あなたは、夫の暴力・DVを容認していませんか? 暴力のある家庭環境で暮らす子どもの心を守ることを忘れていませんか?

[Ⅲ-9]Ⅴ.DVのある家庭環境で育った子どもと母親のケア

マニュアルの結びとして

 
 DV被害者支援、1年間の記録。ドキュメントDV。恐怖で家に縛られ、卑下・侮蔑された11年 31.DV加害者更生プログラム。-「ケアリングダッド**」を実施するうえでの原則-
* 現在、この「手引き」は、第3次改訂の編集をおこなっています。編集終了後、差し替えていきます。

 サバイバー(被害女性と子ども)とかかわる中で、勇気と希望をもらうことも少なくありません。人はいったいどこまで残虐になることができるのか、嫌というほど思い知らされる一方で、人は苦難を乗り超え、尊厳を持ち、目的を持って生き抜くことが可能であることを学ぶことができます。
 人は生体のホメオスタシスと同様、生態系にも環境変化に対する復元力(レジリエンス)が備わっていて、その結果、安定性や恒常性が保たれます。レジリエンスは、回復力、復元力、危機耐性、しなやかさ、逆境をはね返す力などと訳されますが、“生き抜く力”です。幼児期の虐待体験は、のちの人生に大きな影響を与える事実、一方で、幼児期の虐待体験に人の一生が規定されてしまうほど人生の可能性は閉ざされていないという事実があります。「心の傷なんてたいしたことはない。子どもは、そんなもの忘れて生きていくよ」といった根拠のない期待感を支持するものではありません。当マニュアルでは、暴力のある家庭環境で育ち、暮らすこと、つまり、虐待体験による脳の萎縮とトラウマ(心的外傷)による暴力を生みだす破壊的な影響まで踏み込んでいます。レジリエンスの意味を理解するのは、そうした破壊的な影響を十分に理解することが必要です。
 援助者(アボドケーター)として、どのようなかかわり方をすれば、逆境にある人の生き抜く力(レジリエンス)をひきだすことができるのだろうか?
 ワーナーとスミス(Werner & Smith,1982)は、レジリエンスを示す子どもは、「養育者(おもに母親)と肯定的な関係を維持している」、「積極的である」、「変化に適応しやすい」、「物事を肯定的にとらえようとする」といった特徴を示すことを明らかにし、ガーマシー(Garmezy,1983)の研究では、「人から好かれやすい」、「親しみやすい」、「攻撃的であったり、防御的であったりしない」、「協力的で情緒的に安定している」、「両親や周囲の大人が子どもに関心をもち暖かい家庭環境にある」などの特性を持つことを示しています。グロットバ-グ(Grotberg,1997)は、3歳から11歳までを対象として14ヶ国でおこなった調査結果から、レジリエンス・チェックリストを作成しました。レジリエンスは、①“I HAVE”要因(持っているもの)、②“I AM”要因(自分の属性)、③“I CAN”要因(できること)の3つからなります。例えば、「私のことを愛してくれ、助けてくれる人たちがいる(I HAVE)」、「私はよい子で、自分のことも、みんなのことも大切に思う(I AM)」、「私は問題があっても対処できるし、自分をコントロールすることができる(I CAN)」などです。そして、“I HAVE”要因は、安心の基盤と友情によって、“I AM”要因は、肯定的価値観と社会的能力によって、“I CAN”要因は、教育、才能、興味によって高めることができます。レジリエンスを高める介入として、ダニエルとワッセル(Daniel & Wassell,2002)は、レジリエンスを、①健康、②教育、③情緒的・行動的発達、④家族関係と仲間関係、⑤セルフ・ケアとコンピテンス*、⑥アイデンティティ、⑦社会的自己表現の6領域にわけ、学童前、学童期、思春期のそれぞれの時期にある子どものレジリエンスを査定し、具体的に関わっていく方法を提示しています。小花和(2004)は、幼稚園児を対象に、母親と保育者の認知を通じて、幼児期の心理的ストレス反応(ひきこもり、攻撃的行動、対人緊張)とレジリエンス(意欲、資源、楽観)の関連を検討し、介入を検討しました。また、成人したトラウマ・サバイバーのレジリエンスの現れは、多面的、かつ複雑であり、トラウマ・サバイバーは、機能の異なった領域で、傷つきやすさとレジリエンスの両方を示します。ハーベイ(Harvey,1996)は、生態学的視点から、極度のストレスに対する反応を形づくる「人×出来事×環境」の相互作用に注目し、トラウマの影響、回復、レジリエンスは、相互に関連する8つの心理的経験領域、つまり、①記憶の再生への権限 ②記憶と感情の統合 ③感情への耐性と統制 ④症状管理 ⑤自己評価 ⑥自己の凝集性 ⑦安全な愛着関係 ⑧意味づけによって記述できるとし、これを査定する「MTRR/MTRR-I(トラウマの影響、回復、レジリエンスの多次元尺度とインタビュー)」を開発しました。トラウマがおこり、トラウマ後の条件を形成していく個人の内的・外的資源、そして生態学的環境のあり方によって、これらの領域のそれぞれが、否定的影響を受ける場合もあれば、そうでない場合もあります。ある領域が相対的に影響を受けずにすんでいたり、影響を受けた個人が、影響の少なかった他の領域の力を駆使して、別の領域の影響を修正することができたりしたとき、そこに、レジリエンスをみることができます。しかし、MTRR/MTRR-Iによって査定されるのは、あくまで、トラウマ後、結果として保持された心理的機能のレジリエンスです。
*「コンピテンス」とは、発達心理学では、人に既に備わっている潜在能力と、環境に能動的に働きかけての自らの有能さを追及しようとする動機づけを一体のものとして捉える力動的な概念を指すものです。特に、ホワイト,R.W.は、この動機づけの性質をエフェクタンスと表し、発達を促進させるものは、自己の活動の結果、環境に変化をもたらすことができたという効力感であるとしています。
 「Ⅱ-9-(10)危機とPTSD」の冒頭で、「危機(crisis)とは、「人が通常もっている事態に打ち克つ作用がうまく機能しなくなり、ホメオスタシス(恒常性)*が急激に失われ、苦痛と機能不全が明らかに認められる状態のことです。危機は、発達的な危機(maturational or developmental crisis)と状況的な危機(situational crisis)とにわけられます。」と記していますが、人は、危機状況において、感情を麻痺させることで冷静にサバイバルのための行動をとり、過覚醒状態によって、小さな危険信号をキャッチし、平常以上の力を発揮して身を守ることが可能になります。侵入的思考は、人が、トラウマ体験をなんとか人生に統合しようとするあがきの側面を持ちます。危機状況が去り、トラウマ反応が不要になってもなおその状態が続くとき、それは、日常生活を妨げる症状となり、人を苦しめます。つまり、トラウマとレジリエンスを考えるとき、トラウマ体験をした者が、いま、①プレ・トラウマ、②ミドスト・トラウマ、③ポスト・トラウマのどの時点に該当するのかによって、レジリエンスをひきだす援助のあり方は違ってくることになります。プレ・トラウマは、トラウマがおこっていない状態であり、先に記したようなレジリエンスを構成する各要因を増強する働きかけが有効になります。ミドスト・トラウマとは、いままさにトラウマの最中であり、虐待やDVなど長期反復的トラウマが進行中の状態です。このとき、プレ・トラウマと同様に、レジリエンスを構成する各要因を増強する働きかけは有効ですが、症状と見えるトラウマ反応を安易に治療しないことが重要になります。重要なことは、可能な限り安全を提供したうえで、その人が、その苦境を生き延びているレジリエンスの要因を特定し、支持することです。DV家庭に育つ子どもたちに関するマレンダーら(Mullender, Hague, Iman, Kelly, Malos & Regan,2002)の研究では、一般の子どもたちとシェルターの子どもたちに多くのインタビューをおこない、①DVに巻き込まれた当事者として自分の声に耳を傾けてもらい、真剣にとり扱ってもらうこと ②解決法を探し、意志決定の援助に積極的にかかわれることが、子どものコーピング(ストレス要因や、それがもたらす感情に働きかけて、ストレスを除去したり緩和したりすること)に重要であるとしています。事実、子どもたちは、DVのある環境を生き延びるための術(短期的、および長期的コーピング・ストラテジー)を持っています。例えば、短期的コーピング・ストラテジーとしては、①できごとを扱うための反応や考え方(泣く、無視する、なにもおこっていないふりをする、自分の中にひきこもるる、ふとんにもぐりこむ、どこかに隠れる、忙しくする、TVやゲーム、音楽、本に没頭する、外に逃げだすなど)、②安全のための戦略(助けを求める、知り合いに電話したり、相談したり、警察を呼んだりするなど)、③きょうだい同士の助け合い(きょうだいで一緒にいる、小さい子の世話をする、上の子のところへ行くなど)、④母親を助け、暴力的状況に介入する手段(直接暴力の間に割って入る、部屋に留まる、「やめて」という)などがあげられます。次に、長期的コーピング・ストラテジーとしては、①外界へ向けた戦略として、信頼できる誰かに話す(必ずしも事実をうちあけるわけではない)、逃げ場をつくる(友だちの家や親戚の家)、安全な自分だけの場所を探す、助けてくれる人を探す(警察、先生など)、母親やきょうだいを助ける、積極的解決策を考える ②内面的な戦略としては、こっそり泣く、なにもおこっていないふりをするなど、ほとんどのケースで防衛的、適応的戦略をとっています。
 ミドスト・トラウマにある子どもたちのコーピング・ストラテジーは、まさに生き抜く力(レジリエンス)の存在を示すもで、当マニュアルでは、「暴力に順応する術を身につけていく」と表現している部分です。
 マレンダーらの研究で集められた子どもたちから子どもたちへのアドバイスには、以下のように示唆があふれています。
それは、
① 適応するのに役立つ考え方:
・座って、なにがおこっているのか考えてみること。平静を保って、ちゃんと自分の頭で考える努力をすること。そうでないと、めちゃくちゃな方向にいってしまう
・自分の考えや気持ちを書いてみる
・嫌なことは無視して、他のことに精をだすこと。おもちゃで遊ぶとかテレビを見るとかして、自分のことに専念する
・楽しいことを考えるようにする
・スクラム組んで、助け合う。お母さんや親戚が助けてくれるかも知れない。生活を落ち着かせて、成り行きにまかせない
・勇気を持つ
・心を落ち着かせる
・ヒステリックにならない
・心を穏やかにして、リラックスを心懸けること。ぬいぐるみを抱っこするといい
②お母さんときょうだいを助けること:
・お母さんが強くなれるように助ける
・お母さんはちゃんと考えられなくなっているときがあるから、そんなときには、アドバイスしてあげる
・お母さんやきょうだいと抱っこし合う
・きょうだいと話をする
・心配になったら、お母さんに愛してくれているか何度でも確認する
・お母さんのそばを離れない
③助けてくれる人をさがすこと:
・誰か話せる大人を探す
・おばあちゃんや親戚の人に相談する
・お兄ちゃんやお姉ちゃんや親戚に助けてもらう
・大人にいえば、きっとなんとかしてくれる
・心細いときには誰かと一緒にいてもらう
④安全計画:
・家の外に逃げたっていい
・庭や道路に走ってでる
・暴力が終わるまで隠れる場所をつくっておく
・怖ければ電気をつけたらいい
・ドアのところにベッドを動かすこともできる
・きょうだいで集まって別の部屋に行く
・逃げる場所を決めておく
・逃げて助けを求める
⑤暴力の中に入っていかないこと
・けんかから離れておく
・声や音が聞こえない部屋が必要だ。暴力があることをわかっていても、聞こえない方がまし
・家にいるのなら、あたらない場所にいる
 このように、トラウマの最中にいる子どもたちは、よりよい生き方を求めて、ありとあらゆる工夫をしています。
 マレンダーらは、「現実には、周囲の大人や教師、援助者が子どもの声を無視することで子どもを無力化している」と指摘しています。子どもたちの存在に関心を持ち、耳を傾けることによって、子どもたちのレジリエンスを特定することが、ミドスト・トラウマの子どもたちのレジリエンスを高めることにつながるのです。そして、ポスト・トラウマになって初めて、ハーベイが指摘するような、トラウマの影響とレジリエンスを査定したうえでの回復のあり方が問題になってきます。
 生き抜く力(レジリエンス)をひきだすには、以下のような10のポイントがあります。
① 関係をつくる
 家族、友人、その他の近しい人とよい関係をつくることが重要です。あなたのことを気にかけ、あなたのいうことに耳を傾けてくれる人々からの助けとサポートを受け入れることが、レジリエンスを強化します。市民活動、地域活動などにかかわることで社会的サポートを得、希望を持つことができる人もいたり、誰かが助けを必要としているときに力を貸したりすることが自分の役に立つこともあります。
② 危機を克服できない問題だと捉えるのを避けること
 極度にストレスフルなできごとがおきるという事実を変えることはできませんが、それをどのように解釈し、どう反応するかを変えることはできます。苦しい現在に囚われずに、未来は少しよくなっているかもしれないと考えてみることが大切です。困難な状況を少しでもうまく扱えたと思えるような小さなことに目を向けることが大切です。
③ 変化を人生の一部として受け入れる
 逆境の結果、いくつかの目標はもはや達成不可能になってしまったかもしれませんが、変化させられない環境を受け入れることで、自分が変化させることのできる環境に力を注くことができます。
④ 目標に向けて歩むこと
 実現可能な目標も持つことが大切です。小さなことでもよいので、日々、目標に向けて進むためのなにかを規則正しく重ねていくことです。達成不可能な課題に囚われるのでなく、「自分が向かいたい方向に進めていくことで、今日できることはなんだろう?」と考えてみます。
⑤ きっぱりと行動する
 できる限り逆の状況に働きかけてみます。問題やストレスから逃げてしまったり、なくなればいいのにと空想してしまったりしているよりも、きっぱりと行動にすることが大切です。
⑥ 自己発見のチャンスを探す
 人はしばしば、喪失との闘いの結果、ある意味で、自分についてなにかを学んだり、自分が成長していたりすることに気づくことがあります。悲劇や辛苦を経験した多くの人々が、よりよい人間関係、傷つきやすいときでも強さの感覚を増すこと、自己価値の増加、人生に感謝することを得たと話します。
⑦ 自分自身についての肯定的な見解を養う
 自分の問題解決能力に自信を持ち、自分の直感を信頼することがレジリエンスを築きます。
⑧ 物事の展望を持ち続ける
 苦痛なできごとに直面しても、ストレスフルな状況をより大きな文脈の中に置いてみるように、長期的な展望を持つことが大切です。ただし、釣り合いのとれない考えを持ち込むという意味ではなく、あくまでも現実的な展望という意味です。
⑨ 希望に満ちた見解を保つ
 悲観的に考えるよりも、楽観的に考えることは人生によいことがおこると期待することを可能にします。心配したり、怖れに怯えたりするよりも、自分の望むよい方向をイメージすることが大切です。
⑩ 自分のケアをする
 自分自身の欲求と感情に注意を払うことが大切です。自分が楽しんだり、リラックスできたりする活動にとり組んだり、運動したりするなど、自分の世話をすることで心と体がレジリエンスを要求する状況を扱えるようになります。

 最後に、援助者(アボドケーター)は、生き抜く力(レジリエンス)は個性的であり、理論で捉えられない生き物であることを認識し、先入観をもたず、すべてを受け入れ、向き合うことが必要です。



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