あなたは、夫の暴力・DVを容認していませんか? 暴力のある家庭環境で暮らす子どもの心を守ることを忘れていませんか?

[Ⅲ-2]プロローグ(1-4)

1.人の脳の機能は、生まれ育った環境に合うようにつくられる

 
 2.「人が人を殺す」という行為は、本当に異常なのか? はじめに(DV理解-1.2.3.4.5)**
* 現在、この「手引き」は、第3次改訂の編集をおこなっています。編集終了後、差し替えていきます。

プロローグ

1.人の脳の機能は、生まれ育った環境に合うようにつくられる
(1) 必要のない脳の機能を発達させないリスク
 (2) 人類の歩みにとって、危機的な状況とは
 (3) 危機的状況がもたらす脳のトラブル
 (4) 発達期の脳のダメージは、鬱や衝動的攻撃性をもたらす

2.「人が人を殺す」という行為は、本当に異常なのか?
(1) 糖質(炭水化物)は、コカインより中毒性が高い
(2) 中毒性の高い小麦の栽培。人類の定住化が殺し合いの原点
(3) 乳幼児期、心地よさが欠乏。快感中枢が渇望状態に
(4) 「快感中枢」を刺激し、中毒性を伴う“暴力”と“性行為”
(5) 中毒化した脳が暴走したとき、規定や規範は無力
(6) 狩りと武器。競うこと、権力を握ることの意味
(7) 意思決定、「遅いシステム」の未習熟が招く悲劇
(8) 性暴力。自尊心を回復するための承認欲求を満たすための行為
(9) 「人が人を傷つけない」ために、いま、できること

3.東日本大震災後の児童虐待とDVの増加。
-戦争体験によるPTSDの発症から学べるものはなにか-
(1) 東日本大震災後、児童虐待・DVが増加
(2) PTSDの“晩発性”という特性
(3) アメリカ社会、帰還兵が抱える精神的障害
 ・事例1-3
(4) 絶望、戦地に戻りたい衝動と殺人・暴力・レイプ
 ・事例4
(5) 女性兵士の33.5%が、米軍内でレイプされている
 ・事例5
(6) 大戦の被災者と大震災の被災者、傷つき、失ったものは同じ
(7) 東日本大震災後の現状、いま、阪神淡路大震災から学ぶこと

4.差別と女性の貧困、そして、児童虐待とDV
 ・事例6-9
(1) 貧困の世代間連鎖
(2) 差別という暴力、そして、同和問題
 ・事例10
  ・家族システムを崩壊させた“富国強兵策”
  ・「内助の功」という教え。それは、DVを許す考え方
 ・日本のママカーストとマタニティハラスメントは、“同質”で異常
  (事例11-12)
・女性性、男性性が認められないということ
(3) 貧困と教育
(4) ひきこもりと貧困、精神疾患・発達障害との関係
(5) 貧困と犯罪
(6) 家出と「宿カレ」という問題
(7) 外国人母子家庭
  ・事例13
  ・外国籍のDV被害女性特有の問題
(8) 社会的養護下の子どもたち
 ・事例14

-「日本社会にひとつの構図」を数字で読み解く-



第1部
プロローグ


親と呼ばれる養育者・監護者から子どもに向けられる身体的・精神的暴力や養育放棄に対し、「児童虐待とネグレクト(child abuse & neglect)」という呼称がついたのは、20世紀も後半に入ってからのことです。
多くの子どもたちが不適切な養育を受け、その結果、死ぬこともあるというあたり前のことが、社会の中で、明瞭に語られるようになると、生き残って成人に達した者たち(adult survivors)に、児童虐待・ネグレクトの影響が残っていることに関心が向けられるようになりました。
 「児童虐待とネグレクト」は、主に小児科医たちに発見され、「アダルト・サバイバー」たちは、主として精神科医たちが関心を寄せました。
そして、レイプという外傷体験に関心を寄せたフェミニストたちにより、世人の性暴力の対象にされた女児(現在では男女児)に対する児童期性的虐待が明るみにだされるようになりました。
この時期は偶然、「プロローグ-3-(3)アメリカ社会、帰還兵が抱える精神的障害」で詳しく説明しているように、ベトナム戦争から帰還した兵士が、自分たちの特異な精神障害(PTSD。当時「砲弾ショック」呼ばれていた)に対し、「国防総省が責任を持つべきだ」という声があがった時期に一致していました。
 ベトナム戦争からの帰還兵に見られた戦闘ストレス後遺症の研究からはじまった急性ストレス障害(ASD)と心的外傷後ストレス障害(PTSD)の研究は、2つの方向に分岐していきました。
それは、災害、事故、暴行・傷害などの単一外傷体験(single/simple trauma)の研究とは別に、家族という密室内で、幼少時から長期にわたり、さまざまな形で周囲の大人たちから受ける外傷的体験の影響を検討するようになったことです。
後者の専門家たちは、複雑性トラウマ(complex trauma: Herman5))ないし複合型トラウマ(combined-type trauma:van der Kolk)という名称を提示するようになりました。
つまり、単回性のトラウマ体験により発症するASD、PTSDとは別に、慢性反復性のトラウマ体験により発症する複雑性心的外傷後ストレス障害(C-PTSD)を分けて研究されているということです。
 したがって、「この手引き」で考える暴力のある家庭環境で育った子どもたちの心身のダメージ・後遺症という問題は、慢性反復的なトラウマ体験にもとづく「C-PTSD」の理解が前提となっています。
 「アダルト・サバイバー」とは、なんとか生きて思春期、成人期に達してはいるもののが、かつてのトラウマ体験の影響を心身に色濃く残している人々のことです。
不眠と悪夢、パニック発作(パニックアタック)、解離性障害、身体化障害、抑うつ・無気力と自己嫌悪、自傷と自殺未遂、“独特の対人関係様式”などの情緒的・行動的な問題を抱え、自己治療の試みと思われるさまざまな嗜癖行動(アルコール・薬物依存、摂食障害、恋愛嗜癖、など)を持続しているという特徴があります。
独特の対人関係様式とは、対人恐怖を持ちながら、心を開いた他者に対しては著しく依存的になり、退行し、攻撃的になるといった境界性人格障害(ボーダーライン)とされてきた人々の人間関係に近くものです。
19世紀末にヒステリーとして一括された症状群は、20世紀に入ると、その一部が「急性分裂病性反応」「非定形精神病」「精神分裂病」などに包含され、かつてヒステリー人格と呼ばれていたものは、「反社会性人格障害(精神病質:サイコパス)」「境界性人格障害(ボーダーライン)」「自己愛性人格障害」、「演技性人格障害」などの人格障害として分類され、その後、「解離性障害」「身体表現性障害(特に身体化障害)」などに分解されています。
 その結果、「精神分裂病(統合失調症)」と「気分障害(うつ病や双極性障害(躁うつ病)など)」を中核として成立してきた精神障害診断分類は、横断的診断分類(DSM、ICDなど)の基本概念と対立する縦断的診断分類が外傷後ストレス障害(PTSD)としてDSMの中に混入するようになり、1980年代に入ると、多重人格に対する関心の再燃(19世紀の後半に二重意識として、記憶の科学の誕生の契機となった)と相俟って、「解離性同一性障害(DID:Dissociative Identity Disorder)」を一方の極とし、人格的偏倚を他方の極とする「解離性連続体(dissociative continuum:Putnum)」の概念と、その縦断的、起因的要件としての「幼児期・外傷性ストレス」という“3次元的な症状発生機構”が想定されるに至っています。
 注目されているのは、DSMの第1軸診断を「PTSD」とし、第2軸診断に「境界性人格診断(ボーダーライン)」を記さなければならない症例が増加しているということです。
 近年のPTSD研究は、外傷性ストレスの及ぼす“脳の器質的変化”、特に、「解離性健忘(解離性障害)」と関連した“海馬萎縮(専らMRIによる海馬容量の測定研究)”や脳シンチグラムによる“扁桃体領域の血流障害”、PETを用いた“ブローカー野中枢部の機能低下”など、脳図像学的研究に画期的な進展をみせています。
「解離性障害」は、外傷性ストレスによって生じたコルチコ・ステロイドやオピオイドにより“海馬”が損傷したことが発症原因となるように、外傷性ストレスは、脳神経系の器質的・機能的障害を生みだします。
アメリカのPTSD治療をリードしてきた拠点のひとつは、マサチューセッツ州ケンブリッジ市周辺にあります。
ここには、アメリカ最大の復員軍人病院があり、しかも、ハーバード大学医学部が隣接しています。
ベトナム戦争からの帰還兵が抱える戦闘トラウマの治療が求められる中、PTSDの神経生理学的研究が早くはじまりました。
この地域でのフェミニズム運動を支えていたグループから女性共同体(Women's Collective)が発生し、そこで、集団精神療法を担当していたジュディス・L.ハーマンらによって、「父-娘近親姦*- 」という性的虐待の中核問題に焦点があてられることになりました。
*- 「Ⅱ-11-(4)性的虐待」と「Ⅲ-17-(5)性的虐待が気になるとき」の中で、「児童期性的虐待の基準(ハーマン著)」をとりあげています。
また、この地区の小児病院では、児童虐待・被害児への保護と系統的治療が模索されていました。
こうした地域的な背景のもと、PTSD研究におけるボストン・グループ、ハーバード・グループと呼ばれる一群の研究者・臨床家が相互に影響しあうようになり、この中から、「複雑性PTSD(C-PTSD)」という家族内で長期にわたる慢性反復的の外傷性ストレス後遺症への治療的とり組みが系統だてられるようになっていきました。


1.人の脳の機能は、生まれ育った環境に合うようにつくられる*-1

この「手引き」で、子どもがDVのある家庭環境で育つことを問題視しているのは、「人の脳は、生存している環境に合った脳の機能がつくられる」、つまり、「人は、育つ家庭環境やコミュニティで生存するために必要な脳の機能を発達させ、必要ない脳の機能は発達させない」という事実があるからです。
子どもの脳の発達に影響を与える時期は、出生後の環境だけでなく、出生前の妊娠期、つまり、胎児期の母体環境からはじまります。
妊娠中のDV被害は、母体の被害だけでなく、早産や胎児仮死、児の出産時低体重をひきおこし、セロトニン・ドーパミンなどの神経伝達物質の分泌に影響を及ぼすなど初期の脳形成に重大な影響を及ぼします。発達期の脳に対する強い精神的衝撃は、脳の神経伝達物質の分泌にも影響を与えます。
例えば、ストレスを調節するホルモンであるコルチゾールや重要な神経伝達物質であるエピネフィリン、ドーパミン、セロトニン等に変化が生じます。
これら神経伝達物質のバランスに問題が生じると障害がおきます*-2。
2013年5月16日、アメリカの米疾病対策センター(Centers for Disease Control and Prevention;CDC)の「週刊疾病率死亡率報告(Morbidity and Mortality Weekly Report;MMWR。2005年-2011年のデータにもとづく)」を発表し、「1年間に精神疾患を経験する子どもの割合は13-20%(5-8人に1人)にのぼる。」、「若者の精神疾患はその流行の度合い、早期に発症すること、子どもや家族、コミュニティへの影響が大きいことといった点から米国における重大な公共衛生問題であり、年間で推2,470億ドル(約25兆5000億円)の損失を生んでいる。」、「若年層に最も多い精神疾患は注意欠陥多動性障害(ADHD)で全米の児童・若者の6.8%が患っていた。次に多かったのは行動問題(3.5%)で、不安(3.0%)、うつ(2.1%)、自閉症スペクトラム障害(1.1%)、トゥレット症候群(0.2%)と続く」とし、「体罰や精神的虐待で精神疾患の可能性高まる。」ことから、この報告書は、医療関係者に対し、「精神疾患の影響をよりよく理解し、治療と介入戦略の必要性を伝えて、子どもたちの精神衛生を促進する」ための「早期の診断と適切な治療」をおこなうよう呼びかけています。
そして、ユニセフ(国際連合児童基金)は、2015年6月2日、「子どもへの厳しいしつけ(虐待)が子どもの人生を破壊し、多大なる経済的損失を生じさせる。」、「東アジア・太平洋地域においては、全地域のGDPの2%に相当する2,090億ドル(年間)、日本円に換算すると約26兆円にものぼる。」、「暴力をふるって体に危害を加える身体的虐待、性的な行為を強要したり見せたりする性的虐待、養育や保護の責任を放棄するネグレクト、暴言を浴びせるなどの精神的虐待(DVを目撃することを含む)の4分類の中で、このうち、経済的損失がもっとも高いのが精神的虐待である。」との報告を発表しました。
発達段階に日常的におこなわれる虐待は、子どもから積極性、自主性、意欲などを奪うことから、自信を喪失させ、自己肯定できなくさせるなど、本来獲得できるであろう能力(脳機能)を獲得し、十分に生かす機会を奪われる慢性反復的なトラウマ(心的外傷)体験となります。特に、精神的虐待によって他者に恐怖心や敵意を抱くようになり、社会性・協調性の欠如、精神不安、自傷行為、自殺願望などという重荷を背負わされているにもかかわらず、本人は虐待を受けて育ったという自覚がないまま、「虐待を受け能力や将来を削りとられた自分」を「本来の自分」だと思い込んでいることが少なくありません。
しかし、ロバート・アンダ、ヴィンセント・フェリッティらの研究チームが、面前DVや虐待、ネグレクトといった幼児期の悲惨な体験が成人後にもたらす影響について調査した結果、「子ども時代のそうした体験が、成人してからの病気や医療費の多さ、うつ病や自殺の増加、アルコールや麻薬の乱用、労働能力や社会的機能の貧しさ、能力的な障害、次世代の能力的欠陥などと相関関係があるとわかった。」と、ユニセフが指摘している経済的損失を“成人後にもたらされる影響”として問題視しています。
「親のいい分としての「厳しいしつけ」などの精神的虐待によって、子どもの将来の可能性を踏みにじれば、いずれその結果が社会にももたらされる」、つまり、「保健医療の負担増」、「暴力や犯罪の増加」について懸念を示しています。
未来の社会を担う貴重な人材である子どもたちの「地域社会への潜在的貢献」の喪失を防ぐためにも、社会全体で子どもを守る必要があると訴えているのです。
「暴力の被害体験が、次の暴力を生みだす」という事実、つまり、「世代間連鎖」として、暴力が、次の世代にひき継がれてしまうリスクが高いことから、児童虐待と面前DVの早期発見と早期介入は社会損失を防ぐ社会インフラとしても重要で、緊急性の高い課題です。専門機関のアボドケーター(援助者)に支えられながら、虐待を受けた自分が悪いのではないことを理解し、母親自身が夫をはじめ周囲の人から大切にされ、子どもにとってもかけがえのない存在だという自信が持てるようになることが、衝動的な虐待に傾く心を抑止することにつながるのです。この“抑止”には、自分の意志だけで解決するのではなく、直ぐに助けを求める行動も含まれます。
*-1「脳の機能は、生まれ育った家庭環境に合うようにつくられる」という脳の発達論にかかわる重要なテーマは、「「暴力の影響を「事例」で学ぶ。DVの早期発見・支援。母と子どもが暴力から脱するための手引き(はじめに-手引きの基本骨子-)」、同「Ⅲ-4」の「Ⅱ.児童虐待と面前DVの影響。暴力のある家庭環境で暮らす、育つということ(6-12)」で詳しく説明しています。
*-2 「子どもの脳の発達に影響を与える時期は、出生後の環境だけでなく、出生前の妊娠期、つまり、胎児期の母体環境からはじまる」という問題は、医学的(生物学的)な捉え方になります。つまり、胎児、そして、妊娠している女性に対する捉え方は、医学的(生物学的)解釈と法律的解釈、人道的・倫理的な解釈は違うということです。
法律的な解釈では、堕胎(中絶)を殺人罪で問わない、胎児は相続権を持たないなど、「胎児は、出生後に得られる権利を持たない」存在と位置づけられています。したがって、胎児期の母親への暴力の影響に対して、傷害罪(母親への暴行、胎児への虐待)などで訴えたり、損害賠償を請求したりすることはできないわけです。一方で、公訴時効はありますが、出生した子どもは、幼少期の虐待による傷害や精神的苦痛に対して、親を傷害罪や強姦罪で刑事告訴したり、損害賠償金を請求したりすることはできます。
このように、胎児と出生した子どもとは、法に定める権利としては、大きく異なることになります。
また、人道的・倫理的な解釈では、妊娠している女性が殺害されたり、不慮の災害不慮の事故で亡くなったりしたときには、胎児が生まれてきたあとの生活(人生)に思いを馳せ、怒りや憎しみを増大させたり、哀しみが増大したりすます。



(1) 必要のない脳の機能を発達させないリスク
人間の脳は、生存している環境にあった脳の機能がつくられます。
つまり、人は、育つ家庭環境やコミュニティで生存するために必要な脳の機能を発達させ、必要ない脳の機能は発達させないのです。
乳幼児期にある特定の入力(インプット)が欠けていると、そのインプットに関連する情報を感じ、気づき、理解し、判断し、それに従って行動するという脳のシステムの発達に異常が生じることになるのです。
ここでいう“異常”とは、人類の歴史の中での“現代”、加えて、戦争や紛争下のない地域、国家における法やルール(規制)、道徳観や倫理観(モラル)といった規範から外れる考え方や行為をいいます。
人は「前頭前野の中央部の下側にある眼窩領域」が損傷を負うと、「行動の抑制がきかなくなったり、衝動を抑えられなくなったりして、社会的なルールが守れなくなる」ことがわかっています。
重要なことは、この眼窩領域が損傷を負ったとしても、知的な活動をする脳の部分が損傷を負うことがなければ、知的能力の低下は見られないということです。
つまり、知的な活動と善悪な判断や道徳的な活動は、脳の異なる領域でおこなわれていることから、知的能力が高い状態で、行動の抑制がきかなかったり、衝動を抑えられなくなったり、法律やルールといった規制や倫理・道徳といった規範を守れないという状態がおきるということです*-3。
また、「出生後、人が生存する環境に順応する」という意味は、人は、乳幼児期以降、生まれた環境で生き延びるための選択を優先し、その環境で生き延びるための“術”を学び、身につけていくということです。
この事実は、「子どもも、大人も正しいことを学び、正しい選択をするわけではなく、その時々で、生き延びるために、当事者にとって最善と思われる選択をする」という“人の本質”に通じるものです。
例えば、戦争・紛争下にある地域や国、暴力のある家庭環境など、乳幼児期に命が脅かされる環境で育つと、「私は、養護者に守られているから安全で、安心して過ごせる」などといったある特定の入力(インプット)が欠けてしまうリスクが高まります。そのインプットに関連する情報を感じ、気づき、理解し、判断し、それに従って行動するという脳のシステムの発達に異常(問題)が生じることになるのです。
脳のシステムの発達の異常(問題)のひとつは、人を貶めたり、罵ったり、嫌がらせをしたり、困らせたり、辱めたり、騙したり(騙して奪うを含む)、暴行を加え傷つけたり、暴行を加え奪ったり、そして、殺したり、レイプしたりする“人の本能”を抑制(自制=コントロール)することができない脳のまま発達を遂げてしまうことです。
脳のシステムの発達に異常(問題)を抱えると、生まれた時代のコミュニティの一員として生活していくうえで求められるルールや法(規制)、倫理観や道徳観といった規範に従って行動することの大切さを認識することができないリスクを抱えるわけです。
それは、規制や規範に反する行動をとってしまうことに対し、悪いことをしているという自覚を持つことができないことを意味します。なぜなら、戦争・紛争下にある地域や国、暴力のある家庭環境などでは、コミュニティに安定をもたらす秩序、つまり、規制や規範に従っていれば、生き延びることができないからです。生存本能として、規制や規範を破ってでも生き延びることを優先するのが、生物としての基本です。
「コミュニティの一員として生活していくうえで求められるルールや法(規制)、倫理観や道徳観といった規範に従って行動できない」ということは、自己の利益、つまり、自己のやりたいことだけを追求して行動するということです。
自己の利益のために人を「利用」し、人を「操作」するのが基本行動となりますから、主語は一人称、つまり、自己中心的な考え(世界観)しか持っていないことになります。自己中心的な人物は、敵か味方か、好きか嫌いかといった極端な二元論(二者択一)でものごとを捉え、俺に従わない者(絶対服従を誓わない者)、俺に屈しない者、俺に媚びを売らない者に対しては、「俺の敵」、「奴は嫌い」と認識し、徹底的に、冷徹に排除する(こきおろし、誹謗中傷し、叩きのめす)ことになります。つまり、コミュニティの中での対人関係における基本軸は、上下の関係性、支配と従属の関係性を成り立たせるためにパワー(力)を行使する、もしくは、パワー(力)に屈し庇護下に入る(パワーを利用)ことになるわけです。
このように、善悪の判断ができない脳をつくりあげてしまう環境は、逆に、規定や規範に反する行動の中で、生きていくことができる術を身につけさせることになるという特性があるのです。
ものごとに対する解釈、そして、モノサシ(価値観にもとづく判断基準)は“極端な二元論”ですから、ころ合いがいい、加減がいい、ちょうどよい距離感といった“ほどよさ”という概念(感覚)がわからないことになります。“ほどよさ”という人とのかかわり方で重要な感覚を持ち合せていない人(=獲得できなかった人)は、対人関係で行使するパワー(力)を他者に向ける者と、自分に向ける者に分かれます。
前者は、他者に攻撃的な人で、後者は、自分に攻撃的な人ということになります。
自分に攻撃的な人というのは、自分は他人の傷つけられてはならない大切な存在であるとの自己規定を獲得できず、思春期(10-15歳)以降、リストカットや過食嘔吐(摂食障害)といった自傷行為を繰り返したり、思春期-青年期(15-22歳)に、交際相手に「嫌われたくない(別れ=捨てられる)から」と避妊しない性行為に応じて(性暴力被害)妊娠し、堕胎を繰り返したりしてしまう人たちのことです。
*-3 前頭前野は、予測や推論を司る最も重要な領域のひとつで、ここの機能は、実行機能として知られる心理学的働きです。見通しをつける働きは、この領域の機能に依存します。被虐待児は、見通しを立てたり予測したりすることが苦手で、整理整頓が苦手、先に起こることの予測ができません。その結果、後先のことを考えず、すぐにバレる嘘(方便の嘘、見栄の嘘)をつき、自分の首を絞める結果になってしまうということを繰り返します。
これらは実行機能の障害といえます。
また、感情中枢のコントロールをおこなっている前頭前野の機能が弱いと、感情や衝動に対する抑制が不十分な状況をつくりだすことになります。そして、上側頭回や眼窩前頭皮質は、社会性やコミュニケーションの中枢であることが知られ、紡錘状回は表情認知と関連することから、これらの領域の障害は、扁桃体の障害とともに、社会的認知や社会的行動の機能障害に直結します。被虐待児で異常が指摘されている脳領域と症状や障害との主な関係は、「脳梁、(島)→解離症状」、「海馬、(扁桃体)→PTSD、解離性障害」、「前頭前野→実行機能の障害」、「前帯状回→注意の障害(被虐待児のADHD様症状)」、「上側頭回、眼窩前頭皮質、扁桃体→社会性・コミュニケーションの障害」となります。


① ルーマニアの国営孤児院での実験
幼少期に深刻なネグレクトを受けた子どもは、認知や情動、そして、健康に長期的な問題を抱えることが多くなることを示すものとして、ルーマニアの国営孤児院において意図せずに実施された、生まれたばかりの子どもたちを対象とする邪悪な実験があります。
当時のルーマニアの国営孤児院の生活環境は劣悪で、収容された子どもたちは、社会的・知的な刺激を最低限しか与えられずに育っていました。その結果、認知機能の発達が遅れたり、社会的行動に深刻な障害が生じたり、ストレスに対する異常な過敏性が見られたりすることになりました。そして、個々の孤児院の質的状況や里親家庭の環境、孤児院にいた期間などによって差はあったものの、おしなべて養子になるのが遅いほど回復が進まなかったのです。
子どもたちが問題を抱えることになった一因は、幼少期の親密な触れ合いが脳の機能を司る重要な部分の発達に関連しているからです。
つまり、親と子どもの親密な触れ合い体験が欠落したことによって、脳の発達に異常が生じたのです。
例えば、監禁されるなど、4-5歳になるまでことばを聞き発する機会を奪われた子どもは、一生、片言のことばでしかコミュニケーションをとることができなくなります。なぜなら、運動性言語中枢とも呼ばれ、言語処理、及び音声言語、手話の産出と理解にかかわり、喉、唇、舌などを動かして言語を発する役目を負う「ブローカー野(ウェルニッケ野と弓状束と呼ばれる神経線維で接続されている)」は、9歳までに発達させなければならないからです。
「Ⅱ-6.脳と子どもの発達」で記しているように、人の脳は、胎児期以降、この時期にこの部位が形成し、この機能を獲得するというのが決まっているのです。
ネグレクトされて育った3歳児の脳をそうでない子どもの脳と比較すると、脳のサイズが小さく、脳室が肥大し、大脳皮質の組織が委縮していることがわかっています。虐待は海馬を20%程度萎縮させ、感情の中心である扁桃体をも重大な影響を与えます。例えば、急に曲がってきた車を避ける動作、つまり、危険が迫っていることを知らせるのが扁桃体です。
しかし、「子どもが虐待を繰り返し受けていると(DVのある家庭環境では)、危険が迫っているわけでもないのに、扁桃体は危険を知らせるシグナルをだし続ける」ことになります。ヒューストンにある子供トロウマ研究所(非営利団体)の神経科学者のブルース・ベリーは、「扁桃体に問題が生じている虐待児童では、ちょっとしたことで恐怖を感じて後ずさりをする。」と述べています。

② 福井大学の友田明美教授とハーバード大学との共同研究
福井大学の友田明美教授(発表当時、熊本大学准教授)は、ハーバード大学との共同研究の結果として、子ども時代(3-17歳)に両親間のDVを日常的に目撃した18-25歳の男女15人とDV目撃経験のない33人の脳をMRI(磁気共鳴画像装置)で解析、比較すると、DV目撃経験者(面前DV被害者)は「右脳の視覚野にある“舌状回”と呼ばれる部分の容積が20.5%小さかった。」、血流量の調査では、「同じ視覚野にある“中後頭回”だけ、DV目撃経験者は平均で8.1%多く、DV目撃経験のない人より活発に動いていることがわかった。」、「性的虐待を受けた女性は、性的虐待されたことのない女性と比べ、後頭葉の視覚や空間認知を司る“一次視覚野”が14.1%小さく、思春期を迎える前の11歳までに性的虐待を受けた人の方が、萎縮の割合がより大きかった。」とし、「DVの記憶がトラウマとなり、フラッシュバックや夢などで繰り返し思いだすことで視覚野が必要以上に活動し、脳の伝達物質が過剰放出され、脳細胞に悪影響を与えている。」と述べています。
また、「「お前なんか、生まれてこなければよかったのに!」、「なんどいったらわかるんだ! このトンマ(バカ、グズ)!」、「こんなこともできないなんて、うちの子じゃない!」といった(拒絶や否定のメッセージが込められた)ことばの暴力を日常的に浴びせられていると、会話や言語を司る聴覚野の一部が拡大していた。」、「侮蔑されたり、暴言をはかれたりする経験をほぼ毎日受けた脳は、そうでない人の脳と比べ、側頭葉の中で聴覚を司る“上側頭回”が左脳で9.2%、右脳で9.9%小さく、特に男性は萎縮の割合が大きく、左脳が15.9%、右脳が13.8%縮んでいた。」と述べています。
つまり、ことばの暴力は、側頭葉だけでなく、頭長頭にある言語を理解する部分にも萎縮をおこすことになります。
強い感情を伴う記憶が海馬に与える影響(海馬容積が一番小さい)は、3-4歳ころの虐待体験、女性の方が男性より太い脳梁(左右の脳を繋いでいる)に与える影響は、9-10歳ころの虐待体験とされています。この脳梁の委縮が、境界性人格障害(ボーダーライン)、解離性障害の発症原因とされています。
そして、感情や理性を司る前頭前野の萎縮など、前頭前野に一番影響を与えるのは、親や学校の教師による頬の平手打ちや(棒で)尻をたたくなどの体罰、同級生からのいじめを長期にわたる体験など、14-16歳(中学2年-高校1年)時の対人関係といわれています。
高齢者が万引き(窃盗)などの犯罪を繰り返すとき、「累犯障害者」と呼ばれる善悪の判断ができない知的障害者であるケースが徐々に知られてきています。累犯(犯罪を繰り返す者)の15%、懲役刑を受け刑務所に収監される者の22%が、累犯障害者と指摘されています。一方で、ほとんど知られていないのが、*-16に記しています認知症の1%「前頭側頭型認知症(隠れ認知症)」

③ ハーバード大学マーティンH.タイシャー博士らの研究
アメリカ・ハーバード大学医学部マーティンH.タイシャー博士らは、「子どものころに受けた親のことばの暴力・言語的虐待が、青年期の精神・神経疾患に結びつく」ことを明らかにし、加えて、少年期に同級生から受けたことばの暴力・言語的虐待にも“同様の影響がある”があると調査・研究を進め、「少年期に同級生から受けた暴力によって脳が変質し、青年・成人期以降の精神・神経疾患の発症につながる」ことを明らかにしています。
調査は、家庭内暴力・性的虐待・両親や同級生などからの身体的虐待を受けたことのない848人の青年男女(18-25歳の男性363人と女性485人)と、比較対照群として虐待的なものを一切受けたことのない707人の青年男女(18-25歳の男性298人と女性409人)を対象に、質問紙と拡散テンソル画像を用いておこなわれ、その結果、「11-14歳にかけての時期が、同級生からの言語的虐待に特に脆弱で、青年期の精神神経疾患(不安症、うつ病、解離、薬物使用、大脳辺縁系過敏など)につながりやすい」としています。
また、大脳の拡散テンソル画像を分析した結果、「言語的虐待に晒された程度・度合いと、脳梁の異常に関連性がある」ことも明らかになりました。
同級生の言語的虐待によってうつ病は2倍、不安症と大脳辺縁系過敏(短い幻覚症状と視覚障害などが生じるものなど)は3倍、解離は10倍も発症リスクが増加するとしています。

④ ピッツバーグ大学とミシガン大学の共同研究
アメリカのピッツバーグ大学とミシガン大学の共同研究で、「思春期の子どもが悪いことをしたとして親から怒鳴られると、抑うつ症状や攻撃的な行動のリスクが上昇するなど、たたかれたときと同じ問題が生じる可能性がある。」、「母親や父親と温かく良好な関係を築いていていても、10代の子どもが親から怒鳴られたり、罵られたり、「怠惰」だの「愚か」だのと侮辱されたりすれば、悪影響は免れない。」と研究結果を発表しています。
アメリカでは、子どものおしりを叩く行為はタブーとしている共同体が多い一方で、怒鳴ることは世間体が悪くないという慣習があり、実際に、親は怒鳴れば子どもがいうことをきき、おこないを改めると考えることが少なくありません。しかし、この研究結果において、共同研究者のピッツバーグ大学教育心理学部のMing-Te Wang准教授は「子どもを怒鳴っても、子どもの問題行動を減らしたり、直したりすることはできない。逆に悪化させる。」と真逆の結果が示されたことを明らかにしました。
研究では、両親と13歳ないし14歳の子どものいる家庭976世帯を追跡し、子どもにさまざまな質問をして、問題ある行動、抑うつ症状、親との親密度を判断し、親には戒めとしてひどいことばを発しているかどうかを調べる質問をしています。「子どもが13歳だったとき、母親の45%、父親の42%が、前年に子どもにひどいことばを浴びせていた。」、「13歳の時に親から特にひどいことばを受けた子どもは、翌年に同年代の子どもとのケンカ、学校でのトラブル、親へのうそ、抑うつの兆候といった問題が増える度合いが高かった。」、「親が戒めとしてひどいことばを使ったときと、叩くなどの体罰を与えたときでは、問題が増加する度合いは似ていた。口論を除く親子の親密度が高くても、ひどいことばの悪影響は変わらなかった。逆に、子どもの問題は親がひどいことばによる戒めを増やすことにつながり、悪循環がエスカレートをさせていた。」などの結果が得られました。
こうした10歳代の子どもが親に怒鳴られることによる悪影響について、Wang准教授は「思春期は(子どもが)自分のアイデンティティを見極めようとする、非常に微妙な期間であるから、親が怒鳴ると、子どもの自己像を傷つける。能力や価値がなく、無駄な存在だと感じさせる。」と指摘しています。
また、今回の研究には参加しなかったアメリカのニューヨーク大学ランゴーン・メディカル・センターのティモシー・バーデュイン臨床学准教授は、「親は、テレビなどを見る時間や車のキーといった特権をとりあげることで、子どもを十分に罰することができる。ただ、そうする際に、批判的、懲罰的、侮辱的なことばを大量に使わないことだ。」、「人は尊敬し称賛している人にいわれたときのほうが、ずっと自分の行動に責任を感じる。子どもを叱ったり恥ずかしい目に合わせたりするようなことをすれば、親の持つ力が損なわれる。」と指摘しています。


(2) 人類の歩みにとって、危機的な状況とは
私たちが、児童虐待や面前DVなど、暴力のある家庭環境で子どもが育つことがどういう意味を持つかを理解するうえで重要なことは、人類の歩みにとって、危機的な状況とはどのような状況であったのかという理解です。
人類にとっての「危機的な状況」とは、「死の恐怖」を味わう状況です。人類にとっての「死の恐怖」、つまり、「危機的な状況」とは、古代の人類が肉食獣に襲われ、捕食されることに怯えて暮らしていた状況です。安全で、心穏やかに安心できない環境は「死の恐怖」と隣り合わせ、つまり、「危機的な状況」になり、「強烈なストレス下におかれる」ということです。人類にとって、いつオオカミやコヨーテ、ヒグマ、トラ、ヒョウなどの肉食獣に襲われるかわからない環境、いつ地震や川の氾濫、飢饉など災害にみまわれるかわからない環境、いつ砲弾や銃弾が飛んでくるのかわからない環境、そして、いつ暴力がおこなわれるかわからない環境は、ともに不安と恐怖に怯え、心穏やかに安心できる環境になく、安全が約束されていないという意味でなんら変わるものでない、つまり、人類にとって「危機的な状況」ということです。
子どもが暴力のある家庭環境で暮らす状態の深刻さを端的に表すのが、AFPの取材に応じた国連児童基金(ユニセフ)の現地事務所を取材した平成28年12月12日の記事です。
そこには、「シリア内戦でも最大の激戦地に数えられる北部アレッポ(Aleppo)では、すべての子どもたちが心的外傷(トラウマ)を負って苦しんでいる」、「アレッポ東部から逃げてきた子どもたちは、基本的な防衛本能を失いつつある」、「5-6歳の子どもたちは、生まれたときには既に内戦真っただ中で、戦争と爆撃しか知らない」、「彼らにとっては、爆撃を受けるのも、逃げ回るのも、腹を空かせたままでいるのも、防空壕に身を隠すことも、普通のことだ。このトラウマは非常に長く残るだろう」、「彼らにとって、それは危険なことではない。日常生活なのだ」、「政府支配地域のアレッポ西部に暮らす子どもたちも、学校へのロケット弾攻撃で級友や教師を目の前で失った体験から、深刻な影響を受けている」、「親たちも内戦による心的外傷に苦しんでいるため、子どもたちのケアをする余裕がなくなっているのが現状だ」と記されています。
70年前、第2次世界大戦に参戦し、空爆を受け、沖縄戦を経験した日本人も同じ状況下にあったという意味で、このユニセフの指摘は重要です。
親の庇護がなければ生存することができない乳幼児は、親から安全で、心穏やかに安心できるという環境、つまり、親に守られなければ、それは、“死”に直結する「危機的な状況」です。
例えば、幼児期の子どもに対し「でて行け!(いうことがきけない、できないならでて行きなさい)」という“否定(拒絶)のことば”を吐き捨てる親がいます。その親は、子どもに虐待を加え逮捕された親が口を揃えたように口にする「しつけの一環だ」と主張します。そして、そのことばが子どもにどれほどの恐怖を与えているのかに思いを馳せることはありません。親の庇護下でしか生存することができない幼児期の子どもにとって、このことばは、“死”に値する恐怖を味わうものです。
つまり、大人の感じる「死の恐怖」と乳幼児期の子どもが感じる「死の恐怖」とは、まったく次元が異なるという理解が必要なのです。
親の「でて行け!」ということばで、幼児期の子どもに“死”の恐怖を与える行為は、子どもにとって、「“わたし”は親に守られていない=“わたし”は親に大切にされていない=親に拒否・拒絶された“わたし”」という概念を植えつけます。その結果、それ以降の子どもは「親から拒否・拒絶されない、つまり、親に認められる、受け入れてもらえるように親に献身的に尽くす、機嫌をとる、意に添うようにふるまう」ことが思考・行動の基本となります。
そして、成長過程で自己と他の境界線があいまい、つまり、母子分離がおこなわれる前の子どもにとって、母親が父親に「でて行け!」と怒鳴りつけられることは、乳幼児期の子どもにとって、自分がいわれていることになります。同様に、母親が父親に殴られたり、蹴られたり、無視されたりすることは、乳幼児期の子どもにとって、自分が殴られたり、蹴られたり、無視されたりするのと同じ思いをすることになります。
子どもがDVを目撃する(面前DV)ことが、子どもの脳の発達に大きなダメージを与え、将来にわたり心身の健康を損なわせるのです。精神的(心理的)なものであっても、乳幼児期に親に拒絶され“死”の恐怖を味わって育った子どもの脳の働きは、古代の人類が肉食獣に襲われていた時代と同様に「理性よりも本能優位となる」ということです。なぜなら、人類の脳は、生存している環境に合った脳の機能がつくられるからです。
暴行傷害事件やレイプなど性暴力事件を犯した加害者の親が、「(加害者であるわが子どもは)本当に手のかからない子どもだった。」と述べることありますが、それは、子どもが、無邪気な子どもであることを捨て去り、「親にとって都合のいい従順ないい子」を演じてきただけです。
親が「いい子」「優しい子」「思いやりのある子」と表現する一方で、事件を犯した子どもは「悪い子だった」「親にいつも反発していた」と表現するのは、親に拒絶される(暴力を受ける)のは、「自分が悪いから」「自分が期待に応えられないから」といった自責感と、低い自尊感や自己肯定感によるものです。
 成人と乳幼児の感じる恐怖など“感覚”の違い、親の「手のかからない子だった」と子どもの「親にとって都合のいい従順ないい子を演じてきただけ」といった“印象”や“捉え方”の違いを理解することは、暴力の影響を理解するうえで重要です。


(3) 危機的状況がもたらす脳のトラブル
危機的な状況に遭遇すると、人は、脳の大脳辺縁系(海馬や扁桃体)が恐怖感を抱いて反応します。危機が度重なると、過剰な反応が繰り返され大脳辺縁系は常に過敏状態になり、ほんの些細なことでも、激しい恐怖感を抱いたり、攻撃的になったりします*-4。
この「危機的な状況」は、虐待、面前DV、貧困、差別、いじめなどの慢性反復的(状態的)なトラウマ(心的外傷)体験であり、地震や河川の氾濫などの自然災害、火災、事故などの単回性のトラウマ体験ということになり、極度のストレスをもたらすものです。
慢性反復的な危機的な状況下では、成人した者や子ども(妊娠している母体、つまり、胎児を含む)は、ともに強烈なストレスを受け続けることになります。このとき、副腎皮質からストレスホルモンのコルチゾールが継続的に長期間にわたり分泌されます。特に、脳の発達する時期の子どもは、下垂体、視床下部がダメージを受けます。
これまで、「心が傷ついたといっても、そんなの見えないじゃないか!」といわれてきましたが、現在では、こうした脳に対するダメージは、MRI画像(核磁気共鳴画像法)や光トポグラフィー検査(近赤外光を用いて大脳皮質機能を脳表面に沿ってマッピングする)の活用によって、“視覚的に把握できる”ようになっています。
MRI画像によって、虐待を受けた子どもの脳の特定箇所に“萎縮”を確認することができ、光トポグラフィー検査によって、脳の血流状態から特定箇所の活動状況を知ることができるのです。
さらに、ストレス状態をみるために、血液検査で、脳の萎縮と関連のあるコルチゾール、ACTH(副腎皮質刺激ホルモン)、甲状腺の機能低下をみる(うつ病、慢性疲労症候群を含む)TSH、T3、T4、rT3、白血球の一種の「好中球」の数(正常な内臓を攻撃してしまう好中球の増加は、肺や肝臓などの臓器にも障害を生じさせる)を把握することで、日常的に暴力をふるわれている影響も“数値化できる”ようになっています。
強烈なストレスはコルチゾールの過剰な分泌だけでなく、ビタミンB6、ビタミンB12、葉酸を減少させ、必須アミノ酸であるホモステインが「ホモシステイン酸」に変化するのを助長し、脳内で「アミロイドβ」の蓄積を加速させます。アミロイドβは、非常に有害な物質で、脳内に蓄積すると脳の神経細胞を殺してしまいアルツハイマー型認知症を発症させるものです。認知機能低下、人格の変化を主な症状とするアルツハイマー型認知症は、認知症*-5の60-70%を占めるものです。
また、うつ病は、本来、守ってくれるはずの親から守られて安全で、心地よい安心感(承認欲求=快感)を得られなかったり、否定と禁止のメッセージが込められたことばの暴力を浴びせられたり(精神的虐待;過干渉・過保護、教育的虐待を含む)することによって、自尊心や自己肯定感が奪われるなど心に深い傷を負い、心の平穏が失われ、また虐待がいつおこなわれるか不安と緊張の連続といった子ども時代の体験が、脳の発達に強く影響していることが発症要因となっています。こういった視点に立つと、「PTSDを主にしたうつ症状」と捉えることもできます*-6。
さらに、全うつ病の30-40%、または半数近くを占めるといわれている「仮面うつ病(非定型うつ病・新型うつ病)*-7」は、養育歴から、手のかからないおとなしい子どもで、学校の成績も優秀で、周囲からの評判もよい子ども、ただし、家庭には暴力があった子ども時代を過ごしてきたことがわかっています。いわゆる、暴力のある家庭環境に順応するために、思春期後期までは、「大人にとって都合のいい従順なよい子」だった人に多く見られ、ある特定の状況下で通学や出勤できなくなるなど、発達障害、慢性疲労症候群とともにひきこもりの原因となっています。この仮面うつ病(非定型うつ病・新型うつ病)の症状は、不安障害、適応障害と似通っていることから、医師の立ち位置(ものさし)で診断名が違ってきます。
*-4 PTSDの症状(過覚醒)として説明できるものです。「Ⅱ-7.トラウマと脳」、「同-9-(10)危機とPTSD」、「同-10.PTSDとC-PTSD、解離性障害」で詳述しています。
*-5 高齢化が進み、認知症を発症する人は急速に増加し、現在、462万人(予備軍も含めると約800万人以上)以上が認知症を発症しているといわれています。
「認知症」とは、記憶の働きや思考力、判断力をはじめとする認知機能が低下し、日常の生活に支障をきたす症状のことで、脳梗塞、脳出血、くも膜下出血など脳の血管におこるもの(脳血管性)、アミロイドβたんぱくや、タウたんぱくという異常たんぱく質が脳に蓄積し、脳の神経細胞にダメージを与えるもの(アルツハイマー型)、パーキンソン病をひきおこす物質でもあるレビー小体という異常なたんぱく質が神経細胞にたまるもの(レビー小体型)があり、「加齢による物忘れ(良性健忘症)とは異なる」ものです。
人は、加齢とともに認知力は落ちていきます。そこで、血液が通わなくなる虚血性の変化として脳にシミのようなものが表れることから、シミの量や萎縮の度合いで脳の加齢度を判断します。加齢による物忘れ(良性健忘症)の脳とは異なり、アルツハイマー型認知症では、特に海馬の萎縮が進み、前頭葉、側頭葉と頭頂葉の間、側頭頂葉のブドウ糖の代謝が落ちている状態、つまり、エネルギーを使う割合が過度に低下し、脳のネットワークも減ります。アミロイドベータたんぱくの毒性や変化したタウたんぱくが脳に溜まりはじめると、神経細胞を壊しはじめることから、記憶障害や認知機能障害がおきます。つまり、脳の中枢を担い記憶を司る海馬が最初に壊れ、次に判断力、認知機能を司る前頭葉が壊れていくなど、人間らしさを司る領域がダメージを受けることになります。こうした脳内のネットワークの量、機能状態は、MRI画像により確認できます。
次に、先の脳の萎縮と関係の深いものとして、認知症の1%にあたる4万6000人が発症しているとされているのが、「若年性認知症」など若い人でも発症する「前頭側頭型認知症(FTD)」です。「前頭側頭型認知症」とは、頭の前にある前頭葉と横にある側頭葉の委縮によって認知症がおこるもので、ピック病や運動ニューロン疾患型、前頭葉変性症が含まれます。「前頭葉」はものごとを考えたりする中枢的な役割を持った場所で、感情をコントロールし、理性的な行動ができるようにしたり計画を立てたり、状況を把握する機能を持っていて、生きる意欲を湧き立たせることができる部分です。したがって、前頭葉が萎縮することによって、理性的な行動をとることができなくなり、衝動的な行動、常識外れな行動が目立つようになります。また、側頭葉は、ことばを理解したり、記憶したりする場所で、聴覚や嗅覚も司っています。
アルツハイマー型認知証との違いは、物忘れがひどくならないことです。そして、一般的な行動から逸脱している場合が多いために、精神疾患と誤診されていることが少なくないことです。
前頭側頭型認知症の症状の主な特徴は、以下の4つです。
①同じ行動を繰り返す
同じことばを何度も繰り返すことが多くなります。アルツハイマー型認知症などで、「いま何時?」と訊くのとは異なり、例えば、「いません」などのことばを、脈絡なくただ繰り返し発します。また、ある時間になると家の中を歩きだすというような、決まった行動をとることもあります。このとき、外にも出てしまう場合がありますが、徘徊で迷子になることは少なく、同じコースを歩いて帰ってきます。さらに、身体を揺すったり、膝や手、机などをパチパチ叩き続けたりするなどの行為も見られることもあります。
②異常な食関係の行動
同じ物を食べたがることから、料理のときには同じメニューばかりつくることもあります。料理の味つけは驚くほど甘く、濃い物になったりします。また、机の上に置いておいた砂糖を、全部食べてしまうケースがあります。食欲も異常に旺盛となり、夜に冷蔵庫の中の物を食べあさることがあります。
③集中力や自発性がなくなる
話をしていてもじっと聞いていられず、急に立ちあがってどこかへ行ってしまうこともあります。同じ作業などをしなければならなくても、直ぐに飽きてしまうので最後までやり通すことができません。また、身なりを気にすることがなくなり、汚れていても平気でだらしなくなります。テレビなど、いままで興味を持っていた物にも関心がなくなり、家で寝てばかりになることもあります。「テレビ見る?」となげかけても「知らん」、「これ美味しいでしょう」となげかけても「知らん」と応じるなど、なにをいわれても、考えることなく即答するようになります。
そして、見た物に影響されやすくなります。近くの人が立つと自分も立ちあがったり、じゃんけんのグーに勝つのはパーだとわかっていても、グーをだしたらグー、パーをだしたらパーをだしたりします。また、人に「それとって」などといわれると、「とって」などと相手のことばをオウム返しします。また、ことばが中々でてこなくなることから、会話が苦手になり、黙ってしまう場合もあります。
④反社会的な行動が見られます
ルールを無視した、自分の思うままの行動をとることが多くなります。店先の商品を万引きしたり、痴漢したりするなどをして警察に捕まったとき、悪いことをしたという自覚はある一方で、衝動的にとってしまった行動であることからいい訳を繰り返します。そのため、店舗の責任者や警察官には「反省していない」という印象を持たれてしまいます。また、理性的な行動ができずに衝動的な行動をとってしまうことから、赤信号でも周りを注意せず平気でわたるなど危険な行動をとってしまったり、順番を無視したりします。そして、こうしたふるまいを注意されると怒りだし、時には、暴力をふるうこともあります。
*-6 「プロローグ」の「3.東日本大震災後の児童虐待とDVの増加。-戦争体験によるPTSDの発症から学べるものはなにか-」の中で、「戦後68年経過した沖縄戦を体験した被災者の約4割にPTSDの症状がみられた人たちの多くが、「それまでずっとうつ病と診断されてきた」ことから、症状に起因する過去の出来事を詳細に聴きとることで、その多くは、PTSDに起因したうつ症状と診断される可能性の高いものであると考えられます。
*-7 仮面うつ病(非定型うつ病・新型うつ病)は総称で、気分障害として精神疾患に分類される「うつ病」とは異なるものです。しかし、心療内科などで「うつ病」と診断されている中には、受診者の症状の訴えから、「仮面うつ病(非定型うつ病・新型うつ病)」も一括りの「うつ病」としているケースが多々あります。詳細は、「Ⅱ-12-(8)仮面うつ病(非定型うつ病・新型うつ病)」で説明しています。
暴力のある家庭環境(機能不全家庭)で育ってきた被虐待者に対する総称としては、他に、発達性トラウマ症候群、被虐待症候群、AC(アダルトチルドレン)という呼び方がされます。これらの総称には、ADHDと酷似していることから診断が難しいとされる反応性愛着障害、行為障害、人格障害(パーソナリティ障害)、解離性障害、適応障害、不安障害、気分障害(うつ病、双極性障害(躁うつ病))などが包含されます。
また、ひきこもりの原因のひとつと指摘されているのが「慢性疲労症候群(CFS)」で、大阪市立大学や理化学研究所などの研究チームが、「慢性疲労症候群の患者は、脳内の広い範囲で炎症を起こしている」ことが解明しました。脳内で起こる炎症は、ケガをしたときに皮膚が赤く腫れるような状態で、健常な人の脳にも、ある程度おきますが、無理を続けると炎症の度合いが強くなり、脳の神経がダメージを受けて、回復が難しくなっていくと考えられています。脳の炎症などの回復には睡眠が重要になりますが、睡眠が障害されてしまうと、脳は休みなくずっと動いている状態になり疲弊して炎症が続き、簡単なことでも無理をしたように感じてしまうことが、関節痛や筋肉痛、発熱、異常な倦怠感のような状態がずっと続いていく原因となっているわけです。つまり、慢性疲労症候群の人は、多少のことをしても脳が負担として大きく感じてしまうのです。例えば、ちょっと歩いてでかけるだけでも、すぐに炎症がおきてしまい、慢性疲労症候群の症状に悩まされることになるのです。
こだわりが強く、強いストレスがかかるできごとに対してもいい加減にやり過ごすことができず、突き詰めてしまうことから燃え尽きてしまう(慢性疲労症候群を発症する)ことでひきこもってしまう人と、学校や職場でミスをしたり、叱責されたりするなど強いストレスがかかるできごとがおきたとき、学校や職場とかかわることから逃げる(回避する)結果としてひきこもりになり、一方で、好きなことにでかけたりすることができる仮面うつ病(非定型うつ病)の人とは、ここが、根本的に違うところです。



(4) 発達期の脳のダメージは、鬱や衝動的攻撃性をもたらす
発達期の脳に対する強い精神的衝撃は、脳の神経伝達物質の分泌にも影響を与えます。例えば、ストレスを調節するホルモンであるコルチゾールや重要な神経伝達物質であるエピネフィリン、ドーパミン、セロトニン等に変化が生じます。これら神経伝達物質のバランスに問題が生じると障害がおきます。虐待はセロトニンのレベルを下げ、それは、鬱や衝動的攻撃の原因になります。
 乳幼児期(胎児期を含む)、脳の発達に大きなダメージを与える慢性反復的な危機的状況下で育ってきた、つまり、暴力のある家庭環境で暮らしてきた子どもは、愛着の持ち方、人格形成など広範な影響が及ぼされることになります。虐待、面前DV、貧困、差別、いじめなどのトラウマ体験によって、うつ、不安、パニック、解離、嗜癖、自傷行為(摂食障害*-8を含む)などがひきおこされます。さらに、トラウマが固定化し、愛着障害、発達障害、人格障害(パーソナリティ障害)のかたちをとったり、ヒステリー(解離性障害)、身体化障害、疼痛や不定愁訴などの症状も認められたりします。
発熱や心身症など身体疾患に罹患しやすくなるのは、長期的にコルチゾールが分泌されると、免疫力の低下がおこるからです。
虐待経験者の怒り、恥辱、絶望が内に向かう場合には、抑うつ、不安、自殺企図を生じ、虐待の影響が外に向かう場合、攻撃性や衝動性が高まり、非行につながります。アルコール依存や薬物依存は、C-PTSD(虐待、面前DV、いじめなど慢性反復的なトラウマ体験を起因とする「複雑性心的外傷後ストレス障害」で、多くは人格の歪みまでダメージが及びます)の過覚醒状態における自己投薬ともいわれています。
さらに、虐待、面前DV、貧困、差別、いじめなどのトラウマ体験は、その後の人生において、トラウマが再現(再体験)されるのを過剰に警戒して身構えていることから、わずかな刺激に対して激しいトラウマ反応をひきおこします。なぜなら、「あのときと同じ危険が、いまこの瞬間、次の瞬間にでも襲ってくるんじゃないか」という感覚に苛まれているからです。
誰が敵か、どこから敵が現れるか、あの瞬間がいつおこるか、常に緊張体勢(危機下)にあり、不意の刺激に対して極端に驚きます。この状態にあるとき、知覚過敏、睡眠障害、過呼吸発作、パニック発作(パニックアタック)、感情の抑制不能などのPTSDの症状として表れます。
 加えて、自己防衛システムが粉砕された人たちは、ほんの少しの刺激で爆発的な怒り、攻撃や恐怖、逃走に走ります。なぜなら、常に興奮し続けているため、興奮を抑制するホルモンが枯渇に近い状態になっているからです。
ささいな恐怖や怒りも抑えることができず、興奮ホルモン(アドレナリン)の過剰分泌によって、過呼吸発作やパニックアタックとよばれる恐慌状態(パニック状態:突発的な不安や恐怖による混乱した状態)がひきおこされます。
この状態は、眠っている間も続き、悪夢を伴う睡眠障害を招きます(過覚醒)。過覚醒状態では、なかなか寝つくことができず、ささいな刺激で直ぐに目覚めてしまいます(ここが、「うつ病」の睡眠障害と異なる点です)。外傷的体験を思いおこすような行動、できごと、音、におい、光、ことば、光景にあうと、外傷体験当時のような著しい反応をおこすことになります。
そして、感情の中でもとりわけ怒りのコントロールがきかなくなくなると攻撃的行動として爆発することになります。これは、PTSD症状のひとつの「攻撃防御の機能不全」と呼ばれるものですが、戦争や紛争地からの帰還兵や被災者にも認められるものです。
被虐待者やDV被害者、性暴力被害者、そして、被災者が抱える怒りは、本来、加害者に向けられるものですが、実際は自分に対して向けられることが多くなるとされています。
暴力は、相手から自分の心と体を大切に生きていきたいという人間の基本的な欲求を奪う、つまり、人とつながりながら生きようとする本能的な力を押しつぶすものです。特に、力を奪われた子どもは、成長に伴い、力の欠損を自殺、リストカットや過食嘔吐などの自傷行為、繰り返し暴力(性暴力を含む)の被害者になるなど、自分の心と体への暴力として表すことになります。
一方で、その怒りは、自分を虐待者から守ろうとしてくれる大人、優しく自分を受け入れてくれる大人に向けられることもあります。また、なんの関係のない大人の何気ない注意や指摘などに過剰反応して爆発し、暴力行為に及ぶこともあります。
つまり、虐待、面前DV、貧困、差別、いじめなどのトラウマ体験による抑圧により溜め込まれた怒りは、子どもの成長に伴い、暴力、非行、反社会的なふるまい、そして、交際相手や配偶者へのDV、自分の子どもへの虐待に向かわせてしまう大きな要因となっているのです。
例えば、「私が父親に虐待されたとき、母親の方を見たら、顔を背けられてしまったことが忘れられない。」と話す虐待の世代間連鎖に苦しんでいる母親が、子どものときに、「父親の暴力から母親が守ってくれて、暴力のある家庭環境から私を救いだしてくれた」という体験をしていたとしたら、この母親は、人を信頼することができ、子どもを虐待する父親が特別と考えることもで、子どもと暴力で接する以外のかかわり方を身につけることができていたかもしれないのです。
「守られている体験」が、感情のコントロールを支え、自分を大切にする概念を身につけます。「自分は大切な存在である=自分は大切にされる価値のある存在である」という概念が培われなければ、他人を大切にする概念は培われることはないのです。
つまり、母親をはじめ、誰も助けてくれなかった体験が、感情コントロールを困難にさせ、自分を大切にすること、そして、他人を大切にすることができなくさせてしまうことになるのです。
*-8 「摂食障害(拒食症・過食症(過食嘔吐))」は、雑誌のモデルのように「痩せて、きれいになりたい」との思いによるダイエットが発端となったり、失恋のショックから気を紛らすことが発端となったりするなど“きっかけ”にフォーカスされてしまうと、摂食障害が、暴力(過干渉・過保護、教育的虐待を含む)のある家庭環境で育ってきた影響であること、そして、その行為が、「自らの命を傷つける行為(自傷行為)」と結びつけることができず、その深刻な状態が軽視されていることが少なくありません。
“深刻な状態”には、「体重が減る」という目に見えた達成感と、目に見える結果に対して、友人から「痩せたね」との褒めことばや、周囲の人たちから「どうしたの?」と気遣うことばを聞くことができるという“褒美(承認欲求が満たされる)”が、「嬉しい」と“快感”になり、もっともっとと深みに嵌っていく依存性のある行為という意味が含まれています。
ここには、「承認欲求が満たされる」と記している通り、アタッチメントの獲得に問題を抱える人たち特有の渇望感を満たそうとする“試し”としての「人にかまわれたい欲求」が根底にあるわけです。過食嘔吐を繰り返す一人っ子の女性が、母親との関係性について訊かれて「仲がいい」と説明していても、実は、「母親のいうことには逆らえない状態だある」ことが少なくないのです。こうした状態にあるとき、母親のいうことをきくことで、母親にかまってもらえたり、気にかけてもらったりすれば安心できるので心が安定していますが、本当は母親に反発していうことをききたくないけれども、「母親に無視されるのが怖くて、なにもいえない」との思いが心の中で騒めきはじめると、途端に症状がひどくなる傾向があります。
愛されたい、注目されたい(以上、循環気質)という気持ちが強く社交的で明るい一方で、こだわり強く完璧主義(執着気質)、心配性で思い込みが強い(不安気質)といった傾向を見せる人たちは、厳格な親の下で育ち、「完璧な子どもでいなくては、親に愛してもらえない」という不安感や恐怖心を、「親にとって都合のいい子」という“仮面(ペルソナ)”を被ることで、本当の自分や感情を抑え込んでいます。その仮面は、親に愛されたい、親に迷惑をかけちゃいけない、期待に応えられずダメな自分は見せられないといった強迫観念がつくりあげていきます。勉強や習いごとを頑張って、期待された結果をだすことができれば、親に褒めてもらえることから、「私は、なにかをしなければ親に愛されない」、「ありのままの自分ではダメなんだ」と必死に頑張り続けなければならなくなります。親が大好きな私、嫌われまいとして優等生である私といった仮面を被り続けることがツラく、苦しくなりはじめる自我の形成期、つまり、思春期後期-青年期前期に達したとき、葛藤が生まれます。人に弱みを見せない「私は強い」という仮面を被ったり、心の中で他人とひどく距離を置く「逃避」の仮面を被ったりしますが、「仮面の自分」としてふるまうたびに、その仮面を被った私としての印象がひとり歩きしていくことになり、どんどんツラくなっていきます。そして、成長とともに、徐々にうまくいかなくなってきていても、これまで被ってきた「仮面の自分」は外すことができない思いと、ありのままの私を認めて(受け入れて)欲しいといった「本当の自分」の思いがどんどん乖離していくため、葛藤が大きくなり、ひとりで抱え込むことができなくなったとき、爆発的に反抗を見せたり、非行に走ったりすることになります。しかし、葛藤に苦しみながらも、親に反抗したり、非行に走ったりすることができない子どもたちが、リストカット、拒食や過食嘔吐という自傷行為で“わたし”の存在を確認しようとします。摂食障害は、心の奥にある「自分はダメだ」という不安感を解消するために、ダイエットに走ります。なぜなら、頑張ればきちんと「数字」として結果が表れるのがダイエットだからです。痩せると周りに褒められるので安心感が得られることから、ストレスが溜まると、どんどん痩せたくなってしまうのです。
ダイエットからはじまった達成感(満たされる容認欲求)は、拒食に至り、拒食の段階が放置されると、過食嘔吐に発展してしまうことになります。「痩せていたい」、「食べていたい」といった相反する強烈な欲求に支配されるようになる過食嘔吐では、吐くことによって、相反する2つの欲求を満たすことができてしまううえに、その瞬間、なんともいえない気持ち(渇望感を埋める達成感、承認欲求が満たされる充足感)がして頭がスッキリすることから、不安、寂しさ、怒りなど嫌な感情が少し麻痺します。このかつ訪韓を埋める達成感や承認欲求が満たされる充足感は、“快感中枢”を刺激する中毒性があることから、嘔吐しはじめると治癒が難しくなります。
摂食障害だけでなく、不登校や家出など子どもがなにか問題にぶつかったとき、子ども本人がなかなか解決に立ち向かうことができないなら、そこには、“愛着(アタッチメント)”の問題が絡んでいるケースが少なくありません。
思春期以降になると、相手をあまり選ぶこともなく恋人関係になってしまう子どもがいますが、ここには、親子関係がしっくりいっていない背景が潜んでいます。つまり、親子関係を解決することを諦めた子どもが、アタッチメントの獲得が損なわれた、つまり、カラカラに乾いた渇望感や底なし沼のような寂しさを埋めたいとの思いが、他の場所に愛情を求めるのです。自分が幼かったころの父親と同じような年代の男性との援助交際を繰り返す子どもたちも同じ問題を抱えています。こうした心(アタッチメントの獲得)に問題(見捨てられ不安)を抱える子どもたちは、寂しいから直ぐに異性と親しくなるものの、その相手もまた同じ心の問題を抱えていることが少なくないことから、生い立ちなどに共感したものの、一方通行的に愛情を欲し合うためやがてトラブルになり別れ、そして、それほど時を経ず寂しさを埋めるために別の異性と親しくなることを繰り返します。こうした行為は、私にどれだけ愛情を注いでくれるかを見定めるためであることから、“試し”行動ということになります。
こうした親と子どもの関係性が根底にある問題、つまり、アタッチメントの獲得に何らかの問題を抱えている子どもたちに共通する心の問題については、「Ⅱ-9.暴力のある家庭で育った子ども。発達段階で見られる傾向(1)-(15)」で詳しく説明しています。その心の問題、つまり、暴力による抑圧が凄惨な殺害事件に及ぶ動機となっている事例については、「同-(16)「キレる17歳」、理由なき犯罪世代」、「同-(17)アタッチメントを損ない、抑圧がもたらした凄惨な殺害事件」において詳細に説明しています。


♯神経伝達物質 ♯セロトニン ♯ドーパミン ♯コルチゾール ♯エピネフィリン ♯世代間連鎖 ♯児童虐待と面前DVの早期発見と早期介入 ♯脳のシステムの発達異常 ♯ルーマニアの国営孤児院での実験 ♯ネグレクト ♯友田明美教授 ♯マーティンH.タイシャー博士 ♯危機的な状況 ♯自己と他の境界線があいまい ♯古代脳 ♯低い自尊感 ♯低い自己肯定感 ♯MRI画像 ♯光ポトグラフィー検査 ♯コルチゾール ♯アミロイドβ ♯アルツハイマー型認知症 ♯うつ病 ♯仮面うつ病(非定型うつ病・新型うつ病) ♯慢性反復的トラウマ ♯自己防衛システムの粉砕 ♯過呼吸発作 ♯パニックアタック ♯悪夢 ♯睡眠障害 ♯過覚醒



2016.3/3 ブログ再編成(第3次改訂)に伴い、主記事として掲載
2016.9/9 「暴力の影響を「事例」で学ぶ。虐待とDVの早期発見・支援。母と子どもが暴力から脱するための手引き(目次)」を、「暴力の影響を「事例」で学ぶ。虐待とDVの早期発見・支援。母と子どもが暴力から脱するための手引き」と「目次」に分割し、掲載
2017.3/21 「手引き」の「はじめに」を「改訂3版」としての編集により、「暴力の影響を「事例」で学ぶ。虐待とDVの早期発見・支援。母と子どもが暴力から脱するための手引き」、「目次」、「はじめに」、「プロローグ」として掲載
* 「第1章」以降、つまり、カテゴリー「Ⅲ-3」-「Ⅲ-10」の「改訂3版」については、改訂作業を終えた「章」から差し替えていきます。




もくじ   3kaku_s_L.png   [Ⅲ-2]プロローグ(1-4)
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