あなたは、夫の暴力・DVを容認していませんか? 暴力のある家庭環境で暮らす子どもの心を守ることを忘れていませんか?

[Ⅲ-9]Ⅴ.DVのある家庭環境で育った子どもと母親のケア

31.DV加害者更生プログラム。-「ケアリングダッド**」を実施するうえでの原則-

 
 マニュアルの結びとして 30.性暴力被害者支援の連携体制-SART(性暴力被害者対応チーム)-
* 現在、この「手引き」は、第3次改訂の編集をおこなっています。編集終了後、差し替えていきます。

※ 『暴力の影響を「事例」で学ぶ。虐待とDVの早期発見・支援。母と子どもが暴力から脱するための手引き(マニュアル)』は、「DVを目撃して暮らしている子どもが、DVの最大の被害者である」との立ち位置で、「密接な関係にある児童虐待とDVの本質的な理解」に加え、「児童虐待とDVが、被害者である母親だけでなく、子どもの心までも破壊する可能性がある、つまり、胎児期を含めて脳の発達に大きなダメージを与える」ことを理解していただくために、一般的な抽象論ではなく、行動分析や脳科学、人類学、発達心理学などをベースに、前半の『はじめに』、『第1章(Ⅰ.密接な関係。児童虐待とドメスティック・バイオレンス)』、『第2章(Ⅱ.児童虐待と面前DV。暴力のある家庭環境で暮らす、育つということ)』は作成しています。
 マニュアル冒頭の『はじめに』では、「社会の女性や子どもへの暴力に対する理解」、「危機的状況がもたらす脳のトラブル」、「「事例で学ぶ」ということ-人類とは何者か、脳の発達論の見地でという考え方-」、「暴力描写や性的表現による「トラウマ反応」表出のリスク」、「第三者の支援を受け、暴力で傷ついた心のケアにとり組む意味」、「被害女性の家族や友人たちのアンカーとしての役割」、「被害者支援に携わる人たちに向けて」、「-付記- 「二重の被災」..東日本大震災とその後の虐待・DVの増加の影響は“これから”の問題-阪神淡路大震災、戦争体験によるPTSD発症、その後の人生に学ぶ-」というテーマで、このマニュアル全般に及ぶ着眼点や論点、問題提起をしています。この行動分析や脳科学、人類学、発達心理学などをベースにした着眼点や論点、問題提起は、その後に続く、『第1章(1-5節)』、『第2章(6-12節)』、『第3章(13-20節)』、『第4章(21-26)』、『第5章(27-31)』とそれぞれと相互する関連性がある、あるいは、説明の前提となっていることから、『第1章(1-5節)』、『第2章(6-12節)』、『第3章(13-20節)』、『第4章(21-26)』、『第5章(27-31)』をお読みになる前に、『はじめに』に目を通していただきたいと思います。
 

31.DV加害者プログラム-「ケアリングダッド」を実施するうえでの原則-
(1) RRPプログラム実施に至る経緯と“思い(理念)”
(2) プログラムに共通する基本的な考え方
(3) インフォメーションでとりあげるテーマ
(4)「ケアリングダッド」を実施するうえでの原則



** 性虐待を行った父親は、「ケアリングダッド」に入ることはできません。なぜなら、性虐待をしたときには、父親としてのかかわりを見直す以前に、性犯罪者としての処遇を受ける必要があるからです。
 なお、当マニュアルでは、「Ⅳ-25-(4)DV加害者の更生。「変わってくれる」との期待感は捨て去る」において、「DV加害者更生プログラム」について、“認知”に対するアプローチの有効性に対し、脳幹反応や扁桃体への前頭葉のコントロール不可能であることから有効でない理由、そして、治療にあたって、薬物やアルコール、ギャンブル依存と同様に暴力をふるう“対象”とは離れなければならないなど、加害者の治療にあたって前提となる考え方について詳しく説明しています。とはいっても、「DV加害者更生プログラム」の意義を否定する立場ではないことから、第29節を設けています。つまり、「DV加害者更生プログラム」を理解するうえでは、第29節(DV加害者プログラム。「ケアリングダッド」を実施するうえでの原則)と、第25節4項「DV加害者の更生。「変わってくれる」との期待感は捨て去る」との2つ捉え方があるということです。併せて、理解を深めていただきたいと思います。


(1) RRPプログラム実施に至る経緯と“思い(理念)”
 ここでは、独立行政法人福祉医療機構の「長寿・子育て・障害者基金」助成事業としてまとめられた「DV加害者が良き父になるために~ケアリングダッドプロジェクトに学ぶ~」をもとに*-1、RRP研究会が、暴力を受けてきた母子支援という観点で、DV被害者支援の一環として実施している「DV加害者プログラム」のベースとなっている「ケアリングダッド*-2.3」を実施するうえでの原則を確認していきたいと思います。
*-1 RRP研究会の信田さよ子氏は、平成20年11月、刺殺と研修の目的でカナダのオンタリオ州ロンドン市を訪れ、DV加害者更生プログラム(PARプログラム)実施団体であるチェンジングウェイ(Changing Way)の代表ティム・ケリー氏に、「パートナーに甚大な暴力をふるって逮捕されたDV加害者の調査によれば、彼らはその犯行の直前まで誰かに助けを求め、誰かに話を聞いてほしいと思っていたということが明らかになった。彼らを凶行に追いやったのは彼らが凶暴な存在だからではなく、孤立的状況が引き金になっているのだ。彼らが援助を求めて話を聞いてもらえる窓口があれば、それらの犯行を防ぐことはできたと思う。」との説明を受け、ブリティッシュ・コロンビア州で、DV加害者更生プログラムに長年かかわってきたハリー・ステファナキス氏に、「加害者の人格を否定しないでかかわらなければ、彼らの変化は望めない。人として尊重されることを通して、初めて自己洞察が生まれる。」と聴かされ、「臨床的態度・基本的認知という視点からは深く共感した。」と述べています。その信田氏は、「DV加害者は変わる可能性があると信じており、変わってもらわなければならないと考えている。変わるか変わらないかという二項対立的問いを立てる時間の余裕があるのなら、多くのDV先進国で長期にわたって実施されているDV加害者プログラムを参照して、日本でも、実現可能な形態・構造でプログラムを実践するべきである。なぜなら、加害者逮捕を可能にするような法体系の変化に向けた展望がなかなか開けず、一方で、加害者にアプローチしなければ被害者の安全が守れないという現実があまりに多く露呈されつつあるからである。二項対立的問いに答えるより、「とりあえず実践するしかない」といった現実を前にしながら、DV加害者プログラムにとり組んでいる。」と、DV加害者プログラムにとり組んでいる理由を述べています。
*-2 「ケアリングダッド」は、2001年(平成13年)、上記ケリー氏が所長を務める援助機関チェンジングウェイが開発した「DV・虐待の加害者となっている男性」へのプログラムです。
*-3 「ケアリング」とは、人と人とのかかわりの中にある「助け合いの心」「もてなし」「面倒見のよさ」などによって、人々に豊かな情感と癒しの感覚が生じること、そして、その過程のことです。また、ケアリングに触れた人に「ケアする心構え」が生まれ、そこを起点にさらに次のケアリングの過程が生じてつながっていく循環の状況を「ケアリング・サイクル」といいます。

 RRP研究会の代表であり、原宿カウンセリングセンター所長の信田さよ子氏は、RRPプログラムの実践の場所を提供しており、人的にも臨床的にもバックアップしていると思われる民間相談機関の臨床活動を紹介しています。
 『カナダ、ロンドン市のDV被害者・加害者・その子どもたちを包括的に支援する実践から多くのことを学んできたが、中でも繰り返し強調されたコミュニティ・ベースト(community based)ということばをとりあげたい。人口35万人のロンドン市で誕生した先駆的プログラムは、一団体、一研究所だけではなく、コミュニティのさまざまな職種の人が、月1回委員会を開催することから出発している。1990年(平成2年)にスタートした委員会は、現在も継続され、警察、シェルター、加害者プログラムのファシリテーター、児童相談所、女性センター、不動産業者などが一同に会することで、さまざまなとり組みとそれを支える先進的プログラムを生みだしてきた。
 しばしばDV相談では、加害者(被害者の夫)の相談は受けないとしている機関が多い。それは被害者の安全を守るためには当然かもしれない。しかし当機関では、現在に至るまで加害者のカウンセリングも実施してきたが、これまで大きな問題が発生したことは一度もない。その理由は、13名いるカウンセラーが、被害者と加害者を別個に担当するというシステムにある。その中にはそれに加えて、被害者のグループ(AG=Abused Women’s Group)の担当者、RRPプログラムでのファシリテーター担当者も含まれる。さらに、電話受付専従の事務スタッフ2名が外部との接触を行っている。これらの役割分担は、わずか15名のスタッフによるものだが、細かくとらえれば、被害者支援員、被害者グループ担当者、加害者担当者、加害者グループファシリテーター、事務担当者に分類できる。ときには、DVを目撃して育ち*、薬物依存になった息子や娘がクライエントとして来所することもあり、その場合はさらに娘と息子担当者が加わる。いってみれば児童相談所的役割といえよう。これらの役割をになったスタッフが、ひとつの家族をめぐって時間があれば情報交換をし、今後の対策を練ることを繰り返す。昼食時や帰宅前のわずかな時間でも、狭い空間ゆえに効率的な意見交換やディスカッションが可能である。もちろん、受付業務担当者は被害者支援を基本姿勢としながら、加害者と被害者のカウンセリング時間がバッティングしないように操作し、加害者への情報コントロールに細心の注意をはらっていることはいうまでもない。もともとアディクション問題で培っていた医療機関や地域精神保健福祉事務所との層の厚いネットワークが、その外周に広がっていることも心強い限りである。』
* 子どものいる家庭内で男性による女性に対する暴力がある場合、30-700%の事例において、母親を殴る男性は子どもを直接的に身体的、または、性的な虐待を行っていることが報告されています。こうした狭義の「児童虐待とDVの重複群」でなくても、DVが家庭に生じている場合には、子どもは心理的に大きいダメージを受け、身体的虐待を受けている子どもと同レベルの心身の症状や問題行動を生じることが指摘されています。この心理的なダメージには、以下のような多重の経路を通じた影響が含まれます。
・DV行為を目撃することによる衝撃
・男性が、子どもに直接的に母親としての女性について「ダメな母親だ」などと侮辱することにより、母子関係が破壊されてしまうこと
・男性が女性にダメージを与えることで、女性が母親としての機能が低下してしまい、子どもに十分な養育ができなくなる
・男性が行った虐待の影響により母親が感情的な問題をもつに至り、それにより母親から子どもへの虐待を行ってしまう場合がある。また、父親が殴るよりはということで、必要以上に母親が子どもに厳しく接するようになり、それが虐待に結びつく場合もある
・DV男性から女性が離れることは心理的にも社会経済的にも非常に難しいが、そうしたDV問題の困難性が児童の保護を難しくしてしまう場合がある
・暴力的な家族関係やそうした価値観が子どもにもインプットされてしまうこと
・DV加害男性は、家族関係を葛藤的なものとしてしまい、安心できる場としての家庭を奪ってしまう。兄弟姉妹を含めた家族員間に大きな亀裂を残す
 以上のことから、こうした家庭に育った子どもは、安定したアタッチメント関係を持てず、常に身の安全や安心ということに気持ちのほとんどを奪われてしまい、年齢に応じたその他の発達的な課題にとり組むことができなくなります。このことが、その後、うつ病、自殺、不安、発達の遅れ、物質乱用、学校における不適切な行動、学業不振、学校における健康問題、攻撃など、さまざまな問題行動を生じさせます。加えて、そうした環境で育った子どもが、今度はDV加害者となってしまう可能性がでてきます。
 続けて、「DV加害者更生プログラム」を実施してきた体験の中で感じた問題提起をおこなっています。
 『RRPプログラムを実施していると、DV被害者から「自分の手先となって、夫を痛めつけ、厳しく反省を迫ってほしい」という主旨の要望を受けることがある。ときには、夫の陣営の人間だという二項対立的反感を向けられることもある。いずれも「加害者=悪」、「被害者=イノセント(無罪、汚れのない、悪気がない)」という“白黒的図式”を内面化しているからおこる言動だろう。加害者像にまつわる「神話」が、このように大きな影響を被害者にも与えていることは注目すべきだと思われる。被害者支援の一環としてのRRPプログラムであるが、新たな対立図式を持ち込むことは決して加害者の変化を促進するとは思えない。加害者にかかわる必要性について被害者支援の立場から述べてきたが、実際の臨床場面でどのように他の臨床と差違があるのかについてはそれほど多く言及されていない。例えば、「二重の責任性(目の前にいる加害者とそこにいない被害者への責任)」、「行為は否定するが人格は尊重する」、「真のクライエントは被害者だ」などという比喩は十分有効だが、実際の臨床場面では実に応用が難しい。 … それに加えて、「厳しいけれど処罰的ではない」態度、「相手を尊重するが巻き込まれない」態度が必要だと考えている。実際場面ではなかなか困難な態度とも思えるが、ときには、ユーモアを交えることによって、心理教育的グループの課題でつきつけられる厳しい内容が、より抵抗少なく学びとられていくのではないかと考えている。さらに、DV加害者たちは、その場の力関係に敏感であることも指摘しておかなければならない。絶えず被害者との関係において、自らの権力的立場が脅かされる被害者意識に満ちていた人たちであるがゆえに、ファシリテーターとの関係においても、しばしば見上げる立ち位置(権力者におもねる)をとりがちである。意識するとしないとにかかわらず、ファシリテーターは、彼らに対して権力的立場にあることは疑いがない。厳密な意味での対等性はそこにはない。しかし、彼らがファシリテーターを仰ぎ見ることによる学習効果は大きいのではないだろうか。それは、ファシリテーターが権力行使をしていることと同義ではない。そのように見られていることを認めながら、だからこそ可能になる“学び落とし(unlearn)”がそこには展開するのだと考える。
 平成13年に「DV防止法(配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律(平成16年に改正され、平成26年に改正新法)」が制定されて以来、各地でDVに関する基礎的知識、支援方法の習得をめざした研修が行われつつある。しかし、多くのDV被害者支援の理論的モデルが、加害者像に対する「神話」を再生産しており、それは被害者像のステレオタイプ化をも生みだしている懸念がぬぐえない。「神話」は、DV防止法の不備によって浮かびあがっている悲惨な現実を、加害者を敵視し言及しないことによって、かえって強化してしまっているのではないだろうか。RRPプログラムの実践を通じて、「とりあえず」のDV再発防止に向けて4年間の実践を積み重ねてきた。このことで、実は被害者支援にも役立つ多くの情報や体験を得られたことを強調しておこう。DV加害者プログラムは、裏返せば被害者にとってもこのうえない心理教育的教材になりうるのだ。さらに、コミュニティに立脚した被害者支援のためには、もっと開かれた支援が必要であることも強調したい。児童虐待支援者との連携の乏しさが早急に改善されなければならないことはいうまでもないが、もっと積極的に他職種と被害者支援員とが交流する必要もあるだろう。ともすれば、被害者をかくまう(秘匿する)あまり、被害者支援員自身も外部に対して防衛的になってしまうとすれば、それは逆効果ではないだろうか。多くを被害者支援員に望むことは、現在の彼女たちのおかれた非常勤、時間制限的雇用、およそ専門職として尊重されていない待遇、結果としての研修機会の乏しさを考えるとき、いささか酷かもしれないと思う。しかし、長年臨床にかかわってきた立場からは、「とりあえず」いまできることを実践することから変化ははじまると考えている。平成20年だけで、日本のDV被害者支援事例数の約6分の1は、民間相談機関が果たしている臨床的コミュニティが、その役割を果たしてきた。民間相談機関のこのような臨床活動の果たす役割や機能は、人口35万人のロンドン市に比べるまでもないが、疑似コミュニティと呼んでもいいのではないだろうか。加害・被害の対立の双方を抱え込み、綿密に練りあげた介入を行い、必要であれば弁護士や病院を紹介し、グループと個人カウンセリングの重層的効果を確認し合う。子どもへの影響については、大学の児童臨床機関と連携をおこない、RRPプログラムとも緊密に連携する。このようなコミュニティ的機能を果たす相談機関の存在があって、初めてDV加害者プログラムの効果も生まれるのかもしれない。プログラムの効果は、それ自体に内包されているのではなく、どのようなコミュニティに立脚して実施されるかによって大きく左右されるだろう。』

(プログラムに共通する基本的な考え方)
 子どもの発達には、幅広い発達段階があり、男の子女の子といった性差以上に、それぞれの中に個人差があります。そこで、年齢で単純に一括りにするのではなく、子どもの発達段階に応じたかかわりが重要となってきます。その根底には、子どもは子どもとして、人として大切に尊重されなければならないという考えがあります。また、子どもをほめていても、誰かと比較してほめたり、一部のことだけをとりだしてほめたり、条件つきでほめたりしていることが多くみられるなど、本当にほめることになっていないことあります。したがって、このプログラムを展開していくときには、子どもの発達を踏まえた考え方やかかわり方ができるように、さまざまな視点から総合的に子どもを捉えていくことが重要となります。

(プログラムの原則とポイント)
 ケアリングダッドの原則についてまとめると、以下にあげる6点になります。
・プログラムシステムについての説明責任を果たす
・父親が、最初から変わる準備ができているわけではないことを認識する
・父親が子どもを尊重できるようにする。
・妻を虐待(DV)していながら、よい父親にはなれない
・子どものトラウマを必ず考慮する
・ステレオタイプが邪魔をする
 また、ケアリングダッドのプログラムを展開するときの“キー”となることについてまとめると、以下の3点になります。
・母親と連絡をとる
・男性をリファー*してきた機関と協働し、フィードバックをおこなう
・プログラムの実施にあたって地域と協働する
* 「リファー」とは、治療(相談)機関に訪れた人に対し、その機関では十分な対応ができないときには、その人を、他の適切な機関に紹介することをいいます。例えば、神経症と診断されるときであっても、受診機関における治療が有効(最適)な治療になりえないこともあります。そのとき、その人に対し、最も適した心理療法の専門家を紹介するといったときに使う心理学(医療)用語です。

(インフォメーションセッション(プログラム説明会)でとりあげるテーマ)
・守秘義務が男女双方にあることついての説明
 このことを伝えるには、境界線などのメタファーや具体例の利用、話してよいこと悪いことについてのガイドラインの共有などの方法があります。ガイドラインの一例として、コミュニティでおこなわれるプログラムの場合、加害男性は被害女性(妻)の恥につながるような暴力の描写をプログラム内で語ってはいけないことがあります。「DV加害者更生プログラム」で語られる被害女性の情報を守るためです。
・ファシリテーターから情報提供できる内容とできない内容についての説明
 参加、欠席の情報は伝えられます。加害男性のプログラム内での発言は伝えられませんが、学習の習得状況に対するファシリテーターの印象については話すことができます。ただし、この点は、プログラム開始時に参加者に了解をとっていることが条件です。
・1クール終了時の現実的なゴールについての説明
・被害女性(妻)の協力を求めること
 加害男性とベストな仕事をするためには、プログラムを知ってもらうことなど、被害女性(妻)の協力が重要であることを被害女性(妻)の理解を得ます。例えば、加害男性はプログラムで間違ったスキルの使い方を学び、実際にそのように使う可能性があります。被害女性もインフォメーションセッションへの参加を通して、DV加害者更生プログラムについてよく知っておくことが、加害男性(夫)の言動に惑わされないために非常に重要です。
 Responsibility(相手に応答する責任)、Accountability(説明責任)、Safety(安全)、Choice(選択)は、被害女性、加害男性の双方に認めなければならないことを学んでもらいます。例えば、加害男性の変化はファシリテーターの責任ではなく、加害男性自身に責任があります。ファシリテーターは、ワークをする機会を提供するだけであり、「変化の主体」も「責任」もワークをする加害男性本人にあります。同時に、被害女性にも暴力の責任はありません。被害女性には、暴力の責任を引き受けないとはどういうことなのかを理解してもらいます。また、加害男性に変化が見られ、恐怖が減ったからといって、加害男性に対し、被害女性が攻撃的な言動をおこなうことを認めてはいけません。「長期間、がまんしてきたのだから、これくらいはよいだろう」というコンテクスト(状況、背景)を切り離し*-1、行動のResponsibility(相手に応答する責任)、Accountability(説明責任)を被害女性にも求めます。被害女性とファシリテーターのバウンダリー(他者との境界線)をはっきりさせることも大切です。DV加害者更生プログラムは、加害男性をモニターしてレポートするためのものではないことから、被害女性が、ファシリテーターに加害男性(夫)の状況の報告を求めてきたときには、ファシリエーターは断らなければなりません。また、エンパワメント*は、被害女性の肩代わりをすることではありません。重要なことは、自分の安全と人生の選択、加害男性の変化の判断のエキスパートは、被害女性自身であることを伝え、それができる力が被害女性にあることをファシリテーターは信じることです。被害女性が非現実的な期待をプログラムに寄せている場合は妥当な説明を行うこと。
* 「エンパワメント」とは、人びとに夢や希望を与え、勇気づけ、人が本来持っているすばらしい、生きる力を湧きださせることです。

(RRP研究会「RRPプログラム」の各回のテーマ)
第1回:暴力とは?
第2回:認知行動モデル(ABCDEモデル)*による暴力の理解
* 「認知行動療法のモデル(A:Action=出来事、B:Belief=信念、C:Consequence=感情、D:Decision=行動の決定、E:Effect=影響・効果)」を用い、自分の暴力の過程を分析させます。
第3回:暴力につながる信念Bについて
第4回:自分の感情Cと感情表現Dについて
第5回:暴力の影響1(パートナーに対する)
第6回:暴力の影響2(子どもに対する)
第7回:よい父親になるには
第8回:自分の暴力に対する責任
第9回:健康なコミュニケーションを学ぶ&アサーティブ
第10-11回:ロールプレイを用い、各自にとって問題となる場面の自分や被害者の考え、;感情、行動を変える練習をする。
第12回:再発予防計画


(2) 「ケアリングダッド」を実施するうえでの原則
 「ケアリングダッド」を実施するうえでの原則は、次の6つです。
・原則1 父親が変化するか否かにかかわらず、父親に介入することが、子どもの利益になるものではなくてならない
・原則2 虐待する父親は、行動を変化させる準備ができていない可能性があることを念頭において介入しなければならない
・原則3 虐待する父親の主な問題は、過度に支配的な行動や特権意識、自己中心的な態度である。したがって、介入の初期段階では、“子どもを管理する”ためのスキルを教えるべきではない
・原則4 妻(母親)に対する虐待についても、夫(父親)に対する介入の一環として認識され、注意を向けなければならない
・原則5 虐待的な父親は、子どもの情緒的な安全感を破壊するので、信頼感を回復する必要性を認識することが、行動の変化や子どもに対する虐待の再発可能性に影響を与える
・原則6 父親の性役割に対するステレオタイプ的な考え方が、子どもへの虐待につながる
 以下、ケアリングダッドの「6つの原則」に添って見ていきたいと思います。

[原則-1] 父親が変化するか否かにかかわらず、父親に介入することが、子どもの利益になるものではなくてはならない
 父親が変化するか否かにかかわらず、父親に介入する*-1ことが、子どもの利益になるものでなくてはならないことから、子どもとその母親に対する安全に配慮することが重要です。万一、加害者男性がプログラムを途中で中断したときには*-2、速やかに、加害者男性をリファーしてきた機関に連絡をしなければなりません。なぜなら、中断した状態でパートナーや子どもと接触することは、リスクが高いからです。このようなリスクの高い情報は、母親や子どもの援助機関とも共有しなければならないことです。子どもの安全確保には、関連機関とのオープンなコミュニケーションと協力が不可欠なのです。
*-1 プログラムへの参加条件として、①「自分の暴力を認めている」こと、②「暴力から離れて尊重し合う関係をつくることを目標にする」ことを確認します。しかし、プログラムがはじめると、“否認”や“矮小化”、“合理化”がみられることが少なくありません。そうした傾向が認められるときには、その問題に直面させ、元の目標に立ち戻らせることが必要です。つまり、再度、「どういう行為が暴力にあたるのか」を理解させていくことになります。身体的暴力のみではなく、被害者を貶めることば、脅迫や威圧、経済的制約、孤立させる、子どもの利用、性行為の強制など、パートナーの自由や権利を制限・支配することすべてが暴力に含まれることを示さなければなりません。
 また、暴力の責任に関して、飲酒やストレス、被害者の態度が暴力の理由づけに用いられますが、それらのことがあっても暴力を用いない人が多いこと、あくまでそうした方法を選択しているのは、DV加害者の自己に都合のいい考えでしかないことを示し、暴力を選択した責任は100%加害者にあることを示します。加害の意図がなかったことや自分の正当性を述べるときには、「パートナーとの関係が戻らない」ことを示すことで、自分を変えなければならない必要性を納得させていきます。さらに、暴力を受ける者のつらさを実感させるために、さまざまなワークが用いられます。例えば、自分の妻が茂みから飛びだしてきた暴漢に襲われた場合について、被害者に生じる心身の反応を想像させます。そうした反応はすぐには消えず、茂みのそばを通るたびに反復しやすいことを示し、被害者の長期にわたるつらさを実感させていきます。
*-2暴力発生直後に、加害者である父親(ケアリングダッドの対象者)に介入することの重要性は、警察、児童相談所、裁判所からリファーされていることにもとづいています。ゴンドルフの虐待やDV加害者650人に対して行われた追跡調査で、DVや虐待の再発は、直近の暴力(身体的な暴行)との間隔が短い間で発生していた、つまり、暴力(身体的な暴行)がおこってから日数が浅いうちは再発のリスクが高いということが判明しています。一方で、暴力(身体的な暴行)がおこってから3年以上暴力の再発がないときには、再発のリスクが低くなる傾向が明らかになっています。このことから、「暴力発生直後の介入」が大切とされているのです。



[原則-2] 虐待する父親は、行動を変化させる準備ができていない可能性があることを念頭において介入しなければならない
① サービスの対象者は誰か
 例えば、加害男性は、児童相談所に子どもの情緒的問題を指摘されたとしても、「息子は怠け者でいい訳に長けたヤツ」と自らの虐待の影響を否定したり、「家族を壊したのは妻の方だ。俺がアル中だと、息子に吹き込んだために息子に嫌われた。」と責任を転嫁したりします。こうした加害男性に介入するとき、サービスの対象である男性は「虐待の加害者」であることをしっかりと認識し、そのような対象の人々は「問題行動を変化させる準備ができていない」ことを理解して対応することが重要です。したがって、彼らへの対応を工夫する責任は、プログラムの提供者にあるのです。

② 「変わりたい」という動機を高めるには
 「介入しているのは、行動の変化を望まない人たち」と認識することができたら、その人々に応じた働きかけをすることが、プログラムを提供する者たちの責任です*-1。そこで、最初の目標は、加害男性が行方をくらませたり、対立して一切連絡がとれなくなったりしないように、ケアリングダッドのプログラムにつなぎとめておく(継続的に参加させる)ことです*-2。加害男性をつなぎとめておくために一番重要なことは、加害男性の「変わりたいという動機を高める」ことです*-3。
 そこで、「動機づけ面接法」において、加害男性(父親)たちが「自分は問題を抱えていると認識」し、「なぜ、この問題を変えなくてはいけないのかに思い至る」ように“働きかける”ことになります。加害男性の多くは、「よい父親でありたい」と思っていながら、同時に、「自分の父親から虐待を受けて育っていることが多いことから、ああいう父親にはなりたくない」とも感じていることから、加害男性の理想と現実との差(ギャップ)に注目してもらったりします。
*-1 加害者として扱われることへの反発や、スタッフという権威への防衛的な反応がみられることがあります。そうした問題が明るみになったときを“好機”と捉え、「加害的な側面に向き合うことはとても大変なことであり、そのために毎週参加されている努力はすばらしいと思う。」、「スタッフが偉いというわけではなく、皆さんの自分を変えようという努力を助ける役割をもってあたっている。」、「プログラムで、スタッフとも率直に話し合えてこそ、尊重しあう関係を学べる。」などといったメッセージを繰り返し伝えていくことで、“目的”を共有し、連帯感を強めていくことができます。
*-2 「ケアリングダッド」では、①「自分の暴力を認めている」こと、②「暴力から離れて尊重し合う関係をつくることを目標にする」ことを参加条件とし、しかも、「25.DV加害者プログラム。「ケアリングダッド」を実施するうえでの原則」の中で記しているとおり、加害男性が、子育てということに関心を持てるように「動機づけ面接」の手法をもちい、できるところからとり組んでもらい、そうした努力に対して支持的にサポートすることで少しでも脱落率を下げ、子どもとその母親(妻)の安全に寄与しようとしています。それだけのことをしても、約50%の加害男性がプログラム途中で脱落していきます。
*-3加害男性が女性(妻)や子どもに対して暴力をおこなっていたという“加害性”を示しながらも、加害男性が「内的に持っている変化の可能性」をひきだすような働きかけが必要です。加害行為の臨床では、厳罰か、治療的かのどちらかに偏った議論になりがちであるが、そうした対立を超えていく道筋があること、そのための具体的な工夫や実践を重ねていくことが大切です。

 そこで、加害男性には、次の3つの問いについて考えてもらいます。
・問1 自分が父親に育てられた状況(様子)
・問2 なりたい父親像
・問3 自分の子どもが、自分をどのように捉えて(認識して)いるか
 「問1」は、自分の父親はどんなふうだったのかという過去の遺産についてのなげかけであり、「問2」は、父とは子どもに対してどうあるべきかという理想を問うものです。そして、「問3」は、現実の子どもの状態であり、それは、「問2」の理想とかけ離れた状況ということになります。つまり、「問2」と「問3」との間にギャップが生まれることになるのです。このねらいは、このギャップが、加害男性の理想と現実には“矛盾がある”ことを示していることから、この矛盾をひろげていくことで、加害男性たちが、問題の存在を認識し、変化の必要性を感じることができるように持っていくことです。
 また、この3つの問い(なげかけ)は、DVの認識や、DVの目撃が子どもにどのような影響を与えるかということについて、問題意識を高めることにも応用できます。そのとき、3つの問いは次のようになります。
・問1 私の父は母をどう扱ったか
・問2 父とは子どもの母親(つまり自分の妻)に対してどうあるべきか
・問3 私は自分の子どもの母親(自分の妻)に対し、実際どのように対応しているか

③ 動機づけ面接に習熟するには
 「動機づけ面接」の特徴のひとつが、先のような一連の問いかけの間、加害男性が抵抗を示していても、反論したり、意見を述べたりして刺激しないように注意することです*-1。動機づけ面接の習熟には訓練が必要です*-2。加害男性が行動を変えたいと思っているが、踏み切れないでいるときと感じたときには、踏み切れないでいる状況を詳しく聴き、「変化について語る」機会を設けることが変化の第一歩です。また、加害男性が問題行動とわかっていながら、それを変えようとしないときであっても、プログラムを提供する者(セラピスト)が、加害男性に苛立ったり、無理に変化させようとしたりしないことが重要です。なぜなら、加害男性が、セラピストにそうした態度を感じとったとき、抵抗を示す瞬間であるからです。
*-1 ファシリテーターが、加害男性に「暴力的になっている」と指摘すると、加害男性が抑制的ノンアサーティブな態度になってしまうことがります。抑制的な状態になると、怒りをため込んでしまい暴力を生じさせてしまうことが多く、いわゆる「暴力のサイクル」から変化できないことになります。重要なことは、加害男性にアサーティブなやり方で自分の気持ちを表現できるような方法を身につけてもらうことです。とはいっても、アサーティブなスキルは、時間やエネルギーがかかります。したがって、加害男性には、「自分の要求を少し強くだしたり、また、その反応をみて、相手の気持ちを受けとめたりするといったことを少しずつ繰り返していくことによって、相手との調整をはかっていくプロセスが必要不可欠である」ことを伝えます。
 「アサーティブ(Assertive)」は「自己主張すること」と訳され、自分の表現する権利と相手の表現する権利を大切にしたコミュニケーションの方法論です。アサーティブの思想は、1960年代以降のアメリカにおける人権擁護の思想と運動を土台として発展し、「感じる権利」、「考える権利」、「表現する権利」はすべての人に与えられている基本的人権であるという考え方がベースになっています。「アサーティブである」ことは、自分の意見を押し通すことではなく、自分の要求や意見を、相手の権利を侵害することなく、誠実に、率直に、対等に表現することです。1950年代の心理学をもとにはじまった「アサーティブ・トレーニング」は、現在では、責任を伴った主体的な自己主張、自己表現および交渉の方法論として、欧米を中心に広くマネジメントの場面でとり入れられ、日本では、企業の社員研修や病院内のスタッフ研修などさまざまな分野で広く活用されています。そこで期待されているのは、パーソナリティ(性格)を変えることはできないけれども、自分のコミュニケーションパターンに気づき、コミュニケーションのあり方は変えることができるということです。とはいっても、コミュニケーションパターンを変えることは容易なことではないことから、アサーティブ・トレーニングとしての実践的なロールプレイをくり返しながら、自分の要求と感情を適切に表現する(伝える)方法を身につけていくことが有効とされているのです。アサーティブには、「誠実」「率直」「対等」「自己責任」という4つの”柱(姿勢・アーサーティブマインド)”で、人と向き合っていきます。この4つの柱を土台としながら、的を絞り、具体的に話を進めていきます。そのとき、自分の感情にも耳を傾けながら、相手を尊重して対話をします。
*-2 ロールプレイで、加害男性の役をおこなう者は、抵抗したくなった状況はどういうものだったか、セラピストのどのような対応によって行動を変えてみてもいいかなと思えたのかといったことに対し、“敏感”でなければならないのです。また、観察者役の人は、セラピストのどのようなかかわりが、加害男性の抵抗や変化したい気持ちに影響していたかを読みとり、エクササイズ終了後にフィードバックします。
 虐待的な加害男性の中には、自分はパーフェクトな父親だという人も少なくありません。そのときには、動機づけ面接の姿勢を意識しながら、具体的にパーフェクトな部分について、話を聴いていくようにします。また、「あなたの子どもたちはどういうだろうか」となげかけてみたりします。「自分は尊敬されている」という父親もいますが、恐怖と尊敬を混同している場合が少なくありません。



[原則-3] 虐待する父親の主な問題は、過度に支配的な行動や特権意識、自己中心的な態度である。したがって、介入の初期段階では、“子どもを管理する”ためのスキルを教えるべきではない
① 伝統的なペアレンティング教育を採用する前に
 虐待的な父親は、過度に支配的であったり、自分がそのように行動して当然だと考える特権意識であったり、自己中心的な態度をとったりすることが特徴的です。そのため、子どもの態度を「自分に敵対的である」と捉える傾向も強いことから、「だからこそ、子どもを力でコントロールしなくてはいけない」と考えることになります。伝統的なペアレンティングのプログラム*-1では、セラピストが共感的なかかわりをおこないながら、育児に困難を抱える親をサポートしていきます。そこでは、どのようなタイミングで報酬を与えるか、タイムアウトをどのように用いるかなど、子どもをうまくリードしながらしつける方法について教えていきます*-2。しかし、先のような虐待的な父親の特徴をふまえると、加害男性は、むしろ子どもをコントロールするスキルに長けているといえます。したがって、ペアレンティングのスキルを学んでも、子どもへのコントロールを強化させるだけになりかねないことになります。
*-1 「ペアレンティング」とは、親として子どもを世話し、育てることを意味します。ペアレンティングについて学ぶプログラムなどの多くが、欧米で開発されていますが、日本では、古くから「親業(訓練)」として知られています。ただし、日本でおこなわれる両親学級(母親教室)とは異なり、より具体的で実践的な子どもの発達や子育ての知識や技術を学ぶようになっています。
*-2危ない方法を抑制するのみではなく、尊重しあう関係性を育むスキルの獲得、暴力再発を防ぐスキルを練習させます。特に、アサーティブネスのスキル、フェアな問題解決の手法、タイムアウト法などを主におこないます。こうしたスキルが、独善的でなく、相手の気持ちが変わる「E(効果):「認知行動療法のモデル(A:Action=出来事、B:Belief=信念、C:Consequence=感情、D:Decision=行動の決定、E:Effect=影響・効果)としての」を持つことを確認するために、ロールプレイなどによる体験的学習を繰り返しおこないます。自分のコミュニケ-ションのパターンや、そのもとにある認知・感情をふり返るために、認知的な変容とスキル訓練を結びつけておこないます。「スキル訓練」に関する実践の結果として、知的理解にとどまるときには、体験的ワークが必要になります。なぜなら、自分ではかなり変わったと思っていても、ロールプレイではうまくできなかったり、逆に、ちょっとした表現の違いで相手に与える影響が大きく違うことに気がついたりするなど、体験することで、自分の問題に気づくことが多いからです。しかし、実際にパートナーとの場面に応用できるかというと、参加者の多くが「難しい」と訴えていることから簡単ではありません。


② 子ども中心のかかわりを教える
 そこで、重要なのは、加害男性には「子ども中心の養育」ができるようになるためのスキルを伸ばすことです。「ケアリングダッド」において、最初の目標は、加害男性の変化への動機づけを高めるようにかかわり、プログラムにつなぎとめること、次の目標は、「子ども中心の養育スキル」を伸ばすようにすることです。「親中心の虐待行動」は、子どもにとって、「親のニーズを満たすための行動」に他ならないのです。したがって、暴力によって、子どもは恐怖ゆえに一瞬にしていうことをきくので、親にとってはてっとり早く、ある意味“楽”です。一方、「子ども中心の行動」とは、子どもとのかかわりの中で、「子どもの精神的な安心感を優先する」、「ほめる」、「母子関係を支える」「子どもの話に耳を傾け、子どものことを知る」、「子どもが、いまどのような発達段階にあるのかを知る」ということです。つまり、暴力の恐怖によって子どもを管理するのではないということです。
 子どもは、自分のニーズを話すことができません。したがって、親の仕事(役割)は、子どもが自分のニーズを満たすことができるように手伝うことです。そこで、加害男性は、子どもとのかかわりの中で、自分のかかわり方がどうなのかを自覚する必要がでてきます。“これまで”そうであった「親である自分のニーズを満たすためだけにそういうことをいっているのか(こういう行動をとっているのか)」、「どのような意図で、自分は行動しているのか」といったことに気づくことができるようになることが、子どもとよりよいかかわりができことになります。加害男性を支援する者は、加害男性たちが、自分の言動やふるまいに敏感になり、常に、言動やふるまいを見つめ直して、その“意図”を考える習慣を身につけることができるように手助けしていく必要があるのです。

③ 「子ども中心のかかわり」とは
 「子ども中心」であることは、「子どもを甘やかす」という意味ではありません。虐待によって、破壊された子どもの安心感を回復するということです。そのうえで、子どもにとって、“最も基本のニーズ”は、「愛情」「ケア」「安全(安心)」ということです。子どもを虐待すると、この基本部分が破壊され、愛着(アタッチメント)の獲得を損なわれてしまうのです。虐待は、子どもは恐怖を与え、自分の安全を維持する(暴力のある家庭環境で生き延びる)ことだけに必死させてしまいます。そのため、生命を維持するシステムが優先になり、日常生活で身につけなければならないこと、社会性を身につけるために不可欠な遊びが疎かになり、就学後は、学んだり、運動(スポーツ)したり、趣味を見つけるなど生きていることを実感する(楽しむ)さえできなくなります。それだけでなく、恐怖を与えてくる親を信頼することを学べず、大人や社会を信じるといったことができなくなります。加害男性(父親)と子ども間の信頼関係は構築されず(破壊され)、加害男性が「教え」たり、「しつけ」ようとしても、うまくいくことはありません。また、子どもの母親、つまり、妻への虐待(DV)も子どもの安全を脅かすことにつながります。なぜなら、夫からの虐待(DV)によって、母親(妻)は心身の健康を損ねてしまい、子どもの養育者として十分に機能することができなくなってしまう可能性があるからです。したがって、加害男性には、妻への虐待(DV)をやめ、子どもと一緒に過ごす中で、子どもが再び安心感を得られるようなかかわりによって、親子関係の土台となる「愛情」「ケア」「安全(安心)」を修復していく覚悟が必要不可欠です。


[原則-4] 妻(母親)に対する虐待についても、夫(父親)に対する介入の一環として認識され、注意を向けなければならない
 プログラムの中で重要なことは、加害男性に対して、虐待行動について具体的に説明をおこない、どう対峙させていくかということです。加害男性に、虐待行動が妻(母親)と子どもに対して、どのような悪影響を及ぼしているかということについての理解を促すことが課題です。
① 子どもの母親に対する虐待(DV)について
 スタッフ(治療・援助者)は、虐待的な男性の人間関係、特に、母子関係や夫婦関係に注意を払って見ていく必要があります。「愛する」「ケアする」「安全にする(安心させる)」といった基本的なニーズを、子どもに満たすことのできない加害男性は、よい父親であろうとしても、よい父親となることはできません。そして、子どもを養育する妻(母親)の心身の健康を損なうようなことや、妻(母親)と子どもの安全を脅かすこと、父母の育児観の違いによる子どもの安全感に影響を及ぼすようなことをおこなっています。本来、父親は、妻(母親)と子どもの関係をサポートしていく役割を担っています。さらに、子どもにとって責任のある父親であるために、子どもが安心した生活が送れるよう経済的、情緒的なサポートを提供することが役割として求められています。しかし、加害男性は、妻(母親)と子どもの関係をサポートしていく役割を担っているにもかかわらず、妻(母親)と子どもの関係を変えようと力づくでコントロールを試みるわけです。したがって、スタッフ(治療・援助者)は、虐待的な男性が、妻(母親)と子どもの関係を変えようと力づくでコントロールしていることに、毅然と立ち向かわなければならないのです。例えば、加害男性は、「彼女には、うんざりしているんだ。だから、俺は監護権を得るために彼女を裁判所に連れていった。そうすれば、俺を翻弄した彼女に仕返しができるからね。」、「子どもたちには、『母親のいうことを聞くな!』っていった。」、「母親に子どもたちのしつけを任せているから、俺はゆっくりと寛げる。」と、母と子どもの関係を悪くしようと操作的な発言をします。このような加害男性の暴力(ことばの暴力、子どもを利用した精神的な暴力)、母親への責任のなすりつけ、罰やこらしめ(報復目的)として監護権(養育権)を奪おうとする言動から、子どもの母親である妻は心身ともに疲弊していきます。その結果、自己評価が崩壊したり、慢性的恐怖下での生活によってうつ症状やPTSDを発症したり、慢性的な体調不調など、さまざまな健康面での問題を抱えることになったり、自己決定権が喪失したりするといった事態に陥ります。
 そして、こうした母親の姿を見て育つ子どもは、母親は無力で、父親に踏みにじられるばかりの無能な(とるに足らない)存在であると認識してしまうことで、母親を侮蔑し(バカにし)、卑下する(見下す)ようになります。その結果、母親のいいつけを守らず、反発する態度をとるようになります。そればかりか、父親である加害男性の言動やふるまいを、男性のロールモデルとして、子どもが父親と同様にたちふるまったりすることも少なくありません。したがって、スタッフ(治療・援助者)は、加害男性の発言内容からDVのリスク評価(リスクの高まりをアセスメントすること)をしていくことになります。
* 暴力にさらされている育児中の女性(母親)への影響には、以下のようなものがあげられます。
・女性(母親)は、自分のことを親として不適格だと思う
・女性(母親)は、子どもたち全員のあるいは一部の子どもの尊敬を失う
・女性(母親)は、虐待者(男性)が自分の行動を正当化するためのいい逃れやこじつけを正しいと思う
・女性(母親)は、虐待者(男性)のやり方に子育ての仕方を合わせ、自分の方針を変える
・女性(母親)は、ものごとの処理能力が極端に落ちるか、ほとんど処理ができなくなる
・女性(母親)は、有害な結果をもたらすサバイバル戦術を使うかもしれない
・女性(母親)と子どもたちの絆が弱まる(信頼関係を損ねる)

② プログラムの構成に、「原則4」をどのように反映させていくか、「DVと児童虐待」という視点
 「権力と支配」の策略は、女性虐待(DV)をおこなう加害男性の最大の特徴であり、そのときに、身体的な暴行があるかないかは関係がありません。そこで、スタッフ(治療・援助者)は、このプログラムにおける核心であり、目標でもある加害男性の「母親である女性に対する態度の変化」と、同時に、そのことに強く関連している「子どもに対する態度の変化」を促進していくために、プログラムの構成が重要になってきます。次にあげる2点がポイントになります。
 第一に、プログラムの展開にあたって、「女性虐待(DV)と児童虐待の重なりを意識する」ことが重要となってくるということです。「ケアリングダッド」は、男性と女性両性のファシリテーターによって運営されます。これには、男性と女性ファシリテーターの姿が、対等な男性と女性の関係性のモデルとなるといった重要な意味があります。また、グループのファシリテーターの中に、女性に対する虐待(DV)のダイナミクスについて熟知している人を最低1人は加えることにより、被害者である女性の視点を絶えず意識させていくことができます。
 第二に、「母親のために、必要な情報の提供やサービスの紹介をおこない、心身の安全を保護するための計画を立てる」ことが重要となってきます。「ケアリングダッド」における対象者は、虐待的な男性であることから、どのように妻(母親)とコンタクトをとるかということが問題となります。通常のカウンセリング場面では、対象者以外の人との接触はタブー視されます。しかし、このプログラムにおいては、妻(母親)と子どもの安全を守るという目的を遵守するうえからも、妻(母親)とのコンタクトは必要なものであると位置づけています。
 全体でのシェアリングのときには、次の5つの方向性があげられました。
・プログラム参加の前提条件として、対象者(加害男性の父親)に、母親とコンタクトをとることについて同意を得る
・加害男性(父親)の語りと、事実との相違について知る
・母親に、必要な情報の提供やサービスの紹介をおこなう
・母子の心身の安全を保護するための計画を立てる
・母親から得た情報をグループに反映させる
 ワークショップでは、次のようなディスカッションがおこなわれます。
<EXRCISE 1>
 直接のクライエントではない妻(母親)とコンタクトをとるとき、
・どういう状況ならば、OKか?
・なぜ、コンタクトをとるのか?
・得た情報を、どう使うのか?
 また、妻(母親)とコンタクトをとるうえでの主な優先事項は、「母親である女性と子どもの安全に貢献する」ことです。具体的なこととしては、第一に、「ケアリングダッド」の内容や子どもに対する暴力の影響等、その想定し得る結果について、現実的な情報を提供することです。第二に、母親である女性に適切なサービスを紹介し、サポートする、あるいは、女性の生活にすでにかかわっている支援の専門家と連絡や連携をはかっていくことです。
 変化を促進するプログラムであることから、加害男性が参加することによってなんらかの変化が生じるかもしれません。そこで、妻(母親)と子どもが加害男性の変化によるネガティブな影響を受けないように、適切な情報提供が必要となります。その情報提供は、あらかじめ父親(加害男性)に起こり得る変化を想定したり、グループ参加により父親が達成できる目標(変化のゴール)をイメージしたりできるようにしておく重要な意味を持ちます。そして、情報提供を受けた妻(母親)が、実際に母と子どもの安全計画を作成していくことをサポートします。ファシリテーターは、加害男性がグループに参加することで、怒りが増長したり、グループでの発言を聞いている中でリスクの高まりを感じたりすることがあります。事前に具体的な安全計画を作成しておくことは、こうした状況のときに、妻(母親)と子どもが適切に対応できるという意味で、非常に有効なことです。
 また、地域で母親と子どもが孤立しないように、困ったときに声をかけたり、必要な資源について尋ねたりすることができる人をつくっておくことが必要です。地域ネットワークがシステム化されているカナダのオンタリオ州ロンドン市であっても、援助機関チェンジングウェイにつながる妻(母親)の40%は、地域のサポート機関にまったくつながっていないといった状況なのです。つまり、40%の妻(母親)は、まったく地域のサービスの情報を持っていないのです。そのため、妻(母親)とコンタクトをとり、シェルターへのアクセスや地域のサポート機関について紹介することが重要となってくるのです。チェンジングウェイにおいては、妻(母親)へのコンタクトをとるスタッフは、プログラムのファシリテーターではない別のスタッフ(母親と子どものアドボケーター)がおこなっています。これは、「子どものケアを条件として、取引をされるのではないか」、「父親の自己弁護に用いられるのではないか」といった多くの妻(母親)が抱える不安に対し、中立的な立場で対応するためです。ファシリテーターは、妻(母親)をコントロールするためにこのプログラムが使われる可能性やリスクについても考慮し、妻(母親)と子どものアドボケーター役*-1のスタッフをはじめとした地域の関係機関と連携をはかっていくことが求められます。そこで、チェンジングウェイでは、インテーク面接時に、ケアリングダッドの参加者である加害男性に対して、妻(母親)へのコンタクトをとる必要性について説明し、参加のための前提条件として同意をとることになっています。しかし、妻(母親)である女性が、仮に、ケアリングダッドのスタッフとのコンタクトを拒んだとしても、加害男性はグループに参加することはできます。つまり、妻(母親)とのコンタクトは、クライエントの参加のための必須条件ではないことになります。ただし、「子どものWell-being*-2と安全が第一。そのために、母親に入ってもらっている。」と伝えると、おおむね父親からの了解が得られやすい。それは、加害男性の多くは、「よい父親でありたい」と考えているからです。
*-1 「アドボケータ―」とは、自分の意見や権利を上手く伝えることのできない人(患者など)の代わりに、意見や権利を主張する代弁者や擁護者、サポーターのことです。例えば、医療機関の現場では、「看護師」がこの役枠を担っています。
*-2 健康で安心なこと、満足できる生活状態、福祉(welfare)、福利、幸福

② 介入に、「原則4」をどのように反映させていくか。よき夫でなくして、よき父親にはなれない
 加害男性(父親)による子どもの母親に対する虐待(DV)は、加害男性への介入の不可欠な要素として認識され、注意が向けられます。子どもは直接目撃していないにしろ、夫婦間の関係を敏感に感じとり、不安になるなどの影響を受けています。したがって、加害男性には、配偶者、または元妻に対して暴力的である限り、よき父親にはなれないことを明確に教えていく必要があります。重要なことは、「親として経験」したことは、「子どもの経験への影響」にもつながるということです。つまり、「暴力は妻にしか向かっていなかった。子どもにはなにもしていない。むしろかわいがっていた。」といったいい訳は通らないということです。一方で、加害男性の多くが、子ども時代にDVを目撃したり、自身が虐待を受けていたりした成育歴を持っています*。そのため、加害男性は、「父のようにはなりたくない」という強い信念と、子どもにとってはよい父親でありたいとの思いを抱いています。そこで、次のような「矛盾を広げるエクササイズ」を活用しながら、加害男性の子どもに対する共感性を高めていくことで、加害男性の変化に対する抵抗を小さくしていくことができます。
* こうした課題をやる中で、加害男性は、父親としての自分をふり返ると同時に、自身の子ども時代に受けた暴力の影響について語ることが多くなります。加害男性のほとんどが、子ども時代になんらかの虐待やDVの目撃があったこと示されています。暴力的なしつけ、厳格でコミュニケーションが乏しい父親の姿を語る加害男性が多く、それに対する怒り、不安や恐怖などの感情を表現し、「暴力の連鎖をしたくない」、「自分の子どもにはしたくない」と語ります。しかし、そうした過去の父親への深い感情が語られたとしても、そのことといまの自分の内面をつなげて検討することは容易ではあるません。父親への怒りや恐怖を口にしながらも、一方で、父親を擁護する気持ち語るなど、深い感情的体験は防衛的な側面に強く結びついています。また、加害的な父親に対する怒り以上に、そうした状況から自分を守ってくれなかった母親への怒りを語る加害男性が少なくありません。自分に十分に寄り添ってくれなかった母親への怒りを、母親と同性のパートナーへの怒りに転嫁し、加えて、その行為を正当化させる加害男性が多くみられます。こうした作業では、多くの否定的な感情を呼びおこしてしまうことから、暴力の再発につながらないように慎重な対応が必要です。そして、「子どものテーマ」は、女性(妻)へのテーマ以上に、加害男性に深い感情体験をさせる効果がありますが、このことは、「配偶者(妻)への影響はさておき、子どもに対してはよい父親であると考えたい」ということを意味している(問題のある認知を示している)ことから、「よい夫にならない限り、よい父親にはなれない」ということを繰り返し伝え、理解させることが重要です。
<EXRCISE 2>
・あなたは、自分の父親が母親に接していた通りに、自分の子どもと妻(母親)に接したいですか?
・あなたは、自分の父親が母親に接していた方法とは異なる方法で、自分の子どもと妻(母親)に接したいですか?
・妻(母親)に対するあなたの対応を見て、子どもはどのような体験をしていますか?
 ここで、ファシリテーターとして注意しなければならないことは、加害男性を、子ども時代の被虐待歴の話に固執させないことです。なぜなら、“いま”加害男性がおこなっているDVや児童虐待の理由を、子ども時代の虐待経験によるものだと結びつけ正当化したり、自分の実父母へ責任を転嫁したりしやすいからです。いくら子ども時代に虐待経験があったとしても、それを自分の暴力行為に対する制御不能(コントロールの欠如)の理由にしてはいけないのです。したがって、加害男性にそういった発言がみられたときには、ファシリテーターは、毅然と「あなたは、それを家族に対する支配の戦略として使っていないか?」と指摘をする必要があります。加えて、「いくら自分が過酷な虐待を経験してきたからといって、あなたの子どもに同じ経験をさせたくはないでしょう?」と“現在の問題”にフォーカスして、動機づけ面接の質問につなげていくことが重要なのです。そうすることで、加害男性のいい訳や責任転嫁を、自らの変化のモチベーションへと変えていくことを促すことができます。「原則4」が中心となるセッションは2つあり、そのうち1つのセッションでは、「家族の一員としての父親」がテーマとなります。父親である加害男性に対して、「子どもの母親との関係について、あなたの手本となっているものはありますか?」ということを問うていくことになります。具体的には、次のようなエクササイズを通して、気づきや変化へのモチベーションを促進していきます。
<EXRCISE 3>
 2人組になって、次のテーマでディスカッションをします。
・あなたのお父さんは、あなたのお母さんをどう扱っていたか?
・あなたのお母さんは、あなたのお父さんにどう扱ってもらいたかったか? また、あなたとあなたのパートナーとの関係から、子どもはなにを学んでいるのか?
・どうすれば変化を促すことができるか?
<EXRCISE 4>
 リフレクション演習。2人でペアをつくり、父親役、母親役となってロールプレイをおこないます。
(父親用)
・私(父親)が妻(母親)とかかわる様子を見て、子どもはなにを学んでいますか?
・娘に対しても、妻(母親)と同様なかかわり方をしたいですか?
・私は、子どもにとってよいモデルですか?
(母親用)
・夫(父親)が、私(妻・母親)とかかわる様子を見て、子どもはなにを学んでいますか?
・娘に対しても、私(妻・母親)と同じかかわり方をしてほしいですか?
・夫(父親)は、子どもにとってよい役割モデルですか?
 「原則4」が中心となるもう1つのセッションでは、「子どもの母親との関係」がテーマとなります。最初に、子どもにとってよい父親であるためには、「子ども中心の行動」であることが基本となることを確認します。プログラムの中でのディスカッションを通して、子どもの視点に立ち、加害男性が共感的に捉えていくことで、具体的な行動につなげていくことができます。ただし、重要なことは、「母親と円滑な関係を保つ」ことを押さえることが、“成功の鍵(KSF;key success factor; key to success)”となります。

④ 「ケアリングダッド」の目標
 「ケアリングダッド」のプログラムは、1グループがおおよそ12人で構成されます。週に1回、夜間に2時間のグループとなっています。なぜなら、参加する加害男性は、昼間は仕事をしており、子どもとなんらかのかかわりをもっているからです*。
* カナダの場合、継父が加害男性となることも多く、プログラムに参加しています。
a) 男性をプログラムにつなげる
 最初の3週間は、グループへの導入の期間であり、「プログラムにつなげること」が目標となります。ファシリテーターは、加害男性に「変わりたい」というモチベーションをつけ、それを高めるような働きかけをしていきます。加害男性の多くは、「父のようにはなりたくない」という信念と、「子どもにとってはよい父親でありたい」との思いがあることから、「本当は、もっとよい父親になりたいんでしょう?」となげかけ、強化していきます。
b) 子ども中心の養育
 その後の5-6回のセッションでは、「子ども中心の養育」が目標となります。虐待行為が連続体であることを理解するワークをおこなったり、子どもの声に耳を傾けるトレーニングをおこなったりするなど、子どもの視点に気づくような支援をおこなっていきます。ここで、説明することは、「子どもの発達段階に応じた対応がある」ということです。具体的に年齢相応の対応について知り、繰り返しグループの中でそのことをテーマにして語ることで、加害男性の理解が深まり、「うちの子は△歳だから、まだ○○はできないが……」といった発言がみられる等の変化が生じてきます。
 この時期にファシリテーターは、「よい父親とは」という概念を再構築する働きかけをおこなっていきます。また、この間のセッションの中の1回で、「子どもの母親をどう扱うか?」というテーマをとり扱います。
c) 虐待・ネグレクトを認識し、とり組む
 さらに、その後のセッションでは、「虐待・ネグレクトを認識し、とり組む」ことが目標となります。この時期になると、加害男性は、自らの虐待やDVを見つめることにとり組みはじめていることから、ファシリテーターに「そういう行為はやめたほうがいいんじゃないの?」となげかけにも耳を傾けることができるようになります。その結果、加害男性自身のDVや虐待について、グループの中でオープンに語れるようになってきます。ここで、再度、より詳細にこのプログラムにつながった経緯を語ってもらいます。加害男性は、妻(母親)のとり扱いに対する懸念や子どもへのかかわりがトラウマとなることを理解してくるようになります。この段階では、加害男性一人ひとりが、家庭環境や妻(母)と子どもの状況等が異なることから、ファシリテーターは個別的に支援をしていくことが求められることになります。

⑤ 父親が行ってきた虐待的行動に取り組む
 加害男性がこれまでおこなってきた虐待やネグレクト行為の正当化に対して、直接、対峙(直面化)させます。加害男性一人ひとりのおこなってきた虐待的行動について、個別にやりとりをしながらおこなっていくのではなく、多くの事例に触れながら、グループ全体で虐待的行動を改善していくための解決策を考えていくことになります。加害男性の虐待、ネグレクト(育児放棄)、支配的な育児に対処するときには、親のための問題解決法(Problem Solving for Parents Steps)に組み込まれている中核的なツールを活用しておこなわれます。現時点では虐待とみなされる行為をとりあげ、加害男性に、「親中心の虐待的な行動」であるのか、「子ども中心の行動」であるのかを考えさせます。同時に、行動の背景にある思考や感情についても、ふり返りの作業をていねいにおこなっていきます。そして、具体的に、「子どもの変化を尊重しない」とはどのようなことを示すのか、「子どもへの虐待の影響」とはどのようなものがあるのかということを説明していきます。グループの中で、加害男性は、自分の行動や感情についてふり返ることを通じて、子どもや妻(母親)である女性に対して否定的な感情が湧きあがってくることに気づくことができます。
 また、加害男性は、ときに、子どもの行動を自分(父親)への個人的攻撃と認識し、子どもに対抗することがあります。ファシリテーターは、加害男性に、子どもの行動の背景を読み解けるよう促し、加害男性自身が感じているような個人的攻撃ではないことを明らかにしていけるように働きかけていきます。こうした働きかけによって、加害男性は、子どもへの対抗や虐待への行動が減少することにつながっていきます。ただし、加害男性は、子どものサインを見落としやすいことから、ファシリテーターは、意図的にサインを拾えるよう促していくことが重要です。そして、加害男性自身の行為が虐待であることに、加害男性が具体的に気づくためのワークをおこないます。
<EXRCISE 5>
 ディスカッションを小グループでおこないます。虐待に気づくための演習で、進行役から配付されたシートに記載された虐待について、具体的な例をあげていきます(ブレインストーミング*)。
* 「ブレインストーミング」は、アレックス・F・オズボーンによって考案された会議方式のひとつで、集団思考、集団発想法、課題抽出ともいわれ、新たなアイデアを生みだすための方法のひとつです。また、ブレインストーミング(BS)などによって得られた発想を整序し、問題解決に結びつけていくための方法としてKJ法があります。
1.ブレインストーミング(BS)
 グループのメンバーが、ある問題について自由にアイデアをだし合うのがブレインストーミングですが、4つの基本原則があります。
(4原則)
・判断・結論をださない(結論厳禁)
 自由なアイデア抽出を制限するような、判断・結論は慎みます。なぜなら、批判があると、よいアイデアが出にくくなるからです。判断・結論は、ブレインストーミングの次の段階にゆずります。ただし、可能性を広く抽出するための質問や意見であれば、その場で自由にぶつけ合います。例えば、「予算が足りない」と否定することはこの段階では正しくありませんが、「予算が足りないがどう対応するのか?」と可能性を広げる発言(なげかけ)は歓迎されます。
・粗野な考えを歓迎する(自由奔放)
 誰もが思いつきそうなアイデアよりも、奇抜な考え方やユニークで斬新なアイデアを重視します。新規性のある発明は、最初は笑いものにされることが多く、そういった提案こそを重視することが重要です。したがって、こんなことをいったら笑われはしないかとは考えず、思いついた考えを躊躇せずに口にします。
・量を重視する(質より量)
 さまざまな角度から、多くのアイデアをだします。一般的な考え方やアイデアはもちろん、一般的でなく新規性のある考え方やアイデアまであらゆる提案を歓迎します。
・アイデアを結合し発展させる(連想と結合)
 別々のアイデアをくっつけたり、一部を変化させたりすることで、新たなアイデアを生みだしていきます。他人の意見に便乗することが推奨されます。つまり、他人の意見を聞いて、それに触発され、連想を働かせ、あるいは他人の意見に自分のアイデアを加えて新しい意見として述べることが重要です。
<順番BSの方法>
 自由に意見をだし合うといっても、意見はなかなかでにくいものです。そこで、「自分の順番がまわってきたら否応なくなにか発言せざるをえない」というのが、「順番BS」です。
(順番BSのルール)
・発言の順番がまわってきたら、必ずなにかいわなければなりません。「とくにありません」、「前の人がいったのと同じなのでありません。」は御法度です。
・発言内容は、一度にいくつあげてもいいことになっています。ただし、他の参加者がいった意見を繰繰り返してはいけません。
・自分の前にメモ用紙を置き、他者の発言を聞きながら思いついたことをメモしておきます。順番がまわってきたら、このメモを参考にしながら簡潔な発言を心がけます。
・発言は、最低3巡するようにします。
・グループ内で、司会と記録係各1名を選びます。記録係は、参加者の発言内容をカードに記載します。簡潔かつ内容を正確に表現する「1行見だし(20-30以内。ソフトで、本質をしっかり捉えた表現にします)」を作成するよう心がけます。そのさい、カード右下に、発言者の名前と発言の日付をメモしておきます。司会は、記載内容が正しいかどうか発言者に確認するなどして、記録係に協力します。
<質疑応答BSの方法>
 順番BSででた意見をもとに、もっと多くのアイデアをだすためにおこなうのが、「質疑応答BS」です。順番BSででた意見の一つひとつについて、「この意見について、なにか疑問の点はありませんか?」と参加者に訊いていきます。以下のようなことをめざします。
・すでにでた意見の意味をはっきりさせます
・もとの発言者が、なぜそのようなことをいったのかなど発言の背景を明らかにします
・こうした質疑応答・対話の中で、新しい意見・アイデアを生みだします
・批判ではなく、討論素材をさらに加えることが目的です。反対意見があったら、それも意見としてカード化します。
こうした「質疑応答」を進めていくことで、アイデアを記載したカードをさらに増やしていきます。
2.KJ法
 BS等でカード化された多くの意見やアイデアをグループ化し、論理的に整序して問題解決の道筋を明らかにしていくための手法が「KJ法」です。
第1ステップ:まず、BS等の手法でつくられたたくさんのカードをばらばらに広げてみます
第2ステップ:カードに記載された「1行見だし」を眺めながら、関連性のあるカードを重ねていきます。最後に、それぞれのグループの内容を簡潔に表す見出し=「表札」をつけてうえに載せます。そのうえで、それぞれのグループのカードを輪ゴムで束ねます。
なお、第2ステップの作業では、以下の点に注意します。
・1グループのカードは、最初は数枚程度であることから、はじめから大きくまとめようとしない
・1枚のまま残る「一匹オオカミ」があってもかまわない。無理に他のグループと一緒にしない
第3ステップ:第2ステップでつくった小グループの「表札」を眺めながら、互いに親近性のあるグループを中グループにまとめます。この作業を何度かくりかえし、10近くの大グループにまとまったら、グループ化作業は終了です。
 大グループにも表札をつけますが、グループ分けがすべて終わってからというのでなく、カード全体の3分の2程度がまとまってきたところで、グループ分け作業と並行して表札づくりを進めていきます。
第4ステップ:ここからが、論理的整序の段階です。グループ間に論理的な関連性ができるように、大グループのカードの束を並べ替えます。「空間配置」と呼びます。配置の意味する内容を、ストーリーのようにつないでしゃべれるようにするというのがポイントです。
第5ステップ:空間配置ができたら、カード束の間隔を広げ、それぞれ1段下の段階までほぐしてみます。そのうえで、もとのグループの範囲内で、ただし隣接する大グループ(およびその1段下の束)との親近性に注意しながら、中グループレベルの空間は一を行います。これでカードの作業は終了です。
第6ステップ:カードでつくった空間配置を、別の紙に写しとるのが次のステップです。そのさい、以下のようなグループ間の関連の内容を示す記号を使用して、空間配置の論理連絡がわかるようにします。
――:関係あり   →:原因・結果  ←→:互いに因果的  >――<:互いに反対・対立
第7ステップ:いよいよ最後のステップです。図を見ながら、すべてのグループのうちどれが重要と思うか、各自最高5点から1点の順で点数をつけます(6番目以降は点数をつけません)。総得点が最も高いグループを研究のテーマとするなど、活用していきます。

 以下、虐待の項目と、ブレインストーミングの内容をまとめたものです。
(無理に押しつける)
・無理に習い事や塾にいかせる
・無理にお酒を飲ませる、食べさせる
・子どもの就寝時間を決め、母親にそれを守らせる
・トイレットトレーニングの時期でないのに、トレーニングをさせる
・進学先や服装を一方的に決め、押しつける
(不在にする)
・家を不在にする(長時間にわたる仕事、パチンコ)
・時間帯を合わせないバラバラな生活
・父親が家族のイベント時にいない
(無視する)
・視線を合わせない(見えないようにふるまう)
・情報を提供しない
・約束を守らない
・情緒的なケアをしない
・夫婦間のコミュニケーションを、目の前にいても携帯でおこなう
(性的虐待)
・子どものベッドに入り、身体を触る
・ポルノ映画に出演させる
・ポルノ映画を見たあとの子どもの反応を楽しむ
・一緒に入浴する
・性器を触らせる、触れる
・性生活を見せる
・「子どもが誘ってきた」という
(残酷な行為)
・寒い日に薄着で外にだす
・躾と称して食事を与えない
・「お前は捨て子」という
・大事にしているペットをいじめる
・自分だけ買い物をして、子どもには与えない(「買っていい?」と子どもの了解を得る。訳もわからず子どもがうなずくと、自分の分だけ買う)
・「お前がいうことをきかないせいだ」といって妹を性的虐待する
・リストカットや過量服薬をする姿を見せる
・「一緒に死のう」と繰り返しいう
・泣き止まない子を揺さぶり続ける
 エクササイズ終了後、講師より「身体的虐待のケースで、父親が、目の前で母親に子どもへの虐待を強要し、父親の納得するような虐待でない場合は、父親からさらなる虐待を受けるため、子どもを守るために母親が子どもを虐待するということがあった。」というエピソードが紹介されました。 また、「子どもを秘密の話をする相手にして、母親の実家の悪口をいったり、母親がいかにひどいかを延々と語ったり、自分(父親)がその被害を被っているなどと、子どもに聞かせるような内容でないことを生々しく語ったりすることも虐待である。」ことが説明されました。他に、子どもを置いてでかけたり、「母親は、子どもを甘やかし過ぎる」と批判し、子育ての方法を自分の思うように変えさせたり、意図的に面会の時間に遅れたり、子どものニーズよりも自分のニーズを優先することも虐待となることが確認されました。
 エクササイズでは、「自分がなにをしているのか?」を意識化させるねらいがあります。しかし、加害男性は、「子どもは自分(父親)への敵意や個人的攻撃から行動をおこしている」と認識していることから、子どもを攻撃(虐待)していることがあります。その認識で留まっている限り、加害男性が子どもへ与える影響は甚大なままです。そこで、「親のための問題解決法(Problem Solving for Parents Steps)」において、ファシリテーターは、「それは、どのような状況ですか?」、「あなたは、なにを意図していましたか?」、「子どもへの影響は、どのようなことがありましたか?」、「他の選択肢として、どのようなものがありますか?」ということを、繰り返し尋ねていきます。加害男性は、ファシリテーターからのなげかけに応えることを通じて、客観的に状況を整理していきます。加害男性が、客観的に状況を整理できるようになると、認知の歪みや問題感情(Feeling)、思考(Thoughts)、行動(Action)となることを、子どもにふっかけていたことに気づくことができるようになります。
 では、エクササイズで、思考、問題感情、行動について、ふり返ってみたいと思います。
<EXRCISE 6>
 ディスカッションを全体でおこないます。
 テーマは、13歳の娘からの伝言です。「あなたが帰宅すると、「友達とショッピングに行く。18:00には帰ってくるから」と書かれたメモが残っていました。これからファシリテーターが時間を追いながら、そのときの気持ちを尋ねていくので、思いつくものをあげてみてください。」と、加害男性に発言を促していきます。
 以下、加害男性の発言をまとめたものです。
(伝言メモを読んだときの気持ち)
・うちにいて、宿題をすべきなのに…
・ショッピングモールで一体なにをしているのだろう?
・なんで、私が帰ってくるまで待っていなかったのだろう?
・誰と、どこのショッピングモールへいったのだろう?
(18:30)
・どこにいるのだろう? なにをしているのだろうか?
・電話くらいしてくれればいいのに…
(19:00)
・自分で18時には帰ってくるといったのに!
・また約束を破って…
・もう1ヶ月外出禁止!
・ショッピングモールへ探しに行く
・一緒に行ったかもしれない友だちに連絡をする
(そのときの気持ち:焦り、心配、不安、怒り、許せない、裏切られた)
(19:30)
・交番に連絡する
・事故にでもあったのかもしれない。
(19:45、ふらりと帰宅)
・どこにいっていたの?
・いま、何時だと思っているの!
・一体どんなつもりなの?
・事故にでもあったのかもしれないと心配したんだから…
・次からは、今日とは違うようにふるまってもらいたい
(そのときの気持ち:怒り、安堵)
 ふり返ってみると、加害男性は、わが子のことのように心配や不安、怒りなどのさまざまな感情を抱きますが、「これらの感情を支配しているのは誰だろうか?」、「娘なのか? それとも自分なのか?」などと、誰がその感情をコントロールできるかということがポイントになります。こうしたワークを通して、「湧きあがった感情の責任は誰にあるのか? つまり、自分にある。」と、加害男性は、感情の責任は自分にあり、そのコントロールは自身でできるということに気づいていきます。「この子どもの行動も問題がある」との考えに固執しているときには、思春期特有の反応と捉えることができることを説明していきます。思考、問題感情、行動のプロセスは、すべて自分の中におこっているプロセスです。子どもの中でおこっていることも、思考、問題感情、行動のプロセスで説明することができます。ここでは、不必要に怒り等をひきおこさず、自分の外にいる人を支配するのではなく、自分の内を支配することはできることの“気づき”を促していくことが求められます*。
* 加害男性の多くは、認知・感情・行動を分類する作業に戸惑いますが、できるだけ具体的な問題場面を丁寧に取りあげていくことで、次第に分析できるようになっていきます。このとき、暴力や男性優位を肯定する信念をとりだすのが難しいとされています。なぜなら、「お金の使い方」に関する意見の相違からことばの暴力をふるった場面を考えたりするとき、「お金は倹約して使うべき」で、自分は「それがわからない妻に怒った」が、「信念は正当であった」と考えてしまうのです。重要なことは、事柄の判断の是非ではなく、そのことをもとに相手を罵ったり、自分の考えを強要してしまったりすることの裏にある「妻は自分に合わせるべきだ」、「相手を貶めてもかまわない」といった<関係性の認知の歪み>に気づかせることです。こうした暴力につながる「認知、感情、行動のつながり」は自覚しにくいことから、ロールプレイ等による体験的理解を繰り返し実施していくことが必要不可欠です。
 次に、ケアリングダッドのファシリテーターが教えないことと、他の選択肢ついて説明していきます。子どもが行儀よくしていくために使うスキル、いわゆるペアレンティングで多く用いられるスキルがあります。ケアリングダッドのスタッフは、この時期の加害男性にとって、ペアレンティングのスキルを身につけることが子どもをコントロールするためのツールとなる危険性を孕んでいると考えます。そのため、先のとおり、ケアリングダッドでは、これらのスキルについてはとり扱わず、加害男性にもっと身につけてもらいたいことに重点をおいて心理教育*をおこなっていきます。そこで、子どもに注意を向け、根底にある問題についてしっかりと考えさせます。ただし、加害男性には、親子の関係構築の段階にあることを踏まえて、あまり要求をしないように伝えています。また、加害男性自らが、主体的に状況を整理し、問題を生じさせないように工夫をしたり、自然な結果にもっと目を向けたりするように促していきます。
小さい文字* ケアリングダッドでおこなわれる心理教育は、下記のとおりです。
・タイムアウト
・ワン・ツー・スリーコンセクエンス
・好ましくない行動に伴う特権を取り除く。
・行動の随伴性
・根底にある問題・注意
・変化への要求
・状況を調整することによって、問題が生じないようにする。
・正の強化と自然な結果
 では、子どもの宿題をテーマに考えてみます。
・父親は、毎晩宿題をしたのかを確認する
・子どもの成績がよくないことに対して、屈辱的なことをいう
・毎晩、ケンカとなる
・父親の行動の背景には、「子どもの成績をよくしてやりたい」という思いがある
 ペアレンティングでは、こうした考え方はよいとしています。しかし、このプログラムにおいては、「成績というコントロールできないものを、なんとかしようと子どもを叱咤する」対応は好ましくないと考えています。子どもは父親を怖がって、父親の前で、わからない宿題をしたくないのかもしれません。また、子どもは、かつて父親が怒り狂っていた姿を見て、安心して宿題ができる状況ではないと考え、宿題をしたくないのかもしれません。そこで、「よい点がとれなくてもよい」と考え、宿題を手伝って一緒にやることからはじめることを勧めます。子どもとの関係構築が第一です。ファシリテーターとしては、普通の親子ではないことから、「虐待の背後にある考え方」や「子どもの怒り、不安、怖れなど」にも注目し、ものごとを捉えていくことが必要となってきます。


[原則-5] 虐待的な父親は、子どもの情緒的な安全感を破壊するので、信頼感を回復する必要性を認識することが、行動の変化や子どもに対する虐待の再発可能性に影響を与える
 重要なことは、子どもの安全性を確保することです。したがって、「原則5」にあるような認識にもとづいている加害男性の“否認を解く”ためには、「自身のおこなっていることが虐待であること」、「子どもにとってそれはトラウマとなるような体験であったこと」と自覚していくことからはじめます。ファシリテーターとしては、加害男性の自覚を促すよう、自分のしてきたことを認識させるように働きかけていきます。そして、加害男性の自覚と子どもへの「かわいそうなことをした」といった感情とつながることが、加害男性の変化へとつながっていきます。ファシリテーターは、前述の「親のための問題解決法(Problem Solving for Parents Steps)」の項の通り、「それは、どのような状況ですか?」、「あなたは、なにを意図していましたか?」、「子どもへの影響は、どのようなことがありましたか?」、「他の選択肢として、どのようなものがありますか?」ということを、具体的に繰り返し尋ねていいきます。
(両親のDVを目撃する子どもの気持ち)
 両親のDVを目撃する子ども*の気持ちについては、ビデオを上映したうえで、ディスカッションがおこなわれます。
ビデオの概要は、次の通りです。
 『夜遅くに帰宅した父親は、夕食の仕度がされていないことに腹を立てます。母親は慌ててピザを温めようとしますが、ピザが嫌いな父親は怒りだします。母親の泣き叫ぶ声と父親の罵声、母を殴る音に、2階で休んでいた子どもが目を覚まし、不安そうにぬいぐるみを抱えながら階下の様子をうかがっています。』
 幼児には、どのようなDVの影響(長期的・短期的)があるのだろうか?
 彼らには、どのような専門家がかかわることになるのだろうか?
 このビデオをもとに、ディスカッションをおこないます。
<EXRCISE 7>
 ディスカッションは2人でおこないます。ビデオの中の子どもの気持ちになって、父母のDVを階段から眺めている気持ちを思いつくままにあげてもらいます。
 参加者からは、次のような「娘の気持ち」がだされました。
・声をだしてはいけない
・階段を下りていっては、いけない
・ママが心配
・早く終わりますように
・これは悪い夢かもしれない
 幼児期の子どもは、自己中心性から目の前でおこっているDVは、「自分のせい」でおこっていると捉えることが少なくありません。一方、多くの大人は、DVの場面を目撃したとしても、「明日になれば、忘れてしまうだろう」と安易に考えています。加害男性の中には、「母親が、わざと子どもに聞かせている」と考える人もいます。このワークでは、よい父親となるために自覚を高めるうえからも、「子どもの気持ちになって考える」という作業に力を入れておこないます。なぜなら、父親である加害男性が、子どものトラウマについて理解することが重要であると捉えているからです。
(被虐待児についての誤解)
 虐待を受けたり、母親への虐待(DV)を目撃したりした子どもは、しばしば誤った診断をされることがあります。なぜなら、密室の家族でおこなわれる暴力が、トラウマの要因としては見過ごされ、表面に現れてくる症状に目が向かいやすく、しかも、子どもが安全な環境に身をおくことができてから、遅発的に症状が現れるからです。子どもたちに現れる一般的な影響としての症状には、身体愁訴(易疲労感)、無力感、恥、これまで持ち続けてきた信念の喪失、敵意、絶望、攻撃性、感情調整の障害、解離症状、注意力の問題、ひきこもり、悲哀等があげられます。
 子どもは、加害者である父親、被害者である母親双方に強い情緒的つながりをもっています。自分の愛する両親が傷つけあう姿を目撃することは、アンビバレンスな感覚をもたらし、トラウマにつながるのです。ただし、母親(女性)への虐待(DV)の目撃による影響の受け方や症状の現れ方は、その子どもの発達段階によって異なります。母親(女性)への虐待(DV)を目撃した子どものうち、PTSD(心的外傷後ストレス障害)のDSM-Ⅳの診断基準にあてはまるケースは13%程度といわれていますが、臨床的には、ほとんどの子どもがPTSD様症状を呈しているとされています。PTSD(C-PTSD:複雑性心的外傷後ストレス障害)は、長期の対人関係による慢性反復的な心的外傷によって起こるものです。特に、学校場面において、感情調整の障害、他者との関係の障害等が優位に認められるときには、注意欠陥多動性障害(ADHD)と見誤られることが少なくありません。学校でぼんやりしているのは、夜間に虐待(DV)が起こり、十分な睡眠がとれていない(断眠)ことが考えられます。したがって、母親(女性)への虐待(DV)を目撃した子どもへの専門家の正しい理解(啓発)と、子どものトラウマケアの視点から回復プログラムが必要なのです。
(信頼の再構築と作成計画)
 このセッションでは、「信頼を再構築し、将来の計画を立てる」ということが目標となります。加害男性に、信頼を再構築させる必要性があることを理解させます。そこで、「あなたは、どうしたら父親を尊敬、信頼できると思いますか?」、子どもの視点でふり返るように促しながら、「もし、こうだったらよかったのになぁ・・ということがありますか?」などとなげかけていきます。加害男性への“支援の核”は、「親子関係に対する現実的な期待をもてるようにすること」と「支援を求めようとする行動を促すこと」、そして、「再発防止」となります。加害男性の父親と子どもの信頼関係の再構築には、時間を要します。焦らずに、現実的な期待を持てるように支援していくことが必要です。誰でも間違いはおこしますが、再発をおこすということは問題です。再発のリスクを感じたときには、支援を求めたり、人の力を借りたりすることでリスクを回避し、軽減することができます。併せて、自分が安全でないときの対応について、検討しておくことも大切なことです。
 また、計画を作成するときには、自分に対する安全計画と子どものための安全計画の2つを立てる必要があります。
 ひとつのエピソードがあります。早期のグループに参加していた加害男性Aさんは、セッションの欠席が目立っていました。Aさんは、「子どもの監護権を得るため」にグループに通っていたため、ファシリテーターは「セッションにきちんと出席しないと、子どもの監護権はとれない。」と事実を伝えると、以降、Aさんのセッションを欠席する回数は減っていきました。グループでの学びを深める中で、Aさんは、最終的に「子どもの安全のためには、僕が監護権をとらないほうがよい」という選択をしました。このグループのゴールは、「安全な父親にする」、「子どもの安全を守る」ということでしたので、ファシリテーターは、Aさんの選択を支持しました。
「信頼の再構築」とは、「虐待の責任を引き受けること」、「もし、子どもが虐待について訊いてきたら、どのように話すのかについて計画を立てること」、「子どもたちが安全でいられるようにすること」、「将来について、現実的な期待を持てるようにすること」です。信頼の再構築は、いままでの関係を修復し、立て直すことを意味します。したがって、ファシリテーターは、加害男性に対して、関係を修復するということはどのような意味をもつのかということをきちんと説明していくことが重要です。いったん築いてしまった恐怖による支配といった関係性を、健全なものに修復していくためには、多くの時間と多くの変化を促すためのエネルギーを要することになります。そして、そしてそれを受け入れる子どもには、変化した加害男性を受け入れる勇気が必要となります。
 また、「虐待の責任をとる」ことを、「子どもに謝罪する」と考える加害男性がいます。しかし、ファシリテーターは、必ずしも「子どもに謝らなければならない」とはしていません。子どもが、虐待についての話を聞きたがらないときには、無理矢理話す必要はありません。しかし、子どもが虐待について訊いてきたときには、子どもの発達段階を踏まえたわかりやすい説明をする必要があるので、準備しておく必要があります。ファシリテーターは、具体的にどのように伝えればよいかを示唆します。
ここで、先のビデオの中にでてきた子どもの気持ちを考えるワークをおこないます。
<EXRCISE 8>
 ディスカッションは小グループでおこないます。
・子どもが父親と一緒にいて、再び安心感を得るためには、なにがあればよいのか?
・DVの最中、階下へ子どもが下りなかったのはなぜか?
 以下、このエクササイズででた意見です。
・暗黙のうちに、階下へ下りていっては、いけないと察した
・以前、心配で下りていったときに、巻き添えを食った
・自分が階下に下りていったことで、母親がなおさら暴力にみまわれた。
 暴力で損なわれた信頼感をとり戻すには、時間が必要です。なぜなら、加害男性がプログラムに参加して変化したからといって、いままでの暴力的な関係がなかったことになるわけではないからです。しかし、加害男性が虐待や暴力について認め、暴力による支配的な関係から変化しようと動きだしたことは非常に重要なことです。一方で、子どもが父親を避けるのはなぜかということを、子どもにも自覚させることが必要となってきます。


[原則-6] 父親の性役割に対するステレオタイプ的な考え方が、子どもへの虐待につながる
① 父親の性の役割に対する考え方の改善
 このプログラムでは、加害男性のジェンダー役割に対するステレオタイプ的な考え方が、子どもの虐待につながると考え、父親のステレオタイプ的な考え方の改善をはかっていきます。ここでは、父親である加害男性のジェンダー役割は、結婚観や母親である女性への態度、育児協力に大きな影響を及ぼしていることを確認していきます。プログラムの中でファシリテーターは、「思考、問題感情、行動」のトライアングルを活用しながら、加害男性のジェンダー役割をひきだし、気づきを促進させていきます。

② プログラム構成についての示唆
 グループは、男性と女性のファシリテーターが共同で運営し、2人とも抵抗的な参加者に対応するスキルを持っていることが必要です。なぜなら、男性と女性のファシリテーターは、参加者のジェンダーモデルとなるからです。したがって、重要なことは、2人のファシリテーター間には、同じ価値観と対等性を保障されていて、目標を共有し、DVと児童虐待に関する知識を持っているということです。
 次に、ジェンダー役割について考えるためのワークをおこないます。
<EXRCISE 9>
 ディスカッションは小グループでおこないます。男の子、女の子をイメージする形容詞をたくさんあげてもらいます(ブレインストーミング)。
 以下、このエクササイズででてきた意見です。
(男の子のイメージ)
かっこいい/たくましい/くよくよしない/幼い/元気な/活発な/優しい/女の子を大事にする/泣かない/スポーツマン/パワフル/勇気がある/甘えん坊(依存的)/賢い/腕力がある
(女の子のイメージ)
かわいい/強い/優しい/おしゃべり/よく気がつく/受容的/繊細/賢くて主体的/愛情深い/複雑(深淵)
 男女の性別を入れ替えて、これらを眺めたとき、違和感を覚えるだろうか? 人は信念や心情を持っていて、それによって考え方や認識が異なってきます。「男の子はこうあるべき」、「女の子はこうあるべき」といった“あるべき論”までには至らないとしても、一人ひとりの中にジェンダーバイアス*があることを自覚していることが重要です。そこを踏まえていると、「なぜ、女性(妻)に虐待(DV)をするのか?」、「なぜ、子どもに対して虐待をするのか?」ということについて、背景を探っていくことが可能となっていきます。このワークでは、自身のジェンダーバイアスに気づくとともに、男の子も女の子も両方大切にするということを伝えていくことが重要となります。
* 「ジェンダーバイアス」とは、性差別、性的偏見のことで、広く人種差別、社会的差別、年齢差別などを含めていいます。
 最後に、母親と父親の役割と期待について考えるワークをおこないます。
<EXRCISE 10>
 ディスカッションは小グループでおこないます。「母親に対してどのような期待をもっているのか?」とのなげかけに対し、次の活動の相対的な重要度について考えてみます。
・扶養すること
・相互的にかかわること
・育児をすること(例:食事の準備、入浴)
・愛情
・責任(例:行動規範を教える、活動の手配)
・コミットメント(例:子どもと一緒にいないときでも、子どものことを話し、考える)
<EXRCISE 11>
 ディスカッションは小グループでおこないます。
・「よい父親にはなにが必要か?」という前日のエクササイズを思いだす。
・前日のエクササイズのタイトル「よい父親にはなにが必要か?」を「とい母親にはなにが必要か?」と読み替えてみる。また、本日(EXRCISE11)のタイトルを「父親に対してどのような期待をもっているか?」に替えてみる。 
・父親と母親を入れ替えて、違いを考えてみる。親がある程度定まった枠組みから外れたとき、どうなることが考えられるか?



もくじ   3kaku_s_L.png   [Ⅲ-9]Ⅴ.DVのある家庭環境で育った子どもと母親のケア
FC2 Blog Ranking
   

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメント投稿可能です。

~ Trackback ~

トラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【マニュアルの結びとして】へ
  • 【30.性暴力被害者支援の連携体制-SART(性暴力被害者対応チーム)-】へ