あなたは、夫の暴力・DVを容認していませんか? 暴力のある家庭環境で暮らす子どもの心を守ることを忘れていませんか?

[Ⅶ-10]<C-PTSD・心の傷と闇>新聞事件簿。DV・虐待、被害者の苦しみ

<ダイヤモンド・オンライン>社会復帰を阻む、心の傷。「児童虐待」のトラウマに苦しむ人たち ――虐待の傷を超えて

 
 「子供が親を殺したいと思うとき」 2010年度第1 回今熊野セミナー 講師:真城義麿校長 3/11(金)東日本大震災、49日を迎えて..。
2010年4月23日

 年々増え続ける児童虐待。痛ましい事件は後を絶たない。たとえ虐待の現場から救いだされても、傷ついた心を癒し、再び社会に戻るのは容易ではない。子どもたちは様々な壁を乗り越え、社会で生きていくことはできるのか。カメラは、心の治療に取り組む施設に500日間密着した。
 「大村椿の森学園」で暮らす子どもたち。虐待を受けた子どもの多くは、心に大きな傷を受けており、愛着を基に他の人と関係を築いていくことができず、社会性が身につかないという。
 長崎県大村市にある「大村椿の森学園」。ここで暮らす36人の子どもの多くが、虐待や育児放棄を繰り返す親から保護された。施設では職員に対する暴力など、子ども達の問題行動が後を立たない。人ときちんと話し、うまく関係を結ぶことができないからだ。
 一般に、人は母親などから大切にされることで“愛着”と呼ばれる強い絆を持ち、その愛着を基に他の人と関係を築いていく。しかし、虐待を受けた子どもの多くは愛着が結ばれず、社会性が身につかない。施設ではスタッフ40人が親の代わりとなって子ども達の心のケアに当たっている。

心に傷を負った少女の「その後」
 去年3月、職員に暴力を振るう少女がいた。アオイさん、17歳。まもなく、施設を退所する予定だ。児童福祉法の規定で、原則18歳までしかいられないからだ。アオイさんは幼い頃から実父と義母から激しい虐待を受け、家出を繰り返した。
  「裸で外に放り出されたり、風呂に顔を押し込まれたり。それでも親に振り向いて欲しいから家出を繰り返した。迎えに来てくれるのがうれしかった。でも最後は施設に入れられた・・・」
 6年前施設に来たとき、アオイさんは心を開かなかった。原因は親との愛着が結ばれていないためだと医師は判断した。そんなアオイさんがいま、頼りにしている職員が鳥羽瀬康子さん。学校のことから身の回りのことまで何でも相談できる相手だ。「鳥羽瀬さんってどんな存在?」という質問に対し、「そばにいたらウザイけど、離れたら会いたくなる」と答えるアオイさん。
 現在、施設から地元の普通高校に通っている。教師や同級生と付き合うことが、社会性を身に付ける一歩になる。しかし、毎日通うのに苦労している。
 一学期の終わり、事件が起きた。人間関係のストレスから、学校の備品を持ち帰ってしまい、謹慎処分が下された。学校を辞めたいと言うアオイさんに対し、鳥羽瀬さんは自分の気持ちと向き合おうと呼びかけた。しかしアオイさんは、「他人に心のうちを教えるつもりはない」と突っぱねてしまう。愛着が十分形成されていないため、鳥羽瀬さんをも「他人」と遠ざけてしまうのだ。
 人間関係のストレスから、登校できなくなったアオイさん。鳥羽瀬さんの支援もあって、再び高校へ通い始めた。
 新学期が始まると部屋に引きこもってしまうアオイさん。鳥羽瀬さんはそんなアオイさんに長い間寄り添った。一方で、環境づくりにも奔走した。高校に出向き、教室ではなく、ひとまず保健室などへの登校を認めてもらった。自分の知らないところで鳥羽瀬さんは動いてくれた。「頑張ろう」と何度も声をかけてくれた。
 新学期開始から1ヵ月。学校へ行く決意を固め、登校を再開したアオイさん。徐々に対人関係に苦しむことが減った。社会に出る自信もついた。「きつい時、鳥羽瀬さんの顔が浮かぶ。私は一人じゃない」。椿の森学園に来て6年。鳥羽瀬さんとの間で結ばれた愛着は、少しずつアオイさんの心を満たしている。
 11月、アオイさんは受験勉強を始めた。保育士になるため短大に進学したいのだ。しかし、大きな壁が立ちはだかった。学費の問題だ。さらに保証人を誰に頼むかという問題もある。どうしたらアオイさんを短大に行かせることができるか、施設の職員たちが話し合った。鳥羽瀬さんは親に援助をお願いするしかないと提案した。しかし、異論が出た。援助を受けることで再び、親の支配下にあるとアオイさんが感じてしまう恐れがあるのだ。

大人になってからも虐待の過去に苦しむ人たち
 社会で暮らすようになっても虐待の過去に苦しむ人たちがいる。大村椿の森学園を出て、いまは船舶関係の仕事に就くヨウスケさんもその1人。父親からの虐待で傷ついた心は、施設で過ごすうちに癒えた。いまは職場の同僚とも問題なく付き合える。しかし、完全に心を許せる友人を作ることはできない。
  「親に暴力を振るわれて施設に入ったことは知られたくない。軽蔑される」
 虐待を受けた人たちの心のケアを25年にわたり続ける臨床心理士の玉井邦夫さんは、社会で身を隠すように暮らす人たちを数多く見てきた。仕事一筋だった40代男性は虐待の記憶が蘇ってしまい、以来、仕事ができなくなったという。20代の女性は父親から性的な虐待を受けた過去を夫に伝えられない。精神のバランスを崩し、離婚の危機に瀕しているという。
  「打ち明けなければ始まらないが、そもそも打ち明けることができないから苦しみが続いている。本人が勇気を出すのを待つしかない」と玉井さんは言う。
 打ち明けたことで不安が和らいだという人がいる。椿の森学園を5年前に退所したキョウコさんだ。不安を抱えて暮らすキョウコさんを支えたのは職場で出会った恋人だった。結婚を決断する前、勇気を出して虐待の過去を打ち明けると、恋人の反応は意外なものだった。
  「『苦しかったんだね』って抱きしめてくれた。もう頑張らなくていいんだって肩の荷が下りた感じがした」
 辛い過去と向き合いながらも、家族に支えられて、少しずつ前に進んでいるキョウコさん。夫に虐待の過去を打ち明けたことで、不安が和らいだという。
 結婚の翌年には娘を出産。幸せが訪れたが、同時に新たな不安も沸き起こった。母親から受けた虐待を、娘にしてしまわないかというのだ。キョウコさんの母親は子どもに関心を向けず、育児放棄を続けた。母親から愛された記憶がないため、娘をどう育てればいいのか迷うことがあるという。
 しかし、いまは頼れる夫がいる。キョウコさんは辛い過去と向き合いながら少しずつ前に進んでいる。

施設を離れ、自立へ。アオイさんの旅立ち
 今年1月、アオイさんも一歩を踏み出す決意をした。短大のことを父親に相談しようというのだ。父親のことを考えるといまも緊張が走る。一方で楽しい思い出もある。“怖いけど好き”虐待を受けた子どもの多くが、親に対して抱く感情だ。
 面会当日、アオイさんは保育士になるため短大に行きたいと訴えた。父親は「応援している」と答えた。一週間後、父親から施設に連絡が来た。
  「保証人にはなるが、学費に関しては一年間、娘の様子を見てから決めたい」
 金銭面の問題は残った。それでも父親が初めて自分を認めてくれたことでアオイさんは安心できたという。
  「すごく仲良くなりたいとかはないけど、普通の家族のようになりたい。きついことがあったら相談できる仲になりたい」
 一度壊れた親子の絆。完全に断ち切ることも、再びつなげることも容易ではない。
 4月。アオイさんが施設を退所する日を迎えた。短大に合格し、一人暮らしをすることになったのだ。懸案だった学費は、自治体の制度を利用することでメドがついた。新しい住まいは6畳一間。掃除、洗濯からお金の管理まで、全てが初めてとなる。
 鳥羽瀬さんはアオイさんと夜遅くまで語り合った。「離れている心配はあるけど、ストーカーみたいにメールするから」。
 鳥羽瀬さんが帰ったあと、一冊のノートが残されていた。“応援帳”。体調管理や簡単な料理のつくり方など、一人暮らしのアドバイスが詳細に書かれていた。アオイさんのため施設の全職員が知恵を出し合った。ノートの最後には鳥羽瀬さんからのメッセージが添えられていた。
  「人生は楽しいばかりじゃない。でも、苦しいばかりでもない。人を裏切らず、正直に生きてください。そしていつか幸せな家庭を築いてくれるのを楽しみにしています。あなたの幸せを心から祈っています」
 泣きじゃくるアオイさんが最後に一言呟いた。「がんばる」。
(文:番組取材班 杉浦大悟)


取材を振り返って
【鎌田靖のキャスター日記】
 今回は「児童虐待」がテーマです。去年7月、虐待を受けた子供たちが治療を受ける長崎県大村市の施設、「大村椿の森学園」を番組で紹介し、視聴者の皆さんから多くの反響をいただきました。今回はその続編です。
 番組で取り上げたのは17歳のアオイさん。番組では虐待で心に傷を負った子ども達が社会に出ていくことの難しさを、アオイさんを通して見つめました。
 以前、取材で施設を訪れた時私もアオイさんに会いましたが、その時はほとんど話をしてくれませんでした。でも今回、「保育士になりたい。そのために短大に行きたい」と自分の将来をきちんと話すアオイさんを見てその回復ぶりに驚かされました。
 椿の森学園で治療にあたっている精神科医の宮田雄吾さんは番組でアオイさんについてこう語りました。
  「これからもつらくなることがあるかもしれない。でも6年前入所してきた時、誰とも話せなかった彼女がテレビの取材を受けるくらいにまでなれたのは本当に成長だと思います。社会を乗り越えていく力はついたと確信しています」。
 もうひとりのゲストは映画監督の是枝裕和さん。母親に捨てられた子どもたちがアパートの一室で生活する姿を通して家族や社会の在り方を問いかけた『誰も知らない』という映画を6年前制作して大きな反響を呼びました。
 是枝さんは、アオイさんたちを受け入れる社会のあり方について次のように指摘されました。
  「他人という言葉がよく出てきましたが、彼らは自分とは全く関係のない他人しか世の中にいないと思っているのかもしれません。でもそうじゃない、隣人という言葉でもいいのかもしれませんが、そうした人々の集合体が社会なのです。彼らもその社会の一部だと実感できるかどうかが大事なことですし、社会の側、つまり私たちの側も彼らと無関係ではないと考えることが重要なのだと思います」
 彼らを自然に受け入れる、そんな社会が求められているのでしょう。
 一人暮らしを始めたアオイさんに指導員の鳥羽瀬さんが残したメッセージで番組は終わります。
  「人生は楽しいことばかりじゃない。でも苦しいことばかりでもない。人を裏切らず、自分にも他人にも正直に生きてください。そしていつか、幸せな家庭を築いてくれるのを楽しみにしています。あなたの幸せを心から祈っています」
 これは今回、番組にかかわった私たちスタッフ全員の気持ちでもあるのです。


※この記事は、NHKで放送中のドキュメンタリー番組『追跡!AtoZ』第40回(4月17日放送)の内容を、ウェブ向けに再構成したものです。

NHK「追跡!AtoZ」取材班



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