつとしているのだろう」と、自分が可哀想になってしまいます。

-事例113(暴力被害のサイン4)-
 中学2年生のBさんの友人が、Bさんの家に遊びにきたとき、Bさんの母親に「Bちゃんは、(友人と気まずい雰囲気になりそうになると)いつも自分から「ごめんね」、「ごめんね」と謝ることが多くて、クラスの皆から「どうしていつも謝ってばかりいるの? そうした態度がイヤ、うざい。」といわれちゃっている。」と話しました。

-事例114(暴力被害のサイン5)-
 夕食前、年長児の長男を迎えにいったとき、幼児室で、ブロックやおもちゃの車で遊んでいた長男と同じ年長児のHちゃん(5歳、女児)は、無邪気に「遊ぼうよ。」といい、ベタベタとくっついてきました。
私が長男に「Hくんとバイバイして、帰ろうか」と切りだすと、Hちゃんは「おばさん、なにしにきたの。死ね!」と口にしたのです。
私は息を呑み、かわいらしい顔をした5歳の女児が、落ち着き払った態度で大人を罵ることばを発して部屋を出て行ったのを見送りました。

「死ね」というのは、Hちゃんが親からいわれ、責められてきたことばと考えることができます。
親から虐待を受けてきた子どもたちは、大人が一番嫌だと感じることばを使い、どこまでなら受け入れてもらえるかと繰り返し大人を試すのです。
試し行動は、子どもたちの心のSOSです。

⑤ 将来にわたり長く続く影響
 子どもは、家庭の中で“人間関係のパターン”を学んでいきます。
DVのある家庭で育った場合、暴力を回避するために相手のご機嫌をうかがい自己主張しない、緊張を緩和するために道化役を演じる、自分の不機嫌さを解消するため他人にあたり散らすなど、子どものころに身につけた“人間関係のパターン”を、その後の人生でも繰り返す傾向があります。
また、大人になっても、突然、子どものころの嫌な体験を思いだし、そのとき感じた感情と同じような感情がよみがえることもあります。
・いつまた暴力がおきるかと、緊張と不安を持ち続けることで、精神的に不安定になる
・それまで経験した関係性を繰り返したり、同じような関係性に巻き込まれやすかったりする
・自己評価(自尊心)が低い
・怒りとあきらめといった感情が先にたち、感情移入しにくい
・女性の場合、男性に対して猜疑心、恐怖感を持ちやすい

-事例115(虐待8・面前DV15)-
 45歳のSさんは、子どものころから、いま現在を楽しむことができないできました。
知らず知らずのうちに、自分の頭の中を占めているのは、子ども時代に家庭内で目撃してきた暴力の体験やそのときに感じた感情です。
いまでも、そのとき感じた惨めな気持ちや、悲しく寂しいという感情がよみがえってきます。いくつになっても過去にとらわれている自分が嫌でたまりません。こんなことではいけないと思うのですが、自分ではどうすることもできません。

-事例116(虐待9・面前DV16)-
 私はアパートの部屋にいるとき、外の通路で足音が聞こえてくると、どこかの部屋でドアを開け、閉まる音が聞こえ、自分の部屋でないことを確認できるまで、私は恐怖で縮みあがり、パニックになります(PTSD・過覚醒)。
なぜなら、子どものころ、父が母を大声で罵倒したり、殴ったりしたあと、母が泣きながら私の部屋にやってきて、寝ている私をおこし愚痴をこぼしていたからです。
私は怒鳴り声やなにかがぶつかる音に耳を澄ませ、「お願いだからこないで。今日は休ませてほしい」と願い、気配をうかがいながら床についていました。
アルコール中毒の父は、酔うと足音を忍ばせて階段をあがってきて、私の部屋のドアをパッと開けて、私が驚くのを面白がっていました。
私はいつ父親が部屋にやってくるか気になり、神経を研ぎ澄まして足音や気配を感じるようにしてきました。
私は、余計なひとことをいって、父の機嫌を損ねると大変なことになるので、黙ってと大人しくしているのが習慣になっていました。
高校生になると、私は過食と嘔吐を繰り返すようになりました(摂食障害)。

-事例117(虐待10・面前DV17)-
 私は、父が母を殴ったり、蹴ったりするのを見ながら育ちました。
幼稚園になると、私は両親の間に割って入り母を救いだすことと、3歳違いの弟を守ることが生きがいになっていきました。
ごみ箱で殴られた母の額は切れ鮮血がポタポタ落ちる中で、私は両手を広げ、父の前に立ち塞がりました。結果として、北海道土産の木彫りのクマで母を殴ることはありませんでしたが、父がクマを手に掲げたときには、母が殺されると思いました。
父は、私に手をあげることはありませんでしたが、「誰が食わしてやっているんだ!」、「文句があるならでて行け!」と怒鳴りつけ、「生意気なことぬかしていると、お前も同じ目にあわすぞ!」と凄み、脅したりしました。
私は怖くても、泣きながら、母を救いだし、弟を守らなければならないと父に立ち向かい続けました。
 高校2年生のとき、激しい自傷行為がはじまりました。
大学に進学するとアルコールを乱用するようになり、大量に薬を飲んで(OD)で、救急車で運ばれるなど自殺未遂をすることが多くなりました。
また、職場で自分の考えを話しすぎたかなと感じると、どう思われたのか気になり、動悸がはじまり、「失敗した。話さなきゃよかった」と自己否定するようになり、眠れない夜を過ごすことになります。
就職して、上司や先輩社員から「ここはこうしたほうがいいんじゃない」とか、「ここを直しておいて」と指摘されると、全人格を否定されたと感じて、その場から消えたくなります(以上、ボーダーライン)。
そして、帰宅の電車内でそのできごとをふと思いだしたとき、スッと意識が遠のき離人感に襲われます(離人症)。

-事例118(虐待11・面前DV18)-
 父は、母と子どもに手加減なく殴るなど暴力をふるい、母は何度も骨折をしていました。
私は高校を卒業し、19歳で家をでました。父の暴力から逃げだすことができましたが、過食と嘔吐を繰り返すようになりました(摂食障害)。
そして、男性の怒った声や大声を耳にすると、周囲がボォワァ~ンした異次元の空間になり、自分の感覚がおかしくなります(解離性障害)。ひどいときには、声をだせなくなります。

-事例119(性的虐待4・面前DV19)-
 父は母を殴ったり蹴ったり、暴力をふるっていました。
その母は、台所で過食と嘔吐を繰り返していました。中学生のとき、母が泣きながら「殴られて、むりやりセックスさせられた」といい、真夜中に私の部屋に逃げてくることがありました。
同時期、父が子どものヌード写真を収集していることを聞かされました。そして、高校2年生のとき、父が私の下着を抱えて寝ているのを知りました。
私は、自宅からは遠く離れた大学に進学することに決め、高校を卒業するのと同時に、家をでることに成功しました。
女子高から男女共学の大学に進学した私は、極度の男性恐怖症で、大学で知り合った女性の友人が男子学生と話しているのを見かけると、その場に近づかないようにしたり、女性の友人たちと話しているところに男子学生が話に混ざってきたりすると、その場から離れたりするようにしていました(PTSD・回避)。
友人に「あなたの脅え方は異常よ」と指摘されるほど、私は大きな物音、男性の大声に防御姿勢になります。
疎外感と孤独感から市販の頭痛薬を濫用するようになりました。そして、市販薬を大量に飲み過ぎて(OD)、救急車で運ばれる自殺未遂事件をおこしました。

-事例120(性的虐待5・面前DV20)-
 私は、酔った父が母をレイプするのを見て育ち、高校生のころから過食と嘔吐を繰り返していました(摂食障害)。
好きか嫌いか、白か黒か二者択一的(二元論)にものごとを捉えてしまう私は、結婚後、夫が浮気をしたことがきっかけとなり、夫にあたり散らすようになりました(ボーダーライン)。
そして、夫に殴りかかったとき、夫に両腕をつかまれ床に押さえ込まれました。
その瞬間、私は父から性的虐待を受けていたことを思いだしてパニックになり、夫を蹴り、そして、自殺未遂をしました(PTSD・侵入(フラッシュバック))。
緊急搬送された病院にかけつけてくれた姉は、小学校以前の記憶がまったくなく、以降も断片的な記憶しかない(解離性障害)私に、「A(私)は幼稚園のときに首吊り未遂をしている」と告げました。

-事例121(虐待12・面前DV21)-
 父は母に暴力をふるい、酒やギャンブルに溺れ、女性問題を繰り返していました。
母は情緒不安定になり、家出を繰り返すようになりました。
そして、私(男)が小学校6年生のとき、母は家出して、3ヶ月間行方不明になる事件がおきました。
そのとき、父は「俺はお前たちを置き去りにはしない。一緒に死のう」と何度もいい、私と小学3年の妹を連れて温泉旅行にでかけました。
父は自殺するといっていましたが、車で湖の周りを走っただけで家に帰りました。
母が学校にきたとき、父が心中旅行の計画をしていたことを話しましたが、母はその話に耳を傾けることなく、「今日、お母さんに会ったことを誰にもいうんじゃないよ。」とだけいい残し、帰っていきました。
のちに、家出した母は、私が通う学校に連絡をしてきていたので、父が「親子心中をする」といい、母をひきもどさせようとしていたということがわかりました。
私は高校生になると頻繁にパニック発作をおこすようになり(パニック障害)、3歳違いの妹は過食と嘔吐がはじまった(摂食障害)あと、リストカット(自傷行為)を繰り返すようになりました。

-事例122(虐待13)-
 私は両親から殴られて育ち、子どものころから頭痛が絶えませんでした。
30歳を過ぎて頭痛がひどくなったことから、MRI(磁気共鳴検査)を受けることになりました。寝かされて体を固定され、狭い穴のようなところに頭が入り、暗くなると、怖くて鳥肌が立ってきて、パニックになり、「ごめんなさい。ごめんなさい。止めてください。許してください。」と大声で泣き叫んでしまいました。
頭が狭い穴のようなところに入り、暗くなった瞬間、父親に車のトランクに閉じ込められた子どものときの記憶が蘇ってきたのでした(PTSD・侵入(フラッシュバック))。
止めてと叫んだら怒られると思いドキドキしていると、検査の人が「あなただけじゃなく、たまに検査ができない人がいるから、気にしなくていいのよ。」と思いもかけない優しいことばが返ってきました。
私は、そのことばが嬉しくて涙がとまらなくなり、しばらく泣き続けました。

-事例123(虐待14・性的虐待6・面前DV22)-
 父は、子どもの前でもポルノビデオを見ていました。母が「止めて欲しい」とお願いすると、父に怒鳴られ、殴られました。
私は母が怒鳴られ、殴られるのを見るのが嫌で、母に「気にしなくていいよ」と笑って応えていました。
私は家では母を気遣う長女で、近所や学校では評判のよい子として通っていました。
しかし、私は中学校3年生15歳になると、援助交際をするようになりました(非行)。援助交際の相手は、ほぼ父と同じ年代の男性でした。
そして、シンナーを吸っていると、嫌なこと、寂しさを忘れられることができました(非行)。
その後、過食と嘔吐がはじまり(摂食障害)、アルコールに溺れるようになりました(アルコール濫用)。

-事例124(虐待15・面前DV23)-
 父はアルコール中毒で、母や私に暴力をふるいました。
母はまったく家事ができず、派手好きで、ヒステリックに怒鳴り散らす人でした。
学校で必要なお金さえもわたしてくれませんでした。
小遣いをもらっていない私は、中学校1年13歳のときから援助交際をしてお金を稼ぐようになりました(非行)。
出会い系サイトで知り合った人に援助してもらっていましたが、ときどきレイプ被害にあったり、随分と危ない目にもあったりしました。
私が朝帰りしたとき、家に鍵がかかっていたので、ドアを叩いて「鍵を開けて」と母に頼むと、「入れてほしかったら、金をだしな!」と返ってきました。
私は、援助交際で稼いだ金の数万円を母に渡し、家に入れてもらいました。
援助交際をするようになって以降、私は記憶が飛んでいる時間があり(解離性障害)、母が時々、私の財布から金を盗んでいたことに気づいていませんでした。
また、援助交際をはじめて間もなくして、過食と嘔吐がはじまり(摂食障害)、リストカット(自傷行為)をくりかえすようになりました。

-事例125(虐待16・面前DV24)-
 父から暴力を受けていた母は、暴力よりも父の浮気のことが気になり、許せない人でした。
父の帰りの遅い日が続くと、浮気しているに違いないと苛立ち、長男の私と2歳違いの妹にあたり散らすようになりました。
そして、父が浮気していると信じてやまない母は、ひとりの女性をつけ回すようになりました。
母は中学1年生の私を連れだし、途中、金物屋で刺身包丁を購入し、それを鞄にしのばせて女性のアパートの周りをグルグル歩いたあと、母は「浮気相手を殺しても死刑になることはない。でも、私が刑務所に行くと、子どもたちがかわいそうだ。だから、いざというときには、あなたが刺しなさい。未成年なら罪には問われないから。」といいました。
私は母の目を盗み、相手の女性のポストに、「母があなたを殺そうとしています。逃げてください。」というメモを投げ込みました。
そのときは、なにも感じませんでしたが、40歳を前に、怒りと悲しみで叫びたくなります。
買い物先で、母親が子どもの手を乱暴にひっぱるようにしているのを見たり、子どもをヒステリックに怒鳴りつけている声を聞いたりすると、私は過呼吸がはじまり、パニックになります(PTSD・侵入によるパニック)。
 2歳違いの妹は、中学校2年生のころから万引き(窃盗)を繰り返すようになり、高校生になると過食と嘔吐がはじまりました。
家出を繰り返すようになり、援助交際をするようになり、高校2年で中退しました。
その後、覚醒剤に溺れ、窃盗と薬物で刑務所に入ったりでたりを繰り返しています。

-事例126(虐待17・面前DV25)-
 父は母だけではなく、私やきょうだいにも暴力をふるっていました。
私は情緒不安定で、進学した高校では、対人恐怖が昂じて不登校になりました。結婚後、私はアルコールを飲むようになりました。
そして、私は気がつくと、父と同じように酔って子どもを殴るようになっていました。
子どもに手をあげたあとは自己嫌悪に陥り、トイレにこもり、酒を浴びるように飲むようになりました(アルコール濫用)。

-事例127(虐待18)-
 両親のモノサシは、ただひとつ学歴だけで、家族の話題は、子どもの成績と学歴のことばかりでした。
父は国立の一流大学をでた国家公務員で、家のことは母に任せっきりにしていましたが、成績だけは確認し、父の期待の成績でなければ大声で罵倒し、殴ることもありました。
私が中学生になると、母に「最低でも90点をとる」ことを約束させられていました。
そのテストが70点だったりすると、母は怒り狂い、私を殴りました。私が泣きながら顔を洗っていると、後ろから頭を殴り、足を蹴りあげてきました。
姉と私は高校生になると、過食と嘔吐を繰り返すようになりました(摂食障害)。
その後、成人した私が母にその話をしても耳を傾けようともせず、わかろうともしませんでした。
そればかりか、母は私の治療先のカウンセラーに対し「A(姉)の治療のときに、家族教室にはでた。昔のことを掘り返して家族を責めてどうなる! 大体、娘たちは被害者意識が強すぎる。うちには虐待なんかなかった。私だってがまんしてきた。私こそ被害者だ!」とくってかかっています。

-事例128(虐待19)-
 小学1年生のとき、私は、釣堀を経営している家の友だちから、キラキラ輝いてとてもきれいな生きたニジマスを2匹もらったので、大きなたらいに入れてペットにしました。
その後、友だちとの毎朝の挨拶は、「おはよう、ルピもハナも元気よ。」となりました。
数日後、出張から帰ってきた父がたらいを除き込み「うまそうだな。」といったので、私は、父に「ぜったいにぜったいに食べないでね。」とお願いし、母には、学校に行く前と帰ってきてから念を押してお願いすると、母は「大丈夫よ。」と応えました。
友だちと約束をしていたのででかけ、夕方に帰宅すると、食卓には塩焼きのニジマスがふたつ並んでいました。
そして、父は「待っていてあげたよ。」といいました。私がワンワン泣いていると、父の暴力に絶対服従の母は、「だってうちは貧乏だから仕方がないじゃない。いつまでも泣いてないで、ほら、食べなさい。」といいました。
その後、私のペットのコオロギ、おたまじゃくしなどは、次々と父に殺され、捨てられました。
父は、ペットで飼いはじめたばかりのモルモットを、私の目の前で笑みを浮かべながら握りつぶし、殺しましました。
笑みを浮かべる父の顔を見て、ゾッとし、心底、怖ろしくなりました。
以降、私は高校2年生で家出をして、ボーイフレンドと同棲をはじめるまで、「自分も両親のいうことをきかなかったら、役に立たないとか、反抗的だとかいって、父にペットように握りつぶされて殺されるかもしれない。そして、私の死体の枕元で、母が「だって、仕方がないじゃない。」というだろう」と思うようになりました。
家をでて、同棲をはじめた私は、過食と嘔吐がはじまり(摂食障害)、リストカット(自傷行為)を繰り返すようになりました。

 第1節(Ⅱ-8)では、23の事例(106-128)をとりあげましたが、いずれも暴力のある家庭環境で育ったことで、AC(アダルト・チルドレン)を抱える傾向や特性に悩み、苦しんでいます*-8。
思春期(10-15歳)の終わりから青年期(15-22歳)のはじめに、過食と嘔吐がはじまり(摂食障害)やリストカット、万引き(窃盗)や家出、援助交際といった非行、そして、アルコールや薬物を濫用しはじめて、独特の感覚や思考行動パターンに対し解離性障害や境界性人格障害などと診断されている状況を読みとることができます。
また、大きな物音や男性の大きな声に異常な恐怖心を抱き続けているなど、PTSDの症状が表れている事例もあります。
共通しているのは、暴力のある家庭環境で育ち、アタッチメント(愛着形成)を損なっているということです。
この問題は、ものごとの捉え方や考え方に甚大な影響を及ぼすものです。
*-8 AC(アダルト・チルドレン)については、「Ⅱ-12-(11)自己正当化ADHDとAC」、「Ⅱ-12.ACという考え方と人格障害(パーソナリティ障害)」で詳しく説明しています。


(5) 子どものSOS(発信するサイン)を見逃さない
暴力は、必ず強いものから弱いものへふるわれるという構造があります。父親から母親へ、母親から子どもへ、子どもから年もっと年下の子どもへと弱いものへ向かっていきます。
どの家庭の中にもなんらかの権力構造はありますが、年齢で規定されるわけではなく、さまざまな条件が関係してきます。
したがって、重要なことは、その家庭の中で誰が本当に強いのか、誰が弱いのかを見極めることです。
なぜなら、DVのある家庭では、その家庭の中で最も弱い人からサポートしていかなければならないからです。
「母親を一生懸命サポートしている間に、子どもが死んでしまった」では元も子もありませんし、子どもが成長し高校生になり、父親そっくりのいい方で声を荒げるようになり、母親が子どもの暴力に怯えているかもしれません。
DVのある家庭といっても、それぞれの家庭で状況が違ってくることから、誰が一番弱いかを明確にしておくことが大切なのです。
とはいっても、子どもは、最初から「うちの家族には暴力があります」、「父親が母親を殴ったりしています」と口にすることはありません。
虐待(特にネグレクト)を受け、一時保護された子どもであっても、「うちの父親はとてもいいお父さんです。お母さんのことをちょっといじめるけど、でもぼくにはとてもいいお父さんです。だから家に帰りたい。」といいます。
親に虐待されている子どもには、親に「愛された」という実感がないことから、親からも愛されないのに、僕が他の人に愛されるだろうか、愛されるわけがないと考えてしまうのです。
二人称・三人称を獲得する前の思春期前の8-9歳(小学校3-4年生)の子どもは、自己と他の境界性があいまいですから、自己を中心に世界が回っていると考えています。
そのため、自分自身に悪いことがおきた場合も、すべて自分が理由で悪いことがおきていると考えます。「お母さんが殴られるのは僕のせい」、「お母さんが肋骨折ったのは私のせい」、「お父さんが包丁を持ちだしたのは全部私が悪いから」、「私がいい子になっていればよかったのに」と口にします。
「全部私がいけないんだから、私さえいい子になっていればいつかはなんとかなる」と、暴力のある環境で暮らしている子どもは思っています。
そして、母親も同じように思っています。「私さえ一生懸命に家事をやっていれば」、「私さえ完璧だったら」と思っています。
そのような過酷な環境に適応し、順応している子どもたちこそ本当に苦しいのです。
だからこそ、子どもたちには、「よく生きてたね。あなたが生きていて、私は本当にうれしい。」、「あなたは悪くないよ。あなたはとても正常なのよ。」と伝えます。
「あなた本当に正常なのよ。あなたは本当になんにも異常なところはないのよ。」と繰り返し伝えます。
こうすることを、「ノーマライゼーション」といいます。
必ずことばにして伝えることが大切です。
正常とは、先に示しているとおり、暴力によって人を支配するといった異常な環境に適応しようとしてつくられてしまった考え方の癖(認知の歪み)や行動パターン、そして、表現方法です。
したがって、暴力のある環境に順応(適応)するために身につけてしまった考え方や行動パターンや表現方法を異常とするのは問題があるのです。
とはいっても、暴力のある環境に順応するために身につけてきた考え方の癖や行動パターンは、暴力のある環境でしか成り立たないということを踏まえると、暴力のある環境でなくなったときには、暴力のない環境に適した考え方や行動パターンを身につける(学び直す)必要がでてくることになります。
異常ではないけれど、暴力のない環境では不都合が生じることになることから、学び直す必要はあるのです。
そこで、子どもを見るときには、行動と心を少し別に考える必要があります。
病名をつけ、薬を処方したら終わりと考える精神科医の中には、行動がすべて心だと思っている医師も少なくありませんが、行動で表していることと心とはイコールではありません。
自閉症(広汎性発達障害)の子どもが、例えば、自分のパターンをやりたいとの思いで頭突きをしてしまったり、異常な行動にでてしまったりすることはあっても、それはあくまで中枢神経系の疾患としての行動です。
決して心を閉ざしているわけではないという前提で、子どもを見る姿勢が大切です。
 大人たちが、「DVの発見は虐待の発見につながる」という視点に立ち、正しい知識と想像力を持って、注意深く見ていれば、子どもたちの発信するサインを見逃さずに、児童虐待を発見できる機会は増加すると思います。
そのためには、「問題」があると思える子どもの行動はなにが原因なのか、子どもの行動をひきおこすなにかが家庭でおきているのではないかといった視点を持つことが重要です。
そして、子ども一人ひとりの違いにていねいに向き合うことが求められます。
「子どもに声をかける」、「子どもの行動を注意して観察する」、「専門家につなぐ」など、子どもにかかわる人たちが、自分のできる範囲で行動をおこす姿勢が必要です。
子どもの年齢にかかわらず、「共通するサイン」は、以下のようなものです*-9。
・感情のコントロールがむずかしい
・衝動性、攻撃性が強い
・自己評価が低い
・不安がったり、落ち込んで元気がなかったり、抑うつ等の心理的影響が見られる
・慢性的な頭痛や腹痛を訴える
・いつも1人で遊んでいたり、友だちがいなかったりするなど孤立している
・問題を解決するために、頻繁に、暴力という手段を使う
・発育・発達の遅れがある
・栄養状態や衛生状態が悪い
・抵抗せずになすがままだったり、極端に用心深かったり、おどおどする
・学校で居眠りをすることが多い
・過剰に責任を引き受ける
・過剰な愛着がある
・共感性が乏しい
・否定的、自虐的になりやすい
 子どものサインを発見できる場所はたくさんあります。
保育所や幼稚園、学校、学童保育、保健所、サッカーや野球でのチーム活動、水泳、柔道、剣道、ピアノやバレエ、学習塾などの習いごと、つまり、子どもの集まる地域やさまざまな場所で、人とのかかわりにおいてトラブルをひきおこすなど、子どもたちはサインを発しています。
例えば、非行問題を抱える子どもたちの食事のあり方(どのような状況でなにを食べているか、どのような食べ方をしているか、箸をきちんと使えるかなど)に目をむけることによって、心が充たされていなかったり、心が廃れていたり、心のバランスがとれなくなったりする状況を読みとれることがあります。
*-9 「子どもが発信しているサイン」については、別途、第三章(学校現場で、児童虐待・面前DVとどうかかわるか)の中で「13-(6)早期発見のチェックリスト」として「保育園用」「学校用」を載せています。

(6つのこ食)
 家庭内での食事の状況を把握することは、ネグレクト(育児放棄)、精神的虐待の発見につながります。
このとき役に立つのが、「6つのこ食」という切り口です。
 それは、ア) 孤食(ひとりで食べる)、イ) 個食(家族がそれぞれ好きなものを食べる)、ウ) 固食(決まったものしか食べない)、エ) 粉食(粉を使った主食(特に、カップ麺やインスタントラーメン、菓子パンなど)を好んで食べる)、オ) 小食(食べる量が極端に少ない)、カ) 濃食(調理済食品など味の濃いものばかりを食べたり、さらに、調味料や香辛料を加えて、極端に味つけを濃くしたり、辛くしたりする)といったものです。
「6つのこ食」がみられる家庭環境で育った子どもには、人の目を気にしない、どう思われるかを察することができない(協調性を気にする必要がない)といった特性があります。
そのため、勝手気ままな生活になりやすく、社会性やマナーを身につけていなかったり、人から注意されると、直ぐに感情的になったり(ムカつく、キレる)する傾向があるとされています。
離乳食を経て、食事の習慣をどう身につけるかという問題は、親(養育者)とのかかわり方を如実に示すものです。
それは、アタッチメント(愛着形成)の獲得になんらかの問題が生じている可能性を示すもので、その後、思春期、青年期と成長するにしたがい問題行動となって表れるという視点で捉えることができるものです。
 小さいころからいろいろな食べ物の経験(食経験)が豊富な子どもほど、いろいろな食べ物をよく食べることがわかっています。
しかも、胎盤を通じて、胎児は食べ物の味覚を感じていることから、胎児のころからの食経験が関係していることが明らかになっています。
味覚とは、「あまい(甘」「すっぱい(酸)」「にがい(苦)」「塩辛い(塩)」の4つに「うまみ」を加えた5つの味のことです。
 子どもの味覚は、大人の2倍敏感であるので、刺激の少ない甘い味を好んで食べ、苦い、すっぱいが苦手です。
なぜなら、子どものころは、舌の感覚器官である味蕾(みらい)という細胞の数が多く、舌全体にあるからです。
味蕾は生後から徐々に増え、20歳ころにピークを迎え約9,000個になり、以降、徐々に減り、80歳ころには半数以下の約4,000個になります。
高齢者が濃い味を好むのは味蕾の減少によるものです。
しかし、味に敏感な若年者が濃い味を好んでいるときは、味覚に問題が生じていることを意味しています。
ここには、「2歳のころによく食べたものは、大人になっても好きな食べ物になる(モネル化学感覚研究所の研究報告)」、「人は12歳までに食べてきたものを一生食べ続ける」というように、味覚は子どものときに決まるという前提に立つと、幼児期に、先に記したような「濃食=濃い味」の食事をとっていた可能性を示すものです。
つまり、幼児期に、濃い甘味、塩味、旨味に慣れさせてしまうと、正常な味覚の育成と健全な脳の発達を損ねることになるのです。
同時に、子どもは、「甘く刺激の少ないもの」は「安全」「安らぐ」と本能的に感じとります。
そのため、不安や恐怖という強いストレスを感じている子どもは、頻繁に甘いものを欲しがリます。そして、甘いもの(薬品分類の白砂糖)に依存していくことになります。

(「食べてよい」、すなわち「おいしい」)
「おいしさ」は舌や口の中ではなく、脳で感じられるものです。
私たちは、嗅覚、視覚、味覚、触覚、聴覚の五感を使い、食べ物のあらゆる情報を受けとっています。
脳は食べ物の情報を受けとると、それを食べてよいか悪いか判断し、食べてよいとなれば、おいしいと感じ、食欲をわかせて必要な栄養素を摂取しようとします。
「おいしさ」を感じさせる要因には、味やにおいばかりでなく、食べ物の色や形、食べたときの食感や音など、さまざまなものが含まれます。
また、食べ物の直接的な要因だけでなく、食べる人の体調や食べるときの環境、食文化などの間接的な要因にもおいしさは左右されます。
おいしさは、本能的に感じるものと経験的に感じるものに大別することができます。
疲れたときに甘いものがおいしく感じ、汗をかいたときに塩分を含むものが欲しくなるのが、本能的なおいしさです。
一方、子どものときには苦手だった食べ物が、大人になったらおいしく感じたり、好物はおいしく感じたりするなど、食経験を重ねることでもたらされるのが経験的なおいしさです。
経験的なおいしさは、人それぞれで基準が異なりますが、本能的なおいしさは生まれながらに感じられる共通なものです。

(味は必要・危険のシグナル)
私たちは普通、甘いものをおいしく感じ、苦いものはおいしく感じません。甘い、苦いといった味覚は、食べ物に含まれている化学物質の刺激が脳に伝えられて、識別されるものです。
味覚は「甘味」「塩味」「旨味」「酸味」「苦味」で構成され、このうち、甘味、塩味、旨味は、食経験のない赤ちゃんでもおいしく感じます。
甘味はエネルギー源の糖、塩味は生体調節などに必要なミネラル、旨味はタンパク質のもとになるアミノ酸や核酸、それぞれに由来します。
つまり、甘味、塩味、旨味は、人体に必要な栄養素の存在を知らせるシグナルとなっています。
一方、苦味や酸味ばかりを好む人はいないし、赤ちゃんも苦味や酸味は嫌がります。
なぜなら、腐ったものは酸っぱくなり、毒のあるものは苦いものが多く、酸味は腐敗を、苦味は毒素の存在を知らせる味だからです。
これらの味は危険のシグナルになり、おいしく感じないのです。
ただし、食経験を積んで、安全な食べ物だと認識されれば、コーヒーやビール、梅干しなどのように苦味や酸味のある食べ物もおいしく感じます。
これが経験的なおいしさです。
つまり、味は、食べてもよいのか、悪いのかを判断するためのシグナルになっているのです。
同じように、においや色なども食べ物を判断するための重要な情報です。人は本能的に人体に必要なものをおいしいと感じ、人体に害のあるものはおいしく感じないようになっています。
おいしく感じれば、もっと食べようとするし、そうでなければ、食べるのをやめます。
人類の歴史をさかのぼれば、食べることは命がけの行為でした。
せっかくの獲物でも、毒が含まれているものを食べたら、命を落とすかもしれません。
食べ物を見分けるために、人類はこの能力を身につけました。

(おいしさは食欲を刺激する)
五感によって受けとった、味や香り、色、形などの外観、温度、歯ごたえなどの食べ物の情報は、大脳皮質のそれぞれの感覚野(感覚領)に伝えられます。
大脳皮質とは、大脳の表面に広がる薄い神経細胞の層で、知覚や思考などの中枢になっています。
感覚野は大脳皮質のうち、感覚に関与している部分です。
情報は感覚野に伝えられたあと、大脳皮質連合野という部分に集まり、食べ物が安全かどうか、求める栄養素を含むかなどを判断します。
味覚などの五感から得た食べ物の情報と血糖値など生理的な状態の情報は、さらに扁桃体へと伝わます。
扁桃体とは、大脳の内側にある大脳辺縁系の一部で、いい気持ちになったり、不愉快になったりする、「快・不快」の本能的な感情を生み出しているところです。
ここでは、記憶や体験など過去の情報と照合し、食べ慣れていて安心して食べられるなどの手がかりをもとに、好ましいかどうかを判断します。
扁桃体の情報は、さらに、視床下部へと伝わります。
視床下部は、偏桃体の近くにある食欲をコントロールする部分で、食べるように促す摂食中枢と、食べるのをストップさせる満腹中枢に分かれています。好ましい食べ物の場合は摂食中枢を刺激します。
すると、食欲が増し、おいしく味わって食べることができ、好ましくない場合は、食べることをやめます。

(おいしさは生命維持のために備わった快感)
おいしさは、食べ物を食べたときの「快感」です。
快感は大脳皮質で理知的に判断されるのではなく、扁桃体で本能的に感じるものなのです。
先に述べたように、扁桃体で感じる「快・不快」の感情(情動)は、動物の行動を理解するために使われます。
動物は「快」をもたらす刺激には接近し、「不快」をもたらす刺激は遠ざけます。
食べることに「快」をもたらすことで、食欲という生命維持に欠かせない欲望を生みだしているのです。
私たちは、食べ続けなければ生きていくことはできないことから、生体は、食べることに心地よさや喜びを感じさせるようになっているのです。
おいしいという快感が、「もっと食べたい」という感覚を生じさせることで、私たちは生命を維持できるのです。
毎日おいしく食べられるのは、生きていることの証です。

(白砂糖の過剰摂取と低血糖症(ペットボトル症候群))
 人の血液の質*-10は、食べるものによって常に変化しています。
ひとつまみの塩、2-3滴の醤油、一切れのチーズ、2-3房のミカン、スプーン半分の砂糖、一杯のコーヒーが微妙に血液の質を変化させます。
血液の質が変化すると、おのずと脳や神経系統、身体全体の細胞の質も変わります。
人の行動、表現、思考、感情のすべては、なにを食べたかによって大きな影響を受けています。
同時に、人の「感情」は血液の質を変化させます。
 笑い(楽しいという感情)は脳への血流を20%増大させ、エンドルフィンを分泌させることによって、心身はゆったりして副交換神経が優位になり、リンパ球が多くなります。
大阪の「なんば花月」で3時間大笑いした癌患者のNK細胞は、最大6倍も増加したという報告があります。また、食後20分笑うと血糖値の上昇が約40%抑えられ、インスリン注射よりも効果があるともいわれています。
逆に、人は「大嫌っい」「こんちくしょう」「憎ったらしい」「馬鹿やろう」と怒りの感情がでた瞬間、副腎からアドレナリンが分泌されます。
アドレナリンは怒りのホルモン、攻撃のホルモンで、毒性は、毒蛇の毒の2-3倍といわれています。
この猛毒のアドレナリンは、「あっ敵だ」と感じた瞬間、副腎で生成され、一瞬で血液に乗って全身を駆け巡ります。
アドレナリンは、血中で酸化しアドレノクロムになります。
アドレノクロムは、人によって幻覚をも誘発する物質です。
 そして、猛毒のアドレナリンは、怒りを感じたときだけでなく、血糖を脳や筋肉のエネルギー源として活動させるときにも分泌されています。
つまり、アドレナリンは、対外に存在するはずの“外的”が、体内にいると見間違う特性があるのです。
本来外に向かうエネルギーが体内に向かい、内在化されてしまうと、身体はイライラ、ムカムカしたり、怒鳴りたくなったりすることになります。
急激に血糖値をあげアドレナリンを分泌させるのは、白砂糖たっぷりのジュース、炭酸飲料を大量に飲み、ジャムをたっぷりつけたパン、生クリームたっぷりのケーキ(以上、浸透性が高くいち早く血液にとり込まれる)を食べたりする行為です。人の身体は、血糖値が上昇(浸透性が高いと急上昇)すると、インスリンが分泌され血糖値を下げます。
しかし、上記のような浸透性の高い血糖値を急上昇させる食品を多くとり、血糖値が下がると甘いものが欲しくなり食べ、そして、血糖値が急上昇することになるといったことを繰り返すうちに、インスリンは出っ放しになり、甘いものを大量に摂るのに血糖値は低めのまま(インスリンの過剰分泌)の低血糖状態をひきおこします。
つまり、「低血糖症」を発症することになります。
「ペットボトル症候群」は低血糖症を表す総称です。
白砂糖の燃焼時には、カルシウム、ビタミンB群を大量に消費します。
カルシウム、ビタミンB群が欠乏すると、ますますイライラ、ムカムカを募らせることになり、<キレやすい奴>と煙たがれることになります。
 先に、「6つのこ食」にあげているとおり、子どもがどのような食事をしているかはとても重要なのです。
1.5リットルの炭酸飲料ペットボトル、箱入りのアイスクリーム、プリン、甘い菓子パン、カップ麺やインスタント麺を、スーパーの買い物カゴいっぱいに入れ、レジに並んでいる親が、3-4歳の子どもを「ちょろちょろするなって、いっているだろ! このバカ!」と怒鳴っているのをみると、虐待が日常的におこなわれているであろうこととは別に、イライラしている親とジッとしていられない子どもといったこの構図には、この買い物カゴに入っている食品との因果関係がはっきりしているように感じます。
 それは、「低血糖症」は、心の病を解く鍵のひとつとされているからです。
低血糖症の症状は主に、①身体の細胞がエネルギー不足に陥ることでもたらされるもの、②低血糖時に分泌されるホルモンの変動に影響されてもたらされるものの二つに大別されます。
①の主な症状は、異常な疲労感、起きられない、眠たい、集中力がない、めまい、ふらつき、物忘れがひどい、目のかすみ、呼吸が浅い、目が眩しい、甘いものが無性に食べたい、胃腸が弱い、ため息をつく、生あくび、偏頭痛などです。
一方、②の症状は、精神症状と身体症状にわけられます。精神症状としては、睨んでいるような表情、暴力をふるったり、奇声をあげたりする、考え方がバランスを欠いている、うつ症状をおこす、幻覚をおこす、不眠に陥る、怒りだすと止まらないなどです。
身体症状は、手足の冷え、目の奥の痛み、動悸、頻脈、狭心痛、偏頭痛、筋肉の麻痺、発汗、体重減少、便秘、立眩みなどです。
これらの低血糖症の症状と精神疾患の症状は、なにが違うというのだろうかと思うほど似通っています。
実は、精神疾患ではなく、ADHDでもなく、低血糖症を見逃していることが少なくないのです。
ドーパミンが過剰に放出されると過覚醒の状態になり、統合失調症の幻覚や興奮などの症状をひきおこすわけですが、
実は、低血糖は、ドーパミンの放出を促すのです。
ドーパミンの放出は、アドレナリンやノルアドレナリンを放出し、アドレノクロムをつくりだして幻覚症状をおこすというメカニズムです。
また、脳内組織のリン脂質のアセチルコリン(K.リゾレシチン)が不足すると、正常なものの考え方や判断、感情や言語などを司る前頭葉に障害でてきます。なぜなら、神経細胞からでている神経線維の鞘は、アセチルコリンによって保護されているからです。
しかし、不足してしまうと神経が疲れ、集中力や記憶力、学習意欲が減退してイライラしてきます。
精神を患う人の脳内細胞のアセチルコリン濃度は、患っていない人の50%程度しかないとされています。
逆に、副交感神経の神経伝達物質アルチルコリンに満たされていると心が落ち着き、穏やかになり、集中力は増し、よく眠れるようになり、食欲もでて、気分も爽快になります。
脳内組織のリン脂質成分(アセチルコリン)が不足したり、ビタミンやミネラル不足からくる栄養バランスが欠如したりすると、ホルモンの代謝が異常をおこし、イライラしたり、怒りっぽくなったり、キレたり暴れたり、「どうにでもなれ」といった自暴自棄になったり、死にたくなったりするのです。

(心身の健康にはミネラルが欠かせない)
人類は、原始の海にいた生物が進化した生き物とされていることから、その原始の海の状態に似たミネラルを含む水分を血液や体液の中にいまだに持っています。
人の体液のミネラルの比率は、カルシウムCa39%、リンP22%、カリウムK5%、硫黄S4%、塩素Cl3%、ナトリウムNa2%、マグネシウムMg0.7%、鉄Fe0.15%、他ヨウ素、マンガン、銅、ニッケル、砒素、臭素、ケイ素、セレニウム等が微量となっています。
ミネラルは骨、筋肉、その他を形成するだけでなく、身体が陰性に偏ったり、陽性に偏ったりした状態を中和する働きをしています。
新陳代謝のプロセスでつくられる余分な酸は、二酸化炭素、腎臓から尿、血中の緩衝作用により排出されます。
ミネラルは、体内の緩衝作用により砂糖、脂肪、脂などによりもたらされた強い酸を弱い酸に変える重要な役割を果たしています。
その結果、血液をpH値7.3-7.45の弱アルカリ性に保つことができるのです。
原始の海の状態に近い人の体液のミネラルによって、人は円滑な新陳代謝を保つことができ、生かされています。
ところが、砂糖や脂肪を摂り過ぎると、血液は酸性過多の状態になります。
カルシウムをはじめとするミネラルがそれを中和し、炭酸ガスや尿、汗として排出することから、ミネラルたっぷりの自然塩(精製された塩化ナトリウムの食塩はダメ)や全粒穀物(玄米など)、野菜を摂るなど、常にいろいろな種類のミネラルを補給する必要があります。
緑黄色野菜、硬い淡色野菜には、比率からいっても大量のカルシウムが含まれ、海藻類の多くは、酪農製品の数倍ものカルシウムを含んでいます。
マグネシウムは、多くの対内酵素の正常な働きとエネルギー産生を助け、血液循環を正常に保つ役割を果たしています。

(情緒不安や体調不良。見逃しがちな気象変化)
 地球上には固有の微弱電磁波、シャーマン共鳴という極低周波が存在しています。
その振動には5つのピークがありますが、それは、人の脳波区分と完全に一致しているのです。
つまり、人は、地球の波動を生命リズムとしているのです。
深夜2時(丑三つ時)、この2時前後は、人の容態が急変しやすい時間です。この時間、太陽は真裏に位置しています。月と太陽と地球の引力の関係は、海の引潮、満潮などで知られています。
気圧の変化に体調が影響する*-11のは、心身が健康であれば誰でも感じることができます。
台風や爆弾低気圧が日本に接近したとき、その求心力で海面は70-90cmほどひきあげられます(台風や爆弾低気圧の接近と満潮が重なると高潮となり、さらに大きな被害をもたらします)。
人の身体も80-70%が水分でできていることから、気圧の変化の影響を強く受けることになります。極寒の地ロシアの天気表示には、気温の他、気圧も表示されます。
なぜなら、気圧の変化が心疾患、脳疾患をひきおこすことから、ここまで気圧が下がったときには外出を控えるようにと警告する意味があるからです。
低気圧(台風を含む)が近づいてくると関節や古傷が痛んだり、頭痛がしたりするのは、気圧が低くなると体にかかる外からの力と(体の)内側からの力とのバランスが崩れるからです。
飛行機に乗っているとペットボトルなどが膨れるのと同じ理屈で、体内の細胞が膨れることによって神経を刺激することになります。
 そして、気圧の変化による体への付加は、強いストレスとなることから、暴力によるストレスを溜め込んでいる子どもやADHDなど発達障害の子どもは、体調不調を訴えたり、極度に落ち着かなったり、強い不安を訴えたりすることがあります。
*-11 気温、気圧の変化が激しいなど気候の変化によって心身の不調のことを「気象病」といい、頭が重く頭痛がする、めまいや耳鳴りがする、手足がむくむ、関節が痛む、便秘や下痢気味になる、だるく倦怠感があり、やる気がでない、気分が落ち込む、睡眠不足、眠れない、眠りが浅いといった症状が表れます。
 気圧が低くなると、血管やリンパ管が膨張し、血流が悪くなり、膨張した血管が頭蓋骨や脳を圧迫して頭痛がおこったり、自律神経の乱れを招き、めまいやだるさがでたりします。
また、湿度が高くなると、体はスポンジのように水分を吸って重くなり、身体のだるさ、むくむなどの症状となって表れます。


 子どもの発信しているサイン(しぐさや癖、習慣、そして、心の不具合や体調不調)を見逃さないために、一見、虐待発見には関係のないように見える以上のような「ひきだし(知識の蔵)」に照らし合わせてみることは、暴力のある家庭で、子どもが日々どのように過ごしているかに思いを馳せるうえで重要な意味を持ちます。
幅広い知識、正確な知識は、暴力のある家庭環境から子どもを救うきっかけになり、同時に、DV被害者としての母親が自身の心の問題を知るきっかけになります。
そして、心の問題と真正面から向き合い、傷ついたケア(インナーチャイルドを含めて)のためにも欠かせないことです。


2016.3/4 ブログ再編成(第3次改訂)に伴い、主記事として掲載
2017.4/24 「第2章(Ⅱ(8-15))」の「改訂2版」を差し替え掲載



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