あなたは、夫の暴力・DVを容認していませんか? 暴力のある家庭環境で暮らす子どもの心を守ることを忘れていませんか?

[Ⅲ-2]Ⅰ.密接な関係。児童虐待とドメスティック・バイオレンス

3.DVとは、どのような暴力をいうのか -「配偶者暴力防止法」によるDVの規定-

 
 4.別れ話が発端となるストーカー行為 2.DVの本質。暴力で支配するということ
*新版3訂(2017.12.17)

 DV行為とされる「暴力」は、「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律(配偶者暴力防止法、いわゆるDV防止法)」第二条の三にもとづいて作成される「都道府県(市町含む)基本計画」の中で、「配偶暴力防止法で対象とする暴力として、身体的暴力、性(的)暴力、精神的暴力、経済的暴力がある」と規定されています。
  そこで、DVというふるまいを正しく理解していただくために、「身体的暴力」の他、「性(的)暴力」、「精神的暴力(ことばの暴力)」、「経済的暴力」、「社会的隔離」といった暴力がどのようなものかを示しておきます。

(1) 身体的暴力(暴行)
殴る  叩く  蹴る  つねる**1  髪の毛をつかんで引きずり回す  胸ぐらをつかんで揺さぶる  体を壁や床に押しつける  腕をしめあげる  首を絞める  噛みつく**2  頭突きをする**3  火傷を負わせる  タバコの火を押しつける  髪を切る…etc

「身体的暴力(暴行)」には、物を投げつけたり、叩きつけたりする行為に加え、刃物をチラつかせ、脅したりする行為も含まれます。
また、児童虐待・高齢者虐待行為の「養護の放棄(医療ネグレクト)」に該当するケガを負ったり、病気にかかったりしているにもかかわらず、病院に連れていかない行為も身体的虐待に該当すると考えます。

-事例33(DV29・身体的暴力1)-
(身体的暴力、殴る・蹴る)
  私は、夫に、道端で太ももをとび蹴りされ*1、痣ができました*2。
私は、夫から頭を叩かれたり、蹴られたり、腕を引っ張られたりしました*3が、そのたびに、夫は「こんなの殴ったうちに入らん。本当に殴ったらどうなるかやったろか!」と凄みました*4。
  握力が強い夫は、そのことが自慢で、「ちょっと手を貸して」といい、ギュッと手を握りつぶすぐらいの力で握ってきます*5。
私が「痛い!」と声をあげると、夫は「こんなの全然力入れとらん」とニヤッと笑った。
*1 身体的暴力(暴行)ですが、加療を要する障害を負う暴行被害であることから、傷害事件として立件できるふるまいです。
*2.3.5身体的暴力(暴行)です。
*4 精神的暴力です。


-事例34(DV30・身体的暴力2)-
(身体的暴力、叩く蹴る)
夫Gは、「殴るよ! 殴ってもいい?」、「君は、私の力に勝てないよ。どんなに力があっても、私には勝てない。」などといいながら、手の跡が残るほどの力で、私の強く腕をつかんで揺さぶったり*1、「叩いたら、傷や痣ができて警察や弁護士にバレるから。」といい、臀部を叩いたり、蹴ったり*2します。
私が、Gの暴力から逃げようとすると、Gは追いかけてきて、髪の毛をつかんでひきずりまわします*3。
*1.2.3 身体的暴力(暴行)です。

-事例35(DV31・身体的暴力3)-
(身体的暴力、どつく・物を投げる)
夫は、些細なことでキレます。
結婚前、私は、夫にどつかれたり、腕を掴まれ、押さえつけらりしていました*1が、結婚後、同居をはじめると、直ぐに物にあたりました*2。
「お前のいい方が気に入らん! 俺をバカにしとるんのか!」と大声で怒鳴り*3、夕食のカレーを皿ごと投げつけることもありました*4。
夫は、冷蔵庫、電子レンジ、テーブルなど、その辺にある物をバンバンと叩き、時には、物を投げつけました*5。
夫は、「壊れようが俺は知らん!」といい、買ったばかりの物でも躊躇なく、叩いたり、投げたりしました。
そして、「殺すぞ!」、「お前はバカだ。あほだ!」などと声を荒げながら*6、グーで殴る真似をし*7、私が怯えるのを見て楽します。
*1.2.4.5.7 身体的暴力(暴行)です。
*3.6 精神的暴力です。


-事例36(DV32・身体的暴力4)-
(身体的暴力、殴る・蹴る)
 夫Tの身体的暴力は激しいものでした。
腕や足など目立つところにも、2週間ぐらい残る痣ができたり、こぶのように腫れたり、びっこをひかないと歩けなかったりするほどひどく殴られたり、蹴られたりしました*1。
私の母に、手足に大きな痣ができているのを見られ、「殴られたんじゃない?!」と心配されたときに、私は、「子どもにおもちゃで叩かれた。」とか、「いつできたかわからない。」と応じ、ごまかしていました*2。
*1 身体的暴力(暴行)ですが、加療を要する障害を負う暴行被害であることから、傷害事件として立件できるふるまいです。
*2 近親者などに暴行痕を見られたとき、違う理由を持って“ごまかす”行為は、夫から暴行を受けていることを第三者に知られることで、第三者が夫と接して、暴行行為を非難したり、咎めたりしたとき、これまで以上のひどい暴力を受けることを怖れているからです。
 被害者が抱えている加害者に対する恐怖心を汲みとり、不安をとり除くことを優先し、思いの丈を口にできるように持っていくことが重要です。


-事例37(DV33・身体的暴力5)-
(身体的暴力、首を絞める)
Jは、私に「(格闘技の)技を教える。」といい、寝技で私の首を絞めました*1。息が止まって咳がでたのを見て、Jは、「間違っただけだ。夢中になって手加減ができなくなった。」と謝りました。
また、格闘技の練習といい、私の腹にパンチをしました*2。
それだけでなく、Jは「くくり罠」をつくり、絞めるところを見せて脅しました*3。
暴力後のJは、「もう暴力しない。約束する。文章にしたっていい。」と泣きながら謝り、性行為に及んびました*4。
そして、性行為後のJは、「疲れた。君とくっついて寝たい。きみは私を殴らないでしょ? いきなり叩いたりしないでしょ?」、「両親は私を殴ったよ。痛いそぶりを見せたらもっと殴るから、なにも抵抗しなかった。」、「君がいないと寝れない。」と甘えてきました*5。
Jは、「二度と暴力をふるわない」と紙に書き、私に渡すものの、数日後には、格闘技の練習と称した暴行で私を傷めつけました*6。
*1 身体的暴力(暴行)です。「息が止まって」とありますから、いわゆる“落ちた”状態です。
皮膚下では、鬱血が生じている可能性もある傷害行為であり、時に、死に至る事件となることもある危険な行為です。
*2 身体的暴力(暴行)です。
*3 意図的に、俺はこういう技を習得していることを見せることで、「この人に逆らったら、なにをされるかわからない」と恐怖心を抱かせる行為です。
*4 暴力のあとセックスに及ぶ行為は、相反する拒絶と受容のふるまいです。DV環境下では、典型的な行為で、思考混乱を意図したマインドコントロール性の高いものです。
*5 成育歴の葛藤を告白する、つまり、自己開示することで、苦しみや哀しみに共感させ、心を揺さぶることで、意図的に、「この人の苦しみや哀しみは、私だけがわかってあげられる(私だけが助けられる)」との思いを抱くように導く(心を操作する)行為です。
*6 本来対等な関係に、上下の関係や支配と従属の関係を成り立たせるためにパワー(力)を行使する者の謝る行為や「二度と暴力をふるわない」という約束は、自分に対して恐怖や不信感を抱いている状況、家をでて行った状況など、自分にとって困った状況を打開する(自己利益を得る)ためのものでしかありません。
したがって、危機を脱した(自己利益を獲得した)あとは、加害者にとって、「約束」という行為は無意味なものです。


-事例38(DV34・身体的暴力6、性暴力2)-
(身体的暴力、殴る・蹴る、性暴力)
夫Tの携帯電話には、「この間はありがとう」、「(セックスが)気持ちよかった」と女性の胸が移った写真、「次はこれを使おうね」とバイブの写真が添付されたメールのやり取りがされていました*1。
またTは、浮気相手と複数での性行為をしていました*2。
Tの浮気相手は、私の友人のAさんBさんでした。
そのことを、Tに問うと、Tはなにごともなかったようにふるまいました。
しかし、私は、メールの内容がショックでひどく落ち込み、なにもなかったかのようにふるまうことなどできませんでした。
すると、Tは、「いつまでひきずっているんだ!」と怒鳴りつけました*3。
私が、ひるまずTの浮気を問うと、Tは「お前が弱いからだ!」と非難し*4、「携帯を見たお前が悪い!」と話をすり替え*5、逆に非難し、責めました*6。
そして、「お前が悪い!」、「お前が悪いから殴る!」といい、怒鳴り声をあげながら*7、私を殴ったり*8、蹴ったりしました*9。
私が「それって暴力だよ! おかしいよ!」というと、Tは「悪いことをしたお前が悪い! 子どものしつけと同じだ! 痛みを伴わないとわからないんだ!」と大声で怒鳴りつけ*10、殴り*11、蹴りつけました*12。
私は、土下座をして「ごめんなさい」とTに必死に許しを請いました*13。
私に散々身体的暴力をふるったあとのTは、「もう俺はでていくからな!」と声を荒げていい、ドアをばたん!と激しく閉め、家をでていきました。
Tは、私が何度も電話をかけたり、何度も「ごめんなさい」と書いたメールを送ったりしても、無視しました*14。
私は、「いつ帰るかわからない」と不安なりました。
*1.2 不貞行為(性暴力)です。
*3.7.10 精神的暴力です。
*4.6 ことばの暴力(精神的暴力)です。
*5 「話の途中で、話を遮る」、「話をすり替える」行為は、加害者の典型的なふるまいで、前者は、人の話を聞く意志はないことを示し、後者は、自己の行為を正当化することを示す意味を持ちます。
*8.9.11.12 身体的暴力(暴行)です。
*13 精神的な支配下にない関係性では、強烈な恐怖を味わされ強要されない限り、“土下座”をして謝ることはありません。なぜなら、土下座は、自尊心が傷つく、屈辱的なふるまいだからです。
 したがって、躊躇なく土下座をすることができる状況にあるときには、精神的に深刻なダメージが及んでいる、つまり、生育期か、現在かのいずれかの環境で、慢性反復的(日常的)な暴力下で、怒りを収めたり、絶対服従を誓ったりしている環境にあることを示していることになります。
*14 精神的暴力です。


① 傷害を負う暴行行為とは
叩かれたり、蹴られたり、熱湯をかけられたり、つねられたりする暴行を受けて、骨折したり、火傷を負ったり、皮膚が赤くなったり(鬱血痕=皮下出血の痕が残ったり)したとき、外傷を負う、つまり、傷害を負うことになります。
唇で皮膚を強く吸い痕が残るキスマークは、吸引性皮下出血といい、意図的にキスマークをつける行為は、身体的暴力による傷害行為ということになります。
そして、傷害を負ったときには、刑法では、暴行罪ではなく、傷害罪が適用されることになります。
また、最高裁判所判決(平成24年7月24日)において、「加療を必要とするPTSDの発症は、傷害に相当する」と判断を下しています。
したがって、配偶者による暴力が原因となるPTSD、うつ病、適応障害(パニック障害)を発症した、つまり、“傷害を負った”とき、適切な治療の機会を与えない行為は、養護の放棄、つまり、暴力(虐待)行為に該当することになります。
  つねる行為(**2)については、唇で強く吸って、わざと体に痕をつけたりする(キスマーク)行為とともに、「お前は俺のもの」を示す“マーキング”を意味し、強い執着性や嫉妬心を示すものです。
  別途、「Ⅰ-9-(9)性的サディズムを示す刻印という“儀式”」で詳述しています。

-判例1(PTSDによる傷害)-
名古屋地方裁判所判決(平成6年1月18日)で、「障害について、人の生理的機能を害することを含み、生理的機能とは精神的機能を含む身体の機能的すべてをいうとし、医学上承認された病名にあたる精神的症状を生じさせることは傷害に該当する。」との判断を示しています。
以降、暴力被害でPTSDなどの精神疾患を発症し、加療を要するケースでは傷害罪が適用され、賠償、逸失利益を認め慰謝料の支払いを命じています。
そして、最高裁判所判決(平成24年7月24日)は、暴力被害を原因とし、加療を要するPTSDの発症について、「監禁行為やその手段等として加えられた暴行、脅迫により、一時的な精神的苦痛やストレスを感じたという程度に留まらず、いわゆる再体験病状、回避、精神的麻痺症状及び過覚醒症状といった医学的な診断基準において求められている特徴的な精神症状が継続して発現していることなどから精神疾患の一種である外傷後ストレス障害(以下「PTSD」)の発症が認められる」こと、つまり、「精神的機能の障害を惹起した場合も刑法にいう傷害にあたるとするのが相当である。」との判断を示しています。

-判例2(パニック障害による傷害)-
 広島高等裁判所岡山支部(平成25年2月27日)は、平成15年の強制わいせつ致傷事件の被害者が事件後に発症した「パニック障害」が刑法の傷害にあたるかについて、伝田喜久裁判長は「パニック障害も傷害にあたる」と判断した1審の岡山地方裁判所の判決を支持し、控訴を棄却しています。
  これは、女性5人に対する強制わいせつ致傷罪などに問われた名古屋市の塗装工、丸山義幸(42歳)に対する控訴審の中で、認められたものです。
そして、丸山が、平成15年、岡山県内の女性(30歳宅に侵入し、カッターナイフで脅してわいせつ行為をし、現金約3万円を奪うなどしたもので、被害者の女性が事件後、家の中で物音がすると、過呼吸になったり、体が硬直したりするパニック障害の症状がでたものです。
  この事件の1審判決は、平成15年-16年3件について懲役11年(求刑・懲役16年)、平成20年-23年の2件について懲役9年6月(刑・懲役12年)となっています。

② 発達と暴力行為の関係
噛みつく(**3)、頭突きをする(**4)という暴力行為は、人類が二足歩行を獲得後の攻撃方法、つまり、殴ったり、蹴ったりする暴力とは異なるという意味で重要です。
つまり、噛みつく、頭突きをする暴力行為は、人類が、四足歩行だったときの原始的な攻撃方法であるということです。
このことは、脳の形成・発達において、古代的な脳が優先されている、つまり、暴力のある家庭環境で育った後遺症として、脳のダメージが深い部分に及んでいることを意味します。
それだけでなく、「B型肝炎保菌者に噛みつかれた者が、B型肝炎ウイルスに感染した」という報告があるように、相手に血が滲むほどの力で噛みつく行為は、単なる身体的暴力(暴行)に留まらないことがあります。
つまり、噛みついた者が、HIVウイルスや肝炎ウイルス、梅毒などの一部の性感染症に感染しているときには、噛みつかれた傷からウイルスに感染するリスクがあるということです。
例えば、肝炎ウイルスに罹患するリスクの高い刺青を入れる行為に及んだ親から殴られるなど、身体的虐待を受け、肝炎ウイルスの保菌者となった子どもに噛みつき癖があり、加えて、むし歯や歯が抜けているときに、血が滲むほどの力で噛みついたとしたら、噛みつかれ、負傷を負った者には、肝炎ウイルスに感染するリスクが及ぶということです。
なお、上記のようなウイルスに罹患している事実を知りながら、避妊具などをつけないセックス、オーラルセックスに及んだときには、「傷害罪」が適用される可能性があります。


(2) 性(的)暴力
(乳幼児であっても)子どもの前でセックスする  複数や他人との望まないセックスや玩具を使ったセックス、望まない行為を強要される(風俗で働くことや売春行為を強要されることも含む)**5  避妊に協力しない**6  中絶を強要する**7  見たくもないポルノビデオや雑誌を見せられる  裸やセックス時の様子を写真や動画を撮影する**8…etc

交際相手や配偶者との間におけるセックスの絡む問題は、いろいろな心のあり方が組み紐のように複雑に絡みますし、他人に話し難いデリケートな問題です。
  とはいっても、交際相手や配偶者との間であっても、望まない性行為を強要されるとき、その行為は、性暴力です。
性行為を強要するとは、「一方的に」、「自分本位(自分勝手)に」ということばで示される、相手の同意を得ずに、性行為に及ぶということです。
  したがって、性(的)暴力、性的虐待、セクシャルハラスメントの被害にあうとは、自分の気持ち(意志)を汲まれず、一方的に、性的な行為に及ばれることです。
 「俺がそうしたいのだから、従うのがあたり前」と、一方的に、自分本位(自分勝手)に性行為に及ぶ者は、相互の関係性に、「本来、対等であるはず」という“概念”が欠落している(存在してない)人物であることを意味しています。
望まない性行為は、上下の関係下、支配と従属の関係下性でおこなわれるものに他ならないわけです。
つまり、DV行為に及ぶ者の本質を示しています。
中でも、避妊に協力しない(**6)、中絶を強要する(**7)という性暴力は、恋愛関係にある者、つまり、交際相手との関係において発生しやすいだけでなく、裸やセックス時の様子を写真や動画を撮影され(**8)、別れ話をきっかけに、リベンジポルノ被害に発展する可能性のあることから、以下、とりあげる性暴力事例については、「デートDV」を含みます。
なお、デートDVとは、デートの最中の暴力ということではなく、年齢に関係なく、恋愛関係にある者(交際相手)から受ける暴力のことです。

-事例39(デートDV1・身体的暴力7・性暴力3)-
(身体的暴力、殴る。性暴力、望まない性行為の強要)
交際相手のJは、私を殴った*1あと、必ずセックスを求めています*2。
また、不安なとき、ストレスが溜まったときなど、ほとんど毎日、私の気持ちは関係なくセックスを強います*3。
そして、Jは、化粧ポーチに入っているピルをとりだして、残っている薬を数え、「あと◯◯日は愛することができるんだね。」と口にします。
私は、本当にJとのセックスが嫌で、苦痛でしかありませんでした。
*1 身体的暴力(暴行)
*2 暴力のあとセックスに及ぶ行為は、相反する拒絶と受容のふるまいです。DV環境下では、典型的な行為で、思考混乱を意図したマインドコントロール性の高いものです。
*3 気持ちを無視して性行為を強いる行為は、性暴力になります。


-事例40(デートDV2・性暴力4)-
(性暴力、風俗通い、避妊に応じない)
交際相手Sのアパートに行ったとき、ソープランド*1のスタンプカードを見つけました。幾つかのスタンプが押されていて、その中には、12月24日のものがありました。
その日は、デートでSと口論となり、駅で別れ、Sのアパートで3時間待ってから、哀しい気持ちで家に帰ったクリスマスイブでした。
仕事から帰ってきたSに、そのことを指摘すると、「あの時は俺もどうかしてた。君が帰ったから、クリスマスだから、たくさんカップルがいて、周りのカップルとか見てたら、変な気分になって行ってしまった。」と自分勝手な理由をつけ、ソープランドに通っていることを正当化しようとしました。
Sにとって、私とのデートは、性行為目的であることを思い知らされ、私は、深く傷つきました。
しかも、ソープランドに通い性感染症の罹患のリスク*2がありながら、Sは「ゴム着けると気持ちよくないんだよね。生のほうが感じるから。」といい、避妊具を使用しない中での性行為*3は、私の恐怖になりました。
*1 交際相手の風俗店通いは、仮に、婚約下にあれば不貞行為(性暴力)に該当します。婚姻関係にあるときには、当然、不貞行為(性暴力)です。
*2 性感染症のリスクがある中で、コンドームを装着しない性行為は、性感染症を罹患させたときには傷害行為(性暴力)になります。
*3 相手の意志に反し、コンドームなどの避妊具を装着しない性行為は性暴力です。


-事例41(デートDV3・性暴力5)-
 私が21歳、大学生のとき、Oとアルバイト先で知り合いました。
知り合って1年経ったことから一緒に遊ぶようになり、そして、1年後の平成16年12月、私が21歳のときに交際がはじまりました。
はじめの1年くらいはOとよく会っていましたが、私が大学を卒業し就職すると、仕事が忙しく会う頻度はかなり少なくなりました。
そして、1-2ヶ月に1回のデートでは、Oは私の気持ちは関係なく必ず2回の性行為を求めてきました。
最初の性行為のあと私が寝てしまうと、Oは不機嫌になったり、怒ったり、幼児のように拗ねたりしました。最初は、怒っているOに対し腹を立て、「なんで怒られないかんの?! わけわからん!」と無言で帰ったこともありました。
私とOがお金のことでケンカになったとき、私が「私の意志は関係なくやりたいの?!」というと、Oは「そんなこといいだしたら、俺の車だし、ガソリンは俺がだしている!」と、Oは私の意図とは違う解釈のお金の話を持ちだし、声を荒げました。
「俺の方が金をだしているだって? まるで、ホテル代をだしているのは俺だ。だから、セックスに応じるのはあたり前だ!」といいたいのかと、私は、Oのいいぐさに耳を疑い、呆れ、話をするのを止めました。
私の女性としての気持ちがまったく通じないOとの不毛なやり取りが何度も繰り返されると、私は非難され嫌な思いをし、不毛な時間を過ごすくらいなら、嫌でも2回の性行為に応じた方が楽と考えるようになりました。
  私は、Oからプロポーズを受け、平成25年8月中旬に同居をはじめるまでの8年間、「嫌でも性行為に応じるのが彼女の義務」といいきかせ、デート時の2回の性行為に応じ続けました。私は最初の性行為のあと寝ないように気を張り、性行為中は、「痛いな、早く終わらないかな」と思いながら応じていました。

-事例42(デートDV4・性暴力6)*-
現在、掲載にあたり、本人の承認待ちです。


  事例39-42に示されている男性の身勝手な理由によるセックスに応じることを強いること、避妊に応じないことは「性暴力」です。
男性の「俺が(セックスを)したいのだから、応じるのはあたり前!」、「俺はしたくない(避妊具をつけたくない)のだから、それでいいじゃないか!」という身勝手な理由、つまり、一方的で、自分本位の考え方こそ、DVの本質です。
「気持ちよくない」と自分勝手な考えで避妊に応じてもらえず、望まない妊娠をすることになったり、それだけでなく、性病を罹患することになったり、女性は身体と精神的にダメージが大きいだけに、その後の人生、キャリア設計に大きな影響を及ぼすことになります。

① 夫婦間強姦(レイプ)の法的解釈
夫婦間強姦(レイプ)とは、夫からの深刻な身体的な暴行後、長時間にわたり罵倒し、糾弾し続けたあとにおこなわれることの多い苛酷な暴力です。
夫婦間強姦、交際間強姦は、身体の統合性を繰り返し侵害されることにより、身体へのコントロール感覚を失う(解離)ことがあります。
そして、被害者であるにもかかわらず、罪悪感を抱えこまされ、長く心に傷を受けることになります。
強姦(レイプ)の手段として、暴行または脅迫の存在が必要であるとされています。
判例では、強姦罪の暴行・脅迫については「相手の反抗を著しく困難にする程度のものであれば足りる」として、「強盗罪の場合のような、相手の反抗を不能にする程度までの暴行・脅迫でなくともよい。」としています(最判昭24年5月10日刑集3巻6号711頁)。
現在の判例・解釈の主流は、この判決を基本にしています。
つまり、夫婦であっても、嫌がる妻に「大声をだすな! 子どもが起きてもいいのか?!(~したら、~だぞ(してやる))」と“ことば”で脅し(威嚇し)、セックスを強要するのは、夫婦間強姦(レイプ)になりうるということです。
ただし、強姦罪は親告罪(控訴時効は撤廃されています)であった*-36ので、起訴することは稀でした。
控訴時効は、暴行罪3年、傷害罪10年(以上、刑事事件)で、不法行為にもとづく慰謝料請求は、犯罪があったときから20年(民事)、犯人を知ったときから3年です。
そのため、子どもが親から虐待を受け、心身の健康を損なったとして、のちに親を訴えたいと思ったときに公訴時効の壁がたちふさがることになります。
しかし、「Ⅱ-13-(5)」でとりあげている「判例4(事件研究39)」のとおり、幼児期に性的虐待を受けた被害女性が、控訴時効後に加害者のおじを提訴した民事事件では、最高裁判所が画期的な判決を下しています。
*-36 平成29年3月7日、政府は、「性犯罪の厳罰化をはかる刑法改正案を閣議決定しました。
これにより、「強姦罪」「強制わいせつ罪」の法定刑が、以下のように強化されました。
被害者の告訴がないと起訴できない「親告罪」の規定がとり除かれ、改正案は付則で、改正法施行前の時効が成立していない事件についても、告訴なしに原則立件可能と定めています。
そして、強姦罪は「強制性交等罪」と改められ、被害者を女性に限らず、強制わいせつ罪に含めていた一部の性交類似行為と一本化されました。
これまでの「強姦罪」は、「陰茎の腟内への挿入(姦淫)」のみが対象でしたが、「強制性交等罪」では、“口腔性交”と“肛門性交”も構成要件に含まれるようになりました。
したがって、被害者が男性器を無理やり口に入れられたというケースもレイプと同じ扱いになります。
強姦は被害、加害両者の性別に関係なく処罰可能となり、法定刑の下限を懲役3年から5年、致死傷罪の場合も5年から6年にそれぞれひきあげられ、強盗や殺人と同等となります。懲役6月以上10年以下の強制わいせつ罪の一部もこれに含められ、刑罰は強化されます。準強姦罪も準強制性交等罪に改められ、懲役4年以上とされている集団強姦罪の規定は削除されます。
また、強盗を伴う場合の刑罰が統一されます。
現行法では、強盗が先だと「強盗強姦罪」として「無期または7年以上」が科される一方、強姦が先なら強姦と強盗の併合罪で「5年以上30年以下」でしたが、改正案では、新たに「強盗・強制性交等罪」を設け、犯行の前後にかかわらず「無期または7年以上」となります。
さらに、家庭内の性的虐待も厳罰化され、親が監護者としての影響力により18歳未満の子と性行為をした場合について、新たに「監護者性交等罪」「監護者わいせつ罪」が設けられ、暴行や脅迫、被害者の告訴がなくても処罰対象とされることになりました。
平成29年6月2日、この性犯罪を厳罰化する刑法改正案は、衆院本会議で審議入りし、成立しました。


-判例3(夫婦間での強姦罪の成立-
鳥取地方裁判所昭和61年12月17日判決、広島高等裁判所松江支部昭和62年6月18日判決が、夫婦間での強姦罪の成立を認めた事例として広く知られています。
この裁判は、姻関係が破綻しているのに暴力をふるって妻と性交渉をもとうとする夫に対する婦女暴行罪が成立するかどうかが争われ、それまでの「夫は妻に性交渉を要求する権利があるから、夫の婦女暴行は成立しない」という通説を覆すはじめて司法判断がおこなわれ、「婚姻関係が破綻している場合、夫婦間でも婦女暴行は成立する」と有罪判決(懲役2年10月)を下しました。
広島高等裁判所松江支部の控訴審では、「法律上は夫婦であっても、婚姻が破綻して名ばかりの夫婦に過ぎない場合に、夫が暴行または脅迫をもって妻を姦淫したときは、強姦罪が成立する」と控訴を棄却しました(昭和62年6月18日)。
・事件概要
 昭和59年9月、鳥取県の主婦A子(22歳)は、度重なる夫(26歳)の暴力に耐え切れなくなり、実家へと逃げ帰っていました。
同年9月下旬、夫は妻Aを連れ戻そうと29歳の夫の友人とともに車で妻A子の実家近くで待ち伏せし、帰ってきた彼女をクルマに無理やりひきずり込むと、そのまま車を発進させ、県内の山中に車を停めました。
夫と夫の友人は、車内で妻A子の腹部や頭を殴りつけたうえで、2人でレイプしました。
以前から夫は妻A子に対して、木刀やビール瓶で殴りつけるなどのひどい暴力を日常的にふるっており、妻A子は何度も実家に帰っていた。
しかも、この9月下旬の事件後、夫は妻A子を自宅にチェーンで繋ぎ逃げられないようにするなど、常軌を逸した行動にでましたが、妻A子は、夫の隙を見て脱出し、近くの交番に助けを求めました。
  しかし、妻A子は、警察官に「夫婦のことは民事なので介入できない。」と門前払いをされたことから、行政の婦人相談所に駆け込みました。
そこで、弁護士と相談し、離婚調停を申立て、翌同60年に離婚が成立しました。
  さらに、同61年1月、元妻A子は、元夫を婦女暴行と傷害で警察に告訴しました。
「妻が夫を強姦で訴える」という事件でしたが、鳥取地方検察庁は同年3月5日、起訴に踏み切りました。
裁判では、元夫は「(元)妻に殴られたために殴り返しただけ。服が破れたのも(元)妻が暴れたのが原因。いき過ぎがあったかもしれないが、罪に問われるほどのことではない。」と無罪を主張し、弁護側も「民法によって、夫婦には性を求める権利と応じる義務が認められている。暴行や脅迫があった場合でも、暴行罪などに問われることはあろうが、夫婦間に婦女暴行罪は成立しない。」と主張しました。
しかし、同年12月17日、鳥取地方裁判所の相瑞一雄裁判長は、暴行の事実を認定し、元夫に懲役2年10ヶ月(求刑・懲役3年)、事件当時29歳の夫の友人に懲役2年(求刑・同2年6ヶ月)の有罪判決を下しました。
この有罪判決に対し、元夫は不服として控訴しましたが、広島高等裁判所松江支部は鳥取地方裁判所の判決を支持し、控訴を棄却しました。
高等裁判所の古市清裁判長は、一審の事実認定にさらに追加し、「夫婦生活が事実上破たんしている場合には、互いに性を求める権利・義務はない。」とし、夫婦間であっても婦女暴行罪が成立するという考えを示しました。
それでも元夫は最高裁に上告したが、同62年9月にとり下げ、刑が確定しました。
「夫が友人と共謀して妻を輪姦した事件」でしたが、この裁判によって、それまでは夫の暴力や横暴に泣き寝入り状態だったものが、「夫婦の間でも強姦罪はありうる」と、法的に基準が示されました。

② 性交類似行為
望まない肛門への性器挿入、口腔への性器や性具等の挿入等の行為(**5)は、加害者がいうところの単なる性癖ですまされるものではなく、性暴力(暴行)行為です。
顔や口腔に射精された被害女性が、その後、食事や水分が摂取できなくなったり、自分の顔やからだへの幻臭に苦しんだりすることがあるように、性交類似行為は、深刻なトラウマになりうる行為です。
そして、この性交類似行為は、強姦罪で処罰される男性器の女性器への挿入以外の性的行為は、強制わいせつ罪で処罰される行為です。
  しかし、夫婦間における強姦(セックスを強いる行為)、性交類似行為は、被害者の心身に与えるダメージは深く、長く苦しむことになるにもかかわらず、警察に「夫からの強姦被害」を訴え、仮に逮捕に至ることができたとしても、「傷害罪」ではなく、「暴行罪」に留まることが少なくありません。
配偶者からの暴力事案の検挙状況(平成25年度)のうち、強姦による検挙はわずか2件に過ぎず、強姦への警察対応はできていないのが現状です。
現在の警察の対応は、「望まない性行為を強いる」ことが、「配偶者暴力防止法」の定める「性暴力」にあたると啓蒙していることに反しています。
そういった意味でも、「Ⅳ-37.性暴力被害者支援の連携体制、SART(性暴力被害者対応チーム)」に記しているとおり、性暴力被害に関して支援するための訓練を積んだ医療者、警察、検察、相談員、援助者などの多職種の専門家による連携体制(SART、日本では「ワンストップ支援センター」)が普及することによって、夫婦間における強姦事件も正当に扱われるようになることを期待したいと思います。

(性暴力被害者を理解するうえで重要なこと)
性暴力被害者を理解するうえで重要なことは、自分の意志とは異なり、皮膚が「痛い」「痒い」「くすぐったい」「心地よい」と反応することはまったく別の問題だと認識することです。
なぜなら、頭で「嫌だ」と強く拒否する意志を持っていても、人は触れられたら反応するからです。
そのため、レイプ犯は、「嫌だと叫んでいたが感じて濡れていたじゃないか! 合意のセックスだ!」と自分だけに都合のいい解釈でもって自己のおこないを正当化しようとします(いわゆるレイプ神話)。
しかし、その発言は、自分勝手ないいぐさでしかありません。
一方の被害者もまた、嫌なのに感じて(体が反応して)しまった“わたし”は穢れていると、自分の“からだ”を呪い、責め続けることになります。
こうした“穢れ感”を呪うようになると、自らの下腹部を刺すなど、穢れた体を傷つける行為に至る事態を招くこともあります。
さらに、性暴力被害は自尊心を損ない、自己肯定感が奪われることによって、アイデンティティが崩壊しまうほどのダメージを受けます。
その結果、自らの命を傷め、「自死(自殺)」という形で呪われた“からだ(わたし)”を消し去ってしまうことがあります。
“穢れ感”、そして、恐怖のあまり「嫌だ!」「やめて!」と口にだせなかったことなどを含めて、性暴力被害者を専門にサポートする援助者の助けを受け、暴力で傷ついた心のケアにとり組むことが重要です。
また、人は暴力ふるう(ふるわれる)という強い刺激を脳(快楽中枢)は忘れないことから、周期的に、強い刺激を脳(快楽中枢)が求めることがあります。
セックスでの快感も、激痛も麻薬と同じ強烈な刺激として、脳幹など古代脳と呼ばれる部位(快楽中枢)が覚えています。
ひどいアブノーマルな性的倒錯(パラフィリア)の世界に封じ込まれた被害者が、その関係性は断ち切ることができたけれども、脳が覚えている強烈な刺激を求め続け、麻薬中毒者と同じように、さらなる性暴力被害を受けて(招いて)しまうことがあります。
その結果、脳が刺激を求める“わたし”を呪い続け、アルコールや薬物に深く依存することで、ツラさ、哀しさを回避しようとする事態を招きます。
専門の第三者(アボドケーター)は、こうした状況にあっても、“わたし”を認めてあげ、肯定してあげることが重要です。
そのためには、性暴力被害者が陥りやすい傾向について、正しく理解する必要です。
  そこで、異性間との性的関係について、正しい性知識を身につけ、性暴力をおこなう加害者の思考行動を理解していただくために、「Ⅱ-14.パラフィリア(性的倒錯・性嗜好障害)」において詳述しています。
“性的嗜好”は、育った家庭環境の影響が強く表れるものです。
つまり、暴力のある家庭環境で育たざるを得なかった“抑圧された生活環境”がその方向性を決めてしまう側面があります。
しかも、思春期(10歳-)前に性的興奮パターンがつくられ、一度できあがった性的興奮パターンは一生変わらないといった特性があります。

(性犯罪被害の実態)
強制わいせつなど、ひとりの性犯罪加害者の影には、平均380人の被害者がいるともいわれています。
平成24年の刑法犯の認知件数は、強姦1,250件、わいせつ11,694件、合計12,944件となっていますから、影の被害者を含めた被害者は、4,918,720人で、仮に、この被害者すべてが女性とすると(男性の被害者も存在しています)、実に、100人に7.80人の女性がが性暴力の被害にあっていることになります。
その中で、レイプ(強姦)などの「性暴力(性的虐待、性搾取を含む)」は、特別な状況下ではなく、家庭や学校、習いごと、そして、職場など身近な相手が加害者になっていることが多く、決して滅多におこらないものではなく、身近な問題です。
女の子は8人に1人、男の子も15人に1人が性暴力の被害にあっているとされています。
レイプの80%以上は、顔見知り(よく知っている人)の犯行です。
父母・祖父母・叔父叔母・従兄弟(11.9%)、配偶者・元配偶者(9.9%)、そして、友人や知人(学校の教職員、先輩、同級生、クラブやサークル指導者や仲間、職場の上司や先輩、同僚、取引先の関係者)(77.1%)によるものです。
つまり、性暴力加害者の1割強が親などの近親者で、8割弱がデートDVになりうる対象者、1割が配偶者や元配偶者ということになります。
  ただし、これらの数字は、本人が性暴力を受けたと自覚している人たちの数値です。
幼児期に性的虐待を受けた被害者は、第三者に指摘されるまで性的虐待被害にあってきたことを認識できていないことが少なくありません。
暴力のある家庭環境で暮らし、AC(アダルト・チルデレン)を抱える被虐待者やDV被害者へのカウンセリングでは、当初、「性暴力(性的虐待)を受けていない。」と応えていたものの、カウンセリングを進めるうちに蓋を閉じていた記憶の扉が開き、「そういえば、お父さんとお風呂に入ると小股がヒリヒリするから嫌だった。」、「お父さんの大きくなったおちんちんを握らされ、誰にも話してはいけないと口止めされていた。」などと話しはじめることに表れています。
また、1割とされている配偶者や元配偶者、つまり、夫婦間においても、「~しなければ、~するぞ!」、「~に応じなければ、~してやる!」といった“脅しのことば”を伴うセックスの強要(レイプ)であっても、「セックスレスは離婚原因となる」との認識によって、「嫌でも夫婦(交際しているの)だから応じなければならない」と思い込んでいる女性は相当数にのぼります。
夫婦関係はそういうものとがまんし、耐え、泣き寝入りしている人たちに無自覚な人たちを含めると、実態はもっと多いことになります。
性暴力被害の多くは、家庭内で、逃れることもできずに繰り返されています。
つまり、性暴力の真実は、「身近な家庭の中にある」のです。
  性暴力被害者たちは、自己性だけでなく、存在そのものを否定し、強い“穢れ感”に自暴自棄になり、さらなる性暴力被害を受けたり、自ら傷めつけ、身を亡ぼすかのように性搾取の世界に飛び込んでいったり、薬物やアルコールに溺れてしまったりするなど、2次被害に身をおいてしまうことも少なくありません。
  このことは、自分を大切にし、自分を守ることを捨て去っている悲劇を生んでいることを意味します。

(性暴力被害の教育啓蒙の意味)
デートDV下のレイプなどの性暴力や薬物使用は、“これから”の人生を破滅させる怖れのあるものとして更なる教育啓蒙が必要です。
教育啓蒙は、“性暴力”がなぜおるのか、そして、どう防ぐのかといった正しい知識を学ぶことだけでなく、性暴力被害を受けた被害者が、誰にも話せず、つらい思いをひとりで抱え苦しんでいるとき、いつまでに、誰に相談したらいいのかについて学ぶことになります。
それは、「警察」では、a)産婦人科の医療費を公費で支出する制度を受けること、b)精神的被害を受けたとき臨床心理士から無料でカウンセリングを受けたり、「被害者支援センター」等のサポートを利用したり、女性がレイプ被害にあったときには、望まない妊娠を避けるために“72時間以内(3日以内)”に「72時間ピル」を服用しなければならないことから、「性暴力被害ワンストップ支援センター(平成26年12月現在、全国16ヶ所)」に連絡をし、いまなにをしたらいいのかを相談したりすることを学ぶことです。
婚姻後のDV被害を防ぐには、まず「デートDV」を防がなければならないのです。
  また、「デートDV」における支配のための暴力の対象は交際相手ですが、それは、男性から女性、女性から男性だけでなく、ゲイ・レズビアン・バイセクシャル・トランスジェンダー(LGBT)といった同性愛者同士を含むものです。
女性同性愛者が集まる飲食店で知り合った女性にホテルに連れ込まれたり、友達募集のサイトで知り合った女性と会う約束をしたら、性行為を強要されたり、心と体の性が異なるトランスジェンダーの元交際相手から性暴力を受けたりすることがあります。
同性間のデートDV・DV同様に、被害DVが原因で別れたあとにつきまとわれ、強引に家にあがり込まれて、指や大人のおもちゃなどの性具で用いてレイプされることもあります。
日高庸晴宝塚大教授(社会疫学)が性的少数者約1万5000人に昨年実施したインターネット調査によると、「バイセクシュアル(両性愛者)女性の23.7%、女性同性愛者の15.3%が性暴力被害を経験していた」ということです。
  性的少数者間で、暴力(性暴力を含む)がおこなわれる背景には、差別や偏見により閉ざされた関係になりがちであることがあげられています。
LGBTについては、社会的認知が少しずつ進んでいるものの、依然として偏見、差別の対象になりやすい状況には変わりはなく、社会的に弱い立場であるがゆえに、誰にも相談できずに深刻な事態になっています。

③ 避妊に応じない
この問題には、交際相手や配偶者が、コンドームを装着して避妊することを嫌がる行為(**6)を、性暴力と認識できていないという現実があります。
そして、「性暴力と認識できていない」背景には、被害者のa)「断ったら、嫌われるかもしれない」と“見捨てられ不安”を起因とする思考パターン(きっと、…だから)、b)「嫌でも、男性が求めるのなら、女性は応じるのがあたり前」という価値観が存在しています*-37。
そのため、長期間、慢性反復的(日常的)な被害に及んでいることが少なくないわけです。
長期間、慢性反復的(日常的)な性暴力被害は、望まない妊娠リスクを高めることになります。
さらに、望まない妊娠をしたとき、中絶を強要され(**7)、一方で、関係が継続しているときには、その後も避妊に応じない性行為が続くことから、望まない妊娠が複数回に及ぶ可能性が髙くなります。
その都度、人工妊娠中絶をすることになれば、身体にかかる負担は大きくなります。
それだけでなく、交際相手や配偶者が、頻繁に風俗店に通ったり、不特定多数の人と性的接触を繰り返したりしているときには、性感染症に罹患するリスクも高まります。
ここに共通しているのは、コンドームを装着しないことから、「望まない妊娠」のリスクがあり、その妊娠をきっかけに、デートDVという問題を抱えたまま結婚に至ることが少なくないことです。
婚姻後(強姦後の妊娠で婚姻に至るケースを含む)のDV環境下では、夫に人工妊娠中絶を同意してもらうことができず、中絶の機会を失ったままに望まない出産に至っていることもあります。
さらに、妊娠している被害女性が、DV加害者である夫から避難しているときには、夫の同意書が得られず医療機関に受け入れてもらえないこともあり、状況はさらに困難となります。
*-37 こうした被害者の思考パターンや価値観の存在については、「Ⅰ-10.育った家庭環境が影響する思いを断ち切れない複雑な心理」で詳しく説明しています。

④ 裸やセックス時の様子の写真・動画撮影
怒られたり、不機嫌になったりすることを避けるため、仕方なく(嫌でも)、裸の写真を撮ったり、性的な行為を動画に残したりする行為に応じなければならない(**8)ときには、その状況をそのものが、暴力による恐怖に支配されている、つまり、DV環境にあることになります。
  そして、この問題は、知らない間にネットに投稿されていたり、別れ話がでたときに脅されたりすることになるなど、リベンジポルノ被害のリスクを抱えることになります。
 独立行政法人・情報処理推進機構(IPA)が、13歳以上のスマートフォン利用者(男女5,000人)を対象に行ったアンケート調査では、10歳代の7.5%、20歳代の11.3%が、「恋人など親密な間柄なら、自分の性的な姿の写真や動画をSNSで共有しても構わない」と回答していますが、「一度手を離れた写真は、ネット上で独り歩きするリスクがある」と認識する必要があります。
  また、SNSに投稿した写真にはGPS情報(位置情報)が残っているため、そこから居所を特定されるリスクがあります*-38。
*-38 リベンジポルノに限らず、DV被害から逃れた(加害者と別れた)あと、居所を知られずに生活をしなければならないときには、GPS情報(位置情報)が残っている写真をSNSに投稿してはならないわけです。
 また、使用している携帯電話(スマートフォン)に、無断で、遠隔操作してメールや通話履歴を見たり、無音で写真や動画を撮影したりできるアプリ(盗難・紛失対策に開発)をインストールされ、居場所や行動を知られていることもあるので、家をでる前に、インストールの有無を確認していくことが必要です。


-事例43(デートDV5・性暴力7、リベンジポルノ)-
 私は高校2年生のとき、コミュニティ交流サイトで30歳代の男性と知り合いました。
私は、メールで愚痴を聞いてくれたり、相談に乗ってくれたりする友人のひとりと思っていました。
ところが、突然、「ちょっと見たいから、裸の写真を送ってよ。」とメールが届きました。
私は、何度も断りましたが、その男性は、執拗に催促のメールを送ってきました。
あまりのしつこさに、私は、裸の上半身を1枚“自撮り”して送ってしまいました。
催促がしつこくて。あとのことなんて、そのときは考えませんでした。
大学生になり、ことの重大性に気づき、サイトの利用を止め、男性から“フェードアウト”しようと思いました。
ところが、逆に、連絡を求めるメールが次々と寄せられるようになり、遂に、「連絡をくれないなら写真を流す。自分が送った写真、わかってるよね?!」と脅しを含んだメールに変わっていきました。
親や親友には、恥ずかしくて相談できませんでした。
怖くて仕方がありませんでしたが、約1年間、送られてくるメールをひたすら無視し続けました。
そして、やっとメールは止まりました。
  とはいっても、問題が解決したわけではありません。なぜなら、大学を卒業し就職して2年経ちますが、私の裸の写真はどこかで公開されているかもしれないのです。
調べる勇気はありません。
「写真を流す」と脅しのメールが送られてきて6年間、私は、「流出していないはず」と自分にそういいきかせて、恐怖を打ち消して生活しています。

  事例43は、のちに重大な事態になることを考えることができず、執拗な催促から逃れたい一身で上半身裸の写真を自分で撮り送り、被害女性がやり取りを終えようとしたときに、「連絡が続けなければ、写真を流す」と脅されたケースです。
やり取りの継続を強いるこの脅しのことばが発せられた時点で、ストーカー事件でもあるわけです。
被害女性が調べていないこと、第三者を通じてネットに流れていることを知らされたわけではないので、その後どうなったのかの事実は把握できずにいるまま、被害女性は、流出しているかもしれないと怖れ続けています。
流出していない確証が得られるまで、被害女性の精神的な苦痛は消えることはないのです。
そして、この男性と街のどこかで偶然に出会うリスクも残されています。
なぜなら、上半身裸の写真には、被害女性の顔が映っているからです。
このことは、その後のストーカー被害を招くリスク、新たに脅されるリスクが残っていることを意味します。
つまり、リベンジポルノの問題は、写真や映像の存在をもとに脅され、別れることを許されずに縛られる高いリスクを抱えるという認識が必要なのです。
  5年、10年経過したあと、その画像が動画を見た身も知らない第三者から脅され、更なる被害に発展してしまうリスクさえ残すことになります。
インターネットの進化は、瞬時に大量の情報を得られる便利さと、“悪意”をまき散らす手段をもたらしました。

(リベンジポルノ)
自撮りしたヌード写真や動画を交際相手にわたしたり、交際相手や配偶者に撮られていたりしたものを、別れた腹いせとして、元配偶者や元交際相手が画像や動画をインターネットにアップするのが“リベンジポルノ”で、その被害が深刻化しています。
映画『リベンジポルノ(2014年)』では、交際相手の要求に応え、自身の裸(下着姿を含)の画像や動画を渡した“心のあり方(真理)”と、別離後、リベンジポルノの被害に合うという“歪んだ愛のあり方”を描いています。
「20-30歳代の女性の16.6%(6人に1人)が、交際相手にセクシーな写真(ヌード)を撮影された経験がある」、「32%が、彼氏に自分の裸や性器の写真を撮られたことがある」とあるように調査結果には幅があります。
ただし、これらの数字には、ペン型や100円ライター型、腕時計・置時計型といった盗撮器具を用いた盗撮画像や動画については、本人が知らないところで撮影されているため、当然、含まれていません。
盗撮サイトには、リベンジポルノという趣旨だけではなく、本人が知らないところで多くのセックス動画や画像が投稿され、拡散されています。
アメリカでは近年の被害増加にともない、2013年カリフォルニア州で罰則を科す改正法が成立し、日本では、平成26年11月、リベンジポルノへの罰則を盛り込んだ「リベンジポルノ被害防止法(私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律)」が制定されていますが、リベンジポルノは、「デジタルタトゥー」といい表されているように、一度インターネットに流されてしまうと、次々にコピーされ保管されたり、拡散されたり、永遠に画像や動画を消し去ることができなくなります。

⑤ 「レイプ・ドラッグ」「キメセク」被害のリスク
  バーなどの飲食店で提供されるドリンク、取引先の職場や友人・知人宅、交際間もない相手宅でだす飲み物に睡眠薬などを混ぜ、意識を失った女性をレイプする卑劣な行為があります。
  こうした薬物のことを「レイプ・ドラッグ」といいます。
怖ろしいのは、第1に、取引先の職場でおこなわれる打合せ、職場の上司や同僚との飲み会や合コン、友人・知人宅での顔見知りの複数の友人・知人との歓談しながらの飲食、交際間もない交際相手宅での歓談しながらの飲食など、こうした無軽快な状況下で、薬を盛られた飲み物を提供されることです。
睡眠薬をアルコール飲料に混入した場合、コップ1杯程度で記憶や意識がなくなります。
意識がフワフワとして時間の感覚が飛び、意識をとり戻したときには、レイプされてしまっているのです。
第2に怖ろしいのは、ドリンクや飲み物に睡眠薬を盛られるだけでなく、意識のないときに、覚醒剤を打たれたり、陰部に塗られたりすることです。
そして、問題は、こうしたレイプ行為は、「準強姦罪」が適応されますが、レイプ被害を訴えたくても、立証が難しく、捜査が進まないことから、警察が、逮捕や起訴に消極的だということです。
  “準強姦”とは、「人の心神喪失もしくは抵抗困難な状態に乗じ、またはそのような状態に陥らせて姦淫する」ことです。
つまり、心神喪失状態にある被害者は、明確な証言ができないわけです。
一方で、被害者の記憶が鮮明だと、警察や検察は、「意識がはっきりしているなら、断れただろう」という理不尽な扱いをされかねないのです。
 そして、日本では、レイプ・ドラッグを使った犯罪の認知度は低く、資料やデータはほとんどないという問題を抱えています。
 そのため、レイプ被害にあった直後に、医療機関(性暴力被害者支援センターを含む)や警察で、尿の薬物反応を調べてもらうなど証拠を保存の重要性が認知されていません。
レイプ・ドラッグとして用いられるのは、主に、睡眠導入剤や短時間型の睡眠薬で、これらは、体内から早く排泄され、証拠が残り難い特性があります。
警察は、レイプ被害を訴える被害者が「記憶がない」と口にしていても、被害者の尿や血液で薬物検査をし、犯罪の証拠を確保するように周知徹底しなければならない一方で、警察署の検査キットに反応しない薬物が主に使用されていることから、科学捜査研究所レベルでの分析が必要になるという問題も残ります。
そして、事件後、レイプ被害者の多くは、深刻なPTSDの症状に長く苦しむことになります。
仕事も辞めざるを得なくなったり、加害者が交際相手ではないケースであっても、その関係性が壊れてしまったり、親やきょうだいなど親族からも「お前にも落ち度があったのでは、…」と心ないことばをかけられてしまったり、2次被害を受けることも少なくありません。
2次被害として、他に、2つのリスクが考えられます。
ひとつは、レイプ時の様子を写真や動画を撮影され、その写真や動画の存在を下に脅され、関係の継続を迫られたり、性的搾取を強いられたりするリスクです。
  もうひとつは、意識混濁下でレイプされているときに、覚醒剤などを使用されているときには、「キメセク」同様のリスクを抱えるということです。
  「キメセク」とは、覚醒剤や違法薬物、危険ドラッグなどを使用して変性意識状態になり(キメて)、性交(セックス)などの性的行為をすることの俗称です。
強い快感がえられることから、「キメセク」を一度体験してしまうと、薬物なしの性行為ができなくなる怖れがあると指摘されています。
また、覚醒剤や違法薬物、危険ドラックなどの薬物を使用することから、薬物の副作用による心身に異変を生じさせ、同時に、依存状態に陥るなど、深刻なダメージを及ぼすことになります。

⑥ 性感染症リスク
デートDVで忘れてならないことは、レイプ被害を含む性暴力による妊娠リスクや性感染症罹患リスク、さらに、薬物リスクなどです。
高校3年生の女子生徒の25人に1人がクラジミアに感染しているという調査結果があります。
先進国の中で日本だけがHIV(後天性免疫不全症候群:SIDS)の感染者数が増加していますが、その中心は若い世代です。
このHIVの感染者の約半数が、梅毒に感染しているとの報告もあります
そして日本では、この梅毒が、平成28年の患者数が同22年の7.3倍(報告された4,557人のうち7-8割が男性)になるなど増加し続けているのです。
中でも、女性患者の増加が著しく、同22年の11.2倍、その大半が15-35歳です。梅毒に感染した女性が妊娠すると、早産や死産、重篤な胎児異常をきたすリスクがあります。
この6年間で梅毒患者が急増している背景には、不特定多数との性行為の増加があります。
梅毒は、感染者との粘膜や皮膚との性的な接触、つまり、性器と性器、性器と肛門(アナルセックス)、性器と口(オーラルセックス)の接触によって感染します。
ここには、交際相手や夫が「コンドームを装着しない」といった問題があります。
  コンドームの装着で感染を100%防ぐことができないものの、コンドームの装着による感性予防は、エイズやクラミジア、淋菌感染症など、梅毒以外の性感染症を予防することにもつながります。


(3) 精神的暴力(ことばの暴力)**
無視・無反応  からかい・ひやかす・はやしたてる  罵声を浴びせる(否定する、批判・非難する、侮蔑する(バカにする)、卑下する(見下す)といったことばの暴力を浴びせる)  大声で怒鳴りつける  「俺は悪くない。お前が怒らせるようなことをするからだ!」と責任を押しつけたり、責任転嫁したりする(そのことによって、自分のおこないは正しいと正当化しようとする)  「お前が悪いからだ」、「お前が~をしないからだ」、「お前がケンカをうってきたからだ」と責任逃れのことばで、罪悪感を植えつける  人前でからかう(ひやかす)  悪口をいう  けなす  舌打ちする  不機嫌な態度をとる  威圧的な態度をとる  腕をあげ殴るふりをする(状況によっては身体的暴力に該当する)…etc
**「精神的暴力(ことばの暴力)」に関する事例については、「Ⅰ-3-(4)子ども利用した精神的暴力」、「Ⅰ-6-(1)-①自己正当化型ADHD」「同-②アスペルガー症候群」にてとりあげています。

「精神的暴力」は、「モラルハラスメント(精神的虐待、いじめ・嫌がらせ)」に該当する部分で、ことばや態度による攻撃が主流です。
また、直接ことばにださなくても、雰囲気で相手に察知させ、自ら行動を控えるように、意に添うような(意に反しない)ふるまいを率先しておこなうように仕向けていくという特徴があります。
その結果、「お前が勝手にそうしてきただけじゃないか」、「俺から頼んだわけじゃない」などといわれると、心の中では「そうじゃない」と思いながらも、反論したら2-3倍になって返ってくるツラい体験を散々思い知らされているため、口にすることができなくなっていきます。延々(何時間も)と怒鳴りつけられたり、罵倒され続けたりされて、なにをいっても無駄、なにも変わらないと、自分は無力であることを思い知られていることが要因になっています。
ただし、モラルハラスメントはセクシャルハラスメントとは違い法律用語ではないので、ことばの暴力、精神的暴力と表現します。
平成13年、最初に配偶者暴力防止法が制定されたときに、精神的暴力が含まれていなかったので、法制定以前にモラルハラスメントを離婚事由としていましたが、改正された配偶者暴力防止法において、精神的暴力が含まれることになったことから、DV行為としての精神的暴力を表記し全体的にDV事件であることを印象づけることが有効です。
  殴られるなど身体的暴力による心身に与えるダメージは相当なものです。
しかし、顔面が腫れあがったり、肋骨が折れたりといった見た目に痛々しい自分の姿を突きつけられることによって、暴力を受けているとの事実認識がしやすくなり、「もうこんな思いはしたくない。別れよう」と決断できたりします。
また、子どもの虐待事件と同様に、家庭内の騒ぎであっても、外部からの通報により警察が介入したり、治療のために訪れた病院の通報により、警察や行政(児童相談所、福祉事務所など)が介入したりすることによって、「逃げても、連れ戻されるかもしれない」、「連れ戻されたら、もっとひどい暴力を受ける」と逃げられない理由づけから開放される可能性もあります。
つまり、身体的暴力(暴行)は命の危険に及ぶリスクがある一方で、早く、暴力のある関係を断ち切る可能性もあるわけです。
ところが、精神的暴力は、否定され、批判・非難され、侮蔑され(バカにされ)、卑下され(見下され)る、ことばの暴力を浴び続け、自己肯定感を奪われ、自尊心が損なわれるなど、精神的(脳に与える)ダメージの大きさ、後遺症の深刻さとは対照的に、被害者自身が、暴力(DV)被害と認識できていないことが少なくないのです。
「いま、このとき」、自身がいかにひどい状況にあるのかを自覚できずにいるために、慢性的反復的に、ことばの暴力を浴び続けてしまうことから、精神的(脳に与える)ダメージが深刻化してしまいます。


(4) 子どもを利用した精神的暴力
子どもに母親が暴力をふるわれている場面を見せる**9  子どもの前で母親に暴力をふるったあと、子どもに「お母さんが悪いことをしたから」という**10  子どもに母親の悪口をいわせる(いうことをきかず、母親が叱りつけたあと、「なっ、怒られただろ」と同意を求めたり、皆でにんまり、クスクスと笑ったりなどを含む)   子どもを自分の味方につけ(懐いているようにみせかけ)、妻を孤立させる(ひとりぼっち感、疎外感を味わせる)   お前のせいで、子どもは暴力を受けることになることを思い知らせる(逆に、「子どもがいうことをきかないのはお前のせいだ」と子どもの前で母親を怒鳴りつけたり、殴ったりすることで、子どもに罪悪感を抱かせる)**11   「もう、暴力には耐えられない」と離婚話を持ちだすと、「お前には、母親として子どもを育てる責任がある(育児放棄をするつもりか)」と自分が暴力をふるうということではなく、子どものことに話をすり替え、問題(責任)の置き換えをはかる(俺のもとで、お前は子どもを育てあげる義務があるとの考えのもと、「子どものことを考えろ」と決断を鈍らせる話を持ちだしてくる)   「でて行くなら、子どもは置いていけ」、「子どもは俺が育てる」、「お前が子どもを連れていって、貧乏にしたら許さないからな」と子どもを(精神的な)人質にとり、でて行くことを諦めさせる…etc

** 養育者である親による子どもへの暴力(ネグレクト(育児放棄)、身体的虐待、精神的虐待、性的虐待、他に、いき過ぎた教育(教育的虐待。過干渉・過保護を含む))、つまり、「児童虐待」の分類については、「Ⅱ-11.慢性反復的トラウマの種類(児童虐待分類)と発達の傷害」で詳しく説明しています。
さらに、暴力のある家庭環境で育つ、つまり、子どもが虐待を受けて育つ影響については、「Ⅱ,面前DVの影響。暴力のある家庭で暮らす、育つということ(8-15))全体を通じて詳述しています。


  子どもに母親が暴力をふるわれている場面を見せる(**9)行為、つまり、子どもが、親の暴力を見たり、聞いたり、察したりする状況にあることを「面前DV」といいます。
  この「面前DV」は、親の立ち位置ではなく、子どもの立ち位置で解釈することから、「子どもが、心理的虐待を受けている」状況をさします。

① 面前DV=子どもが、両親間の暴力を目撃する
「両親間、あるいは、母親の交際相手と母親間のDVを目撃する(面前DV)ことが、子どもにとって精神的虐待にあたる」ことは、平成16年に改正された「児童虐待の防止等に関する法律(児童虐待防止法)」の第2条(児童虐待の定義)で、「児童が同居する家庭における配偶者に対する暴力」と明記されています。
このことにより、メディアなどが児童虐待の通告数などを伝えるとき、『今年上半期に通告が行われた虐待のうち、最も多かったのは心理的虐待の16,669人で68.0%を占め、次いで身体的虐待の5,025人で20.5%だった。性的虐待、育児放棄(ネグレクト)を加えた4類型すべてで前年同期より増え、特に心理的虐待は約5割増となった。その中でも、子どもの前で配偶者らに暴力をふるう「面前DV」の増加が目立ち、約6割増の11,627人だった。』などと、心理的虐待(精神的虐待)の中で、「面前DV」の比率の推移などを明記するようになっています。
とはいっても、いまなお、日本社会では、「DVを目撃して暮らしている(慢性反復的(日常的)な心理的虐待下にある)子どもが、DVの最大の被害者である」という認識は、馴染みのない考え方です。
そして、問題は、暴力に耐え続けてきた(いる)母親が、なにより受け入れ難いことです。
こうした事実を伝える(知る)と、「DV被害者であるにもかかわらず、私も加害者と非難するのですか?!」と声を荒げる被害女性も少なくありません。
しかし、子どもの母親である被害女性とって、いかに理不尽なことであっても、“子どもの立場”に立てば、母親が父親からのDVに耐え続ける姿を見せられることは、心理的虐待を加えられていることに他ならないのです。
だからこそ、「子どもにとって、虐待環境にある“いま”の家庭環境を、このまま放置することはできない」との考えに立ち、暴力に支配されている関係を断ち切る覚悟が必要になるのです。
  もう一度、整理します。
夫婦の関係でおこなわれる暴力、つまり、DVでは、どちらかの配偶者が加害者であり、どちらかの配偶者が被害者となりますが、親と子どもの関係でおこなわれる暴力、つまり、子どもへの虐待では、子どもに暴力をふるった親が加害者、暴力を加えられた子どもが被害者という構図になります。
そして、面前DV、つまり、子どもが両親間(または、親と親の交際相手間)の暴力を目撃したり、聞いたり、察したりすることが、子どもにとって心理的虐待にあたることから、被害者は暴力を目撃したり、聞いたり、察したりしている子どもに対する加害者は、一方の配偶者に暴力を加えている者だけでなく、暴力を加えられているもう一方の配偶者も当事者という立場になります。
こうした「児童虐待防止法」にもとづく解釈は、DVの直接的な被害者である母親だけでなく、DVを目撃する子どもの心までも破壊するリスクが高い、つまり、DVのある家庭環境は、胎児期を含めて脳の発達に大きなダメージを与え、将来にわたり心身の健康を損なう要因となるという事実にもとづいています。
  いま、DV被害を受けている人たちに限らず、多くの方たちが、「どこの家庭でも、同じようなことがおこなわれているでしょ。」、「ある程度の暴力を容認してもいいんじゃない。」と思われるかもしれません。
  しかし、重要なことは、「いかなる理由があっても、いかなる状況であっても、暴力という手段で問題を解決することは許されない」という考え方に立たなければならないということです。
なぜなら、子どもがDVを目撃して生活することは、「被虐待体験という心的外傷(トラウマ)を抱え込むだけでなく、人とのかかわりにおいて、暴力で支配したり、暴力に支配されたりする行動パターンがとり込まれてしまう」という事実があるからです。
  では、子どもが、両親間のDV行為を目撃する環境の中で、子ども自身に直接、間接を問わず暴力行為が及ぶ状況、つまり、DV環境下、児童虐待と密接な関係のある家庭環境の状況について、事例で見ていきたいと思います。

-事例44(面前DV5・DV環境下、児童虐待と密接な関係1)-
(身体的暴力、精神的暴力、否定・非難)
  夫がいったんキレて、怒鳴り散らしはじめると、収拾がつかなくなります。
私が「はい。ごめんなさい。」と謝り、うつ向いて黙っていると、「そうじゃないだろ!? 」と大声で怒鳴りつけ、続けて、「なぁ!なぁ!なぁ!なぁ!」と威圧してきます。
  夫が暴れると大変なことになるので、私は、私のいい分とかは心にしまい、とにかくこの場を収めることしか考えらられなくなります。
  子どもができてからは、私が「そうじゃない」と応じてしまい、夫がいつまでも怒鳴り散らし続けるのを、子どもに見せたくない思いで、私は、口を噤ぎ、嵐が過ぎ去るのをじっと待ち続けるようになりました。
そして、私は、夫にいいたいことも口にすることができなくなりました。
  しかし、私の気持ちに反し、夫は、子どもの前であっても、躊躇なく、私を大声で怒鳴りつけたり、どついたり、物を叩いたり、投げつけたりしました。
私が「子どもの前で止めて!」と訴えても、夫は、子どもに対し、「パパが悪いんじゃないぞ! パパを怒らせるママ悪いんだぞ!」、「ママが余計なことをいうからパパが怒るんだ!」といい、さらに、「ママのせいだぞ! パパは悪くない!」、「パパはHに怒ったこと一度もないよね。パパは、Hには優しいよね。」といい聞かせています。

-事例45(面前DV6・DV環境下、児童虐待と密接な関係2)-
(身体的暴力、精神的暴力)
  私を殴った夫は*1、寝ている長女を起こし、「お母さんがケンカをうってきた。お母さんはキチガイだから、仕方なく殴ったんだ!」ととくとくと話し続けていました*2。
  そして、わざわざ起こした長女を連れてきた夫は、「子どもたちの前で残酷なことをさせやがって!」といい捨てました*3。
小*1 身体的暴力(暴行)です。
*2.3 DV環境下での子どもを利用した精神的暴力です。


-事例46(面前DV7・DV環境下、児童虐待と密接な関係3)-
(精神的暴力、否定・非難、脅し。子どもへの身体的虐待)
  夫Dは、気に入らないことがあると、「でて行け!」と怒鳴りつけました*1。
それだけでなく、Dは、ことあるごとに、子どもたちの前で、「俺は3人の子どもは望んでいない。お前が勝手に産んだ。」と非難し*2、「俺は子どもの面倒なんてみたくないんだ。3人を連れて九州に帰れ!」と怒鳴りつけました*3。
そして、Dは、子どもたちの前で、「離婚決定。はい、解散!」、「いつ、でて行くんだ!」と、私を散々脅してきました*4。
  もう耐えられないと、私は、Dに「名前を書いて。」と著名押印した離婚届を差しだしました。
すると、Dは、これまでの話を一転させ、「子育ては義務だろ! 途中で投げだすことは許さない!」といってきたのです。
私が「家裁調停に持ち込んでも、離婚する。子どもは渡さない。養育費は払ってもらう。」と話すと、Dは「親権は渡さない! どんなことをしても子どもたちは渡さない!」と怒鳴り散らし、荒れまくりました。
  そして、私が、夫Dに離婚を切りだした直後のお盆、私は、3人の子どもを連れ、夫Dとともに、Dの実家に帰省しました。
その帰省先のDの実家で、2歳の長男Tが9歳の長女Yをフライパンで叩くという事件が起きました。
すると、Dは、「コイツは、同じことをやられないとわからないからな!」といい、懲らしめとして、長男Tをフライパンで叩いたのです*5。
  私が、Dに「子どもに仕返しをしないと約束したのに、どうして、フライパンで叩かなきゃいけないの!」とDのふるまいを咎めました。
すると、そこに、義母が「そうよ、やられないとわからないのよ! あなたが甘やかすから。」と口を挟んできました*6。
さらに、義父は、私に「お前の態度は何だ! Dのやり方に従うもんだ!」*7、「Yのふてくされた態度はお前そっくりだ! もう来るな!」と大声で怒鳴りつけました*8。
Dの実家をあとにした車中で、Dは「どうして親が怒ったのかわからない。」ととぼけていました。
私が、Dが約束を破ったことを咎めると、Dは「なにがあっても親は親! 俺に口ごたえはするな!」*9、「子どもの教育は俺のやり方でやる。それに従えないならでて行け!」*10と怒鳴りつけました。
幼いとき、母親が父親から殴られたり、大声で怒鳴られたりしていたのを見て育った私は、義父に大声で怒鳴りつけられたことは、夫から大声で怒鳴りつけられるのと違い、大きな恐怖となりました。
私は、義父に大声で怒鳴りつけられ、罵倒されたことを思いだすたびに、ドキドキと動悸が激しくなり、ガタガタと震えに襲われるようになりました。
  また、実家の帰省から戻ったDは、Dの母親宛にメールを送り、私を精神異常者扱いしていました。
しかも、「離婚して、ひとりで、子ども3人養っていくとほざいている。」と侮蔑し*11、「自分は、いま必死にがまんしている。」と訴えていました*12。
Dは、母親に、精神異常者の妻を持つかわいそうな俺を演じ、同情を得ようと目論んだのです。
  数日後、Dは、「義母が、この事件を理由に、長女Yの歯科矯正費用をださないといってきている。お前が費用をだせ!」といってきました*13。
 Dは、長女Yに「ビーバー。今日の木はうまかったか?」などと、ずっとからかってきました*14。
Dのそのからかいによって、散々、長女Yの心を傷つけておきながら、Dは、Dの母親には「なんとかしてあげないとな。」と心配するいい父親を演じていました。
Dの話を真に受け、Yを不憫に思ったDの母親は、私に「Yちゃんの歯科矯正費用を援助しようか。」といってきていたのです*15。
  私が、Dに「義母さんが、そんなことをいってくるわけがない!」と応じると、Dは、「お前が気に入らないから、金はだせない!」、「お前が金をだせ!」と非難してきました*16。
  Dは、私が離婚できないように、お金をとりあげようとしていると思いました。
*1.9.10.11 精神的暴力です。
*2.3.4 精神的暴力です。同時に、子どもに対する精神的虐待です。
*5 子どもに対する身体的虐待(暴行)です。
*6.7.8 夫の両親による詮索干渉、ことばの暴力(精神的暴力)です。同時に、DV環境下で育ってきた夫が、DV加害者となっている世代間連鎖を示すものです。「*12.15」は、夫からDV被害を受け、一方で、息子に過干渉・過保護となっていった母親と、夫(息子)との関係性を的確に示しています。
*13.16 経済的暴力です。


-事例47(面前DV8、性的虐待1・DV環境下、児童虐待と密接な関係4)-
(性暴力、性行為の強要。子どもへの性的虐待)
 夫Wは、自分がしたいときには、私の気持ちは関係なく、寝ている私を無理やり起こしてでも、性行為に及びました*1。
私が、「今日は無理。」と応じると、Wは、激怒し、暴れました。
  Wは、大声で「そのいい方がむかつく!」、「なんでお前の都合なんだ!」、「お前なんか、誰も相手にしてもらえんぞ! 俺が相手にしてやっとるんだ! ありがたいと思え!」、「なのに、なんで断られないかんのだ! 腹立つ!」と侮蔑し*2、私を蹴飛ばしました*3。
近くにあったノートパソコンを投げつけて、プリンタともども壊れたこともありました*4。
私がWを避ける態度をすると、Wは「お前みたいな女、触ってもらえるだけでもありがたいんだぞ!」と侮蔑することばを浴びせ、「なんでいつも俺からなんだ。むかつくわ!」、「女でもしたいと思うときだってあるだろ! ないなんて異常だ! お前がおかしい! 普通じゃない!」と心ないひどいことばで侮蔑しました*5。
  飲み過ぎたWが、子どもに「早く寝ろ。」というのは、これからセックスをするぞ!という合図でした。
Wは、子どもが寝かかった途端に、「おい!」と私を呼びつけ、セックスを強いました*6。
私が、「子どもが、まだ寝てない。熟睡してないから後にして。」とお願いしても、Wは、聞き入れようとはせず、大声で、「なにが後だ! 早くしろ!」と怒鳴りつけました。
その大声で、うとうとしていた子どもが起きてしまいます。
幼い子どもであっても、性行為を見せたくありません。
しかし、Wが怒り狂うのを避けるため、断ることもできず、子どもの前で*7、心をなくして、終わるのを待つしかありませんでした。
苦しく、やるせない思いでいっぱいです。
*1.6 性暴力です。
*2.5 ことばの暴力(精神的暴力)です。
*3 身体的暴力(暴行)です。
*4 物を投げつけるのは、身体的暴力です。
*7 子どもへの性的虐待です。


-事例48(面前DV9、性的虐待2・DV環境下、児童虐待と密接な関係5)-
(精神的暴力、性暴力。子どもへの性的虐待)
朝、長女Y(9歳)が、夫Dを起こしにいくと、Dは「ママがキスしてくれないと起きれない。」と応えたようです。
長女は、「ねえママ、パパとキスをしなよ!」といってきました*1。
私が、次女Aとお風呂に入っていると、「ねえママ、パパもよんで一緒に入ろうよ。」とパパを呼びに行きました*2。
DがAと一緒に浴室に入ってきました。
嫌なので、私が背中を向けていると、Dは「そんなに嫌なのか! ママは触ってもくれない。」と子どもたちのいる前で声を荒げ、非難しました*3。
きっと、Dは、娘たちに、「ママにそういうんだぞ、パパを呼びにこいよ」と仕向けたのだと思います。
その直後、Dは「お前はそっちのおっぱいをやれ!」と2歳の長男Tをけしかけ、羽交い絞め状態で、私をレイプしました*4。
それから半年、2歳の長男Tは、洗濯物を洗濯機からとりだすために屈んでいる私の臀部におちんちんを押しつけ、興奮した息づかいで腰を動かす仕草をしてきました*5。
そのとき、Tのおちんちんは硬く、勃起していました。
*1.2 子どもをコントロールして、性的接触を試みさせようとする性的虐待です。
*3 性的虐待です。
*4 性暴力です。同時に、子どもに対する性的虐待です。「*5」の2歳の長男Tの行為は、父親が、アダルトビデオ(DVD)を見させることが常態化していることを示しています。


-事例49(DV10・DV環境下、児童虐待と密接な関係6)-
(経済的暴力、精神的暴力、否定・非難)
私は、長男Tを妊娠したとき、悪阻がひどく、仕事を続けることができませんでした。
Dは、私のふるまいに気に入らないことがあると、何年も経っても、そのことを持ちだして、「お前は生活費をださなかった」と非難し、責めました*1。
私が「悪阻がひどくて働けなかったのに、払わないといけないの?!」と応じると、Dは「どんなに具合が悪くても、約束したんだから払えばいいんだ!」と非難し、責めました*2。
  Dがことあるごとに口にする「俺は下の子は望んでいなかったんだ!」ということばは*3、長男Tの出産は、「産むんだったら、お前が生活費をだせ!」が産むことの条件だったからです*4。
  Dは、私が具合が悪くて横になっていても、いったん怒りのスイッチがONになると、「いつまで具合が悪いなんていっているんだ!」、「家で1日中ぐたぐたして、誰のおかげで飯が食えていると思うんだ!」、「優しくしていれば、いい気になりやがって」と機関銃のようにまくし立てながら、非難し続けます*5。
  「誰のおかげで、…」といわれるのがいたたまれず、長男Tを預かってくれる保育園を見つけ、私が「病院にフルで働きに行かせて欲しい。」とお願いすると、Dは「いくら稼ぐつもりなんだよ!」と侮蔑しました。
それだけでなく、Dは「男でもみつけにいくつもりか? お前なら、直ぐに男をたぶらかせるだろうよ!」とまったく違う話を持ちだし、侮蔑しました*6。
Dは、私の収入が増えるのを嫌がり、フルで働くことを許しませんでした*7。
私は、渋々働くのをあきらめました。
*1.2.6 ことばの暴力(精神的暴力)です。
*3 子どもの存在を否定する、子どもに対する精神的虐待行為であり、同時に、DV環境下での子どもを利用した精神的暴力です。
*4.7 経済的暴力です。
*5 精神的暴力です。配偶者が病気に罹患したり、ケガを負ったりしたとき看病しないのは、場合によっては、「養護の放棄」となります。


-事例50(面前DV11・DV環境下、児童虐待と密接な関係7)-
(経済的暴力、労働の強要)
第2子(長男)が生まれたとき、「子どもが増えたから」と、児童手当ての振り込み先の銀行口座を、夫の銀行口座に変えさせられました*1。
私は、銀行引落しされる家賃や光熱費は別として、土日の食料のまとめ買い分代を払ってもらう以外、夫から、生活費として自由に使えるお金はもらっていませんでした*2。
そのため、日々のちょっとした買い物費用は、私が働いて払わなければなりませんでした。
  また、夫は、気に入らないことがあると、「テメーが気に入らないことをいうから(したから)、払いたくない!」と週末の買い物代をださなくなります*3。
一方で、夫は、私が、フルタイム勤務で働くことには、「育児放棄だ!」と非難して激しく抵抗し*4、「だから、お前の蓄えを使い果たしたら、生活費は出してやるといっているじゃないか!」と、私が婚姻前に貯めていた僅かな貯蓄を切り崩させようとします。
私が、夫に離婚を切りだして5ヶ月経ったころ、突然、夫は、「引っ越しをする。」といってきました*5。
「どうして、いま、引越しをするの?!」と応じた私に、夫は「家賃を半分だせ!」と迫ってきました*6。
私が「できない。」と応えると、夫は「そういうところが嫌なんだ!」と非難し*7、「黙って、だすもんをだせばいいんだ!」と怒鳴りつけました*8。
結婚し、子どもが生まれて以降、ずっと私は、夫に「いまより大きな家に引っ越したい。」と訴えてきていたので、夫は、「ありがとう」、「うれしい」ということばを待っていたのだと思います。
ところが、私が「どうして、いま?」と応じたことが、夫には気に食わなかったのだと思います。
引越し後、夫は「お前は、家賃を払わない!」と非難しました*9。
子どもたちには、「お前たちの母親は、家賃としての3万円を払っていない!」といい、母親を貶めようと目論みました*10。
そして、夫は、子どもたちを、「お前たちは、俺の家に住まわせてやっているんだぞ! 追いだされたくなかったら、俺のいうことに従え!」と脅しています*11。
*1.2.3.6.8 経済的暴力です。
*4.7.9 ことばの暴力(精神的暴力)です。
*5 自分に気持ちが向いていない、別れるつもりでいるなどと感じると、以前、広い家に引越したいとか、一軒家に住みたいとかいわれていたが、渋っていたことを持ちだして、“状況の打開”を試みることがあります。希望に添うのだから、きっと喜んでもらえて、もう一度、気持ちをぐっと引き寄せることができると目論んでいるので、意に反して、「いまさら、どうして?」という反応をされると、報われない怒りが込みあげてくることになります。
 一方で、「いまさら、どうして?」と思いながらも、都会的な広いマンションや一軒家に引越しをしてしまうと、いずれにしても「願いがかなった」ことに後ろ髪をひかれ、固まっていた家をでる気持ちが揺らぐことになり、そのまま、新居に留まってしまうことが少なくないわけです。
そういった意味で、長い間、慢性反復的(日常的)な暴力を受けていても別れる決心ができなかった被害者にとっては、有効な手段となっています。
*10 DV環境下での子どもを利用した精神的暴力です。
*11 子どもに対する精神的虐待です。


-事例51(DV12・DV環境下、児童虐待と密接な関係8)-
(子どもへの虐待、兄弟ケンカを仕掛け。責任転嫁)
長女Y(9歳)と次女A(6歳)がケンカをして、Aが泣きだしました。
しばらくすると、今度は、Yが叫び声をあげながら泣きだしてきた。
私が慌てて、子どもたちがいる寝室に行くと、長男T(2歳)が、Yの耳に噛みついていました。
私が「どうして止めさせないの!」と夫Dにいうと、「仕返しにいったんだ!」と応えました。
私が「時間が経っているから、そんなはずはない!」というと、Yが「パパが、Tにヤレっていった!」と応えました*1。
私は「あんた、何してんの! どうしてそういうことやるの! もう子どもたちもわかっているんだから、嘘いわないでよ! Aは怖くていえないけど、Yはちゃんというんだから。」とDのおこないを咎めました。
  翌日、移動中の車の中で、私は「命令したことに従うのを見て、自分の快楽のために子どもをつかわないでよ! もうやめなよ、そういうの。」と、子どもたちの前でDにいいました。
すると、Dは「毎週末に1万いくらの食品代払っているのに、何でいわれなくちゃいけないんだよ!」とピントハズレな返答で、私を非難しました*2。
金をだせば、何も文句いわれる筋合いはないということのようです。
*1 子どもをコントロールして、仕返しという罰を与える身体的虐待です。
*2 ことばの暴力(精神的暴力)です。


-事例52(DV13、性的虐待3・DV環境下、児童虐待と密接な関係9)-
(子どもへの性的虐待)
夫Dは、女の子2人と男の子1人の子どもたちに「パパのちんぽは大きい。凄い。握らせてぇ。」といわせ、自分のペニスを握らせていました*1。
おかしいとの思いはあったものの、私は、Dの怒り狂うのを避けたい思いから、「家は性にオープンなだけ」といいきかせてきました。
しかし、Dの行為が、性的虐待であることを知りました。
そして私は、Dに「止めて!」といいました。
しかしDは、「俺と子どもたちとの挨拶、コミュニケーションだ。口を挟むな!」とまったく聞き入れようとはしませんでした*2。
私が「止めて!」といったあと、Dは、2歳の長男Tにペニスを握らせているのを見せつけてきました*3。
私が、「止めてよ!」というと、その声と嫌がる姿に刺激されたのか、Dのペニスは勃起しました。
Dは勃起したペニスを平然と長男Tに握らせていました*4。
私は、その状況に驚愕し、ことばを失いました。
それから間のなくして、私は、Dが、風呂の浴槽に次女Aを座らせ、顔の位置で股を開いて洗う*5のを目撃しました。
私は、驚き、「何しているの!」というと、Dは「カスが溜まるから。」、「将来結婚する男に喜んでもらえるだろう。」と悪びれることもなく応えたのです。
その後、長女Yに訊くと、「「パパもうイヤだ」といって、いまはしていない。」と応えました*6。
そのとき、私は、Dによる子どもたちへの性的虐待が、ずっと繰り返されてきたことを知りました。
しかし、それだけではありませんでした。
Dは、お風呂では子どもたちに「パパのを洗ってくれ」とペニスを洗わせたり*7、次女Aと長男Tを入浴させているとき、お互いの性器を見せ合わせ、触れさせ合わせ、その様子を見て楽しんでいたりしたのです*8。
*1.3.4.5.6.7 重度の性的虐待です。
*2 ことばの暴力(精神的暴力)です。
*8 子どもをコントロールして、きょうだい間で性的接触を試みさせようとする性的虐待です。


 以上の事例を見てわかる通り、「面前DV=両親間のDVを目撃する」と明確に区切られるものではなく、両親間にDVのある家庭環境は、子どもにとって、ダイレクトな心理的虐待であることがわかると思います。
 と同時に、父親が、母親に対し、望まない性行為を強いるなどの性暴力がおこなわれている環境は、子どもにとっても、性的虐待行為が及んでいるなど、DVのある家庭環境は、子どもに対して、あらゆる虐待行為が及んでいることがわかります。
  こうした事実を踏まえると、DV環境にある当事者である親が自覚している以上に、「DVを目撃して暮らしている子どもが、DVの最大の被害者である」ことが理解できると思います。
2006年(平成16年)10月11日、国連事務総長の依頼により作成された「子どもに対する暴力の調査の最終報告書」が、国連に提出されました。
その報告書では、「世界の18歳未満の人口21億8千万人のうち、2億7,500万人もの子どもたちが、DVのある家庭環境に暮らしている」と推計しています。
この数は、日本の人口1億2,800万人をはるかにしのぐもので、アメリカ合衆国の人口2億9,800万人に匹敵するものです。
日本では、「女性の35-25%が、一生涯のうち一度は男性パートナーから暴力を受け、15-10%が何度も暴力を受けている」、「児童虐待の被害者の40%で、家庭内でDVがおこなわれている」、「母親が身体的暴力(DV)を受けている家庭の60%で、子どもも身体的暴力(虐待)を受けている」とされています。
北米の調査では、「暴力のある家庭環境にある子どもたちが身体的攻撃や性的攻撃を受ける可能性は、国内平均の15倍にのぼる」と報告しています。
そのDVを目撃している子ども(心理的虐待を受けている子ども)たちは、年少ほど、家庭内の暴力が非常に大きな情緒的ストレスとなり、脳の発達を阻害し、認識や感覚の発達を損なう可能性が高くなるとされています。
他人に共感する能力を失い、社会性が損なわれることもあります。
また、「いじめなど攻撃的行動やけんかにかかわる可能性が3倍にのぼる」という報告もあります。
そして、子ども時代に虐待されていた、または、母親が暴力を受けるのを見て育った子どもは、DVの加害者になったり、被害者になったりする確率は高くなるとされています。
なぜなら、幼少期からDVを目撃し、他人を支配するために暴力が使用される環境に暮らしてきたことから、その方法、つまり、どうすれば、もっとも効果的に暴力を使うことができるか、あるいは、どうすれば、暴力(危険)を回避することができるかなどを学び、身につけているからです。
つまり、子どもが暴力のある家庭環境で育つことは、人とのかかわり方について、人を支配するか、人に支配されるかという関係性しか学べない(身につけられない)ことを意味するのです。
とはいっても、「15%はその暴力を防ごうとし、6%は外部の助けを得ようとする」、「10%は積極的に暴力を止めさせようとする」という報告があるように、DVを目撃してきた子どもたちのすべてが、DVの加害者になったり、被害者になったりするわけではありません。
成人後、あらゆる種類の暴力に積極的に反対する行動に参加している人もいます。
つまり、DVを目撃してきた子どもたちの1/3は、DVの加害者や被害者にならないように努力する一方で、2/3の子どもたちは、将来、DVの加害者や被害者になる可能性は拭えないと解釈するのが現実的です。
暴力のある家庭環境では、子どもは、本来対等である男女(交際、結婚による夫婦)の関係性、つまり、お互いの価値観、考えや意見や尊重する基礎となるお互いを敬い、慈しみ、労わるといった考え方を学び、身につけることができず、逆に、パワー(力)の行使により、上下の関係性や支配と従属の関係性を成り立たせる、その関係性は変えることができない不変のものであるという価値観を学び、身につけることになります。
つまり、暴力のある環境に順応する術を学び、身につけてしまうことになります。
「お前が、~をしなかったから殴ったんだ!」、「お前が、いつも同じ間違いをするから怒鳴ったんだ!」など、夫婦間で、“一定の条件下”であれば、暴力を正当化させようとする都合のいい考え方を受け入れてしまうことは、その家庭環境下で育つ子どももまた、“一定の条件下”で暴力を正当化させてしまう都合のいい考え方を学び、身につけていくことを意味します。
子どもの親として、暴力のある家庭環境下で子どもを育てるリスクを認識することは、“一定の条件下”で暴力を正当化してしまう都合のいい考え方を容認しない、つまり、暴力を容認しない考え方(知識)を身につけることに他ならないのです。
  “一定の条件下”での暴力を容認しない考え方に立つことで、「配偶者による暴力、交際相手による暴力は、おこなう者にすべての非がある」と認識できるようになります。

② 行為は同じ。ことばが置き換えられ、正当化される親からの虐待
最近、「毒親*-39」「重い親」ということばが使われるようになってきました。
この「毒親」「重い親」は、親子の関係性に、パワー(力)を行使し支配する親ということです。
つまり、子どもに対し、パワー(力)を持って支配する親の言動やふるまいは、暴力(虐待)行為ということになります。
この暴力(虐待)行為で、日本社会全体で認識されていないのが、a)親の子どもへの「過干渉」や「過保護」、b)親の子どもへの「いき過ぎた教育(教育的虐待)」、c)親の子どもへの「厳しいしつけ*-40」です。
これらの親の暴力(虐待)行為は、「児童虐待防止法」の虐待分類として、明確に表記されていません。
しかし、a)親の子どもへの「過干渉」や「過保護」は、否定と禁止のことばで、子どもの行為を支持したり、詮索したり、制限したりすることから、「心理的虐待」に該当する行為です。
b)子どもの将来のため、教育熱心という名の下で正当化されかねない親の子どもへの「いき過ぎた教育(教育的虐待)」は、親の期待した結果を伴わないとき、激しく怒鳴りつけたり、楽しみにしていることを禁止するなどの罰を与えたり、殴る・蹴るなど体罰を与えたりすることは、「心理的虐待」に加え、「身体的虐待(暴行)」に該当する行為です。

-事例53(虐待2・DV環境下、児童虐待と密接な関係10)-
(子どもへのいき過ぎた教育(教育的虐待))
 夫Dは、「子どもは、怖がらせてでもいうことをきかせればいいんだ!」と公言します*1。
  休日、ドリルをしている小4長女Yに「テメーなにやっているんだ! こんな問題もできないのか! 字を読めるの?」と罵声を浴びせ*2、「勉強ができなければ家の子どもじゃない。帰ってくるな!」と大声で怒鳴りつけ*3、「いまは貧富の差が激しい。勉強ができなければ負け組みになるんだ。俺にとっては、負け組みが増えるのは嬉しいけどな!」といい放つ始末です*4。
  その長女Yは、幼児のころからゲームで負けるのがわかってくると、ぐちゃぐちゃにしてしまったり、3-4歳のころには、ワンマンで自分中心なところが、父親にそっくりと気づいていました*5。
そして、長女Yは、幼稚園のとき、「私には厳しくて怖いパパが、家に遊びにくる友だちにはすごく優しい。」と話し*6、小学校1-2年時は保健室の常連で*7、父親Dが怪獣に食べられる夢を見ています*8。
小学校3-4年時では、10円台の禿ができたり*9、起立性めまいの症状がみられ*10、叱られるとふるえたり*11、ガクッと落ちるように体がだらけだすようになり*12、私に、「パパに怒られると心臓がドキドキして痛い。」と訴える*13ようになりました。
  私が、長女Yの円形脱毛症や起立性めまいの症状がでていることを、Dに「Yの様子がおかしい」と訴えても、Dは「お前の育て方が悪いんだ!」と非難し*14、続けて、「ヤツはプレッシャーに弱いな。」と吐き捨てました。
  その長女Yは、4年生に進級しました。
夏休みに入る前の担任との面談で、私は、担任から「お父さんは厳しい人なんですね。いま、塾でいっぱいいっぱいみたいです。塾のある日の5-6時間目になると態度でわかる。」と指摘され、「無理しないで、勉強にガチガチにしないで1つ減らすことはできませんか?」と改善を促されました。
  家に帰り、私は、Dに担任からの話を伝えると、長女Yに向かって「じゃ、止めちまえ!」、「どうせ、成績が悪いからやりたくないんだろう。バカ!」と罵声を浴びせました*15。
長女Yは、「バカといわれた。成績が悪いといわれた。」と部屋で泣いていましたが、しばらくすると、父親Dのところに行き、「ねえパパ、やっぱり勉強しないとダメだよね」と媚びていました*16。
すると、Dは、「そうだろ。止めるの不安だろ!」と不安を煽り*17、続けて、「努力しない子には、将来何も援助しないからな!」と脅していました*18。
寝る前に、私が、長女Yに「止めていいんだよ。成績が悪くなったら、ママを責めたらいいんだから」となげかけても、長女Yは「パパは勉強しないと将来援助しないんだって・・。そういっていた。」と応じました。
  そして、翌日長女Yは、担任に「やっぱりパパのことがあるから止められない」と応えました*19。
*1.3.4 子どもへのいき過ぎた教育(教育的虐待)です。
*2.15 子どもへの精神的虐待です。
*5.6.7.8.9.10.11.12.13 虐待(親からの抑圧)によるストレスが、心身に表れていることを示しています。同時に、虐待被害のサインとなるものです。
 DV環境下にある子どもの心身症については、「Ⅱ- -(3)ツラさを体調不良で訴える」で説明しています。
*14 ことばの暴力(精神的暴力)です。
*17.18 子どもの不安を煽り、恐怖を持って、親の意に添うようにふるまわせるマインドコントロール性の高い言動です。「*16.19」の長女Yの行動は、父親に嫌われない(見捨てられない)ために、親の期待に必死に応えようとしているもので、長女Yは、既に、自分を生きていない状態です。


勉強ができないことに関して厳しすぎる態度をとったり、子どもの要求やニーズを無視した一方的な教育を押しつけたり、きょうだいと比較し、著しい差をつけたりするなど、子どもを追い詰めるように教育を強いるふるまいは、いき過ぎた教育、つまり、「教育的虐待」となります。
場合によっては、いき過ぎた早期教育や英才教育も教育的虐待になります。
重要なことは、児童虐待の判断基準は、親のいい分ではなく、「子どもにとってどうか」という認識に立つことです。
つまり、親のいい分が「将来的に子どものためになる」であっても、子どもがツラく苦しいと強いストレスを感じている(葛藤している)ときには、それは虐待行為になります。
また、家庭内にDVがあったり、家庭内に絶対君主的な存在(配偶者だけでなく、祖父母などを含む)があったりして、そのDV加害者や絶対君主的な存在が、「厳しいしつけ」と称する“体罰(暴行)”を加えることをいとわないことがあります。
このとき、DV被害者や絶対君主的な存在に従うしかない弱い立場の者が、厳しいしつけと称する体罰(暴行)を加えられているわが子に、「あなた(お前)のことを思ってのことだから、ちゃんとしようね(もっと頑張ろうね)」とのことばを伴って慰めたり、励ましたりしていることがあります。
  問題は、こうした状況下における親の慰めや励ましのことばは、子どもにとっては、がまんすること、耐えることを“強いる(命じる)ことば”でしかないということです。
  助けて欲しい唯一の存在であるとき、こうした慰めたり、励ましたりすることばは、子どもに無力感や絶望感を抱かせ、子どもを追い詰めていくことになりかねない行為です。
一方で、親の「あなた(お前)のことを思って」ということばで容認される暴力を学ばせ、身につけさせていくのです。
  こうした「あなた(お前)のことを思って加えられる暴力」は、親に愛されている証である“正しいおこない”という間違った認識(歪んだ認知、歪んだ考え方の癖)を身にさせることを意味します。
  この事例53の長女Y(9歳)は、「ねえパパ、やっぱり勉強しないとダメだよね」と父親にすり寄っているように、暴力のある家庭で育つ子どもは、被虐待者として、母親のように暴力をふるわれないように父親の顔色をうかがい、ご機嫌をとるようになります。
  長女Yより小さな幼児期の子どもは、「パパ大好き」を演じ、すり寄る(媚びる)ことで、暴力を回避できることを体験として学び、身につけていきます。
  しかも、乳幼児期の子どもは、自己と他者の境界線があいまい(幼いほど同一化している)であることから、母親が殴られたり、怒鳴られたり、罵られたりすることを、自分が殴られ、自分が怒鳴られ、自分が罵られていると受けとってしまい、その恐怖を回避することに多くのエネルギーを費やす、つまり、そのことだけに頭を使うことになります。
その結果、親にとって都合のいい従順な子として育ち、被虐待者症候群、AC(アダルト・チルドレン)など心のトラブルを抱えることになります。
さらに、親の意図する期待に反する悪いコトをしたら、罰として暴力(体罰)を受けなければならない、「ウチはそうなんだ」と思い込まされていきます。
その結果、社会的なルールよりも家庭内のルールが優先されることになるのです。
しかし、「厳しいしつけ」「いき過ぎた教育」という行為は、社会からは虐待行為であるとは認識はされず、逆に、美徳として扱われるなど、日本社会の慣習として見過ごされてきました。
その日本社会の風土は、脳にはしっかり傷を残すものの体に見える傷を残さない心理的虐待であっても、当事者である子ども自身が、「どこの家庭も同じ」「これが普通」と感じさせています。
親の「お前の将来のために」ということばだけでなく、教師などの近しい大人の「きっと、あなたのことを思って」というこどばも、“非”は子どもの方にあるということばの誘導に他ならないことになります。
こうした大人の誘導により、子どもの心には、「自分が悪いから怒鳴られた(殴られた)」との考え方がすり込まれていきます。
その結果、子どもは、自分が虐待を受けて育ったという事実認識に辿りつくことが困難になります。
そのため、低い自己肯定感、生き難さの原因がわからず、ひとり葛藤に苦しむことになります。
過干渉や過保護、そして、いき過ぎた教育(教育的虐待)で子どもを支配する親は、倫理的で、コミュニケーション能力があり、教育熱心で、経済的に余裕があるという“ポジティブ”な特徴を有しています。
子どもが、こうした親の期待に応えられないとき、「悪いのは自分だ」、「自分は、立派な親の子どもである資格がない(存在価値がない)」と自己を否定しながら育ちます。
自己肯定できずに成長した人に共通するのは、「イライラして感情のコントロールができない」、「自分に自信が持てない」、「イヤなのに断れない」、「モヤモヤして、やりたいことができない」、「不安でたまらない」と口にすることです。
こうした自尊感情や自己肯定感の低さに起因することばは、親の養育のあり方の問題なのです。
自尊感情や自己肯定感の低さを示す人たちの親の特徴は、①自分は正しいと思い込んでいたり、②毒舌や罵倒で子どもを傷つけたり、③子どもがトラブルをおこすと悲観的になり、悲劇のヒロインのようにツラそうにふるまったり、④思い通りにならないことがあると過剰に反応して周囲を巻き込んだり、⑤かいがいしく献身するという名の下で子どもを支配したり(過干渉・過保護)、⑥「子どものやりたいように、自由にさせてきた」ということばを伴う無責任な放任主義であったりすることです。
  親のいき過ぎた教育(教育的虐待)、厳しいしつけ、過干渉・過保護という“見え難い”問題は、「Ⅱ-18-(1)「キレる17歳」、理由なき犯罪世代」「同-(2)アタッチメントを損ない、抑圧がもたらした凄惨な殺害事件」の中でとり扱っている事例218-232のような凄惨な殺害行為に及ぶ者のはごく少数であるものの、こうした行為に及ばせてしまう“心の闇”をつくってしまう要因となるのです。
つまり、いき過ぎた教育、厳しいしつけ、過干渉・過保護という行為は、子どもの自己肯定感を奪い(自己否定感の高い子どもにさせ)、人とのかかわりに支障をきたしたり、善悪の判断などの認知を歪ませたりするなど、子どもの将来に多くの問題を抱えさせることになります。
親の抑圧、つまり、親の期待に応えられない子どもの悲鳴は、早いときは児童期、遅くは受験の失敗など大きな挫折がきっかけとなる思春期後期-青年期中期に心と体に表れます。
子どもの日常行動に異変が見られたり、チック症状が表れたり、精神的に変調をきたしたり、暴力的になったりするのは、「助けて欲しい!」という子どもの心の悲鳴です。
この子どもの「助けて!」のサインを見逃さないことが重要です*-41。
一方で、一見、挫折を味わっていないように見えても、親の抑圧が、成人後の人生に大きな影響を及ぼしていることが少なくありません。
そのひとつが、親に期待され、希望した学校(中学校、高等学校、大学)に進学し、親の望んだ職業に就きながらも、ずっと「本当は違うことがしたかった」との思いを秘めているケースです。
この思いは、親に抑圧され続けてきた怒りの感情に他ならず、教師などの大人、友人や同僚、上司や部下、そして、交際相手や配偶者からの何気ないひとことが、抱え込んできた思いに触れとき、これまで溜め込んできた怒りの感情があふれだしてきます。
こうした事態は、予期していない中で、突然、表れます。
ときに、抑圧されてきた怒りの感情は、教師などの大人、友人や同僚、上司や部下、そして、交際相手や配偶者に対するコントロールできない暴力となることがあります。
暴力のある用家庭環境、DV環境下で育った子どもが抱える心の問題については、別途、「Ⅰ-9-(5)面前DV、DV環境下で育つ子どもに表れる症状と傾向」の中で27の事例(事例145-170)をとりあげ、DV環境下、子どもに及ぼす後遺症を紹介しています。
面前DV=子どもが、両親間の暴力を目撃することが導く結果、それは、子どもがDVの最大の被害者と認識しなければならないという意味を理解していただけると思います。
*-39 「毒親」という用語は、スーザン・フォワード著『毒になる親 一生苦しむ子供』に由来しています。
*-40 厳しいしつけの「厳しい」の意味は、①厳格で少しの緩みも許さない、厳重である、②いいかげんな対処が許されない、困難が多くて大変、③物事の状態が緊張・緊迫している、④すきまがなく密である、などです。
  つまり、厳しいしつけとは、①厳格で、子どもに少しの緩みも許さないしつけ、②子どもにいい加減な対処を許されないしつけ、③緊張・緊迫状態下でおこなわれるしつけ、④子どもに逃げ道(親と異なる考えや行為)がないほど関係が密な中でおこなわれるしつけということになります。
①-④に準じて捉えると、親のため、つまり、親に逆らわない、親の指示に従わせる、親が恥をかかないための行為、加えて、他者から親が評価を受ける(ほめられる、称賛を受ける)ための行為であることがわかります。
 「厳しさ」を理解するうえで、根底となる概念は、「Ⅰ-1-(1)DVの本質。暴力で支配されるということ」の中で、『中高大学生向けの「デートDV講座」では、必ず「愛と束縛は違う」ということを教えます。』と記しているとおり、「束縛」する行為と「愛情」を示す行為の違いを理解していることです。
*-41 「子どもの“助けて”のサインを見逃さない」ことは、「子どもの“助けて”のサインに気づく」ということですが、子どもが直接ことばにだせない“助けて”のサインに気づくためには、子どもの心身の状態、その心身の状態に深くかかわる家庭、親との関係性についての見極めが必要になります。
  この“見極め”に大きな影響を及ぼすのが、その人の考え、価値観です。
  つまり、家庭内における暴力行為をどのように捉えているかに大きく左右されるということです。
  子どもが心身の不調なので、心の悲鳴を発信している状態については、「Ⅰ-9-(5)面前DV、DV環境下で育つ子どもに表れる症状と傾向-子どもがDVの最大の被害者と認識しなければならない意味-」、「同-(6)子どものSOS(発信するサイン)を見逃さない」でとりあげています。



(5) 社会的隔離(精神的暴力に含まれます)**
テレビやインターネット、携帯電話などの使用を禁止する(制限する)  交友関係に口を挟んだり、友人や家族の間に不和の種を蒔き、対立させる  妻が里帰りするのを許さなかったり、制限する  「どこに、誰と行くんだ」と人に会うことや、「どこで、誰と、なにをしていたんだ」と外出していたことに詮索し、干渉する。また、「~さんは、お前にいい影響を与えないと思う。あまり会わない方がいいんじゃないか」と交友関係に詮索し、干渉する**12  退勤時間に迎えにきていたり、出張の送り迎えをしたり家と会社との通勤時間さえ干渉する(行動を監視したりする)…etc

ことあるごとに「どこに、誰と行くんだ」とか、「どこで、誰と、なにをしていたんだ」と詮索され、干渉されていると、不機嫌さをあらわにされる煩わしい時間を避けようとし、結果として、外出をしなくなる状況が意図的につくられていきます。
外との接触を断ち、孤立させることによって、「お前には俺しかいない」、「お前が頼れるのは俺だけだ」という状況をつくりあげていこうとします。
なぜなら、嫉妬深く、詮索・干渉し、束縛する傾向が強い場合、妻が自分の知らない妻だけの世界を持つことを許さないのです。
また、外出している間、家捜しをし、手紙や手帳を見たり勝手に処分したり(とりあげ、隠し持っていたり)し、それをもとに問いただし、激しい暴力に発展することが考えられます。

-事例54(DV34・詮索干渉、ことばの暴力)-
(詮索干渉、束縛。ことばの暴力、非難)
  喫茶店で、同業者同士の会合が開かれたとき、私と夫Mは同じテーブルになりました。
  特に親密でないのに、Mが「以前に、(私を)見かけたことがあり、一目ぼれをした。」と話したので、私はとても驚きました。
  しばらくすると、私は、Mと営業先で偶然会い、挨拶をしました。
また次の営業先でも、Mに偶然会い、少し会話をしました。
しばらくして、私は、会社の人から飲み会に誘われました。
その飲み会に、Mがきていました。
その飲み会は、私の会社の人に、Mが「(私を)誘うように。」と頼んで開かれたものでした。
Mが「送るから」と申しでて、私は夫に送ってもらいました。
別れる前に、次のデートの約束をし、交際がスタートしました。
  交際がはじまると、私は、Mに対し、「いま、どこにいます」、「いま、家に着きました」、「いまから寝ます」と1日に何度も“報告”の電話をしなければなりませんでした。
Mが無職のときは、夫は、毎日、私の会社へ迎えに来ました。
また、私の会社で飲み会があるときは、Mは、必ずその場所まで迎えに来ました。
仕事が休みの日に、美容室の予約を入れたり、友人とのお茶や食事の約束を入れたりすると、Mは、大きな声で「俺とどっちが大切か?!」と威圧的に迫りました。
私は「Mの方が大事だよ。」と応えるしかなく、やむなく予約をとり消したり、約束を断ったりしなければなりませんでした。

** 事例54以外の「社会的隔離(精神的暴力)」に関する事例については、「Ⅰ-6-(5)パラノイア(偏執病、被愛妄想)」にてとりあげます。


(6) 経済的暴力**
給料明細を見せない  収入や財産がどれくらいあるかを知らせない  生活費をわたさない**13  働きにでることを許さない**14  妻の買い物はなんでも許可を必要とするが、自分のモノには大枚をはたく  自分の借金の肩代わりをさせる  女性やギャンブル、酒などに生活費を使い込む  働くことを強要する**15…etc

  生活費をわたさない(**13)行為には、主に、3つの意味があります。
  第1は、夫婦が助け合い、生活を営むという概念そのものが存在していない者による行為で、ここには、自分の稼いだ金はすべて自分の金という考え方と、自分は働かず、働かせた金で面白おかしく遊んで暮らすという考え方が含まれます。
  第2は、配偶者が、自分から離れられない(逃げられない)ようにするには、生活費をわたさない、つまり、自由に使える金を持たせないことが有効だからです。
  ここには、婚姻前にある程度の金額を貯蓄しているときには、生活費をわたさず、貯蓄で生活費を賄わせることで、自由に使えるお金を奪っていく明確な意図が働いていることがあります。
結婚と同時に、専業主婦になるよう仕向けたり、妊娠させ育児に専念させたりすることで、妻を家に縛りつけようとします。
  女性を“家”に縛りつけておくうえで最も有効な手段が、子どもを妊娠させ、育児に専念させることです。
  第3は、自分に逆らったり、いうことをきかなかったりしたときの“罰”・“懲らしめ”として、生活費をわたさず、経済的に締めつける(傷めつける)行為です。
  俺には、それだけの力があることを示すとともに、同時に、「お前には俺しかいない」、「お前が頼れるのは俺だけだ」という状況をつくりあげていきます。
激しい暴力が続き、ツラそうな姿を見せる妻に、「離婚させてはなるものか」との思いが強ければ強いほど、妻の自立基盤を奪おうとします。
妻の自立基盤を奪うために、DV加害者は、「早く親に孫(跡取り)の顔をみせてやろう」となげかけ、また、暴力に耐えられないと気持ちが離れかけていると察すると、「一人ではかわいそうだ。弟か妹か欲しがっている」とか、「お前が欲しがっていた家(マンション)を買おう」、「もう少し広いところに引っ越そう」となげかけます。
一方で、なかなか妊娠しないと、「なぜ、妊娠しないんだ!」と厳しく糾弾され、体調が優れなくとも、疲れてヘトヘトであっても、妊娠するまで毎日セックスを強いられることになります(性暴力)。
ところが、妊娠すると、あれほど子どもを欲しがっていたはずの夫は、妻が妊娠すると、自身への尽くし方に変化がみられると苛立ちをみせはじめます。
妊娠・出産して関係性の変化により、苛立ちが顕著になるときは、「Ⅰ-4-(5)-①自己正当化型ADHD」「同-②アスペルガー症候群」に記しているように、障害の特性にもとづく行為の可能性が高くなります。

出産のためのお金であっても、自分が自由にできたお金に変化が生じる、つまり、これまでと変わらない収入額から新たに出産・育児を賄わなければならなくなるという変化に対応しなければならない状況を受け入れようとはしません。
そのため、出産・育児に必要な費用をだすことを渋ったり、だすことを拒んだりします。
出産が近づく中で、お金のことを持ちだすと激しく憤り、暴力をふるうことになります。
  そして、あれほど子どもを欲しがっていたはずの夫は、妻が妊娠すると、自身への尽くし方に変化がみられると苛立ちをみせはじめます。
さらに、出産のためのお金が必要になることは、自分が自由にできたお金が削られることが許せず、必要な費用をだすことを渋ったり、だすことを拒んだりします。
出産が近づく中で、お金のことを持ちだすと激しく憤り、暴力をふるうことになります。
これは、自分の財産が脅かされる、もしくは、奪われると認識するからです。
その結果、生まれてくる子どもの服など出産にかかわるお金を親に頼らざるをえなくなったり、友人や親戚の子どものおさがりを送ってもらったりしながら、なんとかやり繰りをしていく生活を強いられることになります。
子どもが生まれたり、増えたりしても、生活費として家に入れるお金は変えず、自分の自由にできるお金を変えないことを最優先に考えることから、生活は苦しくなり、切り詰めるだけ切り詰める生活を強いられることになります。
また、「誰のおかげで飯が食えていると思うんだ!」といったことばを浴びせることで、うかがいを立てなければ、自由に買い物もできない状態に追い込んでいく行為は、経済的暴力・精神的暴力です。

-事例55(DV35・経済的暴力1)-
(経済的暴力、浪費、労働の強要)
生活費は、Sが管理しました*1。
私の給与は24万円で、夫Sの給与は32万円でした。
Sは、家賃12万円の他、生活費として10万円を入れ、残りの10万円を自由に使いました。
Sからもらう生活費としての10万円で、高熱水道費、携帯代、社会保険料など約5万円を支払うと、食費など生活費に使えるのは、5-6万円程度でした。
Sは帰宅して冷蔵庫を開け、料理で余った野菜の残りなど厳しくチェックし、「食費の無駄遣いだ!」、「ビールが揃っていない」と私を非難し、責めました*2。
Sは「月に1回は外食をしたい」といいました。
1万円以上の高価な食事代についても、光熱水道費など生活費としてわたされた10万円、実質5-6万円で賄わなければなりませんでした*3。
足りない生活費は、私の母が援助してくれました。
そして、肉などの食材は、毎週、私の実家でもらっていました。
一方で、Sが毎日飲むビールなどの酒代は2-3万円を超え、発泡酒は口に合わないという理由で、1日あたり、エビスやプレミアムモルツの500ml缶を2—3本ずつ、それに加えてサラミなどのつまみを買っていました。
休日前は5-6本ビールを飲み、缶が家に転がっていました。
私の仕事は、Sが飲み散らかしたビール缶など片づけることでした。
また、Sは、1本3万円もするゴルフクラブと数万円するキャリーバッグを買い揃え、月1回後輩とゴルフラウンドに行くなど浪費を重ねました。
Sは、結婚するとき、数年分の税金や国民年金を滞納しており、差し押さえの通知が届いていました。
浪費家のSには、預金はなく、私の預金(特有財産)から滞納してきた費用20万円を支払っていました*4。
Sは、税金など支払わなければならない分を予めとっておくことができず、手元にあるお金はすべて使い切ってしまいます。
私は、衣類はほとんど買うことができませんでした*5。
子どもが生まれてくることを踏まえ節約し、預金をしたくとも、Sは節約に協力せず、生活が成り立ちませんでした。
  私は、出産直前まで働いていました。
光熱水道費、携帯代などを支払ったあとに残る5-6万円で生活費を賄わなければならないので、哺乳瓶やミルクなどはアマゾンで買うなどしていましたが、長男の衣類を買うことができませんでした*6。
私の両親が、長男の洋服を買い、宅配便で送ってくれていました。
私が必死に生活費をやり繰りをしている中で、Sは10万円ほど自由にできるお金があっても、「生活費が足りない。」といってきました。
そして、Sは、産後2ヶ月の私に、「アルバイトにでろ。」と信じられないことを口にし、私に働きにでることを強いました*7。
*1 詮索干渉、束縛(支配)です。
*2 ことばの暴力(精神的暴力)です。
*3.4.5.6.7 経済的暴力です。


** 事例55以外の「経済的暴力」に関する事例については、「Ⅰ-3-(4)子ども利用した精神的暴力」、「Ⅰ-6-(1)-①自己正当化型ADHD」「同-②アスペルガー症候群」にてとりあげます。


(7) 離婚調停申立書「動機欄」の13項目とDVとの相関性
 夫婦関係調整(離婚)調停を家庭裁判所に申立てるとき、家庭裁判所は、申立書を用意しています。
その申立書の「申立ての動機欄」には、13の項目が記載されています。
そこで、「申立ての動機欄」に記載されている13項目と先の「配偶者暴力防止法」に規定されているDV行為との相関性を見て見たいと思います。
「3.暴力をふるう」は身体的暴力、「8.精神的に虐待する」「13.その他(束縛する・育児に協力しない・子どもを乱暴に扱う)」は精神的暴力、子どもへの虐待、「3.異性関係」は性的暴力、「12.生活費を渡さない」「6.浪費する」は経済的暴力ということになり、13項目のうち6項目はDV行為に関係しています。
  また、妻の離婚理由として1-10位までを見てみると、1位の「性格が合わない」は、抽象的な表現となっています。
問題は、この理由を持って離婚したいときには、夫婦間の協議離婚(夫婦の話し合い)で合意できなければ、離婚調停を家庭裁判所に申立てることになるということです。
離婚調停を申立てることが、なぜ問題かというと、「性格が合わない」ということが、夫婦関係を破綻させた重大な原因であり、修復する可能性がないことを証明(立証)しなければならないからです。
一方で、2位-10位までの離婚理由は、「夫婦間で、具体的にどのようなことが合わないのか」が不明確であるのと違い明確です。
2位は「暴力(身体的な暴行)をふるう」です。
婚姻破綻の原因である以前に、身体的な暴力(暴行)は、暴行・傷害罪で立件される可能性のある犯罪行為です。
夫婦間で「暴行」がおこなわれいるときには、身の安全を確保することを優先させ、安全が担保されている状況下で離婚調停を進めることが大切です。
3位の「生活費を渡さない」は、経済的暴力になりますので、2位の身体的な暴行とともにDV行為ということになります。
4位の「精神的に虐待する」は、ことばの暴力(精神的な暴力)ですからDV行為です。
5位の「異性関係」は、女性関係が不特定多数であったり、愛人に子どもを設けたり、風俗などに通ったりするなども性暴力としてDVに該当します。
不特定多数の性行為時に避妊具を使用しないことは、性病に罹患するリスクがあり、夫婦間の性行為において、性病に罹患させられたときには傷害罪(HIV感染者のときには殺人罪)が適用されることもあります。
6位は「浪費する」で、ギャンブルに入れ込んだり、遊興や趣味に散財したり、贅沢品や洋服などを必要以上に購入したりする行為が含まれます。
家庭の家計を顧みず、日々の生活に支障がでるような浪費や散財がおこなわれているのであれば、3位の「生活費を渡さない」と同じ経済的暴力ということになり、DV行為に該当します。
7位の「家庭を捨てて省みない」は、毎日飲んで帰ってくる、子どもの面倒をまったくみない、仕事をできない理由がないのに仕事をしようとしないなど、健全な結婚生活を続けることが困難だと思われる状況が該当します。
このとき、①飲んで帰ってきて大声で怒鳴りつけたり、罵倒したりするのであれば「精神的暴力(ことばの暴力)」になり、②「仕事をして欲しい」との訴えに激怒して、暴行を加えたときには、「身体的暴力(暴行)」になり、③「少しは子どものことを見てほしい」の訴えに、不機嫌になったり、無視したり、子どもが乳幼児で手がかかるときに、休日にひとりで遊びに行ってしまったりするのは「精神的暴力」になり、また、仕事をしないのは「経済的暴力」になるように、DV行為と深くかかわるテーマです。
8位の「異常性格」の中には、日常生活に支障を及ぼす重度の統合失調症(精神分裂病)、双極性障害(躁うつ病)などの精神疾患の発症などが想定されていますが、「極度のマザコン(マザーコンプレックス)」も該当すると解釈できます。
極度のマザーコンプレックスとは、裏返せば、親の過干渉や過保護、いき過ぎた教育という“支配”のための暴力を受けて育ってきて、いまだに親の支配下にある状況を意味します。
そのため、「親のいうなり」、「親の指示(同意)がなければなにも決められない」などと不満が溜まったり、あまりにもひどいと感じたときには、“異常”と認識してしまったりすることになります。
それだけでなく、妻が、母親がしてくれていたとおりにできないと「母親はこうだった。なぜ、お前はできないんだ!」と母親と比べて否定したり、非難・批判したり、侮蔑したり、卑下したりすることばの暴力を浴びせるなど、精神的虐待(暴力)がおこなわれたり、「しつけ直し」と称した(自身の行為を正当化する)殴る蹴るといった身体的な暴行が加えられたりする事態を招くことも少なくありません。
「しつけ直し」とは、「僕は本当は殴りたくないんだ! でも、君が僕を傷つけたんだから仕方ない。僕は君に変わってほしいだけなんだ!」という理屈で加えられる暴力行為です。
また、事例30のように、実家に帰省したとき、親の前で、妻が自分の意見や考えを口にしたのを発端に、「俺に恥をかかせやがって!」とDV行為の引き金になることも少なくありません。
こうした状況下でのDVは、夫婦内で解決しようとしても、絶対君主として君臨している父親(義父)、一見、好意的に耳を傾けてくれているようであっても、「息子は悪くない」という前提で後始末(尻拭い)役を買ってでてくる母親(義母)によって、事態が複雑化していきます。
しかも、息子が精神的な問題を自覚していても、その事実を認められない母親には、息子の生贄としての妻をあてがっておきたい心理が潜んでいるときもあります。
なぜなら、息子の暴力的な言動やふるまいに恐怖を感じていて、自分に向かう怖れを回避したいからです。
そのときの母親は、主に2つの回避行動を示します。
ひとつは、息子の機嫌を損ねず、怒りださないための方法を伝授するなど、「あなたが変わることで、夫婦関係は継続できる」といい含めることです。
その結果、「私はあなたの味方である」ことを装う姑と、その姑を頼りにする嫁という構図の新たな関係が構築されます。
もうひとつは、「息子は、母親思いの優しい子で、これまで、暴力的な行為におよんだことはない。」、「あなたと結婚してから息子は変わった! あなたに問題がある」と非難したり、侮蔑したり(以上、ことばにださなくとも、無視するなど態度やふるまいで感じることを含む)することで、息子に従順である姿勢を見せることです。
「しつけのいき届いていない」息子の妻を、息子との“共通の敵”という位置づけの関係が構築されます。
このとき、家の嫁としてふさわしくなるための「嫁のしつけ直しをする」役割の主体が、息子から母親にバトンタッチされるときがあります。
その結果、妻は、義母に対して強い反発心や怒りの感情を示すようになり、夫のDV問題が、嫁と姑の問題にすり替わってしまうことがあります。
9位の「酒を飲み過ぎる」は、7位の「家庭を顧みない」の毎日のように飲み歩いて泥酔して帰宅する、家庭内でも家計に負担を与えるほど飲むことと重なります。
また、飲むと暴れる、いわゆる「酒乱」による暴言や暴行に至っているときには、DV行為そのものです。
ただし、アルコール依存症=“酒乱”ではなく、アルコール依存症にもとづくDV(身体的な暴行)は8%程度とされています。
10位の「性的不調和」は、セックスレスが想定されていますが、望まない性行為を強要されたり、特異な性的嗜好を強要されたりする行為も含まれます。
これらの行為は性暴力そのものですから、DV行為ということになります。
  以上のように、妻が離婚理由としてあげている上位10(1位は不明確なので対象外)は、すべてDVに含まれる行為ということになります。
しかし、離婚をした女性の多くが、DVを2位の「暴力(身体的な暴行)をふるう」としか認識していないのです。
そして、DVやモラルハラスメントということばを知っている人であっても、4位の「精神的に虐待する」をDVと認識している人は少数です。
このことは、そのまま社会的認知を示しているといえます。


(8) 外国籍のDV被害者特有の問題
 DV加害者から被害者が一時的に逃れるための制度となる「一時保護」を利用した被害女性のうち、外国籍の女性は8.6%にのぼります。
外国籍女性のDV被害は、結婚紹介所(ブローカー)を介して嫁いできているケースも多く、夫婦間にパワーバランスの差があったり、夫が妻を「家事の使用人」「家業の労働力」としかみていなかったりしています。
  外国籍のDV被害者特有の問題は、第1に、在留資格の問題です。
外国籍のDV被害者の配偶者が日本人であるとき、配偶者ビザは、日本人の配偶者の協力がないと延長することができません。
そのため、在留資格の更新をエサに、加害者が被害者を従わせたり、逃げられなくしたりしてことがあります。
また、日本国籍を取得していたり、外国籍であったも永住権を持っていたりする子どもがいるときには、子どもの養育者として定住ビザを取得することができるケースが多いものの、そういった術を持っていない外国籍の被害女性にとっては、加害者のもとから逃げることができたとしても、日本で暮らすことは非常に難しくなります。
  第2は、先に記しているとおり、情報へのアクセスの問題です。
外国籍のDV被害者の中には、日本語が不慣れなために情報にアクセスすることが難しく、DV被害を受けていても、どこに、どのように相談をしたらいいのかわからないケースが少なくないのです。
日本で、同国人のコミュニティの中で生活している人は、情報へのアクセスが比較的容易であっても、そうでない人は孤立しやすくなっています。
外国籍DV被害者のことばの問題は、加えて、日本人の加害者のもとを離れたとしても、日本語に不慣れであるとき、仕事に就くことは容易でないことから、生活苦に陥ってしまうリスクも高くなります。
このことが、加害者の被害者に対する脅しの材料となったり、加害者のもとから逃れるのを躊躇し、思い留まる要因となったりします。
  第3に、DV加害者である父親が、母と子どものコミュニケーションの補助を担っている家庭では、父親が役所や学校の手続きをしてきていることが少なくないことから、子どもを連れて家をでたあと、外国籍の母親がこういった手続きすべてをやらなければならなくなりことが、家をでる高い障壁(ハードル)となってしまいます。
  この他の問題としては、DV加害者の父親が、母親の母国の文化や習慣に対し、日常的に侮蔑したり、卑下したりする言動や態度を示してきているときには、子どもがは、母親の文化や習慣に劣等感を抱いているケースが少なくないということです。
加えて、学校の同級生や学校の教職員が母親の所属している文化を、どのように捉え、どのように扱うかを見ていく中で、子ども自身は、そういった態度を吸収してしまい、母親に対する言動や態度となって表れることがあります。
そのため、外国籍の被害女性の母親と子どもの関係を密にしていかないといけない大変な時期にコミュニケーションがうまくとることができないと、子どもが不登校になる、非行に走るなどの問題がおこりやすくなります。


** ①-a)DV・デートDV・性被害に関する相談、-b)家庭裁判所への「婚姻破綻の原因はDVにある」とする離婚調停の申立て、地方裁判所への保護命令の申立て、警察への被害届の提出に向けての支援依頼、②DV被害の状況をまとめるためのWord文書フォーマット(DV・夫の暴力、子への虐待チェック・ワークシート;「Ⅲ-3.暴力の影響を「事例」で学ぶ。(Ⅰ)添付資料:ワークシート」の中の「DV・夫の暴力、子への虐待チェック・ワークシート」)の送付依頼、③カテゴリー〔Ⅲ1-9〕掲載『暴力の影響を「事例」で学ぶ。虐待とDVの早期発見・支援。母と子どもが暴力から脱するための手引き(3部5章42節)*』のPDFファイル送付依頼については、カテゴリー〔Ⅰ-I〕の中の「<DV・性暴力被害相談。メール・電話、面談>..問合せ・相談、サポートの依頼。最初に確認ください。http://629143marine.blog118.fc2.com/blog-entry-501.html」をご確認いただければと思います。


2016.3/4 ブログ再編成(第3次改訂)に伴い、主記事として掲載
2017.4/16 「第1章(プロローグ(1-4)・Ⅰ(5-7)」の「改訂2版」を差し替え掲載




もくじ   3kaku_s_L.png   [Ⅲ-2]Ⅰ.密接な関係。児童虐待とドメスティック・バイオレンス
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